(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156584
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法、及び炭化水素油の水素化処理方法
(51)【国際特許分類】
B01J 27/19 20060101AFI20221006BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20221006BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20221006BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20221006BHJP
C10G 45/08 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
B01J27/19 M
B01J37/02 101Z
B01J37/08
B01J37/04 102
C10G45/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060357
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000105567
【氏名又は名称】コスモ石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100209347
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】山田 晃
【テーマコード(参考)】
4G169
4H129
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA01A
4G169BA01B
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4H129KD37Y
4H129KD44X
4H129NA02
4H129NA37
(57)【要約】
【課題】従来の製法よりも得られる水素化処理触媒の収率が高い炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法の提供。
【解決手段】アルミナ担体に周期表第6族金属から選ばれる少なくとも1種の金属が触媒基準、酸化物換算で5~35質量%、並びに周期表第9族及び第10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属が触媒基準、酸化物換算で1~18質量%担持された炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法であって、前記アルミナ担体に周期表第6族金属から選ばれる少なくとも1種の金属、並びに周期表第9族及び第10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属が担持された触媒前駆体に対して、周期表第6族、第9族、及び第10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属を合計で触媒基準、酸化物換算で0.5質量%以上担持させる金属担持工程を1回以上行う、炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ担体に周期表第6族金属から選ばれる少なくとも1種の金属が触媒基準、酸化物換算で5~35質量%、並びに周期表第9族及び第10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属が触媒基準、酸化物換算で1~18質量%担持された炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法であって、
前記アルミナ担体に周期表第6族金属から選ばれる少なくとも1種の金属、並びに周期表第9族及び第10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属が担持された触媒前駆体に対して、周期表第6族、第9族、及び第10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属を合計で触媒基準、酸化物換算で0.5質量%以上担持させる金属担持工程を1回以上行う、炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。
【請求項2】
前記金属担持工程は、前記アルミナ担体に周期表第6族金属から選ばれる少なくとも1種の金属が触媒前駆体基準、酸化物換算で2.5~25質量%、並びに周期表第9族及び第10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属が触媒前駆体基準、酸化物換算で0.5~15質量%担持された前記触媒前駆体に対して、周期表第6族金属から選ばれる少なくとも1種の金属を触媒基準、酸化物換算で2.5~25質量%、並びに周期表第9族及び第10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属を触媒基準、酸化物換算で0.5~15質量%担持させる金属担持工程であり、前記金属担持工程を1回行う、請求項1に記載の炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。
【請求項3】
前記金属担持工程は、前記アルミナ担体に周期表第6族金属から選ばれる少なくとも1種の金属が触媒前駆体基準、酸化物換算で2.5~25質量%、並びに周期表第9族及び第10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属が触媒前駆体基準、酸化物換算で0.5~15質量%担持された前記触媒前駆体に対して、周期表第9族及び第10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属を触媒基準、酸化物換算で0.5~15質量%担持させる金属担持工程であり、前記金属担持工程を1回行う、請求項1に記載の炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。
【請求項4】
前記炭化水素油の水素化処理触媒は、前記アルミナ担体に周期表第6族金属から選ばれる少なくとも1種の金属が触媒基準、酸化物換算で10~35質量%、並びに周期表第9族及び第10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属が触媒基準、酸化物換算で4.5~18質量%担持された炭化水素油の水素化処理触媒である、請求項1~3のいずれか一項に記載の炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。
【請求項5】
前記金属担持工程は、含浸工程、焼成工程をこの順で含み、
前記焼成工程は、300~700℃で焼成する、請求項1~4のいずれか一項に記載の炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。
【請求項6】
アルミナ担体に周期表第6族金属から選ばれる少なくとも1種の金属が触媒基準、酸化物換算で5~35質量%、及び周期表第9族及び第10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属が触媒基準、酸化物換算で1~18質量%担持された炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法であって、
前記アルミナ担体に周期表第6族金属から選ばれる少なくとも1種の金属が担持された触媒前駆体に対して、周期表第6族金属から選ばれる少なくとも1種の金属を触媒基準、酸化物換算で0.5質量%以上、並びに周期表第9族及び第10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属を触媒基準、酸化物換算で1質量%以上担持させる金属担持工程を1回以上行う、炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。
【請求項7】
前記金属担持工程は、含浸工程、焼成工程をこの順で含み、
前記焼成工程は、300~700℃で焼成する、請求項6に記載の炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。
【請求項8】
水素分圧3~20MPa、反応温度280~420℃、液空間速度0.1~10hr-1で、請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法により製造された水素化処理触媒と、炭化水素油と、を接触処理する、炭化水素油の水素化処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法、及び炭化水素油の水素化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原油の蒸留や分解によって得られる各油留分は、一般に硫黄化合物を含み、これらの油を燃料として使用する場合には、この硫黄化合物に起因する硫黄酸化物等が発生する。そのため、原油から石油製品を製造する工程には、硫黄化合物を除去するための水素化処理工程が設けられている。
【0003】
水素化処理工程では、水素の存在下、水素化処理触媒に、原油由来の原料油を接触処理することにより原料油を水素化処理する。水素化処理触媒としては、金属酸化物担体にモリブデン、ニッケル、コバルト等の水素化活性金属が担持された触媒が広く用いられている。
【0004】
水素化処理の効率を高めるために、水素化処理触媒の性能向上が望まれている。水素化処理触媒の性能向上のためには、水素化活性金属を担体に高分散で担持することが有効な手段となり得る。
【0005】
特許文献1には、重質炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法が開示されている。この製造方法では、まず、リン・亜鉛含有アルミナ担体に、モリブデン酸アンモニウムをイオン交換水に溶解させて得られたモリブデン含浸液を含浸、乾燥、焼成することにより、触媒前駆体を得ている。そして、得られた触媒前駆体に、硝酸ニッケルをイオン交換水に溶解させて得られたニッケル含浸液を含浸、乾燥、焼成することにより、重質炭化水素油の水素化処理触媒を製造している。得られた水素化処理触媒は、モリブデンを触媒基準、酸化物換算で12質量%、ニッケルを触媒基準、酸化物換算で4質量%含有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の水素化処理触媒の製造方法は、本分野で広く知られる水素化処理触媒の製造方法である。一般に、水素化処理触媒の製造方法で使用される含浸液は、上述のモリブデン酸アンモニウム、硝酸ニッケル等の水素化活性金属原料を溶解させるためにクエン酸や硝酸等の添加剤が含まれることにより、pHが低く、含浸時に担体の一部が溶解して、得られる水素化処理触媒の物性が損なわれ、水素化活性に影響する場合がある。
【0008】
活性向上のために水素化活性金属の担持量を増やすことがある。この場合、含浸液により多くの量の水素化活性金属原料を溶解させる必要がある。水素化活性金属原料の溶解の促進のためには、含浸液に含まれるクエン酸や硝酸等の添加剤の量を増やす必要がある。その結果、触媒焼成時にこれらの添加剤由来の分解ガス発生量が多くなり、分解ガス発生時の体積膨張により触媒が粉化し、触媒収率が低下することがある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、従来の製法よりも得られる水素化処理触媒の収率が高い炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法及び前記製造方法により製造された炭化水素油の水素化処理触媒を用いた炭化水素油の水素化処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の態様を有する。
[1] アルミナ担体に周期表第6族金属から選ばれる少なくとも1種の金属が触媒基準、酸化物換算で5~35質量%、並びに周期表第9族及び第10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属が触媒基準、酸化物換算で1~18質量%担持された炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法であって、前記アルミナ担体に周期表第6族金属から選ばれる少なくとも1種の金属、並びに周期表第9族及び第10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属が担持された触媒前駆体に対して、周期表第6族、第9族、及び第10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属を合計で触媒基準、酸化物換算で0.5質量%以上担持させる金属担持工程を1回以上行う、炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。
[2] 前記金属担持工程は、前記アルミナ担体に周期表第6族金属から選ばれる少なくとも1種の金属が触媒前駆体基準、酸化物換算で2.5~25質量%、並びに周期表第9族及び第10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属が触媒前駆体基準、酸化物換算で0.5~15質量%担持された前記触媒前駆体に対して、周期表第6族金属から選ばれる少なくとも1種の金属を触媒基準、酸化物換算で2.5~25質量%、並びに周期表第9族及び第10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属を触媒基準、酸化物換算で0.5~15質量%担持させる金属担持工程であり、前記金属担持工程を1回行う、[1]に記載の炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。
[3] 前記金属担持工程は、前記アルミナ担体に周期表第6族金属から選ばれる少なくとも1種の金属が触媒前駆体基準、酸化物換算で2.5~25質量%、並びに周期表第9族及び第10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属が触媒前駆体基準、酸化物換算で0.5~15質量%担持された前記触媒前駆体に対して、周期表第9族及び第10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属を触媒基準、酸化物換算で0.5~15質量%担持させる金属担持工程であり、前記金属担持工程を1回行う、[1]に記載の炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。
[4] 前記炭化水素油の水素化処理触媒は、前記アルミナ担体に周期表第6族金属から選ばれる少なくとも1種の金属が触媒基準、酸化物換算で10~35質量%、並びに周期表第9族及び第10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属が触媒基準、酸化物換算で4.5~18質量%担持された炭化水素油の水素化処理触媒である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。
[5] 前記金属担持工程は、含浸工程、焼成工程をこの順で含み、前記焼成工程は、300~700℃で焼成する、[1]~[4]のいずれか一項に記載の炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。
[6] アルミナ担体に周期表第6族金属から選ばれる少なくとも1種の金属が触媒基準、酸化物換算で5~35質量%、及び周期表第9族及び第10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属が触媒基準、酸化物換算で1~18質量%担持された炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法であって、前記アルミナ担体に周期表第6族金属から選ばれる少なくとも1種の金属が担持された触媒前駆体に対して、周期表第6族金属から選ばれる少なくとも1種の金属を触媒基準、酸化物換算で0.5質量%以上、並びに周期表第9族及び第10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属を触媒基準、酸化物換算で1質量%以上担持させる金属担持工程を1回以上行う、炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。
[7] 前記金属担持工程は、含浸工程、焼成工程をこの順で含み、前記焼成工程は、300~700℃で焼成する、[6]に記載の炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。
[8] 水素分圧3~20MPa、反応温度280~420℃、液空間速度0.1~10hr-1で、[1]~[7]のいずれか一項に記載の製造方法により製造された水素化処理触媒と、炭化水素油と、を接触処理する、炭化水素油の水素化処理方法。
[9] 水素分圧3~20MPa、反応温度280~420℃、液空間速度0.1~10hr-1で、[1]~[7]のいずれか一項に記載の製造方法により製造された水素化処理触媒と、炭化水素油と、を接触処理する、水素化炭化水素油の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来の製法よりも得られる水素化処理触媒の収率が高い炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法及び前記製造方法により製造された炭化水素油の水素化処理触媒を用いた炭化水素油の水素化処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1-3の触媒CのEPMA分析によって得られた、モリブデン元素のマッピング図である。
【
図2】実施例1-3の触媒CのEPMA分析によって得られた、ニッケル元素のマッピング図である。
【
図3】実施例1-4の触媒DのEPMA分析によって得られた、モリブデン元素のマッピング図である。
【
図4】実施例1-4の触媒DのEPMA分析によって得られた、ニッケル元素のマッピング図である。
【
図5】比較例1-4の触媒前駆体DのEPMA分析によって得られた、モリブデン元素のマッピング図である。
【
図6】比較例1-4の触媒前駆体DのEPMA分析によって得られた、ニッケル元素のマッピング図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下の記載は本発明の実施態様の一例であり、本発明はこれらの内容に限定されず、その要旨の範囲内で変形して実施することができる。
【0014】
≪炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法≫
本実施形態の炭化水素油の水素化処理触媒(以下、単に「水素化処理触媒」ともいう。)の製造方法は、アルミナ担体に周期表第6族金属から選ばれる少なくとも1種の金属が触媒基準、酸化物換算で5~35質量%、並びに周期表第9族及び第10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属が触媒基準、酸化物換算で1~18質量%担持された炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法である。本実施形態の水素化処理触媒の製造方法は、前記アルミナ担体に周期表第6族金属から選ばれる少なくとも1種の金属、並びに周期表第9族及び第10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属が担持された触媒前駆体に対して、周期表第6族、第9族、及び第10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属を触媒基準、酸化物換算で0.5質量%以上担持させる金属担持工程を1回以上行う。
【0015】
本明細書において「周期表第6族金属」(以下、「第6族金属」ということがある)とは、長周期型周期表における第6族金属を意味し、「周期表第9族及び第10族金属」(以下、「第9族及び第10族金属」ということがある)とは、長周期型周期表における第9族及び第10族金属を意味する。
第6族金属、並びに第9族及び第10族金属を総称して「水素化活性成分」ともいう。
【0016】
本実施形態の炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法では、前記触媒前駆体を原料として、水素化処理触媒を製造する。また、前記触媒前駆体はアルミナ担体を原料として製造することができる。以下、アルミナ担体、触媒前駆体、水素化処理触媒、金属担持工程について説明する。
【0017】
<アルミナ担体>
本明細書においてアルミナ担体とは、アルミナを主成分として含む担体を意味する。具体的には、アルミナ担体の総質量に対するアルミナの含有割合が、80質量%以上であるアルミナ担体を意味する。
【0018】
アルミナとしては、α-アルミナ、β-アルミナ、γ-アルミナ、δ-アルミナ等の種々のアルミナを使用することができるが、多孔質で高比表面積であるアルミナが好ましく、なかでもγ-アルミナがより好ましい。
アルミナの純度は、98質量%以上が好ましく、99質量%以上がより好ましい。アルミナ中の不純物としては、SO4
2-、Cl-、Fe2O3、Na2O等が挙げられるが、これらの不純物はできるだけ少ないことが好ましく、不純物全量で2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。成分毎ではSO4
2-が1.5質量%以下、Cl-、Fe2O3、Na2Oはそれぞれ0.1質量%以下であることが好ましい。
【0019】
アルミナ担体は、アルミナ以外の酸化物を含んでいてもよい。アルミナ以外の酸化物としては、ゼオライト、シリカ、ジルコニア、チタニア、ボリア、酸化リン、酸化亜鉛等が例として挙げられ、酸化リン、酸化亜鉛、チタニア、ボリアが好ましく、酸化リン、酸化亜鉛が特に好ましい。
【0020】
アルミナ担体に含まれる前記酸化物は1種でも2種以上でもよい。アルミナ担体にこれらの酸化物が含まれる場合、アルミナ担体は、アルミナとこれらの酸化物の混合物でもよく、アルミナとこれら酸化物の複合酸化物でもよい。
【0021】
アルミナ担体に、アルミナ以外の酸化物が含まれる場合、アルミナ担体の総質量に対するアルミナの含有割合は、80~99.9質量%であることが好ましく、82.5~99.8質量%であることがより好ましく、85~99.6質量%であることがさらに好ましい。
【0022】
アルミナ担体が酸化リンを含む場合、アルミナ担体の総質量に対する酸化リンの含有割合は、0.01~10質量%であることが好ましく、0.01~5質量%であることがより好ましい。
アルミナ担体が酸化亜鉛を含む場合、アルミナ担体の総質量に対する酸化亜鉛の含有割合は、0.01~15質量%であることが好ましく、0.01~10質量%であることがより好ましい。
アルミナ担体がシリカを含む場合、アルミナ担体の総質量に対するシリカの含有割合は、0.01~20質量%であることが好ましく、0.01~18質量%であることがより好ましい。
アルミナ担体がチアニアを含む場合、アルミナ担体の総質量に対するチタニアの含有割合は、0.01~20質量%であることが好ましく、0.01~17.5質量%であることがより好ましい。
アルミナ担体がボリアを含む場合、アルミナ担体の総質量に対するボリアの含有割合は、0.01~20質量%であることが好ましく、0.01~15質量%であることがより好ましい。
【0023】
アルミナ担体の総質量に対するゼオライト、シリカ、ボリア、酸化リン、チタニア、酸化亜鉛、及びジルコニアから選ばれる少なくとも1種以上の酸化物の合計含有割合は0.1~20質量%が好ましく、0.2~17.5質量%がより好ましく、0.4~15質量%がより好ましい。ゼオライト、シリカ、ボリア、酸化リン、チタニア、酸化亜鉛、及びジルコニアとしては、一般に、この種の触媒の担体成分として使用されるものを使用することができる。
【0024】
アルミナ担体中のアルミナを含む各酸化物の含有割合は、各酸化物の元素換算の質量を測定し、アルミナはAl2O3、酸化リンはP2O5、酸化亜鉛はZnO、シリカはSiO2、チタニアはTiO2、ボリアはB2O3、ジルコニアはZrO2に換算した値をアルミナ担体の総質量で除すことにより求めることができる。また、アルミナの含有割合は、アルミナ担体の総質量からアルミナ以外の酸化物の含有割合を減じることによっても求めることができる。
本明細書において、アルミナ担体、触媒前駆体、水素化処理触媒中の元素換算の質量は、誘導結合プラズマ発光分析により測定することができる。
【0025】
(担体の物性)
本実施形態のアルミナ担体の比表面積は、窒素吸着法(BET法)による測定値で、200~400m2/gであることが好ましく、250~360m2/gであることがより好ましい。比表面積が前記範囲の下限値以上であると、水素化活性成分が充分分散するため、水素化活性が高くなる。比表面積が前記範囲の上限値以下であると、担体が充分な大きさの細孔径を有するため、水素化処理触媒の細孔径も充分な大きさとなる。そのため、硫黄化合物の触媒細孔内への拡散が充分となり、水素化活性が高くなる。すなわち、比表面積が前記範囲内であると、水素化活性成分の分散性が良好であり、かつ充分な大きさの細孔径を有する水素化処理触媒が得られる。
【0026】
本実施形態のアルミナ担体の水銀圧入法で測定される細孔分布における平均細孔径は、4~12nmであることが好ましく、6~10nmであることがより好ましい。平均細孔径が前記範囲内であると、充分な細孔内表面積を有し、かつ硫黄化合物の触媒細孔内への拡散が充分となり、水素化活性が高くなる。
【0027】
本実施形態のアルミナ担体の細孔容積は、水銀圧入法による測定値で、0.5~0.9mL/gであることが好ましく、0.55~0.85mL/gであることがより好ましい。細孔容積が前記範囲の下限値以上であると、通常の含浸法で触媒を調製する場合、細孔内に入り込む溶媒量が充分となる。溶媒量が充分であると、水素化活性成分が溶媒によく溶解し、水素化活性成分の分散性が向上し、高活性の触媒となる。水素化活性成分の溶解性を上げるために、硝酸等の酸を多量に加える方法があるが、加えすぎると担体の低表面積化が起こり、水素化活性低下の主原因となる。細孔容積が前記範囲の上限値以下であると、比表面積が充分に大きくなり、水素化活性成分の分散性が向上する。すなわち、細孔容積が前記範囲内であると、充分な比表面積を有し、かつ細孔容積内に充分な量の溶媒が入り込めるため、水素化活性成分の溶解性と分散性が共に良好になり、水素化活性がより向上する。
【0028】
(アルミナ担体の製造方法)
本実施形態のアルミナ担体は、本分野で公知の方法により製造することができる。以下、一例を説明する。
本実施形態のアルミナ担体の製造方法は、例えば、アルミナゲルを調製するアルミナゲル調製工程、前記アルミナゲルを混錬して混練物を得る混錬工程、前記混練物を成形して成形品を得る成形工程、及び前記成形品を乾燥、焼成して焼成体としてのアルミナ担体を得る焼成工程を有する。
【0029】
アルミナ担体が、上述のゼオライト、シリカ、ジルコニア、チタニア、ボリア、酸化リン、酸化亜鉛等のアルミナ以外の酸化物を含む場合、前記アルミナゲル(混錬中のアルミナゲルを含む)、前記混錬物、及び前記成形品のいずれかに、前記酸化物又はこれらの原料化合物(以下、「酸化物原料」ともいう)を添加すればよい。中でも混錬工程中のアルミナゲルに酸化物原料を添加し、混錬工程を行うことが好ましい。
【0030】
アルミナ原料は、アルミニウムを含む物質であればどのようなものでも使用できるが、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム等のアルミニウム塩が好ましい。これらのアルミナ原料は、通常水溶液として供され、その濃度は特に制限されないが、2~50質量%が好ましく、5~40質量%がより好ましい。
【0031】
アルミナゲルの調製としては、例えば、攪拌釜で硫酸水溶液、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウムを混合してスラリーを調製する。得られたスラリーに対して、回転円筒型連続真空濾過器による水分除去、純水洗浄を行い、アルミナゲルを得る。
【0032】
次いで、得られたアルミナゲルを濾液中にSO4
2-、Na+が検出できなくなるまで洗浄した後、前記アルミナゲルを純水に混濁させて均一なスラリーとする。得られたアルミナゲルスラリーを、水分量が60~90質量%となるまで脱水して、ケーキを得る。
【0033】
前記アルミナゲルスラリーの脱水は、圧搾濾過器によって行うことが好ましい。圧搾濾過器とは、スラリーに圧縮空気又はポンプ圧を作用させて濾過する装置であり、一般に圧濾器とも呼ばれる。圧搾濾過器には板枠型と凹板型とがある。板枠型圧濾器は、濾板と濾枠が交互に端板間に締め付けられており、濾枠の中へスラリーを圧入して濾過する。濾板は濾液流路となる溝を有し、濾枠には濾布が張ってある。一方、凹板型圧濾器は、濾布と凹板型の濾板を交互に並べて端板との間で締め付け濾室を構成している(参考文献:化学工学便覧p715)。
【0034】
圧搾濾過器でアルミナゲルスラリーの脱水を行うことにより、得られる担体の表面状態を向上させることができ、水素化活性成分の硫化度を向上させることができる。なお、この圧搾濾過器による脱水工程は、アルミナゲル調製工程、及び前記混練工程のうち少なくとも一方の工程の後に行うことが好ましく、両方の工程の後に行ってもよい。中でも、アルミナゲル調製工程後、前記混錬工程前に行うことがより好ましい。
【0035】
前記方法の他にも、アルミナゲルの調製方法としては、アルミナ原料を含む水溶液をアルミン酸ナトリウム、アルミン酸、アンモニア等の中和剤で中和する方法、ヘキサンメチレンテトラミン、炭酸カルシウム等の沈殿剤と混合する方法等が挙げられる。
中和剤の使用量は、特に制限されないが、アルミナ原料を含む水溶液と中和剤の合計量に対して、30~70質量%が好ましい。沈殿剤の使用量は、特に制限されないが、アルミナ原料を含む水溶液と沈殿剤の合計量に対して、30~70質量%が好ましい。
【0036】
上述の酸化物原料をアルミナゲルに添加する場合、上述の方法によりアルミナゲルを調製し、得られたアルミナゲルに対して、熟成、洗浄、脱水乾燥、水分調整を行った後に添加を行えばよく、共沈法、混練法等により、アルミナゲルに酸化物原料を添加することができる。
【0037】
混練法によりアルミナゲルに酸化物原料を添加する場合、アルミナゲル調製工程で得られたアルミナゲルに、酸化物原料を添加し、混練を行う。具体的には、50~90℃に加熱したアルミナゲルの水分調整物に、15~90℃に加熱した酸化物原料を添加する。そして、加熱ニーダー等を用いて混練、攪拌し、混練物を得る。なお、上述したように、圧搾濾過器による脱水を、アルミナゲルと酸化物原料とを混練、攪拌した後に行ってもよい。酸化物原料は、固体として添加してもよく、液体として添加してよく、酸化物原料を溶媒に溶解又は懸濁した液体として添加してもよい。
【0038】
酸化物原料としては、本分野で公知の原料を使用することができる。
【0039】
酸化亜鉛を含むアルミナ担体を製造する場合、添加する亜鉛酸化物原料としては、亜鉛単体、種々の亜鉛化合物を使用することができ、酸化亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、炭酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、水酸化亜鉛、シュウ酸亜鉛、リン酸亜鉛、アルミン酸亜鉛、チタン酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛等が例として挙げられ、なかでも酸化亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、アルミン酸亜鉛が好ましく、硝酸亜鉛、酸化亜鉛、アルミン酸亜鉛が特に好ましい。
【0040】
亜鉛酸化物原料が酸化亜鉛等の固体の場合、前記アルミゲルに亜鉛酸化物原料を硝酸等の酸とともに添加して前記混錬工程を行うことが好ましい。亜鉛酸化物原料が固体の場合、その平均粒子径は0.01~5μmが好ましく、0.01~2μmがより好ましく、0.01~1μmがさらに好ましい。
亜鉛酸化物原料の平均粒子径は、JIS R1629に準拠したレーザー回折散乱法により測定して得られた粒度分布の体積平均である。
【0041】
酸化リンを含むアルミナ担体を製造する場合、添加するリン酸化物原料としては、リン単体、種々の化合物を使用することができ、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸、リン酸アルミニウム等が例として挙げられ、なかでもオルトリン酸が好ましい。
【0042】
得られた混練物を成形、乾燥、焼成して、焼成体を得る。上記混練物の成形に当たっては、押出し成形、加圧成形等の種々の成形方法により行うことができる。また、得られた成形品の乾燥温度は15~150℃が好ましく、80~120℃がより好ましい。乾燥時間は30分間以上が好ましい。前記焼成の焼成温度は必要に応じて適宜設定できるが、例えばγ-アルミナとするための焼成温度は、450℃以上が好ましく、480~600℃がより好ましい。焼成時間は2時間以上が好ましく、3~12時間がより好ましい。
【0043】
<金属担持工程>
本実施形態の水素化処理触媒は、触媒前駆体に対して、周期表第6族、第9族、及び第10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属を合計で触媒基準、酸化物換算で0.5質量%以上担持させる金属担持工程を1回以上行うことにより製造することができる。
【0044】
本実施形態の触媒前駆体は、アルミナ担体に対して、周期表第6族、第9族、及び第10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属を合計で触媒前駆体基準、酸化物換算で0.5質量%以上担持させる金属担持工程を1回以上行うことにより製造することができる。
【0045】
以下、「金属担持工程」とは、周期表第6族、第9族、及び第10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属を合計で触媒基準(又は触媒前駆体基準)、酸化物換算で0.5質量%以上担持させることを意味する。
【0046】
すなわち、本実施形態の水素化処理触媒は、アルミナ担体に対して、金属担持工程を2回以上行うことにより製造することができる。
【0047】
本実施形態の金属担持工程の種類としては以下の3種類が挙げられる。
【0048】
(金属担持1) 第6族金属を担持させる。
(金属担持2) 第9族及び/又は第10族金属を担持させる。
(金属担持3) 第6族金属、並びに第9族及び/又は第10族金属を担持させる。
【0049】
第6族金属としては、モリブデン、タングステン、クロム等が挙げられ、なかでも単位質量当たりの水素化活性が高いモリブデンが好ましい。
【0050】
第9族及び第10族金属としては、ニッケル、コバルト等が挙げられ、なかでも水素化能が高く、触媒調製コストが低いニッケルが好ましい。
【0051】
金属担持工程(金属担持1又は3)における、第6族金属の担持量は、触媒基準(又は触媒前駆体基準)、酸化物換算で0.5質量%以上であることが好ましく、2.5質量%以上であることがより好ましく、7質量%以上であることがさらに好ましく、5質量%以上が特に好ましく、5質量%以上が最も好ましい。なお、第6族金属の担持量の上限は、目的とする水素化処理触媒、触媒前駆体の組成、金属担持工程の種類、及び金属担持工程の回数から適宜定まる。
金属担持工程(金属担持1又は3)における、第6族金属の担持量は、触媒基準(又は触媒前駆体基準)、酸化物換算で0.5~25質量%であることが好ましく、2.5~25質量%であることがより好ましく、5~23質量%であることがさらに好ましく、7.5~21質量%が特に好ましく、7.5~16質量%が最も好ましい。第6族金属の担持量が前記範囲の下限値以上であると、金属担持工程の回数を減らすことができ効率的である。第6族金属の担持量が前記範囲の上限値以下であると、金属担持工程が後述の含浸工程を含む場合、含浸液の粘度の上昇を抑制することができ、第6族金属を高分散に担持することができる。また、含浸液のpHの低下を抑制することができ、アルミナ担体の溶解が抑制される。その結果、水素化活性が高い水素化処理触媒が得られやすい。さらに、含浸液に含まれる上述のクエン酸や硝酸等の添加剤の量を低減することが可能となり、後述の焼成工程におけるこれらの添加剤由来の分解ガス発生量が抑制される。その結果、分解ガス発生時の体積膨張による触媒の粉化が抑制され、触媒収率が向上する。
【0052】
金属担持工程(金属担持2又は3)における、第9族及び第10族金属の担持量は、触媒基準(又は触媒前駆体基準)、酸化物換算で0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、1.5質量%以上であることがさらに好ましい。なお、第9族及び第10族金属の担持量の上限は、目的とする水素化処理触媒、触媒前駆体の組成、金属担持工程の種類、及び金属担持工程の回数から適宜定まる。
金属担持工程(金属担持2又は3)における、第9族及び第10族金属の担持量は、触媒基準(又は触媒前駆体基準)、酸化物換算で0.5~15質量%であることが好ましく、1~10質量%であることがより好ましく、1.5~7.5質量%であることがさらに好ましく、2~5.5質量%が特に好ましく、2~5質量%が最も好ましい。第9族及び第10族金属の担持量が前記範囲の下限値以上であると、金属担持工程の回数を減らすことができ効率的である。第9族及び第10族金属の担持量が前記範囲の上限値以下であると、金属担持工程が後述の含浸工程を含む場合、含浸液の粘度の上昇を抑制することができ、第9族及び第10族金属を高分散に担持することができる。また、含浸液のpHの低下を抑制することができ、アルミナ担体の溶解が抑制される。その結果、水素化活性が高い水素化処理触媒が得られやすい。さらに、含浸液に含まれる上述のクエン酸や硝酸等の添加剤の量を低減することが可能となり、後述の焼成工程におけるこれらの添加剤由来の分解ガス発生量が抑制される。その結果、分解ガス発生時の体積膨張による触媒の粉化が抑制され、触媒収率が向上する。
【0053】
金属担持工程(金属担持3)における、第6族金属、第9族金属、及び第10族金属の合計担持量は、触媒基準(又は触媒前駆体基準)、酸化物換算で0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることがさらに好ましく、6質量%以上が特に好ましい。なお、第6族金属、第9族金属、及び第10族金属の上限は、目的とする水素化処理触媒、触媒前駆体の組成、金属担持工程の種類、及び金属担持工程の回数から適宜定まる。
金属担持工程(金属担持3)における、第6族金属、第9族金属、及び第10族金属の合計担持量は、触媒基準(又は触媒前駆体基準)、酸化物換算で0.5~40質量%であることが好ましく、1~40質量%であることがより好ましく、3~35質量%であることがさらに好ましく、6~30質量%が特に好ましく、6~20質量%が最も好ましい。第6族金属、第9族金属、及び第10族金属の合計担持量が前記範囲の下限値以上であると、金属担持工程の回数を減らすことができ効率的である。第6族金属、第9族金属、及び第10族金属の合計担持量が前記範囲の上限値以下であると、金属担持工程が後述の含浸工程を含む場合、含浸液の粘度の上昇を抑制することができ、第6族金属、第9族金属、及び第10族金属を高分散に担持することができる。また、含浸液のpHの低下を抑制することができ、アルミナ担体の溶解が抑制される。その結果、水素化活性が高い水素化処理触媒が得られやすい。さらに、含浸液に含まれる上述のクエン酸や硝酸等の添加剤の量を低減することが可能となり、後述の焼成工程におけるこれらの添加剤由来の分解ガス発生量が抑制される。その結果、分解ガス発生時の体積膨張による触媒の粉化が抑制され、触媒収率が向上する。
【0054】
第6族金属、並びに第9族及び第10族金属の触媒基準(触媒前駆体基準)、酸化物換算の担持量は、第6族金属、並びに第9族及び第10族金属の元素換算の質量を測定し、第6族金属については6価の酸化物、第9族及び第10族金属については2価の酸化物に換算した値を水素化処理触媒(触媒前駆体)の総質量で除すことにより求めることができる。
【0055】
本実施形態において、触媒前駆体から水素化処理触媒を製造する際の、金属担持工程の回数は、1~5回であることが好ましく、1~3回であることがより好ましく、1~2回であることがさらに好ましく、1回であることが特に好ましい。触媒前駆体から水素化処理触媒を製造する際の、金属担持工程の回数が前記下限値以上であると、金属担持工程が後述の含浸工程を含む場合、含浸液の粘度の上昇を抑制することができ、第6族金属、第9族金属、及び第10族金属を高分散に担持することができる。また、含浸液のpHの低下を抑制することができ、アルミナ担体の溶解が抑制される。その結果、水素化活性が高い水素化処理触媒が得られやすい。さらに、含浸液に含まれる上述のクエン酸や硝酸等の添加剤の量を低減することが可能となり、後述の焼成工程におけるこれらの添加剤由来の分解ガス発生量が抑制される。その結果、分解ガス発生時の体積膨張による触媒の粉化が抑制され、触媒収率が向上する。上述の効果は、特に水素化活性成分を高担持量で担持したときに顕著に得られる。すなわち、水素化活性成分を高担持量で担持したときに、特に水素化活性が高い水素化処理触媒が得られやすい。また、水素化活性成分を高担持量で担持したときにも、高い触媒収率が得られやすい。一方前記上限値以下であると、効率的である。
【0056】
本実施形態において、アルミナ担体から触媒前駆体を製造する際の、金属担持工程の回数は、1~5回であることが好ましく、1~3回であることがより好ましく、1~2回であることがさらに好ましく、1回であることが特に好ましい。アルミナ担体から触媒前駆体を製造する際の、金属担持工程の回数が前記下限値以上であると、金属担持工程が後述の含浸工程を含む場合、含浸液の粘度の上昇を抑制することができ、第6族金属、第9族金属、及び第10族金属を高分散に担持することができる。また、含浸液のpHの低下を抑制することができ、アルミナ担体の溶解が抑制される。その結果、水素化活性が高い水素化処理触媒が得られやすい。さらに、含浸液に含まれる上述のクエン酸や硝酸等の添加剤の量を低減することが可能となり、後述の焼成工程におけるこれらの添加剤由来の分解ガス発生量が抑制される。その結果、分解ガス発生時の体積膨張による触媒の粉化が抑制され、触媒収率が向上する。上述の効果は、特に水素化活性成分を高担持量で担持したときに顕著に得られる。すなわち、水素化活性成分を高担持量で担持したときに、特に水素化活性が高い水素化処理触媒が得られやすい。また、水素化活性成分を高担持量で担持したときにも、高い触媒収率が得られやすい。一方前記上限値以下であると、効率的である。
【0057】
本実施形態の金属担持工程は、含浸工程、焼成工程をこの順で含むことが好ましい。
【0058】
・含浸工程
含浸工程は、アルミナ担体又は触媒前駆体に、第6族金属原料及び/又は第9族及び第10族金属原料(以下、「水素化活性成分原料」)を含む含浸液を含浸する工程である。含浸法としては、担体に担体の全細孔容積とほぼ等量の含浸液を含浸し、溶媒を全て乾燥させることにより、水素化活性成分原料を担持する細孔充填法が例として挙げられる。
【0059】
まず、水素化活性成分原料を含む含浸液を調製する。含浸液は、水素化活性成分原料を水に溶解することにより調製することができる。調製時、これらの水素化活性成分原料の溶解を促進するために、加温(30~100℃)や、添加剤(硝酸、リン酸、有機酸《クエン酸、酢酸、リンゴ酸、酒石酸等》等の酸、アンモニア)の添加を行ってもよい。すなわち、本実施形態においては、アルミナ担体に含有するリンとは別に、水素化活性成分原料を担持させる際に、別途リンを担持してもよい。以下、水素化活性成分原料以外に、含浸液に含まれる化合物を単に「添加剤」ということがある。
【0060】
水素化活性成分原料等を、アルミナ担体又は触媒前駆体に担持させる際に、別途添加するリン化合物としては、モリブドリン酸等のリンを含む水素化活性成分原料、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸が挙げられ、オルトリン酸が好ましい。水素化活性成分原料を、アルミナ担体又は触媒前駆体に担持させる際に、別途リンを担持させると、得られる水素化処理触媒中の水素化活性成分の分散性を向上させることができる。
【0061】
続いて、調製した含浸液を、アルミナ担体又は触媒前駆体に、均一になるよう徐々に添加して含浸し、含浸体を得る。含浸時間は1分間~5時間が好ましく、5分間~3時間がより好ましい。含浸温度は5~100℃が好ましく、10~80℃がより好ましい。含浸雰囲気は特に限定されないが、大気中、窒素中、真空中がそれぞれ適している。
【0062】
第6族金属原料としては、モリブデン化合物、タングステン化合物、クロム化合物が挙げられる。
第6族金属原料は1種類のみでもよく、2種類以上でもよい。
【0063】
モリブデン化合物としては、三酸化モリブデン、モリブドリン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸等が挙げられ、モリブドリン酸、三酸化モリブデン、モリブデン酸アンモニウムが好ましい。
モリブデン化合物は1種類のみでもよく、2種類以上でもよい。
【0064】
タングステン化合物としては、タングステン酸、メタタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウム、三酸化タングステン、リンタングステン酸等が挙げられ、タングステン酸、メタタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウムが好ましい。
タングステン化合物は1種類のみでもよく、2種類以上でもよい。
【0065】
クロム化合物としては、酸化クロム、酢酸クロム、硫酸クロム、リン酸クロム、クロム酸、ニクロム酸、ニュートラルレッド等が挙げられ、クロム酸が好ましい。
クロム化合物は1種類のみでもよく、2種類以上でもよい。
【0066】
第9族及び第10族金属原料としては、ニッケル化合物、コバルト化合物が挙げられる。
ニッケル化合物としては、酸化ニッケル、炭酸ニッケル、酢酸ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、塩化ニッケル等が挙げられ、硝酸ニッケル、炭酸ニッケルが好ましい。
コバルト化合物としては、炭酸コバルト、酢酸コバルト、硝酸コバルト、硫酸コバルト、塩化コバルト等が挙げられ、炭酸コバルト、酢酸コバルトが好ましく、炭酸コバルトがより好ましい。
【0067】
含浸液における水素化活性成分原料の濃度が高いと、含浸液の粘度が高くなる。また、上述した通り、水素化活性成分原料の溶解を促進するためにクエン酸や硝酸等の添加剤の量を増やす必要があることがあり、含浸液のpHが低下する。さらに溶解した水素化活性成分原料に由来して含浸液のpHが低下することもある。粘度の高い含浸液を使用して調製された水素化処理触媒においては、水素化活性金属が高分散で担持しにくくなる。また、pHの低い含浸液を使用して水素化処理触媒を製造すると、アルミナ担体が溶解し、水素化処理触媒の比表面積の低下を引き起こす。その結果、水素化活性が高い水素化処理触媒が得られにくくなる。さらに、含浸液に含まれる前記添加剤の量を増やすと、後述の焼成工程において、これらの添加剤由来の分解ガス発生量が多くなり、分解ガス発生時の体積膨張により触媒が粉化し、触媒収率が低下することがある。
【0068】
本実施形態の水素化処理触媒の製造方法では、触媒前駆体に金属担持工程を1回以上行う。換言すると、アルミナ担体に金属担持工程を2回以上行う。したがって、含浸液中の水素化活性成分原料の濃度を低く調整することが可能となるため、含浸液の粘度、pH、含浸液に含まれる前記添加剤の量の調整が可能となる。含浸液の粘度の調整(粘度の上昇の抑制)により、第6族金属、第9族金属、及び第10族金属を高分散に担持することができる。含浸液のpHの調整(pHの低下の抑制)により、アルミナ担体の溶解が抑制される。その結果、水素化活性が高い水素化処理触媒が得られやすい。さらに、含浸液に含まれる前記添加剤の量の調整(添加剤の量の低減)により、後述の焼成工程におけるこれらの添加剤由来の分解ガス発生量が抑制される。その結果、分解ガス発生時の体積膨張による触媒の粉化が抑制され、触媒収率が向上する。
【0069】
また、特許文献1に記載の従来の水素化処理触媒の製造方法では、水素化活性成分原料の水への溶解性の制限により、水素化活性成分の担持量が高い水素化処理触媒を製造することが実質的に不可能であった。また、前記添加剤を増やすことにより、水素化活性成分原料が水に溶解したとしても、含浸液の粘度が高く、含浸液のpHが低下する。このような含浸液を使用すると、上述の問題が発生しやすくなる。
一方、本実施形態の水素化処理触媒では、例えば金属担持工程の数を増やすことにより、上述の問題の回避が可能となり、水素化活性成分の担持量が高い水素化処理触媒を製造することができると考えられる。水素化活性成分は単に担持量が高いだけではなく、前述の通り、高担持量かつ高分散で担持されているため、高活性の水素化処理触媒を製造することができると考えられる。
【0070】
含浸液の30℃における動粘度は、0.5~10(mm2/s)であることが好ましく、0.8~8(mm2/s)であることがより好ましく、1~6(mm2/s)であることがさらに好ましい。動粘度は、JIS K2283に準拠して測定することができる。
【0071】
・焼成工程
焼成工程は、含浸工程で得られた含浸体を焼成する工程である。含浸体を乾燥した後に、焼成を行うことが好ましい。
含浸工程で得られた含浸体を窒素気流中、空気気流中、又は真空中で、15~80℃で水分をある程度(LOI《Loss on ignition》が50%以下となるように)除去する。その後、乾燥炉にて、空気気流中、80~150℃で、10分間~10時間乾燥する。次いで、焼成炉にて、空気気流中、焼成を行うことが好ましい。焼成温度は、300~700℃が好ましく、500~650℃がより好ましい。焼成時間は、10分間~10時間が好ましく、3時間以上がより好ましい。
【0072】
<触媒前駆体>
本実施形態の触媒前駆体としては、以下の2種類の触媒前駆体が例として挙げられる。
第1の触媒前駆体は、アルミナ担体に第6族金属から選ばれる少なくとも1種の金属、並びに第9族及び第10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属が担持された触媒前駆体である。
第2の触媒前駆体は、前記アルミナ担体に第6族金属から選ばれる少なくとも1種の金属が担持された触媒前駆体である。
【0073】
第1の触媒前駆体における第6族金属の担持量は、触媒前駆体基準、酸化物換算で0.5質量%以上であることが好ましく、0.5~25質量であることがより好ましく、2.5~25質量%であることがさらに好ましく、5~23質量%であることがさらに好ましく、7.5~21質量%が特に好ましく、7.5~16質量%が最も好ましい。
第1の触媒前駆体における第9族及び第10族金属の担持量は、触媒前駆体基準、酸化物換算で0.5~15質量%であることが好ましく、1~10質量%であることがより好ましく、1.5~7.5質量%であることがさらに好ましく、2~5.5質量%が特に好ましく、2~5質量%が最も好ましい。
【0074】
第2の触媒前駆体における第6族金属の担持量は、触媒前駆体基準、酸化物換算で0.5~25質量であることが好ましく、2.5~25質量%であることがより好ましく、5~23質量%であることがさらに好ましく、7.5~21質量%が特に好ましく、7.5~16質量%が最も好ましい。
【0075】
触媒前駆体は、アルミナ、第6族金属、第9族金属、第10族金属以外の酸化物を含んでいてもよい。酸化物としては、ゼオライト、シリカ、ジルコニア、チタニア、ボリア、酸化リン、酸化亜鉛等が例として挙げられ、酸化リン、酸化亜鉛、チタニア、ボリアが好ましく、酸化リン、酸化亜鉛が特に好ましい。
【0076】
触媒前駆体が酸化リンを含む場合、触媒前駆体の総質量に対する酸化リンの含有割合は、0.01~9.8質量%であることが好ましく、0.01~4.95質量%であることがより好ましい。
触媒前駆体が酸化亜鉛を含む場合、触媒前駆体の総質量に対する酸化亜鉛の含有割合は、0.01~14.5質量%であることが好ましく、0.01~9.8質量%であることがより好ましい。
触媒前駆体がシリカを含む場合、触媒前駆体の総質量に対するシリカの含有割合は、0.01~19.5質量%であることが好ましく、0.01~17.5質量%であることがより好ましい。
触媒前駆体がチアニアを含む場合、触媒前駆体の総質量に対するチタニアの含有割合は、0.01~19.5質量%であることが好ましく、0.01~17質量%であることがより好ましい。
触媒前駆体がボリアを含む場合、触媒前駆体の総質量に対するボリアの含有割合は、0.01~19.5質量%であることが好ましく、0.01~14.5質量%であることがより好ましい。
【0077】
触媒前駆体の総質量に対するゼオライト、シリカ、ボリア、酸化リン、チタニア、酸化亜鉛、及びジルコニアから選ばれる少なくとも1種以上の酸化物の合計含有割合は0.01~19.5質量%が好ましく、0.01~17質量%がより好ましく、0.01~14.5質量%がより好ましい。ゼオライト、シリカ、ボリア、酸化リン、チタニア、酸化亜鉛、及びジルコニアとしては、一般に、この種の触媒の担体成分として使用されるものを使用することができる。
【0078】
(触媒前駆体の物性)
触媒前駆体の物性は、目的とする水素化処理触媒の物性に応じて適宜定まる。
本実施形態の触媒前駆体の比表面積は、窒素吸着法(BET法)による測定値で、150~300m2/gであることが好ましく、190~250m2/gであることがより好ましい。
本実施形態の触媒前駆体の水銀圧入法で測定される細孔分布における平均細孔径は、5~20nmであることが好ましく、7~11nmであることがより好ましい。
本実施形態の触媒前駆体の細孔容積は、水銀圧入法による測定値で、0.4~0.8mL/gであることが好ましく、0.4~0.7mL/gであることがより好ましい。
【0079】
第1の触媒前駆体は、アルミナ担体に対して、金属担持工程(金属担持3)を1回以上行うことにより製造することができる。この際、金属担持工程(金属担持1又は2)を1回以上行ってもよい。
また、第1の触媒前駆体は、アルミナ担体に対して、金属担持工程(金属担持1)を1回以上、及び金属担持工程(金属担持2)を1回以上行うことによっても製造することができる。この際、金属担持工程(金属担持3)を1回以上行ってもよい。
本実施形態においては、第1の触媒前駆体は、アルミナ担体に対して、金属担持工程(金属担持3)を1回行うことにより製造することが好ましい。
【0080】
第2の触媒前駆体は、アルミナ担体に対して、金属担持工程(金属担持1)を1回以上行うことにより製造することができる。
本実施形態においては、第2の触媒前駆体は、アルミナ担体に対して、金属担持工程(金属担持1)を1回行うことに製造することが好ましい。
【0081】
<水素化処理触媒>
本実施形態の炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法により製造される水素化処理触媒は、アルミナ担体と、周期表第6族金属から選ばれる少なくとも1種の金属を触媒基準、酸化物換算で5~35質量%と、周期表第9族及び第10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属を触媒基準、酸化物換算で1~18質量%含む。
すなわち、水素化処理触媒は、アルミナ担体に、周期表第6族金属から選ばれる少なくとも1種の金属が触媒基準、酸化物換算で5~35質量%、並びに周期表第9族及び第10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属が触媒基準、酸化物換算で1~18質量%担持された炭化水素油の水素化処理触媒である。
【0082】
水素化処理触媒に含まれる第6族金属としては、前記第6族金属原料、前記焼成により生成した酸化物(具体例:三酸化モリブデン)、及び第6族金属と、アルミニウム、亜鉛、リン、第9族金属、第10族金属からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素との複合酸化物が例として挙げられる。
【0083】
本実施形態の水素化処理触媒に含まれる第9族金属、第10族金属としては、前記第9族及び第10族金属原料、前記焼成により生成した酸化物、及び第9族金属や第10族金属と、アルミニウム、亜鉛、リン、第6族金属からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素との複合酸化物が例として挙げられる。
【0084】
水素化処理触媒における第6族金属の担持量は、触媒基準、酸化物換算で、5~35質量%であり、7~30質量%であることが好ましく、6~27質量%であることがより好ましく、10~25質量%であることがさらに好ましい。本発明の一つの側面としては、水素化処理触媒における第6族金属の担持量は、触媒基準、酸化物換算で、15~35質量%であることが好ましく、18~33質量%であることがより好ましく、21~32質量%であることがさらに好ましく、25~30質量%であることがさらに好ましい。
第6族金属の担持量が前記範囲の下限値以上であると、第6族金属に起因する効果を発現させるのに充分である。第6族金属の担持量が前記範囲の上限値以下であると、第6族金属が凝集し難く、充分分散する。すなわち、効率的に分散可能な第6族金属の量を超えたり、触媒表面積が大幅に低下することがないため、触媒活性の向上を図ることができる。
【0085】
水素化処理触媒における第9族及び第10族金属の担持量は、触媒基準、酸化物換算で、1~18質量%であり、2~8質量%であることが好ましく、2.5~7質量%であることがより好ましい。本発明の一つの側面としては、水素化処理触媒における第6族金属の担持量は、触媒基準、酸化物換算で、4~18質量%であることが好ましく、4.5~12質量%であることがより好ましく、5.5~10質量%であることがさらに好ましく、6~9質量%であることがさらに好ましい。
第9族及び第10族金属の担持量が前記範囲の下限値以上であると、第9族及び第10族金属に帰属する活性点が充分に得られる。第9族及び第10族金属の担持量が前記範囲の上限値以下であると、第9族及び第10族金属が凝集し難く、分散性が向上する。例えば第9族及び第10族金属としてニッケルを用いた場合に、不活性な前駆体であるNiO種(触媒硫化後や水素化処理中はNiS種として存在する)や、担体の格子内に取り込まれたNiスピネル種が生成され難いため、触媒活性の向上がみられる。
【0086】
水素化処理触媒は、アルミナ、第6族金属、第9族金属、第10族金属以外の酸化物を含んでいてもよい。酸化物としては、ゼオライト、シリカ、ジルコニア、チタニア、ボリア、酸化リン、酸化亜鉛等が例として挙げられ、酸化リン、酸化亜鉛、チタニア、ボリアが好ましく、酸化リン、酸化亜鉛が特に好ましい。
【0087】
水素化処理触媒が酸化リンを含む場合、水素化処理触媒の総質量に対する酸化リンの含有割合は、0.01~9.5質量%であることが好ましく、0.01~4.7質量%であることがより好ましい。
水素化処理触媒が酸化亜鉛を含む場合、水素化処理触媒の総質量に対する酸化亜鉛の含有割合は、0.01~14.5質量%であることが好ましく、0.01~9.5質量%であることがより好ましい。
水素化処理触媒がシリカを含む場合、水素化処理触媒の総質量に対するシリカの含有割合は、0.01~19質量%であることが好ましく、0.01~17質量%であることがより好ましい。
水素化処理触媒がチアニアを含む場合、水素化処理触媒の総質量に対するチタニアの含有割合は、0.01~19質量%であることが好ましく、0.01~16.5質量%であることがより好ましい。
水素化処理触媒がボリアを含む場合、水素化処理触媒の総質量に対するボリアの含有割合は、0.01~19質量%であることが好ましく、0.01~14.5質量%であることがより好ましい。
【0088】
水素化処理触媒の総質量に対するゼオライト、シリカ、ボリア、酸化リン、チタニア、酸化亜鉛、及びジルコニアから選ばれる少なくとも1種以上の酸化物の合計含有割合は0.01~19質量%が好ましく、0.01~16.5質量%がより好ましく、0.01~14.5質量%がより好ましい。ゼオライト、シリカ、ボリア、酸化リン、チタニア、酸化亜鉛、及びジルコニアとしては、一般に、この種の触媒の担体成分として使用されるものを使用することができる。
【0089】
(水素化処理触媒の物性)
水素化処理触媒の比表面積は、BET法による測定値で、100~300m2/gであることが好ましく、150~250m2/gであることがより好ましい。比表面積が前記範囲の下限値以上であると、水素化活性成分が充分分散するため、水素化活性が高くなる。比表面積が前記範囲の上限値以下であると、水素化処理触媒が充分な大きさの細孔径を有する。そのため、硫黄化合物の触媒細孔内への拡散が充分となり、水素化活性が高くなる。すなわち、比表面積が前記範囲内であると、水素化活性成分の分散性と水素化処理時の硫黄化合物の触媒細孔内への拡散性の両方を向上させることができる。
【0090】
水素化処理触媒の水銀圧入法で測定される細孔分布における平均細孔径は、6~11nmであることが好ましく、7~10.5nmであることがより好ましい。平均細孔径が前記範囲内であると、充分な細孔内表面積(すなわち、触媒の有効表面積)を有しつつ、硫黄化合物の触媒細孔内への拡散性を高め、水素化活性をより向上させることができる。
【0091】
水素化処理触媒の細孔容積は、水銀圧入法による測定値で、0.35~0.80mL/gであることが好ましく、0.35~0.70mL/gであることがより好ましい。細孔容積が前記範囲の下限値以上であると、水素化処理の際、硫黄化合物の触媒細孔内での拡散が充分となって水素化活性が向上する。細孔容積が前記範囲の上限値以下であると、触媒の比表面積が極端に小さくなることを抑制できる。細孔容積が前記範囲内であると、水素化活性成分の分散性と水素化処理時の硫黄化合物の触媒細孔内への拡散性の両方を向上させることができる。
【0092】
前記の平均細孔径、及び細孔容積を満たす細孔の有効数を多くするために、本実施形態の水素化処理触媒の細孔径分布としては、全細孔容積に対する、平均細孔径±1.5nmの細孔径を有する細孔の容積の割合が、65%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。
【0093】
さらに、本実施形態の水素化処理触媒中の水素化活性成分の分布状態は、触媒中でこれらの成分が均一に分布しているユニフォーム型又は水素化活性成分が触媒の内部に分布している逆エッグシェル型が好ましい。
【0094】
水素化処理触媒の後述の実施例に記載の方法により測定されるSide crush Strength(SCS)は1~15lbs/mmであることが好ましく、1.5~13lbs/mmであることがより好ましく、2~11bs/mmであることがさらに好ましい。
【0095】
本実施形態の水素化処理触媒の製造方法における、後述の実施例に記載の方法により測定される触媒の収率は、40~100質量%であることが好ましく、50~100質量%であることがより好ましく、55~100質量%であることがさらに好ましい。
【0096】
本実施形態の水素化処理触媒は、第1の触媒前駆体に対して、金属担持工程(金属担持1、2、又は3)を1回以上行うことによって製造することができる。中でも第1の触媒前駆体に対して、金属担持工程(金属担持2又は3)を1回以上行うことが好ましく、1回行うことがより好ましい。
【0097】
本実施形態の水素化処理触媒は、第2の触媒前駆体に対して、金属担持工程(金属担持3)を1回以上行うことによって製造することができる。この際、金属担持工程(金属担持1又は2)を1回以上行ってもよい。中でも第2の触媒前駆体に対して、金属担持工程(金属担持3)を1回行うことが好ましい。
【0098】
<炭化水素油の水素化処理方法>
本実施形態の炭化水素油の水素化処理方法は、水素分圧3~20MPa、反応温度280~420℃、液空間速度0.1~10hr-1で、前記本発明の製造方法により製造された炭化水素油の水素化処理触媒と、炭化水素油と、を接触処理する炭化水素油の水素化処理方法である。
また、前記炭化水素油の水素化処理方法によると、水素分圧3~20MPa、反応温度280~420℃、液空間速度0.1~10hr-1で、前記本発明の製造方法により製造された水素化処理触媒と、炭化水素油と、を接触処理する、水素化炭化水素油の製造方法が提供される。
【0099】
水素分圧は、3~20MPaであることが好ましく、4~17.5MPaであることがより好ましく、5~15MPaであることがさらに好ましい。水素分圧が前記範囲の下限値以上であると、水素化処理が進行しやすい。
【0100】
反応温度は、280~420℃であることが好ましく、300~410℃であることがより好ましく、320~400℃であることがさらに好ましい。反応温度が前記範囲の下限値以上であると、触媒活性を充分に発揮できる。反応温度が前記範囲の上限値以下であると、炭化水素油の熱分解が適度に進行しつつも、触媒劣化が起こり難い。反応温度とは触媒層の平均温度を意味する。
【0101】
液空間速度は、0.1~10hr-1であることが好ましく、0.1~5hr-1であることがより好ましく、0.1~3hr-1であることがさらに好ましい。液空間速度が前記範囲の下限値以上であると、生産性が向上する。液空間速度が前記範囲の上限値以下であると、硫黄分の除去能が向上する。
【0102】
水素/炭化水素油比は、50~3000Nm3/kLが好ましく、100~2500Nm3/kLがより好ましく、200~2000Nm3/kLがさらに好ましい。
【0103】
本実施形態の炭化水素油の水素化処理方法に供される炭化水素油としては、原油を常圧蒸留装置で常圧蒸留して得られる常圧蒸留軽油、常圧蒸留灯油、常圧蒸留重油、常圧蒸留残渣油、前記常圧蒸留残渣油をさらに減圧蒸留装置で減圧蒸留して得られる減圧蒸留残渣油、減圧蒸留軽油、減圧蒸留重油、水素化分解重油等潤滑油基油の溶剤抽出により抽出除去される油分の中で特に重質な油分である重質エキストラクト、流動接触分解残油、流動接触分解軽油、熱分解重油、熱分解軽油、脱礫油等が挙げられる。
【0104】
本実施形態の炭化水素油の水素化処理方法に供される炭化水素油の密度は、0.78~1.15g/cm3が好ましく、0.82~1.1g/cm3がより好ましく、0.84~1.06g/cm3がさらに好ましい。硫黄分は、0.05~7質量%が好ましく、0.5~6.5質量%がより好ましく、0.8~6質量%がさらに好ましい。炭化水素油が残渣油の場合、ニッケル分は、200質量ppm以下が好ましく、バナジウム分は400質量ppm以下が好ましく、アスファルテン分は15質量%以下が好ましい。
【0105】
本実施形態の炭化水素油の水素化処理方法により製造される水素化炭化水素油の密度は、0.7~1.05g/cm3が好ましく、0.75~1.0g/cm3がより好ましく、0.77~0.95g/cm3がさらに好ましい。硫黄分は、0.001~0.8質量%が好ましく、0.01~0.6質量%がより好ましく、0.05~0.5質量%がさらに好ましい。炭化水素油が残渣油の場合、ニッケル分は、50質量ppm以下が好ましく、バナジウム分は100質量ppm以下が好ましく、アスファルテン分は5質量%以下が好ましい。
【0106】
本実施形態の水素化処理触媒は、一般的には、使用前に(すなわち、本実施形態の水素化処理方法を行うのに先立って)、反応装置中で硫化処理して活性化する。この硫化処理は、一般に、200~400℃、好ましくは250~350℃、常圧あるいはそれ以上の水素分圧の水素雰囲気下で、硫黄化合物を含む石油蒸留物、それにジメチルジスルファイドや二硫化炭素等の硫化剤を加えたもの、あるいは硫化水素を用いて行う。
【0107】
本実施形態の水素化処理触媒を用いて、炭化水素油を水素化処理することにより、水素化処理が充分に進行し、かつ長期間にわたり炭化水素油中の硫黄化合物を低減させることが可能となる。
【0108】
本実施形態の水素化処理方法を商業規模で行うには、本実施形態の水素化処理触媒の固定床、移動床、あるいは流動床式の触媒層を反応装置内に形成し、この反応装置内に原料油を導入し、前記の条件下で水素化反応を行えばよい。最も一般的には、固定床式触媒層を反応装置内に形成し、原料油を反応装置の上部に導入し、原料油を固定床の上から下に通過させ、反応装置の下部から生成物を流出させるものか、反対に原料油を反応装置の下部に導入し、原料油を固定床の下から上に通過させ、反応装置の上部から生成物を流出させるものである。
【0109】
本実施形態の水素化処理方法は、本実施形態の水素化処理触媒を、単独の反応装置に充填して行う一段の水素化処理方法であってもよいし、幾つかの反応装置に充填して行う多段連続水素化処理方法であってもよい。
【0110】
本実施形態の水素化処理方法は、3種類の触媒(前段触媒、中段触媒、後段触媒)と接触させる水素化処理方法でもよい。このような3種類の触媒を用いる水素化処理方法は、常圧蒸留残渣油や減圧蒸留残渣油等の重質炭化水素油で好ましく用いられ、各触媒はそれぞれ主に要求される性能が異なる。前段触媒では、主に耐金属性能及び中段以降の触媒を保護するために脱金属活性が要求される。中段触媒では耐金属性能及び脱金属活性、それと同時に脱硫性能をバランスよく有することが要求される。後段触媒では、主に脱硫性能が要求される。このような反応系においては、上述の本発明の水素化処理触媒は、前段触媒、中段触媒、後段触媒のいずれの触媒としても使用することが好ましく、中段触媒や後段触媒として使用することがさらに好ましい。前段触媒としては本分野で公知の前段触媒を使用することができ、このような前段触媒としては、特開2010-248476号、国際公開第2015/053087号、国際公開第2015/046316号、国際公開第2015/046323号に記載の前段触媒が例として挙げられる。中段触媒としては、国際公開第2015/046323号、国際公開第2015/053087号に記載の中段触媒が例として挙げられる。後段触媒としては本分野で公知の後段触媒を使用することができ、このような後段触媒としては、特開2010-248476号、国際公開第2015/053087号、国際公開第2015/046323号に記載の後段触媒が例として挙げられる。
【0111】
本実施形態の水素化処理方法において、前段触媒の充填割合は、全触媒容積の10~50%が好ましく、15~40%がより好ましい。中段触媒の充填割合は、全触媒容積の10~50%が好ましく、15~40%がより好ましい。後段触媒の充填割合は、全触媒容積の20~70%が好ましく、30~65%がより好ましい。前段触媒、中段触媒、及び後段触媒の充填割合が前記範囲内であると、触媒寿命、脱硫活性、及び脱金属活性の維持に好適である。
【実施例0112】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0113】
<触媒(触媒前駆体を含む)及び担体のキャラクタリゼーション>
〔1〕比表面積の測定
担体、触媒の比表面積は、窒素吸着によるBET法により測定した。窒素吸着装置は、マイクロトラック・ベル(株)製の表面積測定装置(BELSORP-mini II)を使用した。
【0114】
〔2〕細孔容積、平均細孔径、及び細孔分布の測定
担体、触媒の細孔容積、平均細孔径、及び細孔分布は、水銀圧入法により測定した。水銀圧入装置は、ポロシメーター(AutoPore IV:Micromeritics社製)を使用して以下の手順で測定した。
【0115】
測定手順:
(1)真空加熱脱気装置の電源を入れ、温度400℃、真空度5×10-2Torr以下になることを確認する。
(2)サンプルビュレットを空のまま真空加熱脱気装置に掛ける。
(3)真空度が5×10-2Torr以下となったことを確認し、サンプルビュレットを、そのコックを閉じて真空加熱脱気装置から取り外し、冷却後、重量を測定する。
(4)サンプルビュレットに試料(触媒又は担体)を入れる。
(5)試料入りサンプルビュレットを真空加熱脱気装置に掛け、真空度が5×10-2Torr以下になってから1時間以上保持する。
(6)試料入りサンプルビュレットを真空加熱脱気装置から取り外し、冷却後、重量を測定し、試料重量を求める。
(7)AutoPore IV用セルに試料を入れる。
(8)AutoPore IVにより測定する。
【0116】
水銀圧入法は、毛細管現象の法則に基づく。水銀と円筒細孔の場合には、この法則は次式で表される。すなわち、掛けた圧力Pの関数としての細孔への進入水銀体積を測定する。なお、触媒の細孔水銀の表面張力は484dyne/cmとし、接触角は130°とした。
D=-(1/P)4γcosθ
式中、Dは細孔径、Pは掛けた圧力、γは表面張力、θは接触角である。
細孔容積は、触媒又は担体1g当たりの細孔へ進入した全水銀体積量である。平均細孔径は、Pの関数として算出されたDの平均値である。
細孔分布は、Pを関数として算出されたDの分布である。
【0117】
〔3〕SCSの測定
触媒を550℃で1時間乾燥させた後、ミネベア株式会社製の引張圧縮試験機(TG-1kN)を用いて測定した。破断検出感度を5.0F.Sとし、30回測定を行い、その平均値をSCSとした。強度算出にあたり、触媒の長さをノギスで測定した。
【0118】
〔4〕触媒収率の測定
後述の製造例で得られた触媒を8.75メッシュ(目開き:2.0mm)の篩にかけ、篩下に落ちた触媒を14メッシュ(目開き:1.18mm)の篩にかけ、14メッシュの篩上に残存した触媒の質量/8.75メッシュの篩にかける前の触媒の総質量×100で得られた値を触媒収率とした。
【0119】
〔5〕EPMAの測定
後述の触媒C及びD、触媒前駆体Dについて、EPMA分析を行った。測定条件は、加速電圧15kV、入射電流1×10-7A、測定点間のインターバル10μm、計数時間0.3secで行った。測定触媒の断面は、触媒をMMA(methyl methacrylate)に包埋し、研磨装置を用いて研磨することにより作製した。
EPMA分析から得られる活性金属元素(モリブデン元素又はニッケル元素)のマッピング図(
図1~6)において、赤色で表示された部分が最も活性金属濃度が高い部分であり、黄色、緑、青色の順で活性金属の濃度が下がっていく。黒で表示される部分には活性金属が存在しない。
【0120】
〔6〕化学組成の分析
触媒中、及び担体中の各元素の含有割合が、原料の仕込み量に基づいた割合となっていることを、以下の方法により確認した。
(a)分析方法及び使用機器:
担体及び触媒中の元素分析は、誘導結合プラズマ発光分析装置(iCAP 6000:Thermo Scientific社製)を用いて行った。
元素の定量は、絶対検量線法にて行った。
【0121】
(b)測定手順:
(1)ユニシールに、触媒又は担体0.05g、塩酸(50質量%)1mL、フッ酸一滴、及び純水1mLを投入し、加熱して溶解させた。
(2)溶解後、ポリプロピレン製メスフラスコ(50mL)に移し換え、純水を加えて、50mLに秤量した。
(3)この溶液を上記誘導結合プラズマ発光分析装置により測定した。
【0122】
<炭化水素油の水素化処理>
以下の要領にて、下記性状の常圧蒸留残渣油及び減圧蒸留残渣油の混合油の水素化処理を行った。先ず、前段触媒として脱金属触媒(亜鉛含有アルミナ担体にニッケルとモリブデンを担持した水素化脱金属触媒)と後段触媒として各実施例もしくは比較例の水素化処理触媒を体積比で15:85となるように(実施例2-1~2-6、比較例2-1~2-2)高圧流通式反応装置に充填して固定床式触媒層を形成し、下記の条件で前処理した。次に、原料油と水素含有ガスとの混合流体を、反応装置の上部より導入して、下記の条件で水素化処理反応を進行させ、生成油とガスの混合流体を、反応装置の下部より流出させ、気液分離器で生成油を分離した。なお、以下の液空間速度(LHSV)は脱金属触媒と、実施例又は比較例の水素化処理触媒の合計の触媒層に対する、前記混合油のLHSVである。なお、後述の実施例2-7、2-8、比較例2-3においては、LHSVは前段触媒、中段触媒、後段触媒の合計の触媒層に対する前記混合油のLHSVである。
【0123】
触媒の前処理条件:120℃で3時間常圧乾燥した。
触媒の予備硫化は減圧軽油により、水素分圧10.3MPa、370℃において12時間行った。その後、活性評価用の原料油に切り替えた。
【0124】
反応条件:
圧力(水素分圧):10.3MPa
液空間速度 :0.253hr-1
水素/油比 :876.2Nm3/kL
反応温度 :380℃
【0125】
原料油の性状:
油種;常圧蒸留残渣油及び減圧蒸留残渣油の混合油(中東系原油由来)
密度(15℃);0.991g/cm3
硫黄分;3.31質量%
バナジウム;22質量ppm
ニッケル;34質量ppm
アスファルテン分;4.21質量%
【0126】
触媒活性について、以下の方法で解析した。前記条件で反応装置を運転し、運転開始から1日おきに生成油を採取し、その脱硫反応速度定数を以下の式により計算した。
脱硫反応速度定数(Ks)=〔1/Sp-1/Sf〕×(LHSV)
前記式中、Sfは、原料油中の硫黄分を、Spは生成油中の硫黄分を、LHSVは液空間速度を表す。前記反応速度定数(Ks)は、生成油の硫黄分(Sp)の減少量に対して2次の反応次数を得る反応速度式の定数である。反応速度定数が高いほど、触媒活性が高いことを示す。
【0127】
[比較例1-1]
(1)アルミナ担体Aの製造
12質量%の硫酸水溶液1.5Lを攪拌釜に張込んだ純水100Lに投入し、95℃に加熱した後、攪拌羽根で5分間激しく攪拌した後、当該撹拌釜にアルミナ濃度70g/Lのアルミン酸ナトリウム3.9Lを投入して、水酸化アルミニウムを調製し、24時間攪拌羽根で攪拌した。得られたスラリーを濾過器に投入して濾過を行い、水分を除去した。次いで、得られたゲルを、純水を用いて、濾液中にSO4
2-、Na+が検出できなくなるまで洗浄した。次いで、洗浄後のゲルを純水に混濁させて均一なスラリーとし、そのスラリーを圧搾濾過器へ投入した。前記スラリーは濾布を介して濾板にはさみこまれ、濾板を圧搾することにより脱水を行った。
得られたケーキ中の水分量が80質量%になった時点で濾過を中断した。このケーキを加温型ニーダー(設定温度80℃)に投入し、均一になるように充分に混練した後、表1に記載の担体Aの組成となるようにリン酸及び酸化亜鉛粒子(粒子径0.8μm)を添加し、均一になるようにさらに混練した。混練して得られたケーキを押出し成形器に投入し、長径1.3mm、短径1.1mmの四つ葉型形状の押し出し成形品とした。この成形品を、乾燥し、次いで600℃で4時間焼成し、リンと亜鉛を含有するアルミナ担体Aを得た。アルミナ担体Aの各成分の担体基準、酸化物換算の含有割合、アルミナ担体A比表面積、細孔容積、平均細孔径、細孔分布を表1に示す(以下、アルミナ担体Bについても、同様に示す)。なお、表1中の「細孔分布」は、「全細孔容積に対する平均細孔径±1.5nmの細孔径を有する細孔の容積の割合」を意味し、表2においても同様である。
【0128】
(2)触媒前駆体Aの製造
イオン交換水36.14gにモリブデン酸アンモニウム四水和物10.51g、クエン酸一水和物13.77g、硝酸ニッケル11.12gを溶解させたモリブデン・ニッケル水溶液を含浸液として調製した。表2に記載の触媒前駆体Aの組成となるように、アルミナ担体A60gに含浸液を含浸し、含浸体を得た。含浸体を乾燥させ、その後空気雰囲気下、500℃で4時間焼成することにより触媒前駆体Aを得た。触媒前駆体Aのキャラクタリゼーションの結果を表2に示す。
【0129】
[比較例1-2]
(1)アルミナ担体Bの製造
表1に記載の担体Bの組成となるようにリン酸及び酸化亜鉛粒子の添加量を変更した以外は、製造例1と同様にして、リンと亜鉛を含有するアルミナ担体Bを得た。
【0130】
(2)触媒前駆体Bの製造
アルミナ担体Aに代えてアルミナ担体Bを使用したこと、表2に記載の触媒前駆体Bの組成となるように、含浸液の組成を変更した以外は、製造例1と同様にして、触媒前駆体Bを得た。なお、含浸液としては、イオン交換水33.48gにモリブデン酸アンモニウム四水和物13.46g、クエン酸一水和物17.63g、硝酸ニッケル8.54gを溶解させたモリブデン・ニッケル水溶液を使用した。触媒前駆体Bのキャラクタリゼーションの結果を表2に示す。
【0131】
【0132】
[実施例1-1]
イオン交換水38.04gにモリブデン酸アンモニウム四水和物2.3g、クエン酸一水和物3.01g、硝酸ニッケル2.43gを溶解させたモリブデン・ニッケル水溶液を含浸液として調製した。表2に記載の触媒Aの組成となるように、触媒前駆体A60gに含浸液を含浸し、含浸体を得た。含浸体を乾燥させ、その後空気雰囲気下、500℃で4時間焼成することにより触媒Aを得た。触媒Aのキャラクタリゼーションの結果を表2に示す。
【0133】
[実施例1-2]
表2に記載の触媒Bの組成となるように、含浸液の組成を変更した以外は、実施例1-1と同様にして、触媒Bを得た。なお、含浸液としては、イオン交換水34.84gにモリブデン酸アンモニウム四水和物4.8g、クエン酸一水和物6.28g、硝酸ニッケル5.08gを溶解させたモリブデン・ニッケル水溶液を使用した。触媒Bのキャラクタリゼーションの結果を表2に示す。
【0134】
[実施例1-3]
表2に記載の触媒Cの組成となるように、含浸液の組成を変更した以外は、実施例1-1と同様にして、触媒Cを得た。なお、含浸液としては、イオン交換水31.35gにモリブデン酸アンモニウム四水和物7.53g、クエン酸一水和物9.85g、硝酸ニッケル7.96gを溶解させたモリブデン・ニッケル水溶液を使用した。触媒Cのキャラクタリゼーションの結果を表2に示す。また、触媒CのEPMA分析によって得られた、モリブデン元素のマッピング図を
図1に、ニッケル元素のマッピング図を
図2に示す。
【0135】
[実施例1-4]
表2に記載の触媒Dの組成となるように、含浸液の組成を変更した以外は、実施例1-1と同様にして、触媒Dを得た。なお、含浸液としては、イオン交換水27.53gにモリブデン酸アンモニウム四水和物10.51g、クエン酸一水和物13.77g、硝酸ニッケル11.12gを溶解させたモリブデン・ニッケル水溶液を使用した。触媒Dのキャラクタリゼーションの結果を表2に示す。また、触媒DのEPMA分析によって得られた、モリブデン元素のマッピング図を
図3に、ニッケル元素のマッピング図を
図4に示す。
【0136】
[実施例1-5]
触媒前駆体Aに代えて触媒前駆体Bを使用したこと、表2に記載の触媒Eの組成となるように、含浸液の組成を変更した以外は、実施例1-1と同様にして、触媒Eを得た。なお、含浸液としては、イオン交換水38.77gに硝酸ニッケル7.22gを溶解させたニッケル水溶液を使用した。触媒Eのキャラクタリゼーションの結果を表2に示す。
【0137】
[実施例1-6]
触媒前駆体Aに代えて触媒前駆体Bを使用したこと、表2に記載の触媒Fの組成となるように、含浸液の組成を変更した以外は、実施例1-1と同様にして、触媒Fを得た。なお、含浸液としては、イオン交換水35.07gにモリブデン酸アンモニウム四水和物4.00g、クエン酸一水和物5.24g、硝酸ニッケル7.62gを溶解させたモリブデン・ニッケル水溶液を使用した。触媒Fのキャラクタリゼーションの結果を表2に示す。
【0138】
[実施例1-7]
触媒前駆体Aに代えて触媒前駆体Bを使用したこと、表2に記載の触媒Gの組成となるように、含浸液の組成を変更した以外は、実施例1-1と同様にして、触媒Gを得た。なお、含浸液としては、イオン交換水33.12gにモリブデン酸アンモニウム四水和物19.79g、クエン酸一水和物21.98g、硝酸ニッケル17.76gを溶解させたモリブデン・ニッケル水溶液を使用した。触媒Gのキャラクタリゼーションの結果を表2に示す。
【0139】
[比較例1-3]
表2に記載の触媒前駆体Cの組成となるように、含浸液の組成を変更した以外は、比較例1-1と同様にして触媒前駆体Cを得た。なお、含浸液としては、イオン交換水27.28gにモリブデン酸アンモニウム四水和物17.4g、クエン酸一水和物22.8g、硝酸ニッケル18.4gを溶解させたモリブデン・ニッケル水溶液を使用した。触媒前駆体Cのキャラクタリゼーションの結果を表2に示す。
【0140】
[比較例1-4]
表2に記載の触媒前駆体Dの組成となるように、含浸液の組成を変更した以外は、比較例1-1と同様にして触媒前駆体Dを得た。なお、含浸液としては、イオン交換水22.32gにモリブデン酸アンモニウム四水和物21.5g、クエン酸一水和物28.1g、硝酸ニッケル22.7gを溶解させたモリブデン・ニッケル水溶液を使用した。触媒前駆体Dのキャラクタリゼーションの結果を表2に示す。また、触媒前駆体DのEPMA分析によって得られた、モリブデン元素のマッピング図を
図5に、ニッケル元素のマッピング図を
図6に示す。
【0141】
[比較例1-5]
表2に記載の触媒Dの組成となるように含浸液の組成を変更して、比較例1-1と同様にして触媒前駆体Eを調製しようとしたが、水素化活性成分原料が溶けきらず、含浸液を調製することができなかった。
【0142】
【0143】
[実施例2-1~2-4、比較例2-1]
触媒A~D、触媒前駆体Aを用いて、常圧蒸留残渣油及び減圧蒸留残渣油の混合油の水素化処理反応を行った。結果を表3に示す。
【0144】
[実施例2-5、2-6、比較例2-2]
触媒E、F、触媒前駆体Bを用いて、常圧蒸留残渣油及び減圧蒸留残渣油の混合油の水素化処理反応を行った。結果を表4に示す。
【0145】
[実施例2-7]
前段触媒として上述の脱金属触媒、中段触媒として触媒前駆体A、後段触媒として触媒Gを体積比で15:30:55となるように高圧流通式反応装置に充填して上述の方法で常圧蒸留残渣油及び減圧蒸留残渣油の混合油の水素化処理反応を行った。結果を表5に示す。
【0146】
[実施例2-8]
前段触媒として上述の脱金属触媒、中段触媒として触媒D、後段触媒として触媒Gを体積比で15:30:55となるように高圧流通式反応装置に充填して上述の方法で常圧蒸留残渣油及び減圧蒸留残渣油の混合油の水素化処理反応を行った。結果を表5に示す。
【0147】
[比較例2-3]
前段触媒として上述の脱金属触媒、中段触媒として触媒前駆体A、後段触媒として触媒前駆体Bを体積比で15:30:55となるように高圧流通式反応装置に充填して上述の方法で常圧蒸留残渣油及び減圧蒸留残渣油の混合油の水素化処理反応を行った。結果を表5に示す。
【0148】
【0149】
【0150】
【0151】
水素化活性成分の担持量が比較的多い実施例1-2の触媒Bの触媒収率が91.0質量%であったのに対し、水素化活性成分の担持量が同じ比較例1-3の触媒前駆体Cの触媒収率は24.8質量%であった。また、さらに水素化活性成分の担持量を増やした実施例1-4の触媒Dの触媒収率が61.0質量%であったのに対し、水素化活性成分の担持量が触媒Dよりも少ない比較例1-4の触媒前駆体Dの触媒収率は6.3質量%であった。
【0152】
水素化活性成分の担持量が比較的多い実施例1-3の触媒CではEPMAにおいて、水素化活性成分が均一なユニフォーム又は触媒内部に分布する逆エッグシェルの担持状態となることがわかった(
図1、2)。一方、水素化活性成分の担持量が触媒Cと同じ比較例1-4の触媒前駆体DではEPMAにおいて、水素化活性成分が触媒外部に分布するエッグシェルの担持状態であった(
図3、4)。触媒Cからさらに担持量を増やした実施例1-4の触媒Dにおいても、触媒Cと同様に、水素化活性成分が均一なユニフォーム又は触媒内部に分布する逆エッグシェルの担持状態となることがわかった(
図5、6)。
【0153】
本発明の実施例2-1~2-4では、比較例2-1に比べ、反応経過1日~14日の全般に渡り反応速度定数が高く、水素化活性が高いことがわかった。また、本発明の実施例2-5~2-6では、比較例2-2に比べ、反応14日/反応7日の反応速度定数の割合が高く、触媒の活性低下が抑制されることがわかった。さらに本発明の実施例2-7~2-8では、比較例2-3に比べ、反応経過1日~14日の全般に渡り反応速度定数が高く、水素化活性が高いことがわかった。