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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156729
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】におい検出装置及びにおい検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 5/02 20060101AFI20221006BHJP
   G01N 29/02 20060101ALI20221006BHJP
   H03H 9/17 20060101ALI20221006BHJP
   H03H 9/68 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
G01N5/02 A
G01N29/02 501
H03H9/17 F
H03H9/68
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060566
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】恩田 陽介
【テーマコード(参考)】
2G047
5J097
5J108
【Fターム(参考)】
2G047BA04
2G047EA10
5J097AA25
5J097DD14
5J097GG03
5J097GG04
5J097KK08
5J108AA09
5J108BB08
5J108CC11
5J108EE03
5J108EE07
(57)【要約】
【課題】リアルタイム性に優れ、高精度ににおい成分を検出することが可能なにおい検出装置及びにおい検出方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係るにおい検出装置は、第1の検出素子と、第2の検出素子と、演算部とを具備する。上記第1の検出素子は、弾性波共振器である第1の振動子と、前記第1の振動子上に形成された第1の感応膜とを備える。上記第2の検出素子は、弾性波共振器である第2の振動子を備える。上記演算部は、上記第1の検出素子から出力された上記第1の振動子の共振周波数の変動量から上記第2の検出素子から出力された上記第2の振動子の共振周波数の変動量を減じることにより家記第1の振動子の共振周波数の変動量を補正する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性波共振器である第1の振動子と、前記第1の振動子上に形成された第1の感応膜とを備える第1の検出素子と、
弾性波共振器である第2の振動子を備える第2の検出素子と、
前記第1の検出素子から出力された前記第1の振動子の共振周波数の変動量から前記第2の検出素子から出力された前記第2の振動子の共振周波数の変動量を減じることにより前記第1の振動子の共振周波数の変動量を補正する演算部と
具備するにおい検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載のにおい検出装置であって、
弾性波共振器である第3の振動子と、前記第3の振動子上に形成された第2の感応膜とを備え、前記第3の振動子及び前記第2の感応膜が外気から遮蔽されている第3の検出素子
をさらに具備し、
前記演算部は、前記第1の振動子の共振周波数の変動量から前記第2の振動子の共振周波数の変動量と、前記第3の検出素子から出力された前記第3の振動子の共振周波数の変動量を減じることにより、前記補正を行う
【請求項3】
請求項1又は2に記載のにおい検出装置であって、
前記第2の振動子は、前記第1の振動子と同等の特性を有する
におい検出装置。
【請求項4】
請求項3に記載のにおい検出装置であって、
前記第3の振動子は、前記第1の振動子と同等の特性を有し、前記第2の感応膜は前記第1の感応膜と同等の特性を有する
におい検出装置。
【請求項5】
請求項1から4のうちいずれか1項に記載のにおい検出装置であって、
前記弾性波共振器はFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)である
におい検出装置。
【請求項6】
請求項1から4のうちいずれか1項に記載のにおい検出装置であって、
前記弾性波共振器はSAW(Surface Acoustic Wave)共振器である
におい検出装置。
【請求項7】
弾性波共振器である第1の振動子と、前記第1の振動子上に形成された第1の感応膜とを備える第1の検出素子から出力された前記第1の振動子の共振周波数の変動量から、弾性波共振器である第2の振動子を備える第2の検出素子から出力された前記第2の振動子の共振周波数の変動量を減じることにより前記第1の振動子の共振周波数の変動量を補正する
におい検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、におい成分を検出するにおい検出装置及びにおい検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、所定の共振周波数で振動する振動子と、気体中のにおい成分が吸着する感応膜を備えるにおいセンサが知られている。このにおいセンサでは、振動子を所定の共振周波数で振動させ、におい成分の吸着による共振周波数の変動を観測することでにおい成分を検出することができる。振動子は、QCM(Quartz Crystal Microbalance)、SAW(Surface acoustic wave)共振器、FBAR(Film bulk acoustic resonator)といった圧電共振器によって構成される。
【0003】
ここで、においセンサが検出対象とする気体が湿度を含む場合、振動子の共振周波数が湿度によって変動するおそれがある。また、においセンサの温度によっても振動子の共振周波数が変動するおそれがある。このため、におい成分を正確に検出するためには湿度及び温度による共振周波数の変動を除外する補正が必要となる。
【0004】
例えば、特許文献1には、QCMの電極腐食性を利用した湿度の補正方法について開示されている。また、特許文献2にはQCMを湿度参照素子及び温度参照素子とし、これらの参照素子を用いて補正係数を算出し、その補正係数を利用して補正を行う方法について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-145608号公報
【特許文献2】特開2018-48930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、一定時間の共振周波数の変化量を求め、その間の電極腐食量に基づいて、共振周波数の変化量を補正するものであり、におい成分の補正をリアルタイムに行うものではない。毒ガス検知や火災検知等の用途においては、高いリアルタイム性が必要とされる。また、特許文献2に記載の方法は、線形補正を前提としているため、共振周波数の温湿度依存性が線形から逸脱するような広い温湿度範囲では使用することができない。
【0007】
さらに、温湿度センサにより温度及び湿度を検出し、それによって温度及び湿度による影響を補正する方法もあるが、センサや制御回路が別途必要になる。また、この方法では、複雑な演算も必要であるためリアルタイム性も低い。
【0008】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、リアルタイム性に優れ、高精度ににおい成分を検出することが可能なにおい検出装置及びにおい検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るにおい検出装置は、第1の検出素子と、第2の検出素子と、演算部とを具備する。
上記第1の検出素子は、弾性波共振器である第1の振動子と、上記第1の振動子上に形成された第1の感応膜とを備える。
上記第2の検出素子は、弾性波共振器である第2の振動子を備える。
上記演算部は、上記第1の検出素子から出力された上記第1の振動子の共振周波数の変動量から上記第2の検出素子から出力された上記第2の振動子の共振周波数の変動量を減じることにより上記第1の振動子の共振周波数の変動量を補正する。
【0010】
上記におい検出装置は、弾性波共振器である第3の振動子と、上記第3の振動子上に形成された第2の感応膜とを備え、上記第3の振動子及び上記第2の感応膜が外気から遮蔽されている第3の検出素子をさらに具備し、
上記演算部は、上記第1の振動子の共振周波数の変動量から上記第2の振動子の共振周波数の変動量と、上記第3の検出素子から出力された上記第3の振動子の共振周波数の変動量を減じることにより、上記補正を行ってもよい。
【0011】
上記第2の振動子は、上記第1の振動子と同等の特性を有してもよい。
【0012】
上記第3の振動子は、上記第1の振動子と同等の特性を有し、上記第2の感応膜は上記第1の感応膜と同等の特性を有してもよい。
【0013】
上記弾性波共振器はFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)であってもよい。
【0014】
上記弾性波共振器はSAW(Surface Acoustic Wave)共振器であってもよい。
【0015】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るにおい検出方法は、弾性波共振器である第1の振動子と、上記第1の振動子上に形成された第1の感応膜とを備える第1の検出素子から出力された上記第1の振動子の共振周波数の変動量から、弾性波共振器である第2の振動子を備える第2の検出素子から出力された上記第2の振動子の共振周波数の変動量を減じることにより上記第1の振動子の共振周波数の変動量を補正する。
【発明の効果】
【0016】
以上のように本発明によれば、リアルタイム性に優れ、高精度ににおい成分を検出することが可能なにおい検出装置及びにおい検出方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係るにおい検出装置のブロック図である。
図2】上記におい検出装置が備える第1検出素子(FBAR)の模式図である。
図3】上記におい検出装置が備える第2検出素子(FBAR)の模式図である。
図4】上記におい検出装置が備える第3検出素子(FBAR)の模式図である。
図5】上記におい検出装置の実装構造1を示す模式図である。
図6】上記におい検出装置の実装構造2を示す模式図である。
図7】上記第2の実装構造における第1検出素子の断面図である。
図8】上記第2の実装構造における第3検出素子の断面図である。
図9】上記におい検出装置が備える第1検出素子(SAW共振器)の模式図である。
図10】上記におい検出装置が備える第2検出素子(SAW共振器)の模式図である。
図11】上記におい検出装置が備える第3検出素子(SAW共振器)の模式図である。
図12】本発明の変形例1に係るにおい検出装置のブロック図である。
図13】本発明の変形例2に係るにおい検出装置のブロック図である。
図14】本発明の実施例1に係る測定結果のグラフである。
図15】本発明の実施例2に係る測定結果のグラフである。
図16図15の一部を拡大したグラフである。
図17】本発明の実施例3に係る測定結果のグラフである。
図18】本発明の実施例3に係る測定結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態に係るにおい検出装置について説明する。以下の各図において相互に
直交する3方向をそれぞれX方向、Y方向及びZ方向とする。
【0019】
[におい検出装置の構成]
図1は本実施形態に係るにおい検出装置100の構成を示すブロック図である。同図に示すようににおい検出装置100は、第1検出素子111、第1発振回路112,第2検出素子113、第2発振回路114、第3検出素子115、第3発振回路116、接続部117、演算部118及び通信部119を備える。
【0020】
第1検出素子111は、におい検出素子として機能する。図2(a)は第1検出素子111の断面図、図2(b)は第1検出素子111の感応膜132を描いた平面図である。同図に示すように第1検出素子111は第1振動子131及び第1感応膜132を備える。第1振動子131は、弾性波共振器であり、FBAR(Film bulk acoustic resonator)である。
【0021】
具体的には第1振動子131は、支持基板141、圧電膜142、下部電極143及び上部電極144を具備する。支持基板141は、例えば、シリコン(Si)基板やガリウム砒素(GaAs)基板等の半導体基板のほか、石英基板、ガラス基板、またはアルミナ基板などのセラミック基板を用いることができる。
【0022】
圧電膜142は圧電体からなる膜であり、例えば窒化アルミニウム(AlN)からなる。また、圧電膜142は酸化亜鉛(ZnO)等の他の圧電体であってもよい。圧電膜142の厚みは例えば500nmである。
【0023】
下部電極143は支持基板141上設けられ、第1振動子131の一方の電極として機能する。下部電極143はアルミニウム(Al)等の導電性材料からなり、厚さは例えば240nmである。上部電極144は圧電膜142上に設けられ、下部電極143と共に圧電膜142を挟み、第1振動子131の他方の電極として機能する。上部電極144はアルミニウム(Al)等の導電性材料からなり、厚さは例えば240nmである。上部電極144の表面にはSiO等からなる保護膜が設けられていてもよい。
【0024】
第1振動子131は、下部電極143と上部電極144が圧電膜142挟んで対向する共振領域Rを有する。共振領域Rにおいて、支持基板141と下部電極143の間には空隙Kが設けられる。共振領域Rは、下部電極143と上部電極144の間に共振周波数の交流電圧が入力されたときに、厚み縦振動モードで共振する領域である。共振領域Rの共振周波数は特に限定されず、例えば2.4GHzである。
【0025】
第1感応膜132は第1振動子131の共振領域R上に設けられ、所定のにおい成分を吸着する。第1感応膜132を構成する材料は、吸着対象のにおい成分の種類によって任意に選択でき、例えば、有機高分子膜、有機色素膜または無機膜等である。図1に示すようににおい検出装置100は複数の第1検出素子111を備え、例えば8個の第1検出素子111を備える。各第1検出素子111が備える第1感応膜132は異なるにおい成分を吸着可能なものとすることができ、各第1検出素子111の出力をチャンネル1~チャンネル8(以下、ch1~ch8)とする。なお、第1検出素子111の数は8個に限られず、1個以上であればよい。
【0026】
第1発振回路112は第1検出素子111に接続され、第1振動子131の下部電極143と上部電極144の間に交流電圧を印加し、第1振動子131を駆動する。この交流電圧により第1振動子131が所定の共振周波数で振動する。第1発振回路112は、第1振動子131の共振周波数を接続部117に出力する。第1発振回路112は共振周波数のカウント値をデジタル信号として接続部117に出力することができる。第1発振回路112は第1振動子131に交流電圧を供給できるものであればよく、例えばIC(Integrated Circuit)である。なお、1つの第1発振回路112で複数の第1振動子131を駆動してもよい。
【0027】
図3に於いて、第2検出素子113は、湿度補正用素子として機能する。図3は第2検出素子113の断面図である。第2検出素子113は第2振動子133を備える。第2振動子133は、弾性波共振器であり、例えばFBARである。第2振動子133は、第1振動子131と同等の特性が好適である。第2検出素子113は第1感応膜132を有しない第1検出素子111と同等の特性である。
【0028】
具体的には第2振動子133は、第1振動子131と同様に支持基板141、圧電膜142、下部電極143及び上部電極144を備え、共振領域Rを有する。図1に示すブロック図に示す様に、におい検出装置100は1つの第2検出素子113を備える。しかし、複数の第2検出素子113を備えてもよい。
【0029】
第2発振回路114は第2検出素子113に接続され、第2振動子133の下部電極143と上部電極144の間に交流電圧を印加し、第2振動子133を駆動する。この交流電圧により第2振動子133が所定の共振周波数で振動する。第2発振回路114は、第2振動子133の共振周波数を接続部117に出力する。第2発振回路114は共振周波数のカウント値をデジタル信号として接続部117に出力することができる。第2発振回路114は第2振動子133に交流電圧を供給できるものであればよく、例えば、ここではICである。なお、1つの第2発振回路114で複数の第2振動子133を駆動してもよい。
【0030】
第3検出素子115は、温度補正用素子として機能する。図4は第3検出素子115の断面図である。第3検出素子115は第3振動子134及び第2感応膜135を備える。第3振動子134は、弾性波共振器であり、FBARである。第3振動子134は、第1振動子131と同等の特性が好適である。具体的には第3振動子134は、第1振動子131と同様に支持基板141、圧電膜142、下部電極143及び上部電極144を備え、共振領域Rを有する。
【0031】
第2感応膜135は第3振動子134の共振領域R上に設けられ、所定のにおい成分を吸着する。第2感応膜135は、第1感応膜132と同じ材料からなり、第1感応膜132と同じ膜厚を有するものが好適である。第3検出素子115は、図4に示すように封止体136によって封止され、第3振動子134及び第2感応膜135は封止体136によって外気から遮蔽されている。
【0032】
図1に示すようににおい検出装置100は複数の第3検出素子115を備え、各第3検出素子115は、各第1検出素子111にそれぞれ対応し、第1検出素子111の数だけ第3検出素子115が用意される。具体的には、各第3検出素子115は、封止体136によって封止されている他は、各chの第1検出素子111と同等の特性を有し、各chの第1検出素子111の第1感応膜132と同一の第2感応膜135を備える。以下、ch1の第1検出素子111と同等の特性を有する第3検出素子115をch1の第3検出素子115とする。以下同様に、各chの第1検出素子111と同等の特性を有する第3検出素子115を各chの第3検出素子115とする。
【0033】
第3発振回路116は第3検出素子115に接続され、第3振動子134の下部電極143と上部電極144の間に交流電圧を印加し、第3振動子134を駆動する。この交流電圧により第3振動子134が所定の共振周波数で振動する。第3発振回路116は、第3振動子134の共振周波数を接続部117に出力する。第3発振回路116は共振周波数のカウント値をデジタル信号として接続部117に出力する。第3発振回路116は第3振動子134に交流電圧を供給できるものであればよく、例えば、ここではICである。なお、1つの第3発振回路116で複数の第3振動子134を駆動してもよい。
【0034】
図4に於いて、封止体136は上記のように第3検出素子115を封止し、第3振動子134及び第2感応膜135を外気から遮蔽する。例えば、第3振動子134及び第2感応膜135の周囲を囲む壁状構造体である。例えば、金属のキャンタイプ、樹脂のBOXタイプで、壁状構造体の内部には窒素等の不活性ガスを充填してもよい。封止体136は、1つの封止体136が全部の第3検出素子115を封止する構成であってもよく、複数の封止体136が1つ又は複数の第3検出素子115をそれぞれ封止する構成であってもよい。
【0035】
接続部117は、第1検出素子111、第2検出素子113及び第3検出素子115と演算部118を接続し、第1振動子131、第2振動子133及び第3振動子134のそれぞれの共振周波数を演算部118に供給する。接続部117は、演算部118と各検出素子の接続を切り替え可能なマルチプレクサを採用できる。
【0036】
演算部118は、第1検出素子111の共振周波数変動量を、第2検出素子113及び第3検出素子115の共振周波数変動量に基づいて補正する。この詳細については後述する。演算部118は、例えばFPGA(field-programmable gate array)により構成される。演算部118は、補正した共振周波数変動量を通信部119に供給する。なお、FPGAは、再構成可能な半導体装置、例えばMPLD(登録商標)、MRLDであってもよい。
【0037】
通信部119は、演算部118によって補正された共振周波数変動量をPCやタブレット端末等の他の情報処理装置に転送する。ユーザは、他の情報処理装置において補正された共振周波数変動量を確認することができる。また、通信部119は補正された共振周波数変動量を、ゲートウェイを経由してクラウドに転送してもよい。これにより、クラウトにおいてデータの蓄積やAI(artificial intelligence)でのにおいの種類判定が可能となる。通信部119はBLE(Bluetooth(登録商標) Low Energy)等の無線通信又は有線通信が可能なモジュールである。
【0038】
におい検出装置100は以上のような構成を有する。なお、演算部118はにおい検出装置100とは別の情報処理装置に搭載され、上記動作を実行するものとしてもよい。また、演算部118に替えてユーザが演算部118の動作を実行することも可能である。
【0039】
[演算部による補正について]
演算部118は、上記のように、第1検出素子111の共振周波数変動量を第2検出素子113及び第3検出素子115の共振周波数変動量に基づいて補正する。
【0040】
第1検出素子111の共振周波数は、第1感応膜132の重量、即ち第1感応膜132へのにおい成分の吸着量によって変動する。さらに、第1検出素子111の共振周波数は、湿度と温度の影響によっても変動する。したがって、第nchの第1検出素子111の共振周波数変動量をΔFn(total)、におい成分吸着による共振周波数変動量をΔFn(gas)、湿度による共振周波数変動量をΔFn(hum.)、温度による共振周波数変動量をΔFn(tem.)とすると、以下の(式1)が成り立つ。
【0041】
ΔFn(total)=ΔFn(gas)+ΔFn(hum.)+ΔFn(tem.) (式1)
【0042】
上記(式1)に示すように、第nchの第1検出素子111から出力される共振周波数変動量ΔFn(total)は、におい成分の吸着よる共振周波数変動量ΔFn(gas)に加え、湿度による共振周波数変動量ΔFn(hum.)と温度による共振周波数変動量ΔFn(tem.)を含むものである。このため、演算部118は、におい成分の吸着よる共振周波数変動量ΔFn(gas)が得られるように以下の補正を行う。
【0043】
ここで、第2検出素子113は第1振動子131と同等の特性を有する第2振動子133を備える。また、第2検出素子113は、感応膜を有しない。FBAR振動子を用いたにおい検出素子において湿度による影響の主な原因はFBAR振動子自体の吸湿性であり、感応膜の吸湿による影響は小さい。特にFBAR振動子は一般的に多層の薄膜からなり、圧電膜のAlNや保護膜のSiOはスパッタ成膜により形成されるため、吸湿性が大きい。
【0044】
したがって、第2検出素子113の共振周波数変動量は湿度によるものとみなせる。このため、第2検出素子113の共振周波数変動量をΔFref1とすると、湿度による共振周波数変動量ΔFn(hum.)は共振周波数変動量ΔFref1とみなすことができる。
【0045】
さらに、第3検出素子115は第1振動子131と同等の特性を有する第3振動子134を備え、第1感応膜132と同等の特性を有する第2感応膜135を備える。また、第3振動子134及び第2感応膜135は封止体136によって外気から遮蔽されている。このため、におい成分や水分子は封止体136によって第3振動子134及び第2感応膜135への到達が防止されている。
【0046】
FBAR振動子を用いたにおい検出素子において温度による影響の主な原因は振動子及び感応膜を構成する各材料の弾性定数の変化によるものである。このため、第1検出素子111と同等の特性を有し、封止体136によって遮蔽された第3検出素子115の共振周波数変動量は温度によるものとみなせる。したがって、第nchの第3検出素子115の共振周波数変動量をΔFref2nとすると、温度による共振周波数変動量ΔFn(tem.)は共振周波数変動量ΔFref2nとみなすことができる。
【0047】
したがって、上記(式1)は下記(式2)に変形することができる。
【0048】
ΔFn(total)=ΔFn(gas)+ΔFref1+ΔFref2n (式2)
【0049】
さらに、上記(式2)は下記(式3)に変形することができる。
【0050】
ΔFn(gas)=ΔFn(total)-ΔFref1-ΔFref2n (式3)
【0051】
このように演算部118は、第1検出素子111から出力される共振周波数変動量ΔFn(total)から、第2検出素子113から出力される共振周波数変動量ΔFref1及び第3検出素子115から出力される共振周波数変動量ΔFref2nを減じることにより、におい成分による共振周波数変動量ΔFn(gas)を求めることができる。
【0052】
[におい検出装置による効果]
におい検出装置100は以上のように、演算部118が第1検出素子111、第2検出素子113及び第3検出素子115の共振周波数変動量に基づいて、第1感応膜132に吸着したにおい成分による共振周波数変動量ΔFn(gas)を算出する。演算部118は、第1検出素子111の共振周波数変動量から第2検出素子113及び第3検出素子115の共振周波数変動量を減じることで共振周波数変動量ΔFn(gas)を算出できるため、測定時間の経過と共に上記算出を行うことができ、リアルタイム性に優れる。一方、上記特許文献2に記載のような補正方法では、事前に参照素子の係数を算出し、補正時に係数を呼び出す必要があり、事前に参照素子の係数を算出することが手間を要する。
【0053】
また、におい検出装置100では、事前に第1検出素子111の温度依存性や湿度依存性を評価する必要がなく、線形補正のように精度よく補正可能な温湿度範囲が限られるようなこともないため、広い温湿度範囲で高精度な検出結果を得ることができる。さらに、におい検出装置100では、第1検出素子111に温度補償膜等の温湿度補正用の構造を設ける必要がないため、第1検出素子111の振動特性を低下させることなく温湿度補正が可能である。
【0054】
[実装構造1]
におい検出装置100の具体的実装構造について説明する。図5はにおい検出装置100の実装構造を示す模式図である。尚、マウンティング装置やワイヤボンディング装置などの実装技術により実現される。同図に示すようににおい検出装置100は、主基板151、第1センサ基板152、第2センサ基板153、第3センサ基板154、第1検出素子111、第1発振回路112、第2検出素子113、第2発振回路114、第3検出素子115、第3発振回路116、カンパッケージ155、マルチプレクサ156、FPGA157及びBLEモジュール158から構成される。
【0055】
主基板151やセンサ基板は、各部品が実装される基板であり、一般的な配線基板を用いている。第1センサ基板152には、2つの第1検出素子111と、これらの第1検出素子111を駆動する1つの第1発振回路112がマウティング装置などにより実装される。そして電気的な接続は、ピンヘッダ、ハンダまたはボンディングワイヤにより主基板151に接続されている。主基板151には、4枚の第1センサ基板152が実装されるが、第1センサ基板152の枚数は特に限定されない。
【0056】
第2センサ基板153は、2つの第2検出素子113と、これらの第2検出素子113を駆動する1つの第2発振回路114が実装され、ボンディングワイヤ等で電気的に接続される。ピンヘッダ又はハンダリフローにより主基板151に接続されている。主基板151には、1枚の第2センサ基板153が実装されるが、第2センサ基板153の枚数は特に限定されない。
【0057】
第3センサ基板154は、2つの第3検出素子115と、これらの第3検出素子115を駆動する1つの第3発振回路116が実装された基板であり、ピンヘッダ、ハンダリフローまたはワイヤボンディングにより主基板151に電気的に接続され、実装されている。主基板151には、4枚の第3センサ基板154が実装されているが、第3センサ基板154の枚数は特に限定されない。
【0058】
カンパッケージ155は、第3センサ基板154を覆い、各第3センサ基板154上の第3検出素子115を封止する。カンパッケージ155内には窒素ガス等の不活性ガスが充填されている。カンパッケージ155は第3振動子134及び第2感応膜135を外気から遮蔽する封止体136(図4参照)として機能する。
【0059】
マルチプレクサ156は主基板151に実装され、接続部117(図1参照)として機能する。FPGA157は主基板151に実装され、演算部118(図1参照)として機能する。BLEモジュール158は主基板151に実装され、通信部119(図1参照)として機能する。なお、マルチプレクサ156、FPGA157及びBLEモジュール158は主基板151のうち第1センサ基板152等が実装されている面の裏側の面に実装され、主基板151の基板の配線を介して各発振回路等と接続されてもよい。
【0060】
におい検出装置100は以上のような実装構造によって実現することができる。この構成では、第1検出素子111、第2検出素子113及び第3検出素子115を主基板151とは別のセンサ基板にそれぞれ実装することにより、これらの検出素子をセンサ基板毎に交換することが可能である。
【0061】
[実装構造2]
におい検出装置100の他の具体的実装構造について説明する。におい検出装置100はフェイスダウン表面実装により作製することができる。図6はにおい検出装置100のフェイスダウンで表面実装した実装構造を示す模式図であり、図7及び図8はその断面図である。
【0062】
図6(a)に示すようににおい検出装置100は、主基板161、第1マルチチップ191、第2マルチチップ192、第2発振回路114、第4発振回路162、マルチプレクサ163、FPGA164及びBLEモジュール165から構成される。図6(b)は第1マルチチップ191の拡大図である。同図に示すように第1マルチチップ191には第1検出素子111及び第2検出素子113が搭載されている。図6(c)は第2マルチチップ192の拡大図である。同図に示すように第2マルチチップ192には第3検出素子115が搭載されている。
【0063】
主基板161は、各部品が実装される基板である。主基板161の一面には2本の第1溝161aと2本の第2溝161bが設けられている。第1溝161aは図示しないポンプにより外気が供給され、流路として機能する。一方、第2溝161bは充填体166(図8参照)が充填され、封止されている。充填体166は窒素等の不活性ガスである。
【0064】
第1検出素子111は、図7に示すようにフリップチップ実装により主基板161に実装され、接合部167により主基板161の電極168と接続されている。接合部167はハンダバンプ、金バンプ又は異方性導電フィルム等である。第1検出素子111は、第1感応膜132が第1溝161aに対向するように配置される。
【0065】
第2検出素子113は、フリップチップ実装により主基板161に実装され、ハンダバンプ、金バンプ又は異方性導電フィルム等の接合部により主基板161の電極と接続されている。第2検出素子111は、共振領域R(図3参照)が第1溝161aに対向するように配置される。
【0066】
第3検出素子115は、図8に示すようにフリップチップ実装により主基板161に実装され、接合部167により主基板161の電極168と接続されている。接合部171はハンダバンプ、金バンプ又は異方性導電フィルム等である。第3検出素子115は、第2感応膜135が第2溝161bに対向するように配置される。
【0067】
このような配置により、第1検出素子111は第1溝161aを介して感応膜132に外気が供給され、第2検出素子113は第1溝161aを介して共振領域Rに外気が供給される。一方、第3検出素子115は、第2溝161bが充填体166によって封止されており、外気が第3振動子134及び第2感応膜135に到達されない。即ち、充填体166は封止体136(図4参照)として機能する。
【0068】
第1発振回路112及び第3発振回路116はこれらを兼ねる1つの第4発振回路162としてフリップチップ実装により主基板161に実装されている。第4発振回路162が、第4発振回路162を挟む第1検出素子111及び第3検出素子115を駆動することにより第1検出素子111及び第3検出素子115に供給される電圧条件を同等とすることができる。また、第2発振回路114もフリップチップ実装により主基板161に実装されている。
【0069】
マルチプレクサ163は主基板161に実装され、接続部117(図1参照)として機能する。FPGA164は主基板151に実装され、演算部118(図1参照)として機能する。BLEモジュール165は主基板151に実装され、通信部119(図1参照)として機能する。なお、マルチプレクサ163、FPGA164及びBLEモジュール165は主基板161のうち第1検出素子111等が実装されている面の裏側の面に実装され、主基板161の基板内配線を介して各発振回路等と接続されてもよい。
【0070】
におい検出装置100は以上のような実装構造によって実現することができる。この構成では、第1溝161aの全体を第1マルチチップ191によって覆い、第2溝161bの全体を第2マルチチップ191によって覆うことができる。第1検出素子111及び第3検出素子115を一つの第1マルチチップ191上に搭載することができるため、差分動作の精度を向上させることが可能である。
【0071】
[検出素子について]
上記説明において、第1検出素子111、第2検出素子113及び第3検出素子115は、FBARである振動子を備えるものとしたが、振動子はFBARに限られず他の弾性波共振器であってもよい。具体的には第1検出素子111、第2検出素子113及び第3検出素子115は、SAW(Surface acoustic wave)共振器である振動子を備えるものとすることもできる。
【0072】
図9は、SAW共振器である振動子を備える第1検出素子111の平面図である。同図に示すように、第1検出素子111は第1振動子131及び第1感応膜132を備える。第1振動子131はSAW共振器である。
【0073】
具体的には第1振動子131は、圧電基板181、第1電極182、第2電極183及び反射器184を具備する。圧電基板181は、LiTaOやLiNbO等の圧電材料からなる基板である。第1電極182及び第2電極183は圧電基板181上に設けられた櫛型電極(IDT;Interdigital Transducer)であり、櫛型にパターニングされた任意の導電性材料からなる。反射器184は、圧電基板181上に、第1電極182及び第2電極183を挟むように1対が設けられ、格子状にパターニングされた任意の導電性材料からなる。
【0074】
第1振動子131は、1対の反射器184の間に共振領域Rを有する。共振領域Rは、第1電極182及び第2電極183の間に共振周波数の交流電圧が入力されたときに、圧電基板181の表面に表面弾性波が生じる領域である。表面弾性波は反射器184に入射すると反射器184によって共振領域Rに向けて反射される。共振領域Rの共振周波数は特に限定されず、例えば700MHzである。第1感応膜132は第1振動子131の共振領域R上に設けられ、所定のにおい成分を吸着する。
【0075】
図10は、SAW共振器である振動子を備える第2検出素子113の平面図である。同図に示すように、第2検出素子113はSAW共振器である第2振動子133を備える。第2振動子133は、第1振動子131と同等の特性を有するものが好適であり、即ち第2検出素子113は第1感応膜132を有しない第1検出素子111と同等の特性を有する。具体的には第2検出素子113は、第1振動子131と同様に圧電基板181、第1電極182、第2電極183及び反射器184を備え、共振領域Rを有する。
【0076】
図11は、SAW共振器である振動子を備える第3検出素子115の平面図である。同図に示すように、第3検出素子115はSAW共振器である第3振動子134及び第2感応膜135を備える。第3振動子134は、第1振動子131と同等の特性を有するものが好適である。具体的には第3検出素子115は、第1振動子131と同様に圧電基板181、第1電極182、第2電極183及び反射器184を備え、共振領域Rを有する。
【0077】
第2感応膜135は、第3振動子134の共振領域R上に設けられ、所定のにおい成分を吸着する。第3検出素子115は、図11に示すように封止体136によって封止され、第3振動子134及び第2感応膜135は封止体136によって外気から遮蔽されている。
【0078】
振動子がSAW共振器である場合もにおい検出装置100は同様に動作する。即ち演算部118は、上記(式3)に示すように、第1検出素子111から出力される共振周波数変動量ΔFn(total)から、第2検出素子113から出力される共振周波数変動量ΔFref1及び第3検出素子115から出力される共振周波数変動量ΔFref2nを減じることにより、におい成分による共振周波数変動量ΔFn(gas)を求めることができる。
【0079】
SAW共振器である振動子を用いたにおい検出素子においても湿度による影響の主な原因はSAW共振器自体の吸湿性であり、感応膜の吸湿による影響は小さい。特にSAW共振器は一般的に多層の薄膜からなり、特に共振周波数調整膜や保護膜のSiOはスパッタ成膜により形成されるため、吸湿性が大きい。したがって、第2検出素子113の共振周波数変動量は湿度によるものとみなせる。このため、第2検出素子113の共振周波数変動量をΔFref1とすると、湿度による共振周波数変動量ΔFn(hum.)は共振周波数変動量ΔFref1とみなすことができる。
【0080】
さらに、SAW共振器である振動子を用いたにおい検出素子においても温度による影響の主な原因は振動子及び感応膜を構成する各材料の弾性定数の変化によるものである。このため、第1検出素子111と同等の特性を有し、封止体136によって遮蔽された第3検出素子115の共振周波数変動量は温度によるものとみなせる。このため、第nchの第3検出素子115の共振周波数変動量をΔFref2nとすると、温度による共振周波数変動量ΔFn(tem.)は共振周波数変動量ΔFref2nとみなすことができる。
【0081】
したがって、振動子がSAW共振器である場合も、演算部118は上記(式3)を用いてにおい成分による共振周波数変動量ΔFn(gas)を求めることができる。
【0082】
なお、第1検出素子111、第2検出素子113及び第3検出素子115は、FBAR及びSAW共振器の他にもQCM(Quartz Crystal Microbalance)である振動子を備えるものであってもよい。
【0083】
[変形例]
におい検出装置100の変形例について説明する。
【0084】
(変形例1)
図12は変形例1に係るにおい検出装置100の構成を示すブロック図である。上記のようににおい検出装置100は1つの第2検出素子113を備える(図1参照)ものとしたが、図12に示すようにnchの第1検出素子111に対応するnchの第2検出素子113を備えるものとしてもよい。具体的には、nchの第1検出素子111の間で第1振動子131の構造が異なる場合、におい検出装置100はそれぞれの第1振動子131と同一構造の第2振動子133を有するnchの第2検出素子113を備える。
【0085】
この場合、第nchの第2検出素子113の共振周波数変動量をΔFref1nとすると、
上記(式1)における湿度による共振周波数変動量ΔFn(hum.)は共振周波数変動量ΔFref1nとみなすことができる。
【0086】
したがって、上記(式1)は下記(式4)に変形することができる。
【0087】
ΔFn(total)=ΔFn(gas)+ΔFref1n+ΔFref2n (式4)
【0088】
さらに、上記(式4)は下記(式5)に変形することができる。
【0089】
ΔFn(gas)=ΔFn(total)-ΔFref1n-ΔFref2n (式5)
【0090】
以上から演算部118は、におい検出装置100がnchの第2検出素子113を有する場合も第1検出素子111から出力される共振周波数変動量ΔFn(total)から、第2検出素子113から出力される共振周波数変動量ΔFref1n及び第3検出素子115から出力される共振周波数変動量ΔFref2nを減じることにより、におい成分による共振周波数変動量ΔFn(gas)を求めることができる。
【0091】
(変形例2)
図13は変形例1に係るにおい検出装置100の構成を示すブロック図である。上記のようににおい検出装置100は、第1検出素子111、第2検出素子113及び第3検出素子115を備えるものとしたが、図13に示すように第3検出素子115を備えず、第1検出素子111と第2検出素子113のみを備えるものとすることも可能である。
【0092】
この場合、演算部118は、第1検出素子111から出力される共振周波数変動量ΔFn(total)から、第2検出素子113から出力される共振周波数変動量ΔFref1を減じることにより、湿度による影響が補正されたにおい成分による共振周波数変動量ΔFn(gas)を求めることができる。におい検出装置100が備える感応膜が温度による影響を受けにくい場合等には、このように第2検出素子113を利用して湿度による影響のみを補正してもよい。また、このにおい検出装置100は、変形例1(図12参照)に示すようにnchの第2検出素子113を備えるものであってもよい。
【実施例0093】
(実施例1)
上記実施形態に係るにおい検出装置を作成し、測定を実施した。におい検出装置はFBARである第1振動子及び感応膜を有する第1検出素子と、FBARである第2振動子を有し、感応膜を有しない第2検出素子を備えるものとした。第1振動子と第2振動子は同等の特性を有し、共振周波数2.4GHzの振動子である。第1検出素子の感応膜は疎水性感応膜(厚み250nm)とした。第1検出素子及び第2検出素子はピアーズ型発振回路と接続し、周波数カウンターでその発振周波数を計測した。
【0094】
図14は、測定結果を示すグラフである。上記におい検出装置をチャンバに収容し、チャンバ内にガスG1及びガスG2を20分間毎に交互に流入させた。ガスG1はトルエン10ppmのガスであり、ガスG2はトルエン0ppmのガスである。図14において、第1検出素子の周波数変動量を「ΔF(total)」、第2検出素子の周波数変動量を「ΔFref1」、第1検出素子と第2検出素子の周波数変動量の差分(ΔF(total)-ΔFref1)を「差分」、チャンバ内の湿度(RH)を「湿度」として示す。チャンバ内の湿度は静電容量型湿度センサにより測定したものである。
【0095】
図14に示すように、ガスG1の供給中は、周波数変動量ΔF(total)が上昇している。本来であれば、トルエンの感応膜への吸着により周波数変動量は減少するはずであるが、湿度が7%から5%に減少し、共振周波数が上昇している。湿度の減少により感応膜に付着した水分量が減少し、共振周波数が上昇したと考えられる。一方、「差分」(ΔF(total)-ΔFref1)はガスG1の供給中は減少しており、湿度による影響が除外され、トルエンの感応膜への吸着による周波数変動が検出されていることがわかる。
【0096】
(実施例2)
上記実施形態に係るにおい検出装置を作成し、測定を実施した。におい検出装置はSAW共振器である第1振動子及び感応膜を有する第1検出素子と、SAW共振器である第2振動子を有し、感応膜を有しない第2検出素子を備えるものとした。第1振動子と第2振動子は同等の特性を有し、共振周波数700MHzの振動子である。第1検出素子の感応膜は疎水性感応膜(厚み250nm)とした。第1検出素子及び第2検出素子はピアーズ型発振回路と接続し、周波数カウンターでその発振周波数を計測した。
【0097】
図15は、測定結果を示すグラフであり、図16図15の一部を拡大したグラフである。上記におい検出装置をチャンバに収容し、チャンバ内にガスG3及びガスG4を20分間毎に交互に流入させた。ガスG3はアセトン10ppmのガスであり、ガスG4はアセトン0ppmのガスである。図15及び図16において、第1検出素子の周波数変動量を「ΔF(total)」、第2検出素子の周波数変動量を「ΔFref1」、第1検出素子と第2検出素子の周波数変動量の差分(ΔF(total)-ΔFref1)を「差分」、チャンバ内の湿度(RH)を「湿度」として示す。チャンバ内の湿度は静電容量型湿度センサにより測定したものである。
【0098】
図15及び図16に示すように、ガスG3の供給中は、周波数変動量ΔF(total)がわずかに減少している。これは、アセトンの感応膜への吸着による共振周波数の低下と、湿度の減少(6%→5.5%)により感応膜に付着した水分量が減少したことによる振周波数の上昇が合算されたことによるものと考えられる。一方、「差分」(ΔF(total)-ΔFref1)はガスG3の供給中は顕著に減少しており、湿度による影響が除外され、アセトンの感応膜への吸着による周波数変動が検出されていることがわかる。
【0099】
(実施例3)
上記実施形態に係るにおい検出装置を作成し、測定を実施した。におい検出装置はFBARである第1振動子及び感応膜を有する第1検出素子と、第1検出素子と同等の特性を有する検出素子が封止体によって封止された第3検出素子を備えるものとした。第1検出素子及び第3検出素子はピアーズ型発振回路と接続し、周波数カウンターでその発振周波数を計測した。
【0100】
図17は、測定結果を示すグラフである。上記におい検出装置をチャンバに収容し、チャンバ内にガスG5及びガスG6を交互に流入させた。ガスG5はエタノール10ppmのガスであり、ガスG6はエタノール0ppmのガスである。図17において、第1検出素子の周波数変動量を「ΔF(total)」、第3検出素子の周波数変動量を「ΔFref2」として示す。
【0101】
図18は第1検出素子と第3検出素子の周波数変動量の差分(ΔF(total)-ΔFref2)を示すグラフである。同図に示すように温度による影響が除外され、エタノールの感応膜への吸着による周波数変動が検出されていることがわかる。
【符号の説明】
【0102】
100…におい検出装置
111…第1検出素子
112…第1発振回路
113…第2検出素子
114…第2発振回路
115…第3検出素子
116…第3発振回路
117…接続部
118…演算部
119…通信部
131…第1振動子
132…第1感応膜
133…第2振動子
134…第3振動子
135…第2感応膜
136…封止体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18