(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156445
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】湿式電気集塵装置、及び、その運転方法
(51)【国際特許分類】
B03C 3/78 20060101AFI20221006BHJP
B03C 3/16 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
B03C3/78
B03C3/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060146
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】596032177
【氏名又は名称】住友金属鉱山エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 正裕
(72)【発明者】
【氏名】安部 雅美
【テーマコード(参考)】
4D054
【Fターム(参考)】
4D054AA02
4D054BA01
4D054BA12
4D054CA19
4D054DA06
4D054DA11
4D054DA15
4D054EA08
(57)【要約】
【課題】集塵板を洗浄する洗浄水の使用量を節減する手段として洗浄水の一部を循環させる機構を有する湿式電気集塵装置において、従来の装置よりも、洗浄水の使用量を更に節減すること。
【解決手段】放電極11と集塵板12とスプレーノズル13とを備える、湿式電気集塵装置本体1と、スプレーノズル13から供給されて集塵板12を洗浄した後の洗浄後水の一部を排水Bとして装置外部に排出し、洗浄後水の他の一部を循環水Aとして装置内部を循環させて、スプレーノズル13に再供給する洗浄水循環機構と、補充水Cを装置外部から導入して、スプレーノズル13に供給する補充水導入機構と、を備え、補充水導入機構は、放電極11の電流値の増減に応じて、補充水Cの導入量を調整する補充水導入量調整手段を有する、湿式電気集塵装置10とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電極と集塵板とスプレーノズルとを備える、湿式電気集塵装置本体と、
前記スプレーノズルから供給されて集塵板を洗浄した後の洗浄後水の一部を排水として装置外部に排出し、前記洗浄後水の他の一部を循環水として装置内部を循環させて、前記スプレーノズルに再供給する洗浄水循環機構と、
補充水を装置外部から導入して、前記スプレーノズルに供給する補充水導入機構と、
を備え、
前記補充水導入機構は、前記放電極の電流値の増減に応じて、前記補充水の導入量を調整する補充水導入量調整手段を有する、
湿式電気集塵装置。
【請求項2】
前記洗浄水循環機構は、前記スプレーノズルへの循環水の供給を一時的に停止させる循環水路開閉弁を備え、
前記スプレーノズルには、間欠的に、前記補充水のみからなる洗浄水を供給する、
請求項1に記載の湿式電気集塵装置。
【請求項3】
湿式電気集塵装置の運転方法であって、
スプレーノズルから供給されて集塵板を洗浄した後の洗浄後水の一部を排水として装置外部に排出し、前記洗浄後水の他の一部を循環水として装置内部を循環させて、前記スプレーノズルに再供給する洗浄水循環ステップと、
補充水を装置外部から導入して、前記スプレーノズルに供給する補充水導入ステップが、行われ、
前記補充水導入ステップにおいては、湿式電気集塵装置本体内の放電極の電流値の増減に応じて、前記補充水の導入量を調整する、
湿式電気集塵装置の運転方法。
【請求項4】
前記スプレーノズルに、間欠的に、前記補充水のみからなる洗浄水を供給する、
請求項3に記載の湿式電気集塵装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式電気集塵装置、及び、その運転方法に関する。本発明は、より詳しくは、集塵板を洗浄する洗浄水の使用量を節減する手段として洗浄水の一部を循環させる機構を有する湿式電気集塵装置、及び、その運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉱工業のみならず廃棄物焼却プロセス等において発生する有害なダストを捕集する目的で、湿式電気集塵装置が広く用いられている。
【0003】
湿式電気集塵装置においては、集塵板に付着したダストを洗浄水によって洗い流しているが、この洗浄水の使用量を節減するために、洗浄に使用した洗浄後水の一部をダストともに排出せずに、装置内で循環させて再利用することが行われている。
【0004】
このように湿式電気集塵装置内において洗浄水を循環させる場合は、排出した排水量に応じて随時補充水を導入する必要がある。補充水の導入量を節減するための工夫として、洗浄に用いた洗浄水のうち、循環水については一定量以上を外部に排出する一方で、新たに導入した補充水については、極力多くの割合を排出はせずに装置内を循環させるようにした、湿式電気集塵装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1には、上記の湿式電気集塵装置において、想定される処理対象の排ガスの汚染度に応じて循環水の外部への排出割合を設定することが提案されている。しかしながら、操業中の排ガスの汚染度の変動に対して、洗浄水の総量を機動的に最適化することは考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、集塵板を洗浄する洗浄水の使用量を節減する手段として洗浄水の一部を循環させる機構を有する湿式電気集塵装置において、従来の装置よりも、洗浄水の使用量を更に節減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、湿式電気集塵装置本体内における電流量の増減を補充水の導入量制御にフィードバックして補充水の導入量を機動的に増減させる調整を行うことによって、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0009】
(1) 放電極と集塵板とスプレーノズルとを備える、湿式電気集塵装置本体と、前記スプレーノズルから供給されて集塵板を洗浄した後の洗浄後水の一部を排水として装置外部に排出し、前記洗浄後水の他の一部を循環水として装置内部を循環させて、前記スプレーノズルに再供給する洗浄水循環機構と、補充水を装置外部から導入して、前記スプレーノズルに供給する補充水導入機構と、を備え、前記補充水導入機構は、前記放電極の電流値の増減に応じて、前記補充水の導入量を調整する補充水導入量調整手段を有する、湿式電気集塵装置。
【0010】
(1)の発明によれば、集塵板を洗浄する洗浄水の使用量を節減する手段として洗浄水の一部を循環させる機構を有する湿式電気集塵装置において、従来の装置よりも、洗浄水の使用量を更に節減することができる。
【0011】
(2) 前記洗浄水循環機構は、前記スプレーノズルへの循環水の供給を一時的に停止させる循環水路開閉弁を備え、前記スプレーノズルには、間欠的に、前記補充水のみからなる洗浄水を供給する、(1)に記載の湿式電気集塵装置。
【0012】
(2)の発明によれば、(1)の湿式電気集塵装置の奏する補充水の節減効果とともに、更に、洗浄水中に混入しているダストによってスプレーノズルが閉塞してしまうことを防止する効果を合わせて享受することができる。
【0013】
(3) 湿式電気集塵装置の運転方法であって、スプレーノズルから供給されて集塵板を洗浄した後の洗浄後水の一部を排水として装置外部に排出し、前記洗浄後水の他の一部を循環水として装置内部を循環させて、前記スプレーノズルに再供給する洗浄水循環ステップと、補充水を装置外部から導入して、前記スプレーノズルに供給する補充水導入ステップが、行われ、前記補充水導入ステップにおいては、湿式電気集塵装置本体内の放電極の電流値の増減に応じて、前記補充水の導入量を調整する、湿式電気集塵装置の運転方法。
【0014】
(3)の発明によれば、集塵板を洗浄する洗浄水の使用量を節減する手段として洗浄水の一部を循環させる機構を有する湿式電気集塵装置において、従来の装置よりも、洗浄水の使用量を更に節減することができる。
【0015】
(4) 前記スプレーノズルに、間欠的に、前記補充水のみからなる洗浄水を供給する、(3)に記載の湿式電気集塵装置の運転方法。
【0016】
(4)の発明によれば、(3)の湿式電気集塵装置の運転方法の奏する補充水の節減効果とともに、更に、洗浄水中に混入しているダストによってスプレーノズルが閉塞してしまうことを防止する効果を合わせて享受することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、集塵板を洗浄する洗浄水の使用量を節減する手段として洗浄水の一部を循環させる機構を有する湿式電気集塵装置において、従来の装置よりも、洗浄水の使用量を更に節減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る湿式電気集塵装置の構成を模式的に示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<湿式電気集塵装置>
本発明の実施形態の好ましい一例である湿式電気集塵装置10は、各種の排ガス中に微粒子として含有される有害なダストを捕集する装置である。そして、この湿式電気集塵装置10は、洗浄水の使用量の節減を図るための機構として、洗浄水循環機構と、補充水導入機構と、を備える装置である。
【0020】
[湿式電気集塵装置本体]
湿式電気集塵装置10を構成する湿式電気集塵装置本体1の筺体内部には、複数の放電極11及び集塵板12と、集塵板12に付着したダストを洗い流すための洗浄水を噴霧するスプレーノズル13が設けられている。
【0021】
[洗浄水循環機構]
洗浄水循環機構は、スプレーノズル13から供給されて集塵板12を洗浄した後の洗浄後水の一部を排水Bとして装置外部に排出し、洗浄後水の他の一部を循環水Aとして装置内部を循環させて、スプレーノズル13に再供給することができる構成であればよい。
【0022】
洗浄水循環機構は、具体的には、
図1に示す通り、排水槽2、オーバーフロー槽3、循環水ポンプ4、循環水路開閉弁5、レベル計8、排水ポンプ9等によって構成されるものであることが好ましい。
【0023】
洗浄水循環機構は、特に、循環水路開閉弁5を備えるものであることが好ましい。この循環水路開閉弁5によって、スプレーノズル13への循環水Aの供給を適当な時間間隔で一時的に停止させて、その間(循環水Aの供給停止時間)に、ダスト等の微粒子を含有しない補充水のみからなる洗浄水を、スプレーノズル13に供給することによって、循環水Aに含まれる微粒子によるスプレーノズル13の閉塞を防止することができるからである。
【0024】
[補充水導入機構]
補充水導入機構は、補充水Cを装置外部から導入して、スプレーノズル13に供給することができる構成であり、尚且つ、下記に詳細を説明する補充水導入量調整手段を有するものであればよい。
【0025】
補充水導入機構は、具体的には、
図1に示す通り、補充水ポンプ6、補充水路開閉弁7によって構成されているものであることが好ましい。
【0026】
又、上述の補充水導入機構とは、湿式電気集塵装置本体1の内部に備えられている放電極11の電流値(本明細書において「湿式電気集塵装置電流値」とも言う)の増減に応じて、補充水Cの導入量を調整することができる技術的手段であればよい。尚、本明細書における「放電極の電流値(湿式電気集塵装置電流値)」とは、直流高電圧電源14から所定の電圧で印加される放電極11を構成する個々の電極線を流れる電流値の合計値のことを言う。
【0027】
補充水導入機構も、洗浄水循環機構における循環水路開閉弁5と同様に、補充水路開閉弁7を備えるものであることが好ましい。循環水路開閉弁5及び補充水路開閉弁7を適切な時間間隔で交互に開放することによって、循環水Aと補充水Cとを適切な供給量比で交互にスプレーノズル13に供給することができる。この切り替えは、循環水路開閉弁5及び補充水路開閉弁7として、電動弁を設置しておき、自動的に行われるようにすることが好ましい。そして、このような洗浄水の供給の仕方によって、上記のように循環水Aに含まれる微粒子によるスプレーノズル13の閉塞を防止し、尚且つ、洗浄作業の効率を良好に維持しながら、循環水Aを有効に活用することができる。
【0028】
(補充水導入量調整手段)
補充水導入量制御手段は、上記の通り、放電極11の電流値(「湿式電気集塵装置電流値」)の増減に応じて、補充水Cの導入量を調整することができる機能を有する各種の制御手段によって構成することができる。具体的には既存の電気集塵装置にも汎用的に設置されている電気集塵機用の電気制御装置15に、上記機能を発揮させるために必要な改良を施すことによって構成することができる。
【0029】
ここで、直流高電圧電源14から所定の電圧で放電極11に対して印加している場合において、湿式電気集塵装置本体1に導入される処理対象の排ガスのダスト濃度が上昇したときには、湿式電気集塵装置電流値(放電極11の電流値)が低下し、一方、上記ダスト濃度が低下したときには、湿式電気集塵装置電流値が上昇する。このことに着目して、湿式電気集塵装置10においては、湿式電気集塵装置電流値が、所定の印加電圧毎に予め想定した基準電流値を超えて上昇したときには、処理対象の排ガスのダスト濃度が低下したものと判断して、補充水ポンプ6に対して、補充水Cの導入量を減らす指示を出力する。又、同様に、湿式電気集塵装置電流値が、所定の印加電圧毎に予め定めた基準電流値を超えて低下したときには、処理対象の排ガスのダスト濃度が上昇したものと判断して、補充水ポンプ6に対して、補充水Cの導入量を増やす指示を出力する。
【0030】
[湿式電気集塵装置の基本動作]
上述した構成からなる湿式電気集塵装置10の基本動作について説明する。湿式電気集塵装置10においては、直流高電圧電源14から発生された負極の直流高電圧が、放電極11に印加され、導電性の材料からなる集塵板12には、処理対象の排ガスに含まれるダスト等の微粒子が付着する。
【0031】
そして、スプレーノズル13から集塵板12に向けて、循環水A、補充水C、或いはそれらの混合液からなる洗浄水が、集塵板12に噴霧される。これにより、集塵板12に付着した上記の微粒子を洗い流すことができる。
【0032】
そして、スプレーノズル13から噴霧されて集塵板12の洗浄に用いられた後の洗浄後水は、排水槽2に集められ、その大部分が、排水ポンプ9を介して排水Bとして外部へ排出される。尚、排水ポンプ9は、又、排水槽2の内のレベル計8で測定した排水の液面レベルに応じて、動作のON/OFFを繰り返すように作動させることが好ましい。
【0033】
又、洗浄後水の残りの一部分は、オーバーフロー槽3を経由して、循環水ポンプ4を介して循環水Aとして、再度、スプレーノズル13に供給される。
【0034】
一方、外部から導入される新たな補充水Cは、補充水ポンプ6を介して、スプレーノズル13に供給される。
【0035】
[湿式電気集塵装置の運転方法]
本発明の湿式電気集塵装置の運転方法においては、上述の基本動作の流れの中で「洗浄水循環ステップ」と「補充水導入ステップ」が行われる。そして、この湿式電気集塵装置の運転方法においては、「補充水導入ステップ」における補充水の導入量を、湿式電気集塵装置電流値(放電極の電流値)の増減に応じて、機動的に増減させることによって、補充水の使用量を著しく節減することが可能とされている。
【0036】
又、上述した通り、本発明の湿式電気集塵装置の運転方法は、スプレーノズル13に、間欠的に、補充水Cのみからなるダストを含有しない洗浄水を供給する動作態様とすることがより好ましい。
【0037】
(洗浄水循環ステップ)
洗浄水循環ステップは、スプレーノズル13から供給されて集塵板12を洗浄した後の洗浄後水の一部を排水Bとして装置外部に排出し、洗浄後水の他の一部を循環水Aとして装置内部を循環させて、スプレーノズル13に再供給するステップである。
【0038】
(補充水導入ステップ)
補充水導入ステップは、補充水Cを装置外部から導入して、スプレーノズル13に供給するステップである。この補充水導入ステップにおいては、湿式電気集塵装置電流値の増減に応じて、補充水Cの導入量を調整する。
【0039】
ここで、湿式電気集塵装置10においては、循環水Aのダスト濃度をより高い濃度に維持した状態で操業を行う方が、結果として、ダストともに外部に排出する排水Bの排出量(即ち、補充水Cの外部からの導入量)を節減できる。但し、循環水Aのダスト濃度が高くなり過ぎると、循環水Aや排水Bを移送する配管内にダストによる閉塞が生じるリスクが高まる。従って、湿式電気集塵装置10においては、そのような配管の閉塞を回避できる範囲において、循環水Aのダスト濃度をできるだけ高い濃度に維持することが好ましい。
【0040】
一例として、循環水Aのダスト濃度が約7,000mg/Lを超えると、上述の配管の閉塞が発生する場合であれば、湿式電気集塵装置電流値に応じて、補充水量を自動調整することにより、循環水Aのダスト濃度が約5,000mg/L(2000mg/Lの安全幅を加味した値)程度となるように調整すればよい。補充水量の調整は、具体的には、一例として、補充水ポンプ6のインバータによって調整することができる。
【実施例0041】
(比較例)
湿式電気集塵装置本体に導入される処理対象の排ガスの量が、20,000Nm3/hrである湿式電気集塵装置において、循環水のダスト濃度が5,000mg/Lを超えることがないように、単位時間当たりの補充水量を8m3/hrに固定して、24時間の試験操業を行った。この試験操業において、循環水のダスト濃度が、突発的に4,000mg/Lを超えることはあったが、5,000mg/Lを超えることはなかった。又、補充水の使用量は、24時間の操業中における総量で192m3であった。
【0042】
(実施例)
上記比較例の試験操業を行った同一の湿式電気集塵装置において、事前に測定して取得した当該装置における湿式電気集塵装置電流値と処理対象の排ガスのダスト濃度の相関(下記表1参照)に基づき、湿式電気集塵装置電流値に応じて、循環水のダスト濃度が約5,000mg/Lを超えない範囲でできるだけ高濃度となるように、補充水量をリアルタイムで調整しながら、比較例と同様に、24時間の試験操業を行った。湿式電気集塵装置電流値に対応する具体的な補充水の導入量は、電流値範囲毎に、それぞれ下記表1に記した通りとした。この試験操業において、循環水のダスト濃度が5,000mg/Lを超えることはなかった。又、補充水の使用量は、24時間の操業中における総量で120m3であった。本発明の実施により、24時間当たりの補充水の使用量を72m3削減することができた。
【0043】
【0044】
上記試験操業の結果より、本発明により、洗浄水の使用量を大幅に節減することができることが確認された。