(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156940
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
C07C 67/36 20060101AFI20221006BHJP
C07C 69/36 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C07C67/36
C07C69/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060884
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】松本 紘
(72)【発明者】
【氏名】工藤 勝義
(72)【発明者】
【氏名】川添 大輝
(72)【発明者】
【氏名】向 純一
(72)【発明者】
【氏名】井伊 宏文
(72)【発明者】
【氏名】弘津 健二
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC48
4H006BC40
4H006BD84
4H006BE40
4H006KA32
(57)【要約】
【課題】溶液中の硝酸濃度を安全に測定することができ、SUS製反応装置の腐食を抑制し、かつ、廃液中の窒素源を低減させることにより、長期間にわたる連続的な製造を可能とする炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造方法を提供する。
【解決手段】一酸化窒素を含有する非凝縮ガス、分子状酸素及びアルコールを反応させて、亜硝酸アルキル及び硝酸を得る第三工程と、一酸化炭素及び/又は一酸化窒素、アルコール並びに第三工程で得られた硝酸を反応させて亜硝酸アルキルを生成する第四工程とを含み;第三及び/又は第四工程は、該工程における任意の溶液中の硝酸の濃度をUV吸光度から測定し、測定された硝酸の濃度が目標の範囲内であるか否かを判断し、前記濃度が目標の範囲外であるときに、前記溶液中の硝酸の量を調整し、前記濃度を目標の範囲内とするサブ工程を有する、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一酸化炭素と亜硝酸アルキルとを反応させて、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルと一酸化窒素とを生成する第一工程と、
第一工程で得られた生成物を、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルを吸収する吸収液と接触させて、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルを含む凝縮液と、一酸化窒素を含有する非凝縮ガスとを得る第二工程と、
第二工程で得られた一酸化窒素を含有する非凝縮ガス、分子状酸素及びアルコールを反応させて、主生成物である亜硝酸アルキル及び水、並びに副生成物である硝酸を得る第三工程と、
一酸化炭素及び/又は一酸化窒素、アルコール並びに第三工程で得られた硝酸を反応させて、亜硝酸アルキルを生成する第四工程と、
を有する炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造方法であって、
第三及び/又は第四工程は、該工程における任意の溶液中の硝酸の濃度をUV吸光度から測定し、測定された硝酸の濃度が目標の範囲内であるか否かを判断するサブ工程であって、前記濃度が目標の範囲外であるときに、前記溶液中の硝酸の量を調整し、前記濃度を目標の範囲内とするサブ工程を有する、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造方法。
【請求項2】
一酸化炭素と亜硝酸アルキルと一酸化窒素とを含有する第1ガスを第1反応器に導入し、触媒の存在下で一酸化炭素と亜硝酸アルキルとを反応させて、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルと一酸化窒素とを含有する第2ガスを生成させる第一工程と、
第2ガスを炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルを吸収する吸収液と接触させて、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルを含む凝縮液と、一酸化窒素を含有する非凝縮ガスとを得る第二工程と、
非凝縮ガス及び分子状酸素を混合して得られた混合ガスとアルコールとを第2反応器に導入し、一酸化窒素、分子状酸素及びアルコールを反応させて、主生成物である亜硝酸アルキル及び水、並びに副生成物である硝酸を生成し、未反応の一酸化窒素とともに亜硝酸アルキルを含有する第3ガス、並びに未反応のアルコール、硝酸及び水を含有する塔底液を得る第三工程と、
一酸化炭素及び/又は一酸化窒素並びに塔底液を第3反応器に導入、混合して混合液を得、混合液中の一酸化炭素及び/又は一酸化窒素、アルコール並びに硝酸を反応させて、亜硝酸アルキルを生成する第四工程であって、ここで、未反応の一酸化炭素及び/又は一酸化窒素とともに亜硝酸アルキルが第三工程の第2反応器に循環され、未反応のアルコール及び硝酸並びに水が廃液回収槽に移送される、工程と、
第三工程で得られた第3ガスと一酸化炭素とを混合して得られた前記第1ガスを第一工程に循環する第五工程と、
を有する炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造方法であって、
第三及び/又は第四工程は、第2反応器及び第2反応器と第3反応器との配管中の塔底液、第3反応器中の混合液、並びに第3反応器と廃液回収槽との配管及び廃液回収槽中の廃液からなる群より選択される少なくとも1つにおける硝酸の濃度をUV吸光度から測定し、制御部において、測定された硝酸の濃度が目標の範囲内であるか否かを判断するサブ工程であって、前記濃度が目標の範囲外であるときに、前記塔底液、混合液又は廃液中の硝酸の量を調整し、前記濃度を目標の範囲内とするサブ工程を有する、請求項1に記載の炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造方法。
【請求項3】
前記UV吸光度の測定波長が280nm~330nmである、請求項1又は2記載の炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造方法。
【請求項4】
前記調整後の硝酸の濃度が0.001質量%~10質量%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造方法。
【請求項5】
アルコールがメタノールであり、亜硝酸アルキルが亜硝酸メチルであり、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルが炭酸ジメチル及び/又はシュウ酸ジメチルである、請求項1~4のいずれか一項に記載の炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造方法。
【請求項6】
一酸化炭素と亜硝酸アルキルとを反応させて、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルと一酸化窒素とを生成する触媒を有し、一酸化炭素と亜硝酸アルキルと一酸化窒素とを含有する第1ガスから炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルと一酸化窒素とを含有する第2ガスを生成する第1反応器と、
前記第2ガスと炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルを吸収する吸収液とを接触させて、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルを含む凝縮液と、前記一酸化窒素を含有する非凝縮ガスとに分離する吸収塔と、
前記非凝縮ガス及び分子状酸素の混合ガス並びにアルコールを導入し、前記一酸化窒素、分子状酸素及びアルコールを反応させて、未反応の一酸化窒素とともに亜硝酸アルキルを含有する第3ガス、並びに未反応のアルコール、硝酸及び水を含有する塔底液を生成する第2反応器と、
一酸化炭素及び/又は一酸化窒素並びに前記塔底液を導入、混合して混合液を得、前記一酸化炭素及び/又は一酸化窒素、アルコール並びに硝酸を反応させて、亜硝酸アルキルを生成する第3反応器と、
第3反応器の未反応のアルコール及び硝酸並びに水を含む廃液を回収する廃液回収槽と、
第1反応器で生成した第2ガスを吸収塔に移送する配管と、
吸収塔で分離された非凝縮ガスを第2反応器に移送する配管と、
第2反応器で生成した第3ガスを第1反応器に移送する配管と、
第2反応器で生成した塔底液を第3反応器に移送する配管と、
第3反応器で生成した亜硝酸アルキルを未反応の一酸化炭素及び/又は一酸化窒素とともに第2反応器に移送する配管と、
第3反応器で生成した廃液を廃液回収槽に移送する配管と、
廃液回収槽の出口に設置される配管と、
前記塔底液、第3反応器中の混合液又は廃液中の硝酸の濃度を検出するUV検出器と、
UV検出器で検出された硝酸の濃度が目標の範囲内であるか否かを判断し、前記濃度が目標の範囲外であるときに、前記塔底液、混合液又は廃液中の硝酸の量を調整し、前記濃度を目標の範囲内とする制御部と、
を備える、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造装置であって、
UV検出器は、第2反応器で生成した塔底液を第3反応器に移送する配管、第3反応器で生成した廃液を廃液回収槽に移送する配管、及び廃液回収槽の出口に設置される配管の少なくとも一つに設置される、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造装置。
【請求項7】
前記塔底液、第3反応器中の混合液又は廃液は、硝酸、アルコール、一酸化窒素及び亜硝酸アルキルを含有する、請求項6に記載の炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造装置。
【請求項8】
アルコールがメタノールであり、亜硝酸アルキルが亜硝酸メチルであり、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルが炭酸ジメチル及び/又はシュウ酸ジメチルである、請求項6又は7に記載の炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造装置。
【請求項9】
UV検出器による吸光度及び検量線を用いて、前記塔底液、第3反応器中の混合液又は廃液の硝酸の濃度をリアルタイムで測定することを特徴とする、請求項6~8のいずれか一項に記載の炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸ジアルキルは、芳香族ポリカーボネートや医農薬等の合成原料として有用な化合物である。また、シュウ酸ジアルキルも、グリコール類、染料中間体、及び医薬等の合成原料として有用な化合物である(特許文献1を参照)。
【0003】
従来、次式のように、一酸化炭素と亜硝酸アルキルを触媒存在下で反応させて炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルを生成させ(特許文献2を参照)、次いで、その反応で生成する一酸化窒素を酸素及びアルコールと反応させて亜硝酸アルキルを生成させ(再生し)、その亜硝酸アルキルを炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの生成反応で再使用しながら、連続的に炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルを製造する方法が知られている。
【0004】
CO + 2RONO → CO(OR)2 + 2NO
2CO + 2RONO → (COOR)2 + 2NO
2NO + 2ROH + 1/2O2 → 2RONO + H2O
(式中、Rはアルキル基を表す。)
【0005】
このように亜硝酸アルキルを再生・再使用しながら連続的に炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルを製造する方法は、特許文献3などに開示されている。また、一酸化窒素と酸素とアルコールから亜硝酸アルキルを製造する方法は、その他に、特許文献4~6に開示されている。
【0006】
また、特許文献7には、硝酸及び亜硝酸を含む排水の処理装置及び処理方法が開示されている。該装置及び方法では、紫外線吸光度法式により測定された硝酸及び亜硝酸濃度と、イオン電極法式により測定された硝酸濃度とから排水中の硝酸濃度及び亜硝酸濃度を求めることにより、排水中の硝酸濃度及び亜硝酸濃度を迅速に測定することができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014-162746号公報
【特許文献2】特開平11-189570号公報
【特許文献3】特開平6-298706号公報
【特許文献4】特開2004-2336号公報
【特許文献5】特開2004-91484号公報
【特許文献6】国際公開第2018/179808号
【特許文献7】特開2014-113547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2~6の一酸化炭素と亜硝酸アルキルを触媒存在下で反応させる炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造方法では、亜硝酸アルキル源となる窒素成分の損失、特に一酸化窒素から亜硝酸アルキルを再生する際に硝酸が副生する。そのため、硝酸の窒素源としての再利用が検討されていたが、硝酸濃度が高い場合は、ステンレス製(以下、SUS製と言うことがある。)反応装置の腐食が進行し、長期間にわたる連続的な製造が困難となるとともに、廃液中の窒素源が増加するという問題があった。また、硝酸濃度が高い溶液中でアルコールと接触すると、硝酸アルキルが生成する可能性がある。
【0009】
一方、水溶液中の硝酸濃度を測定する方法として、紫外線吸光度法を用いる方法が知られているが、該方法では、硝酸及び亜硝酸をNOxとして測定してしまい、硝酸と亜硝酸の濃度を別個に測定することはできなかった。特許文献7の装置及び方法では、排水中の硝酸濃度及び亜硝酸濃度をリアルタイムで測定することが可能であるが、紫外線吸光度法式及びイオン電極法式を併用するため、装置及び操作が煩雑になり、より簡便な方法が求められていた。
【0010】
本発明は、溶液中の硝酸濃度を安全に測定することができ、SUS製反応装置の腐食を抑制し、かつ、廃液中の窒素源を低減させることにより、長期間にわたる連続的な製造を可能とする炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造方法及び製造装置を提供することを課題とする。また、前記課題を解決しながら、反応活性を維持し、効率よく炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルを製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[9]に関する。
[1]一酸化炭素と亜硝酸アルキルとを反応させて、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルと一酸化窒素とを生成する第一工程と、
第一工程で得られた生成物を、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルを吸収する吸収液と接触させて、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルを含む凝縮液と、一酸化窒素を含有する非凝縮ガスとを得る第二工程と、
第二工程で得られた一酸化窒素を含有する非凝縮ガス、分子状酸素及びアルコールを反応させて、主生成物である亜硝酸アルキル及び水、並びに副生成物である硝酸を得る第三工程と、
一酸化炭素及び/又は一酸化窒素、アルコール並びに第三工程で得られた硝酸を反応させて、亜硝酸アルキルを生成する第四工程と、
を有する炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造方法であって、
第三及び/又は第四工程は、該工程における任意の溶液中の硝酸の濃度をUV吸光度から測定し、測定された硝酸の濃度が目標の範囲内であるか否かを判断するサブ工程であって、前記濃度が目標の範囲外であるときに、前記溶液中の硝酸の量を調整し、前記濃度を目標の範囲内とするサブ工程を有する、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造方法。
[2]一酸化炭素と亜硝酸アルキルと一酸化窒素とを含有する第1ガスを第1反応器に導入し、触媒の存在下で一酸化炭素と亜硝酸アルキルとを反応させて、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルと一酸化窒素とを含有する第2ガスを生成させる第一工程と、
第2ガスを炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルを吸収する吸収液と接触させて、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルを含む凝縮液と、一酸化窒素を含有する非凝縮ガスとを得る第二工程と、
非凝縮ガス及び分子状酸素を混合して得られた混合ガスとアルコールとを第2反応器に導入し、一酸化窒素、分子状酸素及びアルコールを反応させて、主生成物である亜硝酸アルキル及び水、並びに副生成物である硝酸を生成し、未反応の一酸化窒素とともに亜硝酸アルキルを含有する第3ガス、並びに未反応のアルコール、硝酸及び水を含有する塔底液を得る第三工程と、
一酸化炭素及び/又は一酸化窒素並びに塔底液を第3反応器に導入、混合して混合液を得、混合液中の一酸化炭素及び/又は一酸化窒素、アルコール並びに硝酸を反応させて、亜硝酸アルキルを生成する第四工程であって、ここで、未反応の一酸化炭素及び/又は一酸化窒素とともに亜硝酸アルキルが第三工程の第2反応器に循環され、未反応のアルコール及び硝酸並びに水が廃液回収槽に移送される、工程と、
第三工程で得られた第3ガスと一酸化炭素とを混合して得られた前記第1ガスを第一工程に循環する第五工程と、
を有する炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造方法であって、
第三及び/又は第四工程は、第2反応器及び第2反応器と第3反応器との配管中の塔底液、第3反応器中の混合液、並びに第3反応器と廃液回収槽との配管及び廃液回収槽中の廃液からなる群より選択される少なくとも1つにおける硝酸の濃度をUV吸光度から測定し、制御部において、測定された硝酸の濃度が目標の範囲内であるか否かを判断するサブ工程であって、前記濃度が目標の範囲外であるときに、前記塔底液、混合液又は廃液中の硝酸の量を調整し、前記濃度を目標の範囲内とするサブ工程を有する、[1]に記載の炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造方法。
[3]前記UV吸光度の測定波長が280nm~330nmである、[1]又は[2]に記載の炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造方法。
[4]前記調整後の硝酸の濃度が0.001質量%~10質量%である、[1]~[3]のいずれか一つに記載の炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造方法。
[5]アルコールがメタノールであり、亜硝酸アルキルが亜硝酸メチルであり、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルが炭酸ジメチル及び/又はシュウ酸ジメチルである、[1]~[4]のいずれか一つに記載の製造方法。
[6]一酸化炭素と亜硝酸アルキルとを反応させて、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルと一酸化窒素とを生成する触媒を有し、一酸化炭素と亜硝酸アルキルと一酸化窒素とを含有する第1ガスから炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルと一酸化窒素とを含有する第2ガスを生成する第1反応器と、
前記第2ガスと炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルを吸収する吸収液とを接触させて、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルを含む凝縮液と、前記一酸化窒素を含有する非凝縮ガスとに分離する吸収塔と、
前記非凝縮ガス及び分子状酸素の混合ガス並びにアルコールを導入し、前記一酸化窒素、分子状酸素及びアルコールを反応させて、未反応の一酸化窒素とともに亜硝酸アルキルを含有する第3ガス、並びに未反応のアルコール、硝酸及び水を含有する塔底液を生成する第2反応器と、
一酸化炭素及び/又は一酸化窒素並びに前記塔底液を導入、混合して混合液を得、前記一酸化炭素及び/又は一酸化窒素、アルコール並びに硝酸を反応させて、亜硝酸アルキルを生成する第3反応器と、
第3反応器の未反応のアルコール及び硝酸並びに水を含む廃液を回収する廃液回収槽と、
第1反応器で生成した第2ガスを吸収塔に移送する配管と、
吸収塔で分離された非凝縮ガスを第2反応器に移送する配管と、
第2反応器で生成した第3ガスを第1反応器に移送する配管と、
第2反応器で生成した塔底液を第3反応器に移送する配管と、
第3反応器で生成した亜硝酸アルキルを未反応の一酸化炭素及び/又は一酸化窒素とともに第2反応器に移送する配管と、
第3反応器で生成した廃液を廃液回収槽に移送する配管と、
廃液回収槽の出口に設置される配管と、
前記塔底液、第3反応器中の混合液又は廃液中の硝酸の濃度を検出するUV検出器と、
UV検出器で検出された硝酸の濃度が目標の範囲内であるか否かを判断し、前記濃度が目標の範囲外であるときに、前記塔底液、混合液又は廃液中の硝酸の量を調整し、前記濃度を目標の範囲内とする制御部と、
を備える、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造装置であって、
UV検出器は、第2反応器で生成した塔底液を第3反応器に移送する配管、第3反応器で生成した廃液を廃液回収槽に移送する配管、及び廃液回収槽の出口に設置される配管の少なくとも一つに設置される、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造装置。
[7]前記塔底液、第3反応器中の混合液又は廃液は、硝酸、アルコール、一酸化窒素及び亜硝酸アルキルを含有する、[6]に記載の炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造装置。
[8]アルコールがメタノールであり、亜硝酸アルキルが亜硝酸メチルであり、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルが炭酸ジメチル及び/又はシュウ酸ジメチルである、[6]又は[7]に記載の炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造装置。
[9]UV検出器による吸光度及び検量線を用いて、前記塔底液、第3反応器中の混合液又は廃液の硝酸の濃度をリアルタイムで測定することを特徴とする、[6]~[8]のいずれか一つに記載の炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、溶液中の硝酸濃度を安全に測定することができ、SUS製反応装置の腐食を抑制し、かつ、廃液中の窒素源を低減させることにより、長期間にわたる連続的な製造を可能とする炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造方法及び製造装置を提供することができる。また、前記課題を解決しながら、反応活性を維持し、効率よく炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造方法において使用される亜硝酸アルキル製造装置の概略構成の一例を示す図である。
【
図2】本発明の炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造方法において使用される反応器2の一例を示す概略図である。
【
図3】本発明の炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造方法の一実施形態が適用される製造装置の概略構成を示す図である。
【
図4】実施例1-1及び1-2において硝酸濃度を算出するために作成した、303nmにおける吸光度と硝酸濃度の関係を示す検量線である。
【
図5】実施例1-2において、303nmにおける吸光度から算出した硝酸濃度と滴定による硝酸濃度との相関関係を示すグラフである。
【
図6】実施例2において、硝酸濃度と各波長における吸光度との関係を示すグラフである。
【
図7】実施例4-2において、硝酸還元槽反応液並びに再生塔ボトム液及び硝酸還元槽反応液の混合物から採取した数点の試料について、303nmにおける吸光度から算出した硝酸濃度とイオンクロマト分析による硝酸濃度との相関関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の好適な実施形態を、場合により図面を参照して以下に説明する。各図面において、同一又は同等の要素には同一の番号を付し、場合により重複する説明を省略する。なお、以下の実施形態は、本発明の実施態様の一例であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本発明の炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造方法は、一酸化窒素、酸素及びアルコールを反応させて原料である亜硝酸アルキルを再生する反応において、副生する硝酸濃度をリアルタイムで測定し、所定の数値範囲内に制御することで、SUS製反応装置の腐食を抑制し、かつ、廃液中の窒素源を低減させることにより、長期間にわたる連続的な製造を可能とする。また、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルのアルキルがメチルの場合は、硝酸メチルの生成を抑制することで、溶液中の硝酸の濃度を安全に測定することが可能となる。
【0016】
[炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造方法]
以下、本発明の各工程を説明する。
【0017】
(第一工程)
第一工程は、一酸化炭素と亜硝酸アルキルとを反応させて、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルと一酸化窒素とを生成する工程である。 第一工程は、一酸化炭素と亜硝酸アルキルと一酸化窒素とを含有する第1ガスを第1反応器に導入し、触媒の存在下で一酸化炭素と亜硝酸アルキルとを反応させて、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルと一酸化窒素とを含有する第2ガスを生成させる工程であることが好ましい。具体的には触媒を充填した第1反応器に第1ガスを導入し、一酸化炭素及び亜硝酸アルキルを気相で接触反応させることができる。反応器としては、単管式又は多管式触媒充填塔が有効である。
【0018】
触媒としては、白金族金属固体触媒が好ましく、パラジウム系、白金系、ロジウム系、ルテニウム系、イリジウム系等の触媒が挙げられ、中でもパラジウム系が好ましい。これら金属の硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、ハロゲン化物及び酢酸塩、シュウ酸塩、安息香酸塩等の塩類も使用することができる。白金族金属固体触媒は、例えば、活性炭、アルミナ、シリカ、珪藻土、軽石、ゼオライト、モレキュラーシーブ等の不活性担体に担持させた形態であることができる。この場合、白金族金属の担持量は、白金族金属換算で担体に対して、0.01~10質量%、好ましくは0.2~2質量%である。
【0019】
第1ガスは、一酸化炭素と亜硝酸アルキルと一酸化窒素を含有する。第1ガスは、窒素ガス、炭酸ガス等の反応に不活性なガスで希釈して使用することができる。
【0020】
第1ガス中の亜硝酸アルキルの濃度は、広範囲に変えることができるが、満足すべき反応速度を得る点から、その濃度が1体積%以上となるように存在させることが好ましい。亜硝酸アルキルの濃度が高いほど、反応が速やかに進行するが、使用濃度は、反応帯内に炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの液相が生成しないように選択することが好ましく、例えば、3~30体積%の範囲とすることができる。亜硝酸アルキルが亜硝酸メチルの場合、副生する硝酸メチルの生成を抑制する観点から、好ましくは3~25体積%とすることができる。
【0021】
第1ガス中の一酸化炭素の濃度は、広範囲に変えることができ、10~90体積%の範囲で選ぶことができる。
【0022】
第1ガス中の一酸化窒素の濃度は、広範囲に変えることができ、1~20体積%の範囲で選ぶことができる。
【0023】
反応温度は、低温でも充分速やかに反応が進行し、また反応温度が低いほど副反応が少ない点から、所望の空時収量が維持される限り、比較的低温で行なうのが有利である。具体的には、50~200℃とすることができ、好ましくは80~150℃である。
【0024】
反応圧力は、常圧~0.98MPa(ゲージ圧)とすることができ、好ましくは常圧~0.49MPa(ゲージ圧)の圧力であるが、場合によっては常圧よりやや低い圧力であってもよい。
【0025】
反応時間は、10秒以下とすることができ、好ましくは0.2~5秒である。
【0026】
(第二工程)
第二工程は、第一工程で得られた生成物を、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルを吸収する吸収液と接触させて、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルを含む凝縮液と、一酸化窒素を含有する非凝縮ガスとを得る工程である。
第二工程は、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルと一酸化窒素とを含有する第2ガスを、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルを吸収する吸収液と接触させて、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルを含む凝縮液と、一酸化窒素を含有する非凝縮ガスとを得る工程であることが好ましい。ここで、非凝縮ガスは、非凝縮ガス1及び非凝縮ガス2に分配されて、それぞれ第2反応器及び第3反応器に導入することができる。
具体的には反応生成物である炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルを凝縮器に導き、吸収液に接触させながら、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルが凝縮する温度以下に冷却し、凝縮液と非凝縮ガスとに分離することができる。
【0027】
凝縮液には、一般に、目的物の炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの他にギ酸アルキル等が含まれている。一方、非凝縮ガスには、第一工程の反応で生成した一酸化窒素の他に、未反応の一酸化炭素、亜硝酸アルキル等が含まれている。
【0028】
第二工程では、目的物の炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの一部が非凝縮ガスに同伴されるといった問題、また、目的物がシュウ酸ジメチルのように、融点が比較的高い場合には、目的物が凝縮器の壁等に固化付着し、ひいてはその閉塞をもたらしうるといった問題を回避するために、反応生成物を吸収液に接触させる。接触させる方法は、特に限定されず、向流接触法、バブリング接触法等が挙げられる。
【0029】
吸収液は、目的物の炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルが溶解しやすいものであれば限定されないが、アルコールであることが好ましく、より好ましくは炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルのアルキル部分と同じアルキル基を有するアルコールである。すなわち、目的物が炭酸ジメチル及び/又はシュウ酸ジメチルである場合、吸収液は好ましくはメタノールである。
【0030】
吸収液の供給量は、特に限定されず、目的物が炭酸ジメチル及び/又はシュウ酸ジメチルの場合には、被処理物、すなわち第2ガス100体積部に対し、吸収液、好ましくはメタノールは、0.01~0.1体積部であることが好ましい。例えば、第2ガス100体積部に対し、メタノールを0.01~0.1体積部流しながら、0~60℃の温度で冷却凝縮させることができる。
【0031】
(第三工程)
第三工程は、第二工程で得られた一酸化窒素を含有する非凝縮ガス、分子状酸素及びアルコールを反応させて、主生成物である亜硝酸アルキル及び水、並びに副生成物である硝酸を得る工程である。
第三工程は、非凝縮ガス及び分子状酸素を混合して得られた混合ガスとアルコールとを第2反応器に導入し、一酸化窒素、分子状酸素及びアルコールを反応させて、主生成物である亜硝酸アルキル及び水、並びに副生成物である硝酸を生成し、未反応の一酸化窒素とともに亜硝酸アルキルを含有する第3ガス、並びに未反応のアルコール、硝酸及び水を含有する塔底液を得る工程であることが好ましい。
【0032】
図1は、亜硝酸アルキル製造装置を示す図である。
図1の亜硝酸アルキル製造装置100において、液状のアルコールは、アルコール供給ライン11(以下、「配管11」ともいう)から亜硝酸アルキル製造用反応塔1(以下、「反応塔1」ともいう)の上部に供給される。反応塔1は、第2反応器に相当する。
本明細書における反応塔1の上部とは、反応塔1の上下方向における中間部よりも上側の部分をいう。本明細書における反応塔1の中間部とは、反応塔1の高さを100としたとき、40~60の高さの区間をいう。本明細書における反応塔1の下部とは、反応塔1の上下方向における中間部よりも下側の部分をいう。
【0033】
反応塔1の上部には、アルコールを供給するための供給口が設けられている。当該供給口に配管11が接続されている。配管11を流通してこの供給口から反応塔1の上部に供給されたアルコールは、反応塔1の上部から下方に流下する。
【0034】
反応塔1の中間部よりも下側には、反応塔1に一酸化窒素を含有する非凝縮ガス1を供給するための供給口が設けられている。この供給口には原料ガス供給ライン12(以下、「配管12」ともいう)が接続されている。配管12を流通した非凝縮ガス1は、この供給口から反応塔1の下部に供給される。反応塔1の下部に供給された非凝縮ガス1は、反応塔1の下部から上方に上昇する。
【0035】
図1では、酸素供給ライン15(以下、「配管15」ともいう)は、配管12に接続されている。配管15は、配管12を経由せず直接反応塔1の下部に接続されていてもよく、反応塔1の下部と配管12の両方に接続されていてもよい。酸素は分子状酸素である。酸素は、配管15を通って、配管12及び/又は反応塔1の下部に供給される。これらのうち、反応効率の点から、酸素は配管12に供給されることが好ましい。この場合、反応塔1の下部には、少なくとも一酸化窒素及び酸素を含有する混合ガスが供給される。
【0036】
反応塔1に供給された、アルコールと一酸化窒素と酸素とが反応塔1の内部で反応して、亜硝酸アルキルが生成する。このときの主反応は、下記式(1)で記載される。このとき、反応塔1では、下記式(2)で表される副反応が進行し、硝酸が副生する。式(1)及び(2)中、R1はアルキル基を示し、好ましくは炭素数1~4のアルキル基、より好ましくはメチル基又はエチル基、特に好ましくはメチル基である。つまり、アルコールはメタノールであることが好ましい。すなわち、アルコールがメタノールであり、亜硝酸アルキルが亜硝酸メチルであり、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルが炭酸ジメチル及び/又はシュウ酸ジメチルであることが好ましい。
2NO + 2R1OH + 1/2O2 → 2R1ONO + H2O (1)
NO + 3/4O2 + 1/2H2O → HNO3 (2)
【0037】
(1)の反応で生成した亜硝酸アルキルは未反応の一酸化窒素とともに第3ガスを形成し、第3ガスは更に第1ガスに導入され、第一工程で原料として使用され、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルを生成する。炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルは、第二工程で、凝縮液中に回収されるが、一部非凝縮ガスに混入し、更に反応塔1に混入することになる。第三工程におけるアルコールがメタノールである場合、上記(1)の反応で亜硝酸メチルが生成し、第一工程で炭酸ジメチル及び/又はシュウ酸ジメチルが生成するため、反応塔1には炭酸ジメチル及び/又はシュウ酸ジメチルが混入することになる。
【0038】
反応塔1の塔頂部には、第3ガス抜き出しライン13(以下、「配管13」ともいう)が接続されている。第3ガスは、未反応の一酸化窒素及び亜硝酸アルキルを含有する。上記式(1)等によって生成した亜硝酸アルキルを含有する第3ガスは、配管13を用いて反応塔1から抜き出すことができる。
【0039】
反応塔1の底部には、上記(1)及び(2)で生成した硝酸及び水、並びに未反応のアルコール等を含む塔底液が残存する。
【0040】
(第四工程)
第四工程は、一酸化炭素及び/又は一酸化窒素、アルコール並びに第三工程で得られた硝酸を反応させて、亜硝酸アルキルを生成する工程である。
第四工程は、一酸化炭素及び/又は一酸化窒素並びに塔底液を第3反応器に導入、混合して混合液を得、混合液中の一酸化炭素及び/又は一酸化窒素、アルコール並びに硝酸を反応させて、亜硝酸アルキルを生成する工程であることが好ましい。この工程で生成した亜硝酸アルキルは、未反応の一酸化炭素及び/又は一酸化窒素とともに、第三工程の第2反応器に循環され、未反応のアルコール及び硝酸並びに水が廃液回収槽に移送される。また、第四工程で使用するアルコールは、第三工程において未反応のアルコール又は新たに添加されたアルコールである。第四工程で使用するアルコールは、第三工程において未反応のアルコール及び新たに添加されたアルコールの混合液であってもよい。
【0041】
図1において、反応塔1の塔底液は、少なくとも水と未反応のアルコールと硝酸とを含有する。この塔底液は、反応塔1の下部から、塔底液抜き出しライン14(以下、「配管14」ともいう)を用いて抜き出され、硝酸変換用反応器2(以下、「反応器2」ともいう)に供給される。反応器2は、第3反応器に相当する。配管14は、反応塔1の下部の塔底液が抜き出せる位置に接続されていればよく、具体的には、反応塔1の底部に接続されていることが好ましい。配管14が反応器2に接続される位置は特に限定されず、反応器2への塔底液の供給のしやすさの点から、反応器2の上部に接続されていることが好ましい。
【0042】
配管14を経由して反応器2に供給された塔底液は、一酸化炭素及び/又は一酸化窒素と接触、混合して混合液となる。一酸化炭素及び一酸化窒素は、それぞれ一酸化窒素又は一酸化炭素の供給ライン16(以下、「配管16」ともいう)、又は一酸化窒素及び一酸化炭素の混合ガス供給ライン17(以下、「配管17」ともいう)を経由して、反応器2に供給される。混合液中で、例えば式(3)及び(4)に表される反応によって、亜硝酸アルキルを生成する。すなわち、硝酸とアルコールと一酸化炭素及び/又は一酸化窒素とが反応し、亜硝酸アルキルが生成される。なお、式(3)及び(4)中、R1は、前記と同義である。
HNO3 + CO + R1OH → R1ONO + H2O + CO2(3)
HNO3 + 2NO + 3R1OH → 3R1ONO + 2H2O (4)
【0043】
反応器2で生成した亜硝酸アルキル、並びに未反応の一酸化炭素及び/又は一酸化窒素を含有する第4ガスは、第4ガス抜き出しライン18(以下、「配管18」ともいう)から抜き出され、反応塔1に供給される。配管18は、反応塔1の上下方向における中間部よりも上方に設けられた供給口に接続されていることが好ましい。これによって、第4ガスは、反応塔1の上部に供給される。反応器2中の未反応のアルコール及び硝酸並びに水が廃液回収槽に移送される。
【0044】
反応器2において、塔底液と接触させるガスとして、一酸化炭素を用いる場合には、反応効率を向上させる点から、触媒の存在下で塔底液と一酸化炭素とを接触させることが好ましい。ここで用いる触媒としては、白金族金属を含む触媒が好ましく、パラジウムを含む触媒がより好ましい。白金族金属を含む触媒としては、白金族金属が担体に担持された触媒が好ましい。また、反応器2中の反応液は、10~60℃に制御することが好ましい。
【0045】
このような触媒における白金族金属の担持量としては、担体に対して0.01~10質量%であることが好ましく、0.2~2質量%であることがより好ましい。触媒を構成する担体としては、活性炭、アルミナ、シリカ、珪藻土、軽石、ゼオライト、モレキュラーシーブ等の不活性担体が挙げられる。これらの中でもアルミナが好ましく、α-アルミナが特に好ましい。
【0046】
反応器2に一酸化炭素を供給する場合には、
図1に示すように、一酸化炭素は一酸化炭素供給ライン16(以下、「配管16」ともいう)を用いて反応器2に供給される。一酸化炭素の反応効率の点から、配管16は、反応器2の下部に接続されていることが好ましい。すなわち、配管16は、反応器2の上下方向の中間部よりも下方に設けられた供給口に接続されることが好ましい。また、反応器2に一酸化炭素を供給する場合には、
図1に示すように、配管18は反応塔1の高さ方向の中間部に接続されていることが好ましい。これにより、第4ガス中の一酸化炭素の酸化を低減することができる。
【0047】
本明細書における反応器2の上部とは、反応器2の上下方向における中間部よりも上側の部分をいう。本明細書における反応器2の中間部とは、反応器2の高さを100としたとき、40~60の高さの区間をいう。本明細書における反応器2の下部とは、反応器2の上下方向における中間部よりも下側の部分をいう。
【0048】
配管16を経由して反応器2に供給される一酸化炭素と、後述する一酸化炭素供給ライン32を用いて供給される一酸化炭素とは、同じ一酸化炭素源から供給されるものであってもよく、異なる一酸化炭素源から供給されるものであってもよい。
【0049】
反応器2は、複数の反応部に区画されていてもよい。反応器2は、配管によって複数の反応部(反応槽)に区画されていてもよく、内壁又は堰等によって複数に区画されていてもよい。反応器2を区画することによって形成される反応部の数は、反応の制御と経済性の観点から、2~5であってもよいし、2~3であってもよい。反応器2に形成される複数の反応部は、例えば
図2に示されるように、原料である溶液又は反応液の流通方向に沿って直列に配設されていることが好ましい。なお、処理能力向上の観点から、並列に配設されていてもよく、直列に配設された反応器を並列に配設してもよい。配設の仕方は、製造の目的、製造量、設備等に応じて、適宜調節することもできる。
【0050】
図2に、反応槽A~Cを直列に配設した反応器2の例を示す。直列に配設された複数の反応槽を有する反応器2は、反応温度が60℃~80℃である反応槽A、及び反応槽Aの下流側に反応温度が80℃~100℃である反応槽Cを有していてもよい。反応槽Aの反応温度は65℃~75℃であってもよい。反応槽Cの反応温度は85℃~95℃であってもよい。反応槽Bの反応温度は、反応槽Aの反応温度以上であり、反応槽Cの反応温度以下であることが好ましい。反応槽は二段以上の多段の反応槽を用いてもよい。
【0051】
反応器2において、硝酸濃度が1質量%以上の反応器(反応部)においては、ガス空塔速度を20mm/秒~100mm/秒としてもよいし、30mm/秒~80mm/秒としてもよい。硝酸濃度が1質量%未満の反応器(反応部)においてはガス空塔速度を1mm/秒~20mm/秒としてもよいし、5mm/秒~15mm/秒としてもよい。このようなガス空塔速度とすることで、一層効率的に亜硝酸アルキルを製造することができる場合がある。本開示におけるガス空塔速度とは、反応器(反応部)を管状としたときの、反応器(反応部)の断面に基づくガス速度を示す。なお、断面が一定ではない場合、その平均値でガス空塔速度を求めることができる。
【0052】
反応器2(反応部)における滞留時間は、反応条件及び反応器2(反応部)の容積に応じて適宜変更してもよい。反応器2の総滞留時間は、1時間~20時間程度であってもよく、2時間~10時間程度であってもよい。各反応部における反応液の滞留時間は、各反応部での反応温度と転化率にもよるが、収率と品質の観点から、下流側の反応部(第2反応部)の滞留時間を、上流側の反応部(第1反応部)の滞留時間よりも長く設定してもよい。
【0053】
<硝酸濃度の測定>
第三及び/又は第四工程は、該工程における任意の溶液中の硝酸の濃度をUV吸光度から測定し、測定された硝酸の濃度が目標の範囲内であるか否かを判断するサブ工程であって、前記濃度が目標の範囲外であるときに、前記溶液中の硝酸の量を調整し、前記濃度を目標の範囲内とするサブ工程を有する。
好ましくは、第三及び/又は第四工程は、第2反応器及び第2反応器と第3反応器との配管中の塔底液、第3反応器中の混合液、並びに第3反応器と廃液回収槽との配管及び廃液回収槽中の廃液からなる群より選択される少なくとも1つにおける硝酸の濃度をUV吸光度から測定し、制御部において、測定された硝酸の濃度が目標の範囲内であるか否かを判断するサブ工程であって、前記濃度が目標の範囲外であるときに、前記塔底液、混合液又は廃液中の硝酸の量を調整し、前記濃度を目標の範囲内とするサブ工程を有する。
このようなサブ工程を設けることにより、塔底液、混合液又は廃液中の硝酸濃度を適切な範囲に調整することが可能となり、SUS製反応装置の腐食を抑制し、かつ、廃液中の窒素源を低減させることにより、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルを長期間にわたって連続的かつ効率よく製造をすることが可能となる。前記塔底液、混合液又は廃液は硝酸とともに、アルコール又は/及び水を含むことがあり、溶液と称することがある。
【0054】
本明細書において、廃液回収槽とは、反応器2の後段に設置される槽及び装置等を指し、例えば、
図1における硝酸濃縮塔3を含む。また、廃液とは、反応器2から排出される水溶液全般を指し、具体的には、
図1の廃液回収ライン21以降を流れる水溶液全般を指す。
廃液中の窒素源を低減し、それを有効利用する観点から、廃液回収ライン21における硝酸の濃度を測定し、該濃度が目標の範囲内であるか否かを判断することが好ましい。
【0055】
塔底液、混合液又は廃液におけるUV吸光度をリアルタイムで測定するために、第2反応器、第3反応器及び廃液回収槽並びにこれらを接続する配管中に、UV検出器が設置され、UV吸光度から前記塔底液、混合液又は廃液の硝酸の濃度が測定される。UV吸光度測定は、連続的又は間欠的に行うことができる。ここでいうUV吸光度とは、紫外領域(200~380nm)の光を対象試料に照射し、試料を透過した光の強度をUV検出器にて測定するものであり、公知の装置を使用すればよい。
【0056】
第3反応器の混合液は硝酸濃度が高いほど、亜硝酸アルキルの生成に有利であるが、SUS製反応器の腐食が進行することが知られている。化学装置材料耐食表p75
図52によれば、硝酸濃度が10質量%を超えると、0.0025mm/年でSUS表面の腐食が進むことが知られている。そのため、長期間の連続製造を行うには、塔底液、混合液又は廃液の硝酸濃度は0.001質量%以上10質量%以下で制御することが好ましく、更に好ましくは0.002質量%以上9質量%以下が好ましく、特に好ましくは0.003質量%以上8質量%以下である。
【0057】
硝酸濃度のUVによる測定方法は、管路を通じて試料液を流しながら試料液の調整と吸光度の測定を行う連続流れ分析法に基づき、硝酸イオンに対して吸収域を有する複数の波長の測定光を用い、試料液の硝酸濃度に応じて測定光の波長を選択して吸光度を測定し、この吸光度から硝酸濃度を測定する方法である。
UV吸光度をリアルタイムで測定するために、第2反応器、第3反応器及び廃液回収槽並びにこれらを接続する配管にサンプルループを設けてもよい。例えば、第2反応器、第3反応器及び廃液回収槽並びにこれらを接続する配管に切替バルブを設置し、UV吸光度の測定時に、該バルブをサンプルループ側に切替え、試料を採取し、UV吸光度をリアルタイムで測定することができる。UV吸光度の測定の前に、UV吸光度と別の測定法による硝酸濃度から検量線を作成することが望ましい。別の測定法としては、滴定、クロマトグラフィーなど公知の分析法を使用することができる。
【0058】
図1において、塔底液抜き出しライン14(以下、「配管14」ともいう)にUV検出器を取り付けてもよいし、廃液回収ライン21(以下、「配管21」ともいう)、濃縮液抜き出しライン22(以下、「配管22」ともいう)及び/又は廃液抜き出しライン25(以下、「配管25」ともいう)に取り付けてもよい。配管14に設置すれば、反応器2に導入する硝酸濃度の制御に活用できる。配管21、22又は25に設置すれば、廃液中の窒素分の含有量を見積もることができる。
図2であれば、配管34に取り付けると、反応器2に導入する硝酸濃度の制御に活用でき、配管37に取り付けると、廃液中の窒素分の含有量を見積もることができる。UV検出器は少なくとも1つあればよいし、複数設置してもよい。
【0059】
予め試料液の硝酸濃度レベルが判明しているときには、この硝酸濃度のレベルに応じて測定光の波長を選択し、適切な波長の測定光を用いて吸光度を測定する。具体的には、硝酸の吸光度は300nm付近で最大となる。また吸光度の調整は光路長でも可能で、光路長が長いほど吸光度が大きくなる。波長は、280nm~330nmであることが好ましく、280nm~320nmであることがより好ましく、280nm~315nmであることがさらに好ましい。この波長範囲であれば、精度よく硝酸濃度を測定することができる。
【0060】
硝酸イオンの検出に用いる分光光度計は一般に吸光度(Absorbance)を-0.5~3Abs.(Abs.は任意単位)の範囲で測定するので、この測定範囲内に吸光度が収まるように試料注入量および測定波長を調節する必要がある。通常用いられている分光光度計では硝酸濃度が10Mまでであれば試料の注入量を変更せずに測定波長を長波長側に変更するだけで試料の硝酸濃度を測定することができる。硝酸濃度が10Mを上回る場合には測定波長を長波長側に変更すると共に試料注入量を調整する必要がある。試料注入量を調整しないと一般の分光光度計では測定可能域(-0.5~3Abs.の吸光度)での測定ができない。なお、測定可能な範囲は使用する分光光度計によって異なるので、測定波長を切り替える基準硝酸濃度は測定系に用いられている分光光度計に応じて定めればよい。
【0061】
測定した吸光度から硝酸濃度を知るには検量線を利用すればよい。検量線は種々の濃度(0~14M)の硝酸イオン標準液を用い、これを実際に測定して得られた最大吸光度をもって当該濃度の吸光度とし、各濃度の吸光度を結んだグラフとして作成される。なお、測定波長の変更および試料注入量の変更を行なうためには、これらの条件を考慮に入れた検量線を利用する。
【0062】
具体的には、一例として次式によって得られる検量線が用いられる。
X=(A-b)/a ・・・・(5)
X:硝酸イオン濃度(M)
A:測定吸光度(最大吸光度、Abs.)
a:硝酸イオン濃度1Mあたりの検出感度(Abs./M)
b:ブランク吸光度(硝酸濃度0Mを測定した場合の吸光度、Abs.)
ここで、検出感度aは測定波長および試料注入量により変化する。そこで予め測定に用いる各測定波長の硝酸イオンに対する検出感度(Τλ:ある特定波長におけるモル吸光係数、波長により設定)、および試料注入量V(μl:キャリアー流量C(μl/sec)と試料注入時間t(sec)の積)と検出感度の関係K(K=V×f、f:試料注入量を変化させた時の検出感度変化率)との関係から、次式に基づいて実験的に検出感度aを求めておき、それぞれ測定条件を変化させた場合に最適値を使用するように設定する。
a=Τλ×K、すなわち、X=(A-b)/(Τλ×K) ・・・・(6)
【0063】
この式を検量線として利用することにより、例えば、280nmの波長を用い最大1Mまでの硝酸濃度について検量線を作成すれば、測定波長および試料注入量を変化させても測定条件の変更に伴う硝酸イオンに対する検出感度変化を算出して硝酸イオン濃度を求めることができる。なお、この検量線データは測定装置の中央制御装置に記憶させておくことにより、リアルタイムでの自動測定化が可能である。
【0064】
塔底液測定用のUV検出器の設置場所は限定されない。複数設置してもよい。最初の硝酸の濃度について把握するために、反応塔1の下部から反応器2までの塔底液抜き出しライン14においては、硝酸濃度を測定するのが好ましい。また、
図2において、それぞれの反応部中の硝酸濃度を測定してもよいし、各反応部間を繋ぐライン中の硝酸濃度を測定してもよい。最終的に反応器2における混合液中の硝酸濃度を測定してもよい。
【0065】
塔底液、混合液又は廃液中の硝酸濃度の範囲が10質量%以下である場合、前記塔底液、混合液又は廃液をそのまま試料液として用い、単一の波長の測定光に対する吸光度を測定し、この吸光度から硝酸濃度を測定することが好ましい。該方法を用いることにより、簡便かつ精度よく、硝酸濃度を測定することができる。この場合、単一の波長としては、280~320nmであることが好ましく、より好ましくは290~315nm、特に好ましくは300~305nmである。
【0066】
第三及び/又は第四工程は、制御部において、測定された硝酸の濃度が目標の範囲内であるか否かを判断し、前記濃度が目標の範囲外であるときに、前記塔底液、混合液又は廃液中の硝酸の量を調整し、前記濃度を目標の範囲内とするサブ工程を有する。当該工程により、塔底液、混合液又は廃液中の硝酸濃度を目標の範囲内とし、反応器内の腐食の進行を防止するとともに、廃液中の窒素源を低減させることが可能となり、長期間にわたる連続的な製造が可能となる。硝酸濃度の目標範囲は、例えば、0.001質量%~10質量%であることが好ましく、より好ましくは0.002質量%~9質量%、特に好ましくは0.003質量%~8質量%である。
【0067】
前記塔底液、混合液又は廃液中の硝酸の量の調整とは、塔底液、混合液又は廃液中の硝酸濃度が目標の範囲外であるときに、目標の範囲内に制御することである。硝酸を含む溶液のフィード量を増やしたり、反応温度を低下させて、反応器内の硝酸濃度を高めてもよい。また、硝酸を含む溶液のフィード量を減らしたり、硝酸を含む溶液のフィードを停止させたり、硝酸を含む溶液に水などを添加して希釈した硝酸含有溶液をフィードさせたり、反応温度を高めるなどして、反応器内の硝酸濃度を低下させても良い。具体的には、上述の操作が挙げられるが、これらに限定されない。以上のような処置で、反応器内の腐食の進行を防止することができる。
【0068】
炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルのアルキルがメチルの場合、第三工程又は第四工程における塔底液、混合液又は廃液中の硝酸濃度の制御により、SUS製容器の腐食以外にも硝酸メチルの生成を抑える必要がある。このため、硝酸濃度の上限値を設けて運転することが、長期的な連続製造につながる。落追試験によれば、溶液中の硝酸メチルを2質量%未満とすることが求められる。
【0069】
硝酸メチルは、硝酸濃度が40質量%、かつ、メタノールが30質量%、かつ、反応時間10時間、かつ、反応温度80℃の場合、生成量2質量%に達する可能性があり、硝酸濃度を40質量%未満に制御することが求められる。
【0070】
硝酸濃度が40質量%を超えた場合、反応塔1又は反応器2への硝酸のフィード量を減少させて反応器内の硝酸濃度を低下させるか、メタノールのフィード量を減少させて反応塔1又は反応器2内のメタノール濃度を低下させるか、又は、反応温度を低下させる。以上のような処置で、反応塔1又は反応器2内の硝酸メチルの生成量を2質量%以下に抑えることができる。硝酸のフィードには、例えば、塔底液循環ライン19を用いることができる。
【0071】
亜硝酸アルキルの製造装置100は、反応器2からの反応液から低沸点分を留去して、硝酸分を濃縮する硝酸濃縮塔3を備えている。そして、この硝酸濃縮塔3からの硝酸濃縮液におけるアルコール濃度を4質量%以下に維持することによって、低沸点分に混入する硝酸アルキル等の硝酸分を十分に低減することができる。これによって、廃液処理される硝酸分の量を十分に低減することができる。そして、濃縮液循環ライン23により、硝酸濃縮液を反応器2に循環することによって、硝酸成分を有効に利用できる。したがって、原料として用いられる一酸化窒素を十分に低減することができる。
【0072】
硝酸濃縮塔3の濃縮液中の硝酸濃度が低減できれば、中和処理の工程が短縮され、より環境に負担の小さい炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造方法となる。濃縮液中の硝酸濃度はSUS製配管の腐食を抑制する観点から、10質量%以下が好ましく、8質量%以下が更に好ましく、5質量%以下が特に好ましい。
【0073】
亜硝酸アルキルの製造装置100は、廃液抜き出しライン25を備える。廃液中の硝酸濃度が正確に把握できないと、中和に必要なアルカリ添加量に誤差が生じ、中和処理が完了しない状態で廃液を流出させることになる。本発明の製造方法は、廃液中の硝酸濃度をUV吸光度からオンラインで測定する工程を備えていてもよい。該工程を備えることにより、廃液中の硝酸濃度の正確な測定が可能となり、適切な廃液処理が可能となる。
【0074】
(第五工程)
第五工程は、第三工程で得られた第3ガスと一酸化炭素とを混合して得られた前記第1ガスを第一工程に循環する工程である。一酸化炭素は、一酸化炭素供給ライン32を経由して第3ガスに供給される。第3ガスは、未反応の一酸化窒素とともに亜硝酸アルキルを含有しており、この工程により、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの原料である亜硝酸アルキルを有効利用することができる。
【0075】
[炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造装置]
図3に、本発明の炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造方法が適用される炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造装置の概略構成を示す。
図3で使用される符号は、上記のとおりの意味を有する。
図3は、炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキル製造装置の例を示すものであり、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0076】
本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、反応器2は、
図2のような攪拌槽型のものに限定されない。例えば、反応器2は、充填塔又はシーブトレイ等のトレイを備える多段塔形式であってもよい。反応が気液接触反応であるため、攪拌機能を有するものであることが好ましい。また、反応器2としては、例えば、気液混合反応槽、充填塔、棚段塔又は気泡塔等であってもよい。反応器の種類はこれらに限定されず、上述したもの以外の一般的に知られているものを用いてもよい。攪拌槽型反応器を用いる場合は、攪拌性、及びガスの分散性を向上する観点から、羽根形状の攪拌機と回転装置等を有する、気液接触効率の高い反応器を用いることが好ましい。反応器が多段塔形式である場合、反応器は気液接触効率の高い充填材を有することが好ましい。生成した亜硝酸アルキルは、ガスに同伴させて反応系外に導出して(必要に応じて洗浄等により精製して)、他の反応に利用してもよい。
【0077】
炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造装置において、第2反応器もしくは配管中の塔底液、第3反応器もしくは配管中の混合液、又は廃液回収槽もしくは配管中の廃液は、硝酸、アルコール、一酸化窒素及び亜硝酸アルキルを含有することが好ましい。
【0078】
炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造装置において、第2反応器及び第3反応器に導入されるアルコールがメタノールであり;第1反応器に導入され、第2反応器及び第3反応器で生成する亜硝酸アルキルが亜硝酸メチルであり;目的化合物である炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルが炭酸ジメチル及び/又はシュウ酸ジメチルであることが好ましい。
【0079】
炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの製造装置において、UV検出器が、前記塔底液、第3反応器中の混合液又は廃液の吸光度を測定し、検量線を用いて、前記塔底液、第3反応器中の混合液又は廃液の硝酸の濃度をリアルタイムで測定することが好ましい。
【実施例0080】
検量線の作成(1)
UV検出器(株式会社島津製作所製、SPD-10A)に10質量%硝酸ナトリウム水溶液を通液し、303nmにおける吸光度を測定したところ、0.438であった。このときの硝酸イオン濃度を硝酸濃度に換算し、
図4に示すとおり、硝酸濃度と吸光度の検量線を作成した。
【0081】
実施例1-1
攪拌翼付き1Lオートクレーブに硝酸10質量%、メタノール30質量%、水60質量%の液を800ml仕込んだ。攪拌しながら常圧にて、10体積% NO-N
2を1000ml/minで吹き込み、温度30℃で4時間反応させた。得られた硝酸還元槽(反応器2に対応)反応液をHPLC用UV検出器(株式会社島津製作所製、SPD-10A)に通液し、その吸光度(303nm)から硝酸濃度を算出した。硝酸濃度の算出には、
図4に示す検量線を用いた。UV検出器により算出された硝酸濃度は9.22質量%であった。同じ反応液の硝酸濃度を中和滴定により測定したところ、10.06質量%であった。
【0082】
実施例1-2
実施例1-1のメタノール濃度、硝酸濃度、反応圧力、反応温度、吹き込みNO濃度を変えて硝酸還元槽反応液を得た。各反応液を実施例1-1と同様の方法で分析し、吸光度による硝酸濃度を算出した。また、同じ反応液の硝酸濃度を中和滴定により測定した。横軸に滴定による硝酸濃度、縦軸に吸光度による硝酸濃度をプロットしたグラフを
図5に示す。
図5に示すとおり、傾きはほぼ1、R
2=0.977であり、2つの測定法による硝酸濃度は高い相関関係を示した。
【0083】
実施例2
図1の亜硝酸アルキル製造装置の構成で、アルコールとしてメタノールを使用して、硝酸から亜硝酸メチルを再生した。
図1の反応塔1の塔底液(再生塔ボトム液)、実施例1-2で得られた硝酸濃度2.99質量%の反応液に、60質量%硝酸水溶液を、添加量を変えてそれぞれ加えた水溶液、並びに模擬液の計5種類の硝酸水溶液を調製した。これらの水溶液について、中和滴定により硝酸濃度を求めたところ、それぞれ、13.10、7.49、5.26、9.60及び10.01質量%であった。
同じ水溶液について、280~380nmの波長で吸光度を測定した結果を表1に示す。例えば、表1において、実施例1-2で得られた硝酸濃度2.99質量%の反応液に60質量%硝酸水溶液を加えて5.26質量%に調整した水溶液の、波長302nmにおける吸光度は、1.1426である。測定には株式会社日立製作所製、U-2010形分光光度計(セル長2mm)を用いた。
【0084】
【0085】
表1に基づいて、280、302、303、313及び334nmにおける吸光度と中和滴定による硝酸濃度の関係をプロットしたグラフを
図6に示す。
図6に示すとおり、302nm及び303nmにおける吸光度は、中和滴定による硝酸濃度と良好な相関関係を示し、この波長を用いた吸光度の測定により、硝酸濃度の算出が可能であることが確認できた。
【0086】
実施例3
図1の亜硝酸アルキル製造装置の構成で、硝酸から亜硝酸メチルを再生した。
図1の反応器2の混合液(硝酸還元槽反応液)(パイロット100L)について、HPLC用UV検出器(株式会社島津製作所製、SPD-10A)を用い、303nmにおける吸光度からの硝酸濃度を測定したところ、3.92質量%であった。同じ反応液の硝酸濃度を中和滴定により算出したところ、3.42質量%であった。
UV検出器を用いた硝酸濃度の算出には、HNO
3/MeOH/H
2O=5質量%/30質量%/65質量%の水溶液を使用して、303nmにおける吸光度から作成した検量線を用いた。
【0087】
検量線の作成(2)
図1の亜硝酸アルキル製造装置の構成で、アルコールとしてメタノールを使用して、硝酸から亜硝酸メチルを再生した。
図1の反応塔1の塔底液(再生塔ボトム液)と反応器2の混合液(硝酸還元槽反応液)を所定の割合で混合し、カンタムデザイン社製インラインUV計(C4422-EX/AF46-VB-EX)に通液し300nmで吸光度を測定したところ、2.066cuであった。この時の硝酸濃度は、イオンクロマト分析により1.63質量%であった。吸光度を横軸とし、硝酸濃度を縦軸とした関係から傾きを算出し、検量線とした。傾きは0.7882であった。
【0088】
実施例4-1
図3に示すシュウ酸ジアルキル製造装置の構成で、シュウ酸ジメチルの製造を行った。
図3の反応器2の混合液(硝酸還元槽反応液)をカンタムデザイン社製インラインUV計(C4422-EX/AF46-VB-EX)に通液し、波長303nmにて吸光度を測定したところ1.159であった。検量線の作成(2)で得た検量線を用いて吸光度から計算した硝酸濃度は0.91質量%であった。またイオンクロマト分析による硝酸濃度は0.67質量%であり、硝酸メチルの濃度は6.8質量ppmであった。
【0089】
実施例4-2
実施例4-1と同様にして、シュウ酸ジメチルの製造を行った。反応器2の混合液(硝酸還元槽反応液)並びに反応塔1の塔底液(再生塔ボトム液)及び前記混合液を混合して得られた溶液について、経時的にサンプリングして、実施例4-1と同様に、波長303nmにおける吸光度及びイオンクロマト分析から、それぞれ硝酸濃度を算出した。2つの測定から得られた硝酸濃度の相関関係を
図7に示す。2つの測定から得られた硝酸濃度は、良好な相関関係を示した。