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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156398
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】リアクトル
(51)【国際特許分類】
   H01F 37/00 20060101AFI20221006BHJP
   H01F 27/24 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
H01F37/00 T
H01F37/00 H
H01F27/24 K
H01F37/00 G
H01F37/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060062
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】柴崎 孝輔
(57)【要約】
【課題】生産コストを抑制できるリアクトルを提供する。
【解決手段】リアクトル1は、コイル3と当該コイル3が装着されるコア部4とを有する。コア部4は、磁性体を含むコア本体41と、当該コア本体41を被覆するコア被覆樹脂42と、コア部4を固定するためにコア被覆樹脂42に設けられた固定具5とを有するようにした。そして、固定具5を、コア被覆樹脂42の四隅に設けられ、四隅の固定具5のうち、一方の対角に並ぶ一組は不撓性固定具51であり、他方の対角に並ぶ他の一組は可撓性固定具52とした。また、コア被覆樹脂42は、固定具5を含む当該コア被覆樹脂42の形状が、四隅を含む平面に直交し、コア部4の中心を通る直交軸45に関して線対称の形状であるようにした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルと当該コイルが装着されるコア部とを有するリアクトルであって、
前記コア部は、磁性体を含むコア本体と、当該コア本体の一部又は全部を被覆するコア被覆樹脂と、前記コア部を固定するために前記コア被覆樹脂に設けられた固定具とを有し、
前記固定具は、前記コア被覆樹脂の少なくとも四隅に設けられ、
前記四隅の固定具のうち、一方の対角に並ぶ一組は不撓性固定具であり、他方の対角に並ぶ他の一組は可撓性固定具であり、
前記コア被覆樹脂は、前記固定具を含む当該コア被覆樹脂の形状が、前記四隅を含む平面に直交し、前記コア部の中心を通る直交軸に関して線対称の形状であること、
を特徴とするリアクトル。
【請求項2】
前記コア被覆樹脂は、前記直交軸と直交して前記コア部の中心を通る直線を境に分割され、前記四隅の固定具が2個ずつ分かれて配置される分割被覆樹脂を有し、
前記分割被覆樹脂は、同形同大であること、
を特徴とする請求項1記載のリアクトル。
【請求項3】
前記コア本体は、
平行に並び、前記コイルが装着される複数の脚部と、
前記複数の脚部の両端部に分かれて配置され、複数の脚部の端部を繋ぎ、前記コア本体を閉磁気回路に画成する一対のヨーク部と、
を有し、
前記コア被覆樹脂は、前記複数の脚部の各中央を通る前記直線を境に分割された前記分割被覆樹脂を有すること、
を特徴とする請求項2記載のリアクトル。
【請求項4】
前記コア本体は、
平行に並び、前記コイルが装着される複数の脚部と、
前記複数の脚部の両端部に分かれて配置され、複数の脚部の端部を繋ぎ、前記コア本体を閉磁気回路に画成する一対のヨーク部と、
を有し、
前記四隅の固定具のうちの各2個は、前記各ヨーク部の重心を挟んで配置されていること、
を特徴とする請求項1又は2記載のリアクトル。
【請求項5】
前記コイル及び前記コア部を収容しつつ、前記固定具を介して前記コア部が固定される支持ケースを備えること、
を特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載のリアクトル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアとコイルとを備えるリアクトルに関する。
【背景技術】
【0002】
リアクトルは、電気エネルギーを磁気エネルギーに変換して蓄積及び放出する電磁気部品である。このようなリアクトルは、多種多様の用途に使用されている。代表的なリアクトルとして、昇圧リアクトル、直列リアクトル、並列リアクトル、限流リアクトル、始動リアクトル、分路リアクトル、中性点リアクトル及び消弧リアクトル等が挙げられる。
【0003】
昇圧リアクトルは、ハイブリッド自動車や電気自動車の駆動システム等の車載用の昇圧回路に組み込まれる。直列リアクトルは、電動機回路に直列に接続し短絡時の電流を制限する。並列リアクトルは、並列回路間の電流分担を安定させる。限流リアクトルは、短絡時の電流を制限しこれに接続される。始動リアクトルは、機械を保護する電動機回路に直列に接続して始動電流を制限する。分路リアクトルは、送電線路に並列接続されて進相無効電力の補償や異常電圧を抑制する。中性点リアクトルは、中性点と大地間に接続して電力系統の地絡事故時に流れる地絡電流を制限するために使用する。消弧リアクトルは、三相電力系統の1線地絡時に発生するアークを自動的に消滅させる。
【0004】
リアクトルは主としてコイルとコアとから成る。コイルは、通電により巻数に従って磁束を発生させる。コアは、コイルが発生させた磁束を真空よりも高い透磁率に従って通す閉磁路となる。コアは、コイルとの絶縁を図るために、絶縁性のコア被覆樹脂で被覆される。コア及びコア被覆樹脂は、巻回済みのコイルを装着できるように、複数のパーツに分割されており、環状に繋ぎ合わせて用いられることが多い(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6362904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
コア被覆樹脂を構成するパーツを分割被覆樹脂と呼ぶ。各種各形状の分割被覆樹脂を組み合わせて1つのコア被覆樹脂を構成する場合、分割被覆樹脂の形状ごとに、分割被覆樹脂を成型するための金型が必要になる。金型の数が多くなれば、リアクトルの生産コストの増大を招く。例えば、コアを固定するための固定具が分割被覆樹脂に形成されることがあるが、分割被覆樹脂ごとに固定具の形状や材質が変わるだけで、別々の金型を用意しなくてはならず、リアクトルの生産コストが上がる。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、生産コストを抑制できるリアクトルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の実施形態に係るリアクトルは、コイルと当該コイルが装着されるコア部とを有するリアクトルであって、前記コア部は、磁性体を含むコア本体と、当該コア本体の一部又は全部を被覆するコア被覆樹脂と、前記コア部を固定するために前記コア被覆樹脂に設けられた固定具とを有し、前記固定具は、前記コア被覆樹脂の少なくとも四隅に設けられ、前記四隅の固定具のうち、一方の対角に並ぶ一組は不撓性固定具であり、他方の対角に並ぶ他の一組は可撓性固定具であり、前記コア被覆樹脂は、前記固定具を含む当該コア被覆樹脂の形状が、前記四隅を含む平面に直交し、前記コア部の中心を通る直交軸に関して線対称の形状であること、を特徴とする。
【0009】
前記コア被覆樹脂は、前記直交軸と直交して前記コア部の中心を通る直線を境に分割され、前記四隅の固定具が2個ずつ分かれて配置される分割被覆樹脂を有し、前記分割被覆樹脂は、同形同大であるようにしてもよい。
【0010】
前記コア本体は、平行に並び、前記コイルが装着される複数の脚部と、前記複数の脚部の両端部に分かれて配置され、複数の脚部の端部を繋ぎ、前記コア本体を閉磁気回路に画成する一対のヨーク部と、を有し、前記コア被覆樹脂は、前記複数の脚部の各中央を通る前記直線を境に分割された前記分割被覆樹脂を有するようにしてもよい。
【0011】
前記コア本体は、平行に並び、前記コイルが装着される複数の脚部と、前記複数の脚部の両端部に分かれて配置され、複数の脚部の端部を繋ぎ、前記コア本体を閉磁気回路に画成する一対のヨーク部と、を有し、前記四隅の固定具のうちの各2個は、前記各ヨーク部の重心を挟んで配置されているようにしてもよい。
【0012】
前記コイル及び前記コア部を収容しつつ、前記固定具を介して前記コア部が固定される支持ケースを備えるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、分割コア被覆樹脂の金型の数を少なくでき、リアクトルの生産コストを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】リアクトルの斜視図である。
図2】コア部の上面図である。
図3】可撓性固定具の拡大図である。
図4】不撓性固定具の拡大図である。
図5】コア部の詳細構成を示し、(a)はコア部の斜視図であり、(b)はコア部の分解図である。
図6】リアクトルの各所の変位度合いの解析結果を示す図であり、(a)は本実施形態のリアクトルであり、(b)は2個の不撓性固定具を対角に配置しただけのリアクトルである。
図7】(a)はリアクトルの変位度合いの測定地点を示す模式図であり、(b)は本実施形態のリアクトルと2個の不撓性固定具を対角に配置しただけのリアクトルの各測定地点の変位度合いを示すグラフである。
図8】可撓性固定具の他の例を示す拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態のリアクトルについて説明する。各図面においては、理解容易のため、厚み、寸法、位置関係、比率又は形状等を強調して示している場合があり、本発明は、それら強調に限定されるものではない。
【0016】
図1は、本実施形態のリアクトルを示す斜視図である。図1に示すように、リアクトル1は、コア部4と複数のコイル3の集合体であるリアクトル本体2を備えている。複数のコイル3は、1個のコア部4に横並びになって嵌っている。コイル3は、通電により巻数に従って磁束を発生させる。コア部4は、1つの環形状又は複数の環形状が連なった形状を有し、コイル3が発生させた磁束を真空よりも高い透磁率に従って通す閉磁路となる。即ち、リアクトル本体2は、電気エネルギーを磁気エネルギーに変換して蓄積及び放出する電磁気部品である。
【0017】
また、図1に示すように、リアクトル1は、支持ケース9を備えている。支持ケース9内では、リアクトル本体2が収容された上で、絶縁性の樹脂等の充填剤8が流し込まれて固化している。リアクトル本体2は支持ケース9に囲まれた半身部分が固化した充填剤8に埋設されている。
【0018】
この支持ケース9は、四方を側壁で囲む有底の箱体であり、内部空間は矩形であり、寸法はリアクトル本体2の大きさに合わせられ、リアクトル本体2を収容可能な間口の開口91を有している。開口91の縁には複数箇所に固定部92が形成されている。リアクトル本体2のコア部4にも、少なくとも四隅に固定具5が延設されている。リアクトル本体2が支持ケース9に収容されたとき、コア部4が固定具5を介して固定部92に固定されることで、リアクトル本体2が支持ケース9内に支持される。
【0019】
このようなリアクトル1において、コイル3は、銅線等の導電線31を筒状に巻いた巻回体である。コイル3は、巻き軸に沿って1ターンごとに巻位置をずらしながら螺旋状に導電線31を巻回することで形成される。導電線31はコイル3の巻き始めと巻き終わりから引き出されている。コイル3は、この導電線31を介して電流が流され、巻き軸に沿って貫く磁束を発生させる。
【0020】
コア部4は、コア部4の上面図である図2に示すように、例えば2個の閉環を連ねた概略θ形状を有する。平行に延びる3本の脚部43の各々に1個ずつコイル3が嵌め込まれる。3本の脚部43は、脚部43の各端部側に分かれて配置された一対のヨーク部44によって接続されている。この概略θ形状のコア部4は、コア部4の四隅を含む平面Sと直交し、コア部4の中心を通る直交軸45に関して線対称、換言すると2回対称である。この直交軸45を中心に180度回転させても、コア部4の形状は回転前と変わらない。尚、コア部4の中心は、コア部4の4隅を結ぶ2本の対角線の交点である。
【0021】
固定具5は、このようなコア部4の4隅に延設されている。対角に並ぶ各組の固定具5,5についても、直交軸45に関して線対称である。即ち、対角に並ぶ各組の固定具5,5は、直交軸45に関して線対称となる位置及び方向に延出し、同形同大であり、また同一種類から成る。例えば、対角に並ぶ一組の固定具5,5の一方が、脚部43の延び方向と直交する方向に延びるとき、もう一方も脚部43と直交する反対方向に延びる。対角に並ぶ一組の固定具5,5の一方が、脚部43に沿った方向に延びるとき、もう一方も脚部43に沿った反対方向に延びる。
【0022】
より好ましくは、ヨーク部44を介して隣り合う各2個の固定具5は、脚部43と直交する方向に延びる。換言すると、ヨーク部44を介して隣り合う各2個の固定具5は、ヨーク部44の延び方向に沿って延びる。より詳細には、ヨーク部44を介して隣り合う各2個の固定具5は、ヨーク部44の重心を挟んで対向するように配置される。この配置により、ヨーク部44を介して隣り合う各2個の固定具5は、ヨーク部44を重心で支えることができ、コア部4の安定性が高まり、またリアクトル本体2の振動方向が複雑になり難い。
【0023】
ここで、このリアクトル1では、四隅に設けられた固定具5のうち、一方の対角に並ぶ一組は不撓性固定具51であり、他方の対角に並ぶ他の一組は可撓性固定具52である。これによっても、対角には同一種類の固定具5が並んでいるため、コア部4が固定具5も含めても直交軸45に関して線対称であることに変わりはない。不撓性固定具51は、可撓性固定具52と比べて弾性変形に乏しい材質、形状、寸法又はこれらの2以上を有し、反対に、可撓性固定具52は、不撓性固定具51と比べて弾性変形に富んだ材質、形状、寸法又はこれらの2以上を有する。
【0024】
例えば、可撓性固定具52は、可撓性固定具52の拡大図である図3に示すように、舌状に突出した金具であり、基端から先端まで階段状に2回屈曲している。可撓性固定具52の先端には、支持ケース9の固定部92にボルトで締結するためのボルト孔521が穿設されている。
【0025】
不撓性固定具51は樹脂体である。不撓性固定具51の拡大図である図4に示すように、この不撓性固定具51は、可撓性固定具52よりも太く厚く延出する突起である。不撓性固定具51の先端には、支持ケース9の固定部92にボルトで締結するためのリング状の金属カラー511が埋設されている。
【0026】
図2に戻り、このような直交軸45に関して線対称の構造を有するコア部4は、直交軸45と直交して延び、3本の脚部43の各延び方向中央を通る中心線46で2分割され、E字形の分割コア部47に分かれている。このコア部4は、両分割コア部47を突き合わせて接着剤で接続することにより形作られている。
【0027】
図5は、コア部4の詳細構成を示す図であり、(a)はコア部4の斜視図であり、(b)はコア部4の分解図である。図5に示すように、このようなコア部4は、磁性体を含むコア本体41と、このコア本体41を被覆するコア被覆樹脂42とを備えている。固定具5は、コア被覆樹脂42に延設されている。
【0028】
コア本体41を構成する磁性体は、例えば圧粉磁心、フェライト磁心、メタルコンポジットコア又は積層鋼板等である。圧粉磁心は、磁性粉末を押し固めた圧粉成形体を焼鈍して成る。磁性粉末は、鉄を主成分とし、純鉄粉、鉄を主成分とするパーマロイ(Fe-Ni合金)、Si含有鉄合金(Fe-Si合金)、センダスト合金(Fe-Si-Al合金)、アモルファス合金、ナノ結晶合金粉末、又はこれら2種以上の粉末の混合粉などが挙げられる。メタルコンポジットコアは、磁性粉末と樹脂とが混練され成型されて成る。
【0029】
コア被覆樹脂42は、一定の形を保持する成形品であり、絶縁性及び耐熱性を備えている。コア被覆樹脂42の材質としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ウレタン樹脂、BMC(Bulk Molding Compound)、PPS(Polyphenylene Sulfide)、PBT(Polybutylene Terephthalate)、又はこれらの複合が挙げられ、熱伝導性のフィラーを混入させてもよい。このコア被覆樹脂42によって、コア本体41とコイル3との間に絶縁が図られ、またコア本体41が外部からの物理的衝撃に対して傷つかないように保護される。
【0030】
そして、コア被覆樹脂42は分割コア部47に合わせて、中心線46を境にして概略E字形の分割被覆樹脂421に2分割されている。分割被覆樹脂421は、第1に、コア部4が固定具5も含めて直交軸45に関して線対称であり、第2に、固定具5には不撓性固定具51と可撓性固定具52の2種が存在するが、同一対角に並ぶ固定具5は同一種類であり、第3に、直交軸45と直交する中心線46で分割されていることにより、同形同大の合同形状になっている。
【0031】
尚、コア本体41については、ヨーク部44のコアブロック411、脚部43のうちの、ヨーク部44に突き当てられる端部から中心線46までのコアブロック411に分割されている。分割被覆樹脂421の内側形状も同形同大の合同形状にするため、一対のヨーク部44のコアブロック411は同形同大の合同形状であり、脚部43の全コアブロック411も同形同大の合同形状である。
【0032】
この分割被覆樹脂421は、ヨーク部44のコアブロック411と可撓性固定具52と金属カラー511をインサート品として金型内に収め、金型内に樹脂を射出することにより、不撓性固定具51と共に成型される。従って、分割被覆樹脂421が同形同大の合同形状であれば、金型は1種類で足りる。そうすると、リアクトル1を作製するために金型数が減り、リアクトル1の生産コストを低減させることができる。
【0033】
尚、脚部43のコアブロック411は、ヨーク部44のコアブロック411をインサート品として分割被覆樹脂421を成型した後、当該分割被覆樹脂421内に挿入され、ヨーク部44のコアブロック411に接着される。このようにヨーク部44のコアブロック411のみが固定具5と共に一体成型されている場合には、固定具5でヨーク部44の重心を挟み込む製造精度が上がり、コア部4の安定性がより高まる。もっとも、脚部43のコアブロック411についてもインサート品とて金型内に収めて一体成型されてもよい。
【0034】
このような、一方の対角に不撓性固定具51を並べ、他方の対角に可撓性固定具52を並べた本実施形態の4点固定のリアクトル1において、全脚部43の同一方向に向く1表面に、コイル3の重量に相当する重量物を付加し、全ての固定具5を用いて固定し、各所の変位度合いを解析した。変位度合いは、振動させたときの共振のし易さを表す値であり、値が大きいほど共振し易く、値が小さいほど共振し難い。また、比較対象として、一方の対角に不撓性固定具51を並べ、他方の対角には固定具5を配置していない2点固定のリアクトルを用いて、本実施形態と同一の測定方法及び測定条件にて、各所の変化度合いを解析した。
【0035】
図6は、固定具5で固定したリアクトル本体2の各所の変位度合いの解析結果を示す変位分布図であり、(a)は、本実施形態の4点固定のリアクトル本体2の解析結果であり、(b)は、比較対象の2点固定のリアクトル本体の解析結果である。また、図7の(a)は、本実施形態の4点固定のリアクトル本体2の可撓性固定具52を並べた対角線に沿って、また2点固定のリアクトル本体の固定具5が無い対角線に沿って、角部と中心を含み等配位置に並ぶ5測定地点を示す模式図であり、(b)は5測定地点の変位度合いを示すグラフである。
【0036】
変位の解析結果によると、図6及び図7に示すように、本実施形態の4点固定のリアクトル本体2も2点固定のリアクトル本体も、可撓性固定具52を並べた対角線に沿って、また固定具5が無い対角線に沿って、中心から離れるほど、変位度合いが大きくなる。しかしながら、本実施形態の4点固定のリアクトル本体2は、2点固定のリアクトル本体よりも変位度合い小さいことが確認できる。
【0037】
一方の対角にのみ固定具5を配置し、その固定具5を同一種類の不撓性固定具51にすることによって、2点固定のリアクトルについても、コア部4は直交軸45に関して線対称の形状になり、金型数を減らすことはできる。しかし、四隅のうちの一方の対角に不撓性固定具51を並べ、他方の対角に可撓性固定具52を並べ、固定具5を含めてコア部4を直交軸45に関して線対称の形状にすることで、金型数を減らして生産コストを下げるだけでなく、リアクトル本体2の振動を抑制することもできる。
【0038】
金型数の減少とリアクトル本体2の振動抑制のためには、四隅の全てを不撓性固定具51にすることもできる。しかし、四隅の全てを不撓性固定具51にすると、製造誤差による各不撓性固定具51の位置のバラツキが大きくなり、固定部92に締結した不撓性固定具51の一部に大きな応力が集中し得る。そうすると、大きな応力が加わった不撓性固定具51は、経時的に脆くなって破壊されてしまい、製品寿命が短くなる虞がある。
【0039】
一方、四隅のうちの一方の対角に不撓性固定具51を並べ、他方の対角に可撓性固定具52を並べたリアクトル1は、可撓性固定具52が製造誤差による固定具5の位置のバラツキを吸収するように変形するため、不撓性固定具51に応力が集中することを抑制でき、製品寿命を長くすることができる。
【0040】
また、金型数の減少とリアクトル本体2の振動抑制のためには、四隅の全てを可撓性固定具52にすることもできる。しかし、四隅の全てを可撓性固定具52にすると、可撓性固定具52の弾性の高さを原因として、リアクトル本体2の振動が大きくなり、また振動が減衰し難くなる。そうすると、可撓性固定具52が金属疲労等により、経時的に脆くなって破壊されてしまい、製品寿命が短くなる虞がある。
【0041】
一方、四隅のうちの一方の対角に不撓性固定具51を並べ、他方の対角に可撓性固定具52を並べたリアクトル1は、リアクトル本体2の振動が抑制されているので、可撓性固定具52に対する負荷が小さくなり、製品寿命を長くすることができる。
【0042】
以上のように、リアクトル1は、コイル3と当該コイル3が装着されるコア部4とを有する。コア部4は、磁性体を含むコア本体41と、当該コア本体41を被覆するコア被覆樹脂42と、コア部4を固定するためにコア被覆樹脂42に設けられた固定具5とを有するようにした。そして、固定具5を、コア被覆樹脂42の四隅に設けられ、四隅の固定具5のうち、一方の対角に並ぶ一組は不撓性固定具51であり、他方の対角に並ぶ他の一組は可撓性固定具52とした。また、コア被覆樹脂42は、固定具5を含む当該コア被覆樹脂42の形状が、四隅を含む平面Sに直交し、コア部4の中心を通る直交軸45に関して線対称の形状であるようにした。
【0043】
これにより、コア被覆樹脂42を2分割する分割被覆樹脂421が同形同大の合同形状になり、2個の分割被覆樹脂421を1種類の金型で作製することができる。従って、リアクトルの生産コストを抑制できる。しかも、一方の対角にのみ固定具5を並べたリアクトルと比べて振動を抑制でき、全ての固定具5が不撓性固定具51又は可撓性固定具52であるリアクトルと比べて固定具5への負荷が小さくなり製品寿命が高まる。
【0044】
ここで、本実施形態では、コア本体41の全周囲をコア被覆樹脂42で覆うようにしたが、コア本体41の一部をコア被覆樹脂42で覆うようにし、コア本体41の一部を放熱性等の観点から露出させてもよく、これによっても、分割被覆樹脂421の金型数を減らし、リアクトル1の振動を抑制し、固定具5への負荷が小さくして製品寿命を向上させることができる。
【0045】
四隅の固定具5に関し、コア部4が円形の場合の四隅は、周上の一箇所に四隅のうちの一つが決められ、その決定された箇所から90度間隔で他の3箇所を決め、決定された4箇所に固定具5を配置すればよい。コア部4が楕円の場合の四隅は、コア部4に外接する仮想の長方形の対角線とコア部4の外周との交点に定め、定められた4箇所に固定具5を配置すればよい。また、固定具5は四隅に限らない。直交軸45を挟んで同一距離に一対の同形同大の固定具5を配置できれば、例えばヨーク部44の中央位置に別の固定具5を設置する等のように、固定具5の数を増やしてもよい。
【0046】
コア部4は、3本の脚部43を有する概略θ形状のみならず、2本の脚部43を有する1つの環状形状であってもよいし、4本の脚部43を有し、3つの環形状が連なった形状であってもよい。即ち、コア部4は、1又は2以上の環形状が連なって閉磁路を形成していればよい。また、コイル3は、全ての脚部43に嵌っていてもよいし、1又は2以上の一部の脚部43に嵌っていてもよい。
【0047】
四隅に配置される不撓性固定具51と可撓性固定具52が1個ずつ分割被覆樹脂421に配置されるように、コア部4が分割されるのであれば、中心線46で分割する態様に限られない。直交軸45と直交する中心線46とは異なる仮想線でコア部4を2分割しても、分割被覆樹脂421は同形同大の合同形状になる。例えば、コア部4は、2本の脚部43を有する1つの環状形状であり、分割コア部47、コアブロック411及びコア被覆樹脂42は、J字形であってもよい。短い端部と長い端部とを突き合わせるように2個のJ字形を向かい合わせにすることで、コア部4及びコア被覆樹脂42は形作られ、各々が同形同大の合同形状になる。
【0048】
更に、中心線46を境として同形同大の合同形状となれば、コア部4の分割数は2に限らず、3分割や4分割にしてもよい。例えば、中心線46から脚部43の延び方向両側へ同一距離離れ、中心線46と平行な2線を分割ラインとする。コア部4が概略θ形状であれば、コア部4は、ヨーク部44を含み、脚部43の一部が短く残ったE字形の分割コア部47と、脚部43に相当する分割コア部47とに分割される。一対のE字形の分割コア部47は、同形同大の合同形状であり、E字形の分割コア部47が備える分割被覆樹脂421も同形同大の合同形状となり、金型数が削減できる。
【0049】
また、例えば、脚部43の付け根を通り、中心線46と平行な2線を分割ラインとする。コア部4が概略θ形状であれば、コア部4は、ヨーク部44のみの直線状の分割コア部47と、脚部43に相当する分割コア部47とに分割される。ヨーク部44のみの一対の分割コア部47は、同形同大の合同形状であり、この分割コア部47が備える分割被覆樹脂421も同形同大の合同形状となり、金型数が削減できる。
【0050】
可撓性固定具52としては金具を例示したが、形状や寸法によって高い弾性を獲得した樹脂体も可撓性固定具52に含まれる。図8は、可撓性固定具52の他の例を示す拡大斜視図である。例えば、図8に示すように、可撓性固定具52は分割被覆樹脂421と一体の樹脂製可撓性固定具53であってもよい。
【0051】
この樹脂製可撓性固定具53は、同じく分割被覆樹脂421と一体成形された不撓性固定具51と比べて長細い。また、樹脂製可撓性固定具53は、脚部43が並ぶ平面と平行に、分割被覆樹脂421から突出し、途中で脚部43が並ぶ平面と直交する方向に屈曲する。樹脂製可撓性固定具53の延び先先端側では、再度屈曲して脚部43が並ぶ平面と平行に延びる。樹脂製可撓性固定具53は、このような長細い寸法と屈曲した形状により高い弾性を獲得し、可撓性固定具52として機能する。尚、樹脂製可撓性固定具53には、内部に金具がインサート品として挿入されていてもよい。
【0052】
更に、四隅の固定具5のうちの各2個は、各ヨーク部44の重心を挟んで配置されているようにした。これにより、固定具5は、ヨーク部44を重心で支えることができ、コア部4の安定性が高まり、またリアクトル本体2の振動方向が複雑になり難くなる。
【0053】
リアクトル本体2は支持ケース9に収容され、固定具5は支持ケース9の固定部92に固定されるようにしたが、固定具5の固定先はこれに限らない。例えば、リアクトル本体2を実装する回路近傍に設置されているブラケット等の外部の締結箇所に固定具5が固定されていてもよい。この場合、リアクトル本体2を収容させる支持ケース9は必須ではない。
【0054】
このような実施形態は例として提示したものであって、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。そして、実施形態やその変形は本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0055】
1 リアクトル
2 リアクトル本体
3 コイル
31 導電線
4 コア部
41 コア本体
411 コアブロック
42 コア被覆樹脂
421 分割被覆樹脂
43 脚部
44 ヨーク部
45 直交軸
46 中心線
47 分割コア部
5 固定具
51 不撓性固定具
511 金属カラー
52 可撓性固定具
521 ボルト孔
53 樹脂製可撓性固定具
8 充填剤
9 支持ケース
91 開口
92 固定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8