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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156839
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】腹腔鏡下手術用ガス除去システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/94 20060101AFI20221006BHJP
   A61B 17/02 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
A61B17/94
A61B17/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060727
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】504229778
【氏名又は名称】株式会社IBS
(74)【代理人】
【識別番号】100114764
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100178124
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 英樹
(72)【発明者】
【氏名】早川 剛一
(72)【発明者】
【氏名】宮城 公輔
(72)【発明者】
【氏名】大熊 光一
(72)【発明者】
【氏名】丸山 真輔
(72)【発明者】
【氏名】鷲見 洋人
(72)【発明者】
【氏名】神谷 翔太
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160AA11
4C160MM23
4C160NN22
(57)【要約】
【課題】本発明は、患者の腹腔内のガスを手術室内に排出することなく完全に除去することができる腹腔鏡下手術用ガス除去システムを提供することを目的とする。
【解決手段】腹腔鏡下手術において腹腔内のガスを除去する腹腔鏡下手術用ガス除去システムである。一端部10aが腹腔C内に配置されたガス吸引路10と、該ガス吸引路10の他端部に接続されたガス貯留部11と、ガス吸引路10の中途に設けられたポンプ部12とを備える。ポンプ部12の吸引動作により腹腔C内のガスをガス吸引路10を通じて吸引したあと、ガス貯留部11に貯留する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腹腔鏡下手術において腹腔内のガスを除去する腹腔鏡下手術用ガス除去システムであって、
一端部が腹腔内に配置されたガス吸引路と、
該ガス吸引路の他端部に接続されたガス貯留部とを備え、
腹腔内のガスを前記ガス吸引路を通じて吸引したあと、前記ガス貯留部に貯留することを特徴とする腹腔鏡下手術用ガス除去システム。
【請求項2】
前記ガス吸引路は、腹腔内のガスを吸引するポンプ部が設けられ、該ポンプ部の吸引動作により腹腔内のガスを前記ガス吸引路を通じて吸引する請求項1に記載の腹腔鏡下手術用ガス除去システム。
【請求項3】
前記ガス貯留部は、内部が腹腔内の圧力よりも低圧状態または真空状態となされ、該ガス貯留部の低圧状態または真空状態により腹腔内のガスを前記ガス吸引路を通じて吸引する請求項1に記載の腹腔鏡下手術用ガス除去システム。
【請求項4】
前記ガス貯留部は、シリカゲル、アルミナ、活性炭、ゼオライトの少なくとも1種類以上の吸着剤と、該吸着剤が収容されるガス貯留部用容器とを備え、該ガス貯留部用容器が前記ガス吸引路に脱着可能に設けられている請求項1から請求項3のいずれかに記載の腹腔鏡下手術用ガス除去システム。
【請求項5】
前記ガス貯留部は、内部が真空状態であって、50度~70度の温度に設定されている請求項1から請求項4のいずれかに記載の腹腔鏡下手術用ガス除去システム。
【請求項6】
前記ガス吸引路は、吸引されたガスと液体を分離する気液分離部が設けられている請求項1から請求項5のいずれかに記載の腹腔鏡下手術用ガス除去システム。
【請求項7】
前記ガス吸引路は、腹腔内から吸引されたガスに含まれる水分および/または不純物を吸着する吸着部が設けられている請求項1から請求項6のいずれかに記載の腹腔鏡下手術用ガス除去システム。
【請求項8】
前記吸着部は、シリカゲル、アルミナ、活性炭、ゼオライトの少なくとも1種類以上の吸着剤と、該吸着剤が密閉状態で収容される吸着部用容器とを備え、該吸着部用容器が前記ガス吸引路に対して脱着可能に設けられている請求項7に記載の腹腔鏡下手術用ガス除去システム。
【請求項9】
前記吸着部は、シリカゲル、アルミナ、活性炭、ゼオライトの少なくとも2種類以上の吸着剤が吸引側から排出側に亘って複数層設けられている請求項8に記載の腹腔鏡下手術用ガス除去システム。
【請求項10】
前記吸着部は、各層の吸着剤が前層の吸着剤よりもガスの水分を吸着する度合が小さくなるように配置されている請求項9に記載の腹腔鏡下手術用ガス除去システム。
【請求項11】
前記吸着部は、吸引側の第1層の吸着剤としてシリカゲル、アルミナまたは活性炭、第1層に続く第2層の吸着剤としてゼオライトが設けられている請求項10に記載の腹腔鏡下手術用ガス除去システム。
【請求項12】
前記吸着部は、吸引側の第1層の吸着剤としてシリカゲル、第1層に続く第2層の吸着剤としてアルミナまたは活性炭、第2層に続く第3層の吸着剤としてゼオライトが設けられている請求項10に記載の腹腔鏡下手術用ガス除去システム。
【請求項13】
前記吸着部は、吸引側の第1層の吸着剤としてシリカゲル、第1層に続く第2層の吸着剤としてアルミナ、第2層に続く第3層の吸着剤として活性炭、第3層に続く第4層の吸着剤としてゼオライトが設けられている請求項10に記載の腹腔鏡下手術用ガス除去システム。
【請求項14】
前記吸着部用容器は、内部が連通孔を介して複数の区画室に区画され、各区画室に材質が同一または異なる吸着剤が収容されるとともに、ガスの吸引側の区画室に前記ガス吸引路の吸引側端部が脱着可能に接続され、かつガスの排出側の区画室に前記ガス吸引路の排出側端部が脱着可能に接続されている請求項8に記載の腹腔鏡下手術用ガス除去システム。
【請求項15】
前記吸着部用容器は、区画室の上部に連通孔が設けられるとともに、ガスの吸引側の区画室の下部に前記ガス吸引路の吸引側端部が脱着可能に接続され、かつガスの排出側の区画室の下部に前記ガス吸引路の排出側端部が脱着可能に接続される請求項14に記載の腹腔鏡下手術用ガス除去システム。
【請求項16】
前記吸着部用容器は、区画室におけるガス吸引路の吸引側端部および排出側端部が接続される下部領域にフィルタが設けられ、該フィルタの上方に吸着剤が配置される請求項15に記載の腹腔鏡下手術用ガス除去システム。
【請求項17】
一端部が腹腔内に配置されるとともに、他端部がガスボンベに接続され、気腹装置によりガスを供給するガス供給路と、
一端部が前記ガス吸引路に接続されるとともに、他端部が前記ガス供給路に接続されたガス循環路と、
前記ガス吸引路において、該ガス吸引路と前記ガス循環路の接続部分よりも前記ガス貯留部側に設けられた開閉弁とを備え、
前記開閉弁が開いた場合、腹腔内のガスが前記ガス吸引路を通じて前記ガス貯留部に送出される一方、前記開閉弁が閉じた場合、腹腔内のガスが前記ガス吸引路および前記ガス循環路を通じて前記ガス供給路に送出される請求項1から請求項16のいずれかに記載の腹腔鏡下手術用ガス除去システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腹腔鏡下手術に用いられ、腹腔内のガスを除去するための腹腔鏡下手術用ガス除去システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、手術時の患者の負担を軽減することを目的として、開腹することなく手術を行う腹腔鏡下手術が知られている。この腹腔鏡下手術では、腹腔内を観察する内視鏡を腹腔内に挿入する第1のトラカールと、処置器具を腹腔内に挿入する第2のトラカールとを患者の腹部に穿刺し、第1のトラカールに挿入された内視鏡で腹腔内を観察しながら、第2のトラカールに挿入された処置器具を操作することにより所定の手術を行う。
【0003】
このような腹腔鏡下手術では、内視鏡の視野を確保するとともに処置器具を操作するための領域を腹腔内に確保するために気腹装置が用いられる。この気腹装置は、患者の腹腔内にガス(例えば、炭酸ガス)を供給し、腹腔内の圧力を上昇させることにより腹部を膨らませて、腹腔内に所定の領域を確保する。
【0004】
そして、腹腔鏡下手術を行っている際、電気メスや超音波処置具などを使用した際に煙やミスト(水分)のサージカルスモークが発生し、内視鏡による術野がサージカルスモークによって阻害されたり、予期せぬ出血や体液が噴出する場合があるため、それらをガスとともに腹腔内から吸引して排出していた(特許文献1参照)。また、吸引したガスから水分や不純物を除去したあと、気腹装置に再循環して、腹腔内に再び供給することも行われている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2017-502703号公報
【特許文献2】特開2020-96887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の装置では、腹腔内から吸引したガスを手術室内にそのまま排出しており、ガスを再循環する装置でも余分なガスを手術室内に排出していた。このため、仮に患者が新型コロナ等の何らかの感染症に感染している場合、感染リスクのあるウィルスや細菌を含むガスが手術室内に蔓延することになり、医師や看護師が該ガスを吸い込むことにより同感染症に感染する危険性があった。
【0007】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであって、患者の腹腔内のガスを手術室内に排出することなく完全に除去することができ、ひいては医師や看護師の感染症のリスクを防止または軽減することが可能な腹腔鏡下手術用ガス除去システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、腹腔鏡下手術において腹腔内のガスを除去する腹腔鏡下手術用ガス除去システムであって、一端部が腹腔内に配置されたガス吸引路と、該ガス吸引路の他端部に接続されたガス貯留部とを備え、腹腔内のガスを前記ガス吸引路を通じて吸引したあと、前記ガス貯留部に貯留することを特徴とする。
【0009】
これによれば、腹腔内から吸引されたガスがガス貯留部に貯留されるため、患者の腹腔内のガスを手術室内に排出することなく完全に除去することができる。
【0010】
また、前記ガス吸引路は、腹腔内のガスを吸引するポンプ部が設けられ、該ポンプ部の吸引動作により腹腔内のガスを前記ガス吸引路を通じて吸引するのが好ましい。これによれば、ポンプ部の吸引動作により腹腔内のガスを簡単かつ確実に吸引することができる。
【0011】
また、前記ガス貯留部は、内部が腹腔内の圧力よりも低圧状態または真空状態となされ、該ガス貯留部の低圧状態または真空状態により腹腔内のガスを前記ガス吸引路を通じて吸引するのが好ましい。これによれば、ガス貯留部の低圧状態または真空状態により腹腔内のガスを簡単かつ確実に吸引することができる。
【0012】
また、前記ガス貯留部は、シリカゲル、アルミナ、活性炭、ゼオライトの少なくとも1種類以上の吸着剤と、該吸着剤が収容されるガス貯留部用容器とを備え、該ガス貯留部用容器が前記ガス吸引路に脱着可能に設けられているのが好ましい。これによれば、シリカゲル、アルミナ、活性炭、ゼオライトの少なくとも1種類以上の吸着剤によりガスに含まれる水分を確実に吸着することができる。しかも、ガス貯留部用容器がガス吸引路に脱着可能に設けられているため、吸着剤が所定量の水分を吸着した際、ガス貯留部用容器をガス吸引路から取り外せば、ガスを外気に触れさせることなく廃棄または所定の処理を行うことができる。
【0013】
また、前記ガス貯留部は、内部が真空状態であって、かつ50度~70度の温度に設定されているのが好ましい。これによれば、容器の扱い易さや省エネルギーを図りながら、ガスの吸着量を最大限に増大させることができる。
【0014】
また、前記ガス吸引路は、吸引されたガスと液体を分離する気液分離部が設けられているのが好ましい。これによれば、腹腔内から吸引されたガスが液体と分離されるため、その後の吸着部における水分や不純物の吸着や、ガス貯留部における水分やガスの吸着に関する処理を容易に行うことが可能となる。
【0015】
また、前記ガス吸引路は、腹腔内から吸引されたガスに含まれる水分および/または不純物を吸着する吸着部が設けられているのが好ましい。これによれば、腹腔内から吸引されたガスに含まれる水分および/または不純物を貯留前に吸着することができ、ガス貯留部における水分やガスの吸着や、ガスを再循環した場合の再利用に関する処理を容易に行うことが可能となる。
【0016】
また、前記吸着部は、シリカゲル、アルミナ、活性炭、ゼオライトの少なくとも1種類以上の吸着剤と、該吸着剤が密閉状態で収容される吸着部用容器とを備え、該吸着部用容器が前記ガス吸引路に対して脱着可能に設けられているのが好ましい。これによれば、アルミナ、活性炭、ゼオライトの少なくとも1種類以上の吸着剤によりガスに含まれる水分を確実に吸着することができ、その後のガス貯留部における処理を容易に行うことが可能となる。しかも、吸着部用容器がガス吸引路に脱着可能に設けられているため、吸着剤が所定量の水分を吸着した際、吸着部用容器をガス吸引路から取り外せば、吸着剤を外気に触れさせることなく廃棄または所定の処理を行うことができる。
【0017】
また、前記吸着部は、シリカゲル、アルミナ、活性炭、ゼオライトの少なくとも2種類以上の吸着剤が吸引側から排出側に亘って複数層設けられているのが好ましい。これによれば、ガスに含まれる水分を簡単かつ確実に吸着することができる。
【0018】
また、前記吸着部は、各層の吸着剤が前層の吸着剤よりもガスの水分を吸着する度合が小さくなるように配置されているのが好ましい。これによれば、吸着部においてガスの吸引側から排出側に亘って、相対湿度の高い当初のガスから多量の水分を吸着したあと、相対湿度を低くなったガスからも残っている少量の水分を順次吸着することにより、ガスに含まれる水分を段階的に効率よく吸着することができる。
【0019】
また、前記吸着部は、吸引側の第1層の吸着剤としてシリカゲル、アルミナまたは活性炭、第1層に続く第2層の吸着剤としてゼオライトが設けられているのが好ましい。また、前記吸着部は、吸引側の第1層の吸着剤としてシリカゲル、第1層に続く第2層の吸着剤としてアルミナまたは活性炭、第2層に続く第3層の吸着剤としてゼオライトが設けられているのが好ましい。また、前記吸着部は、吸引側の第1層の吸着剤としてシリカゲル、第1層に続く第2層の吸着剤としてアルミナ、第2層に続く第3層の吸着剤として活性炭、第3層に続く第4層の吸着剤としてゼオライトが設けられているのが好ましい。これらの組み合わせによれば、ガスに含まれる水分を段階的に効率よくかつ確実に吸着することができる。
【0020】
また、前記吸着部用容器は、内部が連通孔を介して複数の区画室に区画され、各区画室に材質が同一または異なる吸着剤が収容されるとともに、ガスの吸引側の区画室に前記ガス吸引路の吸引側端部が脱着可能に接続され、かつガスの排出側の区画室に前記ガス吸引路の排出側端部が脱着可能に接続されているのが好ましい。これによれば、腹腔内から吸引されたガスが、ガス吸引路の吸引側端部から吸引側の区画室に流入して、該区画室において所定の水分や不純物が除去されたあと、連通孔から隣接する区画室に流入して、該区画室において所定の水分や不純物が除去されていくことを区画室の個数だけ繰り返した後、ガス吸引路の排出側端部から排出されるため、ガスに含まれる水分や不純物を簡単かつ確実に除去することができる。また、吸引側の区画室からガス吸引路の吸引側端部を取り外すとともに、排出側の区画室からガス吸引路の排出側端部を取り外せば、吸着剤を外気に触れさせることなく廃棄または所定の処理を行うことができる。
【0021】
また、前記吸着部用容器は、区画室の上部に連通孔が設けられるとともに、ガスの吸引側の区画室の下部に前記ガス吸引路の吸引側端部が脱着可能に接続され、かつガスの排出側の区画室の下部に前記ガス吸引路の排出側端部が脱着可能に接続されるのが好ましい。これによれば、袋体の上部から吸着剤を充填して封止することができ、吸着部を容易に製造することが可能となる。
【0022】
また、前記吸着部用容器は、区画室におけるガス吸引路の吸引側端部および排出側端部が接続される下部領域にフィルタが設けられ、該フィルタの上方に吸着剤が配置されるのが好ましい。これによれば、区画室に収容された吸着剤がガス吸引路の吸引側端部および排出側端部に詰まることを防止することができる。
【0023】
また、一端部が腹腔内に配置されるとともに、他端部がガスボンベに接続され、気腹装置によりガスを供給するガス供給路と、一端部が前記ガス吸引路に接続されるとともに、他端部が前記ガス供給路に接続されたガス循環路と、前記ガス吸引路において、該ガス吸引路と前記ガス循環路の接続部分よりも前記ガス貯留部側に設けられた開閉弁とを備え、前記開閉弁が開いた場合、腹腔内のガスが前記ガス吸引路を通じて前記ガス貯留部に送出される一方、前記開閉弁が閉じた場合、腹腔内のガスが前記ガス吸引路および前記ガス循環路を通じて前記ガス供給路に送出されるのが好ましい。これによれば、開閉弁の開閉操作によりガスの送出経路を切り替えることによって、腹腔内から吸引したガスを手術室内に排出することなく、ガス貯留部に貯留したり、あるいは気腹装置において所定の温度、圧力、湿度に調整した上で再利用することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、患者の腹腔内のガスを手術室内に排出することなく完全に除去することができ、ひいては医師や看護師の感染症のリスクを防止または軽減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の第1の実施形態に係る腹腔鏡下手術用ガス除去システムの全体構成を示す概略図である。
図2】ガス貯留部用容器の構成例を示す断面図である。
図3】本発明の第2の実施形態に係る腹腔鏡下手術用ガス除去システムの全体構成を示す概略図である。
図4】吸着部における吸着剤と相対湿度の対応関係を示す表である。
図5】吸着部における吸着剤の組み合わせを示す表である。
図6】吸着部用容器(袋体)の第1の構成例を示す正面図である。
図7】吸着部用容器(袋体)の第2の構成例を示す正面図である。
図8】本発明の第3の実施形態に係る腹腔鏡下手術用ガス除去システムの全体構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<第1の実施形態>
次に、本発明に係る腹腔鏡下手術用ガス除去システム(以下、本システムという)の第1の実施形態について図1および図2を参照しつつ説明する。
【0027】
なお、本システムが用いられる腹腔鏡下手術では、腹腔C内を観察する内視鏡を腹腔C内に挿入する第1のトラカールと、処置器具を腹腔C内に挿入する第2のトラカールとを患者の腹部に穿刺し、第1のトラカールに挿入された内視鏡で腹腔C内を観察しながら、第2のトラカールに挿入された処置器具を操作することにより所定の手術を行う。本システム以外のこれら各器具については公知なので、その説明を省略する。
【0028】
本システムは、図1に示すように、一端部10aが図示略のトラカールを介して腹腔C内に配置されたガス吸引路10と、該ガス吸引路10の他端部に接続されたガス貯留部11と、ガス吸引路10の中途に設けられたポンプ部12とを備え、ポンプ部12の吸引動作により腹腔C内のガスをガス吸引路10を通じて吸引してガス貯留部11に貯留する。
【0029】
前記ガス貯留部11は、図2に示すように、1種類以上の吸着剤111と、該吸着剤111が収容されるガス貯留部用容器112とを備え、ガス貯留部用容器112がガス吸引路10に脱着可能に設けられている。
【0030】
前記ガス貯留部用容器112は、金属製または合成樹脂製の剛性容器であって、外部にガスなどが透過しない素材で構成され、上部に形成された口部112aにガス吸引路10の端部がコネクタ113を介して脱着可能に接続されている。
【0031】
前記吸着剤111は、例えば、主にガスに含まれる水分を吸着するシリカゲル、アルミナ、活性炭、ゼオライトなどの粒状のものが挙げられる。特に吸着剤111としてゼオライトを用いた場合、ガス(炭酸ガス)を全くまたはごく少量しか吸着しないため、ガス貯留部用容器112内においてガスと水分を分離した状態で貯留することができる。
【0032】
而して、前記ポンプ部12の吸引動作により腹腔C内のガスをサージカルスモーク(水分や煙)、血液や体液などの液体とともに吸引すると、ガスなどが吸引側のガス吸引路10を通じてポンプ部12に吸引されたあと、ポンプ部12から排出側のガス吸引路10を通じてガス貯留部11に送出され、ガス貯留部11に貯留される。また、ガス貯留部11に貯留されたガスに含まれる水分や不純物は、適宜、ガス貯留部11の吸着剤111に吸着されることによりガスと分離される。あとは、ガス貯留部11に所定量のガスが貯留された際、ガス貯留部用容器112をコネクタ113を介してガス吸引路10から取り外せば、ガスおよび水分や不純物を手術室内に排出することなく完全に除去することができる。なお、コネクタ113については、ガス貯留部用容器112をガス吸引路10から取り外す際、自動または手動により閉栓される。
【0033】
なお、本実施形態では、前記ポンプ部12の吸引動作により腹腔C内のガスをガス吸引路10を通じて吸引するものとしたが、その他の方法によりガスをガス吸引路10を通じて吸引してもよい。例えば、ガス貯留部用容器112の内部を腹腔C内の圧力よりも低圧状態または真空状態とし、ガス貯留部用容器112の低圧状態または真空状態により腹腔C内のガスをガス吸引路10を通じて吸引することが考えられる。この場合、ガス貯留部用容器112は、内部の圧力が13.3Kpa(100torr)以下の低圧状態、好ましくは133Pa(1torr)以下の真空状態に設定されるのがよい。
【0034】
また、前記ガス貯留部11は、ガスを吸着する吸着剤がガス貯留部用容器112に収容されてもよい。これによれば、該吸着剤によりガスが吸着されるため、ガス貯留部用容器112の内部に多量のガスを貯留することができる。
【0035】
また、前記ガス貯留部用容器112は、内部が真空状態であって、かつ60度前後の50~70度、さらに好ましくは55度~65度の温度に設定されるのがよい。具体的に説明すると、ガス貯留部用容器112の内部の温度が高くなると吸着剤(例えば、オキシブ-7)によるガスの吸着量が増大するが、ガス貯留部用容器112の内部を真空状態(133Pa以下)にした場合、内部の温度が60度付近を超えても吸着剤によるガスの吸着量がほとんど変わらなくなることが判明した。このため、内部が真空状態であって、かつ60度前後の50~70度、さらに好ましくは55度~65度の温度に設定されると、容器の扱い易さや省エネルギーを図りながら、ガスの吸着量を最大限に増大させることができる。
【0036】
<第2の実施形態>
次に、本システムの第2の実施形態について図3図5を参照しつつ説明する。
【0037】
本実施形態では、図3に示すように、前記ガス吸引路10において気液分離部13と吸着部14が設けられている。
【0038】
前記気液分離部13は、ガス吸引路10の一端部10aとポンプ部12の間に設けられ、ガス吸引路10を通じて吸引されたガスと液体(例えば、水、血液、体液など)を分離する。
【0039】
前記吸着部14は、気液分離部13とポンプ部12の間に設けられ、腹腔C内から吸引されたガスに含まれる水分や不純物を除去するものであって、1種類以上の吸着剤141と、該吸着剤141が収容される吸着部用容器142とを備える。以下、吸着剤141と吸着部用容器142の構成例について説明する。
【0040】
(吸着剤141の構成例)
前記吸着剤141は、例えば、シリカゲル、アルミナ、活性炭、ゼオライトの少なくとも1種類以上の吸着剤からなり、好ましくは、2種類以上の吸着剤141が吸引側から排出側に亘って複数層設けられるのがよい。
【0041】
また、前記吸着剤141は、図4に示すように、吸着剤141の種類によって、水分、有機ガス(サージカルスモーク)および炭酸ガス(CO2)の吸着量が異なるため、各層の吸着剤141が前層の吸着剤141よりもガスの水分を吸着する度合(相対湿度)が小さくなるように配置されてもよい。
【0042】
例えば、吸引側の第1層の吸着剤141として、相対湿度が40%RH以上のガスの水分を吸着する吸着剤(例えば、活性炭、活性アルミナ、シリカゲル)が設けられ、第1層に続く第2層の吸着剤141として第1層よりも相対湿度が低い吸着剤が設けられる構成が挙げられる。
【0043】
具体的には、図5に示すような吸着剤141の組み合わせの構成が挙げられる。例えば、2層の吸着剤141の組み合わせから構成される場合、吸引側の第1層の吸着剤141としてシリカゲル、活性アルミナまたは活性炭、第1層に続く第2層の吸着剤141としてゼオライトが設けられる構成が好ましい。また、3層の吸着剤141の組み合わせから構成される場合、吸引側の第1層の吸着剤141としてシリカゲル、第1層に続く第2層の吸着剤141として活性アルミナまたは活性炭、第2層に続く第3層の吸着剤141としてゼオライトが設けられる構成が好ましい。さらに、4層の吸着剤141の組み合わせから構成される場合、吸引側の第1層の吸着剤141としてシリカゲル、第1層に続く第2層の吸着剤141として活性アルミナ、第2層に続く第3層の吸着剤141として活性炭、第3層に続く第4層の吸着剤141としてゼオライトが設けられる構成が好ましい。なお、図5に示すように、その他の吸着剤141の組み合わせ例であってもよい。
【0044】
これによれば、前記吸着部14においてガスの吸引側から排出側に亘って、相対湿度の高い当初のガスから多量の水分を吸着したあと、相対湿度を低くなったガスからも残っている少量の水分を順次吸着することにより、ガスに含まれる水分を段階的に効率よく除去することができる。
【0045】
(吸着部用容器142の構成例)
前記吸着部用容器142は、金属製または合成樹脂製の剛性または袋状の容器であって、外部にガスなどが透過しない素材で構成されている。
【0046】
また、前記吸着部用容器142は、内部が連通孔を介して複数の区画室に区画され、各区画室に材質が同一または異なる吸着剤が収容されるともに、ガスの吸引側の区画室にガス吸引路10の吸引側端部が脱着可能に接続され、かつガスの排出側の区画室にガス吸引路10の排出側端部が脱着可能に接続されてもよい。
【0047】
例えば、前記吸着部用容器142は、図6に示すように、吸着剤を密閉状態に被覆する合成樹脂製の袋体からなり、該袋体がガス吸引路10に対して脱着可能に設けられる構成が挙げられる。
【0048】
この前記吸着部用容器142は、内部において第1の区画室142aと第2の区画室142bが左右に区画されており、下部に第1の区画室142aと第2の区画室142bを連通する連通孔142cが設けられている。そして、前記吸着部用容器142の第1の区画室142aは、内部に第1層の吸着剤141が設けられるとともに、上部にコネクタ143が設けられ、該コネクタ143を介してガス吸引路10の吸引側端部と脱着可能に接続される。また、前記吸着部用容器142の第2の区画室142bは、内部に第2層の吸着剤141が設けられるとともに、上部にコネクタ143が設けられ、該コネクタ143を介してガス吸引路10の排出側端部と脱着可能に接続される。
【0049】
これによれば、腹腔C内から吸引されたガスが、ガス吸引路10の吸引側端部から第1の区画室142aに流入して、該第1の区画室142aにおいて吸着剤141により所定の水分や不純物を除去されたあと、連通孔142cから第2の区画室142bに流入して、該第2の区画室142bにおいて吸着剤141により所定の水分や不純物が除去されて、ガス吸引路10の排出側端部から排出されるため、ガスに含まれる水分や不純物を簡単かつ確実に吸着することができる。
【0050】
また、前記吸着部用容器142の吸着剤141が所定量の水分や不純物を吸着した際、吸着部用容器142の第1の区画室142aからガス吸引路10の吸引側端部をコネクタ143を介して取り外すとともに、吸着部用容器142の第2の区画室142bからガス吸引路10の排出側端部をコネクタ143を介して取り外せば、吸着剤141が密閉状態に収容された吸着部用容器142を簡単かつ確実に取り外すことができ、吸着剤141を手術室内の外気に触れさせることなく廃棄または所定の処理を行うことができる。なお、コネクタ143については、吸着部用容器142をガス吸引路10から取り外す際、自動または手動により閉栓される。
【0051】
なお、本実施形態では、前記吸着部用容器142の上部にコネクタ143を設けるものとしたが、図7に示すように、吸着部用容器142の上部に連通孔142cを設けるとともに、吸着部用容器142の下部にコネクタ143を設けるものとしてもよい。これによれば、吸着部用容器142の上部から吸着剤141を充填して封止することができ、吸着部14を容易に製造することが可能となる。この場合、コネクタ143に吸着剤141が詰まることを防止するため、吸着部用容器142の空間部の下部領域にフィルタ144(金網、パンチングプレート、不織布など)を設けて、該フィルタ144上に吸着剤141が配置されるようにしてもよい。
【0052】
また、前記吸着部用容器142は、透明または半透明としたり、あるいは点検窓を設けたりすることにより、吸着剤141が所定量の水分や不純物を吸着したことを吸着剤141の状態(例えば、色)で判別してもよい。例えば、吸着剤141としてシリカゲルを用いた場合、シリカゲルは水分を吸着していくと、青色から橙色に変化するため、吸着剤141が所定量の水分を吸着したことを色で判別することができる。
【0053】
また、前記吸着部用容器142は、同一の空間部内において同一の吸着剤141を設けるものとしたが、同一の空間部内において異なる吸着剤141を層状に設けてもよい。
【0054】
<第3の実施形態>
次に、本システムの第3の実施形態について図8を参照しつつ説明する。
【0055】
本実施形態では、図8に示すように、ガスボンベ21のガスを腹腔C内に新たに供給するガス供給路20と、腹腔C内から吸引したガスを循環させるガス循環路30が設けられ、ガス供給路20にはガスボンベ21と気腹装置22が設けられている。
【0056】
前記ガス供給路20は、一端部20aが図示略のトラカールを介して腹腔C内に配置されるとともに、他端部がガスボンベ21に接続され、ガスボンベ21のガスを気腹装置22によりガス供給路20を通じて腹腔C内に供給する。
【0057】
前記ガス循環路30は、一端部がガス吸引路10に接続されるとともに、他端部がガス供給路20に接続され、腹腔C内からガス吸引路10を通じて吸引したガスをガス供給路20に送出し、該ガスを気腹装置22によりガス供給路20を通じて腹腔C内に供給する。
【0058】
前記ガス吸引路10は、ガス循環路30の接続部Aよりもガス貯留部11側において開閉弁15が設けられている。このため、図示略の制御部により開閉弁15を開いた場合、ポンプ部12から排出されたガスがそのままガス吸引路10を通じてガス貯留部11に送出される一方、開閉弁15を閉じた場合、ポンプ部12から排出されたガスがガス循環路30を通じてガス供給路20に送出される。
【0059】
なお、前記ガス吸引路10は、ガス循環路30の接続部とポンプ部12の間において、ガス純度測定部16が設けられてもよい。これによれば、ガス純度測定部16により測定されたガスの純度が所定値を満たしていない場合、図示略の制御部により開閉弁15を開くことにより、ガスをガス貯留部11に送出する一方、ガス純度測定部16により測定されたガスの純度が所定値を満たしている場合、図示略の制御部により開閉弁15を閉じることにより、ガス循環路30を通じてガスをガス供給路20に送出することができる。
【0060】
前記気腹装置22は、ガスボンベ21のガスおよび/または腹腔C内から吸引したガスをガス供給路20を通じて腹腔C内に供給するための装置であって、ガスの温度、圧力、湿度などを適宜調整した上で腹腔C内に供給する。ガスの供給に際しては、ガスの温度、圧力、湿度などに応じて、ガスボンベ21のガスと吸引されたガスとを適宜切り替えたり、混合したりするなどして腹腔C内に供給する。
【0061】
以上、第3の実施形態に係る本システムによれば、前記開閉弁15の開閉操作によりガスの送出経路を切り替えることによって、腹腔C内から吸引したガスを手術室内に排出することなく、ガス貯留部11に貯留したり、あるいは気腹装置22において所定の温度、圧力、湿度に調整した上で再利用することができる。
【0062】
以上、図面を参照して本発明の実施形態を説明したが、本発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示された実施形態に対して、本発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0063】
10…ガス吸引路
11…ガス貯留部
111…吸着剤
112…ガス貯留部用容器
112a…口部
113…コネクタ
12…ポンプ部
13…気液分離部
14…吸着部
141…吸着剤
142…吸着部用容器
142a…第1の区画室
142b…第2の区画室
142c…連通孔
143…コネクタ
144…フィルタ
15…開閉弁
16…ガス純度測定部
20…ガス供給路
21…ガスボンベ
22…気腹装置
30…ガス循環路
C…腹腔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8