(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156362
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】電子材料用フィラー、電子材料用フィラーの製造方法、及び電子材料用フィラー含有樹脂組成物、並びに電子材料用スラリー
(51)【国際特許分類】
C01G 23/00 20060101AFI20221006BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20221006BHJP
C08K 3/24 20060101ALI20221006BHJP
C08K 9/06 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C01G23/00 C
C08L101/00
C08K3/24
C08K9/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060004
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】501402730
【氏名又は名称】株式会社アドマテックス
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】特許業務法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 友祐
(72)【発明者】
【氏名】新井 雄己
【テーマコード(参考)】
4G047
4J002
【Fターム(参考)】
4G047CA07
4G047CB09
4G047CC02
4G047CD04
4G047CD08
4J002AC061
4J002AC081
4J002BB011
4J002BB031
4J002BB121
4J002BC031
4J002BD041
4J002BD121
4J002CC031
4J002CD001
4J002CF061
4J002CH071
4J002CK011
4J002CM041
4J002DE186
4J002FB096
4J002FD016
4J002GQ00
4J002GQ01
(57)【要約】
【課題】チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウムを使用してフィラーとしての誘電率の高さを維持しつつ誘電正接の抑制を図ることのできる電子材料用フィラー、電子材料用フィラーの製造方法、及び電子材料用フィラー含有樹脂組成物、並びに電子材料用スラリーを提供する。
【解決手段】チタン酸ストロンチウムまたはチタン酸カルシウムを主成分とする基材部と、基材部の表面に存在するカップリング剤により形成される被覆部と、を備える電子材料用フィラーであって、電子材料用フィラーは、化学結合表面処理剤由来の洗浄後カーボン量(C2(%))/洗浄前表面処理剤由来のカーボン量(C1(%))の比(Rw)が0.1~1.0の範囲を満たす。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸ストロンチウムまたはチタン酸カルシウムを主成分とする基材部と、
前記基材部の表面に存在するカップリング剤により形成される被覆部と、を備える電子材料用フィラーであって、
前記電子材料用フィラーは、次の化学結合表面処理剤由来の洗浄後カーボン量測定(I)において、式(i)により示される化学結合表面処理剤由来の洗浄後カーボン量(C2(%))/洗浄前表面処理剤由来のカーボン量(C1(%))の比(Rw)が0.1~1.0の範囲を満たすことを特徴とする電子材料用フィラー。
【数1】
化学結合表面処理剤由来の洗浄後カーボン量測定(I):前記電子材料用フィラー5gにメチルエチルケトン35gを添加後、振とうして10分間静置し、遠心分離機を用いて固液分離して沈降物を得るとともに、上澄み液を廃棄し、沈降物5gにメチルエチルケトン35gを添加、振とうして10分間静置し、遠心分離機を用い固液分離して沈降物を得て乾燥する。当該乾燥後の沈降物中の炭素量を化学結合表面処理剤由来の洗浄後カーボン量として測定する。
【請求項2】
前記基材部の体積平均粒径が0.1~3μmの範囲を満たす請求項1に記載の電子材料用フィラー。
【請求項3】
前記カップリング剤が、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、またはアルミネート系カップリング剤である請求項1または2に記載の電子材料用フィラー。
【請求項4】
前記電子材料用フィラーは、JIS C 2138(2007)に準拠する1GHzにおける誘電正接が0.04以下である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の電子材料用フィラー。
【請求項5】
前記電子材料用フィラーのBET法の測定による比表面積(Fs(nm2))当たりの前記化学結合表面処理剤由来の洗浄後カーボン量より算出される表面処理剤化学結合量(反応量)は、1~9μmol/nm2の範囲を満たす請求項4に記載の電子材料用フィラー。
【請求項6】
前記電子材料用フィラーは、次の粘度測定(II)において、液状エポキシ樹脂との混練後の粘度が500Pa・s以下である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の電子材料用フィラー。
粘度測定(II):前記基材部の主成分がチタン酸ストロンチウムであるときには、前記電子材料用フィラー32.5gと液状エポキシ樹脂(1900ないし2600mPa・s)17.5gとを混合して混練し、若しくは、前記基材部の主成分がチタン酸カルシウムであるときには、前記電子材料用フィラー29.75gと液状エポキシ樹脂(1900ないし2600mPa・s)20.25gとを混合して混練し、それぞれ80℃で1時間エージングして粘度測定用ワニスとして調製し、当該粘度測定用ワニスの25℃の粘度をE型粘度計で測定する。
【請求項7】
前記電子材料用フィラーの抽出水のpHは5~9.5の範囲である請求項1ないし6のいずれか1項に記載の電子材料用フィラー。
【請求項8】
前記被覆部にケイ素化合物が含有される請求項1ないし7のいずれか1項に記載の電子材料用フィラー。
【請求項9】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の電子材料用フィラーの製造方法であって、
チタン酸ストロンチウムまたはチタン酸カルシウムを主成分とする前記基材部の表面にカップリング剤を接触させる接触工程と、
カップリング剤が接触した前記基材部を加熱する加熱工程と、を備える
ことを特徴とする電子材料用フィラーの製造方法。
【請求項10】
前記カップリング剤が、シラン系カップリング剤またはチタン系カップリング剤である請求項9に記載の電子材料用フィラーの製造方法。
【請求項11】
前記加熱工程は200℃以下の加熱である請求項9または10に記載の電子材料用フィラーの製造方法。
【請求項12】
前記接触工程と前記加熱工程の間に、ケイ素化合物を添加するケイ素化合物添加工程が含まれる請求項9ないし11のいずれか1項に記載の電子材料用フィラーの製造方法。
【請求項13】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の電子材料用フィラーを樹脂に含有してなることを特徴とする電子材料用フィラー含有樹脂組成物。
【請求項14】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の電子材料用フィラーと、
前記電子材料用フィラーを分散し、水分を実質的に含有しない液体状の分散媒と、
を有することを特徴とする電子材料用スラリー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子材料用フィラー、電子材料用フィラーの製造方法、及び電子材料用フィラー含有樹脂組成物、並びに電子材料用スラリーに関する。
【背景技術】
【0002】
無線送信に使用される通信端末の送信速度の向上、大容量化の趨勢から高周波の電波帯が使用される。しかしながら、周波数が高くなると、電波(電磁波)の単位長さあたりの電力減衰量、つまり伝送損失が大きくなる。伝送損失は、電磁波が誘電体内を伝わるときに生じる損失である誘電正接(誘電体損失)の影響を大きく受ける。そのため、通信端末、乗用車等の大容量、高速通信用の電子部品、その封止剤等に使用されるフィラー(充填材)には、誘電正接を抑制する性能が求められている。
【0003】
一般に小型電子部品またはその封止剤等に添加されるフィラーの場合、誘電率の高い素材が好ましく用いられる。しかしながら、フィラー自体の誘電率の高さにより、誘電正接が上昇してしまう。このように、フィラーとしては誘電率の高さと誘電正接の抑制との相反する性質が求められている。
【0004】
また、フィラーは樹脂に添加されるため、フィラーには添加後の樹脂の流動性、密着性等が求められる。電子部品またはその封止剤等に使用される樹脂の誘電率を高めるため、フィラー自体の樹脂への添加量も増加する。そのため、樹脂の粘度上昇に伴う流動性の低下は、作業効率を押し下げることとなり好ましくない。
【0005】
加えて、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウムの誘電率は高く、フィラーの用途として有望な化合物である(特許文献1等参照)。しかしながら、これらから溶出する塩基性の成分による樹脂の硬化不良のおそれがある。また、誘電率の高さと誘電正接の抑制を図ることについては現状解決されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2019/123916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
その後、発明者は鋭意検討を重ねた結果、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウムの良好な誘電率を示す化合物を用いながらも、当該化合物表面を適切加工することによりフィラーの誘電正接を抑制した性質を得るに至った。
【0008】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであり、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウムを使用してフィラーとしての誘電率の高さを維持しつつ誘電正接の抑制を図ることのできる電子材料用フィラー、電子材料用フィラーの製造方法、及び電子材料用フィラー含有樹脂組成物、並びに電子材料用スラリーを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、実施形態の電子材料用フィラーは、チタン酸ストロンチウムまたはチタン酸カルシウムを主成分とする基材部と、基材部の表面に存在するカップリング剤により形成される被覆部と、を備える電子材料用フィラーであって、電子材料用フィラーは、次の化学結合表面処理剤由来の洗浄後カーボン量測定(I)において、式(i)により示される化学結合表面処理剤由来の洗浄後カーボン量(C2(%))/洗浄前表面処理剤由来のカーボン量(C1(%))の比(Rw)が0.1~1.0の範囲を満たすことを特徴とする。
【0010】
【0011】
化学結合表面処理剤由来の洗浄後カーボン量測定(I)は、電子材料用フィラー5gにメチルエチルケトン35gを添加後、振とうして10分間静置し、遠心分離機を用いて固液分離して沈降物を得るとともに、上澄み液を廃棄し、沈降物5gにメチルエチルケトン35gを添加、振とうして10分間静置し、遠心分離機を用い固液分離して沈降物を得て乾燥する。当該乾燥後の沈降物中の炭素量を化学結合表面処理剤由来の洗浄後カーボン量として測定する。
【0012】
さらに、上記電子材料用フィラーにおいて、基材部の体積平均粒径が0.1~3μmの範囲を満たすこととしてもよい。
【0013】
さらに、上記電子材料用フィラーにおいて、カップリング剤が、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、またはアルミネート系カップリング剤であるとしてもよい。
【0014】
さらに、電子材料用フィラーは、JIS C 2138(2007)に準拠する1GHzにおける誘電正接が0.04以下であることとしてもよい。
【0015】
さらに、電子材料用フィラーのBET法の測定による比表面積(Fs(nm2))当たりの化学結合表面処理剤由来の洗浄後カーボン量より算出される表面処理剤化学結合量(反応量)は、1~9μmol/nm2の範囲を満たすこととしてもよい。
【0016】
さらに、電子材料用フィラーは、次の粘度測定(II)において、液状エポキシ樹脂との混練後の粘度が500Pa・s以下であることとしてもよい。
【0017】
粘度測定(II)は、基材部の主成分がチタン酸ストロンチウムであるときには、電子材料用フィラー32.5gと液状エポキシ樹脂(1900ないし2600mPa・s)17.5gとを混合して混練し、若しくは、基材部の主成分がチタン酸カルシウムであるときには、電子材料用フィラー29.75gと液状エポキシ樹脂(1900ないし2600mPa・s)20.25gとを混合して混練し、それぞれ80℃で1時間エージングして粘度測定用ワニスとして調製し、当該粘度測定用ワニスの25℃の粘度をE型粘度計で測定する。
【0018】
さらに、電子材料用フィラーの抽出水のpHは5~9.5の範囲であることとしてもよい。
【0019】
さらに、上記電子材料用フィラーにおいて、被覆部にケイ素化合物が含有されることとしてもよい。
【0020】
電子材料用フィラーの製造方法は、チタン酸ストロンチウムまたはチタン酸カルシウムを主成分とする基材部の表面にカップリング剤を接触させる接触工程と、カップリング剤が接触した基材部を加熱する加熱工程と、を備えることを特徴とする。
【0021】
さらに、上記電子材料用フィラーの製造方法において、カップリング剤が、シラン系カップリング剤またはチタン系カップリング剤であることとしてもよい。
【0022】
さらに、上記電子材料用フィラーの製造方法において、加熱工程は200℃以下の加熱であることとしてもよい。
【0023】
さらに、上記電子材料用フィラーの製造方法において、接触工程と加熱工程の間に、ケイ素化合物を添加するケイ素化合物添加工程が含まれることとしてもよい。
【0024】
電子材料用フィラー含有樹脂組成物は、電子材料用フィラーを樹脂に含有してなることを特徴とする。また、電子材料用スラリーは、電子材料用フィラーと、当該電子材料用フィラーを分散し、水分を実質的に含有しない液体状の分散媒とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明の電子材料用フィラーによると、チタン酸ストロンチウムまたはチタン酸カルシウムを主成分とする基材部と、基材部の表面に存在するカップリング剤により形成される被覆部と、を備える電子材料用フィラーであって、電子材料用フィラーは、化学結合表面処理剤由来の洗浄後カーボン量(C2(%))/洗浄前表面処理剤由来のカーボン量(C1(%))の比(Rw)が0.1~1.0の範囲を満たすため、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウムを使用してフィラーとしての誘電率の高さを維持しつつ誘電正接の抑制を図ることができる。また、本発明の電子材料用フィラーの製造方法より誘電率の高さを維持しつつ誘電正接の抑制を図るフィラーを製造することができる。さらに、電子材料用フィラー含有樹脂組成物、電子材料用スラリーとすることにより、好適な電子材料用の組成物、スラリーを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】実施形態の電子材料用フィラーの一例の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
実施形態の電子材料用フィラーは、主成分としてチタン酸ストロンチウムまたはチタン酸カルシウムの粉末を基材部とし、当該基材部の表面にカップリング剤に存在させて被覆部が形成される。電子材料用フィラーは、主に電子部品の封止材、基板材料、伝熱材料等への添加に用いられる。また、後述する電子材料用の樹脂組成物として好ましく用いられる。基材部はチタン酸ストロンチウムまたはチタン酸カルシウムと主成分とし、基材部の全体において主成分の割合は95質量%以上、好ましくは97質量%以上である。そして、主成分を除く成分は副成分である。副成分としては、SrO、CaO、BaO、Na2O、SiO2、Al3O3、Fe2O3、BaTiO3、TiO2、SrCO3、CaCO3等が挙げられる。
【0028】
フィラーを形成するため、基材部は粉末状ないし粒子状である。さらには、板状、鱗片状、ウィスカー状、棒状、フィラメント状等のいずれであってもよい。一般に誘電率の高い化合物として、チタン酸塩が知られ、特にチタン酸バリウムが広く用いられる。しかしながら、チタン酸バリウムの場合、バリウムの原子半径の大きさから誘電率が高くなるとともに、誘電正接も大きくなる。そのため、誘電正接を抑制しようとする発明の趣旨から、チタン酸バリウムは必ずしも好例ではない。そこで、誘電率が多少低下するとしても、誘電正接の制御が容易であることから、チタン酸ストロンチウムまたはチタン酸カルシウムが好例である。
【0029】
基材部の平均体積粒径は0.1~3μmの範囲を満たす。粒径はレーザー回折散乱法、動的散乱法等の公知の粒径測定の方法により測定されるメディアン径(D50)を意味する。基材部の平均体積粒径が0.1μmを下回る場合、後述するように、フィラーとして樹脂に添加して混練する際の粘度が上昇する。このため、塗布等の作業効率の低下となる。基材部の平均体積粒径が3μmを上回る場合、フィラーの粒径自体が大きく、樹脂中でのフィラー沈降による偏析が発生する。そのため、基材部の平均体積粒径は0.1~3μmの範囲、さらには0.2~2.5μmが好ましく、より好適には、0.3~2.0μmの範囲である。
【0030】
基材部の表面にはカップリング剤により形成される被覆部が存在する。すなわち、チタン酸ストロンチウムまたはチタン酸カルシウムの粉末の表面にカップリング剤による被覆部が形成される。当該構造によって、基材部の化合物に起因する高い誘電率と、被覆部の化合物に起因して誘電正接の抑制が図られる。
【0031】
カップリング剤は、主にシラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、またはアルミネート系カップリング剤から選択される。これらのカップリング剤は単独もしくは複数組み合わせて使用してもよい。シラン系カップリング剤は、ケイ素原子と炭化水素基、が結合した化合物である。後記の実施例は、メトキシシラン系のシラン系カップリング剤を用いている。チタン系カップリング剤はチタン原子の周囲に炭化水素基等が結合した化合物である。アルミネート系カップリング剤はアルミニウム原子の周囲に炭化水素基等が結合した化合物である。
【0032】
カップリング剤は、基材部のチタン酸ストロンチウムまたはチタン酸カルシウムが露出することを防ぐ。カップリング剤の被覆により基材部の表面が保護される。そこで、基材部の化合物が周囲と反応して分解、変化することが抑制される。また、カップリング剤の炭化水基等の影響から、樹脂等への添加、混練時に分散されやすくなる。
【0033】
さらに、カップリング剤とともにケイ素化合物が添加される。ケイ素化合物としては、例えば、酸化ケイ素、その他ケイ素に炭化水素基、フェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、アミノフェニル基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、アクリル基等が結合した化合物が用いられる。カップリング剤とともにケイ素化合物が配合されることにより、被覆部のカップリング剤相互の結合が強固となり、後述する実施例における物性向上に有利に作用する。さらに、ケイ素に結合する3個以上の炭化水素基の先には前出の官能基を有する化合物が含められる。ケイ素に結合する炭化水素基の先に官能基を有するケイ素化合物による表面処理は、疎水化度を高め、水分の吸着をより抑えることができ、誘電正接の低減効果がより大きくなる。
【0034】
基材部とその表面を被覆する被覆部により形成される電子材料用フィラーは、JIS C 2138(2007)に準拠する1GHzにおける誘電正接が0.04以下である特性を有する。チタン酸ストロンチウムまたはチタン酸カルシウムの基材部と、シラン系カップリング剤またはチタン系カップリング剤の被覆部とから形成される材料において、具体的な誘電正接の規定は、従前において報告がない新規の要件である。
【0035】
電子材料用フィラーの誘電正接の好ましい範囲は、0.04以下であり、さらに好ましい範囲は0.02以下である。誘電正接が減少することにより、電磁波が誘電体内を伝わるときに生じる損失も減少し、エネルギーの損失が回避される。そのため、可能な限り誘電正接は小さい値であることが望ましい。ただし、基材部の誘電体の誘電率の影響から値は「0」となることはあり得ず、また、誘電正接のみ小さくすると基材部の誘電体の良好な誘電率を減殺することとなり好ましくない。そこで、誘電正接は0.04以下として規定される。
【0036】
実施形態の電子材料用フィラーは、その基材部の表面にカップリング剤が被覆して被覆部を形成している。つまり、カップリング剤相互の架橋及びカップリング剤と基材部の化合物の結合が良好である必要がある。カップリング剤から形成される被覆部が強固に基材部に固着して誘電正接を減少させるとともに、基材部を保護する観点からも重視される。
【0037】
基材部と被覆部の固着の程度を評価する手法として、一旦完成した電子材料用フィラーを有機溶媒により洗浄し、洗浄の後、残留した成分中の炭素量が化学結合表面処理剤由来の洗浄後カーボン量として測定される。そこで、電子材料用フィラーの表面処理剤由来の洗浄前カーボン量(炭素量)と、化学結合表面処理剤由来の洗浄後カーボン量(炭素量)の比較から、電子材料用フィラーに残存しているカップリング剤の量の多少が判明する。前述のとおり、カップリング剤は炭化水素基(メトキシ基)等を有し、有機溶媒への溶解性は高い。しかしながら、基材部のチタン酸塩は親水的であり有機溶媒へは溶解しない。そのため、未反応のカップリング剤のみの溶解分離は容易である。化学結合表面処理剤とは、主に被覆部を形成するカップリング剤である。
【0038】
具体的には、洗浄前表面処理剤由来のカーボン量C1(%)と化学結合表面処理剤由来の洗浄後カーボン量C2(%)が計測され、前出の式(i)のとおり、C2/C1の比(Rw)が求められる。比(Rw)は0.1~1.0の範囲であることが好ましい。さらには、比(Rw)は0.2~1.0の範囲、より好ましくは0.4~1.0の範囲であることが好ましい。比(Rw)が高まると、カップリング剤は強固に基材部のチタン酸塩に固着していることがわかる。C2/C1の比(Rw)が0.1を下回る場合、90%のカップリング剤は流出したことを意味し、被覆部形成に役立たない。C2/C1の比(Rw)が1の場合、カップリング剤の流出は無いことを意味する。
【0039】
カーボン量の測定機器は限定されない。後述の実施例は、炭素/硫黄同時分析計を用いる。当該分析計は、炭素と硫黄分を加熱燃焼させ赤外線により定量分析する装置である。有機溶剤による洗浄に際し、電子材料用フィラー5gにメチルエチルケトン35gが添加され、振とうして10分間静置される。遠心分離機を用いて固液分離され沈降物が分取され上澄み液は廃棄される。沈降物5gにメチルエチルケトン35gが添加され、振とうして10分間静置される。遠心分離機を用い固液分離して沈降物が分取され、沈降物は乾燥される。そして、当該乾燥後の沈降物中の炭素量が炭素/硫黄同時分析計等により測定される。
【0040】
さらに、洗浄の前後によるカップリング剤の残留の相対比に加えて具体的なカップリング剤の残留量の規定を加えることが可能である。すなわち、電子材料用フィラーのBET法の測定による比表面積Fs(nm2)当たりの化学結合表面処理剤由来の洗浄後カーボン量より算出される表面処理剤化学結合量(反応量)が規定される。比表面積当たりの洗浄後炭素量としては、1~9μmol/nm2の範囲であることが好ましい。洗浄後炭素量は実際に基材部に固着しているカップリング剤の量である。
【0041】
ここで、比表面積当たりの化学結合表面処理剤由来の洗浄後カーボン量より算出される表面処理剤化学結合量(反応量)が1μmol/nm2を下回る場合、残留しているカップリング剤自体の量が少なく、被覆部に求められる性能が十分に発揮されない。比表面積当たりの化学結合表面処理剤由来の洗浄後カーボン量より算出される表面処理剤化学結合量(反応量)が9μmol/nm2を上回る場合、カップリング剤自体の量が多く、被覆部が抵抗となり、電子材料用フィラーとしての誘電率が押し下げられて好ましくない。
【0042】
実施形態の電子材料用フィラーは、主に電子部品の封止材、基板材料、伝熱材料等へ添加される。そのため、添加相手の樹脂等との混練時に粘度を上昇させると混練が円滑に進まない。また、ペースト状の混練物を吐出する際の負荷が大きく、塗工作業に支障が生じる。そのため、混練後の樹脂の粘度を上昇させすぎなくする必要がある。
【0043】
そこで、電子材料用フィラーは、液状エポキシ樹脂との混練後の粘度が500Pa・s以下である。混練後の粘度が500Pa・sを上回る場合、粘度上昇に起因して対象物への塗工性が好ましくない。下限については、特段規定されないものの、粘度が100Pa・sを下回る場合、逆に流動性過剰となり、液垂れ等の原因となるためである。
【0044】
具体的には、基材部がチタン酸ストロンチウムであるとき、当該電子材料用フィラー32.5gと液状エポキシ樹脂(1.9ないし2.6Pa・s)17.5gとは混合して混練される。若しくは、基材部がチタン酸カルシウムであるとき、当該電子材料用フィラー29.75gと液状エポキシ樹脂(1.9ないし2.6Pa・s)20.25gとは混合して混練される。そして、それぞれ80℃で1時間エージングして粘度測定用ワニスとして調製され、当該粘度測定用ワニスの25℃の粘度がE型粘度計により測定される。
【0045】
実施形態の電子材料用フィラーについて、基材部を形成するチタン酸ストロンチウム及びチタン酸カルシウムは、酸の影響を受けてストロンチウム、カルシウムが遊離しやすい。そこで、基材部の表面に被覆部が形成されて内部が保護されるとともに、被覆部が塩基性に調製される。そうすると、電子材料用フィラーの保存時、または使用時に他の酸の影響から基材部は保護されやすくなる。
【0046】
そこで、電子材料用フィラーの抽出水のpHは5~9.5の範囲、さらに好ましくは7~9.5の範囲であることが好ましい。弱酸性からアルカリ性である。抽出水のpH測定に際し、電子材料用フィラー3.5gに脱イオン水70mLが添加され、30分間振とうされる。遠心分離機により固液分離され、上澄み水がpH測定に供される。
【0047】
これまで説明してきた実施形態の電子材料用フィラーは、樹脂に添加されることによって電子材料用フィラー含有樹脂組成物に調製される。添加対象の樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、その他のオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、液晶ポリマー等の熱可塑性樹脂、フッ素樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂等、ポリフェニレンエーテル、ビスマレイミド等の熱硬化性樹脂が挙げられる。さらには、スチレンブタジエンゴム、イソプレンゴム等の弾性樹脂、シリコーン樹脂等への添加も可能である。例えば、電子部品のパッケージ用基板、層間絶縁フィルム等の樹脂基板を製造する場合には、樹脂としてエポキシ樹脂が用いられる。
【0048】
樹脂組成物に用いるエポキシ樹脂として、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノキシ型エポキシ樹脂等が挙げられる。樹脂組成物に配合される電子材料用フィラーの重量は、耐熱性、熱膨張率の観点から、多いことが好ましい。樹脂組成物の全体質量に対して、電子材料用フィラーは80質量%以上添加されることが望ましい。
【0049】
さらに、実施形態の電子材料用フィラーについては、当該電子材料用フィラーを分散し、水分を実質的に含有しない液体状の分散媒を有する電子材料用スラリーとして調製することができる。この分散媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸エチル、トルエン、N-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の溶媒が用いられる。分散媒についても、単体もしくは複数混合して使用することができる。また、適宜の分散剤を使用することも可能である。
【0050】
続いて、実施形態の電子材料用フィラーの製造方法を説明する。始めにチタン酸ストロンチウムまたはチタン酸カルシウムの粒状物が用意され、所定量秤量される。ここに、前述のシラン系カップリング剤またはチタン系カップリング剤が所定量秤量されて添加される。そこで、双方は十分に混和されて、チタン酸ストロンチウムまたはチタン酸カルシウムの粒状物からなる基材部の表面にカップリング剤が接触させられる(「接触工程」)。基材部に対するカップリング剤の割合は、重量換算で約0.03~3%の範囲である。
【0051】
基材部の表面にカップリング剤が接触することにより、カップリング剤自体相互の架橋、または基材部とカップリング剤との結合等の反応は常温下においても促進する。そこで、カップリング剤に由来する被覆部が基材部の表面に形成される。これに加えて、カップリング剤が接触した基材部が加熱される(「加熱工程」)。加熱工程が加えられることにより、カップリング剤の架橋、結合等の反応が促進する。ここで、加熱工程における加熱温度は200℃以下、好ましくは180℃以下である。200℃以上の加熱とすると、カップリング剤が熱分解するおそれがあるためである。さらに、接触工程と加熱工程の間に、酸化ケイ素等の前出のケイ素化合物が添加される(「ケイ素化合物添加工程」)。カップリング剤とともにケイ素化合物により被覆部が形成されることにより、被覆部の安定性が増す。
【実施例0052】
電子材料用フィラーについて試作例1ないし53として作製するとともに、各試作例の物性を評価した。以降、使用原料、作製方法、測定及び評価方法の順に説明する。
【0053】
[使用原材料]
基材部として、チタン酸ストロンチウム(富士チタン工業株式会社製、体積平均粒径:1.5μm)、チタン酸ストロンチウム(堺化学工業株式会社製、体積平均粒径:0.3μm)、チタン酸カルシウム(富士チタン工業株式会社製、体積平均粒径:1.5μm)、チタン酸カルシウム(堺化学工業株式会社製、体積平均粒径:0.3μm)を使用した。また、酸化ケイ素(株式会社アドマテックス製、酸化けい素:平均粒径:10nm)を使用した。
【0054】
カップリング剤のうち、シラン系カップリング剤として、信越化学工業株式会社製:KBM-573(N-フェニル-3-アミノプロピルメトキシシラン)(後出の表中、「カップリング剤A」とする。)、信越化学工業株式会社製:KBM-1003(ビニルトリメトキシシラン)(後出の表中、「カップリング剤B」とする。)、信越化学工業株式会社製:KBM-1083(オクテニルトリメトキシシラン)(後出の表中、「カップリング剤C」とする。)、信越化学工業株式会社製:KBM-3063(ヘキシルトリメトキシシラン)(後出の表中、「カップリング剤D」とする。)を使用した。
チタン系カップリング剤として、味の素ファインテクノ株式会社製:KR-TTS(後出の表中、「カップリング剤E」とする。)を使用した。
アルミネート系カップリング剤として、味の素ファインテクノ株式会社製:AL-M(後出の表中、「カップリング剤F」とする。)を使用した。
【0055】
試作例中のキャッピング処理には、信越化学工業株式会社製:SZ-31(ヘキサメチルジシラザン)を使用した。
粘度測定に供した液状エポキシ樹脂として、東都化成株式会社製:ZX-1059を使用した。
【0056】
[電子材料用フィラーの作製]
・試作例1
試作例1は、チタン酸ストロンチウム(体積平均粒径:1.5μm)の基材部のみとした。
【0057】
・試作例2ないし11
チタン酸ストロンチウム(体積平均粒径:1.5μm)を基材部とし、当該基材部の重量に対して後出の表中のカップリング剤Aの重量を変化させながら添加し混合した。
【0058】
・試作例12
試作例9と同様の配合とし、180℃、2時間の加熱を加えた。
【0059】
・試作例13,14
試作例13は、チタン酸ストロンチウム(体積平均粒径:1.5μm)を基材部とし、当該基材部の重量に対して後出の表中のカップリング剤Bを添加し混合した。
試作例14は、試作例13を調製後、ヘキサメチルジシラザンを添加した。
【0060】
・試作例15ないし19
チタン酸ストロンチウム(体積平均粒径:1.5μm)を基材部とし、当該基材部の重量に対して後出の表中のカップリング剤Cの重量を変化させながら添加し混合した。
【0061】
・試作例20ないし25
チタン酸ストロンチウム(体積平均粒径:1.5μm)を基材部とし、当該基材部の重量に対して後出の表中のカップリング剤Cの重量を変化させながら添加し混合した。添加後、180℃、2時間の加熱を加えた。
【0062】
・試作例26
試作例26は、チタン酸ストロンチウム(体積平均粒径:0.3μm)の基材部のみとした。
【0063】
・試作例27ないし29
チタン酸ストロンチウム(体積平均粒径:0.3μm)を基材部とし、当該基材部の重量に対して後出の表中のカップリング剤Aの重量を変化させながら添加し混合した。
【0064】
・試作例30
試作例30は、チタン酸カルシウム(体積平均粒径:1.5μm)の基材部のみとした。
【0065】
・試作例31ないし36
チタン酸カルシウム(体積平均粒径:1.5μm)を基材部とし、当該基材部の重量に対して後出の表中のカップリング剤Cの重量を変化させながら添加し混合した。添加後、180℃、2時間の加熱を加えた。
【0066】
・試作例37ないし41
チタン酸ストロンチウム(体積平均粒径:1.5μm)を基材部とし、当該基材部の重量に対して後出の表中のカップリング剤Aとともに酸化ケイ素も重量を変化させながら添加し混合した。
【0067】
・試作例42ないし46
チタン酸ストロンチウム(体積平均粒径:1.5μm)を基材部とし、当該基材部の重量に対して後出の表中のカップリング剤Bとともに酸化ケイ素も重量を変化させながら添加し混合した。
【0068】
・試作例47ないし50
チタン酸ストロンチウム(体積平均粒径:1.5μm)を基材部とし、当該基材部の重量に対して後出の表中のカップリング剤Bとともに酸化ケイ素の重量を変化させながら添加し混合した。添加後、180℃、2時間の加熱を加えた。
【0069】
・試作例51ないし53
チタン酸ストロンチウム(体積平均粒径:1.5μm)を基材部とし、当該基材部の重量に対して後出の表中のカップリング剤C(試作例51)、カップリング剤D(試作例52)、カップリング剤F(試作例53)を添加し混合した。添加後、180℃、2時間の加熱を加えた。
【0070】
[測定及び評価方法]
・誘電正接
各試作例の誘電正接の測定はJIS C 2138(2007)に準拠した。具体的には、キーサイト社製:ネットワークアナライザー(製品名「E5071C」)と空洞共振器摂動法を用い、1GHzにおける比誘電率、誘電正接を測定した。この測定はASTM D2520(JIS C 2565(1992))に準拠して行った。
【0071】
・化学結合表面処理剤由来のカーボン量(炭素量)測定
各試作例を5g秤量し、メチルエチルケトン35gを混合後、振とう機を用いて振とうし、10分処静した。遠心分離機を用いて固液分離後、上澄み液を廃棄した。沈降物5gにメチルエチルケトン35gを混合後、振とう機を用いて振とうし、10分処静した。遠心分離機を用いて固液分離後、上澄み液を廃棄して沈降物を得た。沈降物を乾燥し、炭素量測定用サンプルを得た。当該サンプルが洗浄後となる。洗浄前はメチルエチルケトンの添加を行わず、そのまま測定に供した。
【0072】
測定に際し、LECO社:炭素/硫黄同時分析計(製品名「CS-444LS型」)、炭素標準試料にJSS061-8を用い、炭素量を測定した。洗浄前及び洗浄後の炭素量から、比Rwを算出した。
【0073】
・BET比表面積測定
各試作例を1.0g秤量し、測定用のセルに投入、前処理後、BET比表面積値を測定した。測定機は「Macsorb HMmodel-1208」(MACSORB社製)を使用した。前処理は次の条件とした。
脱気温度 :200℃
脱気時間 :30分
冷却時間 :4分
【0074】
・粘度測定
試作例の基材部がチタン酸ストロンチウムであるときには、試作例32.5gと液状エポキシ樹脂(1900ないし2600mPa・s)17.5gとを混合して混練した。試作例の基材部がチタン酸カルシウムであるときには、試作例29.75gと前出の液状エポキシ樹脂20.25gとを混合して混練した。
【0075】
混練後の混合物をそれぞれ80℃で1時間エージングして粘度測定用ワニスとして調製し、当該粘度測定用ワニスの25℃の粘度をE型粘度計により測定した。
【0076】
・pH測定
各試作例3.5gを秤量しプラスチック製容器に入れ、70mlの脱イオン水を注入し、振とう機により30分間振とうした。遠心分離機により固液分離して上澄みの水を分取してpHを測定した。
【0077】
・総合評価
試作例についての総合評価は、各測定項目の測定結果に基づいて、最良の「A」から順に、「B」、「C」、及び「D」の4段階とした。
評価「A」:誘電正接は0.02以下である。比Rwは0.4~1.0である。比表面積当たりの化学結合表面処理剤由来の洗浄後カーボン量より算出される表面処理剤化学結合量(反応量)は2.0μmol/nm2以上である。粘度は500Pa・s以下である。抽出水のpHは9.5以下である。
評価「B」:誘電正接は0.04以下である。比Rwは0.2~1.0である。比表面積当たりの化学結合表面処理剤由来の洗浄後カーボン量より算出される表面処理剤化学結合量(反応量)は2.0μmol/nm2以上である。粘度は500Pa・s以下である。抽出水のpHは9.5以下である。
評価「C」:誘電正接は0.02以下である。比Rwは0.1~1.0である。比表面積当たりの化学結合表面処理剤由来の洗浄後カーボン量より算出される表面処理剤化学結合量(反応量)は2.0μmol/nm2以上である。粘度は500Pa・s以下である。抽出水のpHは9.5以下である。
評価「D」:評価A、B、及びCに該当しない試作例とする。
【0078】
評価「A」の試作例は最良の結果を示し、電子材料用フィラーとして最も好ましい。
評価「B」の試作例は良好な結果を示し、評価「A」に次いで電子材料用フィラーとして好ましい。
評価「C」の試作例は電子材料用フィラーとして使用可能な例である。
評価「D」の試作例は電子材料用フィラーとして好ましくない。
【0079】
[結果]
試作例1ないし53について、表1ないし5のとおり、個々の原料、配合とともに測定結果、総合評価を示す。併せて、電子顕微鏡(SEM)による観察写真を提示する。
図1は試作例6の20000倍拡大の写真である。
図2は試作例1の20000倍拡大の写真である。
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
[考察]
図1と
図2の写真同士の比較から、カップリング剤による被覆部形成を確認することができた。
【0087】
試作例1、26、30はカップリング剤を有さない例である。粘度上昇、pHの物性が悪化して好ましくない。そこで、カップリング剤は必須であると言える。加熱については任意ではあるものの、試作例12、20ないし25、31ないし36のとおり、基材部の表面の反応が進むと考えられるため、加熱を加えることが好ましい。被覆部へのケイ素化合物の配合については任意ではあるものの、試作例37ないし50のとおり、被覆部の保護作用が高まるため、ケイ素化合物を配合することが好ましい。
【0088】
試作例2ないし12はカップリング剤の量を変化させた例である。カップリング剤が少量側の試作例2,3,4では粘度が高まる。また、カップリング剤が多量側の8ないし11では誘電正接が悪化する。試作例9と12の比較から、加熱処理による改善が認められる。試作例13と14の比較から、キャッピング処理により誘電正接の低下が確認できた。
【0089】
試作例15ないし25はカップリング剤の種類を変更した例であり、添加量の関係は試作例2ないし12と同様の傾向にある。また、加熱処理による洗浄前及び洗浄後の化学結合表面処理剤由来のカーボン量(炭素量)の比においても改善が確認できた。
【0090】
試作例27ないし29は基材部の粒径を小さく変更した例である。当該粒径においても良好な結果を得ることができた。
【0091】
試作例31ないし36は基材部をチタン酸カルシウムに変更した例であり、添加量の関係は試作例2ないし12と同様の傾向にある。また、加熱処理による洗浄前及び洗浄後の化学結合表面処理剤由来のカーボン量(炭素量)の比においても改善が確認できた。
【0092】
試作例37ないし50は、被覆部にケイ素化合物として酸化ケイ素を含有する例である。洗浄前及び洗浄後の化学結合表面処理剤由来のカーボン量(炭素量)の比、誘電正接、粘度において良好な性質が確認できた。
【0093】
試作例51ないし53は、カップリング剤の種類を変更した例である。当該試作例のとおり、長鎖のシラン系カップリング剤及びアルミネート系カップリング剤を使用しても洗浄前及び洗浄後の化学結合表面処理剤由来のカーボン量(炭素量)の比、誘電正接において良好な性質が確認できた。