(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156873
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/02 20060101AFI20221006BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20221006BHJP
B60K 6/442 20071001ALI20221006BHJP
B60W 20/20 20160101ALI20221006BHJP
B60W 20/10 20160101ALI20221006BHJP
B60W 10/10 20120101ALI20221006BHJP
B60W 20/40 20160101ALI20221006BHJP
【FI】
B60W10/02 900
B60L50/16
B60K6/442 ZHV
B60W20/20
B60W20/10
B60W10/10 900
B60W20/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060780
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】須山 大樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 光彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智晴
【テーマコード(参考)】
3D202
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA02
3D202BB31
3D202BB37
3D202BB64
3D202BB65
3D202DD01
3D202DD20
3D202DD24
3D202DD26
3D202EE13
3D202EE16
3D202FF11
3D202FF13
5H125AA01
5H125AC08
5H125AC12
5H125BE05
5H125CA01
5H125CA09
5H125EE52
(57)【要約】
【課題】車輪の駆動力源となる2つの回転電機を備えた車両用駆動装置において、回転電機をより高い効率で駆動させる。
【解決手段】車両用駆動装置の制御装置は、第1EVモードと、第2EVモードと、パラレルモードとを実行可能である。車両の動作領域における低車速領域S1では、駆動力が低い第1領域F1において第1EVモード、駆動力が高い第2領域F2において第2EVモードが実行され、中車速領域S2では、第1領域F1において第1EVモード、第2領域F2において第2EVモード、第2領域F2よりも駆動力が高い第3領域F3においてパラレルモードが実行され、高車速領域S3では、第1領域F1において第1EVモード、第2領域F2において第2EVモードが実行されると共に、第3領域F3を含む全領域において駆動力に拘わらずパラレルモードが実行可能である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪に駆動連結される出力部材と、
第1ロータを備えた第1回転電機と、
第2ロータを備えた第2回転電機と、
内燃機関に駆動連結される入力部材と、
前記第1ロータと前記出力部材とを駆動連結する第1伝達系と、
前記第2ロータと前記出力部材とを駆動連結する第2伝達系と、
前記入力部材と前記第1ロータとを駆動連結する第3伝達系と、
前記第1伝達系における動力伝達を断接する第1係合装置と、
前記第3伝達系における動力伝達を断接する第2係合装置と、
前記第1回転電機、前記第2回転電機、前記第1係合装置及び前記第2係合装置を制御する制御装置と、を備え、
前記第1係合装置及び前記第2係合装置が解放状態とされ、前記第2回転電機の駆動力が前記出力部材に伝達されるモードを第1EVモードとし、
前記第1係合装置が係合状態とされると共に前記第2係合装置が解放状態とされ、前記第1回転電機及び前記第2回転電機の駆動力が前記出力部材に伝達されるモードを第2EVモードとし、
前記第1係合装置及び前記第2係合装置が係合状態とされ、前記内燃機関、前記第1回転電機、及び前記第2回転電機の駆動力が前記出力部材に伝達されるモードをパラレルモードとして、
前記制御装置は、前記第1EVモードと前記第2EVモードと前記パラレルモードとを実行可能であり、
車速と駆動力とによって規定された車両の動作領域において最も低車速側に低車速領域、最も高車速側に高車速領域、これらの間に中車速領域が設定され、
前記低車速領域では、相対的に駆動力が低い第1領域において前記第1EVモード、駆動力が高い第2領域において前記第2EVモードが実行され、
前記中車速領域では、前記第1領域において前記第1EVモード、前記第2領域において前記第2EVモード、前記第2領域よりも駆動力が高い第3領域において前記パラレルモードが実行され、
前記高車速領域では、前記第1領域において前記第1EVモード、前記第2領域において前記第2EVモードが実行されると共に、前記第3領域を含む全領域において駆動力に拘わらず前記パラレルモードが実行可能である、車両用駆動装置。
【請求項2】
前記第1EVモードが実行される最高車速と前記第2EVモードが実行される最高車速と前記パラレルモードが実行される最高車速とが同じであり、
前記第1EVモードと前記第2EVモードとの双方が実行される車速域に含まれるそれぞれの車速において、前記第1EVモードの最大トルクは、前記第2EVモードの最大トルクより小さく、
前記出力部材に伝達することが要求される駆動力を要求駆動力として、
前記制御装置は、前記要求駆動力がそれぞれの車速において前記第1EVモードの最大トルクより高くなった場合に、前記第2EVモードを実行し、前記要求駆動力が、それぞれの車速において前記第2EVモードの最大トルクより高くなった場合に、前記パラレルモードを実行する、請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記第1係合装置が解放状態とされると共に前記第2係合装置が係合状態とされ、前記内燃機関の駆動力により前記第1回転電機が発電を行い、前記第2回転電機の駆動力が前記出力部材に伝達されるモードをシリーズモードとして、
前記制御装置は、さらに前記シリーズモードを実行可能である、請求項1又は2に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記第1回転電機と前記第2回転電機とは、最大トルクと最高回転速度とが同じ回転電機である、請求項1から3の何れか一項に記載の車両用駆動装置。
【請求項5】
第1軸上に配置された第1ロータを備えた第1回転電機と、
前記第1軸と平行な別軸である第2軸上に配置された第2ロータを備えた第2回転電機と、
車輪に駆動連結されると共に、前記第1軸及び前記第2軸と平行な別軸である第3軸上に配置された出力部材と、
内燃機関に駆動連結されると共に前記第1軸、前記第2軸及び前記第3軸と平行な別軸である第4軸上に配置された入力部材と、
前記第1軸、前記第2軸、前記第3軸、前記第4軸と平行な別軸である第5軸上に配置され、第1カウンタギヤと第2カウンタギヤとを備えたカウンタギヤ機構と、
前記カウンタギヤ機構を含む複数のギヤを含むと共に前記第1ロータと前記出力部材とを駆動連結する第1伝達系と、
前記カウンタギヤ機構を含む複数のギヤを含むと共に前記第2ロータと前記出力部材とを駆動連結する第2伝達系と、
複数のギヤを含むと共に前記入力部材と前記第1ロータとを駆動連結する第3伝達系と、
前記第1伝達系における動力伝達を断接する第1係合装置と、
前記第3伝達系における動力伝達を断接する第2係合装置と、を備え、
前記第1伝達系におけるギヤ比は、前記第1回転電機の最高回転速度により、前記出力部材の最高速度が出力可能なギヤ比に設定され、
前記第2伝達系におけるギヤ比は、前記第2回転電機の最高回転速度により、前記出力部材の最高速度が出力可能なギヤ比に設定され、
前記第3伝達系及び前記第1伝達系を合わせたギヤ比は、前記内燃機関の最高回転速度により、前記出力部材の最高速度が出力可能なギヤ比に設定されている、車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1回転電機と第2回転電機とを備えた車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、2つの回転電機を備えた、シリーズ・パラレルハイブリッド車両用の車両用駆動装置では、一方の回転電機を発電機として使用し、他方の回転電機と内燃機関とで車輪の駆動に必要な駆動力を得るものがある。特開2017-177975公報には、2つの回転電機をともに発電機としても電動機としても使用するハイブリッド車両用の車両用駆動装置が開示されている。この車両用駆動装置は、2つの回転電機を共に車輪の駆動力源とする2モータEV(電気自動車)モード、一方の回転電機のみを車輪の駆動力源とする1モータEVモード、回転電機と内燃機関とで車輪を駆動するパラレルハイブリッドモード、内燃機関の動力で一方の回転電機に発電させた電力で他方の回転電機を駆動するシリーズハイブリッドモードが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、上記公報の車両用駆動装置では、2モータEVの走行領域の内側に1モータEVの走行領域の全てが含まれている。例えば、1モータEVの走行領域の範囲に設定されている車速を越えた場合には、比較的低い駆動力しか要求されない場合であっても、2モータEVモードへと移行する。しかし、同じ駆動力を出力する場合、1つの回転電機に比べて2つの回転電機を駆動すると、合計の損失も増加することが多い。
【0005】
上記背景に鑑みて、車輪の駆動力源となる2つの回転電機を備えた車両用駆動装置において、回転電機をより高い効率で駆動させる技術の提供が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑みた車両用駆動装置は、1つの態様として、車輪に駆動連結される出力部材と、第1ロータを備えた第1回転電機と、第2ロータを備えた第2回転電機と、内燃機関に駆動連結される入力部材と、前記第1ロータと前記出力部材とを駆動連結する第1伝達系と、前記第2ロータと前記出力部材とを駆動連結する第2伝達系と、前記入力部材と前記第1ロータとを駆動連結する第3伝達系と、前記第1伝達系における動力伝達を断接する第1係合装置と、前記第3伝達系における動力伝達を断接する第2係合装置と、前記第1回転電機、前記第2回転電機、前記第1係合装置及び前記第2係合装置を制御する制御装置と、を備え、前記第1係合装置及び前記第2係合装置が解放状態とされ、前記第2回転電機の駆動力が前記出力部材に伝達されるモードを第1EVモードとし、前記第1係合装置が係合状態とされると共に前記第2係合装置が解放状態とされ、前記第1回転電機及び前記第2回転電機の駆動力が前記出力部材に伝達されるモードを第2EVモードとし、前記第1係合装置及び前記第2係合装置が係合状態とされ、前記内燃機関、前記第1回転電機、及び前記第2回転電機の駆動力が前記出力部材に伝達されるモードをパラレルモードとして、前記制御装置は、前記第1EVモードと前記第2EVモードと前記パラレルモードとを実行可能であり、車速と駆動力とによって規定された車両の動作領域において最も低車速側に低車速領域、最も高車速側に高車速領域、これらの間に中車速領域が設定され、前記低車速領域では、相対的に駆動力が低い第1領域において前記第1EVモード、駆動力が高い第2領域において前記第2EVモードが実行され、前記中車速領域では、前記第1領域において前記第1EVモード、前記第2領域において前記第2EVモード、前記第2領域よりも駆動力が高い第3領域において前記パラレルモードが実行され、前記高車速領域では、前記第1領域において前記第1EVモード、前記第2領域において前記第2EVモードが実行されると共に、前記第3領域を含む全領域において駆動力に拘わらず前記パラレルモードが実行可能である。
【0007】
同じ駆動力を出力する場合において、2つの回転電機を駆動する場合には、それぞれの回転電機において損失が生じるため、1つの回転電機のみを駆動するのに比べて、車両用駆動装置の全体としてエネルギー効率が低下し易い。しかし、本構成によれば、車速ごとに相対的に駆動力が低い第1領域では第1EVモードが実行され、相対的に駆動力が高い第2領域では第2EVモードが実行される。即ち、同じ車速において駆動力が低い領域では、高車速域であっても第1回転電機を用いず、第2回転電機のみを用いる第1EVモードが実行されるため、車両用駆動装置の全体としてエネルギー効率を高め易い。また、第1EVモードの最大トルクが第2EVモードの最大トルクより小さくなるように、第2回転電機の最大トルクが設定されている。そのため、第2回転電機は、比較的低いトルク域に適した特性の回転電機とすることができる。この場合、高いトルクを必要としない常用トルク域における広い車速域で第2回転電機を効率的に駆動することができる。この点でも、車両用駆動装置のエネルギー効率を高め易い。尚、駆動力が高い領域については、第1回転電機と第2回転電機との双方を用いる第2EVモードやパラレルモードを実行することで対応可能である。このような駆動力が高い状況は発生する頻度が低いため、第2EVモードやパラレルモードにおいてエネルギー効率が低下したとしても、実際の使用状況におけるエネルギー効率の低下は限定的である。このように、本構成によれば、車輪の駆動力源となる2つの回転電機を備えた車両用駆動装置において、回転電機をより高い効率で駆動させることができる。
【0008】
また、上記に鑑みた車両用駆動装置は、1つの態様として、第1軸上に配置された第1ロータを備えた第1回転電機と、前記第1軸と平行な別軸である第2軸上に配置された第2ロータを備えた第2回転電機と、車輪に駆動連結されると共に、前記第1軸及び前記第2軸と平行な別軸である第3軸上に配置された出力部材と、内燃機関に駆動連結されると共に前記第1軸、前記第2軸及び第3軸と平行な別軸である第4軸上に配置された入力部材と、前記第1軸、前記第2軸、前記第3軸、前記第4軸と平行な別軸である第5軸上に配置され、第1カウンタギヤと第2カウンタギヤとを備えたカウンタギヤ機構と、前記カウンタギヤ機構を含む複数のギヤを含むと共に前記第1ロータと前記出力部材とを駆動連結する第1伝達系と、前記カウンタギヤ機構を含む複数のギヤを含むと共に前記第2ロータと前記出力部材とを駆動連結する第2伝達系と、複数のギヤを含むと共に前記入力部材と前記第1ロータとを駆動連結する第3伝達系と、前記第1伝達系における動力伝達を断接する第1係合装置と、前記第3伝達系における動力伝達を断接する第2係合装置と、を備え、前記第1伝達系におけるギヤ比は、前記第1回転電機の最高回転速度により、前記出力部材の最高速度が出力可能なギヤ比に設定され、前記第2伝達系におけるギヤ比は、前記第2回転電機の最高回転速度により、前記出力部材の最高速度が出力可能なギヤ比に設定され、前記第3伝達系及び前記第1伝達系を合わせたギヤ比は、前記内燃機関の最高回転速度により、前記出力部材の最高速度が出力可能なギヤ比に設定されている。
【0009】
この構成によれば、第2伝達系による動力伝達によって、第2回転電機を駆動力源とするEV走行(いわゆる1モータEV走行)が可能な車両用駆動装置を実現することができる。また、第1伝達系及び第2伝達系による動力伝達によって、第1回転電機及び第2回転電機を駆動力源するEV走行(いわゆる2モータEV走行)が可能な車両用駆動装置を実現することができる。また、第1伝達系、第2伝達系及び第3伝達系による動力伝達によって、第1回転電機、第2回転電機及び内燃機関を駆動力源とするハイブリッド走行(いわゆるパラレル走行)が可能な車両用駆動装置を実現することができる。そして、第1伝達系におけるギヤ比、第2伝達系におけるギヤ比、第3伝達系及び第1伝達系を合わせたギヤ比が、上記のように設定されていることにより、車両の全車速域において、1モータEV走行、2モータEV走行、パラレル走行の全てが可能である。即ち、本構成の車両用駆動装置は、同じ車速において駆動力が低い領域では、高車速域であっても第1回転電機や内燃機関を用いず、第2回転電機のみを用いる1モータEV走行が可能であるため、車両用駆動装置の全体としてエネルギー効率を高め易い。
【0010】
車両用駆動装置のさらなる特徴と利点は、図面を参照して説明する例示的且つ非限定的な実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】車両用駆動装置の他の例を模式的に示すブロック図
【
図2】車両用駆動装置の動作領域マップの一例を示す図
【
図3】比較例の車両用駆動装置の回転電機の動作領域と効率との関係を示す図
【
図4】車両駆動装置の回転電機の動作領域と効率との関係を示す図
【
図5】車両用駆動装置の具体的な構成例を示すスケルトン図
【
図6】第1係合装置及び第2係合装置の係合状態と車両用駆動装置の動作モードとの関係を示す状態遷移図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、車両用駆動装置の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1のブロック図は、いわゆるハイブリッド自動車の車両用駆動装置100を模式的に示している。車両用駆動装置100には、出力部材OUTの駆動力源として、2つの回転電機(第1回転電機MG1、第2回転電機MG2)と内燃機関EGとが備えられている。
【0013】
本明細書では、「駆動連結」とは、2つ以上の回転要素が駆動力(トルクと同義)を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が1つ又は2つ以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材(例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等)が含まれ、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置(例えば、摩擦係合装置、噛み合い式係合装置等)が含まれていてもよい。
【0014】
また、本明細書では、「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。従って、第1回転電機MG1及び第2回転電機MG2は、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能とを有している。そのため、第1回転電機MG1及び第2回転電機MG2は、それぞれ直流電源BATと電気的に接続されている。この直流電源BATとしては、バッテリやキャパシタ等の公知の各種の蓄電装置を用いることができる。
【0015】
車両用駆動装置100は、共に、車輪Wに駆動連結される出力部材OUTと、第1ロータ10を備えた第1回転電機MG1と、第2ロータ20を備えた第2回転電機MG2と、第1ロータと出力部材とを駆動連結する第1伝達系1と、第2ロータ20と出力部材OUTとを駆動連結する第2伝達系2と、第1伝達系1における動力伝達を断接する第1係合装置CL1と、第1回転電機MG1、第2回転電機MG2、及び係合装置(第1係合装置CL1)を制御する制御装置CTLとを備えている。また、車両用駆動装置100は、内燃機関EGに駆動連結される入力部材INと、入力部材INと第1ロータ10とを駆動連結する第3伝達系3と、第3伝達系3における動力伝達を断接する第2係合装置CL2とを備えている。制御装置CTLは、さらに、第2係合装置CL2を制御する。
図1には示していないが、制御装置CTLが内燃機関EGも制御することを妨げるものではない。
【0016】
車両用駆動装置100において、第1係合装置CL1及び第2係合装置CL2が解放状態とされ、第2回転電機MG2の駆動力が出力部材OUTに伝達されるモードを第1EVモードとする。また、第1係合装置CL1が係合状態とされると共に第2係合装置CL2が解放状態とされて、第1回転電機MG1及び第2回転電機MG2の駆動力が出力部材OUTに伝達されるモードを第2EVモードとする。即ち、第2係合装置CL2が解放状態であれば、入力部材INは第1回転電機MG1及び第2回転電機MG2の双方に駆動連結されず、第1係合装置CL1の状態に応じて第1EVモードと第2EVモードとが実現可能である。制御装置CTLは、第1EVモードと第2EVモードとを実行可能である。
【0017】
また、車両用駆動装置100は、第1EVモード及び第2EVモードに加えて、第1係合装置CL1及び第2係合装置CL2が係合状態とされ、内燃機関EG、第1回転電機MG1、及び第2回転電機MG2の駆動力が出力部材OUTに伝達されるパラレルモード(パラレルハイブリッドモード)が実現できる。また、車両用駆動装置100は、第1係合装置CL1が解放状態とされると共に第2係合装置CL2が係合状態とされ、内燃機関EGの駆動力により第1回転電機MG1が発電を行い、第2回転電機MG2の駆動力が出力部材OUTに伝達されるシリーズモード(シリーズハイブリッドモード)も実現できる。即ち、制御装置CTLは、さらにパラレルモード及びシリーズモードを実行可能である。
【0018】
車両用駆動装置100において、第1回転電機MG1は、内燃機関EGのトルクにより発電を行い、直流電源BATを充電し、或いは第2回転電機MG2を駆動するための電力を供給するジェネレータとして機能する。ただし、第1回転電機MG1は、車両の高速走行時や内燃機関EGの始動時等には、力行して駆動力(「トルク」と同義)を発生するモータとして機能する場合もある。内燃機関EGは、燃料の燃焼により駆動されて動力を取り出す原動機(ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等)である。第2回転電機MG2は、主に車両を走行させるための駆動力を発生するモータとして機能する。ただし、車両の減速時等には、第2回転電機MG2は、車両の慣性力を電気エネルギーとして回生するジェネレータとして機能する場合もある。
【0019】
図2は、車両用駆動装置100の動作領域マップの一例を示している。図中の右上から左下への斜線によるハッチングが付された領域は、1つの回転電機による動作領域(1モータEV動作領域、第1動作領域M1)を示している。本実施形態では、第2回転電機MG2による動作領域に相当する。上述したように、第1EVモードでは、第1係合装置CL1及び第2係合装置CL2が解放状態とされて、第2回転電機MG2の駆動力が出力部材OUTに伝達される。従って、第1動作領域M1は、第1EVモードが実行される動作領域である。
【0020】
図中の横線によるハッチングが付された領域は、2つの回転電機による動作領域(2モータEV動作領域、第2動作領域M2)を示している。本実施形態では、第1回転電機MG1及び第2回転電機MG2の双方による動作領域に相当する。上述したように、第2EVモードでは、第1係合装置CL1が係合状態とされると共に第2係合装置CL2が解放状態とされて、第1回転電機MG1及び第2回転電機MG2の駆動力が出力部材OUTに伝達される。従って、第2動作領域M2は、第2EVモードが実行される動作領域である。
【0021】
図中の左上から右下への斜線によるハッチングが付された領域は、内燃機関EGによる駆動力が用いられる動作領域(パラレルハイブリッド動作領域、パラレル動作領域、第3動作領域H)を示している。本実施形態では、パレレルモードで、第1係合装置CL1及び第2係合装置CL2が係合状態とされ、内燃機関EG、第1回転電機MG1、及び第2回転電機MG2の駆動力が出力部材OUTに伝達される。従って、第3動作領域Hは、パラレルモードが実行される動作領域である。
図2に示すように、第3動作領域Hは、車速が第1速度V1以上において、第1動作領域M1及び第2動作領域M2と重複している。
【0022】
尚、シリーズモードでは、第1回転電機MG1が発電機として機能し、第2回転電機MG2が電動機として機能するので、車輪W(出力部材OUT)の駆動力源は第2回転電機MG2となる。従って、第1動作領域M1は、シリーズモードも実行される動作領域ということができる。
【0023】
換言すれば、車速と駆動力とによって規定された車両の動作領域において最も低車速側に低車速領域S1、最も高車速側に高車速領域S3、これらの間に中車速領域S2が設定される。低車速領域S1では、相対的に駆動力が低い第1領域F1において第1EVモード、駆動力が高い第2領域F2において第2EVモードが実行される。中車速領域S2では、第1領域F1において第1EVモード、第2領域F2において第2EVモード、第2領域F2よりも駆動力が高い第3領域F3においてパラレルモードが実行される。高車速領域S3では、第1領域F1において第1EVモード、第2領域F2において第2EVモードが実行されると共に、第3領域F3を含む全領域において駆動力に拘わらずパラレルモードが実行可能である。
【0024】
図2に示すように、第1EVモードが実行される最高車速と第2EVモードが実行される最高車速とは同じ第2速度V2である。車速がゼロの場合から当該最高車速(第2速度V2)までの全てにおいて、つまり、第1EVモードと第2EVモードとの双方が実行される車速域に含まれるそれぞれの車速において、第1EVモードの最大トルクは、第2EVモードの最大トルクより小さい。
図2では、駆動力[N]で示しているが、トルク[Nm]も同義である。出力部材OUTに伝達することが要求される駆動力を要求駆動力として、制御装置CTLは、要求駆動力がそれぞれの車速において第1EVモードの最大トルク(最大駆動力)より高くなった場合に、第2EVモードを実行する。
【0025】
同じ駆動力を出力する場合において、2つの回転電機を駆動する場合には、それぞれの回転電機において損失が生じるため、1つの回転電機のみを駆動するのに比べて、車両用駆動装置100の全体としてエネルギー効率が低下し易い。しかし、
図2に示すように、本実施形態では、車速ごとに相対的に要求駆動力が低い第1領域F1では第1EVモードが実行され、相対的に要求駆動力が高い第2領域F2では第2EVモードが実行される。即ち、同じ車速において要求駆動力が低い領域では、高車速域であっても第1回転電機MG1を用いず、第2回転電機MG2のみを用いる第1EVモードが実行される。つまり、車速と駆動力とによって規定された車両の動作領域における全車速域において、相対的に要求駆動力が低い領域(第1領域F1)では、第1EVモードが実される。このため、車両用駆動装置100の全体としてエネルギー効率を高め易い。また、第1EVモードの最大トルクが第2EVモードの最大トルクより小さくなるように、第2回転電機MG2の最大トルクが設定されている。そのため、第2回転電機MG2は、比較的低いトルク域に適した特性の回転電機とすることができる。この場合、高いトルクを必要としない常用トルク域における広い車速域で第2回転電機MG2を効率的に駆動することができる。この点でも、車両用駆動装置100のエネルギー効率を高め易い。
【0026】
図3は、比較例の車両用駆動装置の回転電機の動作領域と効率との関係を示しており、ここでは、第1動作領域M1と第2動作領域M2とを合わせた動作領域(モータ動作領域E)の全域において、1つの回転電機で駆動力を出力する形態を例示している。これに対して、本実実施形態の車両用駆動装置100は、
図2を参照して上述したように、第2回転電機MG2は、第1動作領域M1において駆動力を出力し、モータ動作領域Eの全域に対応する駆動力は、第1回転電機MG1及び第2回転電機MG2の双方によって出力する(
図4参照)。
図3及び
図4の双方において、回転電機の効率の良い動作領域を高効率領域Aとして示すと共に、高効率領域Aよりも効率の低い動作領域を効率低下領域Bとして示している。
【0027】
図3に示すように、モータ動作領域Eの全域において駆動力を出力する1つの回転電機は、当然ながら高い駆動力にまで対応可能なように構成されている。このため、最も効率のよい動作領域である高効率領域Aは、比較的高い駆動力の側に位置することになる。
図3及び
図4において斜線のハッチングで示す領域は、いわゆる常用トルク域Gである。
図3に示すように、モータ動作領域Eの全域を1つの回転電機で対応すると、高効率領域Aが常用トルク域Gから外れ易い。従って、高性能な回転電機を搭載していても車両用駆動装置の全体の効率が低下し易い。
【0028】
一方、
図4に示すように、第2回転電機MG2のみの動作領域である第1動作領域M1のほとんどの領域は常用トルク域である。そして、第2回転電機MG2の高効率領域Aのほとんどの領域は、常用トルク域Gに含まれる。従って、第2回転電機MG2を高い効率で使用でき、車両用駆動装置100の全体の効率を高め易い。
【0029】
尚、要求駆動力が高い領域については、第1回転電機MG1と第2回転電機MG2との双方を用いる第2EVモードを実行することで対応可能である。このような要求駆動力が高い状況は発生する頻度が低いため、第2EVモードにおいてエネルギー効率が低下したとしても、実際の使用状況におけるエネルギー効率の低下は限定的と考えられる。
【0030】
また、車両用駆動装置100は、内燃機関EGに駆動連結されている。このため、回転電機のエネルギー効率が低下する動作領域において内燃機関EGの駆動力を利用して、車両用駆動装置100の全体の効率を高め易い。一般的に内燃機関EGは、高回転において効率が良く、車速が高い場合にエネルギー効率を高め易い。
図3及び
図4に示すように、車速が高い領域では回転電機のエネルギー効率は低くなっていくが、当該領域において、内燃機関EGの駆動力を利用することによって、車両用駆動装置100の全体のエネルギー効率を高め易い。
【0031】
図2を参照して上述したように、第2車両用駆動装置100Bでは、第1EVモード、第2EVモードに加えて、さらにパレレルモードが実行可能である。そして、パラレルモードが実行される最高車速は、第1EVモード及び第2EVモードが実行される最高車速と同じ第2速度V2である。一方、第2速度V2よりも低い第1速度V1から第2速度V2までの領域(高車速領域S3)では、第1EVモードの動作領域である第1動作領域M1とパラレルモードの動作領域である第3動作領域Hとが重複していると共に、第2EVモードの動作領域である第2動作領域M2と第3動作領域Hとが重複している。つまり、第1速度V1以上の動作領域では、パラレルモードが実行可能であるに留まらず、第1EVモードとパラレルモードとが選択的に実行可能であると共に、第2EVモードとパラレルモードとが選択的に実行可能である。
【0032】
即ち、パラレルモードが実行される最高車速が、第1EVモード及び第2EVモードが実行される最高車速と同じであるから、パラレルモードが実行される動作領域と第1EVモード及び第2EVモードが実行される動作領域とが重複する。従って、回転電機に電力を供給する直流電源の蓄電状態(SOC:State Of Charge)等に応じて、第1EVモードとパレレルモード、或いは第2EVモードとパレレルモードとを適切に選択することができる。尚、パラレルモードが実行される最高車速が、第1EVモード及び第2EVモードが実行される最高車速よりも高い形態を妨げるものではない。
【0033】
また、
図2に示すように、車速が変わらずに、車両の要求駆動力が高くなり、第1動作領域M1内の第1動作点Q1から、第2動作領域M2内の第2動作点Q2へと車両用駆動装置100の動作点が移るときには、第1EVモードから第2EVモードへと動作モードが移行する。さらに、要求駆動力が高くなり、第2動作点Q2よりも高い動作点へと移行すると、動作モードは第2EVモードからパラレルモードへと移行することになる。上述したように、本実施形態の車両用駆動装置100では、第1EVモードが実行される最高車速と第2EVモードが実行される最高車速とパラレルモードが実行される最高車速とが同じ第2速度V2である。そして、第1EVモードと第2EVモードとの双方が実行される車速域に含まれるそれぞれの車速において、第1EVモードの最大トルクは、第2EVモードの最大トルクより小さい。制御装置CTLは、出力部材OUTに伝達することが要求される駆動力である要求駆動力が、それぞれの車速において第1EVモードの最大トルクより高くなった場合に、第2EVモードを実行し、要求駆動力が、それぞれの車速において第2EVモードの最大トルクより高くなった場合に、パラレルモードを実行する。
【0034】
一方、第1EVモードを実行している状態から、車両の要求駆動力が変わらずに車速が高くなる場合には、第1EVモードから第2EVモードを経ることなく、車速が第1速度V1以上となると、パレレルモードに移行可能である。尚、第1EVモードを実行している状態から、車両の要求駆動力が高くなると共に車速が高くなる場合等には、第1EVモードから第2EVモードを経て、パレレルモードに移行しても良い。本実施形態では、パラレルモードに移行する直前まで第1回転電機MG1の駆動力を用いず、第2回転電機MG2のみの駆動力を用いる第1EVモードを実行することができるため、車両用駆動装置100の全体としてエネルギー効率を高め易い。
【0035】
尚、上述したように、車両用駆動装置100は、さらにシリーズモードを実行可能である。従って、回転電機に電力を供給する直流電源の蓄電状態(SOC)が低下した場合であっても、第1EVモードと同等の駆動力を確保しつつ、適切に車両を走行させることができる。
【0036】
上述したように、2つの回転電機を車輪Wの駆動力源と用いる場合には、2つの回転電機の駆動力のバランスがよいと制御装置CTLによる制御負荷が軽減される。また、シリーズモードが実行される際に、第1回転電機MG1により生成されたエネルギーによって第2回転電機MG2を十分に駆動することができる。従って、第1回転電機MG1と第2回転電機MG2とは、電気的な仕様が同等であると好適である。換言すれば、第1回転電機MG1と第2回転電機MG2とは、最大トルクと最高回転速度とが同じ回転電機であると好適である。当然ながら、第1回転電機MG1と第2回転電機MG2とは、最大トルクと最高回転速度とが異なる回転電機であっても良い。
【0037】
以上、車輪Wの駆動力源となる2つの回転電機を備えた車両用駆動装置100において、回転電機をより高い効率で駆動させる技術について説明した。以下、車両用駆動装置100のより具体的な構成を例示して説明する。
図5は、
図1に例示した車両用駆動装置100の構成例を示すスケルトンである。尚、以下の説明における各部材についての方向は、それらが車両用駆動装置100に組み付けられた状態での方向を表す。また、各部材についての寸法、配置方向、配置位置等に関する用語は、誤差(製造上許容され得る程度の誤差)による差異を有する状態を含む概念である。
【0038】
図5に示すように、車両用駆動装置100は、内燃機関EGに駆動連結される入力部材INと、車輪Wに駆動連結される出力部材OUTと、第1ロータ10を備えた第1回転電機MG1と、第2ロータ20を備えた第2回転電機MG2と、複数のギヤ機構とを備えている。
図5に示すように、一対の車輪Wに対応して、一対の出力部材OUTが備えられている。これらはケース(不図示)に収容されている。尚、入力部材INの一部、及び一対の出力部材OUTに連結される出力軸OXの一部は、ケースの外部に露出している。
【0039】
車両用駆動装置100は、入力部材INと出力部材OUTとの間に3つの駆動力の伝達系を備えている。第1伝達系1は、第1ロータ10と出力部材OUTとを駆動連結する伝達系である。第2伝達系2は、第2ロータ20と出力部材OUTとを駆動連結する伝達系である。第3伝達系3は、入力部材INと第1ロータ10とを駆動連結する伝達系である。第1伝達系1、第2伝達系2、第3伝達系3は、それぞれの動力伝達経路の一部又は全部が、他の伝達系の動力伝達経路と重複していてもよい。尚、第1伝達系1には、第1伝達系1における動力伝達を断接する第1係合装置CL1が備えられており、第3伝達系3には、第3伝達系3における動力伝達を断接する第2係合装置CL2が備えられている。
【0040】
また、車両用駆動装置100は、第1係合装置CL1を駆動する第1駆動装置4Aと、第2係合装置CL2を駆動する第2駆動装置4Bとを備えている。そして、第1駆動装置4Aは、回転自在に支持された第1シフトドラム41と、第1シフトドラム41の回転運動を直線運動に変換して第1係合装置CL1に伝達する第1カム機構47とを備えている。同様に、第2駆動装置4Bは、回転自在に支持された第2シフトドラム42と、第2シフトドラム42の回転運動を直線運動に変換して第2係合装置CL2に伝達する第2カム機構48とを備えている。尚、第1シフトドラム41と第2シフトドラム42とは、同軸に配置されていると共に、ドラム駆動軸49を介して一体的に回転するように連結されている。また、車両用駆動装置100は、ドラム駆動軸49を駆動するドラム駆動源6を備えている。
【0041】
本実施形態では、第1駆動装置4Aと第2駆動装置4Bとが共通の1つのクラッチ駆動装置4として構成されている形態を例示している。また、本実施形態では、第1シフトドラム41と第2シフトドラム42とは、それぞれを構成する部材を一部共用するように構成されている。そして、第1シフトドラム41と第2シフトドラム42とは、共通する1本のドラム駆動軸49を介して一体的に回転する。第1シフトドラム41と第2シフトドラム42とを総称する場合、単にシフトドラム40と称する。
【0042】
図5に示すように、第1回転電機MG1と第1係合装置CL1とは、第1軸A1上に配置されている。第2回転電機MG2は、第1軸A1と平行な別軸である第2軸A2上に配置されている。出力部材OUTは後述する出力用差動歯車機構DFと共に、第1軸A1及び第2軸A2と平行な別軸である第3軸A3上に配置されている。入力部材INと第2係合装置CL2とは第1軸A1、第2軸A2及び第3軸A3と平行な別軸である第4軸A4上に配置されている。ここで、本明細書では、第1軸A1(第2軸A2、第3軸A3、第4軸A4、及び後述する第5軸A5)に沿う方向(平行な方向)を、車両用駆動装置100の「軸方向L」とし、その一方側を「軸方向第1側L1」、他方側を「軸方向第2側L2」とする。ここでは、入力部材INが内燃機関EGに接続される側を「軸方向第2側L2」とする。また、第1軸A1~第5軸A5のそれぞれに直交する方向を、各軸を基準とした「径方向」と称する。尚、どの軸を基準とするかを区別する必要がない場合やどの軸を基準とするかが明らかである場合には、単に「径方向」と称する場合がある。上記の「軸方向L」及び「径方向」の定義は、第1軸A1~第5軸A5に平行な別軸がさらに存在する場合も同様である。
【0043】
詳細は後述するが、車両用駆動装置100は、複数のギヤ機構(複数のギヤ)として、少なくともカウンタギヤ機構CGと、出力用差動歯車機構DFとを備えている。
図5に示す車両用駆動装置100では、カウンタギヤ機構CGは、第1軸A1、第2軸A2、第3軸A3、第4軸A4に平行な別軸である第5軸A5に配置され、出力用差動歯車機構DFは第3軸A3に配置されている。車両用駆動装置100は、これらの他に、入力ギヤ31、第1ロータギヤ15、第2ロータギヤ25、第1回転電機出力ギヤ19、第2回転電機出力ギヤ29、カウンタ駆動ギヤ35を備えている。各機構、ギヤの詳細については後述する。尚、車両用駆動装置100は、カウンタギヤ機構CG及び出力用差動歯車機構DFを備えることなく、複数のギヤ等の組み合わせによって、入力部材INと第1ロータ10とが駆動連結され、第1ロータ10と出力部材OUTとが起動連結され、第2ロータ20と出力部材OUTとが駆動連結される構成であってもよい。
【0044】
第1回転電機MG1及び第2回転電機MG2は、インナーロータ型の回転電機である。第1回転電機MG1は、第1ステータ12と、第1ロータ10とを備えている。第1ステータ12は、非回転部材(ここではケース)に固定され、第1ロータ10は、第1ステータ12の径方向内側に回転可能に配置されている。第1ロータ10の径方向内側には第1ロータ10と一体的に回転する第1ロータ軸11が配置されている。同様に、第2回転電機MG2は、第2ステータ22と、第2ロータ20とを備えている。第2ステータ22は、非回転部材(ここではケース)に固定され、第2ロータ20は、第2ステータ22の径方向内側に回転可能に配置されている。第2ロータ20の径方向内側には第2ロータ20と一体的に回転する第2ロータ軸21が配置されている。
【0045】
上述したように、第3伝達系では、入力部材INと第1ロータ10とが駆動連結される。換言すれば、第1ロータ10と一体的に回転する第1ロータ軸11が入力部材INと駆動連結される。入力部材INは、第4軸A4上において軸方向Lに沿って延在するように形成されている。入力部材INは、伝達されるトルクの変動を減衰するダンパ装置DPを介して内燃機関EGの出力軸EOUT(クランクシャフト等)に駆動連結されている。
【0046】
第4軸A4に配置された入力部材INと、第1軸A1に配置された第1ロータ10とを駆動連結するため、第4軸A4には、入力ギヤ31が配置されている。また、第1軸A1には、第1ロータ10と一体的に回転する第1ロータギヤ15が連結されている。第4軸A4に配置される入力ギヤ31は、第2係合装置CL2を介して入力部材INと選択的に連結される。入力ギヤ31と第1ロータギヤ15とは噛み合っており、入力部材INと入力ギヤ31とが第2係合装置CL2を介して連結されると、入力部材INからの動力が第1ロータ10に伝達される。従って、入力ギヤ31、第2係合装置CL2、第1ロータギヤ15、及び第1ロータ軸11は、入力部材INと第1ロータ10とを駆動連結する第3伝達系3に含まれる。
【0047】
尚、第2係合装置CL2が解放状態の場合には、入力ギヤ31が入力部材INに連結されず、入力ギヤ31には内燃機関EGからの動力が伝達されない。このため、内燃機関EGと第1ロータ10との間の駆動力の伝達は行われない。
【0048】
出力部材OUTには、出力用差動歯車機構DFを介して動力が伝達される。出力用差動歯車機構DFは、差動入力ギヤ71の回転を一対の出力部材OUTに分配する。出力用差動歯車機構DFは、差動入力ギヤ71に加えて、差動ケースに支持された一対の差動ピニオンギヤと、一対のサイドギヤ73とを備えている。ここでは、一対の差動ピニオンギヤ、及び一対のサイドギヤ73は、いずれも傘歯車である。差動ケースは、差動入力ギヤ71と一体的に回転する中空の部材であり、その内部に、一対の差動ピニオンギヤと、一対のサイドギヤ73とが収容されている。本実施形態では、一対のサイドギヤ73のそれぞれが、出力用差動歯車機構DFの一部であると共に、出力部材OUTにも相当する。
【0049】
一対の差動ピニオンギヤ72は、第3軸A3を基準とした径方向に沿って互いに間隔を空けて対向するように配置されている。一対の差動ピニオンギヤのそれぞれは、差動ケースと一体的に回転するように支持されたピニオンシャフトに取り付けられ、ピニオンシャフトを中心として回転(自転)可能、かつ、第3軸A3を中心として回転(公転)可能である。一対のサイドギヤ73は、出力用差動歯車機構DFにおける駆動力の分配後の回転要素である。一対のサイドギヤ73は、互いに軸方向Lに間隔を空けて、一対のピニオンシャフトを挟んで対向するように配置されている。それぞれのサイドギヤ73は、双方の差動ピニオンギヤと噛み合っている。そして、一対のサイドギヤ73のそれぞれは、一対の出力軸OXと一体的に回転するように連結されている。そして、一対の出力軸OXのそれぞれは、車輪Wに駆動連結されている。尚、一対の出力軸OXのそれぞれを出力部材OUTと考えても良い。
【0050】
上述したように、第2回転電機MG2は、第2軸A2に配置されている。第3軸A3に配置された出力部材OUTと、第2軸A2に配置された第2ロータ20とを駆動連結するため、第2軸A2には、第2回転電機出力ギヤ29が配置されている。第2回転電機出力ギヤ29は、第2ロータ20と一体的に回転する第2ロータ軸21に連結されている。第2回転電機出力ギヤ29は、第5軸A5に配置されたカウンタギヤ機構CGを介して、出力用差動歯車機構DFと駆動連結されている。従って、第2ロータ軸21、第2回転電機出力ギヤ29、カウンタギヤ機構CG、出力用差動歯車機構DFは、第2ロータ20と出力部材OUTとを駆動連結する第2伝達系2に含まれる。
【0051】
カウンタギヤ機構CGは、第1カウンタギヤ61及び第1カウンタギヤ61と一体的に回転する第2カウンタギヤ62を備えて構成されている。第2カウンタギヤ62は第1カウンタギヤ61よりも小径のギヤである。カウンタギヤ機構CGにおいて第2回転電機MG2の側から伝達された回転が減速されて出力用差動歯車機構DFへ伝達される。第1カウンタギヤ61は、第4軸A4に配置されたカウンタ駆動ギヤ35を介して、第1軸A1に配置された第1回転電機出力ギヤ19に駆動連結されている。また、第1回転電機出力ギヤ19は、第1係合装置CL1を介して第1ロータ軸11に駆動連結されている。詳細は後述するが、カウンタギヤ機構CGは、出力部材OUTと第2ロータ20とを駆動連結している。従って、第1ロータ軸11が連結された第1ロータ10と、出力部材OUTとは、第1係合装置CL1を介して駆動連結されている。
【0052】
第1係合装置CL1は、係合状態において、第1ロータ軸11とカウンタギヤ機構CGとを連結する。第1ロータ軸11とカウンタギヤ機構CGとが連結されることにより、内燃機関EG及び第1回転電機MG1の側からの動力と、第2回転電機MG2の側からの動力とを合わせて出力用差動歯車機構DFに伝達することができる。第1ロータ10からの動力は、第1回転電機出力ギヤ19、カウンタ駆動ギヤ35、カウンタギヤ機構CG、出力用差動歯車機構DFを介して出力部材OUTに伝達される。従って、第1ロータ10と出力部材OUTとを駆動連結する第1伝達系1には、第1ロータ軸11、第1係合装置CL1、第1回転電機出力ギヤ19、カウンタ駆動ギヤ35、カウンタギヤ機構CG、出力用差動歯車機構DFが含まれる。
【0053】
車両用駆動装置100は、内燃機関EG、第1回転電機MG1、第2回転電機MG2、第2係合装置CL2、第1係合装置CL1の作動状態によって、例えば、下記の表1に例示するような複数の動作モードにより駆動されることができる。尚、表1の第2係合装置CL2及び第1係合装置CL1の欄における「〇」は対象の係合装置が係合状態であることを示し、内燃機関EG、第1回転電機MG1、第2回転電機MG2の欄における「○」は対象の動力源が動力を出力している状態であることを示す。また、第1回転電機MG1の欄における「●」は伝達される動力によって発電している状態であることを示す。第2係合装置CL2及び第1係合装置CL1の欄における「×」は対象の係合装置が解放状態であることを示す。そして、内燃機関EG、第1回転電機MG1、第2回転電機MG2の欄における「×」は対象の動力源が動力を出力しておらず、回転電機が発電もしていない状態を示す。
【0054】
【0055】
例えば、直流電源BATに十分な電力が蓄えられており、高い駆動力が要求されない場合、上述した常用トルク域Gのような場合には、第2回転電機MG2のみが動力源として駆動される第1EVモードが選択される。この時、内燃機関EG及び第1回転電機MG1は停止状態であり、第2係合装置CL2及び第1係合装置CL1は解放状態に制御される。第2回転電機MG2の動力が第2伝達系2を介して出力用差動歯車機構DFに伝達されて車輪Wが駆動される。尚、第2係合装置CL2は、係合状態であってもよい。
【0056】
直流電源BATに十分な電力が蓄えられており、第1EVモードよりも高いトルクが要求される場合には、第1回転電機MG1及び第2回転電機MG2が動力源として駆動される第2EVモードを選択することができる。この時、内燃機関EGは停止状態であり、第1回転電機MG1は第2回転電機MG2と共に駆動される。第2係合装置CL2は解放状態に制御され、第1係合装置CL1が係合されることで第1回転電機MG1の動力が第1伝達系1を介して出力用差動歯車機構DFに伝達されると共に、第2回転電機MG2の動力が第2伝達系2を介して出力用差動歯車機構DFに伝達されて車輪Wが駆動される。
【0057】
直流電源BATに蓄えられた電力量が十分でない場合等には、内燃機関EGの動力によって第1回転電機MG1に発電させると共に、発電された電力を用いて第2回転電機MG2を駆動するシリーズモードが選択される。内燃機関EGは駆動され、第2係合装置CL2が係合されることで、第3伝達系3を介して内燃機関EGの動力が第1回転電機MG1に伝達され、第1回転電機MG1に発電させる。第1係合装置CL1は解放状態に制御され、第1伝達系1が遮断されることで、内燃機関EG及び第1回転電機MG1の動力は出力用差動歯車機構DFには伝達されない。一方、第2回転電機MG2の動力は、第2伝達系2を介して出力用差動歯車機構DF及び車輪Wに伝達される。
【0058】
シリーズモード(又は第1EVモード)よりも高いトルクが要求される場合、第2回転電機MG2の動力に加えて内燃機関EGの動力も出力用差動歯車機構DFに伝達して車輪Wを駆動するいわゆるパラレルモードが選択可能である。内燃機関EGは駆動され、第2係合装置CL2が係合されることで、第3伝達系3を介して内燃機関EGの動力が第1回転電機MG1に伝達され、第1回転電機MG1に発電させる。さらに、第1係合装置CL1が係合されることで、第1伝達系1を介して内燃機関EGからの動力を出力用差動歯車機構DFに伝達することができる。内燃機関EGからの動力が第1伝達系1を介して出力用差動歯車機構DFに伝達されると共に、第2回転電機MG2の動力が第2伝達系2を介して出力用差動歯車機構DFに伝達されて車輪Wが駆動される。
【0059】
パラレルモードにおける上記の状態では、第2回転電機MG2が力行し(表中の「○」)、第1回転電機MG1が発電している(表中の「●」)。しかし、第1回転電機MG1は、力行も発電(回生)もしていなくてもよい(表中の「×」)。また、このモードでは、直流電源BATに蓄えられた電力量及び必要駆動力に応じて、第1回転電機MG1が駆動力を出力(力行)するように制御されても良い(表中の「○」)。この時、第2回転電機MG2は力行していても良いし(表中の「○」)、停止していても良い(表中の「×」)。第2回転電機MG2が力行している場合、内燃機関EG、第1回転電機MG1、第2回転電機MG2の動力が、出力用差動歯車機構DFに伝達されて車輪Wが駆動される。第2回転電機MG2が停止している場合、内燃機関EG、第1回転電機MG1の動力が、出力用差動歯車機構DFに伝達されて車輪Wが駆動される。
【0060】
また、第2回転電機MG2を停止させ、第1係合装置CL1を解放状態として、出力用差動歯車機構DFへ動力を伝達させない状態で、第2係合装置CL2を係合し、内燃機関EGを駆動してその動力により第1回転電機MG1に発電させることで、車両を停止させた状態で直流電源BATを充電する充電モードが実現できる。
【0061】
本実施形態では、第1係合装置CL1及び第2係合装置CL2は、噛み合い式係合装置(ドグクラッチ)である。第1係合装置CL1は、第1駆動装置4Aによって係合状態と解放状態とを切り替え可能に構成され、第2係合装置CL2は、第2駆動装置4Bによって係合状態と解放状態とを切り替え可能に構成されている。具体的には、第1係合装置CL1は、第1駆動装置4Aによって軸方向Lに沿って移動するように構成された第1噛合い部材DS1(ドグスリーブ)と、第1噛合い部材DS1が係合される一対の第1被噛合い部材DT1とを有している。また、第2係合装置CL2は、第2駆動装置4Bによって軸方向Lに沿って移動するように構成された第2噛合い部材DS2(ドグスリーブ)と、第2噛合い部材DS2が係合される一対の第2被噛合い部材DT2とを有している。
【0062】
第1係合装置CL1は、第1噛合い部材DS1の軸方向Lの位置に応じて係合状態と解放状態とが切り替わり、第2係合装置CL2は、第2噛合い部材DS2の軸方向Lの位置に応じて係合状態と解放状態とが切り替わる。ここでは、一対の第1被噛合い部材DT1のうち、一方は第1ロータ軸11と一体的に回転するように連結され、他方は第1回転電機出力ギヤ19と一体的に回転するように連結されている。また、一対の第2被噛合い部材DT2のうち、一方は入力部材INと一体的に回転するように連結され、他方は入力ギヤ31と一体的に回転するように連結されている。
【0063】
第1係合装置CL1は、第1噛合い部材DS1が一対の第1被噛合い部材DT1の双方に係合することで係合状態となり、第1噛合い部材DS1が一対の第1被噛合い部材DT1の少なくとも一方から離間することで解放状態となる。第2係合装置CL2は、第2噛合い部材DS2が一対の第2被噛合い部材DT2の双方に係合することで係合状態となり、第2噛合い部材DS2が一対の第2噛合い部材DS2の少なくとも一方から離間することで解放状態となる。
【0064】
第1シフトドラム41、第2シフトドラム42、ドラム駆動軸49は、第4軸A4~第5軸A5と平行な別軸であるドラム回転軸A0に配置され、このドラム回転軸A0を回転軸心として回転する。第2シフトドラム42及び第1シフトドラム41は、ドラム回転軸A0を中心とする円筒状に形成されている。ドラム駆動軸49は、第2シフトドラム42及び第1シフトドラム41を一体的に回転するように連結する軸部材であり、ドラム回転軸A0に沿って延在するように形成されている。ドラム駆動源6としては、種々のモータを採用可能であり、例えば、複数相の交流電力で駆動される交流回転電機を採用することができる。より具体的には、ドラム駆動源6としては、サーボモータやステッピングモータが好適に用いられる。
【0065】
図5に示すように、ドラム駆動軸49とドラム駆動源6とは、減速機5を介して連結されている。減速機5は、第1減速ギヤ51と第1減速ギヤ51よりも大径の第2減速ギヤ52とを備えている。第1減速ギヤ51は、ドラム回転軸A0と平行し別軸に配置されると共に、ドラム駆動源6の回転軸に連結されている。第2減速ギヤ52は、第1減速ギヤ51と噛み合うと共にドラム回転軸A0に配置され、ドラム駆動軸49に連結されている。ドラム駆動源6は、2つのドラムを駆動するために、大きい駆動力が必要であるが、このような減速機5を備えることにより、ドラム駆動源6の小型化を図り易い。
【0066】
図5に示すように第1カム機構47は、第1カム案内路43と、第1カムフォロア45とを備えており、第2カム機構48は、第2カム案内路44と、第2カムフォロア46とを備えている。第1カム案内路43は、第1シフトドラム41の回転方向に沿って設けられており、第2カム案内路44は、第2シフトドラム42の回転方向に沿って設けられている。本実施形態では、第1カム案内路43は、第1シフトドラム41の外周面において周方向に沿って連続的に形成された溝部により構成されており、第2カム案内路44は、第2シフトドラム42の外周面において周方向に沿って連続的に形成された溝状に構成されている。第1カム案内路43は、第1シフトドラム41の回転に応じて位相が変化するように形成されており、第2カム案内路44は、第2シフトドラム42の回転に応じて位相が変化するように形成されている。
【0067】
ここで、第1カム案内路43及び第2カム案内路44の「位相」とは、シフトドラム40の回転軸心に沿う方向(ここでは、軸方向L)における第1カム案内路43及び第2カム案内路44のそれぞれの位置である。第1カムフォロア45は、第1カム案内路43の位相の変化に応じて直線運動を行い、第2カムフォロア46は、第2カム案内路44の位相の変化に応じて直線運動を行う。第1カムフォロア45及び第2カムフォロア46は、特定の径方向に沿って延在するように形成されており、その一部がそれぞれ第1カム案内路43及び第2カム案内路44における溝部内に位置するように配置されている。尚、これらのカム案内路の形状は溝状には限定されず、例えば、シフトドラム40の外周面において周方向に沿って連続的に形成された凸状に形成されていてもよいし、案内路がシフトドラム40の軸方向Lの端面あるいは内周面に形成されていても良い。
【0068】
第1カムフォロア45及び第2カムフォロア46が、それぞれのカム案内路の位相に応じて軸方向Lに沿って直線運動を行うことで、それぞれ第1係合装置CL1及び第2係合装置CL2を駆動することができる。第1カムフォロア45及び第2カムフォロア46は、不図示のシフトフォークに連結され、シフトフォークを介してそれぞれ第1噛合い部材DS1及び第2噛合い部材DS2(ドグスリーブ)に連結されている。第1カムフォロア45及び第2カムフォロア46が軸方向Lに沿って直線運動することによって、それぞれ第1係合装置CL1及び第2係合装置CL2の係合状態が切り替えられる。
【0069】
上述したように、第1カム機構47と第2カム機構48とは、ドラム駆動軸49の回転に応じて第2係合装置CL2及び第1係合装置CL1の係合状態を切り替える。具体的には、
図6に示すように、第1カム機構47と第2カム機構48とは、ドラム駆動軸49回りの回転方向Dの一方側である回転方向第1側D1に向けて回転することに応じて、第1モード(MODE1)、第2モード(MODE2)、第3モード(MODE3)、第4モード(MODE4)の4つの動作モードに状態遷移する。
図6の状態遷移図は、円筒状に形成された第1シフトドラム41及び第2シフトドラム42の周方向(回転方向)に沿って形成された第1カム案内路43及び第2カム案内路44の展開図を用いて、第1係合装置CL1及び第2係合装置CL2の係合状態と車両用駆動装置100の動作モードとの関係を示している。
【0070】
第1モードは、第2係合装置CL2を解放状態とし、且つ、第1係合装置CL1を係合状態とする動作モードである。この動作モードでは、表1を参照して上述したように、内燃機関EGと出力部材OUTとの間の駆動力の伝達を遮断し、第1回転電機MG1及び第2回転電機MG2の双方の駆動力を出力部材に伝達する、いわゆる2モータEVモード(第2EVモード)が実現可能である。
【0071】
第2モードは、第2係合装置CL2を解放状態とし、且つ、第1係合装置CL1を解放状態とする動作モードである。この動作モードでは、表1を参照して上述したように、内燃機関EG及び第1回転電機MG1と、出力部材OUTとの間の駆動力の伝達を遮断し、第2回転電機MG2の駆動力を出力部材OUTに伝達する、いわゆる1モータEVモード(第1EVモード)が実現可能である。
【0072】
第3モードは、第2係合装置CL2を係合状態とし、且つ、第1係合装置CL1を解放状態とする動作モードである。この動作モードでは、表1を参照して上述したように、内燃機関EG及び第1回転電機MG1と出力部材OUTとの間の駆動力の伝達を遮断した状態で内燃機関EGの駆動力を第1回転電機MG1に伝達して第1回転電機MG1に発電を行わせると共に、第2回転電機MG2の駆動力を出力部材OUTに伝達する、いわゆるシリーズモードが実現可能である。
【0073】
第4モードは、第2係合装置CL2を係合状態とし、且つ、第1係合装置CL1を係合状態とする動作モードである。この動作モードでは、表1を参照して上述したように、内燃機関、第1回転電機、及び第2回転電機の駆動力を出力部材に伝達する、いわゆるパラレルモードが実現可能である。
【0074】
第1カム機構47と第2カム機構48とは、回転方向第1側D1に向けて回転することに応じて、第1モード、第2モード、第3モード、第4モードの順に状態遷移する。また、第1カム機構47と第2カム機構48とは、回転方向第2側D2に向けて回転することに応じて、第4モード、第3モード、第2モード、第1モードの順に状態遷移する。
【0075】
例えば、車両の発進時に第2モードが選択され、1モータEVモード(第1EVモード)によって車両が走行する場合、
図4を参照して上述したような常用トルク域Gでは、モードを遷移することなく、第1EVモードによる走行を継続することができる。
【0076】
ここで、SOCが低下した場合には、第3モードに状態遷移することによって、第1回転電機MG1及び内燃機関EG(入力部材IN)と、出力部材OUTとの間の動力伝達を遮断した状態で、第1回転電機MG1の駆動力によって内燃機関EGを始動させることができる。つまり、セルモータ等、内燃機関EGの始動用アクチュエータを備えることなく内燃機関EGを始動させることができる。そして、内燃機関EGが始動した後は、内燃機関EGの駆動力によって第1回転電機MG1に発電させ、その電力で第2回転電機MG2を駆動するシリーズモードを実現することができる。
【0077】
第1EVモードによる走行から、パラレルモードに状態遷移する場合(
図2における第3動作点Q3から第4動作点Q4への遷移)には、第2モードから第3モードに移行することによって上述したように内燃機関EGが始動され、シリーズモードが実現される。そして、さらに第3モードから第4モードに移行することによって、パラレルモードが実現可能である。この時、第3モードでは内燃機関EGの始動のみが行われ、実質的にシリーズモードが実行されることなく、第4モードに移行してパラレルモードが実現されてもよい。
【0078】
また、第1EVモードによる走行から、第2EVモードによる走行に状態遷移する場合(
図2における第1動作点Q1から第2動作点Q2への遷移)には、第2モードから第1モードに移行する。第1モードでは、表1を参照して上述したように、内燃機関EGと出力部材OUTとの間の駆動力の伝達を遮断し、第1回転電機MG1及び第2回転電機MG2の双方の駆動力を出力部材に伝達する、いわゆる2モータEVモード(第2EVモード)が実現される。
【0079】
第2EVモードによる走行から何れかのハイブリッドモードに状態遷移する場合には、ず第1回転電機MG1と第2回転電機MG2との間の駆動力の伝達を遮断し、内燃機関EGと第1回転電機MG1間で駆動力を伝達する状態として、内燃機関EGを始動させる。つまり、第1モードから第2モードを経て、第3モードに遷移する。そして、内燃機関EGの始動後、第3モードを維持するとシリーズモードが実現でき、第4モードに遷移するとパラレルモードが実現できる。
【0080】
上述したように、本実施形態の車両用駆動装置100では、車両に要求される全速度域において、第1EVモードによる走行が可能である。従って、車両用駆動装置100の全体としてエネルギー効率を高め易い。さらに、共通のシフトドラム40を介して2つの係合装置を連携させて状態遷移させる第2車両用駆動装置100Bのようなハイブリッド駆動装置においては、全速度域で実行される第1EVモードから、その他の動作モード(第2EVモード、シリーズモード、パラレルモード)へ円滑に状態遷移することができる。
【0081】
このように、車両用駆動装置100は、車輪Wの駆動方式として、1モータEVモード(第1EVモード)、2モータEVモード(第2EVモード)、パラレルモードを実行可能である。1モータEVモードは、車両の燃費測定等にも利用される走行モードであり「モード走行モード」と称される場合がある。また、2モータEVモードは「一般走行モード」と称される場合がある。そして、パラレルモードは「最高出力モード」と称される場合がある。上述したように、1モータEVモード、2モータEVモード、パラレルモードにおける最高車速は第2速度V2で同じである。つまり、車両用駆動装置100は、第2回転電機MG2のみを駆動力源とする場合も、第1回転電機MG1と第2回転電機MG2とを駆動力源とする場合も、第1回転電機MG1と第2回転電機MG2と内燃機関EGとを駆動力源とする場合も、最高車速に対応できるように構成されている。
【0082】
モード走行モードとしての1モータEVモード(第1EVモード)において最高車速に対応するためには、第2回転電機MG2の最高回転速度が、車輪Wの回転速度(=出力部材OUTの回転速度)以上となるように、第2ロータ軸21から出力部材OUTまでのギヤ比が設定されている必要がある。本実施形態では、第2ロータ軸21に一体的に連結された第2回転電機出力ギヤ29からカウンタギヤ機構CGを介して差動入力ギヤ71に入力されるまでのギヤ比(第2伝達系2の複数のギヤによるギヤ比)がそのように設定される。例えば、車輪Wの最高回転速度が10000[rpm]であり、第2回転電機MG2の最高回転速度が5000[rpm]の場合には、当該ギヤ比は「2」に設定される。
【0083】
一般走行モードとしての2モータEVモード(第2EVモード)では、第1回転電機MG1と第2回転電機MG2とが共に車輪Wの最高回転速度に対応している必要がある。即ち、第2ロータ軸21に一体的に連結された第2回転電機出力ギヤ29からカウンタギヤ機構CGを介して差動入力ギヤ71に入力されるまでのギヤ比(第2伝達系2の複数のギヤのギヤ比)、及び、第1ロータ軸11に第1係合装置CL1を介して駆動連結された第1回転電機出力ギヤ19からカウンタ駆動ギヤ35、カウンタギヤ機構CGを介して差動入力ギヤ71に入力されるまでのギヤ比(第1伝達系1の複数のギヤのギヤ比)は、第1回転電機MG1、第2回転電機MG2の最高回転速度が共に車輪Wの最高回転速度以上となるように設定される。第1伝達系1における一部のギヤ機構は、第2伝達系2と共用であるから、第2伝達系2のギヤ比を設定することによって、第1伝達系1のギヤ比も設定することができる。
【0084】
最大出力モードとしてのパラレルモードでは、第1回転電機MG1と第2回転電機MG2と入力部材IN(内燃機関EG)とが共に車輪Wの最高回転速度に対応している必要がある。即ち、第2伝達系2のギヤ比、第1伝達系1のギヤ比、及び、入力部材INから第2係合装置CL2、入力ギヤ31、第1ロータギヤ15、第1係合装置CL1、第1回転電機出力ギヤ19、カウンタ駆動ギヤ35、カウンタギヤ機構CGを介して差動入力ギヤ71に入力されるまでのギヤ比(第3伝達系3及び第1伝達系1のギヤ比)は、第1回転電機MG1、第2回転電機MG2及び入力部材IN(内燃機関EG)の最高回転速度が共に車輪Wの最高回転速度以上となるように設定される。入力部材INから差動入力ギヤ71までの伝達系におけるギヤ機構の一部は、第1伝達系1及び第2伝達系2と共用であるから、第1伝達系1及び第2伝達系2のギヤ比を設定することによって、第3伝達系3の複数のギヤのギヤ比を設定することができる。そして、第1伝達系1,第2伝達系2、及び第3伝達系3のトータルのギヤ比を設定することができる。
【0085】
即ち、車両用駆動装置100は、カウンタギヤ機構CGを含む複数のギヤを含むと共に第1ロータ10と出力部材OUTとを駆動連結する第1伝達系1と、カウンタギヤ機構CGを含む複数のギヤを含むと共に第2ロータ20と出力部材OUTとを駆動連結する第2伝達系2と、複数のギヤを含むと共に入力部材INと第1ロータ10とを駆動連結する第3伝達系3とを備えている。そして、第1伝達系1におけるギヤ比は、第1回転電機MG1の最高回転速度により、出力部材OUTの最高速度が出力可能なギヤ比に設定されている。また、第2伝達系2におけるギヤ比は、第2回転電機MG2の最高回転速度により、出力部材OUTの最高速度が出力可能なギヤ比に設定されている。そして、第3伝達系3及び第1伝達系1を合わせたギヤ比は、内燃機関EGの最高回転速度により、出力部材OUTの最高速度が出力可能なギヤ比に設定されている。
【0086】
尚、本明細書では、
図5及び
図6を参照して、車両用駆動装置100の具体的な構造を例示して説明したが、当然ながら車両用駆動装置100の構成はこの例に限定されるものではない。
図1を参照して上述したような伝達系を備えていれば車両用駆動装置100の構成は他の形態であってもよい。
【符号の説明】
【0087】
1:第1伝達系、2:第2伝達系、3:第3伝達系、10:第1ロータ、20:第2ロータ、100:車両用駆動装置、A1:第1軸、A2:第2軸、A3:第3軸、A4:第4軸、A5:第5軸、CG:カウンタギヤ機構、CL1:第1係合装置、CL2:第2係合装置、CTL:制御装置、EG:内燃機関、F1:第1領域、F2:第2領域、F3:第3領域、IN:入力部材、MG1:第1回転電機、MG2:第2回転電機、OUT:出力部材、S1:低車速域、S2:中車速域、S3:高車速域、W:車輪