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特開2022-156629熱電モジュール、及び、熱電モジュール製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156629
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】熱電モジュール、及び、熱電モジュール製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 35/08 20060101AFI20221006BHJP
   H01L 35/34 20060101ALI20221006BHJP
   H01L 35/14 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
H01L35/08
H01L35/34
H01L35/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060427
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000153720
【氏名又は名称】株式会社白山
(71)【出願人】
【識別番号】591040236
【氏名又は名称】石川県
(74)【代理人】
【識別番号】100137394
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】建部 秀斗
(72)【発明者】
【氏名】的場 彰成
(57)【要約】
【課題】 拡散処理の加熱温度を抑えることができる熱電モジュールを提供する。
【解決手段】熱電モジュール1は、熱電素子と、電極と、前記熱電素子と前記電極の間に配置され、導電性を有する多層膜とを有する。多層膜は、白金を主とする白金層と、錫を主とする錫層と、ニッケルを主とするニッケル層と、パラジウムを主とするパラジウム層と、金を主とする金層とを含む。スパッタリングにより、熱電素子の表面に多層膜を形成され、多層膜を形成された熱電素子を、150℃以上230℃以下の温度で拡散処理される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱電素子と、
電極と、
前記熱電素子と前記電極の間に配置され、導電性を有する多層膜と
を有し、
前記多層膜は、白金を主とする白金層と、錫を主とする錫層とを含む
熱電モジュール。
【請求項2】
前記多層膜は、前記錫層の片面又は両面に積層した、金を主とする金層をさらに含む
請求項1に記載の熱電モジュール。
【請求項3】
前記熱電素子は、マグネシウムを含む熱電材料で構成されており、
前記錫層は、前記白金層より前記電極側に位置している
請求項2に記載の熱電モジュール。
【請求項4】
前記白金層及び前記錫層と、前記電極との間に、パラジウムを主とするパラジウム層と、
前記錫層及び前記パラジウム層の間に、ニッケルを主とするニッケル層と
をさらに含む
請求項3に記載の熱電モジュール。
【請求項5】
前記白金層は、前記熱電素子に積層しており、厚さ50nm以上200nm以下である
請求項4に記載の熱電モジュール。
【請求項6】
前記錫層は、厚さ10nm以上500nm以下である
請求項5に記載の熱電モジュール。
【請求項7】
前記熱電素子は、多孔質な熱電材料で構成されており、
前記ニッケル層は、厚さ200nm以上2000nm以下である
請求項6に記載の熱電モジュール。
【請求項8】
前記多層膜は、はんだ層を介して前記電極と接合されており、
前記多層膜は、前記パラジウム層と前記はんだ層の間に、金を主とする金層をさらに含む
請求項7に記載の熱電モジュール。
【請求項9】
前記多層膜は、前記白金層、前記錫層、前記ニッケル層、前記パラジウム層、及び、前記金層のみからなる
請求項8に記載の熱電モジュール。
【請求項10】
スパッタリングにより、熱電素子の表面に多層膜を形成する多層膜形成ステップと、
前記多層膜を形成された前記熱電素子を、150℃以上230℃以下の温度で加熱する加熱ステップと
を有し、
前記多層膜形成ステップは、白金を主とする白金層と、錫を主とする錫層とを形成するステップを含む
熱電モジュール製造方法。
【請求項11】
前記多層膜形成ステップは、パラジウムを主とするパラジウム層を形成するステップをさらに含み、
加熱された前記多層膜と電極とを、はんだで接合する接合ステップと
をさらに有する
請求項10に記載の熱電モジュール製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電モジュール、及び、熱電モジュール製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1にはP型またはN型の熱電素子と、前記P型またはN型の熱電素子と接合される電極と、前記P型またはN型の熱電素子と前記電極との間に設けられた中間層とを備えた熱電モジュールであって、前記中間層は、前記電極上に形成されたチタン層またはチタン合金層と、前記チタン層またはチタン合金層と前記熱電素子との間に設けられたアルミニウム層またはアルミニウム合金層とを備えたことを特徴とする熱電モジュールが開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、一対の基板と、前記一対の基板の対向する面に形成された板状電極と、前記板状電極の間に接合された熱電素子と、前記熱電素子を外部の回路と電気的に接続するためのポスト電極またはリード線である外部配線部と、金属粒子を含むペーストの焼結体であるとともに前記板状電極と前記外部配線部とを接合する接合層と、を備え、前記接合層の界面には、接合対象との接合強度を向上させる接合強度向上層が形成されている、熱電モジュールが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-49736号公報
【特許文献2】特開2015-18986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、拡散処理の加熱温度を抑えることができる熱電モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る熱電モジュールは、熱電素子と、電極と、前記熱電素子と前記電極の間に配置され、導電性を有する多層膜とを有し、前記多層膜は、白金を主とする白金層と、錫を主とする錫層とを含む。
【0007】
好適には、前記多層膜は、前記錫層の片面又は両面に積層した、金を主とする金層をさらに含む。
【0008】
好適には、前記熱電素子は、マグネシウムを含む熱電材料で構成されており、
前記錫層は、前記白金層より前記電極側に位置している。
【0009】
好適には、前記白金層及び前記錫層と、前記電極との間に、パラジウムを主とするパラジウム層と、前記錫層及び前記パラジウム層の間に、ニッケルを主とするニッケル層とをさらに含む。
【0010】
好適には、前記白金層は、前記熱電素子に積層しており、厚さ50nm以上200nm以下である。
【0011】
好適には、前記錫層は、厚さ10nm以上500nm以下である。
【0012】
好適には、前記熱電素子は、多孔質な熱電材料で構成されており、前記ニッケル層は、厚さ200nm以上2000nm以下である。
【0013】
好適には、前記多層膜は、はんだ層を介して前記電極と接合されており、前記多層膜は、前記パラジウム層と前記はんだ層の間に、金を主とする金層をさらに含む。
【0014】
好適には、前記多層膜は、前記白金層、前記錫層、前記ニッケル層、前記パラジウム層、及び、前記金層のみからなる。
【0015】
また、本発明に係る熱電モジュール製造方法は、スパッタリングにより、熱電素子の表面に多層膜を形成する多層膜形成ステップと、前記多層膜を形成された前記熱電素子を、150℃以上230℃以下の温度で加熱する加熱ステップとを有し、前記多層膜形成ステップは、白金を主とする白金層と、錫を主とする錫層とを形成するステップを含む。
【0016】
好適には、前記多層膜形成ステップは、パラジウムを主とするパラジウム層を形成するステップをさらに含み、加熱された前記多層膜と電極とを、はんだで接合する接合ステップとをさらに有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、拡散処理の加熱温度を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態における熱電モジュール1の構成を例示する断面図である。
図2】多層膜20の構成を詳細に例示する図である。
図3】本実施形態における熱電モジュール1の製造方法(S10)を説明するフローチャートである。
図4】多層膜20の断面におけるSEM画像を例示する図である。
図5】多層膜20の断面における元素のマッピング分析を例示する図である。
図6】実施例1及び実施例2における熱電モジュール1の接合試験結果を例示する図である。
図7】本実施形態における熱電モジュール1の変形例を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
まず、本発明がなされた背景を説明する。
熱電変換モジュール(以下熱電モジュールと称呼する場合もある)は、熱電変換素子(以下熱電素子と称呼する場合もある)を直列に接続した集合体である。熱電素子を直列に接続する際には、熱電素子及び電極をはんだで接合することが多い。熱電素子及び電極をはんだで接合する場合、熱電素子に直接はんだを接触させて接合することが難しいことから、熱電素子の表面にメッキ等の表面処理を行って多層膜を形成し、接合しやすくしていた。
しかし、マグネシウムを含む多孔質の熱電材料において、メッキ処理を施したところ、熱電材料が劣化してしまい表面処理を行うことが困難であった。また、メッキ以外の方法として、熱電素子と電極との間に、アルミニウム箔、チタン、又はチタン基合金を挟んで加圧加熱し一体化させる方法、または、スパッタリングで拡散防止層を成膜した熱電素子と電極との間に、銅ボールを含む導電性粒子を含むペーストを挟んで加熱する方法がある。前述したいずれの方法でも、熱電素子と電極とを接合する接合部構造を形成する過程において、熱電素子に対して300~700℃程度の熱が加わるため材料が劣化し、機能低下や変質する懸念があった。また、表面処理を行い熱電素子及び電極を接合したとしても、材料表面に酸化被膜が形成されやすい熱電材料(例えば、MgGe系,MgSiGe系,MgSn系,MgB系,MgSb3系,MgAgSb系などのマグネシウム系材料)では、接合抵抗が高くなってしまう懸念があった。
そこで、上記事情を一着眼点にして本発明の実施形態を創作するに至った。本発明の実施形態によれば、拡散処理の加熱温度を300℃以下と比較的低温で行うことができ、かつ、接合抵抗の低減を実現することができる。
【0020】
以下、このような本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1及び図2を参照し、本実施形態における熱電モジュール1の構成を説明する。
図1は、本実施形態における熱電モジュール1の構成を例示する断面図である。
図1に例示するように、熱電モジュール1は、熱電素子10と、多層膜20、電極30と、基板40と、はんだ層50とを有する。電極20及び熱電素子30は、多層膜40を介して電気的に接続している。
【0021】
熱電素子10は、熱及び電気エネルギーを相互に変換する材料で構成した素子である。熱電素子10は、多孔質な熱電材料で構成される。熱電素子10を構成する熱電材料には、例えば、シリサイド系の熱電材料が挙げられる。シリサイド系の熱電材料とは、具体的にはマグネシウムシリサイド(MgSi)系の熱電材料であり、より具体的にはMgSiSn合金、又は、MgSi合金を主成分とする熱電材料(いわゆる、多孔質マグネシウムシリサイド系熱電材料)である。すなわち、熱電素子10は、マグネシウムを含む熱電材料で構成される。この熱電材料は、MgSiとMgOとで構成された母相と、母相中に形成された空孔と、空孔の壁面に付着した、シリコンを主成分とするシリコン層とを含む。母相は、MgSiSn合金において、化学組成が互いに異なる2つのSiリッチ相(第1Siリッチ相及び第2Siリッチ相と呼称する)を有する。第1Snリッチ相は、第2Siリッチ相よりSnの組成比率が高く、第2Siリッチ相は、第1Snリッチ相よりSiの組成比率が高い。また、熱電材料は、熱電材料の重量に対して1.0wt%以上20.0wt%以下のMgOを含有する。さらに、熱電材料を構成するシリコン層は、アモルファスSi、またはアモルファスSiと微結晶のSiとにより構成される。また、熱電素子10の空孔率は5%以上50%以下である。また、熱電素子10は、MgGe系,MgSiGe系,MgSn系,MgB系,MgIn4系,MgSb3系,MgAgSb系などのマグネシウム系熱電材料でもよい。
【0022】
多層膜20は、熱電素子10と電極30との間に配置され、導電性を有する薄膜である。多層膜20は、はんだ層50を介して電極30と接合している。多層膜20は、多層膜20Aと、多層膜20Bとを有する。多層膜20A及び多層膜20Bは、実質的に略同様の構成であり、多層膜20A及び多層膜20Bを特に区別する必要がない場合は、単に多層膜20と称呼することもある。なお、多層膜20の詳細は後述する。
【0023】
電極30は、導電性のある金属の薄板である。電極30は、例えば、アルマイト、ステンレス、ニッケル鉄合金、銅・ニッケル合金、リン青銅、銅・鉄系合金、銅、白金、金、銀電極等の材料により形成することができる。なお、本実施形態の電極30は、銅の薄板である。電極30は、基板40とはんだ層50との間に位置している。なお、電極30は、ハンダ付性をよくするためにメッキ処理を施してもよい。
【0024】
基板40は、一方の面に絶縁膜を設けた平板である。なお、基板40の一方の面に設けられた絶縁膜は、電極30と基板40とが電気的に非接続とする膜である。基板40は、金属、絶縁性のセラミックス、金属と合成樹脂等の絶縁物の複合体、又は、合成樹脂を基材として製作することができ、熱伝導率が高い材料を用いることが好ましい。具体的には、金属製基材を用いて基板40を製作する場合、アルミニウム、銅、又は、これらを含む合金から製作することができる。また、絶縁性のセラミックス製基材を用いて基板40を製作する場合、アルミナまたは窒化アルミニウムから製作することができる。また、金属と合成樹脂等絶縁物の複合体を用いて基板40を製作する場合、銅及びアルミニウムの基材に絶縁性の樹脂を薄膜で塗布したものから製作することができる。
また、合成樹脂製基材を用いて基板40を製作する場合、ガラスエポキシ樹脂等から製作することができる。
【0025】
はんだ層50は、多層膜20と電極30との間に位置し、多層膜20と電極30とを接合する、導電性のある接合材料で構成された層である。すなわち、はんだ層50は、多層膜20と電極30とを接合する接合材料で構成された接合層である。はんだ層50の形成に用いるはんだには、例えば、Pb-Sn系、Sn-Ag-Cu系、Sn-Cu系、Sn-Sb系、又は、Sn-Bi系を用いることができる。なお、本例ではSn-Ag-Cu系の無鉛はんだ(鉛フリーはんだ)を用いた。なお、接合材料には、はんだ以外にも、例えば導電性接着材、又は、ろう材を用いることができる。
【0026】
図2は、多層膜20の構成を詳細に例示する図である。
図2に例示するように、多層膜20は、白金層200と、錫層201と、ニッケル層202と、パラジウム層204と、金層206とを含み、熱電素子10から基板40の方向において、白金層200、錫層201、ニッケル層202、パラジウム層204、及び金層206の順に積層している。なお、本例の多層膜20は、白金層200、錫層201、ニッケル層202、パラジウム層204、及び金層206のみからなり、
白金層200及び錫層201は接着層22に、ニッケル層202、パラジウム層204、及び金層206は拡散防止層24に大別できる。
【0027】
白金層200は、白金を主とする白金層である。白金層200は、熱電素子10の表面に成膜され、熱電素子10の表面をコーティングし酸化被膜の形成を防止する。白金層200は、50nm以上200nm以下の厚みであり、望ましくは100nm以上200nm以下である。なお、本例の白金層200は、100nmの厚みである。
また、白金層200の形成方法は、スパッタリング、真空蒸着、イオンビーム蒸着、レーザー成膜、溶射、メッキ、スプレーコーティング等の手法を用いて形成する。本例ではスパッタリングを用いた。
【0028】
錫層201は、錫を主とする錫層である。錫層201は、白金層200とニッケル層202との間に位置している。錫層201は、熱電素子10の表面を覆い硬化させると共に、材料表面の酸化物を還元させるよう作用する。錫層201は、10nm以上500nm以下の厚みであり、望ましくは300nm以上500nm以下である。なお、本例の錫層201は、400nmの厚みである。
また、錫層201の形成方法は、スパッタリング、真空蒸着、イオンビーム蒸着、レーザー成膜、溶射、メッキ、スプレーコーティング等の手法を用いて形成する。本例ではスパッタリングを用いた。
【0029】
ニッケル層202は、ニッケルを主とするニッケル層である。ニッケル層202は、錫層201と後述するパラジウム層204との間に位置している。ニッケル層202は、熱電素子10の表面を覆うことで、熱電素子10から発生する熱電素子10の構成元素であるマグネシウムの拡散を防止する。ニッケル層202は、200nm以上2000nm以下の厚みであり、望ましくは500nm以上1000nm以下の厚みである。なお、ニッケル層202は、500nmの厚みである。ニッケル層202の厚みが200nm以上の場合でも、マグネシウムの拡散を防止できるが、500nm程度であると拡散の防止効果が大きい。また、ニッケル層202の厚みが2000nmより厚い場合では、ニッケル部分の抵抗が大きくなり、1000nm以下であると抵抗値を小さくできる。よって、ニッケル層202の厚みが500nm以上1000nm以下であることが望ましい。
また、ニッケル層202の形成方法は、スパッタリング、真空蒸着、イオンビーム蒸着、レーザー成膜、溶射、メッキ、スプレーコーティング等の手法を用いて形成する。本例ではスパッタリングを用いた。
【0030】
パラジウム層204は、パラジウムを主とするパラジウム層である。パラジウム層204は、ニッケル層202と金層206との間に位置しており、ニッケル層202及びはんだ層50のはじき防止として作用する。パラジウム層204は、50nm以上500nm以下の厚みであり、望ましくは100nm以上200nm以下の厚みである。なお、本例は100nmの厚みである。パラジウム層204の厚みが50nmより薄い場合では、ニッケル層202の拡散を抑制することができない。また、パラジウム層204の厚みが500nmより厚い場合では、パラジウム層204の抵抗が高くなる。よって、パラジウム層204の厚みが50nm以上500nm以下であることが望ましい。
また、パラジウム層204の形成方法は、スパッタリング、真空蒸着、イオンビーム蒸着、レーザー成膜、溶射、メッキ、スプレーコーティング等の手法を用いて形成する。本例ではスパッタリングを用いた。
【0031】
金層206は、金を主とする金層である。金層206は、パラジウム層204とはんだ層50の間に位置している。金層206は、パラジウム層204の酸化防止として作用する。金層206は、50nm以上500nm以下の厚みであり、望ましくは50nm以上200nm以下である。なお、本例の金層206は、100nmの厚みである。金層206の厚みが50nmより薄い場合では、パラジウム層204の表面を被覆することができない。また、金層206の厚みが500nmより厚い場合では、抵抗が高くなってしまい、金層206の厚みが200nm以下では金の抵抗はほぼ無視できる。よって、金層206の厚みが200nm以下であることが望ましい。
また、金層206の形成方法は、スパッタリング、真空蒸着、イオンビーム蒸着、レーザー成膜、溶射、メッキ、スプレーコーティング等の手法を用いて形成する。本例ではスパッタリングを用いた。
このように、多層膜20は、パラジウム層204を含む薄膜となっている。
【0032】
次に、図3を参照し、本実施形態における熱電モジュール1の製造方法を説明する。
図3は、本実施形態における熱電モジュール1の製造方法(S10)を説明するフローチャートである。
図3に例示するように、ステップ100(S100)において、まず、製作者は、酸洗浄、逆スパッタリング、又は研磨等のいずれかの手法で、熱電素子10表面の酸化物を除去する。本例では研磨により酸化物を除去する。熱電素子10と後に成膜する白金層200との間に酸化マグネシウム等の薄膜が存在すると抵抗が高くなるため除去する。
次に、製作者は、スパッタリング装置により、スパッタリング現象を用いて、熱電素子10の表面に多層膜20を形成する。具体的には、製作者は、白金を主とする金属を用いて、100nmの厚みとなるように、白金を主とする白金の薄膜を熱電素子10の表面に形成する(いわゆる白金層200の形成)。次に、製作者は、白金層200の形成後に、400nmの厚みとなるように、錫を主とする錫の薄膜を白金層200に重ねて形成する(いわゆる錫層201の形成)。次に、錫層201の形成後に、500nmの厚みとなるように、ニッケルを主とするニッケルの薄膜を錫層201に重ねて形成する(いわゆるニッケル層202の形成)。次に、製作者は、ニッケル層202の形成後に、100nmの厚みとなるように、パラジウムを主とするパラジウムの薄膜をニッケル層202に重ねて形成する(いわゆるパラジウム層204の形成)。次に、製作者は、パラジウム層204の形成後に、100nmの厚みとなるように、金を主とする金の薄膜をパラジウム層204に重ねて形成する(いわゆる金層206の形成)。このように、製作者は、熱電素子10の表面に5層構造の多層膜20を形成する。
【0033】
ステップ101(S101)において、製作者は、熱電素子10の表面に多層膜20を形成した後に、不活性雰囲気熱処理による拡散処理を行う。熱処理の温度は150℃以上230℃以下であり、本例では200℃である。熱処理の温度が150℃以下だと金属層間の拡散が起きない。また、熱処理の温度が230℃以上では熱電素子10と電極が接合しない。よって、熱処理の温度は150℃以上230℃以下が望ましい。錫融点付近の温度で熱処理を行うことにより、白金層200及び錫層201はPt-Sn合金化し、かつ、高純度な錫による熱電素子10表面の酸化物に対する還元効果がある。すなわち、熱電素子10の表面に酸化被膜が形成されないため、接合抵抗を低減できる。
なお、本例では、S101において、不活性雰囲気熱処理で拡散処理を行う場合を例示したが、これに限定するものではなく、ラピットサーマルアニリングにより代替し拡散処理を行ってもよい。また、多層膜20の成膜(S100)後に熱処理(S101)を行う場合を説明するが、多層膜20の成膜と同時に熱処理を実施してもよい。
【0034】
ステップ102(S102)において、製作者は、熱電素子10に形成した多層膜20と、既定の大きさに形成した電極30とをはんだで接合する。すなわち、多層膜20と電極30との間にはんだ層50を形成する。
【0035】
ステップ104(S104)において、製作者は、一対の基板40で、多層膜20を形成した熱電素子10及び電極30を挟むように、基板40と電極30とを接着剤で接着する。そして、製作者は、封止材で2つの基板40の間を封止する。
このように、製作者は、熱電モジュール1を製造することができる。
【0036】
以上説明したように、本実施形態における熱電モジュール1によれば、マグネシウム系の多孔質熱電材料で構成した熱電素子10に、白金層200及び錫層201を含む多層膜20を形成することにより、拡散処理の加熱処理温度を300℃以下と比較的低温で行うことができ、かつ、接合抵抗の低減を実現することができる。
なお、上記実施形態では、拡散しやすい元素を含む熱電素子10に、接着層22及び拡散防止層24を含む多層膜20を成膜する場合を説明したが、これに限定するものではなく、拡散しやすい元素を含まない熱電素子10であれば、白金層200及び錫層201(接着層22)のみの多層膜20を成膜してもよい。
【0037】
(多層膜20の層構造の検証)
図4は、多層膜20の断面におけるSEM画像を例示する図である。
図5は、多層膜20の断面における元素のマッピング分析を例示する図である。
上記製造方法により製造した本実施形態の熱電モジュール1における多層膜20の断面を、走査電子顕微鏡(SEM)で撮影すると共に、エネルギー分散型X線分析装置(EDX分析装置)で元素分布を分析した。
その結果、図4及び図5に例示するように、多層膜20は、白金層200と、錫層201と、ニッケル層202と、パラジウム層204と、金層206との5層構造であることを確認することができた。
【0038】
次に、実施例1及び実施例2における熱電モジュール1の接合試験をそれぞれ行った。以下その詳細を説明する。
図6は、実施例1及び実施例2における熱電モジュール1の接合試験結果を例示する図である。図6(A)は、実施例1における熱電モジュール1の接合試験結果を例示する図であり、図6(B)は、実施例2における熱電モジュール1の接合試験結果を例示する図である。
[実施例1]
(実験内容)
MgSiSn系およびMnSiγ系熱電素子 (□1.4-2.0×t1.6-5.0) に対して、スパッタリングによって、Pt/Sn(膜厚: 100 nm/400 nm) 多層膜の成膜をそれぞれ行う。そして、不活性雰囲気下、200℃又は350℃でそれぞれ10分間熱処理を行った。
具体的には、図6(A)に例示するように、(試験A)は、n型MgSiSnの熱電材料、Pt/Snの多層膜、350℃での熱処理温度を行った。
(試験B)は、n型MgSiSnの熱電材料、Pt/Snの多層膜、200℃での熱処理温度を行った。
(試験C)は、p型MgSiSn(1)の熱電材料、Pt/Snの多層膜、200℃での熱処理温度を行った。
(試験D)は、p型MnSiγの熱電材料、Pt/Snの多層膜、350℃での熱処理温度を行った。
(試験E)は、p型MnSiγの熱電材料、Pt/Snの多層膜、200℃での熱処理温度を行った。
そして、基板に接合された銅電極に、鉛フリーはんだ(Sn-Ag-Cu)を膜厚50μmでスクリーン印刷し、鉛フリーはんだをスクリーン印刷された銅電極と、熱電素子に形成した多層膜とをはんだ付けにより接合した。
【0039】
(実験結果)
その結果、図6(A)に例示したように、試験A~Eにおいて、銅電極と、熱電素子に形成した多層膜とをはんだ付けにより接合したことを確認した。
【0040】
[実施例2]
(実験内容)
MgSiSn系およびMnSiγ系熱電素子 (□1.4-2.0×t1.6-5.0) に対して、スパッタリングによって、Pt/Sn/Ni/Pd/Au(膜厚: 100nm/400nm/500nm/100nm/100nm)多層膜の成膜をそれぞれ行う。そして、不活性雰囲気下、200℃又は350℃でそれぞれ10分間熱処理を行った。
具体的には、図6(B)に例示するように、(試験A)は、n型MgSiSnの熱電材料、Pt/Sn/Ni/Pd/Auの多層膜、350℃での熱処理温度を行った。
(試験B)は、n型MgSiSnの熱電材料、Pt/Sn/Ni/Pd/Auの多層膜、200℃での熱処理温度を行った。
(試験C)は、p型MgSiSn(1)の熱電材料、Pt/Snの多層膜、200℃での熱処理温度を行った。
(試験D)は、p型MgSiSn(2)の熱電材料、Pt/Sn/Ni/Pd/Auの多層膜、350℃での熱処理温度を行った。
(試験E)は、p型MgSiSn(3)の熱電材料、Pt/Sn/Ni/Pd/Auの多層膜、200℃での熱処理温度を行った。
(試験F)は、p型MnSiγの熱電材料、Pt/Sn/Ni/Pd/Auの多層膜、350℃での熱処理温度を行った。
(試験G)は、p型MnSiγの熱電材料、Pt/Sn/Ni/Pd/Auの多層膜、200℃での熱処理温度を行った。
そして、基板に接合された銅電極に、鉛フリーはんだ(Sn-Ag-Cu)を膜厚50μmでスクリーン印刷し、鉛フリーはんだをスクリーン印刷された銅電極と、熱電素子に形成した多層膜とをはんだ付けにより接合した。
【0041】
(実験結果)
その結果、図6(B)に例示したように、試験A~Gにおいて、銅電極と、熱電素子に形成した多層膜とをはんだ付けにより接合したことを確認した。
以上より、PtとSnによって熱電素子10の表面の酸化被膜の形成が抑制され、かつ、不活性雰囲気熱処理による拡散処理によって接合できたと考えらえる。
【0042】
次に、上記実施形態における変形例を説明する。なお、変形例では、上記実施形態と実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
[変形例]
図7は、本実施形態における熱電モジュール1の変形例を例示する図である。図7(A)及び図7(B)は、錫層201の片面に金層210を積層した多層膜20を含む熱電モジュール1を例示する図であり、図7(C)は、錫層201の両面に金層210を積層した多層膜20を含む熱電モジュール1を例示する図である。
図7に例示するように、本例の多層膜20は、白金層200、錫層201、ニッケル層202、パラジウム層204、及び金層206に加えて、金層210をさらに有する。
金層210は、錫層201の片面又は両面に積層した、金を主とする金層である。図7(A)に例示した金層210は、錫層201及びニッケル層202の間に位置し、図7(B)に例示した金層210は、白金層200及び錫層201の間に位置している。すなわち、金層210は、錫層201の片面に積層している。また、図7(C)に例示した金層210は、金層210A及び金層210Bを含み、金層210Aは錫層201及びニッケル層202の間に位置し、金層210Bは、白金層200及び錫層201の間に位置している。すなわち、金層210は、錫層201の両面に積層している。金層210は、錫層201の表面を金錫合金化することでコーティングし、熱処理時に錫層201に穴が開かないよう、熱処理に対する耐性を向上させる。
このように、本例の熱電モジュール1によれば、錫層201の片側又は両側に金層210を積層することにより、拡散処理の加熱処理温度を300℃以下と比較的低温で行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0043】
1…熱電モジュール
10…熱電素子
20…多層膜
22…接着層
200…白金層
201…錫層
24…拡散防止層
202…ニッケル層
204…パラジウム層
206…金層
30…電極
40…基板
50…はんだ層
210…金層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7