IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本車輌製造株式会社の特許一覧

特開2022-156605電磁ブレーキ、及び電磁ブレーキを備えた搬送台車
<>
  • 特開-電磁ブレーキ、及び電磁ブレーキを備えた搬送台車 図1
  • 特開-電磁ブレーキ、及び電磁ブレーキを備えた搬送台車 図2
  • 特開-電磁ブレーキ、及び電磁ブレーキを備えた搬送台車 図3
  • 特開-電磁ブレーキ、及び電磁ブレーキを備えた搬送台車 図4
  • 特開-電磁ブレーキ、及び電磁ブレーキを備えた搬送台車 図5
  • 特開-電磁ブレーキ、及び電磁ブレーキを備えた搬送台車 図6
  • 特開-電磁ブレーキ、及び電磁ブレーキを備えた搬送台車 図7
  • 特開-電磁ブレーキ、及び電磁ブレーキを備えた搬送台車 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156605
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】電磁ブレーキ、及び電磁ブレーキを備えた搬送台車
(51)【国際特許分類】
   F16D 66/00 20060101AFI20221006BHJP
   F16D 55/00 20060101ALI20221006BHJP
   F16D 67/06 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
F16D66/00 Z
F16D55/00 B
F16D67/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060385
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】松原 正光
【テーマコード(参考)】
3J058
【Fターム(参考)】
3J058AA43
3J058AA48
3J058AA53
3J058AA58
3J058AA78
3J058AA88
3J058AB33
3J058BA60
3J058CC72
3J058CC77
(57)【要約】
【課題】アーマチェアとヨークとの接触を検出することが可能な電磁ブレーキの提供。
【解決手段】コイル122を備えたヨーク121と、コイル122に通電された際にヨーク121に接触するアーマチェア125を備える電磁ブレーキ120において、ヨーク121は、少なくとも2つに電気的に分割されて、第1ヨーク121aと第2ヨーク121bよりなり、ヨーク121に対してアーマチェア125が接触することで、第1ヨーク121aからアーマチェア125を介して第2ヨーク121bへ導通する検査回路が完成し、ヨーク121にアーマチェア125が接触したことを確認する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルを備えたヨークと、前記コイルに通電された際に前記ヨークに接触するアーマチェアを備える電磁ブレーキにおいて、
前記ヨーク又は前記アーマチェアは、少なくとも2つに電気的に分割されて、第1ヨークと第2ヨーク、或いは第1アーマチェアと第2アーマチェアよりなり、
前記ヨークに対して前記アーマチェアが接触することで、
前記第1ヨークから前記アーマチェアを介して前記第2ヨークへ導通する電気的な検査回路、
又は、前記第1アーマチェアから前記ヨークを介して前記第2アーマチェアへ導通する電気的な検査回路、が完成すること、
を特徴とする電磁ブレーキ。
【請求項2】
複数の電磁ブレーキを備え、該電磁ブレーキを停車時に用いる搬送台車において、
前記電磁ブレーキに、
コイルを備え、少なくとも2つに電気的に分割されたヨーク又はアーマチェアと、
前記コイルに通電した時に前記ヨークに接触するアーマチェアと、を備え、
前記コイルに通電されて、前記ヨークに前記アーマチェアが接触した際に、電気的な検査回路が完成することで、前記ヨークと前記アーマチェアの接触を確認すること、
を特徴とする搬送台車。
【請求項3】
請求項2に記載の搬送台車において、
停車状態を解除した段階で、前記検査回路に通電して、前記電磁ブレーキの動作チェックを行ってから駆動するチェック機構を有すること、
を特徴とする搬送台車。
【請求項4】
請求項3に記載の搬送台車において、
前記チェック機構には、前記コイルに通電した際の電圧値を計測する計測手段を備えていること、
を特徴とする搬送台車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型の搬送車の電磁ブレーキの構造に関し、詳しくは電磁ブレーキの構造を工夫することで破損防止機能を持たせる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
大型構造物を搬送するにあたって用いる搬送台車には、多数の車輪を備えているものもある。そうした搬送台車に用いられる駐車用ブレーキとしては電磁ブレーキが採用され、多数の車輪を備えた搬送台車の場合、それに見合う数の電磁ブレーキが用意される。しかしながら、多数の電磁ブレーキを用いる場合には、それを点検する手間も増えるという問題がある。こうした電磁ブレーキの正常動作を確認する手法については以下のような技術が開示されている。
【0003】
特許文献1には、電動ディスクブレーキに関する技術が開示されている。制動に伴うブレーキパッドの熱膨張に際して、温度センサの計測温度を予め定めたブレーキパッド温度―ブレーキパッド熱膨張量特性に照らして、ブレーキパッドの熱膨張量を検出し、電動モータを作動させることによって、ピストンの位置をパッド熱膨張量に相当する長さ寸法だけ後退させる。これによって、電動ディスクブレーキのパッドクリアランス量を調整することが可能となる。
【0004】
特許文献2には、ブレーキ診断システム及びブレーキ遠隔診断装置に関する技術が開示されている。取得部と、算出部と、判定部と、を備えたブレーキ診断システムは、電磁ブレーキの制動又は解放時の可動部材が動く動作区間において、取得部では電磁ブレーキのコイルを流れる電流の変化を示す電流波形を取得し、算出部では電気ブレーキのN回目の制動時の動作区間の電流波形とN-1回目の制動時の動作区間の電流波形との相違度、または電磁ブレーキのN回目の解放時の動作区間の電流波形とN-1回目の解放時の動作区間の電流波形との相違度を算出し、判定部では、所定回数分の相違度の分散に基づいて、可動部材の動きがランダムに変動する安定性不良の有無を判定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-8241号公報
【特許文献2】特開2020-85112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の技術を搬送台車に用いる場合には、多数の電磁ブレーキ全てにブレーキパットの熱膨張率の検出をし、ピストンの位置を調整する機構を備えている必要がある。また、特許文献2の技術を搬送台車に用いる場合には、取得部と、算出部と、判定部をそれぞれに用意する必要があり、多数の電磁ブレーキの情報を全て記憶し、分析する必要がでてくる。
【0007】
一方で、搬送台車の停車時に電磁ブレーキを停車ブレーキとして機能させる場合、搬送台車を走行させる際には電磁ブレーキが解除されている必要があるが、何らかのトラブルで電磁ブレーキが作動したままの状態となっていると、ブレーキを引き摺りながら搬送台車を走行させることになる。特に大型の搬送台車の場合、多数の電磁ブレーキを備えていて、不具合があって一部の電磁ブレーキがかかったままでも、電磁ブレーキが解除された車輪が発生する駆動力によって移動してしまうことがある。そうすると、かかったままの停車ブレーキが発熱したり焼損したりするなどのトラブルに繋がりかねない。しかし、特許文献1又は特許文献2のような複雑な機能を搭載した電磁ブレーキをこのような搬送台車に搭載することはコストの面でもメンテナンスの面でも好ましくない。
【0008】
そこで、本発明はこの様な課題を解決し、アーマチェアとヨークとの接触を検出することが可能な電磁ブレーキ、又は電磁ブレーキを用いた搬送台車の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の一態様による電磁ブレーキは、以下のような特徴を有する。
【0010】
(1)コイルを備えたヨークと、前記コイルに通電された際に前記ヨークに接触するアーマチェアを備える電磁ブレーキにおいて、
前記ヨーク又は前記アーマチェアは、少なくとも2つに電気的に分割されて、第1ヨークと第2ヨーク、或いは第1アーマチェアと第2アーマチェアよりなり、
前記ヨークに対して前記アーマチェアが接触することで、
前記第1ヨークから前記アーマチェアを介して前記第2ヨークへ導通する電気的な検査回路、
又は、前記第1アーマチェアから前記ヨークを介して前記第2アーマチェアへ導通する電気的な検査回路、が完成すること、
を特徴とする。
【0011】
上記(1)に記載の態様によって、ヨークとアーマチェアの接触を確認することが可能となる。これは第1ヨークと第2ヨークとアーマチェアが接触することで電気的な検査回路を形成或いは第1アーマチェアと第2アーマチェアとヨークが接触することで検査回路を形成し、導通検査をすることで接触確認が出来るためで、電磁ブレーキが無励磁作動形ブレーキであっても励磁作動形ブレーキであっても、ブレーキが効いた状態か否かを判断が出来ることになる。
【0012】
したがって、単純な構造で、例えば課題に示した様なブレーキの故障によって一部のブレーキが効いた状態で搬送台車が動き出そうとした場合でも、これを事前に検出してトラブルを防止することが可能である。この効果は、ヨークを第1ヨークと第2ヨークとに分割し、第1ヨークと第2ヨークとの間が絶縁されていることと、第1ヨーク及び第2ヨークがアーマチェアと接触した時に検査回路を形成できる、或いはアーマチェアを分割してヨークと接触した時に検査回路を形成できるという簡易な構成で実現が可能であるため、比較的安いコストで、かつメンテナンス性の良い電磁ブレーキが提供できる。
【0013】
また、前記目的を達成するために、本発明の別の態様による搬送台車は、以下のような特徴を有する。
【0014】
(2)複数の電磁ブレーキを備え、該電磁ブレーキを停車時に用いる搬送台車において、
前記電磁ブレーキに、
コイルを備え、少なくとも2つに電気的に分割されたヨーク又はアーマチェアと、
前記コイルに通電した時に前記ヨークに接触するアーマチェアと、を備え、
前記コイルに通電されて、前記ヨークに前記アーマチェアが接触した際に、電気的な検査回路が完成することで、前記ヨークと前記アーマチェアの接触を確認すること、
を特徴とする。
【0015】
上記(2)に記載の態様によって、搬送台車に搭載された電磁ブレーキが故障した際にも、故障を判定してトラブルを未然に防ぐことが可能となる。多数の電磁ブレーキを用いている搬送車にとって、簡易な構造で電磁ブレーキの構造をチェック出来ることは望ましく、コスト面でもメンテナンス面でもメリットがある。
【0016】
(3)(2)に記載の搬送台車において、
停車状態を解除した段階で、前記検査回路に通電して、前記電磁ブレーキの動作チェックを行ってから駆動するチェック機構を有すること、
が好ましい。
【0017】
上記(3)に記載の態様によって、搬送台車の移動前にチェック機構によって異常を検知することが可能となり、課題に示した様なブレーキの引き摺りを生じることを未然に防ぐことができ、搬送台車の安全な運用が可能となる。チェック機構は(2)に示す通り、通電することでヨークとアーマチェアとの接触を確認ができる単純な構成であるため、搬送台車を動かす前に簡単に正常か否かをチェックすることができ、異常を発見すれば直ちに対応することが可能である。このチェック機構は定期点検などにも利用することが可能であり、不具合のある電磁ブレーキの特定ができるため、メンテナンスの効率化などが期待できる。
【0018】
(4)(3)に記載の搬送台車において、
前記チェック機構には、前記コイルに通電した際の電圧値を計測する計測手段を備えていること、
が好ましい。
【0019】
上記(4)に記載の態様によって、搬送台車のメンテナンスの際に、毎回電圧値を計測し記録することで、電磁ブレーキの状態を知ることが可能となる。ヨークに対してアーマチェアを吸着する為には、所定の距離離間した状態のアーマチェアをヨークに備えるコイルに通電することで磁力を発生する必要がある。この際に必要な磁力は、ヨークとアーマチェアとの間の距離によって変化する。このため、コイルとアーマチェアの間の距離が大きくなるとコイルにはヨークとアーマチェアが吸着するまでにより高い電圧がかかることとなる。したがって、この作用を利用して、メンテナンスの度に電圧をチェックすれば、電磁ブレーキのおおよその消耗を推測することが可能となる。こうしたチェックは電磁ブレーキを分解しなくても行うことができるため、メンテナンスの手間をかけることなくチェックが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態の、搬送台車の概略平面図である。
図2】本実施形態の、車輪ユニットの模式図である。
図3】本実施形態の、電磁ブレーキの平面図である。
図4】本実施形態の、電磁ブレーキの側面断面図である。
図5】本実施形態の、電磁ブレーキの底面図である。
図6】本実施形態の、電磁ブレーキの断面図である。
図7】本実施形態の、ヨーク及びアーマチェアの離間状態を示す模式図である。
図8】本実施形態の、ヨーク及びアーマチェアの接触状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
まず、本発明の実施形態について図面を用いて説明を行う。図1に、本実施形態の、搬送台車100の概略平面図を示す。図2に、車輪ユニット110の模式図を示す。搬送台車100は、運転席102及び搬送台103を備え、32輪のタイヤ101によって支持されている。図1に模式的に示される様にタイヤ101は、4輪を1セットとして車輪ユニット110を構成し、搬送台車100の下部8箇所に配置されている。各車輪ユニット110には、1つの電磁ブレーキ120と、モータ130が備えられている。なお、必要に応じて車輪ユニット110の数を増減することを妨げない。
【0022】
車輪ユニット110は、モータ130を駆動することで、タイヤ101を回転させて搬送台車100を走行させることができ、電磁ブレーキ120を作動させることによって、車輪ユニット110のタイヤ101が回転しないようにブレーキをかけることができる。なお、全ての車輪ユニット110に電磁ブレーキ120及びモータ130が接続されている必要はなく、必要に応じて電磁ブレーキ120やモータ130を備えない車輪ユニット110を用いることを妨げない。モータ130や電磁ブレーキ120は、それぞれ制御装置200及び電源210に接続される。
【0023】
図3に、電磁ブレーキ120の平面図を示す。図4に、電磁ブレーキ120の側面断面図を示す。図5に、電磁ブレーキ120の底面図を示す。図5図3の裏面にあたる。電磁ブレーキ120は、非通電時にブレーキがかかる無励磁ブレーキ方式を採用しており、搬送台車100の停車中には停車ブレーキとして利用される。
【0024】
電磁ブレーキ120のステータ側には、ブラケット132に収められて保持されたヨーク121が備えられ、ヨーク121は図3に示すように、第1ヨーク121aと第2ヨーク121bよりなり、それぞれ半割りのドーナツ形状となっている。ブラケット132には、複数の凹みにそれぞれスプリング123が保持されて備えられている。ヨーク121にはコイル122が絶縁された状態で保持され、コイル122は、リード線124を通じて外部から給電されることで電磁石として作用し、磁力を発生する。
【0025】
ブラケット132に備えられるスプリング123は、一端が前述したようにブラケット132に埋め込まれて保持され、他端はアーマチェア125に当接し、アーマチェア125とヨーク121が離間するように作用する。これにより図4に示すように、ヨーク121とアーマチェア125の間は隙間Sができる。隙間Sは、0.1~0.2mm程度に設定されている。
【0026】
アーマチェア125は円盤形状であり、3箇所にシャフト126が貫通する構造となっている。シャフト126は、ヨーク121に立設され、プレート128を支持している。したがって、アーマチェア125はシャフト126にガイドされて、アーマチェア125とプレート128との間を移動することができる。このため、シャフト126とアーマチェア125の間の摺動性を確保するために用いるスリーブ126aは、自己潤滑性の高い素材が用いられていることが好ましい。
【0027】
プレート128とアーマチェア125との間には、ディスク127が配置されている。ディスク127にはハブ129が噛み合うように保持されており、ハブ129は図6に示す駆動シャフト135を固定することが出来る。駆動シャフト135はモータ130から延長される構造となっていて、ディスク127とハブ129が一体となってローターとして機能する。したがって、無通電時にアーマチェア125がプレート128側に移動した際にはプレート128とアーマチェア125でディスク127を挟み込むように面接触し、大きな制動力を発揮する。
【0028】
第1ヨーク121aと第2ヨーク121bにはそれぞれ接触確認用リード線131が設けられていて、アーマチェア125とヨーク121(第1ヨーク121a及び第2ヨーク121b)の接触面は絶縁されていない。このため、アーマチェア125とヨーク121が接触することで電気回路が形成されて、接触確認用リード線131に通電することで接触確認が可能である。接触確認用リード線131は、制御装置200に接続されており、制御装置200によってヨーク121とアーマチェア125との接触確認指令が行われる。そして必要に応じて、搬送台車100のオペレーターなどにその結果を通知する。
【0029】
次に、電磁ブレーキ120の動作について説明する。図6に、電磁ブレーキ110の断面図を示す。図4に対応する図である。
<無励磁状態>
コイル122に通電していない無励磁状態では、図4に示すようにディスク127は、プレート128とアーマチェア125によって挟まれている。言い換えると、アーマチェア125は、ブラケット132に保持されたスプリング123によって付勢されることで、ディスク127をプレート128に押しつけている。この状態で駆動シャフト135の端部にハブ129を介して固定されているディスク127が回転出来ないため、駆動シャフト135も回転出来ず、駆動シャフト135に接続されるモータ130も回転出来ない。このため、タイヤ101にはブレーキがかかった状態となっている。
【0030】
<励磁状態>
一方、コイル122に通電した励磁状態では、図6に示すようにアーマチェア125が、スプリング123の付勢力に抗してコイル122に磁気吸着される。この結果、アーマチェア125はステータ121と接触するように移動し、アーマチェア125とプレート128とで挟まれた状態が解除されたディスク127は回転することが可能となる。したがって、ディスク127にハブ129を介して固定される駆動シャフト135が回転可能となり、モータ130の回転によって車輪ユニット110が駆動される。
【0031】
本実施形態の電磁ブレーキ120は上記構成であるため、以下に示すような作用及び効果を奏する。
【0032】
まず、電磁ブレーキ120にトラブルが生じてブレーキが解除されていない状態となった場合に、その異常を簡易な構成で検出することが可能となる。これは、コイル122を備えたヨーク121と、コイル122に通電された際にヨーク121に接触するアーマチェア125を備える電磁ブレーキ120において、ヨーク121は、少なくとも2つに電気的に分割されて、第1ヨーク121aと第2ヨーク121bよりなり、ヨーク121に対してアーマチェア125が接触することで、第1ヨーク121aからアーマチェア125を介して第2ヨーク121bへ導通する電気的な検査回路が完成する。この結果、ヨーク121にアーマチェア125が接触したことを確認することのできる構成となっているためである。
【0033】
図7に、ヨーク121及びアーマチェア125の離間状態を示す模式図を示す。図8に、ヨーク121及びアーマチェア125の接触状態を示す模式図を示す。第1ヨーク121aと第2ヨーク121bには接触確認用リード線131が接続されているが、第1ヨーク121aと第2ヨーク121bは互いに絶縁された状態である為、図7に示される状態、即ち無励磁状態では導通していない。一方で、図8に示すように第1ヨーク121aと第2ヨーク121bにアーマチェア125が接触している状態であると、第1ヨーク121aと第2ヨーク121bはアーマチェア125を介して電気回路を形成する。
【0034】
このため、ヨーク121とアーマチェア125が接触したことを検出することが可能となる。この接触確認は、接触確認用リード線131に通電することで実現可能であるため、ヨーク121を第1ヨーク121aと第2ヨーク121bに分割し、第1ヨーク121aと第2ヨーク121bを絶縁して保持するような簡易な構成によって、異常検出を実現できる。課題で示した通り、多数の電磁ブレーキ120を搬送台車100に用いる場合には、構造が簡易になった方がコストの面でもメンテナンスの面でもメリットが大きい。
【0035】
このような電磁ブレーキ120を、搬送台車100の停車用制動装置として用いる場合には、ヨーク121からアーマチェア125が離間していることが確認出来れば良く、特許文献1や特許文献2で示すような複雑な構造や、制御を必要としない。このため、多数の電磁ブレーキ120を用いてもコストが嵩むことがなく、構造的に電磁ブレーキ120を大きくする必要がないため、既存の搬送台車100を改造する場合にも低コストで対応することが可能となる。
【0036】
そして、多数の電磁ブレーキ120を用いる搬送台車100において、一部が故障した場合には、電磁ブレーキ120のヨーク121とアーマチェア125が接触しているかどうかを検出することで、その不具合を判定することが可能である。この結果、意図せずに車輪ユニット110の一部がブレーキをかけている状況を検知し、オペレーターにその不具合を通知すれば、ブレーキがかかっているのを知らずに搬送台車100を走行させてしまうようなことを防ぐことができる。
【0037】
本実施形態の搬送台車100は、数十トンから数百トンもの重量物を移動させるのに用いる為、駆動用のモータ130も大きな力を発生する。このため、一部の電磁ブレーキ120が不具合によってブレーキがかかった状態でも、走行してしまうケースがあり、その結果、モータ130や電磁ブレーキ120などが発熱や焼損するようなトラブルが考えられるが、本発明によってそうしたトラブルを防ぐことが可能となる。
【0038】
また、電磁ブレーキ120のディスク127は、摩擦によって摩耗することで厚みが変わり、ディスク127の厚みの変化に伴って隙間Sが大きくなる。こうした場合に、コイル122の磁力でアーマチェア125を吸着できなくなるトラブルが考えられ、アーマチェア125をヨーク121に吸着できないと、電磁ブレーキ120が解除されないままとなることがある。コイル122から発生する磁力が大きければ隙間Sが大きくなってもアーマチェア125を吸着することが可能であるが、そのためにはコイルにかける電圧又はコイル自体を大きくする必要がある。
【0039】
そこでこの特性を利用して、電磁ブレーキ120それぞれに対応する電圧計を用意し、電気的にアーマチェア125がヨーク121に吸着したことを検出した時のコイル122にかかる電圧値を計測して、アーマチェア125を吸着するのに必要な磁力の強さの最小値を予め把握して閾値としておけば、メンテナンス時に吸着確認とあわせてコイル122にかかる電圧値をチェックすることで、ディスクの摩耗量を予測することが可能となる。こうしたチェックは、電磁ブレーキ120を分解せずとも可能であり、メンテナンスの際にディスク127の摩耗量を把握することが可能となるので、メンテナンス性を大幅に向上させることが可能である。
【0040】
以上、本発明に係る電磁ブレーキ120に関する説明をしたが、本発明はこれに限定されるわけではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。例えば本実施形態の電磁ブレーキ120は複数用いて搬送台車100の停車時にブレーキとして機能させているが、搬送台車100以外にこの電磁ブレーキ120を用いることを妨げない。また、電磁ブレーキ120として示したが、同様の構造を持つ電磁クラッチに本発明を適用することを妨げない。
【0041】
また、本発明の電磁ブレーキ120は無励磁ブレーキ式を採用しているが、励磁ブレーキ式のものに適用することも可能である。また、電磁ブレーキ120の構成についても、適宜変更することを妨げない。例えば、スプリング123はコイルバネ式であるが、代わりに板バネなどに変更することを妨げない。また、ヨーク121が2つに電気的に分割されて第1ヨーク121aと第2ヨーク121bを備えていると説明しているが、アーマチェア125を2つに電気的に分割することで検査回路が完成する構成にしても良い。この場合は、アーマチェア125側に接触確認用リード線131に相当するリード線を繋ぐ構成となる。
【符号の説明】
【0042】
120 電磁ブレーキ
121 ヨーク
121a 第1ヨーク
121b 第2ヨーク
122 コイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8