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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156807
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】建物の増築方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20221006BHJP
【FI】
E04G23/02 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060684
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】今橋 裕里奈
(72)【発明者】
【氏名】尾山 誠
(72)【発明者】
【氏名】野村 智文
(72)【発明者】
【氏名】辻本 政志
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176AA09
2E176AA21
2E176BB34
(57)【要約】
【課題】外壁パネルがその下方にある胴差しの前面に張り出している既設建物において、当該胴差しの下方に増築部を施工するに当たり、取り外し対象の外壁パネルの数を可及的に低減でき、施工性に優れた建物の増築方法を提供すること。
【解決手段】複数階の既設建物100の外壁110の一部を撤去して増築する、建物の増築方法であり、既設建物100は、上階と下階に外壁パネル40A,40Bを備え、上階の外壁パネル40Aは上階と下階の間の胴差し10Aの前面に張り出しており、既設建物100の下階の屋外側に増築するに当たり、上階の外壁パネル40Aにおける胴差し10Aの少なくとも高さ途中レベルで外壁パネル40Aを切断して胴差し10Aの一部を露出させ、切断箇所40aを補強するA工程と、露出した胴差し10Aに対して、天井梁90を接続して増築部200を構築するB工程とを有する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数階の既設建物の外壁の一部を撤去して増築する、建物の増築方法であって、
前記既設建物は、上階と下階に外壁パネルを備え、上階の該外壁パネルは、上階と下階の間の胴差しの前面に張り出しており、
前記既設建物の下階の屋外側に増築するに当たり、上階の前記外壁パネルにおける前記胴差しの少なくとも高さ途中レベルで該外壁パネルを切断して該胴差しの一部を露出させ、切断箇所を補強する、A工程と、
露出した前記胴差しに対して、増築部の天井梁を接続して該増築部を構築する、B工程と、を有することを特徴とする、建物の増築方法。
【請求項2】
前記外壁パネルは、外壁面材と、パネルフレームと、断熱材とを少なくとも備えており、
前記A工程において、切断された前記パネルフレームを構成する左右の縦桟の下方に、補強用横桟をネジ接続することを特徴とする、請求項1に記載の建物の増築方法。
【請求項3】
前記外壁パネルは、モジュール幅の整数倍の幅を備えており、
前記胴差しにおいて、前記モジュール幅の整数倍の位置から所定幅だけセットバックした位置に前記天井梁を接続することを特徴とする、請求項1又は2に記載の建物の増築方法。
【請求項4】
前記増築部の一側面が既設建物の出隅部の近傍に位置する場合に、該出隅部にあるコーナーカバーを残した状態で、前記胴差しにおいて該出隅部の端部から内側の位置に前記天井梁を接続することを特徴とする、請求項3に記載の建物の増築方法。
【請求項5】
前記B工程において、露出した前記胴差しに対して接続金物をボルト接続し、該接続金物に対して前記天井梁をボルト接続することを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の建物の増築方法。
【請求項6】
前記A工程では、前記切断箇所において、前記外壁パネルの内部から屋外側へ雨水を排水する排水鋼板を設置することを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の建物の増築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の増築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既設建物に対して増築部を施工する場合、既設建物の外壁の一部を撤去して例えば階間の胴差しを露出させ、露出された胴差しに対して増築部の天井梁を接続し、さらに既設建物の土台に対して増築部の土台を接続し、天井梁と土台に対して外壁パネルを取り付ける方法が適用される。
【0003】
例えば二階建ての既設建物において、外壁パネルが各階でそれぞれ独立している場合(一階と二階の間の胴差しの上方に二階の外壁パネルが納まる場合)は、例えば、一階の外壁の外側に増築部を施工するに当たり、一階の外壁パネルを取り外して一階と二階の間の階間の胴差しを露出させることで足りる。一方、外壁パネルの形態として、外壁パネルがその下方にある胴差しの前面まで張り出し、下方の胴差しが二階の外壁パネルにて例えば完全に目隠しされる態様で取り付けられる形態の既設建物においては、上記するように簡単に胴差しを露出させることができない。このことを、図1乃至図4を参照して説明する。
【0004】
図1は、二階建ての既設建物に対して増築部の一例が施工された状態を示す外観斜視図であり、図2は、上下にある二つの梁(軒桁及び胴差し)と、各梁に取り付けられている外壁パネル取り付け金具の一例を示す正面図であり、図3は、外壁パネルの一例を背面斜め方向から見た斜視図である。また、図4は、図2に示す軒桁と胴差しに対して、図3に示す外壁パネルが二階の外壁パネルとして取り付けられ、胴差しに対してはさらに、別途の外壁パネルが一階の外壁パネルとして取り付けられている状態を示す正面図である。
【0005】
図1は、二階建ての軽量鉄骨造の既設建物100の外壁110の一部が撤去され、外観形状が立方体状の増築部200が施工されている例を示している。また、図2に示す例において、下方の梁10Aは一階と二階の階間にある胴差しであり、上方の梁10Bは、軒天にある軒桁であり、梁10A,10BはいずれもH形鋼により形成されている。各梁10には、異なる二種類の外壁パネル取り付け金具20A,20Bが取り付けられている。
【0006】
胴差し10Aの上フランジ11の上方に取り付けられている外壁パネル取り付け金具20Aは、胴差し10Aの上フランジ11にボルト28により固定される固定片21と、固定片21に対して直交して外壁パネル40のパネルフレーム44に当接する当接片22とを備え、当接片22には、例えば複数(図示例は二つ)の案内係合溝23が間隔を置いて開設されている。
【0007】
一方、軒桁10Bと胴差し10Aの下フランジ12の下方に取り付けられている外壁パネル取り付け金具20Bは、下フランジ12にボルト28により固定される固定片24と、固定片24に対して直交して外壁パネル40のパネルフレーム44に当接する当接片25とを備え、当接片25には、例えば複数(図示例は二つ)のボルト孔27が開設されている。
【0008】
図3に示すように、二階の外壁パネル40Aは、矩形枠状のパネルフレーム44と、パネルフレーム44に対して通気胴縁44aを介して固定されている外壁面材45とを有する。パネルフレーム44は、左右一対の縦桟41と、上下一対の横桟42とを有し、各部材が相互に溶接や釘留め、ビス留め等されることにより形成されている。ここで、外壁面材45は、複数の縦柄目地45aと横柄目地45bを表面に備えている、窯業系サイディング材等により形成される。パネルフレーム44の上方の二つの隅角部と、下方の二つの隅角部の上方近傍には、計四つのボルト孔46が開設されており、各ボルト孔46には、固定ボルト47、48が螺合されている。尚、図3において、下方の二つの隅角部には、一点鎖線で二つのボルト孔46と固定ボルト49を示しているが、一階の外壁パネル40Bは、例えば、パネルフレーム44の上方の二つの隅角部と、下方の二つの隅角部にある、計四つのボルト孔46に対して固定ボルト47、49が螺合されることになる。
【0009】
図4に示すように、二階の外壁パネル40Aは、下方の胴差し10Aに固定されている外壁パネル取り付け金具20Aの案内係合溝23に対して下方の固定ボルト48が係合され、上方の軒桁10Bに固定されている外壁パネル取り付け金具20Bのボルト孔27に対して、上方のボルト孔46が位置合わせされ、固定ボルト47を介してボルト接合されることにより、上下の軒桁10Bと胴差し10Aに固定される。この際、図4に示すように、外壁パネル40は、下方にある胴差し10Aの前面に張り出し、胴差し10Aが外壁パネル40にて完全に目隠しされる態様で取り付けられている。また、二階の外壁パネル40Aの下方には、一階の外壁パネル40Bの上方が胴差し10Aの外壁パネル取り付け金具20Bに対して固定ボルト47にてボルト接合され、一階の外壁パネル40Bの下方は、不図示の土台に取り付けられている外壁パネル取り付け金具に対して、固定ボルトによりボルト接合される。
【0010】
図3に示す外壁パネル40B,40Aをそれぞれ一階と二階に備える既設建物100において、例えば一階の外壁パネル40Bを取り外して一階と二階の間の階間の胴差し10Aを露出させ、不図示の増築部の天井梁を胴差し10Aに接続しながら増築部を施工するに当たり、図3からも明らかなように、二階の外壁パネル40Aの下方は胴差し10Aの前面まで張り出していることから、一階の外壁パネル40Bを取り外すのみでは胴差し10Aを露出させることはできず、二階の外壁パネル40Aを取り外さないと一階に増築部を施工することはできない。図示例のように既設建物100が二階の建物である場合は、二階の外壁パネル40Aを取り外すために、さらに不図示の軒天等を取り外す必要も生じ、取り外し対象の外壁パネルや部材は一層多くなる。尚、図示例では、二階の外壁パネル40Aが、下方にある胴差し10Aの前面まで張り出す形態として、二階の外壁パネル40Aが胴差し10Aの下端まで張り出している形態を示しているが、「胴差し10Aの前面に張り出す」形態には、胴差し10Aの前面の途中レベルまで張り出す形態(従って胴差し10Aの下方が露出する形態)や、胴差し10Aの下端を超えてさらに下方まで外壁パネル40Aが張り出す形態等、様々な形態が含まれ得る。
【0011】
以上のことから、外壁パネルがその下方にある胴差しの前面に張り出す形態の既設建物において、当該胴差しの下方(例えば一階)に増築部を施工するに当たり、取り外し対象の外壁パネルや部材の数を可及的に低減でき、施工性に優れた建物の増築方法が望まれる。
【0012】
ここで、特許文献1には、既設建物(ここでは、既設部分)に対して増築部(ここでは増設部分)が取り付けられている建物が提案されている。具体的には、既設の第1建築物に対してその側方に、構造上独立させて第2建築物が増設された建物であり、第2建築物は、柱及び大梁よりなるラーメン構造の建物ユニットを有し、第1建築物の横揺れ発生時に第1建築物側から第2建築物側に力を伝達することにより、第2建築物に対する第1建築物の水平方向の揺れを規制する規制部材を備え、規制部材は、一端が第2建築物のユニット躯体に固定され、他端が第1建築物に向けて延びるように設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2012-237130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1に記載の建物は、既設建物に対して増築部が取り付けられている建物ではあるものの、上記するように、二階の外壁パネルがその下方にある胴差しの前面に張り出す形態の既設建物に対する増築方法を開示するものでないことから、このような既設建物において胴差しの下方に増築部を施工するに当たり、取り外し対象の外壁パネルや部材の数を可及的に低減でき、施工性に優れた建物の増築方法を提案するものではない。
【0015】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、外壁パネルがその下方にある胴差しの前面に張り出している既設建物において、当該胴差しの下方に増築部を施工するに当たり、取り外し対象の外壁パネルや部材の数を可及的に低減でき、施工性に優れた建物の増築方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記目的を達成すべく、本発明による建物の増築方法の一態様は、
複数階の既設建物の外壁の一部を撤去して増築する、建物の増築方法であって、
前記既設建物は、上階と下階に外壁パネルを備え、上階の該外壁パネルは、上階と下階の間の胴差しの前面に張り出しており、
前記既設建物の下階の屋外側に増築するに当たり、上階の前記外壁パネルにおける前記胴差しの少なくとも高さ途中レベルで該外壁パネルを切断して該胴差しの一部を露出させ、切断箇所を補強する、A工程と、
露出した前記胴差しに対して、増築部の天井梁を接続して該増築部を構築する、B工程と、を有することを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、上階の外壁パネルが、上階と下階の間の胴差しの前面に張り出している既設建物の下階の屋外側に増築するに当たり、上階の外壁パネルにおける胴差しの少なくとも高さ途中レベルで外壁パネルを切断して胴差しの一部を露出させ、切断箇所を補強した後に、露出した胴差しに対して増築部の天井梁を接続して増築部を構築することにより、取り外し対象の外壁パネルを下階(例えば一階)の外壁パネルのみとすることができるため、取り外し対象の外壁パネルの数を可及的に低減することができ、施工性に優れた建物の増築方法となる。本態様では、上階の外壁パネルを、胴差しの少なくとも高さ途中レベルで切断することに加えて、外壁パネルの切断箇所を補強することにより、上階の外壁パネルをその途中位置で切断しながらも、切断箇所が外壁パネルの構造弱部になることを防止できる。ここで、「胴差しの少なくとも高さ途中レベル」とは、例えばH形鋼により形成される胴差しの上フランジの下端レベルや、上フランジから若干下がった高さレベル等、胴差しの高さ途中の任意レベルに加えて、胴差しの上端(例えばH形鋼の上フランジの上端)よりも高い高さレベルを含む意味である。
【0018】
また、本発明による建物の増築方法の他の態様において、
前記外壁パネルは、外壁面材と、パネルフレームと、断熱材とを少なくとも備えており、
前記A工程において、切断された前記パネルフレームを構成する左右の縦桟の下方に、補強用横桟をネジ接続することを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、外壁パネルを構成するパネルフレームの左右の縦桟の切断箇所において、補強用横桟をネジ接続することにより、外壁パネルの主構造の切断箇所を効果的に補強することができる。ここで、「外壁面材と、パネルフレームと、断熱材とを少なくとも備え」とは、外壁パネルが、外壁面材と、パネルフレームと、断熱材に加えて、外壁面材とパネルフレームの間に、例えばポリスチレン製の通気胴縁等を備えていることを意味する。外壁面材は、例えばサイディング材から形成され、このサイディング材としては、窯業系サイディング、アルミや鋼板からなる金属系サイディング、天然木を加工してなる木質系サイディング、塩化ビニル樹脂等からなる樹脂系サイディングなどが挙げられる。
【0020】
例えば軽鉄製の溝形鋼からなるパネルフレームの左右の縦桟に対して、同様に軽鉄製の溝形鋼からなる補強用横桟を下方から嵌め込み、ネジ接続することにより、溶接を適用しないことから、既設建物に居住者が居住しながら、火災リスクの無い施工が可能になる。ここで、ネジ接続のネジには、文字通りのネジの他、ビス、釘、ボルト等が含まれるものとする。
【0021】
また、本発明による建物の増築方法の他の態様において、
前記外壁パネルは、モジュール幅の整数倍の幅を備えており、
前記胴差しにおいて、前記モジュール幅の整数倍の位置から所定幅だけセットバックした位置に前記天井梁を接続することを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、露出された胴差しにおいて、外壁パネルの備えるモジュール幅の整数倍の位置から所定幅だけセットバックした位置に天井梁を接続することにより、例えば一階において増築部が施工されるエリアの外壁パネルのみを取り外すことで足り、その側方の外壁パネルの取り外しを不要にできる。
【0023】
モジュール幅(1P)とは、800mm乃至1100mmの間で、例えば1Pが910mmに設定される等、モジュール設計仕様により任意に設定可能な幅のことである。通常は、モジュール芯位置に柱や間柱が建て込まれ、これらにモジュール幅の整数倍(1倍、2倍等)の幅(1P幅や2P幅等)の外壁パネルが取り付けられる。天井梁がモジュール幅の整数倍の位置(言い換えると、モジュール芯位置であり、この整数倍には、0倍も含まれる)に設置される場合、増築部の施工エリアに隣接する外壁パネルが天井梁の取り付けの障害となることから、この隣接する外壁パネルの取り外しが余儀なくされ、取り外し対象の外壁パネルの数が増加することになる。
【0024】
そこで、本態様では、増築部の天井梁を、露出させた胴差しにおけるモジュール幅の整数倍の位置(モジュール芯位置で、0倍の位置、1倍の位置、2倍の位置等)よりも所定幅だけセットバックした位置(増築部の施工エリアの内側へセットバックした位置)に取り付けることにより、増築部の施工エリアに隣接する外壁パネルの取り外しを不要にでき、既述する上階の外壁パネルの途中位置での切断と相俟って、取り外し対象の外壁パネルの数をより一層低減することが可能になる。例えば、1Pが910mmに設定されていて、外壁パネルの幅が1P幅や2P幅に設定されている場合に、1Pの1/4の227.5mmをセットバックの所定幅に設定することができる。
【0025】
また、本発明による建物の増築方法の他の態様において、
前記増築部の一側面が既設建物の出隅部の近傍に位置する場合に、該出隅部にあるコーナーカバーを残した状態で、前記胴差しにおいて該出隅部の端部から内側の位置に前記天井梁を接続することを特徴とする。
【0026】
本態様によれば、増築部の一側面が既設建物の出隅部の近傍に位置する場合に、出隅部にあるコーナーカバーを残した状態で、胴差しにおいて出隅部の端部のモジュール芯から内側にセットバックした位置に天井梁を取り付けることにより、コーナーカバーを取り外すことなく、既設建物の出隅部の近傍に増築部を施工することができる。例えば、出隅部にある柱の柱芯(モジュール芯)から上記するP/4幅等の所定幅だけ内側へセットバックした位置に増築部の端部の天井梁を取り付ける形態が挙げられる。
【0027】
また、本発明による建物の増築方法の他の態様は、
前記B工程において、露出した前記胴差しに対して接続金物をボルト接続し、該接続金物に対して前記天井梁をボルト接続することを特徴とする。
【0028】
本態様によれば、露出した胴差しに対して接続金物をボルト接続し、接続金物に対して天井梁をボルト接続することにより、溶接を不要にしながら、既設建物の胴差しに対して増築部の天井梁を効率的に取り付けることが可能になる。例えば、外側からの施工のみでボルト接合可能なワンサイドボルトを適用することにより、溶接不要で火災リスクを解消しながら、既設建物に居住者が居住しながら増築部の施工が可能になる。
【0029】
また、本発明による建物の増築方法の他の態様において、
前記A工程では、前記切断箇所において、前記外壁パネルの内部から屋外側へ雨水を排水する排水鋼板を設置することを特徴とする。
【0030】
本態様によれば、外壁パネルの切断箇所において、例えばその通気層から外側へ通じる排水鋼板を設置することにより、既設建物の上階の外壁パネルからその下方に施工された増築部の屋根への排水経路を形成することができる。ここで、増築部の屋根は、例えば陸屋根やバルコニー等として施工される。
【発明の効果】
【0031】
以上の説明から理解できるように、本発明の建物の増築方法によれば、外壁パネルがその下方にある胴差しの前面に張り出している既設建物において、当該胴差しの下方に増築部を施工するに当たり、取り外し対象の外壁パネルの数を可及的に低減でき、優れた施工性の下で増築部を施工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】既設建物に対して増築部の一例が施工された状態を示す外観斜視図である。
図2】既設建物において、上下にある二つの梁(軒桁及び胴差し)と、各梁に取り付けられている外壁パネル取り付け金具の一例を示す正面図である。
図3】外壁パネルの一例を背面斜め方向から見た斜視図である。
図4図2に示す軒桁と胴差しに対して、図3に示す外壁パネルが二階の外壁パネルとして取り付けられ、胴差しに対してはさらに、別途の外壁パネルが一階の外壁パネルとして取り付けられている状態を示す正面図である。
図5】実施形態に係る建物の増築方法の一例を説明する工程図である。
図6図5に続いて、実施形態に係る建物の増築方法の一例を説明する工程図である。
図7図6に続いて、実施形態に係る建物の増築方法の一例を説明する工程図である。
図8図7に続いて、実施形態に係る建物の増築方法の一例を説明する工程図である。
図9図8のIX方向の矢視図である。
図10図8に続いて、実施形態に係る建物の増築方法の一例を説明する工程図である。
図11】梁に取り付けられている接続金物の拡大図である。
図12図10に続いて、実施形態に係る建物の増築方法の一例を説明する工程図である。
図13図12とともに、図10に続いて、実施形態に係る建物の増築方法の一例を説明する工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、実施形態に係る建物の増築方法の一例について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0034】
[実施形態に係る建物の増築方法]
図5乃至図13を参照して、実施形態に係る建物の増築方法の一例について説明する。ここで、図5乃至図8図10図12及び図13は順に、実施形態に係る建物の増築方法の一例を説明する工程図である。
【0035】
図1乃至図4を参照して既に説明したように、二階建ての軽量鉄骨造の既設建物100のうち、一階(下階の一例)及び二階(上階の一例)の外壁110の一部を撤去して、増築部200を施工する方法を例に取り上げて説明する。すなわち、既設建物100において、一階と二階の外壁パネル40B,40Aは、図4に示す形態で取り付けられている。
【0036】
図1に示す例では、既設建物100の一階のうち、一つのコーナー(出隅部)の近傍に増築部200が施工される。図5に示すように、既設建物100における一つのコーナーには、その長手方向に直交する横断面形状がL型のコーナーカバー50が、柱80A(図12参照)の屋外側に断熱材を介して取り付けられている。
【0037】
図5に戻り、コーナーカバー50とその側方の外壁パネル40A,40Bの間の縦目地32はモジュール芯L1に一致しており、モジュール芯L1から側方(図5の左側)へ、幅1P(ここでは、Pは910mmとする)の外壁パネル40A,40Bが上下左右に配設されている。すなわち、外壁パネル40は、モジュール幅の整数倍の幅を備えている。従って、モジュール芯L1、モジュール芯L1から1P側方(図5の左側)にある縦目地32,さらに1P側方(図5の左側)にある別途の縦目地32も、コーナー端にあるモジュール芯L1から整数倍の位置にある(モジュール芯L1も、当該モジュール芯L1から整数に含まれる0倍の位置にある)。
【0038】
二階の外壁パネル40Aの下端は、胴差し10Aの前面において胴差し10Aの下端まで張り出しており、胴差し10Aの下方において、二階の外壁パネル40Aと一階の外壁パネル40Bの間の横目地34が形成されている。
【0039】
増築部200は、図5に示すコーナーカバー50から幅2Pの範囲内に施工されるものとする。尚、増築部200の施工範囲は、コーナーカバー50から幅3P以上の範囲に設定されてもよい。図示例の増築方法においては、まず、図6に示すように、幅2Pの範囲内にある一階の外壁パネル40Bを取り外すとともに、二階の外壁パネル40Aにおける胴差し10Aの高さ途中レベル(H形鋼の上フランジの下端)で、外壁パネル40Aを切断して胴差し10Aの一部を露出させる。
【0040】
外壁パネル40Aは、図3を参照して既に説明したように、パネルフレーム44の外側に通気胴縁44aを介して外壁面材45が取り付けられることにより形成されている。より詳細には、図12等に示すように、通気胴縁44aとパネルフレーム44の間にグラスウールボード等の外張り断熱材58が取り付けられており、パネルフレーム44の内部には、グラスウール等の断熱材56が充填されている。
【0041】
図6に戻り、二階の外壁パネル40Aのうち、パネルフレーム44を形成する縦桟41を、胴差し10Aの上方にある外壁パネル取り付け金具20Aへの係合箇所の下方(胴差し10Aの上フランジの下端)にて切断し、縦桟41の下方が露出するように外壁面材45は縦桟41の切断下端よりも上方で切断することにより、胴差し10Aの上方に外壁パネル40Aの切断箇所40aを形成する。
【0042】
また、従来の増築方法において、一つのコーナーに増築部を施工する場合は、コーナーカバーも撤去し、モジュール芯L1を増築部の天井梁の梁芯とする施工が行われるのが一般的であるが、図示例の増築方法では、コーナーカバー50を取り外すことなく増築部を施工できることから、コーナーカバー50は残されている。
【0043】
切断箇所40aにおいて、パネルフレーム44は下方の横桟42(図3参照)が撤去されていることから、パネルフレームの剛性が低下している。そこで、まず、図7に示すように、補強用横桟60を左右の縦桟41の内部に差し込み、図9に示すようにドリルネジ60bにより縦桟41に固定してパネルフレーム44を補強する。
【0044】
補強用横桟60は、パネルフレーム44の縦桟41等と同様に溝形鋼等により形成され、図9に示すように、溝形鋼のウェブの背面に取り付け片60aを備え、溝形鋼の開口を下方へ向けた姿勢で取り付け片60aと縦桟41のウェブの内側面を当接させ、ドリルネジ60bを介して固定する。
【0045】
パネルフレーム44の下方を補強用横桟60にて補強した後、図8に示すように、パネルフレーム44の縦桟41の露出面に対して、下地横桟61,62を相互に隙間を空けてビス63にて取り付ける。そして、図9に示すように、外壁パネル40Aの切断箇所40aにおける通気胴縁44aの下方の下地横桟61の背面から、下方の下地横桟62の露出面に亘る側面視略Z型の排水鋼板65を取り付ける。
【0046】
この排水鋼板65により、外壁パネル40Aの通気胴縁44aにより形成される通気層44bをX1方向へ流下する雨水を、排水鋼板65の外側面に沿うX2方向の排水経路で排水することが可能になる。排水鋼板65の下方には、図1に示す増築部200の屋根が配設されるが、この屋根は、例えば図示例のような陸屋根やバルコニーとして施工される。
【0047】
排水鋼板65を取り付けた後、上方の下地横桟61を目隠しするべく、図9に示すようにピース状外壁面材45'をY1方向に取り付ける(以上、A工程)。尚、図9には、外壁パネル40Aの室内側にある、内壁用のパネルフレーム55と、充填された断熱材56,パネルフレーム55の室内側面に固定されている石膏ボード57,二階の床材59等が図示されている。
【0048】
次に、図10に示すように、胴差し10Aのウェブ13の側面に対して、増築部の天井梁90(図12及び図13参照)を取り付けるための接続金物70を、ワンサイドボルト75により固定する。
【0049】
図11に拡大して示すように、接続金物70は、コの字片71と、コの字片71の両端から側方へ伸びる左右の側片72とを有する、平面視ハット型で鋼製の金物である。ウェブ13に開設されている不図示のボルト孔と側片72に開設されている不図示のボルト孔が位置合わせされ、双方のボルト孔にワンサイドボルト75が螺合されるようになっている。
【0050】
コの字片71には、複数(図示例は六つ)のボルト孔73が開設されている。図12に示すように、増築部の天井梁90はH形鋼により形成され、H形鋼の端部にエンドプレート91が取り付けられている。コの字片71の各ボルト孔73の背面には締結ナット76が予め固定されており、エンドプレート91をコの字片71に当接させ、エンドプレート91に開設されている不図示のボルト孔をコの字片71のボルト孔73に位置合わせし、ボルト77を螺合することにより、接続金物70を介して胴差し10Aに増築部の天井梁90が接続される。
【0051】
接続金物70を胴差し10Aに対してワンサイドボルト75にて接続すること、接続金物70に対して天井梁90をボルト接続すること、さらに、既述するように、縦桟41に対して補強用横桟60をドリルネジ60bにより固定すること等、図示例の増築方法では、部材同士の接続において溶接を不要にしている。このことにより、既設建物100に居住者が居住しながら、火災リスクの無い増築部200の施工が可能になる。
【0052】
図10に戻り、胴差し10Aに対する一方(図10の右側)の接続金物70の取り付け位置は、コーナーカバー50の側方にあるモジュール芯L1からP/4(1Pはモジュール幅でここでは910mm)セットバックした位置(L3の位置)であり、胴差し10Aに対する他方(図10の左側)の接続金物70の取り付け位置は、コーナーカバー50の側方のモジュール芯L1からモジュール幅の二倍(2P)のモジュール芯L4からP/4セットバックした位置(L6の位置)である。尚、図12は、モジュール芯L1とセットバック位置L3の関係を平面的に示しており、図13は、モジュール芯L4とセットバック位置L6の関係を平面的に示している。
【0053】
図10に戻り、増築部の天井梁90の取り付け位置を、モジュール芯L1、L4からそれぞれ所定幅セットバックした位置としたことにより、コーナーカバー50を残すことができ、さらには、モジュール芯L4の左側の外壁パネル40A,40Bの取り外しを不要にできる。
【0054】
既に説明したように、A工程では、二階の外壁パネル40Aにおける胴差し10Aの高さ途中レベルで外壁パネル40Aを切断して胴差し10Aの一部を露出させることにより、二階の外壁パネル40Aの取り外しや、軒天等の取り外しを不要にできる。このことに加えて、増築部の天井梁90の取り付け位置をモジュール芯から所定幅セットバックした増築部の施工範囲内の位置とすることで、コーナーカバー50の取り外しや増築部200の側方の外壁パネル40の取り外しをさらに不要にできる。これらのことから、増築部200の施工に際して施工範囲が広がることを抑制でき、施工性に優れた増築方法となる。
【0055】
図12及び図13に示すように、モジュール芯L1、L4からセットバックした位置L3,L6に増築部200の柱80Cを建て込み、胴差し10Aに取り付けられている接続金物70に対して天井梁90をボルト接合して、接続金物70と柱80Cに架け渡す。
【0056】
図12に示すように、増築部200をコーナーカバー50からP/4セットバックさせたことにより、増築部200のコーナーカバー側の端部は入隅部を形成するが、コーナーカバー50の側方にピース状外壁面材45"を取り付け、増築部の外壁パネル40Cを、その一端をピース状外壁面材45"の表面に当接させるようにして取り付ける。この際、増築部の外壁パネル40Cとピース状外壁面材45"の界面には、平面視L型の排水鋼板66とこれにプレセットされている止水材67を介在させることにより、入隅部における止水構造を形成する。
【0057】
一方、図13に示すように、増築部200のコーナーカバーと反対側の端部も入隅部を形成するが、増築部の外壁パネル40Cを、その一端を既設建物100の外壁パネル40Bの表面に当接させるようにして取り付ける。この際、増築部の外壁パネル40Cと既設建物100の外壁パネル40Bの界面には、平板状の排水鋼板68とこれにプレセットされている止水材69を介在させることにより、入隅部における止水構造を形成する。
【0058】
尚、図12には、モジュール芯L1から1Pの位置に柱80B(間柱)があり、各柱80A,80Bの室内側に内壁用のパネルフレーム55と石膏ボード57が取り付けられている状態が示されている。また、図12図13に示すように、天井梁90の下方には、不図示の内壁用のパネルフレームが取り付けられ、このパネルフレームに対して石膏ボード57が取り付けられる。図示を省略するが、図12図13に示す各柱80Cに亘る増築部の外壁パネルがさらに取り付けられ、増築部200の屋根(陸屋根やバルコニー等)が施工されることにより、増築部200を構築する(以上、B工程)。
【0059】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0060】
10A:梁(胴差し)
10B:梁(軒桁)
11:上フランジ
12:下フランジ
13:ウェブ
20A,20B:外壁パネル取り付け金具
21,24:固定片
22,25:当接片
23,26:案内係合溝
27:ボルト孔
28:ボルト
32:縦目地
34:横目地
40:外壁パネル
40A:二階の外壁パネル
40B:一階の外壁パネル
40C:増築部の外壁パネル
40a:切断箇所
41:縦桟
42:横桟
44:パネルフレーム
44a:通気胴縁
44b:通気層
45:外壁面材
45':ピース状外壁面材
45":ピース状外壁面材
45a:縦柄目地
45b:横柄目地
46:ボルト孔
47,48,49:固定ボルト
50:コーナーカバー
55:パネルフレーム
56:断熱材
57:石膏ボード
58:外張り断熱材
59:床材
60:補強用横桟
60a:取り付け片
60b:ネジ
61,62:下地横桟
63:ビス
65:排水鋼板
66,68:排水鋼板
67,69:止水材
70:接続金物
71:コの字片
72:側片
73:ボルト孔
75:ボルト(ワンサイドボルト)
76:締結ナット
77:ボルト
80A,80B,80C:柱
90:天井梁
91:エンドプレート
100:既設建物
110:外壁
200:増築部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13