IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 本田技研工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-切削工具 図1
  • 特開-切削工具 図2
  • 特開-切削工具 図3
  • 特開-切削工具 図4
  • 特開-切削工具 図5
  • 特開-切削工具 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156822
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/22 20060101AFI20221006BHJP
   B23B 51/08 20060101ALI20221006BHJP
   B23C 3/05 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
B23B27/22
B23B51/08 C
B23C3/05
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060702
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】小野瀬 淳也
(72)【発明者】
【氏名】大極 龍二
(72)【発明者】
【氏名】大澤 明浩
(72)【発明者】
【氏名】小瀧 優策
(72)【発明者】
【氏名】黒田 友也
(72)【発明者】
【氏名】紺野 孝行
(72)【発明者】
【氏名】猿山 真由美
(72)【発明者】
【氏名】田畑 京子
(72)【発明者】
【氏名】境原 和也
【テーマコード(参考)】
3C037
3C046
【Fターム(参考)】
3C037EE03
3C046JJ02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】複数種類の切り刃を有する切削工具において、耐久性が改善された突起(ブレーカ)を設ける。
【解決手段】切削工具10は、軸線A0を中心に回転される切削工具であって、すくい面16に対して先端側Dの第1切り刃20と、すくい面16に対して径方向外側Oの第2切り刃22と、を有する、切削刃部14と、第1切り刃による切屑を分断する先端を有し、すくい面上に形成される突起24と、を備える。突起は、平面視で、テーパ形状を有し、先端を通り、軸線に平行な線を基準線としたとき、突起24は、基準線よりも軸線側の内側形成部と、基準線よりも第2切り刃側の外側形成部とを有し、内側形成部の幅は、外側形成部の幅より、大きい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線を中心に回転されて、ワークを切削する切削工具であって、
すくい面と、前記すくい面に対して前記切削工具の先端側に配置される第1切り刃と、前記軸線を基準として前記すくい面に対して径方向外側に配置される第2切り刃と、を有する、切削刃部と、
前記第1切り刃によって形成された切屑を分断する先端を有し、前記すくい面上に形成される、少なくとも1つの突起と、
を備え、
前記少なくとも1つの突起は、前記すくい面を基準とする平面視で、前記先端に近づくに従って幅狭となるテーパ形状を有し、
前記先端を通り、且つ、前記軸線に平行な線を基準線としたとき、前記少なくとも1つの突起のうち最も前記第2切り刃側に配置された突起は、前記基準線よりも前記軸線側に存在する内側形成部と、前記基準線よりも前記第2切り刃側に存在する外側形成部とを有し、
前記内側形成部の幅は、前記外側形成部の幅より、大きい、切削工具。
【請求項2】
請求項1に記載の切削工具であって、
前記内側形成部の前記幅は、前記外側形成部の前記幅の3倍以上である、切削工具。
【請求項3】
請求項1または2に記載の切削工具であって、
前記内側形成部の体積は、前記外側形成部の体積の3倍以上である、切削工具。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の切削工具であって、
前記内側形成部および前記外側形成部を有する前記突起は、前記すくい面からの突出方向の端面を形成する頂面と、前記第2切り刃側を向く側面と、前記頂面と前記側面との間の稜線とを有し、
前記稜線が、前記軸線に対してなす角度は、5度以上、20度以下である、切削工具。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の切削工具であって、
前記少なくとも1つの突起は、前記軸線の方向に沿って複数形成される、切削工具。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の切削工具であって、
前記少なくとも1つの突起は、前記切削工具の径方向に沿って複数形成される、切削工具。
【請求項7】
軸線を中心に回転されて、ワークを切削する切削工具であって、
すくい面と、前記すくい面に対して前記切削工具の先端側に配置される第1切り刃と、前記軸線を基準として前記すくい面に対して径方向外側に配置される第2切り刃と、を有する、切削刃部と、
前記第1切り刃によって形成された切屑を分断する先端を有し、前記すくい面上に、前記切削工具の径方向に沿って列をなすように形成される、複数の突起と、
前記複数の突起を接続する接続部と、
を備える、切削工具。
【請求項8】
請求項7に記載の切削工具であって、
前記突起の列より、前記切削工具の基端側に配置され、先端を有し、前記すくい面上に、前記径方向に沿って列をなすように形成される、複数の第2の突起と、
前記複数の第2の突起を接続する第2の接続部と、
を備える、切削工具。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の切削工具であって、
前記第1切り刃は、前記ワークを切削して、前記軸線と直交する平面を形成し、
前記第2切り刃は、前記ワークを切削して、前記軸線を中心とする曲面を形成する、切削工具。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の切削工具であって、
前記軸線を中心とする円弧に沿って配置される複数の前記切削刃部を備える、切削工具。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の切削工具であって、
前記切削刃部よりも前記先端側に配置され、且つ、前記軸線から前記第2切り刃までの距離よりも、小さい半径を有する、孔開け刃部を備える、切削工具。
【請求項12】
請求項11に記載の切削工具であって、
前記ワークは、エンジンのシリンダヘッド用のワークであり、
前記孔開け刃部は、前記ワークに、吸気バルブまたは排気バルブのバルブガイドが圧入されるバルブガイド用孔を形成し、
前記第1切り刃は、前記バルブガイド用孔の開口端面にバルブスプリング座面を形成し、
前記第2切り刃は、前記ワーク上の側壁を切削する、切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転されてワークを切削する切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の部材、例えば、エンジンを作成するために、切削工具を用いて、ワークが切削される。エンジンは、締結ボルト孔、オイル配管等の配管取付孔、吸排気弁のバルブガイド孔、点火プラグ装着孔、燃料噴射弁の取付孔等のための多種多様の中空孔形状や有底孔形状を有する。これらの形状を形成するために、切削工具を用いて、ワークに孔を開け、さらに開口部に座面加工等が行われる。
【0003】
ここで、切削時に生じた切屑が、ワーク内に残留すると、部材の動作の障害となる可能性がある。通例、切削されたワークは溶剤等を用いて洗浄されるが、切屑の形状によっては、ワークの内部に引っ掛かる等して、洗浄によって除去され難いこともある。
【0004】
ワーク内への切屑の残留を妨げるには、切屑の幅、長さ、形状等を規制することが好ましい。切屑が幅広、長尺になると、洗浄等による除去が困難となる。このため、切屑を破断したり、成形したりするためのブレーカ(例えば、突起)を設けた切削工具が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかし、切削の繰り返し等により、ブレーカが破損することがあり得る。すなわち、ブレーカは、切削加工の障害とならないように、薄く、且つ小サイズであるため、その強化は容易ではない。特に、一つの切削工具が複数種類の切り刃を有し、複数部位の加工、例えば、座面の形成および座面周囲の不要部分(駄肉)の除去を行う場合、複数方向からの切屑がブレーカに当接するため、ブレーカは破損し易くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平10-501472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、複数種類の切り刃を有する切削工具において、耐久性が改善された突起(ブレーカ)を設けることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る切削工具は、軸線を中心に回転されて、ワークを切削する切削工具であって、すくい面と、前記すくい面に対して前記切削工具の先端側に配置される第1切り刃と、前記軸線を基準として前記すくい面に対して径方向外側に配置される第2切り刃と、を有する、切削刃部と、前記第1切り刃によって形成された切屑を分断する先端を有し、前記すくい面上に形成される、少なくとも1つの突起と、を備え、前記少なくとも1つの突起は、前記すくい面を基準とする平面視で、前記先端に近づくに従って幅狭となるテーパ形状を有し、前記先端を通り、且つ、前記軸線に平行な線を基準線としたとき、前記少なくとも1つの突起のうち最も前記第2切り刃側に配置された突起は、前記基準線よりも前記軸線側に存在する内側形成部と、前記基準線よりも前記第2切り刃側に存在する外側形成部とを有し、前記内側形成部の幅は、前記外側形成部の幅より、大きい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複数種類の切り刃を有する切削工具において、耐久性が改善された突起(ブレーカ)を設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る切削工具を表す図である。
図2】切削工具によって、切削されたワークの一例を表す図である。
図3】切削刃部を拡大して表す図である。
図4】突起を拡大して表す斜視図である。
図5】突起を拡大して表す平面図である。
図6図6Aおよび図6Bは、他の構成に係る切削工具の切削刃部を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態に係る切削工具を説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る切削工具10を表す図である。切削工具10は、軸線A0を中心に回転方向Cに回転されて、ワークWを切削する。切削工具10の先端側Dおよび基端側Bは、図1に上下の矢印で示される。軸線A0の方向を軸方向Aとする。切削工具10の径方向Rは、軸線A0に直交する方向であり、軸線A0から外周に向かう径方向Rを径方向外側O、外周から軸線A0に向かう径方向Rを径方向内側Iとする。
【0013】
切削工具10は、孔開け刃部12および切削刃部14を有する。孔開け刃部12は、例えば、ドリルであり、切削工具10の先端(すなわち、切削刃部14よりも先端側D)に配置され、ワークWに孔を開ける。切削刃部14は、すくい面16、第1切り刃20、第2切り刃22、および複数の突起24を有し、第1切り刃20および第2切り刃22によって、孔開け刃部12が開けた孔の周囲を切削する。ここでは、2つの切削刃部14が軸線A0に対して、互いに反対側に配置されている。
【0014】
すくい面16は、切削刃部14による切削時において、切屑が通過する面である。ここでは、すくい面16は、第1切り刃20および第2切り刃22の双方に対して、すくい面として機能し、第1切り刃20からの切屑および第2切り刃22からの切屑が通過する。
【0015】
第1切り刃20は、すくい面16に対して切削工具10の先端側Dに配置され、ワークWを切削して、軸線A0と直交する平面(詳細には、円形の平面)を形成する。第2切り刃22は、軸線A0を基準としてすくい面16に対して径方向外側Oに配置され、ワークWを切削して、軸線A0を中心とする曲面を形成する。
【0016】
ここで、第1切り刃20および第2切り刃22(結局は、切削刃部14)は、孔開け刃部12より広い範囲を切削する。このため、軸線A0から径方向外側Oの第2切り刃22までの距離(半径r1)は、孔開け刃部12の半径r0よりも、大きい。すなわち、第1切り刃20および第2切り刃22が形成する平面および曲面の半径r1は、孔開け刃部12が開ける孔の半径r0よりも、大きい。
【0017】
ここで、切削工具10によって、切削されるワークWを説明する。図2は、切削工具10によって、切削されたワークWの一例を表す図である。ワークWは、例えば、エンジンのシリンダヘッド用のワークWであり、切削工具10による孔42の孔開け加工の前に、孔Hを囲む側壁Sの不要部分(駄肉)を除去する加工を要するものとする。
【0018】
ここでは、切削工具10は、側壁Sの近傍に、孔42、座面44、および側壁切除面46を形成する。これら、孔42、座面44、および側壁切除面46の形成は、複数の切り刃(孔開け刃部12、第1切り刃20、および第2切り刃22)を有する切削工具10により、同時に行うことができる。但し、このような側壁Sの近傍での切削を行わない場合、切削工具10は、側壁切除面46を作成しない。
【0019】
孔開け刃部12は、切削工具10の軸線A0を中心とする孔42を形成する。孔42は、例えば、エンジンの吸気バルブ(または排気バルブ)を案内するバルブガイドが圧入されるバルブガイド用孔である。
【0020】
第1切り刃20は、孔42の周りに、軸線A0と直交する平面として、座面44を形成する。座面44は、例えば、バルブガイド用孔(孔42)の開口端面にスプリングを配置するためのバルブスプリング座面である。
【0021】
第2切り刃22は、座面44の周りの側壁Sを切削して、軸線A0を中心とする曲面として、側壁切除面46を形成する。切削工具10によって切削される前のワークWが側壁Sを有し、且つその近傍に座面44を形成する場合、側壁Sにおける座面44の近傍箇所Sc(駄肉M)に切削工具10が干渉する。このため、上記近傍箇所Sc(駄肉M)の除去が必要となる。近傍箇所Scを除去せずに、ワークWを切削すると、本来の加工中心から軸線A0がずれる可能性もある。このため、切削工具10は、孔開け刃部12による孔42の形成、および第1切り刃20による座面44の形成に加えて、第2切り刃22による駄肉Mの除去を行う。
【0022】
図3は、切削刃部14を拡大して表す図である。すくい面16上に、先端Tを有する複数の突起24が形成される。複数の突起24は、径方向Rおよび軸方向A(軸線A0の方向)に沿って、配置される。すなわち、複数の突起24は、径方向Rに3つの突起24が列G(G1~G3)をなし、且つ、軸方向Aに3つの突起24が行K(K1~K3)をなすように並んでいる。
【0023】
3つの列G1~G3の突起24の内、第1切り刃20側の列G1の突起24は、ブレーカとして機能し、先端Tによって、第1切り刃20からの切屑ch1を複数の切屑ch1(図4参照)に分断する。ここでは、列G1の3つの突起24の先端Tによって、第1切り刃20からの切屑ch1は、径方向Rに沿って4つに分断される。一方、列G1の3つの突起24が存在するときは、残りの列G2、G3の突起24は、第1切り刃20からの切屑ch1を分断せず、ブレーカとしては機能しない。
【0024】
列G2、G3の突起24は、第1切り刃20が摩耗したり、折損したりしたような場合に、新たな第1切り刃20を形成することで、ブレーカとして機能するようになる。すなわち、第1切り刃20が摩耗したときには、第1切り刃20から線Lc1まで切削刃部14を研磨して、線Lc1の箇所に新たな第1切り刃20aを形成する。この結果、列G2の突起24はブレーカとして機能するようになる。さらに、線Lc1の箇所の第1切り刃20aが摩耗したときには、線Lc1から線Lc2まで切削刃部14を研磨して、線Lc2の箇所に新たな第1切り刃20bを形成する。この結果、列G3の突起24はブレーカとして機能するようになる。このように、列G2、およびG3の突起24を予め形成しておくことで、新たな第1切り刃20a、20bを形成するときに、レーザ加工等によって、新たな突起24を形成することを不要としている。
【0025】
図4は、突起24を拡大して表す斜視図である。ここでは、第1切り刃20および第2切り刃22に最も近い、突起24N(図3の右下の突起24)を表すものとする。ここでは、複数の突起24は、同一の形状を有するものとする。
【0026】
突起24は、大まかに見ると、すくい面16を基準とする平面視で、先端Tに近づくに従って幅狭となるテーパ形状、ここでは、略三角形状を有する。より詳細には、突起24は、頂面28、側面30a、側面30b、および後面32を有する。頂面28は、すくい面16からの突出方向の端面である。側面30aは、第2切り刃22側を向く側面であり、側面30bは、第2切り刃22と反対側を向く側面である。先端Tは、側面30aと側面30bの境界に形成される。頂面28と側面30aの間に稜線Lraが形成され、頂面28と側面30bの間に稜線Lrbが形成される。
【0027】
第1切り刃20と第2切り刃22の双方でワークWを切削しているとき、第1切り刃20によって切屑ch1が形成され、第2切り刃22によって切屑ch2が形成される。実際には、切屑ch1および切屑ch2は、幅が広く、互いに、重なり得るが、ここでは、判り易さのために、切屑ch1および切屑ch2の幅方向の一部のみを表すものとする。
【0028】
既述のように、突起24は、第1切り刃20からの切屑ch1を先端Tによって分断する。さらに、突起24は、分断した切屑ch1を屈曲させて、ロールとする。一方、突起24は、第2切り刃22からの切屑ch2を屈曲させて、ロールとする。このように、突起24は、切屑ch1を分断するのみではなく、切屑ch1および切屑ch2をロール化している。
【0029】
このとき、切屑ch1は、側面30aに力Faを印加し、側面30bに力Fbを印加する。一方、切屑ch2は、側面30aに力Fcを印加する。すなわち、切屑ch2は、側面30aに力Fcを印加するが、側面30bには力を印加しない。ここで、第1切り刃20および第2切り刃22に最も近接する突起24Nは、切屑ch1および切屑ch2による力Fa、Fb、およびFcを受け、他の突起24に比べて、破損し易い。以下に説明するように、本実施形態では、突起24Nを、径方向内側Iと径方向外側Oとで非対称な形状とすることで、力Fa、Fb、およびFc、特に、力Fcに対抗可能として、破損し難くしている。
【0030】
図5は突起24Nを拡大して表す平面図である。先端Tを通り、且つ、軸線A0に平行な線(軸方向Aの線)を基準線LSとして、突起24を区分する。基準線LSより径方向外側O(基準線LSよりも第2切り刃22側)の突起24の部分を外側形成部24aとし、基準線LSより径方向内側I(基準線LSより軸線A0側)の突起24の部分を内側形成部24bとする。このとき、突起24Nは径方向内側Iと径方向外側Oとで非対称であり、内側形成部24bの幅wdiは、外側形成部24aの幅wdoより大きい。ここで、幅wdiは、幅wdoの3倍以上であることが好ましい。また、内側形成部24bの体積Vdiは、外側形成部24aの体積Vdoの3倍以上であることが好ましい。さらに、稜線Lraが、軸線A0(基準線LS)に対してなす角度θaは、5度以上、20度以下であり、稜線Lrbが、軸線A0(基準線LS)に対してなす角度θbは、30度以上、80度以下であることが好ましい。
【0031】
ここで、側面30aは均一な平面ではない。特に、すくい面16の近傍で、曲面形状を有し、その結果、側面30aとすくい面16間の稜線Loは、曲線形状を有する。すなわち、基準線LSに対して稜線Loがなす角度は、先端T近傍においては、比較的小さいが、先端T近傍から離れるにつれて、大きくなる傾向を有する。このように、側面30aを曲面形状としたことによって、側面30aを平面形状とするよりも、第2切り刃22からの切屑ch2を基端側Bに受け流して、切屑ch2からの力Fcがより、側面30a(突起24)に印加され難いようにしている。
【0032】
以上のように、本実施形態に係る切削工具10では、孔開け刃部12による孔開け加工、先端側Dの第1切り刃20による座面44の形成、および第2切り刃22による駄肉Mの除去が可能である(図1図2)。切削工具10は、突起24によって、第1切り刃20からの切屑ch1を分断、ロール化すると共に、第2切り刃22からの切屑ch2をロール化することで、ワークW内からの切屑ch1および切屑ch2の除去を容易としている(図4)。ここで、突起24は、径方向内側Iと径方向外側Oとで非対称な形状を有しており、内側形成部24bの幅wdiは、の外側形成部24aの幅wdoよりも広い(図5)。この結果、突起24の耐久性が改善され、第2切り刃22からの切屑ch2によって突起24が破断され難くなる。
【0033】
図6Aおよび図6Bは、他の構成に係る切削工具10Aの切削刃部14Aを表す図である。図6Aは、図3に対応し、切削刃部14Aをすくい面16に垂直な方向から見た状態を表す。図6Bは、切削刃部14Aを切削工具10Aの先端側Dから見た状態を表す。切削工具10Aは、切削刃部14上を除き、切削工具10と同様である。切削工具10Aについて、切削工具10と同様な要素は、同一の符号とし、説明を省略するものとする。
【0034】
切削工具10Aの切削刃部14Aは、すくい面16上に、複数の突起24Aと複数の接続部34を有する。接続部34は、突起24Aを径方向Rに接続している。すなわち、突起24Aの列G(G1~G3)の各々において、複数の突起24Aは、接続部34によって径方向Rに接続される。このように、接続部34によって、突起24Aを接続することで、第2切り刃22からの切屑ch2による力Fcは、列G内の複数の突起24Aに分散される。この結果、突起24Aは、力Fcに対抗することが容易となる。このとき、切削工具10Aの突起24Aは、切削工具10の突起24のように、径方向内側Iと径方向外側Oとで非対称な形状としなくてもよい。
【0035】
ここでは、径方向Rに沿って接続部34によって接続された複数(ここでは、3つ)の突起24Aが複数の列G1~G3をなしている。これにより、第1切り刃20が摩耗して、新たな第1切り刃20aを形成するときに、レーザ加工等によって、突起24Aおよび接続部34を形成することを不要としている。
【0036】
(変形例)
以上、実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能である。切削工具10、10Aでは、切削刃部14、14Aは、軸線A0に対して、反対の位置に2つが配置されている。但し、切削刃部14、14Aはそれぞれ、1つでもよく、3つ以上としてもよい。切削刃部14、14Aはそれぞれ、複数の場合、軸線A0を中心とする円弧に沿って、間隔をおいて、配置されることが好ましい。
【0037】
切削工具10、10Aでは、径方向Rおよび軸方向Aの突起24、24Aの個数は、それぞれ3つとしているが、1、2、および4以上としてもよく、径方向Rおよび軸方向Aで突起24、24Aの個数を異ならせてもよい。また、突起24、24Aは径方向Rのみ、または軸方向Aのみに配置してもよく、突起24、24Aはそれぞれ1つのみでも差し支えない。
【0038】
切削工具10では、複数の突起24の全てを径方向内側Iと径方向外側Oとで非対称な形状としている。これに対して、複数の突起24のうち、第1切り刃20および第2切り刃22に最も近い、突起24Nのみを非対称な形状としてもよい。突起24Nは、非対称とする必要性は高いが、他の突起24は、その必要性は高くない。
【0039】
切削工具10Aにおいて、一部の突起24A、例えば、突起24ANを切削工具10の突起24のように、非対称な形状としてもよい。
【0040】
〔実施形態から得られる発明〕
上記実施形態から把握しうる発明について、以下に記載する。
【0041】
[1]切削工具(10)は、軸線(A0)を中心に回転されて、ワーク(W)を切削する切削工具であって、すくい面(16)と、前記すくい面に対して前記切削工具の先端側(D)に配置される第1切り刃(20)と、前記軸線を基準として前記すくい面に対して径方向外側(O)に配置される第2切り刃(22)と、を有する、切削刃部(14)と、前記第1切り刃によって形成された切屑(ch1)を分断する先端(T)を有し、前記すくい面上に形成される、少なくとも1つの突起(24)と、を備え、前記少なくとも1つの突起は、前記すくい面を基準とする平面視で、前記先端に近づくに従って幅狭となるテーパ形状を有し、前記先端を通り、且つ、前記軸線に平行な線(A)を基準線(LS)としたとき、前記少なくとも1つの突起のうち最も前記第2切り刃側に配置された突起(24N)は、前記基準線よりも前記軸線側に存在する内側形成部(24b)と、前記基準線よりも前記第2切り刃側に存在する外側形成部(24a)とを有し、前記内側形成部の幅(wdi)は、前記外側形成部の幅(wdo)より、大きい。これにより、突起(ブレーカ)の耐久性が改善する。
【0042】
[2]前記内側形成部の前記幅は、前記外側形成部の前記幅の3倍以上である。これにより、突起(ブレーカ)の耐久性がより改善する。
【0043】
[3]前記内側形成部の体積(Vdi)は、前記外側形成部の体積(Vdo)の3倍以上である。これにより、突起(ブレーカ)の耐久性がより改善する。
【0044】
[4]前記内側形成部および前記外側形成部を有する前記突起は、前記すくい面からの突出方向の端面を形成する頂面(28)と、前記第2切り刃側を向く側面(30a)と、前記頂面と前記側面との間の稜線(Lra)とを有し、前記稜線が、前記軸線に対してなす角度は、5度以上、20度以下である。これにより、突起(ブレーカ)の耐久性がより改善する。
【0045】
[5]前記少なくとも1つの突起は、前記軸線の方向に沿って複数形成される。第1切り刃が摩耗して、新たな第1切り刃を形成するときに、新たな突起(ブレーカ)を形成することが不要となる。
【0046】
[6]前記少なくとも1つの突起は、前記切削工具の径方向(R)に沿って複数形成される。これにより、複数の突起によって、切り屑を3つ以上に分断することができる。
【0047】
[7]切削工具は、軸線を中心に回転されて、ワークを切削する切削工具であって、すくい面と、前記すくい面に対して前記切削工具の先端側に配置される第1切り刃と、前記軸線を基準として前記すくい面に対して径方向外側に配置される第2切り刃と、を有する、切削刃部と、前記第1切り刃によって形成された切屑を分断する先端を有し、前記すくい面上に、前記切削工具の径方向に沿って列をなすように形成される、複数の突起(24A)と、前記複数の突起を接続する接続部(34)と、を備える。これにより、複数の突起(ブレーカ)は、切り屑を3つ以上に分断することができると共に、接続部によって接続され、突起の耐久性は改善される。
【0048】
[8]切削工具は、前記突起の列より、前記切削工具の基端側に配置され、先端を有し、前記すくい面上に、前記径方向に沿って列をなすように形成される、複数の第2の突起(24A)と、前記複数の第2の突起を接続する第2の接続部(34)と、を備える。これにより、第1切り刃が摩耗して、新たな第1切り刃を形成するときに、新たな突起(ブレーカ)を形成することが不要となる。
【0049】
[9]前記第1切り刃は、前記ワークを切削して、前記軸線と直交する平面(座面44)を形成し、前記第2切り刃は、前記ワークを切削して、前記軸線を中心とする曲面(側壁切除面46)を形成する。これにより、座面の形成と座面周囲の駄肉の除去を行うことができる。
【0050】
[10]切削工具は、前記軸線を中心とする円弧に沿って配置される複数の前記切削刃部を備える。これにより、複数の切削刃部を用いた効率的な切削が可能となる。
【0051】
[11]切削工具は、前記切削刃部よりも前記先端側に配置され、且つ、前記軸線から前記第2切り刃までの距離(r1)よりも、小さい半径(r0)を有する、孔開け刃部(12)を備える。これにより、孔開け刃部によってワークに孔を形成しつつ、その孔の端面での座面の形成および座面の周囲の駄肉の除去が可能となる。
【0052】
[12]前記ワークは、エンジンのシリンダヘッド用のワークであり、前記孔開け刃部は、前記ワークに、吸気バルブまたは排気バルブのバルブガイドが圧入されるバルブガイド用孔(42)を形成し、前記第1切り刃は、前記バルブガイド用孔の開口端面にバルブスプリング座面(44)を形成し、前記第2切り刃は、前記ワーク上の側壁(S)を切削する。これにより、エンジンのシリンダヘッドのバルブガイド用孔、バルブスプリング座面の形成、および側壁(駄肉)の切削が可能となる。
【符号の説明】
【0053】
10…切削工具 12…孔開け刃部
14…切削刃部 16…すくい面
20、20a、20b…第1切り刃 22…第2切り刃
24、24A、24N…突起 24a…外側形成部
24b…内側形成部 28…頂面
30a、30b…側面 34…接続部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2021-09-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0032
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0032】
以上のように、本実施形態に係る切削工具10では、孔開け刃部12による孔開け加工、先端側Dの第1切り刃20による座面44の形成、および第2切り刃22による駄肉Mの除去が可能である(図1図2)。切削工具10は、突起24によって、第1切り刃20からの切屑ch1を分断、ロール化すると共に、第2切り刃22からの切屑ch2をロール化することで、ワークW内からの切屑ch1および切屑ch2の除去を容易としている(図4)。ここで、突起24は、径方向内側Iと径方向外側Oとで非対称な形状を有しており、内側形成部24bの幅wdiは、外側形成部24aの幅wdoよりも広い(図5)。この結果、突起24の耐久性が改善され、第2切り刃22からの切屑ch2によって突起24が破断され難くなる。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0033
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0033】
図6Aおよび図6Bは、他の構成に係る切削工具10Aの切削刃部14Aを表す図である。図6Aは、図3に対応し、切削刃部14Aをすくい面16に垂直な方向から見た状態を表す。図6Bは、切削刃部14Aを切削工具10Aの先端側Dから見た状態を表す。切削工具10Aは、切削刃部14を除き、切削工具10と同様である。切削工具10Aについて、切削工具10と同様な要素は、同一の符号とし、説明を省略するものとする。
【手続補正3】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図5
【補正方法】変更
【補正の内容】
図5
【手続補正4】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図6
【補正方法】変更
【補正の内容】
図6