(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156643
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】発泡性清酒の製造装置及びその装置を用いた発泡性清酒の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12G 3/022 20190101AFI20221006BHJP
【FI】
C12G3/022 119Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060441
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】390015059
【氏名又は名称】小玉醸造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100155882
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100154678
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 博子
(72)【発明者】
【氏名】小玉 真一郎
【テーマコード(参考)】
4B115
【Fターム(参考)】
4B115CN64
4B115CN85
(57)【要約】
【課題】簡易でかつ清澄な発泡性清酒を得ることができる発泡性清酒の製造装置及び製造方法を提供する。
【解決手段】 発泡性清酒の製造装置1は、清酒を仕込むためのタンク本体2と、蓋3とを備える。タンク本体2は、円形の底部21と、底部21から起立する円筒状の周囲壁22と、周囲壁22の上部から内側に向かって延びる肩部23と、肩部23の上方に位置する円形の開口部24とを備え、蓋3によって開口部24が封止可能とされる。蓋3には吸引用孔31が設けられ、吸引管4が取り付けられる。吸引管4にはポンプ5が接続され、ポンプ5の吐出側には注入管6が接続され、注入管6はタンク本体2の肩部24に設けられた注入用孔25に接続される。泡発生器7は、タンク本体2の底部21に向かってほぼ垂直に延びる連結部71と、連結部71から延びるとともに螺旋状に巻回される環状部72と、環状部72の先端を封止するキャップ73とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンク本体と、前記タンク本体の開口部を覆う蓋と、を備える発泡性清酒の製造装置であって、
前記タンク本体又は前記蓋のいずれかに取り付けられる吸引管と、前記吸引管に取り付けられると共に前記吸引管から前記タンク本体内の気体を吸引及び吐出するポンプと、前記ポンプから吐出された気体を前記タンク本体内に注入する注入管と、前記注入管に取り付けられた泡発生器とを備えることを特徴とする発泡性清酒の製造装置。
【請求項2】
前記泡発生器は、連結部及び前記連結部に連続する環状部を備え、前記環状部には、複数の小孔を設けることを特徴とする請求項1記載の発泡性清酒の製造装置。
【請求項3】
前記泡発生器は、前記環状部に被せる被覆材をさらに備え、前記被覆材には複数の小孔を設けることを特徴とする請求項2記載の発泡性清酒の製造装置。
【請求項4】
タンク本体と、前記タンク本体の開口部を覆う蓋と、を備える発泡性清酒の製造装置を用いた発泡性清酒の製造方法であって、
前記タンク本体内で醪を発酵させ、
前記醪の発酵によって発生した前記タンク本体内のガスを吸引し、
吸引した前記ガスを前記タンク本体内の前記醪に泡発生器を介して吐出することを特徴とする発泡性清酒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、発泡性清酒の製造装置及びその装置を用いた発泡性清酒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発泡性清酒の製造については種々の方法が提案されている。例えば特許文献1によれば、醪を目の細かい濾材を用いて濾過し生酒を得る工程と、醪を目の粗い濾材を用いて濾過しにごり生酒を得る工程と、これら生酒及びにごり生酒を混合し再発酵させる工程と含む発泡性清酒の製造方法が記載される。再発酵させることによって炭酸ガスを発生させ、発泡性清酒を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の発泡性清酒の製造方法においては、醪から生酒とにごり生酒とを別々に製造しなければならず手間がかかるという問題があった。
また、生酒とにごり生酒とを混合し再発酵することによって、再発酵中に滓が発生する。滓は生酒とにごり生酒の混合酒を冷却することにより沈殿させ、上澄みを発泡性清酒とするが、沈殿だけでは滓を完全に除去することができず清澄な発泡性清酒を得ることができないという問題があった。
【0005】
この発明は、簡易でかつ清澄な発泡性清酒を得ることができる発泡性清酒の製造装置及び製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、第1の発明及び第2の発明を有する。
前記第1の発明は、タンク本体と、前記タンク本体の開口部を覆う蓋と、を備える発泡性清酒の製造装置であって、前記タンク本体又は前記蓋のいずれかに取り付けられる吸引管と、前記吸引管に取り付けられると共に前記吸引管から前記タンク本体内の気体を吸引及び吐出するポンプと、前記ポンプから吐出された気体を前記タンク本体内に注入する注入管と、前記注入管に取り付けられた泡発生器とを備えることを特徴とする。
タンク本体で醪を発酵させ、発生した炭酸ガスをポンプを使って再び醪内に供給することによって、容易に発泡性清酒を得ることができる。得られた発泡性清酒は炭酸ガス濃度が高く、醪を一般的な方法で濾過することができるとともに、発酵完了後に濾過するので清澄な発泡性清酒とすることができる。
【0007】
前記第1の発明において、前記泡発生器は、連結部及び前記連結部に連続する環状部を備え、前記環状部には、複数の小孔を設けることを特徴とする。
泡発生器を用いることによって、細かい気泡の炭酸ガスを広範囲にわたって醪に供給することができる。
【0008】
前記第1の発明において、前記泡発生器は、前記環状部に被せる被覆材をさらに備え、前記被覆材には複数の小孔を設けることを特徴とする。
被覆材を用いることによって、炭酸ガスの気泡をより細かくすることができ、清酒におけるガス濃度を上昇させることができるとともに、ガスを抜けにくくすることができる。
【0009】
前記第2の発明は、タンク本体と、前記タンク本体の開口部を覆う蓋と、を備える発泡性清酒の製造装置を用いた発泡性清酒の製造方法であって、前記タンク本体内で醪を発酵させ、前記醪の発酵によって発生した前記タンク本体内のガスを吸引し、吸引した前記ガスを前記タンク本体内の前記醪に泡発生器を介して吐出することを特徴とする。
醪から発生したガスを再び醪中に供給することができ、他の特別な工程を必要としないので簡易な方法によって発泡性清酒を得ることができる。また、発酵完了後に一般的な濾過方法で醪を濾過することができ清澄な発泡性清酒を得ることができる。
【発明の効果】
【0010】
この発明に係る発泡性清酒の製造装置及びこの装置を用いた製造方法によれば、醪から発生した炭酸ガスを、ポンプを用いてタンク本体の上部から吸引するとともに、下部に吐出して循環させることによって清酒中の炭酸ガス濃度を上昇させることができる。したがって特別な工程を必要とせず簡易に発泡性清酒を得ることができる。また、発酵完了後に濾過することによって滓を除去することができ清澄な発泡性清酒を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】発泡性清酒の製造装置の概要図であって一部を断面図で示したもの。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1を参照すると、この発明の発泡性清酒の製造装置1は、清酒を仕込むためのタンク本体2と、蓋3とを備える。タンク本体2は、円形の底部21と、底部21から起立する円筒状の周囲壁22と、周囲壁22の上部から内側に向かって延びる肩部23と、肩部23の上方に位置する円形の開口部24とを備え、蓋3によって開口部24が封止可能とされる。開口部24に蓋3をして締結部材32で固定することによって、タンク本体2内を密閉することができる。
【0013】
蓋3には吸引用孔31が設けられ、吸引用孔31を貫通する吸引管4が取り付けられる。吸引管4にはポンプ5が接続され、吸引管4によってタンク本体2の気体が吸引可能とされている。また、吸引管4には、圧力計41及び安全弁42が取り付けられ、吸引管4内の圧力が一定以上になった際には安全弁42によって圧力開放することとしている。
【0014】
ポンプ5の吐出側には注入管6が接続され、注入管6はタンク本体2の肩部23に設けられた注入用孔25に接続される。注入用孔25は、一般的なサーマルタンクに設けられた検尺口を流用することもできる。注入管6には、泡発生器7が取り付けられる。
【0015】
図2をともに参照すれば、泡発生器7は、タンク本体2の底部21に向かってほぼ垂直に延びる連結部71と、連結部71から延びるとともに螺旋状に巻回される環状部72と、環状部72の先端を封止するキャップ73とを備える。この実施形態において、環状部72は垂直方向から見て円形に2回、巻回される。環状部72は、タンク本体2の底部21の近傍であって、かつ中央近傍に配置することが望ましい。
【0016】
図3は環状部の一部を拡大した図であり、さらにその一部を破断したものである。環状部72として例えばステンレスのパイプを用いることができ、環状部72には複数の管小孔74が形成される。環状部72の周囲にはさらに弾性を有する被覆材75が被せられる。被覆材75には複数の被覆材小孔76が設けられる。この実施形態において被覆材小孔76は管小孔74よりもその径は小さい。
【0017】
上記のような発泡性清酒の製造装置1において、発泡性清酒を製造する方法について説明する。
蒸米、麹、酵母、仕込み水等を加えて酒母を造る。酒母は一般的な手法及び原料の配合により造ることができる。タンク本体2に酒母を投入し、さらに蒸米、麹、酵母、仕込み水等を加えて仕込みをおこない醪Mを造る。醪Mの上面は、少なくとも吸引管4の先端4Aよりも下方に位置するように調整する。
【0018】
醪Mを熟成させることによって糖化及びアルコール発酵が進むとともに炭酸ガスが発生し、タンク本体2の上部に炭酸ガスが溜まる。炭酸ガスが発生したらポンプ5を駆動し、吸引管4から炭酸ガスを吸引する。ポンプ5によって吸引された炭酸ガスは、注入管6から泡発生器7を介して再びタンク本体2内へと吐出される。泡発生器7によって炭酸ガスが細かい気泡となって醪Mへと供給される。泡発生器7はタンク本体2の底部21近傍に設置されているから、醪Mの下方から上方に向かって気泡が移動する。細かい気泡に含まれる炭酸ガスは醪M中に溶解する。このように、発生した炭酸ガスを循環させることによって、醪M中の炭酸濃度を高くすることができ、かつ、炭酸ガスが醪M中から抜けにくくすることができる。
【0019】
この実施形態において、泡発生器7において環状部72をさらに被覆材75で覆うようにしている。環状部72には管小孔74を設けるが、環状部72を構成する管は例えばステンレスや硬化樹脂を用いて形成されることが多く、これら硬度の高い管に小孔を形成しようとした場合、技術的な観点からその径は比較的大きくなりやすい。被覆材75として例えばシリコーン等の弾性及び可撓性を有する合成樹脂を用いることができ、これら被覆材75には比較的容易に径の小さい孔を形成することができる。したがって、この実施形態の泡発生器7によれば、硬度の高い管によって泡発生器7全体の強度を維持しつつ、加工が容易な被覆材75を被せることによって気泡を小さくすることができる。
【0020】
泡発生器7は、環状部72を設けることによって広範囲かつ効率的に醪Mの下方において気泡を供給することができる。この実施形態において螺旋状にすることによってより広範囲かつ効率的に気泡を提供することができる。ただし、螺旋形状に限定するものではなく、少なくとも円形、多角形等の環状を有するものであれば良い。
【0021】
上記のように醪Mに炭酸ガスを供給し、糖化及びアルコール発酵が所望の程度に進んだら醪Mを濾過し、発泡性清酒を得ることができる。醪Mの濾過には、一般的な自動醪搾機を用いることができる。上記のように炭酸ガスを循環させることによって、醪中の炭酸ガスが抜けにくくなっているので、一般的な自動醪搾機を用いても炭酸ガスが抜けにくく、濾過後の清酒においても十分な炭酸ガス含有量を保持することができる。自動醪搾機を用いて濾過された発泡性清酒は瓶詰されて流通される。上記のように醪Mは発酵が完了してから濾過をするから、その後さらに発酵により滓が発生することがない。したがって、清澄な色沢を有する発泡性清酒を得ることができる。また通常の方法で濾過することができるから、通常の清酒と同様の清澄な発泡性清酒を得ることができる。
【0022】
この発明における製造装置を用いることによって、特別な工程を経ることなく容易に発泡性清酒を得ることができる。また、醪の発酵過程で生成された炭酸ガスを循環させているので、人工的に炭酸ガスを添加した場合に比べて自然な風味の発泡性清酒とすることができる。さらに、従来は醪発酵中に発生したガスは大気中に拡散されていたが、これを利用することによって自然環境にも優しい製法とすることができる。
【0023】
この実施形態において蓋3に吸引用孔31を設けることとしているが、例えばタンク本体2の肩部23に設けることとしても良い。また、注入用孔25は、タンク本体2の肩部23に設けることとしているが、蓋3に設けることとしても良い。すなわち、吸引用孔31及び注入用孔25は、醪の表面よりも上方に位置する場所であれば、いずれに設けても構わない。
【符号の説明】
【0024】
1 発泡性清酒の製造装置
2 タンク本体
3 蓋
4 吸引管
5 ポンプ
6 注入管
7 泡発生器
71 連結部
72 環状部
74 管小孔(小孔)
75 被覆材
76 被覆材小孔(小孔)