(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156824
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】加飾部材
(51)【国際特許分類】
G02B 5/02 20060101AFI20221006BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20221006BHJP
【FI】
G02B5/02 C
B32B7/023
G02B5/02
G02B5/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060704
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】306026980
【氏名又は名称】株式会社タイカ
(72)【発明者】
【氏名】田島 友章
【テーマコード(参考)】
2H042
4F100
【Fターム(参考)】
2H042BA01
2H042BA10
2H042BA11
2H042BA20
4F100AB01A
4F100AB02A
4F100AB04A
4F100AB10A
4F100AB17A
4F100AK04A
4F100AK07A
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4F100AR00C
4F100AT00A
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4F100BA41C
4F100GB08
4F100GB32
4F100HB00B
4F100JN01C
4F100JN02C
4F100JN08C
(57)【要約】 (修正有)
【課題】単純な構成かつ視覚的に柄が多様に変化する加飾部材の提供。
【解決手段】本発明の加飾部材は、基材の表面に、少なくとも絵柄層と、光透過帯と遮光帯とが面方向に交互に配されたルーバー構造からなる少なくとも一つの光透過制御セル部で構成された光透過制御層と、がこの順で積層された加飾層を備えた加飾部材であって、光透過制御層は絵柄層の少なくとも一部に重なるように配置され、光透過制御セル部の少なくとも一つはルーバー構造が異なる領域を有するものであり、ルーバー構造が異なる領域は好ましくは遮光帯の幅、高さ、間隔、角度の少なくとも一つが異なる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に、少なくとも絵柄層と、光透過帯と遮光帯とが交互に面方向に配されたルーバー構造からなる少なくとも一つの光透過制御セル部で構成された光透過制御層と、がこの順で積層された加飾層を備えた加飾部材であって、
前記光透過制御層は前記絵柄層の少なくとも一部に重なるように配置され、
前記光透過制御セル部の少なくとも一つは前記ルーバー構造が異なる領域を有することを特徴とする加飾部材。
【請求項2】
前記ルーバー構造が異なる領域は、前記遮光帯の幅、高さ、間隔、角度の少なくとも一つが異なることを特徴とする請求項1に記載の加飾部材。
【請求項3】
前記ルーバー構造が異なる領域は、前記遮光帯の幅、高さ、間隔、角度の少なくとも一つが漸次的に変化して配置されていることを特徴とする請求項2に記載の加飾部材。
【請求項4】
前記光透過制御層が複数の前記光透過制御セル部を備え、前記光透過制御セル部の少なくとも一つは、他の光透過制御セル部と離間して配置されてなることを特徴とする請求項3に記載の加飾部材。
【請求項5】
前記絵柄層は複数の柄領域を有し、前記柄領域の少なくとも1つに対応して前記光透過制御セル部が配置されていることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の加飾部材。
【請求項6】
基材の表面に、少なくとも絵柄層と、光透過帯と遮光帯とが交互に配されたルーバー構造からなる少なくとも一つの光透過制御セル部で構成された光透過制御層と、がこの順で積層された熱可塑性の加飾層を備えた加飾部材の製造方法であって、
前記加飾層を備えた加飾フィルムを加熱して軟化させる熱軟化工程と、前記軟化した加飾フィルムの少なくとも一部を伸長変形させて前記ルーバー構造を部分的に異ならせる変形工程と、変形工程と同時または後に基材の表面に伸長変形した加飾フィルムを積層して前記ルーバー構造が部分的に異なる加飾層を形成する積層工程と、を備えることを特徴とする加2飾部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、観察角度に応じて意匠変化する加飾層を備えた加飾部材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から見る角度(以下、観察角度という。)に応じて絵柄が変化する加飾技術として、絵柄上にレンチキュラーレンズを積層した構成からなる印刷技術(レンチキュラー印刷とも呼ばれる。)が実用化されており、例えば特許文献1には、曲面状の第1シート面を有する光透過性のシートとレンズ部と画像形成部とを備え、レンズ部は、第1シート面の曲面に沿って湾曲して設けられ並列に配された突条の複数のレンズを備えることによって、観察角度によって意匠が変化する装飾部材が提案されている。このレンチキュラーレンズを用いた加飾技術は、ポストカードや文房具、シールなどの玩具、広告POPなどに広く用いられており、近年では、このような観察角度に応じて絵柄が変化する加飾技術においては、より多様な絵柄変化のニーズが高まっている。
【0003】
しかし、特許文献1のようにレンチキュラーレンズを用いた加飾技術においては、絵柄となる印刷物のピッチとレンチキュラーレンズとの光学的なピッチを正確に合わせる必要があり、観察角度に応じて変化させる絵柄要素を増やして可変視効果を多彩化する場合には、より複雑な設計と高い組立精度が求められるため、生産コストが高くなるという課題があった。また、レンチキュラーレンズは、規則的な凸型レンズの配置構造が崩れると絵柄が認識できなくなることや、レンチキュラーレンズの凹凸形状による加飾面の凹凸触手感を伴うため、滑らかな触感や質感が求められる用途には適用が困難な場合があり、用途が限定されることがあった。この課題を解決する手段として、レンチキュラーレンズに代えて偏光板を用いることによって、正面方向から見たときには視認できないが、斜めから見たときには視認できる作用を有する加飾技術が提案されており、例えば特許文献2には、直線偏光板と一軸性位相差層の積層体または二軸性位相差層とを有する円偏光板、および、円偏光板を直線偏光板側から垂直方向に透過する光の旋回方向とは逆向きの円偏光を反射する円偏光反射層を有する加飾フィルムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許6731051号公報
【特許文献2】特許6757424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に例示されたような偏光板を適用した構造の加飾技術は、透過光や反射光の透過経路を制御する原理に基づくため、観察角度に応じて多彩に絵柄を変化させるためには、複数種類の偏光板を所定の偏光方向にとなるように積層して配置する必要があることから、構造が複雑となるとともに、加飾層の厚みも厚くなりやすく、生産コストなどの観点でも改良の余地があった。
【0006】
従って、本発明は従来技術の上述した問題点を解消するものであり、その目的は、単純な構成かつ観察角度に応じて絵柄が多様に変化する加飾部材と、その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の加飾部材は、基材の表面に、少なくとも絵柄層と、光透過帯と遮光帯とが交互に面方向に配されたルーバー構造からなる少なくとも一つの光透過制御セル部で構成された光透過制御層と、がこの順で積層された加飾層を備えた加飾部材であって、光透過制御層は絵柄層の少なくとも一部に重なるように配置され、光透過制御セル部の少なくとも一つはルーバー構造が異なる領域を有するものである。ここで、面方向とは絵柄層の表面と略平行な方向である。また、光透過制御層が絵柄層の少なくとも一部に重なるように配置される形態としては、絵柄層に直接接しているものに限らず、絵柄層と非接触で配置される形態も含むものである。
【0008】
本発明の加飾部材は、加飾層が光透過層と遮光層が交互に配されたルーバー構造からなる少なくとも一つの光透過制御セル部から構成された光透過制御層と、光透過制御層の少なくとも基材側の片面に絵柄層を積層してなる構造を有することによって、絵柄層は光透過制御セル部を構成する光透過帯のみを通じて視認されるとともに、加飾層の観察角度を変えていくと、光透過制御セル部を構成する遮光帯によって絵柄層の視認性が阻害される視野角制御作用によって、観察角度に応じて加飾層の絵柄が変化して視認される。そして、光透過制御セル部は、ルーバー構造が異なる領域を有するため、上記の視野角制御作用を部分的に変化(非線形的に変化)させることができるので、観察角度に応じた加飾層の絵柄変化がより多様化した加飾層を備えた加飾部材が得られる。
【0009】
また、本発明の加飾部材は、ルーバー構造が異なる領域が、遮光帯の幅、高さ、もしくは角度の少なくとも一つが異なることが好ましい。これにより、加飾層を構成する光透過制御層における視野角制御作用の部分的な変化をより多様化できるため、観察角度に応じた加飾層の絵柄変化をより多様化することができる。
【0010】
また、本発明の加飾部材は、ルーバー構造が異なる領域が、遮光帯の幅、高さ、もしくは角度の少なくとも一つが漸次的に変化して配置されていることも好ましい。これにより、加飾層を構成する光透過制御層における視野角制御作用をグラデーション的に変化させることができるため、観察角度に応じてグラデーション的に絵柄が変化する加飾層を備えた加飾部材を得ることができる。
【0011】
また、本発明の加飾部材は、光透過制御層が複数の光透過制御セル部を備え、光透過制御セル部の少なくとも一つは、他の調光セル部と離間して配置されてなることも好ましい。これにより、絵柄層の構成に応じた所望箇所に、不連続な形態で光透過制御セル部を配置することができるので、観察角度に応じて絵柄に同調した意匠変化をさせることができ、加飾層の意匠変化の多様性をさらに高めることできる。
【0012】
また、本発明の加飾部材は、絵柄層が複数の柄領域を有し、少なくとも1つの柄領域に対応して光透過制御セル部が配置されていることも好ましい。これにより、観察角度に応じて絵柄に同調した絵柄変化がより一層際立つ加飾層とすることができる。
【0013】
本発明の加飾部材の製造方法は、少なくとも絵柄層と、光透過帯と遮光帯とが交互に配されたルーバー構造からなる少なくとも一つの光透過制御セル部で構成された光透過制御層と、がこの順で積層された熱可塑性の加飾層を備えた加飾フィルムを加熱して軟化させる熱軟化工程と、軟化した加飾フィルムの少なくとも一部を伸長変形させてルーバー構造を部分的に異ならせる変形工程と、変形工程と同時または後に基材の表面に伸長変形した加飾フィルムを積層して光透過制御層を構成する光透過制御セル部のルーバー構造が部分的に異なる加飾層を形成する積層工程と、を備えてなる。この製造方法によれば、熱軟化工程前における加飾フィルムの光透過制御層を構成する光透過制御セル部のルーバー構造が全て同じであっても、熱軟化工程と変形工程によって容易に光透過制御セル部にルーバー構造が異なる領域を形成できるため、観察角度に応じて視野角制御作用が部分的に変化する作用を伴って絵柄が多様に変化する加飾層を備えた加飾部材を製造することができる。また、熱軟化工程前における加飾フィルムの光透過制御層が、ルーバー構造が異なる領域を有した光透過制御セル部からなる加飾フィルムを用いた場合には、熱軟化工程と変形工程によって、ルーバー構造が異なる領域にさらに変化が加わるため、観察角度に応じた絵柄変化がより多様化した加飾層を備えた加飾部材を得ることもできる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の加飾部材は、絵柄層上にルーバー構造からなる一つ以上の光透過制御セル部で構成された視野角制御作用を有する光透過制御層が積層され、少なくとも一つの光透過制御セル部はルーバー構造が異なる領域を有する構造の加飾層を備えるため、観察角度に応じて視野角制御作用が部分的に変化する作用を伴った絵柄変化を多様化できるので、単純な構成で、独特且つ多様に意匠が変化する加飾部材を提供することができる。また、本発明の加飾部材の製造方法は、絵柄層上にルーバー構造からなる一つ以上の光透過制御セル部で構成された視野角制御作用を有する光透過制御層が積層され、少なくとも一つの光透過制御セル部はルーバー構造が異なる領域を有する構造の加飾層を備えた加飾フィルムを熱軟化工程において熱軟化させ、熱軟化した状態で変形工程において面方向に伸長変形させてルーバー構造を部分的に異ならせた加飾層とし、積層工程で該加飾層を基材の表面に積層する方法であるため、加飾フィルムの光透過制御層を構成する光透過制御セル部におけるルーバー構造が異なる領域の有無に拘らず、容易に光透過制御セル部にルーバー構造が異なる領域を形成できるため、観察角度に応じて視野角制御作用が部分的に変化する作用を伴って絵柄が多様に変化する加飾層を備えた加飾部材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る加飾部材の構造例を説明するための模式的な断面図である。
【
図2】本発明の加飾部材が有する光透過制御層を構成する光透過制御セル部のルーバー構造例を説明するための模式的な断面図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る加飾部材が有する光透過制御層を構成する光透過制御セル部が、ルーバー構造が異なる領域を有した構造例を説明するための模式的な断面図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態に係る加飾部材が有する光透過制御層を構成する光透過制御セル部の一部の領域のルーバー構造が漸次的に変化した構造例を説明するための模式的な断面図である。
【
図5】本発明の加飾部材を構成する光透過制御層がルーバー構造の異なる複数の領域からなる構造例を説明するための模式的な断面図である。
【
図6】本発明の第2の実施形態に係る加飾部材の構造例を説明するための模式的な断面図である。
【
図7】本発明の第2の実施形態に係る加飾部材において、光透過制御層を構成する複数の光透過制御セル部がそれぞれ離間して配置された構造例を説明するための模式的な断面図である。
【
図8】本発明の加飾部材を構成する加飾層の絵柄層が複数の柄領域から構成された構造例を説明するための模式的な断面図である。
【
図9】本発明の加飾部材を構成する加飾層が第2の絵柄層を有する構造例を説明するための模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の加飾部材は、基材の表面に、少なくとも絵柄層と、光透過帯と遮光帯とが交互に面方向に配されたルーバー構造からなる少なくとも一つの光透過制御セル部で構成された光透過制御層と、がこの順で積層された加飾層を備えた加飾部材であって、光透過制御層は絵柄層の少なくとも一部に重なるように配置され、光透過制御セル部の少なくとも一つはルーバー構造が異なる領域を有している。以下、図を参照しながら具体例について説明する。
【0017】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る加飾部材は、
図1に示すように、基材2の表面に絵柄層4、光透過制御層5の順に積層された加飾層3を備えてなる。光透過制御層5は、光透過帯5Aと遮光帯5Bが交互に配されたルーバー構造を有した一つの光透過制御セル部5Pからなり、ルーバー構造が同じ二つの領域5aの間に該領域5aとルーバー構造が異なる領域5bを有している。
図1において、ルーバー構造の領域5bは、遮光層5Bの間隔がルーバー構造の領域5aよりも狭い構造例である。なお、以降の説明において、ルーバー構造の領域を単に「領域」ともいう。
【0018】
(基材)
本実施形態に係る加飾部材1を構成する基材2は、樹脂、金属、セラミック、天然素材等の公知の材料を成形して形成される基材である。樹脂としては特に限定されず、加飾部材に用いられる公知の樹脂材料を適用でき、例えば、アクリロニトリル- ブタジエン- スチレン共重合体(ABS樹脂) 、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、アイオノマー樹脂、アクリル樹脂、等が挙げられる。特に、剛性、加工性、及び、耐衝撃性が求められる用途においては、アクリロニトリル- ブタジエン- スチレン共重合体を含有することが好ましい。また、金属としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ステンレス、これらの合金等が挙げられる。基材の形状は特に限定されず、加飾層が積層させる表面は、平面でも曲面でもよい。また、基材2の成形手段としては、射出成形や熱プレスなど公知の成形方法が適用できる。さらに、加飾層の密着性を向上させるためにコロナ処理やエキシマ処理、イトロ処理などの公知の表面処理を施してもよい。
【0019】
(絵柄層)
本実施形態に係る加飾部材1の加飾層3を構成する絵柄層4は、光透過制御層5の基材2側に配置され、光透過制御層5を介して視認される。絵柄層4は、従来の加飾に用いられる印刷インキを用いて形成される絵柄パターンの他に、印刷インキや金属や無機物の薄膜等からなるパターンを、単独または複合して形成される。印刷インキを用いた絵柄パターンは、グラビア印刷、オフセット印刷、シルクスクリーン印刷、転写シートを用いた転写印刷、昇華転写印刷、インキジェット印刷など、公知の印刷法により形成することができる。印刷インキとしては、ニトロセルロース系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂等、公知のインキが使用できる。また、金属薄膜は、真空蒸着法やスパッタ法、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法等、公知の方法で薄膜を形成することができる。金属種は、アルミニウムやインジウムなど形成方式や外観に応じて選択することができる。金属薄膜には、エンボスロールや透明樹脂の塗布により微細な凹凸を付与し、ホログラム効果を付与してもよい。絵柄層4の絵柄は、任意の絵柄を用いることができ、例えば、木目柄、石目柄、布目柄、抽象柄、幾何学模様などを単独または2種類以上を組合せたものを用いることできる。また絵柄層4は、模様を有しない着色された無地の透明または不透明の構成も包含するものである。
【0020】
(光透過制御層)
本実施形態に係る加飾部材1において、加飾層3を構成する光透過制御層5は、
図2に示すように光透過帯5Aと遮光帯5Bが交互に配されたルーバー構造を有した光透過制御セル部5Pが単独もしくは複数組合せて構成されており、
図1に例示した加飾部材1の加飾層3を構成する光透過制御層5は、一つの光透過制御セル部5Pからなり、光透過制御セル部5Pの領域5bは領域aとルーバー構造が異なっている。この光透過制御層5に光が入射すると、光透過制御セル部5Pの光透過帯のみを通じて厚み方向に光が透過するが、光の入射角度が小さくなるに従って、光の進行が遮光帯5Bによって阻害されるようになるため、観察角度に応じて光透過制御層5の光透過性が変化する。この光の入射角度に応じて光透過制御層5の光透過性が変化する視野角制御作用を伴いながら絵柄層4が光透過制御層5を介して観察されると、観察角度に応じて絵柄層4の視認性が変化し、加飾層3の意匠変化として視認される。
【0021】
光透過制御セル部5Pのルーバー構造は、例えば、光透過帯5Aとなる複数の光透過シートと、遮光帯5Bとなる遮光シートを交互に積層して張り合わせたシートを、積層方向に任意の幅でスライスして光透過制御セル部5Pとし、光透過制御層5とすることができる。また、光透過制御セル部5Pは、インプリント技術を用いて形成してもよく、例えば、遮光帯5Bの配置パターンに対応した凹凸を備えたマスター金型(スタンパ)を作製し、そこに光透過帯5Aとなる材料を流し込み固化させて剥離した凹凸透明シート、もしくは、光透過帯となる材料からなるシートに金型を押し付けて凹凸を転写した凹凸透明シートの凹部に遮光帯5Bの材料を流し込み固化させることによってルーバー構造を形成してもよい。
【0022】
光透過帯5Aを形成する材料としては、透明性の高い樹脂が用いられ、例えば、セルロース系樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の公知の透明性を有する熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を適宜適用できる。また、遮光帯5Bを形成する材料は、樹脂に顔料等の着色剤を添加してなる着色樹脂組成物であり、着色剤の種類と添加量は、所望の色調と遮蔽性が得られるように適宜設定される。遮光帯の色調は、好ましい遮光性が得られれば特に限定されず、黒、青、赤、黄等、所望の色調とすることができる。着色剤は、例えば、カーボンブラック、酸化鉄、酸化チタン、フタロシアニンブルーなど、公知の無機顔料あるいは有機顔料を適用できる。
【0023】
光透過制御層5を構成する光透過制御セル部5Pが有するルーバー構造が異なる領域5bは、例えば、
図3(a)に示すように、部分的に光透過帯5A及び遮光帯5Bの厚みを変化させた構造や、
図3(b)に示すように、遮光帯5Bの幅を変化させた構造、
図3(c)に示すように、遮光帯5Bの角度を変化させた構造、
図3(d)のように遮光帯5Bの間隔を変化させた構造などを、単独または組合せた構造とすることができる。
【0024】
また、光透過制御層5を構成する光透過制御セル部5Pが有するルーバー構造が異なる領域5bの別の構成として、遮光帯5Bの構成、配置を漸次的に変化させてもよく、例えば、
図4(a)に示す光透過制御セル部5Pが有するルーバー構造の領域5b´のように、遮光帯5Bの幅が漸次的に変化する構造や、
図4(b)に示す光透過制御セル部5Pが有する領域5b´のように光透過帯5Aの幅が漸次的に変化した構造、
図4(c)に示す光透過制御セル部5Pが有する領域5b´のように遮光帯5Bの角度が漸次的に変化した構造、
図4(d)に示す光透過制御セル部5Pが有する領域5b´ように光透過帯5A及び遮光帯5Bの高さを漸次的に変化させた構造などを、目的に応じて単独または組合せて適用できる。これにより、観察角度に応じて絵柄層4がグラデーション的に変化して視認される加飾層を備えた加飾部材を得ることができる。
【0025】
また、光透過制御層5を構成する光透過制御セル部5Pは、ルーバー構造が異なる複数の領域で連続的に構成されてよく、例えば
図5に示す光透過制御セル部5Pは、ルーバー構造が異なる3つの領域5a、5b、5cで構成された例である。ルーバー構造が異なる複数の領域を組み合わせることよって、観察角度に応じて絵柄変化する加飾層を多種多様に設計することができる。
【0026】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る加飾部材は、基材の表面に、少なくとも絵柄層と、光透過帯と遮光帯とが交互に面方向に配されたルーバー構造を有する複数の光透過制御セル部からなる光透過制御層とが、この順で積層された加飾層を備えた加飾部材であって、光透過制御セル部の少なくとも一つはルーバー構造が異なる領域を有している。以下、
図6を参照して具体的に説明する。
【0027】
図6(a)に示す加飾部材10は、基材2の表面に、絵柄層4と、光透過制御層50とが、この順で積層された加飾層30を備えてなり、光透過制御層50は光透過帯5Aと遮光帯5Bとが交互に面方向に配されたルーバー構造を有する3つの光透過制御セル部50a、光透過制御セル部50b、光透過制御セル部50a、の並びで隣接して配置されてなり、光透過制御セル部50bの全体に光透過制御セル部50aとルーバー構造が異なる領域を有して、光透過制御セル部50aと光透過制御セル部50bとはルーバー構造が異なった構造となっている。
図6(a)の例では、光透過制御セル部50bは、光透過制御セル部50aよりも遮光帯5Bの間隔が狭いルーバー構造となっている。また、
図6(b)に示す加飾部材10は、光透過制御層50が光透過帯5Aと遮光帯5Bとが交互に面方向に配されたルーバー構造を有する3つの光透過制御セル部50a、光透過制御セル部50b、光透過制御セル部50cの順に隣接して配置されてなり、3つの光透過制御セル部50a、50b、50cがそれぞれ異なるルーバー構造を有した構成例であり、光透過制御セル部50bは、光透過制御セル部50aよりも遮光帯5Bの間隔が狭いルーバー構造であり、光透過制御セル部50cは、遮光帯5Bが傾斜したルーバー構造である。
図6(a)及び
図6(b)に示した加飾部材10は、複数の光透過制御セル部からなる光透過制御層50からなり、その一部の光透過制御セル部のルーバー構造を異ならせた構成とすることによって、光透過制御セル部の配置設計に応じて視野角制御作用の部分的な変化挙動を自由に設計できるので、観察角度に応じた加飾層30の絵柄変化がより多様化された加飾部材が得られる。なお、
図6(a)及び
図6(b)に例示した加飾部材10においては、光透過制御セル部50bの全体に光透過制御セル部50aとルーバー構造が異なる領域を有しているが、光透過制御セル部50bの一部分にルーバー構造が異なる領域を設けていてもよい。
【0028】
また、光透過制御セル部5Pは、他の光透過制御セル部との境界の少なくとも一部をお互いに非接触とした構成としてもよい。例えば、
図7に示す加飾部材11は、基材2の表面に、絵柄層4と、光透過制御層51とがこの順で積層された加飾層31を備えており、光透過制御層51は光透過帯5Aと遮光帯5Bとが交互に面方向に配されたルーバー構造を有する光透過制御セル部51a、光透過制御セル部51b、光透過制御セル部51a、の並びで、それぞれが離間して配置されており、光透過制御セル部51aと光透過制御セル部51bとはルーバー構造が異なっている。
図7の例では、光透過制御セル部51bは、光透過制御セル部51aよりも遮光帯5Bの間隔が狭いルーバー構造となっている。これらの構成によって、絵柄層4の絵柄要素の所望箇所に光透過制御セル部51Pを配置できるため、観察角度に応じて絵柄に同調した意匠変化を付与することができ、意匠変化の設計の自由度を高めることできる。
【0029】
本実施形態に係る基材2、絵柄層4、ルーバー構造に関する説明は第1の実施形態と共通なので省略する。
【0030】
また、本発明の第1の実施形態及び第2の実施形態に係る加飾部材において、絵柄層4は複数の柄領域から構成されていてもよい。柄領域は、お互いに絵柄と領域形状の少なくとも一つが異なり、柄領域の配置パターンによって絵柄層4の絵柄が形成される。柄領域の配置は、柄領域が隣接した配置に限らず離間した配置としてもよい。そして、各柄領域に対応させて、光透過制御層5(50)を構成する光透過制御セル部を配置及び積層することによって、観察角度に応じて柄領域に同調して加飾層の意匠変化する効果をより多様化することできる。例えば
図8(a)の加飾部材12は、第1の実施形態において、絵柄層40が絵柄や形状がお互いに異なる3つの柄領域40a、40b、40cからなり、柄領域40a、40b、40cに対応して光透過制御層5を構成する光透過制御セル部5Pの3つのルーバー構造領域5a、5b、5cがそれぞれ配置及び積層され、ルーバー構造領域5a、5b、5cはお互いにルーバー構造が異なっている。
図8(a)においては、ルーバー構造領域5bのルーバー構造は遮光帯5Bの間隔がルーバー構造領域5aよりも狭く、ルーバー構造領域5cのルーバー構造は遮光帯5Bが傾斜した構造である。また、
図8(b)の加飾部材12は第2の実施形態において、絵柄層40が柄構成や形状がお互いに異なる3つの柄領域40a、40b、40cの3領域からなり、各柄領域40a、40b、40cに対応して光透過制御層50を構成する3つの光透過制御セル部50a、50b、50cがそれぞれ配置及び積層され、光透過制御セル部50a、50b、50cはお互いにルーバー構造が異なっている。
図8(b)においては、光透過制御セル部50bのルーバー構造は遮光帯5Bの間隔が光透過制御セル部50aよりも狭く、光透過制御セル部50cのルーバー構造は遮光帯5Bが傾斜した構造である。また、
図8(c)の加飾部材14は、絵柄層41は柄構成や形状がお互いに異なる3つの柄領域41a、41b、41cが離間配置されてなり、各柄領域41a、41b、41cに対応して光透過制御層51を構成する3つの光透過制御セル部51a、51b、51cがそれぞれ配置及び積層され、光透過制御セル部51a、51b、51cはお互いにルーバー構造が異なっている。
図8(c)においては、光透過制御セル部51bのルーバー構造は遮光帯5Bの間隔が光透過制御セル部51aよりも狭く、光透過制御セル部51cのルーバー構造は遮光帯5Bが傾斜した構造である。また、絵柄層4を構成する柄領域と光透過制御層を構成する光透過制御セル部との配置組合せは、
図8(b)や
図8(c)の構造例のように、柄領域と光透過制御セル部とを対で組合せる構造だけでなく、
図8(d)に示した加飾部材15ように、絵柄や形状がお互いに異なる4つの柄領域42a、42b、42c、43dからなり、柄領域42bと柄領域42cが離間して配置された構造の絵柄層42に、光透過制御層52を構成する3つの光透過制御セル部52a、52b、52cを配置及び積層する構造において、光透過制御セル部52bのように柄領域42cの一部分に配置し積層する構造や、光透過制御セル部52cのように柄領域42cと42dの両領域に重なるように配置・積層される構造としてもよく、さらに柄領域42bのように光透過制御セル部を配置しない部分を設けた構造としてもよい。
【0031】
また、本発明の第1の実施形態及び第2の実施形態に係る加飾部材において、光透過制御層の絵柄層とは反対側の面に第2の絵柄層を設けてもよい。これによって、観察角度に応じて柄変化する作用に第2の絵柄層が複合されることによって、意匠変化をより多様化できる。第2の絵柄層6は、少なくとも一部が光透過制御層5(50)を介して絵柄層4を視認できるものであり、例えば厚み方向に透視可能な厚みで形成した構造や、光透過性を有するカラークリア柄などを適用できる。また、第2の絵柄層6の絵柄は、絵柄層4と同一のものを使用してもよいし、別の柄にしてもよい。第2の絵柄層6の成分や形成方法等は加飾層4と同様のものが適用できる。また、第2の絵柄層6は光透過制御層5(50)の表面の一部に形成する構成としてもよい。第2の絵柄層6を有する加飾部材の具体例として、
図9(a)に示した加飾部材16は、
図1に示した第1の実施形態の加飾部材1の構造に基づき、絵柄層4と光透過制御層5からなる加飾層3の光透過制御層5側の面に第2の絵柄層6が積層された加飾層36を基材2の表面に備えた構造例である。また、
図9(b)に示した加飾部材17は、
図6に示した第2の実施形態の加飾部材10の構造に基づき、絵柄層4と光透過制御層50からなる加飾層30の光透過制御層50側の面に第2の絵柄層6が積層された加飾層37を基材2の表面に備えた構造例である。
【0032】
また、本発明の第1の実施形態及び第2の実施形態に係る加飾部材において、基材2が光透過性基材である場合には、加飾層3(30)を構成する絵柄層4を基材2の裏面(光透過制御層5(50)が配置される側とは反対の面)に配置する構造としてもよい。また、上述の
図1~
図9で例示した加飾部材を構成する加飾層は、光透過制御層と絵柄層とが直接接した構造としているが、光透過制御層と絵柄層との間に透明粘着層を介在させる場合などのように、光透過制御層が絵柄層と非接触で配置させる構造としてもよい。
【0033】
(加飾部材の製造方法)
本発明の加飾部材の製造方法について、
図1に示した第1の実施形態に係る加飾部材1を例に具体的な実施形態を説明する。加飾部材1は、基材2に絵柄層4と光透過制御層5で構成された加飾層3を公知の方法で積層して製造される。基材2に加飾層3を積層する方法としては、例えば、基材2の表面に絵柄層4とシート状の光透過制御層5を順に個別に積層する方法や、絵柄層4と光透過制御層5とが積層されてなる加飾フィルムを基材2に積層する方法が挙げられる。絵柄層4と光透過制御層5とが積層されてなる加飾フィルムは、シート状の光透過制御層5の表面にインクジェットやグラビア印刷など公知の印刷方法で絵柄層4を形成して得られる。上記の加飾フィルムを基材2に積層する場合や、シート状の光透過制御層5を基材2に予め形成された印刷層4に積層する場合において、その具体的な手段としては、ロールによる押し付け貼合法や、真空圧着成形、インモールド成形法などが適用できる。また、基材2と絵柄層4と光透過制御層5との各積層界面の密着性を確保するために、各積層界面の少なくとも一つの界面に接着層を形成して積層することが好ましい。また、
図9(a)に例示した加飾部材16のように、光透過制御層5の絵柄層4側とは反対側の面に第2の絵柄層を有する場合には、基材2に絵柄層4と光透過制御層5が積層された後に、光透過制御層5の表面にインクジェット印刷や各種転写方法などによって第2の絵柄層を形成してもよいし、絵柄層4と光透過制御層5と第2の絵柄層6の順に積層された加飾フィルムを上記に例示した積層手段で基材2の表面に積層すればよい。
【0034】
また、絵柄層4と光透過制御層5とが積層されてなる加飾フィルムを基材2に積層して加飾部材1を製造する方法の別の実施形態として、光透過制御層5が熱可塑性である加飾フィルムを用いる場合には、該加飾フィルムを加熱して軟化させる熱軟化工程と、軟化した加飾フィルムの少なくとも一部を面方向に伸長変形させて光透過制御層5を構成する光透過制御セル部5Pのルーバー構造を部分的に異ならせる変形工程と、変形工程と同時または後に基材2の表面に伸長変形した加飾フィルムを積層してルーバー構造が部分的に異なる光透過制御層5を備えた加飾層3を形成する積層工程と、によって加飾部材1を製造してもよい。変形工程において、軟化した加飾フィルムの光透過制御層5の一部を引き延ばして光透過制御セル部5Pのルーバー構造を部分的に異ならせる手段は特に限定されず、例えば、加飾フィルム全体を面方向に引き延ばす方法や、引き延ばしたい部分に押圧子を押し当てて部分的に加飾フィルムを引き延ばす方法などが適用できる。また、加飾基材2の表面に曲面部や凹凸部が形成されている場合には、加飾フィルムを熱で軟化した状態のまま基材2の曲面部や凹凸部に沿わせて加飾フィルムを貼り付け、曲面部や凹凸部に加飾フィルムを押し付けて引き延ばして変形工程を実行してもよい。この製法の実施形態によれば、ルーバー構造が異なる領域を有さない光透過制御層5を備えた加飾フィルムを用いた場合でも、熱変軟化工程と変形工程によって、容易にルーバー構造が部分的に異なる光透過制御層5を有する加飾層3を備えた加飾部材1を製造することができる。また、ルーバー構造が部分的に異なる光透過制御層5を有する加飾フィルムを用いた場合には、熱変軟化工程と変形工程によって付与されるルーバー構造の変形を伴った視野角制御作用によって、観察角度に応じた加飾層の絵柄変化がより多様化した加飾層を備えた加飾部材を得ることもできる。この製法の実施形態の実行に有効な加工方法として、真空成形、TOM工法やNGF工法に代表される三次元表面加飾成形が適用できる。なお、この実施形態は、シート状の光透過制御層5を基材2に予め形成された印刷層4に積層する場合にも有効である。
【0035】
以上述べた加飾部材及びその製造方法に係る実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の加飾部材は、単純な構成からなり、かつ観察角度に応じて加飾層の意匠が視覚的に多様に変化するため、自動車、建材内装などの装飾部品として有用である。
【符号の説明】
【0037】
1、10 加飾部材
2 基材
3、30 加飾層
4、40、41、42 絵柄層
40a、40b、40c 絵柄層の柄領域
5、50、51、52 光透過制御層
5a、5b、5b´、5c ルーバー構造の領域
5P、50a、50b、50c 光透過制御セル部
5A 光透過帯
5B 遮光帯
6 第2の絵柄層