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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156430
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】アレルギー抑制剤及び脱顆粒抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/02 20060101AFI20221006BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20221006BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20221006BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20221006BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221006BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20221006BHJP
   C07K 14/705 20060101ALN20221006BHJP
   C07K 7/08 20060101ALN20221006BHJP
【FI】
A61K38/02
A61K38/10 ZNA
A61K38/17
A61P37/08
A61P43/00 105
C07K14/47
C07K14/705
C07K7/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060117
(22)【出願日】2021-03-31
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亮
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA18
4C084BA21
4C084BA23
4C084BA43
4C084CA18
4C084CA23
4C084MA52
4C084NA14
4C084ZB131
4C084ZB211
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA16
4H045BA17
4H045CA40
4H045CA42
4H045DA50
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】好中球特異的に発現するタンパク質であるLy6Gに着目し、マスト細胞と好中球の相互作用を介したLy6Gのマスト細胞応答調節機構について明らかにすることである。
【解決手段】好中球由来タンパク質であるLy6Gは、マスト細胞応答調節因子としての機能を有することにより、炎症性メディエータの分泌量である脱顆粒量を制御することを見出して、本発明を完成した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ly6/uPARファミリータンパク質を含むアレルギー抑制剤。
【請求項2】
Ly6/uPARファミリーは、Ly6Gである請求項1に記載のアレルギー抑制剤。
【請求項3】
Ly6/uPARファミリーは、human CD59、human CD177、human Ly6D、human Ly6E、human Ly6H、human Ly6K、human Ly6L、mouse Ly6G、mouse Ly6A、mouse Ly6C1、mouse Ly6C2、mouse Ly6D、mouse Ly6E、mouse Ly6F、mouse Ly6H、mouse Ly6I、mouse Ly6K、mouse Ly6L又はmouse Ly6Mである請求項1に記載のアレルギー抑制剤。
【請求項4】
Ly6/uPARファミリータンパク質は、以下のいずれか1に記載のポリペプチドである請求項1に記載のアレルギー抑制剤。
1)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
2)配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
3)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
4)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
5)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
6)配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
7)配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
8)配列番号7に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
9)配列番号8に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
10)配列番号9に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
11)配列番号1~10のいずれか1に記載のアミノ酸配列において、1又は2個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号1~10のいずれか1に記載のアミノ酸配列と実質的同質のアレルギー抑制作用を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド
12)配列番号1~10のいずれか1に記載のアミノ酸配列と95%以上の相同性を有し、かつ配列番号1~10のいずれか1に記載のアミノ酸配列と実質的同質のアレルギー抑制作用を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド
【請求項5】
Ly6/uPARファミリータンパク質を含む脱顆粒抑制剤。
【請求項6】
Ly6/uPARファミリーは、Ly6Gである請求項5に記載の脱顆粒抑制剤。
【請求項7】
Ly6/uPARファミリーは、human CD59、human CD177、human Ly6D、human Ly6E、human Ly6H、human Ly6K、human Ly6L、human-ACRV1、human-GML、human-GPIHBP1、human-LY6G5B、human-LY6G5C、human-Y6G6C、human-LY6G6D、human-LY6G6F、human-LYNX1、human-LYPD1、human-LYPD2、human-LYPD3、human-LYPD4、human-LYPD5、human-LYPD6、human-LYPD6B、human-LYPD8、human-PATE1、human-PATE2、human-PATE3、human-PATE4、human-PINLYP、human-PLAUR、human-PSCA、human-SLURP1、human-SLURP2、human-SPACA4、human-TEX101、mouse Ly6G、mouse Ly6A、mouse Ly6C1、mouse Ly6C2、mouse Ly6D、mouse Ly6E、mouse Ly6F、mouse Ly6H、mouse Ly6I、mouse Ly6K、mouse Ly6L、mouse-Acrv1、mouse-Cd177、mouse-Cd59a、mouse-Cd59b、mouse-Gml、mouse-Gml2、mouse-Gpihbp1、mouse-Ly6a2、mouse-Ly6g2、mouse-Ly6g5b、mouse-Ly6g5c、mouse-Ly6g6c、mouse-Ly6g6d、mouse-Ly6g6e、mouse-Ly6g6f、mouse-Ly6g6g、mouse-Lynx1、mouse-Lypd1、mouse-Lypd2、mouse-Lypd3、mouse-Lypd4、mouse-Lypd5、mouse-Lypd6、mouse-Lypd6b、mouse-Lypd8、mouse-Lypd9、mouse-Lypd10、mouse-Lypd11、mouse-Pate1、mouse-Pate2、mouse-Pate3、mouse-Pate4、mouse-Pate5、mouse-Pate6、mouse-Pate7、mouse-Pate8、mouse-Pate9、mouse-Pate10、mouse-Pate11、mouse-Pate12、mouse-Pate13、mouse-Pate14、mouse-Pinlyp、mouse-Plaur、mouse-Psca、mouse-Slurp1、mouse-Slurp2、mouse-Spaca4、mouse-Tex101又はmouse Ly6Mである請求項5に記載の脱顆粒抑制剤。
【請求項8】
Ly6/uPARファミリータンパク質は、以下のいずれか1に記載のポリペプチドである請求項5に記載の脱顆粒抑制剤。
1)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
2)配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
3)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
4)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
5)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
6)配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
7)配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
8)配列番号7に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
9)配列番号8に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
10)配列番号9に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
11)配列番号1~10のいずれか1に記載のアミノ酸配列において、1又は2個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号1~10のいずれか1に記載のアミノ酸配列と実質的同質の脱顆粒抑制作用を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド
12)配列番号1~10のいずれか1に記載のアミノ酸配列と95%以上の相同性を有し、かつ配列番号1~10のいずれか1に記載のアミノ酸配列と実質的同質の脱顆粒抑制作用を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレルギー抑制剤及び脱顆粒抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
(アレルギー疾患の発症)
花粉症やアトピー性皮膚炎などに代表されるアレルギー疾患の発症には、マスト細胞が重要な役割を担っている。マスト細胞は、細胞膜上にIgE受容体(FcεRI)を発現しており、花粉や食物などの抗原と抗原特異的IgEを介してFcεRIが架橋されることで活性化する。その結果、細胞内シグナルが活性化し、細胞内顆粒に存在する炎症性メディエータが細胞外に放出する分泌反応が誘導される(参照:非特許文献1)。また、マスト細胞が分泌するメディエータには、ヒスタミン、プロテアーゼ、脂質メディエータ、サイトカインやケモカインなどがある(参照:非特許文献2、3)。これらの働きにより血管透過性が亢進し、好中球、好塩基球、好酸球、マクロファージなどの免疫細胞の血管から炎症組織への浸潤が起こり、相互作用することで、複雑なアレルギー反応の調節が行われていると考えられている(参照:非特許文献4)。
【0003】
本発明者は、受動皮膚アナフィラキシーモデルマウスを用いた研究により、アレルギー炎症組織において抗原により特異的に活性化したマスト細胞とアレルギー炎症組織に浸潤した好中球が、近傍に存在し相互作用していることを明らかにした(参照:非特許文献5)。
好中球は、白血球の一種で通常は血管内に存在し、組織内の免疫細胞が病原体などを認識し炎症性メディエータを放出すると、血管透過性が亢進した炎症組織内へと浸潤する。組織に浸潤した好中球は、病原体などの貪食や抗菌タンパク質の放出など、病原体を認識し殺すことで生体防御に重要な役割を果たしている(参照:非特許文献4、6)。
しかし、アレルギー疾患におけるマスト細胞と好中球の相互作用について、その詳細な分子メカニズムには未だ不明な点が多い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Gonzalez-de-Olano D. et al., “Mast Cells as Key Players in Allergyand Inflammation” J Investig Allergol Clin Immunol. 28(6): 365-378. (2018)
【非特許文献2】Sara Wernersson et al., “Mast cell secretorygranules: armed for battle”Nature Reviews Immunologyvolume 14, pages478-494. (2014)
【非特許文献3】Kaori Mukai et al., “Mast cells as sources of cytokines chemokines,and growth factors” Immunol. Rev. 282:121-150. (2018)
【非特許文献4】Pastwinska J et al., “Mast cells as the strength of the inflammatoryprocess” Pol J Pathol. 68(3):187-196. (2017)
【非特許文献5】R. Suzuki et al., “Molecular Editing of Cellular Responses by theHigh-Affinity Receptor for IgE.” Science. 343, 1021-1025. (2014)
【非特許文献6】ElzbietaKolaczkowska et al., “Neutrophil recruitment and function in health andinflammation.” Nat Rev Immunol. 13(3):159-75. (2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
好中球特異的に発現するタンパク質であるLy6Gに着目し、マスト細胞と好中球の相互作用を介したLy6Gのマスト細胞応答調節機構について明らかにすること課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、好中球由来タンパク質であるLy6Gは、マスト細胞応答調節因子としての機能を有することにより、炎症性メディエータの分泌量である脱顆粒量を制御することを見出して、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.Ly6/uPARファミリータンパク質を含むアレルギー抑制剤。
2.Ly6/uPARファミリーは、Ly6Gである前項1に記載のアレルギー抑制剤。
3.Ly6/uPARファミリーは、human CD59、human CD177、human Ly6D、human Ly6E、human Ly6H、human Ly6K、human Ly6L、mouse Ly6G、mouse Ly6A、mouse Ly6C1、mouse Ly6C2、mouse Ly6D、mouse Ly6E、mouse Ly6F、mouse Ly6H、mouse Ly6I、mouse Ly6K、mouse Ly6L又はmouse Ly6Mである前項1に記載のアレルギー抑制剤。
4.Ly6/uPARファミリータンパク質は、以下のいずれか1に記載のポリペプチドである前項1に記載のアレルギー抑制剤。
1)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
2)配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
3)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
4)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
5)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
6)配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
7)配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
8)配列番号7に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
9)配列番号8に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
10)配列番号9に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
11)配列番号1~10のいずれか1に記載のアミノ酸配列において、1又は2個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号1~10のいずれか1に記載のアミノ酸配列と実質的同質のアレルギー抑制作用を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド
12)配列番号1~10のいずれか1に記載のアミノ酸配列と95%以上の相同性を有し、かつ配列番号1~10のいずれか1に記載のアミノ酸配列と実質的同質のアレルギー抑制作用を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド
5.Ly6/uPARファミリータンパク質を含む脱顆粒抑制剤。
6.Ly6/uPARファミリーは、Ly6Gである前項5に記載の脱顆粒抑制剤。
7.Ly6/uPARファミリーは、human CD59、human CD177、human Ly6D、human Ly6E、human Ly6H、human Ly6K、human Ly6L、human-ACRV1、human-GML、human-GPIHBP1、human-LY6G5B、human-LY6G5C、human-Y6G6C、human-LY6G6D、human-LY6G6F、human-LYNX1、human-LYPD1、human-LYPD2、human-LYPD3、human-LYPD4、human-LYPD5、human-LYPD6、human-LYPD6B、human-LYPD8、human-PATE1、human-PATE2、human-PATE3、human-PATE4、human-PINLYP、human-PLAUR、human-PSCA、human-SLURP1、human-SLURP2、human-SPACA4、human-TEX101、mouse Ly6G、mouse Ly6A、mouse Ly6C1、mouse Ly6C2、mouse Ly6D、mouse Ly6E、mouse Ly6F、mouse Ly6H、mouse Ly6I、mouse Ly6K、mouse Ly6L、mouse-Acrv1、mouse-Cd177、mouse-Cd59a、mouse-Cd59b、mouse-Gml、mouse-Gml2、mouse-Gpihbp1、mouse-Ly6a2、mouse-Ly6g2、mouse-Ly6g5b、mouse-Ly6g5c、mouse-Ly6g6c、mouse-Ly6g6d、mouse-Ly6g6e、mouse-Ly6g6f、mouse-Ly6g6g、mouse-Lynx1、mouse-Lypd1、mouse-Lypd2、mouse-Lypd3、mouse-Lypd4、mouse-Lypd5、mouse-Lypd6、mouse-Lypd6b、mouse-Lypd8、mouse-Lypd9、mouse-Lypd10、mouse-Lypd11、mouse-Pate1、mouse-Pate2、mouse-Pate3、mouse-Pate4、mouse-Pate5、mouse-Pate6、mouse-Pate7、mouse-Pate8、mouse-Pate9、mouse-Pate10、mouse-Pate11、mouse-Pate12、mouse-Pate13、mouse-Pate14、mouse-Pinlyp、mouse-Plaur、mouse-Psca、mouse-Slurp1、mouse-Slurp2、mouse-Spaca4、mouse-Tex101又はmouse Ly6Mである前項5に記載の脱顆粒抑制剤。
8.Ly6/uPARファミリータンパク質は、以下のいずれか1に記載のポリペプチドである前項5に記載の脱顆粒抑制剤。
1)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
2)配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
3)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
4)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
5)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
6)配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
7)配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
8)配列番号7に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
9)配列番号8に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
10)配列番号9に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
11)配列番号1~10のいずれか1に記載のアミノ酸配列において、1又は2個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号1~10のいずれか1に記載のアミノ酸配列と実質的同質の脱顆粒抑制作用を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド
12)配列番号1~10のいずれか1に記載のアミノ酸配列と95%以上の相同性を有し、かつ配列番号1~10のいずれか1に記載のアミノ酸配列と実質的同質の脱顆粒抑制作用を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド
【発明の効果】
【0008】
本発明は、アレルギー抑制剤及び脱顆粒抑制剤を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】マスト細胞と好中球の分化・精製率の確認。(A)マウス骨髄から骨髄細胞を採取し、成長因子(IL-3、SCF)の存在下で1か月間培養し分化させることで骨髄由来マスト細胞を得た。マウス骨髄から骨髄細胞を採取し、好中球単離キットを用いたネガティブセレクション法により精製することで骨髄単離好中球を得た。(B)マーカータンパク質(マスト細胞:FcεRIα、好中球:Ly6G)を指標にフローサイトメータを用いて解析した。
図2】好中球由来タンパク質Ly6Gのマスト細胞への移動。(A)マスト細胞と好中球をマトリゲルでコートしたディッシュ上で24時間共存培養した。(B)IgEで感作後、抗原で特異的に刺激した際のマスト細胞(MC)と好中球(N)の共焦点レーザー顕微鏡像を示した。抗Ly6G抗体及びファロイジンで染色した。マスト細胞(MC)と好中球(N)が接着している部分で、好中球に発現しているLy6Gの蛍光が、マスト細胞に移動している様子が観察された(上段)。抗原刺激後、マスト細胞内でLy6Gの蛍光が観察できた(下段)。
図3】マスト細胞と好中球の相互作用におけるLy6Gの移動メカニズムに関する模式図である。
図4】マスト細胞と好中球の共存培養上清中のLy6G量の変化。マスト細胞と好中球を共存培養し、未刺激(0時間)または抗原刺激(0.5、1、3、6時間)後の培養上清を抗Ly6G抗体(clone:1A8)を用いてウエスタンブロッティング法により検出した(mean±SEM、*p < 0.05、***p < 0.001)。
図5】リコンビナントLy6Gの精製とマスト細胞への結合。(A)タンパク質発現誘導剤であるIPTG添加前後の大腸菌溶解液とリコンビナントLy6Gを抗Ly6G抗体(clone:1A8)、抗Histag抗体(clone:OGHis)を用いてウエスタンブロッティング法により検出した。(B)IgE感作後のマスト細胞にLy6Gを処理し、未刺激又は抗原で特異的に刺激し、抗Ly6G抗体(clone:1A8)で染色した。フローサイトメータでLy6Gの結合しているマスト細胞(Ly6G+)を検出し、その割合を求めた。
図6】Ly6Gによるマスト細胞の脱顆粒量の解析。(A, B)IgE感作後のマスト細胞にリコンビナントLy6G(A:2.5 μM、B:0.25、0.5、2.5、5 μM、コントロール:PBS)を処理したのち抗原刺激を30分間行った。脱顆粒反応は、マスト細胞培養上清中のβ-hexosaminidase量を定量することで評価した(mean±SEM、**p <0.01)。
図7】Ly6Gによるマスト細胞からのTNFαの定量解析。IgE感作後のマスト細胞にLy6G(コントロール:PBS)を処理し抗原刺激を8時間行った。マスト細胞培養上清中のTNFα分泌量をELISA法を用いて定量した(mean±SEM、***p <0.001)。
図8】Ly6Gによるマスト細胞内カルシウムイオン濃度の解析。(A)IgE、カルシウム蛍光指示薬(Fluo4、Fura red)、リコンビナントLy6G(コントロール : PBS)を処理したマスト細胞を共焦点レーザー顕微鏡で5秒間隔で撮影し、撮影開始1分後に抗原刺激を行った。その後9分間(計10分間)撮影した。グラフはFluo 4とFura redの蛍光強度の比(Fluo 4/Fura red)を求め、各時間の蛍光強度比(Ft)を撮影開始時(F0)の値で補正した(mean±SEM、*p <0.05)。(B)マスト細胞への抗原刺激1分後(撮影開始後2分)及び9分後(撮影開始後10分における蛍光強度比について解析を行った(mean±SEM、****p <0.0001)。
図9】Ly6Gによるマスト細胞シグナル分子の活性化の解析。IgE感作後のマスト細胞にリコンビナントLy6G(コントロール:PBS)を処理し、未刺激(0 min)又は抗原刺激(2、5、15、30min)後の各タンパク質の活性化状態の解析を行った。細胞可溶化液をSDS-PAGE後、各種タンパク質の部位特異的抗リン酸化抗体を用いたウエスタンブロッティング法により検出した。
図10】Ly6Gペプチドによるマスト細胞の脱顆粒量の制御。IgE感作後のマスト細胞をLy6Gペプチド#1~#9(10 μM、コントロール:10% DMSO/PBS)を処理し、抗原刺激を30分間行った。脱顆粒反応は、マスト細胞培養上清中のβ-hexosaminidase量を定量することで評価した(mean±SEM、*p <0.05、**p <0.01、***p <0.001、****p <0.0001)。
図11】Ly6G断片化ペプチドによるマスト細胞のTNFαの分泌制御。IgE感作後のマスト細胞にLy6Gペプチド#1~#9(10 μM、コントロール:10% DMSO/PBS)を処理し抗原刺激を3時間行った。マスト細胞培養上清中のTNFα分泌量をELISA法を用いて定量した(mean±SEM、*p <0.05、**p<0.01)。
図12】マスト細胞と好中球の相互作用を介したLy6G移動メカニズムとマスト細胞応答調節の概要。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本発明の対象)
本発明の対象は、アレルギー抑制剤、脱顆粒抑制剤、並びに、アレルギー抑制剤若しくは脱顆粒抑制剤のスクリーニング方法に関する。
【0011】
(Ly6G)
Ly6Gは、Ly6/uPARファミリーに属し、GPIアンカーを介して好中球の細胞膜上に特異的に発現する約25kDa(糖鎖修飾部位を含む)の低分子量タンパク質である(参照:J LeukocBiol. 94(4):585-94. (2013))。Ly6ファミリータンパク質は好中球をはじめとする様々な免疫細胞に発現するタンパク質であり、Ly6/uPARドメインという共通部位を持つ。現在までにマウスにおいて60種類以上が確認されているが、そのほとんどの生理学的機能は不明である。好中球にはLy6B、Ly6C、Ly6Gなどが発現しており、その中でもLy6Gは、好中球特異的なタンパク質であることから好中球のマーカータンパク質として一般的に用いられている(J Leukoc Biol. 94(4):585-94. (2013))。Ly6Gは主にマウス好中球で高い発現が観察されるマウス特異的なタンパク質であるが、マウスLy6Gホモローグとして、共通の機能を持つCD177がヒト好中球にも存在することが知られている(Hum Genomics. 21;10:10. (2016)、Blood.120(7):1352-3. (2012))。
【0012】
本発明のLy6/uPARファミリータンパク質は、上記述べたタンパク質を含むが、特に好ましいタンパク質は、Ly6と相同配列を有するhuman CD59、human CD177、human Ly6D、human Ly6E、human Ly6H、human Ly6K、human Ly6L、human-ACRV1、human-GML、human-GPIHBP1、human-LY6G5B、human-LY6G5C、human-Y6G6C、human-LY6G6D、human-LY6G6F、human-LYNX1、human-LYPD1、human-LYPD2、human-LYPD3、human-LYPD4、human-LYPD5、human-LYPD6、human-LYPD6B、human-LYPD8、human-PATE1、human-PATE2、human-PATE3、human-PATE4、human-PINLYP、human-PLAUR、human-PSCA、human-SLURP1、human-SLURP2、human-SPACA4、human-TEX101、mouse Ly6G、mouse Ly6A、mouse Ly6C1、mouse Ly6C2、mouse Ly6D、mouse Ly6E、mouse Ly6F、mouse Ly6H、mouse Ly6I、mouse Ly6K、mouse Ly6L、mouse-Acrv1、mouse-Cd177、mouse-Cd59a、mouse-Cd59b、mouse-Gml、mouse-Gml2、mouse-Gpihbp1、mouse-Ly6a2、mouse-Ly6g2、mouse-Ly6g5b、mouse-Ly6g5c、mouse-Ly6g6c、mouse-Ly6g6d、mouse-Ly6g6e、mouse-Ly6g6f、mouse-Ly6g6g、mouse-Lynx1、mouse-Lypd1、mouse-Lypd2、mouse-Lypd3、mouse-Lypd4、mouse-Lypd5、mouse-Lypd6、mouse-Lypd6b、mouse-Lypd8、mouse-Lypd9、mouse-Lypd10、mouse-Lypd11、mouse-Pate1、mouse-Pate2、mouse-Pate3、mouse-Pate4、mouse-Pate5、mouse-Pate6、mouse-Pate7、mouse-Pate8、mouse-Pate9、mouse-Pate10、mouse-Pate11、mouse-Pate12、mouse-Pate13、mouse-Pate14、mouse-Pinlyp、mouse-Plaur、mouse-Psca、mouse-Slurp1、mouse-Slurp2、mouse-Spaca4、mouse-Tex101及びmouse Ly6Mである(参照文献:Loughner et al. Human Genomics (2016) 10:10)。
特に、mouse Ly6A、mouse Ly6C1、mouse Ly6C2及びmouse Ly6Mのアミノ酸配列は、Ly6G peptide#9(配列番号9)のアミノ酸配列と約80%以上の相同性を有するので、これらのタンパク質はLy6G peptide#9(配列番号9)と同等の活性を有する。
【0013】
本発明のLy6/uPARファミリータンパク質は、以下のポリペプチドも含む。
1)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
2)配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
3)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
4)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
5)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
6)配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
7)配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
8)配列番号7に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
9)配列番号8に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
10)配列番号9に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
11)配列番号1~10のいずれか1に記載のアミノ酸配列において、1又は2個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号1~10のいずれか1に記載のアミノ酸配列と実質的同質のアレルギー抑制作用又は脱顆粒抑制作用を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド
12)配列番号1~10のいずれか1に記載のアミノ酸配列と95%以上(特に、96%以上、97%以上、98%以上又は99%以上が好ましい)の相同性を有し、かつ配列番号1~10のいずれか1に記載のアミノ酸配列と実質的同質のアレルギー抑制作用又は脱顆粒抑制作用を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド
【0014】
ペプチドの変異の導入において、当該ペプチドの基本的な性質(物性、機能、生理活性又は免疫学的活性等)を変化させないという観点からは、例えば、同族アミノ酸(極性アミノ酸、非極性アミノ酸、疎水性アミノ酸、親水性アミノ酸、陽性荷電アミノ酸、陰性荷電アミノ酸および芳香族アミノ酸等)の間での相互の置換は容易に想定される。
「配列番号1~10のいずれか1に記載のアミノ酸配列と実質的同質のアレルギー抑制作用又は脱顆粒抑制作用」とは、その作用程度は、配列番号1~10のいずれか1に記載のアミノ酸配列のアレルギー抑制作用又は脱顆粒抑制作用と比較して強くても弱くてもよい。例えば、配列番号10に記載のアミノ酸配列のアレルギー抑制作用又は脱顆粒抑制作と比較して、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約100%、約110%、約120%、約130%、約140%、約150%を例示することができる。
また、同一性は、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool atthe National CenterforBiological Information)等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータを用いて)を用いて計算することができる。
本明細書において、ポリペプチドとは、タンパク質、ポリペプチド及びオリゴペプチドを含み、その最小サイズは2アミノ酸である。
本明細書において、タンパク質とは、その分解物、断片化ペプチド等を含む。例えば、Ly6/uPARファミリータンパク質は、Ly6/uPARファミリータンパク質の断片化ペプチドを含む。
【0015】
(マスト細胞)
マスト細胞の分泌顆粒には、ヒスタミンをはじめとして、サイトカインやケモカイン、その他様々なプロテアーゼが含まれており、アレルギー疾患発症に重要な役割を担っている。また、マスト細胞の分泌顆粒に含まれる炎症性メディエータは、様々な生理作用を有している。
ヒスタミンは血管透過性亢進作用を有しており、実際に、マスト細胞が抗原で活性化するとこれらの炎症性メディエータが分泌されることで血管透過性が亢進し、好中球が血管から組織に浸潤し、マスト細胞と好中球が近傍に存在し相互作用することが明らかになっている。
このように、マスト細胞によって誘導された炎症組織では、マスト細胞の近傍に存在する細胞がマスト細胞が分泌する各種炎症性メディエータに曝露されることで、炎症反応が調節されていると考えられている。
本発明のアレルギー抑制剤若しくは脱顆粒抑制剤のスクリーニング方法に使用するマスト細胞は、どのような由来の細胞でも良いが、ヒト又はマウス、ラット由来が好ましい。さらに、市販のマスト細胞を使用することができる。
【0016】
(アレルギー)
本発明のアレルギーは、I、II、III、IV型アレルギーを含む。また、本発明のアレルギー疾患は、特に限定されないが、花粉症、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、気管支喘息、じんましん、アナフィラキシー、薬物アレルギー、ダニアレルギー、金属アレルギー、ハウスダストアレルギー、ラテックスアレルギー、トキシンアレルギー、動物アレルギーを含む。
【0017】
(アレルギー抑制剤)
本発明のアレルギー抑制剤は、本発明のアレルギー疾患のいかなる症状(軽度、中程度、重症)の患者(ヒト及び非ヒト哺乳動物を含む。好ましい非ヒト哺乳動物として、ペットや家畜等を含む。)も対象とする。特に、本発明のアレルギー抑制剤は、I型アレルギーを対象とすることが好ましい。
なお、抑制とは、アレルギーを治療、予防、再発予防、軽減、完治等を含む。
本発明のアレルギー抑制剤は、下記の実施例により、単に、マスト細胞の炎症性メディエータの放出量を抑制するだけでなく、制御することができる。
【0018】
(脱顆粒抑制剤)
本発明の脱顆粒抑制剤は、マスト細胞の脱顆粒量の増加に伴う疾患(花粉症、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、気管支喘息、じんましん、アナフィラキシー、薬物アレルギー、ダニアレルギー、金属アレルギー、ハウスダストアレルギー、ラテックスアレルギー、トキシンアレルギー、動物アレルギー)の患者(ヒト及び非ヒト哺乳動物を含む。好ましい非ヒト哺乳動物として、ペットや家畜等も含む。)も対象とする。
なお、抑制とは、脱顆粒量の増加に伴う疾患を治療、予防、再発予防、軽減、完治等を含む。
本発明の脱顆粒抑制剤は、下記の実施例により、単に、マスト細胞の脱顆粒量を抑制するだけでなく、制御することができる。
【0019】
(投与方法、剤形)
本発明の抑制剤の投与経路に特に制限はないが、好ましい投与経路として、経静脈、経口、経皮、経粘膜(口腔、直腸、膣等)が挙げられる。
経口投与用製剤としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤(ドライシロップ剤)、経口ゼリー剤などが挙げられる。経皮投与用又は経粘膜投与用製剤としては、貼付剤、軟膏剤等が挙げられる。
錠剤、カプセル剤、顆粒剤及び散剤等は、腸溶性製剤とすることができる。例えば、錠剤、顆粒剤、散剤に腸溶性のコーティングを施す。腸溶性コーティング剤としては、胃難溶性腸溶性コーティング剤を用いることができる。
本発明の抑制剤は、有効成分の他に、投与形態に応じて、薬理学的に許容しうる担体を含ませることができる。薬理学的に許容しうる担体としては、例えば賦形剤、崩壊剤若しくは崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤若しくは溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、および粘着剤等を挙げることができる。
【0020】
本発明の抑制剤の投与量及び投与回数は、投与対象、その年齢、体重、性別、目的(予防用か治療用か等)、症状の重篤度、剤形、投与経路等の条件によって適宜変化しうる。ヒトに投与する場合、有効成分であるLy6/uPARファミリータンパク質の投与量は、例えば、1日当たり、約0.0001 mg/kg体重~10 mg/kg体重投与される。また、投与回数は、1日当たり1回又は複数回、又は数日に1回であってもよい。例えば、1日当たり1~3回、1~2回、又は1回であってよい。
本発明の抑制剤は、医薬品、医薬部外品、医療機器、衛生用品、食品、飲料、サプリメントにすることができる。
【0021】
(治療方法)
本発明は、Ly6/uPARファミリータンパク質を有効成分として、アレルギー又は脱顆粒量の増加に伴う疾患の予防方法及び/又は治療方法も対象とする。
【0022】
(スクリーニング方法)
本発明のアレルギー抑制剤若しくは脱顆粒抑制剤のスクリーニング方法は、以下を対象とする。
〇マスト細胞のLy6/uPARファミリータンパク質(特に、Ly6G)の取り込み(結合)を促進する物質を判定する。
〇好中球のLy6/uPARファミリータンパク質(特に、Ly6G)の放出量を増加する物質を判定する。
【0023】
「マスト細胞のLy6/uPARファミリータンパク質(特に、Ly6G)の取り込み(結合)を促進する物質を判定する」とは、例えば下記のいずれか1以上の工程を含んでも良い。
(a-1)被験物質の存在下において、Ly6/uPARファミリータンパク質のマスト細胞の結合量を測定する工程、及び
(a-2)上記(a-1)の結果に基づいて、マスト細胞のLy6/uPARファミリータンパク質(特に、Ly6G)の取り込み(結合)を促進する被験物質を選択する工程。
【0024】
「好中球のLy6/uPARファミリータンパク質(特に、Ly6G)の放出量を増加する物質を判定する」とは、例えば下記のいずれか1以上の工程を含んでも良い。
(a-1)被験物質の存在下において、好中球のLy6/uPARファミリータンパク質のマスト細胞の放出量を測定する工程、及び
(a-2)上記(a-1)の結果に基づいて、好中球のLy6/uPARファミリータンパク質(特に、Ly6G)の放出量を増加する被験物質を選択する工程。
【0025】
(被験物質)
上記スクリーニングで使用する治療剤候補物質となる被験物質としては任意の物質を使用することができる。被験物質の種類は特に限定されず、個々の低分子合成化合物(例えばsiRNA)でもよいし、天然物抽出物中に存在する化合物でもよく、合成ペプチドでもよい。
被験物質は、化合物ライブラリー、ゲノム編集ライブラリー、ファージディスプレーライブラリー又はコンビナトリアルライブラリーでもよい。化合物ライブラリー、ファージディスプレーライブラリー及びコンビナトリアルライブラリーの構築は当業者に公知であり、また市販の化合物ライブラリーを使用することもできる。
【実施例0026】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0027】
<材料及び方法>
以下の材料及び方法を使用して、実施例2~7を実施した。
【0028】
(細胞培養)
骨髄由来マスト細胞(BMMC:Bone marrow-derived mast cell)は、6-12週齢マウス(C57BL/6N)の大腿骨及び脛骨から骨髄細胞を採取し、10% FBS(SIGMA)、IL-3、SCF、MEM Non-Essential Amino Acids(nacalai tesque)、Sodium pyruvate(nacalai tesque)、Penicillin-Streptmycin(nacalai tesque)、HEPES(nacalai tesque)を加えたRPMI1640(nacalai tesque)中で37℃、5% CO2の条件下で1か月間培養し、分化させた。
骨髄単離好中球は6-12週齢マウスの大腿骨及び脛骨から骨髄細胞を採取し、NeutrophilIsolation kit(MACS Miltenyi Biotec)を用いたネガティブセレクション法により単離した。
マスト細胞と好中球をマトリゲル(Corning)でコートしたガラスボトムディッシュ上で24時間培養することで共存培養系を作製した。
【0029】
(骨髄由来マスト細胞と骨髄単離好中球の分化・精製率の解析)
1.0×105個のマスト細胞又は好中球をFACS Buffer(0.1% BSA、0.02% NaN3、1 mM EDTA / PBS)で懸濁し、Fc block(5 μg/mL)を添加後、抗体を4℃下で1時間反応させた。FACS Bufferで2回洗浄し、ナイロンフィルター(41 μm)を通した後、FACS Verse(BD)で検出した。
特異抗体にはFITC標識 Anti-Mouse FcεRI Antibody(clone: MAR-1、eBioscience)、Alexa Fluor 647標識 Anti-Mouse CD117 Antibody(clone: 2B8、BioLegend)を使用し、非特異抗体にはFITC標識 Armenian Hamster IgG Isotype control(eBioscience)、Alexa Fluor 647標識 Rat IgG2b Isotype control(BioLegend)を使用した。
【0030】
(マスト細胞と好中球のin vitro共存培養系の免疫染色)
1.0×105個のマスト細胞と1.0×105個の好中球を用いた共存培養系を作製し、anti-DNP-IgE(clone:H1-DNP-ε-26.82,1 μg/mL)を37℃下で1時間感作させ、HEPES Tyrode Buffer(135 mM NaCl、5 mM KCl、20 mM HEPES、 5.6 mM Glucose、1 mM MgCl2、1.8 mM CaCl2、0.05% BSA、pH7.4)で洗浄した。その後、DNP-HSA(50 ng/mL)で刺激し、マスト細胞を特異的に活性化させた。刺激1時間後に4% PFAで固定し、0.2% Triton X-100で可溶化した後、特異抗体を4℃で一晩反応させた。PBSで洗浄後、共焦点レーザー顕微鏡LSM710(Zeiss)を用いて観察した。
特異抗体にはFITC標識 Anti-Mouse-Ly6G Antibody(BioLegend)、及びAlexa Fluor 647標識Phalloidin(Invitrogen)を使用し、非特異抗体にはFITC標識 Rat IgG2a κ Isotype control(BioLegend)を使用した。
【0031】
(リコンビナントLy6Gの精製)
Ly6G-pET28a(+)プラスミドはタンパク質発現用大腸菌(ClearColi BL21(DE3)Electrocompetent Cells)にエレクトロポレーション法で導入し、Ly6G-pET28a(+)BL21を構築した。Ly6G-pET28a(+)BL21を50 μg/mLのカナマイシン添加LB培地でOD600 = 0.5になるまで振盪培養し、0.1 mM IPTG(Protein Ark)存在下で130 rpm、5時間培養し、Ly6Gの発現誘導を行った。4,000 ×g、10分間の遠心操作で集菌し、上清を除いた。ペレットにCell Lysis buffer(100 mM Phosphate buffer,300 mM NaCl, protease inhibitor)を加えて懸濁し、Fast Break CellLysis Reagent 10×(Promega)を加えて溶菌した。-80℃で3回凍結融解を行い、溶液の粘性が上がったことを確認後、Benzonase Nuclease(EMD Millipore Corp)と100 mM MgCl2を加え、再度凍結融解を行った。融解後、10,000rpm、4℃で30分間遠心操作を行い、上清と保存液を取り除いた500 μL分のMagneHisTM Ni-Particles(Promega)を混合し、4℃で3時間転倒混和してビーズに目的タンパク質を吸着させた。Magnetic Separation stand(Promega)を用いて50 mM phosphate bufferで3回洗浄したのち、100 mM phosphate buffer、10 mM imidazoleElution bufferで各1回洗浄し、500 mM imidazole Elution bufferで溶出した。得られたタンパク質溶液をBiodesign Dialysis TubingTM 3500MWCO(BioDesign Inc. of New York)を用いてPBS中、4℃下で透析を行った。バッファー交換は1時間おきに2回行い、その後は一晩透析した。透析後にBCA Protein Assay Kit(Pierce)を用いてリコンビナントLy6Gを定量した。
【0032】
(リコンビナントLy6GのCBB染色)
リコンビナントLy6GをSDS-PAGEにより分離後、ゲルを蒸留水で1時間洗浄し、TaKaRa CBB Protein Safe Stain(TaKaRa)を室温で一晩反応させた。その後、蒸留水で1時間洗浄し、Odyssey(LI-COR)で検出した。
【0033】
(ウエスタンブロッティング)
以下の記載の手順により、ウエスタンブロッティングを実施した。
〇リコンビナントLy6Gの発現確認
リコンビナントLy6GをSDS-PAGEにより分離し、ニトロセルロース膜に転写した。5% スキムミルク溶液で30分間ブロッキング後、1次抗体を4℃下で一晩反応させた。その後、0.2% Tween溶液で洗浄し、2次抗体を室温で1時間反応させた。その後、0.2% Tween溶液で洗浄し、Odyssey(LI-COR)で検出した。
一次抗体には、Rat-Anti-Ly6G Antibody(clone: 1A8、BioXcell)及びMouse-Anti-Histag mAb(clone: OGHis、MBL)を使用し、2次抗体には、IRDye 800CW Goat-Anti-Rat IgGAntibody(LI-COR)及びIRDye 800CW Donkey-Anti-Mouse IgG Antibody(LI-COR)を使用した。
【0034】
〇マスト細胞と好中球の相互作用による上清中Ly6Gタンパク質の検出
1.0×106個のマスト細胞と1.0×106個の好中球を用いた共存培養系を作製し、anti-DNP-IgE(clone:H1-DNP-ε-26.82, 1 μg/mL)を37℃下で1時間感作させ、HEPES Tyrode Bufferで洗浄した。その後、DNP-HSA(50 ng/mL)で刺激(0、0.5、1、3、6時間)し、マスト細胞を特異的に活性化させた。3,000 rpmで5分間遠心操作を行い、上清をサンプルとした。得たサンプルはSDS-PAGEにより分離し、ニトロセルロース膜に転写した。5% スキムミルク溶液で30分間ブロッキング後、1次抗体を4℃下で一晩反応させた。その後、0.2% Tween溶液で洗浄し、2次抗体を室温で1時間反応させた。その後、0.2% Tween溶液で洗浄し、Odyssey(LI-COR)で検出した。
一次抗体には、Rat-Anti-Ly6G Antibody(clone: 1A8、BioXcell)を使用し、2次抗体には、IRDye 800CW Goat-Anti-Rat IgG Antibody(LI-COR)を使用した。
【0035】
〇Ly6Gタンパク質によるマスト細胞シグナル伝達分子のリン酸化の検出
1.0×106個のマスト細胞にanti-DNP-IgE(clone:H1-DNP-ε-26.82,1 μg/mL)を37℃下で1時間感作させ、HEPES Tyrode Bufferで洗浄した。その後、DNP-HSA(50 ng/mL)で刺激(0、2、5、15、30分)しマスト細胞を特異的に活性化させ、Lysis buffer(1% NP-40, 60 mM Octylpyranoside, protease inhibitor)を加え細胞を溶解した。氷上で静置し、14,000 rpmで10分間遠心操作を行い、上清をサンプルとした。得たサンプルはSDS-PAGEにより分離し、ニトロセルロース膜に転写した。50% InterceptTMBlocking Buffer(LI-COR)で30分間ブロッキング後、1次抗体を4℃下で一晩反応させた。その後、0.2% Tween溶液で洗浄し、2次抗体を室温で1時間反応させた。その後、0.2% Tween溶液で洗浄し、Odyssey(LI-COR)で検出した。
一次抗体には、Rabbit-Anti-phospho Lyn [Y396] Antibody(abcam)、Rabbit-Anti-phospho Syk [Y525/526] Antibody(cellsignaling)、Rabbit-Anti-phospho LAT [Y191] Antibody(cell signaling)、Mouse-Anti-phospho PLCγ1[Y783] Antibody(BioLegend)、Mouse-Anti-phosphoErk [T202/Y204] Antibody(eBioscience)、Rabbit-Anti-phospho p38 [T180/Y182] Antibody(cell signaling)、Rabbit-Anti-phospho JNK[T183/Y135] Antibody(cell signaling)、Rabbit-Anti-phospho Akt [T308] Antibody(cellsignaling)、Mouse-Anti β-Actin Antibody(MBL)及びRabbit-Anti β-Actin Antibody(MBL)を使用し、2次抗体には、IRDye680CW Donkey-Anti-Mouse IgG Antibody(LI-COR)、IRDye 800CW Donkey-Anti-Mouse IgG Antibody(LI-COR)及びIRDye 800CW Sheep-Anti-Rabbit IgG Antibody(LI-COR)Alexa fluor 680 Goat-Anti-Rabbit IgG Antibody(Invitrogen)を使用した。
【0036】
(Ly6G結合マスト細胞の検出)
1.5×106個のマスト細胞にanti-DNP-IgE(clone:H1-DNP-ε-26.82, 1 μg/mL)を37℃下で1時間感作させ、HEPESTyrode Bufferで洗浄し、リコンビナントLy6G(10μM)を加え30分間反応させた。その後、DNP-HSA(50 ng/mL)で1時間刺激し、マスト細胞を特異的に活性化させた。1,500 rpmで5分間遠心操作を行い、FACS Bufferで懸濁し、Fc block(5 μg/mL)を添加後、抗体を4℃下で1時間反応させた。FACS Bufferで2回洗浄し、ナイロンフィルター(41 μm)を通した後、FACS Verse(BD)で検出した。
特異抗体にはFITC標識 Anti-Mouse Ly6G Antibody(Invitrogen)を使用し、非特異抗体にはFITC標識 Rat IgG2a κ Isotype control(BioLegend)を使用した。
【0037】
(マスト細胞内カルシウムイオン濃度の測定)
2.0×105個のマスト細胞にanti-DNP-IgE(clone:H1-DNP-ε-26.82, 1μg/mL)、リコンビナントLy6G(2.5 μM)、Fluo4-AM(DOJINDO、3.5 μM)、Fura RedTM-AM(Invitrogen、5 μM)を加え、5 μg/mL Poly-D-Lysine hydrobromide(SIGMA)でコートしたガラスボトムディッシュ上に播種し、37℃で35分間感作させた。HEPES Tyrode bufferで洗浄し、HEPES Tyrode bufferで浸した。共焦点レーザー顕微鏡で5秒間隔で撮影し、撮影開始1分後に抗原刺激(50 ng/mL)を行った。その後9分間(計10分間)撮影した。カルシウム蛍光指示薬であるFluo 4とFura Redの各時間における蛍光強度を測定した。グラフはFluo 4とFura redの蛍光強度の比(Fluo 4 / Fura red)を求め、各時間の蛍光強度比(Ft)を撮影開始時(F0)の値で補正した。
【0038】
(Ly6G断片化ペプチド)
Ly6G(134アミノ酸:配列番号10)を20アミノ酸ずつに断片化した以下の配列のペプチド(コスモ・バイオ株式会社)を使用した。
【0039】
【表1】
【0040】
(脱顆粒量の測定)
脱顆粒量の測定にはβ-hexosaminidase assayを用いた。2.0×105個のマスト細胞にanti-DNP-IgE(clone:H1-DNP-ε-26.82,1 μg/mL)を37℃下で1時間感作させ、HEPES Tyrode bufferで洗浄し、リコンビナントLy6G(2.5 μM)又はペプチド(10 μM)を37℃下で30分間反応させた。その後、DNP-HSA(50 ng/mL)を37℃下で30分間刺激し、マスト細胞を特異的に活性化させた。3,000rpmで5分間遠心操作を行い、上清をサンプルとした。また、全β-hexosaminidase量の測定には0.5% Triton X-100で処理したサンプルを用意した。上清と2 mM p-NAG / 0.1 M Citrate Bufferを混合し、遮光し、37℃下で1時間反応させた。その後、0.1 M Carbonate Bufferを加え反応を停止させ、マルチプレートリーダー(TECAN)で405 nmにおける吸光度を測定し、相対脱顆粒量を以下の式により求めた。
【0041】
【数1】
【0042】
(サイトカイン分泌量の定量)
サイトカイン分泌量の定量にはELISA法を用いた。1.0×106個のマスト細胞にanti-DNP-IgE(clone:H1-DNP-ε-26.82,1μg/mL)を37℃下で1時間感作させ、HEPES Tyrode bufferで洗浄し、リコンビナントLy6G(2.5 μM)又はLy6Gペプチド(10μM)を37℃下で30分間反応させた。その後、DNP-HSA(50 ng/mL)を37℃下で刺激し(リコンビナントLy6G:8時間、Ly6Gペプチド:3時間)、マスト細胞を特異的に活性化させた。3,000 rpmで5分間遠心操作を行い、上清をサンプルとした。Mouse TNF-α Duoset ELISA kit(R&D Systems)を用い、付属のプロトコルに従い測定を行った。
【0043】
(統計)
結果はGraphPad Prism(GraphPad Software Inc,California, USA)を用いて解析した。統計的有意性は、unpaired, two-tailed Student’s t-test、またはOne-way Analysis of Variance(ANOVA)によって決定された。Two-way ANOVAを使用して、マスト細胞内カルシウムイオン濃度の経時変化を調べた。P値が95%の信頼区間で0.05以下の場合、差は有意であると見なされた。全ての結果は、少なくとも3回の独立した実験の平均±SEMとして示された。
【実施例0044】
(マスト細胞と好中球の分化・精製率の確認)
本実施例では、マスト細胞と好中球の相互作用及び相互作用に伴う分子機能解析を行った。そこでマスト細胞としてマウス骨髄由来マスト細胞、好中球としてマウス骨髄単離好中球を用いた(図1A)。マウス骨髄から骨髄細胞を採取し、成長因子の存在下で1か月間培養しマスト細胞を得た。また、好中球は単離キットを用いて精製した。マーカータンパク質を指標にフローサイトメータで解析し、マスト細胞は95%以上の分化率であること、好中球については90%以上の精製率であることを確認した(図1B)。
【実施例0045】
(好中球とマスト細胞の相互作用によるLy6Gの移動)
本発明者は、マスト細胞を抗原で特異的に刺激すると分泌反応に伴いマスト細胞の形態が変化し、その後、好中球が円形から紡錘形に形態を変化させてマスト細胞に向かって遊走・接着し、相互作用することを確認している。
またアクチンは、細胞に豊富に存在し細胞骨格を形成するタンパク質である。各種免疫細胞間相互作用に関与しており、本発明者らは、マスト細胞と好中球が相互作用する接着面に集積する様子が観察されている。
このマスト細胞と好中球の相互作用を解析するために、相互作用している両細胞について好中球マーカータンパク質であるLy6Gと細胞骨格であるF-アクチンを染色し、その局在変化を解析した。
マスト細胞と好中球を共存培養したところ、マスト細胞と好中球が近傍に接着している場合には、抗原刺激の有無に関わらず、両細胞が接着している付近においてLy6Gが好中球からマスト細胞の細胞膜表面に移動している様子が観察された(図2B:arrow)。さらに、抗原刺激を行った場合には、マスト細胞と好中球が接着する細胞数が増加するため、先に観察されたLy6Gが移動している細胞数が増加するのに加え、Ly6Gがマスト細胞内に取り込まれている様子も観察された(図2B:arrowhead)。
Ly6Gは、好中球特異的に発現するタンパク質でありマスト細胞には発現しないため、好中球の細胞膜上に発現するLy6Gが切断され、マスト細胞表面に結合し取り込まれることが確認された。また、本実施例の結果ではF-アクチンがマスト細胞と好中球の接着面に集積する様子は観察できなかった。Ly6Gがマスト細胞膜表面に移動した際に脱重合が起こっており、Ly6Gが細胞内に取り込まれた後に再重合が起こり接着面に集積するなど、僅かなタイミングの差で局在が変化していると考えられる。
【実施例0046】
(Ly6Gの好中球からの切断とマスト細胞への結合)
本発明者は、実施例3の結果により、マスト細胞と好中球の接着面でのLy6Gの移動を制御する要因として、マスト細胞が分泌するプロテアーゼなどのメディエータが、好中球上のLy6Gを切断し、切断されたLy6Gがマスト細胞表面に移動し取り込まれていくのではないかと考えた(参照:図3)。本実施例では、プロテアーゼなどのメディエータが、好中球上のLy6Gを切断し、切断されたLy6Gがマスト細胞表面に移動し取り込まれていくことを確認した。
【0047】
〇マスト細胞活性化によるLy6Gの好中球からの切断
マスト細胞の活性化に伴って分泌される炎症性メディエータが、好中球に発現するLy6Gを遊離させる作用を有するかについて確認した。マスト細胞と好中球を共存培養したのちマスト細胞を抗原で特異的に刺激し、その培養上清中のLy6Gの量をウエスタンブロッティング法で検出した。その結果、未刺激の場合に比べ、抗原刺激1時間後の培養上清中のLy6Gが有意に増加し、抗原刺激3時間、6時間では有意に減少していることを確認した(参照:図4)。
このことから、抗原刺激によるマスト細胞の活性化に伴って好中球の細胞膜上のLy6Gが切断され、培養上清中に遊離することが明らかになった。また、抗原刺激3時間と6時間で培養上清中のLy6G量が減少したことについては、培養上清中に遊離したLy6Gがマスト細胞に結合し取り込まれた可能性やマスト細胞の分泌顆粒に含まれるプロテアーゼなどによりさらに細かいペプチドに断片化されたと考えられる。
【0048】
(リコンビナントLy6Gのマスト細胞への結合)
好中球から切断されたLy6Gがマスト細胞に結合するかを確認した。本実施例では、リコンビナントHistag融合Ly6Gを大腸菌発現系を用いて、Niマグネティックビーズにより精製し使用した。精製後にウエスタンブロッティングを行ったところ、抗Ly6G抗体(clone:1A8)、抗Histag抗体(clone:OGHis)でLy6G由来のバンドが検出され、目的タンパク質が精製できていることを確認した(参照:図5A)。
このリコンビナントLy6GをIgE感作後のマスト細胞に作用させフローサイトメータで解析を行ったところ、Ly6Gがマスト細胞に結合している様子が観察された。全マスト細胞(1.0×104cells)のうちLy6Gが結合しているマスト細胞の割合を求めたところ、マスト細胞のみ(コントロール)では9.84%、Ly6Gを作用させたものでは、未刺激で19.1%、抗原刺激で34.8%となった(参照:図5B)。このことから、抗原刺激を行った場合には、Ly6Gが結合しているマスト細胞の割合が増加していることも明らかになった。
したがって、マスト細胞の細胞膜上にはLy6Gに対する結合因子が存在すると考えられ、その結合因子が抗原によるマスト細胞の活性化に伴ってLy6Gの細胞への取り込みを増強させていることを確認した。
【実施例0049】
(Ly6Gによるマスト細胞の分泌反応への影響の確認)
本実施例2~4の結果により、マスト細胞の活性化に伴って好中球に発現するLy6Gが好中球から切断されマスト細胞表面に移動・結合し、マスト細胞内に取り込まれることが明らかになった(参照:図2、4及び5)。
そこで、Ly6Gによるマスト細胞応答調節機構を解明するため、Ly6Gによる炎症性メディエータ分泌反応への影響について解析した。
マスト細胞から分泌される炎症性メディエータには、マスト細胞が抗原により活性化されると即時的に分泌されるメディエータ(ヒスタミン等)と、マスト細胞が活性化してから合成され分泌されるメディエータ(サイトカイン・ケモカイン等)が存在する。
本実施例では、活性化したマスト細胞が行う分泌反応のうち、即時的な反応である脱顆粒反応(ヒスタミン等)と分泌までに時間を要するサイトカイン分泌量について評価した。
【0050】
〇Ly6Gによるマスト細胞の脱顆粒反応への影響
Ly6Gによるマスト細胞の脱顆粒反応への影響を解析した。IgE感作後のマスト細胞にリコンビナントLy6Gを処理し、抗原刺激に伴う脱顆粒量の測定を行った。脱顆粒量はヒスタミンと同様にマスト細胞の活性化に伴い即時に分泌される顆粒内酵素(β-hexosaminidase)の活性を測定することで評価した。
その結果、Ly6G処理によりマスト細胞の抗原刺激に伴う脱顆粒量が有意に減少した(参照:図6A)。また、処理するLy6Gの濃度を変化させたところ、Ly6Gの濃度依存的に脱顆粒量が減少することも明らかになった(参照:6B)。さらに、Ly6G処理は、抗原刺激がない場合には、脱顆粒量に影響を与えないことを確認した。
以上により、Ly6Gは、抗原刺激により、濃度依存的に、マスト細胞が分泌する脱顆粒量を低減させることができることを確認した。
【0051】
〇Ly6Gによるマスト細胞のサイトカイン分泌量への影響
Ly6Gによるマスト細胞のサイトカイン分泌量への影響を解析した。
IgE感作後のマスト細胞にリコンビナントLy6Gを処理し抗原刺激を行った。TNFαはマスト細胞が分泌する炎症性サイトカインの一種であり、血管内皮細胞の接着分子の発現を調節することで好中球の浸潤を誘導することが知られている。ここでは、TNFαの分泌量をELISA法を用いて評価した。
Ly6G処理により抗原刺激に伴うTNFα放出量が有意に増加していることが明らかになった(参照:図7)。さらに、Ly6G処理は、抗原刺激がない場合には、TNFα放出量に影響を与えないことを確認した。
以上により、Ly6Gは、マスト細胞が分泌するTNFα放出量を調節することができることを確認した。
【実施例0052】
(Ly6Gによるマスト細胞のシグナル伝達への影響)
Ly6Gによるマスト細胞のシグナル伝達調節機構を解析した。
【0053】
〇Ly6Gによるマスト細胞内カルシウムイオン濃度の持続的な上昇の確認
マスト細胞の活性化や分泌反応には、細胞内カルシウムイオン濃度変化が重要な役割を担っている。マスト細胞の抗原刺激に伴う細胞内カルシウムイオン濃度上昇は、細胞内の小胞体からのカルシウムイオン流出及び細胞外液からのカルシウムイオン流入によって調節されている。そこで、Ly6Gのマスト細胞内カルシウムイオン濃度上昇への影響を解析した。
カルシウム蛍光指示薬であるFluo 4とFura redを用い、共焦点レーザー顕微鏡を使用したFluo 4とFura redレシオイメージングにより観察した(参照:図8A)。
その結果、抗原刺激1分後の細胞内カルシウムイオン濃度上昇に変化は観察されなかったが、抗原刺激9分後ではLy6G処理により細胞内カルシウムイオン濃度が有意に上昇している様子が観察された(参照:図8B)。
したがって、Ly6G処理により、マスト細胞での細胞内カルシウムイオン濃度が持続的に上昇していることが明らかになった。マスト細胞の細胞内カルシウムイオン濃度上昇には、(1)初期に起こる小胞体からのカルシウムイオン流出、(2)小胞体からのカルシウムイオンの放出により起こる外液からのカルシウムイオン流入、の主に2つの機構によって調節されていると考えられている。Ly6G処理により、抗原刺激後1分までは、顕著な細胞内カルシウムイオン濃度上昇への影響が観察されなかったことから、Ly6Gは外液からのカルシウムイオンの流入を調節していると考えられる。
以上により、Ly6Gがマスト細胞の細胞内カルシウムイオン濃度を調節していることを確認した。これにより、外部からのLy6G投与が、上記実施例の結果と合わせて、マスト細胞が分泌する脱顆粒量を低減させることができることを確認した。
【0054】
〇Ly6Gによるマスト細胞シグナル分子の活性化の持続の確認
抗原と抗原特異的IgEを介して、マスト細胞上のIgE受容体(FcεRI)が活性化すると、マスト細胞の脱顆粒反応に重要であるLyn、Syk、LAT、PLCγをはじめとする各種シグナル分子の活性化が起こることが知られている。また、MAPK(Erk、JNK、p38)などの転写調節因子などが活性化することでサイトカインやケモカインの転写が促進されることが知られている。
そこで、本実施例では、Ly6Gによるマスト細胞のシグナル伝達分子の活性化への影響を解析した。
本実施例では、前述したマスト細胞のシグナル伝達に重要なシグナル伝達分子であるLyn、Syk、LAT、PLCγ、MAPK(Erk、JNK、p38)、Aktの活性化の指標となるリン酸化状態について、ウエスタンブロッティング法を用いて検出した。
その結果、Ly6G処理した細胞では抗原刺激に伴ってSyk、LAT、PLCγ、Erk、p38、Aktの持続的なリン酸化が観察された(参照:図9)。
したがって、IgE受容体(FcεRI)を介したマスト細胞のシグナル伝達において、重要なキナーゼやアダプター分子の内のいくつかについては、Ly6G処理によってその活性が未処理の場合と比較して持続していることが明らかになった。
以上により、Ly6Gがマスト細胞のシグナル伝達に関与していることを確認した。これにより、外部からのLy6G投与が、上記実施例の結果と合わせて、マスト細胞が分泌する脱顆粒量を低減させることができることを確認した。
加えて、外部からのLy6G投与が、上記実施例の結果と合わせて、マスト細胞が分泌する脱顆粒量を低減させることにより、アレルギーを抑制することができる。
さらに、外部からのLy6G投与は、単にマスト細胞の脱顆粒量を低減させるのではなく、炎症性メディエーターの分泌量を調節することができる。すなわち、外部からのLy6G投与は、脱顆粒量及び炎症性メディエーターの分泌量を調節することにより、アレルギーを抑制、治療するだけでなく、予防することもできる。
【実施例0055】
(Ly6Gの活性領域の確認)
Ly6Gのマスト細胞の脱顆粒量の分泌調節作用は、該Ly6Gが好中球から切断された後さらに細かく断片化され、断片化部位特異的に異なる作用を発現することが考えられる。これまでにマスト細胞が分泌するトリプターゼにより切断された好酸球顆粒タンパク質由来の複数のペプチドが、マスト細胞に結合し機能することが報告されている。そこで、Ly6G(134アミノ酸:配列番号10)を5アミノ酸のオーバーハングを有する20アミノ酸ごとに断片化したペプチド(配列番号1-9)を使用し、リコンビナントLy6Gと同様に炎症性メディエータの分泌について解析した。
【0056】
〇Ly6G断片化ペプチドによるマスト細胞の脱顆粒反応の確認
Ly6Gペプチドによるマスト細胞の脱顆粒反応への影響を解析した。IgE感作後のマスト細胞にLy6G断片化ペプチド(#1~#9は、それぞれ、配列番号1~9に対応する)を処理し抗原刺激を行った。脱顆粒量はヒスタミンと同様に分泌される顆粒内酵素(β-hexosaminidase)の活性を測定することで評価した。
各Ly6Gペプチド投与は、コントロール(ペプチド未添加)と比較し、マスト細胞の抗原刺激に伴う脱顆粒量を低減していることを確認した(参照:図10)。
特に、Ly6Gペプチド#4 (配列番号4:CPFSDGFCVALEIEVIVDSH)及び#9(配列番号9:LLFSLVSVLLQTFL)投与は、マスト細胞の抗原刺激に伴う脱顆粒量を強く低減していることを確認した。
以上により、各Ly6Gペプチドは、Ly6Gと同様に、マスト細胞の抗原刺激に伴う脱顆粒量を低減させることができるので、上記実施例の結果と合わせて、アレルギーを抑制、治療するだけでなく、予防することもできる。
【0057】
〇Ly6G断片化ペプチドによるマスト細胞のサイトカイン反応の確認
Ly6Gペプチドによるマスト細胞のサイトカイン(TNFα)分泌への影響を解析した。IgE感作後のマスト細胞にLy6Gペプチド#1~#9を処理し抗原刺激を行った。
Ly6Gペプチド#4投与は、コントロール(ペプチド未添加)と比較し、マスト細胞の抗原刺激に伴うTNFα分泌量を増加させた(参照:図11)。
以上により、Ly6Gペプチド#4は、Ly6Gと同様に、マスト細胞の抗原刺激に伴うTNFα分泌量を調節することができる。
【0058】
(総論)
実施例の結果から、マスト細胞の分泌物が好中球の細胞膜上からLy6Gを切断することが明らかになった(参照:図4)。
好中球から切断されたLy6Gがマスト細胞に結合し、抗原刺激を行った場合には、Ly6Gが取り込まれるマスト細胞の割合が増加していることも明らかになった。このことは、マスト細胞の細胞膜上にLy6Gに対する結合因子が存在していることを示唆しており、また抗原によるマスト細胞の活性化に伴って、Ly6Gの細胞への取り込みを増強させていることが要因であると考えられる。
さらに、本研究の結果からLy6Gが抗原刺激に伴うマスト細胞の分泌反応を調節する作用を有することが明らかになった。Ly6G処理により脱顆粒量が有意に減少することが明らかになった。
Ly6G処理により細胞内カルシウムイオン濃度の持続的な上昇をはじめ、マスト細胞の重要シグナル伝達分子であるSyk、LAT、PLCγ、Erk、p38、Aktの持続的な活性化が明らかになった。PLCγはカルシウム結合性タンパク質であることから、PLCγの活性化の持続が細胞内カルシウム濃度上昇の持続を引き起こしたと考えられる。
さらに、Ly6Gによる相反する分泌制御作用については、Ly6Gが好中球から切断後さらに断片化され断片化部位特異的に異なる制御作用を発現することが予想されたため、Ly6Gを断片化したペプチドを使用し炎症性メディエータの分泌反応について解析した。その結果、Ly6Gペプチド処理によりマスト細胞の抗原刺激に伴う脱顆粒量が有意に減少していた。このように、Ly6Gは20アミノ酸程度のペプチドに断片化されてもマスト細胞の分泌反応を制御可能であることが明らかになった。また、ペプチド#4の配列はCPFSDGFCVALEIEVIVDSHであり、負に帯電した疎水性ペプチドである。また、ペプチド#9の配列はLLFSLVSVLLQTFLであり、電荷を帯びていない疎水性ペプチドである。
本実施例では、マスト細胞と好中球の共存培養系を用いた解析から、マスト細胞の活性化に伴って好中球に発現するLy6Gが好中球から切断されマスト細胞表面に移動・結合し、マスト細胞内に取り込まれることが明らかになった。好中球由来タンパク質であるLy6Gが、マスト細胞応答調節因子としての機能を有することが明らかになった。
【0059】
以上により、本実施例では、マスト細胞の活性化に伴って好中球に発現するLy6Gが好中球から切断されマスト細胞表面に移動・結合し、マスト細胞内に取り込まれることが明らかになった。加えて、好中球由来タンパク質であるLy6Gは、マスト細胞応答調節因子としての機能を有することにより、炎症性メディエータの分泌量を制御することにより、アレルギーを抑制することができる(参照:図12)。
【産業上の利用可能性】
【0060】
アレルギー抑制剤及び脱顆粒抑制剤を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【配列表】
2022156430000001.app