(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156976
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】ろ過膜の異常検出方法
(51)【国際特許分類】
B01D 65/10 20060101AFI20221006BHJP
G01M 3/26 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
B01D65/10
G01M3/26 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060942
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】507365204
【氏名又は名称】旭化成メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 主弥
(72)【発明者】
【氏名】関根 真也
【テーマコード(参考)】
2G067
4D006
【Fターム(参考)】
2G067AA36
2G067BB02
2G067BB04
2G067BB14
2G067BB25
2G067CC02
2G067DD06
2G067EE06
4D006GA02
4D006HA01
4D006HA41
4D006LA06
4D006MA01
4D006MA03
4D006MC12
4D006MC29
4D006MC63
4D006PA01
4D006PB55
(57)【要約】
【課題】影響の小さなリーク品であっても見逃すことがないようにする。
【解決手段】本発明の一態様は、ろ過膜Mで仕切られた空間の一方側である気相側から加圧気体を供給し、ろ過膜Mを透過した気体の量に応じて空間の他方側の液相から排出される液体の量を測定することによってろ過膜Mに所定値よりも大きな孔があいた異常があるかどうか検出する方法である。当該検出方法では、空間の一方側から供給する気体の圧力を140kPa以上とし、空間の他方側から排出される液体の量を液相側に設置した流量計74で測定し、該流量計74で測定した液体の量から、ろ過膜Mの正常な孔を透過した気体の量に対応したぶんの液体の量を差し引き、当該差し引いた後の液体の量に基づいて異常を判別する。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ろ過膜で仕切られた空間の一方側である気相側から加圧気体を供給し、前記ろ過膜を透過した気体の量に応じて前記空間の他方側の液相から排出される液体の量を測定することによって前記ろ過膜に所定値よりも大きな孔があいた異常があるかどうか検出する方法であって、
前記空間の一方側から供給する気体の圧力を140kPa以上とし、
前記空間の他方側から排出される液体の量を前記液相側に設置した流量計で測定し、
該流量計で測定した液体の量から、前記ろ過膜の正常な孔を透過した気体の量に対応したぶんの液体の量を差し引き、当該差し引いた後の液体の量に基づいて異常を判別する、
ろ過膜の異常検出方法。
【請求項2】
前記ろ過膜を透過する気体の透過流速を安定化させてから、前記流量計による測定を行う、請求項1に記載のろ過膜の異常検出方法。
【請求項3】
前記ろ過膜に前記液体が染み込んだ状態とし、
所定時間、前記気相側から前記加圧気体を供給して前記ろ過膜を透過させ、前記ろ過膜を透過する気体の透過流速を安定化させる、請求項2に記載のろ過膜の異常検出方法。
【請求項4】
前記ろ過膜の正常な孔を透過した気体の量に対応したぶんの液体の量として、あらかじめ設定した所定液体透過量を適用する、請求項1から3のいずれか一項に記載のろ過膜の異常検出方法。
【請求項5】
前記所定液体透過量として、異常のないろ過膜の気相側から加圧気体を供給し、当該ろ過膜を透過した気体の量に応じて前記液相から排出される液体の量を測定し、該測定量に基づく液体透過量をあらかじめ設定しておく、請求項4に記載のろ過膜の異常検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろ過膜の異常検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ろ過膜を用いた膜分離は、簡便でエネルギー消費の少ない物質分離方法として多方面で使用されている。このような膜分離は、基本的にその膜に存在する孔の大きさによりろ過に供される物質の篩分けを行うことをその動作原理としていて、たとえばウイルス除去フィルターであれば膜分離によりウイルスを除去する、といった具合である。たとえばこのようなウイルス除去フィルターでろ過された医薬品のウイルス安全性を向上させることは、医薬品による薬害を患者に発生させないために必要不可欠であり、この感度を改善することは患者のウイルスに対する安全性を確保するうえで重要であることは、過去の薬害訴訟等などからしても明らかである。
【0003】
さて、このようなろ過膜の製造工程や使用中において、当該ろ過膜に欠陥が発生することがある。その最も代表的なものがピンホール(PH)と呼ばれる、ろ過膜本来の孔に対して比較的大きな孔が存在するという欠陥の発生である。ピンホールが存在すると、そのピンホールを通過する物質は篩分けの作用を受けないことになるので、ろ過された物質中に本来排除されるべき物質が混入してしまい、分離効率が低下する。ろ過膜に課される重要な機能からして、当該ろ過膜の異常、別言すればリーク品(欠陥)の有無を検出する試験(完全性試験)はきわめて重要となる(たとえば特許文献1,2参照)。
【0004】
このようなピンホールの有無を検出するための試験(完全性試験)の方法としては、従来、たとえばろ過膜で仕切られた一方の空間を気体で加圧し、他方を液体で充填し、正常な孔からは気体が流出しないが、ピンホールからは流出するような圧力をかけ、ピンホール部分から漏洩してくる気体の流量を測定することにより、ピンホールの有無を調べるという液体の表面張力を利用する方法が知られている。
【0005】
また、完全性試験の感度という点に着目すると、当該感度を上げるアプローチの一つに、検出可能なピンホール径を小さくすることが挙げられる。この点、これまで行われている従来の技術では、フィルターの異常を定量的に検出することを重視し、フィルターの加圧側に検出器を設けてフィルターの異常(ピンホール)からエアが漏出する量を測定する、といった手法がとられているのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO98/092184号
【特許文献2】国際公開WO2019/229872号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、現状の完全性試験では、検出感度の限界などにより影響の小さなリーク品を見逃してしまう可能性がある。
【0008】
そこで、本発明は、影響の小さなリーク品であっても見逃すことがないようにしたろ過膜の異常検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決する本発明の一態様は、ろ過膜で仕切られた空間の一方側である気相側から加圧気体を供給し、ろ過膜を透過した気体の量に応じて空間の他方側の液相から排出される液体の量を測定することによってろ過膜に所定値よりも大きな孔があいた異常があるかどうか検出する方法であって、
空間の一方側から供給する気体の圧力を140kPa以上とし、
空間の他方側から排出される液体の量を液相側に設置した流量計で測定し、
該流量計で測定した液体の量から、ろ過膜の正常な孔を透過した気体の量に対応したぶんの液体の量を差し引き、当該差し引いた後の液体の量に基づいて異常を判別する、
ろ過膜の異常検出方法である。
【0010】
上述のごとき従来の検出方法においては、通常部分から水に拡散・溶解する量(ADRn)とピンホールから漏出する量(ADRPH)を検出しているこということができるのであるが、それにもかかわらず、検出感度の改善についてアプローチされてはいなかった。この点に着目した本発明者は、種々の検討を経て得られた知見に基づき本発明を想到するに至った。すなわち、本発明にかかるろ過膜の異常検出方法は、ろ過膜の通常部分(正常な孔が設けられた部分)から水に溶解しない量(AFRnunsoluble)を、透過側に設けた検出器で検出し、当該検出したぶんの量をキャンセルすることによって検出感度を上げることを可能としたものである。
【0011】
上記態様のろ過膜の異常検出方法においては、ろ過膜を透過する気体の透過流速を安定化させてから、流量計による測定を行うこととしてもよい。
【0012】
上記態様のろ過膜の異常検出方法において、
ろ過膜に液体が染み込んだ状態とし、
所定時間、気相側から加圧気体を供給してろ過膜を透過させ、ろ過膜を透過する気体の透過流速を安定化させるようにしてもよい。
【0013】
上記態様のろ過膜の異常検出方法において、ろ過膜の正常な孔を透過した気体の量に対応したぶんの液体の量として、あらかじめ設定した所定液体透過量を適用してもよい。
【0014】
上記態様のろ過膜の異常検出方法において、所定液体透過量として、異常のないろ過膜の気相側から加圧気体を供給し、当該ろ過膜を透過した気体の量に応じて液相から排出される液体の量を測定し、該測定量に基づく液体透過量をあらかじめ設定しておくようにしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来よりも影響の小さなリーク品であっても見逃すことがないようにしたろ過膜の異常検出方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1A】本発明の一実施形態における、液体をポンプで送液してろ過する構成のリーク(異常)検出装置の一例を示す図である。
【
図1B】
図1Aに示したハウジングおよびろ過膜をデフォルメして示したリーク(異常)検出装置の図である。
【
図2A】本発明の第2実施形態における、圧縮ガスを利用して液体を送液してろ過する構成のリーク(異常)検出装置の一例を示す図である。
【
図2B】
図2Aに示したハウジングおよびろ過膜をデフォルメして示したリーク(異常)検出装置の図である。
【
図3A】本発明の第3実施形態における、ポンプ送液を利用して気体を押し出し供給する構成のリーク(異常)検出装置の一例を示す図である。
【
図3B】
図3Aに示したハウジングおよびろ過膜をデフォルメして示したリーク(異常)検出装置の図である。
【
図4A】本発明の第4実施形態にかかるリーク(異常)検出装置の要部を示す図である。
【
図4B】
図4Aに示したハウジングおよびろ過膜をデフォルメして示したリーク(異常)検出装置の図である。
【
図5】従来のリーク検出手法の概略を示す、気相側に設けられた圧力計などを概略的に示す参考図である。圧力計(57’)は流量計(74)でも構わない(図示なし)。
【
図6】本発明の第1の実施形態における、ろ過膜の異常部分(ピンホール)の径と空気の拡散・溶解量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0018】
リーク検出装置は、ろ過膜に異常があるかどうか確かめるための異常検出テスト(以下、本実施形態では「リークテスト」ともいう)を実施し、当該ろ過膜にピンホール等の欠陥が生じていないかどうかを検出する装置である。ここでいうリークテストとは、例えば、ろ過膜を液体で湿潤させた状態で当該ろ過膜を内側から加圧し、気体が膜から漏れ出てくるか否かを確認するテストのことをいう(
図1A、
図1B参照)。
【0019】
ろ過膜として例えば中空糸膜を対象とする場合、ハウジング(容器)10の内部に中空糸膜を取り付け、該ハウジング10内を液体で満たした状態で中空糸膜を気体で加圧し、漏れ出てくる気体を目視またはセンサーで測定する。ろ過膜(以下、「中空糸膜」と称する場合がある)Mから漏れ出てくる気体の種類には、リーク部(ピンホール等の欠陥部)からの噴流(目視することが可能)と、欠陥のない通常部からの拡散流(目視不可)の2種類がある。
【0020】
[第1実施形態]
図1A、
図1Bに、本発明の第1実施形態に係るリーク検出装置を示す。なお、
図1Bには、
図1Aに示したろ過膜Mを簡略化して表したリーク検出装置を図示している。
【0021】
本実施形態のリーク検出装置1は、ハウジング10、液体貯蔵容器20、液体供給管30、気体圧縮装置40、気体供給管50、排管55、ポンプ61、バルブ62,63、圧力計57、流量計74、制御部80等を備えており、ろ過膜Mを使ってウイルス除去等を行うためのろ過装置(分離装置)であって、尚かつ、当該分離装置内において、装置からろ過膜Mを取り出さずにリークテストを実施することができる装置として構成されている。
【0022】
ハウジング10は、ろ過膜Mが内部に設置されることによって2つの空間ないし領域に隔てられる容器である(
図1A参照)。例えば本実施形態のごとくろ過膜Mとして筒状の中空糸膜を用いる場合、ハウジング10の内部は、中空糸膜の内側の柱状領域と、その外側の筒状領域の2つの空間に隔てられる。
【0023】
なお、本明細書では、ろ過膜Mをウイルス除去等のフィルターとしてろ過装置において用いる場合における、ろ過前の状態あるいは領域を一次(側)、ろ過後の状態あるいは領域を二次(側)と称する。ろ過の際、中空糸膜の内側から外側へ流体を流す本実施形態の場合、ハウジング10の内部のうち、中空糸膜の内側の柱状領域は一次側(一次室)、その外側の筒状領域は二次側(二次室)となる。ろ過の際の流体の流れを逆にすれば、一次と二次とが入れ替わることはいうまでもない。また、本明細書では、ろ過膜Mで仕切られた空間のうち気体が供給されあるいは流通する一方側を「気相」、ろ過膜Mで仕切られた空間のうち液体が供給されあるいは流通する他方側を「液相」と称する。
【0024】
本実施形態のハウジング10は、横断面が円形である筒状の胴部14と、開口端のそれぞれに取り付けられる一対のヘッダー15とを備える(
図1A参照)。ヘッダー15(15a,15b)は、ハウジング10の胴部14の両端それぞれに設けられる。各ヘッダー15(15a,15b)には流体の出入り口となるノズル16(16a,16b)が形成されている(
図1A参照)。ハウジング10の胴部14の側部にはポート17(17a,17b)が形成されている。
【0025】
液体貯蔵容器20は、ハウジング10に供給される液体(例えばタンパク質溶液)が貯蔵されている容器である。液体貯蔵量に関わらず変形しない容器はもちろんのこと、液体貯蔵量に応じて変形するもの(例えばプラスチックバッグのような袋状物)も本明細書でいう液体貯蔵容器に含まれうる。
【0026】
液体貯蔵容器20とハウジング10は、例えばチューブで構成される液体供給管(第一の接続管)30で接続されている。液体貯蔵容器20の液体は、この液体供給管30を通じて、ハウジング10内の、中空糸膜Mで仕切られた一方の空間(液相)へ供給される。かかる液体供給管30を含む供給系、例えば当該液体供給管30上には、送液用のポンプ61と、液体供給管30を開閉するバルブ(閉止手段)62が設けられている。
【0027】
気体圧縮装置(例えば、エアコンプレッサー、あるいは気体ボンベ等を含む装置)40は、ハウジング10に気体を供給する気体供給装置として機能する。本実施形態の気体圧縮装置40は、空気を加圧し、気体供給管(第二の接続管)50を通じてハウジング10内に当該空気を供給する。
【0028】
気体供給管50は、例えばチューブで構成されており、気体圧縮装置40とハウジング10とを接続している。気体圧縮装置40から送り出された空気は、圧力計57によって圧力計測されつつ、圧力調整器(不図示)によって正常な孔からは流出しないような圧力に調整され、この気体供給管50を通じてハウジング10内の、中空糸膜Mで仕切られたもう一方の空間(気相)へ供給される。かかる気体供給管50には、除菌膜(図示省略)と、バルブ63とが設けられている。除菌膜は、供給される空気中から菌を取り除くフィルター等で構成される。バルブ63は、気体供給管50を開閉するバルブ(閉止手段)である。圧力調整器としては、例えば、エアレギュレータが使用される。これら上記の気体圧縮装置40、気体供給管50などによって、ろ過膜Mで仕切られた一次側に気体を供給する気相が構成される。
【0029】
流量計74は、排管55を流れる流体の量を測定する測定装置として設けられている。この流量計74によれば、気相側からハウジング10内の空間に向けて空気を供給した際、液相側から排出される液体の量を測定することができる。後述するが、本実施形態では、この流量計74で測定した液体の量から、ろ過膜Mの正常な孔を透過して漏出した気体の量(漏出気体量)に対応したぶんの液体の量を差し引き、当該差し引いた後の液体の量に基づいて異常を判別する。
【0030】
制御部80は、ポンプ、バルブなどの動作制御、流量計74の検出結果等の信号受信等を行う。本実施形態の制御部80は、ポンプ61、バルブ62、バルブ63、流量計74と接続されていて、これらを動作させ、あるいは検出された圧力ないしは流量に関する情報を受信する(
図1A、
図1B参照)。特に詳しい図示はしないが、制御部80は、各装置へ動作信号を送信しあるいは検出信号を受信するコンピューター、該コンピューターにリークテストの実施手順等を実行させるためのプログラム、該プログラムが格納されるメモリー等で構成される。なお、リークテストを自動で実施する自動制御プログラムを用いる等により、リークテストを自動制御下で実施することができる。
【0031】
上記のごときリーク検出装置1は、医薬品(本実施形態の場合、ろ過膜Mで形成された中空糸膜が該当)の製造ラインに組み込まれていてもよい(別言すれば、リーク検出装置1を構成する各種装置を製造ラインに組み込み、当該ラインの中にリーク検出装置1を構成してもよい)。こうした場合には、検出対象たるろ過膜Mを製造ラインから取り外すことなくその状態のまま上記の漏出気体量(ろ過膜Mの正常な孔を透過して漏出した気体の量)を検出し、リーク(異常)が生じていないかどうか試験することが可能となる。このように、ろ過膜Mを製造ラインから取り外すことなくその状態のまま試験できるということは、テストを実施するにあたりろ過膜Mを製造ラインから取り外しテスト装置に接続するという一連の作業が不要になるということでもあるから、作業員の感染リスクを排除することができる。
【0032】
上記のごとき構成のリーク検出装置1において中空糸膜Mのリーク試験を実施する際の手順について一例を挙げつつ説明する。
【0033】
<ろ過膜のセットアップ>
ろ過膜Mをリーク検出装置1に取り付ける。ろ過膜Mは、蒸気滅菌等によりあらかじめ滅菌され、無菌状態となっているが、リーク検出装置1に取り付ける際に、接続部を開放することにより無菌状態が損なわれる恐れがある場合は、ろ過膜Mをリーク検出装置1に取り付けた後、定置滅菌(SIP)及び/又は定置洗浄(CIP)を行いリーク検出装置1内を滅菌し、無菌状態とすることが可能である。なお、ろ過膜Mは、予め滅菌されたリーク検出装置1に無菌コネクター等の無菌接続部材で設置することもできる。この場合はろ過膜Mを取り付けた後に、定置滅菌(SIP)及び/又は定置洗浄(CIP)を行わずとも無菌状態を維持することができる。
【0034】
<二次側水充填>
リーク検出装置1の二次側(二次室)を液体(水)で充填する。具体的には、気体供給管50のバルブ63を閉じた状態のまま、液体供給管30のバルブ62と、排管55のバルブ(図示省略)を開き、ポンプ61を駆動して、液体貯蔵容器20の液体を(本実施形態の場合、水)を供給する(
図1A、
図1B参照)。液体は、ノズル16bを通じてハウジング10の一次側に供給され、ろ過膜Mを通過して二次側(二次室)に供給され、さらに、ポート17bから排管55を通じて外部に排液される。
【0035】
なお、このような充填工程では、二次側(二次室)を液体(水)で充填することを目的として実施されるが、本実施形態のごとき構成のリーク検出装置1においては、装置の構成上、液体貯蔵容器20から液体を供給して充填する場合には、一次側(一次室)、二次側(二次室)の両空間とも液体(水)で充填される。
【0036】
<加圧(安定化)>
二次室への液体(水)の充填が完了したら、一次側の空間を気体で加圧する。具体的には、液体供給管30のバルブ62を閉じ、気体供給管50のバルブ63を開き、気体圧縮装置40を駆動して、気体(本実施形態の場合、空気を圧縮したガス)を供給する。気体は、ノズル16aを通じてハウジング10の一次側に供給される。系が安定化した時間(安定化時間)となるまで、気体によって一次側を加圧した状態に保ち、その後、測定のステップに移行する。
【0037】
<加圧(測定)>
測定のステップでは、まず、気相側から一次側に向け、所定値以上の高い圧力を作用させて気体(圧縮ガス)を供給する。所定値の一例は、140kPa(ゲージ圧)以上、たとえば196kPa(ゲージ圧)であり、ろ過膜Mやハウジング10などを破壊しない程度の圧力であればとくに問題はないが、その上限値の適切な一例を示すならばたとえば500kPaである。その後、このように高圧を作用させて気体で加圧し続けた状況下で、二次側(液相側)から排出される液体の量を流量計74で測定する。これは、ろ過膜Mを透過してくる気体の量を、ろ過膜Mから押し出された液体の量で検出することに相当する。このように、本実施形態では透過側たる二次側に設置した流量計74でろ過膜Mを透過した液量を測定することから、加圧側たる一次側に設置した流量計で測定していた場合に検出されていた溶解分(通常部分(正常な孔が設けられた部分)から水に拡散・溶解する空気の量)が検出されなくなり、その結果、通常部分から漏出する空気の量が小さくなることで、異常部分(ピンホール)から漏出してくる気体の量を好感度に検出できる。つまり、ろ過膜Mの通常部分(正常な孔が設けられた部分)から水に溶解する量(AFRnunsoluble)を、透過側(二次側)に設けた設置した検出器(本実施形態の場合、流量計74)で検出し、当該検出したぶんの量をキャンセルすることによって検出感度を上げることを可能とする。具体的には、このあと、上記のように流量計74で測定した液体の量から、ろ過膜Mの正常な孔を透過した気体の量に対応したぶんの液体の量を差し引き、差分を求める。この差分の量は、異常部分(ピンホール)を透過した気体の量に対応したものであるから、当該差分量(差し引いた後の液体の量)に基づき、所定のしきい値と比較する等して、ろ過膜Mの異常の有無を判別する。
【0038】
なお、ろ過膜Mの正常な孔を透過した気体の量に対応したぶんの液量AFRnunsoluble(従来であれば、「溢水量(AFR)」として評価されていた数値。本明細書では上記液量AFRnunsolubleを「所定液体透過量」ともいう)は、あらかじめ検出ないしは設定しておくことができる。このように所定液体透過量をあらかじめ検出ないしは設定しておくことにより、十分な検証と実証を経たデータに基づいて異常検出を実施することが可能となる。所定液体透過量は、たとえば、異常のないろ過膜Mの気相側から加圧気体を供給し、当該ろ過膜Mを透過した気体の量に応じて液相から排出される液体の量を測定し、該測定量に基づく液体透過量をあらかじめ設定しておく、といった手法で設定しておくことができる。
【0039】
上記のごときリーク検出装置1においては、液体貯蔵容器20の液体をろ過膜Mに供給して染み込んだ状態とし、その後、所定時間、気体供給管50を介して気相側から加圧気体を供給してろ過膜Mを透過させ、ろ過膜Mの一方側(筒状のろ過膜Mであれば、たとえば内側)の液体をろ過して他方側(たとえば、外側)に押し出し、気体で満たす。このとき、ろ過膜Mを透過する気体の透過流速を安定化させることが好適である。具体的には、ろ過膜Mの内側領域の出口(ノズル16b)を閉じ、外側領域の出口(ポート17b)を開放した状態で気体を所定時間(一例として、5分間)加圧し、気体透過流速を安定化させることが好適である。続いて、気体で加圧して供給し、ろ過膜Mを透過してくる気体の量を、当該ろ過膜Mから押し出された液体の量で流量計74を使って検出する。押し出された液体の量から、ろ過膜Mの正常部分から押し出された液体の量(所定液体透過量)を引くことでピンホールから透過してきた気体の量を求める(算出する)ことができる。
【0040】
ここまで説明したごとくリークテストを実施し、ろ過膜Mに欠陥なし(合格)と判定した場合、本実施形態のリーク検出装置1においては、当該欠陥なしと判定したろ過膜Mを用いてそのまま膜分離作業を実施することができる。すなわち、液体貯蔵容器20の液体をろ過したい液体(たとえばタンパク質溶液)に交換した後(なお、タンパク質溶液への交換は、液体貯蔵容器20内の溶液を直接タンパク質溶液に交換することによって行ってもよいし、複数の液体貯蔵容器を並列に準備しておき、ステップに応じて溶液のラインを切り替え、流すことによって行ってもよい)、気体供給管50のバルブ63と排管55のバルブ(図示省略)を閉じ、液体供給管30のバルブ62を開けた状態とし、ポンプ61を駆動して、液体貯蔵容器20の液体を供給する。液体は、ノズル16bを通じてハウジング10の一次側に供給され、欠陥なし(合格)と判定されたろ過膜Mを通過して二次側(二次室)に供給され、膜分離された状態で、ポート17bから集液容器(図示省略)へ送液させる。
【0041】
以上、説明したごとき本実施形態のリーク検出装置1によれば、リーク検出の対象であるろ過膜Mを、分離膜装置(ろ過装置又はろ過システム)の回路中(のハウジング10内)に設置(セットアップ)した状態で、当該ろ過膜Mによって隔てられた空間(領域)の一方へ気体を供給してリークテストを行い、異常(ピンホール)の有無を検出することができる。
【0042】
しかも、本実施形態では、以下の理由(1A), (1B), (2)により、リークテストにおいて従来よりも精度よく異常を検出することができる(
図5参照)。すなわち、
(1A) 従来のように気相側で気体流量を検出すると、水に溶解する気体までも計測してしまうことになりかねない(
図5参照)。本実施形態では、そうではなく、まず液相側の測定装置(流量計74)で液体流量を計測することとしているので、そのような影響(水に溶解する気体までも計測してしまうことによる精度への影響)が少ない。
(1B) 上記の理由(1A)と一部重複するが、従来の検出手法では、一次側に配置した圧力計(気体供給管50’に設けられた圧力計57’など)を用い、二次側の体積変化を、圧力に換算した状態で検出している場合がある(
図5参照)。これに対し、本実施形態では、液相側の測定装置(流量計74)で、流体(液体)の体積変化量を直接的にアウトプットすることから、そのぶん精度が高い。
(2) 液相側の測定装置(流量計74)による液体流量の検出量は、厳密には、ろ過膜Mのピンホールを通過した気体により押し出された分の液体流量と、ろ過膜Mの正常孔を通過した気体により押し出された分の液体流量たる所定液体透過量(AFRnunsoluble)との両方を含む量であると考えられる。本実施形態では、このような知見に基づき、測定装置(流量計74)による液体流量の検出量から後者(所定液体透過量)を引き算処理することにより、求めたい対象である流量を算出することから、従前の手法よりもさらに正確な流量を求めることが可能となっている。
【0043】
なお、一定の検出圧において、AFR = AFRn + AFRPHであり、AFRnは製造者が集めた欠陥のない溢水量(AFR)の平均値、AFRPHは欠陥からの気体流量である。AFRPHはピンホール径の二乗に比例する(
図6参照)。各フィルターのAFRから所定透過量を引いて、二次項の係数で割って平方根を取るとピンホール径が算出できる。AFRnは欠陥のないフィルターのAFRであるが、工業品であるため、ある中心値から一定のバラつきを有している。そのため、小さいピンホール径のAFRと同じになる。製造側で集めたバラつきの値を4倍してAFRnに足すことで、通常品が99.997%入る所定液体透過量が得られる(例えば下記URLを参照:
https://toukei.link/distributiontable/zscoretable/ (とくに、「標準正規分布(z値)分布表」の縦軸4.0の99.97%と記載されている部分))。ピンホールフィルターも同程度のバラつきを有していると考えられるので、AFRn+AFRPH-4シグマ=所定液体透過量、すなわち
AFRn+AFRPH-4sigma = AFRn+4sigma
AFRPH=8sigma
AFRPH = aD^2 = 8sigma
D = (8sigma/a)^(1/2)
となるピンホール径が優位に検出できる最小ピンホール径となる。なお、AFRnとAFRPHは圧力に比例するので、AFRPHの二次項の係数が圧力に応じて小さくなる。検出可能な最小ピンホール径の式から、検出圧力が低くなり係数が小さくなると検出できるピンホール径が大きくなる。この計算によって、従来技術と同等のピンホール径を検出するには140kPa必要であることが導出できる。
【0044】
さらには、
(3) 上記の(1A), (1B), (2)のごとく検出精度を向上させることができるということは、ひいては、高圧のガス圧力を作用させる場合にも有利となる。この点をふまえ、本実施形態では、高圧(好適には、140kPa以上)のガスを作用させてリークテストを行うこととしている。このように高圧のガスを作用させれば、そのぶん、ろ過膜Mを通過する気体の量が増えるので、リークテスト時に求められる気体流量としての精度が向上することにもつながりうる。
【0045】
また、このリーク検出装置1においては、リークテスト実施後のろ過膜Mをそのまま用いて溶液(タンパク質溶液等)の液体ろ過(膜分離)を実施することが可能である。したがって、リークテストによってろ過実施の対象であるろ過膜Mの無菌状態を破壊せずに済むことから、無菌状態を保ったままリークテストを経てろ過を実施するという一連の工程を行うことが可能である。別言すれば、内部にろ過膜Mが設置される容器(ハウジング10)や、該容器(ハウジング10)に液体を供給する液体供給装置(液体供給管30、ポンプ61)などを備えた本実施形態のリーク検出装置1は、そのまま分離膜装置(ろ過装置又はろ過システム)を構成しうる構造であることから、分離膜装置(ろ過装置又はろ過システム)においてろ過膜Mのリーク試験を行うことを実現している。このため、リークテストを、ウイルス除去膜単体を取り出し無菌状態を破壊して実施するといった形ではなく、分離膜装置(ろ過装置又はろ過システム)から取り出すことなく無菌状態を維持したままで実施することができる。
【0046】
本実施形態は、どのようなろ過膜Mをも対象としうるが、ろ過膜Mには、とりわけ高いウイルス除去性能と高いタンパク質透過性能を持つウイルス除去膜のようなものもある。ウイルス除去膜に関しては、その要求される高い除去能力からピンホールの精度の高い検出が望まれており、本実施形態のごときリーク検出装置1によればそのような高精度の検出を簡便かつ効率的に実現することが可能である。ウイルス除去膜としては、たとえば再生セルロース、PVDF、PESなどを原料とした膜を用いることができるがこれらは代表的な例にすぎず、原料の素材がこれらに限定されることがないことはいうまでもない。また、ウイルス除去膜の形態は平膜であってもよく、中空糸膜であってもよい。
【0047】
[第2実施形態]
上記の第1実施形態では液体をポンプ61で送液したが(
図1A等参照)、これは送液のための構成の一例にすぎない。その代わりとして、本実施形態では圧縮ガスを利用して送液する(
図2A、
図2B参照)。このリーク検出装置1において圧縮ガスはリークテストの際にガス(空気)をろ過膜Mに送り込むために用いられているもので、本実施形態では気体供給管50を分岐させた分岐管51を分岐途中にバルブ67を設けつつ液体貯蔵容器20に接続し、圧縮ガスを液体貯蔵容器20にも供給できるようにして、当該圧縮ガスを送気と送液の両方に用いることとしている。このリーク検出装置1においては、第1実施形態におけるポンプ61を省略することが可能である(
図2A、
図2B参照)。
【0048】
[第3実施形態]
上記の第1実施形態のごとく液体をポンプ61で送液している場合(
図1A等参照)、ポンプ送液を利用して気体を押し出して供給してもよい。本実施形態では、液体供給管30のポンプ61よりも後段の部分に分岐管31を設け、エアチャンバー(気体室)73を設置するとともに、このエアチャンバー73を接続管52およびバルブ68を介いて気体供給管50に接続している(
図3A、
図3B参照)。このリーク検出装置1においては、送液時の圧力を利用してエアチャンバー73内の空気を気体供給管50に押し出し、リークテストの際、ろ過膜Mに空気を供給することができる(
図3A、
図3B参照)。このリーク検出装置1においては、第1実施形態における気体圧縮装置40を省略することが可能である。
【0049】
[第4実施形態]
上記の第1実施形態では、ろ過膜Mの液相側から排出される液体の量を流量計74で測定したが(
図1A等参照)、それとは別の手段で流量を測定ないし検出してもよい。本実施形態では、排管55の後段に測定容器91と天秤などといった重量計92を設け、測定容器91に溜まった液体の重量と比重から流量が求められるようにしている(
図4A、
図4B参照)。
【0050】
なお、上述の各実施形態は本発明の好適な実施の例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上記の実施形態においては、液体供給系に、送液手段として機能するポンプ61と、閉止手段として機能するバルブ63とを設けた構成を説明したがこれは好適な一例にすぎない。ポンプ61によって液体供給管30を閉止することができる場合には、バルブ62を用いずに、当該ポンプ61を閉止手段としても機能させる構成とすることができる。
【0051】
また、上記の実施形態においては、ろ過膜Mとして筒状の中空糸膜を用いる例を示したがこれも好適な一例にすぎない。例えば、中空糸膜以外として、平膜状のろ過膜を採用してもよい。なお、ここでは特に説明しないが、ハウジング10内の一次室、二次室(図示は省略)、胴部14、ヘッダー15、ノズル16、ポート17等は、ろ過膜Mに応じて適宜設定されうる。
【実施例0052】
発明者は、本発明の優位性を確かめるための各種試験を実施した。以下、その概要を実施例(本発明の実施例)1~3および比較例1~3(なお、比較例2と比較例3は、実施例1~3に類する手法であって引き算処理を行わないというものであるが、従来技術のひとつである比較例1との並びでわかりやすいため「比較例」として示していることに留意されたい)として説明する。なお、各例における諸条件は以下のとおりとした。
・実施例1、比較例1~3ではいずれも同じ膜面積(1.0m
2)のフィルター(商品名「Planova BioEX」)を使用した。
・実施例1と比較例1ではピンホールを有する同一フィルター(ろ過膜M)を用いた(ただし、比較例1では気相側に圧力検出部材(圧力計57’)があるため検出可能なピンホールサイズが大きい(検出感度が低い))。
・測定条件(試験液、加圧気体供給源、測定フィルター、検出器、加圧圧力、安定化時間、検出時間)は、表1,2中に示すとおりとした。
【表1】
【0053】
【表2】
[実施例1]
液相側に流量計74を設けたリーク検出装置1を用い、ピンホールがあるろ過膜Mを対象としてリーク検出試験を行った。結果は表に示すとおりになった(表1参照)。
【0054】
[実施例2、実施例3]
実施例1と同じリーク検出装置1を用い、加圧圧力を実施例1よりも低くした測定条件下でリーク検出試験を行った。結果は表に示すとおりとなり、比較例1よりも小さなPH径のピンホールを検出できる(好感度である)ことが確認された(表1参照)。
【0055】
[比較例1]
気相側に圧力検出器を設けた従来構成のリーク検出装置を用い、ピンホールがあるろ過膜Mを対象としてリーク検出試験を行った(表2参照)。
【0056】
[比較例2]
液相側に流量計74を設けたリーク検出装置1を用い、ピンホールがあるろ過膜Mを対象としてリーク検出試験を行った。結果は表に示すとおりになった(表2参照)。圧力140kPa未満であるため比較例1よりも低検出力ではあるものの感度にそれほど大きな隔たりはないことが確認された。
【0057】
[比較例3]
気相側に圧力検出部材(圧力計)を設けた従来構成のリーク検出装置を用い、ピンホールがあるろ過膜Mを対象としてリーク検出試験を行った。結果は表に示すとおりになった(表2参照)。こちらも、圧力140kPa未満であるため比較例1よりも低検出力ではあるものの感度にそれほど大きな隔たりはないことが確認された。