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特開2022-156545建材用金属板及びこれを用いた建材用積層体
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  • 特開-建材用金属板及びこれを用いた建材用積層体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156545
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】建材用金属板及びこれを用いた建材用積層体
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20221006BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20221006BHJP
   B32B 15/18 20060101ALI20221006BHJP
   B32B 27/06 20060101ALI20221006BHJP
   C22C 38/42 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
B32B15/08 E
B32B15/18
B32B27/06
C22C38/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060288
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002462
【氏名又は名称】積水樹脂株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小島 典弘
(72)【発明者】
【氏名】山本 喜正
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AB04A
4F100AB13A
4F100AB16A
4F100AB17A
4F100AK01B
4F100BA01
4F100BA02
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100DD07A
4F100GB08
4F100JC00
4F100JK15A
4F100YY00A
(57)【要約】
【課題】優れた抗ウィルス性能を有する建材用金属板、及びこれを用いた建材用積層体を提供する。
【解決手段】Cuが3.6~4.5質量%、Niが8.5~10.0質量%、Crが18.0~20.0質量%含まれる銅ステンレス鋼板であって、前記銅ステンレス鋼板の表面粗さ(最大高さ粗さ)Rz=0.17μm以下である建材用金属板10と、合成樹脂製芯材20と裏面板30とを積層した建材用積層体を構成することによって、建材用金属板10側が優れた抗ウィルス性能を発現するので、建材用金属板10側を表面側に用いることによって抗ウィルス性能に優れた建材として利用することができる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cuが3.6~4.5質量%、Niが8.5~10.0質量%、Crが18.0~20.0質量%含まれる銅ステンレス鋼板であって、前記銅ステンレス鋼板の表面粗さ(最大高さ粗さ)Rz=0.17μm以下であることを特徴とする建材用金属板。
【請求項2】
請求項1に記載の建材用金属板と合成樹脂製芯材と裏面板とを積層したことを特徴とする建材用積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、室内の内装や建材に用いることができる抗ウィルス性能を有する金属板及びそれを用いた建材用積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物の内装、例えば、壁面や天井面の仕上げや装飾のための建材として、金属板が用いられている。材料としては、壁面等に金属板をそのまま設置する場合や、樹脂板に金属板を積層した積層体を用いる場合等がある。形状としては、平板として壁面全体に用いる場合や、いわゆる、巾木や目地材など、壁面の一部に用いる場合等がある。このように建材は、設置場所や用途に応じて、様々な形態が用いられている。
【0003】
建築物の管理者や利用者等が、このような建材に直接手を触れる場合がある。手を触れると、触れた場所に指紋が残るばかりでなく、利用者の汗が付着すると、その箇所が変色して外観が悪くなるおそれがある。一方、昨今の衛生意識の高まりにより、手の触れる箇所においては、抗菌性能や抗ウィルス性能の付与が求められている。
【0004】
建材に用いられる金属板としては、例えば、アルミニウム合金、ステンレス合金、チタン合金、銅合金等を挙げることができる。アルミニウム合金、ステンレス合金、チタン合金は、表面の研磨状態、例えば、ヘアライン仕上げや鏡面仕上げ等によっても異なるが、一般には手を触れても指紋が残りにくく、残った場合でも、拭き取り可能なことが多い。一方、抗菌性能や抗ウィルス性能は通常発現しない。
【0005】
銅合金は、合金成分によって、黄銅、青銅、白銅、洋白等として知られており、このような銅を多く含む合金は、抗菌性能や、抗ウィルス性能を有することが知られている。一方、通常の設置状態であっても、表面が徐々に錆びて変色することが多く、手を触れた箇所があれば、その部分のみが錆びて、拭き取り困難なことがある。
【0006】
これらの問題を解決するために、例えば特許文献1では、合金成分として銅を所定量配合することによって抗菌性能を有するステンレス鋼板が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005-105412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1に記載のステンレス鋼板は、抗ウィルス性能については言及されていなかった。したがって、前述の銅合金のように抗ウィルス性能を有するかどうか、抗ウィルス性能を有する場合であっても、どの程度の性能を有するかは判然としていなかった。
【0009】
本発明は、前記の如き問題点を解消し、優れた抗ウィルス性能を有する建材用金属板、及びこれを用いた建材用積層体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明者は鋭意研究した結果、合金成分として銅を所定量配合されたステンレス(以下、「銅ステンレス」と記載する。)鋼板が、所定の抗ウィルス性能を有するばかりではなく、表面の研磨状態によって、抗ウィルス性能に差が生じることを見いだした。しかも、表面粗度が所定の値より小さくなる場合、つまり、表面がより平滑な状態となることにより、抗ウィルス性能が著しく向上することを知得し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明に係る建材用金属板は、Cuが3.6~4.5質量%、Niが8.5~10.0質量%、Crが18.0~20.0質量%含まれる銅ステンレス鋼板であって、前記銅ステンレス鋼板の表面粗さ(最大高さ粗さ)Rz=0.17μm以下であることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明に係る建材用積層体は、前記建材用金属板と合成樹脂製芯材と裏面板とを積層したものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の建材用金属板によれば、建材用金属板の表面にウィルスが付着しても、所定の時間が経過すれば失活するので、この建材用金属板を用いた建材を手で触れても活性を有するウィルスが付着する可能性を低くすることができる。しかも、表面粗さは、いわゆる、鏡面仕上げに相当する平滑度合いであるので、建材として優れた装飾性を有するものとなる。
【0014】
本発明の建材用積層体によれば、抗ウィルス性能を有する建材用金属板を建材の表面側に用い、裏面板を壁面側に配置すればよいので、例えば、裏面板の表面粗度を、建材用金属板と異なる仕上げとしておけば、外観で表裏の見分けがつきやすく、施工時に表裏を間違いが生じにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る建材用積層体の実施の一形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について、図面に基づき以下に具体的に説明する。
図1は本発明に係る建材用積層体の実施の一形態を示す断面図である。建材用積層体100は、銅ステンレス鋼板からなる建材用金属板10と合成樹脂製の芯材20と裏面板30とをこの順で積層したものであり、建材用金属板10と合成樹脂製芯材20との間、及び合成樹脂製芯材20と裏面板30とはそれぞれ接着層を介して接着されている。建材用積層体100の厚さは、1~5mm程度が好適であり、芯材2の厚さは1~4mm、建材用金属板10及びステンレス鋼板30の厚さは0.1~1.5mmが好適である。
【0017】
建材用金属板10は、銅ステンレス鋼板からなるものであって、主要成分組成は、Cuが3.6~4.5質量%、Niが8.5~10.0質量%、Crが18.0~20.0質量%である。
【0018】
芯材20は、本形態では、押出成形により形成されるものであり、芯材に用いる合成樹脂はポリエチレンである。なお、芯材に用いる合成樹脂としては、ポリエチレン以外に、例えば、ポリプロピレン、ABS樹脂、AAS樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等を挙げることができる。また、前記合成樹脂に、充填材として、例えば、タルク、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、木粉等を適宜配合してもよい。
【0019】
裏面板30としては、本形態では、JIS G 4305で規定されるSUS304を用いたものであるが、これに限定されるものではなく、他のステンレス鋼板、例えば、SUS314、SUS430等を挙げることができる。なお、裏面板30として、銅ステンレス鋼板を選択してもよいが、建材用積層体100を、建築物の内装、例えば、壁面に取付ける場合、ステンレス鋼板30側が壁面側となるので、使用者や通行人が触れることがなく、抗ウィルス性能を有する必要はないので、上述のSUS304を使用することができる。また、裏面板の表面粗度を、銅ステンレス鋼板と異なる仕上げとしておけば、外観で表裏の見分けがつきやすくなる。
【0020】
建材用金属板10と芯材20とは、本形態では接着層を介して接着している。接着層としては、芯材20の成形時又は成形後に、ウレタン系、エポキシ系等の接着剤を塗布して形成するものでもよい。本形態では、芯材20としてポリエチレンを用いているので、ポリオレフィン系樹脂又はポリオレフィン系樹脂との相溶性の高い樹脂をベースとした接着製樹脂により接着層を形成している。
【0021】
裏面番30と芯材20とは、本形態では接着層を介して接着している。接着層としては、前述の建材用金属板10と芯材20とを接着するための接着剤と同じものを利用することができる。
【0022】
建材用金属板10は、上述の通り、成分組成としてCuを含むので、抗菌性能や抗ウィルス性能を期待することができる。このような性能を発現するのは、主にCu成分の溶出やCu成分の価数の変化に起因する効果とされるが、いずれにしても、建材用金属板10の表面付近に存在するCu成分に由来するものと考えられる。
【0023】
また、建材用金属板10の表面粗度が大きい方が、上記の効果を発現し易いものと考えられる。しかしながら、本発明者は鋭意研究した結果、表面の粗度、具体的には表面の研磨状態によって、抗ウィルス性能に差が生じることを見いだした。しかも、表面粗度が所定の値より小さくなる場合、要は、表面がより平滑な状態に近づくことにより、抗ウィルス性能が著しく向上することを知得し、本発明を完成するに至った。
【0024】
表面粗さを表す指標としては、様々なものがあるが、代表的なものとしては、最大高さ粗さ(Rz値;基準長さにおける、輪郭曲線の山高さの最大値と輪郭曲線の谷深さの最大値の和)を挙げることができる。このRz値が所定の値以下となると、抗ウィルス性能が大幅に上昇することを見いだした。Rz値が0.17μmとなると、抗ウィルス性能が大幅に向上する。Rz値が0.17μmとなるには、粒度800番の研磨材で研磨された研磨面に相当するものであって、いわゆる、鏡面に相当する表面である。
【0025】
表面粗さの測定は、JIS B 0633:2001(製品の幾何特性仕様(GPS)-表面性状:輪郭曲線方式-表面性状評価の方式及び手順)に基づいて実施した。具体的には、表面粗さ形状測定器(株式会社東京精密製、サーフコム130A)にて、板材の一方向と、概ね直交する他方向との2方向について、各10箇所ずつ測定して平均値を算出して各方向の表面粗さ(Rz値)とした。更にその平均値同士を平均して算出した値を建材用金属板10の表面粗さ(Rz値)とした。
【0026】
抗ウィルス性能試験は、JIS R1756(ファインセラミックス-可視光応答形光触媒材料の抗ウィルス性試験方法-バクテリオファージQβを用いる方法)の暗所条件に準拠して実施した。
【0027】
次に、本発明に係る建材用金属板10の実施例を示す。
【0028】
(実施例1)
建材用金属板10は、厚さ1mm、表面粗度800番相当の銅ステンレス鋼板であって、表面を粒度800番の研磨材で研磨したものである。
【0029】
(表面粗さの測定)
建材用金属板10から70×150mmに切り出し、研磨面の長さ方向と幅方向とで、それぞれ10箇所ずつ測定した。それぞれの方向での平均値を算出して表面粗さ(Rz値)とした。その結果を表1に示す。
【0030】
(抗ウィルス性能試験)
上述の通り、JIS R1756(暗所条件)に準拠して実施した。具体的には、建材用金属板10から50mm角に切り出して試験試料とした。この試験試料を滅菌済みプラスチックシャーレに置き、事前に調整した試験バクテリオファージ液(3.8×106pfu/ml)150μl接種した。この試験試料を37℃に調整した恒温室内に60分静置し、バクテリオファージ感染価の測定と抗ウィルス活性値の算出をおこなった。
【0031】
【表1】
【0032】
(比較例1)
銅ステンレス鋼板において、厚さ1mm、表面粗度400番相当品を比較例1として、実施例1と同様に、表面粗さの測定及び抗ウィルス性能試験を実施した。その結果を表1に示す。
【0033】
(比較例2)
厚さ100μmの抗ウィルス性能を付与していないポリエチレンテレフタレート(PET)製フィルムを比較例2として、実施例1と同様に抗ウィルス性能試験を実施した。その結果を表1に示す。
【0034】
抗ウィルス感染価は、以下の計算式に基づき算出した。その結果を表1に示す。
Mv=log10(B/C)
Mv:抗ウィルス活性値
B:比較例2(PETフィルム)の抗ウィルス性能評価試験後のバクテリオファージ感染価
C:各試料の抗ウィルス性能評価試験後のバクテリオファージ感染価
【0035】
表1において、実施例1は、抗ウィルス活性値が2以上、すなわち、試験後のバクテリオファージ感染価を比較すると、実質的に抗フィルス性能を有していないと考えられる比較例2に対して1/100以下となっており、十分な抗ウィルス性能を有していると考えられる。一方、比較例1は、抗ウィルス活性値が1未満であった。すなわち、試験後のバクテリオファージ感染価を比較すると、比較例2に対して1/10以下にも達しておらず、明らかに抗ウィルス性能を有するとまでは認められなかった。このように表面粗さの違いにより抗ウィルス性能に大きな差が生じることが示唆される。
【0036】
なお、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲内で当業者が思いつく各種変形を施したものも本発明の範囲内に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明に係る建材用金属板及びこれを用いた建材用積層体によれば、高い抗ウィルス性能を保持しているので、建築物の内装材、天井材として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0038】
10 建材用金属板
20 芯材
30 裏面板
100 建材用積層体

図1