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特開2022-156538半透膜支持体及び半透膜支持体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156538
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】半透膜支持体及び半透膜支持体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 69/10 20060101AFI20221006BHJP
   D21H 13/24 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
B01D69/10
D21H13/24
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060281
(22)【出願日】2021-03-31
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮城 圭輔
(72)【発明者】
【氏名】吉田 光男
(72)【発明者】
【氏名】野上 由理
(72)【発明者】
【氏名】江角 真一
【テーマコード(参考)】
4D006
4L055
【Fターム(参考)】
4D006GA02
4D006MA09
4D006MB16
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC27
4D006MC29
4D006MC33
4D006MC48
4D006MC54
4D006PA01
4D006PB03
4D006PB08
4D006PB09
4D006PC11
4D006PC41
4D006PC51
4L055AF13
4L055AF33
4L055CD03
4L055CD13
4L055EA07
4L055EA12
4L055EA29
4L055EA40
4L055FA11
4L055FA30
4L055GA31
4L055GA39
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、半透膜の欠点が少なく、塩阻止率が向上する半透膜支持体を提供することである。
【解決手段】主体合成繊維とバインダー合成繊維とを含有する湿式不織布からなる半透膜支持体において、テープ剥離試験での離脱繊維が30本以下であり、かつ共焦点レーザー顕微鏡によって半透膜が設けられる塗布面の表面粗さを測定して得られるコア部のレベル差が14μm以下であることを特徴とする半透膜支持体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主体合成繊維とバインダー合成繊維とを含有する湿式不織布からなる半透膜支持体において、テープ剥離試験での離脱繊維が30本以下であり、かつ共焦点レーザー顕微鏡によって半透膜が設けられる塗布面の表面粗さを測定して得られるコア部のレベル差が14μm以下であることを特徴とする半透膜支持体。
【請求項2】
主体合成繊維又はバインダー合成繊維におけるアンチモン元素溶出量が5μg/g未満である請求項1に記載の半透膜支持体。
【請求項3】
半透膜支持体のアンチモン元素溶出量が1.5μg/g未満である請求項1又は2に記載の半透膜支持体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか記載の半透膜支持体を製造する半透膜支持体の製造方法において、バインダー合成繊維を分散した後に主体合成繊維を分散して得られる繊維分散液から湿式抄造法によって半透膜支持体を製造することを特徴とする半透膜支持体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半透膜支持体及び半透膜支持体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海水の淡水化、浄水器、食品の濃縮、廃水処理、血液濾過に代表される医療用、半導体洗浄用の超純水製造等の分野で、半透膜が広く用いられている。半透膜は、セルロース系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリエステル系樹脂等の合成樹脂で構成されている。しかしながら、半透膜単体では機械的強度に劣るため、不織布や織布等の繊維基材からなる半透膜支持体の片面に半透膜が設けられた複合体の形態である分離膜として使用されている。半透膜支持体の半透膜が設けられる面を「塗布面」と称し、反対側の面を「非塗布面」と称す。
【0003】
主に、半透膜支持体としては、合成繊維を含有する不織布が用いられる。特に、ポリエステル系湿式不織布が多く使用されている(例えば、特許文献1及び2参照)。これらの半透膜支持体を構成するポリエステル繊維の重合触媒には、従来、三酸化アンチモンに代表されるアンチモン化合物が広く用いられている。三酸化アンチモンは安価で、優れた触媒活性を有するが、近年、環境面からアンチモンの安全性に対する問題が欧米をはじめ各国で指摘されている。
【0004】
また、半透膜支持体に要求される性能としては、半透膜と半透膜支持体との接着性が良好であること、半透膜を設けるために、半透膜溶液が半透膜支持体に塗布された際に、半透膜溶液が非塗布面に裏抜けしないこと、半透膜に欠点が少ないこと等が挙げられる。
【0005】
半透膜溶液が裏抜けしないように、半透膜支持体の均一性を高めることを目的として、合成繊維を水に分散した繊維スラリーを湿式抄造して不織布とする工程において、抄紙時における該繊維スラリーの繊維分濃度を0.01~0.1質量%とし、かつ、該繊維スラリーに、高分子粘剤として、分子量500万以上の水溶性高分子を、繊維分質量を基準として3~15質量%含有させて抄紙する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかし、高分子粘剤が過剰に添加されているため、均一性は高まるが、抄紙網上での繊維スラリー粘度が高まって、抄紙網からの脱水性が低下して、生産速度が上げられないという問題が起こる可能性があった。また、抄紙後の半透膜支持体を形成する繊維表面に高分子粘剤が残留するという問題もあった。
【0006】
また、太い繊維を使用した表面粗度の大きな表面層(太い繊維層)と細い繊維を使用した緻密な構造の裏面層(細い繊維層)との二重構造を基本とした多層構造の不織布よりなる半透膜支持体が提案されている(例えば、特許文献4参照)。具体的には、太い繊維層を塗布面とし、細い繊維層を非塗布面とした半透膜支持体、細い繊維層を太い繊維層で挟み込み、塗布面と非塗布面の両方を太い繊維層とした半透膜支持体が記載されている。しかしながら、塗布面において、太い繊維を使用しているため、半透膜と半透膜支持体との接着性は向上するものの、平滑性が低く半透膜に欠点が生じやすいという問題があった。また、太い繊維を使用しているため、半透膜溶液が半透膜支持体の内部にまで入り込んでしまい、所望の半透膜の厚みを得るためには、大量の半透膜溶液が必要となるという問題があった。
【0007】
また、半透膜溶液が塗布された際に、半透膜支持体が幅方向に湾曲することによって、不均一な半透膜が製造されるという課題を解決するために、抄紙流れ方向と幅方向の引張強度比が2:1~1:1にあり、繊維の配向がばらけた状態である半透膜支持体が提案されている(例えば、特許文献1参照)。さらに、特許文献1では、半透膜と半透膜支持体の接着性を良くすること及び裏抜け防止を目的として、半透膜支持体の通気度やポアサイズを調整する方法が提案されている。しかしながら、このJIS L1096に準拠した通気度は、半透膜支持体の片面から半透膜支持体内部を通過して別の片面へ透過する空気の量を基に算出されており、塗布面の表面に塗布された半透膜溶液の非塗布面への裏抜けを正確に反映しているものではない。そのため、特許文献1で示された範囲の通気度を有する半透膜支持体に半透膜溶液を塗布した場合、半透膜溶液が裏抜けしてしまう場合があった。
【0008】
また、特許文献5では、半透膜支持体である湿式不織布シート上に局所スポット的に存在する欠点部分に半透膜溶液が塗布された場合、半透膜溶液の浸透性が部分的に変わって浸透しにくくなることによって、この部分の半透膜の厚みが極端に薄くなる場合や、半透膜表面がしわ状になる場合があるという課題を解決するために、湿式不織布を構成する合成繊維が疎な状態でシート密度が低くなっている箇所である低密度欠点を発生しにくくすることを目的として、湿式不織布の熱圧加工処理の回数、温度、ロールの種類を最適化する方法が提案されている。そして、特許文献5では、低密度欠点が無く、均一で、半透膜と半透膜支持体の接着性が良く、半透膜溶液が湿式不織布に浸透しすぎて半透膜が不均一になることを防ぐことができる半透膜支持体として、シート密度及び圧力損失を調整した半透膜支持体が提案されている。しかし、特許文献5で示された範囲のシート密度や圧力損失を有する半透膜支持体であっても、半透膜支持体の凸部による半透膜の欠点が発生する場合があった。
【0009】
また、特許文献6では、半透膜の成膜工程で発生する欠点が少なく、半透膜を保持する樹脂フレームとの接着性が良好な膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体を得るために、延伸ポリエステル繊維と未延伸ポリエステル繊維とを含有してなる不織布であり、密度が0.50~0.70g/cmであり、内部結合強度が490mJ以上であることを特徴とする膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体が提案されている。そして、実施例では、半透膜用支持体の面強度の評価を行っている。具体的には、半透膜用支持体の表面に、透明粘着テープを空気が入らないように均一に貼り、充分に押し付けた後に、透明粘着テープをゆっくりと剥がし、透明粘着テープの粘着剤面に残った繊維の様子を目視によって評価を行い、粘着テープに繊維が貼り付くか否かを評価し、半透膜を設ける際の繊維脱落の指標としているが、半透膜の成膜性や欠点は評価されていない。
【0010】
また、特許文献7では、性能と加工性に優れた半透膜支持体を得るために、目付が10~200g/mの範囲内であり、表又は裏面の表面粗さの最大高さが500μm以内にあり、表裏の表面粗さの差が30μm以上であることを特徴とする半透膜支持体が提案されている。しかし、実施例において得られた半透膜支持体に半透膜を塗布し、加工性を評価しているものの、半透膜支持体に起因する半透膜の欠点の評価や半透膜成膜後の塩阻止率の評価はされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002-95937号公報
【特許文献2】特開平10-225630号公報
【特許文献3】特開2008-238147号公報
【特許文献4】特公平4-21526号公報
【特許文献5】国際公開第2012/090874号パンフレット
【特許文献6】特開2016-159197号公報
【特許文献7】特開2018-153758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、半透膜の欠点が少なく、塩阻止率が向上する半透膜支持体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、下記発明によって該課題を解決することができた。
【0014】
(1)主体合成繊維とバインダー合成繊維とを含有する湿式不織布からなる半透膜支持体において、テープ剥離試験での離脱繊維が30本以下であり、かつ共焦点レーザー顕微鏡によって半透膜が設けられる塗布面の表面粗さを測定して得られるコア部のレベル差が14μm以下であることを特徴とする半透膜支持体。
(2)主体合成繊維又はバインダー合成繊維におけるアンチモン元素溶出量が5μg/g未満である(1)に記載の半透膜支持体。
(3)半透膜支持体のアンチモン元素溶出量が1.5μg/g未満である(1)又は(2)に記載の半透膜支持体。
(4)(1)~(3)のいずれか記載の半透膜支持体を製造する半透膜支持体の製造方法において、バインダー合成繊維を分散した後に主体合成繊維を分散して得られる繊維分散液から湿式抄造法によって半透膜支持体を製造することを特徴とする半透膜支持体の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、半透膜の欠点が少なく、塩阻止率が向上した半透膜支持体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の半透膜支持体は、主体合成繊維とバインダー合成繊維とを含有してなる湿式不織布からなり、テープ剥離試験において離脱繊維が30本以下であり、かつ共焦点レーザー顕微鏡によって半透膜が設けられる塗布面の表面粗さを測定して得られるコア部のレベル差が14μm以下であることを特徴とする。
【0017】
本発明において、特に断りの無い限り、離脱繊維は、単繊維でカウントする。すなわち、2本以上の繊維の側面同士が密着して平行に束状で存在する繊維束はそれぞれの繊維をカウントするものとする。
【0018】
本発明の半透膜支持体は、テープ剥離試験での離脱繊維が30本以下である半透膜支持体であるが、特に、半透膜が設けられる塗布面において、離脱繊維が30本以下である半透膜支持体である。離脱繊維とは、主体合成繊維とバインダー合成繊維の接着が甘く、物理的な衝撃や擦れにより半透膜支持体表面から離脱する繊維のことである。
【0019】
半透膜支持体を湿式抄造法によって製造する本発明の半透膜支持体の製造方法において、離脱繊維を少なくする方法を説明する。離脱繊維を少なくするためには、主体合成繊維とバインダー合成繊維を繊維分散装置(パルパー)内で水に分散して繊維束を単繊維に解きほぐすことが重要となる。単繊維に解きほぐす方法は、分散剤の添加、パルパーにおける羽根の形状の最適化、パルパー底面と羽根のクリアランスの最適化、パルパータンクの壁面への堰板の設置等が挙げられる。次に、単繊維に解繊後、白水(希釈水)で繊維分散液を希釈して抄紙網に送液する工程においては、希釈された繊維分散液を攪拌装置で分散することにより、単繊維化の度合いを高められる。また、パルパーでの繊維分散後及び/又は繊維分散液希釈後に高分子粘剤として、分子量500万以上の水溶性高分子の水溶液を添加することでさらに単繊維化の度合いが高まる。
【0020】
そして、本発明の半透膜支持体の製造方法では、バインダー合成繊維を分散した後、主体合成繊維を分散する、二段階分散によって得られた繊維分散液から湿式抄造法によって半透膜支持体を製造することを特徴としている。パルパーに繊維を投入する際、バインダー合成繊維を先に投入して分散した後に、主体合成繊維を投入して分散することにより、主体合成繊維の単繊維化が仮に不十分であっても、十分に単繊維化されているバインダー合成繊維が主体合成繊維を覆うことが可能となり、半透膜支持体からの離脱繊維を抑制できる。
【0021】
また、湿式抄造法において、抄紙網上に繊維分散液が供給され、余分な水を搾水して湿紙を得る工程では、金属糸やプラスチック糸を編み込んだ抄紙網の上でシート状の湿紙が形成されながら、抄紙網下に徐々に搾水される。抄紙網上での湿紙の形成は、抄紙網表面に繊維が堆積して進行し、搾水の完了と共に湿紙形成が完了する。湿紙形成開始時は、抄紙網上に供給された繊維分散液の分散状態のまま繊維が堆積するために、抄紙網に接する面(以下、「抄紙網に接する面」を「抄紙網面」と称する場合がある)の繊維のほぐれ状態は均一になる。一方、抄紙網上に形成中の湿紙上には未だ繊維分散液が存在しており、サクションによる搾水の位置、サクションの強度、抄紙網速度、繊維分散液の流速等によって、湿紙形成完了時における抄紙網面と反対の面(以下、「抄紙網面と反対の面」を「抄紙フェルト面」と称する場合がある)の繊維のほぐれ状態を調整することができる。しかし、抄紙網面と比較すると、抄紙フェルト面では、繊維のほぐれ状態における均一性は低下する。また、湿紙形成の中盤から後半には、主体合成繊維とバインダー合成繊維の太さや長さが異なっている場合に、サクションによって同種繊維が寄り集まり、均一性がより低下する場合がある。バインダー合成繊維が寄り集まることによって、部分的にバインダー合成繊維が不足する箇所を招くことがある。そのため、湿式不織布の抄紙網面の表面強度が抄紙フェルト面の表面強度よりも高くなることから、抄紙網面が塗布面である場合、離脱繊維による半透膜の欠点が減少し、半透膜の成膜時に塩阻止率が向上する。
【0022】
湿式抄造法で得られた湿紙を乾燥して得られる原紙は、熱ロールによる熱圧加工(熱カレンダー)処理を行うことが好ましい。熱圧加工装置(熱カレンダー装置)において、ニップされているロール間に原紙が通されることによって、原紙が熱圧加工されることで、バインダー合成繊維を溶融・軟化して主体合成繊維を固定する。原紙にバインダー合成繊維が存在しない箇所があると、離脱繊維により半透膜が突き破られ、膜欠点が発生するため、湿式抄造法での原紙内でのバインダー合成繊維の単繊維化と、バインダー合成繊維と主体合成繊維の分散性が重要となる。
【0023】
上記の対策を行うことにより、離脱繊維を抑制することができる。
【0024】
本発明において、離脱繊維は、30本以下であり、20本以下であることがより好ましく、10本以下であることがさらに好ましい。離脱繊維が30本を超えると、半透膜成膜時に半透膜表面を繊維が突き破り、膜欠点が生じ、塩阻止率が低下する。
【0025】
本発明の半透膜支持体は、共焦点レーザー顕微鏡によって半透膜が設けられる塗布面の表面粗さを測定して得られるコア部のレベル差Skが14μm以下であることを特徴とする。コア部のレベル差Skとは、表面粗さを比較する指標であり、ISO25178に準拠したコア部の上側レベルと下側レベルの差である。
【0026】
Skが14μm以下の場合、半透膜成膜時の半透膜欠点が少なくなり、半透膜成膜後の塩阻止率の低下を招きにくい。Skは、より好ましくは13μm以下であり、さらに好ましくは12μm以下であり、特に好ましくは11.5μm以下である。Skが14μmを超える場合、半透膜支持体に設けた半透膜の厚みが不均一になり、半透膜が薄い箇所で欠点が発生し、膜性能の低下を招く。Skの下限値は8μmが好ましい。Skが8μmより小さい場合、半透膜と半透膜支持体の接着性が低下する恐れがある。
【0027】
半透膜支持体のSkを14μm以下にする方法として、以下が挙げられる。
(I)二段階分散による繊維の分散性の向上
(II)配合設計の最適化(繊維選定及びバインダー合成繊維の含有量)
(III)原紙の抄造条件の最適化
(IV)熱圧加工条件の調整
【0028】
本発明において、主体合成繊維又はバインダー合成繊維におけるアンチモン(Sb)元素溶出量が5μg/g未満であることが好ましく、1μg/g未満であることがより好ましい。主体合成繊維又はバインダー合成繊維におけるアンチモン元素溶出量が5μg/g未満であることによって、半透膜支持体から発生する離脱繊維を抑制でき、半透膜成膜後の塩阻止率が向上するという効果が得られる。
【0029】
また、半透膜支持体のアンチモン元素溶出量が1.5μg/g未満であることが好ましく、該半透膜支持体のアンチモン溶出量が1.0μg/g未満であることがより好ましい。半透膜支持体のアンチモン元素溶出量が1.5μg/g未満であることによって、半透膜支持体から発生する離脱繊維を抑制でき、半透膜成膜後の塩阻止率が向上するという効果が得られる。
【0030】
本発明における「アンチモン元素溶出量」とは、主体合成繊維、バインダー合成繊維又は半透膜支持体を、比抵抗18.2MΩ・cm、温度25℃の超純水に24時間浸漬し、超純水中に溶出したアンチモン元素量をICP-MS(Inductively Coupled Plasma-Mass Spectro-metry)で定量分析した値から、<式1>を用いて算出したものである。
【0031】
<式1>
アンチモン元素溶出量(μg/g)=溶出液のアンチモン元素含有量(μg/L)×溶出試験に使用した超純水の容積(L)/主体合成繊維、バインダー合成繊維又は半透膜支持体の質量(g)
【0032】
本発明において、主体合成繊維は、半透膜支持体の骨格を形成する繊維であり、バインダー合成繊維の軟化点又は溶融温度(融点)付近まで温度を上げる工程において、軟化又は溶融しにくく、繊維形状を維持する繊維である。主体合成繊維としては、例えば、ポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリアクリル系、ビニロン系、ビニリデン系、ポリ塩化ビニル系、ポリエステル系、ベンゾエート系、ポリクラール系、フェノール系等の繊維が挙げられるが、耐熱性の高いポリエステル系の繊維がより好ましい。また、半合成繊維のアセテート、トリアセテート、プロミックスや、再生繊維のレーヨン、キュプラ、リヨセル繊維等は性能を阻害しない範囲で含有しても良い。
【0033】
主体合成繊維の繊維径は、特に限定しないが、30μm以下であることが好ましい。主体合成繊維の繊維径が30μmを超えると、所望の半透膜の厚みを得るためには、大量の半透膜溶液が必要となるという問題が発生する場合や、半透膜溶液の裏抜けが発生する場合がある。また、湿式不織布の表面の主体合成繊維が立ちやすくなり、半透膜を貫通して半透膜の性能が低下する場合がある。より好ましくは2~20μmであり、さらに好ましくは4~20μm、特に好ましくは6~20μmである。2μm未満の場合、半透膜溶液が半透膜支持体に浸透しにくくなり、半透膜と半透膜支持体との接着性が悪くなる場合がある。
【0034】
主体合成繊維の繊維長は、特に限定しないが、好ましくは1~12mmであり、より好ましくは3~10mmであり、さらに好ましくは4~6mmである。主体合成繊維の断面形状は円形が好ましく、抄紙工程における水への分散前の繊維における断面アスペクト比(繊維断面長径/繊維断面短径)は、1.0~1.2未満であることが好ましい。繊維断面アスペクト比が1.2以上になると、繊維分散性が低下する場合や、繊維の絡まりやもつれの発生によって、半透膜支持体の均一性や塗布面の平滑性に悪影響を及ぼす場合がある。ただし、T型、Y型、三角等の異形断面を有する繊維も、裏抜け防止、表面平滑性のために、繊維分散性等の他の特性を阻害しない範囲内で含有できる。
【0035】
主体合成繊維のアスペクト比(繊維長/繊維径)は、200~1000であることが好ましく、より好ましくは220~900であり、さらに好ましくは280~800である。アスペクト比が200未満の場合は、繊維の分散性は良好となるが、抄紙の際に繊維が抄紙網から脱落する場合や、抄紙網に繊維が刺さって、抄紙網からの剥離性が悪化する場合がある。一方、1000を超えた場合、繊維の三次元ネットワーク形成に寄与はするものの、繊維の絡まりやもつれの発生によって、半透膜支持体の均一性や塗布面の平滑性に悪影響を及ぼす場合があり、離脱繊維の発生につながる場合や、Skが14μmを超える場合がある。
【0036】
本発明の半透膜支持体に係わる不織布に対して、主体合成繊維の含有量は、40~90質量%が好ましく、50~80質量%がより好ましく、60~75質量%がさらに好ましい。主体合成繊維の含有量が40質量%未満の場合、通液性が低下する恐れがある。また、90質量%を超えた場合、離脱繊維が多発する場合や、強度不足によって破れる恐れがある。
【0037】
本発明の半透膜支持体は、バインダー合成繊維を含有している。バインダー合成繊維の軟化点又は溶融温度(融点)付近まで温度を上げる工程を半透膜支持体の製造工程に組み入れることで、バインダー合成繊維が半透膜支持体の機械的強度を向上させる。例えば、半透膜支持体を湿式抄造法で製造し、その後の乾燥工程でバインダー合成繊維を軟化又は溶融させることができる。
【0038】
バインダー合成繊維としては、芯鞘繊維(コアシェルタイプ)、並列繊維(サイドバイサイドタイプ)、放射状分割繊維等の複合繊維、未延伸繊維等が挙げられる。複合繊維は、皮膜を形成しにくいので、半透膜支持体の空間を保持したまま、機械的強度を向上させることができる。より具体的には、ポリプロピレン(芯)とポリエチレン(鞘)の組み合わせ、ポリプロピレン(芯)とエチレンビニルアルコール(鞘)の組み合わせ、高融点ポリエステル(芯)と低融点ポリエステル(鞘)の組み合わせ、ポリエステル等の未延伸繊維が挙げられる。また、ポリエチレンやポリプロピレン等の低融点樹脂のみで構成される単繊維(全融タイプ)や、ポリビニルアルコール系のような熱水可溶性バインダーは、半透膜支持体の乾燥工程で皮膜を形成しやすいが、特性を阻害しない範囲で使用することができる。本発明においては、高融点ポリエステル(芯)と低融点ポリエステル(鞘)の組み合わせ、ポリエステルの未延伸繊維を好ましく用いることができる。
【0039】
バインダー合成繊維の繊維径は特に限定されないが、好ましくは2~20μmであり、より好ましくは5~15μmであり、さらに好ましくは7~13μmである。また、主体合成繊維と異なる繊維径であることが好ましい。主体合成繊維と繊維径が異なることで、主体合成繊維と共に均一な三次元ネットワークを形成する役割も果たす。
【0040】
バインダー合成繊維の繊維長は、特に限定しないが、好ましくは1~12mmであり、より好ましくは3~10mmであり、さらに好ましくは4~6mmである。バインダー合成繊維の断面形状は円形が好ましいが、T型、Y型、三角等の異形断面を有する繊維も、裏抜け防止、塗布面の平滑性、非塗布面同士の接着性のために、他の特性を阻害しない範囲内で含有できる。
【0041】
バインダー合成繊維のアスペクト比(繊維長/繊維径)は、200~1000であることが好ましく、より好ましくは300~800であり、さらに好ましくは400~700である。アスペクト比が200未満の場合は、繊維の分散性は良好となるが、抄紙の際に繊維が抄紙網から脱落する恐れや、抄紙網に繊維が刺さって、抄紙網からの剥離性が悪化する恐れがある。一方、1000を超えた場合、バインダー合成繊維は三次元ネットワーク形成に寄与はするものの、繊維が絡まる恐れや、もつれの発生によって、不織布の均一性や塗布面の平滑性に悪影響を及ぼす恐れがあり、離脱繊維の発生につながる場合や、Skが14μmを超える場合がある。
【0042】
本発明の半透膜支持体に係わる不織布に対して、バインダー合成繊維の含有量は、10~60質量%が好ましく、20~50質量%がより好ましく、25~40質量%がさらに好ましい。上記範囲において、バインダー合成繊維の含有量を高めることによって、脱離繊維や主体合成繊維の毛羽立ちを抑制することができる。バインダー合成繊維の含有量が10質量%未満の場合、強度不足により破れる恐れがあり、主体合成繊維を覆うための本数が不足し離脱繊維が発生する場合がある。また、60質量%を超えた場合、通液性の低下や半透膜と半透膜支持体の接着性が悪くなる場合がある。
【0043】
本発明の半透膜支持体の製造方法について説明する。本発明の半透膜支持体は、湿式抄造法によって原紙が作製された後に、この原紙が熱ロールによって熱圧加工される。
【0044】
湿式抄造法では、まず、バインダー合成繊維等をパルパー等の分散装置で均一に水中に分散させた後、主体合成繊維を投入して分散することにより、バインダー合成繊維が均一に主体合成繊維と混合する。その後、スクリーン(異物、塊等除去)等の工程を経て、白水(希釈水)で希釈し最終の繊維濃度を0.01~0.50質量%に調成されたスラリーが抄紙機で抄き上げられ、湿紙が得られる。希釈したスラリーを攪拌機にて攪拌することは繊維束の単繊維化が促進し好ましい。繊維の分散性を均一にするために、工程中で分散剤、消泡剤、親水剤、帯電防止剤、高分子粘剤、離型剤、抗菌剤、殺菌剤等の薬品を添加する場合もある。
【0045】
抄紙方式としては、例えば、長網、円網、傾斜ワイヤー式等の抄紙方式を用いることができる。これらの抄紙方式の群から選ばれる一機の抄紙方式を有する抄紙機、これらの抄紙方式の群から選ばれる同種又は異種の2機以上の抄紙方式がオンラインで設置されているコンビネーション抄紙機を使用することができる。また、2層以上の多層構造の不織布を製造する場合には、各々の抄紙機で抄き上げた湿紙を積層する「抄き合わせ法」や、一方の層を形成した後に、該層上に繊維を分散したスラリーを流延して別の層を形成する「流延法」等を用いることができる。
【0046】
抄紙機で製造された湿紙を、ヤンキードライヤー、エアードライヤー、シリンダードライヤー、サクションドラム式ドライヤー、赤外方式ドライヤー等で乾燥することによって、原紙を得る。湿紙の乾燥の際に、ヤンキードライヤー等の熱ロールに密着させて熱圧乾燥させることによって、密着させた面の平滑性が向上する。熱圧乾燥とは、タッチロール等で熱ロールに湿紙を押し付けて乾燥させることを言う。熱ロールの表面温度は、100~180℃が好ましく、100~160℃がより好ましく、110~160℃がさらに好ましい。圧力は、好ましくは50~1000N/cm、より好ましくは100~800N/cmである。
【0047】
半透膜支持体のSkは、湿紙の表面平滑性や熱ロールでの熱圧乾燥の影響を受けるため、熱圧乾燥時の湿紙の熱ロールへの押し付け圧力を調整する必要がある。湿紙表面が荒れた場合や凹凸が生じた場合であっても、熱ロールの表面温度、湿紙の熱ロールへの押し付け圧力を調整することで、半透膜支持体のSkを調整することができる。半透膜支持体のSkを14μm以下にするためには、熱圧乾燥時に湿紙の熱ロールへの押し付け圧力を高めに設定し、300~800N/cmがさらに好ましい。
【0048】
半透膜支持体のSkを14μm以下にするためには、湿紙の熱圧乾燥の際に、ヤンキードライヤー等の熱ロールに密着させることで、平滑性が向上した面を半透膜支持体の塗布面とすることも効果的である。
【0049】
次に、熱ロールによる熱圧加工について説明するが、本発明は下記説明に限定されない。熱圧加工装置(熱カレンダー装置)において、ニップされているロール間に原紙が通されることによって、原紙が熱圧加工される。ロールの組み合わせとしては、2本の金属ロール、金属ロールと樹脂ロール、金属ロールとコットンロール等が挙げられる。2本のロールのうち、少なくとも一方のロールが加熱されて、熱ロールとして使用される。主に、金属ロールが熱ロールとして使用される。熱ロールによる熱圧加工は2回以上行うことも可能であり、その場合、直列に配置された2組以上の上記のロール組み合わせを使用しても良いし、1組のロール組み合わせを用いて、2回加工しても良い。必要に応じて、原紙の表裏を逆にしても良い。熱ロールの表面温度、ロール間のニップ圧力、原紙の加工速度を制御することによって、所望の半透膜支持体が得られる。
【0050】
また、原紙に主体合成繊維の毛羽立ちが発生した場合であっても、熱ロールによる熱圧加工時にバインダー合成繊維を最適に溶融・軟化させて毛羽立ちをホールドすることによって、離脱繊維の発生や膜塗布後の欠点になることを防ぐことができる。そのためには、熱ロール温度をバインダー合成繊維の融点付近まで高めること、ニップ圧力を高めることが重要となる。また、加工速度をコントロールすることによって、バインダー合成繊維による毛羽立ちのホールドをある程度調整することができる。また、バインダー合成繊維の含有量を高めることによって、毛羽立ちのバインダー合成繊維によるホールド度合いを高めることができる。
【0051】
半透膜支持体のSkを14μm以下にするためには、熱圧加工の条件の最適化が必要である。熱圧加工の条件を調整し、塗布面の平滑性を高めることによって、半透膜欠点を防ぐことができる。そのためには、熱ロール温度をバインダー合成繊維の融点付近まで高めること、加工速度をコントロールして半透膜支持体に十分な熱量を与えること、ニップ圧を高めることが重要となる。
【0052】
熱ロールの温度はバインダー合成繊維の融点に対して-50℃~-10℃の範囲内であることが好ましい。より好ましくは、-40℃~-15℃の範囲内であり、さらに好ましくは、-30℃~-15℃の範囲である。熱圧加工における熱ロールの温度がバインダー合成繊維の融点に対して-50℃を下回る場合、バインダー合成繊維の温度が十分に上がらず主体合成繊維との接着不良が生じ離脱繊維が発生する場合や、原紙が潰れ難くなり半透膜支持体の塗布面のSkが14μmを超える場合がある。一方、-10℃を超えた場合、バインダー合成繊維が失活し、バインダー合成繊維と主体合成繊維の接着が不十分になり、離脱繊維が発生する場合や、半透膜支持体の塗布面のSkが14μmを超える場合がある。
【0053】
熱圧加工におけるロールのニップ圧力は、好ましくは19~180kN/mであり、より好ましくは45~140kN/mである。ニップ圧力が19kN/m未満の場合、熱ロールと原紙の密着が低くなり繊維の毛羽立ちが起こり、離脱繊維が発生する場合や半透膜支持体のSkが14μmを超える場合がある。一方、180kN/mを超えた場合、半透膜支持体が高密度化し、成膜溶液の浸透が減り半透膜と半透膜支持体の接着性が低下する場合や、ロールへの過剰な負荷が増すことによって、ロール寿命を短くする場合がある。
【0054】
熱圧加工における加工速度は、好ましくは4~100m/minであり、より好ましくは10~80m/minである。速度が4m/min未満の場合、生産性が劣ると共に、半透膜支持体の密度が高まり、通気性が低下し、半透膜溶液が浸透しにくくなり膜と支持体の接着性が低下する場合がある。一方、100m/minを超えた場合、原紙への熱の伝達が不十分となり、主体合成繊維の毛羽立ちが発生することにより、離脱繊維が発生する場合や、半透膜支持体の塗布面のSkが14μmを超える場合がある。
【0055】
半透膜支持体の坪量は、特に限定しないが、20~150g/mが好ましく、より好ましくは50~100g/mである。20g/m未満の場合は、十分な引張強度が得られない場合がある。また、150g/mを超えた場合、通液抵抗が高くなる場合や厚みが増してユニットやモジュール内に規定量の半透膜を収納できない場合がある。
【0056】
また、半透膜支持体の密度は、0.5~1.0g/cmであることが好ましく、より好ましくは0.6~0.9g/cmである。半透膜支持体の密度が0.5g/cm未満の場合は、厚みが厚くなるため、ユニットに組み込める半透膜の面積が小さくなってしまい、結果として、半透膜の寿命が短くなってしまうことがある。一方、1.0g/cmを超える場合は、通液性が低くなることがあり、半透膜の寿命が短くなる場合がある。
【0057】
半透膜支持体の厚みは、50~150μmであることが好ましく、60~130μmであることがより好ましく、70~120μmであることがさらに好ましい。半透膜支持体の厚みが150μmを超えると、ユニットに組み込める半透膜の面積が小さくなってしまい、結果として、半透膜の寿命が短くなってしまうことがある。一方、50μm未満の場合、十分な引張強度が得られない場合や通液性が低くなって、半透膜の寿命が短くなる場合がある。
【実施例0058】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。以下、特に断りの無い限り、実施例に記載される部及び比率は質量を基準とする。
【0059】
≪主体合成繊維≫
PET繊維1:ポリエチレンテレフタレートからなる、繊維径7.5μm、繊維長5mm、Sb元素溶出量0.01μg/g以下の延伸ポリエステル繊維。
【0060】
PET繊維2:ポリエチレンテレフタレートからなる、繊維径7.5μm、繊維長5mm、Sb元素溶出量0.12μg/gの延伸ポリエステル繊維。
【0061】
PET繊維3:ポリエチレンテレフタレートからなる、繊維径7.5μm、繊維長6mm、Sb元素溶出量10.3μg/gの延伸ポリエステル繊維。
【0062】
PET繊維4:ポリエチレンテレフタレートからなる、繊維径12.5μm、繊維長5mm、Sb元素溶出量11.9μg/gの延伸ポリエステル繊維。
【0063】
≪バインダー合成繊維≫
PET繊維5:ポリエチレンテレフタレートからなる、繊維径11.8μm、繊維長5mm、Sb元素溶出量2.3μg/gの未延伸ポリエステル繊維。
【0064】
PET繊維6:ポリエチレンテレフタレートからなる、繊維径10.5μm、繊維長5mm、Sb元素溶出量0.04μg/gの未延伸ポリエステル繊維。
【0065】
PET繊維7:ポリエチレンテレフタレートからなる、繊維径11.8μm、繊維長5mm、Sb元素溶出量0.01μg/g以下の未延伸ポリエステル繊維。
【0066】
PET繊維8:ポリエチレンテレフタレートからなる、繊維径13.6μm、繊維長5mm、Sb元素溶出量0.01μg/g以下の未延伸ポリエステル繊維。
【0067】
PET繊維9:ポリエチレンテレフタレートからなる、繊維径13.6μm、繊維長10mm、Sb元素溶出量0.01μg/g以下の未延伸ポリエステル繊維。
【0068】
(原紙1~3及び5~16の製造:二段階分散有)
2mの分散タンクに水を投入後、表1に示す繊維配合で、バインダー合成繊維を先に分散タンクに投入し3分間分散した後、主体合成繊維を分散タンクに投入し7分間混合分散(分散濃度2.0%)して、傾斜ワイヤー/円網複合抄紙機を用い、傾斜ワイヤー上で形成した湿紙と、円網上で形成した湿紙を積層させた後、表面温度130℃のヤンキードライヤーにて熱圧乾燥し、目標坪量70g/mの原紙1~3及び5~16を得た。なお、傾斜ワイヤーと円網の繊維配合は、同じである。
【0069】
(原紙4の製造:二段階分散無)
2mの分散タンクに水を投入後、表1に示す繊維配合で、バインダー合成繊維と主体合成繊維を同時に分散タンクに投入し7分間混合分散(分散濃度2.0%)して、傾斜ワイヤー/円網複合抄紙機を用い、傾斜ワイヤー上で形成した湿紙と、円網上で形成した湿紙を積層させた後、表面温度130℃のヤンキードライヤーにて熱圧乾燥し、目標坪量70g/mの原紙4を得た。なお、傾斜ワイヤーと円網の繊維配合は同じである。
【0070】
【表1】
【0071】
(熱カレンダー処理)
得られた原紙に対して、金属ロール(熱ロール)-弾性ロールの組み合わせの熱カレンダー装置、又は、金属ロール(熱ロール)-金属ロール(熱ロール)の組み合わせの熱カレンダー装置にて、表2に記載する熱カレンダー条件で実施例1~16及び比較例1~7の半透膜支持体を得た。なお、最初に熱圧加工を行う第1ステージにて、原紙が金属ロール(熱ロール)に接する面(処理面)を塗布面とし、2回目に熱圧加工を行う第2ステージの処理面は、第1ステージと反対面とした。表2において、円網面が円網で形成された面であり、傾斜面が傾斜ワイヤーで形成された面である。
【0072】
【表2】
【0073】
実施例1~16及び比較例1~7で得られた半透膜支持体に対して、以下の測定及び評価を行い、結果を表3に示した。
【0074】
[坪量]
JIS P8124:2011に準拠して、坪量を測定した。
【0075】
[半透膜支持体の厚さと密度]
JIS P8118:2014に準拠して測定した。
【0076】
[テープ剥離試験:離脱繊維数]
半透膜支持体を幅45mm×長さ60mmに断裁して試料とする。断裁した半透膜支持体の塗布面に幅24mm、長さ100mmに切ったセロハン粘着テープ(ニチバン社製、商品名:エルパック(登録商標)LP24)を試料の中央部に長さ方向にテープ両端がはみ出すようゴムマット上で貼り付ける。テープを貼った試料の上で表面が平滑な金属ロール(直径4cm、長さ30cm、重さ3kg)を3回転がし、テープを試料に均一に貼り付ける。貼り付けたテープの試料からはみ出した部分を持ち、試料からテープをゆっくりと剥がし、テープに貼り付いた繊維を観察する。試料を5枚準備して、5回のテストを行った。試料から剥がしたテープの中央部(20mm×50mm)に存在する、離脱繊維の本数を計測し、5回のテストの平均数を算出した。
【0077】
[コア部のレベル差Skの測定]
半透膜支持体を幅45mm×長さ60mmに断裁して試料とする。共焦点レーザー顕微鏡(商品名:VK-X1050、キーエンス社製)を用い、観察倍率20倍に設定し、撮影サイズを縦3mm×横2mmに設定し、撮影を行う。計測領域は全領域を指定し、Skを測定する。
【0078】
[アンチモン元素溶出量の測定]
主体合成繊維、バインダー合成繊維又は半透膜支持体1.6gを、比抵抗18.2MΩ・cm、温度25℃の超純水0.20Lに24時間浸漬させて得られた溶出液30mLを採取し、これに硝酸(キシダ化学(株)、精密分析用、濃度60%)1μLを添加した後、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)(装置名:iCAP-Qc、Thermo Fisher Scientific社製)にて、溶出液に含まれるアンチモン元素含有量を測定した上、検量線法により定量した。さらに、アンチモン元素溶出量を<式1>にて算出した。なお、該ICP-MSのアンチモン定量下限値は0.1ppbであり、該測定に使用した超純水のアンチモン含有量は定量下限値以下であった。
【0079】
[塩阻止率の測定]
一定のクリアランスを有する定速塗布装置(商品名:TQC全自動フィルムアプリケーター、コーテック社製)を用いて、半透膜支持体の塗布面にポリスルホン樹脂のDMF溶液(濃度:18%)を125μmの厚さで塗布し、凝固浴で相分離させ、多孔性ポリスルホン膜を作製した。この多孔性ポリスルホン膜に、m-フェニレンジアミン2質量%、ラウリル硫酸ナトリウム0.15質量%を含む水溶液Aを接触させた後、余分の水溶液Aを除去して、水溶液Aの被覆層を形成した。次いで、水溶液Aの被覆層表面にトリメシン酸クロライド0.3質量%を含有する溶液Bを接触させ、余分な溶液Bを排出した。その後、120℃で乾燥を行い、分離機能層を形成し、多孔性ポリスルホン膜と分離機能層からなる複合半透膜が半透膜支持体の塗布面に設けられた分離膜を得た。
【0080】
分離膜を14cm×19cmに断裁し、平膜試験装置(商品名:SEPA CFII、Suez社)にセットした。25℃の3.0質量%の塩化ナトリウム水溶液を供給側と透過側の膜間差圧5.0MPaで通液した。この操作によって得られた透過水の電導度を測定し、塩阻止率(%)を算出した。塩阻止率は、塩化ナトリウム濃度と水溶液電導度から検量線を作成し、それを用いて<式2>より算出した。
【0081】
<式2>
塩阻止率(%)=(1-(透過液の塩化ナトリウム濃度)/(供給液の塩化ナトリウム濃度))×100
【0082】
[半透膜欠点評価]
分離膜を14cm×19cmに断裁し、平膜試験装置(商品名:SEPA CFII、Suez社)にセットした。200ppmの染料(ダイレクトブルー1、分子量:993)を含む水溶液を、25℃で膜の供給側と透過側の膜間差圧1.5MPaで通液した。その後、複合半透膜表面に堆積している染料を純水で洗い流し、分離膜を乾燥させ、染色部分(膜欠点部分)の数を測定した。
【0083】
0~1箇所は非常に良好なレベルであり、2~3箇所は良好なレベルであり、4~6箇所は使用可能なレベルであり、7箇所以上は膜性能が劣り使用不可レベルである。
【0084】
[半透膜裏抜け]
一定のクリアランスを有する定速塗布装置(商品名:Automatic Film Applicator、安田精機製作所社製)を用いて、台紙の上に半透膜支持体をセットし、半透膜支持体の塗布面に黒色の油性インキを混合したポリスルホン樹脂のDMF溶液(濃度:18%)を塗布し、塗布後に半透膜支持体を貫通して台紙に写ったポリスルホン樹脂の量を目視で観察し、半透膜の裏抜け評価を行った。
【0085】
1:全く裏抜けしていない。非常に良好なレベル。
2:小さな点状で、ごくわずかに裏抜けしている。良好なレベル。
3:小さな点状で、裏抜けしている。実用上、使用可能レベル。
4:大きな点状で、多く裏抜けしている。実用上、使用不可レベル。
【0086】
【表3】
【0087】
実施例1~16の半透膜支持体は、主体合成繊維とバインダー合成繊維とを含有する湿式不織布からなり、テープ剥離試験での離脱繊維が30本以下であり、かつ共焦点レーザー顕微鏡によって半透膜が設けられる塗布面の表面粗さを測定して得られるコア部のレベル差が14μm以下であるため、塩阻止率が高く、半透膜の欠点が少なく、半透膜が裏抜けし難いことが分かった。
【0088】
実施例1~3と比較例1及び2との比較並びに実施例7と比較例4及び5との比較から、第1ステージの熱ロール又は第2ステージの熱ロールの温度が低かった比較例1及び2並びに比較例4及び5の半透膜支持体は、離脱繊維が30本を超え、塩阻止率が低かった。
【0089】
バインダー合成繊維の含有量が25%である実施例5の半透膜支持体は、バインダー合成繊維の含有量が30%である実施例1の半透膜支持体と比較して、塩阻止率が低く、半透膜の欠点が多かったが、使用可能なレベルであった。一方、実施例5のPET繊維1を、Sb元素溶出量が多いPET繊維3に変えた比較例6は、離脱繊維が多く、塩阻止率が低いことが分かる。
【0090】
Sb元素溶出量が多いPET繊維3と、Sb元素溶出量が多く、かつ、繊維径が太いPET繊維4を配合し、第1ステージのロールの組み合わせを金属ロール-金属ロールに変えた比較例7は、離脱繊維が多く、コア部レベル差Skが14μmを超えるため、塩阻止率が低いことが分かる。
【0091】
半透膜支持体のSb元素溶出量が1.5μg/g以下である実施例1~15並びに比較例1、2、4及び5の半透膜支持体において、第1ステージ又は第2ステージの熱ロールの温度が低い比較例1、2、4及び5では、離脱繊維が30本を超え、コア部レベル差Skが高いため、塩阻止率が低いことが分かる。
【0092】
塗布面が円網面の実施例1の半透膜支持体に対し、塗布面が傾斜ワイヤー面である実施例4の半透膜支持体は、使用可能なレベルではあるが、半透膜の欠点が増加し、塩阻止率が低下することが分かる。
【0093】
原紙製造時に二段階分散を行った実施例6の半透膜支持体に対し、二段階分散を行わなかった比較例3の半透膜支持体は、コア部レベル差Skが14μmを超え、半透膜の欠点評価において使用不可のレベルであった。
【0094】
テープ剥離試験での離脱繊維が30本以下であり、コア部レベル差Skが14μm以下であり、主体合成繊維及びバインダー合成繊維のアンチモン元素溶出量が5μg/g未満であり、半透膜支持体のアンチモン元素溶出量が1.5μg/g未満である実施例1及び7の半透膜に対し、離脱繊維が30本以下であり、かつコア部レベル差Skが14μm以下であるが、主体合成繊維のアンチモン元素溶出量が5μg/gを超え、半透膜支持体のアンチモン元素溶出量1.5μg/gを超える実施例16の半透膜支持体は、使用可能なレベルではあるが、半透膜の欠点が増加し、塩阻止率が低下することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の半透膜支持体は、海水の淡水化、浄水器、食品の濃縮、廃水処理、血液濾過に代表される医療用、半導体洗浄用の超純水製造等の分野で利用することができる。