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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156627
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】ダイオードとその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/861 20060101AFI20221006BHJP
   H01L 21/329 20060101ALI20221006BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20221006BHJP
   H01L 21/28 20060101ALI20221006BHJP
   H01L 29/41 20060101ALI20221006BHJP
   H01L 21/266 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
H01L29/91 D
H01L29/91 B
H01L29/06 301V
H01L29/06 301D
H01L29/91 F
H01L21/28 301B
H01L29/44 Z
H01L29/06 301G
H01L29/06 301R
H01L21/265 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060423
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 智史
【テーマコード(参考)】
4M104
【Fターム(参考)】
4M104AA04
4M104CC01
4M104DD21
4M104FF02
4M104FF36
4M104GG02
4M104GG18
4M104HH18
(57)【要約】
【課題】 ダイオードにおいて、アノード層の外周端周辺における電界集中を緩和するとともに低いオン抵抗を実現する。
【解決手段】 ダイオードであって、半導体基板を有する。前記半導体基板が、前記半導体基板の上面に臨む範囲に設けられているp型のアノード層と、中性層と、前記中性層に対して下側から接するn型の電流拡散層と、前記アノード層と前記電流拡散層に対して下側から接するとともに前記電流拡散層よりも低いキャリア濃度を有するn型のドリフト層を有する。前記中性層が、前記アノード層と前記半導体基板の外周面の間に位置する前記半導体基板の前記上面に臨む範囲に設けられており、前記アノード層の側面に接しており、前記アノード層のキャリア濃度の10%以下のキャリア濃度を有する。前記アノード層の前記側面が、下側に向かうほど前記半導体基板の前記外周面に近づくように傾斜している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイオードであって、
半導体基板を有し、
前記半導体基板が、
前記半導体基板の上面に臨む範囲に設けられているp型のアノード層と、
前記アノード層と前記半導体基板の外周面の間に位置する前記半導体基板の前記上面に臨む範囲に設けられており、前記アノード層の側面に接しており、前記アノード層のキャリア濃度の10%以下のキャリア濃度を有する中性層と、
前記中性層に対して下側から接するn型の電流拡散層と、
前記アノード層と前記電流拡散層に対して下側から接し、前記電流拡散層よりも低いキャリア濃度を有するn型のドリフト層、
を有し、
前記アノード層の前記側面が、下側に向かうほど前記半導体基板の前記外周面に近づくように傾斜している、
ダイオード。
【請求項2】
ダイオードの製造方法であって、
n型のドリフト層上にp型のアノード層をエピタキシャル成長させる工程と、
前記アノード層の上面にn型不純物を注入する工程であって、前記アノード層の前記上面に注入領域と非注入領域と前記注入領域と前記非注入領域の間に位置する遷移領域を設定し、前記注入領域には前記ドリフト層に達する注入深さでn型不純物を注入し、前記非注入領域にはn型不純物を注入せず、前記遷移領域には前記非注入領域から前記注入領域に近づくに従って注入深さが深くなるようにn型不純物を注入する工程、
を有するダイオードの製造方法。
【請求項3】
n型不純物を注入する前記工程では、前記注入領域内の前記アノード層に、前記アノード層のp型不純物濃度の0.9倍以上かつ1.1倍以下の濃度でn型不純物を注入する、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
n型不純物を注入する前記工程では、前記アノード層の前記上面のうちの前記非注入領域と前記遷移領域を覆うマスクを介して前記アノード層の前記上面にn型不純物を注入し、
前記遷移領域内において、前記マスクの厚みが、前記非注入領域から前記注入領域に近づくに従って減少する、
請求項2または3に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、ダイオードとその製造方法に関する。
【0002】
非特許文献1に開示のダイオードでは、図11に示すように、半導体基板212の上面の外周部にリセス280が設けられている。このため、半導体基板212の上面の中央に凸部282が設けられている。凸部282の側面282aは、下側ほど半導体基板212の外周面に近づくように傾斜している。凸部282内にp型のアノード層220が配置されている。アノード層220の下側にn型のドリフト層226が配置されている。アノード層220とドリフト層226の界面であるpn接合227は、凸部282内で横方向に伸びて側面282aまで達している。このダイオードがオフしている状態では、pn接合227の周辺に空乏層が広がる。側面282aの近傍では、アノード層220の厚みが薄いため、空乏層が上側に向かって曲がるように分布する。これによって、pn接合227の端部227a(すなわち、アノード層220の外周端)の周辺における電界が緩和される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】T. Maeda at el. Parallel-Plane Breakdown Fields of 2.8-3.5 MV/cm in GaN-on-GaN p-n Junction Diodes with Double-Side-Depleted Shallow Bevel Termination. 2018 IEEE International Electron Devices Meeting. p30.1.1-30.1.4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1のダイオードでは、凸部282の下部から凸部282よりも外周側の範囲(すなわち、リセス222に臨む範囲)までn型不純物濃度が低いドリフト層226が分布している。ダイオードがオンしたときには、凸部282よりも外周側のドリフト層226に電流が流れ難い。このため、ダイオードのオン抵抗が高い。本明細書では、ダイオードにおいて、アノード層の外周端周辺における電界集中を緩和するとともに低いオン抵抗を実現する技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示するダイオードは、半導体基板を有する。前記半導体基板が、アノード層と中性層と電流拡散層とドリフト層を有する。前記アノード層は、前記半導体基板の上面に臨む範囲に設けられているp型層である。前記中性層は、前記アノード層と前記半導体基板の外周面の間に位置する前記半導体基板の前記上面に臨む範囲に設けられており、前記アノード層の側面に接しており、前記アノード層のキャリア濃度の10%以下のキャリア濃度を有する。前記電流拡散層は、前記中性層に対して下側から接するn型層である。前記ドリフト層は、前記アノード層と前記電流拡散層に対して下側から接し、前記電流拡散層よりも低いキャリア濃度を有するn型層である。前記アノード層の前記側面が、下側に向かうほど前記半導体基板の前記外周面に近づくように傾斜している。
【0006】
なお、中性層のキャリア濃度がアノード層のキャリア濃度の10%以下であれば、中性層はn型、i型、p型のいずれであってもよい。
【0007】
このダイオードでは、非特許文献1のダイオードと同様に、アノード層がドリフト層に対して上側に突出した位置に配置されており、アノード層の側面が下側に向かうほど半導体基板の外周面に近づくように傾斜している。また、アノード層の側面に接する中性層は、低いキャリア濃度を有するので、電気的に中性である。したがって、中性層は、空乏層の分布にほとんど影響しない。このため、このダイオードでは、非特許文献1のダイオードと同様に空乏層が分布し、アノード層の外周端の周辺における電界集中が緩和される。また、このダイオードでは、アノード層よりも外周側の範囲において、ドリフト層の表層部(すなわち、ドリフト層と中性層の間)にn型不純物濃度が高い電流拡散層が設けられている。このため、このダイオードがオンしたときに、電流拡散層を介して、アノード層よりも外周側の範囲に電流が拡散し易い。したがって、このダイオードは、低いオン抵抗を有する。
【0008】
また、本明細書が開示するダイオードの製造方法は、エピタキシャル成長工程と注入工程を有する。前記エピタキシャル成長工程では、n型のドリフト層上にp型のアノード層をエピタキシャル成長させる。前記注入工程では、前記アノード層の上面にn型不純物を注入する。前記注入工程では、前記アノード層の前記上面に注入領域と非注入領域と前記注入領域と前記非注入領域の間に位置する遷移領域を設定し、前記注入領域には前記ドリフト層に達する注入深さでn型不純物を注入し、前記非注入領域にはn型不純物を注入せず、前記遷移領域には前記非注入領域から前記注入領域に近づくに従って注入深さが深くなるようにn型不純物を注入する。
【0009】
この製造方法では、注入工程において、注入領域に前記ドリフト層に達する注入深さでn型不純物が注入される。すなわち、注入領域では、アノード層とドリフト層にn型不純物が注入される。アノード層にn型不純物が注入されることで、アノード層のキャリア濃度が低下して中性領域が形成される。また、アノード層の下のドリフト層にn型不純物が注入されることで、ドリフト層のキャリア濃度が上昇し、電流拡散層が形成される。すなわち、注入領域では、アノード層であった箇所が中性領域となり、中性領域の下側に電流拡散層が形成される。非注入領域にはn型不純物が注入されないので、非注入領域にはアノード層が残存する。遷移領域には、非注入領域から注入領域に近づくに従って注入深さが深くなるようにn型不純物が注入される。したがって、遷移領域の表層部には、非注入領域から注入領域に近づくに従って深さが深くなる中性領域が形成される。このため、アノード層の側面(すなわち、アノード層と中性領域の界面)は、下側に向かうほど半導体基板の外周面に近づくように傾斜した形状となる。以上に説明したように、この製造方法によれば、アノード層の側面が下側に向かうほど半導体基板の外周面に近づくように傾斜しており、中性領域の下側に電流拡散層が設けられたダイオードを製造することができる。したがって、この製造方法によれば、アノード層の外周端の周辺における電界集中を緩和できるとともにオン抵抗が低いダイオードを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態のダイオードの断面図。
図2】アノード層20の側面20c周辺部の拡大断面図。
図3】ドリフト層内の電流密度の分布を示すグラフ。
図4】実施形態の製造方法の説明図。
図5】実施形態の製造方法の説明図。
図6】実施形態の製造方法の説明図。
図7】実施形態の製造方法の説明図。
図8】実施形態の製造方法の説明図。
図9】耐圧と比Ni/Naの関係を示すグラフ。
図10】変形例のダイオードの断面図。
図11】非特許文献1のダイオードの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書が開示する一例のダイオードの製造方法は、n型不純物を注入する前記工程では、前記注入領域内の前記アノード層に、前記アノード層のp型不純物濃度の0.9倍以上かつ1.1倍以下の濃度でn型不純物を注入してもよい。
【0012】
この構成によれば、中性領域のキャリア濃度を低減することができ、より高い耐圧を有するダイオードを製造できる。
【0013】
本明細書が開示する一例のダイオードの製造方法では、n型不純物を注入する前記工程では、前記アノード層の前記上面のうちの前記非注入領域と前記遷移領域を覆うマスクを介して前記アノード層の前記上面にn型不純物を注入してもよい。また、前記遷移領域内において、前記マスクの厚みが、前記非注入領域から前記注入領域に近づくに従って減少してもよい。
【0014】
この構成によれば、遷移領域に非注入領域から注入領域に近づくに従って注入深さが深くなるようにn型不純物を注入することができる。
【0015】
図1に示す実施形態のダイオード10は、半導体基板12を有している。半導体基板12は、GaN(すなわち、窒化ガリウム)により構成されている。但し、半導体基板12がシリコン、炭化シリコン等の他の半導体により構成されていてもよい。半導体基板12の上面12aには、上部電極14が配置されている。上部電極14は、上面12aの中央を含む範囲に接している。半導体基板12の下面12bには、下部電極16が配置されている。下部電極16は、半導体基板12の下面12bの全域に接している。
【0016】
半導体基板12は、アノード層20、中性層22、電流拡散層24、ドリフト層26、及び、カソード層28を有している。
【0017】
アノード層20は、p型であり、半導体基板12の上面12aに臨む範囲に配置されている。アノード層20は、半導体基板12の上面12aの中央を含む範囲に配置されており、上面12aにおいて上部電極14に接している。
【0018】
中性層22は、キャリア濃度が低い半導体層である。すなわち、中性層22では、n型不純物濃度とp型不純物濃度がバランスしているため、キャリア濃度が低い。中性層22のキャリア濃度は、アノード層20のキャリア濃度の10%以下である。中性層22は、低濃度のn型、i型、または、低濃度のp型である。中性層22のキャリア濃度が低いので、中性層22の導電率は極めて低い。中性層22は、絶縁層に近い電気的特性を有する。中性層22は、半導体基板12の上面12aに臨む範囲に配置されている。中性層22は、アノード層20と半導体基板12の外周面12cの間に配置されている。すなわち、中性層22は、アノード層20の外周側(すなわち、外周面12cに近い側)に配置されている。中性層22は、上部電極14に接していない。中性層22は、アノード層20に対して横向きに接している。すなわち、図2に示すように、中性層22は、アノード層20の側面20aに接している。言い換えると、アノード層20の側面20aは、アノード層20と中性層22の界面である。
【0019】
図1、2に示すように、アノード層20の側面20aは、下側に向かうほど半導体基板12の外周面12cに近づくように傾斜している。傾斜した側面20aが存在する範囲20b内では、中性層22の下側にアノード層20が配置されている。範囲20b内では、外周面12cに近い位置ほどアノード層20の厚さが薄くなるとともに中性層22の厚さが厚くなる。以下では、半導体基板12のうちのアノード層20の外周端20cよりも外周側の部分を、外周部80という。また、半導体基板12のうちの外周端20cよりも内側の部分を、中央部82という。
【0020】
電流拡散層24は、比較的n型不純物濃度が高いn型層である。電流拡散層24のn型不純物濃度は、ドリフト層26のn型不純物濃度よりも高い。したがって、電流拡散層24のキャリア濃度は、ドリフト層26のキャリア濃度よりも高い。このため、電流拡散層24の抵抗率は、ドリフト層26の抵抗率よりも低い。電流拡散層24は、中性層22の下側に配置されており、中性層22の下面の略全域に接している。
【0021】
ドリフト層26は、電流拡散層24よりもn型不純物濃度が低いn型層である。ドリフト層26は、アノード層20及び電流拡散層24の下側に配置されている。ドリフト層26は、半導体基板12の中央部82から外周部80まで分布している。ドリフト層26は、アノード層20及び電流拡散層24に対して下側から接している。
【0022】
カソード層28は、電流拡散層24よりもn型不純物濃度が高いn型層である。したがって、カソード層28のキャリア濃度は、電流拡散層24のキャリア濃度よりも高い。カソード層28は、ドリフト層26の下側に配置されている。カソード層28は、半導体基板12の中央部82から外周部80まで分布している。カソード層28は、ドリフト層26に対して下側から接している。カソード層28は、半導体基板12の下面12bにおいて下部電極16に接している。
【0023】
上部電極14に下部電極16よりも高い電位を印加すると、アノード層20からドリフト層26に電流が流れる。アノード層20からドリフト層26に流入した電流は、中央部82と外周部80に分散して下側へ向かって流れてカソード層28へ流れる。実施形態のダイオード10では、外周部80内のドリフト層26の上部に設けられた電流拡散層24がドリフト層26よりも低い低効率を有する。このため、図1の矢印100のように、アノード層20からドリフト層26に流入した電流が電流拡散層24を通って横方向に拡散し易い。電流拡散層24に流入した電流は、外周部80内のドリフト層26を通ってカソード層28へ流れる。このように、電流拡散層24が設けられているので、外周部80に電流が拡散し易い。したがって、ダイオード10では、ドリフト層26内で電流が中央部82と外周部80に分散して流れ易い。このため、ダイオード10のオン抵抗は低い。
【0024】
図3は、ダイオード10がオンしているときのドリフト層26内(より詳細には、中央部82と外周部80内)の電流密度をシミュレーションした結果を示している。図3において、グラフAは実施形態のダイオード10の結果を示しており、グラフBは比較例のダイオードの結果を示している。比較例のダイオードは、電流拡散層24を有していない。図3に示すように、実施形態のダイオード10では、比較例のダイオードに比べて、外周部80内の電流密度が高くなる。このように、実施形態のダイオード10では広範囲に分散して電流を流すことができるので、実施形態のダイオード10は低いオン抵抗を有する。
【0025】
また、下部電極16に上部電極14よりも高い電位を印加すると、アノード層20とドリフト層26の界面のpn接合27に逆電圧が印加される。すると、図2に示すように、pn接合27からその周辺のアノード層20及びドリフト層26に空乏層90が広がる。上述したように、中性層22のキャリア濃度は極めて低い。このため、中性層22は、電気的に中性であり、絶縁体とほぼ同様に機能する。したがって、中性層22は、空乏層90の分布に影響しない。また、アノード層20の側面20aは下側ほど外周側に近づくように傾斜している。このため、アノード層20の外周端20c近傍では、アノード層20の厚みが薄い。このため、外周端20c近傍では、アノード層20内に幅広く空乏層90が伸びる。その結果、外周端20c近傍で空乏層90が上側に曲がるように分布する。このような空乏層90の分布では、外周端20c近傍で生じる電界が緩和される。したがって、ダイオード10は高い耐圧を有する。
【0026】
次に、ダイオード10の製造方法について説明する。ダイオード10は、全体がカソード層28によって構成されている半導体基板から製造される。まず、図4に示すように、カソード層28上にドリフト層26をエピタキシャル成長させる。次に、ドリフト層26上にアノード層20をエピタキシャル成長させる。ここでは、ドリフト層26の上面の全域にアノード層20を形成する。
【0027】
次に、図5に示すように、アノード層20の上面(すなわち、半導体基板12の上面12a)上にレジスト層60を形成する。ここでは、上面12aの中央を含む範囲がレジスト層60に覆われるとともに上面12aの外周側の範囲がレジスト層60から露出するようにレジスト層60をパターニングする。次に、半導体基板12をレジスト層60と共にアニールする。すると、図6に示すように、レジスト層60が軟化して流動する。これによって、レジスト層60の端部60a近傍の部分60bにおいて、レジスト層60の厚みが端部60aに近づくにしたがって薄くなる。以下では、半導体基板12の上面12aのうちの部分60bによって覆われている部分を、遷移領域12yという。また、上面12aのうちの厚みが一定のレジスト層60によって覆われている部分を、非注入領域12xという。また、上面12aのうちのレジスト層60に覆われていない部分を、注入領域12zという。遷移領域12yは、非注入領域12xと注入領域12zの間に配置されている。遷移領域12y内のレジスト層60の厚みは、非注入領域12xから注入領域12zに向かうにしたがって減少している。
【0028】
次に、イオン注入工程を実施する。イオン注入工程では、図7に示すように、レジスト層60を介して半導体基板12の上面12aにn型不純物をイオン注入する。
【0029】
図7に示すように、非注入領域12xは厚いレジスト層60によって覆われているので、非注入領域12xにはn型不純物は注入されない。したがって、図8に示すように、イオン注入工程後に、非注入領域12x内にアノード層20が残存する。
【0030】
図7に示すように、注入領域12zはレジスト層60に覆われていないので、注入領域12zにはn型不純物が注入される。イオン注入工程では、注入領域12zに注入されるn型不純物の注入深さがアノード層20の下側のドリフト層26に達するように注入エネルギーを設定する。このため、注入領域12zでは、アノード層20だけでなく、ドリフト層26のうちのアノード層20近傍の部分26aにもn型不純物が注入される。なお、イオン注入工程では、注入エネルギーを変更しながら(すなわち、注入深さを変更しながら)n型不純物を注入することによって、上面12aから部分26aまでの深さ範囲に分散してn型不純物を分布させてもよい。注入領域12zでは、p型のアノード層20にn型不純物が注入される。その結果、図8に示すように、注入領域12z内のアノード層20であった部分に、キャリア濃度が低下した中性層22が形成される。アノード層20に注入されるn型不純物の濃度がアノード層20のp型不純物濃度と等しければ、中性層22はi型となる。アノード層20に注入されるn型不純物の濃度がアノード層20のp型不純物濃度よりも高ければ、中性層22はn型となる。アノード層20に注入されるn型不純物の濃度がアノード層20のp型不純物濃度よりも低ければ、中性層22はp型となる。ここでは、アノード層20に注入されるn型不純物の濃度Niが、アノード層20のp型不純物濃度Naの0.9倍以上かつ1.1倍以下となるように、n型不純物を注入する。このようにn型不純物を注入すると、中性層22のキャリア濃度が、非注入領域12x内に残存するアノード層20のキャリア濃度の10%以下となる。また、図7に示すように、注入領域12z内では、ドリフト層26の部分26a(すなわち、アノード層20の下側の部分)にn型不純物が注入されるので、部分26aのn型不純物濃度が上昇する。このため、部分26aが、高いn型不純物濃度を有する電流拡散層24となる。すなわち、図8に示すように、注入領域12z内の中性層22の下側に電流拡散層24が形成される。
【0031】
図7に示すように、遷移領域12y上では、レジスト層60の厚さが非注入領域12xから注入領域12zに向かうにしたがって薄くなっている。したがって、遷移領域12yでは、n型不純物の注入深さが非注入領域12xから注入領域12zに向かうにしたがって深くなる。n型不純物の注入深さがアノード層20の厚みよりも浅い範囲内では、図8に示すように、半導体基板12の上面12a近傍に中性層22が形成され、その中性層22の下側にアノード層20が残存する。n型不純物の注入深さが非注入領域12xから注入領域12zに向かうにしたがって深くなるので、遷移領域12y内に残存するアノード層20の厚さは非注入領域12xから注入領域12zに向かうにしたがって薄くなる。このため、アノード層20の側面20aが、下側に向かうほど半導体基板12の外周面12cに近づくように傾斜する。
【0032】
イオン注入工程後に、レジスト層60を除去する。その後、図1に示すように、上部電極14と下部電極16を形成することで、ダイオード10が完成する。
【0033】
この製造方法では、半導体基板12の上面12aにリセスを形成することなく、側面20aが傾斜したアノード層20を形成することができる。すなわち、イオン注入によって中性層22を形成することで、アノード層20の側面20aを傾斜させることができる。この製造方法によれば、側面20aが傾斜するアノード層20を従来よりも容易に形成することができる。また、側面20aに接する中性層22は電気的に中性であるので、実施形態のダイオード10では、リセスによってアノード層の側面を傾斜させたダイオードと同様に、アノード層20の外周端20c近傍における電界集中を抑制できる。したがって、この製造方法によって製造されたダイオードは、高い耐圧を有する。
【0034】
図9は、ダイオード10の耐圧と、比Ni/Naの関係を示している。なお、上述したように、濃度Niは、注入領域12zに注入するn型不純物の濃度である。また、上述したように、濃度Naは、アノード層20内のp型不純物濃度である。比Ni/Na=1の場合には中性層22がi型であり、比Ni/Na>1の場合には中性層22がn型であり、比Ni/Na<1の場合には中性層22がp型である。また、図9のグラフXは、アノード層20のp型不純物濃度Naとドリフト層26のn型不純物濃度Ndの比Na/Ndが20の場合を示している。図9のグラフYは、比Na/Ndが50の場合を示している。図9に示すように、グラフX、Yのいずれでも、比Ni/Naが0.9~1.1の範囲では、高い耐圧が得られる。比Ni/Naが0.9~1.1の場合には、中性層22のキャリア濃度がアノード層のキャリア濃度の10%以下となり、中性層22が絶縁体に近い特性を有するようになる。このため、アノード層20の外周端20c周辺において電界集中が抑制され、耐圧が高くなる。
【0035】
また、実施形態の製造方法によれば、中性層22の下側にn型不純物濃度が高い電流拡散層24が形成される。したがって、オン抵抗が低いダイオード10を製造することができる。
【0036】
なお、図10に示すように、外周部80に離散的に中性層22と電流拡散層24が設けられていてもよい。図10では、離散的に設けられた中性層22の間にp型層が存在している。図10の構成は、上述したイオン注入工程において、注入領域12zに離散的にn型不純物を注入することによって得ることができる。
【0037】
また、上述した実施形態では、ダイオード単体の素子について説明したが、ダイオードと他の素子が組み合わされていてもよい。例えば、アノード層が電界効果トランジスタのボディ層を兼ねていてもよく、カソード層が電界効果トランジスタのドレイン層を兼ねていてもよい。すなわち、ダイオードが、電界効果トランジスタのボディダイオードであってもよい。
【0038】
以上、実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0039】
10:ダイオード、12:半導体基板、20:アノード層、20a:側面、22:中性層、24:電流拡散層、26:ドリフト層、28:カソード層
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