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特開2022-156928制振ダンパー用シリコーン組成物、制振ダンパー用粘性流体、およびそれらを用いた制振ダンパー
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  • 特開-制振ダンパー用シリコーン組成物、制振ダンパー用粘性流体、およびそれらを用いた制振ダンパー 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156928
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】制振ダンパー用シリコーン組成物、制振ダンパー用粘性流体、およびそれらを用いた制振ダンパー
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20221006BHJP
   F16F 15/023 20060101ALI20221006BHJP
   F16F 9/30 20060101ALI20221006BHJP
   C08L 83/07 20060101ALI20221006BHJP
   C08K 5/56 20060101ALI20221006BHJP
   C08K 3/11 20180101ALI20221006BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20221006BHJP
   C08K 5/05 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C09K3/00 P
F16F15/023 A
F16F9/30
C08L83/07
C08K5/56
C08K3/11
C08L83/05
C08K5/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060872
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】飯沼 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】村谷 圭市
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智志
(72)【発明者】
【氏名】早崎 康行
(72)【発明者】
【氏名】安達 大悟
(72)【発明者】
【氏名】山本 将大
【テーマコード(参考)】
3J048
3J069
4J002
【Fターム(参考)】
3J048AA06
3J048AC05
3J048EA38
3J069AA40
3J069BB01
3J069DD47
4J002CP042
4J002CP04X
4J002CP141
4J002CP14W
4J002DE197
4J002EC016
4J002GL00
(57)【要約】
【課題】温度変化による粘度変化が少なく、高温環境下であっても少量で高減衰を発現することができ、さらに施工性にも優れる、制振ダンパー用シリコーン組成物、制振ダンパー用粘性流体、およびそれらを用いた制振ダンパーを提供する。
【解決手段】下記の(A)成分を主成分とし下記の(B)~(D)成分を含有するとともに、下記の(A)成分100重量部に対する下記の(B)成分の含有割合が0.00003~0.003重量部であり、かつ下記の(A)成分のビニル基のモル数(M1)と下記の(D)成分のヒドロシリル基のモル数(M2)との比(M1:M2)が1:0.5~1:4となるよう調製された制振ダンパー用シリコーン組成物によって、課題を解決する。
(A)分子鎖の両末端にビニル基を有する、ビニル基変性シリコーン。
(B)白金触媒。
(C)遅延剤。
(D)鎖延長剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)成分を主成分とし下記の(B)~(D)成分を含有する制振ダンパー用シリコーン組成物であって、下記の(A)成分100重量部に対する下記の(B)成分の含有割合が0.00003~0.003重量部であり、かつ上記シリコーン組成物中における下記の(A)成分のビニル基のモル数(M1)と下記の(D)成分のヒドロシリル基のモル数(M2)との比(M1:M2)が1:0.5~1:4であることを特徴とする制振ダンパー用シリコーン組成物。
(A)分子鎖の両末端にビニル基を有する、ビニル基変性シリコーン。
(B)白金触媒。
(C)遅延剤。
(D)鎖延長剤。
【請求項2】
上記(C)成分の含有割合が、上記(A)成分100重量部に対し0.01~1重量部である、請求項1記載の制振ダンパー用シリコーン組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載の制振ダンパー用シリコーン組成物が重合されてなることを特徴とする制振ダンパー用粘性流体。
【請求項4】
30℃での粘度が6000~100000Pa・sである、請求項3記載の制振ダンパー用粘性流体。
【請求項5】
請求項1または2記載の制振ダンパー用シリコーン組成物、請求項3または4記載の制振ダンパー用粘性流体のいずれかが充填されてなることを特徴とする制振ダンパー。
【請求項6】
制震壁である、請求項5記載の制振ダンパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振ダンパー用シリコーン組成物、制振ダンパー用粘性流体、およびそれらを用いた制振ダンパーに関するものであり、詳しくは、土木・建築分野における制震や免震等の用途に好適な制振ダンパー用シリコーン組成物、制振ダンパー用粘性流体、およびそれらを用いた制振ダンパーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
土木・建築分野における制震装置や免震装置、とりわけ、橋梁やビルといった大型建造物に使用される制震ダンパーは、地震や風等による振動、大型車の走行等による交通振動等を抑制する目的で使用される。
大地震のエネルギーを吸収するためには、高ひずみの高減衰化は必須であるが、大地震後には中小地震も多く発生しており、高層ビルで観測される長周期地震のように、上記中小地震による何回も連続した繰り返し変形に対しても、特性安定化のニーズが高くなってきている。
このような用途に用いられる制振ダンパーの機構としては、粘弾性ダンパー、粘性ダンパー、オイルダンパー、鋼材ダンパーなどが主な機構としてあげられるが、なかでも粘性ダンパーは、減衰力が大きく繰り返し性に優れており、しかも粘性項しか存在しないことから設計が簡単であり、高層ビル等の大型施設で広く導入されている。
【0003】
上記粘性ダンパーに使用される粘性体としては、例えば、ポリイソブチレン等のポリブテン系材料が使用されたものが一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-132104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ポリブテン系材料は温度依存性が大きいことから、高温環境下(30℃以上)で高減衰性を得るためには、粘性ダンパーに使用するポリブテン系材料の使用量を多くする必要がある。そのため、ポリブテン系材料を粘性ダンパーの粘性体として使用する際には、ポリブテン系材料の使用量増大に合わせて、その設備を大型化する必要がある。
【0006】
また、ポリブテン系材料は温度依存性が大きいことから、制震壁等の制振ダンパーにポリブテン系材料を充填する際に、一旦、130~170℃に温めて、ポリブテン系材料の粘度を下げてからでないと充填することができない。そのため、施工の際に温める手間がかかるといった問題もある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、温度変化による粘度変化が少なく、高温環境下であっても少量で高減衰を発現することができ、さらに施工性にも優れる、制振ダンパー用シリコーン組成物、制振ダンパー用粘性流体、およびそれらを用いた制振ダンパーの提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、制振ダンパーの機構として先述のように粘性ダンパーを採用し、その粘性材料として、温度依存性の小さいシリコーンを用いることを検討した。そして、温度変化による粘度変化が少なく、高温環境下であっても少量で高減衰を発現でき、さらに施工性にも優れる粘性材料となるよう、各種実験・研究を重ねた。
そして、上記粘性材料として、分子鎖の両末端にビニル基を有するビニル基変性シリコーン(A)を主成分とし、白金触媒(B)、遅延剤(C)、および鎖延長剤(D)を含有するものを用い、上記ビニル基変性シリコーン(A)のビニル基と鎖延長剤(D)のヒドロシリル基のモル比を特定の割合にし、かつ上記白金触媒(B)の含有量を特定の範囲に抑えるようにした。このようにしたところ、温度依存性を抑えつつ、その(A)成分と(D)成分の重合反応(二次元架橋反応)がばらつきなく進んで高分子量化することにより、従来の粘性ダンパーに使用されるポリブテン系材料の2倍以上の粘度を示すようになる等といったことに起因し、所期の目的が達成できることを見いだし、本発明に到達した。
【0009】
しかるに、本発明は、以下の[1]~[6]を、その要旨とする。
[1] 下記の(A)成分を主成分とし下記の(B)~(D)成分を含有する制振ダンパー用シリコーン組成物であって、下記の(A)成分100重量部に対する下記の(B)成分の含有割合が0.00003~0.003重量部であり、かつ上記シリコーン組成物中における下記の(A)成分のビニル基のモル数(M1)と下記の(D)成分のヒドロシリル基のモル数(M2)との比(M1:M2)が1:0.5~1:4であることを特徴とする制振ダンパー用シリコーン組成物。
(A)分子鎖の両末端にビニル基を有する、ビニル基変性シリコーン。
(B)白金触媒。
(C)遅延剤。
(D)鎖延長剤。
[2] 上記(C)成分の含有割合が、上記(A)成分100重量部に対し0.01~1重量部である、[1]に記載の制振ダンパー用シリコーン組成物。
[3] [1]または[2]に記載の制振ダンパー用シリコーン組成物が重合されてなることを特徴とする制振ダンパー用粘性流体。
[4] 30℃での粘度が6000~100000Pa・sである、[3]に記載の制振ダンパー用粘性流体。
[5] [1]または[2]に記載の制振ダンパー用シリコーン組成物、[3]または[4]に記載の制振ダンパー用粘性流体のいずれかが充填されてなることを特徴とする制振ダンパー。
[6] 制震壁である、[5]に記載の制振ダンパー。
【発明の効果】
【0010】
以上のことから、本発明の制震ダンパー用シリコーン組成物は、温度変化による粘度変化が少なく、高温環境下であっても少量で高減衰を発現する粘性流体の材料として、優れた性能を発揮することができる。
また、本発明の制震ダンパー用シリコーン組成物は、常温でも反応するため、粘度の低い状態で制震壁等の制振ダンパーに充填し、制振ダンパー内で常温にて高分子量化させることが可能である。しかも、上記充填する際に、一旦温めて粘度を下げてから充填するといった手間が不要であることから、施工の際に有利である。
そして、本発明の制振ダンパーは、上記シリコーン組成物または上記粘性流体が充填されてなるものであり、その充填量が少量であっても高減衰を発現できることから、従来のポリブテン系材料を使用した粘性ダンパーと比較して小型化が可能である。また、温度変化による減衰性の変動が少ない(特に、高温環境下での減衰性の低下が抑えられる)ことから、制振ダンパーとして優れた性能を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】制震壁の一例を模式的に示す斜視図である。
図2】上記制震壁の組立て前の状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
つぎに、本発明の実施の形態を詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限られるものではない。
【0013】
本発明の制振ダンパー用シリコーン組成物(以下、単に「シリコーン組成物」と示す場合がある)は、下記の(A)成分を主成分とし下記の(B)~(D)成分を含有するシリコーン組成物であって、下記の(A)成分100重量部に対する下記の(B)成分の含有割合が0.00003~0.003重量部であり、かつ上記シリコーン組成物中における下記の(A)成分のビニル基のモル数(M1)と下記の(D)成分のヒドロシリル基のモル数(M2)との比(M1:M2)が1:0.5~1:4を満たすものである。ここで、上記「主成分」とは、本発明のシリコーン組成物の必須成分である下記の(A)~(D)成分の総重量の50重量%を上回る割合を占めるもののこととする。
(A)分子鎖の両末端にビニル基を有する、ビニル基変性シリコーン。
(B)白金触媒。
(C)遅延剤。
(D)鎖延長剤。
【0014】
以下に、本発明のシリコーン組成物の構成材料について詳しく説明する。
【0015】
《分子鎖の両末端にビニル基を有する、ビニル基変性シリコーン(A)》
本発明のシリコーン組成物の主成分である、分子鎖の両末端にビニル基を有するビニル基変性シリコーン(A)としては、例えば、下記の一般式(1)で示されるビニル基変性シリコーンが用いられる。
【0016】
【化1】
【0017】
上記一般式(1)において、nは、50~5000の整数であることが好ましく、より好ましくは80~4000の整数、さらに好ましくは100~3000整数である。すなわち、nの値が小さすぎると、反応が速くなりすぎ、nの値が大きすぎると、反応が遅くなりすぎるからである。
【0018】
また、上記特定のビニル基変性シリコーン(A)の、25℃での粘度は、400~5000000mPa・sであることが好ましい。そして、上記粘度は、500~4000000mPa・sであることがより好ましく、1000~1000000mPa・sであることがさらに好ましい。すなわち、上記のような粘度を示すものであると、減衰特性がさらに向上するようになる。なお、上記粘度は、回転式レオメーター(TAインスツルメント社製、AR2000ex)により、測定温度25℃にて測定した値である。
【0019】
《白金触媒(B)》
上記白金触媒(B)としては、例えば、白金-オレフィン錯体、塩化白金酸、白金の単体、担体(アルミナ、シリカ、カーボンブラック等)に固体白金を担持させたもの、白金-ビニルシロキサン錯体、白金-ホスフィン錯体、白金-ホスファイト錯体等が、単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
そして、先に述べたように、上記特定のビニル基変性シリコーン(A)100重量部に対し、上記白金触媒(B)の含有割合は、0.00003~0.003重量部とする必要があり、好ましくは0.00006~0.0027重量部、より好ましくは0.00009~0.0024重量部の範囲である。すなわち、このような範囲内に白金触媒(B)の含有割合を抑えることにより、本発明のシリコーン組成物の重合反応((A)成分と(D)成分の重合反応)が急激に進行するのを抑制しつつ、その重合反応を充分に行うことができ、重合体の粘度のばらつきが生じるのを抑え、所望の粘度(所望の高減衰性)を得ることができるようになるからである。
また、上記白金触媒(B)は、キシレン,トルエン等の溶媒に溶解させたものを使用してもよい。このようなものは、市販品では、Gelest社製のSIP6830等があげられる。
なお、上記白金触媒(B)の含有割合は、上記のような溶媒を含まない、白金触媒そのものの量を規定したものである。
【0020】
《遅延剤(C)》
上記遅延剤(C)としては、例えば、脂肪族不飽和結合を含有する化合物、有機リン化合物、有機イオウ化合物、窒素含有化合物、スズ系化合物、有機過酸化物等が、単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0021】
上記脂肪族不飽和結合を含有する化合物としては、具体的には、アセチレンアルコール,1-エチニル-1-シクロヘキサノール等の、脂肪族不飽和結合を含有するアルコール類、無水マレイン酸,マレイン酸ジメチル等のマレイン酸エステル類等があげられる。
【0022】
また、上記有機リン化合物としては、具体的には、トリオルガノフォスフィン類、ジオルガノフォスフィン類、オルガノフォスフォン類、トリオルガノフォスファイト類等があげられる。
【0023】
また、上記有機イオウ化合物としては、具体的には、オルガノメルカプタン類、ジオルガノスルフィド類、硫化水素、ベンゾチアゾール、チアゾール、ベンゾチアゾールジサルファイド等があげられる。
【0024】
また、上記窒素含有化合物としては、具体的には、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N-ジメチルエチレンジアミン、N,N-ジエチルエチレンジアミン、N,N-ジブチルエチレンジアミン、N,N-ジブチル-1,3-プロパンジアミン、N,N-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、N,N,N’,N’-テトラエチルエチレンジアミン、N,N-ジブチル-1,4-ブタンジアミン、2,2'-ビピリジン等があげられる。
【0025】
また、上記スズ系化合物としては、具体的には、ハロゲン化第一スズ2水和物、カルボン酸第一スズ等があげられる。
【0026】
また、上記有機過酸化物としては、具体的には、ジ-t-ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、過安息香酸t-ブチル等があげられる。
【0027】
そして、上記の各種遅延剤のなかでも、汎用性の観点から、脂肪族不飽和結合を含有する化合物が好ましく、より好ましくは脂肪族不飽和結合を含有するアルコール類であり、特に好ましくはアセチレンアルコールである。
【0028】
そして、上記特定のビニル基変性シリコーン(A)100重量部に対し、上記遅延剤(C)の含有割合は、0.01~1重量部であることが好ましく、より好ましくは0.05~0.5重量部の範囲である。すなわち、上記範囲内で遅延剤(C)を加えることにより、(A)成分と(D)成分の重合反応が急激に進行するのを抑制し、重合体の粘度のばらつきが生じるのを抑え、所望の粘度(所望の高減衰性)を得ることができるようになるからである。
【0029】
《鎖延長剤(D)》
上記鎖延長剤(D)としては、例えば、下記の一般式(2)で示されるような、分子鎖の両末端にヒドロシリル基(Si-H基)を有する、低分子量の化合物があげられる。
【0030】
【化2】
【0031】
上記一般式(2)において、nは、1~100の整数であることが好ましく、より好ましくは1~90の整数、さらに好ましくは1~80の整数である。すなわち、nの値が小さすぎると、反応が速くなりすぎ、nの値が大きすぎると、反応が遅くなりすぎるからである。
【0032】
そして、本発明のシリコーン組成物中においては、先に述べたように、上記特定のビニル基変性シリコーン(A)のビニル基のモル数(M1)と上記鎖延長剤(D)のヒドロシリル基のモル数(M2)との比(M1:M2)が、1:0.5~1:4の範囲となるよう、上記鎖延長剤(D)を配合する必要がある。M1:M2は、好ましくは1:0.8~1:3.5、より好ましくは1:1~1:3である。
すなわち、上記のような割合で、上記特定のビニル基変性シリコーン(A)と鎖延長剤(D)を配合することにより、所望の粘性を得ることができるようになるからである。
【0033】
本発明のシリコーン組成物には、上記(A)~(D)の各成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、フィラー、シリコーン以外の液状ポリマー、消泡剤、レオロジーコントロール剤、内添接着剤、カップリング剤等の、各種の添加剤を配合しても差し支えない。
【0034】
上記フィラーとしては、例えば、カーボンブラック、シリカ、タルク、炭酸カルシウム、炭素繊維、カーボンナノチューブ等があげられ、これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0035】
本発明のシリコーン組成物に適宜に配合される上記フィラーの含有割合は、前記特定のビニル基変性シリコーン(A)100重量部に対して、1~100重量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは5~50重量部の範囲である。このような含有割合であると、減衰特性がさらに向上するようになる。
【0036】
上記の、シリコーン以外の液状ポリマーとしては、例えば、液状イソプレンゴム(液状IR)、液状ブタジエンゴム(液状BR)、液状スチレン-ブタジエンゴム(液状SBR)、液状スチレン-イソプレンゴム(液状SI)、液状スチレン-エチレン-プロピレンゴム(液状SEP)、液状イソプレン-ブタジエンゴム(液状IR-BR)等があげられ、これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0037】
本発明のシリコーン組成物に適宜に配合される上記液状ポリマーの含有割合は、前記特定のビニル基変性シリコーン(A)100重量部に対して、1~100重量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは5~50重量部の範囲である。このような含有割合であると、減衰特性がさらに向上するようになる。
【0038】
本発明のシリコーン組成物は、例えば、前記(A)~(D)成分、さらに必要に応じてその他の成分等を、5~35℃の雰囲気下で、羽根撹拌機,ニーダー,プラネタリーミキサー,混合ロール,2軸スクリュー式撹拌機等を用いて混練・撹拌することにより調製することができる。
このようにして得られた本発明のシリコーン組成物は、常温(5~35℃)でも反応(高分子量化)が進み、粘性流体となるため、上記調製直後の粘度の低い状態で制震壁等の制振ダンパーに充填し、制振ダンパー内で常温にて高分子量化させることが可能である。しかも、上記充填を行う際に、従来のような一旦温めて粘度を下げてから充填するといった手間が不要であることから、施工の際に有利である。
また、上記のようにして調製された本発明のシリコーン組成物は、上記調製直後から、気温によっては12時間程度は高分子量化が進まない(粘性流体とならない)ため、予め調製された上記シリコーン組成物を施工現場に運んで使用するといったことも可能となる。
なお、上記シリコーン組成物は、5~35℃雰囲気下で1~24時間静置することにより、(A)成分と(D)成分の重合反応(二次元架橋反応)が完了し高分子量化がなされ、粘性流体(制振ダンパー用粘性流体)となる。
【0039】
ここで、本発明の粘性流体(制振ダンパー用粘性流体)は、30℃での粘度が6000~100000Pa・sであることが好ましい。そして、上記粘度は、6500~80000Pa・sであることがより好ましく、7000~60000Pa・sであることがさらに好ましい。すなわち、上記のような粘度を示すものであると、減衰特性がさらに向上するようになる。なお、上記粘度は、回転式レオメーター(TAインスツルメント社製、AR2000ex)により、測定温度30℃にて測定した値である。
【0040】
また、本発明の粘性流体(制振ダンパー用粘性流体)における、(A)成分と(D)成分の重合反応物の重量平均分子量(Mw)は、80000~2000000であることが好ましく、100000~1800000であることがより好ましい。すなわち、上記のような重量平均分子量を示すものであると、減衰特性がさらに向上するようになる。
また、上記重合反応物の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、本発明の効果をより効果的に発揮する観点から、1.5~40が好ましく、2~30がより好ましい。
なお、上記重量平均分子量(Mw)は、標準ポリスチレン分子量換算による重量平均分子量であり、高速液体クロマトグラフ(Waters社製、「Waters 2695(本体)」と「Waters 2414(検出器)」)に、カラム:Shodex GPC KF-806L(排除限界分子量:2×107、分離範囲:100~2×107、理論段数:10000段/本、充填剤材質:スチレン-ジビニルベンゼン共重合体、充填剤粒径:10μm)の3本を直列にして用いることにより測定される。また、数平均分子量(Mn)も同様の方法で測定され、上記数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)より、上記重合反応物の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))が求められる。
【0041】
そして、上記のようにして調製された本発明のシリコーン組成物、または本発明の粘性流体が充填されてなる制振ダンパーとして、例えば、図1に示す制震壁等があげられる。
【0042】
図1は、制震壁の一例を模式的に示す斜視図である。そして、図示の制震壁1は、上階の建築構造体の骨組みに固定されて垂下し、下階の建築構造体の骨組みと切り離された1枚または復数枚の板からなる垂下壁2と、その垂下壁2と平行に下階の建築構造体の骨組みに固定されて垂下壁2を取り囲むように立ち上がり、上階の建築構造体の骨組みと切り離された複数枚の板からなる立上り壁3との隙間に、本発明のシリコーン組成物または本発明の粘性流体が充填されてなるものである。
なお、図1に示す構造の制震壁1の場合、上記垂下壁2と立上り壁3との隙間に、本発明のシリコーン組成物を充填した後に重合反応させることにより粘性流体とすることが、上記制震壁1の製造工程の観点から、好ましい。
【0043】
上記制震壁1における、垂下壁2および立上り壁3を構成する材料としては、鋼板のほかに、繊維強化樹脂板を使用することができる。上記繊維強化樹脂板としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂や、ポリアミド、ポリプロピレン、ABS樹脂などの熱可塑性樹脂をマトリッリクス樹脂とし、これに、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、アミド繊維等が分散されてなる樹脂板が使用される。
【0044】
さらに、上記制震壁1の具体的構造として、制震壁1の水平方向および鉛直方向に沿って所定の間隔を空けて垂下壁2と立上り壁3とを貫通するボルト孔を空け(図示せず)、これらの両壁のボルト孔に両壁間の隙間を保持する隙間調整ボルトを挿通してナットで螺合し、両壁間の隙間の大きさを隙間調整ボルトのナットへの螺合長さに応じて調整することができるものであってもよい。
【0045】
また、上記制震壁1内への、本発明のシリコーン組成物の充填は、垂下壁2を立上り壁3に建て入れる前、または建て入れた後に行うことができ、その方法には特に限定はない。建て入れ前の充填方法としては、例えば立上り壁3の上部から壁内へ長い流入管を取り付けて本発明のシリコーン組成物を流し込み充填する方法、立上り壁3の下部に複数の注入口を設けて(図示せず)、その注入口からグラウト注入機などのポンプを利用して本発明のシリコーン組成物を充填する方法などがある。
これらの方法により、図2に示すように、立上り壁3内に本発明のシリコーン組成物(シリコーン組成物4)の充填を完了した後、垂下壁2を立上り壁3内に建て入れ、上記シリコーン組成物4の重合反応がなさせる(粘性流体となる)ことにより、上記制震壁1は完成される。
なお、充填の時期については、あらかじめシリコーン組成物4を充填して施工現場に搬入したり、または施工現場において配合し充填したりするなど、任意の時期に行うことができる。
また、垂下壁2を立上り壁3に建て入れた後にシリコーン組成物4を充填する場合には、立上り壁3の下部に注入口を設けて注入する方法を適用することが好ましい。
【0046】
本発明の制振ダンパーは、特に上記のように図示した形状のものに限定されるものではなく、本発明のシリコーン組成物、または本発明の粘性流体を使用したものであれば、各種の形状のものがあげられる。
そして、本発明の制振ダンパーは、土木用,建築用の制震ダンパー、家電用や電子機器用の制振ダンパー等として、優れた機能を発揮することができる。
なかでも、橋梁やビルといった大型建造物に使用される制震ダンパーとして、とりわけ高層ビル用制震ダンパーとして、より優れた機能を発揮することができる。
【実施例0047】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、その要旨を超えない限り、これら実施例に限定されるものではない。
【0048】
まず、実施例および比較例に先立ち、下記に示す材料を準備した。なお、下記に示す材料に示された各数値は、前記測定方法に基づき測定された値である。
【0049】
〔両末端ビニル基変性シリコーン(i)〕
下記の一般式(1)で示される、n=400~600の、両末端ビニル基変性シリコーン(Polymer VS 10000(25℃での粘度:10000mPa・s)、エボニック社製)
【0050】
【化3】
【0051】
〔両末端ビニル基変性シリコーン(ii)〕
下記の一般式(1)で示される、n=100~300の、両末端ビニル基変性シリコーン(Polymer VS 2000(25℃での粘度:2000mPa・s)、エボニック社製)
【0052】
【化4】
【0053】
〔鎖延長剤(i)〕
下記の一般式(2)で示される、n=1~18の、鎖延長剤(DMS-H11、エボニック社製)
【0054】
【化5】
【0055】
〔鎖延長剤(ii)〕
下記の一般式(2)で示される、n=20~40の、鎖延長剤(DMS-H21、エボニック社製)
【0056】
【化6】
【0057】
〔白金触媒〕
SIP6830、Gelest社製
【0058】
〔遅延剤〕
1-エチニル-1-シクロヘキサノール(東京化成社製)
【0059】
[実施例1~8、比較例1~4]
後記の表1および表2に示す各成分を同表に示す割合で配合し、25℃の雰囲気下で、羽根撹拌機によって撹拌することにより、目的とするシリコーン組成物を調製した。
なお、後記の表1および表2に示す「M1:M2」は、シリコーン組成物中における、両末端ビニル基変性シリコーンのビニル基のモル数(M1)と鎖延長剤のヒドロシリル基のモル数(M2)との比を示す。また、後記の表1および表2に示す白金触媒の含有割合は、薬剤(SIP6830)中に含まれる溶媒等を除いた白金触媒そのものの含有割合を示したものである。
【0060】
そして、実施例および比較例のシリコーン組成物を用いて、下記の各特性を測定し、下記の基準に従い評価した。これらの結果を後記の表1および表2に併せて示した。
【0061】
≪粘度≫
上記調製のシリコーン組成物を、25℃で1日間重合反応させた後、回転式レオメーター(TAインスツルメント社製、AR2000ex)により、測定温度30℃にて粘度を測定した。
【0062】
≪温度依存性≫
上記調製のシリコーン組成物を、25℃で1日間重合反応させた後、回転式レオメーター(TAインスツルメント社製、AR2000ex)により、測定温度10℃にて粘度を測定した。そして、上記測定を、測定温度30℃でも行い、「測定温度10℃での粘度/測定温度30℃での粘度」を算出した。
【0063】
≪反応速度(t10)≫
上記調製のシリコーン組成物の粘度を、ロータレス・レオメーター(東洋精機社製)にて100℃で600秒間測定し、反応完了時のトルク値の10%のトルク値になる時間(t10[秒])を測定し、この値を反応速度(t10)とした。
【0064】
<評価>
上記各測定の結果、粘度が6000~100000Pa・s、温度依存性が2以下、反応速度(t10)が250~400秒、といった要件を全て満たすものを「○」と評価し、これらの要件の一つでも満たさなかったものを「×」と評価した。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
上記表1および表2の結果から、実施例の試料は、いずれも、重合反応完了後の粘性流体の粘度が高い(6000~100000Pa・s)ことから減衰性が高く、さらに、上記粘性流体の温度依存性も低いことから、温度変化による粘度変化が少ないことがわかる。そして、実施例のシリコーン組成物の反応速度も250~400秒の範囲内であることから、重合反応(二次元架橋反応)がばらつきなく進んで高分子量化し、上記のような本発明に要求される物性を得ることができる。
【0068】
これに対し、比較例1の試料は、白金触媒が不含であるため、重合反応が進まず、所望の粘度が得られていない。比較例2の試料は、白金触媒が多すぎるため、それにより反応速度が上昇しすぎるようになり、重合体の粘度のばらつきが生じるようになるため、実際の製造工程で使用できない。比較例3の試料は、「M1:M2」において、M2が多すぎるため、それにより高分子量化(ゴム化)が進みすぎて硬くなりすぎ、粘度等が測定できなかった。比較例4の試料は、「M1:M2」において、M2が少なすぎるため、重合反応が進まず、所望の粘度が得られていない。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の制振ダンパー用シリコーン組成物、制振ダンパー用粘性流体は、土木用,建築用の制震ダンパー、家電用や電子機器用の制振ダンパー等に使用することにより、優れた機能を発揮することができる。なかでも、橋梁やビルといった大型建造物に使用される制震ダンパー、とりわけ高層ビル用制震ダンパーに使用することにより、より優れた機能を発揮することができる。
また、本発明の制振ダンパー用シリコーン組成物や制振ダンパー用粘性流体を用いた、建築用の制震壁等の制震装置や免震装置、家電用や電子機器用の制振材や衝撃吸収材、自動車用の制振材や衝撃吸収材等も、本発明の制振ダンパーとして利用することが可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 制震壁
2 垂下壁
3 立上り壁
4 シリコーン組成物
図1
図2