IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社栗本鐵工所の特許一覧 ▶ 東海旅客鉄道株式会社の特許一覧

特開2022-156733高温摺動特性及び耐熱衝撃性に優れる鉄鋼系摺動材料及び摺動部材
<>
  • 特開-高温摺動特性及び耐熱衝撃性に優れる鉄鋼系摺動材料及び摺動部材 図1
  • 特開-高温摺動特性及び耐熱衝撃性に優れる鉄鋼系摺動材料及び摺動部材 図2
  • 特開-高温摺動特性及び耐熱衝撃性に優れる鉄鋼系摺動材料及び摺動部材 図3
  • 特開-高温摺動特性及び耐熱衝撃性に優れる鉄鋼系摺動材料及び摺動部材 図4
  • 特開-高温摺動特性及び耐熱衝撃性に優れる鉄鋼系摺動材料及び摺動部材 図5
  • 特開-高温摺動特性及び耐熱衝撃性に優れる鉄鋼系摺動材料及び摺動部材 図6
  • 特開-高温摺動特性及び耐熱衝撃性に優れる鉄鋼系摺動材料及び摺動部材 図7
  • 特開-高温摺動特性及び耐熱衝撃性に優れる鉄鋼系摺動材料及び摺動部材 図8
  • 特開-高温摺動特性及び耐熱衝撃性に優れる鉄鋼系摺動材料及び摺動部材 図9
  • 特開-高温摺動特性及び耐熱衝撃性に優れる鉄鋼系摺動材料及び摺動部材 図10
  • 特開-高温摺動特性及び耐熱衝撃性に優れる鉄鋼系摺動材料及び摺動部材 図11
  • 特開-高温摺動特性及び耐熱衝撃性に優れる鉄鋼系摺動材料及び摺動部材 図12
  • 特開-高温摺動特性及び耐熱衝撃性に優れる鉄鋼系摺動材料及び摺動部材 図13
  • 特開-高温摺動特性及び耐熱衝撃性に優れる鉄鋼系摺動材料及び摺動部材 図14
  • 特開-高温摺動特性及び耐熱衝撃性に優れる鉄鋼系摺動材料及び摺動部材 図15
  • 特開-高温摺動特性及び耐熱衝撃性に優れる鉄鋼系摺動材料及び摺動部材 図16
  • 特開-高温摺動特性及び耐熱衝撃性に優れる鉄鋼系摺動材料及び摺動部材 図17
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156733
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】高温摺動特性及び耐熱衝撃性に優れる鉄鋼系摺動材料及び摺動部材
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20221006BHJP
   C22C 38/48 20060101ALI20221006BHJP
   F16D 65/12 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C22C38/48
F16D65/12 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060572
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(71)【出願人】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100161746
【弁理士】
【氏名又は名称】地代 信幸
(72)【発明者】
【氏名】原田 尚紀
(72)【発明者】
【氏名】谷田 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】中野 勝啓
(72)【発明者】
【氏名】福田 剛士
(72)【発明者】
【氏名】金森 成志
(72)【発明者】
【氏名】北澤 結寿華
(72)【発明者】
【氏名】神谷 真弘
【テーマコード(参考)】
3J058
【Fターム(参考)】
3J058AA41
3J058BA32
3J058BA41
3J058CB11
3J058EA03
3J058EA08
3J058EA09
3J058FA01
3J058FA21
3J058FA24
(57)【要約】
【課題】高温環境でも高い摩擦係数を維持できる鉄鋼系摺動材料を得る。
【解決手段】Cを0.15質量%以上0.30質量%以下、Siを0.25質量%以上1.0質量%以下、Mnを0.30質量%以上1.0質量%以下、Niを1.7質量%以下、Crを0.7質量%以上、1.3質量%未満、Moを0.4質量%以上、1.60質量%以下、Vを0.40質量%以下、Nbを0.12質量%以下、Alを0.09質量%以下含有し、
下記式(1)で示される炭素当量Ceqが0.65質量%以上であり、残分が鉄と不純物とからなり、
Ceq(質量%)=C+Si/24+Mn/6+Cr/5+Ni/40+Mo/4+V/14 ……(1)
かつ、MnとNiとの合計が1.4質量%以上、2.2質量%以下である鉄鋼系摺動材料を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cを0.15質量%以上0.30質量%以下、Siを0.25質量%以上1.0質量%以下、Mnを0.30質量%以上1.0質量%以下、Niを1.7質量%以下、Crを0.7質量%以上、1.3質量%未満、Moを0.4質量%以上1.60質量%以下、Vを0.40質量%以下、Nbを0.12質量%以下、Alを0.09質量%以下含有し、
それぞれの金属の質量含有百分率の値から下記式(1)で示される炭素当量Ceqが0.65質量%以上であり、残分が鉄と不純物とからなり、
Ceq(質量%)=C+Si/24+Mn/6+Cr/5+Ni/40+Mo/4+V/14 ……(1)
かつ、MnとNiとの合計が1.4質量%以上、2.2質量%以下である鉄鋼系摺動材料。
【請求項2】
Alを0.010質量%以上0.09質量%以下含有する請求項1に記載の鉄鋼系摺動材料。
【請求項3】
Cを0.15質量%以上0.25質量%以下、Siを0.25質量%以上0.55質量%以下含有する、請求項1又は2に記載の鉄鋼系摺動材料。
【請求項4】
c3変態温度が850℃以上である請求項1乃至3のいずれかに記載の鉄鋼系摺動材料。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の鉄鋼系摺動材料からなる、摺動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、制動負荷の高い鉄道車両などで用いるブレーキディスクなどの高温摺動部材用鋼材に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両、自動車、航空機などの制動に用いられるディスクブレーキは、車軸や車輪とともに回転するブレーキディスクにブレーキパッドを押し付けて、車輪及びブレーキディスクの運動エネルギーを摩擦により生じる熱エネルギーに変換するものである。従って、ブレーキディスクのような高温摺動材は高速回転しながら表面に強い摩擦力を受けるため、車両用構造材料で一般に求められる強度やじん性を有するだけでなく、耐摩耗性、耐熱衝撃性に優れたものであることが求められる。ブレーキディスク用の鋼系材料としては、そのような特性をバランスよく満足するものを求めて、多くの元素を添加したものが種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載のようなブレーキディスク用鋼が挙げられる。この材料は、質量%で、Cを0.1~0.6%、Siを0.01~1.2%、Mnを0.2~2.0%、Niを0.8~3.0%、Crを1.3~5.0%、Moを0.1~3.0%、Vを0.005~0.5%含有し、残部が鉄と不純物とからなり、かつ、炭化物量を制御する目的でCとCrとMoとVとの量が所定の関係式を満たすようにしたものである。
【0004】
また、耐熱衝撃性を向上させることが求められる。そのようなブレーキディスク用材料として、特許文献2に記載のようなブレーキディスク用鋼が挙げられる。Cを0.1~0.6%、Siを1.2%を超えて2.0%以下、Mnを0.2~2.0%、Niを0.8~3.0%、Crを1.0~5.0%、Moを0.5~2.0%、Vを0.05~0.5%、Alを0.001~0.10%の範囲で有し、Nを0.0015~0.020%を有し、残部が鉄と不純物とからなり、Ac3変態温度が860℃を超え、しかも、オーステナイト粒度番号が6.0以上で、かつ130MPa・m1/2以上の破壊じん性値を有することを特徴としている。
【0005】
さらには、特許文献3に記載のような、ブレーキディスクの材料として、Cを0.15%以上0.30%以下、Siを0.25%以上1.3%以下、Mnを0.3%以上、Niを0.25%以上1.0%以下、Crを0.6%以上1.0%以下、Moを0.4%以上、Vを0.05%以上0.22%以下、Alを0.10%以下、それぞれの金属の含有百分率の値から下記式(1)で示される炭素当量Ceqが0.60%以上0.86%以下であり、MnとNiとの合計が1.3%以下であり、残分が鉄と不純物とからなる鋼系材料を用いる。
【0006】
Ceq(質量%)=C+Si/24+Mn/6+Cr/5+Ni/40+Mo/4+V/14 ……(1)
【0007】
特許文献3にかかる材料の特性は、鉄を主成分とする材料は、加熱と冷却を繰り返す焼き入れによって、マルテンサイト構造への変態を起こすことがあるという事実に基づく。マルテンサイト構造は、鉄鋼系材料を一般的な方法で鋳造することで取りうる組織よりも硬さが高いが脆いため、マルテンサイト変態を起こした箇所はき裂を生じやすい。また、ブレーキディスクはブレーキパッドと摺動する箇所に集中して熱がかかるため、変態を起こすのはディスクの表面付近の一部であり、局所的な塑性変形が生じて、き裂発生に至る。ゆえに、マルテンサイト変態を起こしやすいと、耐熱衝撃性は低いものとなる。これに対して、このマルテンサイト構造への変態が起こりにくい成分比率及び他の条件を見出すことで、耐熱衝撃性を高めている。
【0008】
また、特許文献4では、C:0.1~1.30質量%、Si:2.0質量%以下、Mn:1.2質量%未満、Cr:0.20質量%超え0.90質量%未満を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有し、鋼板表面にスケール層を有すると共に、該スケール層と鋼板地鉄との間に解離層を有することを特徴とするブラシ研摩によるスケール除去性に優れる熱間圧延鋼が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005-36312号公報
【特許文献2】特許第4962294号公報
【特許文献3】特許第5472828号公報
【特許文献4】特開2006-206979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、ブレーキディスクのような摺動材は高速からの制動時、ブレーキパッドのような相手材との摩擦によって、いわゆるヒートスポットにより局所的に900℃以上の高温に昇温し、制動後には室温まで冷却という酸化を繰り返す。そのため、高温強度のみならず、常温での高いじん性を有することが求められる。さらには、制動中はディスク表面が高温に曝されるため、摺動部材表面が酸化し、酸化膜の付着、残存によって、摩擦係数が低下する傾向がある。これは、金属酸化物は金属よりも熱伝導率が低く、生成酸化物によって熱伝導が阻害され、摺動材及び相手材の表面が高温に曝され、相手材の崩壊、摩擦係数の低下がもたらされるためであると考えられる。そこで本発明は、特許文献3の材料で達成された高温での耐変形性、耐熱衝撃性及び高じん性の付与のみならず、高温での摩擦係数、即ち制動性能を維持することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、摺動材の鉄鋼系材料として、C、Si、Mn、Ni、Cr、Moを有する従来の特許文献3に記載の鋼系材料に対し、酸化膜生成やそのはく離に関与するSi、Mn、Ni、Crの含有量の最適化を図り、かつ、耐熱衝撃性向上に対しては、C、Si、Mn、Ni、Cr、Mo、V及びNbを適量含有させることで、上記の課題を解決したのである。
【0012】
具体的には、Cを0.15質量%以上0.30質量%以下、Siを0.25質量%以上1.0質量%以下、Mnを0.30質量%以上1.0質量%以下、Niを以上1.7質量%以下、Crを0.7質量%以上1.3質量%未満、Moを0.4質量%以上1.6質量%以下、Vを0.40質量%以下、Nbを0.12質量%以下、Alを0.09質量%以下、含有し、
それぞれの元素の質量含有百分率の値から下記式(1)で示される炭素当量Ceqが0.65質量%以上であり、MnとNiとの合計が1.4質量%以上、2.2質量%以下であり、残分が鉄と不純物とからなる鉄鋼系摺動材料により、目標となった値を満たすことができた。この具体的目標としては、800℃における摩擦係数が0.30以上、常温の硬さが300HV以上、引張強さが850MPa以上、700℃引張強さが200MPa以上、Ac3変態温度は850℃以上である。
【0013】
Ceq(質量%)=C+Si/24+Mn/6+Cr/5+Ni/40+Mo/4+V/14 ……(1)
【0014】
さらに、Alを0.010質量%以上含有させることで、脱酸効果を発揮し、鋳造欠陥が生じにくい材料とすることができる。
【0015】
まず、制動性能に必要な高温での摩擦係数の維持については、摺動時の表面における新たな挙動と特質を見出したことに基づく。摺動時には高温酸化によって酸化膜が生成し、相手材との摩擦、すなわち、せん断力によって酸化膜の除去(はく離)が繰り返されることが見出された。この知見に基づき、耐酸化性が高く摺動材料の酸化膜が生成しにくい方が、又は酸化膜のはく離性が高い方が、摩擦係数が高まることを見出した。
【0016】
その上で、摩擦後も残る酸化膜の厚みと、摩擦係数との間に相関関係があることを見出した。その相関関係に基づき、摩擦試験後においても残存する酸化物膜厚を判断することで、鉄鋼系摺動材料に必要な摩擦係数の範囲に調整できることがわかった。摩擦係数の目標は0.3以上であるが、それに相関が見出される酸化物膜厚によって、上記の適切と判断される配合比を見出すことが出来た。
【0017】
また、耐熱衝撃性の維持については、加熱と冷却を繰り返す焼き入れによって、熱応力と変態応力の繰返しで熱疲労が生じ、き裂発生に至る事実に基づく。熱疲労強度に優れる、即ち高温強さが高く、熱き裂が生じにくいことになる。そのために、高温強度については必須となるMo、さらに適宜添加してよいV及びNbといった微細炭化物を生成する元素を含有させ、高強度化を図った。
【0018】
なお、上記の炭素当量CeqはJIS G 0203(5103)で規定され、炭素以外の含有元素について、硬さや強度を主に向上させる影響度を、炭素の影響度に換算した値である。一般に、高ければ高いほど硬さが高くなり、それに伴い引張強さも向上する。摺動材として必要な常温引張強さに対応する炭素当量を上記の範囲とした。
【発明の効果】
【0019】
この発明にかかる鉄鋼系摺動材料により、ブレーキディスク等の摺動部材を製造すると、制動性能が高く、耐熱衝撃性を確保した、好適なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】(a)実施例における摩擦係数測定用試験材料のリング形状を示す側面図、(b)(a)の平面図、(c)(a)の斜視図
図2】実施例における摩擦係数測定用試験の配置図
図3】(a)実施例における熱サイクル試験用酸化試験片の斜視図、(b)実施例における熱サイクル試験の概略図
図4】実施例における摩擦試験での摩擦係数と残存する酸化物膜厚とをプロットしたグラフ
図5】実施例における摩擦試験での酸化物膜厚と熱サイクル試験での酸化物膜厚とをプロットしたグラフ
図6】実施例における摩擦試験での摩擦係数と熱サイクル試験での酸化物膜厚とをプロットしたグラフ
図7】(a)高摩擦係数である参考例1jの酸化物膜厚を示すSEM画像、(b)低摩擦係数である参考例1hの酸化物膜厚を示すSEM画像
図8】(a)Si含有量を変動させた際の残存酸化物膜厚を示すグラフ、(b)Mn含有量を変動させた際の残存酸化物膜厚を示すグラフ、(c)Ni含有量を変動させた際の残存酸化物膜厚を示すグラフ、(d)Cr含有量を変動させた際の残存酸化物膜厚を示すグラフ、(e)Mn+Ni含有合計量を変動させた際の残存酸化物膜厚を示すグラフ
図9】(a)Mo含有量を変動させた際の700℃引張強さを示すグラフ、(b)V含有量を変動させた際の700℃引張強さを示すグラフ、(c)Nb含有量を変動させた際の700℃引張強さを示すグラフ
図10】熱衝撃試験に用いる円柱型試験片の形状を示す図
図11】熱衝撃試験に用いる試験機の概略図
図12図11の断面図
図13】熱衝撃試験における温度変化の例を示すグラフ
図14】熱衝撃試験の結果を示す写真
図15】脱酸確認試験におけるSiの含有量の違いによる鋳造欠陥の有無を示す写真
図16】脱酸確認試験におけるAlの含有量の違いによる鋳造欠陥の有無を示す写真
図17】Mnの焼き入れ性評価試験の結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明の実施形態について具体的に説明する。
この発明にかかる鉄鋼系摺動材料は、主として鉄からなり、具体的には次のような構成からなる。なお、以下の比率は全て質量%であり、鋳造前の材料配合時の値ではなく、鋳造後に得られる摺動材料からなる摺動部材の成分そのものでの値である。
【0022】
上記の鉄鋼系摺動材料は、Cを0.15質量%以上含有することが必要である。0.15質量%未満であると、硬さ及び引張強さが不足し、摺動材料に必要な機械的性質を確保できなくなる可能性が高くなる。一方で、Cの含有量は0.30質量%以下である必要がある。Cが0.30質量%を超えると、耐熱衝撃性の低下が無視できないものとなる。より確実に耐熱衝撃性の低下を避けるには、0.25質量%以下であるとよい。また、この他に炭素当量Ceqに関与する元素を勘案しての含有率制限がある。
【0023】
上記の鉄鋼系摺動材料は、Siを0.25質量%以上含有することが必要である。Siは溶解時に脱酸効果を有し、鋳造時に鋳造欠陥を生じさせる元となる酸素を奪うことで、鋳造欠陥を抑制する効果を有する。0.25質量%未満ではこの効果が不十分となり、鋳造欠陥が生じる可能性が無視できないものとなってくる。一方で、Siが多すぎると耐熱衝撃性が低下するおそれがある。一方で、後述する酸化試験において必要な摩擦係数の値を達成する性質に対応する残存酸化物膜厚の薄さに対応するため、1.0質量%以下である必要がある。また、この他に後述する炭素当量Ceqに関与する元素を勘案しての含有率制限がある。
【0024】
上記の鉄鋼系摺動材料は、Mnを0.30質量%以上含有する必要がある。Mnは焼き入れ性向上に寄与し、0.1質量%程度含有していれば焼入れ性が低下することを回避できる。ただし、Mnが低すぎると酸化物膜厚がやや増える傾向にあるため、0.30質量%以上であることが必要となり、好ましくは0.40質量%以上である。一方、1.0質量%を超えると焼き入れ性が過大となる恐れが出てくるため、1.0質量%以下であることが必要であり、好ましくは0.8質量%以下である。
【0025】
上記の鉄鋼系摺動材料は、Niを含んでいてもよい。含有する場合、1.7質量%以下であると好ましい。1.7質量%を超えると、摺動時に残存する酸化物膜厚が許容量を超えてしまうおそれが高くなる。また、後述するMnとの合計量について、同じく残存する酸化物膜厚の許容量によってさらに限定条件を有する。
【0026】
上記の鉄鋼系摺動材料は、Crを0.7質量%以上含有する必要があり、好ましくは0.8質量%以上である。Crの量が不足していると、摺動時に残存する酸化物膜厚が許容量を超えてしまうおそれが高くなる。一方で、1.3質量%未満である必要があり、好ましくは1.2質量%以下である。多すぎても摺動時に残存する酸化物膜厚が許容量を超えてしまうおそれが高くなる。
【0027】
上記の鉄鋼系摺動材料は、Moを0.4質量%以上含有する必要がある。Moは微細炭化物(MoC)を形成し、硬さ及び引張強さ、特に高温強度の向上に寄与するが、0.4質量%未満であると、炭化物量が少なくなり、強度が不十分になってしまう。一方、Moは含有量が増えても、Crのように焼入れ性が大きくなる作用は少ないため、単独では耐熱衝撃性を保持するための上限は特に規定されない。ただし、炭素と同様の作用をわずかながら有するので、上記炭素当量の一項として、事実上の上限が存在する。また、実際には1.6質量%を超えて含有させても、高温強度向上の効果はほとんど現れなくなってしまい無駄となるので、1.6質量%以下であるとよく、好ましくは1.2質量%以下である。
【0028】
上記の鉄鋼系摺動材料は、Vを0.01質量%以上含有すると好ましい。Vは微細炭化物VCを形成し、主に耐熱変形性、すなわち高温強度向上に寄与する。Vが0.01質量%未満であると、その効果が限定的になってしまう。好ましくは0.03質量%以上である。一方で、多すぎるとコスト的にも利点がなく、0.40質量%以下に留めておくと、安定した性質向上効果が得られる。
【0029】
上記の鉄鋼系摺動材料は、Nbを含有してもよい。NbはVと同様に微細炭化物NbCを形成し、主に耐熱変形性、すなわち高温強度向上に寄与する。ただし、多すぎると予期せぬ変化を起こす可能性があり、0.12質量%以下に留めておくと、安定した性質向上効果が得られる。
【0030】
上記の鉄鋼系摺動材料は、Alを含有してもよい。含有する場合、0.010質量%以上であると好ましい。Alも脱酸効果を有し、Siよりも比較的少量で効果を発揮する。Alが0.010質量%未満であると脱酸効果が不十分となり、鋳造欠陥が生じる可能性が無視できなくなる場合がある。一方で、Al含有量が増えすぎると、靭性の低下に繋がり、また、過剰に含有しても脱酸効果への寄与はほとんど向上しないので、含有量は0.09質量%以下であることが好ましい。
【0031】
次に、上記の摺動材用材料を構成する元素のうち、Nb、Al及びFe以外の元素について、下記式(1)で示される炭素当量Ceqが、0.65%以上である関係を満足する必要がある。この炭素当量Ceqは、炭素以外の元素が性質に及ぼす影響度を炭素の影響度に換算した値であり、これが0.65%未満であると、摺動材料として必要な強度が得られない恐れがある。
【0032】
Ceq(質量%)=C+Si/24+Mn/6+Cr/5+Ni/40+Mo/4+V/14 ……(1)
【0033】
さらに、上記のブレーキディスク用材料に含まれるMnとNiとの合計量は、1.4質量%以下2.2質量%以下である必要がある。MnとNiは、熱サイクル特性に対して、一体となって寄与する。熱サイクル特性への関与について、これらの化学的性質が類似しており、変態温度を低下させる元素であるためである。合計量が1.4質量%以上であれば、残存する酸化物膜厚を維持しやすくなる。一方、多すぎても逆に酸化物膜厚が上がる傾向にある。
【0034】
上記の鉄鋼系摺動材料が含有する元素は、上記のC、Si、Mn、Ni、Cr、Mo、V、Nb、Al以外には、鉄が主成分を占めるものである。それ以外には、意図的に含めるのではなく混入されうる不純物となる元素が、この発明にかかる鉄鋼系摺動材料が必要とする性能を阻害しない範囲で含まれていることが許容される。この不純物は、鋳造のための溶湯を調整するるつぼや鋳型に残存する、大物品に適用する場合はその際に用いる取鍋に残存する、それまでに利用された溶湯に含まれていた元素が残存したものや、環境保護の点からスクラップを材料にする際に除外しきれない元素などである。
【0035】
上記の不純物となる元素の含有量は以下の通りであると好ましい。Pは0.05質量%以下であると好ましい。0.05質量%を超えると、粒界に偏析するPが高温強度を低下させ、耐熱衝撃性の低下が無視できなくなってくる。Sも0.05質量%以下であると好ましい。その他、CuやTiの他、他の元素の含有量は0.05質量%以下であると好ましい。これらの元素が含まれることで、不測の作用を発揮して、この発明にかかる鉄鋼系摺動材料の性質を阻害するおそれがあるためである。またこれらの元素が含まれる事で不要なコストアップにつながる。なお、これら不純物である元素の含有量は少ないほどよく、検出限界未満であると望ましい。
【0036】
上記の元素の含有率は、原料となる元素の配合比ではなく、鋳造後に実際に得られる物の含有率である。その具体的な測定方法はスパーク発光分析法(JIS G 1253)による。
【0037】
上記の構成である鉄鋼系摺動材料により、一般的な鋳造方法によって摺動材を製造すると、耐熱衝撃性が高く、硬度、引張強さ等の機械的性質に優れ、耐熱変形性を向上させ、常温でじん性を有し、高温摺動時にも高摩擦係数を維持することができる。
【実施例0038】
以下、この発明について実施例により具体的に検討した例を説明する。本実施例は前提として、摩擦係数と、酸化物膜の厚みとの間に有意な相関関係があることを利用し、酸化物膜の厚みによって摺動材料としての実施例に該当するか否かの評価基準とする。摩擦係数が高いことは、ブレーキディスク等の摺動部材に用いるために望まれる性質である。しかし、摩擦係数の測定は手間がかかり、全ての実施例において測定することは現実的ではない。これに対して、本発明にかかる鉄鋼系摺動材料に類する環境では、摩擦係数と、摺動時に残存する酸化物膜の厚みとの間で相関関係があることが見出された。さらに、摺動試験において生じる酸化物膜の厚みと、熱サイクル試験によって生じる酸化物膜の厚みとの間に、有意な相関関係があることが見出された。つまり残存する酸化物膜の厚みを介して、より測定負荷の小さい熱サイクル試験によって生じる酸化物膜の厚みが、摩擦係数との間に相関関係があることが確認できた。この相関関係を前提として、熱サイクル試験において観測される酸化物膜の厚みが所定の範囲に収まる例は、高い摩擦係数を維持できる材料であることを示す。
【0039】
<鋳塊の溶製と熱処理>
それぞれの実施例及び比較例において、調整した原料を1600℃まで昇温、溶解した後、溶鋼を1550℃まで冷却して、30mm×30mm×100mm高さの砂型に鋳込んで、鋳塊を作製した。同時に23mm×37mm×30mm高さの割り金型に溶鋼を鋳込んで成分分析用サンプルを採取した。鋳塊を960℃で3時間保持した後、一旦常温まで炉冷し、また950℃まで昇温して3時間保持した後常温まで水冷し、さらに650℃まで昇温して5時間保持した後、常温まで空冷する熱処理を行って、各試験に供した。
【0040】
<成分分析>
上記成分分析用サンプルを用い、JIS G 1253に規定するスパーク発光分光法により、各含有元素を測定した。以降の表において示す成分はこの値を示す。
【0041】
<摩擦係数測定>
それぞれの例にかかる試験材料を図1に示すリング1に加工した。一方、銅系焼結材を相手材として選択し、板(ディスク2)に加工した。図2に示す配置の電気炉内にて、押付圧として0.6MPa、回転数1000rpm、雰囲気:大気、温度800℃にて試験を行い、トルクから摩擦係数を算出した。また、それぞれの残存する酸化物膜の厚みをSEMにより4点測定し、その平均を残存酸化物膜厚とした。
【0042】
<熱サイクル試験(酸化試験)>
それぞれの例にかかる試験材料を、厚さ1cm、縦10cm、横10cmで、中央に吊り下げ用の穴を空けた図3(a)に示す酸化試験片に加工した。この酸化試験片を900℃に維持した電気炉内に導入し、図3(b)に示すように石英管にて吊り下げて五分間加熱した。加熱後、電気炉から取り出して三分で常温まで空冷した。冷却後再び電気炉内に導入して同様に加熱、空冷を50回繰り返した。その後、デジタルマイクロスコープにて酸化物膜の厚みを測定した。測定はそれぞれの例ごとに12点で行い、その平均を求めた。
【0043】
<摩擦係数と残存酸化物膜厚の相関関係について>
表1に示すそれぞれの例の成分比となる試験片について、摩擦係数と、摩擦試験時における残存する酸化物膜の厚み(摩擦試験残存膜厚)と、熱サイクル試験における酸化物膜の厚み(酸化試験酸化物膜厚)を測定した。その結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
この結果のうち、摩擦係数μを縦軸に、摩擦試験酸化物膜厚(μm)を横軸にとって図4のようにプロットしたところ、負の相関関係を示し、特に低摩擦になる領域ではっきりとした相関関係があることを示した。次に、酸化試験(熱サイクル試験)酸化物膜厚(μm)を縦軸に、摩擦試験酸化物膜厚(μm)を横軸にとって、図5のようにプロットしたところ、正の相関関係を示した。従って、これらを繋げて、摩擦係数μを縦軸に、酸化試験(熱サイクル試験)酸化物膜(μm)を横軸にとって図6のようにプロットした。摩擦係数μはブレーキディスク用材料として用いる場合に0.30以上であることが目標となるが、その条件に該当するには、酸化試験(熱サイクル試験)酸化物膜厚は200μm以下であればよいことが示された。従って、以後の判断において本発明にかかる鉄鋼系摺動材料として用いることができる評価条件を、上記の熱サイクル試験(酸化試験)における「酸化試験酸化物膜厚が200μm以下」であるものと設定する。これはすなわち、元の成分より摩擦係数が小さい酸化物の膜が表面に残留しにくく、あるいは剥がれやすくなり、材料そのものの高い摩擦係数を維持しやすいものを示す。
【0046】
また、上記のうち、参考例1jと参考例1hについて、摩擦試験後における表面付近の断面をSEMにて撮影した。参考例1jの写真を図7(a)に、参考例1hの写真を図7(b)に示す。摩擦係数が0.40と高い参考例1jでは摩擦試験酸化物膜の厚みが14.33μmと薄くなっている。一方、摩擦係数が0.16と低い参考例1hでは、摩擦試験酸化物膜の厚みが47.23μmと厚くなっていることが確認できた。このことから、付着して残存する酸化物膜が薄い場合は、摺動材-相手材間の熱交換が効率よく行われ、高い摩擦係数が得られていると考えられる。
【0047】
<酸化物膜による評価試験>
表2のように、主要変動元素として設定した元素の含有量を変化させ、それ以外の元素の含有量をできるだけ変動させないように調整した試験材料をそれぞれの実施例及び比較例として調製した。それぞれの試験材料について、次の試験を実施した。ただし、「0.5Si」はSiの含有量を0.5質量%前後に保って、他の要素を変動させた例群である。
【0048】
【表2】
【0049】
それぞれの主要変動元素ごとの実施例及び比較例を揃えた例群について、図8(a)~(d)のそれぞれに、該当する元素含有量を横軸に、酸化試験の酸化物膜厚(μm)を縦軸にとってプロットし、その変動をスムージングした。主要変動元素がSiのものを図8(a)、Mnのものを図8(b)、Niのものを図8(c)、Crのものを図8(d)とする。さらに、それぞれの系列について、MnとNiの合計量を横軸にとったものを図8(e)に示す。それぞれの主要元素ごとの系列において、酸化物膜厚が200μm以下であるものを実施例、超えるものを比較例とした。
【0050】
図8(a)において、Siが0.25質量%以上1.0質量%以下の範囲で酸化物膜厚が200μm以下となることが確認された。図8(b)において、Mnが0.1質量%では酸化物膜厚が200μmをわずかに超えるが、0.3質量%以上で確かに200μm以下となることが確認された。なお、Mnが1.14質量%である比較例3cはこの酸化物膜厚の評価では好ましい値となっているが、焼き入れの点で1.0質量%を超えることは好ましくないため、比較例となっている。図8(c)において、Niが1.7質量%以下の範囲で酸化物膜厚が200μm以下になることが確認された。図8(d)において、Crが0.7質量%以上1.3質量%未満の範囲で酸化物膜が200μm以下になることが確認された。図8(e)において、系統によって変動があるものの、Mn+Niが1.4質量%以上2.2質量%以下の範囲であればいずれの系列でも酸化物膜が200μm以下になることが確認された。
【0051】
<他の元素についての酸化物膜による評価試験>
表3に示すように、強度に関する含有元素(C,Mo、V及びNb)、及び脱酸に関するAlについて調製し、他の元素の含有量をできるだけ変動させない例をそれぞれ調製した。いずれの元素についても、表3に示す範囲では、酸化試験における酸化物膜厚が200μm以下になることが確認できた。
【0052】
【表3】
【0053】
<引張強さ及び0.2%耐力評価試験>
次に、表4に示す配合の材料について、次の評価を行った。常温での評価としては、JIS Z 2244(ビッカース硬さ試験)により硬さ(HV0.10)を測定し、JIS Z 2241(金属材料引張試験方法)に則り、常温での引張強さ(T.S)と0.2%耐力(Y.S)を測定した。高温での評価としてはJIS G 0567に則り、700℃にて引張強さ(T.S)と0.2%耐力(Y.S)を測定した。なお、それぞれの測定は二回ずつ行い、その平均値を示す。
【0054】
【表4】
【0055】
上記表4に示す、炭素当量0.65以上である全ての材料が、目標の常温硬さ300HV以上及び引張強さ850MPa以上を発揮できた。うち、高温強度を向上させる炭化物形成元素であるMo、V及びNbについての評価結果を、図9(a)~(c)に示すグラフとともに述べる。
【0056】
まず、Moは0.4質量%以上の含有で目標である700℃引張強さ200MPaを上回った。逆に1.2質量%以上含有しても、その効果は低下傾向にあったが、含有しない場合に比べ効果があることが確認できた。
【0057】
次に、Vはごく微量含有しても、高温強度を向上できた。Vを0.1質量%含有した例でも700℃引張強さは200MPa以上であるが、0.3質量%以上含有するとさらに引張強さが向上し、それよりさらに含有させた場合の上昇は一旦頭打ちとなった。
【0058】
さらに、実施例21a~eに示すように、高温強度を高める場合にはNbをごく微量含有しても効果が見られた。その効果は0.12質量%まで期待できることを確認した。
【0059】
<熱衝撃試験及び変態温度測定>
成分が下記の表5に示す組成の材料について、熱衝撃試験を実施し、鋼片の耐熱衝撃性を評価した。具体的には、表5に示す配合比であるそれぞれの材料を、上記と同様に溶製し、図10に示す切り欠きを有する円柱型試験片(高さ20mm、φ25±0.2)を機械加工により作製した。側面には幅6mm、深さ3mmであり、対向する一対の溝が上下方向に設けてある。上底面の中央には、深さ5mm、φ5±0.2の穴を空けてある。側面の算術平均粗さは約2.0である。
【0060】
この円柱型試験片を急加熱、急冷する熱衝撃試験機20の概略図を図11に、断面図を図12に示す。本体21は上端が開放された管厚の円筒形で、その内部に上記の試験片11を収納できる。本体21の周囲には高周波コイル31が巻き付けてあり、この高周波コイル31により、収納した試験片11を3秒で1000℃にまで加熱できる。
【0061】
本体21の上端環部には、等間隔に内部へ通じる穴が空いている。このうちの半分が空気を供給するための空気孔22であり、残りは冷却水を供給するための冷水孔23である。これらは交互に設けられている。それぞれに、空気供給管24、冷水供給管25が繋がっており、本体21の内部に張り巡らされた孔路を通じて、本体21の内周面に多数空けた空気噴出口27、冷水噴出口28へと空気及び冷水を供給して、試験片11を冷却することができる。なお、供給された水は排出管29を通じて排出される。
【0062】
この熱衝撃試験機により、図13の例に示すような急加熱と急冷とからなる温度変化を繰り返した。この温度変化はまず、高周波コイル31からの加熱により、3秒ほどで1000℃にまで昇温させる急加熱を行う。次に、高周波コイル31による加熱を停止し、冷水噴出口28からの冷水供給を20秒間行い、冷水供給の後は空冷を30秒間行う。これにより、高温化した試験片11を速やかに急冷する。このような急加熱と急冷とを繰り返す熱サイクルを50回繰り返して、割れ発生の有無を目視及び浸透探傷試験により確認した。それぞれの写真を図14に示す。
【0063】
割れの評価は、具体的に上記の熱サイクルを10回、20回、30回、50回繰り返した時点で割れの進行を観察して評価した。熱サイクル50回までに明白な割れが認められた試験片を「×」と評価する。また、「○」と評価する例は、熱サイクル50回終了時において、割れも浸透探傷の色素も認められないものである。なお、浸透探傷試験は、JIS Z 2343に従って行った。
【0064】
【表5】
【0065】
さらに、表5に記載のそれぞれの例について、AC3変態温度を測定した。AC3変態温度が高ければマルテンサイト変態が抑制され、変態応力が低減される傾向にある。表5の例では、AC3変態温度が850℃以上であれば十分な熱衝撃性を有することが確認できた。
【0066】
<脱酸効果確認試験>
脱酸が不十分な場合、除去できなかった酸素が鋳塊内に気泡(ブローホール)による鋳造欠陥として存在する。成分分析用サンプルの内部を目視確認することにより、Si及びAl含有量が脱酸効果を発揮するかを確認した。
【0067】
表6にSiの脱酸効果を確認した材料の成分を示し、それぞれの鋳塊の写真を図15に示す。Siが不足している比較例24a、24bでは鋳造欠陥が見られたが、Siが0.25質量%である実施例24では鋳造欠陥が見られず、Siによって十分な脱酸効果が発揮されることが示された。
【0068】
【表6】
【0069】
表7に、Alの脱酸効果を確認した材料の成分を示し、それぞれの鋳塊の写真を図16に示す。Alが不足している比較例25では鋳造欠陥が見られたが、Alが0.010質量%以上含有された実施例25a,25bでは鋳造欠陥が無くなり、十分な脱酸効果が発揮されることが示された。
【0070】
【表7】
【0071】
<Mnの焼入れ性評価試験>
表8にMn含有量が焼入れ性に及ぼす影響を調査した材料の成分を示す。表8の成分を有する鉄鋼系摺動材料を焼入れした後に鋳塊を切断し、焼き入れ端(鋳塊表面)からの断面硬さを測定した。その結果を図17のグラフに示す。Mnが0.1質量%以上含有することで、焼入れ性が低下することはなく、強度に影響を及ぼすことはない。なお、表面から2mm程度の範囲で何れの鋼材も焼入れ硬さが低下しているが、これは熱処理時に高温で保持されることによる脱炭のためである。
【0072】
【表8】
【符号の説明】
【0073】
1 リング
2 ディスク
11 試験片
20 熱衝撃試験機
21 本体
22 空気孔
23 冷水孔
24 空気供給管
25 冷水供給管
27 空気噴出口
28 冷水噴出口
29 排出管
31 高周波コイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17