(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156977
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】充填密度が高いフォージャサイト型ゼオライトおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 39/20 20060101AFI20221006BHJP
【FI】
C01B39/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060943
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】稲木 千津
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 俊二
【テーマコード(参考)】
4G073
【Fターム(参考)】
4G073BA02
4G073BA04
4G073BA57
4G073BA63
4G073BA75
4G073BD21
4G073CZ03
4G073FA11
4G073FB11
4G073FB19
4G073FB26
4G073GA01
4G073GA08
4G073GA11
4G073GA12
4G073GA17
4G073GA40
4G073GB02
4G073UA01
4G073UA06
(57)【要約】
【課題】一次粒子の形状を球状に近づけて充填密度を高めたFAU型ゼオライトとその製造方法を提供する。
【解決手段】次式[1]によって示される一次粒子の球形度が0.60以上であるFAU型ゼオライトであり、例えば、Si源、Al源、および種結晶を含む水性混合液を調製する前駆体調製工程と、前記水性混合液を水熱処理してFAU型ゼオライト結晶を成長させる水熱処理工程を備え、上記種結晶を含む水性混合溶液のSi源として遅溶解性シリカ粒子を用いる方法によって製造されるFAU型ゼオライト。
球形度X=画像解析による測定面積A/画像機解析によって測定した長径を直径とした真円の面積B ・・・[1]
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式[1]によって示される一次粒子の球形度が0.60以上であるFAU型ゼオライト。
(式[1]において、Xは球形度、Aは画像解析による測定面積、Bは画像機解析によって測定した長径を直径とした真円の面積)
X=A/B ・・・[1]
【請求項2】
FAU型ゼオライトの製造方法であって、Si源、Al源、および種結晶を含む水性混合液を調製する前駆体調製工程と、前記水性混合液を水熱処理してFAU型ゼオライト結晶を成長させる水熱処理工程を備え、上記種結晶を含む水性混合溶液のSi源として遅溶解性シリカ粒子を用いることを特徴とする製造方法。
【請求項3】
上記遅溶解性シリカ粒子として、比表面積が100m2/g以下のシリカ粒子を用いる請求項2に記載する製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は充填密度が高いフォージャサイト型ゼオライトおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトという物質名は結晶性の多孔質アルミノシリケートの総称である。ゼオライトは、石油精製や石油化学をはじめとする多くの工業プロセスにおいて、触媒、吸着剤、および分離膜などの用途に幅広く使用されてきた。例えば、流動接触分解プロセスは、触媒を用いて石油中の重油分を分解し、付加価値の高いガソリンなどの留分を得る重要なプロセスである。このプロセスの触媒として、強い固体酸を有する多孔性材料であるフォージャサイト型ゼオライトが古くから使用されてきた。また、フォージャサイト型ゼオライトは吸着剤としても、古くから使用されている。
【0003】
一般的に、ゼオライトは、触媒や吸着剤用途で用いる場合、単位容積当たりの充填密度を上げ、単位容積当たりの接触面積を最大にすることが望ましいとされている(特許文献1)。また、これを解決する方法として、ゼオライトの一次粒子を凝集させて球状の二次粒子を形成する方法が知られている(特許文献2)。この方法では、バインダー成分を添加して噴霧乾燥することで、球状の二次粒子が形成される。二次粒子の形状を球状にすることにより、単位容積あたりの充填密度を上げることができるとされている(特許文献1)。これは、不定形粒子を充填した場合には隙間が多くなるのに対し、球状粒子を充填した場合には無駄な空隙が生じにくく、流動性にも優れていることから充填密度を高めることができるためである。
【0004】
このように、噴霧乾燥することで球状の二次粒子を形成する方法では、ゼオライトのみでは球状の二次粒子が形成されないので、バインダー成分が添加される。しかしながら、ゼオライト以外の成分が含まれるので、ゼオライトの含有量が少なくなるという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭59-137314号公報
【特許文献2】特開昭54-29898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明のフォージャサイト型ゼオライト(以下、FAU型ゼオライトと云う)は、従来のように二次粒子を球状にしたものではなく、一次粒子の形状を球状に近づけて充填密度を高めたものである。本発明は該FAU型ゼオライトとその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成によって前記課題を解決した、FAU型ゼオライトとその製造方法に関する。
〔1〕次式[1]によって示される一次粒子の球形度が0.60以上であるFAU型ゼオライト。(式[1]において、Xは球形度、Aは画像解析による測定面積、Bは画像機解析によって測定した長径を直径とした真円の面積)
X=A/B ・・・[1]
〔2〕FAU型ゼオライトの製造方法であって、Si源、Al源、および種結晶を含む水性混合液を調製する前駆体調製工程と、前記水性混合液を水熱処理してFAU型ゼオライト結晶を成長させる水熱処理工程を備え、上記種結晶を含む水性混合溶液のSi源として遅溶解性シリカ粒子を用いることを特徴とする製造方法。
〔3〕上記遅溶解性シリカ粒子として、比表面積が100m2/g以下のシリカ粒子を用いる上記[2]に記載する製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のFAU型ゼオライトは、球に近い形状の一次粒子が多いので、単位容積あたりのゼオライト含有量が多い粉体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】実施例1のゼオライト粉末の電子顕微鏡写真。
【
図3】比較例1のゼオライト粉末の電子顕微鏡写真。
【
図4】比較例2のゼオライト粉末の電子顕微鏡写真。
【
図5】比較例3のゼオライト粉末の電子顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔FAU型ゼオライト〕
本発明のFAU型ゼオライトは、画像解析により求めた一次粒子の球形度が0.60以上の球に近い形状にしたFAU型ゼオライトである。FAU型ゼオライトは、Si、Al、Oを基本骨格元素とするフォージャサイト構造を有しており、このフォージャサイト構造はX線回析測定により得られた回折パターンから確認することができる。
【0011】
従来のFAU型ゼオライトは、結晶面がはっきりした八面体形状や六角板状の一次粒子を多く含むので、充填密度が低かった(比較例1、4)。これに対し、本発明のFAU型ゼオライトは、球形度が高い一次粒子を多く含むので、従来のFAU型ゼオライトに比較して充填密度が高い。球形度は、次式[1]に示すように、ゼオライト一次粒子の画像解析による測定面積A、画像機解析によって測定した一次粒子の長径を直径とした真円の面積Bであるとき、真円の面積Bに対する測定面積Aの比によって表される。
X=A/B ・・・[1]
(式[1]において、Xは球形度、Aは画像解析による測定面積、Bは画像機解析によって測定した長径を直径とした真円の面積)
球形度の概念を
図1に示す。球形度は1.0に近いほど真球に近い。
【0012】
本発明のFAU型ゼオライトの一次粒子の球形度は平均値で0.60以上であり、好ましくは0.65以上、さらに好ましくは0.70以上である。なお、本発明のFAU型ゼオライトは、その一次粒子の球形度を球に近くしたものであり、一次粒子の球形度の範囲は0.60以上~1.0以下である。
【0013】
本発明のFAU型ゼオライトの一次粒子径は、0.1μm~10μm以下の範囲が好ましく、0.5μm~5μm以下の範囲がより好ましく、0.7μm~5μmの範囲が特に好ましい。本発明のFAU型ゼオライトの一次粒子径がこれらの範囲にあると、充填密度がより高くなる。この一次粒子径は画像解析によって測定することができる。
【0014】
本発明のFAU型ゼオライトの性状は、SiとAlのモル比(SiO2/Al2O3モル比:SAR)によって大きく影響を受ける。例えば、SARが低い(Alの含有量が多い)FAU型ゼオライトは、固体酸量が多くなる。また、耐水熱性はSARが高い(Alの含有量が少ない)ほうが優れる。好ましいSARの範囲は、その用途によって異なる。例えば、洗剤のビルダー、水分吸着剤用途としては、SARが低いFAU型ゼオライトが好ましく、具体的にはSARが5未満であることがより好ましく、SARが2未満のX型ゼオライトであることが特に好ましい。VOC吸着剤用途としては、SARが30以上のFAU型ゼオライトであることが好ましく、SARが50以上のFAU型ゼオライトであることがより好ましい。また、触媒用途としては、SARが5以上のFAU型ゼオライト(Y型ゼオライト)であることが好ましく、SARが5~400の範囲がより好ましく、5~200の範囲が特に好ましい。
【0015】
本発明のFAU型ゼオライトは、陽イオン交換サイトを有しており、種々の陽イオンでイオン交換することができる。例えば、Na、K等のアルカリ金属、遷移金属、希土類、プロトン、アンモニウムイオン等の種々の陽イオンで交換することができ、交換する陽イオンによってFAU型ゼオライトの性状も変化する。例えば、洗剤や吸着剤用であれば、NaやK等のアルカリ金属でイオン交換されていることが好ましい。また、触媒用途であってその固体酸性質を利用する反応に用いる場合は、プロトンでイオン交換されていることが好ましく、固体酸性質の発現を阻害するアルカリの含有量は少ないほうがより好ましく、具体的にはM2O換算(Mはアルカリ金属)で2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%未満であることが特に好ましい。なお、陽イオン交換サイトの種類によってFAU型ゼオライトの充填密度も変化するので、本発明の効果を確認する際には、実施例および比較例において、陽イオン交換サイトの陽イオンを同一にして比較した。
【0016】
本発明のFAU型ゼオライトは、比表面積が600m2/g以上であることが好ましい。ゼオライトは、一般的に、その骨格に由来する細孔構造によって極めて広い比表面積を有する。本発明のFAU型ゼオライトの比表面積が600m2/gより低い場合、骨格に由来する細孔構造が十分に発達していないおそれがあり、その固体酸量が低くなってしまうことがある。FAU型ゼオライトの比表面積は高いほど好ましいが、その上限は900m2/g以下であってもよい。より具体的には、本発明のFAU型ゼオライトの比表面積は650m2/g以上~750m2/g以下の範囲でもよい。
【0017】
本発明のFAU型ゼオライトは、その用途によって種々の形態に加工されて使用される。洗剤のビルダー用に使用される場合は、粉末のまま使用され、吸着剤用として使用される場合は、バインダー成分と共にペレット状、タブレット状に成型され、使用される。また、触媒用途として使用される場合は、活性金属成分、助触媒成分、担体成分、バインダー成分等と共に、球状、ペレット状、タブレット状に成型され、使用される。具体的な触媒用途としては、例えば、石油精製における流動接触分解用触媒や水素化分解用触媒として使用できる。
【0018】
本発明のFAU型ゼオライトは球形度が高いので充填密度を高めることができる。具体的には、例えば、0.4g/cm3超~0.6g/cm3以下の充填密度を得ることができる。充填密度が高いFAU型ゼオライトは、単位容積当たりに充填されるFAU型ゼオライトの量が多くなるので、輸送コストの面で優れる。なお、本発明のFAU型ゼオライトには、バインダー成分が含まれないので、バインダー成分を添加して球状の二次粒子に成型されたものに比べて、単位容積当たりのFAU型ゼオライト量を多くすることができる。
【0019】
〔FAU型ゼオライトの製造方法〕
以下、本発明のFAU型ゼオライトの製造方法を具体的に説明する。
本発明の製造方法は、FAU型ゼオライトの製造方法であって、Si源、Al源、およびFAU型ゼオライト種結晶(以下、単に種結晶と云うことがある)を含む水性混合液を調製する前駆体調製工程と、前記水性混合液を水熱処理してFAU型ゼオライト結晶を成長させる水熱処理工程を備え、上記種結晶を含む水性混合溶液のSi源として遅溶解性シリカ粒子を用いることを特徴とする製造方法である。
【0020】
水性混合液は、例えば、種結晶を含むシード溶液に、Si源である遅溶解性シリカ粒子と、Al源を加えて調製される。上記遅溶解性シリカ粒子とは溶解の遅いシリカ粒子を云い、例えば、比表面積100m2/g以下のシリカ粒子が用いられる。因みに、例えば、比表面積400m2/g以上のシリカ微粉末は溶解し易く(易溶解性)、シード溶液に加えるSi源として適さない。
【0021】
FAU型ゼオライトは、Si、Al、Oを基本骨格元素とする結晶性アルミノシリケートの一種であり、その原料として骨格の構成元素であるSiを含む原料(Si源)、Alを含む原料(Al源)が用いられる。本発明の製造方法は、例えば、上記種結晶を含むシード溶液に、Si源である遅溶解性シリカ粒子と、Al源を加えた水性混合液を調製し、該水性混合液を加熱処理してFAU型ゼオライト結晶を成長させる。FAU型ゼオライトは、水溶液中でSiとAlとが溶解再析出を繰り返すことにより結晶成長することが知られている。本発明の製造方法は、該種結晶を成長させるSi源として遅溶性シリカ粒子を用いることによって、SiとAlの溶解再析出の速度を遅くし、従来のFAU型ゼオライトとは異なる球に近い形状の一次粒子を成長させる。
【0022】
〔前駆体調製工程〕
本発明の製造方法は、例えば、FAU型ゼオライト種結晶を含むシード溶液に、Si源である遅溶解性シリカ粒子と、Al源を加えた水性混合液を調製する前駆体調製工程を有する。該種結晶を含む溶液は、下記モル組成の水溶液を熟成して調製することができる。本発明の製造方法では該種結晶を含む水溶液をシード溶液と云う。
Na2O/Al2O3=5~32
SiO2/Al2O3=5~30
H2O/Al2O3=100~2000
【0023】
シード溶液の調製に用いるNa源は、NaOH、珪酸ナトリウム(水ガラス)、アルミン酸ナトリウム等である。 また、Si源は、シリカゾル、シリカゲル、テトラアルコキシシランなどのアルコキシシラン、水ガラス等である。このシード溶液のSi源は溶解し易い(易溶解性)ものを用いることができる。このSi源は反応性の点から水ガラスが好ましい。なお、水ガラスのNa2O/SiO2モル比は1~3.5のものが通常使用される。Al源は、アルミナゾル、アルミナゲル、アルミン酸ナトリウム、硫酸アルミニウム等である。これらのうちシリカとの反応性および結晶化の点からアルミン酸ナトリウムが好ましい。
【0024】
アルミン酸ナトリウム、NaOH、および水ガラス等の各原料を混合した後のNa2O/Al2O3モル比は、5~32の範囲が好ましく、8~24の範囲がより好ましい。Na2O/Al2O3モル比がこの範囲にあると、種結晶が生成しやすくなる。各原料を混合した後のSiO2/Al2O3モル比は、5~30の範囲が好ましく、10~20の範囲がより好ましい。SiO2/Al2O3モル比が5未満では、P型ゼオライトやグメリナイト等のFAU型ゼオライト以外の結晶が混在する場合があり、SiO2/Al2O3モル比が30を越えると、FAU型ゼオライト結晶が得られ難くなる場合がある。
【0025】
上記各原料を混合した後のH2O/Al2O3モル比は、100~2000の範囲が好ましく、150~1500の範囲がより好ましい。H2O/Al2O3モル比が100未満では、いびつな形状の一次粒子が得られやすくなる。H2O/Al2O3モル比が2000を越えると、八面体や六角板状の一次粒子になりやすく、球状になり難くなる。
【0026】
上記各原料を混合した水溶液を10~70℃、好ましくは20~50℃で熟成することによってシード溶液が得られる。熟成時間は熟成温度によっても異なるが、通常、1~200時間である。
【0027】
上記シード溶液に、Si源である遅溶解性シリカ粒子と、Al源、および水を加えて水性混合液を調製する。Si源である遅溶解性シリカ粒子として、例えば、比表面積100m2/g以下のシリカ粒子が用いられる。比表面積がこのように小さいシリカ粒子は溶解するのが遅い(遅溶解性)ので、次工程でのSiとAlの溶解再析出が緩やかに進み、球に近い一次粒子(FAU型ゼオライト結晶の一次粒子)が得られる。Al源は前述の化合物を用いることができる。
【0028】
上記Si源、Al源、および種結晶を含む水性混合液のモル組成は以下の範囲が好ましい。水性混合液のモル組成がこの範囲にあると球に近い一次粒子が生成しやすくなる。
Na2O/Al2O3=1~10
SiO2/Al2O3=1~20
H2O/Al2O3=50~600
【0029】
水性混合液のNa2O/Al2O3モル比は、1~10の範囲が好ましく、1~5の範囲がより好ましい。また、水性混合液のSiO2/Al2O3モル比は、1~20の範囲が好ましく、1~10の範囲がより好ましい。更に、水性混合液のH2O/Al2O3モル比は、50~600の範囲が好ましく、80~200の範囲がより好ましい。水性混合液のモル組成がこれらの範囲にあると、球に近い形状の一次粒子が成長しやすい。
【0030】
前駆体調製工程として、FAU型ゼオライト種結晶を含むシード溶液に、Si源である遅溶解性シリカ粒子と、Al源を加えた水性混合液を調製する場合を示したが、該水性混合液の調製は種結晶を含むシード溶液にSi源である遅溶解性シリカ粒子とAl源を加える方法に限らない。
【0031】
〔水熱処理工程〕
この工程では、前述の前駆体調製工程で得られた水性混合液を加熱処理して、FAU型ゼオライトの結晶化を進める。
【0032】
加熱処理の方法は、オートクレーブ等を用いて加圧下で熱処理する方法、常圧下で熱処理する方法等の従来公知の方法を用いることができる。本発明の製造方法においては、Si源の溶解速度を遅くするという観点から、常圧下で加熱処理する方法が好ましい。
【0033】
加熱処理の温度は、FAU型ゼオライトの結晶化を進める温度であればよく、50℃~100℃であることが好ましい。常圧下で加熱処理を行う場合は、80℃~100℃であることがより好ましい。加熱処理の時間は、加熱温度によっても左右されるが、2~200時間であればよい。
【0034】
〔その他の工程〕
本発明の製造方法は、結晶化工程で得られたFAU型ゼオライトを含む溶液から溶媒を除去し、FAU型ゼオライトを分離する工程を含むことができる。これは、乾燥、遠心分離、濾別等の従来公知の方法で容易に実施することができる。
【0035】
本発明の製造方法は、FAU型ゼオライトをイオン交換する工程を含んでもよい。イオン交換したい陽イオンが溶解した水溶液にFAU型ゼオライトを懸濁し、適切な温度、時間で処理することによって容易にイオン交換することができる。陽イオンの種類にもよるが、イオン交換の温度は室温~95℃の範囲が好ましく、イオン交換の時間は0.5~10時間程度が好ましい。
【0036】
本発明の製造方法は、FAU型ゼオライトのSiO2/Al2O3モル比を高めるため、脱アルミニウム工程を含んでいてもよい。脱アルミニウムの方法は、従来公知の方法を用いることができる。例えば、酸処理、スチーム処理、EDTA処理等の方法でFAU型ゼオライトからアルミニウムを脱離させ、SiO2/Al2O3モル比を200程度まで高めることができる。
【0037】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示す。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。実施例および比較例では以下の方法によって比表面積、化学組成などの物性を測定した。
【0038】
〔比表面積〕
不活性ガス雰囲気下において500℃で1時間前処理を行った試料粉末を試料管に充填し、比表面積測定装置(日本ベル社製「MR-6」)を用いて、試料粉末の比表面積を測定した。具体的には、窒素ガス濃度30vol%、ヘリウムガス濃度70vol%の混合ガスを液体窒素で十分冷却した試料管に流通させて試料粉末に窒素を吸着させた後、試料管を25℃にして試料粉末から脱離した窒素の量をTCD検出器で検出した。この脱離した窒素の量を窒素分子の断面積を用いて比表面積に換算することによって、試料粉末1g当たりの比表面積を算出した。
【0039】
〔組成分析〕
蛍光X線装置(RIX-3000)を用いて、試料粉末のSi、Alおよびアルカリの各含有量を測定した。この測定結果から、SiおよびAlの含有量を、それぞれSiO2、Al2O3モル量に換算し、SiO2/Al2O3モル比を算出した。
【0040】
〔強熱減量〕
試料粉末を1000℃で1時間加熱した際の重量減少から、以下の式で強熱減量を算出した。
強熱減量(%)=〔(加熱前の試料粉末の重量(g)-加熱後の試料粉末の重量(g)〕/加熱前の試料粉末の重量(g)
【0041】
〔一次粒子の球形度〕
試料粉末を試料板に分散させた後、走査型電子顕微鏡(日本電子社製:JSM-7600S)を用いて一次粒子の形状を観察した(加速電圧1.0kV、倍率1万~5万倍)。得られた画像から無作為に50個の一次粒子を選出し、画像解析によって測定した一次粒子の面積をA、画像解析によって測定した一次粒子の長径を直径とした真円の面積をBとし、下記式[1]で球形度Xを算出した。また、一次粒子径はこの長径の平均値とした。
一次粒子の球形度(X)=A/B ・・・[1]
【0042】
〔充填密度〕
試料粉末を200mlのメスシリンダーに100mlの目盛になるまで充填し、その後約1cmの高さから上下に100回タップした。該メスシリンダーに充填した試料粉末の重量をT(g)、タップ後の体積をV1(cm3)とし、下記式[2]で充填密度(ρ)を算出した。
充填密度(ρ)=T/V1 ・・・[2]
【0043】
〔X線回折測定〕
試料粉末を乳鉢で粉砕し、試料板にセットした。これを以下の条件でX線回折測定し、得られたXRDパターンからフォージャサイト構造の有無を確認した。
装置 :株式会社リガク製MiniFlex
操作軸 :2θ/θ
線源 :CuKα
測定方法 :連続式
電圧 :40kV
電流 :15mA
開始角度 :2θ=5°
終了角度 :2θ=50°
サンプリング幅:0.020°
スキャン速度 :10.000[°/min]
<判断基準>
上記測定により得られるX線回折パターンがフォージャサイト構造のミラー指数に帰属されるピークをすべて有している場合、フォージャサイト構造を有していると判断した。なお、各ピークのピーク位置は、それぞれ2θ=±0.2°程度の誤差を含みうる。
【0044】
〔実施例1〕
<前駆体調製工程>
Na含有量(Na2O換算)17質量%、Al含有量(Al2O3換算)22質量%のアルミン酸ナトリウム水溶液0.29kgを準備した。このアルミン酸ナトリウム水溶液を、21.7質量%の水酸化ナトリウム水溶液2.4kgに加えた。この溶液を撹拌しながら、Si濃度(SiO2換算)24質量%の3号水ガラス2.3kgに加えて、1時間撹拌した後、30℃で12時間静置してシード溶液を調製した。シード溶液のモル組成は、16Na2O:Al2O3:15SiO2:330H2Oであった。
【0045】
Si源として、Si濃度(SiO2換算)24質量%の3号水ガラス18kg、および遅溶解性シリカ粒子(デンカ株式会社製溶融シリカUFP-30、比表面積37m2/g)4.5kgと水16.8kgとを混合した。この溶液に上記シード溶液2.5kgを加えた後、Al源として、Na含有量(Na2O換算)7.7質量%およびAl含有量(Al2O3換算)22質量%のアルミン酸ナトリウム8.1kgを加えて、水性混合液を調製した。この水性混合液のモル組成は、2.8Na2O:Al2O3:8.6SiO2:113H2Oであった。
【0046】
<水熱処理工程>
上記水性混合液を室温で3時間熟成させた後、95℃で35時間加熱処理して、ゼオライト結晶を成長させた。その後、該ゼオライト結晶を濾別し、これを水で洗浄した後、130℃で20時間乾燥した。得られたゼオライト結晶について、X線回折測定によってフォージャサイト構造を有していることを確認した。さらに前述の測定を行った。この結果を表1に示す。また、このFAU型ゼオライトの電子顕微鏡写真を
図2に示す。
【0047】
〔実施例2〕
実施例1で得られたFAU型ゼオライト5kgを60℃の水50Lに加え、更に硫酸アンモニウムを1.4kg加えて懸濁液を調製した。この懸濁液を70℃で1時間撹拌した後、FAU型ゼオライトを濾別した。このFAU型ゼオライトを水で洗浄した後、60℃の水50Lに硫酸アンモニウム1.4kgを溶解した硫酸アンモニウム溶液で洗浄し、更に60℃の水50Lで洗浄した。洗浄後のFAU型ゼオライトを130℃で20時間乾燥して、アンモニウムイオンでイオン交換されたFAU型ゼオライトを得た。このFAU型ゼオライトについて、前述の測定を行った。この結果を表1に示す。
【0048】
〔実施例3〕
実施例2で得られたFAU型ゼオライトを、飽和水蒸気雰囲気中にて670℃で1時間焼成して一回目の水蒸気処理を行った。このFAU型ゼオライト4.0kgを、温度60℃の400Lの水に加えた後、硫酸アンモニウム5.6kgを加えて懸濁液を調製した。この懸濁液を90℃で1時間撹拌した後にFAU型ゼオライトを濾別した。これを温度60℃の水240Lで洗浄し、110℃で20時間乾燥して、SiO2/Al2O3モル比を高めたFAU型ゼオライト結晶を得た。さらに、このFAU型ゼオライト結晶を飽和水蒸気雰囲気中にて630℃で2時間焼成して二回目の水蒸気処理を行った。このFAU型ゼオライト結晶1.0kgを室温の水15Lに加え、25質量%の硫酸1.4kgを徐々に加えた。硫酸を全量加えた後に、75℃に昇温して4時間撹拌し、FAU型ゼオライトを濾別して、イオン交換水60Lで洗浄した。洗浄後のFAU型ゼオライトを110℃で20時間乾燥し、SiO2/Al2O3モル比をさらに高めたFAU型ゼオライト結晶を得た。このFAU型ゼオライト結晶について、前述の測定を行った。この結果を表1に示す。
【0049】
〔比較例1:市販のFAU型ゼオライト〕
市販されているFAU型ゼオライト(ゼオリスト社製CBV100)を用いた。このFAU型ゼオライトについて、前述の測定を行った。結果を表1に示す。また、このFAU型ゼオライトの電子顕微鏡写真を
図3に示す。
【0050】
〔比較例2:易溶解性のシリカ粒子を使用〕
シード溶液に加えるSi源として、遅溶解性シリカに代えて、溶解し易いシリカ粒子を用いた以外は実施例1と同様の方法でFAU型ゼオライトを製造した。この溶解し易いシリカ粒子として日本アエロジル社製品(Aerosil
TM380、比表面積405m
2/g)を用いた。このFAU型ゼオライトについて、前述の測定を行った。この結果を表1に示す。また、このFAU型ゼオライトの電子顕微鏡写真を
図4に示す。
【0051】
〔比較例3:原料溶液にシリカ粒子を加えない〕
H
2SO
4濃度20.3質量%およびAl濃度(Al
2O
3換算)7.0質量%の硫酸アルミニウム水溶液7.4kgに、Si濃度(SiO
2換算)24質量%の3号水ガラス35kgをゆっくり加えた後に、Na含有量(Na
2O換算)7.7質量%およびAl含有量(Al
2O
3換算)22質量%のアルミン酸ナトリウム5.3kgを加え、10分間撹拌して原料溶液を調製した。この原料溶液に実施例1の方法で得られたシード溶液2.4kgを加え、均一になるまで撹拌混合して水性混合液を調製した。この水性混合液のモル組成は、2.8Na
2O:Al
2O
3:8.6SiO
2:113H
2Oであった。以降の工程は実施例1と同様の方法で、FAU型ゼオライトを調製した。このFAU型ゼオライトについて、前述の測定を行った。この結果を表1に示す。また、このFAU型ゼオライトの電子顕微鏡写真を
図5に示す。
【0052】
〔比較例4:市販のFAU型ゼオライト〕
市販されているFAU型ゼオライト(ゼオリスト社製CBV712)を用いた。このFAU型ゼオライトについて、前述の測定を行った。この結果を表1に示す。
【0053】
【0054】
シード溶液に加えるSi源として遅溶解性シリカ粒子(比表面積37m
2/g)を用いて調製された実施例1のFAU型ゼオライトは、一次粒子が丸みを帯びているものが多く(
図2)、その球形度は0.75である。一方、遅溶解性シリカ粒子に代えて易溶解性シリカ粒子(比表面積405m
2/g)を用いて調製された比較例2のFAU型ゼオライトの一次粒子は殆どが八面体形状であり、一部に六角板状の一次粒子も含まれている(
図4)。また、シード溶液に加えるSi源としてシリカ粒子を用いずに調製された比較例3のFAU型ゼオライトは、六角板状の一次粒子が多く、一部に八面体形状の一次粒子も含まれている(
図5)。比較例1の市販のFAU型ゼオライトも比較例3のFAU型ゼオライトに近い形状の一次粒子を含んでいる(
図3)。このように、本発明のFAU型ゼオライトは、従来のFAU型ゼオライトの一次粒子よりも球形度が高く、球に近いことが確認された。
【0055】
FAU型ゼオライトの充填密度は、そのSiO2/Al2O3モル比、カチオンの種類、水分含有量が影響すると考えられることから、これらが同程度となるように調製したものを用いてその充填密度を比較した。一次粒子の球形度が0.60以上である実施例1のFAU型ゼオライトは、その球形度が0.60未満である比較例1、2のFAU型ゼオライトと比較して、充填密度が10%以上高い。同様に、実施例2と比較例3のFAU型ゼオライトを比較しても、充填密度が10以上高い。更に、実施例3と比較例4についても同様である。