(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156370
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】被覆マグネシア粒子、放熱材用フィラー、樹脂組成物、及び被覆マグネシア粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01F 5/02 20060101AFI20221006BHJP
C09K 5/14 20060101ALI20221006BHJP
C08K 9/02 20060101ALI20221006BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C01F5/02
C09K5/14 E
C08K9/02
C08L101/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060018
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】大島 康孝
(72)【発明者】
【氏名】水本 貴久
(72)【発明者】
【氏名】吉開 浩明
(72)【発明者】
【氏名】廣田 利輝
【テーマコード(参考)】
4G076
4J002
【Fターム(参考)】
4G076AA02
4G076AB02
4G076BA37
4G076BC08
4G076BC10
4G076BF05
4G076BH01
4G076CA02
4G076CA03
4G076CA25
4G076CA26
4G076CA40
4G076DA02
4G076DA20
4G076DA21
4J002BD121
4J002BG031
4J002BN151
4J002CC031
4J002CC181
4J002CD001
4J002CF001
4J002CG011
4J002CK011
4J002CM041
4J002CP031
4J002DE076
4J002FB076
4J002FD206
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】高熱伝導性及び耐湿性を両立できる被覆マグネシア粒子を提供すること。
【解決手段】本発明の一側面は、マグネシア粒子と、マグネシア粒子の表面を被覆する被覆層と、を備える被覆マグネシア粒子であって、被覆層が、マグネシア以外の無機酸化物を含み、被覆層の厚みが0.08~7μmであり、被覆マグネシア粒子の平均球形度が0.90以上である、被覆マグネシア粒子である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシア粒子と、前記マグネシア粒子の表面を被覆する被覆層と、を備える被覆マグネシア粒子であって、
前記被覆層が、マグネシア以外の無機酸化物を含み、
前記被覆層の厚みが0.08~7μmであり、
前記被覆マグネシア粒子の平均球形度が0.90以上である、被覆マグネシア粒子。
【請求項2】
前記被覆マグネシア粒子の平均粒子径が30~150μmである、請求項1に記載の被覆マグネシア粒子。
【請求項3】
前記無機酸化物が、シリカ及びアルミナからなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項1又は2に記載の被覆マグネシア粒子。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の被覆マグネシア粒子を含有する、放熱材用フィラー。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の被覆マグネシア粒子と、樹脂と、を含有する樹脂組成物。
【請求項6】
マグネシア粒子と、マグネシア以外の無機酸化物の粒子とを含む原料を、前記無機酸化物の粒子の融点以上に加熱された高温場に噴射することにより、前記マグネシア粒子の表面を被覆し、前記無機酸化物を含む被覆層を形成する工程を備え、
前記原料における前記マグネシア粒子の含有量が、前記マグネシア粒子及び前記無機酸化物の粒子の合計100質量部に対して、70~95質量部である、被覆マグネシア粒子の製造方法。
【請求項7】
前記無機酸化物が、シリカ及びアルミナからなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項6に記載の被覆マグネシア粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆マグネシア粒子、放熱材用フィラー、樹脂組成物、及び被覆マグネシア粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年5G高速通信下では通信量の増大に伴い、通信機器の発熱量が増加しているため、より高い放熱部材が求められている。放熱部材にはアルミナフィラーが広く用いられているが、マグネシアフィラーは、極めて高い熱伝導率を有するため、放熱材用フィラーとして有用である。
【0003】
しかしながら、マグネシアは高温高湿環境下で水マグネシアに変化し、それに伴って熱伝導率が低下するため、マグネシアフィラーは限られた環境下での使用に限定されている。そこで、マグネシアの耐湿性を向上させるべく種々検討が行われている。例えば特許文献1には、マグネシアの耐湿性を向上する目的で、表面をシリカで被覆したマグネシアを充填材として使用することを特徴とするエポキシ樹脂成形材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、表面がシリカ等で被覆されたマグネシア粒子(被覆マグネシア粒子)を用いる場合、高熱伝導性と耐湿性とを両立することは必ずしも容易でない。そこで、本発明の一側面は、高熱伝導性及び耐湿性を両立できる被覆マグネシア粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、マグネシア粒子の表面を無機酸化物で被覆した被覆マグネシア粒子において、被覆層の厚みと被覆マグネシア粒子の平均球形度とを特定の範囲にすることにより、高熱伝導性及び耐湿性を両立できることを見出した。すなわち、被覆層の厚み及び被覆マグネシア粒子の平均球形度の少なくとも一方が特定の範囲外である場合、熱伝導性及び耐湿性の少なくとも一方が過度に悪化してしまうのに対し、被覆層の厚み及び被覆マグネシア粒子の平均球形度が特定の範囲内である場合、そのような悪化を抑制できる(高熱伝導性及び耐湿性を両立できる)ことが判明した。また、本発明者らは、上記のような被覆マグネシア粒子が特定の製造方法により得られることも見出した。
【0007】
本発明の一側面は、マグネシア粒子と、マグネシア粒子の表面を被覆する被覆層と、を備える被覆マグネシア粒子であって、被覆層が、マグネシア以外の無機酸化物を含み、被覆層の厚みが0.08~7μmであり、被覆マグネシア粒子の平均球形度が0.90以上である、被覆マグネシア粒子である。被覆マグネシア粒子の平均粒子径は、30~150μmであってよい。無機酸化物は、シリカ及びアルミナからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0008】
本発明の他の一側面は、上記の被覆マグネシア粒子を含有する放熱材用フィラーである。
【0009】
本発明の他の一側面は、上記の被覆マグネシア粒子と、樹脂と、を含有する樹脂組成物である。
【0010】
本発明の他の一側面は、マグネシア粒子と、マグネシア以外の無機酸化物の粒子とを含む原料を、無機酸化物の粒子の融点以上に加熱された高温場に噴射することにより、マグネシア粒子の表面を被覆し、無機酸化物を含む被覆層を形成する工程を備え、原料におけるマグネシア粒子の含有量が、マグネシア粒子及び無機酸化物の粒子の合計100質量部に対して、70~95質量部である、被覆マグネシア粒子の製造方法である。無機酸化物が、シリカ及びアルミナからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一側面によれば、熱伝導率に優れかつ耐湿信頼性が高く、樹脂への分散が良好な被覆マグネシアを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】被覆マグネシア粒子の一実施形態を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書中、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。また、個別に記載した上限値及び下限値は任意に組み合わせ可能である。
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は下記実施形態に限定されるものではない。
【0015】
図1は、被覆マグネシア粒子の一実施形態を示す模式断面図である。
図1に示すように、一実施形態に係る被覆マグネシア粒子1は、マグネシア粒子2と、マグネシア粒子2の表面を被覆する被覆層3と、を備える。被覆層3は、マグネシア粒子2の表面の少なくとも一部を被覆していればよく、好ましくはマグネシア粒子2の表面の全部を被覆している。
【0016】
マグネシア粒子2は、マグネシア(酸化マグネシウム)を含む粒子であり、マグネシアからなる粒子であってもよい。マグネシア粒子2の平均粒子径は、例えば、25μm以上、50μm以上、又は70μm以上であってよく、150μm以下、130μm以下、又は100μm以下であってよい。
【0017】
本明細書における平均粒子径は、レーザー回折光散乱法(例えば、マイクロトラックベル株式会社社製「MT3300EXII」を使用)よる質量基準の粒度分布測定により、粒子の平均粒子径(D50)として求められる値を意味する。測定に際しては、オートサンプラーに粒子0.6gと水60mlとを混合し、前処理として、200Wの出力をかけて60秒間の分散処理(例えば、株式会社トミー精工製「超音波発生器UD-200(微量チップTP-040装着)」を使用)を行う。分散処理後の混合液に、分散剤としてヘキサメタリン酸ナトリウム1質量%溶液20mlを混合し、得られた試料を測定に用いる。水の屈折率は1.33とし、マグネシア粒子及び被覆マグネシア粒子の屈折率は1.74とする。
【0018】
マグネシア粒子2の平均球形度は、特に制限されず、例えば0.90未満であってもよい。後述する実施形態の製造方法によれば、マグネシア粒子2の平均球形度が0.90未満であっても、得られる被覆マグネシア粒子1の平均球形度は0.90以上になり得る。
【0019】
本明細書における平均球形度は、以下の方法で測定される値を意味する。
まず、粒子とエタノールとを混合して、粒子の濃度が1質量%のスラリーを調製する。続いて、BRANSON社製「SONIFIER450(破砕ホーン3/4”ソリッド型)」を用い、出力レベル8で2分間分散処理する。得られた分散スラリーを、スポイトでカーボンペーストが塗布された試料台に滴下する。試料台で、滴下されたスラリーが乾燥するまで大気中で静置した後、オスミウムコーティングを行い、測定用試料を得る。
次に、測定用試料を、走査型電子顕微鏡(例えば、日本電子株式会社製走査型電子顕微鏡「JSM-6301F型」)で撮影する。撮影は、倍率3000倍で行い、解像度2048×1536ピクセルの画像を得る。得られた画像を撮影パソコンに取り込み、画像解析装置(例えば、株式会社マウンテック製の画像解析装置「MacView Ver.4」)を使用し、簡単取り込みツールを用いて粒子を認識させ、粒子の投影面積(A)と周囲長(PM)を測定する。測定された投影面積(A)と周囲長(PM)から、下記式:
球形度=A×4π/(PM)2
に従って、粒子の球形度を算出する。
なお、測定された周囲長(PM)と同一の周囲長を有する真円(半径r、面積B)を仮定すると、測定された粒子の球形度はA/Bとなるが、PM=2πr、B=πr2であるから、B=π×(PM/2π)2となり、測定された粒子の球形度(A/B)は、上記式のとおり、A×4π/(PM)2となる。
そして、測定された周囲長(PM)から求められる上記真円の直径2rが2μm以上となるような任意の粒子200個の球形度を上記のとおり算出し、それらの球形度の算術平均値を平均球形度とする。
【0020】
被覆層3は、マグネシア以外の無機酸化物(以下、単に「無機酸化物」ともいう)の少なくとも1種を含み、当該無機酸化物の少なくとも1種からなっていてもよい。無機酸化物としては、例えば、シリカ(二酸化ケイ素)、アルミナ(酸化アルミニウム)などが挙げられる。無機酸化物は、好ましくは、シリカ及びアルミナからなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0021】
被覆層3の厚みは、0.08~7μmである。被覆層3の厚みがこの範囲内であることにより、高熱伝導性及び耐湿性を両立できる。被覆層3の厚みの下限値は、耐湿性を更に向上させる観点から、好ましくは、0.1μm以上、0.5μm以上、0.8μm以上、又は1μm以上であってもよい。被覆層3の厚みの上限値は、熱伝導性を更に向上させる観点から、好ましくは、5μm以下、4μm以下、3μm以下、又は2μm以下であってもよい。
【0022】
本明細書における被覆層の厚みは、以下の方法で測定される値を意味する。
まず、被覆マグネシア粒子をエポキシ樹脂に包埋した後、当該樹脂を研磨して被覆マグネシアの断面を露出させて、測定用試料を得る。
次に、測定用試料を、走査型電子顕微鏡(例えば、日本電子株式会社製走査型電子顕微鏡「JSM-6301F型」)で撮影する。撮影は、倍率15000倍で行い、解像度2048×1536ピクセルの画像を得る。得られた画像を撮影パソコンに取り込み、株式会社マウンテック製の画像解析装置「MacView Ver.4」を使用し、簡単取り込みツールを用いて被覆マグネシア粒子の断面を認識させ、被覆層(1箇所)の厚みを測定する。そして、任意の被覆マグネシア粒子200個の被覆層の厚みを上記のとおり測定し、それらの厚みの算術平均値を被覆層の厚み(平均厚み)とする。
【0023】
被覆マグネシア粒子1の平均粒子径は、熱伝導性を更に高め、樹脂への分散性も向上させる観点から、好ましくは30~150μmである。被覆マグネシア粒子1の平均粒子径の下限値は、熱伝導性を更に高める観点から、好ましくは、50μm以上、70μm以上、又は80μm以上であってもよく、140μm以下、120μm、又は100μm以下であってもよい。
【0024】
被覆マグネシア粒子1の平均球形度は、0.90以上である。被覆マグネシア粒子1の平均球形度がこの範囲内であることにより、高熱伝導性及び耐湿性を両立できると共に、被覆マグネシア粒子1の樹脂への分散性も向上させることができる。被覆マグネシア粒子1の平均球形度は、上記の効果が更に好適に得られる観点から、好ましくは、0.91以上、0.93以上、又は0.95以上であってもよい。
【0025】
続いて、以上説明した被覆マグネシア粒子1の製造方法について説明する。本発明の一実施形態は、マグネシア粒子2と、マグネシア以外の無機酸化物の粒子とを含む原料を、無機酸化物の粒子の融点以上に加熱された高温場に噴射することにより、マグネシア粒子2の表面を被覆し、無機酸化物を含む被覆層3を形成する工程(以下「被覆・球状化工程」ともいう)を備える、被覆マグネシア粒子1の製造方法である。
【0026】
被覆・球状化工程では、まず、原料を準備する。原料におけるマグネシア粒子2は、上述した被覆マグネシア粒子1におけるマグネシア粒子2と同様である。原料におけるマグネシア平均粒子径が大きいほど、得られる被覆マグネシア粒子1の平均粒子径が大きくなり、原料のマグネシアの平均粒子径が小さいほど、被覆マグネシア粒子1の平均粒子径が小さくなる。
【0027】
マグネシア以外の無機酸化物の粒子(以下、単に「無機酸化物粒子」ともいう)は、マグネシア以外の無機酸化物の少なくとも1種を含む粒子であり、当該無機酸化物の少なくとも1種からなる粒子であってもよい。無機酸化物の具体例は、上述した被覆層3における無機酸化物として説明したものと同様である。無機酸化物粒子の平均粒子径は、例えば、0.1μm以上であってよく、3.0μm又は0.5μm以下であってよい。
【0028】
原料は、マグネシア粒子2及び無機酸化物粒子のみを含有してもよく、マグネシア粒子2及び無機酸化物粒子に加えて、その他の成分を更に含有してもよい。その他の成分としては、例えば、マグネシア粒子2及び無機酸化物粒子を分散させる分散媒が挙げられる。分散媒としては、例えば水が挙げられ、発熱量の調整を目的として、メタノール、エタノール等の有機系分散媒を用いることもできる。これらの分散媒は、1種単独で使用してよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0029】
上述した特定の被覆層3の厚みと平均球形度を有する被覆マグネシア粒子1を得るために、原料におけるマグネシア粒子2の含有量は、マグネシア粒子2及び無機酸化物粒子の合計100質量部に対して、70~95質量部である。マグネシア粒子2の含有量の下限値は、マグネシア粒子2及び無機酸化物粒子の合計100質量部に対して、80質量部以上又は85質量部以上であってもよい。マグネシア粒子2の含有量の上限値は、マグネシア粒子2及び無機酸化物粒子の合計100質量部に対して、93質量部以下であってもよい。
【0030】
被覆・球状化工程では、続いて、原料を高温場に噴射することにより、マグネシア粒子2の表面に無機酸化物粒子を溶融固化させる。これにより、マグネシア粒子2の表面に被覆層3が形成され、被覆マグネシア粒子1が得られる。無機酸化物粒子の溶融固化により被覆層3を形成することにより、球形度の高い被覆マグネシア粒子1が得られる。原料が分散媒を含有するスラリー状の原料であると、スラリー状の原料を噴射する場合、分散媒の表面張力により、被覆マグネシア粒子1の球形度が向上しやすくなる。
【0031】
高温場は、例えば、燃焼炉等の中に形成された高温火炎であってよい。高温火炎は、可燃ガスと助燃ガスとによって形成することができる。可燃性ガスとしては、例えば、プロパン、ブタン、プロピレン、アセチレン、水素等の一種又は二種以上を用いることができる。助燃ガスとしては、例えば、酸素ガス等の酸素含有ガスを用いることができる。ただし、可燃性ガス及び助燃ガスは、これらに限定されるものではない。
【0032】
高温場の温度は、原料における無機酸化物粒子の融点以上の温度であればよい。高温場の温度は、例えば、1600℃以上、1800℃以上、2000℃以上、又は2100℃以上であってよく、2300℃以下であってよい。
【0033】
原料の噴射(噴霧)は、例えば、二流体ノズルを用いて行うことができる。原料の噴射時には分散気体を使用してよい。すなわち、原料(又は原料を含むスラリー)を分散気体に分散させながら噴射してよい。これにより、被覆マグネシア粒子1の球形度が向上しやすくなる。分散気体としては、空気、酸素等の支燃性ガス、窒素、アルゴン等の不活性ガスを使用することができ、ガスの発熱量調整を目的として燃焼性ガスを混合して使用することもできる。
【0034】
以上説明した被覆マグネシア粒子1は、高熱伝導性及び耐湿性を両立できることから、放熱材用フィラーとして好適に用いられる。すなわち、本発明の他の一実施形態は、上記の被覆マグネシア粒子1を含有する放熱材用フィラーである。
【0035】
放熱材用フィラーは、被覆マグネシア粒子1のみを含有してもよく、被覆マグネシア粒子1に加えて、その他の粒子を更に含有してもよい。その他の粒子としては、例えば、アルミナ粒子、シリカ粒子、窒化ホウ素粒子、窒化ケイ素粒子などが挙げられる。被覆マグネシア粒子1の含有量は、放熱材用フィラー全量を基準として、例えば、10体積%以上、30体積%以上、又は50体積%以上であってよく、90体積%以下、80体積%以下、又は70体積%以下であってよい。
【0036】
被覆マグネシア粒子1が放熱材用フィラーとして用いられる場合、例えば、樹脂と混合された状態で用いられる。すなわち、本発明の他の一実施形態は、上記の被覆マグネシア粒子1と、樹脂とを含有する樹脂組成物である。樹脂組成物は、上述したその他の粒子を更に含有してもよい。
【0037】
樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS(アクリロニトリル・ブタジエンゴム・スチレン)樹脂、AAS(アクリロニトリル・アクリルゴム・スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエンゴム・スチレン)樹脂などが挙げられる。
【0038】
樹脂の含有量は、樹脂組成物全量を基準として、5体積%以上、10体積%以上、又は20体積%以上であってよく、50体積%以下、40体積%以下、又は30体積%以下であってよい。被覆マグネシア粒子1の含有量は、樹脂組成物全量を基準として、20体積%以上、30体積%以上、又は40体積%以上であってよく、80体積%以下、70体積%以下、又は60体積%以下であってよい。
【実施例0039】
以下、本発明の内容を実施例及び比較例を用いてより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
<実施例1>
[被覆マグネシア粒子の作製]
マグネシア粒子(宇部マテリアルズ株式会社製「RF-70C」、平均粒子径:80μm)と、アルミナ粒子(デンカ株式会社製「ASFP-20」、平均粒子径:0.8μm)とを混合した後、水を更に混合してスラリー状の原料を調製した。原料におけるマグネシア粒子:アルミナ粒子:水の質量比は9:1:90とした。
【0041】
内炎及び外炎が形成可能な二重管構造のLPG-酸素混合型バーナーが頂部に設置された燃焼炉と、燃焼炉の下部に直結された捕集系ラインと、捕集系ラインに接続されたブロワと、を備える装置を用意した。
【0042】
上記装置の燃焼炉内に2100℃の高温火炎を形成し、バーナーの中心部から、上記スラリー及びキャリア空気を同伴させ噴射した。火炎の形成は、二重管構造のバーナーの出口に数十個の細孔を設け、細孔からLPGと酸素との混合ガスを噴射することによって行った。これにより、アルミナで被覆された被覆マグネシア粒子を得た。
【0043】
[平均球形度の測定]
得られた被覆マグネシア粒子の平均球形度を以下の方法で測定した。
まず、被覆マグネシア粒子とエタノールとを混合して、被覆マグネシア粒子の濃度が1質量%のスラリーを調製した。続いて、BRANSON社製「SONIFIER450(破砕ホーン3/4”ソリッド型)」を用い、出力レベル8で2分間分散処理した。得られた分散スラリーを、スポイトでカーボンペーストが塗布された試料台に滴下した。試料台で、滴下されたスラリーが乾燥するまで大気中で静置した後、オスミウムコーティングを行い、測定用試料を得た。
次に、測定用試料を、日本電子株式会社製走査型電子顕微鏡「JSM-6301F型」で撮影した。撮影は、倍率3000倍で行い、解像度2048×1536ピクセルの画像を得た。得られた画像を撮影パソコンに取り込み、株式会社マウンテック製の画像解析装置「MacView Ver.4」を使用し、簡単取り込みツールを用いて被覆マグネシア粒子を認識させ、被覆マグネシア粒子の投影面積(A)と周囲長(PM)を測定した。測定された投影面積(A)と周囲長(PM)から、下記式:
球形度=A×4π/(PM)2
に従って、被覆マグネシア粒子の球形度を算出した。そして、測定された周囲長(PM)からと同一の周囲長を有する真円を仮定したときに、当該真円の直径が2μm以上となるような任意の被覆マグネシア粒子200個の球形度を上記のとおり算出し、それらの球形度の算術平均値を平均球形度とした。
【0044】
[平均粒子径の測定]
マイクロトラックベル株式会社社製「MT3300EXII」を用いたレーザー回折光散乱法による質量基準の粒度分布測定により、被覆マグネシア粒子の平均粒子径(D50)として求めた。測定に際しては、オートサンプラーに被覆マグネシア粒子0.6gと、水60mlとを混合し、前処理として、株式会社トミー精工製「超音波発生器UD-200(微量チップTP-040装着)」を用いて、200Wの出力をかけて60秒間の分散処理を行った。分散処理後の混合液に、分散剤としてヘキサメタリン酸ナトリウム1質量%溶液20mlを混合し、得られた試料を測定に用いた。水の屈折率は1.33とし、被覆マグネシア粒子(後述する比較例3ではマグネシア粒子)の屈折率は1.74とした。
【0045】
[被覆層の厚みの測定]
被覆マグネシア粒子における被覆層の厚みを以下の方法で測定した。
まず、被覆マグネシア粒子をエポキシ樹脂に包埋した後、当該樹脂を研磨して被覆マグネシアの断面を露出させて、測定用試料を得た。
次に、測定用試料を、日本電子株式会社製走査型電子顕微鏡「JSM-6301F型」で撮影した。撮影は、倍率15000倍で行い、解像度2048×1536ピクセルの画像を得た。得られた画像を撮影パソコンに取り込み、株式会社マウンテック製の画像解析装置「MacView Ver.4」を使用し、簡単取り込みツールを用いて被覆マグネシア粒子の断面を認識させ、被覆層(1箇所)の厚みを測定した。そして、任意の被覆マグネシア粒子200個の被覆層の厚みを上記のとおり測定し、それらの厚みの算術平均値を被覆層の厚み(平均厚み)とした。
【0046】
[放熱シートの作製]
シリコーン樹脂(信越化学株式会社製「SE1885A」)10体積%と、シリコーン樹脂(信越化学株式会社製「SE1885B」)10体積%と、上記で得られた被覆マグネシア粒子40体積%と、アルミナ粒子(デンカ株式会社製「DAW-07」)30体積%と、アルミナ粒子(デンカ株式会社製「ASFP-40」)10体積%とを混合した。得られた混合物をシートコータにより厚さ3mmの放熱シートを作製した。
【0047】
[熱伝導率及び耐湿性の評価]
株式会社日立テクノロジーサービス社製の樹脂材料熱抵抗測定機「TRM-046RHHT」を用いて、作製した放熱シートの熱伝導率を測定した。測定は、荷重一定モード、設定荷重2Nの条件で実施した。
続いて、エスペック社製HAST試験機にて、不飽和モード、130℃-85RH%の環境下に、熱伝導率を測定した上記放熱シートを168時間静置することにより、耐湿性試験に供した。静置後の放熱シートの熱伝導率を上記と同様に再度測定した。
【0048】
<実施例2~3、比較例1~2>
原料におけるマグネシア粒子とアルミナ粒子との混合割合を表1に記載のとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして、被覆マグネシア粒子を作製し、各測定及び評価を実施した。
【0049】
<実施例4>
アルミナ粒子に代えて、シリカ粒子(デンカ株式会社製「SFP-30M」)を用いた以外は、実施例1と同様にして、被覆マグネシア粒子を作製し、各測定及び評価を実施した。
【0050】
<比較例3>
被覆層を備えていないマグネシア粒子(宇部マテリアルズ株式会社製「RF-70C」)について、実施例1と同様に各測定及び評価を実施した。
【0051】
実施例1~4及び比較例1~2における原料と、粒子(実施例1~4及び比較例1~2では被覆マグネシア粒子、比較例3ではマグネシア粒子)の特性と、実施例1~4及び比較例1~3における耐湿性試験前後の熱伝導率とを表1に示す。
【表1】
【0052】
表1に示されるように、実施例1~4の被覆マグネシア粒子では、比較例1~2の被覆マグネシア粒子及び比較例3のマグネシア粒子に比べて、熱伝導率と耐湿性とを両立できる(すなわち、耐湿性試験前の熱伝導率及び耐湿性試験後の熱伝導率の少なくともどちらか一方が過度に悪化しない)ことが分かった。