(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156449
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】手術ロボット及び手術システム
(51)【国際特許分類】
A61B 34/37 20160101AFI20221006BHJP
【FI】
A61B34/37
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060152
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093241
【弁理士】
【氏名又は名称】宮田 正昭
(74)【代理人】
【識別番号】100101801
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 英治
(74)【代理人】
【識別番号】100095496
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 榮二
(74)【代理人】
【識別番号】100086531
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】110000763
【氏名又は名称】特許業務法人大同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕之
(57)【要約】
【課題】ディスポーザブル化により非清潔領域を空間的に分離するとともにセットアップを容易にする手術ロボットを提供する。
【解決手段】手術ロボットは、術具を装着するロボットアームと、前記ロボットアームの運動制御に関する情報を記憶する記憶回路を具備する。前記記憶回路は、前記手術ロボットの個体又は型式を識別するロボットID、前記ロボットアームの構成情報、前記ロボットアームの運動を制御する際のキャリブレーション情報のうち少なくとも1つを記憶する。また、前記記憶回路は書き込み可能であり、使用の有無又は使用した手術を識別する情報を記憶する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
術具を装着するロボットアームと、
前記ロボットアームの運動制御に関する情報を記憶する記憶回路と、
を具備する手術ロボット。
【請求項2】
前記記憶回路は、前記手術ロボットの個体又は型式を識別するロボットID、前記ロボットアームの構成情報、前記ロボットアームの運動を制御する際のキャリブレーション情報のうち少なくとも1つを記憶する、
請求項1に記載の手術ロボット。
【請求項3】
前記記憶回路は書き込み可能であり、使用の有無又は使用した手術を識別する情報を記憶する、
請求項1に記載の手術ロボット。
【請求項4】
前記術具は記憶回路を搭載し、
前記術具が搭載する前記記憶装置に対して読み取り又は書き込みを行う、
請求項1に記載の手術ロボット。
【請求項5】
前記術具が搭載する前記記憶回路は、前記術具の個体又は型式を識別する術具ID、前記術具を操作する際のキャリブレーション情報のうち少なくとも1つを記憶する、
請求項4に記載の手術ロボット。
【請求項6】
前記術具が搭載する前記記憶回路は書き込み可能であり、使用の有無、術具を使用した患者を特定する情報、又は前記術具を使用した手術を識別する情報のうち少なくとも1つを記憶する、
請求項4に記載の手術ロボット。
【請求項7】
所定の方式により前記手術ロボットの外部から前記記憶回路にアクセス可能である、
請求項1に記載の手術ロボット。
【請求項8】
前記術具は眼科手術に使用される、
請求項1に記載の手術ロボット。
【請求項9】
術具を装着するロボットアームと、前記ロボットアームの運動制御に関する情報を記憶する記憶回路を含む手術ロボットと、
前記記憶回路から読み取った前記情報に基づいて前記手術ロボットを制御する制御部と、
を具備する手術システム。
【請求項10】
前記制御部は、前記術具に搭載された記憶回路から読み取った前記術具の識別情報、又は前記記憶回路から読み取った前記手術ロボットの識別情報に基づいて、前記術具又は前記手術ロボットの認証処理を行う、
請求項9に記載の手術システム。
【請求項11】
前記制御部は、前記術具に搭載された記憶回路から読み取った前記術具の使用状態に関する情報、又は前記記憶回路から読み取った前記手術ロボットの使用状態に関する情報に基づいて、前記術具又は前記手術ロボットの使用の可否を判定する、
請求項9に記載の手術システム。
【請求項12】
前記制御部は、前記術具に搭載された記憶回路から読み取った前記術具のキャリブレーション情報に基づいて、前記手術ロボットによる前記術具の操作を制御する、
請求項9に記載の手術システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示する技術(以下、「本開示」とする)は、外科手術で使用される手術ロボット及び手術システムに関する。
【背景技術】
【0002】
外科手術で使用される術具は清潔に保たれる必要がある。このため、術具を再利用する場合には、使用する度に洗浄及び滅菌処理を繰り返す必要がある。しかしながら、洗浄及び滅菌処理によって金やウイルスなどの不活性化及び除去は可能であるものの、蛋白の残留という問題がある。また、繰り返し滅菌によって故障のリスクも高まる。高価で脆い術具の取り扱いは、術者や看護師にとって厄介である。
【0003】
最近では、医療分野にもロボティックス技術が導入され、マスタスレーブ方式の手術ロボットを利用して手術を遂行するようになってきている(例えば、特許文献1を参照のこと)。ロボットを使用する外科手術では、ロボットアームの清潔領域と非清潔領域を空間的に分離する必要がある。多くの場合、術具とロボットアームの間にドレープを装着して清潔領域と非清潔領域の分離が行われるが、ドレープは嵩張るためセットアップが煩雑であり、また、手術室では常にドレープに触れないように注意して作業しなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の目的は、外科手術で使用され、清潔領域と非清潔領域の空間的分離を実現する手術ロボット及び手術システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、上記課題を参酌してなされたものであり、その第1の側面は、
術具を装着するロボットアームと、
前記ロボットアームの運動制御に関する情報を記憶する記憶回路と、
を具備する手術ロボットである。
【0007】
前記記憶回路は、前記手術ロボットの個体又は型式を識別するロボットID、前記ロボットアームの構成情報、前記ロボットアームの運動を制御する際のキャリブレーション情報のうち少なくとも1つを記憶する。また、前記記憶回路は書き込み可能であり、使用の有無又は使用した手術を識別する情報を記憶する。
【0008】
また、前記術具は記憶回路を搭載している。前記術具が搭載する前記記憶回路は、前記術具の個体又は型式を識別する術具ID、前記術具を操作する際のキャリブレーション情報のうち少なくとも1つを記憶する。また、前記術具が搭載する前記記憶回路は書き込み可能であり、使用の有無、術具を使用した患者を特定する情報、又は前記術具を使用した手術を識別する情報のうち少なくとも1つを記憶する。
【0009】
また、本開示の第2の側面は、
術具を装着するロボットアームと、前記ロボットアームの運動制御に関する情報を記憶する記憶回路を含む手術ロボットと、
前記記憶回路から読み取った前記情報に基づいて前記手術ロボットを制御する制御部と、
を具備する手術システムである。
【0010】
但し、ここで言う「システム」とは、複数の装置(又は特定の機能を実現する機能モジュール)が論理的に集合した物のことを言い、各装置や機能モジュールが単一の筐体内にあるか否かは特に問わない。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、外科手術で使用され、ディスポーザブル化により非清潔領域を空間的に分離するとともにセットアップを容易にする手術ロボット、及び、ディスポーザブル化された手術ロボットを使用する手術システムを提供することができる。
【0012】
なお、本明細書に記載された効果は、あくまでも例示であり、本開示によりもたらされる効果はこれに限定されるものではない。また、本開示が、上記の効果以外に、さらに付加的な効果を奏する場合もある。
【0013】
本開示のさらに他の目的、特徴や利点は、後述する実施形態や添付する図面に基づくより詳細な説明によって明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、手術システム100の機能的構成例を示した図である。
【
図2】
図2は、ディスポーザブル化された手術ロボット200の構成例を示した図である。
【
図3】
図3は、手術ロボット200を利用した眼底手術のレイアウトを示した図である。
【
図4】
図4は、手術ロボット200に装着する術具を交換する様子を示した図である。
【
図5】
図5は、認証システム500の構成例を示した図である。
【
図6】
図6は、ディスポーザブル化された手術ロボット及び術具を使用する手術システム100において実行される処理手順を示したフローチャートである。
【
図7】
図7は、多リンク構造に適用される電気回路基板700の断面構成例を示した図である。
【
図8】
図8は、FPCを利用して構成される開リンク構造体1000の構成例を示した図である。
【
図9】
図9は、FPCを利用して構成される閉リンク構造体900の一例を示した図である。
【
図10】
図10は、FPCを利用した閉リンク構造体で構成される手術ロボット1000の構成例を示した図である。
【
図11】
図11は、手術ロボット1000の自由度構成を示した図である。
【
図12】
図12は、手術ロボット1000の動作例を示した図である。
【
図13】
図13は、FPCを利用した閉リンク構造体で構成される手術ロボット1000の3次元イメージ例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本開示について、以下の順に従って説明する。
【0016】
A.概要
B.手術システム
C.手術ロボットの構成
D.術具の交換
E.認証処理
F.手術システムの処理動作
G.手術ロボットの実装例
H.効果
【0017】
A.概要
一般に外科手術は、術者の感覚運動によって行われる難しい作業である。特に眼科手術のように、小規模で脆弱な環境下で微細な術具を使用する手術の場合、術者は手の振戦を抑制して、ミクロンオーダーの動作を行う必要がある。そこで、術者の手の振戦の抑止、操作支援による術者間の技量の相違の吸収を目的として、手術ロボットが浸透しつつある。
【0018】
手術ロボットを使用する外科手術の場合、ドレープを用いて清潔領域と非清潔領域の分離しようとすると、セットアップが煩雑で、手術中もドレープに触れないようにしなければならない。また、ドレープなどの非清潔領域を分離するための部品が顕微鏡の視野を阻害したり、別の術具と衝突したりするという問題がある。さらに、眼科手術は他の診療科に比べて極めて短時間で手術が行われるが、セットアップにかかる時間がトータルの手術時間を短縮化するためのネックとなる。また、手術ロボットに装着する術具を再利用する場合、使用する度に洗浄及び滅菌処理を繰り返すため、蛋白の残留や故障のリスク増大といった問題がある。
【0019】
そこで、本開示では、例えば眼科手術に使用され、手術毎にディスポーザブル化が可能な手術ロボットについて提案する。
【0020】
ディスポーザブルな手術ロボットを使用する場合、手術の度に新しい手術ロボットを手術室に設置するため、手術ロボットのセットアップを容易にする必要がある。そこで、本開示に係る手術ロボットは、例えばロボットアームの運動制御に必要な情報などを記憶する記憶回路を搭載するようにしている。したがって、手術ロボットを制御する制御システム側では、新しく手術ロボットが設置される度に、その手術ロボットに搭載された記憶回路から必要な情報を読み取ることによって、簡単に手術ロボットのセットアップを行うことができるようになる。なお、ロボットアームの運動制御に必要な情報は、手術ロボットの個体又は型式を識別するロボットID、リンク数やジョイント数などのロボット構成情報、ロボットアームの運動を制御する際のキャリブレーション情報などを含む。
【0021】
また、ディスポーザブル化された手術ロボットは、一度手術に使用した後は、確実に廃棄して、誤って再度使用しないようにしなければならない。そこで、手術ロボットは、書き込み可能な記憶回路を搭載して、使用の有無又は使用した手術を識別する情報を記憶回路に記憶するようにしてもよい。このような場合、制御システムは、手術ロボットのセットアップ時に記憶回路にアクセスして、手術ロボットが未使用であることを確認することができる。そして、制御システムは、使用済みの手術ロボットが誤って設置されたときには、その手術ロボットの廃棄と新しい手術ロボットの設置を促すように警告を発するようにしてもよい。なお、使用の有無や、手術を識別する手術ID、手術室を識別する手術室ID及び手術が行われた日時の組み合わせなどでもよい。あるいは、使用の有無を示す使用フラグを記憶回路に記憶するようにしてもよい。
【0022】
例えば腹腔鏡手術などに使用される手術ロボットは、広可動域であることが求められ、必然的にロボットアームが大型化し、これに伴って部品点数や装置コストが増大するため、ディスポーザブル化は経済的に困難であり、廃棄作業の負担も大きい。これに対し、眼科手術に使用される手術ロボットは、可動域が小さくてよいので、ロボットアームは小型となり、部品点数や装置コストを低減することができるので、ディスポーザブル化しても手術コストの増大を抑制し、廃棄作業の負担も小さくて済む。
【0023】
また、本開示では、手術ロボットに加え、手術ロボットに装着する術具もディスポーザブル化して、洗浄及び滅菌処理の繰り返しによる故障のリスクや、蛋白の残留といった問題からも解放される。
【0024】
1回の手術で、手術ロボットに装着する術具を交換することが想定される。手術ロボットを制御する制御システム側では、手術ロボットに装着する術具を交換する度に、手術ロボットを介して術具を操作するために必要な情報を取得してセットアップする必要がある。そこで、本開示では、術具は必要な情報を記憶する記憶回路を搭載し、手術ロボットは装着中の術具の記憶回路から読み出した情報を制御システム側に伝送するようにしている。したがって、制御システムは、簡単に手術ロボット及び術具のセットアップを行い、すぐに術具操作を開始することができる。なお、術具の記憶回路には、術具の個体又は型式を識別する術具IDや、術具を操作する際(例えば、鉗子を開閉操作する際)のキャリブレーション情報などを含む。
【0025】
また、1回の手術で、一度手術ロボットに取り付けて使用してから取り外した後、同じ手術ロボット(又は、他のロボット)で再度利用することが想定される。患者が同じであれば菌の感染などの問題がないからである。そこで、術具は、書き込み可能な記憶回路を搭載して、使用の有無や、術具を使用した患者を特定する患者ID、手術を識別する手術ID(又は、手術室を識別する手術室ID及び手術が行われた日時の組み合わせなどでもよい)を記憶回路に記憶するようにしてもよい。このような場合、制御システムは、手術ロボットに装着された術具の記憶回路にアクセスして、術具が未使用であることや、1回の手術で再度利用される術具であるかどうかを確認することができる。そして、制御システムは、他の手術で使用済みの術具が誤って手術ロボットに装着されたときには、新しい術具への交換を促すように警告を発するようにしてもよい。
【0026】
B.手術システム
図1には、本開示が適用される、手術システム100の機能的構成例を示している。手術システム100は、マスタスレーブ方式であり、術者などのユーザはマスタ側で操作を行い、スレーブ側ではユーザの操作に従ってロボットの駆動をコントロールすることによって手術を行うことができる。
【0027】
図示の手術システム100は、ユーザ(術者)が手術などの作業を指示するマスタ装置110と、マスタ装置110からの指示に従って手術を実施するスレーブ装置120からなる。ここで言う手術として、主に網膜手術を想定している。マスタ装置110とスレーブ装置120間は、伝送路130を介して相互接続されている。伝送路130は、例えば光ファイバなどのメディアを用いて低遅延で信号伝送を行えることが望ましい。
【0028】
マスタ装置110は、マスタ側制御部111と、操作UI(User Interface)部112と、提示部113と、マスタ側通信部114を備えている。マスタ装置110は、マスタ側制御部111による統括的な制御下で動作する。
【0029】
操作UI部112は、ユーザ(術者など)が、スレーブ装置120において鉗子などの術具を操作するスレーブロボット112(後述)に対する指示を入力するためのデバイスからなる。操作UI部112は、例えば、コントローラやジョイスティックなどの専用の入力デバイス、さらにはマウス操作や指先のタッチ操作を入力するGUI画面などの汎用の入力デバイスで構成される。
【0030】
提示部113は、主にスレーブ装置120側のセンサ部123(後述)で取得されるセンサ情報に基づいて、操作UI部112を操作しているユーザ(術者)に対して、スレーブ装置120において実施されている手術に関する情報を提示する。
【0031】
例えば、スレーブ装置120側のセンサ部123が患部の表面を観察する顕微鏡画像を撮り込むRGBカメラやOCT(Optical Coherence Tomography:光干渉断層装置)を装備し、又はRGBカメラの撮像画像(以下、単に「顕微鏡画像」とする)やOCT画像を取り込むインターフェースを装備し、これらの画像データが伝送路130を介して低遅延でマスタ装置110に転送される場合、提示部113は、モニタディスプレイなどを使って、リアルタイムの患部の顕微鏡画像やOCT画像を画面表示する。
【0032】
また、センサ部123が、スレーブロボット112が操作する術具に作用する外力やモーメントを計測する機能を装備し、このような力覚情報が伝送路130を介して低遅延でマスタ装置110に転送される場合には、提示部113は、ユーザ(術者)に対して力覚提示を行う。例えば、提示部113は、操作UI部112を使ってユーザ(術者)に力覚提示を行うようにしてもよい。
【0033】
マスタ側通信部114は、マスタ側制御部111による制御下で、伝送路130を介したスレーブ装置120との信号の送受信処理を行う。例えば伝送路130が光ファイバからなる場合、マスタ側通信部114は、マスタ装置110から送出する電気信号を光信号に変換する電光変換部と、伝送路130から受信した光信号を電気信号に変換する光電変換部を備えている。
【0034】
マスタ側通信部114は、ユーザ(術者)が操作UI部112を介して入力した、スレーブロボット122に対する操作コマンドを、伝送路130を介してスレーブ装置120に転送する。また、マスタ側通信部114は、スレーブ装置120から送られてくるセンサ情報を、伝送路130を介して受信する。
【0035】
一方、スレーブ装置120は、スレーブ側制御部121と、スレーブロボット122と、センサ部123と、スレーブ側通信部124を備えている。スレーブ装置120は、スレーブ側制御部121による統括的な制御下で、マスタ装置110からの指示に応じた動作を行う。
【0036】
スレーブロボット122は、例えば多リンク構造からなるアーム型の手術ロボットであり、先端(又は、遠位端)にエンドエフェクタとして鉗子などの術具を搭載している。スレーブ側制御部121は、伝送路130を介してマスタ装置110から送られてきた操作コマンドを解釈して、スレーブロボット122を駆動するアクチュエータの駆動信号に変換して出力する。そして、スレーブロボット122は、スレーブ側制御部121からの駆動信号に基づいて動作する。
【0037】
スレーブロボット122として、例えば網膜手術を行うことを想定しており、RCM(Remote Center of Motion)構造を有することを想定している。RCM構造は、モータなどの駆動機構の回転中心から離れた位置に回転中心(すなわち、遠隔回転中心)を配置し、ピボット(不動点)運動を実現する構造とする。RCM構造は、手術の際に患者の身体に開けた穴の位置(例えば、トロッカ位置)を常に通る構造を実現できることから安全性が高い。
【0038】
センサ部123は、スレーブロボット122やスレーブロボット122が実施している手術の患部における状況を検出する複数のセンサを備え、さらに手術室内に設置された各種センサ装置からセンサ情報を取り込むためのインターフェースを装備している。例えば、センサ部123は、スレーブロボット122の先端(遠位端)に搭載された術具に、手術中に作用する外力やモーメントを計測するための力覚センサ(Force Torque Sensor:FTS)を備えている。また、センサ部123は、スレーブロボット122が手術中の患部の表面の顕微鏡画像や患部(眼球)の断面をスキャンするOCT画像を取り込むインターフェースを装備している。
【0039】
スレーブ側通信部124は、スレーブ側制御部121による制御下で、伝送路130を介したマスタ装置110都の信号の送受信処理を行う。例えば伝送路130が光ファイバからなる場合、スレーブ側通信部124は、スレーブ装置120から送出する電気信号を光信号に変換する電光変換部と、伝送路130から受信した光信号を電気信号に変換する光電変換部を備えている。
【0040】
スレーブ側通信部124は、センサ部123によって取得される術具の力覚データや、患部の顕微鏡画像、患部断面をスキャンしたOCT画像などを、伝送路130を介してマスタ装置110に転送する。また、スレーブ側通信部124は、マスタ装置110から送られてくるスレーブロボット122に対する操作コマンドを、伝送路130を介して受信する。
【0041】
C.手術ロボットの構成
図2には、スレーブロボット122のうち、ディスポーザブル化された手術ロボット200の構成例を模式的に示している。図示の手術ロボット200は、スレーブ装置120に取り付けられるインターフェース部201と、インターフェース部201に対し垂直に取り付けられたリンク202と、リンク202の上端にジョイント203を介して取り付けられたロボットアームで構成される。ジョイント203は、ヨー軸回りの回転自由度を有するものとする。
【0042】
ロボットアームは、シリアルリンク構造からなり、リンク204、206、208、210と、リンク204とリンク206間をヒンジ結合するジョイント205と、リンク206とリンク208間をヒンジ結合するジョイント207と、リンク208とリンク210をヒンジ結合するジョイント209で構成されている。各ジョイント205、207、209は、ロール軸回り(又は、ヨー軸と直交する軸回り)に回転自由度を備えている。そして、遠位端のリンク210には、術具211が装着される。術具211は交換可能である。また、術具211が装着されたか否かを検出する装着検出機構を備えているものとする。
【0043】
インターフェース部201は、スレーブ装置120側からアクセス可能な記憶回路を装備している。この記憶回路は、ロボットアームの運動制御に必要な情報などを記憶している。ロボットアームの運動制御に必要な情報は、手術ロボットの個体又は型式を識別するロボットID、リンク数やジョイント数などのロボット構成情報、ロボットアームの運動を制御する際のキャリブレーション情報などを含む。また、この記憶回路は、書き込み可能であってもよく、スレーブ装置120側から手術ロボット200の使用状態に関する情報を書き込むようにしてもよい。使用状態に関する情報は、使用の有無を示すフラグや、手術を識別する手術ID、手術室を識別する手術室ID及び手術が行われた日時の組み合わせなどでもよい。
【0044】
図3には、
図2に示した手術ロボット200を利用した眼底手術のレイアウトを示している。眼球300には、瞼が閉じないように、図示しない開瞼器(eyelid speculum)が取り付けられている。そして、眼球300の表面にトロッカー301が刺入されている。
図3では、トロッカー301が通過するように切断された眼球300の断面を示している。手術ロボット200の遠位端に搭載された術具211は、一方のトロッカー201を経由して、眼球300内に挿入されている。
【0045】
図3に示す例では、手術ロボット200は、インターフェース部201にてスレーブ装置120に取り付けられた状態で、メカニカルグランド(M-GND)に対し剛に固定されるものとする。また、スレーブ装置120は、インターフェース部201の取り付け部分において読取部310を装備しており、読取部310からインターフェース部201内の記憶回路から情報の読み取りを行うことができるものとする。また、記憶回路が書き込み可能な場合には、読取部310を介して記憶回路への情報の書き込みを行うものとする。
【0046】
なお、読取部310が記憶回路にアクセスする方法は特に限定されない。電気的に接触する方式、電磁的、磁気的又は工学的な作用を利用した非接触方式によるアクセスであってもよい。また、読取部310は、手術ロボット200が設置されたか否かを検出する設置検出機構を備えているものとする。
【0047】
スレーブ装置120内のスレーブ側制御部121は、新しく手術ロボット200が設置される度に、読取部310を使って手術ロボット200に搭載された記憶回路から必要な情報を読み取ることによって、簡単に手術ロボットのセットアップを行うことができる。
【0048】
また、手術ロボット200はディスポーザブル化されており、一度手術に使用した後は、確実に廃棄して、誤って再度使用しないようにしなければならない。本実施形態では、手術ロボット200のインターフェース部201は、書き込み可能な記憶回路を搭載して、使用状態に関する情報を記憶するようにしている。使用状態に関する情報は、使用の有無を示すフラグや、手術を識別する手術ID、手術室を識別する手術室ID及び手術が行われた日時の組み合わせなどでもよい。そして、スレーブ装置120内のスレーブ側制御部121は、読取部310を通じてインターフェース部201の記憶回路にアクセスして、手術ロボット200の使用状態が未使用であることを確認してから、手術ロボット200の使用を開始する。また、スレーブ側制御部121は、手術ロボット200の使用履歴又は使用した手術を識別する情報を、読取部310を通じてインターフェース部201の記憶回路に書き込む。
【0049】
このような場合、スレーブ側制御部121は、手術ロボットのセットアップ時に記憶回路にアクセスして、手術ロボット200が未使用であることを確認してから、手術ロボット200の使用を開始することができる。また、スレーブ側制御部121は、使用済みの手術ロボットが誤って設置されたときには、その手術ロボットの廃棄と新しい手術ロボットの設置を促すように警告を発するようにしてもよい。
【0050】
なお、上記の説明のうちスレーブ側制御部121が行う動作は、マスタ装置110のマスタ側制御部111が行うようにしてもよい。また、上記の警告は、マスタ装置110側で提示部113を使って行うようにしてもよい。
【0051】
手術ロボット200が眼科手術に使用されることを想定した場合、可動域が小さくてよいので、ロボットアームは小型となり、部品点数や装置コストを低減することができるので、ディスポーザブル化しても手術コストの増大を抑制し、廃棄作業の負担も小さくて済む。
【0052】
D.術具の交換
1回の手術で、手術ロボット200に装着する術具を交換することが想定される。手術システム100では、手術ロボット200に装着する術具を交換する度に、手術ロボットを介して術具を操作するために必要な情報を取得してセットアップする必要がある。本実施形態では、術具が必要な情報を記憶する記憶回路を搭載し、手術ロボット200は装着中の術具の記憶回路から読み出した情報を手術システム100側に伝送するようにしている。したがって、手術システム100は、簡単に手術ロボット200及び術具のセットアップを行い、すぐに術具操作を開始することができる。なお、術具の記憶回路には、術具の個体又は型式を識別する術具IDや、術具を操作する際(例えば、鉗子を開閉操作する際)のキャリブレーション情報などを含む。
【0053】
図4には、手術ロボット200に装着されている術具401を術具402に交換する様子を示している。術具401は記憶回路411を搭載し、術具402は記憶回路412を搭載している。したがって、新たに術具402が手術ロボット200に装着されると、スレーブ装置120内のスレーブ側制御部121は、術具402の記憶回路412から必要な情報を読み取って、術具412のセットアップを行い、すぐに術具操作を開始することができる。
【0054】
また、1回の手術で、一度手術ロボットに取り付けて使用してから取り外した後、同じ手術ロボット(又は、他のロボット)で再度利用することが想定される。患者が同じであれば菌の感染などの問題がないからである。そこで、各術具401及び402は、書き込み可能な記憶回路411及び412をそれぞれ搭載して、使用の有無や、術具を使用した患者を特定する患者ID、手術を識別する手術ID(又は、手術室を識別する手術室ID及び手術が行われた日時の組み合わせなどでもよい)を記憶回路に記憶するようにする。
【0055】
このような場合、スレーブ装置120内のスレーブ側制御部121は、読取部310通じて、装着中の術具401又は402の記憶回路411又は412から使用の有無又は患者ID、手術IDの情報を読み取って、術具が未使用であることや、1回の手術で再度利用される術具であるかどうかを確認することができる。そして、手術システム100は、他の手術で使用済みの術具が誤って手術ロボットに装着されたときには、新しい術具への交換を促すように警告を発するようにしてもよい。
【0056】
なお、上記の説明のうちスレーブ側制御部121が行う動作は、マスタ装置110のマスタ側制御部111が行うようにしてもよい。また、上記の警告は、マスタ装置110側で提示部113を使って行うようにしてもよい。
【0057】
E.認証処理
図5には、手術システム100に取り付けた手術ロボット200、並びに手術ロボット200に装着した術具の認証処理を行う認証システム500の構成例を模式的に示している。
図5には、クラウドを利用して認証処理を行う認証システム500を例示している。
【0058】
病院などの手術施設510内には、手術システム100と、手術システム100において使用する手術ロボットや術具などディスポーザブル部品の認証処理を行う認証サーバ511が配置されている。
【0059】
ここで、手術システム100には手術ロボットが設置され、且つ、手術ロボットには術具が装着されていることを想定している。そして、手術システム100は、手術ロボットに搭載された記憶回路からロボットIDを読み取るとともに、手術ロボットに装着されている術具に搭載された記憶回路から術具IDを読み取ることができたとする。
【0060】
手術システム100は、手術ロボット及び術具から読み取ったロボットID及び術具IDを、認証サーバ511に転送する。
【0061】
認証サーバ511は、手術システム100から取得したロボットID及び術具IDをクラウド520に照会して、クラウド520と手術システム100間に介在して、手術システム100で使用する手術ロボット及び術具の認証処理を行う。
【0062】
認証処理では、ID情報に基づいて、例えば手術ロボットや術具が純正品又は正規品であるかどうかや、これらの部品の動作を保証することができるかどうかの確認が行われる。そして、認証サーバ511は、認証処理の結果を手術システム100に通知する。
【0063】
手術システム100は、認証サーバ511から認証に失敗した旨の通知を受け取った場合には、外科手術の開始を許可せず、認証に失敗したことをユーザに通知する。例えば提示部113を使ってユーザに通知するようにしてもよい。例えば、手術ロボットや術具が純正品又は正規品でないことが分かった場合には、これらの不正な部品の交換をユーザに促すような警告を、提示部113から出力するようにしてもよい。
【0064】
一方、手術システム100は、認証に成功した場合には手術ロボット及び術具の使用を許可して、外科手術(例えば眼科手術)を開始することができる。
【0065】
なお、上記B~D項では使用状態やキャリブレーション情報を手術ロボットや術具に搭載した記憶回路で記憶する点について説明したが、クラウド520上で手術ロボット及び術具の各IDと紐付けして使用状態やキャリブレーション情報の管理も行うようにしてもよい。この場合、クラウド520では、認証サーバ511から照会されたロボットIDや術具IDの認証に成功すると、さらにこれらの使用状態をチャックして、未使用であることが確認された場合のみ、最終的に認証に成功した結果を認証サーバ511に返信するようにする。
【0066】
また、クラウド520で認証に成功した場合には、ロボットIDや術具IDに紐付けされたキャリブレーションデータ、ロボット構成情報、術具構成情報も認証サーバ511に返信するようにしてもよい。そして、手術システム100(例えば、スレーブ装置120内のスレーブ側制御部121)は、クラウド511から供給されたキャリブレーションデータ、ロボット構成情報、術具構成情報に基づいて、手術システム100に設置された手術ロボットや術具のセットアップを行うようにしてもよい。
【0067】
F.手術システムの処理動作
図6には、ディスポーザブル化された手術ロボット及び術具を使用する手術システム100において実行される処理手順をフローチャートの形式で示している。この処理手順は、例えばスレーブ装置120側でスレーブ側制御部121が主体となって実行されるが、もちろん必要な情報をスレーブ装置120からマスタ装置110に転送して、マスタ装置110内のマスタ側制御部111で実行することもできる。
【0068】
スレーブ側制御部121は、スレーブロボット122として新たに手術ロボットが設置されたことを検出すると(ステップS601のYes)、その手術ロボットの認証処理と使用状態のチェックを行う(ステップS602)。
【0069】
手術ロボットの認証処理は、例えば上記E項で説明した通りである。認証処理に失敗した場合には(ステップS603のNo)、ユーザに手術ロボットの交換を指示して(ステップS610)、ステップS601に戻る。また、検出された手術ロボットが既に使用済みの状態である場合には(ステップS604のNo)、ユーザに未使用の手術ロボットへの交換を指示して(ステップS610)、ステップS601に戻る。なお、手術ロボットの交換指示は、マスタ装置110側の提示部113を用いて行うようにしてもよい。
【0070】
一方、新たに設置した手術ロボットの認証処理に成功し且つ未使用状態であることを確認できた場合には(ステップS604のYes)、スレーブ側制御部121は、その手術ロボットの遠位端に術具が装着されているか否かをチェックする(ステップS605)。
【0071】
スレーブ側制御部121は、手術ロボットに術具が装着されていることを検出すると(ステップS605のYes)、その術具の認証処理と使用状態のチェックを行う(ステップS606)。
【0072】
術具の認証処理は、例えば上記E項で説明した通りである。認証処理に失敗した場合には(ステップS607のNo)、ユーザに術具の交換を指示して(ステップS611)、ステップS605に戻る。また、手術ロボットに装着されている術具が既に使用済みの状態である場合には(ステップS608のNo)、ユーザに未使用の術具への交換を指示して(ステップS611)、ステップS605に戻る。なお、術具の交換指示は、マスタ装置110側の提示部113を用いて行うようにしてもよい。
【0073】
一方、手術ロボットに装着された術具の認証処理に成功し且つ未使用状態であることを確認できた場合には(ステップS608のYes)、手術システム100において手術ロボット100を使用した手術を開始することができる。
【0074】
手術が終了するまでの間(ステップS609のNo)、スレーブ側制御部121は、手術ロボットに装着された術具が交換されたか否かを監視し続ける(ステップS612)。そして、スレーブ側制御部121は、手術ロボットに装着された術具が交換されたことを検出すると(ステップS612のYes)、ステップS606に戻って、交換された術具の認証処理と使用状態のチェックを繰り返し行う。
【0075】
G.手術ロボットの実装例
このG項では、低剛性で且つ可撓性を有する柔軟な電気回路基板を利用して構成される、ディスポーザブルな手術ロボットの構成例について説明する。
【0076】
図7には、多リンク構造に適用される電気回路基板700の断面構成例を示している。同図から分かるように、電気回路基板700は、高電子ポリマーやポリイミドからなる絶縁層と、銅やアルミなどの金属を蒸着して形成される導電層を含み、複数の絶縁層及び導電層の組を接着層で接合した多層構造体である。このような多層構造からなる電気回路基板700の製造方法は特に限定されない。例えば、あらかじめ作成した導電層に対して接着層を設けることによって、絶縁層と導電層を接着する方法も挙げられる。そして、最終的に、絶縁層、導電層及び接着層を含む多層構造を、ポリイミドなどからなる低剛性材料で被覆することによって、低剛性で且つ可撓性を有する電気回路基板700が実現する。電気回路基板700は、一般的なFPC(Flexible Printed Circuits)と同じでもよい。
【0077】
図8には、FPCを利用して構成される開リンク構造体1000の構成例を示している。開リンク構造体1000は、低剛性のFPC801を中心に配置して、1対の強剛性部802及び803をFPC801の表裏に接合して剛性を有するリンク812を構成するとともに、1対の強剛性部806及び807をFPC801の表裏に接合して剛性を有するリンク813を構成し、1対の強剛性部808a及び809aをFPC801の表裏に接合して剛性を有するリンク814aを構成し、1対の強剛性部808b及び809bをFPC801の表裏に接合して剛性を有するリンク814bを構成している。そして、リンク811とリンク812間、リンク812とリンク813間、リンク813とリンク814a間、及びリンク814bとリンク811間は、FPC801によって接続されるヒンジ部821、822、823、824を構成している。
【0078】
開リンク構造体1000は、強剛性部803が中央に開口部を有し、その開口部を介してFPC801の導電層を外界に露出させることによって、リンク811が電気接続用又は信号取り出し用の電極パッド831を有し、強剛性部805が中央に開口部を有し、その開口部を介してFPC801の導電層を外界に露出させることによって、リンク812が電気接続用又は信号取り出し用の電極パッド832を有し、さらに強剛性部807が中央に開口部を有し、その開口部を介してFPC801の導電層を外界に露出させることによって、リンク813が電気接続用又は信号取り出し用の電極パッド633を有する。また、開リンク構造体1000の両端のリンク814a及び814bの各端部に電極パッド801a及び801bを有する。
【0079】
図9には、FPCを利用して構成される閉リンク構造体900の一例を示している。図示の閉リンク構造体900は、
図8に示した開リンク構造体1000を構成するFPC801を折り曲げて、両端のリンク814a及び814bを、それぞれ設けられた電極パッド801a及び801b同士を接合させて、閉リンク構造を構成している。そして、接合されたリンク814a及び814bを、新たにリンク914と定義する。
【0080】
閉リンク構造体900は、対向するリンク811とリンク813の長さ、及びリンク812とリンク814の長さがそれぞれ等しいので、平行リンク機構(又は、4節リンク機構)を構成することができる。したがって、原動リンクが動くと従動リンクが同じ動きをし、対向するリンクの角度が常に維持される。
【0081】
なお、各ヒンジ部821、822、823、824は、FPCのみで構成されるジョイントである。各ヒンジ部821、822、823、824においてFPCの導電層は回転軸を通過するので、ヒンジ内部を経由する配線構造である。したがって、リンク間で回転動作が発生しても、導電性に影響する張力や圧縮力などのストレスは低く抑えられるので、制御性能への悪影響や配線が切断するリスクは極めて低い。
【0082】
図10には、
図9に示したようなFPCを利用した閉リンク構造体を複数連結させた手術ロボット1000の構成例を示している。手術ロボット1000は、遠位端から順に、閉リンク構造体1010、閉リンク構造体1020、閉リンク構造体1030の順に連結されている。さらに、閉リンク構造体1030には、直動機構を有する開リンク構造体1040が連結されている。なお、各閉リンク構造体1010~1030、及び開リンク構造体1040の具体的な構成は、
図7及び
図8に示したものと同様なので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0083】
近位端側の閉リンク構造体1030の1つのリンク1034がメカニカルグランド(又は、固定リンク)となっている。リンク1034の一端にヒンジ結合されるリンク1031には、開リンク構造体1040のリンク1041が連結されている。また、開リンク構造体1040のリンク1042は、一端がメカニカルグランドとなっている直動アクチュエータ850によって紙面水平方向(又は、x方向)に変位することができる。したがって、リンク1031は、原動リンクとなる。また、リンク1031に対向するリンク1033は従動リンク、その他のリンク1032は中間リンクとなる。
【0084】
開リンク構造体1040は、リンク1042の1箇所に電極パッド1043を有するとともに、リンク1041の1箇所に電極パッド1044を有している。電極パッド1043は第1の信号V1の入出力に使用され、電極パッド1044は閉リンク構造体1030側との間で第1の信号V1の伝送に使用される。
【0085】
閉リンク構造体1030のリンク1031は、電極パッド1044と対向する位置に、1箇所の電極パッド1035を有している。そして、導電性の接合部961を介して電極パッド1044と電極パッド1035の通電性を確保しながら、開リンク構造体1040のリンク841が閉リンク構造体1030側のリンク1031に固定されている。したがって、閉リンク構造体1030は、開リンク構造体1040との間で第1の信号V1の伝送が可能である。また、閉リンク構造体1030は、リンク1034の1箇所に電極パッド1036を有している。電極パッド1036は、第2の信号V2の入出力に使用される。
【0086】
閉リンク構造体1030は、リンク1032の2箇所に、それぞれ第1の信号及び第2の信号用の電極パッド1037及び1038を有している。また、閉リンク構造体1020側の、リンク1032に連結されるリンク1024は、電極パッド1037及び1038の各々と対向する位置に、2箇所の電極パッド1025及び1026を有している。そして、それぞれ導電性を有する接合部1062及び1063を介して電極パッド1025と電極パッド1037間、及び電極パッド1026と電極パッド1038間の通電性を確保しながら、リンク1024がリンク1032に固定されている。したがって、閉リンク構造体1030と閉リンク構造体1020の間で、第1の信号V1及び第2の信号V2の伝送が可能である。
【0087】
閉リンク構造体1020は、リンク1023の2箇所に、それぞれ第1の信号V1及び第2の信号V2用の電極パッド1027及び1028を有している。また、閉リンク構造体1010側の、リンク1023に連結されるリンク1011は、電極パッド1027及び1028の各々と対向する位置に、2箇所の電極パッド1015及び1016を有している。そして、それぞれ導電性を有する接合部1064及び1065を介して電極パッド1015と電極パッド1027間、及び電極パッド1016と電極パッド1028間の通電性を確保しながら、リンク1011がリンク1022に固定されている。したがって、閉リンク構造体1020と閉リンク構造体1010の間で、第1の信号V1及び第2の信号V2の伝送が可能である。
【0088】
閉リンク構造体1011のリンク1013、手術ロボット1000の遠位端のリンクに相当し、鉗子などの術具からなるエンドエフェクタ(
図9には図示しない)の装着部を構成している。そして、リンク1013の2箇所に、それぞれ第1の信号V
1及び第2の信号V
2用の電極パッド1017及び1018を有している。したがって、手術ロボット1000は、遠位端に装着されたエンドエフェクタとの間で、第1の信号V
1及び第2の信号V
2の伝送が可能である。
【0089】
手術ロボット1000に装着して用いられる術具は、例えば、術具の種類や仕様、性能、又は個体情報を識別するための術具IDや、認証システム500によって使用の是非を判定するための認証情報、術具を操作する際のキャリブレーションデータなどを記憶する記憶回路を保持している。そして、手術ロボット1000は、遠位端の電極パッド1017及び1018からなる電気的インターフェースを通じて術具にアクセスして、術具IDを術具から読み取って、該当する認証情報やキャリブレーションデータなどを術具内の記憶回路に伝送することができる。
【0090】
本実施形態に係る手術ロボット1000においては、第1の信号V1及び第2の信号V2の伝送に使用される信号線がヒンジ内部を経由する配線構造である。このため、手術ロボット1000が動作してリンク間で回転動作が発生しても、導電性に影響する張力や圧縮力などのストレスは低く抑えられるので、制御性能への悪影響や配線が切断するリスクは極めて低い。
【0091】
信号伝送路上では、エンドエフェクタである術具への制御信号や電力、術具内のメモリから読み出した情報の信号などが伝送される。なお、
図10には、手術ロボット1000は第1の信号V
1及び第2の信号V
2の2ビットからなる信号伝送路を有する実施例を示したが、信号伝送路のビット幅を3ビット以上に容易に拡張することができる。
【0092】
図11には、
図10に示した手術ロボット1000の自由度構成を示している。但し、
図11では、高剛性のリンクを太線で描き、リンク間をヒンジ結合するジョイントを回転軸と同軸の円で示している。
【0093】
手術ロボット1000は、遠位端から順に3つの閉リンク構造体1010、1020、1030を連結して構成される。このうち、近位端側の閉リンク構造体1030の1つのリンク1034がメカニカルグランド(又は、固定リンク)となっている。
【0094】
閉リンク構造体1010は4本のリンク1011~1014からなる4節リンク機構であり、対向するリンクの長さがそれぞれ等しい。また、閉リンク構造体1020は、4本のリンク1021~1024からなる4節リンク機構であり、対向するリンクの長さがそれぞれ等しい。また、閉リンク構造体1030は、4本のリンク1031~1034からなる4節リンク機構であり、対向するリンクの長さがそれぞれ等しい。但し、リンク1012とリンク1022、リンク1014とリンク1024、リンク1021とリンク1031は、それぞれ直線的に連結されて1本のリンクとして動作する。また、閉リンク構造体1010と閉リンク構造体1020を接合させるリンク1011とリンク1023は一体化して1つのリンクとして動作し、閉リンク構造体1020と閉リンク構造体1030を接合させるリンク1024とリンク1032は一体化して1つのリンクとして動作する。
【0095】
リンク1034の一端にヒンジ結合されるリンク1031には、開リンク構造体1040が連結されている。開リンク構造体1040は、直動アクチュエータ1050を介して直線的に連結される2本のリンク1041及び1042で構成される。そして、一方のリンク1042は、一端がメカニカルグランドに号に固定されている。直動アクチュエータ1050が動作して、リンク1041が紙面水平方向(又は、x方向)に変位すると、リンク1031がリンク1034との結合点回りに回転する。したがって、リンク1031は原動リンクとなり、リンク1031に対向するリンク1033は従動リンク、その他のリンク1032は中間リンクとなって、対向するリンクの角度が保たれるように、閉リンク構造体1030が動作する。そして、この動作は、隣接する閉リンク構造体1020へ、さらに閉リンク構造体1020に隣接する閉リンク構造体1010へ伝達される。
【0096】
閉リンク構造体1011のリンク1013は、ロボット300の遠位端のリンクに相当し、鉗子などの術具からなるエンドエフェクタ(
図11には図示しない)の装着部を構成している。手術ロボット1000が遠位端に装着した術具を操作して外科手術を行う場合、低侵襲の都合から、術具を挿通させたトロッカー付近に対してできるだけ小さな負荷で手術が行われるようにする必要があり、このため、トロッカー挿入点を支点として(又は、トロッカー挿入点を固定して)術具をピボット操作することで、トロッカー挿入点に発生する力積をゼロにする操作を行うことが理想的である。
【0097】
図12には、直動アクチュエータ1050をx方向に変位させることによって、開リンク構造体1040を介して、閉リンク構造体1030の原動リンクであるリンク1031を紙面反時計回りに角度θだけ回転させた様子を示している。他の閉リンク構造体1020及び閉リンク構造体1010の各リンクが、それぞれ閉リンク構造体1030の対応するリンクとの平行な関係が保たれていることを想定すると、閉リンク構造体1030のリンク(固定リンク)1034の軸線と、遠位端の閉リンク構造体1010の術具の装着場所であるリンク1013の軸線は、同じく点Aで交差する。すなわち、交点Aが不動点となる。したがって、交点Aがトロッカー刺入点となるように設定することによって、リンク1013に装着した術具が刺入部でピボット運動するようになり、低侵襲手術を実現することができる。
【0098】
図10では、説明の便宜上、手術ロボット1000を真横から見た平面図とし、各リンクを線材のように描いて説明した。実際には、リンクはFPCを基材とするため、一定の幅を持つ剛体である。
図13には、FPCを利用した閉リンク構造体で構成される手術ロボット1000の3次元イメージ例を示している。
【0099】
手術ロボット1000の遠位端のリンクには、鉗子などの術具からなるエンドエフェクタが取り付けられている。手術ロボット1000は基本的にFPCを用いて構成されるので、眼科手術向けに小型に製作することが容易である。例えば、手のひらに乗る程度の小型の手術ロボット1000を比較的安価に製作して、ディスポーザブル化することができる。また、術具も同様にディスポ―ざる化することができる。
【0100】
なお、このG項で説明したような電気回路基板を利用した多リンク構造体は一例に過ぎず、このような多リンク構造体を用いなくてもディスポーザブルな手術ロボットを製作することは可能である。
【0101】
H.効果
最後に、本開示によってもたらされる効果についてまとめておく。
【0102】
(1)手術ロボット及び手術ロボットに装着される術具はセットアップ時に必要となる情報を記憶する記憶回路をそれぞれ搭載しているので、ディスポーザブル化して手術毎に交換しても、システム側から手術ロボット及び術具の記憶回路にアクセスして必要な情報を取得することによって、セットアップを簡易に行うことができる。
【0103】
(2)手術ロボット及び術具をディスポーザブル化して手術毎の交換することによって、残留蛋白を低減して合併症のリスクを回避することができる。
【0104】
(3)手術ロボット及び術具をディスポーザブル化して手術毎の交換することによって、洗浄及び滅菌処理の工程が省略することにより、作業負担や故障リスクを低減することができる。
【0105】
(4)手術ロボット及び術具をディスポーザブル化して手術毎の交換することによって、手術ドレープが不要となるので、ドレープのセットアップ作業から解放されるとともに、手術中にドレープとの接触や別の術具との衝突、ドレープによる顕微鏡の視野阻害といった問題から解放される。
【産業上の利用可能性】
【0106】
以上、特定の実施形態を参照しながら、本開示について詳細に説明してきた。しかしながら、本開示の要旨を逸脱しない範囲で当業者が該実施形態の修正や代用を成し得ることは自明である。
【0107】
本明細書では、本開示を主に眼科手術に適用した実施形態を中心に説明してきたが、本開示の要旨はこれに限定されるものではない。本開示を他のさまざまなタイプの外科手術に適用しても同様に、手術ロボット全体のディスポーザブル化を実現するとともに、ディスポーザブル化された手術ロボットのセットアップ作業を容易にすることができる。
【0108】
要するに、例示という形態により本開示について説明してきたのであり、本明細書の記載内容を限定的に解釈するべきではない。本開示の要旨を判断するためには、特許請求の範囲を参酌すべきである。
【0109】
なお、本開示は、以下のような構成をとることも可能である。
【0110】
(1)術具を装着するロボットアームと、
前記ロボットアームの運動制御に関する情報を記憶する記憶回路と、
を具備する手術ロボット。
【0111】
(2)前記記憶回路は、前記手術ロボットの個体又は型式を識別するロボットID、前記ロボットアームの構成情報、前記ロボットアームの運動を制御する際のキャリブレーション情報のうち少なくとも1つを記憶する、
上記(1)に記載の手術ロボット。
【0112】
(3)前記記憶回路は書き込み可能であり、使用の有無又は使用した手術を識別する情報を記憶する、
上記(1)又は(2)のいずれかに記載の手術ロボット。
【0113】
(4)前記術具は記憶回路を搭載し、
前記術具が搭載する前記記憶装置に対して読み取り又は書き込みを行う、
上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の手術ロボット。
【0114】
(5)前記術具が搭載する前記記憶回路は、前記術具の個体又は型式を識別する術具ID、前記術具を操作する際のキャリブレーション情報のうち少なくとも1つを記憶する、
上記(4)に記載の手術ロボット。
【0115】
(6)前記術具が搭載する前記記憶回路は書き込み可能であり、使用の有無、術具を使用した患者を特定する情報、又は前記術具を使用した手術を識別する情報のうち少なくとも1つを記憶する、
上記(4)又は(5)のいずれかに記載の手術ロボット。
【0116】
(7)所定の方式により前記手術ロボットの外部から前記記憶回路にアクセス可能である、
上記(1)乃至(6)のいずれかに記載の手術ロボット。
【0117】
(8)前記術具は眼科手術に使用される、
上記(1)乃至(7)のいずれかに記載の手術ロボット。
【0118】
(9)術具を装着するロボットアームと、前記ロボットアームの運動制御に関する情報を記憶する記憶回路を含む手術ロボットと、
前記記憶回路から読み取った前記情報に基づいて前記手術ロボットを制御する制御部と、
を具備する手術システム。
【0119】
(10)前記制御部は、前記術具に搭載された記憶回路から読み取った前記術具の識別情報、又は前記記憶回路から読み取った前記手術ロボットの識別情報に基づいて、前記術具又は前記手術ロボットの認証処理を行う、
上記(9)に記載の手術システム。
【0120】
(11)前記制御部は、前記術具に搭載された記憶回路から読み取った前記術具の使用状態に関する情報、又は前記記憶回路から読み取った前記手術ロボットの使用状態に関する情報に基づいて、前記術具又は前記手術ロボットの使用の可否を判定する、
上記(9)又は(10)のいずれかに記載の手術システム。
【0121】
(12)前記制御部は、前記術具に搭載された記憶回路から読み取った前記術具のキャリブレーション情報に基づいて、前記手術ロボットによる前記術具の操作を制御する、
上記(9)乃至(11)のいずれかに記載の手術システム。
【符号の説明】
【0122】
100…手術システム、110…マスタ装置
111…マスタ側制御部、112…操作UI部、113…提示部
114…マスタ側通信部、120…スレーブ装置
121…スレーブ側制御部、122…スレーブロボット
123…センサ部、124…スレーブ側通信部、130…伝送路
200…手術ロボット、201…インターフェース部
202…リンク、203、205、207、209…ジョイント
204、206、208、210…リンク、211…術具
301…トロッカー