(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156413
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】プレコート剤、インクジェット記録用インクセット、及び、積層体
(51)【国際特許分類】
B41M 5/00 20060101AFI20221006BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20221006BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20221006BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20221006BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20221006BHJP
C09D 11/322 20140101ALI20221006BHJP
C09D 11/54 20140101ALI20221006BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
B41M5/00 132
C09D201/00
C09D7/61
C09D7/63
C09D5/02
C09D11/322
C09D11/54
B41M5/00 134
B41J2/01 123
B41J2/01 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060085
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000105947
【氏名又は名称】サカタインクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】前田 寛仁
(72)【発明者】
【氏名】小西 廣幸
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 有哉
(72)【発明者】
【氏名】三宅 遼平
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J038
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA13
2C056EE17
2C056FC01
2C056HA42
2H186AB02
2H186AB05
2H186AB06
2H186AB09
2H186AB29
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2H186AB34
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2H186AB54
2H186AB55
2H186AB59
2H186AB61
2H186FB11
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2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB55
2H186FB58
4J038CG141
4J038HA446
4J038JA37
4J038JA39
4J038KA02
4J038KA20
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4J039AD10
4J039BA14
4J039BE12
4J039CA06
4J039EA42
4J039EA43
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】多価金属塩を用いなくても、インクジェット記録用インク組成物を印刷した際に、モタリングやブリードを抑制して印刷画質を良好にすることができ、インクジェット記録用インク組成物の裏抜けを抑制することができ、かつ、後工程(オーバーコート層の形成)の際にオーバーコート層の剥がれや硬度の低下を抑制することができるプレコート剤を提供する。
【解決手段】インクジェット記録用インク組成物を受容するプレコート層を形成するために用いられるプレコート剤であって、無機粒子、有機酸のアミン塩、樹脂エマルジョン及び水を含み、上記無機粒子の粒径が1μm~10μmであり、多価金属塩を含まないプレコート剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット記録用インク組成物を受容するプレコート層を形成するために用いられるプレコート剤であって、
無機粒子、有機酸のアミン塩、樹脂エマルジョン及び水を含み、
前記無機粒子は、粒径が1μm~10μmであり、
多価金属塩を含まないプレコート剤。
【請求項2】
前記無機粒子は、多孔質シリカ粒子である請求項1に記載のプレコート剤。
【請求項3】
前記有機酸のアミン塩は、ポリアクリル酸、蟻酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、及び、乳酸、若しくは、これらの誘導体から選択される少なくとも1種をアミンで中和した塩である請求項1又は2に記載のプレコート剤。
【請求項4】
前記樹脂エマルジョンは、スチレンアクリル系エマルジョン及び/又は酢酸ビニル系エマルジョンである請求項1~3のいずれか1項に記載のプレコート剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のプレコート剤と、インクジェット記録用インク組成物とを含む、インクジェット記録用インクセット。
【請求項6】
前記インクジェット記録用インク組成物は、水性インクジェット記録用インク組成物である、請求項5記載のインクジェット記録用インクセット。
【請求項7】
前記水性インクジェット記録用インク組成物は、アルカリ可溶性樹脂で被覆された顔料と、塩基性化合物と、水溶性有機溶剤とを含む、請求項6記載のインクジェット記録用インクセット。
【請求項8】
基材上に、請求項5~7のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インクセットにより形成された印刷層と、樹脂を含むオーバーコート層とをこの順に有する積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレコート剤、インクジェット記録用インクセット、及び、積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
基材表面にプレコート剤(前処理液)を塗布又は吐出した後、インクジェット記録用インク組成物を吐出して、基材上で顔料を凝集させ、高画質化を図るという画像形成方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1では、支持体上に塗工層を有する記録媒体上に前処理液を付着させる前処理工程と、前処理液を付着させた面上に、着色剤、水溶性有機溶剤、界面活性剤、浸透剤、及び水を含有するインクジェット用インクを付着させて画像を形成する画像形成工程と、インクジェット用インクを付着させた面上に、後処理液を付着させて保護層を形成する後処理工程と、を有する画像形成方法であって、動的走査吸液計によって測定される、接触時間100msにおける前記記録媒体の塗工層への純水の転移量が1~10mL/m2であり、前記前処理液及び後処理液の少なくとも一方が、水と水性樹脂を含有し、更に、コロイダルシリカ、硫酸バリウム、酸化チタンのいずれかを含有することを特徴とする画像形成方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2では、支持体上に少なくとも1層のインク受容層を設けた被記録媒体において、該インク受容層が、無機微粒子、カチオン性有機微粒子及び水溶性多価金属塩を含有し、且つ、該カチオン性有機微粒子が、カチオン性有機微粒子を含有するインク受容層において、該インク受容層の乾燥質量に対して0.1~25質量%含まれることを特徴とする被記録媒体が開示されている。
【0005】
しかしながら、従来の方法では、支持体(基材)上にインクジェット記録用インク組成物を印刷した際に、印画率が高い部分においてモタリング(ベタ埋まり)やブリードが発生することにより画質が低下するといった課題や、支持体(基材)の裏側までインクジェット記録用インク組成物が浸透して裏抜けをしてしまうといった課題もあった。
また、従来の方法では、顔料の定着性を向上させるために前処理液(プレコート剤)に多価金属塩を含有させることが好ましいとされているが、前処理液が多価金属塩を含有すると、後工程(オーバーコート層の形成)で使用するオーバーコート用樹脂と反応してしまい、オーバーコート層が剥がれたり、硬度が低下したりしてしまうといった問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-073672号公報
【特許文献2】特開2004-255772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した課題に鑑みたものであり、多価金属塩を用いなくても、インクジェット記録用インク組成物を印刷した際に、モタリングやブリードを抑制して印刷画質を良好にすることができ、インクジェット記録用インク組成物の裏抜けを抑制することができ、かつ、後工程(オーバーコート層の形成)の際にオーバーコート層の剥がれや硬度の低下を抑制することができるプレコート剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上述した課題を鑑みて鋭意検討を重ねた結果、インクジェット記録用インク組成物を受容するプレコート層を形成するために用いられるプレコート剤において、特定の粒径の無機粒子、有機酸のアミン塩、樹脂エマルジョン及び水を含むプレコート剤により、多価金属塩を用いなくても、上記課題を全て解決できることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、インクジェット記録用インク組成物を受容するプレコート層を形成するために用いられるプレコート剤であって、無機粒子、有機酸のアミン塩、樹脂エマルジョン及び水を含み、上記無機粒子の粒径が1μm~10μmであり、多価金属塩を含まないプレコート剤である。
【0010】
本発明のプレコート剤において、上記記無機粒子は、多孔質シリカ粒子であることが好ましい。
また、上記有機酸のアミン塩は、ポリアクリル酸、蟻酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、及び、乳酸、若しくは、これらの誘導体から選択される少なくとも1種をアミンで中和した塩であることが好ましい。
また、上記樹脂エマルジョンは、スチレンアクリル系エマルジョン及び/又は酢酸ビニル系エマルジョンであることが好ましい。
また、本発明は、上記プレコート剤と、インクジェット記録用インク組成物とを含むインクジェット記録用インクセットである。
本発明のインクジェット記録用インクセットにおいて、上記インクジェット記録用インク組成物は、水性インクジェット記録用インク組成物であることが好ましい。
また。上記水性インクジェット記録用インク組成物は、アルカリ可溶性樹脂で被覆された顔料と、塩基性化合物と、水溶性有機溶剤とを含むことが好ましい。
また、本発明は、基材上に、上記インクジェット記録用インクセットにより形成された印刷層と、樹脂を含むオーバーコート層とをこの順に有する積層体でもある。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、多価金属塩を用いなくても、インクジェット記録用インク組成物を印刷した際に、モタリングやブリードを抑制して印刷画質を良好にすることができ、インクジェット記録用インク組成物の裏抜けを抑制することができ、かつ、後工程(オーバーコート層の形成)の際にオーバーコート層の剥がれや硬度の低下を抑制することができるプレコート剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<プレコート剤>
本発明は、インクジェット記録用インク組成物を受容するプレコート層を形成するために用いられるプレコート剤であって、無機粒子、有機酸のアミン塩、樹脂エマルジョン及び水を含み、上記無機粒子の粒径が1μm~10μmであり、多価金属塩を含まないプレコート剤である。
【0013】
本発明のプレコート剤では、特定の粒径の無機粒子により、インクジェットノズルから飛翔したインクジェット記録用インク組成物の液滴が基材着弾後、後述する基材への過度の浸透及び裏抜けを防止する目止め効果が得られ、有機酸のアミン塩が乾燥して得られる有機酸により、インクジェット記録用インク組成物に含まれる化合物と反応することで、モタリングやブリードを抑制して印刷画質を良好にして、樹脂エマルジョンにより、上記無機粒子及び有機酸のアミン塩が基材より剥がれ落ちることを抑制できるプレコート層が得られる。
ただし、本発明は上記メカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0014】
(無機粒子)
本発明のプレコート剤は、無機粒子を含む。
【0015】
上記無機粒子としては、二酸化チタン、シリカ、アルミナ、酸化鉄、水酸化鉄、酸化スズ等から選択される少なくとも1種が挙げられる。
上記無機粒子は、多孔質粒子であることが好ましく、多孔質シリカ粒子であることがより好ましい。
上記無機粒子は、単独又は2種以上併用して用いることができる。
【0016】
上記無機粒子は、粒径が1μm~10μmである。
上記無機粒子の粒径が1μm未満であると、裏抜けを抑制する効果が低下し、10μmを超えると、プレコート剤により形成される塗膜の平滑性の低下に起因して印刷画質が低下する。
上記無機粒子は、粒径が3μm~7μmであることがより好ましい。
なお、上記粒径は、レーザー回折散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置により測定した体積平均粒子径を意味する。
【0017】
上記無機粒子が多孔質粒子である場合、平均細孔径は、10nm以上300nmであることが好ましく、10nm以上200nm以下であることが好ましい。本発明における平均細孔径とは、細孔容積と比表面積から算出される平均細孔直径を指す。
また、細孔容積としては、10mL/g~200mL/gが好ましく、30mL/g~100mL/gがより好ましい。
なお、細孔容積及び比表面積はガス吸着法(窒素ガスを使用)によって得られる細孔分布に基づいて算出でき、具体的には、全細孔容積はBJH法を用い、比表面積はBET法を用いて算出できる。ガス吸着法を実施可能な装置としては、例えば、カンタクローム社製のオートソーブ3(製品名)等が挙げられる。
【0018】
上記無機粒子が多孔質粒子である場合、空孔率は、特に限定されるものではないが、例えば、20%以上90%以下であることが好ましく、さらには30%以上85%以下であることがより好ましい。
上記空孔率は、上記の細孔容積に基づいて算出することができる。
【0019】
上記無機粒子の含有量としては、プレコート剤の全質量に対して、1~10質量%であることが好ましく、3~7質量%であることがより好ましい。
【0020】
(有機酸のアミン塩)
本発明のプレコート剤は、有機酸のアミン塩を含む。
有機酸のアミン塩とは、有機酸をアミンで中和した塩を意味する。
【0021】
上記有機酸としては、ポリアクリル酸、蟻酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、及び、乳酸、若しくは、これらの誘導体から選択される少なくとも1種が挙げられる。
なかでも、プレコート剤の塗工ムラを抑制して、本発明の効果を好適に発揮させる観点から、水溶性の有機酸であることが好ましく、水溶性の多価カルボン酸であることがより好ましく、クエン酸、リンゴ酸が更に好ましい。
【0022】
上記アミンとしては、揮発性を有するアミンであることが好ましく、例えば、アンモニア、モノ又はジ又はトリアルキル(炭素数1~4)アミン、モノアルカノール(炭素数2又は3)アミン、モノ又はジアルキル(炭素数1~4)モノアルカノール(炭素数2又は3)アミン等が挙げられる。
より具体的には、アンモニア;メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン等のモノ又はジ又はトリアルキル(炭素数1~4)アミン;モノエタノールアミン、モノプロパノールアミン等のモノアルカノールアミン、ジメチルアミノエタノール等のモノ又はジアルキル(炭素数1~4)モノアルカノールアミンから選択される少なくとも1種を用いることができる。
なかでも、プレコート剤の塗膜の塗膜の凝集性を好適に付与する観点と、後述する基材に残留しにくい観点とから、アンモニアであることが好ましい。
【0023】
なお、上記有機酸のアミン塩は、単独又は2種以上併用して用いることができる。
【0024】
上記有機酸のアミン塩の含有量としては、プレコート剤の全質量に対して、1~10質量%であることが好ましく、3~7質量%であることがより好ましい。
【0025】
(樹脂エマルジョン)
本発明のプレコート剤は、樹脂エマルジョンを含む。
【0026】
上記樹脂エマルジョンとしては、例えば、アクリル系樹脂、エステル系樹脂、ウレタン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレンアクリル系樹脂等のエマルジョンが挙げられる。
なかでも、プレコート剤の塗膜の凝集性に優れ、塗膜耐性を好適に付与する観点から、スチレンアクリル系エマルジョン及び/又は酢酸ビニル系エマルジョンが好ましい。
上記樹脂エマルジョンは、単独又は2種以上併用して用いることができる。
【0027】
上記樹脂エマルジョンは、上記無機粒子を基材に定着させる観点から、ガラス転移温度が30℃以下であることが好ましく、20℃以下であることがより好ましい。
【0028】
上記樹脂エマルジョンのガラス転移温度は、例えば、JIS K 7121:2012「プラスチックの転移温度測定方法」等に準拠した示差走査熱量測定(DSC)により行うことができる。
【0029】
上記樹脂エマルジョンの含有量としては、プレコート剤の全質量に対して、固形分で0.1~10質量%であることが好ましく、0.5~5質量%であることがより好ましい。
【0030】
上記樹脂エマルジョンとしては、上記例示した樹脂を低分子の乳化剤を用いて後述する水性媒体中に乳化させた物、高分子の乳化剤を用いて後述する水性媒体中に乳化させた物、自己乳化によって後述する水性媒体に乳化させた物等が挙げられる。
【0031】
上記低分子の乳化剤としては、単糖又は多糖の脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、アルキルリン酸塩、テトラアルキルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩、脂肪酸アミドアミン、アルキルピリジニウム塩、アルキルベタイン、及び、アルキルアミンオキシド等が挙げられる。
【0032】
(水)
本発明のプレコート剤は、水を含む。
上記水としては、市販の精製水等を用いることができる。
【0033】
上記水は、流動性を好適に付与する観点、プレコート剤の塗膜に耐摩耗性を好適に付与する観点から、プレコート剤の質量を基準として、50~95質量%含有されていることが好ましく、70~90質量%含有されていることがより好ましい。
なお、上記水の含有量は、上記樹脂エマルジョンに含まれる水の含有量と、上記樹脂エマルジョンに含まれる水性媒体以外の水の含有量を合計した値である。
【0034】
(その他)
本発明のプレコート剤は、必要に応じて、界面活性剤、増粘剤、pH調整剤を含むことが好ましい。
【0035】
上記界面活性剤は、レベリング性を付与するために加えられるものであり、本発明のプレコート剤の性能を損なわないものであれば、公知の界面活性剤を適宜選択して用いることができる。
【0036】
上記増粘剤としては、上記有機酸と反応しないものであれば特に限定されず、公知のノニオン性、アニオン性の増粘剤を適宜選択して用いることができる。
【0037】
上記pH調整剤としては、公知のpH調整剤を適宜選択して用いることができ、揮発性の観点から、アンモニアが好ましく例示される。
【0038】
上記界面活性剤、上記増粘剤、及び、上記pH調整剤の含有量としては、例えば、プレコート剤の全質量に対して、それぞれ0.01~5質量%である。
【0039】
本発明のプレコート剤は、上記に示した成分以外に、必要に応じて、分散剤、分散助剤、湿潤剤、消泡剤、防黴剤、防錆剤等の公知の添加剤を適宜選択して使用してもよい。
【0040】
一方で、本発明のプレコート剤は、後述するオーバーコート層の剥がれや硬度の低下を抑制する観点から、多価金属塩を含まない。
上記多価金属塩としては、2価以上の多価金属イオンとこれらの多価金属イオンに結合する陰イオンとから構成され、水に可溶なものである。
多価金属イオンの例としては、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Zn2+、Ba2+、等が挙げられ、陰イオンの例としては、Cl-、NO3-、I-、Br-、ClO3-、等が挙げられる。
【0041】
(プレコート剤の製造方法)
本発明のプレコート剤の製造方法は、特に限定されないが、例えば、上述した各成分に、必要に応じて添加剤等を加えて混錬することにより製造することができる。
【0042】
本発明のプレコート剤は、塗工適性の観点から、ザーンカップ3号(離合社製)により測定される粘度が10秒~40秒であることが好ましく、15秒~25秒であることがより好ましい。
【0043】
本発明のプレコート剤は、材料の混和性、貯蔵安定性の観点から、pHが7~9であることが好ましい。
【0044】
<インクジェット記録用インクセット>
本発明のインクジェット記録用インクセットは、本発明のプレコート剤と、インクジェット記録用インク組成物とを含む。
以下、インクジェット記録用インク組成物について説明する。
【0045】
本発明のインクジェット記録用インクセットは、インクジェット記録用インク組成物を含む。
【0046】
上記インクジェット記録用インク組成物としては、水性インクジェット記録用インク組成物であることが好ましい。
上記水性インクジェット記録用インク組成物とは、アルカリ可溶性樹脂で被覆された顔料と、塩基性化合物と、水溶性有機溶剤とを含むことが好ましい。
【0047】
(顔料)
上記顔料としては、一般にインクジェット用インクで使用される各種の無機顔料や有機顔料を挙げることができる。
【0048】
上記無機顔料としては、酸化チタン、ベンガラ、アンチモンレッド、カドミウムイエロー、コバルトブルー、群青、紺青、カーボンブラック、黒鉛等の有色顔料(白色、黒色等の無彩色の着色顔料も含める)、及び、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、タルク等の体質顔料を挙げることができる。
【0049】
上記有機顔料としては、溶性アゾ顔料、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、銅フタロシアニン顔料、縮合多環顔料等を挙げることができる。
これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
上記顔料としては、特に、鮮明な色相の表現を可能とする点から、具体的には、C.I.Pigment Red 5、7、12、57:1、122、146、202、242、282等の赤色系顔料;C.I.Pigment Blue 1、2、15:3、15:4、16、17、60等の青色系顔料;C.I.Pigment Violet 19、23等の紫色系顔料;C.I.Pigment Yellow 12、13、14、17、74、83、93、128、139、151、154、155、180、185、213等の黄色系顔料;C.I.Pigment Black 7(カーボンブラック)等の黒色系顔料、C.I.Pigment Green 7、36等の緑色系顔料、C.I.Pigment Orange 34、71等の橙色系顔料等が好ましい。
【0051】
(アルカリ可溶性樹脂)
上記顔料を被覆するアルカリ可溶性樹脂としては、下記(a)から(c)を満足するアルカリ可溶性樹脂が使用できる。
(a)アルカリ可溶性樹脂の酸価が40~300mgKOH/gである。
(b)アルカリ可溶性樹脂の酸基の50~90%が塩基性化合物で中和されている。
(c)アルカリ可溶性樹脂が、その構成単位の単量体として、該アルカリ可溶性樹脂中にラウリル(メタ)アクリレートを20~40質量%となるように含有し、さらに芳香環を有する単量体、好ましくは、スチレン系単量体を含有する。
【0052】
このようなアルカリ可溶性樹脂としては、例えば、カルボキシル基を有する単量体を構成単位として有し、さらに、顔料との吸着性を向上させるため、ラウリル(メタ)アクリレート及び芳香環を有する単量体との共重合体、あるいはこれらの単量体と必要に応じて他の重合可能な単量体と共に反応させて得られる共重合体を利用できる。
【0053】
上記カルボキシル基を有する単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、2-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、2-カルボキシプロピル(メタ)アクリレート、無水マレイン酸、マレイン酸モノアルキルエステル、シトラコン酸、無水シトラコン酸、シトラコン酸モノアルキルエステル等が挙げられる。
【0054】
上記顔料との吸着性を向上させるための疎水性基を含有する単量体としては、ラウリル(メタ)アクリレート及び芳香環を有する単量体として、スチレン、α-スチレン、ビニルトルエン等のスチレン系単量体、ベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。ここでスチレン系単量体は、スチレンを基本骨格とし、任意の置換基を有してもよい化合物を示す。アルカリ可溶性樹脂は芳香環を有する単量体、好ましくは、スチレン系単量体を30~60質量%含有することが好ましい。
【0055】
アルカリ可溶性樹脂は、分散安定性及び固化性の観点から、ラウリル(メタ)アクリレートを20~40質量%含有することが好ましい。なお、ステアリル(メタ)アクリレートを使用しなくても良いが、ラウリル(メタ)アクリレートの使用と共に、ラウリル(メタ)アクリレートを使用することによる効果を毀損しない範囲においてステアリル(メタ)アクリレートを併用することも可能である。
【0056】
また、性能が低下しない範囲で必要に応じて使用できる他の重合可能な単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル等の(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシステアリル(メタ)アクリレート、ドデシルビニルエーテル、ビニル2-エチルヘキサノエート、ビニルラウレート、ビニルステアレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0057】
上記アルカリ可溶性樹脂の酸価としては40~300mgKOH/gが好ましく、より好ましくは70~250mgKOH/gである。アルカリ可溶性樹脂の酸価が40mgKOH/gより低いと、得られるアルカリ可溶性樹脂で被覆された顔料の水性分散液の分散安定性が低下する場合があり、一方300mgKOH/gよりも大きいと、親水性が高くなり過ぎるため、貯蔵安定性、耐水性が低下する場合がある。
【0058】
上記アルカリ可溶性樹脂の酸基は、50~90%が塩基性化合物で中和されていることが好ましい。中和は50%未満であると、分散安定性が低下する場合があり、90%を超える場合は、貯蔵安定性、耐水性が低下する場合がある。
【0059】
上記アルカリ可溶性樹脂の分子量としては、重量平均分子量が3,000~100,000であるのが好ましく、より好ましくは10,000~50,000である。アルカリ可溶性樹脂の重量平均分子量が3,000未満の場合には顔料の分散安定性や得られる印刷層の耐擦過性が低下する傾向にあり、一方100,000を超えると、粘度が高くなるため好ましくない。
【0060】
なお、上記アルカリ可溶性樹脂の酸価は、アルカリ可溶性樹脂を合成するために用いる単量体の組成に基づいて、アルカリ可溶性樹脂1gを中和するのに理論上要する水酸化カリウムのmg数を算術的に求めた理論酸価である。
【0061】
また、上記アルカリ可溶性樹脂の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法によって測定することができる。
一例として、GPC装置としてWaters 2690(ウォーターズ社製)、カラムとしてPLgel 5μ MIXED-D(Polymer Laboratories社製)を使用してクロマトグラフィーを行ない、ポリスチレン換算の重量平均分子量として求めることができる。
【0062】
(塩基性化合物)
上記アルカリ可溶性樹脂の酸基を中和する塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのような無機塩基性化合物や、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、モノエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、N,N-ジブチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリンのような有機塩基性化合物等が挙げられる。これら塩基性化合物は、単独または2種以上を混合して用いることができる。中でも、顔料分散の点からモノエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N、N-ジエチルエタノールアミン、N,N-ジブチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンが好適である。
【0063】
(2官能以上の架橋剤)
上記被覆顔料の製造に用いられる2官能以上の架橋剤は、アルカリ可溶性樹脂を適度に架橋するために用いられる。本発明の架橋剤としては、2以上の反応性官能基を有する架橋剤であって、架橋剤の分子量としては、反応のし易さ及び保存安定性の観点から、100~2,000の範囲であることが好ましい。
【0064】
上記反応性官能基としては、エポキシ基、水酸基、アリジン基からなる群から選ばれる1以上が好ましく挙げられる。なかでも、粘度、トレランスの点からエポキシ基が好ましく、2官能のエポキシ化合物がより好ましい。
上記2官能以上のエポキシ化合物の具体例としては、エポライト40E、100E、200E、400E、70P、200P、400P、1500NP、1600、80MF(共栄社化学(株)社製)、デナコールEX-201、EX-211、EX-212、EX-313、EX-314、EX-321、EX-411、EX-421、EX-512、EX-521、EX-611、EX-612、EX-614、EX-614B、EX-622(ナガセケムテックス(株)社製)等が例示できる。
【0065】
(被覆顔料の製造)
上記被覆顔料は、酸基が塩基性化合物で中和されてなるアルカリ可溶性樹脂と顔料を水性溶媒中に溶解又は分散して、次いで、該アルカリ可溶性樹脂を塩析等して、不溶化された樹脂とすると共に顔料表面に付着させる。
この付着してなる不溶化された樹脂の50~90%の酸基を中和した。得られたアルカリ可溶性樹脂によって被覆された顔料から分散された分散液を得、この分散液に架橋剤を添加した後、これを加熱することによって、顔料表面を被覆しているアルカリ可溶性樹脂を架橋させ不溶化させて被覆顔料を製造する。
このとき、得られた架橋されたアルカリ可溶性樹脂は、アルカリ可溶性樹脂の理論酸価に対して架橋率が10~90%、好ましくは20~80%、さらに好ましくは30~70%、より好ましくは35~50%である。架橋率が10未満であると、顔料への被覆強度が十分ではない可能性があり、90%を超えると顔料の分散安定性を阻害する可能性がある。
【0066】
(水溶性有機溶剤)
上記水溶性有機溶剤は、水と共に水性媒体として使用される。
上記水としては、金属イオン等を除去したイオン交換水ないし蒸留水が好ましい。
また、水溶性有機溶剤を含有させることにより、保存安定性、吐出安定性、インクの飛翔性等で、より優れたインクジェット印刷適性を付与することができる場合がある。このような水溶性有機溶剤としては、例えば、モノアルコール類、多価アルコール類、多価アルコールの低級アルキルエーテル類、ケトン類、エーテル類、エステル類、窒素含有化合物類等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0067】
上記モノアルコール類の具体例としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、n-ブタノール、n-ペンタノール、n-ヘキサノール、n-ヘプタノール、n-オクタノール、n-ノニルアルコール、n-デカノール、またはこれらの異性体、シクロペンタノール、シクロヘキサノール等が挙げられ、好ましくはアルキル基の炭素数が1~6のアルコールである。
上記多価アルコール類の具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、チオジグリコール等が挙げられる。
上記多価アルコールの低級アルキルエーテル類の具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールイソブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル等が挙げられる。
上記ケトン類の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソプロピルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等が挙げられる。
上記エーテル類の具体例としては、イソプロピルエーテル、n-ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4-ジオキサン等が挙げられる。
上記エステル類の例としては、プロピレンカーボネート、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル、乳酸エチル、酪酸エチル、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、及びε-カプロラクトン、ε-カプロラクタム等の環状エステル等が挙げられる。
上記窒素含有化合物類の例としては、尿素、ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、オクチルピロリドン等が挙げられる。
上記水溶性有機溶剤の含有量は、水性顔料型インクジェット用インク組成物中20~40質量%が好ましい。
また、メディアが低吸収性メディア(コート紙等)の場合、低吸収性メディアに浸透しやすい溶剤を使用することが好ましい。
【0068】
(その他)
水性インクジェット記録用インク組成物に用いることができる添加剤や、製造方法については、例えば、特開2017-149906号公報で開示されている添加剤及び製造方法を適宜選択して用いることができる。
【0069】
本発明のインクジェット記録用インクセットは、本発明のプレコート剤と、上記インクジェット記録用インク組成物とを個別にインクカートリッジ等に収容して用いることができる。
【0070】
本発明のインクジェット記録用インクセットは、本発明のプレコート剤により、プレコート層を形成した後、上記インクジェット記録用インク組成物を印刷する。
このように用いることにより、インクジェット記録用インク組成物を印刷した際に、モタリングやブリードを抑制して印刷画質を良好にすることができ、インクジェット記録用インク組成物の裏抜けを抑制することができる。また、後述するオーバーコート層の剥がれや硬度の低下を抑制することができる。
【0071】
<積層体>
本発明の積層体は、基材上に、上記インクジェット記録用インクセットにより形成された印刷層と、樹脂を含むオーバーコート層とをこの順に有する。
【0072】
上記基材としては、印刷媒体として用いられる物であれば特に限定されず、例えば、例えば、薄葉紙、普通紙、強化紙、樹脂含浸紙等の紙質シート、チタン紙、ポリエチレンテレフタレートシート、グリコール変性ポリエチレンテレフタレートシート(PETGシート)、ポリ塩化ビニルシート、ポリエチレンシート、アクリルニトリルブタジエンスチレンシート、ポリプロピレンシート等の樹脂シート、及びこれらの複合シート等を使用できる。
また、木質化粧板の木質基材としては、従来から化粧板や家具、建築部材等の木質基材として使用されている合板、パーティクルボード、ハードボード、中密度繊維板(MDF)等の公知のものが挙げられる。
【0073】
上記印刷層としては、上記基材側から順に、本発明のプレコート剤により形成されたプレコート層と、上記インクジェット記録用インク組成物により形成されたインク層とを有する。
【0074】
上記基材上に、本発明のプレコート剤を塗布する方法としては、例えば、ブレードコータ、エアーナイフコータ、ロールコータ、バーコータ、グラビアコータ、ロッドブレードコータ、リップコータ、カーテンコータ、ダイコータ、インクジェット等の各種塗工装置を用いた塗工方法が挙げられる。
【0075】
上記プレコート剤の塗布量としては、固形分で0.1~20g/m2とすることが好ましく、塗膜耐性を好適に付与する観点から、固形分で0.1~15g/m2とすることがより好ましい。
【0076】
上記プレコート剤が塗布された塗布面の乾燥方法としては、この分野で使用されている一般的な乾燥機、例えば、熱風乾燥機が挙げられる。なお、上記プレコート剤が塗布された塗布面は、完全に乾燥された状態であっても、半乾燥状態であってもよい。
【0077】
上記インクジェット記録用インク組成物を塗布する方法としては、インクジェット方式により塗布されることが好ましい。
【0078】
上記インクジェット記録用インク組成物の塗布量としては、固形分で0.1~20g/m2とすることが好ましく、塗膜耐性を好適に付与する観点から、固形分で0.1~15g/m2とすることがより好ましい。
【0079】
本発明の積層体は、樹脂を含むオーバーコート層を有する。
上記オーバーコート層を有することにより、光輝性に優れ、耐久性のある印刷画像を得ることができる。
【0080】
上記オーバーコート層としては、公知のオーバーコート層に用いられる樹脂成分を含んでおり、このような樹脂成分としては、例えば、メラミン樹脂、アルキド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂等が挙げられる。
【0081】
上記オーバーコート層は、上記樹脂成分と有機溶剤とを含むオーバーコート層用組成物を塗布することにより形成することができる。
上記オーバーコート層用組成物を塗布する方法としては、例えば、ブレードコータ、エアーナイフコータ、ロールコータ、バーコータ、グラビアコータ、ロッドブレードコータ、リップコータ、カーテンコータ、ダイコータ、インクジェット等の各種塗工装置を用いた塗工方法が挙げられる。
なお、上記オーバーコート層用組成物を構成する有機溶剤は、公知の有機溶剤を適宜選択して用いることができる。
また、上記オーバーコート層用組成物は、滑剤、消泡剤、界面活性剤、レベリング剤、顔料等の公知の添加剤を含んでもよい。
【0082】
上記オーバーコート層用組成物の塗布量としては必要に応じて適宜調整すればよいが、例えば、固形分で0.1~100g/m2とすることが好ましく、塗膜耐性を好適に付与する観点から、固形分で0.1~80g/m2とすることがより好ましい。
【0083】
本発明の積層体は、上述した本発明のプレコート剤を含むインクセットにより形成された印刷層を有するため、印刷画質が良好であり、インクジェット記録用インク組成物の裏抜けを抑制することができ、かつ、オーバーコート層の剥がれや硬度の低下を抑制することができる。
【実施例0084】
以下に実施例をあげて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0085】
実施例及び比較例で用いた材料は以下の通りである。
【0086】
<無機粒子>
サイシリア310(多孔質シリカ、粒子径4μm、細孔容積60mL/g、平均細孔径21nm、富士シリシア社製)
サイシリア380(多孔質シリカ、粒子径9μm、細孔容積60mL/g、平均細孔径21nm、富士シリシア社製)
ST-ZL(コロイダルシリカ(非多孔質)、粒子径80nm、日産化学社製)
サイシリア470(多孔質シリカ、粒子径14μm、細孔容積1.25mL/g、平均細孔径14nm、富士シリシア社製)
<有機酸アミン塩>
クエン酸3アンモニウム
リンゴ酸2アンモニウム
乳酸アンモニウム
<有機酸>
クエン酸
<有機酸金属塩>
クエン酸3ナトリウム
<多価金属塩>
酢酸カルシウム
<樹脂エマルジョン>
Joncryl PDX-7741(固形分50質量%、スチレン-アクリル系エマルジョン、BASF社製、ガラス転移温度0℃)
リカボンドS401(固形分50質量%、酢酸ビニル系エマルジョン、ジャパンコーティングレジン社製、ガラス転移温度 <0℃)
<界面活性剤>
オルフィンE1010(日信化学社製)
<増粘剤>
Primal ASE-95NP(ポリアクリル酸、DOW社製、アニオン性)
<pH調整剤>
NH3水
<水>
精製水
【0087】
(実施例1~13、比較例1~9)
上記材料を表1に記載の配合比率で配合し、十分に攪拌を行って混合液を作製した。この混合液を#200メッシュの金属フィルターで濾過して、実施例及び比較例のプレコート剤を調製した。
なお、比較例6及び9のプレコート剤は、各種材料の分散安定性が低すぎて、後述する各評価を行うことができなかった。
【0088】
<水性インクジェット記録用インク組成物の調製>
(水性樹脂ワニス)
ガラス転移温度40℃、重量平均分子量30,000、酸価185mgKOH/gの、アクリル酸/n-ブチルアクリレート/ベンジルメタクリレート/スチレン共重合体20質量部を水酸化カリウム2.5質量部と水77.5質量部との混合溶液に溶解させて、固形分20%の水性樹脂ワニスを得た。
【0089】
(水性ブラックインクベースの調製)
上記水性樹脂ワニスの23.7質量部に水64.3質量部を加え混合し、顔料分散用樹脂ワニスを調製した。このワニスに、更にカーボンブラック(商品名プリンテックス90、デグサ社製)の12質量部を加え、攪拌混合後、湿式サーキュレーションミルで練肉を行い、水性ブラックインクベースを調製した。
【0090】
(水性イエローインクベースの調製)
上記水性樹脂ワニスの23.7質量部に水64.3質量部を加え混合し、顔料分散用樹脂ワニスを調製した。このワニスに、更にイエロー顔料(商品名ノバパームイエロー4G01、クラリアント社製)の12質量部を加え、攪拌混合後、湿式サーキュレーションミルで練肉を行い、水性イエローインクベースを調製した。
【0091】
(水性マゼンタインクベースの調製)
上記水性樹脂ワニスの23.7質量部に水64.3質量部を加え混合し、顔料分散用樹脂ワニスを調製した。このワニスに、更にマゼンタ顔料(商品名インクジェットマゼンタE5B02、クラリアント社製)の12質量部を加え、攪拌混合後、湿式サーキュレーションミルで練肉を行い、水性マゼンタインクベースを調製した。
【0092】
(水性シアンインクベースの調製)
上記水性樹脂ワニスの23.7質量部に水64.3質量部を加え混合し、顔料分散用樹脂ワニスを調製した。このワニスに、更にシアン顔料(商品名ヘリオゲンブルーL7101F、BASF社製)の12質量部を加え、攪拌混合後、湿式サーキュレーションミルで練肉を行い、水性シアンインクベースを調製した。
【0093】
(ブラックインク組成物の調製)
下記に記載した各材料のうち、水性ブラックインクベースを除いたものを、下記の添加量で混合し、十分に攪拌した後、水性ブラックインクベース33質量部を攪拌しながら添加した。
十分に攪拌を行った後、この混合液を#3500メッシュの金属フィルターで濾過し、中空糸膜による脱気を行って、水性ブラックインクを調製した。
水性ブラックインクベース:33質量部
界面活性剤(オルフィンE1010、日信化学社製):0.5質量部
グリセリン:15質量部
ジエチレングリコール:14.5質量部
水:37質量部
【0094】
(イエローインク組成物の調製)
水性ブラックインクベースを水性イエローインクベースに変更したこと以外はブラックインク組成物の調製と同様にしてイエローインク組成物を作製した。
【0095】
(マゼンタインク組成物の調製)
水性ブラックインクベースを水性マゼンタインクベースに変更したこと以外はブラックインク組成物の調製と同様にしてマゼンタインク組成物を作製した。
【0096】
(シアンインク組成物の調製)
水性ブラックインクベースを水性シアンインクベースに変更したこと以外はブラックインク組成物の調製と同様にしてシアンインク組成物を作製した。
【0097】
(オーバーコート層用組成物の調製)
下記に記載した各材料を、下記の添加量で混合し、十分に攪拌を行って混合液を作製した。
この混合液を#200メッシュの金属フィルターで濾過して、オーバーコート層用組成物を調製した。
ジメチロールメラミンS260、日本カーバイド社製):50質量部
界面活性剤(サーフィノール440、日信化学社製):1質量部
2-ピロリドン:10質量部
水:39質量部
【0098】
<プレコート剤の物性評価>
(裏抜け)
実施例、比較例で作製したプレコート剤を、0.1mmバーコータにより紙上に塗布し80℃で3分乾燥させた後、各種水性インクジェット記録用インク組成物をインクジェットプリンターPX105(エプソン社製)のカートリッジに詰めて、印字を行い、裏抜けの有無について確認し、以下の基準で評価した。その結果を表1に示す。
なお、〇及び△を合格と評価した。
○:裏抜けが見られないもの
△:少量の裏抜けが見られるもの
×:多量の裏抜けが見られるもの
【0099】
(ブリード)
実施例、比較例で作製したプレコート剤を、0.1mmバーコータにより紙上に塗布し80℃で3分乾燥させた後、各種水性インクジェット記録用インク組成物をインクジェットプリンターPX105(エプソン社製)のカートリッジに詰めて、印字を行い、ブリード(色間ブリード)の有無を確認し、以下の基準で評価した。その結果を表1に示す。
なお、〇及び△を合格と評価した。
○:ブリードが見られないもの
△:少量のブリードが見られるもの
×:多量のブリードが見られるもの
【0100】
(モタリング)
実施例、比較例で作製したプレコート剤を、0.1mmバーコータにより紙上に塗布し80℃で3分乾燥させた後、各種水性インクジェット記録用インク組成物をインクジェットプリンターPX105(エプソン社製)のカートリッジに詰めて、100%ベタ印字を行い、ベタ部のスジが見られるかの有無を以下の基準で評価した。その結果を表1に示す。
なお、〇及び△を合格と評価した。
○:ベタ部にスジが見られないもの
△:少量のスジが見られるもの
×:多量のスジが見られるもの
【0101】
<オーバーコート適性>
上述した実施例、比較例において、裏抜け、ブリード、モタリングでいずれも×評価にならない印刷物に対して、0.3mmバーコータによりオーバーコート層用組成物を2回塗布し、150℃で10分反応させてオーバーコート層を形成した。
その後、塩酸(1N)を浸みこませた不織布でコート層を10回ふき取り、オーバーコート層の表面の状態を目視で確認した。
なお、〇評価のオーバーコート層が形成されたものを、剥がれや硬度の低下を抑制できたものと判断した。
○:オーバーコート層の剥がれ、溶解が見られないもの
×:オーバーコート層の剥がれ、溶解が見られるもの
【0102】
【0103】
無機粒子、有機酸のアミン塩、樹脂エマルジョン及び水を含み、上記無機粒子は、粒径が1μm~10μmであるプレコート剤を用いた実施例では、多価金属塩を用いなくても、インクジェット記録用インク組成物を印刷した際に、モタリングやブリードを抑制して印刷画質を良好にすることができ、インクジェット記録用インク組成物の裏抜けを抑制することができ、かつ、オーバーコート層の形成の際にオーバーコート層の剥がれや硬度の低下を抑制することができることが確認された。
多価金属塩を用いなくても、インクジェット記録用インク組成物を印刷した際に、モタリングやブリードを抑制して印刷画質を良好にすることができ、インクジェット記録用インク組成物の裏抜けを抑制することができ、かつ、後工程(オーバーコート層の形成)の際にオーバーコート層の剥がれや硬度の低下を抑制することができるプレコート剤を提供することができる。