IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社 神崎高級工機製作所の特許一覧

<>
  • 特開-油圧・機械式無段変速装置 図1
  • 特開-油圧・機械式無段変速装置 図2
  • 特開-油圧・機械式無段変速装置 図3
  • 特開-油圧・機械式無段変速装置 図4
  • 特開-油圧・機械式無段変速装置 図5
  • 特開-油圧・機械式無段変速装置 図6
  • 特開-油圧・機械式無段変速装置 図7
  • 特開-油圧・機械式無段変速装置 図8
  • 特開-油圧・機械式無段変速装置 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156638
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】油圧・機械式無段変速装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 47/02 20060101AFI20221006BHJP
   F16H 39/04 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
F16H47/02 A
F16H47/02 D
F16H39/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060436
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000125853
【氏名又は名称】株式会社 神崎高級工機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩木 浩二
(72)【発明者】
【氏名】辻 智之
(72)【発明者】
【氏名】本岡 亮
(57)【要約】
【課題】ハウジング内に収容されるHSTおよび遊星歯車機構を収容するケースのサイズを小型化することができる油圧・機械式無段変速装置を提供する。
【解決手段】HSTケース23に油圧ポンプ21と油圧モータ22とを収容し、HSTケース23に装着して油圧ポンプ21と油圧モータ22とを流体的に接続するセンタセクション35を備えたHST10と、HST10と組み合わせて無段階的な変速を走行動力伝達機構89へ出力する遊星歯車機構11と、を備え、遊星歯車機構11は、HSTケース23を装着した側とは反対側のセンタセクション35の面に装着した遊星歯車支持ケース71に収容してHMTユニット100を構成し、HMTユニット100はさらに、走行動力伝達機構89のハウジング91に固定するためのハウジング装着面35dをセンタセクション35における遊星歯車支持ケース装着面71aの外周囲に設けた。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの出力回転の変速を行う油圧・機械式無段変速装置であって、HSTケースに油圧ポンプと油圧モータとを収容し、前記HSTケースに装着して前記油圧ポンプと前記油圧モータとを流体的に接続するセンタセクションを備えたHSTと、前記HSTと組み合わせて無段階的な変速を走行動力伝達機構へ出力する遊星歯車機構と、を備え、
前記遊星歯車機構は、前記HSTケースを装着した側とは反対側の前記センタセクションの面に装着した遊星歯車支持ケースに収容してHMTユニットを構成し、
前記HMTユニットはさらに、前記走行動力伝達機構のハウジングに固定するためのハウジング装着面を前記センタセクションにおける前記遊星歯車支持ケース装着面の外周囲に設けてある
ことを特徴とする油圧・機械式無段変速装置。
【請求項2】
前記ハウジングには、その内部を、前記エンジン側に向けて開口する第一室と、前記走行動力伝達機構側に向けて開口する第二室とに区画するためのマウントボスを前記ハウジングの内壁面より内方に向けて突出するように設けられており、前記HMTユニットを前記ハウジングに固定した際、前記マウントボスの全周に前記センタセクションの前記ハウジング装着面を密着させつつ前記遊星歯車機構を前記第二室側に位置させる
ことを特徴とする請求項1に記載の油圧・機械式無段変速装置。
【請求項3】
前記ハウジングの前記第二室に、前記走行動力伝達機構を構成するひとつの駆動軸が配置され、
前記駆動軸と対向する前記遊星歯車支持ケース部分を切り欠いた
ことを特徴とする請求項2に記載の油圧・機械式無段変速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの出力回転の変速を行う油圧・機械式無段変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの出力回転の変速を行う油圧・機械式無段変速装置として、例えば、ギア式変速機構に比べて変速時の操作性に優れ(ノークラッチ変速操作が可能)、静油圧式無段変速機構(HST)に比べて動力伝達効率に優れる油圧・機械式無段変速機構(HMT)を搭載した作業用走行車が知られている。このHMTの代表的な構成として一組の遊星歯車機構を使用したものがある。具体的には、遊星歯車機構を構成するサンギア、インターナルギア、遊星キャリアの三要素のうちいずれか一の要素(第一の要素)にエンジンの定速動力を入力し、残りの二要素のうち一の要素(第二の要素)にはHSTの変速動力を入力するとともに、他の要素(第三の要素)から、エンジンとHSTとの合成動力を出力するよう構成したものである。例えば、特許文献1に開示されている。
【0003】
従来のように、走行動力伝達機構を収容するハウジングは、エンジンに連接される前部ハウジングと、これに連なる中間ハウジングを備え、前記HSTは前部ハウジングに収容されて中間ハウジングの前壁に支持されている。前記遊星歯車機構は、中間ハウジングに収容されており、HSTのセンタセクションと中間ハウジングの内壁との間に支持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4162359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術においてはHSTケースの後面の断面積と遊星歯車機構を収容する中間ハウジングの前面の断面積は、略同じ大きさに構成されている。従来のケースは大型化していたため、走行動力伝達機構のハウジング内にHSTを配置する際大きな体積を占有することとなっていた。そのため、ハウジング自体を大型化する必要があり、配置スペースに制限があった。また、遊星歯車機構をメンテナンスする際は、エンジンから前部ハウジングを外した後、さらに中間ハウジングからHSTを外す必要があり大掛かりになっていた。
【0006】
本発明は、斯かる現状の課題に鑑みてなされたものであり、ハウジング内に収容されるHMTのサイズを小型化することができるとともに遊星歯車機構をメンテナンスし易い油圧・機械式無段変速装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、本発明に係る油圧・機械式無段変速装置は、エンジンの出力回転の変速を行う油圧・機械式無段変速装置であって、HSTケースに油圧ポンプと油圧モータとを収容し、前記HSTケースに装着して前記油圧ポンプと前記油圧モータとを流体的に接続するセンタセクションを備えたHSTと、前記HSTと組み合わせて無段階的な変速を走行動力伝達機構へ出力する遊星歯車機構と、を備え、
前記遊星歯車機構は、前記HSTケースを装着した側とは反対側の前記センタセクションの面に装着した遊星歯車支持ケースに収容してHMTユニットを構成し、
前記HMTユニットはさらに、前記走行動力伝達機構のハウジングに固定するためのハウジング装着面を前記センタセクションにおける前記遊星歯車支持ケース装着面の外周囲に設けてあるものである。
【0009】
また、本発明に係る油圧・機械式無段変速装置においては、前記ハウジングには、その内部を、前記エンジン側に向けて開口する第一室と、前記走行動力伝達機構側に向けて開口する第二室とに区画するためのマウントボスを前記ハウジングの内壁面より内方に向けて突出するように設けられており、前記HMTユニットを前記ハウジングに固定した際、前記マウントボスの全周に前記センタセクションの前記ハウジング装着面を密着させつつ前記遊星歯車機構を前記第二室側に位置させるものであってもよい。
【0010】
あるいは、本発明に係る油圧・機械式無段変速装置においては、前記ハウジングの前記第二室に、前記走行動力伝達機構を構成するひとつの駆動軸が配置され、
前記駆動軸と対向する前記遊星歯車支持ケース部分を切り欠いたものであってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0012】
本発明に係る油圧・機械式無段変速装置によれば、遊星歯車機構を組み立てた状態で遊星歯車支持ケースに格納して、センタセクションの後面に固定することができるので、組立効率が向上する。また、HMTユニットの遊星歯車支持ケースを小型化することができる。これにより走行動力伝達機構のハウジングを大きくせずにその内部に収容することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る油圧・機械式無段変速装置を示した側面一部断面図。
図2】本発明の一実施形態に係る油圧・機械式無段変速装置を示したII-II線断面図。
図3】本発明の一実施形態に係る油圧・機械式無段変速装置を示したIII-III線断面図。
図4】本発明の一実施形態に係る油圧構成を示した油圧回路図。
図5】本発明の一実施形態に係る作業車両の走行駆動部を示した側面一部断面図。
図6】本発明の一実施形態に係る作業車両の走行駆動部における油圧・機械式無段変速装置の配置を示した側面一部拡大断面図。
図7】本発明の一実施形態に係る作業車両の走行駆動部における油圧・機械式無段変速装置の配置を示したVII-VII線断面図。
図8】本発明の一実施形態に係る作業車両の走行駆動部における油圧・機械式無段変速装置の配置を示したVIII-VIII線断面図。
図9】本発明の一実施形態に係る作業車両の走行駆動部における油圧・機械式無段変速装置の配置を示したVIIII-VIIII線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、発明の実施の形態を説明する。
まず、発明の一実施形態に係る油圧・機械式無段変速装置について説明する。油圧・機械式無段変速装置は、HMT(ハイドロメカニカルトランスミッション)式トランスミッションであり、例えば、農用トラクタ等の作業車両に適用可能である。HMT式トランスミッションは、図1から図3に示すように、HST10と遊星歯車機構11とを備えている。具体的には、HST10は、油圧ポンプ21・油圧モータ22を一体型とし、共通のHSTケース23に油圧ポンプ21および油圧モータ22を収容する構成としている。油圧ポンプ21は、HSTケース23の内部においてエンジン15側のフライホイール16からの動力を伝達するためのポンプ軸31と、ポンプ軸31に対して相対回転不能に嵌合されるシリンダブロック32と、シリンダブロック32に穿設されたシリンダ孔32aに油密を保ちながら往復動自在に嵌合される複数のポンプピストン33と、ポンプピストン33を軸方向に往復駆動させる可動斜板34とを備えたアキシアルピストンポンプとして構成される。ポンプ軸31の後端は、平板状のセンタセクション35を貫通して後方へ延出されており、ポンプ軸31の後端に、後述するポンプ連接軸61の前端に設けられた接手部61aと嵌合する嵌合部31aが設けられている。
【0015】
可動斜板34は、車両座席に設けた変速操作手段、例えば変速ペダルと適宜のリンク機構をもって連携されており、変速ペダルの踏み込み量に応じて電磁比例弁36を駆動させてポンプピストン33を往復動させることで、油圧ポンプ21の油吐出量と吐出方向がコントロールできるように構成されている。
【0016】
油圧モータ22は、HSTケース23の内部においてポンプ軸31に平行に支持されるモータ軸41と、モータ軸41に対して相対回転不能に嵌合されるシリンダブロック42と、シリンダブロック42に穿設されたシリンダ孔42aに油密を保ちながら往復動自在に嵌合される複数のピストン43と、油圧ポンプ21からの油を受けて伸縮するピストン43の運動をシリンダブロック42の回転駆動力に変換するための固定斜板44とを備えたアキシアルピストンモータとして構成される。モータ軸41の後端はセンタセクション35を貫通して後方へ延出されており、モータ軸41の後端に、後述するサンギア軸51の前端に設けられた接手部51aと嵌合する嵌合部41aが設けられている。
【0017】
センタセクション35はHSTケース23の後端開口を封鎖してHSTケース23内に油溜めを形成すると共に、油圧ポンプ21と油圧モータ22を摺動回転自在に装着している。センタセクション35の内部には、図示しないが通例の如く、油圧ポンプ21の一対の吸入吐出ポートと油圧モータ22の一対の吸入吐出ポートとを接続して閉回路を構成するための油路が設けられている。
【0018】
この構成により、ポンプ軸31にエンジン動力を入力させながら変速ペダルを踏みこんで前記可動斜板を中立位置から任意の角だけ傾動させることにより、シリンダブロック32に支持されるポンプピストン33が可動斜板34により往復駆動されて圧油を吐出し、吐出された圧油が、センタセクション35内の油路を介して油圧モータ22へ送油される。圧油は油圧モータ22のピストン43を伸張駆動させてシリンダブロック42を回転させ、モータ軸41の回転動力として取り出される。
【0019】
センタセクション35の上端面には、油入口ポート35aが設けられており、閉回路内を油で満たすように外部から油が補充される。油入口ポート35aから供給された油は、HSTケース23内の油路を通り、電磁比例弁36の開度によって、可動斜板34を操作するサーボピストン37を往復動させる。
【0020】
これにより、サーボピストン37が初期位置から変位すると、可動斜板34が傾転してポンプピストン33のピストンストロークが増大する。これによって油圧ポンプ21が圧油を吐出するようになる。また、油入口ポート35aからの油は一部がチャージライン35bへ供給されて油圧ポンプ21、油圧モータ22をつなぐ閉回路へ補充される。サーボピストン37の作動圧力ならびに油チャージ圧力はチャージリリーフ弁35cにより設定され余分な圧力はチャージリリーフ弁35cからHSTケース23内の油溜めに逃がされる。
【0021】
次に遊星歯車機構11について図1から図3を用いて説明する。
遊星歯車機構11は、HST10の後方に配置され、モータ軸41と同軸上に配置されたサンギア軸51と、サンギア軸51に軸支される定速被駆動ギア52と、定速被駆動ギア52と一体的に回転するインターナルギア53と、サンギア軸51外周に刻設されたサンギア54と、サンギア54およびインターナルギア53と噛合する遊星ギア55と、を有する。複数の遊星ギア55は、遊星キャリア56に設けられたキャリアピン57によって軸支されており、遊星キャリア56はその回転中心部に、HMT出力軸である遊星キャリア軸56aを有する。遊星キャリア軸56aは円筒状とし、その前端部にサンギア軸51の先端51cを軸受を介して差し込むことによりサンギア軸51に支持している。定速被駆動ギア52は、ポンプ軸31と連接したポンプ連接軸61に設けられた定速駆動ギア62と噛合しており、ポンプ連接軸61の回転動力が、定速被駆動ギア52からインターナルギア53へと伝達される。なお、52aは、インターナルギア53の端部を設置すると共にその歯部に噛み合って相対回転不能に支持するボス部であり定速被駆動ギア52の側面に一体形成される。この両者は止め輪やサークリップを用いて軸線方向へは相対移動不能に固定される。
【0022】
この構成により、エンジン15側のフライホイール16からの動力は、ポンプ軸31およびポンプ連接軸61の回転動力となり、ポンプ連接軸61に設けられた定速駆動ギア62から定速被駆動ギア52へと動力が伝達される。定速被駆動ギア52は、インターナルギア53を回転させる。一方、油圧モータ22の回転駆動力は、サンギア軸51へと伝達され、サンギア54へと入力される。サンギア54とインターナルギア53とに噛み合う遊星ギア55において自転と公転とが生じた結果、遊星キャリア軸56aよりHMT動力が出力される。すなわち、エンジン15からの動力が、ポンプ軸31、ポンプ連接軸61、定速駆動ギア62、定速被駆動ギア52、を介して遊星ギア55に伝わり、また、油圧モータ22の回転駆動力が、モータ軸41、サンギア軸51、サンギア54、を介して遊星ギア55に伝わり、遊星歯車機構11において二つの駆動力を合成することにより、遊星キャリア56に設けられたHMT出力軸である遊星キャリア軸56aの回動を無段階で変速し、あるいは、動力が伝達されない中立状態をも実現することができる。
【0023】
遊星歯車機構11は、HSTケース23を装着した側とは反対側のセンタセクション35の後面に配置される。ポンプ連接軸61の接手部61a外周には軸受61bが、サンギア軸51の接手部51a外周には軸受51bがそれぞれ設置され、センタセクション35の後面に形成した円形凹部に嵌め込まれている。
【0024】
遊星歯車機構11は、遊星歯車支持ケース71に収容される。遊星歯車支持ケース71は、図3に示すように、断面視略円を一部切り取った形状の空間を上下に二つ組み合わせた形状で構成されている。遊星歯車支持ケース71の上部の空間にはポンプ連接軸61、定速駆動ギア62等が収容されており、ポンプ連接軸61の後端側が遊星歯車支持ケース71の後壁に軸受61cを介して支持される。遊星歯車支持ケース71の下部の空間には遊星歯車機構11、HST出力軸である遊星キャリア軸56aが収容されて遊星キャリア軸56aの後端側が遊星歯車支持ケース71の後壁に軸受56bを介して支持される。遊星歯車支持ケース71は、底部分が切り欠かれて開放された切欠き部71bを設けている。
【0025】
切欠き部71bは、図1および図3に示すように、前後方向において、少なくとも定速被駆動ギア52およびインターナルギア53が配置された位置において形成されている。また、図3に示すように、切欠き部71bの最も切り欠かれた面は、定速被駆動ギア52およびインターナルギア53の最下端よりも上方に凹むように構成されている。これにより、定速被駆動ギア52およびインターナルギア53の一部が遊星歯車支持ケース71の下面よりも下方へ突出して収容されることとなる。
【0026】
このように、HST10が収容されたHSTケース23、センタセクションおよび遊星歯車機構11が収容された遊星歯車支持ケース71によってHMTユニット100が構成される。
【0027】
HMTユニット100はさらに、本実施例では農用トラクタ(図示せず)の走行動力伝達機構89のハウジング91内部に固定される。図5に示すように、走行動力伝達機構89は、エンジン15からの動力を前輪および後輪で構成される走行系へ伝達するための機構であり、走行動力伝達機構89のハウジング91は、エンジン15後方に連接され、前後進切替クラッチ94、前輪増速切替クラッチ95、3段の副変速機構96、PTOクラッチ97、PTO変速機構98、デファレンシャルギア99などの各種機構を収容する。
【0028】
走行動力伝達機構89のハウジング91は、相互に連接した前部ハウジング91a、中間ハウジング91b、後部ハウジング91cおよびデフハウジング91dとから構成されている。前部ハウジング91aは、その内部がエンジン15側に向けて開口する第一室92Aと、走行動力伝達機構89側に向けて開口する第二室92Bとに区画されている。第一室92Aは、エンジン15の後面および前部ハウジング91aで構成されており、HMTユニット100のうち、HSTケース23およびセンタセクション35が収容されている。第二室92Bは、後述する前部ハウジング91aのマウントボス91eとセンタセクション35の後面および中間ハウジング91bで構成されており、HMTユニット100のうち遊星歯車支持ケース71および前輪駆動軸93が格納されている。
【0029】
また、ハウジング91は、前後進切替クラッチ94、前輪増速切替クラッチ95を収容した第三室92C、及び、副変速機構96、PTOクラッチ97、PTO変速機構98、デファレンシャルギア99を収容した第四室92Dをさらに備える。第三室92Cは主に後部ハウジング91cによって構成されており、第四室92Dは主にデフハウジング91dによって構成されている。
【0030】
走行動力伝達機構89は、走行系および作業系の動力を伝達する。走行系は、HMT出力軸である遊星キャリア軸56aからの駆動力を、前後進切替クラッチ94を介して副変速機構96に伝達する。副変速機構96に伝達された動力は、デファレンシャルギア99を介してファイナルギアケース110の内部に格納されたファイナルギア111から後輪4・4へと伝達される。
【0031】
また、走行系は、副変速機構96に伝達された動力は、前輪駆動軸93へと伝達される。前輪駆動軸93の中途部分には、前輪増速切替クラッチ95を備える。
【0032】
本実施例においてHMTユニット100を固定するのはハウジング91のうち前部ハウジング91aとしている。HMTユニット100のセンタセクション35には、前部ハウジング91aに固定するための装着面35dを備えている。装着面35dはその後面において外周縁に沿うように、遊星歯車支持ケース71の装着面71aの外周周囲に設けられ後述するボルト38やスタッドボルト38aを挿通させる穴を複数設けている。
【0033】
図6から図8に示すように、前部ハウジング91aには、エンジン15に連接するための前端フランジ面91a(1)および中間ハウジング91bに連接するための後端フランジ面91a(2)とを有する。後端フランジ面91a(2)よりも回転軸線方向に沿ってハウジング91内方寄りの位置に第一室92Aと第二室92Bとを区画するためのマウントボス91eが設けられている。マウントボス91eは、前部ハウジング91aの後端内壁面から回転軸線に向けて突出するように設けられセンタセクション35の装着面35dに設けたボルト挿通穴の各々と対応する位置にネジ穴を有している。マウントボス91eの前面に、センタセクション35の装着面35dを合わせてボルト38およびスタッドボルト・ナット38a、38bによって固定することで、HMTユニット100が前部ハウジング91aに固定されることになる。
【0034】
固定部材であるボルト38は、マウントボス91eの前面に当接させたセンタセクション35に対し、図6、8に示すように、前端フランジ面91a(1)を通じて前方(フライホイル側)から後方(遊星歯車支持ケース71側)へ向けてマウントボス91eにねじ込む。
【0035】
また、図9に示すように、HSTケース23のサーボピストン収容部23aによってセンタセクション35の前面が覆われた箇所に設けられるボルト挿通穴に対しては、マウントボス91eに螺着したスタッドボルト38aの先端を通し、前部ハウジング91aの周壁に設けた開口91fより差し入れたナット38bをスタッドボルト38aの先端にねじ込む。なお、この開口91fは前部ハウジング91aの内部に電磁比例弁36の配線や閉回路への作動油補給用配管を通すのに利用される。
【0036】
このように構成することにより、前部ハウジング91aと中間ハウジング91bとは結合したまま前部ハウジング91aの前端フランジ面91a(1)からエンジン15を分離させるだけで、HMTユニット100を前部ハウジング91aから抜き取ることが可能となりHST10のみならず遊星歯車機構11のメンテナンス作業も容易に行える。
【0037】
また、HMTユニット100を前部ハウジング91a内に固定した際、マウントボス91eの全周にセンタセクション35の装着面35dを密着させつつ遊星歯車機構11を第二室92B側に配置させる。すなわち、マウントボス91eの全周にセンタセクション35を密接させるので、油密状態を維持でき第一室92Aは乾室に、第二室92Bは油溜めにすることができる。
【0038】
ハウジング91の第二室92Bに、走行動力伝達機構89を構成するひとつの駆動軸が配置される。本実施形態においては、走行動力によって前輪を駆動させる前輪駆動軸93が配置されている。
【0039】
遊星歯車支持ケース71の前輪駆動軸93と対向する部分である底部分が切り欠かれて切欠き部71bが形成されており、遊星歯車支持ケース71と前輪駆動軸93とが接触しないように構成されている。
【0040】
遊星歯車支持ケース71に切欠き部71bを設けず、定速被駆動ギア52およびインターナルギア53を完全に覆う場合には、遊星歯車支持ケースの底面が下方へ突出することとなる。これに対して、遊星歯車支持ケース71の強度に影響が出ない程度に切欠き部71bを形成して底部を開放したことにより、遊星歯車支持ケース71のサイズが小さくなり、前輪駆動軸93に対し近接させて配置することができるのである。
【0041】
また、第二室92B内に充填されている潤滑油が切欠き部71bから遊星歯車機構11へ効率よく供給される。すなわち、第二室92Bの内部には、潤滑油が充填されており、遊星歯車機構の定速被駆動ギア52およびインターナルギア53の下部が潤滑油に接触する。これにより、走行中はその接触部分が油を掻き上げ被潤滑部位への潤滑性を向上させることができる。
【0042】
以上のように、エンジン15の出力回転の変速を行う油圧・機械式無段変速装置はHMT(ハイドロメカニカルトランスミッション)式トランスミッションであって、HSTケース23に油圧ポンプ21と油圧モータ22とを収容し、HSTケース23に装着して油圧ポンプ21と油圧モータ22とを流体的に接続するセンタセクション35を備えたHST10と、HST10と組み合わせて無段階的な変速を走行動力伝達機構89へ出力する遊星歯車機構11と、を備え、遊星歯車機構11は、HSTケース23を装着した側とは反対側のセンタセクション35の面に装着した遊星歯車支持ケース71に収容してHMTユニット100を構成し、HMTユニット100はさらに、走行動力伝達機構89のハウジング91に固定するためのハウジング装着面35dをセンタセクション35における遊星歯車支持ケース装着面71aの外周囲に設けたものである。
このように構成することにより、遊星歯車機構11を組み立てた状態で遊星歯車支持ケース71に格納して、センタセクション35の後面に固定することができるので、組立効率が向上する。
【0043】
また、ハウジング91には、その内部を、エンジン15側に向けて開口する第一室91Aと、走行動力伝達機構89側に向けて開口する第二室91Bとに区画するためのマウントボス91eをハウジング91の内壁面より内方に向けて突出するように設けられており、HMTユニット100をハウジング91に固定した際、マウントボス91eの全周にセンタセクション35のハウジング装着面35dを密着させつつ遊星歯車機構11を第二室91B側に位置させるものであってもよい。遊星歯車支持ケース71の上部は定速駆動ギア62のみを格納するので小容積に形成でき、センタセクション35におけるHSTケース23の装着面裏側にできたスペースにマウントボス91eを入れ込むことができる。これにより走行動力伝達機構89のハウジング91を大きくせずにその内部にHMTユニット100を収容することができる。
このように構成することにより、HMTユニット100をハウジング91に固定する際に、センタセクション35がハウジング91内の走行動力伝達機構89の潤滑油を保持しつつ遊星歯車機構11に対して潤滑することができる。
【0044】
また、ハウジングの第二室91Bに、走行動力伝達機構89を構成する前輪駆動軸93が配置され、前輪駆動軸93と対向する遊星歯車支持ケース71の下部分を切り欠いたものであってもよい。
このように構成することにより、HMTユニット100の遊星歯車支持ケース71を小型化することができ、ハウジング91の第二室91B内の前輪駆動軸93と干渉することなく遊星歯車支持ケース71を前輪駆動軸93に近接して配置することができる。また、切欠き部71bより遊星歯車機構11へ効率よく潤滑油を供給できる。
【符号の説明】
【0045】
10 HST
11 遊星歯車機構
21 油圧ポンプ
22 油圧モータ
23 HSTケース
31 ポンプ軸
31a 嵌合部
32 シリンダブロック
32a シリンダ孔
33 ポンプピストン
34 可動斜板
35 センタセクション
35a 油入口ポート
35b チャージライン
35c チャージリリーフ弁
35d 装着面
36 電磁比例弁
37 サーボピストン
41 モータ軸
42 シリンダブロック
43 ピストン
44 固定斜板
51 サンギア軸
52 定速被駆動ギア
53 インターナルギア
54 サンギア
55 遊星ギア
56 遊星キャリア
56a 遊星キャリア軸
57 キャリアピン
61 ポンプ連接軸
62 定速駆動ギア
71 遊星歯車支持ケース
71a 装着面
71b 切欠き部
91 ハウジング
91a 前部ハウジング
91b 中間ハウジング
91c デフハウジング
91e マウントボス
92A 第一室
92B 第二室
92C 第三室
92D 第四室
93 前輪駆動軸
94 前後進切替クラッチ
95 前輪増速切替クラッチ
96 副変速機構
97 PTOクラッチ
98 PTO変速機構
100 HMTユニット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9