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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156524
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】歯車、歯車装置及び遊星歯車装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 55/17 20060101AFI20221006BHJP
   F16H 1/28 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
F16H55/17 A
F16H1/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060264
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000208765
【氏名又は名称】株式会社エンプラス
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久井 孝喜
【テーマコード(参考)】
3J027
3J030
【Fターム(参考)】
3J027FA18
3J027FA50
3J027FB40
3J027GA01
3J027GA03
3J027GC13
3J027GE18
3J027GE30
3J030AC03
3J030BA01
3J030BA05
3J030BB18
3J030BC01
3J030BC08
3J030BD04
(57)【要約】
【課題】低コストで制作でき、他の歯車と円滑に噛み合うことができる歯車を実現すること。
【解決手段】軸110を挿通するための挿通孔3が軸方向に貫通して形成された歯車本体2を有し、挿通孔3は、軸方向において一端面2aから離れた位置から一端面2aに向かって放射状に拡径する拡径部5を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸を挿通するための挿通孔が軸方向に貫通して形成された歯車本体を有し、
前記挿通孔は、軸方向において一端面から離れた位置から前記一端面に向かって放射状に拡径する拡径部を有する、
歯車。
【請求項2】
前記拡径部は、前記軸方向において両端面から離れた位置から前記両端面それぞれに向かって放射状に拡径する第1拡径部及び第2拡径部を有する、
請求項1に記載の歯車。
【請求項3】
請求項2に記載の歯車を有する歯車装置であって、
前記軸と、
前記軸が前記挿通孔に挿通された前記歯車本体と、
を有し、
前記第1拡径部及び前記第2拡径部はそれぞれ、前記軸方向の異なる位置に、比較的小径である小径部と比較的大径である大径部とを有し、前記軸が前記挿通孔に対して傾斜する場合に、前記軸が、前記小径部に接触すると共に、前記大径部において前記小径部よりも径方向外側の空間に進入する、
歯車装置。
【請求項4】
請求項1に記載の歯車を一対有する歯車装置であって、
前記軸と、
前記軸が前記挿通孔に挿通された前記一対の歯車のうちの第1歯車と、
前記軸が前記挿通孔に挿通された前記一対の歯車のうちの第2歯車と、
を有し、
前記第1歯車と前記第2歯車とは、それぞれの前記拡径部が互いから離れる方向を向くように配置されており、
前記第1歯車の前記拡径部及び前記第2歯車の前記拡径部はそれぞれ、前記軸方向の異なる位置に、比較的小径である小径部と比較的大径である大径部とを有し、
前記軸が前記挿通孔に対して傾斜する場合に、前記軸が、それぞれの前記小径部に接触すると共に、それぞれの前記大径部において、それぞれの前記大径部に対応するそれぞれの前記小径部よりも径方向外側の空間に進入する、
歯車装置。
【請求項5】
請求項3または4記載の前記歯車装置を有し、
前記歯車は、太陽歯車と内歯車との間に配置され、双方と噛み合う遊星歯車であり、
前記軸は、前記太陽歯車を中心に前記遊星歯車を公転可能に支持し、且つ、前記遊星歯車の公転に基づいて回転するキャリアに設けられる遊星軸部である、
遊星歯車装置。
【請求項6】
前記キャリアと前記遊星軸部は、一体に形成されている、
請求項5に記載の遊星歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車、歯車装置及び遊星歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車及びロボット等の様々な機械装置において用いられる歯車装置では、歯車運転中の負荷、熱による歯・軸受の変形、或いは、工作・組立誤差があっても、噛み合いが滑らかになるように、歯にクラウニング加工を施すことが知られている。
【0003】
クラウニング加工では、歯車の歯すじ中央部に向かって丸みを持たせて、歯幅全体において中央部が膨らむ凸状にして、歯厚が軸方向両端から軸方向中心部に行くに従って次第に厚くなるようにする。これにより、歯車では、歯幅端部の片当たりという悪い歯当たりを防ぎ、歯当たりが歯幅中央に集中するようになる。
【0004】
特許文献1では、太陽ギヤと、太陽ギヤの外周に配置され太陽ギヤと同軸心の内歯ギヤと、太陽ギヤと内場ギヤとの間で双方と噛み合うように配置された遊星ギヤのそれぞれの歯をクラウニング歯にした遊星歯車装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-130147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、歯車が、例えば、歯すじが捻れて歯幅方向に延在するようにつるまき線状に形成されたはすば歯車等のように、平歯車に比べて特殊な歯の形状を有するものである場合、上述のようにクラウニングにより歯を歯幅方向に亘って精度高く加工すると製作コストが高くなる。よって、歯や軸受の変形、或いは、工作・組立誤差があっても、低コストで、他の歯車と円滑に噛み合うことができる歯車が望まれている。
【0007】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、低コストで、他の歯車と円滑に噛み合うことができる歯車、歯車装置及び遊星歯車装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の歯車の一つの態様は、
軸を挿通するための挿通孔が軸方向に貫通して形成された歯車本体を有し、
前記挿通孔は、軸方向において一端面から離れた位置から前記一端面に向かって放射状に拡径する拡径部を有する構成を採る。
【0009】
本発明の歯車装置の一つの態様は、上記構成の歯車を有する歯車装置であって、
前記軸と、
前記軸が前記挿通孔に挿通された前記歯車本体と、
を有し、
前記歯車において、前記拡径部は、前記軸方向において両端面から離れた位置から前記両端面それぞれに向かって放射状に拡径する第1拡径部及び第2拡径部を有し、
前記第1拡径部及び前記第2拡径部はそれぞれ、前記軸方向の異なる位置に、比較的小径である小径部と比較的大径である大径部とを有し、前記軸が前記挿通孔に対して傾斜する場合に、前記軸が、前記小径部に接触すると共に、前記大径部において前記小径部よりも径方向外側の空間に進入する構成を採る。
【0010】
本発明の歯車装置の一つの態様は、上記構成の歯車を一対有する歯車装置であって、
前記軸と、
前記軸が前記挿通孔に挿通された前記一対の歯車のうちの第1歯車と、
前記軸が前記挿通孔に挿通された前記一対の歯車のうちの第2歯車と、
を有し、
前記第1歯車と前記第2歯車とは、それぞれの前記拡径部が互いから離れる方向を向くように配置されており、
前記第1歯車の前記拡径部及び前記第2歯車の前記拡径部はそれぞれ、前記軸方向の異なる位置に、比較的小径である小径部と比較的大径である大径部とを有し、
前記軸が前記挿通孔に対して傾斜する場合に、前記軸が、それぞれの前記小径部に接触すると共に、それぞれの前記大径部において、それぞれの前記大径部に対応するそれぞれの前記小径部よりも径方向外側の空間に進入する構成を採る。
【0011】
本発明の遊星歯車装置の一つの態様は、上記構成の歯車装置を有し、
前記歯車は、太陽歯車と内歯車との間に配置され、双方と噛み合う遊星歯車であり、
前記軸は、前記太陽歯車を中心に前記遊星歯車を公転可能に支持し、且つ、前記遊星歯車の公転に基づいて回転するキャリアに設けられる遊星軸部である構成を採る。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、低コストで制作でき、他の歯車と円滑に噛み合うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る一実施の形態の歯車の外観斜視図である。
図2】本発明に係る一実施の形態の歯車の縦断面図である。
図3】本発明に係る一実施の形態の歯車の使用状態を模式的に示す断面図である。
図4】同歯車を用いた歯車装置の一例を示す図である。
図5】同歯車を用いた歯車装置の使用状態を示す図である。
図6】本発明に係る一実施の形態の歯車の変形例の外観斜視図である。
図7】本発明に係る一実施の形態の歯車の変形例の使用状態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明に係る一実施の形態の歯車の外観斜視図であり、図2は、本発明に係る一実施の形態の歯車の縦断面図である。
【0015】
図1及び図2に示す歯車1は、歯車本体2に、軸を挿通するための挿通孔3が軸方向に貫通して形成されており、挿通孔3は、軸方向において一端面(2a、2b)から離れた位置から一端面(2a、2b)に向かって放射状に拡径する拡径部4を有する。
【0016】
歯車1は、挿通孔3に挿通される軸11(図3参照)を中心に回転する歯車である。歯車1は、例えば、太陽歯車と内歯車との間に配置される遊星歯車、或いは、駆動側歯車と被駆動側歯車との間に挿入される中間歯車としての遊び歯車等としてよい。
【0017】
歯車本体2は外周に歯部22を有した筒状体であり、外歯車である。歯部22は、例えば、歯車の軸に対して斜めに切られた螺旋状の歯を有してもよく、或いは、歯すじが直線で軸に平行な歯を有していてもよい。図1に示す歯車1は、例えば、はすば歯車であり、射出成形により形成される。
【0018】
挿通孔3は、歯車本体2の中央部に配置されている。挿通孔3には、歯車1の回転中心となる軸11(図3参照)が挿通される。挿通孔3は、挿通される軸11(図3参照)を中心に歯車本体2が回転自在となる径の内周面により囲まれる。
【0019】
拡径部4は、第1拡径部5及び第2拡径部6を有する。第1拡径部5は、軸方向において、歯車本体2の一端面2aから離れた位置51から一端面2aに向かって放射状に拡径して形成されている。第2拡径部6は、軸方向において歯車本体2の他端面2bから離れた位置61から他端面2bに向かって放射状に拡径して形成されている。
【0020】
第1拡径部5及び第2拡径部6は、それぞれ、軸方向の異なる位置に、比較的小径である小径部5a、6aと比較的大径である大径部5b、6bとを有する。
【0021】
第1拡径部5及び第2拡径部6の内周面は、断面直線状であってもよく、断面湾曲線状であってもよい。第1拡径部5及び第2拡径部6は、面取りとは異なり、面取りよりも緩やかな傾斜が付けられた面を有する。なお、歯車1の一端面2aには、挿通孔3を囲むように突設され、且つ、一部が切り欠かれた切り欠き部を有する筒状突起部24を有する。筒状突起部24の突端面は軸に対して垂直な平面である。切り欠き部に成形時のランナーとの切断部が設けられ、これにより、ランナーの切り残し等の不要な異物が、歯車1の端面から外方に突出することがない。
また、筒状突起部24の切り欠き部は、遊星ギヤの潤滑油の溜める油溜めとして機能してもよい。
【0022】
図3は、本発明に係る一実施の形態の歯車の使用状態を模式的に示す断面図である。
【0023】
図3に示すように、第1拡径部5及び第2拡径部6では、軸11が挿通孔3に対して傾斜する場合に、軸11が、小径部5aに接触すると共に、大径部5bにおいて小径部5aよりも径方向外側の空間に進入する。
【0024】
これにより、歯車1において軸11が挿通孔3に対して傾斜する場合、歯車1は、第1拡径部5及第2拡径部6のそれぞれで軸11と接触し、これら接触部分を介して、軸11により軸11を中心に回転可能に支持されている。
【0025】
歯車1と軸11との接触は、面接触が好ましいが、線接触、点接触であってもよい。いずれも歯車1と軸11は、複数箇所で接触することが好ましい。これにより、歯車1は、回転時において、軸11が斜めに配置される状態であっても、隣接配置され、接続された他の歯車に対して負荷を与えることなく他の歯車と噛み合うことができる。
【0026】
図4は、同歯車を用いた歯車装置の一例を示す図である。図4に示す歯車装置は、歯車1を遊星歯車として用いる遊星歯車装置100として説明するが、軸が挿通される歯車を備える構成であれば、どのような歯車装置であってもよい。
【0027】
図4に示す遊星歯車装置100は、モータ(図示省略)から入力された回転を、所定の減速比で減速して出力する。遊星歯車装置100は、歯車機構130としての遊星歯車機構を収容するハウジング140と、ハウジング140の軸方向における一端部側の端部(軸方向一端部)に配置されるハウジングカバー150と、を有する。
【0028】
遊星歯車装置100は、例えば、モータの回転軸(駆動軸)110に取り付けられて、アクチュエータ(図示省略)を構成する。
【0029】
ハウジング140は、実施の形態では、軸線方向に沿って配置された第1遊星歯車機構170及び第2遊星歯車機構180を有する歯車機構130を、ハウジングカバー150とともに収容し、複数段の減速を実現している。ハウジング140では、歯車機構130は、モータの駆動による回転軸110の回転を2段階で減速して出力軸接続部187から出力する。
【0030】
ハウジング140は、ハウジングカバー150が取り付けられる軸方向の一方側(図4における左側)の端部が開放された筒状体である。ハウジング140は、筒状の本体筒部145において軸方向の他方側(図4における右側)の端部に、支持筒部147を有する円輪部146が接合されている。
【0031】
本体筒部145は、軸方向における一方側から他方側へ順に、第1遊星歯車機構170と、第2遊星歯車機構180とを収容する。本体筒部145は、第2遊星歯車機構180を、その出力軸接続部187を、本体筒部145の軸方向における他方側の端部から他方側に突出させた状態で収容する。
【0032】
本体筒部145は、内周面で、第1遊星歯車機構170の第1内歯車174の外周面と係合する。
【0033】
本体筒部145は、第1内歯車174を、本体筒部145(ハウジング140)の中心軸に対して、第1内歯車174の軸線が僅かに傾斜するように、フローティング状態で支持している。
【0034】
本体筒部145は、第1内歯車174を収容する収容領域に隣接して軸方向における他方側の内周面に、軸方向に延在する複数の歯部を有する第2内歯車部(図示省略)が設けられている。第2内歯車部は、はすば歯車であって、第2遊星歯車機構180の遊星歯車182と噛合している。なお、この第2内歯車部を、第2遊星歯車機構180の内歯車と捉えることもできる。また、この第2内歯車部は、第2遊星歯車機構180の内歯車として、本体筒部145、つまり、ハウジング140と別体の部材であってもよい。
【0035】
ハウジングカバー150は、環状体であり、中央部に、遊星歯車機構(歯車)との接続軸である回転軸110を配置するための中央開口151を有する。中央開口151は、ハウジング140内部の太陽歯車171の軸と同一軸心となるように配置される。中央開口151には、回転軸110が挿入される。
【0036】
第1遊星歯車機構170は、太陽歯車171と、太陽歯車171を中央にしてその周囲に配された複数(例えば、3つ)の遊星歯車172と、複数の遊星歯車172を回転可能に支持する第1キャリア173と、第1内歯車174とを備えている。本実施の形態の歯車1を、遊星歯車172に適用し、軸11を、第1キャリア173のキャリアカバー1734の遊星軸部173cに適用している。
【0037】
太陽歯車171は、外周面に太陽歯部が形成された外歯車であり、中央開口151を介して、遊星歯車装置100内に挿入される回転軸110に固定される。太陽歯車171は、モータの駆動により、回転軸110と同一軸心で回転する。太陽歯車171は、例えば、太陽歯車171の軸に対して斜めに切られた螺旋状の歯を有するはすば歯車である。
【0038】
遊星歯車172は、外周面に遊星歯部が形成された外歯車である。複数の遊星歯車172は、太陽歯車171と第1内歯車174との間に等間隔に配置され、太陽歯車171と第1内歯車174の双方に噛合する。複数の遊星歯車172は、例えば、第1遊星歯車機構170の軸を中心とした同一の円上に配置され、第1キャリア173により回転可能に支持されている。遊星歯部は、例えば、遊星歯車172の軸に対して斜めに切られた螺旋状の歯を有する。遊星歯車172は、所謂、はすば歯車である。
【0039】
遊星歯車172には、本実施の形態1の歯車1が適用される。すなわち、遊星歯車172は、遊星軸部173c(軸11に相当)が挿通される挿通孔3を有する。挿通孔3は、軸方向において両端面2aからそれぞれ離れた位置から、それぞれ両端面2aに向かって放射状に拡径する第1拡径部5、第2拡径部6を有する。
【0040】
遊星歯車172はそれぞれ、太陽歯車171の回転に基づいて、自身の中心軸(遊星軸部173c)を中心に回転する。また、遊星歯車172はそれぞれ、それ自体の回転及び第1内歯車174との噛合に基づいて、太陽歯車171の周りを公転する。遊星歯車172の公転の中心軸は、太陽歯車171の中心軸に一致してよい。
【0041】
第1キャリア173は、遊星歯車172を回転可能(自転可能)に支持する。加えて、第1キャリア173は、遊星歯車172の公転に基づいて回転し、回転を第2遊星歯車機構180に伝達する。
【0042】
第1キャリア173は、キャリア本体1732と、キャリア本体1732と係合するキャリアカバー1734とにより筒状に形成されている。キャリア本体1732の周面には収容開口173aが形成され、収容開口173a内で遊星歯車172は、軸線方向に向けられた遊星軸部173cにより回転可能に支持されている。遊星歯車172の一部は、収容開口173aを介して、径方向外方に突出する。これにより、遊星歯部は、第1内歯車174の第1内歯部174aと噛み合う。
【0043】
第1キャリア173は、太陽歯車171及び遊星歯車172を回動自在に収容するとともに、キャリア本体1732には太陽歯車と同じ軸で回転する、第2遊星歯車機構180の太陽歯車181が固定されている。
【0044】
キャリアカバー1734は、キャリア本体1732に対して、軸方向における一方側から取り付けられる。キャリアカバー1734は、中央に回転軸110が挿通される貫通孔を有する円環状本体173bと、円環状本体173bに一体に形成され突設された遊星軸部173cとを有する。遊星軸部173cは、図3に示す軸11に相当し、歯車1の構成を有する遊星歯車172を挿通する。なお、キャリアカバー1734は、ハウジング140の内部でハウジングカバー150に軸方向で隣接して配置され、ハウジングカバー150と摺動可能である。
【0045】
第1キャリア173を、キャリア本体1732と遊星軸部173cを有するキャリアカバー1734とを組み立てる構成とすることで、第1キャリア173の組立効率が向上する。他方、第1キャリア173を形成するために複数の部分を組み立てることは、公差の増加をもたらし、騒音増大、ギヤ効率低下などの虞がある。しかしながら、遊星歯車172が、第1拡径部5及第2拡径部6を有することで、遊星歯車172は第1拡径部5及第2拡径部6のそれぞれで遊星軸部173cと接触し、これら接触部分を介して、遊星軸部173cを中心に回転可能に支持されている。よって、歯の噛み合いを改善し、騒音を低減することができる。
【0046】
キャリアカバー1734の遊星軸部173cは、キャリア本体1732の遊星軸部が挿入される孔に対して、小さい径に設定してもよい。遊星軸部173cの径をキャリア本体1732の遊星軸部が挿入される孔の径に対して小さくすることで、遊星軸部173cを圧入することによるキャリア本体の割れ抑制することができる。他方、遊星軸部173cの径が小さいことで、遊星軸部173cが傾斜することも考えられるが、この場合であっても、遊星歯車172は、第1拡径部5及第2拡径部6のそれぞれで遊星軸部173cと接触し、これら接触部分を介して、遊星軸部173cを中心に回転可能に支持されている。よって、遊星歯車172は、隣接配置され、接続された他の歯車に対して負荷を与えることなく他の歯車と噛み合うことができる。
【0047】
第1内歯車174は、遊星歯車172の周囲に配置される筒状体であり、内周面に設けられた第1内歯部174aで、遊星歯車172と噛合している。第1内歯部174aは、第1内歯車174の中心軸(モータの回転軸110の中心軸と共通の中心軸)に対して斜めに切られた螺旋状の歯を有する。第1内歯車174は、はすば歯車である。
【0048】
第1内歯車174の外周面には、外周溝部174bを有する第1凸条174cが複数(本実施形態の場合、軸方向で離間する端部に3個ずつ)設けられている。外周溝部174bは、本体筒部145の内周面に形成された凸条(図示省略)に係合して、第1内歯車174のハウジング140に対する回転が規制されている。
【0049】
第2遊星歯車機構180は、第1遊星歯車機構170から伝達された回転を、所定の減速比で減速して、出力する。第2遊星歯車機構180は、第1遊星歯車機構170よりも軸方向における他方側(図4の右側であり、出力側)に設けられている。
【0050】
第2遊星歯車機構180は、ハウジング140の収容空間において、ハウジング140の本体筒部145の軸方向の他方側に収容される。具体的には、本体筒部145の第2内歯車部(図示省略)と対応する部分に配置されている。なお、第2遊星歯車機構180は、省略されてもよい。
【0051】
第2遊星歯車機構180は、太陽歯車181と、遊星歯車182と、遊星歯車182を回転可能に支持する第2キャリア183と、を備えている。なお、遊星歯車182に本実施の形態の歯車1を適用してもよい。
【0052】
太陽歯車181は、外周面に、太陽歯部を有する外歯車である。太陽歯部は、太陽歯車181の中心軸に対して斜めに切られた螺旋状の歯を有する。太陽歯車181は、第1キャリア173に互いの軸線を一致させた状態で固定されている。これにより、太陽歯車181は、第1キャリア173の回転に連動して、第1キャリア173と同じ回転方向に、且つ、第1キャリア173と同じ回転速度で回転する。
【0053】
遊星歯車182は、外周面に遊星歯部が形成された外歯車である。複数の遊星歯車182は、太陽歯車181と、本体筒部145内側の第2内歯車部との間に、等間隔に配置され、太陽歯車181と第2内歯車部の双方に噛合する。複数の遊星歯車182は、第2遊星歯車機構180の軸を中心とした同一の円上に配置され、第2キャリア183の遊星軸186に回転可能に支持されている。遊星歯車182の遊星歯部は、遊星歯車182の軸に対して斜めに切られた螺旋状の歯を有する。遊星歯車182は、所謂、はすば歯車である。
【0054】
遊星歯車182はそれぞれ、太陽歯車181の回転に基づいて、自身の中心軸(遊星軸186)を中心に回転する。また、遊星歯車182はそれぞれ、それ自体の回転及び第2内歯車部との噛合に基づいて、太陽歯車181の周りを公転する。遊星歯車182の公転の中心軸は、太陽歯車181の中心軸に一致してよい。
【0055】
第2キャリア183は、遊星歯車182を回転可能(自転可能)に支持する。加えて、第2キャリア183は、遊星歯車182の公転に基づいて回転し、出力軸接続部187に接続される出力軸に伝達する。第2キャリア183は、歯車保持部1834と、出力軸接続部187を保持する第2キャリア本体1835とを有する。
【0056】
歯車保持部1834は、太陽歯車181の外周に配置されるリング部に、軸線方向に設けた遊星軸186を有する。遊星軸186には、遊星歯車182が挿通され、遊星歯車182を回転自在に支持している。歯車保持部1834は、第2キャリア本体1835に接合される。第2キャリア本体1835の外周面に形成された収容開口183aから、遊星歯車182のそれぞれが露出している。収容開口183aを介して、遊星歯車182の遊星歯部は、第2内歯車部の歯部と噛合する。
遊星軸185は、歯車保持部1834と一体に形成されていてもよい。
【0057】
第2キャリア183を、第2キャリア本体1835と遊星軸185を有する歯車保持部1834とを組み立てる構成とすることで、前述の第1キャリア173と同様の効果を得ることができる。
【0058】
また、歯車保持部1834の遊星軸185は、第2キャリア本体1835の遊星軸が挿入される孔に対して、小さい径に設定してもよい。遊星軸185の径を第2キャリア本体1835の遊星軸が挿入される孔の径に対して小さくすることで、前述の第1キャリ173と同様の効果を得ることができる。
【0059】
出力軸接続部187は、第2キャリア本体1835よりも他方側(出力側)に突設され、且つ、第2キャリア本体1835よりも小径の円筒状に形成されている。出力軸接続部187の径方向における内側には、ローレット形状の歯が設けられ、出力軸が接続される。
【0060】
図5は、同遊星歯車装置100において、太陽歯車の軸と、遊星歯車装置の出力軸とにずれが生じた際の遊星歯車の噛合状態を示す要部部分断面図である。
【0061】
遊星歯車装置100において、例えば、太陽歯車171に固定される回転軸110と、遊星歯車装置100の出力軸部の軸(図5では、第1キャリア173のキャリアカバー1734が備える遊星軸186に相当)とがずれていると仮定する。この場合、回転軸110に太陽歯車171を結合すると、回転軸110のずれに追従して太陽歯車171自体の軸にもずれが生じ、太陽歯車171と噛み合う遊星歯車172も追従して、遊星歯車172の軸(図5では挿通孔3の軸で示す)がずれる。
【0062】
しかしながら、図5に示すように、遊星歯車172(歯車1に相当)は、外部からの荷重を受けても、挿通孔3内に挿通される遊星軸部173c(軸11に相当)に対して傾斜可能である。また、遊星歯車172は、軸方向で離間する複数箇所(第1拡径部5、第2拡径部6)で面接触、線接触或いは点接触しつつ、軸11周りを回動可能となっている。
【0063】
よって、遊星歯車172は、荷重により遊星軸部173cに対して傾斜しつつ、太陽歯車171と第1内歯車174の第1内歯部174aに噛み合った状態を維持できる。すなわち、歯面にクラウニングを付けた構造と同様の効果を得ることができる。
【0064】
本実施の形態の歯車1によれば、歯面にクラウニング加工を施すことなく、歯面にクラウニング加工した場合と同様の効果をうることができるので、クラウニングのための金型を製造することがなく、製造コスト削減をはかることができる。また、挿通孔3は、挿通孔3の内部で軸11が傾斜可能な内径を有し、複数の面接触或いは線接触する箇所を介して、歯車1を軸11に回転自在に支持させることができる。
【0065】
<変形例1>
図6は、本発明に係る一実施の形態の歯車装置の変形例における歯車の外観斜視図であり、図7は、同歯車装置の変形例を模式的に示す断面図である。
【0066】
図6及び図7に示す歯車1Aを有する歯車装置10Aは、歯車1を有する歯車装置10と比べて、歯車本体2A、2Bを複数備える点が異なりその他の構成は同様である。よって、歯車1Aについて、歯車1の構成と共通する構成要素については同一の符号にAを付した符号を付与し、それらの説明は適宜省略する。
【0067】
歯車装置10Aは、軸11Aと、軸11Aが挿通される挿通孔3Aを有する歯車本体2Aを構成する一対の歯車(第1歯車20a及び第2歯車20b)とを有する。
【0068】
歯車本体2Aにおける挿通孔3Aは、軸方向において、両端面2a、2bから離れた位置51A、61Aから両端面2a、2bのそれぞれに向かって放射方向に拡径する拡径部(第1拡径部5A、第2拡径部6A)を有する。
【0069】
第1歯車20aは、挿通孔3Aを構成する第1挿通孔30aを有し、第1挿通孔30aは、第1拡径部5Aを有する。
【0070】
第1拡径部5Aは、第1歯車20aの一端面2aから離れた位置51Aから一端面2aに向かって放射状に拡径する。第1拡径部5Aは、軸方向の異なる位置に、比較的小径である第1小径部50aと比較的大径である第1大径部50bとを有する。第1大径部50bは第1小径部50aよりも径が大きい。
【0071】
第1歯車20aでは、軸11Aが第1挿通孔30aに対して傾斜する場合に、軸11Aが、第1小径部50aに接触すると共に、第1大径部50bにおいて、第1大径部50bに対応する第1小径部50aよりも径方向外側の空間に進入する。
【0072】
一方、第2歯車20bは、挿通孔3Aを構成する第2挿通孔30bを有し、第2挿通孔30bは、第2拡径部6Aを有する。
【0073】
第2拡径部6Aは、第2歯車20bの一端面2bから離れた位置61Aから一端面2bに向かって放射状に拡径する。第2拡径部6Aは、軸方向の異なる位置に、比較的小径である第2小径部60aと比較的大径である第2大径部60bとを有する。第2大径部60bは第2小径部60aよりも径が大きい。
【0074】
第1歯車20aと第2歯車20bとは、それぞれの第1拡径部5A、第2拡径部6Aが互いから離れる方向を向くように配置されている。第1歯車20aと第2歯車20bは、例えば、同一形状に形成される。第1歯車20aと第2歯車20bは、それぞれを射出成形で成形するようにしてもよい。
【0075】
第2歯車20bでは、軸11Aが第2拡径部6Aに対して傾斜する場合に、軸11Aが、第2小径部60aに接触すると共に、第2大径部60bにおいて第2大径部60bに対応する第2小径部60aよりも径方向外側の空間に進入する。
【0076】
第1拡径部5A及び第2拡径部6Aは、それぞれ、テーパ面を有し、テーパ面は、断面視して直線状であってもよいし、曲線状であってもよい。
【0077】
変形例1では、軸11Aが挿通し、且つ、軸方向に貫通した挿通孔3Aを有する歯車1Aにおいて、挿通孔3Aは、軸方向において両端面2a、2bから離れた位置51A、61Aから両端面2a、2bに向かって放射状に拡径する第1拡径部5A、第2拡径部6Aを有する。
【0078】
このように、第1拡径部5A及び第2拡径部6Aにより、軸方向で両側に向かって拡径する挿通孔3Aを有する歯車1Aを、一対の歯車である第1歯車20a及び第2歯車20bで構成している。
【0079】
第1歯車20a及び第2歯車20bのそれぞれでは、第1挿通孔30a及び第2挿通孔30bのそれぞれが軸方向において一方向で拡径するように形成されている。よって、第1歯車20a及び第2歯車20bを射出成型する際には、第1挿通孔30a及び第2挿通孔30bの開口方向である軸方向の一方に抜型するだけの簡単な金型で形成することができる。
【0080】
これにより、変形例1の歯車1Aを有する歯車装置10Aによれば、上述した効果を有する歯車を、射出成形により成形する際に、軸方向の両側で抜型するための二次加工が不要となり、製作が容易となる。また、二次加工のために別コアを用いる等の複雑な金型を用いることなく、製作コストの削減も図ることができる。
【0081】
また、第1歯車20a及び第2歯車20bは同一の形状であるので、第1歯車20a及び第2歯車20bを製造する金型を別々に用意することなく、一つの金型で歯車1Aを成形することができ、製作コストの削減を図ることができる。
【0082】
歯車1、1Aにおいて、歯車本体2、2Aを貫通して形成され、軸11、11Aが挿通される挿通孔3、3Aは、歯車本体2、2Aの中央部分では軸方向に沿った円筒状の内周面を有する中央部分を有する。この中央部分の軸方向の両端部は、例えば、両端部2a、3bから離れた位置51、51A、61、61Aである。これらの位置51、51A、61、61Aから、両端面2a、2bに向かってそれぞれ所定のテーパ(湾曲線面状も含む)で拡径する第1拡径部5、5A及び第2拡径部6、6Aが設けられている。これら中央部分を挟み形成される第1拡径部5、5A及び第2拡径部6、6Aのテーパは、挿通孔3、3Aに挿通される軸11、11Aが傾斜した際に、それぞれで面接触、軸方向で線接触等する形状であることが好ましい。第1拡径部5、5A及び第2拡径部6、6Aは、例えば、円錐台状の空間を有する。
【0083】
これにより、挿通孔3、3A(言い換えれば、歯車1、1A)に対して軸11、11Aが傾斜しても、或いは、軸11、11Aに対して挿通孔3、3Aが傾斜した状態でも、歯車1、1Aを軸11、11Aに回転可能に支持させることできる。
【0084】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0085】
以上、本発明の実施の形態について説明した。なお、以上の説明は本発明の好適な実施の形態の例証であり、本発明の範囲はこれに限定されない。つまり、上記歯車、歯車装置の構成や各部分の形状についての説明は一例であり、本発明の範囲においてこれらの例に対する様々な変更や追加が可能であることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明に係る歯車、歯車装置及び遊星歯車装置は、低コストで、他の歯車と円滑に噛み合うことができる効果を有し、自動車及びロボット等の様々な機械装置に用いられるものとして有用である。
【符号の説明】
【0087】
1、1A 歯車
2、2A、2B 歯車本体
2a、2b 一端面
3、3A 挿通孔
4 拡径部
5、5A 第1拡径部
5a、6a 小径部
5b、6b 大径部
6、6A 第2拡径部
10、10A 歯車装置
11、11A 軸
20a 第1歯車
20b 第2歯車
22 歯部
24 筒状突起部
30a 第1挿通孔
30b 第2挿通孔
50a 第1小径部
50b 第1大径部
51、51A、61、61A 位置
60a 第2小径部
60b 第2大径部
100 遊星歯車装置
110 回転軸
130 歯車機構
140 ハウジング
145 本体筒部
146 円輪部
147 支持筒部
150 ハウジングカバー
151 中央開口
170 第1遊星歯車機構
171、181 太陽歯車
172、182 遊星歯車
173 第1キャリア
173a 収容開口
173b 円環状本体
173c 遊星軸部
174 第1内歯車
174a 第1内歯部
174b 外周溝部
174c 第1凸条
180 第2遊星歯車機構
183 第2キャリア
183a 収容開口
186 遊星軸
187 出力軸接続部
1732 キャリア本体
1734 キャリアカバー
1834 歯車保持部
1835 第2キャリア本体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7