IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本精工株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-ボールねじ装置 図1
  • 特開-ボールねじ装置 図2
  • 特開-ボールねじ装置 図3
  • 特開-ボールねじ装置 図4
  • 特開-ボールねじ装置 図5
  • 特開-ボールねじ装置 図6
  • 特開-ボールねじ装置 図7
  • 特開-ボールねじ装置 図8
  • 特開-ボールねじ装置 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156747
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】ボールねじ装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/24 20060101AFI20221006BHJP
   F16H 25/22 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
F16H25/24 B
F16H25/22 D
F16H25/22 L
F16H25/22 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060590
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チハリガ
【テーマコード(参考)】
3J062
【Fターム(参考)】
3J062AA25
3J062AB22
3J062AC07
3J062BA16
3J062CD05
3J062CD06
3J062CD47
3J062CD54
3J062CD62
(57)【要約】
【課題】ボール回路ごとの負荷分布のばらつきを抑制できるボールねじ装置を提供する。
【解決手段】ボールねじ装置において、ナットは、ナット本体と第1取付部と少なくとも3つ以上の循環部品を有する。ねじ軸は、じ軸本体と第2取付部を有する。軌道は、各循環部品に対応する少なくとも3つ以上のボール回路を有する。少なくとも3つ以上のボール回路は、中央回路と第1回路と第2回路を有する。中央回路は、ねじ軸の中心軸と平行な軸方向において、ナットの中央部に位置する。第1回路は、中央回路よりも第1方向に位置する。第2回路は、中央回路よりも第2方向に位置する。ボールは、中央回路を転動する中央ボールと、第1回路を転動する第1ボールと、第2回路を転動する第2ボールと、を有する。外周軌道面及び内周軌道面は、各条の有効径が同一である。第1ボール及び第2ボールの径は、中央ボールの径よりも小さい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端部が第1方向を指し、他端部が第2方向を指し、かつ外周面に外周軌道面が設けられたねじ軸と、
内周面に内周軌道面が設けられ、前記ねじ軸に貫通されるナットと、
前記外周軌道面と前記内周軌道面との間の軌道に配置された複数のボールと、
を備え、
前記ナットは、
筒状を成し、前記内周軌道面が設けられたナット本体と、
前記ナット本体の前記第1方向の端部に設けられた第1取付部と、
少なくとも3つ以上の循環部品と、
を有し、
前記ねじ軸は、
軸状を成し、前記外周軌道面が設けられたねじ軸本体と、
前記ねじ軸本体の前記第2方向の端部に設けられた第2取付部と、
を有し、
前記軌道は、各前記循環部品に対応する少なくとも3つ以上のボール回路を有し、
少なくとも3つ以上の前記ボール回路は、
前記ねじ軸の中心軸と平行な軸方向において、前記ナットの中央部に位置する中央回路と、
前記中央回路よりも前記第1方向に位置する第1回路と、
前記中央回路よりも前記第2方向に位置する第2回路と、
を有し、
前記ボールは、
前記中央回路を転動する中央ボールと、
前記第1回路を転動する第1ボールと、
前記第2回路を転動する第2ボールと、
を有し、
前記外周軌道面は、各条の有効径が同一であり、
前記内周軌道面は、各条の有効径が同一であり、
前記第1ボール及び前記第2ボールの径は、前記中央ボールの径よりも小さい
ボールねじ装置。
【請求項2】
前記ボール回路は、
前記中央回路と前記第1回路との間に位置する第3回路と、
前記中央回路と前記第2回路との間に位置する第4回路と、
を有し、
前記ボールは、
前記第3回路を転動する第3ボールと、
前記第3回路を転動する第4ボールと、
を有し、
前記第3ボール及び前記第4ボールの径は、前記第1ボール及び前記第2ボールの径よりも大きく、かつ前記中央ボールの径よりも小さい
請求項1に記載のボールねじ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ボールねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじ装置は、ねじ軸と、ねじ軸に貫通されるナットと、ねじ軸とナットとの間に配置される複数のボールと、を備える。ボールねじ装置は、射出成形機、プレス機などに利用される場合、回転運動を直線運動に変換する。ナットは、筒状を成し内周面にボールが転動する内周軌道面が設けられたナット本体と、ナット本体の端部に位置し他の部品が取り付けられる取付部と、を有する。
【0003】
ボールねじ装置の駆動時、ナットの取付部に軸方向の荷重が入力する。よって、ナット本体に軸方向の応力が作用し、ナット本体は軸方向に弾性変形(伸縮)する。このナット本体の弾性変形に伴い、内周軌道面が軸方向に変位する。さらに、ナット本体は、取付部に近い部分ほど、軸方向に大きく弾性変形(伸縮)する。よって、内周軌道面も取付部に近い部分ほど、軸方向に大きく変位する。この結果、取付部に近くを転動するボールは、取付部から遠くを転動するボールよりも内周軌道面から受ける荷重が大きくなる。以上から、ボールの負荷分布は、軸方向でばらつきがある。
【0004】
これに対し、特許文献1のナットの内周軌道面は、取付部に近くなるにつれて有効径が大きくなっている。言い換えると、ボールと内周軌道面との軸方向の隙間は、取付部に近づくにつれて大きくなっている。このため、応力によりナットが弾性変形したとしても、取付部の近くを転動するボールに作用する荷重が大きくならないように抑制されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5951873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ボールねじ装置の駆動時、ナットに軸方向の荷重が入力されると、ねじ軸にも反作用として軸方向の荷重が作用する。よって、ねじ軸も弾性変形するものの、特許文献1のボールねじ装置は、ねじ軸の伸縮が考慮されていない。よって、ねじ軸の伸縮を考慮し、ボール回路ごとの負荷分布におけるばらつきを抑制できるボールねじ装置の開発が望まれている。
【0007】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであり、ボール回路ごとの負荷分布のばらつきを抑制できるボールねじ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本開示の一態様に係るボールねじ装置は、ねじ軸とナットと複数のボールとを備える。ねじ軸は、一端部が第1方向を指し、他端部が第2方向を指し、かつ外周面に外周軌道面が設けられている。ナットは、内周面に内周軌道面が設けられ、前記ねじ軸に貫通される。複数のボールは、前記外周軌道面と前記内周軌道面との間の軌道に配置される。前記ナットは、筒状を成し、前記内周軌道面が設けられたナット本体と、前記ナット本体の前記第1方向の端部に設けられた第1取付部と、少なくとも3つ以上の循環部品と、を有する。前記ねじ軸は、軸状を成し、前記外周軌道面が設けられたねじ軸本体と、前記ねじ軸本体の前記第2方向の端部に設けられた第2取付部と、を有する。前記軌道は、各前記循環部品に対応する少なくとも3つ以上のボール回路を有する。少なくとも3つ以上の前記ボール回路は、中央回路と第1回路と第2回路を有する。中央回路は、前記ねじ軸の中心軸と平行な軸方向において、前記ナットの中央部に位置する。第1回路は、前記中央回路よりも前記第1方向に位置する。第2回路は、前記中央回路よりも前記第2方向に位置する。前記ボールは、前記中央回路を転動する中央ボールと、前記第1回路を転動する第1ボールと、前記第2回路を転動する第2ボールと、を有する。前記外周軌道面は、各条の有効径が同一である。前記内周軌道面は、各条の有効径が同一である。前記第1ボール及び前記第2ボールの径は、前記中央ボールの径よりも小さい。
【0009】
ボールねじ装置は、駆動時にナット本体及びねじ軸本体が弾性変形する。よって、ナットの内周軌道面のうち第1取付部に近い部分(第1回路に属する部分)は、最も軸方向に変位する量が大きい。また、外周軌道面のうち第2回路に属する部分は、第2取付部寄りに位置し、変位する量が大きい。よって、第1ボール及び第2ボールが中央ボールと同一径であると、中央ボールよりも大きな荷重が作用する可能性がある。しかしながら、本開示のボールねじ装置は、第1ボール及び第2ボールは、中央ボールよりも径が小さい。つまり、第1ボール及び第2ボールと軌道面(外周軌道面及び内周軌道面)との軸方向の隙間は、中央ボールと転動面との軸方向の隙間よりも大きい。よって、ナット本体及びねじ軸本体が応力により弾性変形しても第1ボール及び第2ボールに作用する荷重の増加が抑制され、ボール回路ごとの負荷分布が均等となる。
【0010】
また、本開示の一態様に係るボールねじ装置の望ましい態様として、前記ボール回路は、前記中央回路と前記第1回路との間に位置する第3回路と、前記中央回路と前記第2回路との間に位置する第4回路と、を有する。前記ボールは、前記第3回路を転動する第3ボールと、前記第3回路を転動する第4ボールと、を有する。前記第3ボール及び前記第4ボールの径は、前記第1ボール及び前記第2ボールの径よりも大きく、かつ前記中央ボールの径よりも小さい。
【0011】
中央ボールよりも第1方向寄りに位置する第3ボール、及び中央ボールよりも第2方向寄りに位置する第4ボールは、ナット本体及びねじ軸本体の弾性変形により大きな荷重が作用する可能性がある。しかしながら、本開示によれば、第3ボール及び第4ボールの径は、中央ボールよりも径が小さい。つまり、第3ボール及び第4ボールと軌道面との軸方向の隙間は、中央ボールと転動面との軸方向の隙間よりも大きい。よって、ナット本体及びねじ軸本体が応力により弾性変形しても第3ボール及び第4ボールに作用する荷重の増加が抑制され、ボール回路ごとの負荷分布が均等となる。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、ボール回路ごとの負荷分布のばらつきを解消され、ボールねじ装置の長寿命化を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施形態1に係るボールねじ装置の全体を示す全体図である。
図2図2は、試料1のボール回路の負荷分布である。
図3図3は、試料2のボール回路の負荷分布である。
図4図4は、試料3のボール回路の負荷分布である。
図5図5は、試料4のボール回路の負荷分布である。
図6図6は、試料5のボール回路の負荷分布である。
図7図7は、試料6のボール回路の負荷分布である。
図8図8は、試料7のボール回路の負荷分布である。
図9図9は、試料8のボール回路の負荷分布である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明を実施するための形態につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の説明で記載した内容により本開示が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0015】
図1は、実施形態1に係るボールねじ装置の全体を示す全体図である。図2は、試料1のボール回路の負荷分布である。図3は、試料2のボール回路の負荷分布である。図4は、試料3のボール回路の負荷分布である。図5は、試料4のボール回路の負荷分布である。図6は、試料5のボール回路の負荷分布である。図7は、試料6のボール回路の負荷分布である。図8は、試料7のボール回路の負荷分布である。図9は、試料8のボール回路の負荷分布である。
【0016】
図1に示すように、実施形態のボールねじ装置100は、ねじ軸1と、ナット2と、複数のボール3と、を備える。ねじ軸1は、中心軸Oを中心とする棒状部品である。以下、中心軸Oと平行な方向を軸方向と称する。ねじ軸1は、ねじ軸本体10と、第2取付部11と、を備える。ねじ軸本体10は、外周面に外周軌道面12が設けられている。外周軌道面12の溝形状は、サーキュラアークである。なお、本開示において、外周軌道面12はゴシックアークであってもよい。外周軌道面12の各条は、同一リードとなっている。外周軌道面12の各条は、有効径が全て同一となっている。第2取付部11は、ねじ軸本体10の端部に設けられている。第2取付部11は、ボールねじ装置100が利用される例えば、射出成形機、プレス機などの取付対象に取り付けられる。
【0017】
ナット2は、ナット本体20と、第1取付部21と、を備える。ナット本体20は、内周面に内周軌道面22が設けられている。内周軌道面22の溝形状は、サーキュラアークである。なお、本開示において、内周軌道面22はゴシックアークであってもよい。内周軌道面22の各条は、外周軌道面12と同一リードである。よって、外周軌道面12と内周軌道面22との間は、螺旋状の軌道4を成している。内周軌道面22の各条は、有効径が全て同一となっている。
【0018】
第1取付部21は、ナット本体20の外周面から径方向外側に突出したフランジである。第1取付部21には、例えば、射出成形機、プレス機などにおいて、軸方向に移動する対象物が取り付けられる。第1取付部21は、ナット本体20の軸方向の端部に位置している。以下、軸方向のうち、ナット本体20の軸方向の中央部から視て第1取付部21が配置されている方を第1方向X1と称する。また、軸方向のうち、第1方向X1と反対方向を第2方向X2と称する。また、ねじ軸1において、第2取付部11は、ねじ軸本体10に対し、第2方向X2に配置されている。
【0019】
ナット2は、複数の循環部品23を備える。循環部品23は、チューブである。なお、本開示のボールねじ装置においては、循環部品はコマであってもよい。実施形態の循環部品23は、軌道4のうち3.5巻き分を一つのボール回路30とし、ボール3を循環させている。軌道4は、各循環部品23に対応した複数のボール回路30を有している。実施形態においては、ナット2は、5つの循環部品23を有している。よって、本実施形態のボール回路30は、5つ(符号30A、30B、30C、30D、30Eを参照)となる。
【0020】
以下、5つの循環部品23のうち最も第1方向に配置されるものを第1循環部品23Aと称する。また、残りの4つの循環部品に関し、第1循環部品23Aから第2方向X2に配置される順に、第2循環部品23B、第3循環部品23C、第4循環部品23D、第5循環部品23E、と称する。
【0021】
また、第3循環部品23Cにより循環するボール回路30を中央回路30Cと称する。第1循環部品23Aにより循環するボール回路30を第1回路30Aと称する。第5循環部品23Eにより循環するボール回路30を第2回路30Eと称する。第2循環部品23Bにより循環するボール回路30を第3回路30Bと称する。第4循環部品23Dにより循環するボール回路30を第4回路30Dと称する。
【0022】
ボール3は、鋼球である。各ボール3は、軌道4に配置されている。言い換えると、ボール3は、各ボール回路30(30A、30B、30C、30D、30E)に配置されている。以下、中央回路30Cを転動するボール3を中央ボール(不図示)と称する。第1回路30Aを転動するボール3を第1ボール(不図示)と称する。第2回路30Eを転動するボール3を第2ボール3Eと称する。第3回路30Bを転動するボール3を第3ボール(不図示)と称する。第4回路30Dを転動するボール3を第4ボール(不図示)と称する。
【0023】
中央ボールは、所定の径のものが使用されている。そして、中央ボールは、中央回路30Cにおいて、軌道面(外周軌道面12と内周軌道面22)に対して径方向及び軸方向の隙間を有している。つまり、予圧が付与されていない状態で中央ボールが組み付けられている。
【0024】
第3ボール及び第4ボールは、中央ボールと同一の径のものが使用されている。よって、第3ボールと軌道面との径方向及び軸方向の隙間量は、中央ボールと軌道面との隙間量と同じとなっている。同様に、第4ボールと軌道面との径方向及び軸方向の隙間量は、中央ボールと軌道面との隙間量と同じとなっている。
【0025】
一方で、第1ボール及び第2ボール3Eは、それぞれ、中央ボールの径より小さい。径となっている。なお、第1ボール及び第2ボール3Eは、互いに同径となっている。よって、第1ボールと軌道面との径方向及び軸方向の隙間量は、中央ボールと軌道面との隙間量よりも大きい。同様に、第2ボール3Eと軌道面との径方向及び軸方向の隙間量は、中央ボールと軌道面との隙間量よりも大きい。
【0026】
以上、実施形態によれば、ボールねじ装置100の駆動時、第1取付部21と第2取付部11に軸方向の荷重F1、F2が作用する。そして、ナット本体20とねじ軸本体10は軸方向に弾性変形する。特に、内周軌道面22のうち第1回路30Aに属する部分は、第1取付部21に近く、大きく第2方向X2に変位する。また、外周軌道面12のうち第2回路30Eに属する部分は、第2取付部11に近いため、大きく第1方向X1に変位する。
【0027】
一方で、第1回路30Aの第1ボールは、予め軌道面(外周軌道面12と内周軌道面22)との軸方向の隙間が大きく設定されている。このため、内周軌道面22のうち第1回路30Aに属する部分が変位しても、第1ボールに作用する荷重の増加が抑制される。同様に、第2回路30Eの第2ボール3Eは、予め軌道面との軸方向の隙間が大きく設定されている。このため、内周軌道面22のうち第2回路30Eに属する部分が変位しても、第2ボール3Eに作用する荷重の増加が抑制される。よって、第1ボール及び第2ボール3Eの負荷が軽減され、ボール回路30ごとの負荷分布が均等となる。
【0028】
なお、図1の荷重F1と荷重F2の向きは、ボールねじ装置100を軸方向に圧縮する荷重となっているが、互いに反対方向を向く荷重(ボールねじ装置100を軸方向に引っ張る荷重)であっても同様の効果を得られる。
【0029】
以上、実施形態のボールねじ装置100は、ねじ軸1とナット2と複数のボール3とを備える。ねじ軸1は、一端部が第1方向X1を指し、他端部が第2方向X2を指し、かつ外周面に外周軌道面12が設けられている。ナット2は、内周面に内周軌道面22が設けられ、ねじ軸1に貫通される。複数のボール3は、外周軌道面12と内周軌道面22との間の軌道4に配置される。ナット2は、筒状を成し、内周軌道面22が設けられたナット本体20と、ナット本体20の第1方向X1の端部に設けられた第1取付部21と、少なくとも3つ以上の循環部品23と、を有する。ねじ軸1は、軸状を成し、外周軌道面12が設けられたねじ軸本体10と、ねじ軸本体10の第2方向X2の端部に設けられた第2取付部11と、を有する。軌道4は、各循環部品23に対応する少なくとも3つ以上のボール回路30を有する。少なくとも3つ以上のボール回路30は、中央回路30Cと第1回路30Aと第2回路30Eを有する。中央回路30Cは、ねじ軸1の中心軸Oと平行な軸方向において、ナット2の中央部に位置する。第1回路30Aは、中央回路30Cよりも第1方向X1に位置する。第2回路30Eは、中央回路30Cよりも第2方向X2に位置する。ボール3は、中央回路30Cを転動する中央ボールと、第1回路30Aを転動する第1ボールと、第2回路30Eを転動する第2ボール3Eと、を有する。外周軌道面12は、軸方向の部位有効径が同一である。内周軌道面22は、各条の有効径が同一である。第1ボール及び第2ボール3Eの径は、中央ボールの径よりも小さい。
【0030】
実施形態のボールねじ装置100によれば、ボール回路30ごとの負荷分布が均等となる。このため、複数のボール3のうち一部のボール3(第1回路30A及び第2回路30Eのボール3)が過大な荷重を受けてそのボール3が転動する軌道面が早期に摩耗したり剥離したりすること、言い換えると、ナット2内の負荷バランスが悪化することが抑制され、ボールねじ装置100の寿命が長くなる。
【0031】
以上、実施形態について説明したが、本開示は、実施形態で示した例に限定されない。例えば、実施形態のボール回路30は5つとなっているが、本開示のボールねじ装置は少なくても3つ以上有していればよい。よって、ボール回路30は、3つや4つ、若しくは6つ以上を有していてもよい。
【0032】
また、本開示のボールねじ装置は、実施形態で示したように、ボール回路30が中央回路30Cと第1回路30Aとの間に位置する第3回路30Bと、中央回路30Cと第2回路30Eとの間に位置する第4回路30Dとを有する場合、第3ボール及び第4ボールの径を、第1ボール及び第2ボール3Eの径よりも大きく、かつ中央ボールの径よりも小さくしてもよい。これによれば、第3ボール及び第4ボールに作用する荷重の増加も抑制される。よって、ボール回路30ごとの負荷分布をより均等とすることができる。
【0033】
なお、基準となるボール径(中央ボールの径)は、ボールねじ装置の大きさによって異なる。よって、第1ボール及び第2ボールの径と中央ボールの径との差は、基準となるボール径が大きいほど、相対的に大きくする必要がある。言い換えると、基準となるボール径自体が小さい場合、第1ボール及び第2ボールの径と中央ボールの径との差を小さく設定してもよい。また、基準となるボール径自体が大きい場合、第1ボール及び第2ボールの径と中央ボールの径との差を大きく設定する必要がある。例えば、直径が5/8inchのボールを使用する場合、第1ボール及び第2ボールの径と中央ボールの径との差は、少なくても5μm以上とする必要がある。
【0034】
また、本開示のボールねじ装置においては、ボールと軌道面(外周軌道面12と内周軌道面22)との軸方向の隙間は、ボールと軌道面との間に空間がある状態以外に、ボールと軌道面とが互いに当接し予圧が付与された状態(隙間がマイナスの状態)も適用可能である。本開示の取付部は、フランジ以外に、ナット本体20の軸方向の一端部が、外周面が軸方向から視て矩形状となっている取付部であってもよく、その形状については特に問わない。また、外周軌道面12及び内周軌道面22の各条の有効径は、同一となっているが、この同一に関し、厳密に同一となっている場合以外に、製造誤差の範囲に含まれる場合も同一に含まれる。
【0035】
次に実施例を説明する。実施例は、ボール3の径が異なる8つの試料(ボールねじ装置100)において、駆動時に各回路を転動するボール3にどのような荷重が作用するかをシミュレーションにより求めた。各試料の共通する構成として、ボール回路30を5つ(30A、30B、30C、30D、30E)有している。各ボール回路30の巻き数は、実施形態と同じように、3.5巻きとなっている。ねじ軸1の外径は100mm、ナット2の外径は145mmである。ナット2の軸方向の長さは507mmである。第1取付部21の軸方向の長さ(厚み)は42mmである。BCDは102.5mmである。初期接触角は45°、ボールねじ1単体での軸方向、径方向の隙間は0.035mmである。ヤング率は206000N/mmとした。外周軌道面12及び内周軌道面22は、面粗さRaが0.8以上であり、表面硬さHRC58以上となっている。
【0036】
また、シミュレーションにおけるボールねじ装置100の駆動時の条件は、ボールねじ装置100の第2取付部11が軸方向に移動不能に固定し、第1取付部21に第2方向X2への押圧荷重500kNを加え、ねじ軸1を回転させている。シミュレーションにより求められた各試料のボール回路の負荷分布について結果を図2から図9に示す。
【0037】
なお、図2から図9の横軸は、各ボール3の軸方向の位置を示している。詳細には、中央回路30Cの軸方向の中央部を基準点(0mm)とし、この基準点から第2方向X2に配置される場合(第2取付部11に近づく場合)を+と表記し、基準点から第1方向X1に配置される場合(第1取付部21に近づく場合)を-と表記している。また、図2から図9の縦軸は、ボール3に作用する荷重の大小を示している。図2から図9において、プロットした各点(点を参照)を繋ぎグラフ化している。
【0038】
ここで、グラフ化されたものは波形状を成している。言い換えると、ボールに作用する荷重は、ボールの軸方向の変位に対応して作用する荷重が周期的に増減している。これは、ボールねじ装置には、アキシアル荷重以外に、ラジアル方向の荷重が作用し、ボールねじ装置が撓む。すると、ボールねじ装置を断面視した場合、周方向の各部位で応力の大小が発生し、周方向の位置でボールに作用する荷重が増減するからである。つまり、折れ線グラフにおいて、波形の一周期は、ボールが周方向に一周したことを示している。なお、各ボール回路は3.5巻きであるため、増減の周期は3.5となっている。また、図2から図9に示すように、波形状のグラフは、ボール回路ごとに対応させるため、横軸方向に5つに分割している。以下、図2から図9と表1を参照しながら、試料1から試料9を考察する。
【0039】
(試料1)
試料1は、第1ボール(第1回路30A)、第3ボール(第3回路30B)、中央ボール(中央回路30C)、第4ボール(第4回路30D)、第2ボール(第2回路30E)のそれぞれの径が、5/8inchである。よって、各ボール回路30を転動するボール3の径が統一されており、試料1は従来例に相当する。
【0040】
図2に示すように、ボール3の周期が軸方向中央部(ボール位置0mm)から第1方向X1及び第2方向X2に変わるにつれて、ボール3に作用する荷重が増加する。よって、各ボール回路30のうち中央回路30Cの中央ボールの負荷が最も小さい。また、第1回路30Aのうち最も第1方向X1寄りを転動する場合と第2回路30Eのうち最も第2方向X2寄りを転動する場合、ボール3に最も負荷がかかっている。この時のボール3に作用する荷重(以下、最大玉荷重という)が3070Nである。以下で説明する試料2から試料8において、この3070Nを基準として、ボール回路30の負荷分布のばらつきが抑えられているか否かを判断する。
【0041】
(試料2)
試料2では、第1ボール、第2ボール、第3ボール、及び第4ボールの径は、5/8inchである。中央ボールの径は、5/8inch+5μmである。よって、試料2は、中央ボールの径が第1ボール及び第2ボールの径よりも大きい点で、試料1と相違する。また、中央ボールの径が第3ボール及び第4ボールの径よりも大きい点で、試料1と相違する。
【0042】
図3に示すように、試料2では、第1回路30A、第3回路30B、中央回路30C、第4回路30D、及び第2回路30Eの波形の形状は、それぞれ試料1と変わっていない。しかしながら、中央回路30Cを除く、第1回路30A、第3回路30B、第4回路30D、及び第2回路30Eの波形は、試料1と比べるとグラフの下側に移動している。また、中央回路30Cの波形は、試料1と比べるとグラフの上側に移動している。よって、各ボール回路30のうち、最も負荷が小さい回路は、試料1では中央回路30Cとなっているものの、試料2では、第3回路30Bと第4回路に変更している。また、最も負荷が大きい箇所は、依然として、第1回路30Aのうち最も第1方向X1寄りを転動する場合と、第2回路30Eのうち最も第2方向X2寄りを転動する場合であるものの、その最大玉荷重は3017Nであり、試料1よりも低減している。
【0043】
(試料3)
試料3では、第1ボール及び第2ボールの径は、5/8inchである。中央ボールの径、第3ボール、及び第4ボールは、5/8inch+10μmである。よって、試料3は、中央ボールの径が第1ボール及び第2ボールの径よりも大きい点で、試料1と相違する。また、中央ボールの径と、第1ボール及び第2ボールの径と、の差は、試料2よりも大きくなっている。
【0044】
図4に示すように、試料3の第1回路30A及び第2回路30Eの波形は、試料1と比べるとグラフの下側に大きく移動している。また、第3回路30B、中央回路30C、及び第4回路30Dの波形は、グラフの上側に移動している。このため、各ボール回路30のうち、最も負荷が小さい箇所は、第1回路30Aのうち最も第2方向X2寄りを転動する場合と、第2回路30Eのうち最も第1方向X1寄りを転動する場合となっている。また、最も負荷が大きい箇所は、第1回路30Aのうち最も第1方向寄りを転動する場合と、第2回路30Eのうち最も第2方向寄りを転動する場合とで、その最大玉荷重の値は2710Nであり、試料1よりも大きく低減している。
【0045】
(試料4、試料5)
試料4において、第1ボールの径は、5/8inchである。中央ボールの径、第2ボール、第3ボール、及び第4ボールは、5/8inch+5μmである。試料5において、第1ボールの径は、5/8inchである。中央ボールの径、第2ボール、第3ボール、及び第4ボールは、5/8inch+10μmである。よって、試料4、試料5は、中央ボールの径が第1ボールの径よりも大きい点で、試料1と相違する。
【0046】
図5に示すように、試料4の第1回路30Aの波形は、試料1と比べるとグラフの下側に移動している。また、試料4の第3回路30B、中央回路30C、第4回路30D、及び第2回路30Eの波形は、試料1と比べるとグラフの上側に移動している。このため、最も負荷が大きい箇所は、第2回路30Eのうち最も第2方向X2寄りをボール3が転動する場合で、その最大玉荷重の値は3109Nであり、試料1よりも増加している。
【0047】
図6に示すように、試料5の第1回路30Aの波形は、試料4と比べると、さらに下側に移動している。また、第3回路30B、中央回路30C、第4回路30D、及び第2回路30Eの波形は、試料4と比べると上側に移動している。そして、最も負荷が大きい箇所は、試料4と同じように、第2回路30Eのうち最も第2方向X2寄りを転動する場合で、その最大玉荷重の値は3156Nであり、試料4よりも増加した。
【0048】
(試料6)
試料6において、第1ボール及び第2ボールの径は、5/8inchである。第3ボール及び第4ボールの径は、5/8inch+20μmである。中央ボールの径は、5/8inch+25μmである。よって、試料6は、中央ボールの径が第1ボール及び第2ボールの径よりも大きい点で、試料1と相違する。また、第3ボール及び第4ボールは、中央ボールの径よりも小さく、かつ第1ボール及び第2ボールの径よりも大きい点で、試料1と相違する。
【0049】
図7に示すように、試料6の第1回路30A及び第2回路30Eの波形は、試料1と比べると、グラフの下側に大きく移動している。また、試料6の第3回路30B、中央回路30C、及び第4回路30Dの波形は、試料1と比べると、グラフの上側に移動している。そして、試料6の中央回路30Cの波形は、試料6の第3回路30B及び第4回路30Dよりも移動量が大きい。最も負荷が大きい箇所は、第1回路30Aのうち最も第1方向X1寄りを転動する場合と、第2回路30Eのうち最も第2方向X2寄りを転動する場合で、その最大玉荷重の値は2570Nであり、試料1よりも大きく低減している。
【0050】
(試料7)
試料7において、第1ボール及び第2ボールの径は、5/8inchである。第3ボール及び第4ボールの径は、5/8inch+20μmである。中央ボールの径は、5/8inch+35μmである。試料7は、中央ボールの径がさらに大きくなっている点で、試料6と相違する。
【0051】
図8に示すように、試料7の中央回路30Cの波形は、試料6と比べるとグラフの上側に移動した。また、試料7の第1回路30A、第3回路30B、第4回路30D、及び第2回路30Eの波形は、試料6と比べると下側に移動した。このため、中央回路30Cを転動する中央ボールに最も負荷がかかるようになった。そして、中央ボールの最大玉荷重は2967Nであり、試料7の場合でも最大玉荷重が試料1よりも低減した。
【0052】
(試料8)
試料8において、第1ボール及び第2ボールの径は、5/8inchである。第3ボール及び第4ボールの径は、5/8inch+20μmである。中央ボールの径は、5/8inch+37μmである。試料8は、中央ボールの径がさらに大きくなっている点で、試料7と相違する。
【0053】
図9に示すように、試料8の中央回路30Cの波形は、試料7と比べると上側に移動した。また、試料8の第1回路30A、第3回路30B、第4回路30D、及び第2回路30Eの波形は、試料7と比べると下側に移動した。よって、試料8においては、試料7と同じように、中央回路30Cの負荷が最も大きい。そして、中央ボールの最大玉荷重は、3081Nとなり、試料1よりも増加した。
【0054】
上記した試料1から試料8の最大玉荷重をまとめた表1を下記に示す。なお、表1における成否とは、試料1を基準として考えた場合、各試料の最大玉荷重が試料1よりも下がっているか否かを示している。成否の欄で「〇」であれば、その試料の最大玉荷重が下がっているということを指している。一方で成否の欄で「×」であれば、試料の最大玉荷重が上がっていることを指している。
【0055】
【表1】
【0056】
以上から、第1ボール及び第2ボールの径が中央ボールの径よりも小さい試料2、試料3、試料6、試料7、及び試料8のうち、試料8を除く、試料2、試料3、試料6、及び試料7において、最大玉荷重が試料1よりも低減した。よって、複数のボールのうち一部のボール3が過大な荷重を受けて軌道面の一部が早期に摩耗したり剥離したりする、ということを回避できることが確認された。
【0057】
また、試料4、試料5から、第1ボール及び第2ボールのうちいずれか一方だけを小径にしても、最大玉荷重が試料1よりも低減しないことが確認された。つまり、取付部(第1取付部21及び第2取付部11)が軸方向の反対側に位置する場合、第1ボール及び第2ボールの両方の径を中央ボールの径よりも小さく設定する必要があることが確認された。
【0058】
また、試料6、試料7、試料8から、第1ボール及び第2ボールの径を、中央ボールの径よりも小さくすればするほど、第1ボール及び第2ボールに作用する荷重が低減することが確認できた。また、第1ボール及び第2ボールと中央ボールとの径の差が所定値を超えると(大きすぎると)、中央ボールの方が、第1ボール及び第2ボールよりも負荷が大きくなる、という逆転の事象が発生した。そして、第1ボール及び第2ボールと中央ボールとの径の差が大きすぎると、試料8のように、中央ボールの負荷が試料1における第1ボール及び第2ボールの負荷よりも大きくなった。このため、5/8inchを基準とした場合、第1ボールと第2ボールの径は、最大35μmの範囲で、中央ボールの径よりも小さく設定すれば、複数のボールのうち一部のボール3が過大な荷重を受けて軌道面の一部が早期に摩耗したり剥離したりする、ということを回避できることが確認された。
【0059】
また、図2に示すように、従来例(試料1)によれば、中央回路から、軸方向外側に配置された回路を転動するボールほど、負荷が大きい。よって、試料2、試料6、及び試料7のように、第3ボール及び第4ボールにおいても、径を中央ボールの径よりも小さく設定すれば、第3回路30B及び第4回路30Dの負荷が軽減され、さらにボール回路30の負荷分布の均等化を図れることが確認できた。
【符号の説明】
【0060】
100 ボールねじ装置
1 ねじ軸
2 ナット
3(3E) ボール(第2ボール)
4 軌道
10 ねじ軸本体
11 第2取付部
12 外周軌道面
20 ナット本体
21 第1取付部
22 内周軌道面
23(23A、23B、23C、23D、23E) 循環部品
30(30A、30B、30C、30D、30E) ボール回路(第1回路、第3回路、中央回路、第4回路、第2回路)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9