(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156356
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】粘着シート、繰り返し屈曲積層部材および繰り返し屈曲デバイス
(51)【国際特許分類】
C09J 7/38 20180101AFI20221006BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20221006BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20221006BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20221006BHJP
C09J 133/00 20060101ALI20221006BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20221006BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20221006BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C09J7/38
B32B27/00 M
B32B27/18 E
C09J201/00
C09J133/00
C09J11/06
G09F9/30 308Z
G09F9/00 313
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021059993
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】藤井 結加
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 洋一
(72)【発明者】
【氏名】浦川 広太郎
【テーマコード(参考)】
4F100
4J004
4J040
5C094
5G435
【Fターム(参考)】
4F100AH03B
4F100AK25B
4F100AT00A
4F100AT00C
4F100BA03
4F100BA06
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4F100CB05B
4F100JA05B
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4F100JD15B
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4F100JL14A
4F100JL14C
4F100YY00B
4J004AA10
4J004AA14
4J004AA17
4J004AB01
4J004BA02
4J004CA06
4J004CB03
4J004DA04
4J004DB03
4J004FA08
4J040DF021
4J040DF031
4J040DF061
4J040DH021
4J040EF282
4J040GA05
4J040HC14
4J040HC23
4J040HD32
4J040KA16
4J040KA23
4J040KA29
4J040LA01
4J040LA02
4J040LA06
4J040NA17
5C094AA36
5C094BA27
5C094BA43
5C094BA75
5C094DA06
5C094DA12
5C094FA02
5C094FB01
5C094FB02
5C094FB12
5C094JA01
5C094JA20
5G435AA07
5G435BB05
5G435BB12
5G435GG43
5G435HH02
(57)【要約】
【課題】繰り返し屈曲させたときに耐屈曲性に優れるとともに、マイグレーションを効果的に防止・抑制することのできる粘着シート、繰り返し屈曲積層部材および繰り返し屈曲デバイスを提供する。
【解決手段】繰り返し屈曲されるデバイスを構成する一の屈曲性部材と他の屈曲性部材とを貼合するための粘着剤層11を有する粘着シート1であって、粘着剤層11を構成する粘着剤が、防錆剤を含有し、粘着剤層11を60℃、90%RHの湿熱環境下に24時間投入する試験を行った場合の下記式(1)で表される吸水率が、0.5%以下であることを特徴とする粘着シート1。
吸水率(%)={(試験後質量-試験前質量)/試験前質量}×100 …(1)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繰り返し屈曲されるデバイスを構成する一の屈曲性部材と他の屈曲性部材とを貼合するための粘着剤層を有する粘着シートであって、
前記粘着剤層を構成する粘着剤が、防錆剤を含有し、
前記粘着剤層を60℃、90%RHの湿熱環境下に24時間投入する試験を行った場合の下記式(1)で表される吸水率が、0.5%以下である
ことを特徴とする粘着シート。
吸水率(%)={(試験後質量-試験前質量)/試験前質量}×100 …(1)
【請求項2】
前記粘着剤の-20℃における貯蔵弾性率G’(-20)が、0.01MPa以上、10MPa以下であることを特徴とする請求項1に記載の粘着シート。
【請求項3】
前記粘着剤の23℃における貯蔵弾性率G’(23)が、0.01MPa以上、0.5MPa以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の粘着シート。
【請求項4】
前記粘着剤の50℃における貯蔵弾性率G’(50)が、0.001MPa以上、0.2MPa以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項5】
前記粘着剤のゲル分率が、40%以上、100%以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項6】
前記粘着剤中における前記防錆剤の含有量が、0.001質量%以上、1質量%以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項7】
前記防錆剤が、アゾール類であることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項8】
前記粘着剤が、アクリル系粘着剤であることを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項9】
前記粘着剤が、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と、防錆剤(B)とを含有する粘着性組成物から得られたものであることを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項10】
前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)のガラス転移温度(Tg)が、-100℃以上、-45℃以下であることを特徴とする請求項9に記載の粘着シート。
【請求項11】
前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が、当該重合体を構成するモノマー単位として、水酸基含有モノマーを0.1質量%以上、12質量%以下含むことを特徴とする請求項9または10に記載の粘着シート。
【請求項12】
2枚の剥離シートを備えており、
前記粘着剤層が、前記2枚の剥離シートの剥離面と接するように前記2枚の剥離シートに挟持されている
ことを特徴とする請求項1~11のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項13】
繰り返し屈曲されるデバイスを構成する一の屈曲性部材および他の屈曲性部材と、
前記一の屈曲性部材と前記他の屈曲性部材とを互いに貼合する粘着剤層と
を備えた繰り返し屈曲積層部材であって、
前記一の屈曲性部材および/または前記他の屈曲性部材が、少なくとも貼合される側の面に金属または金属酸化物からなる電極を有し、
前記粘着剤層が、請求項1~12のいずれか一項に記載の粘着シートの粘着剤層からなる
ことを特徴とする繰り返し屈曲積層部材。
【請求項14】
請求項13に記載の繰り返し屈曲積層部材を備えたことを特徴とする繰り返し屈曲デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繰り返し屈曲されるデバイス用の粘着シート、ならびに繰り返し屈曲積層部材および繰り返し屈曲デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、デバイスの一種である、電子機器の表示体(ディスプレイ)として、屈曲可能な屈曲性ディスプレイが提案されている。屈曲性ディスプレイとしては、1回だけ曲面成形するものの他に、特許文献1に記載されているように、繰り返し屈曲させる(折り曲げる)用途の繰り返し屈曲ディスプレイが提案されている。
【0003】
上記のような繰り返し屈曲ディスプレイにおいては、当該屈曲性ディスプレイを構成する一の屈曲可能な部材(屈曲性部材)と、他の屈曲性部材とを粘着シートの粘着剤層によって貼合することが考えられる。しかし、繰り返し屈曲ディスプレイに従来の粘着シートを使用すると、繰り返し屈曲させた部分における粘着剤層に線ができたり白濁したりして、外観が低下するとともに、ディスプレイとしての視認性が低下するという問題や、繰り返しの屈曲により粘着剤層と被着体との界面に浮きや剥がれが発生するという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、最近はタッチパネルの大型化が図られており、かかるタッチパネル用の電極材料として、メッシュ状の金属電極、例えば銅電極または銀電極が検討されている。しかし、従来の粘着剤を金属電極、特に銅電極または銀電極に接触させて使用すると、イオンマイグレーション(=エレクトロケミカルマイグレーション;以下単に「マイグレーション」という。)が発生する場合がある。具体的には、正極では電極が溶解して断線したり、負極では正極成分の析出によるデンドライトが形成されて短絡が生じたりする。
【0006】
このマイグレーションは、高温高湿下で電極に電圧が印加されたときに特に発生し易い。このようなマイグレーションが発生すると、抵抗値が変化し、タッチパネルが正常に駆動しなくなってしまう。近年では、特に、電極の微細化や狭ピッチ化が進む中、マイグレーションによる電極の断線・短絡が発生し易くなっており、マイグレーションを十分に防止・抑制することが望まれる。上述した繰り返し屈曲ディスプレイの分野において、より薄く、より軽量化された付加価値の高いディスプレイを実現するため、電極の微細化や狭ピッチ化は強く望まれる。
【0007】
本発明は、上記のような実状に鑑みてなされたものであり、繰り返し屈曲させたときに耐屈曲性に優れるとともに、マイグレーションを効果的に防止・抑制することのできる粘着シート、繰り返し屈曲積層部材および繰り返し屈曲デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、第1に本発明は、繰り返し屈曲されるデバイスを構成する一の屈曲性部材と他の屈曲性部材とを貼合するための粘着剤層を有する粘着シートであって、前記粘着剤層を構成する粘着剤が、防錆剤を含有し、前記粘着剤層を60℃、90%RHの湿熱環境下に24時間投入する試験を行った場合の下記式(1)で表される吸水率が、0.5%以下であることを特徴とする粘着シートを提供する(発明1)。
吸水率(%)={(試験後質量-試験前質量)/試験前質量}×100 …(1)
【0009】
上記発明(発明1)の粘着シートは、粘着剤層を構成する粘着剤が防錆剤を含有し、当該防錆剤が、粘着剤層の表層に偏析することでマイグレーションを効果的に防止・抑制することができる。また、粘着剤層を60℃、90%RHの湿熱環境下に24時間投入する試験を行った場合の上記式(1)で表される吸水率が、0.5%以下であることにより、粘着剤層の疎水性を向上させることができる。これにより、マイグレーションを効果的に防止・抑制することができる。さらに、上記式(1)で表される吸水率が、0.5%以下であることにより、応力緩和性に富む軟らかい粘着剤層となる傾向がある。これにより、繰り返し屈曲デバイスを構成する一の屈曲性部材と他の屈曲性部材とを貼合するための粘着剤層としての優れた耐屈曲性を発揮することができる。
【0010】
上記発明(発明1)においては、前記粘着剤の-20℃における貯蔵弾性率G’(-20)が、0.01MPa以上、10MPa以下であることが好ましい(発明2)。
【0011】
上記発明(発明1,2)においては、前記粘着剤の23℃における貯蔵弾性率G’(23)が、0.01MPa以上、0.5MPa以下であることが好ましい(発明3)。
【0012】
上記発明(発明1~3)においては、前記粘着剤の50℃における貯蔵弾性率G’(50)が、0.001MPa以上、0.2MPa以下であることが好ましい(発明4)。
【0013】
上記発明(発明1~4)においては、前記粘着剤のゲル分率が、40%以上、100%以下であることが好ましい(発明5)。
【0014】
上記発明(発明1~5)においては、前記粘着剤中における前記防錆剤の含有量が、0.001質量%以上、1質量%以下であることが好ましい(発明6)。
【0015】
上記発明(発明1~6)においては、前記防錆剤が、アゾール類であることが好ましい(発明7)。
【0016】
上記発明(発明1~7)においては、前記粘着剤が、アクリル系粘着剤であることが好ましい(発明8)。
【0017】
上記発明(発明1~8)においては、前記粘着剤が、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と、防錆剤(B)とを含有する粘着性組成物から得られたものであることが好ましい(発明9)。
【0018】
上記発明(発明9)においては、前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)のガラス転移温度(Tg)が、-100℃以上、-45℃以下であることが好ましい(発明10)。
【0019】
上記発明(発明9,10)においては、前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が、当該重合体を構成するモノマー単位として、水酸基含有モノマーを0.1質量%以上、12質量%以下含むことが好ましい(発明11)。
【0020】
上記発明(発明1~11)においては、2枚の剥離シートを備えており、前記粘着剤層が、前記2枚の剥離シートの剥離面と接するように前記2枚の剥離シートに挟持されていることが好ましい(発明12)。
【0021】
第2に本発明は、繰り返し屈曲されるデバイスを構成する一の屈曲性部材および他の屈曲性部材と、前記一の屈曲性部材と前記他の屈曲性部材とを互いに貼合する粘着剤層とを備えた繰り返し屈曲積層部材であって、前記一の屈曲性部材および/または前記他の屈曲性部材が、少なくとも貼合される側の面に金属または金属酸化物からなる電極を有し、前記粘着剤層が、前記粘着シート(発明1~12)の粘着剤層からなることを特徴とする繰り返し屈曲積層部材を提供する(発明13)。
【0022】
第3に本発明は、前記繰り返し屈曲積層部材(発明13)を備えたことを特徴とする繰り返し屈曲デバイスを提供する(発明14)。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る粘着シート、繰り返し屈曲積層部材および繰り返し屈曲デバイスは、繰り返し屈曲させたときに耐屈曲性に優れるとともにマイグレーションを効果的に防止・抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施形態に係る粘着シートの断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る繰り返し屈曲積層部材の断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る繰り返し屈曲デバイスの断面図である。
【
図4】動的屈曲試験を説明する説明図(側面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について説明する。
〔粘着シート〕
本発明の一実施形態に係る粘着シートは、繰り返し屈曲されるデバイスを構成する一の屈曲性部材と他の屈曲性部材とを貼合するための粘着剤層を有する。上記粘着剤層は防錆剤を含有する粘着剤から構成される。また、上記粘着剤層を60℃、90%RHの湿熱環境下に24時間投入する試験を行った場合の下記式(1)で表される吸水率(以下、単に「吸水率」という場合がある。)は、0.5%以下であることが好ましい。本実施形態に係る粘着シートは、好ましくは、当該粘着剤層の片面または両面に剥離シートを積層してなる。繰り返し屈曲デバイスおよび屈曲性部材については、後述する。
吸水率(%)={(試験後質量-試験前質量)/試験前質量}×100 …(1)
【0026】
本実施形態に係る粘着シートは、繰り返し屈曲されるデバイスを構成する一の屈曲性部材と他の屈曲性部材とを貼合するための粘着剤層を有しており、耐屈曲性に優れる。上記の効果が生じる理由は明らかではないが、次のように推測される。本実施形態に係る粘着シートの粘着剤層は、吸水率が0.5%以下であることにより、応力緩和性に富む軟らかい粘着剤層となる傾向がある。これにより、繰り返し屈曲デバイスを構成する一の屈曲性部材と他の屈曲性部材とを貼合するための粘着剤層としての優れた耐屈曲性を発揮すると推測される。たとえば、繰り返し屈曲デバイスに適用して繰り返し屈曲させたときに、屈曲部の粘着剤層に線ができたり白濁したりすることを抑制することができ、粘着剤層と上記屈曲性部材との界面における浮きや剥がれの発生を抑制することができる。
【0027】
また、本実施形態に係る粘着シートは、電極において、正極では溶解することが防止・抑制され、負極ではデンドライトが形成されることが防止・抑制される。すなわち、電極におけるマイグレーションが効果的に防止・抑制され(本効果を「マイグレーション防止効果」という場合がある。)、電極の抵抗値変化を抑制することができる。また、マイグレーションが効果的に防止・抑制されることにより、繰り返し屈曲されるデバイスを構成する一の屈曲性部材および/または他の屈曲性部材が、例えば微細化・狭ピッチ化された電極を有していても、電極の断線や短絡が防止される。特に、上記電極がタッチパネルの電極の場合には、断線や短絡に起因するタッチパネルの駆動不良が防止される。
【0028】
上記の効果が生じる理由は明らかではないが、次のように推測される。本実施形態に係る粘着シートの粘着剤層は、防錆剤を含有する粘着剤から構成される。防錆剤は粘着剤層の表層に偏析し易い傾向がある。繰り返し屈曲されるデバイスを構成する一の屈曲性部材および/または他の屈曲性部材が電極を有する場合でも、当該電極近傍に防錆剤が安定的に存在し易くなるため、防錆剤は、その作用を効果的に発揮し易くなる。これにより、優れたマイグレーション防止効果を発揮できるものと推測される。また、電極近傍に防錆剤が安定的に存在し易くなることで、防錆剤におけるジアミノ基等の配位部が配線の金属原子に配位結合してキレート化合物を形成し、防錆被膜を形成すると考えられる。マイグレーションは、電極に水分が浸入することで発生し易くなるが、被膜の形成により水分の浸入が抑制され、本実施形態に係る粘着シートは、優れたマイグレーション防止効果を発揮できるものと推測される。さらに、吸水率が0.5%以下であることにより、粘着剤層の疎水性を向上させることができ、上記防錆剤の作用と相俟って、優れたマイグレーション防止効果を発揮することができると推測される。
【0029】
ここで、電極が微細化・狭ピッチ化されると、電極間の間隙の距離が短いため、電極に対する粘着剤層の接触面積が大きくなる。接触面積が大きいと、防錆剤が上述した配位結合による防錆被膜を形成することにより多く使用され、電極近傍における防錆剤の濃度が低くなり易いという問題が生じると考えられる。特に電極間の粘着剤においては、防錆剤濃度が低くなり易いため、水分が浸入して溜まり易くなり、電極上部の粘着剤から電極間の粘着剤への防錆剤の供給が阻害される傾向があると考えられる。このように、電極近傍の防錆剤の濃度が部分的にでも低くなると、マイグレーションが発生し易くなると推測される。本実施形態に係る粘着シートは、粘着剤層が防錆剤を含有する粘着剤から構成され、かつ吸水率が上記であることにより、電極が微細化・狭ピッチ化されたことに起因する上記問題を解決することができる。具体的には、吸水率が上記範囲にあることにより、粘着剤層の疎水性を向上させることができ、電極間の粘着剤に水分が溜まるのを抑制することができる。これにより。電極上部の粘着剤から電極間の粘着剤への防錆剤の供給が阻害されにくくなり、電極近傍の防錆剤の濃度を均一に維持することができる。結果として、防錆剤の作用が効果的に発揮され易くなり、優れたマイグレーション防止効果を発揮できるものと推測される。
【0030】
本実施形態に係る粘着シートにおける上記吸水率は、0.5%以下であることが好ましい。吸水率の上限値が0.5%以下であることにより、本実施形態に係る粘着シートは、粘着剤層の疎水性が向上し、防錆剤による作用効果と相俟って、マイグレーション防止効果に優れたものとなる。また、応力緩和性に富む軟らかい粘着剤層となる傾向があり、繰り返し屈曲デバイスを構成する一の屈曲性部材と他の屈曲性部材とを貼合するための粘着剤層として好適な耐屈曲性を有するものとなり易い。マイグレーション防止効果および耐屈曲性の観点から、上記吸水率の上限値は、0.3%以下であることがより好ましく、特に0.2%以下であることが好ましく、さらには0.1%以下であることが好ましく、0.1%未満であることが最も好ましい。また、上記吸水率の下限値は、特に限定されないが、通常0%以上であり、0.001%以上であることがより好ましく、特に0.01%以上であることが好ましい。
【0031】
上記粘着剤層を構成する粘着剤の-20℃における貯蔵弾性率G’(-20)は、10MPa以下であることが好ましく、5MPa以下であることがより好ましく、特に1MPa以下であることが好ましく、さらには0.3MPa以下であることが好ましく、0.12MPa以下であることが最も好ましい。-20℃における貯蔵弾性率G’(-20)の上限値が上記範囲にあることにより、得られる粘着剤層は、所望の粘着性を発現し易くなるとともに、屈曲に伴って粘着剤層から屈曲性部材に作用する力が低減または分散し易いものとなって耐屈曲性により優れたものとなる。特に、一の屈曲性部材および/または他の屈曲性部材が電極を有する場合、電極近傍には、屈曲に伴って粘着剤層が変形することによる応力がかかるものと推測される。中でも電極が微細化・狭ピッチ化されたものであると、応力がかかるところが無数に存在するため、デバイス全体で見たときに、屈曲に伴って電極にかかる応力は大幅に増大する。すなわち、上記屈曲性部材が電極を有する場合、屈曲に伴って電極にかかる応力の低減または分散は重要であるところ、上記の-20℃における貯蔵弾性率G’(-20)の上限値が上記範囲にあることにより、得られる粘着剤層は、屈曲に伴って粘着剤層から当該電極にかかる応力を低減または分散し易いものとなる。これにより、本実施形態に係る粘着シートは、耐屈曲性により優れたものとなる。また、凝集力の観点から、上記粘着剤層を構成する粘着剤の-20℃における貯蔵弾性率G’(-20)は、0.01MPa以上であることが好ましく、0.05MPa以上であることが好ましく、特に0.08MPa以上であることが好ましく、さらには0.1MPa以上であることが好ましい。これにより、所望の粘着性を発現し易くなる。
【0032】
上記粘着剤層を構成する粘着剤の23℃における貯蔵弾性率G’(23)は、0.5MPa以下であることが好ましく、0.2MPa以下であることがより好ましく、特に0.1MPa以下であることが好ましく、さらには0.08MPa以下であることが好ましく、0.04以下であることが最も好ましい。23℃における貯蔵弾性率G’(23)の上限値が上記範囲にあることにより、得られる粘着剤層は、屈曲に伴って粘着剤層から屈曲性部材に作用する応力を低減または分散し易いものとなる。特に、上記屈曲性部材が微細化・狭ピッチ化された電極を有する場合であっても、屈曲に伴って粘着剤層から電極にかかる応力を低減または分散し易いものとなる。これにより、得られる粘着剤層は、所望の粘着性を発揮し易くなるとともに耐屈曲性により優れたものとなる。一方、23℃における貯蔵弾性率G’(23)は、0.01MPa以上であることが好ましく、特に0.02MPa以上であることが好ましく、さらには0.03MPa以上であることが好ましい。これにより、抜き加工などの加工性が良好となる。
【0033】
上記粘着剤層を構成する粘着剤の50℃における貯蔵弾性率G’(50)は、0.2MPa以下であることが好ましく、0.1MPa以下であることがより好ましく、特に0.06MPa以下であることが好ましく、さらには0.03MPa以下であることが好ましく、0.02MPa以下であることが最も好ましい。50℃における貯蔵弾性率G’(50)の上限値が上記範囲にあることにより、得られる粘着剤層は、屈曲に伴って粘着剤層から屈曲性部材に作用する応力を低減または分散し易いものとなる。特に、上記屈曲性部材が微細化・狭ピッチ化された電極を有する場合であっても、屈曲に伴って粘着剤層から電極にかかる応力を低減または分散し易いものとなる。これにより、特に高温における耐屈曲性に優れたデバイスを得ることができる。一方、50℃における貯蔵弾性率G’(50)は、0.001MPa以上であることが好ましく、0.005MPa以上であることがより好ましく、特に0.008MPa以上であることが好ましく、さらには0.01MPa以上であることが好ましく、0.015MPa以上であることが最も好ましい。これにより、高温でも粘着剤層が柔らかくなり過ぎずに凝集力が維持される。
【0034】
上記粘着剤層を構成する粘着剤のゲル分率は、40%以上であることが好ましく、45%以上であることがより好ましく、特に50%以上であることが好ましく、さらには55%以上であることが好ましく、57%以上であることが最も好ましい。上記ゲル分率の下限値が上記範囲にあることにより、得られる粘着剤層は好適な凝集力を発揮し、上述した貯蔵弾性率の値を満たし易くなる。また、粘着剤層の架橋密度が高まるに従って水分を通しにくくなる傾向があり、前述した吸水率を満たし易くなる。これにより、本実施形態の粘着シートは、耐屈曲性がより優れたものとなり、繰り返し屈曲に耐え得ることができる、。一方、本実施形態における粘着剤のゲル分率は、100%以下であることが好ましく、85%以下であることがより好ましく、特に70%以下であることが好ましく、さらには65%以下であることが好ましく、59%以下であることが最も好ましい。これにより、繰り返し屈曲による粘着剤中における架橋構造の破壊が抑制されるものと推定される。また上記ゲル分率の上限値が上記範囲にあることにより、得られる粘着剤層は好適な凝集力を発揮し、屈曲に伴って粘着剤層から屈曲性部材に作用する応力を低減または分散し易いものとなる。特に、上記屈曲性部材が微細化・狭ピッチ化された電極を有する場合であっても、屈曲に伴って粘着剤層から電極にかかる応力を低減または分散し易いものとなる。したがって、本実施形態の粘着シートは、耐屈曲性がより優れたものとなり、繰り返し屈曲に耐え得ることができる。なお、本明細書におけるゲル分率の測定方法は、後述する試験例に示す通りである。
【0035】
本実施形態に係る粘着シートの一例としての具体的構成を
図1に示す。
図1に示すように、一実施形態に係る粘着シート1は、2枚の剥離シート12a,12bと、それら2枚の剥離シート12a,12bの剥離面と接するように当該2枚の剥離シート12a,12bに挟持された粘着剤層11とから構成される。なお、本明細書における剥離シートの剥離面とは、剥離シートにおいて剥離性を有する面をいい、剥離処理を施した面および剥離処理を施さなくても剥離性を示す面のいずれをも含むものである。
【0036】
1.構成要素
1-1.粘着剤層
本実施形態に係る粘着シート1の粘着剤層11は、防錆剤を含有する粘着剤から構成される。当該粘着剤の種類は、上記の物性(特に吸収率)が満たされれば特に限定されず、例えば、アクリル系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等のいずれであってもよい。また、当該粘着剤は、エマルション型、溶剤型または無溶剤型のいずれでもよく、架橋タイプまたは非架橋タイプのいずれであってもよい。それらの中でも、前述した物性を満たし易く、粘着物性、光学特性等にも優れるアクリル系粘着剤が好ましく、特に、溶剤型のアクリル系粘着剤が好ましい。
【0037】
本実施形態における粘着剤は、具体的には、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)および防錆剤(B)を含有する粘着性組成物(以下「粘着性組成物P」という場合がある。)から得られたものであることが好ましく、特に、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)、防錆剤(B)および架橋剤(C)を含有する粘着性組成物を架橋してなる粘着剤であることが好ましい。上記粘着性組成物は、さらにシラン化合物(D)を含有することが好ましい。かかる粘着剤であれば、前述した物性を満たし易く、また、良好な粘着力が得られ易い。なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及びメタクリル酸の両方を意味する。他の類似用語も同様である。また、「重合体」には「共重合体」の概念も含まれるものとする。
【0038】
(1)粘着性組成物Pの成分
(1-1)(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマーとして、分子内に反応性官能基を有する反応性官能基含有モノマーを含有することが好ましい。この反応性官能基含有モノマーを含有することで、当該反応性官能基含有モノマー由来の反応性官能基を介して、後述する架橋剤(C)と反応し、これにより架橋構造(三次元網目構造)が形成され、所定の凝集力を有する粘着剤が得られる。
【0039】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が、当該重合体を構成するモノマー単位として含有する反応性官能基含有モノマーとしては、分子内に水酸基を有するモノマー(水酸基含有モノマー)、分子内にカルボキシ基を有するモノマー(カルボキシ基含有モノマー)、分子内にアミノ基を有するモノマー(アミノ基含有モノマー)などが好ましく挙げられる。これらの反応性官能基含有モノマーは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
上記反応性官能基含有モノマーの中でも、架橋剤(C)との反応性に優れ、電極への悪影響の少ない水酸基含有モノマーが特に好ましい。
【0041】
水酸基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル等が挙げられる。中でも、架橋剤(C)との反応性の観点から、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルおよび(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチルが好ましく、アクリル酸2-ヒドロキシエチルおよびアクリル酸4-ヒドロキシブチルがより好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、反応性官能基含有モノマー(特に水酸基含有モノマー)を、0.1質量%以上含有することが好ましく、0.3質量%以上含有することがより好ましく、特に0.6質量%以上含有することが好ましく、さらには0.9質量%以上含有することが好ましい。これにより、得られる粘着剤の粘着力と凝集力とのバランスが良好に図られる。また、防錆剤(B)が粘着剤層の表層に偏析し易くなる傾向がある。特に、上記反応性官能基含有モノマーが水酸基含有モノマーの場合、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)がモノマー単位として水酸基含有モノマーを上記の量で含有すると、上述した貯蔵弾性率やゲル分率、後述する粘着力等の物性値を満たし易くなり、得られる粘着剤は耐屈曲性に優れたものとなる。また、防錆剤(B)は、粘着剤表面に好適に偏析し易くなり、マイグレーション防止効果に優れたものとなる。
【0043】
また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、反応性官能基含有モノマー(特に水酸基含有モノマー)を、12質量%以下含有することが好ましく、8質量%以下含有することが好ましく、特に4質量%以下含有することが好ましく、さらには2質量%以下含有することが好ましく、1.5質量%以下含有することが最も好ましい。これにより、吸水率が前述した値を満たし易くなる傾向があるとともに、上述した貯蔵弾性率やゲル分率、後述する粘着力等の物性値を満たし易くなる。特に、上記反応性官能基含有モノマーが水酸基含有モノマーの場合、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)がモノマー単位として水酸基含有モノマーを上記の量で含有すると、吸水率が前述した範囲により入り易くなる。これにより、粘着剤層の疎水性を向上させることができ、マイグレーション防止効果により優れたものとなる。さらに、上述した貯蔵弾性率やゲル分率を満たし易くなり、得られる粘着剤層が応力緩和性に富んだ軟らかいものとなるとともに、後述する粘着力を満たし易く、被着体との粘着性にも優れ、これらが相俟って耐屈曲性により優れたものとなる。
【0044】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、カルボキシ基含有モノマーを含有しないことが好ましい。カルボキシ基は酸成分であるため、粘着剤が接触する電極の腐食による抵抗値変化が生ずることが懸念されるが、カルボキシ基含有モノマーを含有しないことで、電極の腐食を防止して抵抗値変化を効果的に防止・抑制することができる。ただし、上記の「カルボキシ基含有モノマーを含有しない」とは、得られる粘着剤が接触する電極が悪影響を受けない程度にカルボキシ基含有モノマーを含有することを許容するものである。具体的には、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)中に、モノマー単位として、カルボキシ基含有モノマーを0.1質量%以下、好ましくは0.01質量%以下、さらに好ましくは0.001質量%以下の量で含有することが許容される。
【0045】
また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含有することが好ましい。これにより、良好な粘着性を発現することができる。
【0046】
特に、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、前述した反応性官能基含有モノマー以外に、ホモポリマーとしてのガラス転移温度(Tg)が0℃以下であって、アルキル基の炭素数が2~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、ホモポリマーとしてのガラス転移温度(Tg)が0℃を超えるモノマーとを含有することが好ましい。
【0047】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、ホモポリマーとしてのガラス転移温度(Tg)が0℃以下であって、アルキル基の炭素数が2~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(以下「低Tgアルキルアクリレート」と称する場合がある。)を含有することで、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)のガラス転移温度(Tg)を後述する範囲に設定し易くなる。これにより、前述した物性(吸水率,貯蔵弾性率)が満たされ易くなり、ひいては耐屈曲性により優れるとともにマイグレーション防止効果により優れたものとなる。また、得られる粘着剤は好ましい粘着性を発現することができる。かかる観点から、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、低Tgアルキルアクリレートを、80質量%以上含有することが好ましく、85質量%以上含有することがより好ましく、特に90質量%以上含有することが好ましく、さらには94質量%以上含有することが好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として上記低Tgアルキルアクリレートを、上限値として99.9質量%以下含有することが好ましく、特に99質量%以下含有することが好ましく、さらには97質量%以下含有することが好ましい。上記低Tgアルキルアクリレートの含有量の上限値が上記であると、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)中に他のモノマー成分を好適な量導入することができる。
【0048】
低Tgアルキルアクリレートとしては、例えば、アクリル酸エチル(Tg-20℃)、アクリル酸n-ブチル(Tg-55℃)、アクリル酸イソブチル(Tg-26℃)、アクリル酸n-オクチル(Tg-65℃)、アクリル酸イソオクチル(Tg-58℃)、アクリル酸2-エチルヘキシル(Tg-70℃)、メタクリル酸2-エチルヘキシル(Tg-10℃)、アクリル酸イソノニル(Tg-58℃)、アクリル酸イソデシル(Tg-60℃)、メタクリル酸イソデシル(Tg-41℃)、アクリル酸n-ラウリル(Tg-23℃)、メタクリル酸n-ラウリル(Tg-65℃)、アクリル酸トリデシル(Tg-55℃)、メタクリル酸トリデシル(-40℃)、アクリル酸イソステアリル(Tg-18℃)等が好ましく挙げられる。中でも、低Tgアルキルアクリレートとして、より効果的に粘着性を付与する観点から、ホモポリマーのTgが、-40℃以下となるものであることがより好ましく、-50℃以下となるものであることが特に好ましい。具体的には、マイグレーションを抑制する観点から、アクリル酸n-ブチルおよびアクリル酸2-エチルヘキシルが特に好ましく、これらを併用することも好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、アルキル基の炭素数が2~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルにおけるアルキル基とは、直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキル基をいう。
【0049】
また、上記低Tgアルキルアクリレートは、得られる粘着剤層の疎水性を向上させることによりマイグレーションを抑制する観点から、少なくとも一部について、上記アルキル基の炭素数が5以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルであることが好ましく、上記アルキル基の炭素数が7以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルであることがより好ましい。具体的には、アクリル酸2-エチルヘキシルが特に好ましい。また、マイグレーションを抑制しつつ耐屈曲性を向上する観点から、上記低Tgアルキルアクリレート全体における、アルキル基の炭素数5以上(好ましくは7以上)の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの割合は、40質量%以上85質量%以下であることが好ましく、50質量%以上75質量%以下であることがより好ましく、60質量%以上65質量%以下であることが特に好ましい。
【0050】
また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、ホモポリマーとしてのガラス転移温度(Tg)が0℃を超えるモノマー(以下「ハードモノマー」と称する場合がある。)を含有することで、得られる粘着剤は適度な凝集力と粘着性とを有するものとなり易くなる。これにより、得られる粘着剤層は、繰り返し屈曲させても、屈曲部に線ができたり白濁したりすることを抑制し易く、また、浮きや剥がれ等の不具合の発生を抑制し易いものとなる。かかる観点から、上記ハードモノマーのガラス転移温度(Tg)は、60℃以上であることがより好ましく、90℃以上であることが特に好ましく、120℃以上であることがさらに好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を構成する他のモノマーとの相溶性や共重合性を考慮すると、上記ハードモノマーのガラス転移温度(Tg)は、250℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることが特に好ましい。
【0051】
上記ハードモノマーは、得られる粘着剤に好適な凝集力および粘着性を付与する観点から、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)中において、当該重合体を構成するモノマーとして、1質量%以上含まれることが好ましく、2質量%以上含まれることがより好ましく、4質量%以上含まれることが特に好ましい。また、上記ハードモノマーは、得られる(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と、他の成分との相溶性を優れたものとする観点から、重合体を構成するモノマーとして、8質量%以下含まれることが好ましく、7質量%以下含まれることがより好ましく、6質量%以下含まれることが特に好ましい。ハードモノマーが上記範囲にあることにより、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)のガラス転移温度(Tg)を後述する範囲に設定し易くなる。これにより、前述した物性(吸水率,貯蔵弾性率)が満たされ易くなり、ひいては耐屈曲性により優れるとともにマイグレーション防止効果により優れたものとなる。
【0052】
上記ハードモノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル(Tg10℃)、メタクリル酸メチル(Tg105℃)、メタクリル酸エチル(Tg65℃)、メタクリル酸n-ブチル(Tg20℃)、メタクリル酸イソブチル(Tg48℃)、メタクリル酸t-ブチル(Tg107℃)、アクリル酸n-ステアリル(Tg30℃)、メタクリル酸n-ステアリル(Tg38℃)、アクリル酸シクロヘキシル(Tg15℃)、メタクリル酸シクロヘキシル(Tg66℃)、アクリル酸フェノキシエチル(Tg5℃)、メタクリル酸フェノキシエチル(Tg54℃)、メタクリル酸ベンジル(Tg54℃)、アクリル酸イソボルニル(Tg94℃)、メタクリル酸イソボルニル(Tg180℃)、アクリロイルモルホリン(Tg145℃)、アクリル酸アダマンチル(Tg115℃)、メタクリル酸アダマンチル(Tg141℃)、ジメチルアクリルアミド(Tg89℃)、アクリルアミド(Tg165℃)等のアクリル系モノマー、酢酸ビニル(Tg32℃)、スチレン(Tg80℃)等が好ましく挙げられ、相溶性の観点から、アクリル系モノマーがより好ましく挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
上記ハードモノマーの中でも、他の成分との相溶性等の他の特性への悪影響を防止しつつハードモノマーの性能をより発揮させる観点から、メタクリル酸メチル、アクリル酸イソボルニルおよびアクリロイルモルホリンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。特に、アクリロイルモルホリンを使用することが好ましい。
【0054】
ここで、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)のガラス転移温度(Tg)は、-45℃以下であることが好ましく、-50℃以下であることがより好ましく、特に-55℃以下であることが好ましく、さらには-58℃以下であることが好ましい。また、当該ガラス転移温度(Tg)は、-100℃以上であることが好ましく、-85℃以上であることがより好ましく、特に-75℃以上であることが好ましく、さらには-65℃以上であることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)のガラス転移温度(Tg)が上記範囲にあることにより、吸水率および貯蔵弾性率が上記範囲に入り易くなり、耐屈曲性により優れるとともにマイグレーション防止効果により優れたものとなる。なお、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)のガラス転移温度(Tg)は、各モノマーのホモポリマーとしてのガラス転移温度(Tg)に基づき、FOXの式により算出したものとする。
【0055】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、所望により、当該重合体を構成するモノマー単位として、他のモノマーを含有してもよい。他のモノマーとしては、反応性官能基含有モノマーの作用を妨げないためにも、反応性を有する官能基を含まないモノマーが好ましい。かかる他のモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル等の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、溶液重合法によって得られた溶液重合物であることが好ましい。溶液重合物であることにより、高分子量のポリマーが得られ易く、耐久性に優れた粘着剤が得られる。
【0057】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重合態様は、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。
【0058】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量の下限値は、20万以上であることが好ましく、40万以上であることがより好ましく、特に55万以上であることが好ましく、さらには65万以上であることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量の下限値が上記であると、得られる粘着剤が耐久性に優れたものとなるとともに、防錆剤(B)が粘着剤層表層に偏析し易くなる。なお、本明細書における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した標準ポリスチレン換算の値である。
【0059】
また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量の上限値は、200万以下であることが好ましく、150万以下であることがより好ましく、特に100万以下であることが好ましく、さらには75万以下であることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量の上限値が上記であると、前述した物性(吸水率、貯蔵弾性率およびゲル分率)を満たし易いものとなる。また、得られる粘着剤が好適な粘着性を発揮するものとなる。
【0060】
なお、粘着性組成物Pにおいて、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
(1-2)防錆剤(B)
本実施形態における防錆剤(B)としては、粘着剤層の表層に好適に偏析するものが好ましい。このような防錆剤(B)は、粘着剤層の表層に安定的に存在し易くなるため、その作用を効果的に発揮して、マイグレーション防止効果に寄与することができる。このような防錆剤(B)としては、例えば、アゾール系化合物、トリアゾール系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、チアゾール系化合物、ベンゾチアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、ベンゾイミダゾール系化合物等のアゾール類の他、リン系化合物、亜硝酸塩系化合物などが挙げられる。これらの中でも、粘着剤層の表層に好適に偏析し易く、マイグレーション防止効果により優れる観点から、アゾール類が好ましく、特にベンゾトリアゾール系化合物が好ましい。防錆剤(B)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0062】
ベンゾトリアゾール系化合物としては、例えば、1H-ベンゾトリアゾール、1H-トリルトリアゾール、1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]ベンゾトリアゾール、1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]メチルベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、2、2’-[[(メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル]イミノ]ビスエタノール等が挙げられる。中でも、1H-ベンゾトリアゾール、1H-トリルトリアゾール、1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]ベンゾトリアゾールおよび1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]メチルベンゾトリアゾールが好ましく、特に1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]メチルベンゾトリアゾールが好ましい。これにより、マイグレーションの発生をより効果的に抑制することができる。
【0063】
粘着性組成物P中における防錆剤(B)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、0.001質量部以上であることが好ましく、0.01質量部以上であることがより好ましく、特に0.02質量部以上であることが好ましく、さらには0.04質量部以上であることが好ましく、0.045質量部以上であることが最も好ましい。これにより、防錆剤(B)が得られる粘着剤層の表層に適度に偏析し易くなって、マイグレーション防止効果がより優れたものとなる。
【0064】
また、粘着性組成物P中における防錆剤(B)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、1質量部以下であることが好ましく、0.8質量部以下であることがより好ましく、特に0.5質量部以下であることが好ましく、さらには0.3質量部以下であることが好ましい。これにより、得られる粘着剤層は、粘着剤層に含まれる防錆剤(B)の絶対量を抑えることができるため、防錆剤(B)に起因する配線の色味変化を抑制することができる。また、上記防錆剤(B)の含有量の上限値が上記範囲にあると、粘着剤層に含まれる粘着性成分(例えば、上述した(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)等)の含有量を相対的に上げることができるため、得られる粘着剤層は、マイグレーション防止効果を発揮しつつ、良好な粘着性を発揮することができる。
【0065】
粘着剤中における防錆剤(B)の含有量は、0.001質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、特に0.02質量%以上であることが好ましく、さらには0.04質量%以上であることが好ましく、0.045質量%以上であることが最も好ましい。これにより、防錆剤(B)が、得られる粘着剤層の表層に適度に偏析し易くなって、マイグレーション防止効果がより優れたものとなる。
【0066】
また、粘着剤中における防錆剤(B)の含有量は、1質量%以下であることが好ましく、0.8質量%以下であることがより好ましく、特に0.5質量%以下であることが好ましく、さらには0.3質量%以下であることが好ましい。これにより、防錆剤(B)が、得られる粘着剤層は、粘着剤層に含まれる防錆剤(B)の絶対量を抑えることができるため、防錆剤(B)に起因する配線の色味変化を抑制することができる。また、上記防錆剤(B)の含有量の上限値が上記範囲にあると、粘着剤層に含まれる粘着性成分(例えば、上述した(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)等)の含有量を相対的に上げることができるため、得られる粘着剤層は、マイグレーション防止効果を発揮しつつ、良好な粘着性を発揮することができる。
【0067】
(1-3)架橋剤(C)
架橋剤(C)は、当該架橋剤(C)を含有する粘着性組成物Pの加熱等をトリガーとして、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を架橋し、三次元網目構造を形成する。これにより、得られる粘着剤の凝集力が向上し、貯蔵弾性率およびゲル分率が前述した範囲に入り易くなる。
【0068】
上記架橋剤(C)としては、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が有する反応性官能基と反応するものであればよく、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アミン系架橋剤、メラミン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、ヒドラジン系架橋剤、アルデヒド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、金属アルコキシド系架橋剤、金属キレート系架橋剤、金属塩系架橋剤、アンモニウム塩系架橋剤等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が、当該重合体を構成するモノマー単位として水酸基含有モノマーを含有する場合、その水酸基との反応性に優れたイソシアネート系架橋剤を使用することが好ましい。なお、架橋剤(C)は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0069】
イソシアネート系架橋剤は、少なくともポリイソシアネート化合物を含むものである。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネートなど、及びそれらのビウレット体、イソシアヌレート体、さらにはエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ヒマシ油等の低分子活性水素含有化合物との反応物であるアダクト体などが挙げられる。中でも水酸基との反応性の観点から、トリメチロールプロパン変性の芳香族ポリイソシアネート、特にトリメチロールプロパン変性トリレンジイソシアネートまたはトリメチロールプロパン変性キシリレンジイソシアネートが好ましい。
【0070】
粘着性組成物P中における架橋剤(C)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがより好ましく、特に0.1質量部以上であることが好ましく、さらには0.2質量部以上であることが好ましく、0.25質量部以上であることが最も好ましい。また、当該含有量は、5質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることがより好ましく、特に0.8質量部以下であることが好ましく、さらには0.6質量部以下であることが好ましい。架橋剤(C)の含有量が上記の範囲内にあると、貯蔵弾性率およびゲル分率が前述した範囲に入り易くなる。
【0071】
(1-4)シラン化合物(D)
本実施形態の粘着性組成物Pは、シラン化合物(D)を含有することが好ましい。シラン化合物(D)を含有することにより、マイグレーション防止効果がより優れたものとなる。
【0072】
シラン化合物(D)は、アルコキシシリル基を少なくとも1個有する有機ケイ素化合物が好ましい。これにより、得られる粘着剤層において、被着体である屈曲性部材との密着性が向上し、粘着力がより好ましいものとなる。また、アルコキシシリル基の作用により、得られる粘着剤層に隣接する電極に水分が浸入することが抑制されるものと考えられ、これにより、マイグレーション防止効果がより優れたものとなる。
【0073】
シラン化合物(D)としてのアルコキシシリル基を少なくとも1個有する有機ケイ素化合物は、例えばシランカップリング剤であってもよく、具体例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の重合性不飽和基含有ケイ素化合物;3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ構造を有するケイ素化合物;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン等のメルカプト基含有ケイ素化合物;3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノ基含有ケイ素化合物;3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、あるいはこれらの少なくとも1つと、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン等のアルキル基含有ケイ素化合物との縮合物;などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、マイグレーション防止効果の観点および粘着性の観点から、エポキシ構造を有するケイ素化合物が好ましく、特に3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0074】
また、シラン化合物(D)は、両末端にアルコキシシリル基を有する有機ケイ素化合物が好ましい。好ましくは下記一般式(I)で表される化合物である。
【化1】
(式中のR
1は、窒素原子を有していてもよい2価の炭化水素基である。式中のR
2~R
7は、それぞれ独立してアルキル基である。)
【0075】
マイグレーション防止効果の観点から、上記R1の2価の炭化水素基の炭素数は、1~10であることが好ましく、特に3~8であることが好ましく、さらには5~7であることが好ましい。また、上記炭化水素基は、飽和炭化水素基であることが好ましく、特に鎖式飽和炭化水素基であることが好ましい。さらに、上記炭化水素基は、アルキレン基を含むものであることが好ましく、特にアルキレン基であることが好ましい。そのアルキレン基の炭素数は、1~10であることが好ましく、特に3~8であることが好ましく、さらには5~7であることが好ましい。
【0076】
上記R1が窒素原子を有する場合、その窒素原子は、上記炭化水素基の側鎖に存在してもよいが、上記炭化水素基の主鎖に存在することが好ましい。上記R1が窒素原子を有する場合、R1中に含まれる窒素原子の数は、1~5であることが好ましく、特に2~3であることが好ましい。上記窒素原子は、アミノ基またはアミド基であることが好ましく、特にアミノ基であることが好ましく、さらには、第二級アミンまたは第三級アミンとして上記炭化水素基の主鎖に存在することが好ましい。
【0077】
上記R1が窒素原子を有する場合、R1は、-(CH)m-NH-の骨格を含むことが好ましく、-(CH)m-NH-(CH)n-の骨格を含むことがより好ましく、特に、-(CH)m-NH-(CH)n-NH-の骨格を含むことが好ましく、さらには、-(CH)m-NH-(CH)n-NH-(CH)p-の骨格を含むことが好ましい。上記m、nおよびpは、正の整数であり、1~5であることが好ましく、特に2~4であることが好ましい。
【0078】
上記R1は、主鎖に硫黄原子を有しないことが好ましい。主鎖に硫黄原子を有すると、耐久試験環境において、粘着剤と、金属(特に銀)または金属酸化物(特にITO)からなる電極との界面を起点に金属硫化物が生成され易くなる。これにより、前述したマイグレーション防止効果が阻害されるおそれがある。
【0079】
上記R2~R7のアルキル基の炭素数は、それぞれ1~6であることが好ましく、特に1~4であることが好ましく、さらには1~2であることが好ましい。また、上記R2~R7は全て同じアルキル基であることが好ましく、全てメチル基であることが最も好ましい。
【0080】
粘着性組成物P中におけるシラン化合物(D)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、下限値として0.01質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、特に0.16質量部以上であることが好ましく、さらには0.22質量部以上であることが好ましい。また、当該含有量は、上限値として2質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることがより好ましく、特に0.6質量部以下であることが好ましく、さらには0.3質量部以下であることが好ましい。シラン化合物(D)の含有量が上記の範囲であることにより、シラン化合物(D)による作用が効果的に発揮され、マイグレーション防止効果がより優れたものとなる。
【0081】
(1-5)各種添加剤
粘着性組成物Pには、所望により、アクリル系粘着剤に通常使用されている各種添加剤、例えば、紫外線吸収剤、帯電防止剤、粘着付与剤、酸化防止剤、光安定剤、軟化剤、充填剤、屈折率調整剤などを添加することができる。なお、後述の重合溶媒や希釈溶媒は、粘着性組成物Pを構成する添加剤に含まれないものとする。
【0082】
紫外線吸収剤(E)としては、例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾエート系、ベンゾオキサジノン系、トリアジン系、フェニルサリシレート系、シアノアクリレート系、ニッケル錯塩系等の化合物が挙げられ、これらの中でも、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物およびトリアジン系化合物の少なくとも一種を使用することが好ましい。
【0083】
上記ベンゾフェノン系化合物の例としては、2,2-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン-5-スルホン酸水和物、2-ヒドロキシ-4-n-オクチルオキシベンゾフェノン等が挙げられ、これらの中でも、2,2-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノンを使用することが好ましい。
【0084】
上記ベンゾトリアゾール系化合物の例としては、2-(2-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、オクチル-3-[3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェニル]プロピオネート、2-エチルヘキシル-3-[3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェニル]プロピオネート、3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシ-ベンゼンプロパン酸等が挙げられ、これらの中でも3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシ-ベンゼンプロパン酸を使用することが好ましい。
【0085】
上記トリアジン系化合物の例としては、2,4-ビス[2-ヒドロキシ-4-ブトキシフェニル]-6-(2,4-ジブトキシフェニル)-1,3-5-トリアジン、2-[4,6-ジ(2,4-キシリル)-1,3,5-トリアジン-2-イル]-5-オクチルオキシフェノール等が挙げられる。
【0086】
以上の紫外線吸収剤(E)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0087】
粘着性組成物Pが紫外線吸収剤(E)を含有する場合、紫外線吸収剤(E)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、特に0.5質量部以上であることが好ましく、さらには1.0質量部以上であることが好ましい。また、上記含有量は、15質量部以下であることが好ましく、8質量部以下であることがより好ましく、特に5質量部以下であることが好ましく、さらには2質量部以下であることが好ましい。紫外線吸収剤(E)の含有量が上記範囲であることで、粘着剤層が良好な紫外線吸収性を発揮し易いものとなる。
【0088】
なお、粘着性組成物Pは、粘着剤層中に、そのまま、あるいは反応した状態で、残存する各種成分の混合物を表すものであって、乾燥工程等で除去される成分、例えば、後述の重合溶媒や希釈溶媒は、粘着性組成物Pに含まれない。
【0089】
(2)粘着性組成物Pの製造
粘着性組成物Pは、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を製造し、得られた(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と、防錆剤(B)とを混合するとともに、所望により、架橋剤(C)、シラン化合物(D)、紫外線吸収剤(E)等の添加剤等を加えることで製造することができる。
【0090】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、重合体を構成するモノマーの混合物を通常のラジカル重合法で重合することにより製造することができる。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重合は、所望により重合開始剤を使用して、溶液重合法により行うことが好ましい。溶液重合法によって(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を重合することにより、得られる重合体の高分子量化と、分子量分布の調整とが容易となり、さらに低分子量体の生成を低減することが可能となる。このため、ゲル分率を比較的小さくして架橋の程度を緩めた場合であっても、繰り返し屈曲に伴う粘着剤の偏りが生じ難く、耐屈曲性に優れた粘着剤が得られ易い。
【0091】
溶液重合法で使用する重合溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、トルエン、アセトン、ヘキサン、メチルエチルケトン等が挙げられ、2種類以上を併用してもよい。
【0092】
重合開始剤としては、アゾ系化合物、有機過酸化物等が挙げられ、2種類以上を併用してもよい。アゾ系化合物としては、例えば、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1'-アゾビス(シクロヘキサン1-カルボニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル)、ジメチル2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、4,4'-アゾビス(4-シアノバレリック酸)、2,2'-アゾビス(2-ヒドロキシメチルプロピオニトリル)、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]等が挙げられる。
【0093】
有機過酸化物としては、例えば、過酸化ベンゾイル、t-ブチルパーベンゾエイト、クメンヒドロパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2-エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシビバレート、(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキシド、ジプロピオニルパーオキシド、ジアセチルパーオキシド等が挙げられる。
【0094】
なお、上記重合工程において、2-メルカプトエタノール等の連鎖移動剤を配合することにより、得られる重合体の重量平均分子量を調節することができる。
【0095】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が得られたら、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の溶液に、防錆剤(B)、所望により架橋剤(C)、シラン化合物(D)、紫外線吸収剤(E)等の添加剤、希釈溶剤等を添加し、十分に混合することにより、溶剤で希釈された粘着性組成物P(塗布溶液)を得る。
【0096】
なお、上記各成分のいずれかにおいて、固体状のものを用いる場合、あるいは、希釈されていない状態で他の成分と混合した際に析出を生じる場合には、その成分を単独で予め希釈溶媒に溶解もしくは希釈してから、その他の成分と混合してもよい。
【0097】
上記希釈溶剤としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、塩化メチレン、塩化エチレン等のハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール等のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、2-ペンタノン、イソホロン、シクロヘキサノン等のケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル、エチルセロソルブ等のセロソルブ系溶剤などが用いられる。
【0098】
このようにして調製された塗布溶液の濃度・粘度としては、コーティング可能な範囲であればよく、特に制限されず、状況に応じて適宜選定することができる。例えば、粘着性組成物Pの濃度が10~60質量%となるように希釈する。なお、塗布溶液を得るに際して、希釈溶剤等の添加は必要条件ではなく、粘着性組成物Pがコーティング可能な粘度等であれば、希釈溶剤を添加しなくてもよい。この場合、粘着性組成物Pは、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重合溶媒をそのまま希釈溶剤とする塗布溶液となる。
【0099】
(3)粘着剤の製造
本実施形態における粘着剤層11を構成する粘着剤は、好ましくは粘着性組成物Pを架橋してなるものである。粘着性組成物Pの架橋は、通常は加熱処理により行うことができる。なお、この加熱処理は、所望の対象物に塗布した粘着性組成物Pの塗膜から希釈溶剤等を揮発させる際の乾燥処理で兼ねることもできる。
【0100】
加熱処理の加熱温度は、50~150℃であることが好ましく、特に70~120℃であることが好ましい。また、加熱時間は、10秒~10分であることが好ましく、特に50秒~2分であることが好ましい。
【0101】
加熱処理後、必要に応じて、常温(例えば、23℃、50%RH)で1~2週間程度の養生期間を設けてもよい。この養生期間が必要な場合は、養生期間経過後、養生期間が不要な場合には、加熱処理終了後、粘着剤が形成される。
【0102】
上記の加熱処理(及び養生)により、架橋剤(C)を介して(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が十分に架橋されて架橋構造が形成され、粘着剤が得られる。
【0103】
(4)粘着剤層の厚さ
本実施形態に係る粘着シート1における粘着剤層11の厚さ(JIS K7130に準じて測定した値)は、下限値として1μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、特に10μm以上であることが好ましく、さらには18μm以上であることが好ましく、22μm以上であることが好ましい。粘着剤層11の厚さの下限値が上記であると、所望の粘着力を発揮し易い上、表層に防錆剤が偏析した粘着剤層が、電極を十分に覆うことができるため、より優れたマイグレーション防止効果を発揮することができる。
【0104】
また、粘着剤層11の厚さは、上限値として100μm以下であることが好ましく、60μm以下であることがより好ましく、特に40μm以下であることが好ましく、より薄い繰り返し屈曲デバイスを得ることができる観点から、さらには30μm以下であることが好ましい。粘着剤層11の厚さの上限値が上記であると、繰り返し屈曲による耐屈曲性をより優れたものとすることができる。また、粘着剤層11に含まれる防錆剤(B)の絶対量を少なくすることができるため、防錆剤(B)に起因する配線の色味変化を抑制することができる。なお、粘着剤層11は単層で形成してもよいし、複数層を積層して形成することもできる。
【0105】
1-2.剥離シート
剥離シート12a,12bは、粘着シート1の使用時まで粘着剤層11を保護するものであり、粘着シート1(粘着剤層11)を使用するときに剥離される。本実施形態に係る粘着シート1において、剥離シート12a,12bの一方または両方は必ずしも必要なものではない。
【0106】
剥離シート12a,12bとしては、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢酸ビニルフィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム等が用いられる。また、これらの架橋フィルムも用いられる。さらに、これらの積層フィルムであってもよい。
【0107】
上記剥離シート12a,12bの剥離面(特に粘着剤層11と接する面)には、剥離処理が施されていることが好ましい。剥離処理に使用される剥離剤としては、例えば、アルキッド系、シリコーン系、フッ素系、不飽和ポリエステル系、ポリオレフィン系、ワックス系の剥離剤が挙げられる。なお、剥離シート12a,12bのうち、一方の剥離シートを剥離力の大きい重剥離型剥離シートとし、他方の剥離シートを剥離力の小さい軽剥離型剥離シートとすることが好ましい。
【0108】
剥離シート12a,12bの厚さについては特に制限はないが、通常20~150μm程度である。
【0109】
2.物性(粘着力)
本実施形態に係る粘着シート1のソーダライムガラスに対する粘着力は、下限値として1N/25mm以上であることが好ましく、10N/25mm以上であることがより好ましく、特に20N/25mm以上であることが好ましく、さらには25N/25mm以上であることが好ましく、29N/25mm以上であることが好ましい。粘着シート1のソーダライムガラスに対する粘着力の下限値が上記であると、耐屈曲性がより優れたものとなる。一方、上記粘着力の上限値については、特に制限されないが、リワーク性が必要な場合がある。このような観点から、上記粘着力は、100N/25mm以下であることが好ましく、60N/25mm以下であることがより好ましく、40N/25mm以下であることが特に好ましく、35N/25mm以下であることが特に好ましい。なお、本明細書における粘着力は、基本的にはJIS Z0237:2009に準じた180度引き剥がし法により測定した粘着力をいい、具体的な試験方法は、後述する試験例に示す通りである。
【0110】
3.粘着シートの製造
粘着シート1の一製造例として、上記粘着性組成物Pを使用した場合について説明する。一方の剥離シート12a(または12b)の剥離面に、粘着性組成物Pの塗布液を塗布し、加熱処理を行って粘着性組成物Pを熱架橋し、塗布層を形成した後、その塗布層に他方の剥離シート12b(または12a)の剥離面を重ね合わせる。養生期間が必要な場合は養生期間をおくことにより、養生期間が不要な場合はそのまま、上記塗布層が粘着剤層11となる。これにより、上記粘着シート1が得られる。加熱処理および養生の条件については、前述した通りである。
【0111】
粘着シート1の他の製造例としては、一方の剥離シート12aの剥離面に、粘着性組成物Pの塗布液を塗布し、加熱処理を行って粘着性組成物Pを熱架橋し、塗布層を形成して、塗布層付きの剥離シート12aを得る。また、他方の剥離シート12bの剥離面に、上記粘着性組成物Pの塗布液を塗布し、加熱処理を行って粘着性組成物Pを熱架橋し、塗布層を形成して、塗布層付きの剥離シート12bを得る。そして、塗布層付きの剥離シート12aと塗布層付きの剥離シート12bとを、両塗布層が互いに接触するように貼り合わせる。養生期間が必要な場合は養生期間をおくことにより、養生期間が不要な場合はそのまま、上記の積層された塗布層が粘着剤層11となる。これにより、上記粘着シート1が得られる。この製造例によれば、粘着剤層11が比較的厚い場合であっても、安定して製造することが可能となる。
【0112】
上記粘着性組成物Pの塗布液を塗布する方法としては、例えばバーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等を利用することができる。
【0113】
〔繰り返し屈曲積層部材〕
図2に示すように、本実施形態に係る繰り返し屈曲積層部材2は、第1の屈曲性部材21(一の屈曲性部材)と、第2の屈曲性部材22(他の屈曲性部材)と、それらの間に位置し、第1の屈曲性部材21および第2の屈曲性部材22を互いに貼合する粘着剤層11とを備えて構成される。
【0114】
上記繰り返し屈曲積層部材2における粘着剤層11は、前述した粘着シート1の粘着剤層11である。
【0115】
繰り返し屈曲積層部材2は、繰り返し屈曲デバイス自体であるか、または繰り返し屈曲デバイスの一部を構成する部材である。繰り返し屈曲デバイスは、繰り返しの屈曲(折り曲げを含む)が可能なディスプレイ(繰り返し屈曲ディスプレイ)であることが好ましいが、これに限定されるものではない。かかる繰り返し屈曲デバイスとしては、例えば、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)ディスプレイ、電気泳動方式のディスプレイ(電子ペーパー)、基板としてプラスチック基板(フィルム)を用いた液晶ディスプレイ、フォルダブルディスプレイ等が挙げられ、タッチパネルであってもよい。
【0116】
第1の屈曲性部材21および第2の屈曲性部材22は、繰り返しの屈曲(折り曲げを含む)が可能な部材であり、例えば、カバーフィルム、ガスバリアフィルム、ハードコートフィルム、偏光フィルム(偏光板)、偏光子、位相差フィルム(位相差板)、視野角補償フィルム、輝度向上フィルム、コントラスト向上フィルム、拡散フィルム、半透過反射フィルム、電極フィルム、透明導電性フィルム、金属メッシュフィルム、フレキシブルガラス、フィルムセンサー(タッチセンサーフィルム)、液晶ポリマーフィルム、発光ポリマーフィルム、フィルム状液晶モジュール、有機ELモジュール(有機ELフィルム,有機EL素子)、電子ペーパーモジュール(フィルム状電子ペーパー)、TFT(Thin Film Transistor)基板等が挙げられる。
【0117】
ここで、第1の屈曲性部材21および/または第2の屈曲性部材22は、少なくとも貼合される側(粘着剤層11側)の面に電極を有することが好ましく、金属または金属酸化物からなる電極を有することが好ましい。電極を有する屈曲性部材としては、例えば、フィルムセンサー、電極フィルム、金属メッシュフィルム、金属ナノワイヤーフィルム、ワイヤーグリッド偏光フィルム等が挙げられる。本実施形態における粘着剤層11によれば、電極を有する屈曲性部材に接触した場合であっても、優れたマイグレーション防止効果を発揮し、電極の抵抗値変化を抑制することができる。
【0118】
上記金属からなる電極としては、例えば、銀、銀合金、銅、銅合金等からなる金属配線(メッシュ状・グリッド状・ナノワイヤ状のものを含む)が挙げられる。特に、タッチパネルの電極を構成するものが好ましく例示され、具体的には、フィルムセンサーに含まれる金属配線が好ましく例示される。上記金属配線の中でも、銀または銀合金のナノ粒子からなる金属配線が好ましく、銀合金としては、特に銀にパラジウムおよび銅が添加された銀合金金属配線が好ましい。これらの金属配線に対して、粘着剤層11による優れたマイグレーション防止効果が発揮される。
【0119】
上記金属酸化物からなる電極としては、例えば、スズドープ酸化インジウム(ITO)、酸化亜鉛等の金属酸化物からなる透明導電膜をパターニングしたものが挙げられる。上記の中でも、特にITOからなる透明導電膜をパターニングしたものが好ましく、当該ITO透明導電膜に対して、粘着剤層11による優れたマイグレーション防止効果が発揮され易い。
【0120】
電極が配線である場合、上記配線幅は、100μm以下が好ましく、60μm以下がより好ましく、特に30μm以下が好ましく、さらには20μm以下が好ましく、特に11μm以下が最も好ましい。また、当該配線幅は、1μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましく、特に4μm以上が好ましく、さらには8μm以上が好ましい。配線幅が上記範囲であると、電極の微細化および狭ピッチ化に寄与しつつ、本実施形態の粘着剤層11が優れたマイグレーション防止効果を発揮できるため、電極の接続信頼性向上等に寄与する。
【0121】
電極が配線である場合、上記配線間の間隙の距離(以下、「配線間距離」という場合がある。)は、100μm以下が好ましく、60μm以下がより好ましく、特に30μm以下が好ましく、さらには20μm以下が好ましく、特に11μm以下が最も好ましい。また、当該配線間距離は、1μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましく、特に4μm以上が好ましく、さらには8μm以上が好ましい。配線間距離が上記範囲であると、電極の微細化および狭ピッチ化に寄与しつつ、本実施形態の粘着剤層11が優れたマイグレーション防止効果を発揮できるため、電極の接続信頼性向上等に寄与する。
【0122】
電極が配線である場合、上記配線厚さは、1μm以下が好ましく、0.6μm以下がより好ましく、特に0.3μm以下が好ましく、さらには0.2μm以下が好ましい。また、当該配線厚さは、0.01μm以上が好ましく、0.05μm以上がより好ましく、特に0.1μm以上が好ましく、さらには0.15μm以上が好ましい。配線厚さが上記範囲であると、電極の薄化に寄与しつつ、本実施形態の粘着剤層11がより優れたマイグレーション防止効果を発揮できるため、電極の接続信頼性向上等に寄与する。
【0123】
第1の屈曲性部材21および第2の屈曲性部材22のヤング率は、それぞれ0.1~10GPaであることが好ましく、特に0.5~7GPaであることが好ましく、さらには1.0~5GPaであることが好ましい。第1の屈曲性部材21および第2の屈曲性部材22のヤング率がかかる範囲にあることで、各屈曲性部材について繰り返し屈曲させることが容易になる。
【0124】
第1の屈曲性部材21および第2の屈曲性部材22の厚さは、それぞれ10~3000μmであることが好ましく、特に25~1000μmであることが好ましく、さらには50~500μmであることが好ましい。第1の屈曲性部材21および第2の屈曲性部材22の厚さがかかる範囲にあることで、各屈曲性部材について繰り返し屈曲させることが容易になる。
【0125】
上記繰り返し屈曲積層部材2を製造するには、一例として、粘着シート1の一方の剥離シート12aを剥離して、粘着シート1の露出した粘着剤層11を、第1の屈曲性部材21の一方の面に貼合する。
【0126】
その後、粘着シート1の粘着剤層11から他方の剥離シート12bを剥離して、粘着シート1の露出した粘着剤層11と第2の屈曲性部材22とを貼合し、繰り返し屈曲積層部材2を得る。また、他の例として、第1の屈曲性部材21および第2の屈曲性部材22の貼合順序を入れ替えてもよい。
【0127】
〔繰り返し屈曲デバイス〕
本実施形態に係る繰り返し屈曲デバイスは、上記の繰り返し屈曲積層部材2を備えたものであり、繰り返し屈曲積層部材2のみからなってもよいし、一または複数の繰り返し屈曲積層部材2と、他の屈曲性部材とを備えて構成されてもよい。一の繰り返し屈曲積層部材2と他の繰り返し屈曲積層部材2とを積層するとき、または繰り返し屈曲積層部材2と他の屈曲性部材とを積層するときには、前述した粘着シート1の粘着剤層11を介して積層することが好ましい。
【0128】
本実施形態に係る繰り返し屈曲デバイスは、粘着剤層が前述した粘着性組成物Pから得られる粘着剤から構成されるため、繰り返し屈曲させたときに、粘着剤層に線ができたり白濁したりすることが抑制されるとともに、粘着剤層と被着体である屈曲性部材との界面における浮きや剥がれの発生を抑制することができる。このように、本実施形態に係る繰り返し屈曲デバイスは、所定の部分で繰り返し屈曲させたときの耐屈曲性に優れたものとなる。さらに、繰り返し屈曲積層部材2を構成する第1の屈曲性部材21および/または第2の屈曲性部材22が、少なくとも貼合される側(粘着剤層11側)の面に電極を有する場合でも、優れたマイグレーション防止効果を発揮することができ、電極の抵抗値変化を抑制することができる。
【0129】
本実施形態における一例としての繰り返し屈曲デバイスを
図3に示す。なお、本発明に係る繰り返し屈曲デバイスは、当該繰り返し屈曲デバイスに限定されるものではない。
【0130】
図3に示すように、本実施形態に係る繰り返し屈曲デバイス3は、上から順に、カバーフィルム31と、第1の粘着剤層32と、偏光フィルム33と、第2の粘着剤層34と、タッチセンサーフィルム35と、第3の粘着剤層36と、有機EL素子37と、第4の粘着剤層38と、TFT基板39とを積層して構成される。上記のカバーフィルム31、偏光フィルム33、タッチセンサーフィルム35、有機EL素子37およびTFT基板39は、屈曲性部材に該当する。
【0131】
第1の粘着剤層32、第2の粘着剤層34、第3の粘着剤層36および第4の粘着剤層38の少なくともいずれか1層は、前述した粘着シート1の粘着剤層11である。第1の粘着剤層32、第2の粘着剤層34、第3の粘着剤層36および第4の粘着剤層38のいずれか2層以上が前述した粘着シート1の粘着剤層11であることが好ましく、全ての粘着剤層32,34,36,38が粘着シート1の粘着剤層11であることが最も好ましい。
【0132】
ここで、例えば、タッチセンサーフィルム35が電極を有する場合、特に、第2の粘着剤層34側に電極を備えている場合は、少なくとも第2の粘着剤層34は、マイグレーションを効果的に抑制できる観点から、前述した粘着シート1の粘着剤層11であることが好ましい。
【0133】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0134】
例えば、粘着シート1における剥離シート12a,12bのいずれか一方または両方は省略されてもよく、また、剥離シート12aおよび/または12bの替わりに所望の屈曲性部材が積層されてもよい。
【実施例0135】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0136】
〔実施例1〕
1.(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の調製
アクリル酸2-エチルヘキシル60質量部、アクリル酸n-ブチル34質量部、N-アクリロイルモルホリン5質量部およびアクリル酸2-ヒドロキシエチル1質量部を溶液重合法により共重合させて、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を調製した。この(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の分子量を後述する方法で測定したところ、重量平均分子量(Mw)70万であった。
【0137】
2.粘着性組成物の調製
上記工程1で得られた(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部(固形分換算値;以下同じ)と、防錆剤(B)としての1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]メチルベンゾトリアゾール0.05質量部と、架橋剤(C)としてのトリメチロールプロパンアダクトキシリレンジイソシアネート(C1)0.25質量部と、シラン化合物(D)としての3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(D1)0.25質量部とを混合し、十分に撹拌して、メチルエチルケトンで希釈することにより、粘着性組成物の塗布溶液を得た。
【0138】
3.粘着シートの製造
得られた粘着性組成物の塗布溶液を、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン系剥離剤で剥離処理した重剥離型剥離シート(リンテック社製,製品名「SP-PET752150」)の剥離処理面に、ナイフコーターで塗布した。そして、塗布層に対し、90℃で1分間加熱処理して塗布層を形成した。
【0139】
次いで、上記で得られた重剥離型剥離シート上の塗布層と、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン系剥離剤で剥離処理した軽剥離型剥離シート(リンテック社製,製品名「SP-PET381130」)とを、当該軽剥離型剥離シートの剥離処理面が塗布層に接触するように貼合し、23℃、50%RHの条件下で7日間養生することにより、厚さ25μmの粘着剤層を有する粘着シート、すなわち、重剥離型剥離シート/粘着剤層(厚さ:25μm)/軽剥離型剥離シートの構成からなる粘着シートを作製した。なお、粘着剤層の厚さは、JIS K7130に準拠し、定圧厚さ測定器(テクロック社製,製品名「PG-02」)を使用して測定した値である。
【0140】
ここで、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を100質量部(固形分換算値)とした場合の粘着性組成物の各配合(固形分換算値)を表1に示す。なお、表1に記載の略号等の詳細は以下の通りである。
[(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)]
2EHA:アクリル酸2-エチルヘキシル
BA:アクリル酸n-ブチル
ACMO:N-アクリロイルモルホリン
MMA:メタクリル酸メチル
IBXA:アクリル酸イソボルニル
HEA:アクリル酸2-ヒドロキシエチル
4HBA:アクリル酸4-ヒドロキシブチル
AA:アクリル酸
[架橋剤(C)]
C1:トリメチロールプロパンアダクトキシリレンジイソシアネート
C2:1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン
[シラン化合物(D)]
D1:3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン
D2:下記構造式(II)で示される有機ケイ素化合物
【化2】
[紫外線吸収剤(E)]
E1:ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(BASFジャパン社製,製品名「TINUVIN 384-2」)
E2:2,2-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン
【0141】
〔実施例2~9,比較例1~7〕
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を構成する各モノマーの種類および割合、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量(Mw)、防錆剤(B)の配合量、架橋剤(C)の種類および配合量、ならびにシラン化合物(D)の種類を表1に示すように変更する以外、実施例1と同様にして粘着シートを製造した。なお、実施例4および5については、さらに紫外線吸収剤(E)を添加した。
【0142】
ここで、前述した重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で測定(GPC測定)したポリスチレン換算の重量平均分子量である。
<測定条件>
・GPC測定装置:東ソー社製,HLC-8020
・GPCカラム(以下の順に通過):東ソー社製
TSK guard column HXL-H
TSK gel GMHXL(×2)
TSK gel G2000HXL
・測定溶媒:テトラヒドロフラン
・測定温度:40℃
【0143】
〔試験例1〕(ガラス転移温度(Tg)の算出)
実施例および比較例で調製した(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)のガラス転移温度(Tg;℃)を、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を構成する各モノマーのホモポリマーとしてのガラス転移温度(Tg)に基づき、FOXの式により算出した。結果を表1に示す。
【0144】
〔試験例2〕(吸水率の測定)
実施例および比較例で得られた粘着シートから軽剥離型剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層を、易接着層を有するポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡社製,製品名「コスモシャイン PET100A4360」,厚さ:100μm)の易接着層に貼合し、重剥離型剥離シート/粘着剤層/PETフィルムからなる積層体を得た。得られた積層体を150mm幅、150mm長に裁断し、測定サンプルとした。試験前の測定サンプルから重剥離型剥離シートを剥離し、試験前質量を測定した。
【0145】
上記の測定サンプルを60℃、90%RHの湿熱環境下に24時間投入した。取り出し後10分以内に、試験後の測定サンプルから重剥離型剥離シートを剥離し、試験後質量を測定した。得られた測定値から、下記式(1)により吸水率(%)を算出した。結果を表2に示す。
吸水率(%)={(試験後質量-試験前質量)/試験前質量}×100 …(1)
【0146】
〔試験例3〕(貯蔵弾性率G’の測定)
実施例および比較例で作製した粘着シートの粘着剤層を複数層積層し、厚さ3mmの積層体とした。得られた粘着剤層の積層体から、直径8mmの円柱体(高さ3mm)を打ち抜き、これをサンプルとした。
【0147】
上記サンプルについて、JIS K7244-1に準拠し、粘弾性測定装置(Anton paar社製,製品名「MCR301」)を用いてねじりせん断法により、以下の条件で貯蔵弾性率G’を測定し、-20℃における貯蔵弾性率G’(-20)、23℃における貯蔵弾性率G’(23)および50℃における貯蔵弾性率G’(50)(MPa)を取得した。結果を表2に示す。
測定周波数:1Hz
測定温度:-20℃~150℃
【0148】
〔試験例4〕(ゲル分率の測定)
実施例および比較例で作製した粘着シートを80mm×80mmのサイズに裁断して、その粘着剤層をポリエステル製メッシュ(品名:テトロンメッシュ #200)に包み、その質量を精密天秤にて秤量し、上記メッシュ単独の質量を差し引くことにより、粘着剤のみの質量を算出した。このときの質量をM1とする。
【0149】
次に、上記ポリエステル製メッシュに包まれた粘着剤を、室温下(23℃)で酢酸エチルに24時間浸漬させた。その後粘着剤を取り出し、温度23℃、相対湿度50%の環境下で、24時間風乾させ、さらに80℃のオーブン中にて12時間乾燥させた。乾燥後、その質量を精密天秤にて秤量し、上記メッシュ単独の質量を差し引くことにより、粘着剤のみの質量を算出した。このときの質量をM2とする。ゲル分率(%)は、(M2/M1)×100で表される。結果を表2に示す。
【0150】
〔試験例5〕(粘着力の測定)
実施例および比較例で得られた粘着シートから軽剥離型剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層を、易接着層を有するポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡社製,製品名「コスモシャイン PET100A4360」,厚さ:100μm)の易接着層に貼合し、重剥離型剥離シート/粘着剤層/PETフィルムの積層体を得た。得られた積層体を25mm幅、110mm長に裁断した。
【0151】
23℃、50%RHの環境下にて、上記積層体から重剥離型剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層をソーダライムガラス(日本板硝子社製)に貼付し、栗原製作所社製オートクレーブにて0.5MPa、50℃で、20分加圧した。その後、23℃、50%RHの条件下で24時間放置してから、引張試験機(オリエンテック社製,製品名「テンシロン」)を用い、剥離速度300mm/min、剥離角度180度の条件で、PETフィルムと粘着剤層との積層体を被着体から剥離したときの粘着力(N/25mm)を測定した。ここに記載した以外の条件はJIS Z0237:2009に準拠して、測定を行った。結果を表2に示す。
【0152】
〔試験例6〕(耐屈曲性の評価)
実施例および比較例で作製した粘着シートから軽剥離型剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層を、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡社製,製品名「コスモシャイン PET50A4360」,50μm)に貼付した。次いで、重剥離型剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層を、別のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡社製,製品名「コスモシャイン PET125A4360」,125μm)に貼付した。そして、栗原製作所社製オートクレーブにて0.5MPa、50℃で、20分加圧した後、23℃、50%RHの条件下で24時間放置した。このようにして得たPETフィルム(50μm)/粘着剤層(25μm)/PETフィルム(125μm)からなる積層体を、40mm幅、150mm長に裁断し、これをサンプルとした。
【0153】
得られたサンプルを、
図4に示すように、面状体無負荷U字伸縮試験機(ユアサシステム機器社製,製品名「DLDMLH-FS」)の2つの保持プレートに固定した。そして、以下の条件で繰り返し屈曲させた。繰り返し屈曲試験後、サンプルの屈曲部の外観を目視で観察し、以下の基準に基づいて耐屈曲性を評価した。結果を表2に示す。
【0154】
<試験条件>
屈曲方向:PETフィルム(125μm)が外側、他方のPETフィルム(50μm)が内側になるよう屈曲
最小屈曲径:4mmφ
ストローク:80mm
屈曲速度:60rpm
屈曲回数:100,000回または300,000回
試験温度:23℃
<耐屈曲性の評価基準>
〇:試験前と変化がない。
△:屈曲部の線がはっきりと視認でき、粘着剤の浮き剥がれがない。
×:屈曲部の線がはっきりと視認でき、粘着剤の浮き剥がれがある。
【0155】
〔試験例7〕(金属配線電極板を用いたマイグレーション防止効果の評価)
(1)金属配線電極板の作製
片面が易接着処理されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ社製,製品名「ルミラーU48」,厚さ:125μm)の易接着処理面上に、スクリーン印刷法により、銀ペースト(トーヨーケム社製,製品名「RA FS088」)を、正極の配線と負極の配線とがそれぞれ直線状、かつ平行になるように塗布した。その後、135℃で30分加熱処理を行い硬化させることで、銀配線を有する電極板(金属配線電極板)を得た。正極および負極の配線幅は10μmであり、配線間距離は10μmであり、配線厚さは0.15μmであった。
【0156】
(2)マイグレーション防止効果の評価
実施例および比較例で得られた粘着シートから軽剥離型剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層を、易接着層を有するポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡社製,製品名「コスモシャイン PET100A4360」,厚さ:100μm)の易接着層に貼合し、重剥離型剥離シート/粘着剤層/PETフィルムの積層体を得た。次いで、上記積層体から重剥離型剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層を、上記の金属配線電極板における正極の配線および負極の配線上に貼付した。そして、50℃、0.5MPaの条件にて20分間オートクレーブ処理を行った後、23℃、50%RHの条件下で24時間放置し、これを金属配線電極板サンプルとした。
【0157】
上記金属配線電極板サンプルを、105℃、100%RHの湿熱条件下に3時間静置し、その状態で電極間に5Vの電圧を印加した。その後、正極の配線および負極の配線を光学顕微鏡(倍率:10倍)で観察し、以下に示す評価基準に基づいてマイグレーション防止効果を評価した。結果を表2に示す。なお、いずれの実施例および比較例のサンプルにおいても、浮き、剥がれ、気泡の発生などの不具合は確認されなかった。
〇:正極の配線の溶解および負極の配線におけるデンドライトの形成が全く観られない。
×:正極の配線の溶解または負極の配線におけるデンドライトの形成が観られる。
【0158】
〔試験例8〕(金属配線電極板を用いた抵抗値変化の評価)
試験例7と同様に作製した金属配線電極板サンプルについて、正極の配線および負極の配線間に5Vの電圧を印加することにより、デジタルテスター(日置電機社製,製品名「ディジタルハイテスタ3802-50」)を使用して、初期の抵抗値R0(Ω)を測定した。
【0159】
次に、上記金属配線電極板サンプルを、105℃・100%RHの湿熱環境に3時間投入し、その状態で電極間に5Vの電圧を印加した。その後、23℃・50%RHの常温常湿環境で24時間静置し、上記初期の抵抗値と同様にして抵抗値(Ω)を測定した。これを耐久試験後の抵抗値Rとした。得られた測定値から、下記式により抵抗値変化率(%)を算出した。
抵抗値変化率(%)={(R-R0)/R0}×100
【0160】
そして、上記で算出した抵抗値変化率に基づいて、以下の基準により抵抗値変化を評価した。結果を表2に示す。
○:抵抗値変化率が100%未満
△:抵抗値変化率が100%以上、500%未満
×:抵抗値変化率が500%以上
【0161】
〔試験例9〕(ITO蒸着フィルムを用いた抵抗値変化の評価)
【0162】
実施例および比較例で得られた粘着シートの粘着剤層を介して、ソーダライムガラス(縦70mm×横150mm×厚さ1.0mm;日本板硝子社製)と、ITO蒸着フィルム(尾池工業社製,製品名「テトライト TCF KH150NMH2-125-U6/T2」,ITO蒸着膜側が粘着剤層と接触)とを貼り合わせた。そして、50℃、0.5MPaの条件で20分間オートクレーブ処理を行った後、23℃、50%RHの条件下で24時間放置し、ITO蒸着フィルムサンプルを得た。
【0163】
上記ITO蒸着フィルムサンプルについて、非接触抵抗測定器(ナプソン社製,製品名「EC-80」)を使用して、初期の抵抗値R0(Ω)を測定した。
【0164】
次に、上記ITO蒸着フィルムサンプルを、85℃・85%RHの湿熱環境に1000時間、または95℃の高温環境に1000時間投入した。その後、23℃・50%RHの常温常湿環境で24時間静置し、上記初期の抵抗値と同様にして、それぞれ抵抗値(Ω)を測定した。これを耐久試験後の抵抗値Rとした。得られた測定値から、試験例8と同様の式により抵抗値変化率(%)を算出した。
【0165】
そして、上記で算出した抵抗値変化率に基づいて、以下の基準により抵抗値変化を評価した。結果を表2に示す。
○:抵抗値変化率が100%未満
△:抵抗値変化率が100%以上、300%未満
×:抵抗値変化率が300%以上
【0166】
【0167】
【0168】
表2から分かるように、実施例の粘着シートは、耐屈曲性に優れるものであった。また、実施例の粘着シートによれば、マイグレーションを防止することができ、金属配線電極板およびITO蒸着フィルムの抵抗値変化を抑制することができた。