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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156365
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】角形鋼管柱補強構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/24 20060101AFI20221006BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
E04B1/24 F
E04B1/24 C
E04G23/02 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060008
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鉄建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】木下 尭之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 由悟
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176AA07
2E176BB29
(57)【要約】
【課題】シンプルな構造であり、且つ重量を抑制した構造にて、角形鋼管柱の性能を向上できる角形鋼管柱補強構造を提供する。
【解決手段】角形鋼管柱補強構造100では、補強する角形鋼管柱1に応じた適切な補強材サイズの選定によって、角形鋼管柱1の局部座屈は許容するが当該座屈変形を適度に拘束することで、局部座屈後の耐力低下を緩やかにし、変形性能を向上させることができる。また、角形鋼管柱1の局部座屈が発生しうる端部に補強を限定することで、工数の大幅な増加を避けることができる。また、補強材20を角形鋼管柱1の長手方向の端面から一定の間隔をあけて取り付けることで、周辺部材の設計への影響を伴うような、角形鋼管柱1の過度な耐力上昇を防ぐことができる。
【選択図】図3


【特許請求の範囲】
【請求項1】
角形鋼管柱と、
前記角形鋼管柱の側壁部の外面及び内面の少なくとも一方に対して、前記角形鋼管柱の長手方向の端面から離間する位置に設けられた板状の補強材と、を備え、
前記角形鋼管柱の径をDとし、
前記角形鋼管柱の板厚をtとし、
前記端面から前記補強材の端部までの補強長さをhとし、
前記補強材の板厚をtとした場合、(h/D ≧ 0.6)の関係、及び式(1)の関係が成り立つ、角形鋼管柱補強構造。
【数1】
【請求項2】
(h/D ≧ 0.8)の関係が成り立つ、請求項1に記載の角形鋼管柱補強構造。
【請求項3】
(t/t ≧ 0.26)の関係が成り立つ、請求項1又は2に記載の角形鋼管柱補強構造。
【請求項4】
式(2)の関係が成り立つ、請求項1~3の何れか一項に記載の角形鋼管柱補強構造。
【数2】
【請求項5】
角形鋼管柱と、
前記角形鋼管柱の側壁部の外面及び内面の少なくとも一方に対して、前記角形鋼管柱の長手方向の端面から離間する位置に設けられた板状の補強材と、を備え、
前記角形鋼管柱の径をDとし、
前記端面から前記補強材の端部までの補強長さをhとした場合、(h/D ≧ 0.6)の関係、及び(重量増加率=(補強材重量)/(角形鋼管柱重量)≦0.08)の関係が成り立つ、角形鋼管柱補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角形鋼管柱補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の耐震性能は構成部材の耐力と変形性能で評価される。角形鋼管柱では幅厚比(外径/板厚)が大きい場合、外力を受けて該柱端部に局部座屈が発生すると、早期に耐力を喪失してしまい、変形性能に乏しいことが問題となる。これに対し建築設計では角形鋼管柱の幅厚比に応じて設計外力を割り増すことで安全性の検証を行っている。一方で、角形鋼管柱の耐震性能を向上させるため、該柱の耐力あるいは変形性能を向上させる工法が提案されており、耐力向上を目的とした事例が多くを占めている。
【0003】
ここで、角形鋼管柱の耐力または変形性能を向上させるため、当該柱端部に補強材を配置するような補強構造が採用される場合がある。例えば、角形鋼管柱の耐力向上を意図した補強工法として、リブプレート補強の工法や、カバープレート補強の工法などが採用される場合がある。例えば後者の工法は、『(一財)日本建築センター;2018年版冷間成形角形鋼管設計・施工マニュアル補遺「STKR柱補強設計・施工マニュアル」」に既存建築物の耐震改修手段として設計法がまとめられている。
【0004】
また、角形鋼管柱の変形性能向上を意図した補強工法として、特許文献1に記載されたものが知られている。特許文献1には、角形鋼管柱端部の外面あるいは内面の少なくとも一方側から間隙を介して補強材を配置し、角形鋼管柱が局部座屈変形した際に補強材が当接して局部座屈変形を規制可能な角形鋼管柱の変形性能を向上させようとする構造が記載されている。あるいは、損傷した角形鋼管柱の耐力回復を意図した補修工法として、『(一財)日本建築防災協会;震災建築物等の被災度区分判定基準および復旧技術指針(2015)』などには、地震によって損傷した角形鋼管柱の局部座屈変形が発生した箇所に外側からカバープレートを当てて溶接することで耐力を元の鋼管と同等まで回復させる工法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-136929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、幅厚比の大きな角形鋼管柱は外力を受けた際、早期に耐力を喪失するため、変形性能に乏しいという問題がある。また、従来の角形鋼管柱の補強工法は、主として耐力を向上させることを目的としたものが多く、過度な耐力の向上は周辺部材の設計への影響が懸念される場合がある。補強にあたって、補強材と壁材との取り合いが問題となる場合がある。複雑な構成の工法は、工数の大幅な増加が問題となる場合がある。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、シンプルな構造であり、且つ重量を抑制した構造にて、角形鋼管柱の性能を向上できる角形鋼管柱補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る角形鋼管柱補強構造は、角形鋼管柱と、角形鋼管柱の側壁部の外面及び内面の少なくとも一方に対して、角形鋼管柱の長手方向の端面から離間する位置に設けられた板状の補強材と、を備え、角形鋼管柱の径をDとし、角形鋼管柱の板厚をtとし、端面から補強材の端部までの補強長さをhとし、補強材の板厚tとした場合、(h/D ≧ 0.6)の関係、及び式(1)の関係が成り立つ。
【数1】
【0009】
この角形鋼管柱構造では、補強する角形鋼管柱に応じた適切な補強材サイズの選定によって、角形鋼管柱の局部座屈は許容するが当該座屈変形を適度に拘束することで、局部座屈後の耐力低下を緩やかにし、変形性能を向上させることができる。また、角形鋼管柱の局部座屈が発生しうる端部に補強を限定することで、工数の大幅な増加を避けることができる。また、補強材を角形鋼管柱の長手方向の端面から一定の間隔をあけて取り付けることで、周辺部材の設計への影響を伴うような、角形鋼管柱の過度な耐力上昇を防ぐことができる。補強材は板状の構成を有しているため、角形鋼管柱の表面からの補強材の突出量が小さいため、壁材との取り合いに対する影響を低減できる。また、(h/D ≧ 0.6)の関係を満たすことで、補強長さを十分に確保することで、角形鋼管柱に求められる性能を確保することができる。また、式(1)の関係が成り立つため、重量の過度な増加を抑制できる。以上より、シンプルな構造であり、且つ重量を抑制した構造にて、角形鋼管柱の性能を向上できる。
【0010】
角形鋼管柱補強構造では、(h/D ≧ 0.8)の関係が成り立ってよい。この場合、更に角形鋼管柱に求められる性能を確保することができる。
【0011】
角形鋼管柱補強構造では、(t/t ≧ 0.26)の関係が成り立ってよい。この場合、更に角形鋼管柱に求められる性能を確保することができる。
【0012】
角形鋼管柱補強構造では、式(2)の関係が成り立ってよい。この場合、重量の過度な増加を更に抑制することができる。
【数2】
【0013】
角形鋼管柱補強構造は、角形鋼管柱と、角形鋼管柱の側壁部の外面及び内面の少なくとも一方に対して、角形鋼管柱の長手方向の端面から離間する位置に設けられた板状の補強材と、を備え、角形鋼管柱の径をDとし、端面から補強材の端部までの補強長さをhとした場合、(h/D ≧ 0.6)の関係、及び(重量増加率=(補強材重量)/(角形鋼管柱重量)≦0.08)の関係が成り立つ。
【0014】
この角形鋼管柱では、補強する角形鋼管柱に応じた適切な補強材サイズの選定によって、角形鋼管柱の局部座屈は許容するが当該座屈変形を適度に拘束することで、局部座屈後の耐力低下を緩やかにし、変形性能を向上させることができる。また、角形鋼管柱の局部座屈が発生しうる端部に補強を限定することで、工数の大幅な増加を避けることができる。また、補強材を角形鋼管柱の長手方向の端面から一定の間隔をあけて取り付けることで、周辺部材の設計への影響を伴うような、角形鋼管柱の過度な耐力上昇を防ぐことができる。補強材は板状の構成を有しているため、角形鋼管柱の表面からの補強材の突出量が小さいため、壁材との取り合いに対する影響を低減できる。また、(h/D ≧ 0.6)の関係を満たすことで、補強長さを十分に確保することで、角形鋼管柱に求められる性能を確保することができる。また、(重量増加率=(補強材重量)/(角形鋼管柱重量)≦0.08)の関係が成り立つため、重量の過度な増加を抑制できる。以上より、シンプルな構造であり、且つ重量を抑制した構造にて、角形鋼管柱の性能を向上できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、シンプルな構造であり、且つ重量を抑制した構造にて、角形鋼管柱の性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る角形鋼管柱補強構造100が採用された柱梁接合構造50を示す斜視図である。
図2】角形鋼管柱1の全体を示す図である。
図3】角形鋼管柱補強構造を示す図である。
図4】試験体を示す図である。
図5】試験諸元及び試験結果の一覧を示す表である。
図6】試験結果を示すグラフである。
図7】解析モデルの概要を示す図である。
図8】解析結果を示すグラフである。
図9】解析結果の変形態様を示す図である。
図10】解析結果を示すグラフである。
図11】角形鋼管柱補強構造の補強仕様の有効範囲を示す図である。
図12】変形例に係る角形鋼管柱補強構造の補強材を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係る角形鋼管柱補強構造100が採用された柱梁接合構造50を示す斜視図である。図2は、角形鋼管柱1の全体を示す図である。図1及び図2に示すように、柱梁接合構造50は、角形鋼管柱1と、当該角形鋼管柱1に接合された梁2と、接合コア3と、を備える。なお、図1及び図2は、角形鋼管柱補強構造の適用先の一例を示しているに過ぎず、適用先は適宜変更可能である。
【0019】
角形鋼管柱1は、四角形断面を有する鋼管によって構成される。上側の角形鋼管柱1と、下側の角形鋼管柱1とは、接合コア3を介して互いに上下方向に接続される。角形鋼管柱1は、四方の側壁部10を有する。角形鋼管柱1は、長手方向(上下方向)の下側の端面1aと、上側の端面1bと、を有する。
【0020】
四方の梁2は、接合コア3を介して角形鋼管柱1と接合される。梁2は、断面H型の形状を有しており、上下のフランジ2a,2bと、フランジ2a,2b同士を接続するウェブ部2cと、を備える。
【0021】
接合コア3は、四角形の断面を有する鋼管部3aと、鋼管部3aの上側の端面、及び下側の端面に形成されたダイヤフラム3b,3cと、を備える。上側の角形鋼管柱1の下側の端面1aは、接合コア3のダイヤフラム3bに接合される。下側の角形鋼管柱1の上側の端面1bは、接合コア3のダイヤフラム3cに接続される。また、梁2の上下のフランジ2a,2bも上下のダイヤフラム3b,3cの位置にて接合される。
【0022】
角形鋼管柱補強構造100は、上述の角形鋼管柱1と、複数の補強材20と、を備える。補強材20は、角形鋼管柱1の側壁部10の外面及び内面の少なくとも一方に対して、角形鋼管柱1の端面1a,1bから離間する位置に設けられた四角形の板状の部材である。本実施形態では、補強材20は、四角形に形成されており、側壁部10の外面に固定されている。補強材20は、角形鋼管柱1の下側の端面1a付近において、四方の側壁部10の全てに対して設けられている。補強材20は、角形鋼管柱1の上側の端面1b付近において、四方の側壁部10の全てに対して設けられている。従って、一本の角形鋼管柱1に対して、合計八つの補強材20が設けられている。
【0023】
次に、図3を参照して、角形鋼管柱補強構造100の寸法関係について説明する。なお、図3は、角形鋼管柱1の下側の構成を示してるが、上側も同趣旨の構成を有している。図3(a)に示すように、角形鋼管柱1の径をDとする。角形鋼管柱1の板厚をtとする。図3(b)に示すように、角形鋼管柱1の下側の端面1aから補強材20の端面1aから離間する側の端部20aまでの補強長さをhとする。角形鋼管柱1の下側の端面1aから補強材20の端面1aに近い側の端部20bまでの隙間をSとする。なお、端部20a,20bは、角形鋼管柱1の端面1aと平行をなす。補強材20の幅をbとする。補強材20は、幅方向において、側壁部10の中央位置に配置されている。補強材20の幅方向の両端部20c,20dは、側壁部10の両端部10a,10bから幅方向の内側に離間した位置にて、両端部10a,10bと平行をなす。補強材20の板厚をtとする。また、角形鋼管柱1の長さをLとする。具体的には、「角形鋼管柱の径D×板厚t」については、冷間ロール成形角形鋼管で「□200×6~□550×19」の範囲としてよく、冷間プレス成形角形鋼管で「□350×12~□1000×32」としてよい。また、補強材板厚の範囲は「0.26≦t/t≦1.0」としてよい。補強長さの範囲は「0.6≦h/D≦2.0」としてよい。補強材幅は「0<b/D≦0.8」としてよい。隙間は「0≦S/D≦0.27」としてよい。
【0024】
次に、角形鋼管柱補強構造100の各部位の好ましい寸法関係の設定について説明を行う。まず、図4図6を参照して、角形鋼管柱補強構造100の耐力についての試験について説明する。具体的に、角形鋼管柱補強構造100の補強効果の確認のため、補強材20の板厚t、補強長さhを変数とした実大3点曲げ試験(単調/繰返し載荷)を実施した。試験体として、図4(a)に示すものを準備した。図中の「A」で示す部分の拡大図を図4(b)に示す。角形鋼管柱1の四方に補強材20を設けた試験体を二つ準備し、各角形鋼管柱1のうち、補強材20が設けられた側の端部を支持部材32で支持した。また、各角形鋼管柱1の反対側の端部をそれぞれ支持部材31で支持した。中央の支持部材32に荷重を与えて、測定を行い、局部座屈の性状を観察した。なお、補強材20を設けない「無補強」に係る試験体も準備した。
【0025】
試験は、荷重を単調に与える「単調載荷」と、繰り返し与える「繰返し載荷」の条件にて行った。試験諸元及び試験結果の一覧を図5に示す。また、図6(a)に単調載荷における荷重変形関係の試験結果を示す。図6(b)に繰返し載荷における荷重変形関係の試験結果を示す。補強した場合の最大耐力は無補強に対して同等であり、耐力が元の角形鋼管柱と同等となることを確認した。また、「補強2.3×360」が最も補強効果が高く、変形性能は無補強に対して単調載荷で1.36倍、繰返し載荷で1.60倍となった。今回実施したケースでは補強長さの長い360mmの2体の試験体では巻込型、補強長さの短い240mmの試験体では非巻込型となり、巻込型とした方が変形性能向上に有効であることを確認した。なお、巻込型とは、角形鋼管柱の局部座屈変形を補強材が拘束しながら変形が進行するような変形態様のことである(例えば、図9(a)参照)。非巻込型とは、ダイアフラムと接合される角形鋼管柱の端面から補強材の端部までの補強長さhを超えた無補強部を起点に局部座屈が発生し、変形が進行するような変形態様のことである(例えば、図9(b)参照)。なお、後述の隙間型とは、ダイアフラムと接合される角形鋼管柱の端面から当該端面に近い側の補強材の端部までの隙間Sr内を起点として局部座屈が発生し、変形が進行するような変形態様のことである(例えば、図9(c)参照)。
【0026】
次に、図7図10を参照して、解析試験について説明する。ここでは、角形鋼管柱1の要求性能に対する工法の効果を確認するため、実大試験結果を精緻に再現できるモデルを構築(図7、及び図8(b)(c))の上、補強材20の板厚と補強長さに関するパラメトリックスタディをFEM解析にて実施した。図7は、解析モデルの概要を示す図である。図8(b)(c)は、「補強2.3×360」の条件にて実大試験と解析結果との比較を行った結果を示すグラフである。図8(b)は単調載荷の結果を示し、図8(c)は繰返し載荷の結果を示す。
【0027】
解析条件の設定内容について説明する。角形鋼管柱の条件として、「幅厚比D/t=33.3」、「使用鋼管:BCR295」、「せん断スパン比L/2D=5」という条件を設定した。補強材として、矩形でSS400の鋼材のものを採用した。また、「無次元化板厚t/t」のパラメータとして、0.13、0.26、0.36、0.50、0.67(例えば、300×9/t/t=0.5の場合、t=4.5mm)を設定した。「無次元化補強長さh/D」のパラメータとして0.4、0.6、0.8、1.0、1.2(例えば、 300×9/h/D=0.6の場合、h=240mm)を設定した。「幅b=0.5D」、「隙間S=0.2D」は固定とした。また、材料データは実大試験の材料試験結果に基づき設定した。繰返し載荷履歴として、±1δpを1ループ行ったのち、±2δp、±4δpを各2ループ行った(図8(a)参照)。
【0028】
図9は、局部座屈性状(括弧内は補強材の板厚/補強長さの大別がなされている)の解析結果の変形態様を示す図である。図10(a)は、無補強のモデルと補強のモデルとで荷重変形関係を比較した結果を示すグラフである。図10(b)は、補強板板厚・補強長さと変形性能(累積塑性変形倍率ηとの関係(D/t=33.3)を示すグラフである。なお、図10(b)において、「*1」に関し、「構造ランクI」は『鋼材倶楽部;角形鋼管設計研究会報告書1993』に記載されている柱の必要累積塑性変形倍率を示している。「*2」に関し、各部材ランク境界となる幅厚比を持つ解析モデルを作成、FEM解析により導出した参考値を示す。
【0029】
図9に示すように、無次元化板厚、補強長さの組み合わせに応じて次の三種類の局部座屈性状が観察された。また、補強長さが短い場合は図9(b)に示す非巻込型の性状となった。また、図10(b)より、補強長さがある程度長い場合は図9(a)に示す巻込型、または図9(c)に示す隙間型の性状となった。補強材の板厚が同じであれば、補強効果(累積塑性変形倍率η)は、「(a)巻込型or(c)隙間型>(b)非巻込型」という関係が成り立つ。(b)非巻込型から(a)巻込型or(c)隙間型に初めて移行する補強長さ以上に補強長さを長くしても、補強効果はほぼ頭打ちとなることが確認された。
【0030】
上述の様な試験や解析から、図11(a)に示すように、「無次元化補強長さh/D」と「無次元化板厚t/t」との関係を示すマップが得られた。図11(b)では、「幅厚比D/t=33.3」「せん断スパン比L/2D=5」「補強材幅b/D=0.5」「隙間S/D=0.2」を代表的な値として設定してマッピングを行っている。当該マップは、図10(b)に示す解析の結果に基づく性能評価と、重量増加率の評価に基づいて作成されている。なお、「重量増加率=(補強材重量)/(角形鋼管柱重量)」で定義される。補強材が複数枚設けられる場合は、複数の補強材の合計重量となる。具体的に、最も濃いグレースケールの領域E2は、性能評価が「構造ランクI(局部座屈)以上」であり、且つ、重量増加率が6%以下のものに分類される領域である。次に濃いグレースケールの領域E3は、性能評価が「構造ランクI(局部座屈)以上」であり、且つ、重量増加率が8%以下のものに分類される領域である。次に濃いグレースケールの領域E4は、性能評価が「FA⇔FB境界(参考)以上」であり、且つ、重量増加率が8%以下のものに分類される領域である。グレースケールが付されていない領域は、それらの何れの条件も満たしていない領域である。角形鋼管柱補強構造100のパラメータとしては、領域E2、E3、E4を含む領域E1内の条件に設定することが好ましい。
【0031】
上述のようなマッピングに基づいて、角形鋼管柱補強構造100の補強仕様の有効範囲を設定した。前述のマッピングの結果から、領域E1に入るためには、「無次元化補強長さh/D」は、0.6以上であることが必要である。よって、有効範囲は、(h/D ≧ 0.6)という関係が成り立つ。また、領域E1に入るためには、重量増加率は8%以下であることが必要である。従って、「重量増加率=(補強材重量)/(角形鋼管柱重量)…(*)」の関係式を各パラメータで示すと、式(3)のように示される。式(3)を、「幅厚比D/t=33.3」「せん断スパン比L/2D=5」「補強材幅b/D=0.5」「隙間S/D=0.2」を用いて整理すると共に、「重量増加率8%以下」を有効範囲とすることで、式(4)の関係が得られる。なお、角形鋼管の断面積Aの値はサイズ毎に異なるが、サイズが異なっていてもほぼ相似形であるため、D、t、Aの具体値を代入た後は同じ式、すなわち式(4)となる。これを更に整理することで、式(1)が得られる。よって、角形鋼管柱補強構造100の補強仕様として、式(1)が成り立っていることが好ましい。
【数3】

【数4】

【数5】
【0032】
また、図11(a)に示すように、角形鋼管柱補強構造100の補強仕様として、領域E2が最も好ましく、領域E3が次に好ましく、領域E4が次に好ましい。従って、領域E2又は領域E3の範囲となるように、(h/D ≧ 0.8)の関係が成り立つことが好ましい。また、領域E2又は領域E3の範囲となるように、 (t/t ≧ 0.26)の関係が成り立つことが好ましい。また、領域E2の範囲となるように、式(4)の重量増加率を6%以下とすることで、以下の式(2)が成り立つことが好ましい。
【数6】
【0033】
本実施形態に係る角形鋼管柱補強構造100の作用・効果について説明する。
【0034】
角形鋼管柱補強構造100は、角形鋼管柱1と、角形鋼管柱1の側壁部10の外面及び内面の少なくとも一方に対して、角形鋼管柱1の長手方向の端面1a,1bから離間する位置に設けられた板状の補強材20と、を備え、角形鋼管柱1の径をDとし、角形鋼管柱1の板厚をtとし、端面から補強材20の端部20aまでの補強長さをhとし、補強材20の板厚tとした場合、(h/D ≧ 0.6)の関係、及び式(1)の関係が成り立つ。
【数7】
【0035】
この角形鋼管柱補強構造100では、補強する角形鋼管柱1に応じた適切な補強材サイズの選定によって、角形鋼管柱1の局部座屈は許容するが当該座屈変形を適度に拘束することで、局部座屈後の耐力低下を緩やかにし、変形性能を向上させることができる。また、角形鋼管柱1の局部座屈が発生しうる端部に補強を限定することで、工数の大幅な増加を避けることができる。また、補強材20を角形鋼管柱1の長手方向の端面から一定の間隔をあけて取り付けることで、周辺部材の設計への影響を伴うような、角形鋼管柱1の過度な耐力上昇を防ぐことができる。補強材20は板状の構成を有しているため、角形鋼管柱1の表面からの補強材20の突出量が小さいため、壁材との取り合いに対する影響を低減できる。また、(h/D ≧ 0.6)の関係を満たすことで、補強長さを十分に確保することで、角形鋼管柱1に求められる性能を確保することができる。また、式(1)の関係が成り立つため、重量の過度な増加を抑制できる。以上より、シンプルな構造であり、且つ重量を抑制した構造にて、角形鋼管柱1の性能を向上できる。
【0036】
角形鋼管柱補強構造100では、(h/D ≧ 0.8)の関係が成り立ってよい。この場合、更に角形鋼管柱1に求められる性能を確保することができる。
【0037】
角形鋼管柱補強構造100では、(t/t ≧ 0.26)の関係が成り立ってよい。この場合、更に角形鋼管柱1に求められる性能を確保することができる。
【0038】
角形鋼管柱補強構造100では、式(2)の関係が成り立ってよい。この場合、重量の過度な増加を更に抑制することができる。
【数8】
【0039】
角形鋼管柱補強構造100は、角形鋼管柱1と、角形鋼管柱1の側壁部10の外面及び内面の少なくとも一方に対して、角形鋼管柱1の長手方向の端面から離間する位置に設けられた板状の補強材20と、を備え、角形鋼管柱1の径をDとし、端面から補強材20の端部20aまでの補強長さをhとした場合、(h/D ≧ 0.6)の関係、及び(重量増加率=(補強材重量)/(角形鋼管柱重量)≦0.08)の関係が成り立つ。
【0040】
(h/D ≧ 0.6)の関係を満たすことで、補強長さを十分に確保することで、角形鋼管柱1に求められる性能を確保することができる。また、(重量増加率=(補強材重量)/(角形鋼管柱重量)≦0.08)の関係が成り立つため、重量の過度な増加を抑制できる。以上より、シンプルな構造であり、且つ重量を抑制した構造にて、角形鋼管柱の性能を向上できる。
【0041】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。上述の実施形態で説明した寸法は一例にすぎず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更してよい。
【0042】
例えば、補強材20の形状は、上述の実施形態に限定されない。例えば、図12に示すものが採用されてよい。図12では、一つの側壁部10に設けられる補強材20が二つに分割されている。なお、分割数や分割方法は特に限定されない。
【符号の説明】
【0043】
1…角形鋼管柱、10…側壁部、20…補強材、100…角形鋼管柱補強構造。

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図12