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特開2022-156466自動車車体の塗装前処理方法及び自動車車体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156466
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】自動車車体の塗装前処理方法及び自動車車体
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/34 20060101AFI20221006BHJP
【FI】
C23C22/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060181
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】315006377
【氏名又は名称】日本ペイント・サーフケミカルズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】上野 峻之
(72)【発明者】
【氏名】小金澤 雄
(72)【発明者】
【氏名】笠原 由起
(72)【発明者】
【氏名】和泉 治
(72)【発明者】
【氏名】大竹 祐二
(72)【発明者】
【氏名】古谷 優弥
(72)【発明者】
【氏名】和泉 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】日高 達真
(72)【発明者】
【氏名】金子 勝吉
【テーマコード(参考)】
4K026
【Fターム(参考)】
4K026AA02
4K026AA22
4K026BA01
4K026BB08
4K026CA13
4K026CA18
4K026CA28
4K026CA32
4K026CA39
4K026DA03
(57)【要約】
【課題】塗装後の好ましい耐食性が得られる、高張力鋼板を含む自動車車体の塗装前処理方法を提供すること。
【解決手段】アルカリ脱脂工程、第1水洗工程、化成処理工程、第2水洗工程、カチオン電着塗装工程、をこの順に行う、自動車車体の塗装前処理方法であって、化成処理工程に用いられる化成処理剤は、ジルコニウム(A)と、遊離フッ素イオン(B)と、アリルアミン-ジアリルアミン共重合体(C)と、アルミニウムイオン(D)と、硝酸イオン(E)と、をそれぞれ所定濃度含み、アリルアミン-ジアリルアミン共重合体(C)はアニオン性対イオンを有する酸付加塩を形成し、酸のpKaは-3.7~4.8の範囲内であり、ジアリルアミン含有比率は80モル%以上、98モル%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ脱脂工程、第1水洗工程、化成処理工程、第2水洗工程、カチオン電着塗装工程、をこの順に行う、自動車車体の塗装前処理方法であって、
前記化成処理工程に用いられる化成処理剤は、
ジルコニウム(A)と、
遊離フッ素イオン(B)と、
アリルアミン-ジアリルアミン共重合体(C)と、
アルミニウムイオン(D)と、
硝酸イオン(E)と、を含み、
前記ジルコニウム(A)の濃度は、金属元素換算で50~500質量ppmであり、
前記遊離フッ素イオン(B)の濃度は、5~30質量ppmであり、
前記アリルアミン-ジアリルアミン共重合体(C)における、ジアリルアミンに由来するジアリルアミンセグメントの含有比率は、アリルアミンに由来するアリルアミンセグメントと、前記ジアリルアミンセグメントの合計に対し、80モル%以上、98モル%以下であり、
前記アリルアミン-ジアリルアミン共重合体(C)の重量平均分子量は、5000~100000であり、濃度は樹脂固形分濃度で、100~350質量ppmであり、
前記アリルアミン-ジアリルアミン共重合体(C)は、アニオン性対イオンを有する酸付加塩であり、前記酸付加塩を形成する酸のpKaは-3.7~4.8の範囲内であり、
前記アルミニウムイオン(D)の濃度は、90~500質量ppmであり、
前記硝酸イオン(E)の濃度は、2000~13000質量ppmである、高張力鋼板を含む素材で構成された自動車車体の塗装前処理方法。
【請求項2】
前記化成処理剤は、pHが3.5~5.5である、請求項1に記載の自動車車体の塗装前処理方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の自動車車体の塗装前処理方法により形成される高張力鋼板表面上の皮膜における、前記ジルコニウム(A)の含有量は、金属元素換算で20~200mg/mである、皮膜付き高張力鋼板を含む素材で構成された自動車車体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車車体の塗装前処理方法及び自動車車体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車車体の金属基材表面にカチオン電着塗装や粉体塗装を施す場合、耐食性、塗膜密着性等を向上させる目的で、金属基材表面に事前に化成処理が施される。近年では、クロムを含有しないリン酸亜鉛による化成処理が広く行われている。
【0003】
リン酸亜鉛による化成処理は、処理剤の反応性の高さから排水処理が困難であり、スラッジが発生すると共に環境負荷が大きい問題がある。そこで、ジルコニウム、チタン及びハフニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種、フッ素、並びに水溶性樹脂からなる化成処理剤が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-218074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された技術は、鉄、亜鉛、アルミニウム等の金属に対して良好な化成処理を行うことができる。一方、自動車車体に用いられる高張力鋼板は、軽量かつ強度に優れた材料であるが、化成処理が困難であるものが多い。高張力鋼板は厚い酸化被膜を有する上、高張力鋼板に含有されるC、Si、Mn等の合金元素により、化成処理剤に対する反応性が低下するためである。このため、化成処理後のカチオン電着塗膜の形成に悪影響が生じ、カチオン電着塗装後の十分な耐食性が得られることが望まれる。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、塗装後の好ましい耐食性が得られる、高張力鋼板を含む自動車車体の塗装前処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) 本発明は、アルカリ脱脂工程、第1水洗工程、化成処理工程、第2水洗工程、カチオン電着塗装工程、をこの順に行う、自動車車体の塗装前処理方法であって、前記化成処理工程に用いられる化成処理剤は、ジルコニウム(A)と、遊離フッ素イオン(B)と、アリルアミン-ジアリルアミン共重合体(C)と、アルミニウムイオン(D)と、硝酸イオン(E)と、を含み、前記ジルコニウム(A)の濃度は、金属元素換算で50~500質量ppmであり、前記遊離フッ素イオン(B)の濃度は、5~30質量ppmであり、前記アリルアミン-ジアリルアミン共重合体(C)における、ジアリルアミンに由来するジアリルアミンセグメントの含有比率は、アリルアミンに由来するアリルアミンセグメントと、前記ジアリルアミンセグメントの合計に対し、80モル%以上、98モル%以下であり、前記アリルアミン-ジアリルアミン共重合体(C)の重量平均分子量は、5000~100000であり、濃度は樹脂固形分濃度で、100~350質量ppmであり、前記アリルアミン-ジアリルアミン共重合体(C)は、アニオン性対イオンを有する酸付加塩であり、前記酸付加塩を形成する酸のpKaは-3.7~4.8の範囲内であり、前記アルミニウムイオン(D)の濃度は、90~500質量ppmであり、前記硝酸イオン(E)の濃度は、2000~13000質量ppmである、高張力鋼板を含む素材で構成された自動車車体の塗装前処理方法に関する。
【0008】
(2) 前記化成処理剤は、pHが3.5~5.5である、(1)に記載の自動車車体の塗装前処理方法。
【0009】
(3) (1)または(2)に記載の自動車車体の塗装前処理方法により形成される高張力鋼板表面上の皮膜における、前記ジルコニウム(A)の濃度は、金属元素換算で20~200mg/mである、皮膜付き高張力鋼板を含む素材で構成された自動車車体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、塗装後の好ましい耐食性が得られる、高張力鋼板を含む自動車車体の塗装前処理方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明は以下の実施形態の記載に限定されない。
【0012】
<自動車車体の塗装前処理方法>
本実施形態に係る自動車車体の塗装前処理方法は、高張力鋼板を含む素材で構成された自動車車体に対し、アルカリ脱脂工程、第1水洗工程、化成処理工程、第2水洗工程、カチオン電着塗装工程、をこの順に行う。
【0013】
(アルカリ脱脂工程)
アルカリ脱脂工程は、被処理対象である自動車車体の高張力鋼板を、無リン・無窒素脱脂洗浄液等の脱脂剤により、例えば30~55℃において数分間程度の浸漬処理する工程である。アルカリ脱脂工程の前に、予備脱脂処理を行ってもよい。
【0014】
(第1水洗工程)
第1水洗工程は、アルカリ脱脂工程後の脱脂剤を水洗する工程であり、多量の水洗水により1回又は複数回のスプレー処理を行うことでなされる。
【0015】
(化成処理工程)
化成処理工程は、自動車車体の高張力鋼板の表面に化成皮膜を形成し、表面処理鋼板を生成する工程である。化成皮膜形成工程は、化成処理剤と高張力鋼板の表面とを接触させることで行われる。上記接触させる方法としては特に限定されず、例えば、浸漬法、スプレー法、ロールコート法等が挙げられる。化成処理工程における処理温度は、20~70℃の範囲内とすることができ、30~50℃の範囲内とすることが好ましい。化成処理工程における処理時間は、5~1200秒の範囲内とすることができ、30~120秒の範囲内とすることが好ましい。化成処理工程で用いる化成処理剤の構成については、後段で詳述する。
【0016】
(第2水洗工程)
第2水洗工程は、塗装後の密着性及び耐食性等に影響を及ぼさない範囲内で、1回又は複数回のスプレー処理又は浸漬水洗を行うことでなされる。最後の上記水洗処理は、イオン交換水又は純水で行われることが好ましい。第2水洗工程の後に、必要に応じて表面処理鋼板を乾燥させる工程を設けてもよい。
【0017】
(カチオン電着塗装工程)
カチオン電着塗装工程は、上記化成処理工程によって生成された表面処理鋼板をカチオン電着塗装し、表面に電着塗膜を形成する工程である。カチオン電着塗装に用いるカチオン電着塗料としては、特に限定されず、アミノ化エポキシ樹脂、アミノ化アクリル樹脂、スルホニウム化エポキシ樹脂等からなる従来公知のカチオン電着塗料を用いることができる。上記カチオン電着塗料を用いたカチオン電着塗装方法としては、特に限定されず、公知のカチオン電着塗装方法を適用できる。
【0018】
<化成処理剤>
本実施形態に係る化成処理剤は、自動車車体を構成する高張力鋼板の表面上に、カチオン電着塗装後の好ましい耐食性が得られる化成皮膜を形成できる。
【0019】
本実施形態に係る化成処理剤は、ジルコニウム(A)と、遊離フッ素イオン(B)と、アリルアミン-ジアリルアミン共重合体(C)と、アルミニウムイオン(D)と、硝酸イオン(E)と、を含む。
【0020】
(ジルコニウム(A))
ジルコニウム(A)は、化成皮膜形成成分である。高張力鋼板の表面上にジルコニウム(A)を含む化成皮膜が形成されることで、高張力鋼板の耐食性、耐摩耗性を向上でき、かつ、カチオン電着塗膜との密着性を向上できる。
【0021】
上記ジルコニウム(A)の供給源としては、特に限定されないが、例えば、KZrF等のアルカリ金属フルオロジルコネート、ジルコンフッ化水素酸(HZrF)、六フッ化ジルコニウム酸アンモニウム((NHZrF)、炭酸ジルコニウムアンモニウム((NHZrO(CO)、テトラアルキルアンモニウム変性ジルコニウム、フッ化ジルコニウム、酸化ジルコニウム等が挙げられる。
【0022】
上記ジルコニウム(A)の濃度は、金属元素換算で50~500質量ppmである。ジルコニウム(A)の濃度が50ppm未満である場合、得られる化成皮膜の十分な性能が得られない。ジルコニウム(A)の濃度が500質量ppmを超える場合、それ以上の効果が得られず経済的に不利である。上記の観点から、上記ジルコニウム(A)の濃度は、金属元素換算で100~500質量ppmであることが好ましい。
【0023】
(遊離フッ素イオン(B))
遊離フッ素イオン(B)は、金属基材の表面をエッチングする機能を有する。遊離フッ素イオン(B)の供給源としては、特に限定されないが、例えば、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、フッ化ホウ素酸、フッ化水素アンモニウム、フッ化ナトリウム、フッ化水素ナトリウム等のフッ化物を挙げることができる。また、錯フッ化物としては、例えば、ヘキサフルオロケイ酸塩が挙げられ、具体例としては、ケイフッ化水素酸、ケイフッ化水素酸亜鉛、ケイフッ化水素酸マンガン、ケイフッ化水素酸マグネシウム、ケイフッ化水素酸ニッケル、ケイフッ化水素酸鉄、ケイフッ化水素酸カルシウム等が挙げられる。また、上記ジルコニウム(A)の供給源として例示したアルカリ金属フルオロジルコネート等のフッ素含有化合物は、ジルコニウム(A)の供給源であるとともに、遊離フッ素イオン(B)の供給源にもなり得る。
【0024】
遊離フッ素イオン(B)の濃度は、フッ素元素換算で5~30質量ppmである。遊離フッ素イオン(B)の濃度が5質量ppm未満である場合、エッチングが不充分となり良好な化成皮膜が得られない。30質量ppmを超える場合、エッチング過剰となり充分に化成皮膜を形成することができない。遊離フッ素イオン(B)の濃度は、例えば、市販のフッ素イオンメーター(例えば、東亜ディーケーケー株式会社 IM-32P)で測定可能である。
【0025】
(アリルアミン-ジアリルアミン共重合体(C))
アリルアミン-ジアリルアミン共重合体(C)は、アリルアミンに由来するセグメント、及びジアリルアミンに由来するセグメント(以下、「アリルアミンセグメント」、「ジアリルアミンセグメント」と記載する場合がある)の両方を少なくとも構造単位として有する。上記各セグメントは、それぞれ独立して、第4級化物の状態であってもよい。また、上記各セグメントは、それぞれ独立して、対イオンを有していてもよい。
【0026】
本実施形態におけるアリルアミン-ジアリルアミン共重合体(C)における、ジアリルアミンセグメント含有比率は、80モル%以上、98モル%以下である。上記ジアリルアミンセグメント含有比率は、アリルアミン-ジアリルアミン共重合体(C)における、アリルアミンセグメントと、ジアリルアミンセグメントの合計に対する、ジアリルアミンセグメントのモル%として定義される。ジアリルアミンセグメント含有比率が80モル%未満である場合には、塗装後の十分な耐食性が得られない。ジアリルアミンセグメント含有比率が98モル%を超える場合には、化成皮膜の塗膜に対する密着性が低下する。また、上記観点から、ジアリルアミンセグメント含有比率は、90モル%以上、98モル%以下が好ましい。上記ジアリルアミンセグメントとしては、例えば、以下一般式(1a)及び(1b)で示される、複素環式構造が挙げられる。上記複素環式構造は、飽和複素環式構造であってもよい。
【0027】
【化1】
(上式中、Rは、水素原子、アルキル基又はアラルキル基を示す。)
【0028】
アリルアミン-ジアリルアミン共重合体(C)における、アリルアミンセグメントとしては、例えば、以下一般式(2)で示される。
【0029】
【化2】
【0030】
アリルアミン-ジアリルアミン共重合体(C)は、アンモニウムカチオンに対してアニオン性対イオンを有する酸付加塩である。上記酸付加塩を形成する酸の解離定数pKaは、-3.7~4.8の範囲内である。なお、本明細書において、上記酸の解離定数pKaは、溶媒が水であり、温度25℃における数値を意味する。上記酸付加塩であるアリルアミン-ジアリルアミン共重合体(C)を構成するジアリルアミンセグメントとしては、例えば以下一般式(1c)及び(1d)で示される。
【化3】
(式中、R及びRは水素原子、アルキル基又はアラルキル基、Dは1価のアニオンを示す。)
【0031】
上記アニオン性対イオンとしては、特に限定されないが、例えば1価の陰イオンであり、ギ酸イオン、酢酸イオン、安息香酸イオン等のカルボン酸イオン、塩化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン等が挙げられる。酸付加塩を形成する酸としては、ギ酸、酢酸、安息香酸等の有機酸、及び塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸が挙げられる。
【0032】
アリルアミン-ジアリルアミン共重合体(C)は、必要に応じて、アリルアミンに由来するセグメント、ジアリルアミンセグメント以外のセグメントを有していてもよい。例えば、N,N-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート及びその塩又は第4級化物、N,N-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド及びその塩又は第4級化物、ビニルイミダゾール及びその塩又は第4級化物、ビニルピリジン及びその塩又は第4級化物、N-アルキルアリルアミン及びその塩、N,N-ジアルキルアリルアミン及びその塩、N-アルキルジアリルアミン及びその塩又は第4級化物等に由来するセグメントが挙げられる。
【0033】
アリルアミン-ジアリルアミン共重合体(C)は、必要に応じて更に、上記以外のセグメントを有していてもよい。例えば、二酸化硫黄、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル等のヒドロキシ基を有する不飽和化合物、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のカルボン酸ビニル、不飽和酸、(メタ)アクリルアミド等に由来するセグメントを有していてもよい。
【0034】
アリルアミン-ジアリルアミン共重合体(C)の濃度は、樹脂固形分濃度で100~350質量ppmである。濃度が100質量ppm未満である場合、化成皮膜の十分な密着性が得られない。350質量ppmを超える場合、化成皮膜の形成が阻害される恐れがある。上記の観点から、アリルアミン-ジアリルアミン共重合体(C)の濃度は、樹脂固形分濃度で125~300質量ppmであることが好ましい。
【0035】
アリルアミン-ジアリルアミン共重合体(C)の重量平均分子量は、5000~100000である。重量平均分子量が5000未満である場合、化成皮膜の十分な密着性が得られない。重量平均分子量が100000を超える場合、化成皮膜の形成が阻害される恐れがある。上記の観点から、アリルアミン-ジアリルアミン共重合体(C)の重量平均分子量は、20000~100000であることが好ましい。
【0036】
アリルアミン-ジアリルアミン共重合体(C)の重量平均分子量は、例えばゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって測定することができる。測定機器としては、例えば、日立L-6000型高速液体クロマトグラフを使用し、溶離液流路ポンプは日立L-6000、検出器はショーデックスRI SE-61示差屈折率検出器、カラムはアサヒパックの水系ゲル濾過タイプのGS-220HQ(排除限界分子量3,000)とGS-620HQ(排除限界分子量200万)とをダブルに接続したものを用いることができる。以下にGPCの測定方法の例を示す。サンプルは溶離液で0.5g/100mlの濃度に調整し、20μlを用いる。溶離液には、0.4mol/Lの塩化ナトリウム水溶液を使用する。カラム温度は30℃で、流速は1.0ml/分で実施する。標準サンプルとして分子量106、194、440、600、1470、4100、7100、10300、12600、23000などのポリエチレングリコールを用いて較正曲線を求める。上記較正曲線を基に共重合体の重量平均分子量(Mw)を求める。
【0037】
アリルアミン-ジアリルアミン共重合体(C)は、本発明の目的を損なわない範囲で変更が加えられていてもよい。例えば、アリルアミン-ジアリルアミン共重合体(C)のアミノ基の一部がアセチル化等の方法で修飾されていてもよいし、溶解性に影響を与えない程度に架橋剤によって架橋されていてもよい。
【0038】
アリルアミン-ジアリルアミン共重合体(C)の調製方法としては、特に限定されないが、例えば、アリルアミン、ジアリルアミン、及び、必要に応じて他の成分を混合させたモノマーの混合物を、ラジカル重合開始剤の存在下で、適切な溶媒中でラジカル重合させる方法が挙げられる。重合条件については、当業者にとって公知の条件を適宜選択することができる。
【0039】
(アルミニウムイオン(D))
アルミニウムイオン(D)は、化成処理剤に含有されることで、カチオン電着塗装後の耐食性をより向上させることができる。アルミニウムイオン(D)の供給源としては、特に限定されず、アルミニウムの酸化物、水酸化物、フッ化物、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、ホウ酸塩、炭酸塩、有機酸塩等が挙げられる。アルミニウムイオン(D)の濃度は、90~500質量ppmであり、90~350質量ppmであることが好ましい。
【0040】
(硝酸イオン(E))
硝酸イオン(E)は、化成皮膜形成反応を促進するための酸化剤として作用する。硝酸イオン(E)の供給源としては、上記アルミニウムの硝酸塩、上記アリルアミン-ジアリルアミン共重合体(C)のアニオン性対イオンである硝酸イオン以外に、硝酸、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム等が挙げられる。硝酸イオン(E)の濃度は、2000~13000質量ppmであり、3000~12000質量ppmであることが好ましい。
【0041】
(その他の成分)
本実施形態に係る化成処理剤は、シランカップリング剤を更に含むことが好ましい。化成処理剤にシランカップリング剤が含まれることで、化成皮膜の塗膜密着性を更に向上できる。シランカップリング剤としては、特に限定されないが、例えば、アミノ基含有シランカップリング剤、エポキシ基含有シランカップリング剤、アミノ基含有シランカップリング剤の加水分解物、エポキシ基含有シランカップリング剤の加水分解物、アミノ基含有シランカップリング剤の重合物及びエポキシ基含有シランカップリング剤の重合物からなる群より選ばれる1種又は2種以上のシランカップリング剤であることが好ましい。
【0042】
上記アミノ基含有シランカップリング剤としては特に限定されず、例えば、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N-ビス〔3-(トリメトキシシリル)プロピル〕エチレンジアミン等の公知のシランカップリング剤等を挙げることができる。市販されているアミノ基含有シランカップリング剤であるKBM-602、KBM-603、KBE-603、KBM-903、KBE-9103、KBM-573(以上、信越化学工業株式会社製)、XS1003(チッソ株式会社製)等も使用することができる。
【0043】
上記エポキシ基含有シランカップリング剤としては特に限定されず、例えば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルジエチルエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、5,6-エポキシヘキシルトリエトキシシラン等を挙げることができる。市販されている、「KBM-403」、「KBE-403」、「KBE-402」、「KBM-303」(以上、信越化学工業株式会社製)等も使用することができる。
【0044】
本実施形態に係る化成処理剤は、上記以外の成分を含んでいてもよい。例えば、化成皮膜形成成分として、亜鉛を更に含むことが好ましい。これにより、化成皮膜が形成された金属基材の耐食性を更に向上できる。化成皮膜形成成分としては、上記以外に、マグネシウム、カルシウム、ガリウム、インジウム、及び銅からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属成分が含まれていてもよい。また、マンガン、鉄、コバルトの金属成分が含まれていてもよい。上記皮膜形成成分の供給源としては、特に限定されず、各金属の酸化物、水酸化物、フッ化物、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、ホウ酸塩、炭酸塩、有機酸塩等が挙げられる。
【0045】
本実施形態に係る化成処理剤は、実質的にリン酸イオンを含有しないものであることが好ましい。本明細書中において、実質的にリン酸イオンを含有しない、とは、リン酸イオンが化成処理剤中の成分として作用する程度含有しないことを意味する。本実施形態に係る化成処理剤は、実質的にリン酸イオンを含有しないことから、環境負荷の原因となるリンを実質的に使用することがない。また、リン酸亜鉛処理剤を使用する場合に発生するリン酸鉄、リン酸亜鉛等のようなスラッジの発生を抑制することができる。
【0046】
(pH)
上記化成処理剤は、pHが3.5~5.5であることが好ましい。pHが3.5未満である場合、エッチング過剰となり充分に化成皮膜を形成することができない。pHが5.5を超える場合、エッチングが不充分となり良好な化成皮膜が得られない。上記の観点から、pHは4.0~4.5であることがより好ましい。上記化成処理剤のpHを調整するために、硝酸、硫酸等の酸性化合物、及び、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の塩基性化合物を使用することができる。
【0047】
<高張力鋼板を含む素材で構成された自動車車体>
本実施形態に係る化成処理剤により、高張力鋼板を含む素材で構成された自動車車体の表面に化成皮膜が形成される。本実施形態に係る化成処理剤は、従来の化成処理剤では十分な耐食性を付与することが困難である高張力鋼板に対しても、十分な耐食性を付与することができる。高張力鋼板とは、一定以上の引張強さを有する鋼板を意味する。高張力鋼板としては、例えば、高張力熱延鋼板、高張力冷延鋼板、高張力亜鉛めっき鋼板等が挙げられる。
【0048】
本実施形態の自動車車体の塗装前処理方法で処理される被塗物としての自動車車体は、少なくとも一部が高張力鋼板によって構成されている。自動車車体は、全てが高張力鋼板によって構成されていてもよく、また、高張力鋼板によって構成された部位と、高張力鋼板以外の鋼板によって構成された部位とを有していてもよい。被塗物を構成することができる、高張力鋼板以外の鋼板として、例えば、冷延鋼板、熱延鋼板、ステンレス、亜鉛又は亜鉛系合金めっき鋼板等が挙げられる。亜鉛又は亜鉛系合金めっき鋼板としては、例えば、亜鉛めっき鋼板、亜鉛-ニッケルめっき鋼板、亜鉛-鉄めっき鋼板、亜鉛-クロムめっき鋼板、亜鉛-アルミニウムめっき鋼板、亜鉛-チタンめっき鋼板、亜鉛-マグネシウムめっき鋼板、亜鉛-マンガンめっき鋼板等の亜鉛系の電気めっき、溶融めっき、蒸着めっき鋼板等の亜鉛又は亜鉛系合金めっき鋼板等が挙げられる。
【0049】
本実施形態に係る高張力鋼板を含む素材で構成された自動車車体は、化成処理剤により形成される高張力鋼板表面上の皮膜において、ジルコニウム(A)の含有量が金属元素換算で20~200mg/mであることが好ましい。金属成分(A)の上記含有量が20mg/m未満である場合、均一な化成皮膜が得られない。金属成分(A)の上記含有量が200mg/mを超える場合、それ以上の効果は得られず、経済的に不利である。
【実施例0050】
以下、実施例に基づいて本発明の内容を更に詳細に説明する。本発明の内容は以下の実施例の記載に限定されない。
【0051】
(実施例1)
市販の冷間圧延高張力鋼板(株式会社スタンダードテストピース製、7cm×15cm×0.1cm)を基材として、以下の条件で表面処理を施した。
【0052】
アルカリ脱脂工程として、2質量%「サーフクリーナーEC90」(日本ペイント・サーフケミカルズ社製脱脂剤)で40℃、2分間浸漬処理した。第1水洗工程として、水道水で30秒間スプレー処理した。化成処理工程として、ジルコンフッ化水素酸、酸性フッ化ナトリウム、アリルアミン-ジアリルアミン共重合体(アリルアミンセグメント:20モル%、ジアリルアミンセグメント:80モル%、重量平均分子量5000、酢酸(pKa4.8)塩)、硝酸アルミニウム・九水和物、硝酸ナトリウムを用い、表1に示すように、Zrの濃度が金属元素換算で50質量ppm、遊離フッ素イオン濃度が15質量ppm、アリルアミン-ジアリルアミン共重合体の濃度が樹脂固形分濃度で100質量ppmとなるように化成処理剤を調製した。pHは、水酸化ナトリウムを用いて4.0に調整した。化成処理剤の温度を40℃に調整し、基材を120秒間浸漬処理した。
【0053】
第2水洗工程として、水道水で30秒間スプレー処理した。更にイオン交換水で30秒間スプレー処理した。その後乾燥処理として、電気乾燥炉を用いて80℃で5分間乾燥した。「ZSX PrimusII」(株式会社リガク製 X線分析装置)を用いて、化成処理皮膜中におけるジルコニウムの含有量(mg/m)を測定し、表1に示した。
【0054】
カチオン電着塗膜形成工程として、「パワーニクス1050」(日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製カチオン電着塗料)を用いて乾燥膜厚20μmになるようにカチオン電着塗装し、水洗後、170℃で20分間加熱して焼き付け、実施例1の試験板を作成した。
【0055】
(実施例2~11、比較例1~13)
化成処理工程における化成処理剤の構成を表1に示すものとしたこと以外は、実施例1と同様として、上記実施例及び比較例の試験板を作成した。上記実施例及び比較例の化成処理剤の詳細な構成は以下に示す通りである。
【0056】
以下の実施例及び比較例のアリルアミン-ジアリルアミン共重合体(C)としては、以下に示す市販品を用いた。比較例9では、アリルアミン-ジアリルアミン共重合体(C)に代えて、ジアリルアミン共重合体を用いた。
実施例3、比較例5:「PAA-D19-A」、実施例8、10、及び比較例1:「PAA-D19-HCL」、比較例7:「PAA-D41-HCl」、比較例8:「PAA-D11-HCl」、比較例9:「PAS-21」(いずれもニットーボーメディカル株式会社製)
また実施例及び比較例中、pKaが-3.7である付加酸としては塩酸を用いた。
【0057】
[塩温水試験(SDT)後の剥離試験]
実施例及び比較例の試験板に対し、素地まで達するクロスカットを入れた後、55℃の5質量%NaCl水溶液に240時間浸せきさせた。ついで、水道水で水洗し、更に、常温で乾燥させた。その後、電着塗膜のクロスカット部のセロテープ(登録商標)はく離試験を行い、クロスカットからの片側最大はく離幅を測定した。以下の基準により評価を行い、2以上を合格とした。結果を表1に示した。
3:1.0mm未満
2:1.0mm以上2.5mm未満
1:2.5mm以上
【0058】
[塩温水試験(SDT)後の一般面ブリスター総面積]
実施例及び比較例の試験板に対し、電着塗装板を、55℃の5質量%NaCl水溶液に240時間浸せきさせた。ついで、水道水で水洗し、更に、常温で乾燥させた。その後、電着塗膜の一般面に発生したブリスターの総面積割合を測定した。以下の基準により評価を行い、3以上を合格とした。結果を表1に示した。
3:0%
2:0%超、1.0%未満
1:1.0%以上
【0059】
[複合サイクル腐食試験(CCT)]
実施例及び比較例の試験板に対し、素地まで達するクロスカットを入れた後、複合サイクル腐食試験を行った。試験方法は、以下の条件による複合サイクル腐食試験を1サイクルとし、50サイクル実施した。
湿潤 40℃95%RH、2時間
塩水噴霧 35℃5%NaCl、2時間
乾燥 60℃、1時間
湿潤 50℃95%RH、6時間
乾燥 60℃、2時間
湿潤 50℃95%RH、6時間
乾燥 60℃、2時間
低温 -20℃、3時間
【0060】
上記CCT試験後、カット部からの両側最大膨れ幅を測定した。以下の基準により評価を行い、3以上を合格とした。結果を表1に示した。
4:3.0mm未満
3:3.0mm以上3.5mm未満
2:3.5mm以上4.0mm未満
1:4.0mm以上
【0061】
【表1】
【0062】
表1の結果から、各実施例に係る化成処理剤は、比較例に係る化成処理剤と比較して、カチオン電着塗装後の好ましい耐食性が得られることが確認された。