(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156731
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】車両、制御装置、制御方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B60W 20/15 20160101AFI20221006BHJP
B60K 6/46 20071001ALI20221006BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20221006BHJP
B60K 6/36 20071001ALI20221006BHJP
【FI】
B60W20/15
B60K6/46
B60W10/08 900
B60K6/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060568
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】田中 正志
【テーマコード(参考)】
3D202
【Fターム(参考)】
3D202AA07
3D202BB11
3D202CC48
3D202DD16
3D202DD17
3D202DD18
3D202DD26
(57)【要約】
【課題】失火時におけるエンジンの出力軸の共振を抑えること。
【解決手段】動力を出力する出力軸を備えたエンジンと、前記出力軸にねじりモーメントを作用させるねじり部と、前記ねじり部を介して前記出力軸に接続され、発電用のトルクを発生させる回転電機と、前記エンジンの失火時に前記エンジンが特定の回転数で回転した場合、前記トルクの発生を遅延させる遅延制御を行う遅延制御部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力を出力する出力軸を備えたエンジンと、
前記出力軸にねじりモーメントを作用させるねじり部と、
前記ねじり部を介して前記出力軸に接続され、発電用のトルクを発生させる回転電機と、
前記エンジンの失火時に前記エンジンが特定の回転数で回転した場合、前記トルクの発生を遅延させる遅延制御を行う遅延制御部と、
を備える車両。
【請求項2】
前記ねじりモーメントによって生じる前記出力軸の共振を検出する検出部を備え、
前記遅延制御部は、前記検出部によって前記共振が検出された場合、前記遅延制御を行う、
請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記エンジンを制御するエンジン制御ユニットと、
前記エンジン制御ユニットから受信した指示に基づいて、前記回転電機を制御する回転電機制御ユニットと、
を備え、
前記遅延制御部は、前記エンジン制御ユニットと前記回転電機制御ユニットとの間の通信の遅れの時間と、フライホイールの物理的ねじれによる位相遅れ時間と、失火時の共振を抑制するための遅れ時間とに基づく前記遅延制御を行う、
請求項1または2に記載の車両。
【請求項4】
前記遅延制御部は、前記エンジン制御ユニットおよび前記回転電機制御ユニットのうちいずれか一方に設けられる、
請求項3に記載の車両。
【請求項5】
動力を出力する出力軸を備えたエンジンと、前記出力軸にねじりモーメントを作用させるねじり部と、前記ねじり部を介して前記出力軸に接続され、発電用のトルクを発生させる回転電機と、を備えた車両に用いられる制御装置であって、
前記エンジンの失火時に前記エンジンが特定の回転数で回転した場合、前記トルクの発生を遅延させる遅延制御を行う遅延制御部と、
を備える制御装置。
【請求項6】
動力を出力する出力軸を備えたエンジンと、前記出力軸にねじりモーメントを作用させるねじり部と、前記ねじり部を介して前記出力軸に接続され、発電用のトルクを発生させる回転電機と、を備えた車両に用いられるコンピュータが、
前記エンジンの失火時に前記エンジンが特定の回転数で回転した場合、前記トルクの発生を遅延させる遅延制御を行う、
制御方法。
【請求項7】
動力を出力する出力軸を備えたエンジンと、前記出力軸にねじりモーメントを作用させるねじり部と、前記ねじり部を介して前記出力軸に接続され、発電用のトルクを発生させる回転電機と、を備えた車両に用いられるコンピュータに、
前記エンジンの失火時に前記エンジンが特定の回転数で回転した場合、前記ねじりモーメントによって生じる前記出力軸の共振を検出させ、
前記共振を検出した場合、前記トルクの発生を遅延させる遅延制御を行わせる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両、制御装置、制御方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド車両が普及している。ハイブリッド車両では、目標のエンジンの回転数とするために、モータの回転数を制御するフィードバック制御が行われている。関連する技術として、要求トルクに基づいてエンジンの目標回転数と目標トルクとを設定するとともに、排気が吸気側に供給されているか否かを考慮して推定したエンジン推定トルクを用いてモータのトルク指令を設定して、エンジンとモータとを制御することが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、ハイブリッド車両には、エンジンが搭載されている。このエンジンは、例えば、複数気筒のエンジンである。複数気筒のエンジンは、いずれかの気筒に失火が生じたとしても停止せずに、そのまま継続して回転することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、失火時においてエンジンが特定の回転数で回転した場合、フィードバック制御を行ったとすると、駆動系に共振が発生してしまうことがあった。これにより、トランスミッションへの入力トルクを増大させてしまうおそれがあった。
【0006】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、失火に伴って生じる駆動系の共振を抑えることができることを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る車両、制御装置、制御方法、及びプログラムは、以下の構成を採用した。
(1):この発明の一態様に係る車両は、動力を出力する出力軸を備えたエンジンと、前記出力軸にねじりモーメントを作用させるねじり部と、前記ねじり部を介して前記出力軸に接続され、発電用のトルクを発生させる回転電機と、前記エンジンの失火時に前記エンジンが特定の回転数で回転した場合、前記トルクの発生を遅延させる遅延制御を行う遅延制御部と、を備える。
【0008】
(2):上記(1)の態様において、前記ねじりモーメントによって生じる前記出力軸の共振を検出する検出部を備え、前記遅延制御部は、前記検出部によって前記共振が検出された場合、前記遅延制御を行う。
【0009】
(3):上記(1)または(2)の態様において、前記エンジンを制御するエンジン制御ユニットと、前記エンジン制御ユニットから受信した指示に基づいて、前記回転電機を制御する回転電機制御ユニットと、を備え、前記遅延制御部は、前記エンジン制御ユニットと前記回転電機制御ユニットとの間の通信の遅れの時間と、フライホイールの物理的ねじれによる位相遅れ時間と、失火時の共振を抑制するための遅れ時間とに基づく前記遅延制御を行う。
【0010】
(4):上記(3)の態様において、前記遅延制御部は、前記エンジン制御ユニットおよび前記回転電機制御ユニットのうちいずれか一方に設けられる。
【0011】
(5):この発明の一態様に係る制御装置は、動力を出力する出力軸を備えたエンジンと、前記出力軸にねじりモーメントを作用させるねじり部と、前記ねじり部を介して前記出力軸に接続され、発電用のトルクを発生させる回転電機と、を備えた車両に用いられる制御装置であって、前記エンジンの失火時に前記エンジンが特定の回転数で回転した場合、前記トルクの発生を遅延させる遅延制御を行う遅延制御部と、を備える。
【0012】
(6):この発明の一態様に係る制御方法は、動力を出力する出力軸を備えたエンジンと、前記出力軸にねじりモーメントを作用させるねじり部と、前記ねじり部を介して前記出力軸に接続され、発電用のトルクを発生させる回転電機と、を備えた車両に用いられるコンピュータが、前記エンジンの失火時に前記エンジンが特定の回転数で回転した場合、前記トルクの発生を遅延させる遅延制御を行う。
【0013】
(7):この発明の一態様に係るプログラムは、動力を出力する出力軸を備えたエンジンと、前記出力軸にねじりモーメントを作用させるねじり部と、前記ねじり部を介して前記出力軸に接続され、発電用のトルクを発生させる回転電機と、を備えた車両に用いられるコンピュータに、前記エンジンの失火時に前記エンジンが特定の回転数で回転した場合、前記トルクの発生を遅延させる遅延制御を行わせる。
【発明の効果】
【0014】
(1)~(7)によれば、失火に伴って生じる駆動系の共振を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態に係るハイブリッド車両Mに用いられる駆動システム100を例示した図である。
【
図2】ジェネレータトルクの位相と、エンジンの回転速度の位相とを表した図である。
【
図3】失火時におけるタイムチャートの一例である。
【
図4】エンジンECU120が行う失火時における処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5】遅延制御と、エンジン回転速度と、トランスミッション入力トルクとの関係を示す実験結果の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照し、本発明の車両、制御装置、制御方法、及びプログラムの実施形態について説明する。
【0017】
[実施形態]
[ハイブリッド車両に用いられる駆動システム100の構成]
図1は、実施形態に係るハイブリッド車両Mに用いられる駆動システム100を例示した図である。
図1に示すように、駆動システム100は、エンジン110と、エンジンECU(Electronic Control Unit)120と、フライホイール130と、トランスミッション140と、モータECU150と、PDU(Power Drive Unit)160と、ジェネレータ170とを備える。
【0018】
エンジン110は、ガソリンや軽油などを燃料として動力を出力する。すなわち、エンジン110は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンである。本実施形態において、エンジン110は、例えば、4気筒のガソリンエンジンとしている。エンジンECU120(エンジン制御ユニットの一例)は、エンジン110を制御する電子制御ユニットである。また、エンジンECU120は、制御装置の一例でもある。
【0019】
フライホイール130(ねじり部の一例)は、クランクシャフト111(エンジン110の出力軸の一例)上に設けられる。フライホイール130は、クランクシャフト111の回転を安定させるダンパーである。具体的には、フライホイール130は、エンジン110からの出力によって回転するとともに、当該回転によって慣性モーメントを生成する。フライホイール130は、この慣性モーメントにより、クランクシャフト111の回転を安定させる。また、フライホイール130は、クランクシャフト111のねじれ振動を動的に吸収するねじりバネを内部に有する。トランスミッション140は、変速機である。
【0020】
モータECU150(回転電機制御ユニットの一例)は、不図示の走行用のモータおよびジェネレータ170(回転電機の一例)を制御する電子制御ユニットである。PDU160は、リチウムイオンバッテリの直流電力を三相交流の電力に変換してモータへ伝達する装置である。PDU160は、インバータを含む。ジェネレータ170は、エンジン110の回転を動力源として発電する発電用のモータである。具体的には、ジェネレータ170は、クランクシャフト111の回転力を用いて、発電用のトルク(以下「ジェネレータトルク」という。)を発生させて発電を行う。
【0021】
エンジンECU120は、エンジンの回転数のフィードバック制御を行う。フィードバック制御において、エンジンECU120は、モータECU150に、エンジンの回転数を目標回転数とするためのトルク発生の指示を送信する。モータECU150は、当該指示に基づいて、エンジンの回転数を目標回転数とするために、走行用モータの回転数を所定の回転数で回転させる制御を行うとともに、ジェネレータ170を所定のトルクで回生させる制御を行う。
【0022】
ここで、エンジン110は、4気筒のうちいずれかの気筒が失火することがある。エンジン110に失火が生じると、失火した気筒が動作しなくなることから、エンジン110の回転に変動が生じてしまう。特に、失火時においてエンジン110が特定の回転数で回転した場合には、クランクシャフト111に共振(以下「失火共振」という。)が発生することがある。なお、特定の回転数は、エンジンおよびジェネレータの慣性モーメントと、フライホイール130が備えるねじりバネのバネマス系の固有値とに基づく固有振動数に応じた回転数である。固有振動数で振動しているときに、回転数のフィードバック制御が行われると、振動を増大させてしまい、失火共振を発生させてしまうことがある。これについて、
図2を用いて具体的に説明する。
【0023】
図2は、ジェネレータトルクの位相と、エンジン110の回転速度の位相とを表した図である。
図2(A)は、失火共振が生じていない場合の各位相を示している。
図2(A)に示すように、ジェネレータトルクの波形と、エンジン110の回転速度の波形とは、位相さがτの波形を示す。失火共振が生じていない場合、ジェネレータトルクの位相と、エンジン110の回転速度の位相とは、逆になっており、相互に振動を抑える働きがある。
【0024】
一方で、
図2(B)は、失火共振が生じている場合の各位相を示している。失火時における特定のエンジン回転数では、ジェネレータトルクの位相にずれが生じてしまうと、
図2(B)に示すように、ジェネレータトルクの位相とエンジンの回転速度の位相とに、τ’分のずれが生じ、相互に強め合ってしまう。これにより、振幅(振動)が増大してしまい、すなわち、失火共振が発生してしまう。
【0025】
そこで、本実施形態では、τ´分、ジェネレータトルクの発生を遅延させることにより、失火共振を抑えるようにしている。以下、これについて具体的に説明する。エンジンECU120は、失火検出部121と、共振検出部122と、遅延制御部123と、フィードバック制御部124とを備える。
【0026】
ジェネレータ170は、エンジン110の出力軸に、クランクシャフト111およびフライホイール130を含むねじり部を介して接続される。具体的には、ジェネレータ170は、ねじり部およびトランスミッション140を介して、出力軸に接続されている。ねじり部は、クランクシャフト111にねじりモーメントを作用させる。失火共振は、失火時にエンジン110が特定の回転数で回転すると、ねじり部のねじりモーメントを要因として発生する。なお、トランスミッション140内には、クラッチが存在するものの、クラッチは、失火共振の要因とはならない。すなわち、ねじり部は、クラッチを含まない。
【0027】
失火検出部121は、エンジンの失火を検出する。エンジンの失火は、エンジンがかかっている状態で起こり得るものであり、具体的には、エンジンの停車時(始動時)および走行時のいずれでも起こり得るものである。失火検出部121は、各種センサの検出結果を用いて、失火を検出する。各種センサは、例えば、クランクシャフト111のクランク角を検出するクランク角センサや、クランクシャフト111の回転数を検出する回転数センサや、ジェネレータ170のインプットシャフト171の回転数を検出する回転数センサなどである。なお、クランク角センサの検出結果と、回転数センサの検出結果とは、例えば、トランスミッション140におけるクラッチの滑り等の影響で差が生じることがあるが、通常は同じとなる。
【0028】
失火検出部121は、クランク角センサの検出結果または回転数センサの検出結果を解析することによって失火が生じていることを検出する。失火の判定では、公知の手法を用いることが可能である。一例として、失火の判定においてクランク角センサの検出結果を用いる場合、失火検出部121は、各気筒について上死点を基準として角速度の積算によって面積(失火パラメーター)を算出し、その面積が大きければ燃焼と判断し、その面積が小さければ失火と判断することが可能である。
【0029】
共振検出部122は、失火検出部121によって失火が検出された場合、失火共振を検出する。例えば、共振検出部122は、エンジン110の回転速度を共振周波数相当のバンドパスフィルターに通し、その信号の振幅が所定値以上の場合に失火共振を検出する。なお、失火共振は、失火中に生じる共振である。このため、共振検出部122は、失火中にのみ、失火共振(当該固有振動数の共振)を検出するようにしてもよく、すなわち、失火検出部121によって失火が検出されていない場合には、失火共振を検出しないようにしてもよい。
【0030】
フィードバック制御部124は、エンジン110を目標の回転数とするために、ジェネレータトルクの発生を制御するフィードバック制御を行う。
【0031】
遅延制御部123は、エンジン110の失火時にエンジン110が特定の回転数で回転した場合、ジェネレータトルクの発生を遅延させる遅延制御を行う。具体的には、遅延制御部123は、共振検出部122によって失火共振が検出された場合、ジェネレータトルクの発生を遅延させる遅延制御を行う。よる具体的には、遅延制御部123は、失火共振が検出された場合、フィードバック制御部124によるフィードバック制御に係るジェネレータトルクの発生を遅延させる指示(制御信号)をモータECU150へ送信する。なお、エンジン110の失火時にエンジン110が特定の回転数で回転した場合に、失火共振が生じるものと見なせる場合には、失火共振が検出されなくても、遅延制御部123は、遅延制御を行ってもよい。
【0032】
なお、上述したように、失火共振は、固有振動数の共振である。例えば、失火が1気筒のときでも、2気筒のときでも、失火共振の共振周波数は、固有値である。したがって、遅延させる値は、失火の状態や、失火の気筒数によらず、一定の値となる。
【0033】
ここで、モータECU150は、エンジンECU120から受信した制御信号(指示)に基づいて、ジェネレータ170にジェネレータトルクを発生させる。エンジンECU120とモータECU150との間では通信による遅れがある。すなわち、モータECU150が制御信号を受信したタイミングは、エンジンECU120が制御信号を送信したタイミングよりも遅れる。制御信号の伝達の遅れも、当該固有振動数での振動を増大させてしまうことがあるため、失火共振の原因となる。このため、遅延制御部123は、エンジンECU120と、モータECU150との間の通信の遅れを考慮して遅延制御を行う。なお、この遅れも固有値である。したがって、遅延制御部123が遅延させる値は、一定の値である。
【0034】
通常時のフィードバック制御は、「τ1+τ2」で制御される。τ1は、エンジンECU120と、モータECU150との間の制御信号の伝達遅れ時間である。τ2は、フライホイール130の物理的ねじれによる位相遅れ時間である。一方、失火時のフィードバック制御は、「τ1+τ2+τ3」で制御される。τ3は、失火時の共振を抑制するために、通常時のフィードバック制御にさらに追加する遅れ時間である。
【0035】
また、遅延制御部123は、エンジンECU120からPDU160までの経路上に設けられていればよい。本実施形態において、遅延制御部123は、エンジンECU120に設けられている。これにより、遅延制御部123の機能を持たせた新たな部品を増設しなくても済む。なお、新たな部品を増加させないという観点からすると、遅延制御部123は、モータECU150に設けられるようにしてもよい。また、遅延制御部123は、エンジンECU120とモータECU150との間や、モータECU150とPDU160との間に、設けられてもよい。
【0036】
エンジンECU120およびモータECU150の各機能は、それぞれ、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。また、これらの構成要素のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)等のハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予めエンジンECU120およびモータECU150のHDDやフラッシュメモリ等の記憶装置(不図示)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROM等の着脱可能な記憶媒体に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることでエンジンECU120およびモータECU150のHDDやフラッシュメモリにインストールされてもよい。
【0037】
また、エンジンECU120およびモータECU150は、記憶部を備えてもよい。記憶部は、例えば、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ等の記憶装置により実現される。なお、記憶部に記憶される情報は、制御装置400がアクセス可能な外部の装置(例えば、管理サーバSv)に記憶されていてもよい。
【0038】
[失火時におけるタイムチャート]
図3は、失火時におけるタイムチャートの一例である。
図3(A)は、エンジン回転速度のタイムチャートを示す。
図3(A)において、時刻t1からt2は、失火による目標速度からの変動を示している。
図3(B)は、失火の検出のタイムチャートを示す。
図3(B)において、時刻t1からt2は、失火が検出されたことを示している。
【0039】
図3(C)は、失火共振の検出のタイムチャートを示す。
図3(C)において、時刻t3からt4は、失火共振が発生していることを示している。なお、時刻t2で失火が終わっているため、時刻t2のタイミングで失火共振も終了している。このため、時刻t2のタイミングで失火共振の検出を終了してもよい。なお、t2からt4の範囲で失火共振に相当する振動数の共振が検出されたとしても、失火中でないことからジェネレータトルクの遅延制御は行われない。
【0040】
図3(D)は、ジェネレータトルクの発生の遅延制御のタイムチャートを示す。
図3(D)において、時刻t5からt6は、ジェネレータトルクの発生の遅延制御が行われていることを示している。当該遅延制御は、失火および失火共振の両方が検出されると開始され、失火および失火共振のうち少なくともいずれか一方が非検出となると終了する。具体的には、時刻t5は、失火および失火共振の両方が検出されて、遅延制御を開始するタイミングを示す。時刻t6は、失火が検出されなくなり、遅延制御が終了するタイミングを示す。
【0041】
[エンジンECU120が行う失火時における処理]
図4は、エンジンECU120による遅延制御の判定処理の一例を示すフローチャートである。
図4において、失火検出部121は、失火を検出したか否かを判断する(ステップS401)。共振検出部122は、失火検出部121によって失火が検出されるまで待機し、失火が検出されると、エンジン110が特定の回転数であるか否かを判断する(ステップS402)。エンジン110が特定の回転数ではない場合、共振検出部122は、ステップS405に移行させる。
【0042】
エンジン110が特定の回転数である場合、共振検出部122は、失火共振を検出したか否かを判断する(ステップS403)。共振検出部122は、失火共振を検出しない場合、ステップS405に移行させる。共振検出部122によって失火共振が検出されると、遅延制御部123は、ジェネレータトルクの発生を通常よりも遅延させる遅延制御を行う(ステップS404)。
【0043】
そして、失火検出部121は、失火が非検出になったか否かを判断する(ステップS405)。失火検出部121は、失火を検出している場合、ステップS402に移行させる。一方、失火検出部121は、失火を検出しなくなると、一連の処理を終了する。
【0044】
[実験結果の一例]
次に、本実施形態に係る実験結果の一例について説明する。
図5は、遅延制御と、エンジン回転速度と、トランスミッション入力トルクとの関係を示す実験結果の一例である。
図5において、時刻t5は、ジェネレータトルクの遅延制御が開始されたタイミングを示している。エンジンの回転速度の波形は、時刻t5を境に減衰傾向となっている。
【0045】
また、トランスミッション入力トルクは、時刻t5までは、変動が大きいものの、時刻t5以降は変動が収まっている。すなわち、時刻t5以降では、失火共振が抑えられたことを示している。このように、本実施形態では、失火共振時にジェネレータトルクの発生の遅延制御を行うことにより、トランスミッション入力トルクを抑えることが可能である。
【0046】
以上説明したように、本実施形態では、失火時にエンジン110が特定の回転数で回転した場合、ジェネレータトルクの発生を遅延させる遅延制御を行うようにした。これにより、失火共振(失火時における駆動系の共振)が発生したとしても、ジェネレータトルクの位相を適切な位相とすることができるため、当該失火共振を抑えることができる。したがって、失火時にトランスミッション140への入力トルクが増大してしまうことを抑えることができる。よって、トランスミッション140が破損してしまうことを抑えることができる。
【0047】
また、本実施形態では、失火時における特定の回転数において失火共振を検出した場合、ジェネレータトルクの発生の遅延制御を行うようにした。これにより、発生した失火共振を抑えることができる。
【0048】
また、実施形態において、遅延制御部123は、エンジンECU120とモータECU150との間の通信の遅れの時間と、フライホイールの物理的ねじれによる位相遅れ時間と、失火時の共振を抑制するための遅れ時間とに基づく遅延制御を行うようにした。これにより、当該通信の遅れが要因となる失火共振の発生を抑えることができる。
【0049】
また、本実施形態において、遅延制御部123は、エンジンECU120またはモータECU150に設けられるようにした。これにより、遅延制御部123の機能を持たせる新たな部品を増設しなくても、失火共振を抑えることができる。
【0050】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0051】
100…駆動システム、110…エンジン、120…エンジンECU、130…フライホイール、140…トランスミッション、150…モータECU、160…PDU、170…ジェネレータ、121…失火検出部、122…共振検出部、123…遅延制御部