(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156931
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】テトラカルボン酸二無水物、カルボニル化合物、酸無水物基含有化合物及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 307/93 20060101AFI20221006BHJP
C07C 63/49 20060101ALI20221006BHJP
C07C 51/347 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C07D307/93
C07C63/49 CSP
C07C51/347
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060875
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】只野 歩
(72)【発明者】
【氏名】渡部 大輔
【テーマコード(参考)】
4C037
4H006
【Fターム(参考)】
4C037UA04
4H006AA01
4H006AA02
4H006AA03
4H006AB84
4H006BJ20
4H006BJ50
4H006BS20
4H006BS30
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ポリイミドを製造するための原料モノマーとして使用した場合に、得られるポリイミドの黄色度及び濁度を共に一定水準以下の低い値とすることが可能であるとともに、耐熱性をより高いものとすることが可能なテトラカルボン酸二無水物を提供する。
【解決手段】下記一般式(1):
[式(1)中、R
1~R
5は、それぞれ独立に、水素原子及び炭素数1~20の炭化水素基よりなる群から選択される1種を示す。]で表されることを特徴とするテトラカルボン酸二無水物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】
[式(1)中、R
1~R
5は、それぞれ独立に、水素原子及び炭素数1~20の炭化水素基よりなる群から選択される1種を示す。]
で表されることを特徴とするテトラカルボン酸二無水物。
【請求項2】
下記一般式(2):
【化2】
[式(2)中、R
1~R
5は、それぞれ独立に、水素原子及び炭素数1~20の炭化水素基よりなる群から選択される1種を示し、
R
6及びR
7は、それぞれ独立に、水素原子及び炭素数1~10の炭化水素基よりなる群から選択される1種を示す。]
で表されることを特徴とするカルボニル化合物。
【請求項3】
下記一般式(3):
【化3】
[式(3)中、R
1~R
5は、それぞれ独立に、水素原子及び炭素数1~20の炭化水素基よりなる群から選択される1種を示し、
R
6は、それぞれ独立に、水素原子及び炭素数1~10の炭化水素基よりなる群から選択される1種を示す。]
で表されることを特徴とする酸無水物基含有化合物。
【請求項4】
下記一般式(2):
【化4】
[式(2)中、R
1~R
5は、それぞれ独立に、水素原子及び炭素数1~20の炭化水素基よりなる群から選択される1種を示し、
R
6及びR
7は、それぞれ独立に、水素原子及び炭素数1~10の炭化水素基よりなる群から選択される1種を示す。]
で表されるカルボニル化合物を、酸触媒を用いて、炭素数1~5のカルボン酸中において加熱することにより、下記一般式(1):
【化5】
[式(1)中、R
1~R
5は、それぞれ独立に、水素原子及び炭素数1~20の炭化水素基よりなる群から選択される1種を示す。]
で表されるテトラカルボン酸二無水物を得ることを特徴とするテトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【請求項5】
ギ酸、2-プロパノール及び水素からなる群から選択される少なくとも1種の還元剤、塩基、並びに、パラジウム触媒の存在下、下記一般式(4):
【化6】
[式(4)中、R
1~R
3は、それぞれ独立に、水素原子及び炭素数1~20の炭化水素基よりなる群から選択される1種を示し、
R
6は、それぞれ独立に、炭素数1~10の炭化水素基よりなる群から選択される1種を示し、
Xはハロゲン原子を示す。]
で表される芳香族化合物と、下記一般式(5):
【化7】
[式(5)中、R
4~R
5は、それぞれ独立に、水素原子及び炭素数1~20の炭化水素基よりなる群から選択される1種を示し、
R
7は、それぞれ独立に、炭素数1~10の炭化水素基よりなる群から選択される1種を示す。]
で表される脂環式化合物とを反応させることにより、下記一般式(2):
【化8】
[式(2)中、R
1~R
5は、それぞれ独立に、水素原子及び炭素数1~20の炭化水素基よりなる群から選択される1種を示し、
R
6及びR
7は、それぞれ独立に、水素原子及び炭素数1~10の炭化水素基よりなる群から選択される1種を示す。]
で表されるカルボニル化合物を得ることを特徴とするカルボニル化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラカルボン酸二無水物、カルボニル化合物、酸無水物基含有化合物及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、テトラカルボン酸二無水物は、ポリイミドを製造するための原料、エポキシ硬化剤、医薬中間体等の分野において利用されている。そして、このようなテトラカルボン酸二無水物としては、従来より、様々な種類の化合物(芳香族系テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物等)が知られている。
【0003】
例えば、特開2015-7219号公報(特許文献1)には、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等の芳香族系テトラカルボン酸二無水物が開示されている。しかしながら、特許文献1に記載されているような従来の芳香族系のテトラカルボン酸二無水物は、これを用いてポリイミドを製造した場合に、耐熱性の高いポリイミドを得ることは可能であるものの、黄色度(YI)の値が大きくなり、褐色を呈するものとなっていた。また、特許文献1に記載されているような従来の芳香族系のテトラカルボン酸二無水物は、濁度(HAZE)の値の低いポリイミドを製造することも困難であった。そのため、例えば、透明性が要求されるような用途に、芳香族系テトラカルボン酸二無水物を利用して得られたポリイミドを応用することは困難であった。このように、従来の芳香族系テトラカルボン酸二無水物は、これを用いてポリイミドを製造した場合に黄色度(YI)と濁度(HAZE)を共に一定の水準以下(例えばYIが20以下かつHAZEが15以下)とするといった点で問題があった。
【0004】
また、国際公開第2017/98936号(特許文献2)には、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,1’-ビシクロヘキサン-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸-3,4:3’,4’-二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物等の脂環式テトラカルボン酸二無水物が開示されている。このような特許文献2に記載されているような従来の脂環式テトラカルボン酸二無水物は、これをポリイミドの原料として利用した場合に、着色が抑制されたポリイミドを製造することが可能なものであるものの、得られるポリイミドの耐熱性が低いものとなり、耐熱性が必要となるような用途に応用することができなかった。このように、従来の脂環式テトラカルボン酸二無水物は、これを用いてポリイミドを製造した場合に耐熱性の点で問題があった。
【0005】
そして、このような芳香族系テトラカルボン酸二無水物や脂環式テトラカルボン酸二無水物の問題点を解消すべく、近年では、ポリイミドの製造に利用した場合に、十分な透明性を確保するといった観点で、黄色度及び濁度を一定水準(特定の基準値)以下とすることを可能としつつ、耐熱性を高い水準のものとすることが可能となるような、新たな構造を有するテトラカルボン酸二無水物の開発が行われている。例えば、国際公開第2015/163314号(特許文献3)においては、ノルボルナン環と芳香環とを骨格構造中に有する特定の一般式で表されるテトラカルボン酸二無水物が開示されている。このような特許文献3に記載のテトラカルボン酸二無水物は、これをポリイミドの原料に利用した場合、黄色度及び濁度を一定水準以下としつつ、耐熱性の高いポリイミドを得ることが可能であった。なお、用途によって、特に要求される特性等が異なることから、ポリイミドの分野においては、ポリイミドを形成した場合に一部の特性をより優れたものとすることが可能となるような、新たなテトラカルボン酸二無水物の出現が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-7219号公報
【特許文献2】国際公開第2017/98936号
【特許文献3】国際公開第2015/163314号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、ポリイミドを製造するための原料モノマーとして使用した場合に、得られるポリイミドの黄色度及び濁度を共に一定水準以下の低い値とすることが可能であるとともに、耐熱性をより高いものとすることが可能なテトラカルボン酸二無水物;そのテトラカルボン酸二無水物を効率よく製造するための原料として使用することが可能なカルボニル化合物;前記テトラカルボン酸二無水物の中間体として得ることが可能な酸無水物基含有化合物;前記テトラカルボン酸二無水物を効率よく確実に製造することが可能な製造方法;並びに、前記カルボニル化合物を効率よく確実に製造することが可能な製造方法;を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、テトラカルボン酸二無水物を下記一般式(1)で表される化合物とすることにより、驚くべきことに、これをポリイミドを製造するための原料モノマーとして使用した場合に、得られるポリイミドの黄色度及び濁度を共に一定水準以下の低い値とすること(YIを従来の芳香族系テトラカルボン酸二無水物では達成できないような20以下の値としつつHAZEを15以下の値とすること)を可能としながら、前記特許文献3に記載のテトラカルボン酸二無水物を用いてポリイミドを製造した場合と比較した場合においても、より高い耐熱性を達成することが可能となって、ポリイミドの耐熱性を更に高い水準のものとすることが可能となることを見出すとともに、下記一般式(1)で表される化合物により、前記特許文献3に記載のテトラカルボン酸二無水物を用いてポリイミドを製造した場合と比較した場合に、線膨張係数をより低い値とすることも可能となることも見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明のテトラカルボン酸二無水物は、下記一般式(1):
【0010】
【0011】
[式(1)中、R1~R5は、それぞれ独立に、水素原子及び炭素数1~20の炭化水素基よりなる群から選択される1種を示す。]
で表されることを特徴とするものである。なお、このような一般式(1)で表される化合物よりなる本発明のテトラカルボン酸二無水物は、カルボン酸無水物基を2つ有するものであるが、それぞれのカルボン酸無水物基が結合している骨格の部分の構造(一方はノルボルナン骨格と結合し、もう一方はベンゼン骨格と結合している)が大きく異なることから、一つの化合物中のそれぞれのカルボン酸無水物基の反応性が大きく異なるものとなり、化学選択的な重合反応の設計等に好適に適用することも可能である。
【0012】
本発明のカルボニル化合物は、下記一般式(2):
【0013】
【0014】
[式(2)中、R1~R5は、それぞれ独立に、水素原子及び炭素数1~20の炭化水素基よりなる群から選択される1種を示し、
R6及びR7は、それぞれ独立に、水素原子及び炭素数1~10の炭化水素基よりなる群から選択される1種を示す。]
で表されることを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の酸無水物基含有化合物は、下記一般式(3):
【0016】
【0017】
[式(3)中、R1~R5は、それぞれ独立に、水素原子及び炭素数1~20の炭化水素基よりなる群から選択される1種を示し、
R6は、それぞれ独立に、水素原子及び炭素数1~10の炭化水素基よりなる群から選択される1種を示す。]
で表されることを特徴とするものである。
【0018】
また、本発明のテトラカルボン酸二無水物の製造方法は、前記一般式(2)で表されるカルボニル化合物を、酸触媒を用いて、炭素数1~5のカルボン酸中において加熱することにより、前記一般式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物を得ることを特徴とする方法である。
【0019】
また、本発明のカルボニル化合物の製造方法は、ギ酸、2-プロパノール及び水素からなる群から選択される少なくとも1種の還元剤、塩基、並びに、パラジウム触媒の存在下、下記一般式(4):
【0020】
【0021】
[式(4)中、R1~R3は、それぞれ独立に、水素原子及び炭素数1~20の炭化水素基よりなる群から選択される1種を示し、
R6は、それぞれ独立に、炭素数1~10の炭化水素基よりなる群から選択される1種を示し、
Xはハロゲン原子を示す。]
で表される芳香族化合物と、下記一般式(5):
【0022】
【0023】
[式(5)中、R4~R5は、それぞれ独立に、水素原子及び炭素数1~20の炭化水素基よりなる群から選択される1種を示し、
R7は、それぞれ独立に、炭素数1~10の炭化水素基よりなる群から選択される1種を示す。]
で表される脂環式化合物とを反応させることにより、前記一般式(2)で表されるカルボニル化合物を得ることを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ポリイミドを製造するための原料モノマーとして使用した場合に、得られるポリイミドの黄色度及び濁度を共に一定水準以下の低い値とすることが可能であるとともに、耐熱性をより高いものとすることが可能なテトラカルボン酸二無水物;そのテトラカルボン酸二無水物を効率よく製造するための原料として使用することが可能なカルボニル化合物;前記テトラカルボン酸二無水物の中間体として得ることが可能な酸無水物基含有化合物;前記テトラカルボン酸二無水物を効率よく確実に製造することが可能な製造方法;並びに、前記カルボニル化合物を効率よく確実に製造することが可能な製造方法;を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】測定回数とシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーからの溶出液の薄層クロマトグラフィー(TLC)の測定結果との関係を示すグラフである。
【
図2】実施例1で得られたテトラエステル化合物PNBTEの
1H NMRスペクトルを示すグラフである。
【
図3】実施例1で得られたテトラエステル化合物PNBTEの
13C NMRスペクトルを示すグラフである。
【
図4】実施例2で得られたテトラカルボン酸無水物PNBDAの
1H NMRスペクトルを示すグラフである。
【
図5】実施例2で得られたテトラカルボン酸無水物PNBDAの
13C NMRスペクトルを示すグラフである。
【
図6】試験例1で得られたポリイミドの赤外吸収スペクトル(IRスペクトル)のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。なお、本明細書においては、特に断らない限り、数値X及びYについて「X~Y」という表記は「X以上Y以下」を意味するものとする。かかる表記において数値Yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Xにも適用されるものとする。
【0027】
[テトラカルボン酸二無水物]
本発明のテトラカルボン酸二無水物は、前記一般式(1)で表されることを特徴とするものである。なお、一般式(1)中のR1~R5は、それぞれ独立に、水素原子及び炭素数1~20の炭化水素基よりなる群から選択される1種を示す。
【0028】
前記一般式(1)中のR1~R5として選択され得る炭化水素基は、炭素数1~20(より好ましくは1~10、更に好ましくは1~5、特に好ましくは1~3)のものであればよい。このような炭素数を前記上限以下とした場合には、前記上限を超えた場合と比較して、製造時の還流条件の温度を低くすることが可能となり、これに起因して製造時に分解等の副反応を低減させることが可能となって、得られるテトラカルボン酸ニ無水物を用いてポリイミドを形成した場合により透明性が高いものとすることが可能となるとともに、得られるテトラカルボン酸ニ無水物に含有される残存溶媒量をより低減させることも可能となる。また、このような炭化水素基は、飽和炭化水素基であっても、あるいは、不飽和炭化水素基であってもよい。さらに、前記炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれのものであってもよい。このような炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基のような直鎖状のアルキル基;イソプロピル基、イソブチル基等の分岐鎖状のアルキル基;シクロへキシル基等の環状のアルキル基;ベンジル基等の芳香族炭化水素基;等を例示できる。このような一般式(1)中のR1~R5として選択され得る炭化水素基は、アルキル基であることがより好ましい。また、このようなアルキル基としては、精製の容易さの観点から、メチル基、エチル基がより好ましい。
【0029】
また、前記一般式(1)中のR1~R5としては、より高度な耐熱性が得られること、原料の入手が容易であること、精製がより容易であること、等といった観点から、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基又はイソプロピル基であることが好ましく、水素原子、メチル基又はエチル基であることがより好ましく、水素原子又はメチル基であることが更に好ましく、水素原子であることが特に好ましい。
【0030】
なお、このようなテトラカルボン酸二無水物の構造は、NMR測定により特定することができる。
【0031】
また、本発明のテトラカルボン酸二無水物は、その構造から様々な用途に利用可能でき、例えば、ポリマー形成用のモノマー、エポキシ硬化剤、医薬品原料等に応用できる。前記テトラカルボン酸二無水物をポリマー形成用のモノマー(ポリマー原料)として利用する場合、例えば、ポリイミド、ポリアミド、不飽和ポリエステル等のポリマーを形成するための共重合モノマーとして好適な利用できる。なお、このようなポリマーの製造に利用した場合には、前記テトラカルボン酸二無水物の構造に由来して、重合時の取り扱いが容易となる。また、前記テトラカルボン酸二無水物をポリイミドを形成するためのモノマーとして利用する場合、例えば、前記テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを溶媒中で反応させてポリアミド酸(ポリアミック酸)とし、これを基材(例えばガラス基板等)に塗布して焼成することで、フィルム状のポリイミドを容易に得ることができる。なお、このようなジアミンとしては特に制限されず、ポリイミドの製造に利用可能な公知のジアミンを適宜利用できる。なお、このようにして得られるポリイミドを低い黄色度と高い耐熱性とを有するものとすることも可能である。また、エポキシ硬化剤として利用する場合、エポキシドに添加して利用すればよく、加熱(例えば100~200℃程度の加熱)により容易にエポキシドを硬化させることも可能となる。さらに、骨格の芳香族部分に結合する酸無水物基と、骨格のノルボルナン部分に結合する酸無水物基の反応性が異なるため、化学選択的な反応を引き起こすことも可能であり、各種製品の設計(例えば、医薬品原料として利用して、様々な化合物を設計する際等)に有用である。
【0032】
[カルボニル化合物]
本発明のカルボニル化合物は、前記一般式(2)で表されることを特徴とするものである。なお、一般式(2)中のR1~R5は、それぞれ独立に、水素原子及び炭素数1~20の炭化水素基よりなる群から選択される1種を示し、R6及びR7は、それぞれ独立に、水素原子及び炭素数1~10の炭化水素基よりなる群から選択される1種を示す。
【0033】
一般式(2)中のR1~R5はそれぞれ、前記一般式(1)中のR1~R5と同義であり、その好適なものも前述の一般式(1)中のR1~R5と同様である。
【0034】
また、一般式(2)中のR6及びR7として選択され得る炭化水素基は、炭素数1~10(より好ましくは1~5、特に好ましくは1~3)のものであればよい。このような炭素数を前記上限以下とした場合には、前記上限を超えた場合と比較して合成と精製を容易にすることが可能となる。また、このような炭化水素基は、飽和炭化水素基であっても、あるいは、不飽和炭化水素基であってもよい。さらに、前記炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれのものであってもよい。このようなR6及びR7として選択され得る炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基のような直鎖状のアルキル基;イソプロピル基、イソブチル基等の分岐鎖状のアルキル基;シクロへキシル基等の環状のアルキル基;ベンジル基等の芳香族炭化水素基;等を例示できる。また、このような一般式(2)中のR6及びR7として選択され得る炭化水素基は、精製の容易さの観点から、アルキル基であることが好ましく、メチル基、エチル基であることが特に好ましい。
【0035】
また、一般式(2)中のR6及びR7としては、それぞれ独立に、合成と精製の容易さの観点で、水素原子、メチル基、エチル基であることが好ましく、メチル基、エチル基であることが特に好ましい。なお、このようなカルボニル化合物の構造は、NMR測定により特定することができる。
【0036】
[酸無水物基含有化合物]
本発明の酸無水物基含有化合物は、上記一般式(3)で表されることを特徴とするものである。なお、一般式(3)中、R1~R5は、それぞれ独立に、水素原子及び炭素数1~20の炭化水素基よりなる群から選択される1種を示し、R6は、それぞれ独立に、水素原子及び炭素数1~10の炭化水素基よりなる群から選択される1種を示す。
【0037】
一般式(3)中のR1~R5はそれぞれ、前記一般式(1)中のR1~R5と同義であり、その好適なものも前述の一般式(1)中のR1~R5と同様である。また、一般式(3)中のR6はそれぞれ、前記一般式(2)中のR6と同義であり、その好適なものも前述の一般式(2)中のR6と同様である。なお、このような酸無水物基含有化合物の構造は、NMR測定により特定することができる。
【0038】
[テトラカルボン酸二無水物の製造方法]
本発明のテトラカルボン酸二無水物の製造方法は、前記一般式(2)で表されるカルボニル化合物を、酸触媒を用いて(酸触媒の存在下で)、炭素数1~5のカルボン酸中において加熱することにより、前記一般式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物を得ることを特徴とする方法である。
【0039】
前記一般式(2)で表されるカルボニル化合物は、前記本発明のカルボニル化合物として説明したものと同様のものであり、その好適なものも同様である。
【0040】
前記酸触媒としては特に制限されず、隣接する2つの炭素原子にそれぞれ結合したエステル基又はカルボン酸の構造部分(ジエステル又はジカルボン酸の部分)を酸無水物とする反応(以下、場合により、単に「酸無水物化反応」と称する)において利用することが可能な公知のもの(例えば、国際公開第2015/163314号の段落[0140]に例示されている酸触媒(例えば、トリフルオロメタンスルホン酸等)や、その他公知の酸触媒(例えば塩酸、硫酸等))を適宜利用できる。また、このような酸触媒としては、反応収率向上の観点から、トリフルオロメタンスルホン酸、テトラフルオロエタンスルホン酸がより好ましく、トリフルオロメタンスルホン酸が特に好ましい。なお、このような酸触媒としては、1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて利用してもよい。
【0041】
また、前記酸触媒の使用量としては、特に制限されないが、前記カルボニル化合物の使用量1モルに対して酸触媒により供与される水素イオン(H+)のモル量が0.005~0.2モル(より好ましくは0.01~0.1モル)となるような量とすることが好ましい。このような酸触媒の使用量が前記下限未満では、反応速度が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えた場合には、触媒を利用することにより得られる効果をそれ以上向上させることが困難となり、却って経済性が低下する傾向にある。また、酸触媒の濃度は前記カルボニル化合物の使用量の総モル量に対して0.50~5.0モル%の範囲とすることが好ましい。
【0042】
また、本発明においては、炭素数1~5のカルボン酸を用いる。このような炭素数1~5のカルボン酸を用いることで、効率よくテトラカルボン酸二無水物を製造することが可能となる。また、このような炭素数1~5のカルボン酸の中でも、製造及び精製の容易さの観点から、ギ酸、酢酸、プロピオン酸が好ましく、酢酸がより好ましい。このようなカルボン酸は1種を単独で或は2種以上を組み合わせて利用してもよい。
【0043】
また、本発明においては、前記カルボニル化合物を、前記酸触媒を用いて、前記炭素数1~5のカルボン酸中において加熱するが、炭素数1~5のカルボン酸中における加熱が可能となるように、前記カルボン酸、前記テトラエステル化合物及び前記酸触媒の混合物を調製することが好ましい。このような混合物の調製方法は特に制限されず、加熱工程に利用する装置などに応じて適宜調製すればよく、例えば、同一の容器内にこれらを添加(導入)することで調製してもよい。
【0044】
また、このような混合物を調製する際には、前記炭素数1~5のカルボン酸に更に他の溶剤を添加して利用してもよい。このような他の溶剤としては、酸無水物化反応に利用可能な公知のもの(例えば、国際公開第2015/163314号の段落[0146]に例示されている溶剤(例えば、酢酸エチル等のエステル系溶媒や、ベンゼン、トルエン等の芳香族系溶媒等))を適宜利用することができる。
【0045】
また、前記カルボニル化合物がエステル化合物である場合(前記一般式(2)中のR6及びR7がいずれも炭化水素基である場合)、酸触媒を添加する前(前記混合物を調製する前)に、予め炭素数1~5のカルボン酸中(なお、場合により炭素数1~5のカルボン酸と他の溶剤との混合物中)において前記カルボニル化合物を加熱して、前記カルボニル化合物中のR6及びR7を水素原子に置換してもよい。
【0046】
また、前記カルボニル化合物を、前記酸触媒を用いて、前記炭素数1~5のカルボン酸中において加熱する工程(以下、場合により単に「加熱工程」と称する)に際しては、反応時に生成された水及び炭素数1~5のカルボン酸のエステル化合物(例えば酢酸エチル等)を蒸留で系外に排出しながら反応させることが好ましい。また、前記加熱工程に際しては、前記炭素数1~5のカルボン酸とともに無水酢酸を利用して、反応時に生成された水の除去を行ってもよい。なお、前記加熱工程においては、より収率が向上するといった観点からは、水及び前記エステル化合物を蒸留する工程を採用することが好ましい。また、このような加熱工程は、加熱により還流させつつ、水及び前記エステル化合物を蒸留する工程とすることが好ましい。
【0047】
また、前記加熱工程においては、加熱温度を80~180℃とすることが好ましく、80~150℃とすることがより好ましく、100~140℃とすることが更に好ましく、110~130℃とすることが特に好ましい。また、このような加熱温度は、上記温度条件の範囲内において、前記酸触媒の沸点よりも低い温度に設定することが好ましい。また、加熱時間も特に制限されないが、0.5~100時間とすることが好ましく、1~50時間とすることがより好ましい。このような条件を満たすように加熱温度や加熱時間を設定することにより、より効率よく生成物を得ることができる。
【0048】
また、前記加熱工程において、圧力条件(反応時の圧力条件)は特に制限されず、常圧下であっても、加圧条件下であっても或は減圧条件下であってもよく、いずれの条件下であっても反応を進行させることが可能であり、還流を採用する場合には溶媒となる炭素数1~5のカルボン酸の蒸気等による加圧条件下で反応を行ってもよい。また、前記加熱工程に際して雰囲気ガスも特に制限されず、例えば、空気であっても不活性ガス(窒素、アルゴン等)であってもよい。
【0049】
さらに、前記加熱工程においては、より高収率でテトラカルボン酸二無水物を得るといった観点から、前記混合物中の生成物の濃度が30~80質量%(より好ましくは40~60質量%)となるように濃縮することが好ましい。このようにして濃縮して濃縮液を得た場合には、これを冷却(例えば、20~30℃まで冷却)して結晶を析出(冷却晶析)させることにより、効率よくテトラカルボン酸二無水物を得ることができる。
【0050】
このようにして、前記加熱工程を施すことにより、前記一般式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物を得ることが可能となる。
【0051】
なお、前記加熱工程において還流する場合において、副生する水及び炭素数1~5のカルボン酸のエステル化合物を蒸留で抜き出すことなく、そのまま還流を実施して反応を進行せしめた場合や、前記加熱工程において酸無水物を利用した場合には、前記一般式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物とともに、前記一般式(3)で表される酸無水物基含有化合物を製造することも可能である。このように、前記一般式(3)で表される酸無水物基含有化合物は、前記加熱工程において採用する条件を適宜変更することで、製造することができる。
【0052】
[カルボニル化合物の製造方法]
本発明のカルボニル化合物の製造方法は、ギ酸、2-プロパノール及び水素からなる群から選択される少なくとも1種の還元剤、塩基、並びに、パラジウム触媒の存在下、前記一般式(4)で表される芳香族化合物と、前記一般式(5)で表される脂環式化合物とを反応させることにより、前記一般式(2)で表されるカルボニル化合物を得ることを特徴とする方法である。
【0053】
本発明においては、前記一般式(2)で表されるカルボニル化合物を得るために、前記一般式(4)で表される芳香族化合物を用いる。このような一般式(4)中のR1~R3はそれぞれ独立に、水素原子及び炭素数1~20の炭化水素基よりなる群から選択される1種を示す。このような一般式(4)中のR1~R3はそれぞれ、前記一般式(2)中のR1~R3と同義であり、その好適なものも前述の一般式(2)中のR1~R3と同様である。また、前記一般式(4)中のR6は、それぞれ独立に、炭素数1~10の炭化水素基よりなる群から選択される1種を示す。このような一般式(4)中のR6として選択され得る炭化水素基はそれぞれ、前記一般式(2)中のR6として選択され得る炭化水素基と同義である(その好適なものも前記一般式(2)中のR6として選択され得る炭化水素基と同様である)。また、前記一般式(4)中のXはハロゲン原子である。前記一般式(4)中のXをハロゲン原子とすることで、前記一般式(5)で表される脂環式化合物との間で効率よく還元的ヘック反応を進行させることが可能となる。また、前記一般式(4)中のXとして利用されるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子がより好ましく、臭素原子、ヨウ素原子が特に好ましい。また、このような芳香族化合物としては、特に制限されないが、4-ブロモフタル酸ジメチル、4-ブロモフタル酸ジエチル、4-ヨードフタル酸ジメチル、4-ヨードフタル酸ジエチル等を例示できる。また、このような一般式(4)で表される芳香族化合物を製造するための方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用できる。なお、このような芳香族化合物としては、市販のものを適宜利用してもよい。
【0054】
また、本発明においては、前記一般式(2)で表されるカルボニル化合物を得るために、前記一般式(5)で表される脂環式化合物を用いる。前記一般式(5)中のR4~R5は、それぞれ独立に、水素原子及び炭素数1~20の炭化水素基よりなる群から選択される1種を示す。このような一般式(5)中のR4~R5はそれぞれ、前記一般式(2)中のR4~R5と同義であり、その好適なものも前述の一般式(2)中のR4~R5と同様である。前記一般式(5)中のR7は、それぞれ独立に、炭素数1~10の炭化水素基よりなる群から選択される1種を示す。このような一般式(5)中のR7として選択され得る炭化水素基はそれぞれ、前記一般式(2)中のR7として選択され得る炭化水素基と同義である(その好適なものも前記一般式(2)中のR7として選択され得る炭化水素基と同様である)。
【0055】
前記一般式(5)で表される脂環式化合物としては、例えば、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸ジメチル(ナジック酸ジメチル)、5-メチルナジック酸ジメチル、5,6-ジメチルナジック酸ジメチル等が挙げられる。また、このような一般式(5)で表される脂環式化合物を製造するための方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用できる。また、このような一般式(5)で表される脂環式化合物は、市販のものを適宜利用してもよい(例えば、前記一般式(5)で表される脂環式化合物として利用され得る、ナジック酸ジメチル等は、市販品より入手することが可能である)。
【0056】
また、前記還元剤としては、ギ酸、2-プロパノール及び水素からなる群から選択される少なくとも1種を用いる。このような還元剤を用いることにより、効率よく還元的ヘック反応を進行させることが可能となり、十分に効率よく目的生成物を得ることが可能となる。このような還元剤(水素源)としては、反応効率の観点から、ギ酸が好ましい。
【0057】
また、前記塩基としては、特に制限されず、いわゆる還元的ヘック反応に用いることが可能な公知の塩基(例えば、国際公開第2015/163314号の段落[0088]に例示されているもの等)を適宜利用することができる。このような塩基としては、反応収率向上の観点から、トリエチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムがより好ましく、トリエチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミンが更に好ましく、トリエチルアミンが特に好ましい。なお、このような塩基は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて利用することができる。
【0058】
さらに、前記パラジウム触媒としては、特に制限されず、いわゆる還元的ヘック反応に用いることが可能な公知のパラジウム触媒(例えば、国際公開第2015/163314号の段落[0085]~段落[0087]に例示されているもの等)を適宜利用することができる。このようなパラジウム触媒としては、反応収率の観点からは、酢酸パラジウム、塩化パラジウム又はこれらに他の配位子(他の錯イオンや他の分子:例えば、酢酸パラジウムの場合、酢酸イオン以外の錯イオンや分子)が更に結合した錯体を用いることがより好ましく、酢酸パラジウム又は酢酸パラジウムに配位子(他の錯イオンや他の分子)が更に結合した錯体を用いることが特に好ましい。また、このようなパラジウム触媒として利用可能な酢酸パラジウムに配位子が更に結合した錯体としては、酢酸パラジウムにホスフィン配位子が結合した錯体(酢酸パラジウムとホスフィン化合物とから合成できるもの)を好適に利用できる。このようなホスフィン化合物(酢酸パラジウムにホスフィン配位子として結合する化合物)としては、特に制限されず、トリフェニルホスフィン、トリシクロへキシルホスフィン、ジシクロへキシルフェニルホスフィン、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、トリ(o-トリル)ホスフィン等を適宜利用でき、中でも、トリ(o-トリル)ホスフィンがより好ましい。
【0059】
また、本発明においては、前記還元剤、前記塩基、並びに、前記パラジウム触媒の存在下、前記一般式(4)で表される芳香族化合物と、前記一般式(5)で表される脂環式化合物とを反応させる。このような反応(前記芳香族化合物と前記脂環式化合物との反応)は、前記還元剤、前記塩基、並びに、前記パラジウム触媒の存在する溶媒中で行うことが好ましい。このように、反応に溶媒を用いることにより、溶媒中においてより効率よく反応を進行させることが可能となる。このような溶媒としては、公知の溶媒(例えば、アミド系溶媒等)を適宜用いることでき、特に制限されないが、収率がより向上することから、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドを用いることがより好ましい。このような溶媒は1種を単独で用いてもよく、あるいは、2種以上を混合して利用してもよい。なお、溶媒中に各成分を添加する順番等は特に制限されない。反応の制御の観点等から、適宜添加すればよい。ここにおいて、前記芳香族化合物と前記脂環式化合物との反応は発熱反応であることから内温制御が困難な傾向にあるため、例えば、内温を制御しながら反応を進行させるといった観点からは、溶媒中に還元剤及び塩基を含有させた溶液、或いは、溶媒中に還元剤と塩基と芳香族化合物とを含有させた溶液を準備し、これをパラジウム触媒と前記脂環式化合物と溶媒とを含む混合液に滴下して反応させてもよい。
【0060】
また、このような反応を行うために、本発明においては、前記溶媒と、前記還元剤と、前記塩基と、前記パラジウム触媒と、前記芳香族化合物と、前記脂環式化合物とを含む混合液を用いることが好ましい。このような混合液を用いることで、混合液中に前記還元剤と、前記塩基と、パラジウム触媒とが含まれることから、これらの存在下において反応を進行せしめることが可能となる。なお、前記混合液には、パラジウムに配位子として結合する化合物を更に含有させて、混合液中において錯体を形成してもよい。なお、このような混合液を利用する場合に、各成分を添加する順序などは特に制限されず、混合液を調製する方法としては、例えば、パラジウム錯体からなるパラジウム触媒を利用する場合、先ず、溶媒と、パラジウム触媒(例えば酢酸パラジウム)と、パラジウムに配位子として結合する化合物とを混合し、パラジウム錯体よりなるパラジウム触媒と、溶媒とを含む混合物を得た後、その混合物に塩基と、還元剤と、前記芳香族化合物と、前記脂環式化合物とを添加することにより、前記混合液を得る方法等を適宜採用してもよい。
【0061】
また、このような反応に利用する前記脂環式化合物の量は特に制限されないが、前記芳香族化合物1モルに対して0.5~10モルとすることが好ましく、1.5~5モルとすることがより好ましい。このような脂環式化合物の使用量が前記下限以上である場合には前記下限未満である場合と比較して反応効率が向上する傾向にあり、他方、前記上限以下である場合には前記上限を超えた場合と比較して副生成物の生成をより抑制できる傾向にある。
【0062】
また、前述のように溶媒中で反応を進行せしめるために前記混合液を利用する場合、前記混合液中の前記芳香族化合物及び前記脂環式化合物の総量は、1~80質量%とすることが好ましく、5~50質量%とすることがより好ましい。このような総量が前記下限以上である場合には前記下限未満である場合と比較して反応効率が向上する傾向にあり、他方、前記上限以下である場合には前記上限を超えた場合と比較して副生成物の生成をより抑制できる傾向にある。
【0063】
また、前述のように溶媒中で反応を進行せしめるために前記混合液を利用する場合、前記混合液中のパラジウム触媒の含有量は特に制限されないが、前記混合液中のパラジウムのモル量が、前記脂環式化合物のモル量の0.00001~0.2倍モル(より好ましくは0.00005~0.05倍モル)となる量とすることが好ましい。このようなパラジウム触媒の含有量が前記下限以上である場合には前記下限未満である場合と比較して反応効率が向上する傾向にあり、他方、前記上限以下である場合には前記上限を超えた場合と比較して、過剰な反応の進行を抑制でき、反応の制御がより容易となる傾向にある。
【0064】
また、このような混合液中の塩基の含有量としては、前記脂環式化合物のモル量に対して1.0~5.0倍モル(より好ましくは2倍程度)となる量とすることが好ましい。このような塩基の含有量が前記下限以上である場合には前記下限未満である場合と比較して反応効率が向上する傾向にあり、他方、前記上限以下である場合には前記上限を超えた場合と比較して副生成物の生成をより抑制できる傾向にある。
【0065】
また、前記混合液中の前記還元剤の含有量としては特に制限されないが、前記還元剤のモル量が、前記脂環式化合物のモル量の1.0~5.0倍モル(より好ましくは2倍程度)となる量とすることが好ましい。このような還元剤の含有量が前記下限未満では反応速度が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると副生成物が増加する傾向にある。
【0066】
また、このような反応に利用する反応装置としては特に制限されず、前記還元剤と、前記塩基と、前記パラジウム触媒と、前記芳香族化合物と、前記脂環式化合物とを導入することが可能な容器(例えば、ガラスフラスコやグラスライニングの釜等)を適宜利用できる。
【0067】
また、前記反応を行う際の雰囲気ガスの条件としては、原料及び生成物の安定性の観点から、不活性ガス雰囲気であることが好ましい。このような不活性ガスとしては、特に制限されず、例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン等が挙げられる。例えば、前記容器内の雰囲気ガスを窒素置換することにより反応を行ってもよい。
【0068】
また、このような反応の際の反応温度は、用いる原料化合物やパラジウム触媒の種類によっても異なるものであり、特に制限されないが、より高い反応効率が得られるといった観点からは、65~85℃とすることがより好ましく、70~80℃とすることが更に好ましい。また、このような反応の反応時間は、0.5~20時間(より好ましくは2~15時間)とすることが好ましい。このような反応温度及び反応時間の条件を前記範囲内とすることで、より効率よく前記一般式(2)で表されるカルボニル化合物を得ることが可能となる。なお、このような反応により得られる前記カルボニル化合物は、式(2)中のR6及びR7が水素原子以外の基となるエステル化合物となるが、このようにしてエステル化合物を得た後、R6及びR7を含むエステル基の部分がカルボン酸基に変換されるように公知の方法(例えば、低級カルボン酸中で加熱する方法)により反応させることにより、R6及びR7が水素原子である前記一般式(2)で表されるカルボニル化合物を得ることも可能である。
【0069】
このように前記芳香族化合物と前記脂環式化合物とを反応させることにより、前記一般式(2)で表されるカルボニル化合物を得ることが可能となる。
【実施例0070】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0071】
(合成例1:4-ブロモフタル酸ジメチルの合成)
容量が1Lの還流管付きのフラスコの内部を窒素置換した後、前記フラスコ内に、先ず、4-ブロモフタル酸無水物(80.0g、352mmol)を添加した後、メタノール(400mL)を添加し、次いで、塩酸(8.0mL、HClの濃度:35質量%)を添加して混合液を得た。次に、前記混合液を加熱して29時間還流させて、反応液を得た。なお、このような加熱還流により得られた反応液に対してガスクロマトグラフィーによる分析(GC分析)を行ったところ、4-ブロモフタル酸ジメチルの純度が86.8面積%となっていることが確認された。なお、かかるGC分析の際に採用した条件は以下の通りである。
【0072】
<GC測定条件1>
カラム:HP-5MS UI(アジレント・テクノロジー株式会社製)
カラム流量:1.2mL/min
注入量:1μL
注入口:200℃、8.9psi、スプリット比97.1:1
オーブンでの加熱条件:100℃で2分間保持した後、昇温速度10℃/minで300℃まで昇温し、300℃で1分間保持した。
検出器:FID、300℃。
【0073】
次いで、得られた反応液からメタノールを減圧留去した後、酢酸エチル(400mL)を加えて、酢酸エチル溶液を得た。次に、このようにして得られた酢酸エチル溶液を飽和重曹水(160mL)で2回洗浄した後、更に水(160mL)で1回洗浄した。次に、このような洗浄後の酢酸エチル溶液から溶媒を留去して残留物を得た。このようにして得られた残留物を室温(25℃程度)条件下、真空乾燥させることにより、白色固体として4-ブロモフタル酸ジメチル(77.7g、284mmol、収率:80.1%、純度(GC分析により確認):100面積%、前記一般式(4)で表される化合物に相当する化合物)を得た。なお、このようなGC分析の測定条件は、上記<GC測定条件1>と同様の条件を採用した。
【0074】
(実施例1)
窒素置換した容量が1Lのフラスコに、トリ(o-トリル)ホスフィン(579mg、1.90mmol)と、酢酸パラジウム(Pd(OAc)2、214mg、0.951mmol)を添加した後、N,N-ジメチルホルムアミド(150mL、略称:DMF)を更に添加して混合液を得た。その後、フラスコ内に窒素を流しながら(窒素気流下)、前記混合液を50℃で30分間撹拌することにより、前記混合液中において、トリ(o-トリル)ホスフィンを配位子として有するパラジウム錯体を形成せしめた。次いで、前記パラジウム錯体を含む混合液(黄色の溶液)に対して、合成例1で得られた4-ブロモフタル酸ジメチル(57.2g、209mmol、前記一般式(4)で表される化合物に相当する化合物(原料化合物の1種))、ナジック酸ジメチル(40.0g、190mmol、前記一般式(5)で表される化合物に相当する化合物(原料化合物の1種))を加えて、原料混合液を得た。次いで、このようにして得られた原料混合液に対して、トリエチルアミン(38.5g、381mmol)と、ギ酸(17.5g、381mmol)と、DMF(96.0mL)とを含む溶液を添加することにより、反応用の混合液を得た。その後、前記反応用の混合液を80℃まで昇温し、80℃で5時間維持することにより、前記混合液中において4-ブロモフタル酸ジメチルとナジック酸ジメチルとを反応せしめ、反応溶液を得た。なお、このようにして得られた反応溶液に対してGC分析を行ったところ、2種の原料化合物(4-ブロモフタル酸ジメチル及びナジック酸ジメチル)の消失が確認され、更に、GC分析により算出される混合液中の反応生成物の収率は67.1%であることが分かった。なお、かかるGC分析の際に採用した条件は以下の通りである。
【0075】
<GC測定条件2>
カラム:HP-5MS UI(アジレント・テクノロジー株式会社製)
カラム流量:1.2mL/min
注入量:1μL
注入口:320℃、9.5psi、スプリット比97.1:1
オーブンでの加熱条件:100℃で2分間保持した後、昇温速度10℃/minで320℃まで昇温し、320℃で16分間保持した。
検出器:FID、340℃。
【0076】
次に、前述のようにして得られた反応溶液に水(246mL)を加えた後、トルエン(400mL)で2回抽出を行い、トルエン溶液を得た。次いで、塩酸(HClの濃度:5質量%、205mL)、飽和重曹水(205mL)、水(205mL)を記載した順でそれぞれ1回ずつ用いて、前記トルエン溶液を洗浄した。次いで、洗浄後の溶液から有機層を分離して得た後、得られた有機層を濾過し、その後、溶媒を減圧留去することにより、黄色の油状物質よりなる粗生成物(83.1g、算出収率:62.4%、トルエン溶液中の含有率(GC分析により算出):57.8質量%)を得た(粗生成物を得る工程)。なお、ここにおいて、算出収率とは、製造に用いた原料化合物の仕込み量(使用量)から算出される、生成物の理論量に対する収率をいう(以下において、同様の意味で利用する)。また、このようなGC分析の測定条件は、上記<GC測定条件2>と同様の条件を採用した。
【0077】
次に、前記「粗生成物を得る工程」を上記と同様の手法で別途行い、総量が182gの粗生成物(HPLC純度73.1面積%)を準備した。そして、得られた粗生成物182gをシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製することにより、淡黄色の油状物質よりなる生成物を得た。すなわち、このような精製に際しては、先ず、カラムに対して粗生成物の質量の2.5倍量のシリカゲルを充填した後、得られたカラムに、粗生成物を移動相溶媒に溶解させた溶液を染み込ませた。なお、移動相溶媒としてはヘプタンと酢酸エチルの混合液を用い、
図1に示すように、測定回数に応じて、前記移動相溶媒中のヘプタンと酢酸エチルの容量比(ヘプタン/酢酸エチル)が4/1から徐々に2/1となるようにすることで、前記移動相溶媒の極性を徐々に変化させながら、複数回の測定(合計30回の測定)を行った。なお、
図1に示すように、1回目~10回目の測定まではヘプタンと酢酸エチルの容量比が4/1の溶媒を用い、11回目~24回目の測定まではヘプタンと酢酸エチルの容量比が3/1の溶媒を用い、25回目~30回目の測定まではヘプタンと酢酸エチルの容量比が2/1の溶媒を用いた。また、このような測定に際しては、各回の測定後、カラムに吸着された物質を溶出させて、溶出液をそれぞれ集めた。このようにして複数回の測定を行った後、薄層クロマトグラフィー(TLC)により、目的物のスポットに一致する位置に物質が吸着された測定回(16回目~25回目の測定回)を確認し、その測定回(16回目~25回目)の溶出液(フラクション)を一つにまとめ、その後、得られた溶出液から溶媒を留去することにより、107gの淡黄色の油状物質よりなる生成物(粗生成物に対する回収率:58.8質量%)を得た。なお、前記TLCに際しては、ヘプタンと酢酸エチルの容量比が1/1の溶媒を用い、検出に紫外線(UV)を利用し、TLCの発色試薬としてKMn
2O
7とK
2CO
3とを含む水溶液を利用した。
【0078】
このようにして得られた生成物の構造確認のために、NMR(
1H-NMR、
13C-NMR)測定を行った。なお、NMR測定には、NMR測定機(Varian製、600MHz NMR)を用い、溶剤としてCDCl
3を利用した。このようにして得られた生成物の
1H-NMR(CDCl
3)及び
13C-NMR(CDCl
3)スペクトルをそれぞれ
図2及び
図3に示す。
図2及び
図3に示す結果から、得られた生成物は、下記式(A):
【0079】
【0080】
で表されるカルボニル化合物(化合物名:dimethyl 5-(3,4-bis(methoxycarbonyl)phenyl)bicyclo[2.2.1]heptane-2,3-dicarboxylate、略称:PNBTE)であることが確認された。このような結果から、実施例1においては、PNBTEが107g(265mmol)得られたことが分かった。
【0081】
また、このような生成物(PNBTE)の純度をHPLCにより測定したところ、純度は99.9面積%であることが確認された。なお、粗生成物及び生成物の純度の測定のために採用したHPLC測定の条件としては、以下に記載の条件を採用した。
【0082】
<HPLC測定条件>
カラム:ZORBAX SB-C18(2.1×150mm、1.8μm)(アジレント・テクノロジー株式会社製)
移動相:アセトニトリル(MeCN)/水(H2O)=7/3(容量比)
流量:0.150mL/min
検出器:DAD 254nm
温度:35℃。
【0083】
(実施例2)
実施例1で得られたPNBTE(53.5g、132mmol)を酢酸エチルに溶解させて酢酸エチル溶液(125mL)を調製した。次に、前記酢酸エチル溶液と、酢酸(450g)とを、容量が1Lの還流管付きのフラスコ中に添加した。次いで、前記フラスコ内の雰囲気ガスを窒素に置換した後、フラスコ内に窒素を流しながら(窒素気流下)、前記酢酸エチル溶液と前記酢酸との混合物を125℃で2.5時間加熱することにより、前記混合物から酢酸とともに酢酸エチルを抜き出した。なお、このような加熱は、フラスコ内の液量がほぼ一定となるように、抜き出した酢酸と同量の酢酸を補充しながら行った。このような加熱を行った後、前記フラスコ内に、トリフルオロメタンスルホン酸(993mg、6.61mmol、略称:TfOH)を酢酸(30.5g)に溶解させた溶液を添加し、フラスコ内に混合液(PNBTE、酢酸及びTfOHを含む混合液)を調製した。その後、窒素気流下、前記混合液を7.5時間加熱(加熱条件:フラスコを135℃の油浴にて加熱)した。なお、このような混合液の加熱は、還流させつつ(還流条件で)、蒸気(酢酸等)の一部を抜き出すようにして行った。また、かかる混合液の加熱に際して、混合液の液量が急激に減らないように、フラスコ内に新たな酢酸の滴下する工程を同時に行った。そして、このような混合液の加熱及び酢酸の滴下は、7.5時間後(加熱終了後)に、混合液中の反応生成物(酸二無水物)の濃度が40質量%となるように計算して行った。このような混合液の加熱により、濃縮された状態の反応生成物の溶液を得た。なお、このような加熱終了後の混合液中の反応生成物(酸二無水物)の濃度(40質量%)の計算は、PNBTEが全て反応して、得られる化合物(反応生成物)がいずれも下記式(B):
【0084】
【0085】
で表されるテトラカルボン酸二無水物(化合物名:5-(1,3-dioxo-1,3-dihydroisobenzofuran-5-yl)hexahydro-4,7-methanoisobenzofuran-1,3-dione、略称:PNBDA)になったものと想定(100%の変換率となる場合を想定)して行った。そして、かかる加熱後の反応生成物(酸二無水物)の溶液(濃縮液)を一晩(15時間程度)かけてゆっくりと放冷することにより、溶液中に固形分(白色粉末)を析出せしめた(析出開始は85℃付近)。その後、固形分を室温で濾過した後、4℃程度に冷やした酢酸エチル(32.1mL)で洗浄した。そして、洗浄後の固形分を80℃で真空乾燥させることにより、19.2gの白色粒状固体よりなる生成物を得た。
【0086】
このようにして得られた生成物の構造確認のために、NMR(
1H-NMR、
13C-NMR)測定を行った。なお、NMR測定には、NMR測定機(Varian製、600MHz NMR)を用い、溶剤としてジメチルスルホキシド-D6(DMSO-D6)を利用した。このようにして得られた生成物の
1H-NMR(DMSO-D6)及び
13C-NMR(DMSO-D6)スペクトルをそれぞれ
図4及び
図5に示す。
図4及び
図5に示す結果から、得られた生成物は、前記式(B)で表されるテトラカルボン酸二無水物(PNBDA)であることが確認された。このような結果から、実施例2においては、PNBDAが19.2g(61.5mmol、算出収率46.5%)得られたことが分かった。また、得られた生成物(PNBDA)の純度を、HPLC測定により求めたところ、純度は98.8面積%であることが確認された。なお、HPLC測定の条件としては、実施例1に記載の<HPLC測定条件>と同じ条件を採用(PNBTEの純度の測定の際に採用したHPLC測定条件と同様の条件を採用)した。
【0087】
(実施例3)
窒素置換した容量が10Lのフラスコに、トリ(o-トリル)ホスフィン(9.85g、32.3mmol)と、酢酸パラジウム(Pd(OAc)2、3.63g、16.2mmol)を添加した後、DMF(2.41kg、2.55L)を更に添加して混合液を得た。その後、フラスコ内に窒素を流しながら(窒素気流下)、フラスコを油浴にて加熱し、前記混合液を50~52℃で30分間撹拌することにより、前記混合液中において、トリ(o-トリル)ホスフィンを配位子として有するパラジウム錯体を形成せしめた。次いで、前記パラジウム錯体を含む混合液(黄色の溶液)に対して、合成例1と同様の手法を採用して得られた4-ブロモフタル酸ジメチル(972g、3.56mol、前記一般式(4)で表される化合物に相当する化合物(原料化合物の1種))、ナジック酸ジメチル(680g、3.23mol、前記一般式(5)で表される化合物に相当する化合物(原料化合物の1種))を加えて、原料混合液を得た。次いで、このようにして得られた原料混合液を撹拌しながら80℃まで昇温した。
【0088】
一方、別の窒素置換したフラスコに、トリエチルアミン(655g、6.47mol)と、DMF(1.54kg、1.63L)とを添加して混合し、そこに、更にギ酸(298g、6.47mol)を添加し、よく混合して室温(25℃程度)とすることにより、混合液(A)を得た。
【0089】
次いで、前述のようにして80℃に昇温した原料混合液が入っている10Lのフラスコ内に、前記混合液(A)を3時間かけて滴下した。このような混合液(A)の滴下工程において、前記原料混合液の温度が78℃~82℃の範囲に収まるように、油浴の温度を調整して、前記フラスコを油浴にて加熱した。このようにして前記混合液(A)の滴下が終了してから(混合液(A)の滴下工程の終了後)、5時間が経過するまで、前記フラスコ内の溶液(前記原料混合液と前記混合液(A)との混合物)をよく撹拌しながら、その溶液の温度が78℃~82℃に保たれるようにフラスコを油浴にて加熱し続けて、反応液を得た。このようにして、混合液(A)の滴下工程の終了後、5時間加熱を行った後、フラスコを油浴から取り出して、前記反応液を一晩(15時間程度)放冷した。次いで、得られた反応液に水(4.2L)を加えた後、トルエン(6.8L)で2回抽出を行い、トルエン溶液を得た。次いで、塩酸(HClの濃度:5質量%、3.75L)、飽和重曹水(3.75L)、水(3.75L)を記載した順でそれぞれ1回ずつ用いて、前記トルエン溶液を洗浄した。次いで、残ったトルエン溶液を、セライトを敷き詰めた濾過器で濾過し、トルエン溶液中の黒色浮遊物を除去した。その後、前記トルエン溶液から溶媒を留去し、黄色の油状物質からなる生成物を1414g得た。
【0090】
このようにして得られた生成物(油状物質)に対して、実施例1中の記載されている<GC測定条件2>と同様の条件を採用してGC分析を行って、PTBNEの定量を行ったところ、GC分析の結果から、PNBTEの収率は58.9%であり、かつ、油状物質中のPNBTEの含有率は54.4質量%であることが分かった。
【0091】
(実施例4)
窒素置換した還流管付きの50mLフラスコに、実施例3で得られたPNBTE(1.296g、3.205mmol)を加えた後、酢酸(18.0g)を加えて酢酸溶液を調製した。次いで、前記酢酸溶液に、無水酢酸(1.309g、12.82mmol)を添加した後、TfOH(24.05mg、0.1602mmol)を酢酸(2.3g)に溶解させた溶液を添加して、フラスコ内に混合液(PNBTE、酢酸、無水酢酸及びTfOHを含む混合液)を調製した。次いで、フラスコ内に窒素を流しながら(窒素気流下)、フラスコを油浴にて加熱して、前記混合液を9時間還流させることにより(前記混合液を還流条件で加熱することにより)、反応液を得た。このようにして得られた反応液から、副生成物の酢酸メチルと、酢酸とを減圧留去することにより茶色固形物として、生成物を得た。
【0092】
このようにして得られた生成物の構造確認のために、NMR(1H-NMR、13C-NMR)測定を行った。なお、NMR測定には、NMR測定機(Varian製、600MHz NMR)を用い、溶剤としてジメチルスルホキシド-D6(DMSO-D6)を利用した。すなわち、このようにして得られた生成物の構造確認のために、前記生成物の一部をサンプリングし、DMSO-D6で希釈して調整した試料溶液を用いて、NMR測定を行った。
【0093】
このようにして得られた1H NMRスペクトル及び13C NMRスペクトルの測定結果から、前記生成物は2種類の化合物の混合物であることが分かった。すなわち、先ず、1H NMRスペクトル及び13C NMRスペクトルのピークパターンにおいて、PNBDAの1H NMRのスペクトルとよく一致したピークパターンが確認できたことから、生成物中にPNBDAが含まれていることが判断できた。他方、1H NMRスペクトルにおいて、メトキシカルボニル基のメチル基のプロトンのピークが2箇所で検出されたことから(3.78ppmの位置にシングレットで3Hが検出され、更に、3.79ppmの位置にシングレットで3Hが検出されたことから)、PNBTEの4つのメトキシカルボニル基の内の2つが未反応で残っている化合物も生成物中に含まれているものと判断できた。なお、1H NMRスペクトルにおいて、芳香族のプロトンのピークが7.50ppmと7.51ppmと7.69ppmの位置に検出され(7.50ppmに1H、7.51ppmに1H、7.69ppmに1Hが検出され)、これがPNBTEの芳香族のプロトンの化学シフトによく一致することから、未反応のメトキシカルボニル基が芳香族側に付く2つの基であるものと判断できた。また、13C NMRスペクトルのピークパターンにおいて、カルボニル炭素のピークが167.3ppmと168.0ppmの位置に検出され(167.3ppmに1C、168.0ppmに1Cが検出され)、これがPNBTEの芳香族側に付くカルボニル炭素の化学シフトによく一致すること、並びに、別のカルボニル炭素のピークが173.3ppmと173.4ppmの位置に検出され(173.3ppmに1C、173.4ppmに1Cが検出され)、これがPNBDAのノルボルナン側に付くカルボニル炭素の化学シフトによく一致することから、未反応のメトキシカルボニル基が芳香族側に付く2つの基であると判断できた。このような結果から、前記生成物はPNBDAと、下記一般式(C):
【0094】
【0095】
で表される化合物との混合物であることが確認できた。このように、実施例4においては、NMR測定の結果から、前記一般式(C)で表される化合物が生成されたことが確認された。なお、1H NMRの芳香族のプロトンピーク積分値から、得られた生成物は、PNBDAと前記一般式(C)で表される化合物とが物質量の比率([PNBDA]:[式(C)の化合物])が1:2の割合で混合された混合物であることが分かった。
【0096】
(試験例1:ポリイミドの調製)
先ず、50mLの二口フラスコ内の雰囲気ガスを窒素で置換し、前記二口フラスコ内を窒素雰囲気とした。次いで、窒素雰囲気下、前記二口フラスコ内に2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジアミン(TFMB)を1.0275g(3.209mmol)、実施例2で得られたPNBDA(前記式(B)で表されるテトラカルボン酸二無水物)を1.0020g(3.209mmol)添加した。次いで、前記二口フラスコ内に、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)とγ―ブチロラクトン(GBL)の混合溶媒を6.089g(質量比:DMAc/GBL=1/1)添加するとともにトリエチルアミンを16.2mg(0.160mmol)添加して撹拌することにより混合液を得た。
【0097】
次に、前記二口フラスコ内に窒素を流しながら(窒素気流下)、得られた混合液を180℃で5時間加熱撹拌することにより反応液を得た。なお、このような混合液の加熱撹拌工程は、加熱中に副生された水を溶媒(DMAc)と一緒に留出させつつ、留出した溶媒(DMAc)の量と同量のDMAcを前記二口フラスコに添加しながら行った。なお、TFMBの官能基(アミノ基)及びPNBDAの官能基(カルボン酸無水物基)の種類や、前記加熱温度(180℃)等を考慮すれば、前記加熱撹拌工程により前記混合液中にポリイミドが形成されていることは明らかであり、前記反応液はポリイミドの溶液(溶媒:DMAc及びGBL)であることは明白である。また、かかる反応液(ポリイミド溶液)の一部を利用して、ポリイミドを単離した後、ポリイミドの濃度が0.5g/dLとなるDMAc溶液を測定試料として調製し、ポリイミドの固有粘度[η]を測定したところ、ポリイミドの固有粘度[η]は0.34dL/gであった。なお、測定方法は後述する。
【0098】
次に、塗工液として前記反応液をそのまま利用し、前記塗工液(前記反応液)をガラス板(縦:76mm、横52m、厚み1.3mm)上にスピンコートし、ガラス板上に塗膜を形成した。次いで、前記塗膜の形成されたガラス板を真空ホットチャンバーに投入し、窒素雰囲気、圧力:100Pa程度、温度:70℃の条件で1時間静置した。このようにして、ガラス基板上にポリイミドの乾燥塗膜を形成した。次いで、前記乾燥塗膜の形成されたガラス板をイナートオーブンに投入し、イナートオーブン内で、窒素雰囲気下、30℃から350℃まで4℃/minの昇温速度で昇温し、350℃の焼成温度で60分間保持することにより、前記乾燥塗膜を焼成した後、室温となるまで6時間程度かけて、ゆっくりと冷却することにより、前記ガラス基板上にポリイミドからなるフィルム(ポリイミドフィルム)を形成した。次いで、前記フィルムの形成されたガラス板をオーブンから取り出した後、これを90℃の水中に0.5時間浸漬することにより前記ガラス基板からポリイミドフィルムを剥離し、ポリイミドフィルムを回収した。このようにして、ポリイミドからなるフィルム(縦76mm、横52mm、厚み17μm)を得た。
【0099】
このようにして得られたフィルムのIRスペクトルを測定した。なお、IRスペクトルの測定にはFT-IR測定機(ThermoScientific製、商品名:Nicolet iS10 FT-IR)を利用した。得られたフィルムのIRスペクトルを
図12に示す。
図12に示す結果からも明らかなように、1714cm
-1にイミドカルボニルのC=O伸縮振動が見られることから、得られたフィルムはポリイミドからなるものであることが確認された。
【0100】
(比較試験例1:比較のためのポリイミドの調製)
TFMBの使用量を1.0275g(3.209mmol)から6.4046g(20.000mmol)に変更し、PNBDAの代わりに下記式(D):
【0101】
【0102】
で表されるテトラカルボン酸二無水物(BzDA)を8.1286g(20.000mmol)用い、DMAcとGBLの混合溶媒の代わりに、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)とGBLとの混合溶媒10.9g(質量比:NMP/GBL=1/1)を用い、かつ、反応液(ポリイミド溶液)を得るために前記混合液を180℃で5時間加熱撹拌する代わりに、前記混合液を180℃で6時間加熱撹拌した以外は、前記試験例1と同様にしてポリイミドからなるフィルム(縦76mm、横52mm、厚み33μm)を得た。なお、BzDAは、国際公開第2015/163314号の実施例1に記載された方法に準拠して合成したものを用いた。
【0103】
[試験例1及び比較試験例1で得られたポリイミドの特性について]
ポリイミドの調製に用いたジアミン化合物の種類が共にTFMBであることから、テトラカルボン酸二無水物の種類の違いに基づくポリイミドの特性の違いを評価すべく、試験例1及び比較試験例1で得られたポリイミドに対して、それぞれ以下に記載の測定方法を採用して特性(YI、HAZE、Tg、Td5%、Td1%、CTE、比誘電率、誘電正接)を評価した。得られた結果を表1に示す。
【0104】
<濁度(ヘイズ)及び黄色度(YI)の測定>
試験例1及び比較試験例1で得られたポリイミドの濁度(HAZE:ヘイズ)及び黄色度(YI)は、それぞれ、各フィルムをそのまま測定用の試料として用い、測定装置として日本電色工業株式会社製の商品名「ヘーズメーターNDH-5000」又は日本電色工業株式会社製の商品名「分光色彩計SD6000」を用いて測定を行うことにより求めた。また、かかる測定に際しては、日本電色工業株式会社製の商品名「ヘーズメーターNDH-5000」で濁度(ヘイズ)を測定し、日本電色工業株式会社製の商品名「分光色彩計SD6000」で黄色度を測定した。また、濁度(ヘイズ)はJIS K7136(2000年発行)に準拠した測定を行うことにより求め、黄色度(YI)はASTM E313-05(2005年発行)に準拠した測定を行うことにより求めた。なお、YIが20以下であり、かつ、ヘイズが15以下となるような場合、フィルムの着色や濁りが十分に低く、透明性が十分に高い水準にあるものと言える。
【0105】
<1%重量減少温度(Td1%)及び5%重量減少温度(Td5%)の測定>
試験例1及び比較試験例1で得られたポリイミドの1%重量減少温度及び5%重量減少温度はそれぞれ、以下のようにして測定した。すなわち、先ず、試験例1及び比較試験例1で得られたポリイミド(フィルム)から、それぞれ2~4mgの試料を準備し、かかる試料をアルミ製サンプルパンに入れ、測定装置として熱重量分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製の商品名「TG/DTA220」)を使用して、窒素ガスを流しながら室温から40℃に昇温した後、40℃を測定開始温度として、昇温速度10℃/分の条件で加熱していき、用いた試料の重量が、1%減少する温度及び5%減少する温度を測それぞれ測定して求めた。
【0106】
<ガラス転移温度(Tg)及び線膨張係数(CTE)の測定>
先ず、試験例1及び比較試験例1で得られたポリイミド(フィルム形状のポリイミド)から縦20mm、横5mmの大きさの試験片(をそれぞれ切り出して測定試料とした。測定装置として熱機械的分析装置(リガク製の商品名「TMA8310」)を利用して、窒素雰囲気下、引張りモード(49mN)、昇温速度5℃/分の条件で測定を行ってTMA曲線を求めた。そして、得られたTMA曲線を用いて、ガラス転移に起因するTMA曲線の変曲点に対し、その前後の曲線を外挿することにより、試験例1及び比較試験例1で得られたフィルムを構成するポリイミドのガラス転移温度(Tg)の値(単位:℃)を求めた。また、前記TMA曲線を用いて、100℃~200℃の温度範囲における1℃あたりの長さの変化の平均値を算出することにより、ポリイミドの線膨張係数(CTE)を求めた(得られた平均値をポリイミドの線膨張係数として採用した)。
【0107】
<誘電正接(tanδ)及び比誘電率(εr)の測定方法>
試験例1及び比較試験例1で得られたポリイミド(フィルム)から、それぞれ幅:1.5mm、長さ:70~80mmの大きさに切りだした試料片(厚みは各試験例等で得られたフィルムの厚みをそのまま採用)を作成し、測定法として空洞共振器摂動法(IEC 62810準拠)を採用し、以下のようにして、各ポリイミドの誘電正接(tanδ)及び比誘電率(εr)の値を測定した。すなわち、このような誘電正接(tanδ)及び比誘電率(εr)の値の測定は、それぞれ、上述のようにして作成した試験片(幅:1.5mm、長さ:70~80mm、厚さ:17μm(試験例1)又は33μm(比較試験例1))を23℃で相対湿度50%の環境下で24時間静置した後、23℃、相対湿度50%の環境下に調節した実験室にて行った。また、測定装置としてはキーサイト・テクノロジー株式会社製の「PNAネットワークアナライザN522B」及び関東電子応用開発製の商品名「空洞共振器10GHz用CP531」を利用した。また、測定に際しては、前記試験片を前記測定装置の空洞共振器にセットし、周波数を10GHzとして、誘電正接(tanδ)及び比誘電率(εr)の実測値をそれぞれ求めた。そして、このような実測値の測定を計2回行い、それらの平均値を求めることにより、誘電正接(tanδ)及び比誘電率(εr)の値を求めた。このように、誘電正接(tanδ)及び比誘電率(εr)の値としては、2回の測定により得られた実測値の平均値を採用した。
【0108】
<固有粘度[η]の測定>
ポリイミドの固有粘度[η]は、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)を溶媒として用いて、濃度0.5g/dLのポリイミドの溶液を測定試料として調製し、測定装置としてCANNON INSTRUMENT COMPANY製の全自動粘度測定装置(商品名「miniPV(登録商標)-HX」)を用いて、30℃の温度条件下において測定した。
【0109】
【0110】
表1に示す結果からも明らかなように、試験例1及び比較試験例1で得られたポリイミドは共にTd1%が420℃以上、Td5%が470℃以上という条件を満たしており、重量減少温度(Td1%、Td5%)を基準とする耐熱性が十分に高い水準にあることが確認された。また、試験例1及び比較試験例1で得られたポリイミドは共にYIが20以下であり、かつ、HAZEが15以下という条件を満たしていることから、フィルムの着色や濁りが十分に低く、透明性が十分に高い水準にあることも確認された。なお、このような表1に示すYI及びHAZEの値から、試験例1で得られたポリイミドは、従来の芳香族ポリイミドと比較して、透明性の点で優れたものであることは明らかである。
【0111】
ここで、表1に示す結果からも明らかなように、テトラカルボン酸二無水物としてPNBDAを用いてポリイミドを製造した場合(試験例1)には、Tg、Td1%、Td5%がいずれも、テトラカルボン酸二無水物としてBzDAを用いてポリイミドを製造した場合(比較試験例1)と対比してより優れた値となっていることから、同じジアミン化合物(TFMB)を利用してポリイミドを調製する場合には、PNBDAを用いた場合に、BzDAを用いた場合よりも、より高度な水準の耐熱性が得られることが確認された。また、PNBDAを用いてポリイミドを製造した場合(試験例1)には、BzDAを用いてポリイミドを製造した場合(比較試験例1)と対比して、CTEがより低い値となっていることから、同じジアミン化合物(TFMB)を利用してポリイミドを調製する場合には、PNBDAを用いた場合に、BzDAを用いた場合よりもCTEをより低い値とすることも可能となることが分かった。さらに、比誘電率及び誘電正接の測定結果から、同じジアミン化合物(TFMB)を利用してポリイミドを調製する場合には、PNBDAを用いた場合に、BzDAを用いた場合よりも比誘電率及び誘電正接がより低い値となることも分かった。このような結果から、本発明のテトラカルボン酸二無水物をポリイミドを製造するための原料モノマーとして用いた場合には、得られるポリイミドの黄色度及び濁度を共に一定水準以下の低い値とすることが可能であるとともに、耐熱性をより高いものとすることができ、更には、線膨張係数をより低い値とすることも可能となることが確認された。
以上説明したように、本発明によれば、ポリイミドを製造するための原料モノマーとして使用した場合に、得られるポリイミドの黄色度及び濁度を共に一定水準以下の低い値とすることが可能であるとともに、耐熱性をより高いものとすることが可能なテトラカルボン酸二無水物;そのテトラカルボン酸二無水物を効率よく製造するための原料として使用することが可能なカルボニル化合物;前記テトラカルボン酸二無水物の中間体として得ることが可能な酸無水物基含有化合物;前記テトラカルボン酸二無水物を効率よく確実に製造することが可能な製造方法;並びに、前記カルボニル化合物を効率よく確実に製造することが可能な製造方法;を提供することが可能となる。このような本発明のテトラカルボン酸二無水物は、その構造に基づいて、ポリマー(より好ましくはポリイミド)形成用のモノマー、エポキシ硬化剤、医薬品原料等等に好適に利用できる。