IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大阪瓦斯株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-成膜装置及び成膜方法 図1
  • 特開-成膜装置及び成膜方法 図2
  • 特開-成膜装置及び成膜方法 図3
  • 特開-成膜装置及び成膜方法 図4
  • 特開-成膜装置及び成膜方法 図5
  • 特開-成膜装置及び成膜方法 図6
  • 特開-成膜装置及び成膜方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156847
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】成膜装置及び成膜方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 24/04 20060101AFI20221006BHJP
   B05B 7/14 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C23C24/04
B05B7/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060737
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 享平
(72)【発明者】
【氏名】岩田 伸
【テーマコード(参考)】
4F033
4K044
【Fターム(参考)】
4F033QA10
4F033QB02Y
4F033QB05
4F033QB12Y
4F033QB13Y
4F033QB18
4F033QD02
4F033QD11
4F033QH02
4F033QK04Y
4F033QK09Y
4F033QK18Y
4F033QK27Y
4K044BA12
4K044BB11
4K044BC05
4K044CA23
4K044CA27
4K044CA29
4K044CA71
(57)【要約】
【課題】簡便な構成で効率的な原料粉の回収が可能となる成膜装置を提供する。
【解決手段】セラミックス原料粉を搬送ガス中に分散させたエアロゾルを基材Kの処理対象面Kaに向けて噴出して、処理対象面Ka上に膜を形成する成膜装置であって、内部に基材Kが配設される処理室2と、処理室2の内面にガスを吹き付けるガス吹付機構10と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス原料粉を搬送ガス中に分散させたエアロゾルを基材の処理対象面に向けて噴出して、前記処理対象面上に膜を形成する成膜装置であって、
内部に前記基材が配設される処理室と、
前記処理室の内面にガスを吹き付けるガス吹付機構と、を備える成膜装置。
【請求項2】
前記ガス吹付機構は、前記処理室の内面に対して、60°以下の入射角で前記ガスを吹き付けるように構成されている請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記ガス吹付機構は、前記処理室の内面のうち、少なくとも前記基材の処理対象面に噴出された後の前記エアロゾルの流れと交差する領域に、前記ガスを吹き付けるように構成されている請求項1又は2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記処理室の内面に開口が形成されており、
前記ガス吹付機構は、前記処理室の内面に吹き付けた前記ガスが前記開口に向けて流れるように配設されている請求項1~3のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記開口に前記セラミックス原料粉を回収する回収機構が接続されている請求項4に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記処理室の内面のうち、前記開口が形成された箇所の周囲に前記開口に向けて縮径した縮径部を有し、
前記ガス吹付機構は、前記処理室の内面に吹き付けた前記ガスが前記縮径部を経由して前記開口に向けて流れるように配設されている請求項4又は5に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記縮径部に対して熱又は振動を与える除去機構を備える請求項6に記載の成膜装置。
【請求項8】
セラミックス原料粉を搬送ガス中に分散させたエアロゾルを基材の処理対象面に向けて噴出して、前記処理対象面上に膜を形成する成膜方法であって、
内部に前記基材が配設される処理室の内面にガスを吹き付けながら前記基材上に膜を形成する成膜方法。
【請求項9】
前記処理室の内面に対して、60°以下の入射角で前記ガスを吹き付ける請求項8に記載の成膜方法。
【請求項10】
前記処理室の内面のうち、少なくとも前記基材の処理対象面に噴出された後の前記エアロゾルの流れと交差する領域に、前記ガスを吹き付ける請求項8又は9に記載の成膜方法。
【請求項11】
前記処理室の内面に吹き付けた前記ガスが、前記処理室の内面に形成された開口に向けて流れるように、前記処理室の内面に前記ガスを吹き付ける請求項8~10のいずれか一項に記載の成膜方法。
【請求項12】
前記開口に接続される回収機構で前記セラミックス原料粉を回収する請求項11に記載の成膜方法。
【請求項13】
前記処理室の内面に吹き付けた前記ガスが、前記処理室の内面のうち前記開口が形成された箇所の周囲に形成された前記開口に向けて縮径した縮径部を経由して、前記開口に向けて流れるように、前記処理室の内面に前記ガスを吹き付ける請求項11又は請求項12に記載の成膜方法。
【請求項14】
前記縮径部に対して熱又は振動を与える請求項13に記載の成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に膜を形成する成膜装置及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
焼結のような高温での熱処理を経ることなく、金属酸化物材料からなる膜を基材上に形成する方法として、エアロゾルデポジション法(AD法)と呼ばれる手法がある。このAD法は、金属酸化物などの微粒子からなる原料粉を、ノズルから音速程度でセラミックスやプラスチックなどの基材に向けて噴射し、原料粉が基材に衝突する際のエネルギーによって微粒子を破砕・変形させることで、基材上に緻密な膜を形成する手法である。
【0003】
AD法では、基板に向けて噴射された原料粉のうち、膜になる原料粉の割合は数%程度に過ぎず、大部分の原料粉が利用されないことになるため、歩留まりが低いという問題があった。また、利用されなかった原料粉は、処理室の内面や排気口、排気ポンプなどに堆積するため、一定回数の成膜処理を行う度に装置の大規模なメンテナンスを行わなければならず、特に、量産時には大規模なメンテナンスを頻繁に行わなければならないという問題があった。
【0004】
そこで、利用されなかった原料粉を回収して再利用する技術として、例えば、特許文献1や特許文献2に開示された技術が提案されている。
【0005】
特許文献1には、膜形成装置に接続され、エアロゾルから原料粉を回収する粉体回収装置が開示されている。この粉体回収装置においては、基板に吹き付けた後のエアロゾルが流される分離槽でエアロゾルに含まれる原料粉が回収される。また、特許文献1には、膜形成装置の成膜チャンバ内に、当該成膜チャンバの内面に付着した原料粉をスキージによりかき落とす技術も開示されている。
【0006】
一方、特許文献2には、エアロゾルと基板との衝突部位の近傍に基板に衝突した後に構造物(膜)の形成に寄与しないエアロゾルを吸引するための吸引筒などを備えた複合構造物作製装置が開示されている。この複合構造物作製装置においては、構造物形成室内に配設された吸引筒と構造部形成室外に設置された粉体回収容器とが配管により接続されており、基板衝突後の構造物の形成に寄与しないエアロゾルが吸引筒から吸引されて粉体回収容器内でエアロゾル中の原料粉が分離・回収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-54734号公報
【特許文献2】特開2004-277851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、本願発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、処理室内で原料粉を基板に噴射すると、膜の形成に利用されなかった原料粉の大部分は処理室内に堆積してしまうという知見を得た。即ち、原料粉を効率よく回収するためには、基板に衝突した後のエアロゾルを回収することよりも、処理室内に堆積する原料粉を回収することが本質的な課題であることを見出した。
【0009】
特許文献1記載の装置によれば、膜の形成に利用されなかった原料粉のうち、エアロゾルに含まれる原料粉を分離槽にて回収することができる。ここで、本願発明者らが見出した課題にあるように、原料粉を効率よく回収するためには、処理室内に堆積する原料粉を回収することが重要である。しかしながら、特許文献1記載の装置では、分離槽に流されたエアロゾルに含まれる原料粉を回収することができても、処理室内に堆積する原料粉を回収することができない。そのため、特許文献1記載の装置では、高い回収効率が期待できないと考えられる。また、特許文献1記載の装置では、上記のように、処理チャンバの内面に付着した原料粉をスキージによりかき落とすことで、処理チャンバ内の原料粉を回収することが可能である。しかしながら、スキージを駆動させるための駆動部等が必要となり、この駆動部に原料粉が目詰まりすることで、頻繁なメンテナンスが必要であるため、効率よく原料粉を回収するという観点において不十分である。
【0010】
また、特許文献2記載の装置では、基板に衝突した後のエアロゾルを吸引しているため、膜の形成に利用されなかった原料粉の回収量を増やすことが可能である。しかしながら、特許文献2記載の装置では、吸引筒やこの吸引筒と粉体回収容器とを接続する配管などを処理室内に配置する必要がある。そのため、処理室の大型化が避けられず、装置構成の複雑化も避けられない。
【0011】
更に、特許文献2記載の装置において、原料粉の回収量を増やすためには、基板に衝突した後のエアロゾルを効率よく吸引する必要がある。そのためには、エアロゾルを噴射するノズルを基板表面に対して傾斜させて、エアロゾルの流れを制御する必要がある。それゆえ、基板表面に対して垂直な方向から基板にエアロゾルを噴射することが求められる場合に対応することが困難である。
【0012】
本発明は以上の実情に鑑みなされたものであり、簡便な構成で効率的な原料粉の回収が可能となる成膜装置及び成膜方法の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための本発明に係る成膜装置の特徴構成は、
セラミックス原料粉を搬送ガス中に分散させたエアロゾルを基材の処理対象面に向けて噴出して、前記処理対象面上に膜を形成する成膜装置であって、
内部に前記基材が配設される処理室と、
前記処理室の内面にガスを吹き付けるガス吹付機構と、を備える点にある。
【0014】
また、上記目的を達成するための本発明に係る成膜方法の特徴構成は、
セラミックス原料粉を搬送ガス中に分散させたエアロゾルを基材の処理対象面に向けて噴出して、前記処理対象面上に膜を形成する成膜方法であって、
内部に前記基材が配設される処理室の内面にガスを吹き付けながら前記基材上に膜を形成する点にある。
【0015】
上記特徴構成によれば、処理室の内面にガスが吹き付けられることで、当該処理室の内面へのセラミックス原料粉の堆積・付着を抑制したり、処理室の内面に堆積・付着したセラミックス原料粉を剥離させることができ、処理室内のセラミックス原料粉を効率よく回収できるようになる。また、処理室の内面にガスを吹き付けるという構成を採用しているため、比較的簡便な構成で効率的なセラミックス原料粉の回収が実現可能である。
【0016】
本発明に係る成膜装置の更なる特徴構成は、
前記ガス吹付機構は、前記処理室の内面に対して、60°以下の入射角で前記ガスを吹き付けるように構成されている点にある。
【0017】
また、本発明に係る成膜方法の更なる特徴構成は、
前記処理室の内面に対して、60°以下の入射角で前記ガスを吹き付ける点にある。
【0018】
上記特徴構成によれば、処理室の内面に吹き付けられたガスが当該内面に沿って流れやすくなり、処理室内に堆積するセラミックス原料粉が内面に沿って流れるガスの流れに乗って運ばれ易くなる。したがって、処理室内の原料粉をより効率良く回収し易くなる。尚、入射角が60°よりも大きいと、ガスが内面に吹き付けられた際に周囲に発散し易くなり、この発散するガスの流れに乗って原料粉が処理室内に発散する虞がある。
【0019】
本発明に係る成膜装置の更なる特徴構成は、
前記ガス吹付機構は、前記処理室の内面のうち、少なくとも前記基材の処理対象面に噴出された後の前記エアロゾルの流れと交差する領域に、前記ガスを吹き付けるように構成されている点にある。
【0020】
また、本発明に係る成膜方法の更なる特徴構成は、
前記処理室の内面のうち、少なくとも前記基材の処理対象面に噴出された後の前記エアロゾルの流れと交差する領域に、前記ガスを吹き付ける点にある。
【0021】
処理室の内面の中でも、基材の処理対象面に噴出された後のエアロゾルの流れと交差する領域は、セラミックス原料粉が堆積・付着し易い領域である。上記特徴構成によれば、セラミックス原料粉が堆積・付着し易い領域にガスを吹き付けることができる。したがって、処理室の内面へのセラミックス原料粉の堆積・付着の抑制や、処理室の内面に堆積・付着したセラミックス原料粉の剥離を効果的に行うことができるため、処理室内のセラミックス原料粉をより効率良く回収できる。
【0022】
本発明に係る成膜装置の更なる特徴構成は、
前記処理室の内面に開口が形成されており、
前記ガス吹付機構は、前記処理室の内面に吹き付けた前記ガスが前記開口に向けて流れるように配設されている点にある。
【0023】
また、本発明に係る成膜方法の更なる特徴構成は、
前記処理室の内面に吹き付けた前記ガスが、前記処理室の内面に形成された開口に向けて流れるように、前記処理室の内面に前記ガスを吹き付ける点にある。
【0024】
上記特徴構成によれば、処理室内のセラミックス原料粉がガスの流れに乗って開口まで運ばれる。したがって、ガスによって運ばれるセラミックス原料粉を開口を介して効率良く回収することができる。
【0025】
本発明に係る成膜装置の更なる特徴構成は、
前記開口に前記セラミックス原料粉を回収する回収機構が接続されている点にある。
【0026】
また、本発明に係る成膜方法の更なる特徴構成は、
前記開口に接続される回収機構で前記セラミックス原料粉を回収する点にある。
【0027】
上記特徴構成によれば、ガスの流れに乗って開口まで運ばれるセラミックス原料粉を回収機構で回収できる。
【0028】
本発明に係る成膜装置の更なる特徴構成は、
前記処理室の内面のうち、前記開口が形成された箇所の周囲に前記開口に向けて縮径した縮径部を有し、
前記ガス吹付機構は、前記処理室の内面に吹き付けた前記ガスが前記縮径部を経由して前記開口に向けて流れるように配設されている点にある。
【0029】
また、本発明に係る成膜方法の更なる特徴構成は、
前記処理室の内面に吹き付けた前記ガスが、前記処理室の内面のうち前記開口が形成された箇所の周囲に形成された前記開口に向けて縮径した縮径部を経由して、前記開口に向けて流れるように、前記処理室の内面に前記ガスを吹き付ける点にある。
【0030】
上記特徴構成によれば、処理室の内面に吹き付けたガスが縮径部に沿って開口まで流れるため、ガスが開口までスムーズに流れるようになり、処理室内のセラミックス原料粉が開口まで運ばれ易くなる。したがって、処理室内のセラミックス原料粉をより効率良く回収できる。
【0031】
本発明に係る成膜装置の更なる特徴構成は、
前記縮径部に対して熱又は振動を与える除去機構を備える点にある。
【0032】
また、本発明に係る成膜方法の更なる特徴構成は、
前記縮径部に対して熱又は振動を与える点にある。
【0033】
上記特徴構成によれば、縮径部に対して熱を与えた場合には、熱泳動効果によって縮径部へのセラミックス原料粉の堆積・付着を抑制でき、また、縮径部に振動を与えた場合には、縮径部が振動することで、縮径部へのセラミックス原料粉の堆積・付着を抑制できる。したがって、処理室内のセラミックス原料粉をより効率良く回収できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本実施形態に係る成膜装置の概略構成を示す図である。
図2】ノズルを示す下面図である。
図3図2のIII-III断面矢視図である。
図4図2のIV-IV断面矢視図である。
図5】交差領域を説明するための図である。
図6】別実施形態に係る成膜装置の概略構成を示す図である。
図7】別実施形態に係る成膜装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係る成膜装置及び成膜方法について説明する。尚、以下の説明において、上下は、図面における上側、下側をいうものとする。
【0036】
〔成膜装置について〕
図1に示すように、本実施形態に係る成膜装置1は、セラミックス原料粉を搬送ガス中に分散させたエアロゾルを基材Kの処理対象面Kaに向けて噴出して、基材Kに膜を形成する装置であって、内部に基材Kが配設される処理室2と、処理室2の内面にガスを吹き付けるガス吹付機構10とを備えている。
【0037】
また、本実施形態において、成膜装置1は、セラミックス原料粉をガスに分散させたエアロゾルを発生させるエアロゾル発生部15や、噴出端5aからエアロゾルを噴出するエアロゾル搬送管5、搬送ガスをエアロゾル発生部15に送給する搬送ガス送給機構18、セラミックス原料粉をエアロゾル発生部15に送給する原料粉供給機構16、エアロゾルに含まれる未利用のセラミックス原料粉(以下、単に「未利用原料粉」ともいう)を回収する回収機構23、後述する縮径部3への未利用原料粉の堆積・付着の抑制及び縮径部3に堆積・付着した未利用原料粉の剥離を担う除去機構としてのヒータ24などを備える。
【0038】
処理室2は、上端が閉塞され、下端に開口2aを有する略円筒状の気密状の筐体で構成されており、下端側には、開口2aに向けて縮径した縮径部3が形成されている。また、処理室2の内部には、ガス吹付機構10のノズル11、基材Kが保持される保持部4、エアロゾル搬送管5が配設されている。また、処理室2の開口2aには、後述する回収機構23を介して排気設備としてのメカニカルブースターポンプP1及び真空ポンプP2が排気管S1によって接続されており、これらメカニカルブースターポンプP1及び真空ポンプP2によって気体が排出されることで、処理室2内が所定圧力(例えば、0.5kPa程度)以下に減圧される。尚、本例において、処理室2の内面とは、筐体の内周面を意味する。
【0039】
保持部4は、成膜処理の対象である基材Kを、処理対象面Kaが水平面と平行となるように当該処理対象面Kaを下側に向けて保持可能に構成されている。また、保持部4は、図示しない駆動機構によって水平方向及び鉛直方向に移動可能になっている。尚、基材Kを保持する手法としては、基材Kの処理対象面Kaと反対の面を真空吸着する手法や、電圧を印加して電極と基材Kとの間に発生したクーロン力によって吸着する手法(所謂静電チャック)や、基材Kが磁性体の場合は電磁石によって吸着する手法が挙げられる。
【0040】
エアロゾル搬送管5は、円筒状の直管部材である。また、エアロゾル搬送管5は、噴出端5aが処理室2内の保持部4と対向するように処理室2内に配設されており、噴出端5aと反対の端部はエアロゾル発生部15に接続されている。このエアロゾル搬送管5によれば、エアロゾル発生部15から送給されたエアロゾルが、噴出端5aから基材Kの処理対象面Kaに向けて噴出される、言い換えれば、鉛直方向下側から処理対象面Kaに向けてエアロゾルが噴射される。尚、噴出端5aは、その断面形状が円形に限られるものではなく、楕円形であってもよく、三角形や矩形等の多角形であってもよい。
【0041】
ガス吹付機構10は、ノズル11と、空気供給部12と、空気流量制御部13と、空気送給管S2とを有している。尚、本実施形態においては、処理室2の内面に吹き付けるガスとして空気を用いるが、これに限られるものではない。
【0042】
図2図4に示すように、ノズル11は、上面視円環状且つ縦断面が矩形状の中空部材からなり、下面に複数の吹出口11aが形成されている。
【0043】
ここで、図5に示すように、基材Kの処理対象面Kaに向けて噴射されたエアロゾルは、処理対象面Kaに衝突した後、当該処理対象面Kaに沿って水平方向に流れ、処理室2の内面に到達することになる。したがって、エアロゾルに含まれる未利用のセラミックス原料粉は、処理室2の内面のうち、処理対象面Ka衝突後のエアロゾルの流れと交差する領域(図5の網掛け部分参照:以下、「交差領域」ともいう)に堆積・付着し易い。尚、交差領域は、言い換えれば、処理室2の内面のうち、処理対象面Ka衝突後のエアロゾルの流れが衝突する領域であり、また、処理室2の内面のうち、処理対象面Kaを水平方向に延長した際に交差する箇所の近傍の領域である。
【0044】
そこで、本実施形態では、吹出口11aから吹き出される空気が、少なくとも上記交差領域へ吹き付けられるように、ノズル11の位置や吹出口11aの形状を設定している。具体的に、本実施形態において、ノズル11は、外周部が処理室2の内面に沿うように、処理室2の最上部(即ち、交差領域よりも上方)に配置している。これにより、吹出口11aから下方に向けて吹き出された空気が少なくとも交差領域の一部に吹き付けられる。
【0045】
また、本実施形態においては、図3に示すように、処理室2の内面に対して0°以上60°以下の入射角θ1で空気が吹き付けられるように、軸線が鉛直方向に対して所定角度傾いた吹出口11aをノズル11に設けている。これにより、処理室2の内面に吹き付けられた空気が処理室2の内面に沿って流れ易くなるため、処理室2の内面への未利用原料粉の堆積・付着が抑制され易くなり、処理室2の内面に堆積・付着した未利用原料粉も剥離し易くなる。更に、内面に沿った空気の流れに乗って、処理室2の内面への堆積・付着が防止された未利用原料粉や処理室2の内面から剥離した未利用原料粉(以下、「処理室2内の未利用原料粉」ともいう)が効率よく運ばれる。
【0046】
更に、本実施形態においては、図4に示すように、空気の吹出方向が鉛直方向に対してノズル11の周方向に所定角度θ2傾くように、吹出口11aの軸線が鉛直方向に対してノズル11の周方向に所定角度θ2傾けている。これにより、処理室2の内面に吹き付けられた空気が当該内面に沿ってらせん状に流れるサイクロン流となるため、ノズル11よりも下方の内面全体にわたって、未利用原料粉の堆積・付着が抑制され易くなり、堆積・付着した未利用原料粉も剥離し易くなる。更に、このサイクロン流に乗って、処理室2内の未利用原料粉が効率よく運ばれる。
【0047】
また、処理室2の内面に未利用原料粉が堆積・付着した場合、この堆積・付着した未利用原料粉を空気の吹き付けによって剥離させる上で、空気による衝撃圧力が重要となる。そのため、ノズル11の吹出口11aの径は、内面に堆積・付着した未利用原料粉の剥離が可能となる程度の衝撃圧力が得られるように設定される。尚、本実施形態では、ノズル11の吹出口11aの径を1mmφとししている。
【0048】
空気供給部12には、一端がノズル11に接続された空気送給管S2が接続されており、空気供給部12は、空気をコンプレッサーやガスボンベによって空気送給管S2内に供給するものである。
【0049】
空気送給管S2は、空気供給部12から供給される空気をノズル11まで送給するためのものである。本実施形態においては、空気供給部12から送出された空気が空気流量制御部13を経由してノズル11まで送給されるようになっており、空気供給部12、空気流量制御部13及びノズル11の間に接続された複数の配管によって空気送給管S2が構成されている。
【0050】
空気流量制御部13は、空気送給管S2内を流通する空気の流量を制御するものである。本実施形態においては、ノズル11の吹出口11aから所定流速(本例では、10L/min)で空気が噴出されるように、その動作が図示しない制御装置によって適宜制御される。
【0051】
本実施形態において、エアロゾル発生部15には、後述する原料供給管S3が接続されている。また、エアロゾル発生部15には、後述する搬送ガス送給管S4及びエアロゾル搬送管5が接続されている。そして、エアロゾル発生部15では、原料粉供給機構16によって一定速度で供給されるセラミックス原料粉と、搬送ガス送給機構18によって送給される搬送ガスとを混合したエアロゾルを発生する。この発生したエアロゾルは、エアロゾル搬送管5に送給される。
【0052】
原料粉供給機構16は、原料粉供給部17や原料供給管S3などからなる。原料粉供給部17には、セラミックス原料粉が貯留されており、このセラミックス原料粉が原料供給管S3を通してエアロゾル発生部15に供給される。尚、セラミックス原料粉を構成する粒子としては、例えば、ジルコニアにイットリウムやカルシウム、マグネシウム、ハフニウムなどを含有する安定化ジルコニアの粒子である。尚、本実施形態においては、イットリウムを含有するジルコニア(YSZ)をセラミックス原料粉として用いる。
【0053】
搬送ガス送給機構18は、ガス供給部19や搬送ガス圧力制御部20、搬送ガス流量制御部21、搬送ガス送給管S4などからなる。
【0054】
具体的に、ガス供給部19には、搬送ガス送給管S4が接続されており、ガス供給部19は、空気やN、He、Arなどの搬送ガスをコンプレッサーやガスボンベによって搬送ガス送給管S4内に供給するものである。
【0055】
また、本実施形態における搬送ガス送給管S4は、ガス供給部19から供給される搬送ガスをエアロゾル発生部15まで送給するためのものである。具体的に、本実施形態では、ガス供給部19から送出された搬送ガスが、搬送ガス圧力制御部20、搬送ガス流量制御部21を順に経由してエアロゾル発生部15まで送給されるようになっており、ガス供給部19、搬送ガス圧力制御部20、搬送ガス流量制御部21及びエアロゾル発生部15の間に接続された複数の配管によって搬送ガス送給管S4が構成されている。また、搬送ガス送給管S4における搬送ガス流量制御部21とエアロゾル発生部15との間には、搬送ガス送給管S4内の圧力を検出する圧力センサM1が設けられている。
【0056】
搬送ガス圧力制御部20は、搬送ガス送給管S4内を流通する搬送ガスを適正圧力に静定するものであり、搬送ガス流量制御部21は、搬送ガス送給管S4内を流通する搬送ガスの流量を制御するものである。本実施形態において、搬送ガス圧力制御部20及び搬送ガス流量制御部21は、圧力センサM1により検出される圧力などを基に、その動作が図示しない制御装置によって適宜制御される。
【0057】
本実施形態において、回収機構23は、排気管S1に介装されており、排気管S1を流通する気体から未利用原料粉をトラップして回収するように構成されている。尚、回収機構23で回収された未利用原料粉は、成膜処理を行っていないタイミングで適宜外部に取り出すことができる。
【0058】
ヒータ24は、処理室2の縮径部3を加熱するためのものである。このヒータ24により縮径部3を加熱することで、熱泳動効果によって縮径部3への未利用原料粉の堆積・付着を抑制したり、縮径部3に堆積・付着した未利用原料粉を剥離させることができる。
【0059】
〔成膜方法について〕
次に、上記成膜装置1を用いた成膜方法により、基材Kの処理対象面Kaに膜(成膜体)を形成する過程について説明する。本実施形態に係る成膜方法では、搬送ガス圧力制御部20及び搬送ガス流量制御部21によって搬送ガス送給管S4内を流通する搬送ガスの流量や圧力を調整しながらガス供給部19からエアロゾル発生部15へと搬送ガスを送給する。エアロゾル発生部15では、送給された搬送ガスと原料粉供給部17から供給されたセラミックス原料粉とが混合したエアロゾルが発生する。発生したエアロゾルは、エアロゾル搬送管5に送給される。
【0060】
エアロゾル搬送管5に送給されたエアロゾルは、当該エアロゾル搬送管5の噴出端5aから基材Kの処理対象面Kaに向けて噴出され(言い換えれば、鉛直方向下側から処理対象面Kaに向けて噴射され)、噴出されたエアロゾルが基材Kの処理対象面Kaに衝突することで当該処理対象面Kaに膜が形成される。
【0061】
この成膜方法では、エアロゾルを基材Kの処理対象面Kaに噴出させるとともに、ガス吹付機構10によって処理室2の内面に空気を吹き付ける。これにより、処理室2の内面への未利用原料粉の堆積・付着が抑制されたり、処理室2の内面に堆積・付着した未利用原料粉が剥離する。したがって、処理室2内に発生した未利用原料粉を効率よく回収できる。
【0062】
以上のように、本実施形態に係る成膜装置1及び成膜方法によれば、処理室2の内面への未利用原料粉の堆積・付着を抑制でき、処理室2の内面に堆積・付着した未利用原料粉を剥離させることができるため、処理室2内に発生した未利用原料粉を効率よく回収することができる。また、駆動部が必要にスキージ等により除去する構成と比較して、メンテナンス頻度の増加という問題も生じ難く、吸引用のノズルやこれと回収容器等とを接続する配管を必要とする構成と比較して、装置の大型化という問題も生じ難い。更に、基材に対するエアロゾルの吹き付け方向についても制約を受けない。
【0063】
〔別実施形態〕
〔1〕上記実施形態では、ノズル11を、上面視円環状且つ縦断面が矩形状の中空部材からなる態様としたが、これに限られるものではない。例えば、処理室2の形状が角筒状である場合には、ノズル11を上面視角環状の部材で構成してもよい。また、ノズル11を複数の小さいノズルに分割した態様であってもよいし、立方体状の中空部材の下面に複数の吹出口を形成したノズルを一又は複数個配置する態様であってもよい。
【0064】
〔2〕上記実施形態では、処理室2の内面のうち少なくとも交差領域に空気が吹き付けられる態様としたが、これに限られるものではない。
【0065】
〔3〕上記実施形態では、ノズル11を処理室2の最上部に配置する態様としたが、これに限られるものではない。
【0066】
〔4〕上記実施形態では、処理室2の内面に対して60°以下の入射角θ1で空気が吹き付けられる態様としたが、これに限られるものではなく、入射角θ1は60°より大きくてもよい。
【0067】
〔5〕上記実施形態では、ガス吹付機構10によって内面に沿ってらせん状に流れるサイクロン流を処理室2内に発生させる態様としたが、これに限られるものではない。例えば、ガス吹付機構10におけるノズル11の吹出口11aの形状を周方向に延びるスリット状とし、処理室2の内面全周にわたって空気を吹き付けるようにしてもよい。
【0068】
〔6〕上記実施形態では、下端側に縮径部3が形成された略円筒状の気密状の筐体が処理室2を構成する態様としたが、これに限られるものではない。例えば、図6に示すように、円筒状の気密状の筐体30内にホッパー31を配設し、ホッパー31の内面に沿って空気が流れるように、ガス吹付機構10による空気の吹き付けを行うようにしてもよい。また、処理室2が縮径部3を有していない態様であってもよい。
【0069】
〔7〕上記実施形態では、処理室2の開口2aに回収機構23を介して排気設備(メカニカルブースターポンプP1及び真空ポンプP2)が接続される態様としたが、これに限られるものではない。例えば、図7に示すように、処理室2に2つの開口2a,2bが形成され、縮径部3が形成されている側の開口2aに回収機構23を接続し、処理室2上部に形成されている開口2bにメカニカルブースターポンプP1及び真空ポンプP2が接続された態様であってもよい。この場合、開口2aと回収機構23とを接続する回収管S5にバルブ32を設けることで、成膜処理中であってもバルブ32を閉じ状態にすれば、回収機構23に回収された未利用原料粉を外部に取り出すことができる。
【0070】
〔8〕上記実施形態では、回収機構23に回収された未利用原料粉を適宜外部に取り出す態様としたが、これに限られるものではない。例えば、回収機構23と原料供給管S3とを接続するリサイクル管を設け、回収機構23で回収された未利用原料粉をリサイクル管を介して原料供給管S3の途中に供給して再利用するようにしてもよい。
【0071】
〔9〕上記実施形態では、処理対象面Kaが下向きとなるように保持部4が基材Kを保持し、鉛直方向下側から処理対象面Kaに向けてエアロゾルを噴射する態様としたが、これに限られるものではない。例えば、保持部4とエアロゾル搬送管5の噴出端5aとの鉛直方向の位置を入れ替えて、鉛直方向上側から処理対象面Kaに向けてエアロゾルを噴射する態様としてもよい。
【0072】
〔10〕上記実施形態では、保持部4が水平方向及び鉛直方向に移動可能である態様としたが、これに限られるものではない。エアロゾル搬送管5の噴出端5aの位置が水平方向及び鉛直方向に移動可能である態様であってもよく、また、保持部4とエアロゾル搬送管5の噴出端5a位置とが共に移動することで、基材Kとエアロゾル搬送管5の噴出端5aとが相対的に移動する態様であってもよい。
【0073】
〔11〕上記実施形態では、回収機構23を備える態様としたが、これに限られるものではなく、回収機構23を備えていない態様であってもよい。
【0074】
〔12〕上記実施形態では、ヒータ24を除去機構として備える態様としたが、これに限られるものではなく、除去機構を備えていない態様であってもよい。また、縮径部3に対して振動を付加する装置を除去機構として備える態様であってもよい。
【0075】
上記実施形態(別実施形態を含む)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、基材上に膜を形成する成膜装置及び成膜方法に適用することができる。
【符号の説明】
【0077】
1 :成膜装置
2 :処理室
2a :開口
3 :縮径部
10 :ガス吹付機構
23 :回収機構
24 :ヒータ(除去機構)
K :基材
Ka :処理対象面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7