(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022015639
(43)【公開日】2022-01-21
(54)【発明の名称】ハイドロキシアパタイト粒子分散液及びハイドロキシアパタイト付着基材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 25/32 20060101AFI20220114BHJP
【FI】
C01B25/32 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020118622
(22)【出願日】2020-07-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(72)【発明者】
【氏名】土肥 政文
(57)【要約】
【課題】基材に簡便な方法で付着させることが可能で、消臭性及び抗菌性に優れたハイドロキシアパタイト付着基材を得ることが可能なハイドロキシアパタイト粒子分散液を提供すること。
【解決手段】ハイドロキシアパタイト粒子と、該粒子を分散する分散媒体とを含む、ハイドロキシアパタイト粒子分散液であって、ハイドロキシアパタイト粒子の、体積平均粒子径(MV)、面積平均粒子径(MA)及び個数平均粒子径(MN)は、それぞれ、4.8~8.6μm、3.4~6.9μm及び0.3~10.0μmである、ハイドロキシアパタイト粒子分散液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイドロキシアパタイト粒子と、該粒子の分散媒体とを含む、ハイドロキシアパタイト粒子分散液であって、
前記ハイドロキシアパタイト粒子の、体積平均粒子径(MV)、面積平均粒子径(MA)及び個数平均粒子径(MN)は、それぞれ、4.8~8.6μm、3.4~6.9μm及び0.3~10.0μmである、ハイドロキシアパタイト粒子分散液。
【請求項2】
前記MVに対する前記MAの比(MA/MV)は、0.71~0.79である、請求項1に記載のハイドロキシアパタイト粒子分散液。
【請求項3】
前記MV及び前記MAは、それぞれ、6.3~8.3μm及び4.6~6.6μmである、請求項1又は2に記載のハイドロキシアパタイト粒子分散液。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のハイドロキシアパタイト粒子分散液に含まれるハイドロキシアパタイト粒子を、膜状に基材に保持させる工程を備える、ハイドロキシアパタイト付着基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロキシアパタイト粒子分散液及びハイドロキシアパタイト付着基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Ca10(PO4)6(OH)2で表される水酸化リン酸カルシウムは、一般にハイドロキシアパタイトと呼ばれ、歯のエナメル質の約97%がハイドロキシアパタイトから構成されることからも分かるように、高い生体親和性を有する材料である。ハイドロキシアパタイトは種々の形態に加工して用いられ、基材に付着させたものとしては、特許文献1に記載された例がある。
【0003】
ハイドロキシアパタイトの用途としては、非特許文献1には、生体用材料としての用途の他、タンパク質、アミノ酸、糖類、DNA等の吸着分離剤、触媒、無機イオン交換体、抗菌剤、防黴剤等への用途が期待されると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日本セラミックス協会学術論文誌、101(1174)、659-664、1993
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ハイドロキシアパタイトは原料や製法により種々の形態をとり得る上に、Ca10(PO4)6(OH)2の成分以外の微量成分を含み得ることから、特定の効果を発揮させるためにどのような形態が適しているのかは十分に解明されていないのが現状である。
【0007】
本発明の目的は、ハイドロキシアパタイト粒子を含む分散液であって、基材に簡便な方法で付着させることが可能で、消臭性及び抗菌性に優れたハイドロキシアパタイト付着基材を得ることが可能な分散液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ハイドロキシアパタイト粒子と、この粒子の分散媒体とを含む、ハイドロキシアパタイト粒子分散液であって、ハイドロキシアパタイト粒子の体積平均粒子径(MV)、面積平均粒子径(MA)及び個数平均粒子径(MN)は、それぞれ、4.8~8.6μm、3.4~6.9μm及び0.3~10.0μmである、ハイドロキシアパタイト粒子分散液を提供する。
【0009】
本発明のハイドロキシアパタイト粒子分散液は、MV、MA及びMNを上記範囲とすることを特徴としており、これにより、基材に簡便な方法で付着させることが可能になり、また、分散媒体が揮発した後のハイドロキシアパタイトは、非常に優れた消臭性及び抗菌性を発揮する。
【0010】
ハイドロキシアパタイトは、構造式がCa10(PO4)6(OH)2で表されるものであったとしても、原料の種類や合成法により種々の形態(例えば、結晶構造や凝集構造)をとり得るため、消臭性又は抗菌性がどのような因子と関連しているのかは従来不明であった。このような状況の中、ハイドロキシアパタイトの消臭性及び抗菌性が、平均粒子径に影響を受けること、特に、MV、MA及びMNに影響を受け、これらを特定範囲にすることにより消臭性及び抗菌性が顕著に向上することが今回初めて見出された。なお、MNについては、合成後のハイドロキシアパタイト粒子分散液の性状を示すものとして測定された例は知られているが、性状の特定のためにはMNで十分であるため、MV及びMAが検討されることはなく、MV及びMAと機能の相関については従来顧みられることはなかった。
【0011】
本発明のハイドロキシアパタイト粒子分散液は、基材に簡便な方法で付着させることが可能である。すなわち、基材加工性(基材表面への付着性)に優れる。ここで、通常、付着の態様としては、粒子状に付着する態様(ハイドロキシアパタイトの一次粒子又は二次粒子が、連続した膜としてではなく粒子として基材に付着する態様)と、展着する態様(ハイドロキシアパタイト粒子が膜状に基材に付着する態様)とがあるが、本発明のハイドロキシアパタイト付着基材の製造方法において、基材表面への付着は、上記展着する態様を意味する。なお、ハイドロキシアパタイト粒子は基材表面に付着するが、ここでいう表面は、最表面をのみを意味するものではなく、基材の内部の表面をも意味する。すなわち、基材が、多孔質、マルチフィラメント繊維、不織布等の場合は、最表面のみならず、その内部にも付着する。
【0012】
MVに対するMAの比(MA/MV)は、0.71~0.79であることが好ましい。MA/MVを上記範囲にすることで、基材加工性がより高い分散液を得ることができる。また、基材上に形成されたハイドロキシアパタイトの消臭性及び抗菌性が更に優れるようになる。
【0013】
MV及びMAは、それぞれ、6.3~8.3μm及び4.6~6.6μmであることが好ましい。MV及びMAをそれぞれ上記範囲にすることで、基材上に形成されたハイドロキシアパタイトの抗菌性が顕著に優れるようになる。
【0014】
本発明はまた、上述したハイドロキシアパタイト粒子分散液に含まれるハイドロキシアパタイト粒子を、膜状に基材に保持させる工程を備える、ハイドロキシアパタイト付着基材の製造方法を提供する。
【0015】
ここで、「膜状」は、上述した展着の態様に対応する。すなわち、上記製造方法によれば、基材に対して、ハイドロキシアパタイト粒子分散液を容易に、展着させることができる。
【0016】
ハイドロキシアパタイトの合成としては、従来、乾式法、湿式法、水熱法が知られている(例えば、国際公開公報00/58209号参照)。乾式法は、カルシウム源(炭酸カルシウム等)とリン酸源(β-リン酸三カルシウム等)を混合して高温加熱し、乾式の固相反応を生じさせる方法である。湿式法は、液相中でカルシウム源(水酸化カルシウム懸濁液等)とリン酸源(リン酸水溶液等)を混合反応させた後に、高温で熟成を行う方法である。また、水熱法はリン酸一水素カルシウム等を原料として、オートクレーブ中で高圧下200℃以上に加熱する方法である。また、ハイドロキシアパタイト粒子分散液を用いた、ハイドロキシアパタイト粒子の付着した基材の製造方法として、ハイドロキシアパタイト粒子分散液中に基材を浸漬し、基材を含むハイドロキシアパタイト粒子分散液を振とうさせながら、加熱する方法が知られている(特許文献1参照)。
【0017】
このように、従来のハイドロキシアパタイト製造法、及び、ハイドロキシアパタイト粒子の付着した基材の製造方法は、条件が複雑であったり、高温加熱が必要であったが、上記本発明の方法によれば、加熱を行うことなく、消臭性及び抗菌性において優れた特性を発揮するハイドロキシアパタイト付着基材を提供することが可能になる。なお、本発明の方法において加熱が禁止されているわけではなく、基材の種類等に従って加温してもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ハイドロキシアパタイト粒子を含む分散液であって、基材に簡便な方法で付着させることが可能で、消臭性及び抗菌性に優れたハイドロキシアパタイト付着基材を提供可能な分散液が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0020】
実施形態に係るハイドロキシアパタイト粒子分散液(以下、単に「分散液」ともいう。)は、ハイドロキシアパタイト粒子と、ハイドロキシアパタイト粒子を分散する分散媒体とを含む。ハイドロキシアパタイト粒子の、MV、MA及びMNは、それぞれ、4.8~8.6μm、3.4~6.9μm及び0.3~10.0μmである。
【0021】
ここで、ハイドロキシアパタイトは、CanA10-n(PO4)mB6-m(OH)2(Aは、Sr2+、Pb2+、Mg2+、Zn2+、Mn2+、Fe2+、Na+、K+から選択される陽イオンであり、BはCO3
2‐、SO4
2‐、SiO4
2‐から選ばれる陰イオンであり、n=0~10、m=0~6である。)で表される化合物を意味する。したがって、Ca10(PO4)6(OH)2で表される化合物はその一態様として含まれる。
【0022】
MVは、6.3~8.3μmであることが好ましく、6.7~7.7μmであることがより好ましい。MAは、4.6~6.6μmであることが好ましく、5.1~6.1μmであることがより好ましい。MNは、0.4~6.0μmであることが好ましく、1.8~4.4μmであることがより好ましく、2.7~3.9μmであることがさらに好ましく、2.8~3.8μmであることが特に好ましい。
【0023】
ハイドロキシアパタイト粒子のMVに対するMAの比(MA/MV)は、0.71~0.79であることが好ましく、0.74~0.78であることがより好ましい。
【0024】
ハイドロキシアパタイト粒子の粒子径の標準偏差(SD)は、2.5~3.8μmであることが好ましく、3.1~3.7μmであることがより好ましい。
【0025】
ハイドロキシアパタイト粒子の粒子径のピーク径は、4.1~7.7μmであることが好ましく、5.5~7.3μmであることがより好ましい。
【0026】
分散液におけるハイドロキシアパタイト粒子の濃度は、例えば、0.01~30質量%であることが好ましく、0.1~20質量%であることがより好ましく、0.5~10質量%であることがさらに好ましい。分散液におけるハイドロキシアパタイト粒子の濃度が上記範囲であると、ハイドロキシアパタイト粒子の基材表面への付着性が高まるだけでなく、基材の内部への浸透性も高まる。このことは、実施形態に係る分散液が、高い基材加工性を有しているため、濃度を上記範囲のように低くすることができるともいうことができる。したがって、実施形態に係る分散液を用いれば、ハイドロキシアパタイト付着基材の製造にかかるコストを削減することができる。
【0027】
分散液は、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、顔料、水系分散剤、防腐剤、消臭分解剤、抗菌剤、抗かび剤、抗ウィルス剤が挙げられる。これらは、有機物質(タンパク質等の生体物質を含む)でもよく、無機物質(酸化チタン等の金属触媒、微粒子セラミックス、微粒子ガラスを含む)でもよい。
【0028】
分散液を得る方法に関し、分散媒体が水の場合について説明する。まず、水酸化カルシウム及びリン酸を水にそれぞれ溶解させ、水酸化カルシウム溶液及びリン酸溶液を得る(なお、溶液に代えて懸濁液を用いてもよい。)。次に、(1)水酸化カルシウム溶液に対して、リン酸溶液を段階的に滴下し、攪拌させながら反応させる、(2)リン酸溶液に対して、水酸化カルシウム溶液を段階的に滴下し、攪拌させながら反応させる、(3)水に、水酸化カルシウム溶液及びリン酸溶液を段階的に滴下して、攪拌させながら反応させる等の工程を実施することができる。
【0029】
MV、MA及びMNを、それぞれ、4.8~8.6μm、3.4~6.9μm及び0.3~10.0μmにするためには、例えば、前述した方法において、カルシウム源の溶液(水酸化カルシウム溶液)及びリン酸源の溶液(リン酸溶液)の濃度、反応温度、反応中の温度変化量、反応中の攪拌速度、反応時間、反応後の分散液保管温度、反応後の分散液保管期間を後述の範囲で調節する方法が挙げられる。製造時に着目すれば、カルシウム源の溶液(水酸化カルシウム溶液)及びリン酸源の溶液(リン酸溶液)の濃度、反応温度、反応中の温度変化量、反応中の攪拌速度及び反応時間の少なくとも1つ(好ましくは全て)を後述の範囲で調節するとよい。
【0030】
水酸化カルシウム溶液の濃度は0.0005~0.0200mol/L、前記リン酸溶液の濃度は0.0003~0.0120mol/Lにすることができる。ここで、リン原子に対するカルシウム原子のモル比は、例えば1.67±0.33であり、1.67±0.10又は1.67にしてもよい。この濃度範囲において、より高い濃度に調節すると、MV、MA及びMNの値が大きくなる傾向がある。一方、水酸化カルシウム溶液の濃度及びリン酸溶液の濃度、特に水酸化カルシウム溶液の濃度を、前述の濃度範囲を超えた高い濃度とし、溶解しない水酸化カルシウムが存在するようになると、MV、MA及びMNの値は、前述した数値範囲よりも低い値となる傾向がある。
【0031】
反応温度、すなわち、分散媒体、水酸化カルシウム溶液、リン酸溶液の温度は、0℃超40℃以下にすることができる。ここで、ハイドロキシアパタイト粒子及びその分散液を製造する際には、乾式法、湿式法及び水熱法のように、カルシウム源とリン酸源となる出発物質又はそれらの混合反応物を加熱して高い温度にするのが一般的である。しかし、今回、上記のような低い温度範囲であっても、目的のMV、MA及びMNを有するハイドロキシアパタイト粒子及びその分散液が得られることが分かった。よって、上記方法によれば、分散液の製造にかかるコストを低減することができる。但し、上記方法において加熱して高い温度にすることが妨げられるわけではない。なお、上記温度範囲において、より高い温度に調節すると、MV、MA及びMNの値が大きくなる傾向がある。
【0032】
反応中の温度変化量、すなわち、反応の開始から反応の終了までの間における、分散媒体、水酸化カルシウム溶液、リン酸溶液それぞれの最高温度と最低温度の差は、5℃以下にすることができる。この温度変化量範囲内において、より小さい温度変化量に調節すると、MV、MA及びMNの値が大きくなる傾向がある。
【0033】
反応中の攪拌速度は、円柱状の容器を用い、容器の内径に対する攪拌子の長さ(容器の内径方向の攪拌子の長さ)の比が0.18~0.25であり、鋭利ではない攪拌子を用いた場合に、100~1000回/分にすることができる。この攪拌速度範囲において、より低い攪拌速度に調節すると、ハイドロキシアパタイトに働くせん断応力が低くなるため、MV、MA及びMNの値が大きくなる傾向がある。なお、円柱状の容器としては、内径14cmの2Lビーカーや、内径19cmの5Lビーカー等を用いることができ、攪拌子としては、幅(容器の内径方向の長さ)3.5cmの十字状攪拌子を用いることができる。
【0034】
反応時間、すなわち、水酸化カルシウム溶液及び/又はリン酸溶液の第1段階目の滴下を開始し、攪拌を開始してから、所定量の溶液の滴下を完了させ、攪拌を停止させるまでの時間、は、0.5~48時間にすることができる。この時間範囲において、より長い反応時間に調節すると、MV、MA及びMNの値が大きくなる傾向がある。
【0035】
反応後の分散液保管温度は、0℃超40℃以下にすることができる。この温度範囲において、より高い分散液保管温度に調節すると、MV、MA及びMNの値が大きくなる傾向がある。
【0036】
反応後の分散液保管期間は、1日以上2年以下にすることができる。この時間範囲において、より長い分散液保管期間に調節すると、MV、MA及びMNの値が大きくなる傾向がある。なお、分散液の保管は、上述した温度範囲で、冷暗所で行ってよい。
【0037】
分散媒体は、作業場の安全性を確保するため、水であることが好ましいが、分散媒体が水のみで構成されている必要はない。例えば、分散媒体はアルコール(エタノール、メタノール等)等の他の成分を含んでいてよい。
【0038】
ハイドロキシアパタイト付着基材は、分散液に由来するハイドロキシアパタイト粒子を、膜状に基材に保持させることで製造することができる。ハイドロキシアパタイト粒子を基材の表面に保持させる方法としては、例えば、吸尽処理、スプレー処理、塗布処理、パディング処理、浸漬処理等が挙げられる。また、ハイドロキシアパタイト粒子分散液を製造する際の反応浴に基材を浸漬しておき、ハイドロキシアパタイト粒子の製造と基材表面へのハイドロキシアパタイト付着を同時に行うこともできる。これらの処理を行う際、温度及び圧力は任意に選択可能である。
【0039】
上記処理のうち、浸漬処理を例にとって説明する。基材を分散液に浸漬する時間は、例えば、数秒間~数時間とすることができる。また、分散液の温度は基材の性質に従って適宜選択する。本発明の分散液を用いる場合は、分散液及び基材を加熱せずとも消臭性及び抗菌性に優れたハイドロキシアパタイト粒子が膜状に付着した基材を得ることができる。但し、分散液を加熱することが妨げられるわけではない。浸漬後、分散液から基材を取り出す。取り出した基材を洗浄して、基材に付着した余分な分散液を洗い流してもよい。また、分散液から取り出した基材を乾燥させてもよい。乾燥方法に特に制限はなく、自然乾燥及び強制乾燥のいずれでもよい。但し、乾燥時の温度を120℃以下とするのが好ましく、115℃以下とするのがより好ましい。乾燥温度を上記範囲にすることで、分散媒体の蒸発に伴うハイドロキシアパタイト粒子の脱落を抑制することができる。
【0040】
ハイドロキシアパタイト粒子を付着させる基材としては、木材、綿、羊毛、麻、パルプ(木材パルプ、リンターパルプ等)等の天然素材;レーヨン、タンパク繊維、コラーゲン繊維等の再生繊維素材;アセテート等の半合成素材;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ポリウレタン等の合成樹脂素材;ガラス、石膏、炭素、活性炭素、チタン、アルミナ、ジルコニア、ステンレス等の無機素材等を含むものが挙げられる。これらの素材は単独で基材としてもよく、2以上の素材を組み合わせて基材としてもよい。分散媒体として水を使用する場合には、親水性の基材を用いることで、分散液が基材に浸透しやすくなり、ハイドロキシアパタイト粒子が基材の表面に付着しやすくなる。親水性の基材としては、木材、パルプ、綿等の天然素材が挙げられる。また、基材に前処理をすることなく、上述した浸漬処理等の処理に付すことができる。なお、上記処理前に基材を洗浄したり、塗料等のコーティング剤で塗装したりすることが妨げられるわけではない。
【0041】
基材の形状は特に限定されず、板状、シート状、フィルム状等の平面形状にすることができる。平面形状の基材としては、例えば、石膏ボード、木材ボード、板紙、段ボール紙、織布、不織布、ポリエチレンフィルム、ポリエステルフィルムが挙げられる。なお、本発明において不織布とは、繊維が絡み合ったウェブ構造を有するフェルト等だけでなく、ウェブ構造や抄紙構造を有する紙類も意味する。基材はまた、立体形状にすることもできる。立体形状の基材としては、ポリウレタンを主成分とする樹脂組成物を発泡させた、スポンジ状のポリウレタン発泡フォームや、金属製又はセラミック製フィルターが挙げられる。
【0042】
基材の表面は、平滑であってもよく、凹凸状であってもよく、多孔状であってもよい。
【実施例0043】
以下、実施例に基づき発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
[ハイドロキシアパタイト粒子分散液の調製]
本実施例で用いる分散液は、0.0034mol/Lの水酸化カルシウム水溶液に、0.0021mol/Lのリン酸水溶液を段階的に滴下し、反応温度を20℃、反応中の温度変化量を3℃、攪拌速度を500回/分、反応時間を1時間で反応させ、反応後の分散液保管温度を20℃、反応後の分散液保管期間を3日とすることで調製した。
【0045】
[ハイドロキシアパタイト粒子の粒子径]
分散液中のハイドロキシアパタイト粒子のMV、MA及びMNは、以下の手順で測定した。まず、ハイドロキシアパタイト粒子の濃度が1.0質量となるように分散液を調製した。得られた分散液を、超音波ホモジナイザー(日本精機製作所製、US-150E;振幅24μm;周波数19.5±0.5kHz)で60秒間前処理した。次いで、20℃の条件で、粒子屈折率を1.64、粒子形状を非球形、分散媒体屈折率を水の20℃における屈折率である1.333として、粒度分布測定装置(マイクロトラック社製、MT3300EXII)により粒度分布を測定した。なお、分散媒体が水でない場合には、分散媒体屈折率は当該分散媒体の屈折率に調整する。
【0046】
MVは、分散液中でi番目に大きい粒子の粒子径をdi、その体積をviとして、下記式(1)によって求めた。
【0047】
【0048】
MAは、上記式(1)の体積viを面積aiに置換した下記式(2)によって求めた。
【0049】
【0050】
MNは、下記式(3)によって求めた。
【0051】
【0052】
標準偏差(SD)は、下記式(4)によって求めた。なお、d84%及びd16%は、体積基準での粒度分布において、累積カーブがそれぞれ84%及び16%となる粒子径である。
【0053】
【0054】
[基材加工性]
ハイドロキシアパタイト粒子の濃度が2.0質量%となるように分散液を調製した。得られた分散液を200mlビーカーに入れ、このビーカーに5cm×5cmの大きさに裁断し、表面の有機物質を焼却したガラスクロスを入れた。ガラスクロスを分散液に1秒間浸漬した。次いで、浸漬後のガラスクロスを110℃で5分間乾燥させてハイドロキシアパタイト付着基材を得た。得られたハイドロキシアパタイト付着基材の表面をSEMで観察し、画像処理により、ガラス繊維の表面積に対する、ハイドロキシアパタイト粒子が膜状又は粒状に付着した領域の割合(展着率)を計算した。展着率が70%以上の場合を「A」、展着率が70%未満40%以上の場合を「B」、展着率が40%未満の場合を「C」と評価した。なお、基材加工性の評価が「A」の場合には、ハイドロキシアパタイト粒子は基材表面に膜状に展着している。結果を表1に示す。用いたハイドロキシアパタイト粒子のMVは7.2μm、MAは5.6μm、MNは3.3μmであった。
【0055】
[消臭性]
ハイドロキシアパタイト粒子の濃度が1.0質量%となるように分散液を調製した。得られた分散液を用いて、40cm×30cmのポリエステル85%/綿15%の布帛を、パディング機(辻井染機工業株式会社製、型式:VPM-1A)を用いて、3秒間パディング処理した。次いで、170℃でセット(熱処理)して、評価用サンプル布帛を得た。次いで、評価用サンプル布帛について、SEKマーク繊維製品認証基準(消臭性試験)に基づき、イソ吉草酸の消臭性を評価した。結果を表1に示す。ハイドロキシアパタイト粒子は、基材加工性の評価に用いたものと同一のものを用いた。
【0056】
[抗菌性]
ハイドロキシアパタイト粒子の濃度が1.0質量%となるように分散液を調製した。得られた分散液を用いて、40cm×30cmのポリエステル85%/綿15%の布帛を、パディング機(辻井染機工業株式会社製、型式:VPM-1A)を用いて、3秒間パディング処理した。次いで、170℃でセット(熱処理)して、評価用サンプル布帛を得た。次いで、評価用サンプル布帛について、JIS L1902:2015の菌転写法に準拠して、黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性値を評価した。結果を表1に示す。ハイドロキシアパタイト粒子は、基材加工性の評価に用いたものと同一のものを用いた。
【0057】
(実施例2)
攪拌速度を1000回/分とした他は実施例1と同様にして、MVが5.3μm、MAが3.8μm、MNが2.1μmであるハイドロキシアパタイト粒子を得た。得られたハイドロキシアパタイト粒子を用いて、実施例1と同様にして基材加工性、消臭性及び抗菌性を評価した。結果を表1に示す。
【0058】
(比較例1)
水酸化カルシウム水溶液濃度を0.34mol/Lとし、リン酸水溶液濃度を0.21mol/Lとし、攪拌速度を1500回/分とした他は実施例1と同様にして、MVが4.3μm、MAが3.0μm、MNが1.5μmであるハイドロキシアパタイト粒子を得た。得られたハイドロキシアパタイト粒子を用いた他は、実施例1と同様にして基材加工性、消臭性及び抗菌性を評価した。結果を表2に示す。
【0059】
(比較例2)
水酸化カルシウム水溶液濃度を0.034mol/Lとし、リン酸水溶液濃度を0.021mol/Lとし、攪拌速度を1500回/分とした他は実施例1と同様にして、MVが1.0μm、MAが0.7μm、MNが0.4μmであるハイドロキシアパタイト粒子を得た。得られたハイドロキシアパタイト粒子を用いた他は、実施例1と同様にして基材加工性、消臭性及び抗菌性を評価した。結果を表2に示す。
【0060】
(比較例3)
攪拌速度を20回/分とした他は実施例1と同様にして、MVが10.1μm、MAが8.2μm、MNが5.5μmであるハイドロキシアパタイト粒子を得た。得られたハイドロキシアパタイト粒子を用いた他は、実施例1と同様にして基材加工性、消臭性及び抗菌性を評価した。結果を表2に示す。なお、消臭性及び抗菌性評価用の布帛にハイドロキシアパタイト粒子がほとんど付着しなかったため、消臭性及び抗菌性の評価結果は得られなかった。
【0061】
【0062】