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特開2022-156843食品の呈味改善剤の製造方法及びこの呈味改善剤を用いた食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156843
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】食品の呈味改善剤の製造方法及びこの呈味改善剤を用いた食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20221006BHJP
   A23L 27/20 20160101ALI20221006BHJP
   A23C 20/00 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L27/20 A
A23C20/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060731
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】500015984
【氏名又は名称】清田産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121784
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 稔
(72)【発明者】
【氏名】西口 悌彦
【テーマコード(参考)】
4B001
4B047
【Fターム(参考)】
4B001AC25
4B001AC26
4B001AC30
4B001BC08
4B001BC99
4B001EC01
4B047LB06
4B047LB07
4B047LG51
4B047LG57
4B047LG59
4B047LP05
4B047LP19
(57)【要約】
【課題】濃厚なチーズ風味ではなく、フレッシュなチーズ風味、或いは、加熱したミルク風味ではなくフレッシュなミルク風味を呈する食品の呈味改善剤の製造方法及びこの呈味改善剤を用いた食品を提供する。
【解決手段】乳糖、乳タンパク質、乳脂肪を含む油脂成分、及び、必要量の水を主たる成分とする乳原料を主原料とする。水以外の非水成分のうち乳糖と乳タンパク質との合計量が総量の15重量%以下とする。乳糖と乳タンパク質との合計量に対する乳糖の量の比が0.1~0.5の範囲内とする。主原料に対して、主にリパーゼを含む複合酵素群を作用させる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳糖、乳タンパク質、乳脂肪を含む油脂成分、及び、必要量の水を主たる成分とする乳原料を主原料とし、
水以外の非水成分のうち前記乳糖と乳タンパク質との合計量が総量の15重量%以下であり、
前記乳糖と乳タンパク質との合計量に対する前記乳糖の量の比が0.1~0.5の範囲内であって、
前記主原料に対して、主にリパーゼを含む複合酵素群を作用させることを特徴とする食品の呈味改善剤の製造方法。
【請求項2】
前記乳原料の総量に占める前記油脂成分及び/又は水の割合は、60重量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の食品の呈味改善剤の製造方法。
【請求項3】
前記複合酵素群は、前記リパーゼと共にプロテアーゼをも含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の食品の呈味改善剤の製造方法。
【請求項4】
前記複合酵素群は、前記リパーゼと共に基質に麹菌を繁殖させた麹をも含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の食品の呈味改善剤の製造方法。
【請求項5】
前記麹は、米を基質として麹菌を繁殖させて調整した米麹であることを特徴とする請求項4に記載の食品の呈味改善剤の製造方法。
【請求項6】
前記主原料は、チーズであることを特徴とする請求項1~5のいずれか1つに記載の食品の呈味改善剤の製造方法。
【請求項7】
前記チーズは、プロセスチーズであることを特徴とする請求項6に記載の食品の呈味改善剤の製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1つに記載の製造方法で製造した食品の呈味改善剤を使用して製造したことを特徴とする呈味が改善されてなる食品。
【請求項9】
加熱殺菌又は加圧加熱殺菌後においても、改善された呈味が維持されてなる請求項8に記載の食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品にフレッシュなミルク風味又はフレッシュなチーズ風味を付与して食品の呈味を改善する食品の呈味改善剤の製造方法及びこの呈味改善剤を用いた食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品業界において、食品の呈味を改善することは重要なテーマである。例えば、食品にミルク風味やチーズ風味などの風味を付加するために、単にミルクそのものやチーズそのものを原材料として加えることも行われる。しかし、風味を出すためにミルクやチーズを多く加えた場合には、その食品自体の食味が変化してしまうことにもなる。また、チーズそのものを多く加えることは、食品のコスト上昇にもつながる。一方、食味を変化させないほどの少量を加えた場合には、求めるミルク風味やチーズ風味などを十分に発揮することができない。
【0003】
そこで、ミルクそのものやチーズそのものではなく、食品にミルク風味やチーズ風味を付与する呈味改善剤が種々提案されている。これらの呈味改善剤は、食品に少量付与するだけでミルク風味やチーズ風味をできるだけ強く出せるような工夫がなされている。例えば、下記特許文献1においては、濃厚なチーズ風味を付与することのできるチーズ風味調味料の製造方法が提案されている。この方法は、乳原料に米麹を混合して乳タンパク質を分解するプロテアーゼと乳酸を分解するリパーゼを作用させると共に、乳糖を分解するラクターゼを作用させるというものである。
【0004】
下記特許文献1においては、濃厚なチーズ風味を付与するために高温の加熱処理を行い、メイラード反応やフルフラールの生成による熟成したチーズ風味と加熱したチーズ風味が呈される物質が生じ、色も褐変してくることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-050754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1においては、濃厚なチーズ風味を付与することができるものと思われる。一方、濃厚なチーズ風味ではなく、フレッシュなチーズ風味、或いは、加熱したミルク風味ではなくフレッシュなミルク風味が要求される場合もある。すなわち、過熱感がなく、新鮮で未加熱なミルク風味やチーズ風味が求められる。しかし、これまでにこのような乳タンパク質の風味そのものを増強する呈味改善剤は提案されていない。
【0007】
そこで、本発明は、上記の諸問題に対処して、濃厚なチーズ風味ではなく、フレッシュなチーズ風味、或いは、加熱したミルク風味ではなくフレッシュなミルク風味を呈する食品の呈味改善剤の製造方法及びこの呈味改善剤を用いた食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題の解決にあたり、本発明者は、鋭意研究の結果、主原料としての乳原料中の乳タンパク質と乳糖との比率に着目し、更に、これらの乳原料に作用する酵素を併用することにより食品にフレッシュなミルク風味又はフレッシュなチーズ風味を呈することを見出して本発明の完成に至った。
【0009】
即ち、本発明に係る食品の呈味改善剤の製造方法は、請求項1の記載によれば、
乳糖、乳タンパク質、乳脂肪を含む油脂成分、及び、必要量の水を主たる成分とする乳原料を主原料とし、
水以外の非水成分のうち前記乳糖と乳タンパク質との合計量が総量の15重量%以下であり、
前記乳糖と乳タンパク質との合計量に対する前記乳糖の量の比が0.1~0.5の範囲内であって、
前記主原料に対して、主にリパーゼを含む複合酵素群を作用させることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、請求項2の記載によれば、請求項1に記載の食品の呈味改善剤の製造方法であって、
前記乳原料の総量に占める前記油脂成分及び/又は水の割合は、60重量%以上であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、請求項3の記載によれば、請求項1又は2に記載の食品の呈味改善剤の製造方法であって、
前記複合酵素群は、前記リパーゼと共にプロテアーゼをも含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、請求項4の記載によれば、請求項1又は2に記載の食品の呈味改善剤の製造方法であって、
前記複合酵素群は、前記リパーゼと共に基質に麹菌を繁殖させた麹をも含むことを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、請求項5の記載によれば、請求項4に記載の食品の呈味改善剤の製造方法であって、
前記麹は、米を基質として麹菌を繁殖させて調整した米麹であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、請求項6の記載によれば、請求項1~5のいずれか1つに記載の食品の呈味改善剤の製造方法であって、
前記主原料は、チーズであることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、請求項7の記載によれば、請求項6に記載の食品の呈味改善剤の製造方法であって、
前記チーズは、プロセスチーズであることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る食品は、請求項8の記載によれば、
請求項1~7のいずれか1つに記載の製造方法で製造した食品の呈味改善剤を使用して製造したことを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、請求項9の記載によれば、請求項8に記載の食品であって、
加熱殺菌又は加圧加熱殺菌後においても、改善された呈味が維持されてなる。
【発明の効果】
【0018】
上記構成によれば、本発明に係る食品の呈味改善剤の製造方法は、主原料として、乳糖、乳タンパク質、乳脂肪を含む油脂成分、及び、必要量の水を主たる成分とする乳原料を使用する。この乳原料の水以外の非水成分のうち乳糖と乳タンパク質との合計量が総量の15重量%以下である。また、乳糖と乳タンパク質との合計量に対する前記乳糖の量の比が0.1~0.5の範囲内である。
【0019】
この主原料に対して、主にリパーゼを含む複合酵素群を作用させる。これらのことにより、濃厚なチーズ風味ではなく、フレッシュなチーズ風味、或いは、加熱したミルク風味ではなくフレッシュなミルク風味を呈する食品の呈味改善剤の製造方法を提供することができる。
【0020】
また、上記構成によれば、本発明に係る食品の呈味改善剤の製造方法においては、乳原料の総量に占める油脂成分及び/又は水の割合は、60重量%以上である。このことにより、上記作用効果をより効果的に発揮することができる。
【0021】
また、上記構成によれば、本発明に使用する複合酵素群は、リパーゼと共にプロテアーゼをも含むようにしてもよい。このことにより、上記作用効果をより効果的に発揮することができる。
【0022】
また、上記構成によれば、本発明に使用する複合酵素群は、リパーゼと共に基質に麹菌を繁殖させた麹をも含むようにしてもよい。このことにより、上記作用効果をより効果的に発揮することができる。
【0023】
また、上記構成によれば、複合酵素群に含む麹は、米を基質として麹菌を繁殖させて調整した米麹であってもよい。このことにより、上記作用効果をより効果的に発揮することができる。
【0024】
また、上記構成によれば、主原料は、チーズであってもよい。このことにより、上記作用効果をより具体的かつ効果的に発揮することができる。
【0025】
また、上記構成によれば、主原料としてのチーズは、プロセスチーズであってもよい。このことにより、上記作用効果をより具体的かつ効果的に発揮することができる。
【0026】
また、上記構成によれば、本発明に係る食品は、請求項1~7のいずれか1つに記載の製造方法で製造した食品の呈味改善剤を使用して製造したものである。このことにより、濃厚なチーズ風味ではなく、フレッシュなチーズ風味、或いは、加熱したミルク風味ではなくフレッシュなミルク風味を呈する食品を提供することができる。
【0027】
また、上記構成によれば、本発明に係る呈味改善剤を使用して製造した食品は、加熱殺菌又は加圧加熱殺菌後においても、改善された呈味が維持されている。このことにより、上記作用効果をより効果的に発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明に係る食品の呈味改善剤は、食品にフレッシュなミルク風味又はフレッシュなチーズ風味を付与して食品の呈味を改善することを目的とする。よって、食品に濃厚なチーズ風味、すなわち、過熱感のあるチーズ風味や熟成感の強いチーズ風味を呈するものではない。本発明に係る食品の呈味改善剤は、さわやかなフレッシュチーズの風味、或いは、加熱したミルク風味ではなく、さわやかなミルク風味を呈するものである。この点が、従来のチーズ風味の調味料或いは濃厚チーズ風味の呈味改善剤と大きく異なるところである。
【0029】
なお、本発明においてフレッシュなミルク風味又はフレッシュなチーズ風味を付与する食品としては、例えば、シチュー、チーズムース、ラクトアイス、アイスクリーム、カフェオレ、ココア飲料、ミルクムース、レトルトプリン、カスタードクリーム、ミルクキャンディ、ホイップクリーム、カップケーキ、パン、ヨーグルト、チーズなどを挙げることができるが、これらに限定するものではない。
【0030】
従来の濃厚チーズ風味の呈味改善剤を例にすれば、乳原料を酵素処理或いは加熱処理して濃厚チーズ風味を呈する成分を発生させているものと思われる。乳原料として牛乳を例にすれば、その成分の一例では、乳糖4.8重量%、乳タンパク質3.3%、乳脂肪3.3重量%、水分88.6%とされている。
【0031】
チーズは牛乳などを原料とし、ナチュラルチーズとプロセスチーズに分類され、また、ナチュラルチーズは、熟成タイプと非熟成タイプに分類される。いずれも、製造段階で殆どの乳糖が水分と共にホエーとして除かれる。残った乳タンパク質と乳脂肪が熟成期間の程度によりアミノ酸や遊離脂肪酸に分解されていく。フレッシュなチーズ感や濃厚なチーズ感がどのように生成されていくのかは不明ではあるが、これらの呈味を食品に付与するために種々の呈味改善剤が開発されている。
【0032】
そこで、濃厚なチーズ呈味の一例としては、まず、乳糖をラクターゼなどの酵素で分解してガラクトースとグルコースとを生成する。また、乳タンパク質をプロテアーゼなどの酵素で分解してアミノ酸を多く生成する。また、乳脂肪をリパーゼなどの酵素でエステル結合を加水分解して遊離脂肪酸を生成する。次に、強い加熱処理を施して、還元糖とアミノ酸との間に生じるメイラード反応等や複雑なキャラメル化が生じて、熟成したチーズ感や過熱したチーズ感、更に褐色色素が生成するものと思われる。
【0033】
そこで、本発明者は、上記の各反応を基礎として、主に乳糖と乳タンパク質と乳脂肪を含む油脂成分の各成分の比率と分解反応の程度、及び、各成分の分解反応時の油脂成分と水の割合について検討した。その結果、呈味改善剤の主原料となる乳原料中の乳糖と乳タンパク質との合計量と、乳糖と乳タンパク質との比率と、油脂成分と水の割合を調整することにより、呈味改善剤の風味を制御できることを見出した。この呈味改善剤は、濃厚なチーズ風味を呈するものではなく、フレッシュなチーズ風味を呈するようになった。また、制御によっては、加熱したミルク風味ではなくフレッシュなミルク風味を呈するようになった。
【0034】
本発明に係る食品の呈味改善剤の製造方法においては、特定の成分配合を有する乳原料を主原料とする。特に、乳原料中の乳糖の量を少なくすることが重要である。そこで、本発明においては、乳原料として牛乳その物を使用するのではなく、乳糖の量が軽減された乳加工品を利用することがこのましい。
【0035】
乳糖の量が軽減された乳加工品としては、例えば、プロセスチーズやクリームチーズなどのチーズを挙げることができるが、これらに限定するものではない。また、これらのチーズに、他の成分を配合して成分調整することもできる。更に、主原料としてチーズを使用しなくても、乳糖と乳タンパク質と乳脂肪を含む油脂成分の量を調整した配合材料を利用することもできる。
【0036】
一方、プロセスチーズやクリームチーズなどをチーズ風味やミルク風味の呈味改善剤の原材料としたのでは、食品にチーズそのものや牛乳そのものを加えることと変わりないという誤解が生じる。しかし、風味を出すためには、食品に加えるチーズや牛乳の量が多くなってしまう。その結果、チーズや牛乳を多く加えた場合には、その食品自体の食味が変化してしまう。
【0037】
本発明においては、チーズそのものではなくチーズを主原料として使用し、本発明に係る食品の呈味改善剤の製造方法において処理する。この処理により、製造した呈味改善剤を食品に加えて食品を製造する際の高温の熱処理や、食品の製造後にレトルト処理などの加熱殺菌又は加圧加熱殺菌を施した場合でも、過熱感がなく新鮮で未加熱なミルク風味やチーズ風味を付与することができる。
【0038】
まず、具体的な乳糖と乳タンパク質の量の調整について説明する。まず、水分以外の非水成分(乳糖と乳タンパク質と乳脂肪を含む油脂成分など)のうち、乳糖と乳タンパク質との合計量が、乳原料の総量の15重量%以下であることが好ましく、13重量%以下であることがより好ましい。また、乳糖と乳タンパク質との比率も重要であり、乳糖と乳タンパク質との合計量に対する乳糖の量の比が0.1~0.5の範囲内であることが好ましく、0.2~0.4の範囲内であることがより好ましい。
【0039】
乳糖と乳タンパク質との合計量が15重量%を超えた場合には、固形分が分離しやすく、加熱時に過加熱になり易いからである。また、乳糖と乳タンパク質との合計量に対する乳糖の量の比が0.1より小さい場合には、求めるチーズ風味やミルク風味を呈さなくなり、逆に0.5より大きい場合には、乳原料中の乳糖の量が多くなり、製造段階でフレッシュ感が減少して濃厚感が強くなるからである。
【0040】
次に、乳脂肪を含む油脂成分と水の割合の調整について説明する。本発明においては、乳原料中の非水成分として、乳糖と乳タンパク質と乳脂肪を含む油脂成分などとする。ここで、乳脂肪を含む油脂成分とは、乳原料自体に本来含まれる乳脂肪と外部から混合した乳脂肪以外の油脂成分とを含む概念である。本発明においては、乳原料中の乳脂肪の存在は重要であり、本発明で使用するリパーゼにより乳脂肪のエステル結合が加水分解して生成する遊離脂肪酸が呈味成分としてフレッシュ感を呈するものと思われる。
【0041】
一方、乳脂肪以外の油脂成分は、本発明において必ずしも必要とするものではないが、酵素反応時に反応系の流動性を向上させると共に、乳糖や乳タンパク質が固形分として分離することを制御するために混合するようにしてもよい。ここで、油脂とは、常温で固体の脂肪(肉の脂身やラードなど)と常温で液体の油(コーン油や大豆油など)をあわせた概念である。但し、本発明においては、乳脂肪以外の油脂成分として、上記目的から主に酵素反応時に液体状態で流動性を有する油をいうものとする。
【0042】
本発明においては、油脂成分と水の割合(合計量)は、主原料としての乳原料の総量に対して60重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましい。乳原料中に含まれる水と必要により混合された乳脂肪以外の油脂成分が、酵素反応の反応場を構成するものと思われる。なお、乳脂肪以外の油脂成分の一部もリパーゼにより加水分解するものと思われる。
【0043】
例えば、主原料として使用するチーズが熟成期間を長くしたものである場合には、水分量が60重量%程度ある。また、フレッシュで生乳感がでるチーズを使用する場合には、水分量が70重量%程度となることもある。これらをこのまま使用し、又は、水で希釈して使用してもよい。この場合には、乳脂肪以外の油脂成分を混合しなくてもよい。一方、主原料に対して水を加えることなく、乳脂肪以外の油脂成分を混合するようにしてもよい。
【0044】
次に、本発明に係る食品の呈味改善剤の製造方法においては、主原料に対して主にリパーゼを含む複合酵素群を作用させる。主原料に複合酵素群を作用させる条件としては、特に限定するものではなく、主に作用させる各酵素の至適条件であることが好ましい。例えば、30℃~60℃の温度範囲で1時間~6時間の時間範囲とすることもできる。
【0045】
なお、本発明においては、複合酵素群にリパーゼが含まれることが必要である。上述のように、乳原料中の乳脂肪の存在が重要であることから、乳脂肪のエステル結合を加水分解して遊離脂肪酸を生成するリパーゼが必要となる。その理由は定かではないが、生成した遊離脂肪酸によりフレッシュ感が呈されるものと思われる。
【0046】
なお、本発明に使用するリパーゼの量は、特に限定するものではなく、またリパーゼの種類により変動する。よって、発明の効果を発揮できるリパーゼの種類と量を使い分けることが好ましい。一般に、リパーゼの量としては、乳原料1gに対して0.75~37.5Unitの範囲内とすることができる。
【0047】
本発明において使用するリパーゼは、その基原を特に限定するものではない。リパーゼの基原としては、例えば、Rhizopus oryzae、Cndida cylindracea、Aspergillus niger、Rhizopus oryzaeなどが挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0048】
また、複合酵素群は、リパーゼと共にプロテアーゼをも含むものであってもよい。乳原料中に含まれる乳タンパク質を一部分解してアミノ酸を生成するためである。生成したアミノ酸によってもフレッシュ感が呈されるものと思われる。なお、乳タンパク質から分解したアミノ酸を分析した結果、本発明においては、アミノ酸の分解度が比較的小さいことを確認した。アミノ酸の生成が少ないことから、乳タンパク質の風味を強く感じることができるものと思われる。
【0049】
また、本発明においては、乳糖の量が少なく、特に、ラクトースを加えることを要しないので、乳糖の分解は少ないものと思われる。なお、ラクトースを加えた場合においても、乳糖の量が少ないことから、生成するガラクトースとグルコースの量が少ないものと思われる。よって、アミノ酸と生成する還元糖が少なくなることから、これらの間に生じるメイラード反応も生じにくく、濃厚感が抑えられるものと思われる。
【0050】
なお、本発明に使用するプロテアーゼの量は、特に限定するものではないが、乳原料の総量に対して適宜選定すればよい。また、プロテアーゼの基原も特に限定するものではなく、例えば、Aspergillus oryzaeなどが好ましいが、これに限定するものではない。
【0051】
また、複合酵素群は、リパーゼと共に基質に麹菌(麹黴ともいう)を繁殖させた麹をも含むものであってもよい。麹菌は、Aspergillus族に分類される不完全菌の一群であり、黄麹菌、白麹菌、黒麹菌などがある。また、麹菌を繁殖させた麹には、米麹、豆麹、麦麹、蘇鉄麹などがあり、どのような麹を使用してもよい。なお、本発明においては、米を基質として麹菌を繁殖させて調整した米麹を使用することが好ましい。
【0052】
なお、本発明に使用する麹の量は、特に限定するものではなく、また基質の種類、麹菌の種類、麹菌の繁殖の程度により変動する。よって、発明の効果を発揮できる麹の種類と量を使い分けることが好ましい。一般には、乳原料1gに対して0.01~0.5gの範囲内とすることができる。
【0053】
一般に、麹には、アミラーゼ群、プロテアーゼ群、リパーゼ群など、麹菌が生成した多くの酵素群が含まれる。これらの酵素群は、複雑な作用により本発明の目的を効果的に発揮することができる。また、本発明においては、リパーゼが必要であるが、麹にはリパーゼ群も含まれる。なお、本発明においては、麹を使用した場合であっても、より効果的な基原からなるリパーゼを更に配合するようにしてもよい。
【0054】
なお、このようにして製造した呈味改善剤は、食品製造段階で材料の一つとして付与するものである。なお、本発明に係る呈味改善剤は、保存・運搬などの目的から濃縮、レトルト、スプレードライ、フリーズドライなどしても、フレッシュで過熱感がなく新鮮で未加熱なミルク風味やチーズ風味を損なうことがないことを特徴とする。
【0055】
次に、本発明に係る食品の呈味改善剤の製造方法及びこの呈味改善剤を用いた食品について、各実施例により具体的に説明する。なお、本発明は、以下に説明する各実施例にのみ限定されるものではなく、また、ここに挙げた具体的な食品にのみ限定されるものではない。
【実施例0056】
本実施例1は、フレッシュなチーズ風味を呈する呈味改善剤の製造方法及びこの呈味改善剤を用いた食品に関するものである。主原料としての乳原料は、プロセスチーズを水で希釈して使用した。
【0057】
1.呈味改善剤の製造
プロセスチーズ300gと水200gを混合し、50℃まで昇温させながら撹拌して主原料としての乳原料を調整した。実施例1で調整した乳原料中の乳糖、乳タンパク、乳脂肪の量、及び、それらの比率を表1に示す。次に、調整した乳原料に各種酵素を所定量添加して、所定の酵素反応条件で処理した。添加した酵素の種類、及び、酵素反応条件を表1に示す。酵素反応後の反応物は、85℃で30分間のレトルト条件で酵素の失活と殺菌を行った。このようにして、実施例1の呈味改善剤を得た。
【0058】
2.比較例の製造
実施例1に対して、比較例1及び2の呈味剤を製造した。なお、比較例1の乳原料は、乳タンパク質の豊富な材料を使用した。また、比較例2の乳原料は、生乳にクリームを加えて調整した材料を使用した。比較例1及び2で調整した乳原料中の乳糖、乳タンパク、乳脂肪の量、及び、それらの比率、並びに、添加した酵素の種類、及び、酵素反応条件を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
3.食品の製造1
ここでは、実施例1に係る呈味改善剤の作用効果を確認する食品として、チーズムースを対象とする。まず、粉末ゼラチン4gに水20gを加えて膨潤させておく。次に、クリームチーズを室温に戻して柔らかくしたところに、水あめ10gを加えて練る。次に、水100gに脱脂粉乳6g、トレハロース15g、グラニュー糖20g、膨潤したゼラチンを混合して80℃まで加温し、全てを溶解する。次に、クリームチーズと水あめを練ったものに、先に準備した脱脂粉乳・トレハロース・グラニュー糖・ゼラチンの溶解物を少しずつ加えて伸ばした後、室温まで冷やす。これを10~15℃まで冷やしてから、ホイップしたクリームと混合した。
【0061】
このようにしたものを評価1における無添加試料とする。また、チーズムースの原料を混合する際に実施例1、比較例1、比較例2に係る呈味改善剤を所定量加えたものを各評価試料とする。各評価試料の添加量を表2に示す。
【0062】
4.評価1
実施例1、比較例1、比較例2に係る呈味改善剤を添加した食品の呈味を評価した。具体的には、評価に熟練した4名の評価員が0点(不良)~5点(良好)で評価して平均値をとった。ここで、チーズ中味の強さとは、「口腔内に食品を入れた瞬間ではなく、少し後に感じるチーズ味の強さ」をいう。また、総合評価として、評価項目の3項目の合計が9点未満:×、9点以上12点未満:△、12点以上15点未満:〇、15点以上:◎とした。評価結果を表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
表2から分かるように、実施例1の呈味改善剤を添加したチーズムースの全ての試料において、フレッシュなチーズ呈味が付与されており、呈味評価点においても合計点12点以上という〇以上の評価を得た。特に、食品に対する呈味改善剤の添加量を1.0重量%としたチーズムースにおいては、フレッシュなチーズ呈味が極めて強く付与されており、呈味評価点においても合計点18点という◎の高い評価を得た。
【0065】
これに対して、比較例1の試料においては、フレッシュさ及びチーズ呈味付与効果が弱く、呈味評価点においても合計点7点という×の評価となった。また、比較例2の試料においては、チーズ呈味は強く付与されるが、フレッシュさがなく、加熱感が付与されており、呈味評価点においても合計点6点という×の評価となった。
【実施例0066】
本実施例2は、フレッシュなミルク風味を呈する呈味改善剤の製造方法及びこの呈味改善剤を用いた食品に関するものである。主原料としての乳原料は、プロセスチーズを水で希釈して使用した。
【0067】
1.呈味改善剤の製造
プロセスチーズ30gと濃縮乳10gと、乳タンパク質8g、水52gを混合し、50℃まで昇温させながら撹拌して主原料としての乳原料を調整した。実施例2で調整した乳原料中の乳糖、乳タンパク、乳脂肪の量、及び、それらの比率を表2に示す。次に、調整した乳原料に各種酵素を所定量添加して、所定の酵素反応条件で処理した。添加した酵素の種類、及び、酵素反応条件を表2に示す。酵素反応後の反応物は、85℃で30分間の条件で酵素の失活と殺菌を行った。このようにして、実施例2の呈味改善剤を得た。
【0068】
2.比較例の製造
実施例2に対して、比較例3の呈味剤を製造した。なお、比較例3の乳原料は、生乳を使用した。比較例3で使用した生乳中の乳糖、乳タンパク、乳脂肪の量、及び、それらの比率、並びに、添加した酵素の種類、及び、酵素反応条件を表3に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
3.食品の製造2
ここでは、実施例2に係る呈味改善剤の作用効果を確認する食品として、シチューを対象とする。まず、水75gと牛乳10gを加熱し、市販のシチュールウ15gを混合し溶解させる。その後120℃、20分間加熱し、60℃まで冷やし喫食評価する。
【0071】
このようにしたものを評価2における無添加試料とする。また、シチュールウを混合し溶解させる際に、実施例2、比較例3に係る呈味改善剤を所定量加えたものを各評価試料とする。各評価試料の添加量を表4に示す。
【0072】
4.評価2
実施例2、比較例3に係る呈味改善剤を添加した食品の呈味を評価した。具体的には、評価に熟練した4名の評価員が0点(不良)~5点(良好)で評価して平均値をとった。ここで、ミルク中味の強さとは、「口腔内に食品を入れた瞬間ではなく、1秒後に感じるミルク味の強さ」をいう。また、総合評価として、評価項目の3項目の合計が9点未満:×、9点以上12点未満:△、12点以上15点未満:〇、15点以上:◎とした。評価結果を表4に示す。
【0073】
【表4】
【0074】
表4から分かるように、実施例2の呈味改善剤を添加したシチューの全ての試料において、フレッシュなミルク呈味が付与されており、呈味評価点においても合計点12点以上という〇以上の評価を得た。特に、食品に対する呈味改善剤の添加量を0.5重量%としたシチューにおいては、フレッシュなミルク呈味が強く付与されており、呈味評価点においても合計点15点という◎の高い評価を得た。
【0075】
これに対して、比較例3の試料においては、加熱感がより強く出るため、フレッシュ感が低い、またミルク呈味も大きくは付与されず価値が低く、呈味評価点においても合計点4.5点という×の評価となった。
【0076】
5.食品の製造3
ここでは、実施例2に係る呈味改善剤の作用効果を確認する食品として、ラクトアイスを対象とする。まず、ラクトアイスは、ラクトアイス生地を混合してアイスクリーマーで成型する。
【0077】
このようにしたものを評価3における無添加試料とする。また、ラクトアイス生地を混合する際に、実施例2、比較例3に係る呈味改善剤を所定量加えたものを各評価試料とする。各評価試料の添加量を表5に示す。
【0078】
6.評価3
実施例2、比較例3に係る呈味改善剤を添加した食品の呈味を評価した。具体的には、評価に熟練した4名の評価員が0点(不良)~5点(良好)で評価して平均値をとった。ここで、ミルク中味の強さとは、「口腔内に食品を入れた瞬間ではなく、1秒後に感じるミルク味の強さ」をいう。また、総合評価として、評価項目の3項目の合計が9点未満:×、9点以上12点未満:△、12点以上15点未満:〇、15点以上:◎とした。評価結果を表5に示す。
【0079】
【表5】
【0080】
表5から分かるように、実施例2の呈味改善剤を添加したラクトアイスの全ての試料において、フレッシュなミルク呈味が付与されており、呈味評価点においても合計点12点以上という〇以上の評価を得た。特に、食品に対する呈味改善剤の添加量を0.4重量%としたラクトアイスにおいては、フレッシュなミルク呈味が強く付与されており、呈味評価点においても合計点15点という◎の高い評価を得た。
【0081】
これに対して、比較例3の試料においては、加熱感がより強く出るため、フレッシュ感が低い、またミルク呈味も大きくは付与されず価値が低く、呈味評価点においても合計点4.5点という×の評価となった。
【0082】
以上説明したように、本発明によれば、濃厚なチーズ風味ではなく、フレッシュなチーズ風味、或いは、加熱したミルク風味ではなくフレッシュなミルク風味を呈する食品の呈味改善剤の製造方法及びこの呈味改善剤を用いた食品を提供することができる。