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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156841
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】排気システム
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/08 20060101AFI20221006BHJP
   F01N 3/24 20060101ALI20221006BHJP
   F01N 3/18 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
F01N3/08 A
F01N3/24 E
F01N3/18 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060729
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 寛之
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【弁理士】
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】島村 遼一
(72)【発明者】
【氏名】内藤 一哉
(72)【発明者】
【氏名】間所 和彦
(72)【発明者】
【氏名】松田 千尋
(72)【発明者】
【氏名】松山 翔
(72)【発明者】
【氏名】大西 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】玉木 竜太郎
【テーマコード(参考)】
3G091
【Fターム(参考)】
3G091AA02
3G091AB03
3G091AB10
3G091AB14
3G091BA03
3G091BA15
3G091CA12
3G091CA13
3G091CA26
3G091DA06
3G091EA05
3G091EA08
3G091EA17
3G091EA19
3G091EA21
3G091EA30
3G091FA01
3G091GA06
3G091GB05W
3G091GB09Y
3G091GB17X
3G091GB17Y
3G091HA19
3G091HA36
3G091HA37
3G091HB03
(57)【要約】
【課題】優れた排ガス浄化性能を有する排気システムを提供すること。
【解決手段】排気システム1が、エンジン101から排出される排ガスを排気するためのメイン管21、および、メイン管21をバイパスするバイパス管22を備える排気管2と、メイン管21におけるバイパス管22の上流側に介在され、排ガス浄化触媒を備える触媒ユニット12と、メイン管21におけるバイパス管22の下流側に介在され、排ガスに含まれる炭化水素(HC)を分解させるプラズマリアクター3と、バイパス管22に介在され、炭化水素(HC)を吸着および放出するHC貯留装置4と、メイン管21からバイパス管22へ流れる排ガスの流量を調節するためのバルブ5と、バルブ5を制御する制御部6とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンから排出される排ガスを排気するためのメイン管、および、前記メイン管をバイパスするバイパス管を備える排気管と、
前記メイン管における前記バイパス管の上流側に介在され、排ガス浄化触媒を備える触媒ユニットと、
前記メイン管における前記バイパス管の下流側に介在され、前記排ガスに含まれる炭化水素(HC)を分解させるプラズマリアクターと、
前記バイパス管に介在され、炭化水素(HC)を吸着および放出するHC貯留装置と、
前記メイン管から前記バイパス管へ流れる排ガスの流量を調節するためのバルブと、
前記バルブを制御する制御部と
を備えている、排気システム。
【請求項2】
さらに、排ガス流量を検知する流量検知デバイスを備え、
前記制御部は、
エンジン始動時から所定時間、前記メイン管を閉状態にし、前記バイパス管を開状態とする第1ステップと、
前記第1ステップの後、所定時間、前記メイン管を開状態にし、前記バイパス管を開状態とする第2ステップと、
前記第2ステップの後、排ガス流量が所定値未満の場合に、前記バイパス管を開状態とし、排ガス流量が所定値以上の場合には、前記バイパス管を閉状態とする第3ステップと
を実行する、請求項1に記載の排気システム。
【請求項3】
さらに、HC貯留装置の温度を検知する温度検知デバイスを備え、
前記制御部は、前記第3ステップにおいて前記バイパス管を開状態とする場合に、前記バルブの開度および/または開閉タイミングを、前記HC貯留装置の温度に応じて調整する、請求項2に記載の排気システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、排ガスに含まれる炭化水素(HC)を分解する装置として、プラズマリアクターが知られている。プラズマリアクターでは、複数の電極パネルに電圧を印加することにより、電極パネル間にプラズマを生じさせ、炭化水素(HC)をプラズマ分解できる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-90400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、プラズマリアクターの分解性能には限界がある。そのため、分解性能の限界を超える量の炭化水素(HC)がプラズマリアクターに供給されると、炭化水素(HC)の一部が分解されずに大気に放出される場合がある。そのため、プラズマリアクターには、排ガス浄化性能の向上が要求されている。
【0005】
本発明は、優れた排ガス浄化性能を有する排気システムである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明[1]は、エンジンから排出される排ガスを排気するためのメイン管、および、前記メイン管をバイパスするバイパス管を備える排気管と、前記メイン管における前記バイパス管の上流側に介在され、排ガス浄化触媒を備える触媒ユニットと、前記メイン管における前記バイパス管の下流側に介在され、前記排ガスに含まれる炭化水素(HC)を分解させるプラズマリアクターと、前記バイパス管に介在され、炭化水素(HC)を吸着および放出するHC貯留装置と、前記メイン管から前記バイパス管へ流れる排ガスの流量を調節するためのバルブと、前記バルブを制御する制御部とを備えている、排気システムを、含んでいる。
【0007】
本発明[2]は、さらに、排ガス流量を検知する流量検知デバイスを備え、前記制御部は、エンジン始動時から所定時間、前記メイン管を閉状態にし、前記バイパス管を開状態とする第1ステップと、前記第1ステップの後、所定時間、前記メイン管を開状態にし、前記バイパス管を開状態とする第2ステップと、前記第2ステップの後、排ガス流量が所定値未満の場合に、前記バイパス管を開状態とし、排ガス流量が所定値以上の場合には、前記バイパス管を閉状態とする第3ステップとを実行する、上記[1]に記載の排気システムを、含んでいる。
【0008】
本発明[3]は、さらに、HC貯留装置の温度を検知する温度検知デバイスを備え、前記制御部は、前記第3ステップにおいて前記バイパス管を開状態とする場合に、前記バルブの開度および/または開閉タイミングを、前記HC貯留装置の温度に応じて調整する、上記[2]に記載の排気システムを、含んでいる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の排気システムでは、排気管がメイン管およびバイパス管を備え、メイン管に触媒ユニットおよびプラズマリアクターが介在され、バイパス管にHC貯留装置が介在されている。そのため、本発明の排気システムでは、HC貯留装置に供給する排ガス量、および、プラズマリアクターに供給する排ガス量を、任意に調整でき、優れた排ガス浄化性能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の排気システムの一実施形態の概略構成図である。
図2図2は、図1に示す排気システムの制御フローを示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.排気システムの構成
図1に示すように、排気システム1は、例えば、車両100に搭載される。
【0012】
車両100は、エンジン101と、バッテリー102を含む電気システムと、エンジン101に吸気するための図示しない吸気システムと、エンジン101に燃料を供給するための図示しない燃料噴射システムと、エンジン101から排気するための排気システム1とを備える。
【0013】
排気システム1は、排気管2と、触媒ユニット12と、プラズマリアクター3と、HC貯留装置4と、バルブ5と、制御部6とを備える。
【0014】
(1)排気管
排気管2は、メイン管21と、メイン管21をバイパスするバイパス管22とを備えている。
【0015】
メイン管21は、エンジン101から排出される排ガスを排気するための配管である。メイン管21は、エンジン101に接続される。メイン管21を通過した排ガスは、車外に排出される。メイン管21には、後述するプラズマリアクター3が介在される。
【0016】
バイパス管22は、プラズマリアクター3(後述)の上流側において、メイン管21をバイパスする配管である。バイパス管22は、エンジン101とプラズマリアクター3との間においてメイン管21から分岐し、さらに、エンジン101とプラズマリアクター3との間においてメイン管21に合流する。
【0017】
詳しくは、バイパス管22は、排ガスが通過する方向において、上流端2Aと、下流端2Bとを有する。上流端2Aおよび下流端2Bは、いずれも、プラズマリアクター3(後述)の上流側において、メイン管21に接続されている。これにより、バイパス管22は、プラズマリアクター3(後述)の上流側において、排ガスをメイン管21から分岐して通過させ、メイン管21に合流させる。バイパス管22には、後述するHC貯留装置4が介在される。
【0018】
(2)触媒ユニット
触媒ユニット12は、排気管2において、バイパス管22の上流端2Aよりも上流側に、介在されている。すなわち、エンジン101から排出された排ガスは、まず、触媒ユニット12を通過し、次いで、メイン管21またはバイパス管22を通過して、プラズマリアクター3に導入され、その後、車外に排出される。
【0019】
触媒ユニット12は、公知の排ガス浄化触媒を備えている。より具体的には、触媒ユニット12は、例えば、排ガス浄化触媒と、排ガス浄化触媒を担持する触媒担体とを備えている。
【0020】
排ガス浄化触媒としては、公知の三元触媒が挙げられる。三元触媒は、例えば、貴金属を含む酸化物である。貴金属としては、例えば、白金、パラジウムおよびロジウムが挙げられる。排ガス浄化触媒は、通常、加熱されることによって、排ガスに含まれる炭化水素(HC)を酸化させ、無害化することができる。
【0021】
触媒担体としては、特に制限されないが、例えば、コージェライトからなるモノリス担体が挙げられる。モノリス担体は、例えば、ハニカム形状を有する。そして、排ガス浄化触媒は、例えば、スラリーとして調製され、触媒担体に塗布および乾燥される。これにより、排ガス浄化触媒を担持する触媒担体が得られる。
【0022】
(3)プラズマリアクター
プラズマリアクター3は、排ガスに含まれる炭化水素(HC)を分解する装置である。また、プラズマリアクター3は、排ガスに含まれる粒子状物質(PM)を分解することもできる。プラズマリアクター3は、排気管2の途中に介在される。より具体的には、プラズマリアクター3は、バイパス管22の下流側において、メイン管21に介在される。
【0023】
プラズマリアクター3は、入口3Aと、出口3Bとを有する。エンジン101から排出された排ガスは、排気管2を通って、入口3Aから、プラズマリアクター3の内部に導入される。プラズマリアクター3の内部を通過した排ガスは、出口3Bから排出され、車外に排出される。
【0024】
プラズマリアクター3は、複数の電極7を有する。複数の電極7は、プラズマリアクター3の内部に設けられる。各電極7は、入口3Aから出口3Bに向かって延びる。各電極7は、導体(例えば、タングステンなどの金属)と、導体を覆う誘電体(例えば、酸化アルミニウムなどのセラミックス)とから構成される。各電極7は、平板形状を有する。複数の電極7は、入口3Aから出口3Bに向かう方向と直交する方向において、互いに間隔を隔てて並ぶ。プラズマリアクター3は、電源配線8を介して、バッテリー102に電気的に接続される。
【0025】
バッテリー102から電源配線8および高電圧昇圧電源(図示せず)を介してプラズマリアクター3に電力が供給されると、各電極7の間で放電が生じる。これにより、各電極7の間の気体が、プラズマ状態となる。すなわち、プラズマリアクター3内にプラズマが発生する。
【0026】
また、プラズマリアクター3は、好ましくは、炭化水素(HC)を吸着するゼオライト(後述)を備えている。ゼオライトは、例えば、各電極7の表面をコーティングし、ゼオライト層を形成する。
【0027】
これにより、プラズマリアクター3に導入された排ガスに含まれる炭化水素(HC)は、電極7の表面において、ゼオライトに吸着され、プラズマにより分解される。プラズマリアクター3を通過した排ガスは、排気管2を介して車外に排出される。
【0028】
また、プラズマリアクター3において、電源配線8の途中には、例えば、図示しないスイッチが介在される。スイッチは、図示しない信号配線を介して、制御部6に電気的に接続される。制御部6は、バッテリー102からプラズマリアクター3への電力供給を、制御する。詳しくは、制御部6は、スイッチをオンすることにより、バッテリー102からプラズマリアクター3に電力を供給する。また、制御部6は、スイッチをオフすることにより、バッテリー102からプラズマリアクター3への電力供給を停止する。
【0029】
(4)HC貯留装置
HC貯留装置4は、排ガスに含まれる炭化水素(HC)を、一時的に貯留するための装置である。HC貯留装置4は、炭化水素(HC)を吸着するゼオライトを備えている。より具体的には、HC貯留装置4は、例えば、ゼオライトと、ゼオライトがコートされた担体を備えている。
【0030】
ゼオライトは、炭化水素(HC)を吸着する吸着材である。ゼオライトは、公知のゼオライトを含む。ゼオライトとしては、例えば、天然ゼオライトおよび合成ゼオライトが挙げられる。天然ゼオライトとしては、例えば、方沸石、リョウ沸石、毛沸石、ソーダ沸石、モルデン沸石、輝沸石、束沸石および濁沸石が挙げられる。合成ゼオライトとしては、例えば、A型ゼオライト、Y型ゼオライト、X型ゼオライト、L型ゼオライト、エリオナイト、モルデナイト、βゼオライトおよびZSM-5型ゼオライトが挙げられる。これらは、単独使用または2種以上併用できる。また、ゼオライトは、詳しくは後述するが、金属を含有できる。金属としては、例えば、遷移金属(貴金属を除く。)が挙げられ、より具体的には、銀、鉄、マンガンおよび銅が挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用できる。金属として、好ましくは、銀が挙げられる。金属は、例えば、公知の方法でゼオライトに担持または組成として含有される。
【0031】
担体としては、特に制限されないが、例えば、コージェライトからなるモノリス担体が挙げられる。モノリス担体は、例えば、ハニカム形状を有する。そして、ゼオライトは、例えば、スラリーとして調製され、担体に塗布および乾燥される。これにより、ゼオライトおよび担体を備えるHC貯留装置4が得られる。
【0032】
HC貯留装置4は、バイパス管22に介在される。HC貯留装置4は、入口4Aと、出口4Bとを有する。エンジン101から排出された排ガスは、バイパス管22を通って、入口4Aから、HC貯留装置4の内部に導入される。また、HC貯留装置4の内部を通過した排ガスは、出口4Bから排出され、メイン管21に合流する。このとき、排ガスに含まれる炭化水素(HC)の一部が、HC貯留装置4内において、ゼオライトに吸着される。
【0033】
(5)バルブ
バルブ5は、排気管2において、メイン管21を流れる排ガスの流量と、バイパス管22を流れる排ガスの流量とを調節する部材である。より具体的には、バルブ5は、メイン管21と、バイパス管22の下流端2Bとの接続部分に介在される。バルブ5としては、例えば、三方弁が挙げられる。
【0034】
バルブ5は、バイパス管22の開度を0%とし、メイン管の開度を100%とするメイン位置(以下、A位置)と、バイパス管22の開度を100%とし、メイン管の開度を0%とするバイパス位置(以下、B位置)との間を移動可能であり、上記開度を任意の値に調整可能である。すなわち、バルブ5は、好ましくは、A位置とB位置との間で開度を調節できる流量調整弁である。なお、バルブ5は、開度を調節できない開閉弁であってもよい。
【0035】
バルブ5をA位置からB位置へ向かって移動させると、バイパス管22およびHC貯留装置4へ流れる排ガスの流量が増加する。また、バルブ5をB位置からA位置へ向かって移動させると、バイパス管22およびHC貯留装置4へ流れる排ガスの流量が減少する。
【0036】
なお、バルブ5の配置は、上記に制限されず、メイン管21からバイパス管22へ分岐する排ガスの流量を調節できればよい。例えば、バルブ5は、バイパス管22において、HC貯留装置4の上流側に介在されていてもよい。また、バルブ5は、メイン管21とバイパス管22との接続部分ではなく、メイン管21に介在されていてもよく、また、バイパス管22に介在されていてもよい。
【0037】
(6)制御部
制御部6は、車両100における電気的な制御を実行するECU(Electronic Control Unit)であり、CPU、ROMおよびRAMなどを備える。制御部6は、電源配線10を介して、バッテリー102に接続される。制御部6は、車両100のイグニションスイッチがオンされたときに、バッテリー102から電源配線10を介して電力が供給されることにより、起動する。
【0038】
制御部6は、信号配線9を介して、バルブ5に電気的に接続される。制御部6は、信号配線9を介してバルブ5に電気信号を送ることにより、バルブ5の開度を制御する。
【0039】
また、制御部6は、図示しないアクセルペダルと電気的に接続され、エンジン101の始動および停止に応じた電気信号を受信可能である。
【0040】
(7)流量計
排気システム1は、さらに、排ガス流量を検知する流量検知デバイスとしての流量計15を備えている。流量計15は、メイン管21の途中に介在される。これにより、流量計15は、プラズマリアクター3に導入される排ガスの流量(排ガス流量M)を測定可能としている。
【0041】
より具体的には、流量計15は、例えば、バイパス管22の下流端2Bと、プラズマリアクター3の入口3Aとの間に、配置される。流量計15は、排ガス流量Mに応じた電気信号を出力する。流量計15は、信号配線9を介して、制御部6に電気的に接続される。これにより、制御部6は、流量計15から、排ガス流量Mに応じた電気信号を受信可能である。
【0042】
(8)温度計
排気システム1は、さらに、HC貯留装置4の温度を検知する温度検知デバイスとしての温度計16を備えている。温度計16は、バイパス管22に介在される。これにより、温度計16は、バイパス管22を流れる排ガスの温度を検知可能としており、また、その温度に基づいて、HC貯留装置4の温度(HC貯留温度T)を検知可能としている。
【0043】
より具体的には、温度計16は、例えば、バイパス管22の下流端2Bと、HC貯留装置4の出口4Bとの間に、配置される。温度計16は、HC貯留装置4の温度Tに応じた電気信号を出力する。温度計16は、信号配線9を介して、制御部6に電気的に接続される。これにより、制御部6は、温度計16から、HC貯留温度Tに応じた電気信号を受信可能である。
【0044】
なお、排ガス流量MおよびHC貯留温度Tは、吸入空気量と、燃料噴射量とから計算されてもよい。吸入空気量は、例えば、エンジンシステム(吸気システム)に搭載されるエアフローメーターによって測定される。燃料噴射量は、例えば、ECUで計算された指示値または空気流量(吸入空気量)を、A/Fセンサ(空燃比センサ)によって測定される値(空燃比)で除算することにより、算出される。
【0045】
2.排ガスの浄化
車両100の運転中において、エンジン101において生じた排ガスは、まず、触媒ユニット12に供給される。そして、車両100が継続的に運転されている場合、触媒ユニット12では、比較的高温の排ガスにより、排ガス浄化触媒が加熱および活性化される。そのため、排ガスに含まれる炭化水素(HC)は、排ガス浄化触媒により浄化および無害化される。その後、無害化された排ガスは、プラズマリアクター3を通過して、車外に排出される。
【0046】
一方、エンジン101の始動直後などには、触媒ユニット12に供給される排ガスが比較的低温(例えば、300℃未満)である。そのため、排ガス浄化触媒が十分に加熱および活性化されない場合がある。この場合、排ガスに含まれる炭化水素(HC)が、排ガス浄化触媒により浄化されない場合がある。
【0047】
このような場合、炭化水素(HC)を含む排ガスは、触媒ユニット12を通過し、プラズマリアクター3に導入される。そして、制御部6が、プラズマリアクター3の電極7に電圧を印加し、プラズマリアクター3内にプラズマを発生させる。その結果、プラズマにより炭化水素(HC)が酸化および無害化される。その後、排ガスは、プラズマリアクター3から排出され、大気に放出される。
【0048】
しかし、排気システム1では、プラズマリアクター3の分解性能には限界がある。そのため、分解性能の限界を超える量の炭化水素(HC)がプラズマリアクター3に供給されると、炭化水素(HC)の一部は分解されずに、大気に放出されるという不具合がある。そこで、上記の排気システム1は、以下の方法で、排気システム1を制御する。
【0049】
3.排気システムの制御
以下において、排気システム1の制御について、図2を参照して説明する。
【0050】
この制御では、制御部6が、エンジン始動時から所定時間、メイン管21を閉状態にし、バイパス管22を開状態とする第1ステップと、第1ステップの後、所定時間、メイン管21を開状態にし、バイパス管22を開状態とする第2ステップと、第2ステップの後、排ガス流量が所定値未満の場合に、バイパス管22を開状態とし、排ガス流量が所定値以上の場合には、バイパス管22を閉状態とする第3ステップとを実行する。
【0051】
より具体的には、この制御は、エンジン101の始動に伴って開始される(スタート:S1)。制御が開始されると、制御部6は、まず、バルブ5をB位置に固定する。すなわち、バイパス管22の開度が100%とされ、メイン管21の開度が0%とされる。また、制御部6は、電極7に電圧を印加し、プラズマリアクター3内にプラズマを発生させる(第1ステップ:S2)。
【0052】
これにより、エンジン101において生じた排ガスが、触媒ユニット12、HC貯留装置4およびプラズマリアクター3を、順次通過する。このとき、エンジン101が始動直後である場合、触媒ユニット12に供給される排ガスが比較的低温(例えば、300℃未満)である。そのため、触媒ユニット12では、排ガス浄化触媒が十分に加熱されず、排ガスに含まれる炭化水素(HC)は、十分に分解されない。その結果、炭化水素(HC)を含んだ排ガスが、HC貯留装置4に導入される。
【0053】
HC貯留装置4には、ゼオライトが備えられている。そのため、排ガスがHC貯留装置4に供給されると、排ガスに含まれる炭化水素(HC)の一部は、ゼオライトに吸着される。一方、炭化水素(HC)の残部がHC貯留装置4から排出され、プラズマリアクター3に導入される。そして、炭化水素(HC)の残部は、プラズマリアクター3内に発生したプラズマによって、分解される。
【0054】
そして、制御部6は、第1ステップの状態を、所定時間保持する(S3)。第1ステップの保持時間は、例えば、10秒~50秒、好ましくは、20~40秒である。
【0055】
制御部6は、上記の所定時間が経過するまで、バルブ5およびプラズマリアクター3を、上記の第1ステップの状態で保持する(S3:NO)。また、制御部6は、上記の所定時間が経過した場合(S3:YES)、バルブ5をA位置に変更する。すなわち、バイパス管22の開度が0%とされ、メイン管21の開度が100%とされる。また、制御部6は、電極7に電圧を印加し、プラズマリアクター3内にプラズマを発生させる(第2ステップ:S4)。
【0056】
すなわち、上記の所定時間が経過すると、触媒ユニット12に供給される排ガスの温度が比較的高温(例えば、300℃以上)になる。そのため、触媒ユニット12中の三元触媒が加熱および活性化され、排ガスに含まれる炭化水素(HC)は、触媒ユニット12において分解される。
【0057】
そこで、制御部6は、上記の保持時間の経過後、バルブ5をA位置に変更する。これにより、触媒ユニット12を通過した排ガスは、メイン管21およびプラズマリアクター3を通過し、車外に排出される。
【0058】
また、このとき、制御部6は、プラズマリアクター3の電極7に電圧を印加し、プラズマリアクター3内にプラズマを発生させる。これにより、プラズマリアクター3内に滞留された炭化水素(HC)が、引き続き分解される。
【0059】
そして、制御部6は、第2ステップの状態を、所定時間保持する(S5)。第2ステップの保持時間は、例えば、10秒~120秒、好ましくは、30~60秒である。
【0060】
制御部6は、上記の所定時間が経過するまで、バルブ5およびプラズマリアクター3を、上記の第2ステップの状態で保持する(S5:NO)。また、制御部6は、上記の所定時間が経過した場合(S5:YES)、バルブ5をA位置に維持する。すなわち、バイパス管22の開度が0%とされ、メイン管21の開度が100%とされる。また、制御部6は、電極7に対する電圧の印加を停止し、プラズマリアクター3内におけるプラズマの発生を停止させる(S6)。
【0061】
そして、第2ステップにおいて、上記の所定時間が経過すると、プラズマリアクター3のゼオライトに吸着した炭化水素(HC)の分解が進行し、プラズマリアクター3のゼオライトの吸着能力に余裕が生じる。
【0062】
そこで、制御部6は、第2ステップにおいて上記の所定時間が経過した後、バイパス管22を開状態とする。これにより、触媒ユニット12を通過した排ガスは、バイパス管22およびHC貯留装置4を介して、プラズマリアクター3に導入される。
【0063】
このとき、HC貯留装置4において、排ガスによりゼオライトが加熱され、ゼオライトに吸着されていた炭化水素(HC)が、ゼオライトから脱離される。その結果、炭化水素(HC)が、プラズマリアクター3のゼオライトに吸着し、プラズマにより分解される。
【0064】
一方、第3ステップにおいて、HC貯留装置4に貯留された炭化水素(HC)を、プラズマリアクター3に導入する場合、排ガス流量が過度に大きいと、炭化水素(HC)の導入量が過度に多くなり、プラズマリアクター3の分解性能の限界を超える場合がある。
【0065】
そこで、この排気システム1では、第3ステップにおけるバイパス管22の開閉を、排ガス流量に応じて制御する。
【0066】
すなわち、制御部6は、流量計15により検知される排ガス流量Mが、所定の閾値未満であるか否かを判定する(第3ステップ:S7)。そして、排ガス流量Mが所定の閾値以上の場合(S7:NO)、バルブ5をA位置に維持する。すなわち、バイパス管22の開度が0%とされ、メイン管21の開度が100%とされる。一方、排ガス流量Mが所定の閾値未満の場合(S7:YES)、バルブ5の操作により、バイパス管22を開状態とする(バイパス管開モード:S8)。
【0067】
排ガス流量Mの閾値は、例えば、1g/s以上であり、例えば、30g/s以下である。
【0068】
このように制御することにより、第3ステップでは、排ガス流量Mが比較的大きい場合には、バイパス管22を閉状態とし、排ガス流量Mが比較的小さい場合にのみ、バイパス管22を開状態とできる。そのため、分解性能の限界を超える量の炭化水素(HC)が、プラズマリアクター3に導入されることを抑制できる。
【0069】
さらに、この制御では、第3ステップにおけるバルブ5の開度および/または開閉タイミングを、HC貯留装置4の温度に応じて調整する。
【0070】
すなわち、上記のように排ガス流量Mが比較的小さい場合に、バイパス管22を開状態とすると、比較的高温の排ガスがHC貯留装置4に供給され、ゼオライトが加熱される。その結果、ゼオライトに吸着されていた炭化水素(HC)が、ゼオライトから脱離され、炭化水素(HC)が、プラズマリアクター3に導入される。
【0071】
このような第3ステップにおいて、排ガス温度が過度に高く、HC貯留装置4が過度に加熱されると、ゼオライトからの炭化水素(HC)の脱離量が過度に多くなり、プラズマリアクター3の分解性能の限界を超える場合がある。
【0072】
そこで、この排気システム1では、好ましくは、第3ステップにおけるバルブ5の開度および/または開閉タイミングを、HC貯留装置4の温度に応じて設定および制御する(S9)。
【0073】
より具体的には、例えば、制御部6は、予め作成された開度制御マップを有している。開度制御マップは、例えば、HC貯留温度Tと、そのHC貯留温度Tにおける炭化水素(HC)脱離量と、その炭化水素(HC)脱離量に適したバイパス管22の開度との関係を示すマップである。つまり、開度制御マップは、HC貯留装置4から脱離した炭化水素(HC)がプラズマリアクター3に供給されても、過剰供給とならないように、バイパス管22の開度を調整可能としている。
【0074】
制御部6は、温度計16によりHC貯留温度Tを検出し、開度制御マップを参照することにより、HC貯留温度Tに基づいて、HC貯留装置4から脱離される炭化水素(HC)の量を予測でき、また、その炭化水素(HC)の脱離量に適したバイパス管22の開度を算出できる。
【0075】
そして、制御部6は、HC貯留温度Tに基づいて、炭化水素(HC)の脱離量に適したバイパス管22の開度を算出した後、バイパス管22の開度を、バルブ5の制御により、上記で算出された所定開度に調整する。これにより、排ガス流量MおよびHC貯留温度Tに適した所定開度で、バイパス管22が開状態とされる。その結果、分解性能の限界を超えない量の炭化水素(HC)がプラズマリアクター3に供給される(S10)。
【0076】
また、制御部6は、開度制御マップに代えて、予め作成されたタイミング制御マップを有していてもよい。タイミング制御マップは、例えば、HC貯留温度Tと、そのHC貯留温度Tにおける炭化水素(HC)脱離量と、その炭化水素(HC)脱離量に適したガス流量との関係を示すマップである。つまり、タイミング制御マップは、HC貯留装置4から脱離した炭化水素(HC)がプラズマリアクター3に供給されても、過剰供給とならないように、バイパス管22を開閉するタイミング(すなわち、S7における排ガス流量の閾値)を調整可能としている。
【0077】
制御部6は、タイミング制御マップを参照することにより、HC貯留温度Tに基づいて、HC貯留装置4から脱離される炭化水素(HC)の量を予測でき、また、その炭化水素(HC)の脱離量に適した排ガス流量を算出できる。
【0078】
制御部6は、温度計16によりHC貯留温度Tを検出し、タイミング制御マップを参照することにより、HC貯留温度Tに基づいて、HC貯留装置4から脱離される炭化水素(HC)の量を予測でき、また、その炭化水素(HC)の脱離量に適したバイパス管22の開閉タイミング(すなわち、S7における排ガス流量の閾値)を算出できる。
【0079】
そして、制御部6は、HC貯留温度Tに基づいて、炭化水素(HC)の脱離量に適したバイパス管22の開度タイミングを算出した後、バイパス管22の開閉タイミングを、バルブ5の制御により、上記で算出された所定タイミングに調整する。これにより、排ガス流量MおよびHC貯留温度Tに適した所定タイミングで、バイパス管22が開状態とされる。その結果、分解性能の限界を超えない量の炭化水素(HC)がプラズマリアクター3に供給される(S10)。
【0080】
なお、制御部6は、開度制御マップとタイミング制御マップとを有し、それらを併用してもよい。
【0081】
このような制御により、分解性能の限界を超えない量の炭化水素(HC)を、プラズマリアクター3に供給できる。
【0082】
そして、制御部6は、過剰な炭化水素(HC)がプラズマリアクター3に供給されないように、排ガス流量Mを監視する。すなわち、排ガス流量Mが、S7における閾値未満を維持しているかについて、確認する(S11)。
【0083】
例えば、排ガス流量MがS7における所定の閾値以上となった場合(S11:NO)、制御部6は、バルブ5を制御して、バイパス管22を閉状態とする。より具体的には、バイパス管22の開度が0%とされ、メイン管21の開度が100%とされる。また、制御部6は、電極7に対する電圧の印加を停止し、プラズマリアクター3内におけるプラズマの発生を停止させる(S6)。
【0084】
一方、排ガス流量MがS7における所定の閾値未満に維持されている場合(S11:YES)、続いて、制御部6は、HC貯留装置4に吸着された炭化水素(HC)の脱離が完了したか否かを判断する(S12)。HC貯留装置4に吸着された炭化水素(HC)の脱離の完了は、排ガス流量MおよびHC貯留温度Tに基づいて、公知の方法で検知可能である。また、HC貯留装置4に、公知の炭化水素(HC)センサを設けることにより、HC貯留装置4に吸着された炭化水素(HC)の脱離の完了を検知してもよい。
【0085】
そして、炭化水素(HC)の脱離が完了していない場合(S12:NO)、バイパス管22を上記の所定開度で開状態の状態を維持する(S10)。
【0086】
一方、炭化水素(HC)の脱離が完了した場合(S12:YES)、制御部6は、バルブ5をA位置に変更する。すなわち、バイパス管22の開度が0%とされ、メイン管21の開度が100%とされる。また、制御部6は、電極7に対する電圧の印加を停止し、プラズマリアクター3内におけるプラズマの発生を停止させる(S13)。
【0087】
そして、上記のようにエンジン101の始動直後の排ガスが処理された後、排ガスは触媒ユニット12において浄化され、車外に排出される。また、上記の制御は停止される(エンド:S14)。
【0088】
4.作用効果
上記の排気システム1では、排気管2がメイン管21およびバイパス管22を備え、メイン管21に触媒ユニット12およびプラズマリアクター3が介在され、バイパス管22にHC貯留装置4が介在されている。そのため、HC貯留装置4に供給する排ガス量、および、プラズマリアクター3に供給する排ガス量を、任意に調整でき、優れた排ガス浄化性能を得ることができる。
【0089】
また、上記のように、第3ステップにおいて排ガス流量が所定値未満の場合に、バイパス管22を開状態とし、排ガス流量が所定値以上の場合に、バイパス管22を閉状態とすれば、排ガス流量が過度に大きく、過剰な炭化水素(HC)が排ガスにより輸送される場合にも、その過剰な炭化水素(HC)がプラズマリアクター3に供給されることを抑制できる。そのため、上記の排気システム1は、排ガス浄化性能に優れる。
【0090】
さらに、上記のように、第3ステップにおいてバイパス管22を開状態とする場合に、バルブ5の開度および/または開閉タイミングを、HC貯留装置4の温度に応じて調整すれば、HC貯留装置4の温度が過度に高く、過剰な炭化水素(HC)が脱離する場合にも、その過剰な炭化水素(HC)がプラズマリアクター3に供給されることを抑制できる。そのため、上記の排気システム1は、排ガス浄化性能に優れる。
【0091】
5.変形例
上記の排気システム1では、プラズマリアクター3が、炭化水素(HC)を吸着するためのゼオライトを備えていなくともよい。プラズマリアクター3において、ゼオライトは、例えば、電極7の表面にコーティングされる。
【0092】
また、プラズマリアクター3およびHC貯留装置4において、ゼオライトは、貴金属を含有できる。貴金属としては、例えば、白金、パラジウムおよびロジウムが挙げられる。ゼオライトが貴金属を含有していれば、プラズマリアクター3および/またはHC貯留装置4において、排ガス浄化性能を向上できる。
【0093】
また、上記の説明では、温度計16を、HC貯留装置4の下流側に設けているが、例えば、温度計16を、HC貯留装置4の上流側に設け、HC貯留装置4の上流側の温度に基づいて、HC貯留装置4の温度を推定することもできる。さらに、温度計16を、HC貯留装置4の上流側および下流側の両方に設け、HC貯留装置4の上流側の温度と下流側の温度とに基づいて、HC貯留装置4の温度を推定することもできる。
【符号の説明】
【0094】
1 排気システム
2 排気管
3 プラズマリアクター
4 バイパス管
5 バルブ
6 制御部
図1
図2