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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156901
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】被処理水の生物学的浄化方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/62 20060101AFI20221006BHJP
   C02F 3/34 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C02F1/62 Z
C02F3/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060828
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】504117958
【氏名又は名称】独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 翼
(72)【発明者】
【氏名】濱井 昴弥
【テーマコード(参考)】
4D038
4D040
【Fターム(参考)】
4D038AA08
4D038AB07
4D038AB36
4D038AB63
4D038AB68
4D038AB69
4D038AB70
4D038AB71
4D038AB74
4D038AB80
4D038BB19
4D040DD03
4D040DD16
4D040DD20
4D040DD31
(57)【要約】      (修正有)
【課題】坑廃水等の被処理水から重金属イオンを除去する被処理水の生物学的浄化方法において、重金属除去だけでなく、処理水中の有機物含有量も低減する、浄化方法を提供する。
【解決手段】硫酸還元菌を担持する穀物殻を含有する生物学的浄化剤に重金属イオン及び硫酸イオンを含有する被処理水を連続的に通水することにより、被処理水から重金属イオンを除去する被処理水の生物学的浄化方法であって、事前処理水で生物学的浄化剤を浸漬させ、所定時間浸漬後に当該事前処理水を排出する事前処理工程を通水の前段階で有する、被処理水の生物学的浄化方法。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸還元菌を担持する穀物殻を含有する生物学的浄化剤に重金属イオン及び硫酸イオンを含有する被処理水を連続的に通水することにより、前記被処理水から前記重金属イオンを除去する被処理水の生物学的浄化方法であって、
事前処理水で前記生物学的浄化剤を浸漬させ、所定時間浸漬後に当該事前処理水を排出する事前処理工程を前記通水の前段階で有する、被処理水の生物学的浄化方法。
【請求項2】
前記穀物殻1kgあたりの前記事前処理水の流量を1.5mL/分~25mL/分に制御する、請求項1に記載の生物化学的浄化方法。
【請求項3】
前記事前処理水に前記生物学的浄化剤を浸漬させる時間を10時間~20時間に制御する、請求項1又は2に記載の生物化学的浄化方法。
【請求項4】
以下の条件(1)及び(2)を満たすように事前処理を行う、請求項1~3のいずれか一項に記載の生物化学的浄化方法。
(1)排出される前記事前処理水中の有機物濃度≦120mg/L
(2)通水後に排出される前記被処理水中の有機物濃度≦120mg/L
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属イオン及び硫酸イオンを含有する被処理水中の重金属イオンを除去するための生物学的浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属鉱山の坑廃水のような鉱山由来の排水や、工業用排水などの各種排水には、一般に、Fe,Zn,Cu,Pb,Cd,As等の種々の重金属イオンが含まれており、さらに硫酸イオン(SO 2-)も含まれていることがある。
【0003】
重金属イオンの中には人体や環境に有害な影響を及ぼすものが多数存在する。このため、これらの重金属イオンを含有する水を排出する際には、各国ごとに定められた排水基準を満足させるための処理が必要となる。
【0004】
このような排水を被処理水とし、被処理水中に含まれる重金属イオンを除去する手段としては、例えば、消石灰や炭酸カルシウム等のアルカリ剤を添加することによって被処理水を中和し、これにより、重金属イオンを水酸化物や炭酸化物として沈殿させる方法や、硫化水素などの硫化剤を被処理水に添加し、これにより、重金属イオンを硫化物として沈殿させる方法などが挙げられる。
【0005】
しかしながら、例えばアルカリ剤を添加する方法では、電気モーター等で撹拌しながら被処理水を中和する中和処理工程と、中和処理により生じた沈殿物を分離する固液分離処理工程とが必要になる場合があり、電力消費及び固液分離作業等に伴うコストが問題となる。
【0006】
本出願人は、自然力活用型坑廃水処理(パッシブトリートメント)技術の研究を行っており、特許文献1のとおり、重金属イオン及び硫酸イオンを含有する被処理水中の重金属イオンを長期間にわたって十分に除去可能とするとともに、処理水の有機物汚染を十分に抑制することが可能な、未使用バイオマス資源を用いた生物学的浄化剤、並びに該生物学的浄化剤を用いた生物学的浄化システム及び生物学的浄化方法を見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5773541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の生物学的浄化方法は、重金属イオン及び硫酸イオンを含有する被処理水から、重金属イオンを硫化物として除去するための生物学的浄化方法である。具体的には、硫酸還元菌を担持する穀物殻を含有する生物学的浄化剤を、予め被処理水によって水封及び静置することで、穀物殻に付着した硫酸還元菌を嫌気状態で培養し、その後、生物学的浄化剤に被処理水を嫌気状態で連続的に通水することにより、硫酸還元菌により硫酸イオンを還元して硫化水素イオンを生成し、この硫化水素イオンと重金属イオンとを反応させて、金属イオンの硫化物を析出させて、重金属イオンを被処理水から除去する被処理水の生物学的浄化方法である。
【0009】
特許文献1の実施例4では、籾殻と牛糞入りバーク堆肥を浄化剤として用いた被処理水の生物学的浄化を行い、その結果、重金属イオンの除去に成功した。しかしながら、初期処理水の有機物含有量が排水基準値の120mg/Lを超えるという問題があった。このため、本出願人が鋭意分析したところ、生物学的浄化剤中の籾殻からの有機物溶出割合が多いことを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は重金属イオンを被処理水から除去する被処理水の生物学的浄化方法において、重金属除去だけでなく、処理水中の有機物含有量も低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の[1]~[4]のとおりである。
[1]硫酸還元菌を担持する穀物殻を含有する生物学的浄化剤に重金属イオン及び硫酸イオンを含有する被処理水を連続的に通水することにより、被処理水から重金属イオンを除去する被処理水の生物学的浄化方法であって、
事前処理水で生物学的浄化剤を浸漬させ、所定時間浸漬後に当該事前処理水を排出する事前処理工程を通水の前段階で有する、被処理水の生物学的浄化方法。
[2]穀物殻1kgあたりの事前処理水の流量を1.5mL/分~25mL/分に制御する、[1]の生物化学的浄化方法。
[3]事前処理水に生物学的浄化剤を浸漬させる時間を10時間~20時間に制御する、[1]又は[2]の生物化学的浄化方法。
[4]以下の条件(1)及び(2)を満たすように事前処理を行う、[1]~[3]のいずれかの生物化学的浄化方法。
(1)排出される前記事前処理水中の有機物濃度≦120mg/L
(2)通水後に排出される前記被処理水中の有機物濃度≦120mg/L
【発明の効果】
【0012】
本発明の生物学的浄化方法によれば、連続的通水の前段階で生物学的浄化剤に対する事前処理工程を有することから、重金属イオンを有する被処理水の有機物含有量を低減させることができる。これにより、排水中の有機物低減のための追加処理も不要とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態の生物学的浄化システム100の構成を示す概略図である。
図2】第1実施形態の生物学的浄化方法の一例を示すフローチャートである。
図3】第2実施形態の生物学的浄化方法の一例を示すフローチャートである。
図4】実施例1~2の排水のTOC量を示すグラフである。
図5】比較例1~3の排水のTOC量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施する好ましい形態の一例について説明する。ただし、下記の実施形態は本発明を説明するための例示であり、本発明は下記の実施形態に何ら限定されるものではない。
【0015】
図1は、本実施形態の生物学的浄化システム100の構成を示す概略図である。 生物学的浄化システム100は、浄化器1と、導入管13と、排出管(排出チューブ)14とを備えている。
【0016】
浄化器1は、反応槽2と、収容体上部に配置された上側蓋部3と、収容体底部に配置された底部封止栓4と、を備えている。反応槽2は、液体(重金属イオンを含む排水)や浄化剤などを収容可能な容器であれば特に材質は制限されず、例えば円筒型のプラスチック製容器であってもよい。上側蓋部3は、開封可能な構造であってもよく、実フィールド適用時にはなくてもよい。底部封止栓4は、反応槽2の底部を封止するものであれば、特に材質は制限されず、例えばゴム製の封止栓であってもよい。上側蓋部3は、導入管13と連結し、導入管13を通る液体は反応槽2に導入(通水)される。底部封止栓4は、排出管14と連結し、反応槽2中の液体が排出口(図示せず)を介して反応槽2の外部へ排出される。
【0017】
反応槽2には、底部から順に、砕石層5、穀物層6が設けられる。砕石層5は、砕石から構成され、反応槽2の底部側で穀物層6等を支える。穀物層6は、重金属イオンを含む排水を浄化する浄化剤として機能し、穀物殻と石灰石を含む。穀物殻としては硫酸イオンを硫化水素イオンに還元できる菌を含むであり、硫酸還元菌を含む籾殻が好ましい。また、穀物層中の菌を活性化させるために、穀物層6の上側に栄養層7を設けることも好ましい。栄養層7としては例えば米ぬかなどを含む層である。
【0018】
本実施形態で用いられる被処理水は、重金属イオン及び硫酸イオンを含有するものであれば特に限定されず、例えば、金属鉱山の坑廃水のような鉱山由来の排水や、工業用排水などを挙げることができる。例えば、我が国(日本国)の金属鉱山の坑廃水は、一般に、Fe,Zn,Cu,Pb,Cd,As等の重金属イオンを含有し、さらに、硫酸イオン(SO 2-)も50~3000mg/L程度含有している。なお、本明細書において「被処理水」とは、生物学的浄化剤による浄化処理、すなわち重金属イオンの除去処理を施す前の水を意味し、「処理水」は、当該浄化処理後の水を意味する。被処理水のpHは、通常3.0~8.0程度である。
【0019】
以下、図1を用いて処理原水(被処理水)の流れを説明する。処理原水はまず、導入管につながる配管12を通じて方向Aを流れる。ここで、反応槽2と配管2との間に高低差がある場合には例えば電動ポンプ11を用いてもよい。なお、自然利用型パッシブトリートメントシステムにおいてはできるだけ電力を用いないことが好ましいことから、実際の適用フィールドでは電動ポンプを用いないように高さを設定することが好ましい。また、電動ポンプを使用する場合には太陽電池等を活用して電力供給することにより、自然利用型パッシブトリートメントシステムとすることも可能である。処理原水は続いて導入管13中を方向Bに沿って移動し、反応槽2に導入される(方向C)。さらに、反応槽2で所定の時間を経たのちに、排出口(図示せず)から直接排出され、又は排出口を介して排出管14を通過し、D方向に排出される。
【0020】
反応槽2内での反応について、以下に述べる。すなわち、穀物層6中に含まれる硫酸還元菌により処理原水中の硫酸イオンを還元して硫化水素イオンを生成する。この硫化水素イオンと処理原水中の重金属イオンとを反応させ、重金属イオンの硫化物を析出させる。これにより、処理原水中の重金属イオンを除去することができる。
【0021】
硫酸還元菌は、硫酸イオンの存在下で有機物成分をエネルギー源として活動する従属栄養細菌であって、以下に示す反応式(A)のように硫酸を還元する作用を有する。すなわち、硫酸還元菌は有機物成分と硫酸イオンを取り込み、硫化水素イオンを吐き出す作用をもつ。
【0022】
2CHO+SO 2-=2HCO +HS+H・・・・(A)
但し、CHOは有機物成分
【0023】
硫酸還元菌は、主に中性域(pH5~8)で活動し、嫌気性細菌であって、有機物成分をエネルギー源として活動し、硫酸を還元する菌であればよく、特に限定はされないが、例えばDesulfovibrio vulgaris等が挙げられる。
【0024】
上記反応式(A)の還元反応(反応式(A)の右方向の反応)が進むと、硫化水素イオン(HS)が生成し、この生成した硫化水素イオン(HS)が被処理水中の重金属イオンと化合して、以下に示す反応式(B)のように、重金属イオンを硫化物として沈殿させて無害化することができる。
【0025】
Me2++HS=MeS↓+H ・・・・(B)
但し、Meは重金属
【0026】
穀物殻としては、籾殻、小麦殻、ソバ殻等が挙げられる。自然界から採取した穀物殻は、通常硫酸還元菌を添加することなくもともと担持している。また、採取した穀物殻に対して、さらに硫酸還元菌を付加してもよい。
【0027】
重金属としては、Fe,Zn,Cu,Pb,Cd,As等を挙げることができるが、上記反応式(B)により硫化物として析出させることができるものであれば、特に限定されない。なお、日本における重金属イオンの排水基準は、水質汚濁防止法(平成二十九年六月二日法律第四十五号)及び排水基準を定める省令(令和元年十一月十八日環境省令第十五号)によって定められている。この基準値は例えば、Cdイオン:0.03mg/L,Pbイオン:0.1mg/L,Znイオン:2mg/L,Cuイオン:3mg/Lである。本発明者らの検討によれば、Cdイオン:0.35mg/L,Pbイオン:1.6mg/L,Znイオン:21mg/L,Cuイオン:15mg/L程度の含有量の被処理水であれば、本実施形態の生物学的浄化方法によって基準値以下の重金属イオンを含む処理水へと浄化することができる。
【0028】
(第1実施形態)
図2は、第1実施形態の生物学的浄化方法の一例を示すフローチャートである。
【0029】
第1実施形態の生物学的浄化方法においては、まず反応槽2に砕石を投入する(S1)。投入する砕石量は、その上部に形成される穀物層6を支持することができる量であれば特に制限されず、例えば直径10cm、高さ60cmの円筒型容器を反応槽2とする場合、粒径が3~20mmの砕石を投入することが好ましい。砕石の種類も特に制限されるものではなく、砕石の投入により、反応槽2の底部側に砕石層5が形成される。
【0030】
次に、砕石層5の上に、穀物殻と石灰石の混合物を投入する(S3)。穀物殻と石灰石との混合比率は1:2~1:16であることが好ましい。、例えば直径10cm、高さ60cmの円筒型容器を反応槽2とする場合、穀物殻は100g~1000g、200g~800g、又は300g~600gであってもよく、石灰石は500g~2000g、600g~1800g、又は700g~1600gであってもよい。本工程により砕石層5の上に穀物層6が形成される。
【0031】
穀物層6の形成後、穀物層6の事前処理工程として反応槽2の上部から事前処理用の液体を投入し通水させる(S5)。そして、反応槽2の高さ22cmのところで通水を停止し、事前処理水を全て反応槽2から排出させる(S7)。本第1実施形態においてはS5~S7の工程をさらに2回繰り返し、計3回事前処理工程を実施してもよい。穀物層6の事前処理工程では、生物学的浄化剤の少なくとも一部が事前処理水に浸漬するように通水され、浸漬後の当該液体が、排出口(図示せず)を介して反応槽2の下部から排出されることとなる。事前処理水に浸漬する生物学的浄化剤の少なくとも一部である所定の割合は、生物学的浄化剤の30%~75%であってもよく、35%~65%であってもよく、40%~60%であってもよい。
【0032】
事前処理用の液体(事前処理水)は、重金属イオンを含有する鉱山廃水などの処理原水であってもよく、水道水などの水であってもよいが、本発明の生物学的浄化方法の浄化の対象となる被処理水であってもよい。事前処理水の流量は、穀物殻1kgあたり1.5mL/分~25mL/分に制御することが好ましい。また、事前処理工程における、事前処理水の通水の開始から排出の開始までの生物学的浄化剤の浸漬時間は10~20時間が好ましい。これにより、排出される事前処理水中の有機物濃度(BOD)を120mg/L以下にしやすく、通水後に排出される被処理水中の有機物濃度(BOD)も120mg/L以下にしやすくなる。本実施形態において排水中の有機物濃度は、生物化学的酸素要求量(BOD)であって、TOC(Total Organic Carbon、全有機炭素)を計測することでBOD値を推定できる。TOCの測定は、例えば、市販のTOC測定装置を用い、排水をろ過した試料に装置内で少量の塩酸を加え通気処理し、無機炭素分を二酸化炭素として除去した後に、燃焼酸化―赤外線方式により測定できるが、特に制限されず公知の方法を用いることができる。
【0033】
上記事前処理工程実施後、反応槽2の底部封止栓4に、排出口(図示せず)を介して排出管14を連結させ、排出管14の出口高さを反応槽2の高さ45cmに合わせる(S9)。これにより、反応槽2における連続通水時の溶液の高さが45cmになったところで自動的に排水が行われる(S13)。なお、連続通水を行う際に、穀物層6の上に、穀物層6に含まれる硫酸還元菌の餌となる米ぬかやエタノールなどの栄養物質を投入することも好ましい(S11)。栄養物質を加えることによって、栄養層7が形成され、穀物層6中の硫酸還元菌を活性化させることができ、処理原水中の重金属イオンを除去することが可能となる。また、栄養物質を投入しても、穀物層の事前処理工程を実施しているため、排水中の有機物含有量を基準値以下にすることが可能となる。
【0034】
以上の第1実施形態の生物学的浄化方法によれば、事前処理工程時及び連続通水時の排水中の有機物含有量を排水基準値以下に低減させることができる。
【0035】
(第2実施形態)
図3は、第2実施形態の生物学的浄化方法の一例を示すフローチャートである。
【0036】
第2実施形態は、第1実施形態に対し、穀物殻と石灰石の投入を事前処理工程前と事前処理工程後の2回に分けて行う点で異なっている。すなわち、穀物殻と石灰石の第1投入段階(S23)では、第1実施形態の投入量の半分程度でもよい。
【0037】
その後の事前処理工程の条件は第1実施形態と同じでよく、計3回の事前処理工程を実施後に、連続通水を行う前に、さらに穀物殻と石灰石の第2投入を行う(S29)。S31以降の工程は、第1実施形態と同様でよい。ここで、穀物殻と石灰石の第2投入は、穀物殻と石灰石の第1投入と同量か、同量以下であってもよい。
【0038】
以上の第2実施形態の生物学的浄化方法によっても、事前処理工程時及び連続通水時の排水中の有機物含有量を基準値以下に低減させることができる。
【実施例0039】
以下、実施例に基づき、本発明の効果について、更に詳しく説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
本実験に使用する処理容器として、塩化ビニル製で直径10cm、高さ60cmの円筒型容器を用意した(株式会社宮田工業所製)。本処理容器は、容器上部側に上側蓋部、容器底部側に下部封止栓を備えており、下部封止栓は排出口を備え、排出口に排出管(排出チューブ)を取り付けて連結することにより、当該排出チューブから容器内部の溶液を排出することができる。本実験に使用する溶液(被処理水)として、重金属を含有する坑廃水である処理原水を用いた。まず、生物学的浄化剤を含む層を形成する前に、円筒型容器内の底部に、内容物の流出防止を目的に砕石300gを充填し、高さ2cmの砕石層を形成した。砕石は粒径5~13mmの市販品(株式会社日栄薬品工業製)を用いた。排水中の有機物含有量(BOD)については、TOC(Total Organic Carbon、全有機炭素)を計測することで有機物の処理状況(多量成分の同時処理状況)を確認した。
【0041】
[実施例1]
<生物学的浄化剤を含む層の形成>
砕石層の上に、籾殻350gと石灰石1400gを事前に混合した混合物(1750g)を充填し、高さ40cmの籾殻層を形成した。籾殻は農家から調達したものを用い、石灰石は粒径13~20mmの市販品(株式会社日栄薬品工業製)を用いた。
【0042】
<生物学的浄化剤の事前処理工程>
続いて、定量ポンプ(製品名:EHN-B11VC2PR(EHNシリーズ)、イワキ株式会社)を用い、円筒型容器の上部から、籾殻層に向けて、処理原水の通水流量が2.12mL/分の通水流量で処理原水を通水することにより、籾殻層の1回目の事前処理を開始した。通水開始から約12時間後、円筒型容器内の底部から高さ22cmまで溶液の水位が到達したところで(50%の籾殻層が被処理水に浸漬したことに相当する)、事前処理の通水を一旦停止して1回目の事前処理を終了し、排出口を開けて、容器内の溶液を全て排出し、その一部を採水した(事前処理1回目の排出溶液:E1-1)。排出後に排水口を再度閉じ、1回目と同様に、籾殻層の2回目の事前処理を行い、終了後に排出口を開けて、容器内の溶液を全て排出し、その一部を採水した(事前処理2回目の排出溶液:E1-2)。排出後、1回目及び2回目と同様に、籾殻層の3回目の事前処理を行い、終了後に排出口を開けて、容器内の溶液を全て排出し、その一部を採水した(事前処理3回目の排出溶液:E1-3)。
【0043】
<被処理水の連続的通水>
その後、排出口に排出管(排水チューブ)を取り付け、容器底部から高さ45cmの位置に排出チューブの先端(排出側)を固定し、事前処理と同様の通水流量で通水を再開することにより、重金属イオンを処理原水から除去するための連続的通水を実施した。本通水実施後に排出チューブから排出された溶液を、時間間隔をあけて20回に分けて採水した(連続通水開始後の排出溶液:E1-4~E1-23)。
上記の実験条件を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
<TOC濃度の測定>
TOC濃度は分析装置としてTOC計(島津製作所製、TOC-L)を用い、NPOC法により測定した。事前処理排出溶液であるE1-1~E1-3について、図4に示すように、いずれもTOCが120mg/L以下となり、一律排水基準以下となった。また、浄化排出溶液であるE1-4~1-23についても、同様にTOC濃度を測定したところ、図4に示すように、いずれもTOCが120mgを大幅に下回り、一律排水基準以下となった。
【0046】
[実施例2]
<生物学的浄化剤を含む層の形成>
砕石層の上に、実施例1で用いた量の半分である、籾殻175gと石灰石700gを事前に混合した混合物(875g)を充填して、高さ20cmの籾殻層を形成した以外は、実施例1と同様に、生物学的浄化剤を含む層を形成した。なお、後述するとおり、実施例2では、後続する事前処理工程と被処理水の連続的通水との間に、上記の混合物と同量の同じ混合物(875g)を追加投入して、高さ40cmの籾殻層を形成することを意図した。
【0047】
<生物学的浄化剤の事前処理工程>
上記以外は実施例1と同様に、生物学的浄化剤の事前処理工程を行い、1~3回目の事前処理の終了後に排出した溶液の一部をそれぞれ採水した(事前処理1~3回目の排出溶液:E2-1~E2-3)。
【0048】
<被処理水の連続的通水>
事前処理工程後に上記の混合物と同量の同じ混合物(875g)を追加投入して、高さ40cmの籾殻層を形成した以外は、実施例1と同様に、排出口に排出管(排水チューブ)を取り付け、容器底部から高さ45cmの位置に排出チューブの先端(排出側)を固定し、事前処理と同様の通水流量で通水を再開することにより、重金属イオンを処理原水から除去するための連続的通水を実施した。また、実施例1と同様に、本通水実施後に排出チューブから排出された溶液を、時間間隔をあけて20回に分けて採水した(連続通水開始後の排出溶液:E2-4~E2-23)。
上記の実験条件を表1に示す。
【0049】
<TOC濃度の測定>
事前処理排出溶液であるE2-1~E2-3について、実施例1と同様にTOC濃度を測定したところ、図4に示すように、いずれもTOCが120mg/L以下となり、一律排水基準以下となった。また、浄化排出溶液であるE2-4~2-23についても、同様にTOC濃度を測定したところ、図4に示すように、いずれもTOCが120mgを大幅に下回り、初期処理水を含めて一律排水基準以下となった。
【0050】
[比較例1]
生物学的浄化剤の事前処理工程を行わなかった以外は、実施例1と同様に、生物学的浄化剤を含む層の形成を行い、被処理水の連続的通水を行った。実験条件を表1に示す。本通水実施後に排出チューブから排出された溶液を、時間間隔をあけて20回に分けて採水した(連続通水開始後の排出溶液:C1-1~C1-20)。連続通水開始後の排出溶液であるC1-1~C1-20について、実施例1と同様にTOC濃度を測定したところ、図5に示すように、初期処理水であるC1-1~C1-5のTOCが120mg/L以上となり、これらの初期処理水について一律排水基準の上限値を超えた。
【0051】
[比較例2]
生物学的浄化剤の事前処理工程を行わず、且つ、砕石層の上に充填した混合物を、実施例1の半分である、籾殻175gと石灰石700gを事前に混合した混合物(875g)とし、これを用いて高さ20cmの籾殻層を形成した以外は、実施例1と同様に、生物学的浄化剤を含む層の形成を行い、被処理水の連続的通水を行った。実験条件を表1に示す。本通水実施後に排出チューブから排出された溶液を、時間間隔をあけて20回に分けて採水した(連続通水開始後の排出溶液:C2-1~C2-20)。連続通水開始後の排出溶液であるC2-1~C2-20について、実施例1と同様にTOC濃度を測定したところ、図5に示すように、初期処理水であるC2-1~C2-12のTOCが120mg/L以上となり、これらの初期処理水について一律排水基準の上限値を超えた。
【0052】
[比較例3]
生物学的浄化剤の事前処理工程を行わず、且つ、砕石層の上に充填した混合物を、実施例1の半分である、籾殻175gと石灰石700gを事前に混合した混合物(875g)とし、これを用いて高さ20cmの籾殻層を形成し、さらに、処理原水の通水流量を、実施例1の半分である1.06mL/分とした以外は、実施例1と同様に、生物学的浄化剤を含む層の形成を行い、被処理水の連続的通水を行った。実験条件を表1に示す。本通水実施後に排出チューブから排出された溶液を、時間間隔をあけて20回に分けて採水した(連続通水開始後の排出溶液:C3-1~C3-20)。連続通水開始後の排出溶液であるC3-1~C3-20について、実施例1と同様にTOC濃度を測定したところ、図5に示すように、初期処理水であるC3-1~C3-14のTOCが120mg/L以上となり、これらの初期処理水について一律排水基準の上限値を超えた。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、坑廃水等の被処理水から重金属イオンを除去する被処理水の生物学的浄化方法において、処理水中の有機物含有量を低減する方法を提供することができるので、産業上の利用可能性を有する。
図1
図2
図3
図4
図5