(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156667
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】ベーン型圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04C 18/344 20060101AFI20221006BHJP
F04C 29/00 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
F04C18/344 351M
F04C29/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060473
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】弁理士法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】吉川 大貴
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 雅洋
【テーマコード(参考)】
3H040
3H129
【Fターム(参考)】
3H040AA09
3H040BB05
3H040BB11
3H040CC09
3H040DD06
3H040DD27
3H040DD28
3H129AA05
3H129AB03
3H129BB42
3H129CC04
(57)【要約】
【課題】作動時の動力損失を低減可能なベーン型圧縮機を提供する。
【解決手段】本発明のベーン型圧縮機は、ハウジング1と、駆動軸8と、ロータ15と、第1~5ベーン17a~17eとを備えている。ハウジング1は、フロントハウジング2と、リヤサイドプレート3と、シェル5とを有している。フロントハウジング2は、本体壁2aとシリンダ部2bとを有している。リヤサイドプレート3は、シリンダ部2bを含め、フロントハウジング2と別体で形成されており、シリンダ部2bに固定されている。リヤサイドプレート3の外周面3cには、第1圧入部71及び第2圧入部72が形成されている。第1圧入部71及び第2圧入部72は、シェル5の内周に圧入されてリヤサイドプレート3をシェル5に固定する。第1圧入部71及び第2圧入部72は、駆動軸8の周方向に延びている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状をなすシリンダブロックと、前記シリンダブロックの開口を閉塞して前記シリンダブロックとともにシリンダ室を区画する第1区画壁及び第2区画壁と、前記第2区画壁を収容し、前記第2区画壁とともに吐出室を区画する有底の筒状をなすシェルとを有するハウジングと、
前記ハウジングに支承され、駆動軸心周りに回転可能な駆動軸と、
前記シリンダ室内で前記駆動軸と同期回転可能に設けられ、複数個のベーン溝が形成されたロータと、
前記各ベーン溝に各々出没可能に設けられ、シリンダ室に圧縮室を区画するベーンと、を備えたベーン型圧縮機であって、
前記第2区画壁は前記シリンダブロックと別体に形成されて、前記シリンダブロックに固定され、
前記第2区画壁の外周面には、前記シェルの内周に圧入されて前記第2区画壁を前記シェルに固定する圧入部が形成され、
前記圧入部は、前記圧縮室を区画する部分の近傍であって前記外周面における所定の領域のみに渡って前記外周面の周方向に延びていることを特徴とするベーン型圧縮機。
【請求項2】
前記シリンダ室は、前記駆動軸心に直交する方向の断面が第1直径と前記第1直径より短い第2直径とを有する楕円形をなし、
前記ロータは、前記シリンダ室と同軸に設けられ、
前記シリンダ室には、前記シリンダ室の内壁と前記駆動軸心とが前記ベーンの突出方向に最も離隔する一対の遠隔線と、
前記各遠隔線を各々含んで前記シリンダ室の周方向に半周よりも短く延びる一対の遠隔領域と、
前記シリンダ室の内壁と前記駆動軸心とが前記ベーンの突出方向に最も近接する一対の近接線と、
前記各近接線を各々含んで前記シリンダ室の周方向に半周よりも短く延びる一対の近接領域とが規定され、
前記圧入部は、前記外周面において、前記各遠隔領域の外周となる個所に形成されている一方、前記各この近接領域の外周となる個所は避けて形成されている請求項1記載のベーン型圧縮機。
【請求項3】
前記シリンダ室には、前記圧縮室に流体を吸入させる第1吸入孔及び第2吸入孔と、前記圧縮室から流体を吐出させる第1吐出孔及び第2吐出孔とが開口し、
前記第1吸入孔と前記第1吐出孔とは、前記ロータの回転方向において隣り合うように配置され、
前記第2吸入孔と前記第2吐出孔とは、前記ロータの回転方向において隣り合うように配置され、
前記各遠隔領域の一方は、前記ロータの回転方向において前記第1吸入孔と前記第1吐出孔との間に位置し、
前記各遠隔領域の他方は、前記ロータの回転方向において前記第2吸入孔と前記第2吐出孔との間に位置している請求項2記載のベーン型圧縮機。
【請求項4】
前記第1区画壁と前記シリンダブロックとは一体に形成され、
前記第2区画壁の前記外周面には、環状をなす溝が形成され、
前記溝は前記圧入部よりも前記駆動軸心方向において前記シリンダブロック側に位置し、
前記溝には、環状をなす封止部材が設けられている請求項1乃至3のいずれか1項記載のベーン型圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はベーン型圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に従来のベーン型圧縮機が開示されている。このベーン型圧縮機は、ハウジングと、駆動軸と、ロータと、複数のベーンとを備えている。ハウジングは、シリンダブロックと、フロントヘッドと、リヤヘッドとを有している。シリンダブロックは軸方向に延びる略円筒状をなしている。シリンダブロックの外周面には、複数個の圧入部が形成されている。各圧入部は、シリンダブロックは軸方向の一方側と他方側とに配置されている。各圧入部は、いずれも同一形状であり、外周面からシリンダブロックの径方向の外側に向かって突出する略矩形の突起形状をなしている。
【0003】
フロントヘッドは、有底の筒状をなしており、シリンダブロックの軸方向の一方側に配置されている。フロントヘッドには吸入室が形成されている。フロントヘッドは、内部にシリンダブロックを収容しつつ、シリンダブロックの軸方向の一方側からシリンダブロックの開口を閉鎖している。リヤヘッドは、シリンダブロックの軸方向の他方側に配置されている。リヤヘッドには吐出室が形成されている。リヤヘッドは、内部にシリンダブロックを収容しつつ、シリンダブロックの軸方向の他方側からシリンダブロックの開口を閉鎖している。また、リヤヘッドは、シリンダブロックを収容した状態で、フロントヘッドの内部に進入しつつ、フロントヘッドに固定されている。
【0004】
ここで、シリンダブロックは、フロントヘッドに収容された際に、軸方向の一方側に配置された各圧入部がフロントヘッドの内周に圧入される。これにより、シリンダブロックはフロントヘッドに固定されている。また、シリンダブロックは、リヤヘッドに収容された際に、軸方向の他方側に配置された各圧入部がリヤヘッドの内周に圧入される。これにより、シリンダブロックはリヤヘッドに固定されている。こうして、シリンダブロックは、フロントヘッドとリヤヘッドとの間に配置されている。そして、フロントヘッド及びリヤヘッドによって、シリンダブロックの開口が閉鎖されることにより、シリンダブロックは、フロントヘッド及びリヤヘッドとともに自己の内部にシリンダ室を区画している。
【0005】
駆動軸はハウジングに支承されており、駆動軸心周りに回転可能である。ロータは、シリンダ室内で駆動軸と同期回転可能に設けられている。また、ロータには複数個のベーン溝が形成されている。各ベーンは、各ベーン溝に出没可能に設けられている。各ベーンは、シリンダ室に圧縮室を区画している。
【0006】
このベーン型圧縮機では、吸入室の流体が圧縮室に吸入されて圧縮室で圧縮される。また、圧縮室で圧縮された流体は吐出室に吐出され、さらに、吐出室からリヤヘッド、ひいてはハウジングの外部に吐出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記従来のベーン型圧縮機では、シリンダブロックに形成された各圧入部がフロントヘッド及びリヤヘッドに圧入されるため、シリンダブロックには、各圧入部を通じてフロントヘッド及びリヤヘッドから大きな荷重が作用する。このため、この荷重によってシリンダ室が変形し易くなる。そして、シリンダ室が変形すれば、シリンダ室内でロータが回転する際に、ロータの外周面や各ベーンと、シリンダ室の内壁との摩擦が大きくなる。この結果、このベーン型圧縮機では作動時の動力損失が大きくなる。
【0009】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、作動時の動力損失を低減可能なベーン型圧縮機を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のベーン型圧縮機は、筒状をなすシリンダブロックと、前記シリンダブロックの開口を閉塞して前記シリンダブロックとともにシリンダ室を区画する第1区画壁及び第2区画壁と、前記第2区画壁を収容し、前記第2区画壁とともに吐出室を区画する有底の筒状をなすシェルとを有するハウジングと、
前記ハウジングに支承され、駆動軸心周りに回転可能な駆動軸と、
前記シリンダ室内で前記駆動軸と同期回転可能に設けられ、複数個のベーン溝が形成されたロータと、
前記各ベーン溝に各々出没可能に設けられ、シリンダ室に圧縮室を区画するベーンと、を備えたベーン型圧縮機であって、
前記第2区画壁は前記シリンダブロックと別体に形成されて、前記シリンダブロックに固定され、
前記第2区画壁の外周面には、前記シェルの内周に圧入されて前記第2区画壁を前記シェルに固定する圧入部が形成され、
前記圧入部は、前記圧縮室を区画する部分の近傍であって前記外周面における所定の領域のみに渡って前記外周面の周方向に延びていることを特徴とする。
【0011】
本発明のベーン型圧縮機では、第2区画壁がシリンダブロックと別体に形成されている。そして、第2区画壁は、シリンダブロックに固定されることにより、シリンダブロックの開口を閉塞しつつ、シリンダブロック及び第1区画壁とともにシリンダ室を区画する。
【0012】
また、このベーン型圧縮機では、第2区画壁の外周面に圧入部が形成されている。そして、この圧入部がシェルの内周に圧入されることにより、第2区画壁がシェルに固定される。これにより、このベーン型圧縮機では、第2区画壁を通じてシリンダブロックがシェルに固定される。
【0013】
このように、このベーン型圧縮機では、第2区画壁とシリンダブロックとが別体であるため、たとえ圧入部を圧入することに起因する大きな荷重が圧入部を通じてシェルから第2区画壁に作用しても、シリンダブロックは、第2区画壁に作用する上記の荷重の影響を受け難い。この結果、このベーン型圧縮機では、シリンダ室が変形し難く、また、仮にシリンダ室が変形した場合であっても、その変形量を小さくすることができる。これにより、このベーン型圧縮機では、シリンダ室内でロータが回転する際における、ロータの外周面や各ベーンと、シリンダ室の内壁との摩擦を可及的に小さくすることができる。
【0014】
したがって、本発明のベーン型圧縮機によれば、作動時の動力損失を低減できる。
【0015】
シリンダ室は、駆動軸心に直交する方向の断面が第1直径と第1直径より短い第2直径とを有する楕円形をなし得る。また、ロータは、シリンダ室と同軸に設けられ得る。さらに、シリンダ室には、シリンダ室の内壁と駆動軸心とがベーンの突出方向に最も離隔する一対の遠隔線と、各遠隔線を各々含んでシリンダ室の周方向に半周よりも短く延びる一対の遠隔領域と、シリンダ室の内壁と駆動軸心とがベーンの突出方向に最も近接する一対の近接線と、各近接線を各々含んでシリンダ室の周方向に半周よりも短く延びる一対の近接領域とが規定され得る。そして、圧入部は、外周面において、各遠隔領域の外周となる個所に形成されている一方、各近接領域の外周となる個所は避けて形成されていることが好ましい。
【0016】
シリンダ室において、各遠隔領域では、流体が圧縮されることによる流体の圧縮荷重が大きくなる一方、各近接領域では、ロータの外周面と、シリンダ室の内壁とが接近する。
【0017】
この点、このベーン型圧縮機では、圧入部が第2区画壁の外周面において、各遠隔領域の外周となる個所に形成されているため、圧入部は、各遠隔領域の外周となる個所で第2区画壁をシェルに固定する。これにより、このベーン型圧縮機では、各遠隔領域において流体の圧縮荷重が大きくなっても、圧入部を通じてシェルに固定された第2区画壁は、シリンダブロックを好適に支持することができる。
【0018】
また、圧入部は、第2区画壁の外周面において、各近接領域の外周となる個所を避けて形成されている。このため、このベーン型圧縮機では、各近接領域においてシリンダ室が変形することを好適に防止できる。
【0019】
シリンダ室には、圧縮室に流体を吸入させる第1吸入孔及び第2吸入孔と、圧縮室から流体を吐出させる第1吐出孔及び第2吐出孔とが開口し得る。また、第1吸入孔と第1吐出孔とは、ロータの回転方向において隣り合うように配置され得る。さらに、第2吸入孔と第2吐出孔とは、ロータの回転方向において隣り合うように配置され得る。また、各遠隔領域の一方は、ロータの回転方向において第1吸入孔と第1吐出孔との間に位置し得る。そして、各遠隔領域の他方は、ロータの回転方向において第2吸入孔と第2吐出孔との間に位置していることが好ましい。この場合には、シリンダ室における各遠隔領域の位置を好適に特定することができる。
【0020】
第1区画壁とシリンダブロックとは一体に形成され得る。また、第2区画壁の外周面には、環状をなす溝が形成され得る。さらに、溝は、圧入部よりも駆動軸心方向においてシリンダブロック側に位置し得る。そして、溝には、環状をなす封止部材が設けられていることが好ましい。
【0021】
第2区画壁の外周面とシェルの内周との間に封止部材が存在することにより、第2区画壁は封止部材を介してシェルに弾性支持される状態となる。この場合、ベーン型圧縮機の作動時に、第2区画壁は不可避的に振動し得る。この点、このベーン型圧縮機では、第2区画壁の外周面に圧入部が形成されており、この圧入部によって第2区画壁がシェルに固定される。特に、このベーン型圧縮機では、圧入部が駆動軸の周方向に延びているため、圧入部とシェルの内周との接触面積を大きくすることができる。これにより、このベーン型圧縮機では、たとえ第2区画壁の外周面とシェルの内周との間に封止部材が存在していても、作動時における第2区画壁の振動を抑制することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のベーン型圧縮機によれば、作動時の動力損失を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、実施例のベーン型圧縮機を示す断面図である。
【
図2】
図2は、実施例のベーン型圧縮機に係り、
図1のA-A断面を示す断面図である。
【
図3】
図3は、実施例のベーン型圧縮機に係り、シリンダ室を示す
図2と同方向からの断面図である。
【
図4】
図4は、実施例のベーン型圧縮機に係り、
図1のB-B断面を示す断面図である。
【
図5】
図5は、実施例のベーン型圧縮機に係り、第2区画壁を示す背面図である。
【
図6】
図6は、実施例のベーン型圧縮機に係り、圧入部を示す要部拡大背面図である。
【
図7】
図7は、実施例のベーン型圧縮機に係り、
図1のC-C断面を示す断面図である。
【
図8】
図8は、実施例のベーン型圧縮機に係り、
図7のD-D断面を示す要部拡大断面図である。
【
図9】
図9は、実施例のベーン型圧縮機に係り、
図7のE-E断面を示す要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を具体化した実施例を図面を参照しつつ説明する。実施例のベーン型圧縮機は図示しない車両に搭載されており、車両の冷凍回路を構成している。
【0025】
図1~
図4に示すように、実施例1のベーン型圧縮機は、ハウジング1と、駆動軸8と、ロータ15と、第1~5ベーン17a~17eと、背圧供給機構50とを備えている。ハウジング1は、フロントハウジング2と、リヤサイドプレート3と、ブロック4と、シェル5とを有している。リヤサイドプレート3は、本発明における「第2区画壁」の一例である。
【0026】
本実施例では、
図1に示す実線矢印によって、ベーン型圧縮機の前後方向及び上下方向を規定している。また、
図2では、
図1に対応してベーン型圧縮機の上下方向を規定している他、ベーン型圧縮機の左右方向、すなわち幅方向を規定している。そして、
図3以降では、
図1に対応してベーン型圧縮機の前後方向、上下方向及び左右方向を規定している。なお、これらの各方向は説明の便宜上のための一例である。
【0027】
図1に示すように、フロントハウジング2は、本体壁2aとシリンダ部2bとを有している。本体壁2aは、本発明における「第1区画壁」の一例である。また、シリンダ部2bは、本発明における「シリンダブロック」の一例である。
【0028】
本体壁2aは、フロントハウジング2の径方向に延びている。本体壁2aの後面は、第1面2cとされている。第1面2cは、駆動軸8の駆動軸心Oに直交して延びている。また、本体壁2aには、駆動軸心O方向で前方に突出する第1ボス2dが形成されており、第1ボス2d内には第1支承孔2eが形成されている。第1支承孔2eは、駆動軸心O方向で第1ボス2dの前端から第1面2cまで延びている。ここで、駆動軸心O方向は、ベーン型圧縮機の前後方向と平行である。第1支承孔2e内には軸封装置11が設けられている。また、本体壁2aには、連通路2fが形成されている。連通路2fは、本体壁2aの内部を傾斜しつつ前後方向に延びており、軸封装置11に連通している。
【0029】
さらに、本体壁2aの外周面には、第1保持溝21が凹設されている。第1保持溝21は、本体壁2aの外周面を駆動軸8の周方向に一周している。第1保持溝21には、第1封止部材61が設けられている。第1封止部材61は樹脂製であり、円環状に形成されている。
【0030】
シリンダ部2bは円筒状に形成されている。シリンダ部2bは、本体壁2aと一体をなしており、本体壁2aから駆動軸心O方向で後方に向かって延びている。
図2~
図4に示すように、シリンダ部2bの内部には、シリンダ室7が形成されている。シリンダ室7は、シリンダ部2bの内周面によって形成されている。つまり、シリンダ部2bの内周面は、シリンダ室7の内壁70を構成している。
【0031】
図1に示すように、シリンダ室7は、駆動軸8がハウジング1に支承されることにより、駆動軸心Oと同軸をなしている。そして、シリンダ室7は、駆動軸心Oと平行でシリンダ部2bを前後方向に貫通している。これにより、シリンダ室7はシリンダ部2bの前方及び後方に開口している。ここで、シリンダ部2bが本体壁2aと一体をなしているため、シリンダ室7における前方側の開口は、本体壁2a、より具体的には、第1面2cによって閉鎖されている。
【0032】
また、
図3に示すように、シリンダ室7は、駆動軸心Oに直交する断面が略楕円形をなす柱状をなしている。これにより、シリンダ室7は、第1直径X1と、第1直径X1よりも短い第2直径X2とを有している。第1直径X1と第2直径X2とは略直交している。また、シリンダ室7には、第1直径X1の方向において、シリンダ室7の内壁70と、シリンダ室7の中心、すなわち駆動軸心Oとが第1~5ベーン17a~17eの突出方向に最も離隔する仮想の第1遠隔線L1及び第2遠隔線L2が規定されている。第1遠隔線L1と第2遠隔線L2とは、駆動軸心Oを挟んで対向しており、駆動軸心O方向でシリンダ室7の前端から後端まで平行に延びている。
【0033】
また、シリンダ室7には、第2直径X2の方向において、内壁70と駆動軸心Oとが第1~5ベーン17a~17eの突出方向に最も接近する仮想の第1近接線L3及び第2近接線L4が規定されている。第1近接線L3と第2近接線L4とは、駆動軸心Oを挟んで対向しており、駆動軸心O方向でシリンダ室7の前端から後端まで平行に延びている。こうして、シリンダ室7では、ロータ15の回転方向R1において、第1遠隔線L1、第1近接線L3、第2遠隔線L2及び第2近接線L4がこの順番で90°の間隔を有しつつ配置されている。なお、ロータ15の回転方向R1については後述する。また、
図3では、説明を容易にするため、駆動軸8、ロータ15及び第1~5ベーン17a~17dを破線で示している。
【0034】
さらに、シリンダ室7には、仮想の第1遠隔領域α1及び第2遠隔領域α2と、仮想の第1近接領域β1及び第2近接領域β2とが規定されている。第1遠隔領域α1は、第1遠隔線L1を含みつつ、シリンダ室7の周方向に延びている。第2遠隔領域α2は、第2遠隔線L2を含みつつ、シリンダ室7の周方向に延びている。これらの第1遠隔領域α1及び第2遠隔領域α2は、駆動軸心Oを挟んで対向しており、駆動軸心O方向でシリンダ室7の前端から後端まで延びている。
【0035】
第1近接領域β1は、第1近接線L3を含みつつ、シリンダ室7の周方向に延びている。第2近接領域β2は、第2近接線L4を含みつつ、シリンダ室7の周方向に延びている。これらの第1近接領域β1及び第2近接領域β2についても、駆動軸心Oを挟んで対向しており、駆動軸心O方向でシリンダ室7の前端から後端まで延びている。
【0036】
ここで、上述のように、シリンダ室7では、ロータ15の回転方向R1において、第1遠隔線L1、第1近接線L3、第2遠隔線L2及び第2近接線L4がこの順番で配置されている。このため、ロータ15の回転方向R1において、第1遠隔領域α1、第1近接領域β1、第2遠隔領域α2及び第2近接領域β2についても、この順番で配置されている。
【0037】
また、第1遠隔領域α1、第2遠隔領域α2、第1近接領域β1及び第2近接領域β2は、いずれもシリンダ室7の周方向に半周よりも短く延びている。このため、第1遠隔領域α1、第2遠隔領域α2、第1近接領域β1及び第2近接領域β2は、シリンダ室7の周方向で重なることがなく、互いにシリンダ室7の周方向に離隔している。これにより、第1遠隔領域α1には、第1遠隔線L1以外の第2遠隔線L2や第1、2近接線L3、L4が含まれることはない。第2遠隔領域α2、第1、2近接領域β1、β2についても同様である。
【0038】
ここで、本実施例では、第1、2遠隔領域α1、α2が第1、2近接領域β1、β2に比べてシリンダ室7の周方向に長く延びている。また、第1遠隔領域α1と第2遠隔領域α2とは、シリンダ室7の周方向に等しい長さで延びており、第1近接領域β1と第2近接領域β2とは、シリンダ室7の周方向に等しい長さで延びている。
【0039】
また、
図1に示すように、シリンダ部2bの外周面には、第2保持溝22が凹設されている。第2保持溝22は、シリンダ部2bの外周面を駆動軸8の周方向に一周している。第2保持溝22には、第2封止部材62が設けられている。第2封止部材62も樹脂製であり、円環状に形成されている。
【0040】
さらに、シリンダ部2bには、吸入室9と、
図2及び
図3に示す第1吸入孔91と、第2吸入孔92と、
図4に示す第1吐出弁室10aと、第2吐出弁室10bと、第1吐出孔101と、第2吐出孔102とが形成されている。
【0041】
図1に示すように、吸入室9は、シリンダ部2bの外周面において、第2保持溝22よりも前方となる個所に凹設されている。吸入室9は、シリンダ部2bの外周面を駆動軸8の周方向に一周している。また、吸入室9は連通路2fと連通している。これにより、吸入室9は、連通路2fを通じて軸封装置11と連通している。
【0042】
図2及び
図3に示すように、第1吸入孔91及び第2吸入孔92は、それぞれシリンダ部2bの内部をシリンダ部2bの径方向に延びている。ここで、シリンダ部2bの内部において、第2吸入孔92は、駆動軸心Oを挟んで第1吸入孔91の反対側となる個所に配置されている。
【0043】
第1吸入孔91は、シリンダ室7と吸入室9とにそれぞれ開口している。これにより、第1吸入孔91は、シリンダ室7と吸入室9とを連通している。また、第2吸入孔92についても、シリンダ室7と吸入室9とにそれぞれ開口している。これにより、第2吸入孔92は、第1吸入孔91とは駆動軸心Oを挟んだ反対側となる個所において、シリンダ室7と吸入室9とを連通している。なお、シリンダ部2bの内部に対して、第1吸入孔91と連通しつつ駆動軸心O方向に延びる第1吸入通路と、第2吸入孔92と連通しつつ駆動軸心O方向に延びる第2吸入通路とを設けても良い。
【0044】
図4に示すように、第1吐出弁室10a及び第2吐出弁室10bは、それぞれシリンダ部2bの外周面から、駆動軸心Oに向かって凹設されている。第1吐出弁室10a及び第2吐出弁室10bは、シリンダ部2bにおいて、吸入室9及び第1、2吸入孔91、92よりも後方に配置されている。また、第1吐出弁室10aと第2吐出弁室10bとは、シリンダ部2bにおいて、駆動軸心Oを挟んで対向するように配置されている。これにより、第2吐出弁室10bは、第1吐出弁室10aに対して駆動軸心Oを挟んだ反対側に位置している。
【0045】
第1吐出孔101及び第2吐出孔102は、それぞれシリンダ部2bの内部をシリンダ部2bの径方向に延びている。第1吐出孔101及び第2吐出孔102は、シリンダ部2bにおいて、第1吸入孔91及び第2吸入孔92よりも後方に配置されている。
【0046】
第1吐出孔101は、第1吐出弁室10aの底部と、シリンダ室7とに開口している。一方、第2吐出孔102は、第2吐出弁室10bの底部と、シリンダ室7とに開口している。つまり、第2吐出孔102は、第1吐出弁室10a及び第1吐出孔101に対して駆動軸心Oを挟んだ反対側に位置している。
【0047】
また、シリンダ部2bの内部において、これらの第1吸入孔91、第2吸入孔92、第1吐出孔101及び第2吐出孔102は、シリンダ室7の周方向に配置されている。より具体的には、シリンダ部2bの内部において、第1吸入孔91、第1吐出孔101、第2吸入孔92及び第2吐出孔102がこの順番で、ロータ15の回転方向R1に90°の間隔で配置されており、それぞれシリンダ室7に開口している。
【0048】
これにより、前後方向で離隔する関係にはあるものの、第1吸入孔91と第1吐出孔101とは、ロータ15の回転方向R1において隣り合っており、第1吐出孔101と第2吸入孔92とは、ロータ15の回転方向R1において隣り合っている。同様に、第2吸入孔92と第2吐出孔102とは、ロータ15の回転方向R1において隣り合っており、第2吐出孔102と第1吸入孔91とは、ロータ15の回転方向R1において隣り合っている。
【0049】
そして、第1遠隔領域α1は、ロータ15の回転方向R1において第1吸入孔91と第1吐出孔101との間に位置しており、第2遠隔領域α2は、ロータ15の回転方向R1において第2吸入孔92と第2吐出孔102との間に位置している。また、第1近接領域β1は、ロータ15の回転方向R1において第1吐出孔101と第2吸入孔92との間に位置しており、第2近接領域β2は、ロータ15の回転方向R1において第2吐出孔102と第1吸入孔91との間に位置している。ここで、第1遠隔領域α1は、第1吸入孔91及び第1吐出孔101のいずれとも重なってはおらず、第2遠隔領域α2は、第2吸入孔92及び第2吐出孔102のいずれとも重なってはいない。これに対し、第1近接領域β1は、第1吐出孔101及び第2吸入孔92と一部が重なっており、第2近接領域β2は、第2吐出孔102及び第1吸入孔91と一部が重なっている。
【0050】
第1吐出弁室10a内には、弾性変形によって第1吐出孔101を開閉する第1吐出弁111と、第1吐出弁111のリフト量を規制する第1リテーナ112とが設けられている。これらの第1吐出弁111及び第1リテーナ112は、第1取付ピン113によって、第1吐出弁室10aの底部に取り付けられている。
【0051】
第2吐出弁室10b内には、弾性変形によって第2吐出孔102を開閉する第2吐出弁114と、第2吐出弁114のリフト量を規制する第2リテーナ115とが設けられている。また、第2吐出弁114及び第2リテーナ115は、第2取付ピン116によって、第2吐出弁室10bの底部に取り付けられている。なお、第1、2吐出孔101、102、第1、2吐出弁111、114、第1、2リテーナ112、115の形状や個数は適宜設計可能である。
【0052】
図1に示すように、リヤサイドプレート3は、フロントハウジング2とは別体で形成されている。これにより、リヤサイドプレート3とシリンダ部2bとは別体をなしている。リヤサイドプレート3は、円盤状に形成されており、第2面3aと、第3面3bと、外周面3cとを有している。より具体的には、
図5に示すように、リヤサイドプレート3は、シリンダ室7よりも大径であって、シリンダ部2bとほぼ同径をなす円盤状に形成されている。なお、リヤサイドプレート3をシリンダ部2bよりも大径に形成しても良い。
【0053】
図1に示すように、第2面3aは、リヤサイドプレート3の前端に位置しており、リヤサイドプレート3の前面を構成している。第3面3bは、リヤサイドプレート3の後端に位置しており、リヤサイドプレート3の後面を構成している。
【0054】
外周面3cは、第2面3aと第3面3bとの間に位置しており、駆動軸8の周方向に一周しつつ、第2面3aと第3面3bとに接続している。また、外周面3cには、第3保持溝23が凹設されている。第3保持溝23は、本発明における「溝」の一例である。第3保持溝23は、外周面3cを駆動軸8の周方向に一周している。第3保持溝23には、第3封止部材63が設けられている。第3封止部材63は、本発明における「封止部材」の一例である。第1、2封止部材61、62と同様、第3封止部材63も樹脂製であり、円環状に形成されている。
【0055】
また、リヤサイドプレート3には、2つの排油溝3dと、第2ボス3eと、第2支承孔3fと、第1供給路3gと、2つの第2供給路3hと、第1吐出路3iとが形成されている。
【0056】
各排油溝3dは、それぞれ第2面3aに凹設されている。詳細な図示を省略するものの、各排油溝3dはそれぞれ駆動軸心O周りに延びる略円弧形状に形成されており、駆動軸心Oを挟んで配置されている。
【0057】
第2ボス3eは第3面3bの中心に位置しており、第3面3bから駆動軸心O方向で後方に向かって突出している。第2支承孔3fは、リヤサイドプレート3の内部に形成されており、リヤサイドプレート3を駆動軸心O方向で前後に貫通している。これにより、第2支承孔3fは、前端が各排油溝3d同士の間で第2面3aに開口しており、後端が第2ボス3eの後端面に開口している。
【0058】
第1供給路3gは、リヤサイドプレート3の内部に形成されている。第1供給路3gは一端が外周面3cに開口しており、他端が第2ボス3eの後端面に開口している。
【0059】
各第2供給路3hは、それぞれリヤサイドプレート3内において、第1供給路3g及び後述する供給室6よりも潤滑油の流通方向の下流側となる位置に設けられている。各第2供給路3hは、それぞれリヤサイドプレート3の内部を駆動軸心O方向に貫通している。これにより、各第2供給路3hは前端が第2面3aに開口しており、後端が第2ボス3eの後端面に開口している。ここで、各第2供給路3hの前端は、第2面3aにおいて、各排油溝3d同士の間となる位置に開口している。つまり、第2面3aにおいて、各第2供給路3hは各排油溝3dとは異なる位置に開口している。これにより、各第2供給路3hは、各排油溝3dと非連通となっている。また、各第2供給路3hは、リヤサイドプレート3において、第1供給路3gとは異なる位置に形成されている。
【0060】
第1吐出路3iは、リヤサイドプレート3において、第2ボス3eよりも外周側となる個所に形成されている。第1吐出路3iは、リヤサイドプレート3の内部を傾斜しつつ延びており、リヤサイドプレート3を前後に貫通している。第1吐出路3iは、第1吐出弁室10a及び第2吐出弁室10bにそれぞれ対応するように、リヤサイドプレート3に対して2つ形成されている。なお、
図1では、2つの第1吐出路3iのうちの一方のみを図示している。
【0061】
さらに、
図5に示すように、リヤサイドプレート3には、第1圧入部71と、第2圧入部72と、4つのボルト孔301が形成されている。第1圧入部71及び第2圧入部72は、本発明における「圧入部」の一例である。
【0062】
第1圧入部71及び第2圧入部72は、それぞれリヤサイドプレート3の外周面3cに一体に形成されている。より具体的には、第1圧入部71及び第2圧入部72は、外周面3cにおいて、第3保持溝23よりも後方に形成されている(
図8参照)。また、
図5に示すように、第1圧入部71と第2圧入部72とは、外周面3cにおいて、駆動軸心Oを挟んで対向するように配置されている。
【0063】
図6に示すように、第1圧入部71は、外周面3cからリヤサイドプレート3の径方向の外側に向かって突出しつつ、外周面3cの周方向、つまり駆動軸8の周方向に円弧状に延びている。
図5に示す第2圧入部72は、第1圧入部71と同様の形状であり、外周面3cからリヤサイドプレート3の径方向の外側に向かって突出しつつ、駆動軸8の周方向に円弧状に延びている。
【0064】
こうして、リヤサイドプレート3において、第1圧入部71及び第2圧入部72が形成されている個所は、第1圧入部71及び第2圧入部72が形成されていない個所に比べて、第1圧入部71及び第2圧入部72が突出する分だけ大径となっている。つまり、リヤサイドプレート3において、第1圧入部71及び第2圧入部72が形成されている個所は、シリンダ部2bよりも大径となっている。なお、
図5~
図8では、説明を容易にするため、第1圧入部71及び第2圧入部72の形状を誇張して図示しているとともに、リヤサイドプレート3の形状を簡略化して図示している。
【0065】
また、
図5に示すように、第1圧入部71及び第2圧入部72は、円弧状に延びる形状であるため、第1圧入部71と第2圧入部72とは互いに接続しておらず、駆動軸8の周方向に離隔している。さらに、第1圧入部71及び第2圧入部72は、いずれも外周面3cを駆動軸8の周方向に一周していない。
【0066】
各ボルト孔301は、駆動軸8の周方向に配置されており、リヤサイドプレート3を前後に貫通している。各ボルト孔301には、
図7に示すボルト302がそれぞれ挿通されるようになっている。なお、ボルト孔301の個数及び位置は、ボルト302の個数及び位置に応じて適宜設計可能である。
【0067】
図1に示すように、リヤサイドプレート3は、シリンダ部2bの後方に配置されている。そして、リヤサイドプレート3は、第2面3aをシリンダ部2bの後端に当接させた状態で、
図7に示す各ボルト302によって、シリンダ部2b、ひいてはフロントハウジング2に固定されている。つまり、リヤサイドプレート3は、シリンダ部2bに対して駆動軸心O方向で固定されている。ここで、このベーン型圧縮機では、シリンダ室7の変形を防止するため、圧入によるリヤサイドプレート3とシリンダ部2bとの固定は行わない。このため、圧入以外の方法であれば、各ボルト302に換えて、例えば連結ピン等によってリヤサイドプレート3とシリンダ部2bとを固定しても良い。
【0068】
そして、リヤサイドプレート3がシリンダ部2bに固定されることにより、シリンダ室7における後方側の開口は、リヤサイドプレート3、より具体的には、第2面3aによって閉鎖されている。こうして、シリンダ室7は、本体壁2a、シリンダ部2b及びリヤサイドプレート3によって、シリンダ部2bの外部から区画されている。
【0069】
また、リヤサイドプレート3がシリンダ部2bに固定されることにより、
図5に示すように、第1圧入部71及び第2圧入部72は、シリンダ室7の外周となる個所に位置している。より具体的には、第1圧入部71は、リヤサイドプレート3の外周面3cにおいて、第1遠隔領域α1の外周となる個所に位置している。そして、第2圧入部72は、リヤサイドプレート3の外周面3cにおいて、第2遠隔領域α2の外周となる個所に位置している。つまり、第1圧入部71は、第1遠隔領域α1の外周となる個所で円弧状に延びており、第2圧入部72は、第2遠隔領域α2の外周となる個所で円弧状に延びている。ここで、第1圧入部71は、駆動軸8の周方向で第1遠隔領域α1の全体と重なっている。同様に、第2圧入部72は、駆動軸8の周方向で第2遠隔領域α2の全体と重なっている。換言すれば、このベーン型圧縮機では、第1、2圧入部71、72がそれぞれ駆動軸8の周方向で第1、2遠隔領域α1、α2の全体と重なるように、外周面3cにおける第1、2圧入部71、71の位置と、第1、2圧入部71、71の周方向の長さとが設計されている。なお、第1、2圧入部71、72は、それぞれ駆動軸8の周方向で第1、2遠隔領域α1、α2の一部と重なる形状であっても良い。
【0070】
また、このように第1圧入部71及び第2圧入部72は円弧状に延びているものの、第1圧入部71及び第2圧入部72は、リヤサイドプレート3の外周面3cにおいて第1近接領域β1や第2近接領域β2の外周となる個所には延びていない。つまり、第1圧入部71及び第2圧入部72は、外周面3cにおいて第1近接領域β1や第2近接領域β2の外周となる個所には存在していない。このように、このベーン型圧縮機では、第1圧入部71及び第2圧入部72は、リヤサイドプレート3がシリンダ部2bに固定された際に、外周面3cにおいて、第1近接領域β1や第2近接領域β2の外周となる個所は避けて形成されている。
【0071】
さらに、リヤサイドプレート3がシリンダ部2bに固定されることにより、第1吐出路3iの一方が第1吐出弁室10aに連通するとともに、第1吐出路3iの他方が第2吐出弁室10bに連通する。
【0072】
図1に示すように、ブロック4は、リヤサイドプレート3の後方に配置されている。ブロック4には、嵌合溝4aと、油分離室4bと、第2吐出路4cと 連絡孔4dとが形成されている。なお、
図5及び
図7では、説明を容易にするため、ブロック4の形状を簡略化して図示している。
【0073】
図1に示すように、嵌合溝4aは、ブロック4の中央に位置しており、ブロック4の前端面から後方に向かって凹設されている。嵌合溝4aには、リヤサイドプレート3の第2ボス3eが嵌合している。これにより、ブロック4は、一部をリヤサイドプレート3の第3面3bに当接させた状態で、リヤサイドプレート3に固定されている。ここで、嵌合溝4aの深さは、第2ボス3eが突出する長さに比べて深く形成されている。これにより、嵌合溝4aに第2ボス3eが嵌合した状態で、嵌合溝4aの底面と第2ボス3eの後端面とは前後方向に離隔している。こうして、嵌合溝4a内と第2ボス3eとの間、すなわち、第3面3bとブロック4との間に供給室6が形成されている。供給室6は、第2支承孔3f、第1供給路3g及び各第2供給路3hと連通している。
【0074】
油分離室4bは、嵌合溝4aよりも後方に位置しており、ブロック4の内部を径方向に円柱状に延びている。油分離室4bの上端は、ブロック4の上端面に開口している。これにより、油分離室4bは、後述する吐出室20内に連通している。油分離室4b内には、円筒状に形成された分離筒41が圧入されている。分離筒41の上端は吐出室20内に連通している。また、油分離室4bには、分離筒41の下部と対面する円筒状の案内面42が形成されている。案内面42と分離筒41と第2吐出路4cとによって、油分離機構40が構成されている。
【0075】
第2吐出路4cは、ブロック4の内部を傾斜しつつ延びており、後端が案内面42に開口している。ここで、第2吐出路4cは、第1吐出路3iにそれぞれ対応するように、ブロック4に対して2つ形成されている。なお、
図1では、2つの第2吐出路4cのうちの一方のみを図示している。
【0076】
第2吐出路4cは、ブロック4がリヤサイドプレート3に固定されることにより、前端で第1吐出路3iと連通している。こうして、第1吐出路3i及び第2吐出路4cを通じて、第1吐出弁室10a及び第2吐出弁室10bは、油分離室4bと連通している。また、第1吐出弁室10a及び第2吐出弁室10bは、油分離室4bを通じて吐出室20と連通している。
【0077】
連絡孔4dは、駆動軸心O方向に延びており、油分離室4bの下端と吐出室20とに連通している。
【0078】
シェル5は、底壁5aと周壁5bとを有している。底壁5aはシェル5の後端に位置しており、径方向に延びている。周壁5bは、底壁5aと一体をなしており、底壁5aから駆動軸心O方向で前方に向かって筒状に延びている。これらの底壁5a及び周壁5bにより、シェル5は、有底の筒状をなしている。ここで、周壁5bの内径、すなわちシェル5の内径は、シリンダ部2bの外径の他、及びリヤサイドプレート3において、第1、2圧入部71、72が形成されていない個所の外径とほぼ同径となっている。つまり、周壁5bの内径は、リヤサイドプレート3において、第1、2圧入部71、72が形成されている個所の外径に比べて僅かに小径となっている。
【0079】
周壁5bには、流入口5cと、流出口5dとが形成されている。流入口5cは周壁5bの前方に位置している。流入口5cは配管を通じて蒸発器と接続している。流出口5dは周壁5bの後方に位置している。流出口5dは配管を通じて凝縮器と接続している。なお、配管、蒸発器及び凝縮器の図示は省略する。
【0080】
シェル5は、内部に本体壁2aの一部と、シリンダ部2bと、リヤサイドプレート3と、ブロック4とを収容している。ここで、周壁5bの内径は、リヤサイドプレート3において、第1、2圧入部71、72が形成されている個所の外径に比べて僅かに小径となっている。このため、シェル5の内部にリヤサイドプレート3が収容されることにより、第1圧入部71及び第2圧入部72は、周壁5bの内周に圧入される。このため、
図8に示すように、第1圧入部71は周壁5bと当接する。同様に、第2圧入部72も周壁5bと当接する。こうして、第1圧入部71及び第2圧入部72は、シェル5の内部にリヤサイドプレート3を収容した状態で、周壁5bにリヤサイドプレート3を固定している。より具体的には、第1圧入部71は、第1遠隔領域α1の外周となる個所で周壁5bにリヤサイドプレート3を固定している。そして、第2圧入部72は、第2遠隔領域α2の外周となる個所で周壁5bにリヤサイドプレート3を固定している。
【0081】
上述のように、リヤサイドプレート3は各ボルト302によってシリンダ部2bに固定されている。このため、第1圧入部71及び第2圧入部72によって、周壁5bにリヤサイドプレート3が固定されることにより、シリンダ部2bは、シェル5の内部に収容された状態において、リヤサイドプレート3を通じてシェル5の周壁5bに固定されている。ここで、周壁5bの内径とシリンダ部2bの外径とがほぼ同径、より厳密には、周壁5bの内径に比べてシリンダ部2bの外径は僅かに小径である。このため、シェル5の内部にシリンダ部2bが収容されても、シリンダ部2bは周壁5bに圧入される関係にはない。つまり、シリンダ部2bは周壁5bに対して直接固定されることはない。
【0082】
こうして、シェル5の内部に本体壁2aの一部と、シリンダ部2bと、リヤサイドプレート3と、ブロック4とが収容されることにより、
図1に示すように、吸入室9が流入口5cと連通している。これにより、吸入室9には、蒸発器を経た低圧の冷媒ガスがハウジング1の外部から流入口5cを通じて吸入される。冷媒ガスは、本発明における「流体」の一例である。
【0083】
また、シェル5の内部に本体壁2aの一部と、シリンダ部2bと、リヤサイドプレート3と、ブロック4とが収容されることにより、ハウジング1内において、シェル5の底壁5aと、リヤサイドプレート3との間に吐出室20が形成されている。吐出室20は流出口5dと連通している。また、吐出室20内にブロック4が配置されている。これにより、吐出室20内の冷媒ガス、より具体的には、油分離機構40を経た冷媒ガスは、流出口5dからハウジング1の外部、具体的には凝縮器に向けて吐出される。さらに、吐出室20は、リヤサイドプレート3の第1供給路3gと連通している。これにより、第1供給路3gは、吐出室20と供給室6とを連通させている。
【0084】
さらに、シェル5の内部に本体壁2aの一部と、シリンダ部2bと、リヤサイドプレート3と、ブロック4とが収容されることにより、シェル5内では、第1封止部材61、第2封止部材62及び第3封止部材63がそれぞれ弾性変形する。具体的には、第1封止部材61は、シェル5の周壁5bと本体壁2aとの間で弾性変形する。また、第2封止部材62は、周壁5bとシリンダ部2bとの間で弾性変形する。そして、第3封止部材63は、周壁5bとリヤサイドプレート3の外周面3cとの間で弾性変形する。
【0085】
こうして、第1封止部材61は、周壁5bと本体壁2aとの間を封止する。また、第2封止部材62は、周壁5bとシリンダ部2bとの間を封止する。こうして、第1封止部材61及び第2封止部材62は、吸入室9と周壁5bとの間を封止する。また、第2封止部材62は、吸入室9と吐出室20との間についても封止する。そして、第3封止部材63は、周壁5bとリヤサイドプレート3の外周面3cとの間を封止する。
【0086】
ここで、
図8に示すように、外周面3cにおいて第1圧入部71又は第2圧入部72が形成された箇所では、第1圧入部71及び第2圧入部72が周壁5bと当接する。このため、外周面3cにおいて第1圧入部71又は第2圧入部72が形成された箇所では、第3封止部材63に加えて、第1圧入部71及び第2圧入部72によっても周壁5bと外周面3cとの間が封止される。一方、外周面3cにおいて第1圧入部71又は第2圧入部72が形成されていない箇所では、
図9に示すように、第3封止部材63のみによって、周壁5bとリヤサイドプレート3の外周面3cとの間が封止される。こうして、第3封止部材63は、第2封止部材62とともに吸入室9と吐出室20との間を封止する。
【0087】
図1に示すように、駆動軸8は、駆動軸心O方向で前後に延びる円柱状をなしている。駆動軸8は、前端側に位置する前端部位8aと、後端側に位置する後端部位8bと、前端部位8aと後端部位8bとの間に位置する中央部位8cとを有している。前端部位8aは、後端部位8b及び中央部位8cに比べて大径に形成されている。後端部位8bと中央部位8cとは、ほぼ同径に形成されている。より詳細には、後端部位8bの方が中央部位8cに比べて僅かに小径に形成されている。
【0088】
駆動軸8は、前端部位8aが軸封装置11に挿通されつつ、第1支承孔2eに支承されている。また、中央部位8cがシリンダ室7内に位置している。そして、後端部位8bが第2支承孔3fに支承されている。こうして、駆動軸8はハウジング1に対して支承されており、駆動軸心O周りで回転可能となっている。また、軸封装置11は、前端部位8aを挿通しつつ、ハウジング1の内部と外部との間を封止している。また、後端部位8bが第2支承孔3fに支承されることにより、後端部位8b、ひいては駆動軸8は第2支承孔3fと供給室6とを区画している。なお、第1支承孔2eと前端部位8aとの間と、第2支承孔3fと後端部位8bとの間とにそれぞれ軸受を設ける構成としても良い。
【0089】
図1~
図4に示すように、ロータ15は、シリンダ室7内に配置されている。ロータ15は、駆動軸8の中央部位8cに圧入されており、駆動軸8と一体化されている。これにより、ロータ15は、シリンダ室7内において、駆動軸8と同期しつつ駆動軸心O周りに回転可能となっている。より具体的には、
図2~
図4に示すように、ロータ15は、駆動軸8が回転することにより、シリンダ室7内において、回転方向R1に回転する。
【0090】
ロータ15は、駆動軸心Oに直交する断面が円形状である柱状をなしている。ロータ15には、第1~5ベーン溝15a~15eが形成されている。第1~5ベーン溝15a~15eは、本発明における「ベーン溝」の一例である。第1~5ベーン溝15a~15e同士は、ロータ15の周方向に等間隔で配置されている。
【0091】
図2及び
図4に示すように、第1ベーン溝15aは、第1本体部151aと第1先端部152aとを有している。第2ベーン溝15bは、第2本体部151bと第2先端部152bとを有している。第3ベーン溝15cは、第3本体部151cと第3先端部152cとを有している。第4ベーン溝15dは、第4本体部151dと第4先端部152dとを有している。第5ベーン溝15eは、第5本体部151eと第5先端部152eとを有している。
【0092】
第1~5本体部151a~151eは、それぞれ同様の構成である。また、第1~5先端部152a~152eは、それぞれ同様の構成である。以下、第1本体部151a及び第1先端部152aを基に構成を説明する。
【0093】
第1本体部151aは断面形状が丸形状をなしており、ロータ15を駆動軸心O方向に貫通している。第1先端部152aは断面形状が矩形状をなしており、第1本体部151aと同様にロータ15を駆動軸心O方向に貫通している。第1先端部152aは第1本体部151aと連通しており、第1本体部151aからロータ15の外周面に向かって直線状に延びている。そして、第1先端部152aは、ロータ15の外周面に開口している。こうして、第1~5ベーン溝15a~15eは、それぞれロータ15を駆動軸心O方向に貫通する形状をなしている。
【0094】
第1~5本体部151a~151eは、ロータ15が駆動軸心O周りで回転することにより、各第2供給路3hと間欠的に連通する。こうして、各第2供給路3hを通じて、供給室6と第1~5本体部151a~151e、ひいては、供給室6と第1~4ベーン溝15a~15dとが間欠的に連通する。また、ロータ15が駆動軸心O周りで回転することにより、第1~5本体部151a~151eは各排油溝3dと順次対向する。
【0095】
第1~5ベーン17a~17eは、それぞれ矩形の板状に形成されている。第1~5ベーン17a~17eは、それぞれ第1~5ベーン溝15a~15eに出没可能に収容されている。これにより、第1~5ベーン溝15a~15e内において、第1~5ベーン17a~17eとの間は、第1~5背圧室18a~18eとされている。第1~5背圧室18a~18eは、第1面2c及び第2面3a、ひいてはフロントハウジング2及びリヤサイドプレート3によってシリンダ室7から区画されている。また、第1~5背圧室18a~18eは、第1~5本体部151a~151eが各第2供給路3hと間欠的に連通することにより、供給室6と間欠的に連通する。
【0096】
このベーン型圧縮機では、駆動軸8の周方向で隣り合う第1~5ベーン17a~17eと、ロータ15の外周面と、シリンダ室7の内周面と、第1面2cと、第2面3aとよって、シリンダ室7内に圧縮室19が区画されている。つまり、このベーン型圧縮機では、シリンダ室7内に5つの圧縮室19が区画されている。そして、吸入行程にある圧縮室19と吸入室9とは、第1吸入孔91又は第2吸入孔92によって連通するようになっている。一方、吐出行程にある圧縮室19と第1吐出弁室10aとは、第1吐出孔101によって連通するようになっている。また、吐出行程にある圧縮室19と第2吐出弁室10bとは、第2吐出孔102によって連通するようになっている。
【0097】
ここで、シリンダ室7に仮想された第1遠隔線L1及び第2遠隔線L2では、第1~5ベーン17a~17eの突出方向でシリンダ室7の内壁70と駆動軸心Oとが最も離隔する。一方、第1近接線L3及び第2近接線L4では、第1~5ベーン17a~17eの突出方向でシリンダ室7の内壁70と駆動軸心Oとが最も接近する。このため、第1~5ベーン17a~17eが第1~5ベーン溝15a~15eに出没可能に収容され、かつ、ロータ15がシリンダ室7内に配置されることにより、シリンダ室7において、第1遠隔線L1及び第2遠隔線L2は、第1~5ベーン17a~17eの突出方向において、ロータ15の外周面から最も離隔する。反対に、シリンダ室7において、第1近接線L3及び第2近接線L4は、第1~5ベーン17a~17eの突出方向において、ロータ15の外周面に最も接近する。
【0098】
また、第1遠隔領域α1には第1遠隔線L1が含まれており、第2遠隔領域α2には第2遠隔線L2が含まれている。このため、第1近接領域β1及び第2近接領域β2に比べて、第1遠隔領域α1及び第2遠隔領域α2は、第1~5ベーン17a~17eの突出方向において、ロータ15の外周面から離隔している。そして、各圧縮室19では、第1遠隔領域α1や第2遠隔領域α2において、冷媒ガスの圧縮が行われる。より詳細には、各圧縮室19において、第1遠隔領域α1から第1近接領域β1に向かう過程や、第2遠隔領域α2から第2近接領域β2に向かう過程が冷媒ガスの圧縮を行う圧縮行程となる。
【0099】
一方、第1近接領域β1は、第1吐出孔101及び第2吸入孔92の一部と重なる関係にある。同様に、第2近接領域β2は、第2吐出孔102及び第1吸入孔91の一部と重なる関係にある。このため、各圧縮室19では、第1近接領域β1及び第2近接領域β2において、冷媒ガスの圧縮は行われない。
【0100】
図1に示すように、背圧供給機構50は、第1供給路3gと、供給室6と、各第2供給路3hとによって構成されている。これにより、背圧供給機構50は、ハウジング1内において、吐出室20と第1~5背圧室18a~18eとの間に位置している。
【0101】
以上のように構成されたこのベーン型圧縮機では、エンジン等によって駆動軸8が駆動されると、ロータ15が駆動軸8と同期回転する。これにより、各圧縮室19は容積を変化させつつ、吸入行程、圧縮行程及び吐出行程を行う。このため、蒸発器を経た低圧の冷媒ガスは、流入口5cから吸入室9に吸入され、第1、2吸入孔91、92を経て、吸入行程にある圧縮室19に吸入される。そして、冷媒ガスは、圧縮行程で圧縮されて高圧となり、さらに吐出行程で圧縮室19から第1、2吐出孔101、102を経て第1、2吐出弁室10a、10bに吐出される。こうして、高圧の冷媒ガスは、第1吐出路3i及び第2吐出路4cを流通し、油分離機構40において内部に含まれる潤滑油が遠心分離される。このように油分離機構40で分離された潤滑油は、油分離室4b内から連絡孔4dを経て吐出室20内に貯留される。一方、潤滑油が分離された高圧の冷媒ガスは流出口5dから凝縮器に向けて吐出される。
【0102】
この間、このベーン型圧縮機では、背圧供給機構50が吐出室20内に貯留された高圧の潤滑油を第1~5背圧室18a~18eに供給する。具体的には、背圧供給機構50において、第1供給路3gは、吐出室20内に貯留された潤滑油を供給室6に向けて流通させる。ここで、供給室6は、各第2供給路3hと連通しているため、供給室6内に流入した潤滑油は、各第2供給路3h内にも至ることになる。また、供給室6内の潤滑油は、第2支承孔3f内にも流入する。このため、潤滑油によって第2支承孔3fと駆動軸8の後端部位8bとの間が潤滑される。
【0103】
そして、各第2供給路3h内に至った潤滑油は、駆動軸心O周りに回転する駆動軸8の位相によって、各第2供給路3hと、第1~5本体部151a~151eとが対向して連通することにより、第1~5背圧室18a~18eに供給される。こうして、このベーン型圧縮機では、第1~5背圧室18a~18eに供給された潤滑油によって、第1~5ベーン17a~17eが好適にシリンダ室7の内面に押し付けられるとともに、第1~5ベーン17a~17eが第1~5ベーン溝15a~15e内で潤滑される。
【0104】
第1~5背圧室18a~18eに供給された潤滑油は、駆動軸8の回転によって第1~5本体部151a~151eが各排油溝3dに対向した際に、各排油溝3d内に排出される。なお、各排油溝3d内に排出された潤滑油は、ロータ15とリヤサイドプレート3との隙間と流通して摺動部分を潤滑した後、シリンダ室7内や吐出室20内に還流される。
【0105】
このベーン型圧縮機では、リヤサイドプレート3がシリンダ部2b、ひいてはフロントハウジング2と別体に形成されており、リヤサイドプレート3とシリンダ部2bとは各ボルト302によって固定されている。また、リヤサイドプレート3の外周面3cに第1圧入部71及び第2圧入部72が形成されており、これらの第1圧入部71及び第2圧入部72がシェル5の周壁5b内周に圧入されることにより、リヤサイドプレート3が周壁5bに固定されている。こうして、このベーン型圧縮機では、シリンダ部2bは周壁5b、ひいてはシェル5とは直接固定されておらず、シリンダ部2bは、リヤサイドプレート3を通じてシェル5に固定されている。
【0106】
ここで、リヤサイドプレート3には、第1、2圧入部71、72を周壁5b内周に圧入することに起因する大きな荷重が第1、2圧入部71、72を通じてシェル5から作用する。この点、このベーン型圧縮機では、リヤサイドプレート3とシリンダ部2bとが別体であるため、たとえ第1、2圧入部71、72を通じてリヤサイドプレート3にシェル5から大きな荷重が作用しても、シリンダ部2bを含め、フロントハウジング2は、リヤサイドプレート3に作用する荷重の影響を受け難くなっている。この結果、このベーン型圧縮機では、シェル5からの荷重によって、シリンダ室7が変形し難くなっている。
【0107】
また、このベーン型圧縮機では、第1、2圧入部71、72が駆動軸8の周方向に円弧状に延びている。このため、第1、2圧入部71、72が単純な突起形状をなしている場合に比べて、このベーン型圧縮機では、第1、2圧入部71、72を周壁5bに圧入した際の第1、2圧入部71、72と周壁5bの内周との接触面積を大きく確保することができる。これにより、このベーン型圧縮機では、リヤサイドプレート3を周壁5b、ひいてはシェル5に強固に固定することが可能となっている。
【0108】
ここで、シリンダ室7において、第1、2近接線L3、L4を含め、第1近接領域β1や第2近接領域β2では、第1~5ベーン17a~17eの突出方向において、シリンダ室7の内壁70とロータ15の外周面とが接近することになる。
【0109】
この点、このベーン型圧縮機では、第1圧入部71及び第2圧入部72は、リヤサイドプレート3がシリンダ部2bに固定された際に、外周面3cにおいて、第1近接領域β1や第2近接領域β2の外周となる個所は避けて形成されている。つまり、第1圧入部71及び第2圧入部72は、外周面3cにおいて第1近接領域β1や第2近接領域β2の外周となる個所には存在していない。
【0110】
このため、このベーン型圧縮機では、第1、2圧入部71、72を圧入することによるシェル5からの荷重が第1近接領域β1や第2近接領域β2に伝達することを好適に防止できる。このため、シリンダ室7において、第1近接領域β1や第2近接領域β2での変形を好適に防止できる。このため、このベーン型圧縮機では、第1近接領域β1及び第2近接領域β2において、ロータ15の外周面や第1~5ベーン17a~17eと、シリンダ室7の内壁70との摩擦を可及的に小さくできる。
【0111】
したがって、実施例のベーン型圧縮機によれば、作動時の動力損失を低減できる。
【0112】
特に、このベーン型圧縮機では、第1圧入部71は、リヤサイドプレート3の外周面3cにおいて、第1遠隔領域α1の外周となる個所に位置しており、第2圧入部72は、外周面3cにおいて、第2遠隔領域α2の外周となる個所に位置している。このため、第1圧入部71は、第1遠隔領域α1の外周となる個所でリヤサイドプレート3を周壁5bに固定し、第2圧入部72は、第2遠隔領域α2の外周となる個所でリヤサイドプレート3を周壁5bに固定する。
【0113】
これにより、このベーン型圧縮機では、第1遠隔領域α1及び第2遠隔領域α2において、冷媒ガスの圧縮荷重が大きくなっても、第1、2圧入部71、72を通じて周壁5bに強固に固定されたリヤサイドプレート3は、シリンダ部2bを好適に支持することができる。このため、このベーン型圧縮機では、第1、2圧入部71、72を圧入することによるシェル5からの荷重でシリンダ室7が変形することを防止しつつ、作動時におけるシリンダ部2b、ひいてはフロントハウジング2の振動も防止している。
【0114】
また、このベーン型圧縮機では、リヤサイドプレート3の外周面3cにおいて、第1圧入部71及び第2圧入部72は、第1近接領域β1や第2近接領域β2の外周となる個所には存在していない。このため、このベーン型圧縮機では、第1圧入部71や第2圧入部72が外周面3cを駆動軸8の周方向に一周するように形成されている場合に比べて、第1圧入部71及び第2圧入部72を周壁5bに圧入するに際して過大な荷重を付加する必要がない。これにより、このベーン型圧縮機では、第1、2圧入部71、72と周壁5bの内周との接触面積を確保しつつも、シェル5に対するリヤサイドプレート3の組付け性を高くすることが可能となっている。なお、外周面3cにおいて第1圧入部71及び第2圧入部72が形成されていない個所においても、第3封止部材63によって、周壁5bと外周面3cとの間が封止されるため、吐出室20の気密性は確保されている。
【0115】
ここで、このベーン型圧縮機では、リヤサイドプレート3の外周面3cと周壁5bの内周との間に第3封止部材63が存在しており、この第3封止部材63は、外周面3cと周壁5bの内周との間で弾性変形する。しかし、上記のように、このベーン型圧縮機では、外周面3cに第1圧入部71及び第2圧入部72が形成されており、これらの第1圧入部71及び第2圧入部72によって、リヤサイドプレート3が周壁5b、ひいてはシェル5に固定されている。そして、第1圧入部71及び第2圧入部72はそれぞれ外周面3cの周方向に円弧状に延びているため、第1圧入部71及び第2圧入部72と周壁5bの内周との接触面積が大きくなっている。これらにより、このベーン型圧縮機では、外周面3cと周壁5bの内周との間に第3封止部材63が存在していても、作動時におけるリヤサイドプレート3の振動を抑制できる。
【0116】
以上において、本発明を実施例に即して説明したが、本発明は上記実施例に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0117】
例えば、実施例のベーン型圧縮機において、シリンダ室7の第1直径X1と第2直径X2とを等しい長さに形成し、シリンダ室7の中心と、駆動軸心Oとをずらして配置する構成としても良い。
【0118】
また、リヤサイドプレート3の外周面3cに対する第2圧入部72の形成を省略しても良く、第1圧入部71及び第2圧入部72に加えて圧入部を形成しても良い。
【0119】
さらに、第1圧入部71を駆動軸8の周方向に一周する形状に形成することにより、リヤサイドプレート3の外周面3cに対する第2圧入部72の形成を省略しても良い。
【0120】
また、実施例のベーン型圧縮機では、フロントハウジング2において、本体壁2aとシリンダ部2bとを一体に形成している。しかし、これに限らず、本体壁2aとシリンダ部2bとを別体、すなわち、本発明における「第1区画壁」と「シリンダブロック」とを別体に形成しても良い。
【0121】
さらに、実施例のベーン型圧縮機では、リヤサイドプレート3の外周面3cに第3保持溝23が凹設され、第3保持溝23には第3封止部材63が設けられている。しかし、これに限らず、第3保持溝23と第3封止部材63とを省略しても良い。
【0122】
また、実施例のベーン型圧縮機において、第1吐出孔101及び第2吐出孔102が第1、2吸入孔91、92よりも後方に位置している。しかし、これに限らず、第1吐出孔101及び第2吐出孔102は、第1、2吸入孔91、92よりも前方に位置して良く、また、第1吐出孔101及び第2吐出孔102と、第1、2吸入孔91、92とが駆動軸心O方向で重なるように配置されていても良い。
【0123】
さらに、実施例のベーン型圧縮機では、本発明における流体として冷媒ガスを挙げているが、これに限らず、流体は、二酸化炭素の他、燃料電池へ圧送するための空気や水素等であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明は車両の空調装置等に利用可能である。
【符号の説明】
【0125】
1…ハウジング
2…フロントハウジング
2a…本体壁(第1区画壁)
2b…シリンダ部(シリンダブロック)
3…リヤサイドプレート(第2区画壁)
3c…外周面
5…シェル
7…シリンダ室
8…駆動軸
15…ロータ
15a~15e…第1~5ベーン溝(ベーン溝)
17a~17e…第1~5ベーン(ベーン)
19…圧縮室
23…第2保持溝(溝)
63…第3封止部材(封止部材)
71…第1圧入部(圧入部)
72…第2圧入部(圧入部)
91…第1吸入孔
92…第2吸入孔
101…第1吐出孔
102…第2吐出孔
L1…第1遠隔線(遠隔線)
L2…第2遠隔線(遠隔線)
L3…第1近接線(近接線)
L4…第2近接線(近接線)
O…駆動軸心
X1…第1直径
X2…第2直径
α1…第1遠隔領域(遠隔領域)
α2…第2遠隔領域(遠隔領域)
β1…第1近接領域(近接領域)
β2…第2近接領域(近接領域)