(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156386
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】ワーク加工用シート
(51)【国際特許分類】
C09J 7/29 20180101AFI20221006BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20221006BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20221006BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C09J7/29
C09J7/38
H01L21/78 M
H01L21/304 622J
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060041
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100176407
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 理啓
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 周平
(72)【発明者】
【氏名】山口 征太郎
(72)【発明者】
【氏名】小田 直士
(72)【発明者】
【氏名】梅本 なつき
【テーマコード(参考)】
4J004
5F057
5F063
【Fターム(参考)】
4J004AA05
4J004AA10
4J004AA14
4J004AA15
4J004AB02
4J004AB06
4J004CA03
4J004CA04
4J004CB03
4J004CC03
4J004CD07
4J004CD08
4J004DB02
4J004FA05
5F057AA04
5F057AA21
5F057AA31
5F057BA11
5F057BB03
5F057BB11
5F057CA14
5F057DA11
5F057EC06
5F057EC07
5F057EC08
5F057EC09
5F057EC16
5F057EC17
5F057EC18
5F057EC19
5F057FA28
5F057FA30
5F063AA08
5F063AA15
5F063AA18
5F063AA36
5F063BA17
5F063BA48
5F063CA04
5F063DD01
5F063EE02
5F063EE04
5F063EE05
5F063EE07
5F063EE08
5F063EE13
5F063EE22
5F063EE25
5F063EE27
5F063EE29
5F063EE42
5F063EE43
5F063EE44
5F063EE73
5F063EE85
(57)【要約】
【課題】優れた帯電防止性を発揮しながらも、切削片の発生を良好に抑制することができるワーク加工用シートを提供する。
【解決手段】基材11と粘着剤層12とを備えるワーク加工用シート1であって、基材11が、表面層111と、裏面層113と、それら表面層111と裏面層113との間に位置する中間層112とを備え、少なくとも裏面層113が帯電防止剤を含有し、中間層112がスチレン系熱可塑性エラストマーを含有し、基材11について周波数11Hzにて粘弾性測定した90℃における損失正接をtanδ(90)、110℃における損失正接をtanδ(110)、120℃における損失正接をtanδ(120)としたときに、tanδ(110)が絶対値で0.25以上であり、tanδ(110)/tanδ(90)が1.3以上であり、tanδ(120)/tanδ(110)が0.9以下であるワーク加工用シート1。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材における片面側に積層された粘着剤層とを備えるワーク加工用シートであって、
前記基材が、前記粘着剤層に対して近位に位置する表面層と、前記粘着剤層に対して遠位に位置する裏面層と、前記表面層と前記裏面層との間に位置する中間層とを備え、
少なくとも前記裏面層が、帯電防止剤を含有し、
前記中間層が、スチレン系熱可塑性エラストマーを含有し、
前記基材について周波数11Hzにて粘弾性測定した90℃における損失正接をtanδ(90)、110℃における損失正接をtanδ(110)、120℃における損失正接をtanδ(120)としたときに、
tanδ(110)が絶対値で0.25以上であり、
tanδ(110)/tanδ(90)が1.3以上であり、
tanδ(120)/tanδ(110)が0.9以下である
ことを特徴とするワーク加工用シート。
【請求項2】
前記表面層が、帯電防止剤を含有することを特徴とする請求項1に記載のワーク加工用シート。
【請求項3】
前記表面層が、ポリオレフィン系樹脂およびオレフィン系熱可塑性エラストマーを含有することを特徴とする請求項1または2に記載のワーク加工用シート。
【請求項4】
前記裏面層が、オレフィン系熱可塑性エラストマーを含有することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のワーク加工用シート。
【請求項5】
前記中間層が、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系樹脂およびオレフィン系熱可塑性エラストマーを含有することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のワーク加工用シート。
【請求項6】
前記中間層が、帯電防止剤を含有していないか、または、
前記中間層が、前記表面層および前記裏面層の各々よりも少ない含有量(単位:質量%)で帯電防止剤を含有している
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のワーク加工用シート。
【請求項7】
前記帯電防止剤が、高分子型帯電防止剤であることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のワーク加工用シート。
【請求項8】
前記粘着剤層における基材とは反対側の面の表面抵抗率が、1.0×1013Ω/□以下であることを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載のワーク加工用シート。
【請求項9】
ダイシングシートであることを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載のワーク加工用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハ等のワークの加工に使用されるワーク加工用シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコン、ガリウムヒ素などの半導体ウエハや各種パッケージ類は、大径の状態で製造され、チップに切断(ダイシング)され、剥離(ピックアップ)された後に、次の工程であるマウント工程に移される。この際、半導体ウエハ等のワークは、基材および粘着剤層を備える粘着シート(以下、「ワーク加工用シート」という場合がある。)上に積層された状態で、バックグラインド、ダイシング、洗浄、乾燥、エキスパンディング、ピックアップ、マウンティング等の加工が行われる。
【0003】
上述したダイシングの具体的な手法として一般的なフルカットダイシングでは、回転する丸刃(ダイシングブレード)によってワークの切断が行われる。このとき、ワーク加工用シートに積層されたワークが確実に切断されるように、通常、ワークのみならず粘着剤層も切断され、さらに基材の一部も切断される。このとき、粘着剤層および基材を構成する材料からなる切削片がワーク加工用シートから発生し、ワークの切断により得られたチップが切削片によって汚染される場合がある。当該切削片の典型的な形態の一つとしては、ダイシングライン上、またはダイシングにより分離されたチップの断面付近に付着する糸状の切削片がある。
【0004】
上記糸状の切削片がチップに多量に付着すると、ワイヤーボンディングが阻害されてしまうことがある。また、上記糸状の切削片がチップに多量に付着したままチップの封止が行われると、当該切削片が封止の熱で分解し、この熱分解物がパッケージを破壊したり、得られるデバイスにて動作不良の原因となったりする。この糸状の切削片は洗浄により除去することが困難であるため、糸状の切削片の発生によってダイシング工程の歩留まりは著しく低下する。それゆえ、ワーク加工用シートを用いてダイシングを行う場合には、糸状の切削片の発生を防止することが求められている。
【0005】
また、ワーク加工用シートは、所定の処理工程が終了すると被着体から剥離されるが、このときに、ワーク加工用シートと被着体との間で剥離帯電と呼ばれる静電気が発生することがある。このような静電気は、ワークや装置に埃等が付着する原因となるとともに、ワーク等の破壊の原因となる。そのため、ワーク加工用シートには、帯電防止性も求められている。
【0006】
特許文献1には、優れた切削片抑制効果および帯電防止性を有するワーク加工用シートを提供することを目的として、所定の帯電防止剤、所定のポリオレフィン系樹脂および所定のゴム状弾性体を所定の配合比で配合して成る基材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、半導体ウエハのダイシングの工程の後には、一般的に、得られたチップの洗浄が行われることがある。具体的には、複数のチップが載置されたワーク加工用シートを、スピナーテーブルに吸着して固定し、ワーク加工用シート上にて、超純水によるチップの洗浄、およびその後の乾燥(風乾)が行われる。これらの処理が完了した後、複数のチップが載置されたワーク加工用シートがスピナーテーブルから引き離されることになるが、発明者らは、この引き離しの際にも剥離帯電が生じることを確認した。
【0009】
上記剥離帯電も考慮すると、特許文献1のような従来のワーク加工用シートは、切削片抑制効果と帯電防止性とを高いレベルで実現するものとはいえなかった。
【0010】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、優れた帯電防止性を発揮しながらも、切削片の発生を良好に抑制することができるワーク加工用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、第1に本発明は、基材と、前記基材における片面側に積層された粘着剤層とを備えるワーク加工用シートであって、前記基材が、前記粘着剤層に対して近位に位置する表面層と、前記粘着剤層に対して遠位に位置する裏面層と、前記表面層と前記裏面層との間に位置する中間層とを備え、少なくとも前記裏面層が、帯電防止剤を含有し、前記中間層が、スチレン系熱可塑性エラストマーを含有し、前記基材について周波数11Hzにて粘弾性測定した90℃における損失正接をtanδ(90)、110℃における損失正接をtanδ(110)、120℃における損失正接をtanδ(120)としたときに、tanδ(110)が絶対値で0.25以上であり、tanδ(110)/tanδ(90)が1.3以上であり、tanδ(120)/tanδ(110)が0.9以下であることを特徴とするワーク加工用シートを提供する(発明1)。
【0012】
上記発明(発明1)においては、少なくとも裏面層が帯電防止剤を含有することにより、優れた帯電防止性を有するものとなる。また、中間層がスチレン系熱可塑性エラストマーを含有し、かつ、基材が上記粘弾性物性を有することにより、ダイシング時における切削片の発生を良好に抑制することができるとともに、ダイシングして得られたチップをピックアップするときのピックアップ性を良好に維持することができる。また、特に中間層がスチレン系熱可塑性エラストマーを含有すると、当該中間層は高温時に溶融し難くなるため、ダイシングブレードが中間層に到達した場合に、中間層からの切削片の発生を良好に抑制することができる。
【0013】
上記発明(発明1)においては、前記表面層が、帯電防止剤を含有することが好ましい(発明2)。
【0014】
上記発明(発明1,2)においては、前記表面層が、ポリオレフィン系樹脂およびオレフィン系熱可塑性エラストマーを含有することが好ましい(発明3)。
【0015】
上記発明(発明1~3)においては、前記裏面層が、オレフィン系熱可塑性エラストマーを含有することが好ましい(発明4)。
【0016】
上記発明(発明1~4)においては、前記中間層が、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系樹脂およびオレフィン系熱可塑性エラストマーを含有することが好ましい(発明5)。
【0017】
上記発明(発明1~5)においては、前記中間層が、帯電防止剤を含有していないか、または、前記中間層が、前記表面層および前記裏面層の各々よりも少ない含有量(単位:質量%)で帯電防止剤を含有していることが好ましい(発明6)。
【0018】
上記発明(発明1~6)においては、前記帯電防止剤が、高分子型帯電防止剤であることが好ましい(発明7)。
【0019】
上記発明(発明1~7)においては、前記粘着剤層における基材とは反対側の面の表面抵抗率が、1.0×1013Ω/□以下であることが好ましい(発明8)。
【0020】
上記発明(発明1~8)においては、ダイシングシートであることが好ましい(発明9)。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るワーク加工用シートは、優れた帯電防止性を発揮しながらも、切削片の発生を良好に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態に係るワーク加工用シートの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1には、本発明の一実施形態に係るワーク加工用シートの断面図が示される。
図1に示されるワーク加工用シート1は、基材11と、基材11における片面側に積層された粘着剤層12とを備える。
【0024】
上記基材11は、
図1に示されるように、粘着剤層12に対して近位に位置する表面層111と、粘着剤層12に対して遠位に位置する裏面層113と、表面層111と裏面層113との間に位置する中間層112とを備える。
【0025】
本実施形態に係るワーク加工用シート1においては、少なくとも裏面層113が帯電防止剤を含有し、中間層112がスチレン系熱可塑性エラストマーを含有する。そして、基材11について周波数11Hzにて粘弾性測定した90℃における損失正接をtanδ(90)、110℃における損失正接をtanδ(110)、120℃における損失正接をtanδ(120)としたときに、tanδ(110)が絶対値で0.25以上であり、tanδ(110)/tanδ(90)が1.3以上であり、tanδ(120)/tanδ(110)が0.9以下である。以下、これらの損失正接に関する物性を「粘弾性物性」という場合がある。なお、本明細書における損失正接の具体的な測定方法は、後述する試験例に示す通りである。
【0026】
本実施形態に係るワーク加工用シート1は、少なくとも裏面層113が帯電防止剤を含有することにより、優れた帯電防止性を有するものとなる。そのため、ワーク加工用シート1から剥離シートやワークを分離する際における剥離帯電を良好に抑制することができる。さらには、ワーク加工用シート1上のワークの洗浄および乾燥を行った後、スピナーテーブルからワーク加工用シート1を引き離した際における剥離帯電も良好に防止することができる。
【0027】
また、本実施形態に係るワーク加工用シート1は、中間層112がスチレン系熱可塑性エラストマーを含有し、かつ、基材11が上記粘弾性物性を有することにより、ダイシング時における切削片の発生を良好に抑制することができるとともに、ダイシングして得られたチップをピックアップするときのピックアップ性を良好に維持することができる。特に上記の粘弾性物性を満たす基材11は、90~120℃の温度範囲において損失正接tanδのピークを示すこととなる。すなわち、この温度領域までは基材11の一部がガラス状態となっているため、ダイシング時に発生する摩擦熱によって基材11が溶融し難く、優れた耐切削片性が得られる。また、特に中間層112がスチレン系熱可塑性エラストマーを含有すると、当該中間層112は高温時に溶融し難くなるため、ダイシングブレードが中間層112に到達した場合に、中間層112からの切削片の発生を良好に抑制することができる。
【0028】
切削片抑制効果の観点から、上記tanδ(110)(絶対値)は、0.25以上であり、0.3以上であることが好ましく、特に0.32以上であることが好ましく、さらには0.34以上であることが好ましい。上記tanδ(110)(絶対値)の上限値は、ワーク加工用シートのピックアップ性およびエキスパンド性の観点から、0.5以下であることが好ましく、特に0.45以下であることが好ましく、さらには0.4以下であることが好ましい。
【0029】
切削片抑制効果の観点から、上記tanδ(110)/tanδ(90)は、1.3以上であり、1.4以上であることが好ましく、特に1.5以上であることが好ましく、さらには1.6以上であることが好ましい。上記tanδ(110)/tanδ(90)の上限値は、ワーク加工用シートのピックアップ性およびエキスパンド性の観点から、2.5以下であることが好ましく、特に2.3以下であることが好ましく、さらには1.9以下であることが好ましい。
【0030】
切削片抑制効果の観点から、上記tanδ(120)/tanδ(110)は、0.9以下であり、0.88以下であることが好ましく、特に0.85以下であることが好ましい。上記tanδ(120)/tanδ(110)の下限値は、ワーク加工用シートのピックアップ性およびエキスパンド性の観点から、0.4以上であることが好ましく、特に0.5以上であることが好ましく、さらには0.6以上であることが好ましい。
【0031】
上記tanδ(90)(絶対値)は、0.15以上であることが好ましく、特に0.17以上であることが好ましく、さらには0.19以上であることが好ましい。また、上記tanδ(90)(絶対値)は、0.4以下であることが好ましく、特に0.3以下であることが好ましく、さらには0.23以下であることが好ましい。上記tanδ(90)が上記の範囲にあることにより、前述した粘弾性物性が満たされ易くなる。
【0032】
上記tanδ(120)(絶対値)は、0.2以上であることが好ましい。また、上記tanδ(120)(絶対値)は、0.4以下であることが好ましく、特に0.3以下であることが好ましい。上記tanδ(120)が上記の範囲にあることにより、前述した粘弾性物性が満たされ易くなる。
【0033】
1.ワーク加工用シートの構成
1-1.基材
本実施形態における基材11は、上述の通り、表面層111、中間層112および裏面層113を備える。
【0034】
(1)中間層
本実施形態において、中間層112は、スチレン系熱可塑性エラストマー(以下、「スチレン系エラストマー」という場合がある。)を含有する。スチレン系エラストマーは、スチレンまたはその誘導体(スチレン系化合物)に由来する構造単位を含む共重合体であって、常温を含む温度域ではゴム状の弾性を有するとともに、熱可塑性を有する材料である。
【0035】
スチレン系エラストマーとしては、スチレン-共役ジエン共重合体およびスチレン-オレフィン共重合体などが挙げられ、中でもスチレン-共役ジエン共重合体が好ましい。スチレン-共役ジエン共重合体の具体例としては、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SBS)、スチレン-ブタジエン-ブチレン-スチレン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体(SIS)、スチレン-エチレン-イソプレン-スチレン共重合体等の未水添スチレン-共役ジエン共重合体;スチレン-エチレン/プロピレン-スチレン共重合体(SEPS:スチレン-イソプレン-スチレン共重合体の水素添加物)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(SEBS:スチレン-ブタジエン共重合体の水素添加物)等の水添スチレン-共役ジエン共重合体などを挙げることができる。スチレン系熱可塑性エラストマーは、水素添加物(水添物)でも未水添物であってもよいが、水素添加物であることが好ましい。上記の中でも、切削片抑制効果の観点および前述した粘弾性物性を達成し易いという観点から、水添スチレン-共役ジエン共重合体が好ましく、特にスチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(SEBS)が好ましい。
【0036】
スチレン系エラストマーにおけるスチレンまたはスチレン系化合物に由来する構造単位の含有量は、10質量%以上であることが好ましく、特に15質量%以上であることが好ましく、さらには20質量%以上であることが好ましい。これにより、切削片抑制効果がより優れたものとなり、また、前述した粘弾性物性をより達成し易くなる。また、上記構造単位の含有量は、ワーク加工用シートのピックアップ性およびエキスパンド性の観点から、50質量%以下であることが好ましく、特に45質量%以下であることが好ましく、さらには40質量%以下であることが好ましい。
【0037】
中間層112中におけるスチレン系エラストマーの含有量は、10質量%以上であることが好ましく、特に15質量%以上であることが好ましく、さらには20質量%以上であることが好ましい。また、当該含有量は、50質量%以下であることが好ましく、特に45質量%以下であることが好ましく、さらには40質量%以下であることが好ましい。中間層112中におけるスチレン系エラストマーの含有量が上記の範囲にあることにより、切削片抑制効果がより優れたものとなり、また、前述した粘弾性物性をより達成し易くなる。
【0038】
中間層112は、スチレン系エラストマー以外の熱可塑性エラストマーを含有することが好ましい。熱可塑性エラストマーとしては、例えば、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ゴム系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、アクリル系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
上記熱可塑性エラストマーの中でも、良好な切削片抑制効果を得易いという観点からは、オレフィン系熱可塑性エラストマー(以下、「オレフィン系エラストマー」という場合がある。)が好ましい。なお、「オレフィン系エラストマー」は、オレフィンまたはその誘導体(オレフィン系化合物)に由来する構造単位を含む共重合体であって、常温を含む温度域ではゴム状の弾性を有するとともに、熱可塑性を有する材料である。
【0040】
オレフィン系エラストマーの例としては、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体、ブテン・α-オレフィン共重合体、エチレン・プロピレン・α-オレフィン共重合体、エチレン・ブテン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・ブテン・α-オレフィン共重合体およびエチレン・プロピレン・ブテン・α-オレフィン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含むものが挙げられる。これらの中でも、エチレン・プロピレン共重合体が好ましい。
【0041】
中間層112中におけるオレフィン系エラストマーの含有量は、30質量%以上であることが好ましく、特に35質量%以上であることが好ましく、さらには40質量%以上であることが好ましい。また、当該含有量は、60質量%以下であることが好ましく、特に55質量%以下であることが好ましく、さらには50質量%以下であることが好ましい。中間層112中におけるオレフィン系エラストマーの含有量が上記の範囲にあることにより、切削片抑制効果がより優れたものとなり、また、前述した粘弾性物性をより達成し易くなる。
【0042】
中間層112は、上述した熱可塑性エラストマー以外に、ポリオレフィン系樹脂を含有することが好ましい。ポリオレフィン系樹脂を含有することにより、製膜時の製膜性や、チッピング抑制の点で優れる。なお、本明細書において、ポリオレフィン系樹脂とは、オレフィンを単量体とするホモポリマーもしくはコポリマー、またはオレフィンとオレフィン以外の分子とを単量体とするコポリマーであって、重合後の樹脂におけるオレフィン単位に基づく部分の質量比率が1.0質量%以上である樹脂をいう。
【0043】
ポリオレフィン系樹脂は、前述した粘弾性物性を阻害せず、所望の効果が得られるものであれば、特に限定されない。ポリオレフィン系樹脂を構成する高分子は直鎖状であってもよいし、側鎖を有していてもよい。また、当該高分子は、芳香環、脂肪族環を有していてもよい。
【0044】
ポリオレフィン系樹脂を構成するオレフィン単量体としては、炭素数2~8のオレフィン単量体、炭素数3~18のα-オレフィン単量体、環状構造を有するオレフィン単量体などが例示される。炭素数2~8のオレフィン単量体としては、エチレン、プロピレン、2-ブテン、オクテンなどが例示される。炭素数3~18のα-オレフィン単量体としては、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-オクタデセンなどが例示される。環状構造を有するオレフィン単量体としては、ノルボルネン、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、ジシクロペンタジエンおよびテトラシクロドデセンならびにこれらの誘導体などが例示される。
【0045】
ポリオレフィン系樹脂は、1種を単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0046】
上述したポリオレフィン系樹脂の具体例の中でも、エチレンを主な重合単位として含むポリエチレンおよびプロピレンを主な重合単位として含むポリプロピレンの少なくとも一方を使用することが好ましい。
【0047】
上記ポリプロピレンとしては、一般的には、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレンおよびブロックポリプロピレンが挙げられる。これらは、1種を単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。本実施形態では、エキスパンド性の観点から、ランダムポリプロピレンを使用することが好ましい。
【0048】
ポリオレフィン系樹脂がポリエチレンを含有する場合には、ポリエチレンは、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレンおよび直鎖状低密度ポリエチレンのいずれであってもよいし、これらの2種以上の混合物であってもよい。
【0049】
中間層112中におけるポリオレフィン系樹脂の含有量は、15質量%以上であることが好ましく、特に20質量%以上であることが好ましく、さらには25質量%以上であることが好ましい。これにより、製膜時の製膜性に優れる。また、当該含有量は、45質量%以下であることが好ましく、特に40質量%以下であることが好ましく、さらには35質量%以下であることが好ましい。これにより、前述した粘弾性物性をより達成し易くなる。
【0050】
ここで、中間層112も帯電防止剤を含有してよいものの、切削片の発生を抑制し易いという観点からは、中間層112は、帯電防止剤を含有しないことが好ましい。中間層112が帯電防止剤を含有する場合には、中間層112は、裏面層113(および表面層111)よりも少ない含有量(単位:質量%)で帯電防止剤を含有することが好ましい。その含有量は、具体的には、中間層112中、5質量%未満であることが好ましく、3質量%未満であることがより好ましく、特に1質量%未満であることが好ましく、0質量%であることが最も好ましい。中間層112が帯電防止剤を含有する場合、その含有量の下限値は、例えば、0.01質量%以上である。本発明者らは、帯電防止剤がダイシング時に切削片発生の原因となることを見出したが、上記のように、帯電防止剤を含有しないか、またはその含有量が少ない中間層112が表面層111(好ましくは薄層)の下に存在することにより、基材全体が帯電防止剤を含有する場合よりも、切削片の発生を相当少なくすることができる。
【0051】
中間層112は、上述した成分以外のその他の成分、例えば、一般的なワーク加工用シートの基材に用いられる成分を含有してもよい。そのような成分の例としては、難燃剤、可塑剤、滑剤、酸化防止剤、着色剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、イオン捕捉剤等の各種添加剤が挙げられる。これらの添加剤の含有量としては、特に限定されないものの、中間層112が所望の機能を発揮する範囲とすることが好ましい。
【0052】
(2)裏面層
本実施形態において、裏面層113は帯電防止剤を含有する。これにより、優れた帯電防止性が得られる。一方、前述した通り、帯電防止剤はダイシング時に切削片発生の原因となるが、通常、ダイシングブレードは裏面層113まで届かないため、裏面層113が帯電防止剤を含有していても、切削片発生の原因とはならない。
【0053】
本実施形態における帯電防止剤は特に限定されず、公知のものを使用することができる。帯電防止剤の例としては、低分子型帯電防止剤や高分子型帯電防止剤等が挙げられるが、切削片の発生を抑制し易く(後述するように表面層111が含有する場合)、また、形成された層からブリードアウトが生じ難いという観点から、高分子型帯電防止剤が好ましい。
【0054】
高分子型帯電防止剤としては、ポリエーテルエステルアミド、ポリエーテルポリオレフィンブロック共重合体など、ポリエーテルユニットを有する共重合体が挙げられ、これら共重合体にはアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などの金属塩や、イオン液体が含まれていてもよい。
【0055】
裏面層113中における帯電防止剤の含有量は、10質量%以上であることが好ましく、特に20質量%以上であることが好ましく、さらには30質量%以上であることが好ましい。これにより、良好な帯電防止性を発揮し易いものとなる。また、当該含有量は、50質量%以下であることが好ましく、特に45質量%以下であることが好ましく、さらには40質量%以下であることが好ましい。これにより、前述した粘弾性物性をより達成し易くなる。
【0056】
裏面層113を構成する帯電防止剤以外の材料としては、前述した粘弾性物性が満たされる限り、特に限定されないが、少なくとも熱可塑性エラストマーを含有し、所望によりさらにポリオレフィン系樹脂を含有することが好ましい。これらの成分によれば、前述した粘弾性物性が満たされ易くなる。また、熱可塑性エラストマーは、ピックアップ性を良好にする作用がある。
【0057】
熱可塑性エラストマーとしては、中間層112にて例示したものを使用することができ、中でもオレフィン系エラストマーが好ましい。
【0058】
裏面層113中におけるオレフィン系エラストマーの含有量は、30質量%以上であることが好ましく、特に35質量%以上であることが好ましく、さらには40質量%以上であることが好ましい。また、当該含有量は、80質量%以下であることが好ましく、特に75質量%以下であることが好ましい。裏面層113中におけるオレフィン系エラストマーの含有量が上記の範囲にあることにより、前述した粘弾性物性をより達成し易くなる。
【0059】
なお、裏面層113は、熱可塑性エラストマーとして、スチレン系エラストマーは含有しないことが好ましい。スチレン系エラストマーを含有すると、製膜時にブロッキングを起こしたり、ピックアップ性に影響したりする可能性がある。裏面層113がスチレン系エラストマーを含有するとしても、その含有量は、3質量%以下であることが好ましく、特に2質量%以下であることが好ましく、さらには1質量%以下であることが好ましい。
【0060】
裏面層113がポリオレフィン系樹脂を含有すると、製膜時の製膜性に優れるという効果が得られる。ポリオレフィン系樹脂としては、中間層112にて例示したものを使用することができ、中でもポリプロピレン、特にランダムポリプロピレンを使用することが好ましい。
【0061】
裏面層113がポリオレフィン系樹脂を含有する場合、その含有量は、製膜時の製膜性に優れるという観点から、10質量%以上であることが好ましく、特に15質量%以上であることが好ましく、さらには20質量%以上であることが好ましい。また、当該含有量は、ピックアップ性の観点から、40質量%以下であることが好ましく、特に35質量%以下であることが好ましく、さらには30質量%以下であることが好ましい。
【0062】
裏面層113は、中間層112と同様に、上述した成分以外のその他の成分、例えば、一般的なワーク加工用シートの基材に用いられる成分を含有してもよい。
【0063】
(3)表面層
本実施形態に係るワーク加工用シート1においては、少なくとも裏面層113が帯電防止剤を含有するが、好ましくは表面層111も帯電防止剤を含有する。これにより、帯電防止性がより優れたものとなる。前述した通り、帯電防止剤はダイシング時に切削片発生の原因となるが、表面層111の厚さを薄くし、中間層112における帯電防止剤の含有量を無くすか少なくすることにより、基材全体が帯電防止剤を含有する場合よりも、切削片の発生を相当少なくすることができる。
【0064】
表面層111における帯電防止剤としては、裏面層113における帯電防止剤と同様のものを使用することができる。
【0065】
表面層111中における帯電防止剤の含有量は、3質量%以上であることが好ましく、特に5質量%以上であることが好ましく、さらには10質量%以上であることが好ましい。これにより、帯電防止性がより優れたものとなる。また、当該含有量は、40質量%以下であることが好ましく、特に35質量%以下であることが好ましく、さらには30質量%以下であることが好ましい。これにより、切削片の発生を低く抑えることができる。
【0066】
表面層111を構成する帯電防止剤以外の材料としては、前述した粘弾性物性が満たされる限り、特に限定されないが、少なくとも熱可塑性エラストマーを含有することが好ましく、さらにポリオレフィン系樹脂も含有することが特に好ましい。これらの成分によれば、前述した粘弾性物性が満たされ易くなる。また、熱可塑性エラストマーは、ピックアップ性を良好にする作用がある。
【0067】
熱可塑性エラストマーおよびポリオレフィン系樹脂としては、中間層112および裏面層113にて例示したものを使用することができる。熱可塑性エラストマーとしては、オレフィン系エラストマーが好ましい。
【0068】
表面層111中におけるオレフィン系エラストマーの含有量は、30質量%以上であることが好ましく、特に35質量%以上であることが好ましく、さらには40質量%以上であることが好ましい。また、当該含有量は、80質量%以下であることが好ましく、特に75質量%以下であることが好ましく、さらには50質量%以下であることが好ましい。表面層111中におけるオレフィン系エラストマーの含有量が上記の範囲にあることにより、前述した粘弾性物性をより達成し易くなる。
【0069】
なお、表面層111は、裏面層113と同様に、熱可塑性エラストマーとして、スチレン系エラストマーは含有しないことが好ましい。また、表面層111がスチレン系エラストマーを含有するとしても、その含有量は、裏面層113にて例示した量と同様の量に留めることが好ましい。
【0070】
表面層111におけるポリオレフィン系樹脂の含有量は、製膜時の製膜性に優れるという観点から、10質量%以上であることが好ましく、特に15質量%以上であることが好ましく、さらには20質量%以上であることが好ましい。また、当該含有量は、ピックアップ性の観点から、45質量%以下であることが好ましく、特に40質量%以下であることが好ましく、さらには35質量%以下であることが好ましい。
【0071】
表面層111は、上記以外の成分として、酸変性樹脂を含有することも好ましい。本明細書において「酸変性樹脂」とは、酸成分に由来する構造が高分子鎖に付加されたものを意味する。酸成分に由来する構造は、酸無水物の形態になっていてもよいし、カルボキシ基を有するものであってもよい。表面層111が上記のように酸変性樹脂を含有することにより、基材11と粘着剤層12との密着性が向上し、ピックアップ時に粘着剤がチップ側に残ることを抑制することができる。
【0072】
酸変性樹脂の主鎖としては、例えば、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体等のエチレン-アクリル系共重合体が好ましく挙げられる。かかる樹脂によれば、表面層111と粘着剤層12との密着性を向上しつつ、前述した粘弾性物性を満たし易い。なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及びメタクリル酸の両方を意味する。他の類似用語も同様である。
【0073】
上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、アルキル基の炭素数が1~4の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル等が好ましく挙げられる。中でも(メタ)アクリル酸エチルがより好ましく、特にアクリル酸エチルが好ましい。
【0074】
エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体における(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造の含有量は、1質量%以上であることが好ましく、特に3質量%以上であることが好ましい。また、当該含有量は、20質量%以下であることが好ましく、特に15質量%以下であることが好ましく、さらには10質量%以下であることが好ましい。上記含有量が上記の範囲にあることにより、前述した粘弾性物性が満たされ易くなる。
【0075】
樹脂を酸変性するには、樹脂に不飽和カルボン酸を反応させることが好ましい。不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、テトラヒドロフタル酸、アコニット酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水グルタコン酸、無水シトラコン酸、無水アコニット酸、ノルボルネンジカルボン酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物等が挙げられる。これらは、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。上記の中でも、粘着剤層12との密着性の観点から、無水マレイン酸が特に好ましい。
【0076】
上記酸変性樹脂における酸成分量(酸成分に由来する構造の量)は、1質量%以上であることが好ましく、特に2質量%以上であることが好ましい。また、当該酸成分量は、7質量%以下であることが好ましく、特に5質量%以下であることが好ましい。上記酸成分量が上記の範囲にあることにより、表面層111と粘着剤層12との密着性がより向上する。
【0077】
表面層111が酸変性樹脂を含有する場合、表面層111中における酸変性樹脂の含有量は、5質量%以上であることが好ましく、特に10質量%以上であることが好ましい。これにより、表面層111と粘着剤層12との密着性がより向上する。また、当該含有量は、30質量%以下であることが好ましく、特に25質量%以下であることが好ましく、さらには20質量%以下であることが好ましい。これにより、前述した粘弾性物性が満たされ易いものとなる。
【0078】
表面層111は、中間層112および裏面層113と同様に、上述した成分以外のその他の成分、例えば、一般的なワーク加工用シートの基材に用いられる成分を含有してもよい。
【0079】
(4)基材の表面処理
基材11における粘着剤層12が積層される面には、当該粘着剤層12との密着性を高めるために、プライマー処理、コロナ処理、プラズマ処理、粗面化処理(マット加工)等の表面処理が施されてもよい。粗面化処理としては、例えば、エンボス加工法、サンドブラスト加工法等が挙げられる。これらの中でも、コロナ処理を施すことが好ましい。
【0080】
(5)基材の製法
本実施形態における基材11の製造方法は特に限定されず、例えば、Tダイ法、丸ダイ法等の溶融押出法;カレンダー法;乾式法、湿式法等の溶液法などを使用することができる。これらの中でも、効率良く基材を製造する観点から、溶融押出法を採用することが好ましく、特にTダイ法を採用することが好ましい。
【0081】
また、基材11を溶融押出法により製造する場合、各層を構成する成分をそれぞれ混練し、得られた混練物から直接、または一旦ペレットを製造したのち、公知の押出機を用いて、複数層を同時に押し出して(共押出して)製膜すればよい。
【0082】
(6)基材の物性等
(6-1)厚さ
本実施形態における表面層111の厚さは、10μm以下であることが好ましく、特に8μm以下であることが好ましく、さらには4μm以下であることが好ましい。このように、粘着剤層12に対して近位に位置する表面層111の厚さが薄いことにより、表面層111が帯電防止剤を含有していたとしても、所望の帯電防止性を発揮しながら、切削片の発生を良好に抑制することができる。
【0083】
また、表面層111の厚さは、1μm以上であることが好ましく、特に2μm以上であることが好ましく、さらには3μm以上であることが好ましい。これにより、表面層111が帯電防止剤を含有する場合に、帯電防止性を良好に発揮し易くなる。また、表面層111が酸変性樹脂を含有する場合には、粘着剤層12との密着性がより優れたものとなる。
【0084】
本実施形態における中間層112の厚さは、40μm以上であることが好ましく、特に50μm以上であることが好ましく、さらには60μm以上であることが好ましい。これにより、前述した粘弾性物性が満たされ易くなり、切削片の発生を抑制し易いものとなる。また、ワーク加工用シート1が適度な強度を有し易いものとなり、ワーク加工用シート1上に固定されるワークを良好に支持し易いものとなる。中間層112の厚さは、100μm以下であることが好ましく、特に90μm以下であることが好ましく、さらには80μm以下であることが好ましい。これにより、前述した粘弾性物性が満たされ易くなる。
【0085】
本実施形態における裏面層113の厚さは、2μm以上であることが好ましく、特に4μm以上であることが好ましく、さらには8μm以上であることが好ましい。これにより、ワーク加工用シート1の帯電防止性がより優れたものとなる。また、裏面層113の厚さは、40μm以下であることが好ましく、特に30μm以下であることが好ましく、さらには25μm以下であることが好ましい。これにより、前述した粘弾性物性が満たされ易くなる。
【0086】
本実施形態における基材11全体としての厚さは、50μm以上であることが好ましく、特に60μm以上であることが好ましく、さらには70μm以上であることが好ましい。また、当該厚さは、140μm以下であることが好ましく、特に120μm以下であることが好ましく、さらには100μm以下であることが好ましい。基材11全体としての厚さが上記範囲にあることにより、前述した粘弾性物性が満たされ易くなり、また、ワーク加工用シート1上に固定されるワークを良好に支持し易いものとなる。
【0087】
(6-2)表面抵抗率
基材11における表面層111側の面の表面抵抗率は、1.0×1013Ω/□以下であることが好ましく、特に1.0×1012Ω/□以下であることが好ましく、さらには1.0×1011Ω/□以下であることが好ましい。これにより、本実施形態に係るワーク加工用シート1は優れた帯電防止性を発揮することができる。なお、上記表面抵抗率の下限値は特に限定されず、例えば、1.0×108Ω/□以上であってよく、特に1.0×109Ω/□以上であってよい。本明細書における表面抵抗率の測定方法の詳細は、後述する試験例に記載の通りである。
【0088】
1-2.粘着剤層
本実施形態における粘着剤層12を構成する粘着剤としては、被着体に対する十分な粘着力(特に、ワークの加工を行うために十分となるような対ワーク粘着力)を発揮することができる限り、特に限定されない。粘着剤層12を構成する粘着剤の例としては、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリビニルエーテル系粘着剤等が挙げられる。これらの中でも、所望の粘着力を発揮し易いという観点から、アクリル系粘着剤を使用することが好ましい。
【0089】
本実施形態における粘着剤層12を構成する粘着剤は、活性エネルギー線硬化性を有しない粘着剤であってもよいものの、活性エネルギー線硬化性を有する粘着剤(以下、「活性エネルギー線硬化性粘着剤」という場合がある。)であることが好ましい。粘着剤層12が活性エネルギー線硬化性粘着剤から構成されていることで、活性エネルギー線の照射により粘着剤層12を硬化させて、ワーク加工用シート1の被着体に対する粘着力を容易に低下させることができる。特に、活性エネルギー線の照射によって、加工後のワークを当該ワーク加工用シート1から容易に分離することが可能となる。
【0090】
粘着剤層12を構成する活性エネルギー線硬化性粘着剤としては、活性エネルギー線硬化性を有するポリマーを主成分とするものであってもよいし、活性エネルギー線非硬化性ポリマー(活性エネルギー線硬化性を有しないポリマー)と少なくとも1つ以上の活性エネルギー線硬化性基を有するモノマーおよび/またはオリゴマーとの混合物を主成分とするものであってもよい。また、活性エネルギー線硬化性粘着剤は、活性エネルギー線硬化性を有するポリマーと、少なくとも1つ以上の活性エネルギー線硬化性基を有するモノマーおよび/またはオリゴマーとの混合物であってもよい。
【0091】
上記活性エネルギー線硬化性を有するポリマーは、側鎖に活性エネルギー線硬化性を有する官能基(活性エネルギー線硬化性基)が導入された(メタ)アクリル酸エステル重合体(以下「活性エネルギー線硬化性重合体」という場合がある。)であることが好ましい。この活性エネルギー線硬化性重合体は、官能基含有モノマー単位を有するアクリル系重合体と、その官能基に結合する官能基を有する不飽和基含有化合物とを反応させて得られるものであることが好ましい。なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸およびメタクリル酸の両方を意味する。他の類似用語も同様である。さらに、「重合体」には「共重合体」の概念も含まれるものとする。
【0092】
上述した官能基含有モノマー単位を有するアクリル系重合体は、官能基含有モノマーとともに、その他のモノマーを重合させてなるものであってよい。このような官能基含有モノマーおよびその他のモノマー、ならびに上述した不飽和基含有化合物としては、公知のものを使用することができ、例えば国際公開第2018/084021号に開示されるものを使用することができる。
【0093】
上記活性エネルギー線硬化性重合体の重量平均分子量は、1万以上であることが好ましく、特に15万以上であることが好ましく、さらには20万以上であることが好ましい。また、当該重量平均分子量は、150万以下であることが好ましく、特に100万以下であることが好ましい。なお、本明細書における重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により測定した標準ポリスチレン換算の値である。
【0094】
上述した活性エネルギー線非硬化性ポリマー成分としては、例えば、不飽和基含有化合物を反応させる前の上記アクリル系重合体を使用することができる。
【0095】
上記活性エネルギー線非硬化性ポリマー成分としてのアクリル系重合体の重量平均分子量は、1万以上であることが好ましく、特に15万以上であることが好ましく、さらには20万以上であることが好ましい。また、当該重量平均分子量は、150万以下であることが好ましく、特に100万以下であることが好ましい。
【0096】
また、上述した少なくとも1つ以上の活性エネルギー線硬化性基を有するモノマーおよび/またはオリゴマーとしては、例えば、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル等を使用することができる。
【0097】
なお、活性エネルギー線硬化性粘着剤を硬化させるための活性エネルギー線として紫外線を用いる場合には、当該粘着剤に対して、光重合開始剤を添加することが好ましい。また、当該粘着剤には、活性エネルギー線非硬化性ポリマー成分またはオリゴマー成分や、架橋剤等を添加してもよい。
【0098】
本実施形態における粘着剤層12の厚さは、1μm以上であることが好ましく、特に3μm以上であることが好ましく、さらには5μm以上であることが好ましい。また、粘着剤層12の厚さは、70μm以下であることが好ましく、特に30μm以下であることが好ましく、さらには15μm以下であることが好ましい。粘着剤層12の厚さが上述した範囲であることで、本実施形態に係るワーク加工用シート1が所望の粘着性を発揮し易いものとなる。
【0099】
1-3.剥離シート
本実施形態に係るワーク加工用シート1では、粘着剤層12における基材11とは反対側の面(以下、「粘着面」という場合がある。)をワークに貼付するまでの間、当該面を保護する目的で、当該面に剥離シートが積層されていてもよい。
【0100】
上記剥離シートの構成は任意であり、プラスチックフィルムを剥離剤等により剥離処理したものが例示される。当該プラスチックフィルムの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、およびポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィンフィルムが挙げられる。上記剥離剤としては、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系等を用いることができ、これらの中でも、安価で安定した性能が得られるシリコーン系が好ましい。
【0101】
上記剥離シートの厚さについては特に制限はなく、例えば、16μm以上、250μm以下であってよい。
【0102】
1-4.その他
本実施形態に係るワーク加工用シート1では、粘着剤層12における基材11とは反対側の面に接着剤層が積層されていてもよい。この場合、本実施形態に係るワーク加工用シート1は、ダイシング・ダイボンディングシートとして使用することができる。当該シートでは、接着剤層における粘着剤層12とは反対側の面にワークを貼付し、当該ワークとともに接着剤層をダイシングすることで、個片化された接着剤層が積層されたチップを得ることができる。当該チップは、この個片化された接着剤層によって、当該チップが搭載される対象に対して容易に固定することが可能となる。上述した接着剤層を構成する材料としては、熱可塑性樹脂と低分子量の熱硬化性接着成分とを含有するものや、Bステージ(半硬化状)の熱硬化型接着成分を含有するもの等を用いることが好ましい。
【0103】
また、本実施形態に係るワーク加工用シート1では、粘着剤層12における粘着面に保護膜形成層が積層されていてもよい。この場合、本実施形態に係るワーク加工用シート1は、保護膜形成兼ダイシング用シートとして使用することができる。このようなシートでは、保護膜形成層における粘着剤層12とは反対側の面にワークを貼付し、当該ワークとともに保護膜形成層をダイシングすることで、個片化された保護膜形成層が積層されたチップを得ることができる。当該ワークとしては、片面に回路が形成されたものが使用されることが好ましく、この場合、通常、当該回路が形成された面とは反対側の面に保護膜形成層が積層される。個片化された保護膜形成層は、所定のタイミングで硬化させることで、十分な耐久性を有する保護膜をチップに形成することができる。保護膜形成層は、未硬化の硬化性接着剤からなることが好ましい。
【0104】
2.ワーク加工用シートの物性
本実施形態に係るワーク加工用シート1では、粘着剤層12における基材11とは反対側の面(粘着面)の表面抵抗率が、1.0×1013Ω/□以下であることが好ましく、特に1.0×1012Ω/□以下であることが好ましく、さらには1.0×1011Ω/□以下であることが好ましい。これにより、本実施形態に係るワーク加工用シート1は優れた帯電防止性を有するということができる。なお、上記表面抵抗率の下限値は特に限定されず、例えば、1.0×108Ω/□以上であってよく、特に1.0×109Ω/□以上であってよい。なお、粘着剤層12が活性エネルギー線硬化性の場合、上記表面抵抗率は、粘着剤層12に対し活性エネルギー線を照射し、当該粘着剤層12を硬化させた後の値とする。
【0105】
3.ワーク加工用シートの製造方法
本実施形態に係るワーク加工用シート1の製造方法は特に限定されない。例えば、剥離シート上に粘着剤層12を形成した後、当該粘着剤層12における剥離シートとは反対側の面に基材11における表面層111側の面を積層することで、ワーク加工用シート1を得ることが好ましい。
【0106】
上述した粘着剤層12の形成は、公知の方法により行うことができる。例えば、粘着剤層12を形成するための粘着性組成物、および所望によりさらに溶媒または分散媒を含有する塗布液を調製する。そして、剥離シートの剥離性を有する面(以下、「剥離面」という場合がある。)に上記塗布液を塗布する。続いて、得られた塗膜を乾燥させることで、粘着剤層12を形成することができる。
【0107】
上述した塗布液の塗布は公知の方法により行うことができ、例えば、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等により行うことができる。なお、塗布液は、塗布を行うことが可能であればその性状は特に限定されず、粘着剤層12を形成するための成分を溶質として含有する場合もあれば、分散質として含有する場合もある。また、剥離シートは工程材料として剥離してもよいし、被着体に貼付するまでの間、粘着剤層12を保護していてもよい。
【0108】
粘着剤層12を形成するための粘着性組成物が前述した架橋剤を含有する場合には、上記の乾燥の条件(温度、時間など)を変えることにより、または加熱処理を別途設けることにより、塗膜内のポリマー成分と架橋剤との架橋反応を進行させ、粘着剤層12内に所望の存在密度で架橋構造を形成することが好ましい。さらに、上述した架橋反応を十分に進行させるために、粘着剤層12と基材11とを貼り合わせた後、例えば23℃、相対湿度50%の環境に数日間静置するといった養生を行ってもよい。
【0109】
4.ワーク加工用シートの使用方法
本実施形態に係るワーク加工用シート1は、半導体ウエハ等のワークの加工のために使用することができる。すなわち、本実施形態に係るワーク加工用シート1の粘着面をワークに貼付した後、ワーク加工用シート1上にてワークの加工を行うことができる。当該加工に応じて、本実施形態に係るワーク加工用シート1は、バックグラインドシート、ダイシングシート、エキスパンドシート、ピックアップシート等として使用されることとなる。ここで、ワークの例としては、半導体ウエハ、半導体パッケージ等の半導体部材、ガラス板等のガラス部材が挙げられる。
【0110】
本実施形態に係るワーク加工用シート1は、前述した通り、回転する丸刃を用いたダイシングに使用した場合に、切削片、特に糸状の切削片の発生を良好に抑制することができる。そのため、本実施形態に係るワーク加工用シート1は、上述したワーク加工用シートの中でも、特にダイシングシートとして使用することが好適である。
【0111】
さらに、本実施形態に係るワーク加工用シート1は、前述した通り、優れた帯電防止性を有する。本実施形態に係るワーク加工用シート1は、剥離シートを分離する際や、ワークを分離する際の剥離帯電を抑制することができる。さらに、本実施形態に係るワーク加工用シート1は、スピナーテーブルにワーク加工用シートを固定した状態で、チップの洗浄および乾燥を行った後、スピナーテーブルからワーク加工用シートを引き離す際における剥離帯電も効果的に抑制することができる。そのため、本実施形態に係るワーク加工用シート1は、このような洗浄・乾燥にも好適に使用することができる。
【0112】
なお、本実施形態に係るワーク加工用シート1が前述した接着剤層を備える場合には、当該ワーク加工用シート1は、ダイシング・ダイボンディングシートとして使用することができる。さらに、本実施形態に係るワーク加工用シート1が前述した保護膜形成層を備える場合には、当該ワーク加工用シート1は、保護膜形成兼ダイシング用シートとして使用することができる。
【0113】
また、本実施形態に係るワーク加工用シート1における粘着剤層12が、前述した活性エネルギー線硬化性粘着剤から構成される場合には、使用の際に、次のような活性エネルギー線の照射することも好ましい。すなわち、ワーク加工用シート1上にてワークの加工が完了し、加工後のワークをワーク加工用シート1から分離する場合に、当該分離の前に粘着剤層12に対して活性エネルギー線を照射することが好ましい。これにより、粘着剤層12が硬化して、加工後のワークに対する粘着シートの粘着力が良好に低下し、加工後のワークの分離が容易となる。
【0114】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0115】
例えば、本実施形態に係るワーク加工用シート1における基材11と粘着剤層12との間、または基材11における粘着剤層12とは反対側の面には、他の層が積層されていてもよい。また、表面層111における中間層112とは反対側の面、表面層111と中間層112との間、中間層112と裏面層113との間、および、裏面層113における中間層112とは反対側の面には、それぞれ他の層が積層されていてもよい。
【実施例0116】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0117】
〔実施例1〕
(1)基材の作製
ランダムポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ社製,製品名「ノバテック FX3B」)28質量部、オレフィン系エラストマー(日本ポリプロ社製,製品名「ウェルネクス RFX4V」)42質量部、および高分子型帯電防止剤(三洋化成社製,製品名「ペレクトロンPVL」)30質量部を、各々乾燥させた後、二軸混錬機にて混錬することで、表面層用および裏面層用のペレットを得た。
【0118】
また、ランダムポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ社製,製品名「ノバテック FX3B」)30質量部、オレフィン系エラストマー(日本ポリプロ社製,製品名「ウェルネクス RFX4V」)45質量部、およびスチレン系エラストマーとしてのスチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(SEBS)(旭化成社製,製品名「タフテックH1041」,スチレン比率:30質量%)25質量部を、各々乾燥させた後、二軸混錬機にて混錬することで、中間層用ペレットを得た。
【0119】
上記の通り得られた2種のペレットを用いて、小型Tダイ押出機(東洋精機製作所社製,製品名「ラボプラストミル」)によって共押出成形し、厚さ4μmの表面層と厚さ72μmの中間層と厚さ4μmの裏面層とが順に積層されてなる3層構造の基材を得た。
【0120】
(2)粘着性組成物の調製
アクリル酸n-ブチル60質量部と、メタクリル酸メチル10質量部と、アクリル酸2-ヒドロキシエチル30質量部とを、溶液重合法により重合させて、(メタ)アクリル酸エステル重合体を得た。続いて、上記(メタ)アクリル酸エステル重合体を構成するアクリル酸2-ヒドロキシエチルに対して80モル%に相当する量の2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)を添加するとともに、スズ含有触媒としてのジブチル錫ジラウレート(DBTDL)を、上記(メタ)アクリル酸エステル重合体100質量部に対して0.13質量部の量で添加した。その後、50℃で24時間反応させることで、側鎖に活性エネルギー線硬化性基が導入された(メタ)アクリル酸エステル重合体を得た。当該活性エネルギー線硬化型重合体の重量平均分子量を後述の方法によって測定したところ、50万であった。
【0121】
上記で得られた、側鎖に活性エネルギー線硬化性基が導入された(メタ)アクリル酸エステル重合体100質量部(固形分換算,以下同じ)と、光重合開始剤としての2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン(BASF社製,製品名「オムニラッド127」)2質量部と、架橋剤としてのトリメチロールプロパン変性トリレンジイソシアネート(東ソー社製,製品名「コロネートL」)1質量部とを溶媒中で混合し、粘着性組成物の塗布液を得た。
【0122】
(3)粘着剤層の形成
厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの片面にシリコーン系の剥離剤層が形成されてなる剥離シート(リンテック社製,製品名「SP-PET381031」)の剥離面に対して、上記工程(2)で得られた粘着性組成物の塗布液を塗布し、加熱により乾燥させることで、剥離シート上に、厚さ5μmの粘着剤層が形成されてなる積層体を得た。
【0123】
(4)粘着シートの作製
上記工程(1)で得られた基材における表面層側の面にコロナ処理を施し、、上記工程(3)で得られた積層体における粘着剤層側の面とを貼り合わせることで、ワーク加工用シートを得た。
【0124】
ここで、前述した重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で測定(GPC測定)した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
<測定条件>
・測定装置:東ソー社製,HLC-8320
・GPCカラム(以下の順に通過):東ソー社製
TSK gel superH-H
TSK gel superHM-H
TSK gel superH2000
・測定溶媒:テトラヒドロフラン
・測定温度:40℃
【0125】
〔実施例2~3,比較例1~3〕
基材の各層を形成するためのペレットの組成および各層の厚さを表1に記載の通り変更した以外、実施例1と同様にしてワーク加工用シートを製造した。なお、実施例2及び3においては、表面層に、さらに酸変性樹脂としてのエチレン-アクリル酸エチル共重合体の無水マレイン酸付加物(SK Functional polymer社製,製品名「BONDINE LX4110」,アクリル酸エチル含有量:5質量%,酸成分量:3質量%)を15質量部配合した。
【0126】
また、比較例1では、スチレン系エラストマーとして、スチレン-エチレン/エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)(クラレ社製,「ハイブラー7311F」,スチレン比率:12質量%)を使用した。比較例2及び3では、スチレン系エラストマーとして、エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(SEBS)(旭化成社製,製品名「タフテックH1062」,スチレン比率:18質量%)を使用した。
【0127】
〔比較例4〕
実施例1と同様の装置を使用して、単層のエチレン-メタクリル酸共重合体(三井・ダウポリケミカル社製,製品名「ニュクレル N0903HC」)からなるフィルムを作製した。得られたフィルムにおける粘着剤層積層側の面に、10kGyの電子線を2.2秒、1回照射したものを基材とした。この基材を使用し、実施例1と同様にしてワーク加工用シートを製造した。
【0128】
〔比較例5〕
実施例1と同様の装置を使用して、単層のエチレン-メタクリル酸共重合体(三井・ダウポリケミカル社製,製品名「ニュクレル N0903HC」)からなるフィルムを作製した。得られたフィルムにおける粘着剤層積層側の面に、10kGyの電子線を2.2秒ずつ、2回照射したものを基材とした。この基材を使用し、実施例1と同様にしてワーク加工用シートを製造した。
【0129】
〔試験例1〕(粘弾性測定)
実施例および比較例にて製造した基材(厚さ80μm)を、長辺20mm(チャック間距離)、短辺4mmに切り出し、これをサンプルとした。このとき、基材のMD方向が長辺方向となるようにした。
【0130】
動的粘弾性測定(エー・アンド・ディー社製,製品名「レオバイブロン(登録商標)DDV-01FP」)を使用し、上記サンプルについて、下記の測定条件にて粘弾性測定を行い、損失弾性率および貯蔵弾性率を取得した。
【0131】
得られた測定値から、90℃、110℃および120℃における損失正接tanδ(損失弾性率/貯蔵弾性率)を求めた(それぞれ、tanδ(90)、tanδ(100)、tanδ(110)、tanδ(120)で示す)。また、それらの結果から、tanδ(110)/tanδ(90)およびtanδ(120)/tanδ(110)を算出した。結果を表2に示す。
<測定条件>
測定温度範囲:-30℃~120℃
昇温速度:1℃/min
測定モード:引張
周波数:11Hz
【0132】
〔試験例2〕(表面抵抗率の測定)
実施例および比較例にて製造した基材を、23℃、50%相対湿度下で24時間調湿したのち、表面層側の面の表面抵抗率を、DIGITAL ELECTROMETER(ADVANTEST社製)を用いて印加電圧100Vで測定した。結果を表2に示す。
【0133】
また、実施例および比較例にて製造したワーク加工用シートを100mm×100mmに裁断し、これを表面抵抗率測定用サンプルとした。当該表面抵抗率測定用サンプルにおける粘着剤層に対し、基材を介して、紫外線照射装置(リンテック社製,製品名「RAD-2000」)を用いて紫外線(UV)を照射し(照度:230mW/cm2,光量:190mJ/cm2)、粘着剤層を硬化させた。当該UV照射後の表面抵抗率測定用サンプルを23℃、50%相対湿度下で24時間調湿したのち、剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層側の面(粘着面)の表面抵抗率を上記と同様に測定した。この結果も表2に示す。
【0134】
〔試験例3〕(帯電防止性の評価)
グラインダー(ディスコ社製,製品名「DFG8540」)を用いて、厚さが350μmとなるまで、6インチシリコンウエハの片面を研削した。当該研削面に対し、ラミネーターを用いて、実施例および比較例にて製造したワーク加工用シートから剥離シートを剥離して露出した粘着剤層の露出面を貼付した。
【0135】
貼付から20分後、ダイシング装置(ディスコ社製,製品名「DFD6362」)を用いて、以下のダイシング条件でダイシングを行うことで、シリコンウエハをチップに個片化した。
ダイシング条件
チップサイズ:10mm×10mm
カッティング高さ:60μm
ブレード:製品名「ZH05-SD2000-Z1-90 CC」
ブレード回転数:35000rpm
切削スピード:60mm/sec
切削水量:1.0L/min
切削水温度:20℃
【0136】
ダイシング後、ワーク加工用シートをスピナーテーブル上に吸着により固定した状態で、上記の通り得られたチップの洗浄および乾燥を行った。そして、スピナーテーブルからワーク加工用シートを持ち上げた直後におけるワーク加工用シートの帯電圧(V)を測定器(Prostat社製,製品名「PFK-100」)を用いて測定した。そして、以下の基準に基づいて、帯電防止性を評価した。帯電圧および評価結果を表2に示す。
○:帯電圧が、300V以下であった。
×:帯電圧が、300V超であった。
【0137】
〔試験例4〕(切削片抑制効果の評価)
実施例および比較例で製造したワーク加工用シートから剥離シートを剥離した後、テープマウンター(リンテック社製,製品名「RAD2500m/12」)を用いて、露出した粘着剤層の露出面を、6インチのシリコンウエハの片面に貼付した。続いて、ワーク加工用シートにおける上記露出面の周縁部(シリコンウエハとは重ならない位置)に、ダイシング用リングフレームを付着させた。さらに、リングフレームの外径に合わせてワーク加工用シートを裁断した。
【0138】
その後、ダイシング装置(ディスコ社製,製品名「DFD6362」)を用いて、以下のダイシング条件でダイシングを行うことで、シリコンウエハを、0.8mm×20mmのサイズを有するチップに個片化した。
ダイシング条件
ウエハの厚さ:100μm
ブレード:以下のZ1およびZ2,ともにディスコ社製
Z1:製品名「ZH05-SD3500-N1-50 DF01」
Z2:製品名「ZH05-SD3000-N1-50 ED」
ブレード回転数
Z1:50000rpm
Z2:35000rpm
切削速度:100mm/sec
ブレードハイト
Z1:0.135mm
Z2:0.055mm
切削水量:1.0L/min
切削水温度:20℃
【0139】
ダイシング後、得られたチップ1000個の表面を、外観検査装置(Camtek社製,製品名「Eagle」)を用いて観察し、切削片数を計測した。そして、1チップ当たりの切削片数(=切削片発生頻度)を算出した。結果を表2に示す。
【0140】
そして、以下の基準に基づいて、切削片抑制効果を評価した。評価結果を表2に示す。
〇:切削片発生頻度が0.002未満であった。
×:切削片発生頻度が0.002以上であった。
【0141】
【0142】
【0143】
表2から明らかなように、実施例で製造したワーク加工用シートは、優れた帯電防止性を示しながらも、切削片の発生を良好に抑制した。