(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156453
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】筒状ライナ部材およびその製造方法ならびに圧力容器
(51)【国際特許分類】
F17C 1/16 20060101AFI20221006BHJP
F16J 12/00 20060101ALI20221006BHJP
B29C 45/27 20060101ALI20221006BHJP
B29C 45/17 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
F17C1/16
F16J12/00 Z
B29C45/27
B29C45/17
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060160
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片桐 秀明
(72)【発明者】
【氏名】柴田 清
(72)【発明者】
【氏名】瀬島 栄三郎
(72)【発明者】
【氏名】服部 猛
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 彰馬
(72)【発明者】
【氏名】光田 崇
【テーマコード(参考)】
3E172
3J046
4F202
4F206
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA05
3E172AA06
3E172AB01
3E172AB04
3E172AB05
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3E172CA14
3E172CA19
3E172CA22
3E172DA36
3J046AA01
3J046BA01
3J046BD20
3J046CA03
3J046DA05
3J046EA01
4F202AG06
4F202AG07
4F202AG08
4F202AG28
4F202AH55
4F202AM36
4F202CA11
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4F206AG07
4F206AG08
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4F206AH55
4F206AM36
4F206JA07
4F206JQ81
(57)【要約】 (修正有)
【課題】筒状ライナ部材の成形性を向上させ得る技術を提供すること。
【解決手段】筒状をなす本体部20を有し、圧力容器の樹脂ライナにおける軸線方向の中央部を構成する筒状ライナ部材2であって、前記本体部20における前記軸線方向の両端を各々構成する溶着端部21と、前記本体部20における前記軸線方向の両端部に各々設けられ、前記溶着端部21よりも前記軸線方向の中央部側において、前記本体部20の周方向に沿って配置されるとともに前記本体部20の外周面20opから径方向外側に向けて突起する押圧リブ25と、2つの前記押圧リブ25の間に配置され、前記本体部20の内周面20ipから径方向内側に向けて突起する環状のディスクゲート痕28と、を有する筒状ライナ部材2。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状をなす本体部を有し、圧力容器の樹脂ライナにおける軸線方向の中央部を構成する筒状ライナ部材であって、
前記本体部における前記軸線方向の両端を各々構成する溶着端部と、
前記本体部における前記軸線方向の両端部に各々設けられ、前記溶着端部よりも前記軸線方向の中央部側において、前記本体部の周方向に沿って配置されるとともに前記本体部の外周面から径方向外側に向けて突起する押圧リブと、
2つの前記押圧リブの間に配置され、前記本体部の内周面から径方向内側に向けて突起する環状のディスクゲート痕と、を有する、筒状ライナ部材。
【請求項2】
前記ディスクゲート痕は前記本体部に対して前記軸線方向の一端部側に偏って配置されている、請求項1に記載の筒状ライナ部材。
【請求項3】
前記ディスクゲート痕の内周面は切削面である、請求項1又は請求項2に記載の筒状ライナ部材。
【請求項4】
前記軸線方向における前記ディスクゲート痕の厚みは、径方向内側から外側に向けて徐々に増大する、請求項1~請求項3の何れか一項に記載の筒状ライナ部材。
【請求項5】
請求項1~請求項4の何れか一項に記載の筒状ライナ部材を有する圧力容器。
【請求項6】
請求項1~請求項4の何れか一項に記載の筒状ライナ部材を製造する方法であって、
前記本体部および前記押圧リブと、2つの前記押圧リブの間に配置され前記本体部の内周面に一体化されている板状のディスクゲート部と、を有する中間体を、前記ディスクゲート部が前記本体部および前記押圧リブへの流体樹脂材料の注入口となるように射出成形する成形工程と、
前記ディスクゲート部を切除して前記ディスクゲート痕を形成する整形工程と、を具備する、筒状ライナ部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は各種加圧物質を充填するための圧力容器に用いられる樹脂製の筒状ライナ部材、および当該筒状ライナ部材を製造する方法、並びに当該筒状ライナ部材を有する圧力容器に関する。
【背景技術】
【0002】
圧力容器に充填される加圧物質としては、高圧水素、CNG(圧縮天然ガス)等の各種圧縮ガス、液体水素、LNG(液化天然ガス)、LPG(液化石油ガス)等の各種液化ガス等が例示される。
【0003】
これらの各種加圧物質を充填するための圧力容器として、中空状をなす樹脂ライナにおける軸線方向の一端部又は両端部に金属製の口金部を取り付け、さらに、当該口金部の少なくとも一方にバルブを取り付けたものが用いられている。この種の圧力容器においては、樹脂ライナの外周面を高強度樹脂(FRP;Fiber Reinforced Plastic等)製の補強部で覆うのが一般的である。
【0004】
この種の圧力容器には、高圧ガスを充填したときにも耐え得るだけの強度が要求される。当該圧力容器の一部分を構成する樹脂ライナにもまた、十分な強度が要求される。
強度に優れる樹脂ライナを得るためには、成形時に形成されるウェルドを低減するのが有効と考えられる。ウェルドは、成形時において流体樹脂材料の流動経路が分岐し、当該流体樹脂材料が再度合流したときに発生し易いと考えられている。本明細書において、流体樹脂材料とは、溶融または軟化することにより流体状となった樹脂材料を意味する。
【0005】
流体樹脂材料の流動経路が分岐すると、当該流体樹脂材料の流速や温度は、その分岐経路毎に異なる可能性が高い。このような場合には、再度合流した流体樹脂材料が均一に混ざり合い難い。したがって、ウェルドラインが形成された樹脂ライナにおいては、ウェルドラインを境界として互いに隣接する樹脂領域が互いに融着したかの如き状態にあると考えられ、その結果、当該樹脂ライナは強度に劣ると考えられる。
【0006】
ここで、圧力容器の一部である樹脂ライナは、圧力容器の他の一部である口金が取り付けられる部分であり、口金を取り付けるための複雑な形状を有する。そして、このような複雑な形状の樹脂ライナを製造する方法として、一般的には、当該樹脂ライナをその軸線方向に向けて複数個に分割した分体として成形し、当該複数の分体を溶着し一体化する方法が採用されている。
【0007】
複雑な形状を有する樹脂成形品を製造する方法として、一般には、多点ゲート式の射出成形法が用いられる。ここでいう多点ゲート式の射出成形法とは、具体的には、樹脂ライナ用の成形型に、樹脂ライナの周方向に沿って複数のゲートを設け、各ゲートを注入口として成形型のキャビティに流体樹脂材料を注入する方法を意味する。
【0008】
一方、上記したように複数の分体を溶着して樹脂ライナを製造する場合、樹脂ライナの溶着強度を十分に高めるためには、各分体における継ぎ目部分の形状を一致させる必要がある。各分体における継ぎ目部分の形状を一致させるためには、各分体を成形精度高く成形する必要がある。
しかし、上記した多点ゲート式の射出成形法によると、成形時のウェルドラインが分体に形成され易いとともに、複数のゲートからキャビティに流体樹脂材料を注入することに因り、複数のゲート痕が分体に形成されるために、大径かつ真円度の高い分体を得るのが困難である。この点において、多点ゲート式の射出成形法は、圧力容器の樹脂ライナのように大径でありかつ高い強度が要求される樹脂製品の分体を成形する方法として好適とは言い難い。
【0009】
特許文献1には、樹脂ライナをその軸線方向に向けて2分割した分体を製造するにあたり、成形型のうち樹脂ライナのドーム部、すなわち、分体における軸線方向の端面に対応する位置に注入口たるゲートを設けて、流体樹脂材料を樹脂ライナの軸線方向に沿った一方向に流動させる技術を紹介している。特許文献1に紹介されている射出成形法は、ゲートの数や位置において多点ゲート式の射出成形法とは異なるために、真円度の高い分体を成形でき、また上記したウェルドラインも形成され難いと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここで、特許文献1に紹介されている製造方法における樹脂ライナの分体は、樹脂ライナをその軸線方向に向けて2分割したものであるために、比較的大型である。また、樹脂ライナの軸線方向の長さは、成形機の型開き可能な寸法の制約を受ける問題がある。
【0012】
本発明の発明者は、上記の問題を鑑みて、軸線方向の長さのより大きな樹脂ライナを製造するために、樹脂ライナをその軸線方向に向けて3以上の分体として成形することを志向した。具体的には、樹脂ライナを、ドーム部を一端に有する2つの端側分体と、当該端側分体をつなぐための筒状ライナ部材と、の3以上の分体とすることを志向した。3以上の分体を一体化して樹脂ライナを製造することにより、従来の樹脂ライナよりも軸線方向の長さの長いものを製造することが可能になる。しかし、樹脂ライナを3以上の分体とする場合、特に樹脂ライナの中央部である筒状ライナ部材については、特許文献1の方法で成形精度高く成形するのは非常に困難である。これは以下の理由に因る。
【0013】
筒状ライナ部材は、樹脂ライナの中央部を構成する都合上、その軸線方向の両端部に各々他の分体に溶着される部分すなわち溶着部を有し、当該溶着部は比較的複雑な形状をなす。このため、例えば筒状ライナ部材における軸線方向の端面にゲートを設けると、成形時において、ゲート直下の溶着部付近にて流体樹脂材料の流れが乱されて、空気の巻き込み等が発生する虞がある。このようにして得られた筒状ライナ部材は、強度に優れるとは言い難い問題がある。
このため、筒状ライナ部材の成形性を向上させ得る技術の開発が望まれている。
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、筒状ライナ部材の成形性を向上させ得る技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決する本発明の筒状ライナ部材は、
筒状をなす本体部を有し、圧力容器の樹脂ライナにおける軸線方向の中央部を構成する筒状ライナ部材であって、
前記本体部における前記軸線方向の両端を各々構成する溶着端部と、
前記本体部における前記軸線方向の両端部に各々設けられ、前記溶着端部よりも前記軸線方向の中央部側において、前記本体部の周方向に沿って配置されるとともに前記本体部の外周面から径方向外側に向けて突起する押圧リブと、
2つの前記押圧リブの間に配置され、前記本体部の内周面から径方向内側に向けて突起する環状のディスクゲート痕と、を有するものである。
また、上記課題を解決する本発明の筒状ライナ部材の製造方法は、上記した本発明の筒状ライナ部材を製造する方法であって、
前記本体部および前記押圧リブと、2つの前記押圧リブの間に配置され前記本体部の内周面に一体化されている板状のディスクゲート部と、を有する中間体を、前記ディスクゲート部が前記本体部および前記押圧リブへの流体樹脂材料の注入口となるように射出成形する成形工程と、
前記ディスクゲート部を切除して前記ディスクゲート痕を形成する整形工程と、を具備する製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の筒状ライナ部材の製造方法によると、筒状ライナ部材の成形性を向上させ得る。また、ウェルドの形成が抑制されて、優れた強度を有する筒状ライナ部材を製造することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例1の圧力容器を模式的に表す説明図である。
【
図2】実施例1の筒状ライナ部材を模式的に表す説明図である。
【
図3】実施例1の筒状ライナ部材の製造方法を模式的に説明する説明図である。
【
図4】実施例1の筒状ライナ部材の製造方法を模式的に説明する説明図である。
【
図5】実施例1の筒状ライナ部材の製造方法を模式的に説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の筒状ライナ部材は、既述したように、各種圧縮ガスや各種液化ガス等の加圧物質を充填する圧力容器の一部である。当該筒状ライナ部材は、圧力容器の樹脂ライナにおける軸線方向の中央部を構成するものであり、筒状をなす本体部を有するとともに、全体としても筒状をなす。なお、本明細書において、特に説明のない場合には、軸線方向とは樹脂ライナにおける軸線方向を意味し、本体部の軸線方向と樹脂ライナの軸線方向とは一致するものとする。
このような本発明の筒状ライナ部材は、溶着端部および押圧リブを有する。これらは本発明の筒状ライナ部材における溶着部である。
【0019】
本発明の筒状ライナ部材における溶着端部は、筒状をなす本体部の一部であり、当該本体部における軸線方向の両端を各々構成する。また、押圧リブは、本体部における軸線方向の両端部に各々一体的に設けられ、上記した溶着端部よりも軸線方向の中央部側に配置される。当該押圧リブは、本体部の周方向に沿って配置されるとともに当該本体部の外周面から径方向外側に向けて突起する。
【0020】
ここで、上記した溶着端部および押圧リブを溶着部に有する筒状ライナ部材を成形するにあたって、特許文献1に紹介されている技術に基づいて、成形型における筒状ライナ部材の軸線方向の端面に対応する位置にゲートを設けると、当該成形型のキャビティにおける流体樹脂材料の流れは、押圧リブ付近で乱されると考えられる。これは以下の理由に因ると考えられる。
【0021】
筒状ライナ部材における押圧リブは、本体部の外周面から径方向外側に向けて突起する。このため、上記した位置にゲートを設けると、筒状ライナ部材用の成形型のキャビティのうち押圧リブを形成する領域(以下、必要に応じて、押圧リブ形成領域と称する)は、ゲート直下に位置し、かつ、径方向すなわち軸線方向に対して交差する方向に広がる。これにより、キャビティ内を軸線方向に流動する流体樹脂材料の流れは、押圧リブ付近で乱されると考えられる。流体樹脂材料の流れがゲート直下で乱されると、既述したように空気の巻き込み等の不具合が生じて、筒状ライナ部材の成形不良が生じると考えられる。
【0022】
これに対して、本発明の筒状ライナ部材は、2つの押圧リブの間にディスクゲート痕を有する。当該ディスクゲート痕は、本体部の内周面から径方向内側に向けて突起する環状をなすものであり、ディスクゲート式の射出成形法により得られた樹脂成形品におけるディスクゲート部の痕跡である。
【0023】
ディスクゲート式の射出成形法は、筒状をなす樹脂成形品を成形する成形法として従来から用いられている。当該成形法においては、ディスクゲートと称される板状のゲートからキャビティに流体樹脂材料を注入する。本発明の筒状ライナ部材を製造する場合であれば、成形型のうち、筒状をなす本体部の内周面に対応する位置にディスクゲートが設けられる。
【0024】
当該ディスクゲートは、キャビティのうち本体部を成形する領域に対して、その周方向の全周にわたって連絡する。このため流体樹脂材料は、ディスクゲートを注入口として当該領域の周方向全周にわたって略均一に注入され、軸線方向に流動する。本発明の筒状ライナ部材の製造方法によると、当該ディスクゲート式の射出成形法を用いることに因り、例えば本体部が円筒状である場合にもウェルドの発生を抑制しつつ真円度の高い本体部を成形することができる。
【0025】
ここで、本発明の筒状ライナ部材の製造方法では、ディスクゲート式の射出成形法により得られた筒状ライナ部材の中間体において、上記のディスクゲート部を2つの押圧リブの間に配置する。換言すると、本発明の筒状ライナ部材の製造方法では、成形型におけるディスクゲートを、キャビティのうち押圧リブを形成する2つの領域の間に配置する。そして、当該ディスクゲートを注入口として、キャビティのうち本体部を形成する領域(以下、必要に応じて本体部形成領域と称する)、および、押圧リブ形成領域に流体樹脂材料を注入する。
これにより、ディスクゲートから成形型のキャビティに注入された流体樹脂材料は、2方向に分岐して、軸線方向における筒状ライナ部材の両端部に向けて、各々、流動する。
【0026】
ここで、既述したように、キャビティの押圧リブ形成領域は、軸線方向に対して交差する方向に広がるため、当該領域においては流体樹脂材料の流れが乱れ易い。
しかし、本発明の筒状ライナ部材における押圧リブは溶着端部とともに軸線方向における筒状ライナ部材(より具体的には本体部)の両端部に位置し、かつ、ディスクゲートの痕跡であるディスクゲート痕は当該2つの押圧リブの間に配置される。したがって押圧リブ形成領域は、キャビティのうち、ディスクゲートから注入された流体樹脂材料の流れ方向の最下流側に位置することになる。押圧リブ形成領域は成形型キャビティの端末部分と隣接しているため、流体樹脂材料の流れが乱されてエアが巻き込まれたとしても、巻き込まれたエアはすぐに排出される。このため、筒状ライナ部材にエアが残ることがない。
【0027】
このため、発明の筒状ライナ部材の製造方法によると、筒状ライナ部材を寸法精度高く成形できかつ筒状ライナ部材の成形不良を抑制できるといい得る。また、本発明の筒状ライナ部材は、寸法精度高く成形され、成形不良の少ないものといい得る。つまり、本発明によると、筒状ライナ部材の成形性を向上させることが可能である。
以下、本発明の筒状ライナ部材およびその製造方法並びに本発明の圧力容器をその構成要素ごとに説明する。
【0028】
本発明の筒状ライナ部材は、圧力容器の樹脂ライナにおける軸線方向の中央部を構成する部材であり、本発明の筒状ライナ部材を有する圧力容器は、既述したように、各種加圧物質を充填するための容器である。このため、当該圧力容器の一部を構成する本発明の筒状ライナ部材には、圧力容器に充填される加圧物質の種類に応じたガスバリア性が要求される。また、樹脂ライナを構成する他の分体と溶着し一体化する都合上、筒状ライナ部材は熱可塑性樹脂を材料とする。
このような樹脂材料としては、具体的には、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリアミド樹脂(ナイロン6、ナイロン66)等のガスバリア性に優れる熱可塑性樹脂材料が例示されるが、これに限定されるものではない。本発明の筒状ライナ部材に用いる樹脂材料としては、この種の熱可塑性樹脂材料の一種または複数を、本発明の筒状ライナ部材を用いる圧力容器の用途に応じて適宜適切に選択すれば良い。
【0029】
本発明の筒状ライナ部材は、本体部および押圧リブを有する。このうち本体部は筒状をなし、溶着端部は当該本体部における軸線方向の両端を各々構成する。押圧リブは本体部における軸線方向の両端部に各々設けられ上記の溶着端部よりも中央部側に配置される。
【0030】
本体部は、筒状をなせば良く、その軸線方向長さや径方向断面は特に問わないが、特に径方向断面については高い内圧に耐え得る形状であるのが好ましい。具体的には、本体部の径方向断面は、真円、6角形以上の正多角形であるのが好ましい。当該正多角形における頂部は、切頂多面体のような平坦形状、または、湾曲形状となっていても良い。さらに、高い内圧に耐えることを考慮すると、本体部の厚さは一定または略一定であるのが好ましい。具体的には、本体部における溶着端部以外の部分につき最も薄い部分を最薄部、最も厚い部分を最厚部とし、最厚部の厚さを100%としたときに、最薄部の厚さは80%以上、85%以上または90%以上であるのが好ましい。
【0031】
溶着端部は、本発明の筒状ライナ部材のうち、樹脂ライナを構成する他の分体に溶着される部分である。また押圧リブは、溶着時において本発明の筒状ライナ部材を他の分体に密着させるための押圧端部として機能する。したがって、押圧リブは、溶着端部とともに、筒状ライナ部材における軸線方向の端部側に配置される。換言すると、押圧リブは溶着端部よりもやや軸線方向の中央部側において、溶着端部の近傍に位置する。
このような押圧リブと溶着端部との距離は特に限定しないが、5mm~10mmの範囲内を例示できる。なおここでいう押圧リブと溶着端部との距離は、溶着端部の軸線方向先端部と、押圧リブの軸線方向先端部との距離を意味する。押圧リブと溶着端部との距離は、実質的に、溶着時における溶着端部の溶融または軟化可能な長さに、溶着時に生じる溶着バリを収容する溶着バリ収容部を形成する距離を加えた長さともいえる。
【0032】
押圧リブは、本体部における軸方向の両端部に設けられる。ここでいう両端部とは、軸線方向における本体部の全長の、端部側1/3の領域内にあることを意味する。押圧リブは、本体部の外周面から径方向外側に向けて突起する。既述したように押圧リブは溶着時における押圧端部として機能する部分であり、より具体的には、押圧リブは、本発明の筒状ライナ部材のうち溶着時に治具に当接し、治具からの力を受ける部分である。したがって、押圧リブの突起高さは、治具に対する接触面積を確保するのに十分な高さであれば良い。このような押圧リブの突起高さは、治具の形状等に応じて適宜適切に設定すれば良く、その突起高さは特に限定しないが、押圧リブの突起高さが高すぎると、エアの巻き込みが発生する可能性が高くなる。これを考慮すると、押圧リブの高さの好ましい範囲として、2mm~5mmの範囲内を例示できる。
【0033】
ところで、溶着端部は、本発明の筒状ライナ部材のうち他の分体に溶着される部分である都合上、本体部の周方向全周にわたって連続的に設けられる必要がある。また、押圧リブも、本体部の周方向に沿って連続して配置されることが好ましい。例えば、押圧リブは本体部の周方向に沿って断続的にまたは部分的に配置されても良いが、溶着時において溶着端部に充分な力を作用させるためには、押圧リブは、本体部の周方向全周にわたって均等または略均等に配置されるか、本体部の周方向全周にわたって連続的に配置されるのが好ましい。
【0034】
本発明の筒状ライナ部材は、2つの押圧リブの間に配置されたディスクゲート痕を有する。当該ディスクゲート痕は、後述するようにディスクゲートを切除した痕跡である。当該ディスクゲート痕は、具体的には、本体部の内周面から径方向内側に向けて突起する環状をなす。
ディスクゲート痕の詳細については、後述する本発明の筒状ライナ部材の製造方法の欄で詳説する。
【0035】
本発明の筒状ライナ部材の製造方法は、上記した本発明の筒状ライナ部材を製造する方法である。本発明の筒状ライナ部材の製造方法は、成形工程および整形工程を具備する。
このうち成形工程においては、上記した本体部および押圧リブと板状のディスクゲート部とを有する中間体を成形する。中間体における本体部および押圧リブは、本発明の筒状ライナ部材における本体部および押圧リブと同様である。したがって、当該中間体は、本発明の筒状ライナ部材に、ディスクゲート部におけるディスクゲート痕以外の部分が足されたものといい得る。
【0036】
ディスクゲート部は、二つの押圧リブの間に配置され板状をなす部分であり、成形工程において成形型におけるディスクゲートに残った流体樹脂材料が冷却固化した部分とも言い得る。既述したようにディスクゲートはキャビティへの流体樹脂材料の注入口であるため、ディスクゲート部は成形時において当該注入口であった部分である。つまり、本発明の筒状ライナ部材の製造方法は、当該ディスクゲートを有する成形型を用いて射出成形を行う、ディスクゲート式の射出成形法である。
【0037】
ディスクゲート部は、キャビティのうち2つの押圧リブ形成領域の間に配される。したがって、ディスクゲートを通じて成形型のキャビティに注入された流体樹脂材料は、軸線方向の両端部に向けて分岐し、本体部形成領域を軸線方向に沿って流動する。2つに分岐した流体樹脂材料の各々は、押圧リブ形成領域付近でさらに2つに分岐し、その一方は押圧リブ形成領域に流入し、他方は本体部形成領域のうち溶着端部を形成する領域に流入する。
【0038】
ここで、押圧リブ形成領域は、キャビティ内において流体樹脂材料の流れ方向の最下流側に位置するため、流体樹脂材料の流れは押圧リブ形成領域に分岐する際にも乱され難い。また、押圧リブ形成領域付近で流体樹脂材料の流れが多少乱されたとしても、それよりも上流側に位置する本体部形成領域においては流体樹脂材料の流れに影響は少ない。これにより、本発明の筒状ライナ部材の製造方法によると、成形不良を抑制しつつ成形精度の高い筒状ライナ部材を製造することが可能である。
【0039】
なお、押圧リブに関しては、圧力容器の樹脂ライナの機能に関係のない部分であり、既述したとおり溶着時における押圧端部として機能すれば足る。このため、押圧リブについては多少形状にバラツキがあっても問題はない。
【0040】
整形工程は、成形工程で得られた中間体から、ディスクゲート部を切除する工程である。ディスクゲート部のうちこのとき切除しきれなかった部分がディスクゲート痕となるため、整形工程は、成形工程で得られた中間体からディスクゲート痕以外のディスクゲート部を切除する工程と言っても良い。
【0041】
整形工程においては、カッター等の通常の装置や器具を用いて、手動または自動でディスクゲート部を切除すれば良い。成形工程および整形工程を経て、本発明の筒状ライナ部材が得られる。
なお、本発明の筒状ライナ部材におけるディスクゲート痕の内周面は、上記の整形工程で形成された切削面でなくても良いが、切削面であるのが好ましい。例えば、成形時にディスクゲートの径方向外側部分に切り込み線を型形成し、中間体に形成された当該切り込み線に沿って、ディスクゲートを手作業で取り去ることで本発明の筒状ライナ部材を製造することも可能である。しかしこの場合、筒状ライナ部材にはディスクゲートを手作業で取り去る際に過大な外力が作用して、凹み等の損傷が生じる虞がある。この場合には、圧力容器に加圧物質を充填した際に、凹みに応力が集中して、樹脂ライナの耐久性を向上させ難い可能性もある。このため、ディスクゲートは整形工程により切除するのが好ましい。
【0042】
ところで、キャビティにおける流体樹脂材料の流れを整えることを考慮すると、ディスクゲートからキャビティに流体樹脂材料を円滑に流入させるのが好ましい。そうすると、ディスクゲートは、キャビティと連絡する部分においてキャビティに滑らかに連絡するのが好ましく、ディスクゲート部もまた、本体部との境界部分において本体部と滑らかに連絡する形状であるのが好ましい。換言すると、ディスクゲート部と本体部とは互いに交差する方向に延びるものの、ディスクゲート部のうち本体部との境界部分は、本体部の軸線方向に沿うように湾曲しているのが好ましい。換言すると、軸線方向におけるディスクゲート部の厚みは、本体部との境界部分において径方向内側から外側に向けて徐々に増大するのが好ましく、軸線方向におけるディスクゲート痕の厚みもまた、径方向内側から外側に向けて徐々に増大するのが好ましい。
【0043】
また、キャビティのうち押圧リブ形成領域は、本体部形成領域と交差する方向に延びるため、押圧リブ形成領域における流体樹脂材料の流れを整えることを考慮すると、キャビティの本体部形成領域から押圧リブ形成領域に流体樹脂材料を円滑に流入させるのが好ましい。そうすると、キャビティの本体部形成領域のうち押圧リブ形成領域に連絡する部分は、押圧リブ形成領域と滑らかに連絡するのが好ましく、本体部のうち押圧リブに連絡する部分の厚みは、押圧リブに向けて徐々に増大するのが好ましい。さらには、本体部のうち押圧リブに連絡する部分の外周面は、押圧リブの中央部側の面に滑らかに連続する傾斜面または湾曲面であるのが好ましい。
【0044】
ディスクゲートは、2つの押圧リブ形成領域の中央部に配置されても良いし、どちらか一方の押圧リブ形成領域側に偏って配置されても良い。ディスクゲートが、2つの押圧リブ形成領域のどちらか一方側に偏って配置される場合、成形工程後の型開き時に、成形型のうち一定の側、より具体的にはディスクゲートに連絡するスプルーが設けられている成形型とは逆側の成形型に、中間体が残り易い。これにより、製造時の作業効率が向上する利点がある。本発明の筒状ライナ部材においては、ディスクゲート痕が本体部に対して軸線方向の一端部側に偏って配置されるのが好ましい。
【0045】
本発明の圧力容器は、中空状の樹脂ライナと、当該樹脂ライナを覆う補強部と、当該樹脂ライナに取り付けられる口金部と、当該口金部に取り付けられるバルブと、を有し得る。
このうち樹脂ライナは、本発明の筒状ライナ部材を有する。当該樹脂ライナは、筒状ライナ部材に加えて、当該筒状ライナ部材における軸線方向の両端側に各々一体化されるドーム状ライナ部材を有する。このうち筒状ライナ部材については既述したとおりである。
【0046】
ドーム状ライナ部材の少なくとも一方には、口金部が取り付けられる。口金部は、予め成形したドーム状ライナ部材に取り付けても良いし、インサート成形法等の方法によって成形時にドーム状ライナ部材と一体化しても良い。成形後のドーム状ライナ部材に口金部を取り付ける場合には、ドーム状ライナ部材と口金部との間隙に、Oリングおよびバックアップリング等のシール機構を設けるのが好ましい。口金部にはバルブが取り付けられる。口金部とバルブとの間隙にもまた、Oリングおよびバックアップリング等のシール機構を設けるのが好ましい。ドーム状ライナ部材、口金部およびバルブとしては、公知のものを用いれば良い。また補強部は、FRP等の公知の材料を用いて、公知の方法で樹脂ライナの外周面を覆えば良い。
【0047】
以下、具体例を挙げて本発明の筒状ライナ部材およびその製造方法並びに圧力容器を説明する。
【0048】
(実施例1)
実施例1の圧力容器は車両用の燃料タンクであり、実施例1の筒状ライナ部材を有する。実施例1の圧力容器を模式的に表す説明図を
図1に示す。実施例1の筒状ライナ部材を模式的に表す説明図を
図2に示す。実施例1の筒状ライナ部材の製造方法を模式的に説明する説明図を
図3~
図5に示す。以下、軸線方向とは
図1に示す軸線方向を意味する。
【0049】
図1に示すように、実施例1の圧力容器1は、樹脂ライナ10、補強部80(図中破線で示す)、2つの口金部81を有する。
【0050】
樹脂ライナ10は、軸線方向の両端部に各々配置されたドーム状ライナ部材15と、中央部に配置された実施例1の筒状ライナ部材2と、が溶着され一体化されたものである。
【0051】
2つのドーム状ライナ部材15には、各々、金属製の口金部81が取り付けられている。一方の口金部81は閉じられており、他方の口金部81は図示しないバルブを取り付けるための開口81oを有する。各ドーム状ライナ部材15と口金部81との間、および口金部81と図略のバルブとの間には、各々、図略のシール機構が配置されている。
【0052】
補強部80は、FRP製であり、詳しくは、樹脂ライナ10の外周面に巻回された図略のカーボンファイバーと、当該カーボンファイバーに含侵された図略の熱硬化性樹脂とで構成されている。
【0053】
樹脂ライナ10の中央部を構成する筒状ライナ部材2は、2つのドーム状ライナ部材15に溶着される前の状態において、
図2に示すように、本体部20、押圧リブ25およびディスクゲート痕28を有する。筒状ライナ部材2における軸線方向の一端部と他端部とは互いに対称な形状をなす。
【0054】
本体部20は、断面略真円の円筒状をなす。本体部20における軸線方向の両端は溶着端部21であり、本体部20における他の部分に比べて厚みのやや厚い部分である。各溶着端部21は、軸線方向に延びる短筒状をなす。
【0055】
本体部20の外周側には、各溶着端部21よりもやや軸線方向の中央部側の位置に、各々、押圧リブ25が設けられている。各押圧リブ25は、本体部20の外周面20opを軸線方向の一部において周方向全周にわたって取り巻く略環状をなす。また当該押圧リブ25は、本体部20の外周面20opと一体に成形され当該外周面20opから径方向外側に向けて突起している。
筒状ライナ部材2は、溶着端部21および押圧リブ25で構成される溶着部を、軸線方向の両端部に各々一つずつ有する。
【0056】
本体部20は、押圧リブ25よりも軸線方向の中央部側に位置しかつ押圧リブ25に連絡する部分である、連絡部22を有する。連絡部22の内径および外径は、軸方向端部に向けて、すなわち押圧リブ25に向けて、徐々に拡大している。連絡部22の外周面22opは、押圧リブ25に滑らかに連続する傾斜面であり、径方向内側から径方向外側に向けて傾斜している。
【0057】
本体部20の内周側にはディスクゲート痕28が形成されている。ディスクゲート痕28は、軸線方向において2つの押圧リブ25の間に配置されるとともに、本体部20に対して軸線方向の一端部側に偏って配置されている。ディスクゲート痕28は、本体部20の内周面20ipを軸線方向の一部において周方向全周にわたって取り巻く略環状をなす。またディスクゲート痕28は本体部20の内周面20ipと一体に成形され当該内周面から径方向内側に向けて突起している。
【0058】
ディスクゲート痕28の内周面28ipは切削面であり、後述する整形工程により形成されたものである。また、ディスクゲート痕28の厚みは、径方向内側から外側に向けて徐々に増大している。換言すると、ディスクゲート痕28の厚みは、本体部20との境界部分において他の部分よりも増大し、ディスクゲート痕28における軸線方向の両端面は、本体部20の内周面20ipに滑らかに連続している。
【0059】
なお、実施例1の筒状ライナ部材2では、本体部20の溶着端部21以外の部分の厚みは略一定である。具体的には、本体部20の溶着端部21以外の部分において、最も薄い部分である最薄部の厚みは最も厚い部分である最厚部の厚みを100%としたときに、90%以上である。また、押圧リブ25と溶着端部21との距離、すなわち、溶着端部21の軸線方向先端部と、押圧リブ25の軸線方向先端部との距離は、7mmであり、径方向外方に向けた押圧リブ25の突起高さは3mmである。そして、一方の押圧リブ25の中心部とディスクゲート痕28の中心部との距離と、他方の押圧リブ25の中心部とディスクゲート痕28の中心部との距離と、の比は1:21であり、ディスクゲート痕28は本体部20に対して軸線方向の一端部側に偏って配置されている。
以下、実施例1の筒状ライナ部材2の製造方法を説明する。
【0060】
〔成形工程〕
図3に示すように、実施例1の筒状ライナ部材2を製造するための成形型4は、固定型40と可動型45とを有する。このうち固定型40にはディスクゲート50に連絡するスプルー41が設けられている。当該スプルー41には、図略の射出成形機のノズルが取り付けられる。可動型45は、スライドコア46、中芯型47および一般型48で構成されている。固定型40の型面と、可動型45におけるスライドコア46の型面および中芯型47の型面とで、キャビティ6が区画形成される。スライドコア46は、中芯型47および一般型48とともに位置変化可能であり、かつ、自身が2分割される方向および一体化される方向にも位置変化可能である。
【0061】
中芯型47は一般型48に一体化され固定型40に向けて突出する略円柱状をなす。固定型40は、可動型45に向けて突出する略短円柱状の柱状型部40pを有する。当該柱状型部40pの突出端面40peは、中芯型47の突出端面47eと対面する。可動型45における中芯型47の突出端面47eおよび固定型40における柱状型部40pの突出端面40peにより、ディスクゲート50が区画形成される。なお、ディスクゲート50は、略円盤状をなすディスク50dと当該ディスク50dの外縁に位置するゲート50gとで構成されている。上記したスプルー41は、ディスク50dの略中心部に連絡する。ゲート50gはキャビティ6に連絡する。
【0062】
スライドコア46はその軸線方向に2分割された略円筒状をなし、中芯型47を外側から覆う。中芯型47の外周面47opとスライドコア46の内周面46ipとによって、キャビティ6のうち筒状ライナ部材2の本体部20を形成するための本体部形成領域60が区画形成される。
また、スライドコア46のうち軸線方向の両端面には、各々、軸線方向に陥没する略環状の浅型凹部42が形成されている。当該浅型凹部42の内面42iは、固定型40のうち柱状型部40pの基部端面40beに対面する。浅型凹部42の内面42iおよび固定型40の基部端面40beは、キャビティ6のうち押圧リブ25を形成するための押圧リブ形成領域61を区画形成する。
さらに、固定型40のうち柱状型部40pの基部40bと、可動型45のうち一般型48の径方向内側部分とには、軸線方向に陥没する略環状の深型凹部43が形成されている。当該深型凹部43の内面43iはキャビティ6のうち溶着端部21を形成するための溶着端部形成領域62を区画形成する。
【0063】
成形工程においては、流体樹脂材料85および上記の成形型4を用いた射出成形を行う。先ず、樹脂材料を加熱して流体樹脂材料85とし、これを図略の射出成形機のノズルから成形型4に注入する。流体樹脂材料85は、スプルー41を経てディスクゲート50のディスク50dに流入し、ゲート50gを経てキャビティ6に流入する。
【0064】
ディスクゲート50は、キャビティ6のうち2つの押圧リブ形成領域61の間に配置されている。このため、スプルー41からディスクゲート50を経てキャビティ6に流入した流体樹脂材料85は、
図4に示すように、先ず本体部形成領域60に流入し、軸線方向の両方向に分岐する。ここで、ディスクゲート50の厚みは、ディスクゲート50における径方向内側から外側に向けて徐々に増大し、成形型4のうちディスクゲート50を区画する型面は、本体部形成領域60を区画する型面に滑らかに連続している。このため、二手に分かれた流体樹脂材料85の一方は、キャビティ6の本体部形成領域60に滑らかに流入して当該本体部形成領域60を軸線方向の一方に向けて滑らかに流動する。また、二手に分かれた流体樹脂材料85の他方は、本体部形成領域60に滑らかに流入して当該本体部形成領域60を軸線方向の他方に向けて滑らかに流動する。
【0065】
本体部形成領域60を流動する流体樹脂材料85は、当該本体部形成領域60のうち連絡部22を形成するための連絡部形成領域63に到達する。キャビティ6における連絡部形成領域63の下流側は、溶着端部形成領域62、および、押圧リブ形成領域61の二手に分かれている。溶着端部形成領域62は、連絡部形成領域63に略直状に連続する。このため、連絡部形成領域63を流動する流体樹脂材料85は、溶着端部形成領域62に滑らかに流入する。
【0066】
一方、押圧リブ形成領域61は、本体部形成領域60から径方向外方に向けて広がる。このため、本体部形成領域60から押圧リブ形成領域61に流入する際には、流体樹脂材料85の流れが乱れ易い。しかし、既述したように、連絡部22の外周面22opは、押圧リブ25に滑らかに連続する傾斜面であり、径方向内側から径方向外側に向けて傾斜している。このため、連絡部形成領域63は押圧リブ形成領域61に滑らかに連絡する。したがって、連絡部形成領域63に流入した流体樹脂材料85もまた、押圧リブ形成領域61に滑らかに流入する。これにより、実施例1の製造方法によると、筒状ライナ部材2を成形精度高く製造することが可能である。
【0067】
成形型4のキャビティ6に注入された流体樹脂材料85が冷却され固化した後に、可動型45を固定型40に対して位置変化させ、さらにスライドコア46を2分割される方向に位置変化させることで、成形型4を型開きする。これにより、本体部20、押圧リブ25およびディスクゲート部26を有する中間体86を成形型4から取り出すことができる。
【0068】
〔整形工程〕
整形工程では、上記の成形工程で得られた中間体86におけるディスクゲート部26を、図略のカッターを用いて、
図5に示す外周側位置Aにおいて周方向に切除する。これにより、本体部20の内周面20ipから径方向内側に突起する環状のディスクゲート痕28(
図2参照)が形成され、実施例1の筒状ライナ部材2が得られる。
実施例1の筒状ライナ部材2の製造方法においては、当該成形工程後、筒状ライナ部材2を加熱するアニール処理を行う。
【0069】
別途、2つのドーム状ライナ部材15を成形し、同様にアニール処理を行ったものに、各々、口金部81を圧入する。その後、当該ドーム状ライナ部材15を筒状ライナ部材2における軸線方向の両端部に各々溶着する。具体的には、ドーム状ライナ部材15における軸線方向の端部と筒状ライナ部材2の溶着端部21とをともに赤外線加熱しつつ、両者を押し付けることで、突合せ溶着を行う。このとき、リング状をなす押圧面を有する治具(図略)を押圧リブ25にあてがい、筒状ライナ部材2の溶着端部21をドーム状ライナ部材15における軸線方向の端部に押し付ける。これにより、ドーム状ライナ部材15と筒状ライナ部材2とは強固に溶着し一体化される。
その後、補強部80を形成し、さらに口金部81に図略のバルブを取り付けることで、実施例1の圧力容器1が得られる。
【0070】
本発明は、上記し且つ図面に示した実施形態にのみ限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。また、実施形態を含む本明細書に示した各構成要素は、それぞれ任意に抽出し組み合わせて実施できる。
【符号の説明】
【0071】
1:圧力容器
10:樹脂ライナ
2:筒状ライナ部材
20:本体部
20op:本体部の外周面
21:溶着端部
20ip:本体部の内周面
25:押圧リブ
26:ディスクゲート部
28:ディスクゲート痕
28ip:ディスクゲート痕の内周面
85:流体樹脂材料
86:中間体