(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156541
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】湿性生体物質飛沫検出シート
(51)【国際特許分類】
G01N 33/00 20060101AFI20221006BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
G01N33/00 B
G01N33/50 X
G01N33/50 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060284
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】志野 成樹
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA40
2G045CB08
2G045CB30
2G045FA13
(57)【要約】
【課題】人体から生じる湿性生体物質の飛沫の付着を可視化する湿性生体物質飛沫検出シートを提供する。
【解決手段】透明支持体上に、微粒子および樹脂バインダーを少なくとも含有し、更に、グリセロール類から選択される少なくとも1種を含有する多孔質層を有することを特徴とする湿性生体物質飛沫検出用シート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明支持体上に、微粒子および樹脂バインダーを少なくとも含有し、更にグリセロール類から選択される少なくとも1種を含有する多孔質層を有することを特徴とする湿性生体物質飛沫検出シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿性生体物質の飛沫の付着を可視化する湿性生体物質飛沫検出シートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に感染症対策としてマスク、フェイスシールド、手袋、防護服等を用いて罹患した人体から生じる湿性生体物質(血液、喀痰、唾液、尿等)の飛沫を遮断する方策が講じられる。また、話すときや咳をしたときの呼気中に含まれる飛沫は空気の流れにより拡散するため、パーテイションによる飛散防止も有効な感染症対策となる。そしてパーテイションによる感染症対策は、飛沫の拡散や付着状況を把握してパーテイションを設置することによって、より効果的な対策となることが期待できる。しかしながら、唾液や喀痰に代表される呼気中の飛沫の大きさは0.01μmから数mm程度であり、そのほとんどが肉眼では見えないこと、また、視認可能な飛沫であっても乾燥すると付着した部位を特定しにくくなることから、飛沫の付着を簡便かつ短時間に可視化することは困難であった。
【0003】
飛沫の付着を可視化する方法として、例えば国際公開第2003/100400号(特許文献1)には、検査対象試料と同一、又は近似する物性を有し、かつ化学発光触媒を含む模擬試料を用いた飛沫を付着させたのち、基質溶液と反応させることにより発光させ、この発光を検出することにより、飛沫の付着を可視化する方法が開示されている。しかしながら、上述したような呼気中の飛沫には化学発光触媒を含ませることができないため、飛沫の付着を簡便かつ短時間に可視化する方法が求められていた。
【0004】
他方、特開2009-79974号公報(特許文献2)には、透光性を有する多孔質体を透過または反射した光の強度を検出するアルコール濃度センサによって正確にアルコール濃度を算出できる旨記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2003/100400号
【特許文献2】特開2009-79974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、人体から生じる湿性生体物質の飛沫の付着を可視化する湿性生体物質飛沫検出シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、以下の発明によって基本的に達成された。
透明支持体上に、微粒子および樹脂バインダーを少なくとも含有し、更に、グリセロール類から選択される少なくとも1種を含有する多孔質層を有することを特徴とする湿性生体物質飛沫検出シート。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、人体から生じる湿性生体物質の飛沫の付着を可視化する湿性生体物質飛沫検出シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明の湿性生体物質飛沫検出シートを用いた、湿性生体物質の検出は、フェイスシールドやパーテイション、壁等の湿性生体物質の飛沫が付着する可能性のある場所に該湿性生体物質飛沫検出シートを貼付し、湿性生体物質の飛沫そのものあるいは湿性生体物質の飛沫に含まれる水分により形成された飛沫痕を、肉眼あるいは顕微鏡等にて観察することで行われる。
【0011】
本発明の湿性生体物質飛沫検出シートが有する多孔質層は、付着した湿性生体物質の飛沫が含有する水分を速やかに吸収することができる。そして吸収された水分が蒸発すると、該水分を吸収していた部分の多孔質層は全光線透過率が上昇し、かつ該水分を吸収していた部分の周辺部では全光線透過率が低下する現象が発現し、前述した水分が蒸発した後に飛沫痕が生じる。そのため、有色の湿性生体物質飛沫のみならず、唾液や喀痰に代表される透明な湿性生体物質の飛沫の付着を可視化することができる。
【0012】
上記した現象について、更に詳細に説明する。本発明の湿性生体物質飛沫検出シートが有する多孔質層はグリセロール類を含有する。グリセロール類は多孔質層の全光線透過率を変化させる効果を有しており、多孔質層中におけるグリセロール類の含有量が増加するに従い全光線透過率が低下する傾向を有する。
【0013】
本発明の湿性生体物質飛沫検出シートの多孔質層に対し、湿性生体物質の飛沫が付着すると、該飛沫中の水分は多孔質層内部へ吸収され、多孔質層に含まれるグリセロール類と相溶する。グリセロール類が溶解した水分は湿性生体物質の飛沫付着部位の周囲へ拡散すると同時に、蒸発が進行する。これにより湿性生体物質の飛沫付着部位のグリセロール類の含有量が減少し(湿性生体物質飛沫付着部位の全光線透過率は高くなり)、湿性生体物質の飛沫付着部位の周辺部はグリセロール類の含有量が増加し(湿性生体物質の飛沫付着部位周辺部の全光線透過率は低くなり)、グリセロール類の含有量の差異(全光線透過率の差異)により飛沫痕が形成され、飛沫の付着を可視化することができる。
【0014】
本発明の湿性生体物質飛沫検出シートが有する透明支持体としては、全光線透過率が85%以上、ヘイズ値は30%以下である透明支持体が好適であり、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体等の塩化ビニル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリメチルメタクリレートに代表されるアクリル樹脂、トリアセチルセルロース、セロファン、ナイロン、ポリスチレン系樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリイミド、ポリフェニレンスルファイド等の各種樹脂フィルムを挙げることができる。これらの中でもコスト、汎用性の観点からトリアセチルセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネートから選ばれる樹脂フィルムが好ましい。
【0015】
多孔質層の透明支持体に対する接着性を改善するため、透明支持体はゼラチンや各種ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール等を含有する公知の下塗層を有していてもよく、予め接着性を改善するための層が設けられた易接着処理品(例えば易接着処理がなされたポリエチレンテレフタレートフィルム)を用いることも可能である。また透明支持体をコロナ処理あるいはプラズマ処理により濡れ性を改善することも好ましい。
【0016】
上記した下塗層の固形分量としては、0.5g/m2以下であることが好ましく、より好ましくは0.3g/m2以下、更に好ましくは0.1g/m2以下である。下限は0.01g/m2以上であることが望ましい。
【0017】
多孔質層が含有する微粒子としては、公知の微粒子を広く用いることができる。例えば軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、非晶質合成シリカ、アルミナ、コロイダルアルミナ、アルミナ水和物、リトポン、ゼオライト、加水ハロイサイト、水酸化マグネシウム等の無機微粒子、アクリルあるいはメタクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチレン/アクリル系樹脂、スチレン/ブタジエン系樹脂、スチレン/イソプレン系樹脂、メチルメタクリレート/ブチルメタクリレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、シリコーン系樹脂、尿素樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂等の有機微粒子が挙げられる。有機微粒子は上記した少なくとも1種以上の樹脂からなる真球状あるいは不定型の無孔質あるいは多孔質の有機微粒子等を挙げることができる。無論、上記した無機微粒子の1種以上と有機微粒子の1種以上を共に含有することもできる。上記した微粒子の中でも、湿性生体物質飛沫が含有する水分の吸収性の観点から無機微粒子を含有することが好ましく、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、炭酸マグネシウム、非晶質合成シリカ、アルミナ、アルミナ水和物がより好ましく、非晶質合成シリカ、アルミナ、アルミナ水和物が特に好ましい。また、湿性生体物質飛沫検出シートに可撓性が要求される場合には、アルミナ水和物が好適である。
【0018】
微粒子を用いて多孔質層を形成するためには、多孔質層の全固形分中に占める微粒子の割合は40質量%以上であることが好ましく、より好ましくは50質量%以上である。このように微粒子の割合が高い多孔質層は、湿性生体物質の飛沫が含有する水分の吸収性に優れるため、好ましい。
【0019】
上記した微粒子の中でも平均粒子径が500nm以下(一次粒子が凝集して二次粒子を形成している微粒子は平均二次粒子径が500nm以下)の微粒子が好ましい。かかる微粒子を含有する多孔質層は、湿性生体物質の飛沫が含有する水分を吸収した部分では全光線透過率が上昇し、かつ湿性生体物質の飛沫が含有する水分を吸収した部分の周辺部において全光線透過率が低下する現象を、より容易に検出できるため好ましい。
【0020】
非晶質合成シリカは、製造法によって湿式法シリカ、気相法シリカ及びその他に大別することができる。湿式法シリカは、更に製造方法によって沈降法シリカ、ゲル法シリカ、ゾル法シリカに分類される。本発明において多孔質層が含有する湿式法シリカとしては、沈降法シリカあるいはゲル法シリカを用いることが好ましく、沈降法シリカがより好ましい。沈降法シリカは珪酸ソーダと硫酸をアルカリ条件で反応させて製造され、粒子成長したシリカ粒子が凝集・沈降し、その後濾過、水洗、乾燥、粉砕・分級の工程を経て製品化される。沈降法シリカとしては、例えば東ソー・シリカ(株)からニップシール(登録商標)として、丸尾カルシウム(株)からトクシール(登録商標)、ファインシール(登録商標)として、水澤化学工業(株)からミズカシル(登録商標)として市販されている。ゲル法シリカは珪酸ソーダと硫酸を酸性条件下で反応させて製造する。熟成中に微小粒子は溶解し、他の一次粒子同士を結合するように再析出するため、明確な一次粒子は消失し、内部空隙構造を有する比較的硬い凝集粒子を形成する。ゲル法シリカとしては、例えば東ソー・シリカ(株)からニップジェル(登録商標)として、GCPジャパン(株)からシロイド(登録商標)、シロジェット(登録商標)として、水澤化学工業(株)からミズカシルとして市販されている。
【0021】
本発明に用いられる湿式法シリカとしては、平均一次粒子径は50nm以下が好ましく、より好ましくは3~40nmであり、かつ平均二次粒子径は500nm以下である湿式法シリカが好ましく、より好ましい平均二次粒子径は20~300nmである。湿式法シリカは水性媒体中で粉砕し分散された湿式法シリカ微粒子分散液の形で使用されることが好ましい。粉砕方法としては、湿式法シリカ粒子を機械的に粉砕する湿式分散法が好ましく使用され、これにはビーズミルなどのメディアミルを用いることが好ましい。ビーズミルは密閉されたベッセル内に充填されたビーズとの衝突により粉砕を行うものであり、ウィリー・エ・バッコーフェン社よりダイノーミルとして、淺田鉄工(株)よりグレンミル(登録商標)として、アシザワ・ファインテック(株)よりスターミル(登録商標)として市販されている。具体的にはプロペラ羽根型撹拌機、のこぎり歯状ブレード型撹拌機、ホモミキサー型撹拌機等で湿式法シリカと水性媒体を予備混合した後、メディアミルを用いて湿式法シリカを粉砕し、湿式法シリカ微粒子分散液とすることが好ましい。また更に高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー等の圧力式分散機、超音波分散機、及び薄膜旋回型分散機等を用いて粉砕し湿式法シリカ微粒子分散液とすることも好ましい。
【0022】
本発明でいう平均一次粒子径とは、微粒子の電子顕微鏡観察により一定面積内に存在する100個の一次粒子各々の投影面積に等しい円の直径を粒子径として平均粒子径を求めたものである。また平均二次粒子径とは、透過型電子顕微鏡による写真撮影で求めることができるが、簡易的にはレーザー散乱方式の粒度分布計(例えば、(株)堀場製作所製、LA910)や動的光散乱方式の粒度分布計(例えば、大塚電子(株)製、PAR-III)を用いて、個数メジアン径として測定することができる。
【0023】
気相法シリカは、湿式法に対して乾式法とも呼ばれ、一般的には火炎加水分解法によって作られる。具体的には四塩化ケイ素を水素及び酸素と共に燃焼して作る方法が一般的に知られているが、四塩化ケイ素の代わりにメチルトリクロロシランやトリクロロシラン等のシラン類も、単独または四塩化ケイ素と混合した状態で使用することができる。気相法シリカは日本アエロジル(株)からアエロジル(登録商標)、(株)トクヤマからレオロシール(登録商標)として市販されている。
【0024】
本発明において多孔質層が含有する気相法シリカの平均一次粒子径は40nm以下が好ましく、15nm以下がより好ましい。更に好ましくは平均一次粒子径が3~15nmでかつBET法による比表面積が200m2/g以上(好ましくは250~500m2/g)のものを用いることである。
【0025】
本発明でいうBET法とは、気相吸着法による粉体の表面積測定法の一つであり、吸着等温線から1gの試料の持つ総表面積、即ち比表面積を求める方法である。通常吸着気体としては、窒素ガスが多く用いられ吸着量を被吸着気体の圧、または容積の変化から測定する方法が最も多く用いられている。多分子吸着の等温線を表すのに最も著名なものは、Brunauer、Emmett、Tellerの式であってBET式と呼ばれ表面積決定に広く用いられている。BET式に基づいて吸着量を求め、吸着分子1個が表面で占める面積を掛けて表面積が得られる。
【0026】
気相法シリカの平均二次粒子径は500nm以下であることが好ましく、より好ましい平均二次粒子径は10~300nmである。気相法シリカは水性媒体中に分散された気相法シリカ微粒子分散液の形で使用されることが好ましい。具体的には、プロペラ羽根型撹拌機、のこぎり歯状ブレード型撹拌機、ホモミキサー型撹拌機等で気相法シリカと水性媒体を予備混合した後、ボールミル、ビーズミル、サンドグラインダー等のメディアミル、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー等の圧力式分散機、超音波分散機、及び薄膜旋回型分散機等を使用して分散し、気相法シリカ微粒子分散液とすることが好ましい。
【0027】
本発明において、上記した平均二次粒子径500nm以下の湿式法シリカ微粒子分散液あるいは気相法シリカ微粒子分散液の製造にあたり、分散液の高濃度化や分散安定性を向上させるため、公知の種々の方法を用いてもよい。例えば、特開2002-144701号公報、特開2005-1117号公報に記載されているアルカリ性化合物、またはカチオン性化合物、あるいはシランカップリング剤を用いることができるが、カチオン性化合物を用いることがより好ましい。
【0028】
上記したカチオン性化合物としては、ポリエチレンイミン、ポリジアリルアミン、ジアリルアミン誘導体由来の構造単位を有する重合物、ポリアリルアミン、アルキルアミン重合物、1~3級アミノ基や4級アンモニウム塩基を有するポリマーが好ましく用いられる。特にジアリルアミン誘導体由来の構造単位を有する重合物が好ましく用いられる。湿式法シリカあるいは気相法シリカの分散性及び分散液粘度の面で、これらのカチオン性化合物の分子量は、2,000~10万程度が好ましく、特に2,000~3万程度が好ましい。
【0029】
本発明において多孔質層が好ましく含有するアルミナとしては、酸化アルミニウムのγ型結晶であるγ-アルミナが好ましく、中でもδグループ結晶が好ましい。γ-アルミナは一次粒子を10nm程度まで小さくすることが可能であるが、通常は数千から数万nmの二次粒子結晶を超音波や高圧ホモジナイザー、対向衝突型ジェット粉砕機等で粉砕したものが使用できる。アルミナの平均二次粒子径は500nm以下であることが好ましく、より好ましくは20~300nmである。
【0030】
本発明において多孔質層が好ましく含有するアルミナ水和物はAl2O3・nH2O(n=1~3)の構成式で表される。アルミナ水和物は、一般にアルミニウムイソプロポキシド等のアルミニウムアルコキシドの加水分解、アルミニウム塩のアルカリによる中和、アルミン酸塩の加水分解等の公知の製造方法により得られる。アルミナ水和物の平均二次粒子径は好ましくは500nm以下、より好ましくは20~300nmである。
【0031】
本発明において多孔質層が好ましく含有する上記のアルミナ、及びアルミナ水和物は、酢酸、乳酸、ぎ酸、硝酸等の公知の分散剤によって分散され、アルミナ微粒子分散液、及びアルミナ水和物微粒子分散液の形で使用されることが好ましい。
【0032】
本発明において、多孔質層が含有する樹脂バインダーとしては、例えば、ポリビニルアルコール、シラノール変性、シリル変性、カチオン変性、ジアセトンアクリルアミド変性、アセトアセチル変性などの各種変性ポリビニルアルコール、酸化澱粉、エーテル化澱粉、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース誘導体、カゼイン、ゼラチン、大豆蛋白などの水溶性天然高分子化合物、スチレン-ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体などの共役ジエン系共重合体ラテックス、あるいはこれらの各種重合体のカルボキシル基などの官能基含有単量体による官能基変性重合体ラテックスなどのラテックス類を挙げることができ、これらを単独あるいは混合して用いることができる。この他、水溶性あるいは水分散性を有する公知の天然、あるいは合成樹脂バインダーを単独あるいは混合して用いることは特に限定されない。
【0033】
これらのうち、好ましいのは、ケン化度が80%以上の部分ケン化または完全ケン化したポリビニルアルコールあるいはシラノール変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル変性ポリビニルアルコールである。これらポリビニルアルコールの平均重合度は200~5000であることが好ましい。なお前記したポリビニルのケン化度と平均重合度は、JIS K6726-1994に準拠した値である。
【0034】
微粒子に対する樹脂バインダーの含有量は特に限定されないが、微粒子を用い多孔質層を形成するためには、樹脂バインダーの含有量は、微粒子に対して3~80質量%であることが好ましく、より好ましくは7~60質量%の範囲である。
【0035】
本発明において、多孔質層が含有する樹脂バインダーが硬膜性(架橋性)を有する場合は、多孔質層には該樹脂バインダーの硬膜剤を含有することが好ましい。硬膜剤の具体的な例としては、グリオキシル酸ナトリウム、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、グリオキザール、グルタルアルデヒドの如きアルデヒド系化合物、ジアセチル、クロルペンタンジオンの如きケトン化合物、ビス(2-クロロエチル)尿素、2-ヒドロキシ-4,6-ジクロロ-1,3,5-トリアジン、塩化ジルコニウム、臭化ジルコニウム、チタンアセチルアセテートの如き多価金属化合物、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミンの如きアミン化合物、アジピン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、1,3-ビス(ヒドラジノカルボノエチル)-5-イソプロピルヒダントインの如きヒドラジン化合物、米国特許第3,288,775号記載の如き反応性のハロゲンを有する化合物、米国特許第3,635,718号記載の如き反応性のオレフィンを持つ化合物、米国特許第2,732,316号記載の如きN-メチロール化合物、米国特許第3,103,437号記載の如きイソシアナート類、米国特許第3,017,280号、同2,983,611号記載の如きアジリジン化合物類、米国特許第3,100,704号記載の如きカルボジイミド系化合物類、米国特許第3,091,537号記載の如きエポキシ化合物、ジヒドロキシジオキサンの如きジオキサン誘導体、ホウ砂、ホウ酸、ホウ酸塩類の如き無機架橋剤等があり、これらを1種または2種以上組み合わせて用いることができる。硬膜剤の含有量は特に限定されないが、樹脂バインダーに対して、50質量%以下が好ましく、より好ましくは40質量%以下であり、特に好ましくは30質量%以下である。下限は0.1質量%以上であることが好ましい。
【0036】
樹脂バインダーとしてケン化度が80%以上の部分ケン化または完全ケン化したポリビニルアルコールあるいはシラノール変性ポリビニルアルコールを用いる場合、硬膜剤はホウ砂、ホウ酸、ホウ酸塩類が好ましく、ホウ酸が特に好ましい。これら硬膜剤の使用量はポリビニルアルコールに対し、40質量%以下が好ましく、より好ましくは30質量%以下であり、特に好ましくは20質量%以下である。下限は0.1質量%以上であることが好ましい。
【0037】
本発明において多孔質層はグリセロール類から選択される少なくとも1種を含有する。本発明においてグリセロール類とは、グリセロールおよびグリセロール誘導体を意味する。該グリセロール誘導体としては、複数のグリセロールが重合した構造を有するポリグリセロール、ポリグリセロールに酸化エチレンを付加重合して得られるポリオキシエチレンポリグリセリルエーテル、ポリグリセロールに酸化プロピレンを付加重合して得られるポリオキシプロピレンポリグリセリルエーテル、ポリグリセロールと脂肪酸をエステル化したポリグリセロール脂肪酸エステル等を例示することができる。本発明における多孔質層にはこれらの中でも、グリセロール、ポリグリセロール、およびポリオキシエチレンポリグリセリルエーテルを好適に用いることができる。
【0038】
ポリグリセロールとしては、例えば、阪本薬品工業(株)より、重合度2のポリグリセロールを含むものとしてジグリセリンS、重合度4のポリグリセロールを含むものとしてポリグリセリン#310、重合度6のポリグリセロールを含むものとしてポリグリセリン#500、重合度10のポリグリセロールを含むものとしてポリグリセリン#750等が市販されている。また(株)ダイセルより、重合度3のポリグリセロールを含むものとしてポリグリセリン03P(PGL03P)、重合度6のポリグリセロールを含むものとしてポリグリセリン06(PGL06)、重合度10のポリグリセロールを含むものとしてポリグリセリン10PSW(PGL10PSW)等が市販されている。
【0039】
ポリオキシエチレンポリグリセリルエーテルとしては、例えば、阪本薬品工業(株)より、平均分子量350のSC-E350、平均分子量750のSC-E750、平均分子量1000のSC-E1000等が市販されている。
【0040】
本発明において、多孔質層中におけるグリセロール類の含有量は特に限定されないが、本発明の効果を奏し、かつ多孔質層において湿性生体物質の飛沫が含有する水分を吸収するための空隙を確保するために、多孔質層の全質量中に占めるグリセロール類の割合は3~40質量%であることが好ましく、より好ましくは5~30質量%の範囲である。
【0041】
多孔質層はその他、必要に応じ、防腐剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、微粒子の分散剤、消泡剤、レベリング剤、粘度安定剤、pH調節剤などを含有することができる。また、付着した湿性生体物質の飛沫は人体にとって有害な菌あるいはウイルスを含む場合もあるため、公知の抗菌剤や抗ウイルス剤を含有させることも好ましい態様である。多孔質層の固形分量は1~50g/m2が好ましく、3~30g/m2がより好ましい。
【0042】
上記した多孔質層を透明支持体上に形成するにあたり、該多孔質層は上記した成分を含有する塗布液を作製し、該塗布液を透明支持体上に塗布し乾燥して形成する方法は、簡便であり好ましい。一方、上記したグリセロール類の含有量にもよるが、塗布液が該グリセロール類を含有することで塗布故障が生じる場合がある。このような問題を回避する観点から、本発明の多孔質層は、微粒子及び樹脂バインダーを少なくとも含有する塗布液を透明支持体上に塗布し乾燥した後、更に得られた層にグリセロール類を含有する塗布液を塗布し乾燥する二段階の工程により形成することが好ましい。
【0043】
第一段階である、微粒子及び樹脂バインダーを少なくとも含有する塗布液を透明支持体上に塗布し乾燥する工程では、微粒子及び樹脂バインダー等を、水等の適当な溶媒に溶解または分散させ、必要に応じ、有機溶媒、レベリング剤、着色染料、界面活性剤等を添加して塗布液を調製し、透明支持体上に該塗布液を塗布し乾燥する。塗布方式としては、スライドカーテン方式、スライドビード方式、スロットダイ方式、ダイレクトグラビアロール方式、リバースグラビアロール方式、スプレー方式、エアナイフ方式、ブレードコーティング方式、ロッドバーコーティング方式、スピンコート方式等の各種塗布方式が例示される。
【0044】
次いて第二段階では、グリセロール類を水等の適当な溶媒に溶解し、必要に応じ、抗菌剤、抗ウイルス剤、界面活性剤等を添加してグリセロール類塗布液を調製し、第一段階にて形成された層に、該グリセロール類塗布液を塗布、乾燥する。塗布方式としては、スライドカーテン方式、スライドビード方式、スロットダイ方式、ダイレクトグラビアロール方式、リバースグラビアロール方式、スプレー方式、エアナイフ方式、ブレードコーティング方式、ロッドバーコーティング方式、スピンコート方式、インクジェット方式等の各種塗布方式が例示される。
【実施例0045】
以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明の内容は実施例に限られるものではない。また、実施例及び比較例において「部」及び「%」は、特に明示しない限り固形分あるいは実質成分の質量部及び質量%を示す。
【0046】
(湿性生体物質飛沫検出シート1の作製)
水に硝酸2.5部とアルミナ水和物(平均一次粒子径15nm)100部を添加し、のこぎり歯状ブレード型分散機を用いて、固形分濃度30%の無機微粒子分散液1を得た。無機微粒子分散液中に分散しているアルミナ水和物の平均二次粒子径は160nmであった。この無機微粒子分散液1を用い、下記組成の多孔質層形成塗布液1を作製した。
【0047】
<多孔質層形成塗布液1>
無機微粒子分散液1 (無機微粒子の固形分として)100部
ポリビニルアルコール 9部
(ケン化度88%、平均重合度3500)
ホウ酸 0.5部
固形分濃度が15%になるように水で調整した。
【0048】
透明支持体として、易接着処理がなされた厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱ケミカル(株)製、全光線透過率89%、ヘイズ値6%)に、上記多孔質層形成塗布液1を、固形分量として10.0g/m2になるようにスライドビード塗布装置にて塗布し乾燥して多孔質層を形成した。
【0049】
次いで、上記多孔質層面に下記組成のグリセロール類塗布液1を、グリセロールの含有量として1.12g/m2になるようにリバースグラビアロール塗布装置を用いて塗布を行った。塗布後に乾燥を行い、湿性生体物質飛沫検出シート1を得た。該検出シート1が有する多孔質層の全質量中に占めるグリセロールの割合は10.1%であった。
【0050】
<グリセロール類塗布液1>
水 100.0部
グリセロール 17.0部
(富士フイルム和光純薬(株)製、試薬特級、純度99.5%以上)
【0051】
(湿性生体物質飛沫検出シート2の作製)
湿性生体物質飛沫検出シート1の作製において、グリセロール類塗布液1を下記組成のグリセロール類塗布液2へ変更し、グリセロールの含有量として3.05g/m2になるようにリバースグラビアロール塗布装置を用いて塗布を行った以外は同様にして、湿性生体物質飛沫検出シート2を得た。該検出シート2が有する多孔質層の全質量中に占めるグリセロールの割合は23.4%であった。
【0052】
<グリセロール類塗布液2>
水 100.0部
グリセロール 60.0部
(富士フイルム和光純薬(株)製、試薬特級、純度99.5%以上)
【0053】
(湿性生体物質飛沫検出シート3の作製)
湿性生体物質飛沫検出シート1の作製において、グリセロール類塗布液1を下記組成のグリセロール類塗布液3へ変更し、グリセロールとジグリセロールを合わせたグリセロール類の含有量として1.13g/m2になるようにリバースグラビアロール塗布装置を用いて塗布を行った以外は同様にして、実施例の湿性生体物質飛沫検出シート3を得た。該検出シート3が有する多孔質層の全質量中に占めるグリセロール類の割合は10.2%であった。
【0054】
<グリセロール類塗布液3>
水 100.0部
ジグリセリンS (グリセロール類の量で)17.0部
(阪本薬品工業(株)製、グリセロール0.9%、ジグリセロール95.4%)
【0055】
(湿性生体物質飛沫検出シート4の作製)
湿性生体物質飛沫検出シート1の作製において、グリセロール類塗布液1を下記組成のグリセロール類塗布液4へ変更し、グリセロールとポリグリセロールを合わせたグリセロール類の含有量として1.13g/m2になるようにリバースグラビアロール塗布装置を用いて塗布を行った以外は同様にして、実施例の湿性生体物質飛沫検出シート4を得た。該検出シート4が有する多孔質層の全質量中に占めるグリセロール類の割合は10.2%であった。
【0056】
<グリセロール類塗布液4>
水 100.0部
ポリグリセリン#310 (グリセロール類の量で)17.0部
(阪本薬品工業(株)製、グリセロール7.3%、ポリグリセロール87.2%)
【0057】
(湿性生体物質飛沫検出シート5の作製)
湿性生体物質飛沫検出シート1の作製において、グリセロール類塗布液1を下記組成のグリセロール類塗布液5へ変更し、ポリオキシエチレンポリグリセリルエーテルの含有量として1.11g/m2になるようにリバースグラビアロール塗布装置を用いて塗布を行った以外は同様にして、実施例の湿性生体物質飛沫検出シート5を得た。該検出シート5が有する多孔質層の全質量中に占めるグリセロール類の割合は10.0%であった。
【0058】
<グリセロール類塗布液5>
水 100.0部
SC-E750 (ポリオキシエチレンポリグリセリルエーテルの量で)17.0部
(阪本薬品工業(株)製)
【0059】
(湿性生体物質飛沫検出シート6の作製)
水にジメチルジアリルアンモニウムクロライドホモポリマー(分子量9000)4部と気相法シリカ(平均一次粒子径7nm、BET法による比表面積300m2/g)100部を添加し予備分散液を作製した後、高圧ホモジナイザーにて30MPaの条件下で2回通過処理して、固形分濃度20%の無機微粒子分散液2を作製した。該気相法シリカの平均二次粒子径は135nmであった。この無機微粒子分散液2を用い、下記組成の多孔質層形成塗布液2を作製した。
【0060】
<多孔質層形成塗布液2>
無機微粒子分散液2 (固形分として)104部
ポリビニルアルコール 45部
(ケン化度88%、平均重合度3500)
ホウ酸 6部
固形分濃度が9%になるように水で調整した。
【0061】
透明支持体として、易接着処理がなされた厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱ケミカル(株)製、全光線透過率89%、ヘイズ値6%)に、上記多孔質層形成塗布液2を、固形分量として10.0g/m2になるようにスライドビード塗布装置にて塗布し乾燥して多孔質層を形成した。
【0062】
次いで、多孔質層面に下記組成のグリセロール類塗布液6を、グリセロールとジグリセロールを合わせたグリセロール類の含有量として1.05g/m2になるようにリバースグラビアロール塗布装置を用いて塗布を行った。塗布後に乾燥を行い、実施例の湿性生体物質飛沫検出シート6を得た。該検出シート6が有する多孔質層の全質量中に占めるグリセロール類の割合は9.5%であった。
【0063】
<グリセロール類塗布液6>
水 100.0部
ジグリセリンS (グリセロール類の量で)25.0部
(阪本薬品工業(株)製、グリセロール0.9%、ジグリセロール95.4%)
【0064】
(湿性生体物質飛沫検出シート7の作製)
湿性生体物質飛沫検出シート1の作製において、グリセロール類塗布液1を塗布しない以外は同様にして、比較例の湿性生体物質飛沫検出シート7を得た。
【0065】
(湿性生体物質飛沫検出シート8の作製)
湿性生体物質飛沫検出シート6の作製において、グリセロール類塗布液6を塗布しない以外は同様にして、比較例の湿性生体物質飛沫検出シート8を得た。
【0066】
(湿性生体物質飛沫検出シート9の作製)
湿性生体物質飛沫検出シート1の作製において、グリセロール類塗布液1を下記組成のパラフィン塗布液1へ変更し固形パラフィンの含有量として1.11g/m2になるようにリバースグラビアロール塗布装置を用いて塗布を行った以外は同様にして、比較例の湿性生体物質飛沫検出シート9を得た。該検出シート9が有する多孔質層の全質量中に占める固形パラフィンの割合は10.0%であった。
【0067】
<パラフィン塗布液1>
n-ヘプタン 100.0部
固形パラフィン 26.0部
(日本精蝋(株)製、Paraffin Wax 115)
【0068】
(湿性生体物質飛沫検出シート10の作製)
湿性生体物質飛沫検出シート6の作製において、グリセロール類塗布液6を下記組成のパラフィン塗布液2へ変更し固形パラフィンの含有量として1.12g/m2になるようにリバースグラビアロール塗布装置を用いて塗布を行った以外は同様にして、比較例の湿性生体物質飛沫検出シート10を得た。該検出シート10が有する多孔質層の全質量中に占める固形パラフィンの割合は10.1%であった。
【0069】
<パラフィン塗布液2>
n-ヘプタン 100.0部
固形パラフィン 44.0部
(日本精蝋(株)製、Paraffin Wax 115)
【0070】
<湿性生体物質飛沫検出評価>
上記した湿性生体物質飛沫検出シート1~10を10cm×10cmのサイズにそれぞれ裁断し、被験者より30cm離した位置に設置したパーテイションに貼付した。その後被験者に噴嚔を1回させ、60分放置し乾燥させた後に湿性生体物質飛沫検出シート1~8をデジタルマイクロスコープ((株)キーエンス製VHX-5000)を用い透過光にて観察を行い、下記の基準に従い評価した。この結果を表1に示す。
〇:飛沫痕をはっきりと認識することができる。
△:飛沫痕を認識することができる。
×:飛沫痕が認識できない。
【0071】
【0072】
表1の結果より、本発明の湿性生体物質飛沫検出シートは、湿性生体物質の飛沫の付着を可視化できることが分かる。