(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156910
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】軸受装置および電動垂直離着陸機
(51)【国際特許分類】
F16C 41/00 20060101AFI20221006BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20221006BHJP
F16C 19/38 20060101ALI20221006BHJP
F16C 19/52 20060101ALI20221006BHJP
F16J 15/326 20160101ALI20221006BHJP
G01K 7/36 20060101ALI20221006BHJP
B64C 27/08 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
F16C41/00
F16C33/78 C
F16C19/38
F16C19/52
F16J15/326
G01K7/36 Z
B64C27/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060848
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】福島 靖之
(72)【発明者】
【氏名】小池 孝誌
【テーマコード(参考)】
3J043
3J216
3J217
3J701
【Fターム(参考)】
3J043AA16
3J043CA02
3J043CA05
3J043CB13
3J043CB20
3J043DA08
3J043DA20
3J216AA03
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3J216CC03
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3J216CC25
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3J701FA44
3J701FA46
3J701FA48
3J701GA03
3J701GA57
(57)【要約】
【課題】トラックなどの大型車両用の軸受の焼き付き等を防止するために、コストや組立工数を増加させることなく、軸受の異常診断、特に軸受の温度上昇を速やかに正確に検出することが可能な軸受装置および電動垂直離着陸機を提供する。
【解決手段】固定部材に取付けられる固定輪、転動体、および前記固定輪に前記転動体を介して回転自在に支持される回転輪を有する軸受と、N極およびS極が交互に着磁された磁性材料の表面に非磁性膜を設け、前記回転輪側に配置された磁気エンコーダと、前記固定輪側もしくは前記固定部材に配置され、前記磁気エンコーダと対向してその磁気特性を検出する磁気センサと、前記磁気センサの出力を処理して前記軸受の回転位置または回転速度に関する回転信号を出力する回転信号処理部、および前記回転信号の入力を受けて前記軸受の温度に関する温度信号を出力する温度推定処理部と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部材に取付けられる固定輪、転動体、および前記固定輪に前記転動体を介して回転自在に支持される回転輪を有する軸受と、
N極およびS極が交互に着磁された磁性材料の表面に非磁性膜を設け、前記回転輪側に配置された磁気エンコーダと、
前記固定輪側もしくは前記固定部材に配置され、前記磁気エンコーダと対向してその磁気特性を検出する磁気センサと、
前記磁気センサの出力を処理して前記軸受の回転位置または回転速度に関する回転信号を出力する回転信号処理部、および前記回転信号の入力を受けて前記軸受の温度に関する温度信号を出力する温度推定処理部と、
を備える、軸受装置。
【請求項2】
前記磁気センサと、前記回転信号処理部と、前記温度推定処理部とが一体に備えられ、前記固定輪側もしくは前記固定部材に配置されたセンサユニットを備える、
請求項1に記載の、軸受装置。
【請求項3】
前記センサユニットは、前記温度推定処理部より算出した前記温度情報により、前記軸受の異常を診断する異常診断処理部を備える、
請求項2に記載の、軸受装置。
【請求項4】
前記異常診断処理部は、あらかじめ設定された閾値を記憶しておく閾値記憶部を備え、前記温度推定処理部で算出した前記温度情報が前記閾値記憶部で記憶した前記閾値を超えたときに異常診断情報を出力する、
請求項3に記載の、軸受装置。
【請求項5】
前記磁気エンコーダの前記磁性材料の表面に設けられた前記非磁性膜は、合成樹脂またはセラミックから成る、
請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の、軸受装置。
【請求項6】
前記温度推定処理部は、N極,S極の1極対以上の各極それぞれの磁束密度の、所定期間内における最大値、平均値、または実効値の変化から前記軸受の温度を推定する、
請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の、軸受装置。
【請求項7】
回転翼および該回転翼を回転させるモータを有する駆動部を複数と、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の前記軸受装置と、を備え、前記回転翼の回転によって飛行する電動垂直離着陸機であって、
前記軸受装置は、前記駆動部における回転軸を回転自在に支持する電動垂直離着陸機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軸受の異常を検出する軸受装置および電動垂直離着陸機に関する。
【背景技術】
【0002】
軸受は、例えば車両の車輪等を回転自在に支持するのに用いられる。トラックを含む大型車両用の車輪用軸受等では、焼き付きなどの異常が発生した場合には、安全に車両を停止させ軸受を早期に交換する要求があり、軸受の異常診断は重要である。そこで、特に軸受の温度上昇を検出する技術について、次のような従来技術が知られている。
【0003】
(1)固定側の軌道輪に取り付けられるシール部材に、温度センサを取り付け、軸受内の温度を測定する温度センサ付き軸受。(特許文献1)
【0004】
(2)リング状の磁気部材を回転輪に固定し、回転輪の熱がリング状の磁気部材に伝わることで磁気特性が変化し、その磁気特性の変化を検出する非接触センサを有する軸受装置。(特許文献2)
【0005】
(3)回転速度センサと複列円すいころ軸受の温度を検出するための温度線センサとを一体化したセンサユニットを、固定輪もしくは固定輪を保持する部材に取り付け、軸受の温度を計測するセンサ付転がり軸受装置およびセンサ付回転支持装置。(特許文献3)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-130263号公報
【特許文献2】特許4993492号公報
【特許文献3】特開2003-090335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の温度センサ付き軸受は、固定側の軌道輪のシール部材に温度センサが取り付けられているため、軸受交換時に断線の可能性がある。また、組立時の配線が煩わしく工数増大の懸念がある。特許文献2の軸受装置は、回転中では強制対流によって磁気部材表面が冷却されるため、固定輪からの熱伝導による磁気特性の変化を正確に検出することが難しく、また、鉄粉などの磁性を有するコンタミが磁気部材表面に付着した場合に、磁気特性が変化するため、温度変化に伴う磁気特性の変化を正確に検出することが難しい。特許文献3のセンサ付き転がり軸受装置のセンサユニットには、回転速度センサに加え温度センサを保持しているため、コストが増加する。
【0008】
この発明は、上記の従来技術の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、トラックを含む大型車両用の軸受の焼き付き等を防止するために、コストや組立工数を増加させることなく、軸受の異常診断、特に軸受の温度上昇を速やかに正確に検出することが可能な軸受装置および電動垂直離着陸機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る軸受装置は、
固定部材に取付けられる固定輪、転動体、および前記固定輪に前記転動体を介して回転自在に支持される回転輪を有する軸受と、
N極およびS極が交互に着磁された磁性材料の表面に非磁性膜を設け、前記回転輪側に配置された磁気エンコーダと、
前記固定輪側もしくは前記固定部材に配置され、前記磁気エンコーダと対向してその磁気特性を検出する磁気センサと、
前記磁気センサの出力を処理して前記軸受の回転位置または回転速度に関する回転信号を出力する回転信号処理部、および前記回転信号の入力を受けて前記軸受の温度に関する温度信号を出力する温度推定処理部と、
を備える。
【0010】
上記構成によると、本発明に係る軸受装置では、磁性材料の表面に設けられた非磁性膜により、回転により生じた強制対流で磁性材料の表面が冷却されるのを防ぐ。こうすることで、軸受が発熱した場合に、冷却等の影響を排除できて磁気エンコーダの磁束の変化を正確に検出することができるとともに、鉄粉などの磁性を有するコンタミが磁気エンコーダ表面に付着して磁気特性を変化させることを防止することが可能となる。よって、既存の磁気エンコーダの磁性材料の磁束の変化から、該磁性材料の温度変化を直接計測することができるので、コストや組立工数を増加させることなく、軸受の異常診断、特に軸受の温度上昇を速やかに正確に検出することが可能となる。
【0011】
上記構成において、前記磁気センサと、前記回転信号処理部と、前記温度推定処理部とが一体に備えられ、前記固定輪側もしくは前記固定部材に配置されたセンサユニットを備えてもよい。これにより、磁気センサと前記回転信号処理部、前記温度推定処理部を、空きスペース確保の難しい固定部材側において、比較的場所をとらずにコンパクトに設置できる。
【0012】
上記構成において、前記センサユニットは、前記温度推定処理部より算出した前記温度情報により、前記軸受の異常を診断する異常診断処理部を備えてもよい。これにより、温度検出のみならず、異常診断処理部についても、空きスペース確保の難しい固定部材側において、比較的場所をとらずにコンパクトに設置できる。
【0013】
上記構成において、前記異常診断処理部は、あらかじめ設定された閾値を記憶しておく閾値記憶部を備え、前記温度推定処理部で算出した前記温度情報が前記閾値記憶部で記憶した前記閾値を超えたときに異常診断情報を出力してもよい。これにより、簡易に精度の高い異常診断ができる。
【0014】
上記構成において、前記磁気エンコーダの前記磁性材料の表面に設けられた前記非磁性膜は、合成樹脂またはセラミックから成ってもよい。これにより、耐摩耗性や耐擦傷性を向上することができる。
【0015】
上記構成において、前記温度推定処理部は、N極,S極の1極対以上の各極それぞれの磁束密度の、所定期間内における最大値、平均値、または実効値の変化から前記軸受の温度を推定してもよい。これにより、磁束密度について、検出値の微少時間内における微小変動の影響を低減させた状態で、軸受の温度を推定できる。
【0016】
上記目的を達成するために、本発明に係る電動垂直離着陸機は、
回転翼および該回転翼を回転させるモータを有する駆動部を複数と、上記のいずれかの軸受装置と、を備え、前記回転翼の回転によって飛行する電動垂直離着陸機であって、
前記軸受装置は、前記駆動部における回転軸を回転自在に支持する。
【0017】
上記構成によると、本発明に係る電動垂直離着陸機は、磁性材料の表面に設けられた非磁性膜により、回転により生じた強制対流で磁性材料の表面が冷却されるのを防ぐ上記のような各軸受装置を備える。こうすることで、軸受が発熱した場合に、冷却等の影響を排除できて磁気エンコーダの磁束の変化を正確に検出することができるとともに、鉄粉などの磁性を有するコンタミが磁気エンコーダ表面に付着して磁気特性を変化させることを防止することが可能となる。よって、既存の磁気エンコーダの磁性材料の磁束の変化から、該磁性材料の温度変化を直接計測することができるので、コストや組立工数を増加させることなく、軸受の異常診断、特に軸受の温度上昇を速やかに正確に検出することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかかる軸受装置および電動垂直離着陸機は、トラックなどの大型車両用の軸受の焼き付き等を防止するために、コストや組立工数を増加させることなく、軸受の異常診断、特に軸受の温度上昇を速やかに正確に検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】この発明の一の実施形態に係る軸受装置の構成を示す縦断面図である。
【
図2】
図1の軸受装置の要部である磁気エンコーダ周りの拡大縦断面図である。
【
図3】通常時、温度上昇時の磁束密度の対回転角度特性の波形の模式図である。
【
図4】上記軸受装置のセンサユニットの一例である。
【
図5】上記軸受装置のセンサユニットの他の例である。
【
図6】この発明の他の実施形態に係る軸受装置の要部である磁気エンコーダ周りの拡大縦断面図である。
【
図7】この発明の更に他の実施形態に係る、軸受装置が搭載された電動垂直離着陸機の斜視図である。
【
図8】同電動垂直離着陸機の駆動部の一例を示す一部省略した縦断面図である。
【
図9】同電動垂直離着陸機の駆動部の他例を示す一部省略した縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<実施形態1>
図1に、実施形態1に係る軸受装置の構成図を示し、
図2に
図1の要部である磁気エンコーダ(後述)周りの拡大図を示す。ここでは、軸受装置を、大型トラックなどの車両で使われる車輪支持構造に適用された例として説明する。なお、以下の説明では、軸受装置を車両に搭載した状態で、車両の外側寄りとなる側をアウター側(
図1の左側)と呼び、中央寄り側をインナー側(
図1の右側)と呼ぶ。
【0021】
トラックなどの大型車両に使用される車輪用の複列円錐ころ軸受(
図1,
図2)においては、例えば以下のように回転輪にN極,S極を交互着磁した磁気エンコーダを固定し、磁気エンコーダの磁束を検出可能な磁気センサを固定部材に取り付ける。
【0022】
軸受装置1は、アウター側の端部に車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ2を後述の固定軸12に対して回転自在に支持する車輪用軸受3と、
図2に示すN極とS極とが交互に着磁された磁性材料の表面4bbに非磁性膜4aを設けた磁気エンコーダ4bがシール板4cと一体となったシール4と、磁気エンコーダ4bの磁気特性を検出する磁気センサ6が内蔵されたセンサユニット7とから構成される。
【0023】
図1の車輪用軸受3は、テーパ状の複列の外側転走面8a、8aが内周に形成された外方部材(回転輪たる外輪)8と、複列の外側転走面8a、8aに対向するテーパ状の内側転走面9a,9aが各々外周に形成された一対の内方部材(固定輪たる内輪)9、9と、内外の両転走面間に収容された複列の転動体たる円錐ころ10、10と、これらの円錐ころ10を転動自在に保持する保持器11とを備える。すなわち外輪8は、円錐ころ10を介して内輪9に回転自在に支持される。車輪用軸受3は、一対の内輪9、9の小径側端面が向かい合わされた状態でセットされた背面合せタイプの複列の円錐ころ軸受を構成している。ここで、外方部材8と内方部材9との間に形成される環状空間の開口部(アウター側およびインナー側)にはシール4、5が装着され、軸受内部に封入された潤滑グリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等の異物が軸受内部に侵入するのを防止している。
【0024】
車輪用軸受3は、車輪取付フランジ(以下、単にフランジとも称す)2の内周部に対し、外方部材8が圧入されて取り付けられており、外方部材8のアウター側に設けた係止部8bのインナー側は、車輪取付フランジ2の内周面に形成された段差2aに当接して位置決めされる。その一方で、係止部8bのアウター側にはリング状の止め輪14が装着される。これにより、フランジ2と外方部材8とは、互いに回動不能に固定され、一体となって固定軸12の周りを回動する。内方部材9の内径部には、固定部材の一例であるナックル(図示なし)の固定軸12が挿入され、アウター側がナット13で締め付けて固定され、これにより、内輪9が固定部材たる固定軸12に回動不能に取付けられると共に、固定軸12に対して車輪取付フランジ2が回転自在に支持される。
【0025】
センサユニット7は、磁気エンコーダ4bの磁気特性を検出する磁気センサ6を備え、磁気センサ6が磁気エンコーダ4bと隙間を空けて対向するように、固定部材(たとえば固定軸12または図示しない前記ナックル)に固定される。センサユニット7は、少なくとも磁気センサ6と、磁気センサ6の出力を処理して車輪用軸受3の回転位置(回転角度)または回転速度に関する回転信号を出力する回転信号処理部18(
図4)とを有する。
【0026】
図2の磁気センサ6は、例えば、磁気エンコーダ4bの磁束を検出するホール素子を内蔵したホールICであり、車輪の回転を検出し、公知のABZ信号を出力する。また、磁気センサ6は、磁性材料が温度変化に伴って磁束が変化するため、磁気エンコーダ4bの温度変化を、磁束の変化として検出することができる。
図3に磁気エンコーダ4bが温度上昇によって磁束が低下した場合の、磁束密度の対回転角度特性の波形図を模式的に示す。同図によると、磁気エンコーダ4bの温度が上昇した場合には、検出した磁束密度の信号(検出した電圧値等)が減少している。なお、磁束密度について、対回転速度特性の波形を計測してもよい。温度上昇に伴う磁束(または磁束密度)の変化率は、磁性材料によって決まるため、磁性材料を適宜選択することで、磁束の変化から温度(または温度変化)を推定することができる。磁性材料の温度変化に伴う磁束の変化率は、例えば、フェライト磁石では約0.2%/Kである。なお、この磁気エンコーダの磁束の変化により温度を精度良く推定する方法として、1極対以上、より好ましくは1回転分のN極S極それぞれの磁束の最大値もしくは平均値、実効値の変化より温度を推定してもよい。
【0027】
車両用軸受3の外方部材(外輪)8、8および内方部材(内輪)9、9と円錐ころ10、10とが接触する接触面圧が上昇し、該接触する部分を起点に発熱した際に、熱伝導により磁気エンコーダ4bも温度上昇する。非磁性膜4aを磁気エンコーダ4bの磁性材料表面4bbに設けることで、車両用軸受3が回転している場合においても、磁気エンコーダ4bの磁性材料表面4bbから強制対流によって放熱するのを防ぎ、磁気センサ6で磁束を直接検出する際に、磁気エンコーダ4bの温度上昇による磁束の変化を正確に検出し、車両用軸受3または磁気エンコーダ4bの温度を精度良く推定することが可能となる。
【0028】
また、磁気エンコーダ4bの磁性材料表面4bbに非磁性膜4aを設けることで、金属粉など磁性を有する物質が磁気エンコーダ4bの磁性材料表面4bbに付着して磁気短絡や磁束変化を引き起こすことを防止し、磁気エンコーダ4bの磁束変化を精度良く検出する効果がある。従来では、上述のような回転検出用途において、わずかな磁束変化を精度良く検出する必要がないため、上記非磁性膜を設けることに思い至ることはなかった。しかし、本願の発明者らの鋭意検討により、回転検出用途において磁性材料表面4bbに非磁性膜4aを設けるに至ったものである。
【0029】
非磁性膜4aの材料は、高分子などの合成樹脂材料や非磁性の金属、セラミックなど、磁性を有しない材料であればよいが、熱伝導率が低い物質がより好ましい。例えば、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリスチレン、アクリロニトリルスチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレンプラスチック、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化エチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリオキシメチレン、ポリエチレンテレフタラート、フェノール樹脂、エポキシ樹脂を、非磁性膜4aとして適用しうる。
【0030】
また、非磁性膜4aでは、磁気エンコーダ4bとセンサユニット7との間のエアギャップを鑑みて、膜厚は1mm以下が望ましい。なお、該エアギャップは、広すぎると磁気エンコーダ4bの磁束検知の精度が低下するので、所定の間隔より狭める必要がある。また、非磁性膜4aが厚すぎると、センサユニット7が非磁性膜4aに干渉するか、もしくはセンサユニット7の位置における磁気エンコーダ4bの磁性材料表面4bb磁束密度が非常に小さくなるため、磁束の検出精度が低下する。
【0031】
センサユニット7は、さらに、軸受3の回転位置または回転速度に関する回転信号の入力を受けて軸受3の温度を推定する温度推定処理部15が設けられて、軸受3の温度に関する温度情報(温度信号)を出力してもよい。
図4に概略構成を示す。センサユニット7からABZ信号による軸受3の回転位置または回転速度に関する回転情報(回転信号)、および、軸受の温度に関する温度情報を出力する。温度推定処理部15で、温度を推定する際に、1極対以上、より好ましくは1回転分のN極S極それぞれの磁束の最大値もしくは平均値、実効値の変化より温度を推定してもよい。
【0032】
センサユニット7に、さらに異常診断処理部16を設けて、軸受の異常を診断した結果の異常診断情報を出力してもよい。
図5に概略構成を示す。異常診断処理部16では、閾値記憶部17が設けられ、温度推定処理部16から出力された温度情報が閾値記憶部17に記憶された閾値を超えたときに軸受が異常であることを示す異常診断情報を出力してもよい。
【0033】
<実施形態2>
図6に磁気エンコーダ4bの拡大図を示す。実施形態2では、前述の実施形態1と違って、非磁性膜4aが、磁気エンコーダ4bの磁性材料表面4bbとの間に、空気層18を設けるように磁気エンコーダ4bに形成されてもよい。空気は熱伝導係数が低く、断熱効果があるため、非磁性膜4aと磁性材料表面4bbとの間に空気層18を設けることで、前述の回転時の強制対流による冷却の影響を防止しつつ、非磁性膜4aへの熱伝導を防止する効果があり、磁気エンコーダ4bの熱による磁束変化を正確に検出し、磁気エンコーダ4bの温度を精度良く推定することが可能となる。
【0034】
上記の各実施形態によると、磁気エンコーダの温度変化を磁束の変化として検出する磁気センサが磁気エンコーダの磁気特性を検出する際に、磁気材料表面に設けられた非磁性膜が、回転による強制対流による冷却を防ぎ、軸受が発熱した場合の磁気エンコーダの磁束の変化を正確に検出する効果があるとともに、鉄粉などの磁性を有するコンタミが磁気エンコーダ磁性材料表面に付着して磁気特性が変化することを防止し、磁束を精度良く検出する効果があることで、軸受または磁気エンコーダの温度(または温度変化)を正確に推定し、軸受の異常発熱を検知することができる。また、磁束を検出する磁気センサは、回転速度検出としても利用できるため、専用のセンサなど他のセンサを追加することなく、低コストかつ省スペースで温度と回転の情報を得ることができる。
【0035】
このように、磁気センサは、軸受の回転に伴う磁束の変化も検出するため、1つの磁気センサで従来の回転信号と本願のような温度情報を同時に取得できるため、コストを抑えることができる。また、非接触での温度推定を可能にするため、組立時や軸受交換時の配線の工数を減らすことができる。
【0036】
<実施形態3>
近年では、自動車に代わる移動手段として飛行可能な自動車、いわゆる空飛ぶクルマが注目されている。空飛ぶクルマは、離島や山間部などにおける移動の困難性や都市部の渋滞等の社会的問題の解消に期待されており、地域内移動、地域間移動、観光・レジャー、救急医療、災害救助など、様々な場面での活用が期待されている。
【0037】
空飛ぶクルマとしては、垂直離着陸機(VTOL;Vertical Take-Off and Landing aircraft)が注目されている。垂直離着陸機は、空と離発着場を垂直に昇降できることから、滑走路が必要とならず、利便性に優れる。特に、近年ではCO2の削減に向けた社会的要請などからバッテリとモータで飛行するタイプの電動垂直離着陸機(eVTOL)が開発の主流となっている。
【0038】
本実施形態に係る、転がり軸受(軸受装置)が搭載された電動垂直離着陸機について、
図7に基づいて説明する。
図7に示す電動垂直離着陸機100は、機体中央に位置する本体部102と、前後左右に配置された複数(4つ)の駆動部103を有するマルチコプターである。駆動部103は、電動垂直離着陸機100の揚力および推進力を発生させる装置であり、駆動部103の駆動によって電動垂直離着陸機100が飛行する。電動垂直離着陸機100において駆動部103は複数あればよく、4つに限定されない。
【0039】
本体部102は乗員(例えば1~2名程度)が搭乗可能な居住空間を有している。この居住空間には、進行方向や高度などを決めるための操作系や、高度、速度、飛行位置などを示す計器類などが設けられている。本体部102からは4本のアーム102aがそれぞれ延び、各アーム102aの先端に駆動部103が設けられている。
図7において、アーム102aには、回転翼104(後述)を保護するため、回転翼104の回転周囲を覆う円環部が一体に設けられている。また、本体部102の下部には、着陸時に機体を支えるスキッド102bが設けられている。
【0040】
駆動部103は、回転翼104と、該回転翼104を回転させるモータ105とを有する。本実施形態の駆動部103では、回転翼104はモータ105を挟んで軸方向(後述の回転軸107方向)両側に一対設けられている。各回転翼104は、径方向外側へ延びる2枚の羽根をそれぞれ有する。
【0041】
本体部102には、バッテリ(図示省略)および制御装置(図示省略)が設けられている。制御装置はフライトコントローラとも呼ばれる。電動垂直離着陸機100の制御は、制御装置によって、例えば以下のように実施される。制御装置が、現姿勢と目標姿勢の差から揚力を調整すべきモータ105に回転数変更の指令を出力する。その指令に基づいて、モータ105に備えられたインバータ等がバッテリからモータ105へ送る電力量を調整し、モータ105(および回転翼104)の回転数が変更される。また、モータ105の回転数の調整は、複数のモータ105に対して、同時に実施され、それによって機体の姿勢や進行方向が決まる。
【0042】
図8および
図9は、駆動部におけるモータの一部断面図を示している。上記の各実施形態では、回転輪が外輪で、固定輪が内輪であったが、本実施形態では、回転輪が内輪で、固定輪が外輪である。本実施形態は、こうした違いはあるが上記の各実施形態で説明したのと同様の作用、効果等を有する。上記の各実施形態と同様に、本実施形態でも車輪用軸受111が含まれ、磁気エンコーダ4bと、磁気センサ6を有するセンサユニット7とが設けられている。
図8では、転がり軸受111(後述)として、例えば深溝玉軸受が使用されており、
図9では、アンギュラ軸受が使用されている。
図9については、軸受の構造が違うのみで他は
図8と同様であるので、その説明を省略する。
図8において、モータ105の回転軸107の一端側(同図上側)には、同図では図示を省略した上述の回転翼104が取り付けられ、他端側(同図下側)には、ロータ(図示省略)が取り付けられる。ロータは、ハウジングに固定されたステータに対向配置され、該ステータに対して回転可能になっている。なお、モータ105は、アウターロータ型のブラシレスモータや、インナーロータ型のブラシレスモータの構成等を採用できるが、本実施形態では、インナーロータ型モータである。
【0043】
図8において、モータ105は、ハウジング(装置ハウジング)106と、ロータ(図示省略)と、ステータ(図示省略)と、上記インバータ等(図示省略)とを少なくとも備える。ハウジング106は外筒106aと内筒106bを有し、これらの間には冷却媒体流路106cが設けられている。この流路106cに冷却媒体を流すことにより、過度の温度上昇を防止できる。また、冷却媒体は、ノズル部材110から内輪間座108、外輪間座109や軸受装置111等へ向けて放出される。ハウジング106の材質は特に限定されず、例えば鉄系材料やCFRP(炭素繊維強化プラスチック)などを用いることができる。
【0044】
また、同図の2個の転がり軸受111、111は、駆動部103における回転軸107を回転自在に支持する。すなわち転がり軸受111は、回転輪たるリング状の内輪112と、固定輪たるリング状の外輪113と、内輪112と外輪113との間に介在する玉(転動体)114と、さらに玉114を保持する保持器115とを有し、ハウジング106内で回転軸107を回転自在に支持している。
図8において、転がり軸受111の外輪113の外径形状は、ハウジング内周の嵌合部と同一の形状であり、ハウジング106に対して、軸受ハウジングなどを介さずに直接嵌合される。転がり軸受111と転がり軸受111との間には内輪間座108、外輪間座109が挿入され、予圧が印加されている。
【0045】
なお、駆動部における軸受構成は、
図8および9の構成に限定されない。これらの図では、モータの回転軸と回転翼の回転軸とを同一の回転軸としたが、モータの回転軸と回転翼の回転軸とが伝達機構を介して接続された構成であってもよい。この場合、駆動部における回転軸を支持する転がり軸受は、モータの回転軸を支持する転がり軸受でもよく、回転翼の回転軸を支持する転がり軸受でもよい。
【0046】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0047】
1 軸受装置
3 車輪用軸受(軸受)
4a 非磁性膜
4b 磁気エンコーダ
4bb 磁性材料表面
6 磁気センサ
7 センサユニット
8 外輪、外方部材(回転輪)
9 内輪、内方部材(固定輪)
10 円錐ころ(転動体)
12 固定軸(固定部材)
15 温度推定処理部
16 異常診断処理部
17 閾値記憶部
18 回転信号処理部
100 電動垂直離着陸機
102 本体部
103 駆動部
104 回転翼
105 モータ
106 ハウジング
107 回転軸
108 内輪間座
109 外輪間座
110 ノズル部材
111 転がり軸受
112 内輪
113 外輪
114 玉
115 保持器