(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156817
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】固定式等速自在継手
(51)【国際特許分類】
F16D 3/84 20060101AFI20221006BHJP
【FI】
F16D3/84 R
F16D3/84 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060696
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】小原 美香
(57)【要約】
【課題】取り扱い性に優れた固定式等速自在継手を低コストに実現する。
【解決手段】外側継手部材2に取り付けられた大径筒部21、内側継手部材3と一体回転可能な軸部材10に取り付けられた小径筒部22、および蛇腹部23が可撓性材料で一体に型成形されたブーツ20を備える固定式等速自在継手1において、ブーツ20は、ボール4の脱落が生じる作動角以上に両継手部材2,3が相対的に角度変位するのを規制する規制部26を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側継手部材および内側継手部材と、
両継手部材の相対的な角度変位を許容しながら両継手部材の間でトルクを伝達する複数のボールと、
前記ボールを保持した保持器と、
前記内側継手部材と一体回転に設けられた軸部材と、
前記外側継手部材の外周面に取り付けられた大径筒部、前記軸部材の外周面に取り付けられた小径筒部、および前記大径筒部と前記小径筒部の間に設けられ、両継手部材が相対的に角度変位するのに伴って弾性的に伸縮および屈曲変形する蛇腹部を有し、前記大径筒部、前記小径筒部および前記蛇腹部が可撓性材料で一体に型成形されたブーツと、
を備えた固定式等速自在継手において、
前記ブーツに、前記ボールの脱落が生じる作動角以上に両継手部材が相対的に角度変位するのを規制する規制部が設けられていることを特徴とする固定式等速自在継手。
【請求項2】
前記規制部は、前記大径筒部と前記蛇腹部の間に設けられた環状凹部に充填した樹脂材料を硬化させることで形成されている請求項1に記載の固定式等速自在継手。
【請求項3】
前記規制部は、前記大径筒部と前記蛇腹部の間に設けられた環状凹部に環状部材を嵌合することで形成されている請求項1に記載の固定式等速自在継手。
【請求項4】
前記環状部材は、取り外し可能な状態で前記環状凹部に嵌合されている請求項3に記載の固定式等速自在継手。
【請求項5】
前記環状部材の断面形状と前記環状凹部の断面形状が合致している請求項3又は4に記載の固定式等速自在継手。
【請求項6】
前記規制部が、前記外側継手部材と軸方向で当接した当接面を有する請求項1~5の何れか一項に記載の固定式等速自在継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定式等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、エンジンや電動モータなどの駆動源を車台上に搭載した自動車には、駆動源の出力(トルク)を車輪に伝達するために、ドライブシャフトやプロペラシャフトなどの動力伝達装置が搭載される。この動力伝達装置は、駆動軸および従動軸の二軸を連結し、かつ連結した二軸が作動角をとっても(相対的に角度変位しても)等速でトルクを伝達可能な等速自在継手を備える。等速自在継手は、連結した二軸の角度変位のみを許容する固定式等速自在継手と、連結した二軸の角度変位および軸方向変位を許容する摺動式等速自在継手とに大別される。
【0003】
固定式等速自在継手の使用時(自動車の運転走行時)に必要とされる作動角の最大値(最大作動角)は、以下に例示するように用途毎に異なっている。
・自動車のフロントドライブシャフト用:45°以上
・自動車のリアドライブシャフト用:30°以下
・自動車のプロペラシャフト用:10°以下
このように、リアドライブシャフト用やプロペラシャフト用の固定式等速自在継手の使用時の最大作動角は、フロントドライブシャフト用の固定式等速自在継手のそれに比べて小さい。そのため、リアドライブシャフト用やプロペラシャフト用の固定式等速自在継手においては、通常、フロントドライブシャフト用の固定式等速自在継手よりも軸方向寸法(トラック溝の溝長さ)が短縮された小型の外側継手部材が使用される。
【0004】
ところで、固定式等速自在継手は、外側継手部材および内側継手部材と、両継手部材の角度変位を許容しながら両継手部材の間でトルクを伝達する複数のボールと、ボールを保持したポケット部を有する保持器と、内側継手部材と一体回転可能に内側継手部材に連結された軸部材と、を備える。この固定式等速自在継手は、概ね、以下の手順で組み立てられるのが一般的である。
(1)外側継手部材(のカップ部)の内周に内側継手部材および保持器を組み込む。
(2)外側継手部材と内側継手部材を相対的に角度変位させ、外側継手部材の外側に露出した保持器のポケット部にボールを組み込む。
(3)最後に、内側継手部材に軸部材を連結する。
【0005】
上記手順で組み立てられたフロントドライブシャフト用の固定式等速自在継手では、通常、ボールを組み込むときの作動角(逆に言えば、ボールの脱落が生じる作動角)よりも小さい作動角で内側継手部材に連結された軸部材が外側継手部材の開口側端部に干渉するため、搬送時や自動車への組付時等の取り扱い時に、ボールが外側継手部材のトラック溝から外れて脱落することはない。一方、軸方向寸法が短縮された小型の外側継手部材が使用されるリアドライブシャフト用(あるいはプロペラシャフト用)の固定式等速自在継手では、軸部材が外側継手部材の開口側端部と干渉する作動角がボールの脱落が生じる作動角よりも大きくなることから、何らの対策も講じられていなければ、取り扱い時にボールが脱落するおそれがある。
【0006】
そこで、例えば、特開平3-113124号公報(特許文献1)では、軸部材に、外側継手部材の底部側に延長した延長部を設け、この延長部と外側継手部材の底部に設けた凹部とを最大作動角で当接(干渉)させるようにした固定式等速自在継手が提案されている。また、特開2001-280359号公報(特許文献2)では、最大作動角で外側継手部材の開口側端面に当接(干渉)可能な環状突起を軸部材に一体的に設けた固定式等速自在継手が提案されている。これらの固定式等速自在継手では、外側継手部材と内側継手部材(に連結された軸部材)の相対的な角度変位量が最大作動角以下に規制されるので、取り扱い時にボールが脱落するのを効果的に防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3-113124号公報
【特許文献2】特開2001-280359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の技術手段を採用すると、軸部材が長寸化する分、軸部材の重量が増加するため、外側継手部材の軸方向寸法を短縮することで得られた軽量化の効果が薄れることが懸念される。また、特許文献2のように、外側継手部材の開口側端面と干渉可能な環状突起を有する軸部材を得ようとすると、直径寸法(体積)の大きい棒状素材に切削加工等の機械加工を施す必要があるため、材料コストおよび加工コストが大幅に増加することが懸念される。
【0009】
以上の実情に鑑み、本発明は、取り扱い時におけるボールの脱落を防止することができる固定式等速自在継手を低コストに実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために創案された本発明は、外側継手部材および内側継手部材と、両継手部材の相対的な角度変位を許容しながら両継手部材の間でトルクを伝達する複数のボールと、ボールを保持した保持器と、内側継手部材と一体回転可能に設けられた軸部材と、外側継手部材の外周面に取り付けられた大径筒部、軸部材の外周面に取り付けられた小径筒部、および大径筒部と小径筒部の間に設けられ、両継手部材が相対的に角度変位するのに伴って弾性的に伸縮および屈曲変形する蛇腹部を有し、大径筒部、小径筒部および蛇腹部が可撓性材料で一体に型成形されたブーツと、を備える固定式等速自在継手において、ブーツに、ボールの脱落が生じる作動角以上に両継手部材が相対的に角度変位するのを規制する規制部が設けられていることを特徴とする。なお、本発明でいう「可撓性材料」とは、例えば、熱可塑性エラストマーを主成分とする樹脂材料、あるいはゴムを主成分とするゴム材料等、弾性的な伸縮および屈曲変形を繰り返し行うことができる材料を言う。
【0011】
このように、ボールの脱落が生じる作動角以上に両継手部材が相対的に角度変位するのを規制する規制部を、可撓性材料で(筒状に)型成形されるブーツに設けるようにすれば、鋼材等、加工に手間を要する材料で作製されるのが一般的な外側継手部材、内側継手部材および軸部材に形状的な工夫を凝らすことなく、所望の変位規制機能を果たすことのできる規制部を低コストにかつ安定的に得ることが可能となる。これにより、取り扱い時にボールが脱落せず、取り扱い性に優れた固定式等速自在継手を低コストに実現することができる。
【0012】
規制部は、例えば、大径筒部と蛇腹部の間に設けられた環状凹部に充填した樹脂材料を硬化させることにより、あるいは、大径筒部と蛇腹部の間に設けられた環状凹部に環状部材を嵌合することにより形成することができる。蛇腹部は、谷部と山部が軸方向に交互に配置された形態を有するので、型成形された蛇腹部の一部を上記の環状凹部として活用することができる。
【0013】
上記の環状部材としては、例えば、上記の可撓性材料(ブーツの成形用材料)で継ぎ目(連結部分)のない環状形態に形成されたものや、周方向に沿って配置された複数の円弧状部材を連結することで環状形態に形成されるもの、を採用することができる。このような環状部材であれば、環状凹部に対して容易に嵌合することができる。
【0014】
ブーツの環状凹部に環状部材を嵌合することで規制部を形成する場合、環状部材の断面形状を環状凹部の断面形状に合致させるのが好ましい。このようにすれば、環状凹部と環状部材の断面形状が合致しない場合に比べ、規制部の剛性を高めることができるので、所望の変位規制機能を適切に発揮する上で有利となる。
【0015】
以上の構成において、規制部には、外側継手部材と軸方向で当接(係合)した当接面を設けることができる。このようにすれば、ブーツの規制部が外側継手部材で軸方向に支持されるので、規制部の姿勢が安定する。そのため、所望の変位規制機能を安定的に発揮する上で有利となる。
【発明の効果】
【0016】
以上のことから、本発明によれば、取り扱い時にボールが脱落し難く、取り扱い性に優れた固定式等速自在継手を低コストに実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る固定式等速自在継手の縦断面図である。
【
図2】
図1に示す固定式等速自在継手の組立方法を説明するための図である。
【
図3】
図1に示す固定式等速自在継手が作動角をとった状態を示す断面図である。
【
図4】本発明の他の実施形態に係る固定式等速自在継手の縦断面図である。
【
図5】本発明の他の実施形態に係る固定式等速自在継手の縦断面図である。
【
図6】
図5に示す固定式等速自在継手が作動角をとった状態を示す断面図である。
【
図7】本発明の他の実施形態に係る固定式等速自在継手の縦断面図である。
【
図8】(a)図は、
図7のP-P線矢視断面図であり、(b)図は、(a)図に示す環状部材とは異なる環状部材を用いた場合における
図7のP-P線矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面(
図1-
図8)に基づいて説明する。
【0019】
図1に、本発明の一実施形態に係る固定式等速自在継手1の縦断面図(部分縦断面図)を示す。この固定式等速自在継手1は、自動車の車台上に搭載されたエンジンや電動モータ等の駆動源の出力(トルク)を後輪に伝達するために、自動車の車幅方向に沿って配置されるドライブシャフト(リアドライブシャフト)の構成要素として用いられるものであり、リアドライブシャフトの車幅方向外側(車輪側)の端部に配置される。リアドライブシャフトは、上記自動車の車幅方向内側の端部に配置される図示外の摺動式等速自在継手と、固定式等速自在継手1と、両等速自在継手をトルク伝達可能に連結した軸部材10とを備える。なお、以下では、固定式等速自在継手1を単に「等速自在継手1」とも言う。
【0020】
図1に示す等速自在継手1は、外側継手部材2および内側継手部材3と、両継手部材2,3の相対的な角度変位を許容しながら両継手部材2,3の間でトルクを伝達する複数のボール4と、ボール4を保持した保持器5と、内側継手部材3と一体回転可能に内側継手部材3に連結された上記の軸部材10とを備える。
【0021】
外側継手部材2は、有底椀状のカップ部およびカップ部の底部から軸方向外向きに延びた軸部を一体に有し、カップ部の球状内周面2aには、ボール4の個数に応じた複数のトラック溝2bが周方向等間隔で形成されている。この外側継手部材2は、例えば、炭素鋼や合金鋼などといった炭素含有量0.20~0.45質量%の鋼材で形成されており、少なくともカップ部の内径側表層部や軸部の自由端側の表層部などといった高い機械的強度が必要とされる部位には、熱処理による硬化層(図示せず)が形成されている。
【0022】
内側継手部材3は、外側継手部材2と同種の鋼材で環状に形成され、外側継手部材2のカップ部の内周に配置されている。内側継手部材3の球状外周面3aには、ボール4の個数に応じた複数のトラック溝3bが周方向等間隔で形成されている。
【0023】
複数のボール4は、それぞれ、対をなすトラック溝2b,3bの間に介在し、外側継手部材2と内側継手部材3の間でトルクを伝達する。ボール4の個数は、6個又は8個とするのが一般的であるが、10個や12個とすることも可能である。
【0024】
保持器5は、金属又は樹脂材料で環状に形成され、外側継手部材2の球状内周面2aと内側継手部材3の球状外周面3aの間に配置される。保持器5には、その球状外周面および球状内周面に開口したポケット部5aが周方向等間隔で複数形成されており、各ポケット部5aはボール4を個別に保持している。
【0025】
内側継手部材3の内周面(軸孔の内壁面)には雌スプライン3cが形成され、この雌スプライン3cには軸部材10の一端外周面に形成された雄スプライン10aが嵌合している。これにより、内側継手部材3と軸部材10が一体回転する。また、軸部材10には環状溝10bが形成され、この環状溝10bに嵌合された止め輪11が軸部材10の抜け方向で内側継手部材3と係合している。これにより、軸部材10が内側継手部材3に対して抜け止めされている。軸部材10には、例えば、外側継手部材2と同様の鋼材で形成された中空軸又は中実軸が用いられ、少なくとも雄スプライン10aが形成された部位には、熱処理による硬化層(図示せず)が形成されている。
【0026】
図示は省略しているが、等速自在継手1(外側継手部材2のカップ部)の内部空間にはグリース等の潤滑剤が封入されている。潤滑剤の外部漏洩や継手外部からの異物侵入を防止するため、外側継手部材2と軸部材10の間には筒状のブーツ20が装着されている。
【0027】
本実施形態のブーツ20は、熱可塑性エラストマーを主成分とする樹脂材料を用いて筒状に型成形されたいわゆる樹脂ブーツであり、ブーツバンド12を用いて外側継手部材2のカップ部の外周面に固定された大径筒部21と、ブーツバンド13を用いて軸部材10の外周面に固定された小径筒部22と、大径筒部21と小径筒部22の間に介在する蛇腹部23と、を一体に有する。蛇腹部23は、谷部24と山部25を軸方向に交互に配置することで形成されており、内側継手部材3(に連結された軸部材10)が外側継手部材2に対して相対的に角度変位して等速自在継手1に作動角が付与されると、これに追従して弾性的に伸縮および屈曲変形する。
【0028】
上記の熱可塑性エラストマーとしては、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリスチレン系、フッ素系などといった公知の熱可塑性エラストマーの中から、耐熱性、耐油性および屈曲耐久性などといった種々の要求特性を満足し得るものが選択使用される。また、所定形状のブーツ20を得ることができれば、ブーツ20の成形方法に制約はなく、インジェクションブロー成形、プレスブロー成形、ダイレクトブロー成形などといった公知の各種ブロー成形の他、射出成形を採用することも可能である。図示例のブーツ20は、ブロー成形と射出成形を組み合わせて成形されたものである。
【0029】
以上の構成を有する等速自在継手1に作動角が付与されると、保持器5(のポケット部5a)に保持されたボール4は、両継手部材2,3の軸線がなす角度(作動角)を二等分する平面上に常に案内される。これにより、外側継手部材2と内側継手部材3の間でトルクが等速で伝達される。
【0030】
ところで、操舵輪とされる前輪に駆動源のトルクを伝達するフロントドライブシャフト用の固定式等速自在継手は、使用時(運転走行時)に45°以上の作動角をとり得ることが必要とされるのに対し、リアドライブシャフト用である本実施形態の等速自在継手1は、使用時に20°程度の作動角をとることができれば足りる。つまり、フロントドライブシャフト用の固定式等速自在継手の使用時の最大作動角θMAXは45°以上(例えば47°)であるのに対し、本実施形態の等速自在継手1の使用時の最大作動角θMAXは20°程度であることから、外側継手部材2のトラック溝2bのうち、20°を超える作動角をとるために必要となるカップ部の開口側に形成される部分が、本実施形態の等速自在継手1においては不要である。そのため、外側継手部材2には、トラック溝2bの溝長さ、すなわち軸方向寸法がフロントドライブシャフト用の固定式等速自在継手のそれよりも短縮されたものが使用されている。
【0031】
一方、等速自在継手1の組立時には、
図2に示すように、外側継手部材2と内側継手部材3の軸線がなす角度(作動角)を使用時の最大作動角θ
MAX(≒20°)よりも大きくすることにより、保持器5のポケット部5aを外側継手部材2のカップ部の外側に露出させ、この露出したポケット部5aにボール4を収容するようにして両継手部材2,3の間(対をなすトラック溝2b,3bの間)にボール4が組み込まれる。
図2においては、ボール4を組み込むときの作動角(ボール組込角)θ
Aを45°としている。両継手部材2,3の間にボール4を組み込んだ後には、内側継手部材3に対して軸部材10が連結され、さらにブーツ20の大径筒部21および小径筒部22が、それぞれ、ブーツバンド12,13を用いて外側継手部材2および軸部材10の外周面に取り付けられる。
【0032】
上記の手順で組み立てられた等速自在継手1の取り扱い時(搬送時や車両への組み付け時等)には、外側継手部材2、軸部材10が連結された内側継手部材3、複数のボール4および保持器5が自重等によって自由に変位・移動可能な状態となっている。そのため、何らの対策も講じられていなければ、使用時の最大作動角θMAXが20°以下とされる等速自在継手1であっても、作動角がボール組込角θAを超えてしまい、ボール4が外側継手部材2のトラック溝2bから外れて脱落する可能性がある。
【0033】
そこで、本実施形態の等速自在継手1においては、ブーツ20に工夫を凝らすことにより、特に取り扱い時に発生し得るボール4の脱落問題を防止するようにしている。詳細には、
図1および
図3に示すように、ボール4の脱落が生じる作動角(=上記の「ボール組込角θ
A」)以上に外側継手部材2と内側継手部材3が相対的に角度変位するのを規制する規制部26をブーツ20(より詳細には、ブーツ20を構成する大径筒部21と蛇腹部23の間)に設けている。
【0034】
図3では、外側継手部材2と内側継手部材3が、使用時の最大作動角θ
MAX(≒20°)よりも大きく、かつボール組込角θ
A(=45°)よりも小さい作動角をとったとき、具体的には、両継手部材2,3の間の作動角が35°となった時に、ボール4(詳細には蛇腹部23の伸長変形側に配置されたボール4)が規制部26に干渉すると共に、軸部材10が蛇腹部23(圧縮変形した蛇腹部23)を介して規制部26に干渉することにより、ボール4の脱落が生じる作動角以上に両継手部材2,3が相対的に角度変位するのを規制する場合を例示している。
【0035】
なお、ボール4が規制部26に干渉することにより、あるいは軸部材10が蛇腹部23を介して規制部26に干渉することにより、ボール4の脱落が生じる作動角以上に両継手部材2,3が相対的に角度変位するのが規制される場合もある。すなわち、ブーツ20の規制部26には、
図3に例示するようにボール4および軸部材10が同時(略同時)に干渉する場合がある他、ボール4が優先的に干渉する場合や、軸部材10が優先的に干渉する場合がある。何れの場合においても、ボール4の脱落が生じる作動角以上に両継手部材2,3が相対的に角度変位する事態は規制される。後述する他の実施形態においても同様である。
【0036】
本実施形態の規制部26は、ブーツ20に型成形された環状凹部に樹脂材料を充填して硬化させることによって形成されている。ここでは、型成形された複数の谷部24と山部25を有する蛇腹部23のうち最も大径筒部21に接近した位置にある谷部24(第1谷部24a)に樹脂材料を充填して硬化させることにより規制部26が形成されている。従って、本実施形態の規制部26は、環状凹部としての第1谷部24aと、第1谷部24a内で硬化した樹脂部27とで構成される。この場合、規制部26は、蛇腹部23よりも剛性が高く、両継手部材2,3が角度変位したときの変形量が蛇腹部23よりも格段に少ない部位となる。
【0037】
以上のように、本実施形態の等速自在継手1では、いわゆる樹脂ブーツからなる筒状のブーツ20に、ボール4の脱落が生じる作動角以上に両継手部材2,3が相対的に角度変位するのを規制する規制部26は設けられる。この場合、樹脂製のブーツ20に比べ、加工に遥かに手間を要する鋼製の外側継手部材2、内側継手部材3および軸部材10に形状的な工夫を凝らすことなく、所望の変位規制機能を果たすことのできる規制部26を安定的に得ることができる。そのため、取り扱い時にボール4が外側継手部材2(のトラック溝2a)から脱落せず、取り扱い性に優れた等速自在継手1を低コストに実現することができる。
【0038】
規制部26を構成する樹脂部27は、例えば、ブーツ20成形用の樹脂材料(ここでは、熱可塑性エラストマーを主成分とする樹脂材料)を用いて形成することができる他、ブーツ20成形用の樹脂材料とは異なる樹脂材料を用いて形成することもできる。上記の「異なる樹脂材料」としては、例えば、ブーツ20の成形に用いた熱可塑性エラストマーとは異なる種類の熱可塑性エラストマーを主成分としたものや、プラストマー(室温で弾性を持たず、塑性的性質を示すもの)を主成分としたものを使用することができ、特に、ブーツ20成形用の樹脂材料よりも弾性率が高い樹脂材料を使用するのが好ましい。これにより、規制部26の剛性を高めることができるので、所望の角度変位規制機能を適切に発揮することが可能となる。
【0039】
本実施形態では、規制部26を、ブーツ20の一部である第1谷部24aと、この第1谷部24a内で硬化した樹脂部27とで構成したが、ブーツ20を樹脂材料で射出成形する場合には、規制部26の全体を大径円筒部21および蛇腹部23と一体に型成形することができる。
【0040】
ブーツ20に設けるべき規制部26は、以下のような構成とすることも可能である。
【0041】
例えば、
図4に示すように、ブーツ20の規制部26には、外側継手部材2の開口側端面と軸方向で当接(係合)する当接面28を設けても良い。このようにすれば、ブーツ20の規制部26が外側継手部材2によって軸方向に支持されるので、規制部26の姿勢が安定する。これにより、所望の変位規制機能を一層安定的に発揮することが可能となる。なお、係る構成は、後述する他の実施形態に係る固定式等速自在継手1にも適用することができる。
【0042】
また、規制部26は、
図5に示すように、ブーツ20に型成形された環状凹部(ここでも、上記の実施形態と同様に、型成形された蛇腹部23のうち大径筒部21に最も接近した位置にある第1谷部24a)に、ブーツ20(の蛇腹部23)よりも高剛性の環状部材29を嵌合(密着状態で嵌合)することにより形成することもできる。
【0043】
このような構成の規制部26を採用した場合でも、
図6に示すように、ボール4の脱落が生じる作動角以上に両継手部材2,3が相対的に角度変位するのを規制することができる。
【0044】
ブーツ20に型成形された環状凹部(としての第1谷部24a)に環状部材を嵌合することで規制部26を形成する場合には、
図7に示すように、環状凹部の断面形状に合致した断面形状を有する環状部材30を採用するのが好ましい。このようにすれば、環状凹部の断面形状とは異なる断面形状を有する環状部材29を採用する場合(
図5および
図6参照)に比べて規制部26の剛性を高めることができるので、所望の変位規制機能を適切に発揮する上で有利となる。
【0045】
なお、上記の環状部材30としては、
図8(a)に例示するように、熱可塑性エラストマー、あるいはゴムを主成分とする可撓性材料で継ぎ目(連結部分)のない環状形態に形成されたものを採用しても良いし、
図8(b)に例示するように、それぞれが樹脂材料(硬質の樹脂材料)あるいは金属材料で形成され、周方向に沿って配置された複数(図示例では2つ)の円弧状部材31を連結することで環状形態に形成されたものを採用しても良い。図示は省略しているが、
図5および
図6に示す環状部材29についても同様である。以上のような構成を有する環状部材30(29)であれば、例えば等速自在継手1を自動車に組み付けた後にブーツ20から取り外すことができるので、交換作業を容易に行い得る。
【0046】
以上、本発明の実施形態に係る固定式等速自在継手1について説明を行ったが、本発明の実施の形態はこれに限定されない。
【0047】
例えば、以上では、ブーツ20に型成形された蛇腹部23のうち大径筒部21に最も接近した位置にある第1谷部24aを利用して(第1谷部24aを環状凹部として活用することにより)規制部26を形成したが、両継手部材2,3の角度変位に伴って弾性的に伸縮および屈曲変形するといった蛇腹部23に必要とされる機能を満足できる限りにおいて、複数の谷部24を利用して規制部26を形成しても構わない。
【0048】
また、以上では、ブーツ20に、熱可塑性エラストマーを主成分とする樹脂材料で型成形された樹脂ブーツを採用した等速自在継手1に本発明を適用した場合について説明したが、本発明は、ブーツ20に、ゴム材料からなるいわゆるゴムブーツが採用された等速自在継手1にも好ましく適用することができる。但し、樹脂ブーツはゴムブーツに比べて軽量でかつ屈曲耐久性等に優れることから、軽量で信頼性に富む等速自在継手1を実現する上では樹脂ブーツの方が有利である。
【0049】
本発明は以上で説明した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々の形態で実施し得る。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0050】
1 固定式等速自在継手
2 外側継手部材
2b トラック溝
3 内側継手部材
4 ボール
5 保持器
10 軸部材
20 ブーツ
21 大径筒部
22 小径筒部
23 蛇腹部
24 谷部
24a 第1谷部(環状凹部)
26 規制部
27 樹脂部
28 当接面
29,30 環状部材