(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156382
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】リアクトル
(51)【国際特許分類】
H01F 37/00 20060101AFI20221006BHJP
H01F 27/24 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
H01F37/00 M
H01F37/00 R
H01F37/00 A
H01F27/24 K
H01F27/24 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060037
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】濱田 勉
(57)【要約】 (修正有)
【課題】偏流状態が生じた場合であっても、リップル電流の上昇を抑制することができるリアクトルを提供する。
【解決手段】磁気結合型リアクトル10は、磁性体から成る環状コア1と、環状コアに装着されて磁気結合するとともに、互いに逆向きの磁束を発生させる2個のコイル2a、2bと、を備える。環状コア1は、5000A/m時の微分透磁率が最大微分透磁率の30%以上であり、2つのコイルにかかる電流の大きさが異なる偏流状態における磁気飽和及びリップル電流増加を抑える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体から成る環状コアと、
前記環状コアに装着されて磁気結合するとともに、互いに逆向きの磁束を発生させる2個のコイルと、
を備え、
前記環状コアは、5000A/m時の微分透磁率が最大微分透磁率の30%以上であること、
を特徴とするリアクトル。
【請求項2】
前記環状コアの前記最大微分透磁率は、50以上200以下であること、
を特徴とする請求項1に記載のリアクトル。
【請求項3】
前記環状コアは、複数のコア部材を接合して環状形状となり、
前記コア部材は、接合材によって直接接合されていること、
を特徴とする請求項1又は2に記載のリアクトル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気結合型のリアクトルに関する。
【背景技術】
【0002】
リアクトルは、ハイブリッド自動車や電気自動車、燃料電池車の駆動システム等をはじめ、種々の用途で使用されている。リアクトルは、例えば昇圧コンバータ回路等のようなインターリーブ形式のスイッチング回路に組み込まれる。このスイッチング回路に組み込まれるリアクトルとして、2つのコイルを磁気結合させた磁気結合型のリアクトルが知られている。
【0003】
磁気結合型のリアクトルは、例えば、環状コアと、環状コアに装着された2つのコイルを備える。各コイルの端部は、外部電源の端子と接続されている。この電源から通電されることにより、各コイルは、巻き数の応じた磁束を発生させる。
【0004】
磁気結合型のリアクトルにおいて、各コイルは、互いに逆向きの磁束を発生させ、他方のコイルが発生させた磁束と打ち消し合う。このように、磁気結合型のリアクトルでは、各コイルが発生させた磁束を打ち消し合うことで、環状コアの磁気飽和を抑制し、リップル電流の増加を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような磁気結合型のリアクトルにおいては、2つのコイルにかかる電流は同等になるように設定してある。しかし、本発明者は、鋭意研究の結果、2つのコイルにかかる電流が同等になるように設定されている場合であっても、磁気結合型のリアクトルにおいて、2つのコイルにかかる電流の大きさが異なる偏流状態が生じるという知見を得た。
【0007】
本発明者は、更に研究を重ねていくと、コイルの設計精度上の誤差における2つのコイルの抵抗値のバラつきや、各コイルに接続する外部電源の端子の抵抗値のバラつきによって、偏流状態が生じることを見出した。
【0008】
この偏流状態が生じると、各コイルから発生する磁束の量に偏りが生じ、その結果、磁束の打ち消し合いに偏りが生じ、環状コアが磁気飽和する虞がある。環状コアが磁気飽和すると、リップル電流が増加する。そして、リップル電流が増加すると、リアクトルの損失の増加やリアクトルが組み込まれた回路の動作の不具合を招く虞がある。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、偏流状態が生じた場合であっても、リップル電流の上昇を抑制することができるリアクトルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のリアクトルは、磁性体から成る環状コアと、前記環状コアに装着されて磁気結合するとともに、互いに逆向きの磁束を発生させる2個のコイルと、を備え、前記環状コアは、5000A/m時の微分透磁率が最大微分透磁率の30%以上であること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、偏流状態が生じた場合であっても、リップル電流の上昇を抑制することができるリアクトルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態におけるリアクトルの構成を示す上面図である。
【
図2】最大微分透磁率に対する5000A/m時の微分透磁率の割合と合成リップル電流の関係を示すグラフである。
【
図3】最大微分透磁率とリップル電流の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態に係るリアクトルについて、図面を参照しつつ説明する。
図1は、リアクトルの全体構成を示す平面図である。リアクトル10は、2つのコイル2a、2bを磁気結合させるとともに、各コイル2a、2bが互いに逆向きの磁束を発生させる磁気結合型のリアクトルである。リアクトル10は、
図1に示すように、環状コア1、コイル2を有する。
【0014】
環状コア1は、圧粉磁心、フェライトコア、珪素鋼板、積層鋼板又はメタルコンポジットコア等の磁性体である。圧粉磁心は、磁性粉末をプレス成型した圧粉成形体を焼鈍して成る。磁性粉末は、鉄を主成分とし、純鉄粉、鉄を主成分とするパーマロイ(Fe-Ni合金)、Si含有鉄合金(Fe-Si合金)、センダスト合金(Fe-Si-Al合金)、アモルファス合金、ナノ結晶合金粉末、又はこれら2種以上の粉末の混合粉などが挙げられる。メタルコンポジットコアは、磁性粉末と樹脂とが混練され成型されて成るコアである。
【0015】
環状コア1は、例えば、一対のU字型形状のコア部材で構成されている。U字型形状のコア部材は、一対の脚部と、この一対の脚部を繋ぐヨーク部から成る。コイル2は2つ設けられており、この一対の脚部には、それぞれコイル2a、2bが装着される。
【0016】
環状コア1は、この一対のU字型形状のコア部材の脚部同士を突き合わせて、接着剤等の接合材で脚部同士を直接接合することで、環状形状となる。換言すれば、U字型形状のコア部材の脚部間には、接合材が介在しているのみで、磁気的ギャップ材は介在していない。
【0017】
環状コア1は、5000A/m時の微分透磁率が最大微分透磁率の30%以上である。微分透磁率とは、磁束密度Bと磁界Hの関係を表す磁化曲線(BH曲線又はヒステリシス曲線ともいう。)において、磁化曲線の接線の傾きのことを指す。そして、この磁化曲線の接線の傾きが最大となる微分透磁率が最大微分透磁率である。30%以上にすることで、コイル2a、2bにかかる電流の大きさが異なる偏流状態においても、環状コア1の磁気飽和を抑制し、リップル電流の上昇を抑制できる。さらに、環状コア1は、5000A/m時の微分透磁率が最大微分透磁率の39%以上であることがより好ましい。39%以上とすることで、偏流状態におけるリップル電流の上昇をより抑制できる。更に好ましくは、5000A/m時の微分透磁率が最大微分透磁率の51%以上である。51%以上とすることで、偏流状態におけるリップル電流の上昇を更に抑制できる。
【0018】
また、環状コア1の最大微分透磁率は、50以上200以下であることが好ましい。最大微分透磁率が50未満であると、リップル電流の上昇の抑制効果を得難い。一方、最大微分透磁率を上げていくと、リップル電流は低減されていくが、最大微分透磁率が200を超えると、リップル電流の低減率が激減し、リップル電流の低減効果が得難い。
【0019】
環状コア1の最大微分透磁率の調整は、環状コア1を構成する磁性粉末の粒径や環状コア1の密度を変更することでなし得る。例えば、磁性粉末の粒径を大きくすることで、環状コア1の最大微分透磁率を上げることがきる。また、圧粉磁心などのプレス成型される場合には、プレス圧を高めて、環状コア1の密度を上げることで、最大微分透磁率を上げることができる。
【0020】
最大微分透磁率に対する5000A/m時の微分透磁率は、磁性粉末の表面を絶縁材から成る絶縁層によって被覆させ、その絶縁材の添加量で調整可能である。絶縁材の添加量を増加させることで、磁性粉末間の距離が広がり微小ギャップが形成されることにより5000A/m時の微分透磁率は磁気飽和(落ち込み)を抑制できる一方で、最大微分透磁率は低下する傾向にある。そのため、最大微分透磁率をμaとし、5000A/m時の微分透磁率をμBとした場合において、μB/μaを大きくすることができる。よって、絶縁材の添加量を調整することで、5000A/m時の微分透磁率を最大微分透磁率の30%以上にすることが可能である。絶縁材としては、シランカップリング剤、シリコーンオリゴマー、シリコーンレジンなどを上げることができる。
【0021】
シランカップリング剤としては、アミノシラン系、エポキシシラン系、イソシアヌレート系のシランカップリング剤を使用することができ、特に、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、トリス-(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートが好ましい。
【0022】
シリコーンオリゴマーとしては、アルコキシシリル基を有し、反応性官能基を有さないメチル系、メチルフェニル系のものや、アルコキシシリル基及び反応性官能基を有するエポキシ系、エポキシメチル系、メルカプト系、メルカプトメチル系、アクリルメチル系、メタクリルメチル系、ビニルフェニル系のもの、又はアルコキシシリル基ではなく、反応性官能基を有する脂環式エポキシ系のもの等を用いることができる。特に、メチル系またはメチルフェニル系のシリコーンオリゴマーを用いることで厚く硬い絶縁層を形成することができる。また、絶縁層の形成のしやすさを考慮して、粘度の比較的低いメチル系、メチルフェニル系を用いてもよい。
【0023】
シリコーンレジンは、シロキサン結合(Si-O―Si)を主骨格に持つ樹脂である。シリコーンレジンを用いることで可撓性に優れた被膜を形成することができる。シリコーンレジンは、メチル系、メチルフェニル系、プロピルフェニル系、エポキシ樹脂変性系、アルキッド樹脂変性系、ポリエステル樹脂変性系、ゴム系等を用いることができる。この中でも特に、メチルフェニル系のシリコーンレジンを用いた場合、加熱減量が少なく、耐熱性に優れた絶縁層を形成することができる。
【0024】
コイル2a、2bは、エナメルなどで絶縁被覆した1本の平角状の導電性部材により構成される。コイル2a、2bは、導電性部材を巻軸に沿って1ターンごとに巻位置をずらしながら螺旋状に導電性部材を巻回することで形成される。巻回態様は、導電性部材の幅広面がコイル2の巻軸に沿って拡がるように導電性部材が巻回されて成る螺旋状のフラットワイズ巻きであっても、導電性部材の幅広面がコイル2a、2bの巻軸との直交方向に拡がる螺旋状のエッジワイズ巻きでも何れでもよい。なお、コイル2a、2bを構成する導電性部材は平角状のものに限らず、丸線等公知のものを用いることができる。
【0025】
コイル2a、2bを構成する導電性部材の端部は、外部電源の端子と電気的に接続している。外部電源から電力が供給され通電すると、各コイル2a、2bは互いに逆向きの磁束を発生させる。即ち、各コイル2a、2bが発生させた磁束は、打ち消し合う方向に磁路となる環状コア1内に流れる。
【0026】
また、リアクトル10は、環状コア1とコイル2を絶縁するために、樹脂部材(不図示)を備えている。樹脂部材の材料としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ウレタン樹脂、BMC(Bulk Molding Compound)、PPS(Polyphenylene Sulfide)、PBT(Polybutylene Terephthalate)等が挙げられる。
【0027】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0028】
まず、実施例1の圧粉磁心を作製した。磁性粉末として純鉄粉末を用意した。この純鉄粉末に対して、1.0wt%のシリコーンバインダを添加して、大気雰囲気中において180℃で2時間乾燥させた。潤滑剤を0.2wt%添加した純鉄粉末を金型に充填し、プレス成形を行い、U字型形状の圧粉成形体を一対得た。プレス成形の圧力は、1000MPaで行った。最後に、圧粉成形体を窒素雰囲気において625℃で30分間熱処理を行い、実施例1の圧粉磁心を得た。
【0029】
コイル2a、2bを構成する導電性部材として、厚み1.0mm、幅5.0mmの平角線を用意した。この平角線を、コイル2a、2bともに30ターン巻回し、
図1に示すようなリアクトルを作製した。この時、各コイル2a、2bによって発生させる磁束の流れが、逆向きになるようにした。そして、電流均等時及び電流偏流時のリップル電流値をシミュレーション解析した。電流均等時においては、各コイル2a、2bにかける電流は、100Aと同等にした。一方、電流偏流時においては、コイル2aは150A、コイル2bは100Aの電流をかけた。なお、コイルの入力時の電圧を150V、コイルで昇圧後の出力電圧を700V、動作周波数20kHzという条件は、電流均等時及び電流偏流時共通である。
【0030】
実施例2乃至5及び比較例1乃至3については、実施例1の圧粉磁心の最大微分透磁率及び5000A/m時の微分透磁率をシミュレーションによって変更したものである。具体的には、純鉄粉末の粒径の大きさ、プレス成形時の圧力を変えて圧粉磁心の密度を変えることで、最大微分透磁率が表1及び表2の値になるように変更した。また、シリコーンバインダの添加量を変えることで、5000A/m時の微分透磁率が表1及び表2の値になるように変更した。
【0031】
実施例2乃至5及び比較例1乃至3の圧粉磁心に、実施例1と同様にコイルを巻回し、
図1に示すようなリアクトルをシミュレーション上作製した。そして、実施例1と同様の条件において、電流均等時及び電流偏流時のリップル電流値の改正を行った。なお、実施例2乃至5及び比較例1乃至3において、電流均等時におけるリップル電流の解析は、実施例2、3及び比較例1、3のみ行った。
【0032】
電流均等時の結果を表1に示す。また、電流偏流時の結果を表2及び
図2に示す。
図2は、最大微分透磁率に対する5000A/m時の微分透磁率の割合と合成リップル電流の関係を示すグラフである。なお、表1及び2におけるI-1のリップル電流はコイル2aに流れる電流シミュレーション波形の最大値から最小値を引いた値である。I-2のリップル電流はコイル2bに流れる電流シミュレーション波形の最大値から最小値を引いた値である。合成リップ電流はI-1、I-2のリップル電流を合成した電流シミュレーション波形の最大値から最小値を引いた値である。また、B/Aとは、最大微分透磁率に対する5000A/m時の微分透磁率の割合を示す。
【0033】
【0034】
【0035】
表1に示すように、電流均等時のリップル電流は、実施例1乃至3及び比較例1、2それぞれにおけるI-1及びI-2のリップル電流は同等であり、合成リップル電流についても何れも70以下に収まっていることが確認された。
【0036】
一方、電流均等時と電流偏流時を比較すると、電流偏流時のI-2のリップル電流値が電流均等時よりも上昇し、I-1のリップル電流値とI-2のリップル電流値に差異が生じていることが確認された。その結果、電流偏流時においては、電流均等時よりも合成リップル電流が上昇していることが確認された。これは推測ではあるが、I-1のリップル電流とI-2のリップル電流に差異が生じたことで、各コイルから発生した磁束の量が異なり、磁束の打ち消し合いに偏りが生じたことで、環状コアが磁気飽和を起こしたことに起因すると思われる。
【0037】
特に、表1と表2を比較すると、5000A/m時の微分透磁率の値が最大微分透磁率よりも30%よりも小さい比較例1又は3においては、電流偏流時におけるI-2のリップル電流が電流均等時よりも40以上も上昇し、I-1のリップル電流との差異も48以上となっている。電流偏流時における比較例3にいたっては、I-1のリップル電流とI-2のリップル電流が70近くも離れ、合成リップル電流も126を超え、電流均等時の合成リップル電流の倍近くと大きく上昇している
【0038】
一方で、表2及び
図2に示すように、最大微分透磁率に対する5000A/m時の微分透磁率の値が大きくなるにつれて、I-2のリップル電流の上昇を抑制できることが確認された。最大微分透磁率に対する5000A/m時の微分透磁率の値が30%となる実施例5においては、I-2のリップル電流は80よりも小さくなり、I-1のリップル電流とI-2のリップル電流の差異も42.5と縮まり、合成リップル電流も100程度に留まっていることが確認された。
【0039】
そして、最大微分透磁率に対する5000A/m時の微分透磁率の値が39%となる実施例4においては、I-1とI-2のリップル電流の差異も35.5と40を切っており、合成リップル電流も100よりも小さくなり、合成リップル電流の上昇をより効果的に抑制していることが確認された。さらに、最大微分透磁率に対する5000A/m時の微分透磁率の値が51%を超える実施例1乃至3においては、I-1とI-2のリップル電流の差異も30を切っており、合成リップル電流も90程度以下になっていることが確認された。そのため、最大微分透磁率に対する5000A/m時の微分透磁率の値は、好ましくは30%以上、より好ましくは39%以上、更に好ましくは51%以上であることが確認された。
【0040】
次に、最大微分透磁率とリップル電流の関係についてシミュレーション解析した。まず、表3に示すような最大微分透磁率となる圧粉磁心を作製した。そして、上記実施例1と同様、30ターン巻回されたコイル2a、2bを圧粉磁心に装着し、
図1に示すリアクトルを作製した。そして、最大微分透磁率と片側のリップル電流及び合成のリップル電流の関係についてシミュレーション解析した。解析は、電流均等時のみ行った。解析条件は、実施例1の電流均等時と同様である。解析した結果を表3及び
図3に示す。
図3は、最大微分透磁率と合成リップル電流の関係を示すグラフである。なお、表3に示す片側のリップル電流とは、コイル2aに流れる電流シミュレーション波形の最大値から最小値を引いた値を指す。
【表3】
【0041】
表3及び
図3に示すように、最大微分透磁率が10や20と低い場合においては、リップル電流が大きく上昇することが確認された。そして、最大微分透磁率を上げていくと片側及び合成のリップル電流は低減する傾向にあり、最大微分透磁率50が分岐点となることが確認された。具体的には、最大微分透磁率が50を超えると、片側リップル電流は50よりも下回り、合成リップル電流も70以下になり、リップル電流の上昇が抑制されている。
【0042】
もっとも、最大微分透磁率が200を超えると、リップル電流の抑制度合いは減少し、最大微分透磁率200と、これの5倍である最大微分透磁率1000のリップル電流を比較してもそれほど大きな差異はない。そのため、最大微分透磁率は、50以上200以下にすることで、効果的にリップル電流を抑制できることが確認された。このように、最大微分透磁率を50以上200以下にすることにより、電流均等時におけるリップル電流の上昇を抑制できることが確認された。
【0043】
以上のとおり、本実施形態のリアクトル10は、磁性体から成る環状コア1と、環状コア1に装着されて磁気結合するとともに、互いに逆向きの磁束を発生させる2個のコイル2とを備える。環状コア1は、5000A/m時の微分透磁率が最大微分透磁率の30%以上となるようにした。
【0044】
これにより、偏流時におけるリップル電流の上昇を抑制することができる。そのため、リアクトル10の動作が安定し、リアクトル10の品質が向上する。
【0045】
環状コア1の最大微分透磁率は、50以上200以下である。これにより、電流均等時においてもより効果的にリップル電流の上昇を抑制することができる。
【0046】
環状コア1は、一対のU字型形状のコア部材を接合して環状形状となり、このコア部材は、接合材によって直接接合されている。換言すれば、コア部材の間には磁気的ギャップ材が設けられていない。
【0047】
磁気的ギャップ材を用いる場合、部材が増えるためコスト増大を招くとともに、コア部材と磁気的ギャップ材を接合する作業も必要となり、作業性も悪化する。また、磁気的ギャップ材を設けると、このギャップ材から漏れ磁束が生じ、渦電流損失が増加する虞がある。
【0048】
しかし、本実施形態のように、コア部材を直接接合することで、コストの削減及び作業性も向上する。また、磁気的ギャップ材を設けていないので、漏れ磁束が増加することを防止でき、渦電流損失の増加を防止できる。さらに、磁気的ギャップ材を用いない分、リアクトル10を小型化することができる。
【0049】
本明細書においては、本発明に係る実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。上記のような実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0050】
10 リアクトル
1 環状コア
2、2a、2b コイル