(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022015698
(43)【公開日】2022-01-21
(54)【発明の名称】マウス大腸蟯虫の検出方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/686 20180101AFI20220114BHJP
C12Q 1/6888 20180101ALI20220114BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z ZNA
C12Q1/6888 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020118717
(22)【出願日】2020-07-09
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.Triton
(71)【出願人】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(72)【発明者】
【氏名】水上 洋一
(72)【発明者】
【氏名】諌山 慧士朗
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ28
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR55
4B063QR56
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS32
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】比較的簡便にマウス由来の糞試料を調製でき、かつ、当該糞試料中に含まれるマウス大腸蟯虫由来のゲノムDNAを感度よく定量的に検出できる方法やキットを提供すること。
【解決手段】マウスの糞からアルコール沈殿処理により糞試料を調製し、マウス大腸蟯虫リボソームDNA由来ITS-2領域のDNAを特異的に増幅するLNA含有プライマーセットと、当該領域のDNAに特異的にハイブリダイズし、蛍光物質及びクエンチャー物質で標識されたLNA含有プローブとを用いたPCRを行う。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(a)~(c)を含むことを特徴とする、マウス大腸蟯虫の検出方法。
(a)被験マウスの糞を含む液を、ビーズ存在下でホモジナイズ処理した後、アルコール沈殿処理を行うことにより糞試料を調製する工程;
(b)調製した糞試料と、以下のプライマーセット(i)及びプローブ(ii)とを用いてPCR(Polymerase Chain Reaction)を行う工程;
(i)配列番号1に示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有する、マウス大腸蟯虫のリボソームDNAにおけるITS-2(Internal Transcribed Spacer 2)領域のDNAを増幅可能なプライマーセットであって、1又は2以上のLNA(locked nucleic acid)を含むフォワードプライマーと、1又は2以上のLNAを含むリバースプライマーとからなる、前記プライマーセット
(ii)前記プライマーセットにより増幅される、マウス大腸蟯虫のリボソームDNAにおけるITS-2領域のDNAにハイブリダイズするプローブであって、5’末端が蛍光物質で標識され、3’末端がクエンチャー物質で標識され、かつ、1又は2以上のLNAを含む、前記プローブ
(c)蛍光物質由来の蛍光シグナルを検出する工程;
【請求項2】
フォワードプライマーが、配列番号2に示されるヌクレオチド配列を含むフォワードプライマーであって、配列番号2の7番目のヌクレオチド残基及び16番目のヌクレオチド残基が、それぞれLNAである、前記フォワードプライマーであり、
リバースプライマーが、配列番号3に示されるヌクレオチド配列を含むリバースプライマーであって、配列番号3の10番目のヌクレオチド残基及び18番目のヌクレオチド残基が、それぞれLNAである、前記リバースプライマーであり、
プローブが、配列番号4に示されるヌクレオチド配列又はその相補配列を含むプローブであって、配列番号4の7番目のヌクレオチド残基及び15番目のヌクレオチド残基が、それぞれLNAである、前記プローブ
であることを特徴とする請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
アルコール沈殿処理がエタノール沈殿処理であることを特徴とする請求項1又は2に記載の検出方法。
【請求項4】
以下のプライマーセット(i)及びプローブ(ii)を含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の検出方法に用いるためのキット。
(i)配列番号1に示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有する、マウス大腸蟯虫のリボソームDNAにおけるITS-2(Internal Transcribed Spacer 2)領域のDNAを増幅可能なプライマーセットであって、1又は2以上のLNA(locked nucleic acid)を含むフォワードプライマーと、1又は2以上のLNAを含むリバースプライマーとからなる、前記プライマーセット
(ii)前記プライマーセットにより増幅される、マウス大腸蟯虫のリボソームDNAにおけるITS-2領域のDNAにハイブリダイズするプローブであって、5’末端が蛍光物質で標識され、3’末端がクエンチャー物質で標識され、かつ、1又は2以上のLNAを含む、前記プローブ
【請求項5】
フォワードプライマーが、配列番号2に示されるヌクレオチド配列を含むフォワードプライマーであって、配列番号2の7番目のヌクレオチド残基及び16番目のヌクレオチド残基が、それぞれLNAである、前記フォワードプライマーであり、
リバースプライマーが、配列番号3に示されるヌクレオチド配列を含むリバースプライマーであって、配列番号3の10番目のヌクレオチド残基及び18番目のヌクレオチド残基が、それぞれLNAである、前記リバースプライマーであり、
プローブが、配列番号4に示されるヌクレオチド配列又はその相補配列を含むプローブであって、配列番号4の7番目のヌクレオチド残基及び15番目のヌクレオチド残基が、それぞれLNAである、前記プローブ
であることを特徴とする請求項4に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マウスがマウス大腸蟯虫(Aspiculuris tetraptera)に寄生しているか否かを検出する方法や、かかる方法に用いるためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
マウス大腸蟯虫は、実験マウスにおいて最も頻繁に検出される寄生性蟯虫である。蟯虫に感染した実験マウスは、自己免疫疾患の発症率が増加する;リンパ腫の発生率が増加する;飼料中の抗原に対するアレルギー反応が亢進する;等の影響が認められることが知られている。このため、実験結果に与える影響を排除するためにも、蟯虫に感染していない実験マウスを用いることが望ましい。
【0003】
マウスがマウス大腸蟯虫に感染していることは、結腸内容物中に存在する成虫や卵を顕微鏡下で直接観察することにより確認することができる。この方法の信頼性は高いものの、結腸内容物を採取するためにマウスを安楽死させる必要がある。一方、マウスを安楽死させずに、マウスがマウス大腸蟯虫に感染していることを確認する方法として、マウスの糞を採取し、マウス大腸蟯虫卵のゲノムDNAをPCR(Polymerase Chain Reaction)により検出する方法が報告されている(非特許文献1~4)。また、蟯虫卵が有する自家蛍光を指標として、蟯虫卵を検出する方法も報告されている(特許文献1)。
【0004】
PCRは、これまでは、DNAのみからなるプライマーセットを用いて実施されるケースが多かったが、最近では、相補鎖に対する熱安定性に優れたLNA(Locked Nucleic Acid)を含有するプライマーセットを使用するケースが増えている。例えば、LNAを含有するプライマーセットは、等温核酸増幅法において、バックグラウンドシグナルを抑制できることが報告されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-8042号公報
【特許文献2】特表2004-526432号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Leblanc, M., et al. J Am Assoc Lab Anim Sci.2014.
【非特許文献2】Gerwin, P.M., et al. J Am Assoc LabAnim Sci. 2017;56: 32-41.
【非特許文献3】Dole, V.S., et al. J Am Assoc LabAnim Sci. 2011;50: 904-909.
【非特許文献4】Parel, J.D.C., et al. Vet Parasitol.2008;153: 379-383.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、比較的簡便にマウス由来の糞試料を調製でき、かつ、当該糞試料中に含まれるマウス大腸蟯虫由来のゲノムDNAを感度よく定量的に検出できる方法やキットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を続けている。その過程において、マウス大腸蟯虫リボソームDNA由来ITS-2(Internal Transcribed Spacer 2)領域のDNAを特異的に増幅するLNA含有プライマーセットと、当該領域のDNAに特異的にハイブリダイズするLNA含有TaqMan(蛍光)プローブとを用いたTaqManプローブアッセイ(すなわち、ハイブリダイゼーション法によるPCR)を行うと、LNA非含有のプライマーセット及びTaqManプローブを用いたTaqManプローブアッセイを行った場合や、LNA非含有のプライマーセットを用いたSYBR Greenアッセイ(すなわち、インターカレーション法によるPCR)を行った場合と比べ、マウス大腸蟯虫リボソームDNA由来ITS-2領域のDNAを、感度よく定量的に検出できることを見いだした。さらに、TaqManプローブアッセイに用いる糞試料の処理条件について検討した結果、マウスの糞からエタノール沈殿処理により糞試料を調製すると、他の処理(加熱処理、BSA処理、TritonX-100処理、又はTween-20処理)により糞試料を調製した場合と比べ、糞試料に含まれるマウス大腸蟯虫リボソームDNA由来ITS-2領域のDNAを、感度よく定量的に検出できることを確認した。本発明は、これら知見に基づき、完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕以下の工程(a)~(c)を含むことを特徴とする、マウス大腸蟯虫の検出方法。
(a)被験マウスの糞を含む液を、ビーズ存在下でホモジナイズ処理した後、アルコール沈殿処理を行うことにより糞試料を調製する工程;
(b)調製した糞試料と、以下のプライマーセット(i)及びプローブ(ii)とを用いてPCR(Polymerase Chain Reaction)を行う工程;
(i)配列番号1に示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有する、マウス大腸蟯虫のリボソームDNAにおけるITS-2(Internal Transcribed Spacer 2)領域のDNAを増幅可能なプライマーセットであって、1又は2以上のLNA(locked nucleic acid)を含むフォワードプライマーと、1又は2以上のLNAを含むリバースプライマーとからなる、前記プライマーセット
(ii)前記プライマーセットにより増幅される、マウス大腸蟯虫のリボソームDNAにおけるITS-2領域のDNAにハイブリダイズするプローブであって、5’末端が蛍光物質で標識され、3’末端がクエンチャー物質で標識され、かつ、1又は2以上のLNAを含む、前記プローブ
(c)蛍光物質由来の蛍光シグナルを検出する工程;
〔2〕フォワードプライマーが、配列番号2に示されるヌクレオチド配列を含むフォワードプライマーであって、配列番号2の7番目のヌクレオチド残基及び16番目のヌクレオチド残基が、それぞれLNAである、前記フォワードプライマーであり、
リバースプライマーが、配列番号3に示されるヌクレオチド配列を含むリバースプライマーであって、配列番号3の10番目のヌクレオチド残基及び18番目のヌクレオチド残基が、それぞれLNAである、前記リバースプライマーであり、
プローブが、配列番号4に示されるヌクレオチド配列又はその相補配列を含むプローブであって、配列番号4の7番目のヌクレオチド残基及び15番目のヌクレオチド残基が、それぞれLNAである、前記プローブ
であることを特徴とする上記〔1〕に記載の検出方法。
〔3〕アルコール沈殿処理がエタノール沈殿処理であることを特徴とする上記〔1〕又は〔2〕に記載の検出方法。
〔4〕以下のプライマーセット(i)及びプローブ(ii)を含むことを特徴とする、上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の検出方法に用いるためのキット。
(i)配列番号1に示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有する、マウス大腸蟯虫のリボソームDNAにおけるITS-2(Internal Transcribed Spacer 2)領域のDNAを増幅可能なプライマーセットであって、1又は2以上のLNA(locked nucleic acid)を含むフォワードプライマーと、1又は2以上のLNAを含むリバースプライマーとからなる、前記プライマーセット
(ii)前記プライマーセットにより増幅される、マウス大腸蟯虫のリボソームDNAにおけるITS-2領域のDNAにハイブリダイズするプローブであって、5’末端が蛍光物質で標識され、3’末端がクエンチャー物質で標識され、かつ、1又は2以上のLNAを含む、前記プローブ
〔5〕フォワードプライマーが、配列番号2に示されるヌクレオチド配列を含むフォワードプライマーであって、配列番号2の7番目のヌクレオチド残基及び16番目のヌクレオチド残基が、それぞれLNAである、前記フォワードプライマーであり、
リバースプライマーが、配列番号3に示されるヌクレオチド配列を含むリバースプライマーであって、配列番号3の10番目のヌクレオチド残基及び18番目のヌクレオチド残基が、それぞれLNAである、前記リバースプライマーであり、
プローブが、配列番号4に示されるヌクレオチド配列又はその相補配列を含むプローブであって、配列番号4の7番目のヌクレオチド残基及び15番目のヌクレオチド残基が、それぞれLNAである、前記プローブ
であることを特徴とする上記〔4〕に記載のキット。
【0010】
また本発明の実施の他の形態として、
上記工程(a)~(c)を含み、かつ、工程(c)の後、蛍光物質由来の蛍光シグナルが検出された場合、前記被験マウスは、マウス大腸蟯虫に感染している又は感染している可能性が高いと判定する工程(p)を含む、マウス大腸蟯虫感染の判定方法;や、
上記プライマーセット(i)及びプローブ(ii)を含む、かかる判定方法に用いるためのマウス大腸蟯虫感染判定用キット;
を挙げることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、比較的簡便にマウス由来の糞試料を調製でき、かつ、当該糞試料中に含まれるマウス大腸蟯虫リボソームDNA由来ITS-2領域のDNAを感度よく定量的に検出できる。このため、実験マウスにおける、マウス大腸蟯虫の感染の有無や程度を、実験マウスを安楽死させることなく、比較的簡便かつ感度よく検出・判定することができ、マウス大腸蟯虫感染実験マウスの早期発見と、マウス大腸蟯虫の早期駆除に資するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1Aは、対照フォワードプライマー及び対照リバースプライマーのアニール温度を51.0~69.0℃の範囲内に設定し、陽性コントロール用ITS-2領域のDNAを鋳型としてPCRを行い、当該DNAを検出した結果を示す図である。図中の「M」はサイズマーカーを示す(以下、同じ)。
図2Bは、対照フォワードプライマー及び対照リバースプライマーの濃度を9.1~300nMの範囲内に設定し、陽性コントロール用ITS-2領域のDNAを鋳型としてPCRを行い、当該DNAを検出した結果を示す図である。
図1Cは、PCRサイクル数を20~35の範囲内に設定し、10~1000コピーの陽性コントロール用ITS-2領域のDNAを鋳型としてPCRを行い、当該DNAを検出した結果を示す図である。
図1Dは、
図1Cの結果で得られたバンドのシグナル強度を測定した結果(平均値±標準誤差[SE]、n=3)を示す図である。図中の「R
2」は決定係数を示す。
【
図2】
図2Aは、マウス大腸蟯虫感染マウスの糞由来ゲノムDNA(図中の「ゲノムDNA」)を鋳型としてPCRを行い、マウス大腸蟯虫リボソームDNA由来ITS-2領域のDNAを検出した結果を示す図である。図中の「PC」は、陽性コントロール用ITS-2領域のDNAを鋳型としてPCRを行い、当該DNAを検出した結果を示す図である。
図2Bは、
図2Aの結果で得られたバンドのシグナル強度を測定した結果(平均値±標準誤差[SE]、n=3)を示す図である。
【
図3】
図3A及びBは、陽性コントロール用ITS-2領域のDNAを鋳型とし、4種類のアッセイ(本件プライマーセット及び本件プローブを用いたTaqManプローブアッセイ[図中の「TaqMan-LNA」];対照プライマーセット及び本件プローブを用いたTaqManプローブアッセイ[図中の「TaqMan-Normal」];本件プライマーセットを用いたSYBR Greenアッセイ[図中の「SYBR-LNA」];及び対照プライマーセットを用いたSYBR Greenアッセイ[図中の「SYBR-Normal」])によるPCRを行い、当該DNAを検出(
図3A)及び定量(
図3B)した結果を示す図である。
図3Cは、マウス大腸蟯虫感染マウスの糞由来ゲノムDNA(図中の「ゲノムDNA」)を鋳型とし、本件プライマーセット及び本件プローブを用いたTaqManプローブアッセイによるPCRを行い、マウス大腸蟯虫リボソームDNA由来ITS-2領域のDNAを定量した結果を示す図である。
【
図4】
図4Aは、陽性コントロール用ITS-2領域のDNAを含む糞含有液(図中の「8、40、200μgの糞量」)から得られた上清を鋳型としてPCRを行い、当該DNAを検出した結果を示す図である。
図4Bは、かかる上清を加熱処理したものを鋳型としてPCRを行い、陽性コントロール用ITS-2領域のDNAを検出した結果を示す図である。
図4Cは、上記上清を加熱処理し、さらに、BSA処理したもの(
図4Cの「BSA」)、TritonX-100処理したもの(
図4Cの「TritonX」)、又はTween-20処理したもの(
図4Cの「Tween20」)を鋳型としてPCRを行い、陽性コントロール用ITS-2領域のDNAを検出した結果を示す図である。
図4Dは、上記上清をエタノール沈殿処理したものを鋳型としてPCRを行い、陽性コントロール用ITS-2領域DNAを検出した結果を示す図である。図中の「PC」は、陽性コントロール用ITS-2領域のDNAを鋳型としてPCRを行い、当該DNAを検出した結果を示す図である。
【
図5】エタノール沈殿処理によりマウス大腸蟯虫感染マウスの糞由来ゲノムDNA(図中の「ゲノムDNA」)を含む糞試料を調製し、本件プライマーセット及び本件プローブを用いたTaqManプローブアッセイを行い、マウス大腸蟯虫リボソームDNA由来ITS-2領域のDNAを定量した結果(平均値±標準誤差[SE]、n=3)を示す図である。
【
図6】
図6A及びBは、マウス大腸蟯虫感染が不明なマウスを8種類のケージ(#1~8)で飼育し、これらケージ内の糞からエタノール沈殿処理により糞試料を調製し、本件プライマーセット及び本件プローブを用いたTaqManプローブアッセイを行い、マウス大腸蟯虫リボソームDNA由来ITS-2領域のDNAを検出(
図6A)及び定量(
図6B)した結果を示す図である。
図6Caは、ケージ#8で飼育したマウス由来の結腸内容物に含まれるマウス大腸蟯虫の成虫の顕微鏡画像である。
図6Cbは、ケージ#8で飼育したマウス由来の糞に含まれるマウス大腸蟯虫の卵の顕微鏡画像である。
図6Ca及びCbにおいて、サイズバーは、それぞれ500μm及び50μmを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のマウス大腸蟯虫の検出方法としては、被験マウスの糞を含む液を、ビーズ存在下でホモジナイズ処理した後、アルコール沈殿処理を行うことにより糞試料を調製する工程(a);調製した糞試料と、以下のプライマーセット(i)及びプローブ(ii)とを用いてPCRを行う工程(b);及び、蛍光物質由来の蛍光シグナルを検出する工程(c);を順次含む、マウス大腸蟯虫を検出する方法(以下、「本件検出方法」ということがある)であれば特に制限されない。
(i)配列番号1に示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有する、マウス大腸蟯虫のリボソームDNAにおけるITS-2領域のDNA(以下、「本件ITS-2領域DNA」ということがある)を増幅可能なプライマーセットであって、1又は2以上のLNA(Locked Nucleic Acid)を含むフォワードプライマー(以下、「本件フォワードプライマー」ということがある)と、1又は2以上のLNAを含むリバースプライマー(以下、「本件リバースプライマー」ということがある)とからなる、前記プライマーセット(以下、「本件プライマーセット」ということがある)
(ii)本件プライマーセットにより増幅される本件ITS-2領域DNAにハイブリダイズするプローブであって、5’末端が蛍光物質で標識され、3’末端がクエンチャー物質で標識され、かつ、1又は2以上のLNAを含む、前記プローブ(以下、「本件プローブ」ということがある)
【0014】
また、本発明のマウス大腸蟯虫検出用キットとしては、「本件検出方法に用いるため」という用途に特定された、本件プライマーセットと本件プローブとを含むキット(以下、「本件キット」ということがある)であれば特に制限されない。本件キットは、マウス大腸蟯虫を検出するためのキットに関する用途発明であり、これらキットには、一般にこの種の検出キットに用いられる成分、例えば担体、pH緩衝剤、安定剤、本件検出方法の工程(a)において使用するビーズの他、取扱説明書、マウス大腸蟯虫を検出するための説明書等の添付文書が含まれ得る。
【0015】
本明細書において、「マウス大腸蟯虫」とは、マウス大腸蟯虫の個体(幼虫、成虫)及び/又はマウス大腸蟯虫の卵を意味する。
【0016】
本明細書において、「LNA(Locked Nucleic Acid)」とは、下記の化学式に示すとおり、デオキシリボ核酸(DNA)において、リボヌクレオチドの2’位の酸素原子と4’位の炭素原子をメチレンで架橋(リボースをC3′- endo型で固定)した架橋型人工核酸を意味し、2’,4’-BNA(Bridged Nucleic Acid)とも呼ばれている。
【0017】
【0018】
上記被験マウスとしては、マウス大腸蟯虫の感染のおそれがあるハツカネズミ属(Mus)のネズミであればよく、例えば、ハツカネズミ(Mus musculus)、アルジェリアハツカネズミ(Mus spretus)、オキナワハツカネズミ(Mus caroli)、スリランカハツカネズミ(Mus mayori)、インドハツカネズミ(Mus booduga)、ケニアハツカネズミ(Mus sorella)等を挙げることができ、ハツカネズミ(Mus musculus)を好適に例示することができる。上記被験マウスとしては、野生マウスであっても、実験に使用されるマウス(例えば、ヌードマウス、トランスジェニックマウス、ノックアウトマウス)であってもよい。
【0019】
上記工程(a)において、ビーズ存在下でホモジナイズ処理する方法としては、被験マウスの糞中に含まれるマウス大腸蟯虫を、ビーズを用いて破砕、粉砕、及び/又は溶解できる方法であればよく、例えば、ビーズクラッシャー(μT-12、TAITEC社製)、Precellys(Bertin Instruments社製)、Shake master NEO(バイオメディカルサイエンス社製)等のビーズ式ホモジナイザーを用いた方法を挙げることができる。
【0020】
上記工程(a)において、使用するビーズの材質、形状、大きさ等は、被験マウスの糞を含む液を、ビーズ存在下でホモジナイズ処理したときに、糞に含まれるマウス大腸蟯虫を破砕し得るものであればよく、ビーズの材質としては、例えば、ジルコニア(二酸化ジルコニウム)、ジルコニウム、石英、シリカ、ステンレス、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化マンガン、マグネシウム、チタン、マンガン等を挙げることができる。また、ビーズの形状としては、略球状を挙げることができ、球状が好ましい。また、ビーズの大きさとしては、例えば、最長部分の長さが0.02~3.0mmの範囲内、好ましくは0.05~1.0mm、より好ましくは0.1~0.6mmである。
【0021】
上記工程(a)において、ホモジナイズ処理するときの糞の量としては、例えば、液(溶媒)1mL当たり100μg~1gの範囲内、好ましくは1~600mg、より好ましくは3~300mg、さらに好ましくは6~100mg、さらにより好ましくは10~80mgである。
【0022】
上記工程(a)において、ホモジナイズ処理するときのビーズの量としては、例えば、液(溶媒)1mL当たり1mg~10gの範囲内、好ましくは10mg~2g、より好ましくは40mg~1g、さらに好ましくは80~800mg、さらにより好ましくは100~500mgである。
【0023】
上記工程(a)におけるアルコール沈殿処理としては、DNAが主成分であるPCR産物を、負に帯電したDNAを中和できる塩と、アルコールとの存在下で凝集させ、沈殿を得る(コロイドの塩析)方法であればよく、ここで「負に帯電したDNAを中和できる塩」としては、例えば、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム等を挙げることができ、酢酸ナトリウムを好適に例示することができる。また、アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール等を挙げることができ、エタノールを好適に例示することができる。DNAをより効率よく沈殿させるために、キャリア(例えば、グリコーゲンやtRNA)を添加してもよい。PCR産物由来の沈殿物は、目視でできれば、当該沈殿物をそのまま回収してもよいが、目視できなければ、市販の遠心分離装置を用いた遠心処理により沈殿させる。DNAをより効率よく沈殿させるために、遠心処理前に、冷却処理(例えば、0~-35℃の範囲内で、10分~2時間冷却処理)してもよい。遠心処理後は、塩を完全に除去するために、アルコール(好ましくは、アルコール沈殿処理で使用したアルコールと同じ種類のアルコール)で洗浄することが好ましい。沈殿物は、液中に懸濁・溶解し、工程(b)のPCRに用いる。
【0024】
本明細書において、「被験マウスの糞を含む液」の溶媒や、上記沈殿物を懸濁・溶解する溶媒(液)としては、等張液、低張液、及び高張液のいずれでもよい。かかる液としては、例えば、純水、緩衝効果のある水(例えば、TE緩衝液[Tris-EDTA緩衝液]、HEPES緩衝液、リン酸緩衝液)、生理食塩水、緩衝効果のある生理食塩水(例えば、TE緩衝生理食塩水、HEPES緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水[PBS])等を挙げることができる。液のpHは、例えば、5.0~10.0の範囲内であり、好ましくは、6.0~9.0である。
【0025】
上記工程(a)において、ホモジナイズ処理及びアルコール沈殿処理に加えて、これら以外の処理、例えば、フェノール、クロロホルム等の疎水性有機溶媒を用いた処理;TritonX-100、Tween-20等の界面活性剤を用いた処理;BSA(ウシ血清アルブミン)、バクテリオファージ由来T4遺伝子32タンパク質等のPCR阻害物質吸着性タンパク質を添加する処理;プロテイナーゼK(Proteinase K)、アミラーゼ等の分解酵素を用いた処理;などにより、糞試料を調製してもよいが、ホモジナイズ処理及びアルコール沈殿処理以外の処理がなくても、糞試料中に含まれるマウス大腸蟯虫由来のゲノムDNAを感度よく定量的に検出できるため、簡便性も考慮すると、ホモジナイズ処理及びアルコール沈殿処理以外の上記処理を行わないで、糞試料を調製することが好ましい。
【0026】
上記工程(b)におけるPCRは、具体的には、ハイブリダイゼーション法によるPCRである。ハイブリダイゼーション法によるPCRは、本件プライマーセットにより本件ITS-2領域DNAが増幅される工程において、DNAポリメラーゼが有する5’→3’エキソヌクレアーゼ活性により、本件プライマーセットにより増幅される本件ITS-2領域DNAにハイブリダイズした本件プローブが分解され、蛍光物質が本件プローブから遊離し、クエンチャー物質によるクエンチング(消光)が解除され、その結果生じた蛍光物質由来の蛍光シグナルを指標として、PCR産物(すなわち、本件プライマーセットにより増幅される本件ITS-2領域DNA)を検出・定量する方法である。したがって、工程(b)におけるPCRは、インターカレーション法によるPCR、すなわち、SYBR Green等の二本鎖DNAにインターカレートする蛍光物質が、PCRにより増幅されたDNAに取り込まれ、取り込まれた蛍光物質の蛍光シグナルを指標として、PCR産物を検出・定量する方法とは異なる。
【0027】
本件プローブにおける蛍光物質及びクエンチャー物質の組合せとしては、プローブがインタクトで存在するときは、クエンチャー物質により蛍光物質由来の蛍光シグナルが消光され、プローブの分解により蛍光物質がプローブから遊離したときは、クエンチャー物質による消光が抑制され、蛍光物質由来の蛍光シグナルが検出されるという効果を発揮し得るものであればよく、例えば、FAM(蛍光物質)及びIBFQ(クエンチャー物質)、FAM(蛍光物質)及びTAMRA(クエンチャー物質)、TET(蛍光物質)及びIBFQ(クエンチャー物質)、HEX(蛍光物質)及びIBFQ(クエンチャー物質)、Cy5(蛍光物質)及びIBFQ(クエンチャー物質)、FAM(蛍光物質)及びBHQ1又は2(クエンチャー物質)、TET(蛍光物質)及びBHQ1又は2(クエンチャー物質)、HEX(蛍光物質)及びBHQ1又は2(クエンチャー物質)、MAX NHSエステル(蛍光物質)及びIBFQ(クエンチャー物質)、MAX NHSエステル(蛍光物質)及びBHQ1又は2(クエンチャー物質)、Cy3(蛍光物質)及びIBRQ(クエンチャー物質)、Cy3(蛍光物質)及びBHQ2(クエンチャー物質)、TYE563(蛍光物質)及びIBRQ(クエンチャー物質)、TYE563(蛍光物質)及びBHQ2(クエンチャー物質)、TEX615(蛍光物質)及びIBRQ(クエンチャー物質)、TEX615(蛍光物質)及びBHQ2(クエンチャー物質)、Cy5(蛍光物質)及びIBRQ(クエンチャー物質)、Cy5(蛍光物質)及びBHQ2(クエンチャー物質)、TYE665(蛍光物質)及びIBRQ(クエンチャー物質)、TYE665(蛍光物質)及びBHQ2(クエンチャー物質)、FAM(蛍光物質)及びTAMRA NHSエステル(クエンチャー物質)、JOE NHSエステル(蛍光物質)及びIBFQ(クエンチャー物質)、JOE NHSエステル(蛍光物質)及びBHQ1又は2(クエンチャー物質)、TAMRA NHSエステル(蛍光物質)及びIBRQ(クエンチャー物質)、TAMRA NHSエステル(蛍光物質)及びBHQ2(クエンチャー物質)、ROX NHSエステル(蛍光物質)及びIBRQ(クエンチャー物質)、ROX NHSエステル(蛍光物質)及びBHQ2(クエンチャー物質)、Texas Red-X NHSエステル(蛍光物質)及びIBRQ(クエンチャー物質)、Texas Red-X NHSエステル(蛍光物質)及びBHQ2(クエンチャー物質)等の組合せを挙げることができる。
【0028】
上記工程(b)及び(c)は、サーマルサイクラーと分光蛍光光度計とが一体化したリアルタイムPCR装置、例えば、ABI PRISM 7900HTシステム(Applied Biosystems社製)、CFX384 Touchリアルタイム解析システム(Bio-Rad社製)等を用いて行うことができる。
【0029】
上記工程(c)において、蛍光物質由来の蛍光シグナルは、濃度既知の本件ITS-2領域DNAを鋳型として、本件検出方法におけるPCRを行い、DNA濃度と、PCR産物が一定量に到達するときのサイクル数(threshold cycle;Ct値)との関係を示す検量線を作成する。検査対象の糞試料についても、同じ条件下でPCRを行い、Ct値を求め、この値と検量線から、糞試料中の本件ITS-2領域DNAを検出・定量することができる。
【0030】
上記工程(c)において、蛍光物質由来の蛍光シグナルが検出された場合、被験マウスは、マウス大腸蟯虫に感染している又は感染している可能性が高いと判定することができ、蛍光物質由来の蛍光シグナルが検出されなかった場合、被験マウスは、マウス大腸蟯虫に感染していない又は感染していない可能性が高いと判定することができる。
【0031】
本件フォワードプライマーは、2本鎖のポリヌクレオチド(センス鎖及びアンチセンス鎖)からなる本件ITS-2領域DNAのうち、アンチセンス鎖にアニールし、本件ITS-2領域DNAの上流から下流にDNA合成するためのプライマーである。また、本件リバースプライマーは、2本鎖のポリヌクレオチド(センス鎖及びアンチセンス鎖)からなる本件ITS-2領域DNAのうち、センス鎖にアニールし、本件ITS-2領域DNAの下流から上流にDNA合成するためのプライマーである。また、本件プローブは、本件プライマーセットにより増幅される、2本鎖のポリヌクレオチド(センス鎖及びアンチセンス鎖)からなる本件ITS-2領域DNAのうち、アンチセンス鎖又はセンス鎖にハイブリダイズするプローブである。例えば、本件ITS-2領域DNAが、配列番号1のヌクレオチド配列からなるDNAである場合、配列番号1のヌクレオチド配列の1番目のヌクレオチド残基が上流側であり、598番目のヌクレオチド残基が下流側であり、配列番号1のヌクレオチド配列がセンス鎖であり、配列番号1のヌクレオチド配列の相補配列が、アンチセンス鎖である。
【0032】
本件プライマーセット及び本件プローブは、配列番号1のヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有するヌクレオチド配列情報を基に、Primer Express(登録商標)ソフトウェア(Applied Biosystems社製)やLNA設計ガイドライン(Qiagen社製)等の公知の手法により、適宜設計することができる。
【0033】
本件フォワードプライマー、本件リバースプライマー、及び本件プローブの組合せとしては、具体的には、配列番号2のヌクレオチド配列を含み、配列番号2の7番目のヌクレオチド残基がLNAであり、かつ、配列番号2の16番目のヌクレオチド残基がLNAであるフォワードプライマーと、配列番号3のヌクレオチド配列を含み、配列番号3の10番目のヌクレオチド残基がLNAであり、かつ、配列番号3の18番目のヌクレオチド残基がLNAであるリバースプライマーと、配列番号4のヌクレオチド配列又はその相補配列を含み、配列番号4の7番目のヌクレオチド残基がLNAであり、かつ、配列番号4の15番目のヌクレオチド残基がLNAであるプローブの組合せを挙げることができる。本件フォワードプライマーとしては、配列番号2のヌクレオチド配列を3’末端に含むものが好ましく、配列番号2のヌクレオチド配列からなるものが最も好ましい。また、本件リバースプライマーとしては、配列番号3のヌクレオチド配列を3’末端に含むものが好ましく、配列番号3のヌクレオチド配列からなるものが最も好ましい。また、本件プローブとしては、配列番号4のヌクレオチド配列又はその相補配列からなるものが最も好ましい。
【0034】
本件フォワードプライマー、本件リバースプライマー、及び本件プローブの長さとしては、例えば、10ヌクレオチド以上(好ましくは14、16、18、20、22、又は25ヌクレオチド以上)であり、100ヌクレオチド以下(好ましくは60、50、40、35、30、又は28ヌクレオチド以下)である。
【0035】
また、本件プライマーセットにより増幅されるPCR産物の長さとしては、例えば、30ヌクレオチド以上(好ましくは35、40、45、50、55、60、65又は70ヌクレオチド以上)であり、590ヌクレオチド以下(好ましくは560、530、500、460、430、400、360、330、300、260、230、200、160、130、又は100ヌクレオチド以下)である。
【0036】
本件フォワードプライマーは、本件ITS-2領域DNAのアンチセンス鎖にアニールするポリヌクレオチド又はその類縁体を含む。また、本件リバースプライマーは、本件ITS-2領域DNAのセンス鎖にアニールするポリヌクレオチド又はその類縁体を含む。また、本件プローブは、本件プライマーセットにより増幅される本件ITS-2領域DNAにハイブリダイズするポリヌクレオチド又はその類縁体を含む。かかるポリヌクレオチド又はその類縁体としては、例えば、DNA;RNA;PNA(polyamide nucleic acid、ペプチド核酸)、ENA(2'-O,4'-C-Ethylene-bridged nucleic acids)、GNA(Glycerol nucleic acid、グリセロール核酸)、TNA(Threose nucleicacid、トレオース核酸)等のLNA以外の人工核酸;を挙げることができ、簡便性や安定性を考慮すると、DNAが好ましい。また、本件フォワードプライマー、本件リバースプライマー、及び本件プローブは、2本鎖であってもよいが、通常は1本鎖である。
【0037】
本発明において、「配列番号1に示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性」とは、配列番号1のヌクレオチド配列における1若しくは数個のヌクレオチドが置換、欠失、挿入、付加又は逆位され、配列番号1のヌクレオチド配列全体の90%以上の配列が同一であることを意味する。ここで、「1若しくは数個のヌクレオチドが置換、欠失、挿入、付加又は逆位されたヌクレオチド配列」とは、例えば1~59個の範囲内、好ましくは1~55個の範囲内、より好ましくは1~50個の範囲内、さらに好ましくは1~40個の範囲内、より好ましくは1~30個の範囲内、さらに好ましくは1~20個の範囲内、より好ましくは1~15個の範囲内の数のヌクレオチドが置換、欠失、挿入、付加又は逆位されたヌクレオチド配列を意味する。
【0038】
本発明において、「少なくとも90%の同一性」としては、好ましくは91%以上、より好ましくは92%以上、さらに好ましくは93%以上、さらにより好ましくは94%以上、特に好ましくは95%以上、特により好ましくは96%以上、特にさらに好ましくは97%以上、特にさらにより好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上(約100%)の同一性である。ヌクレオチド配列の同一性は、カーリン及びアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-2268, 1990、Proc Natl Acad Sci USA 90: 5873, 1993)に基づくBLASTX又はBLASTPと呼ばれるプログラム(Altschul SF, et al: J Mol Biol 215: 403,1990)に基づくBLASTNと呼ばれるプログラム(Altschul SF, et al: J Mol Biol 215: 403, 1990)を利用して決定することができる。BLASTNを用いてヌクレオチド配列を解析する場合は、パラメーターは、例えば、score=100、wordlength=12とする。
【0039】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。なお、本実施例で使用したマウスは、ハツカネズミ(Mus musculus)である。
【実施例0040】
1.材料及び方法
[PCR用プライマー及びプローブ]
マウス大腸蟯虫のリボソームDNAにおけるITS-2領域のDNA(表1参照)(以下、「マウス大腸蟯虫リボソームDNA由来ITS-2領域のDNA」ということがある)をPCRにより検出するために、LNAを含むプライマーである本件フォワードプライマー及び本件リバースプライマーからなる本件プライマーセット(表2参照)(味の素バイオファーマ社製)と、LNAを含み、かつ、5’末端及び3’末端がそれぞれ蛍光物質(FAM)及びクエンチャー物質(IBFQ)で標識されたプローブである本件プローブ(表2参照)(IDT社製)とを用いた。なお、比較対照として、本件プライマーセットとヌクレオチド配列が同一であり、かつ、LNAを含まないプライマーセットである対照プライマーセット(すなわち、対照フォワードプライマー及び対照リバースプライマーからなるもの)を用いた(表2参照)。
【0041】
【表1】
表中の一重下線で示したヌクレオチド残基は、表2に示す本件フォワードプライマーがアニールする部位を示す。表中の二重下線で示したヌクレオチド残基は、表2に示す本件リバースプライマーがアニールする部位を示す。表中の四角で囲ったヌクレオチド残基は、表2に示す本件プローブがハイブリダイズする部位を示す。
【0042】
【表2】
表中の下線で示すヌクレオチド残基は、LNAであることを示し、それ以外のヌクレオチド残基はDNAであることを示す。また、本件プローブの5’末端及び3’末端は、それぞれ蛍光物質(FAM)及びクエンチャー物質(IBFQ)で標識されている。
【0043】
[陽性コントロール用ITS-2領域のDNA]
PCRの陽性コントロール用鋳型DNAとして、配列番号1のヌクレオチド配列(すなわち、マウス大腸蟯虫リボソームDNA由来ITS-2領域のDNA)の1~95番目のヌクレオチド残基を含む2本鎖ポリヌクレオチド(表3参照)(本明細書において、「陽性コントロール用ITS-2領域のDNA」ということがある)を合成した。
【0044】
【表3】
表中の一重下線で示したヌクレオチド残基は、表2に示す本件フォワードプライマーがアニールする部位を示す。表中の二重下線で示したヌクレオチド残基は、表2に示す本件リバースプライマーがアニールする部位を示す。表中の四角で囲ったヌクレオチド残基は、表2に示す本件プローブがハイブリダイズする部位を示す。
【0045】
[マウス大腸蟯虫感染マウスの糞由来ゲノムDNA]
マウス大腸蟯虫に感染したマウスの糞から定法にしたがって精製されたゲノムDNA(本明細書において、「マウス大腸蟯虫感染マウスの糞由来ゲノムDNA」ということがある)を、実験動物中央研究所により分与された。
【0046】
[PCR]
図1及び2において、鋳型DNA(陽性コントロール用ITS-2領域のDNA、又はマウス大腸蟯虫感染マウスの糞由来ゲノムDNA)を、270μMのdNTPs(タカラバイオ社製)、150nMの対照フォワードプライマー及び対照リバースプライマー、並びに5ユニットのTaqDNAポリメラーゼ(New England Biolabs社製)を含有するPCR混合物に添加した。なお、
図1Bにおいて、プライマーの濃度は9.1~300nMに変更した。以下の表4に示す条件で、PCRサーマルサイクラー(Dicer TP600;タカラバイオ社製)を用いてPCRを行った。得られたPCR産物を、2%アガロースゲル電気泳動し、エチジウムブロマイド(EtBr)で20分間染色することによりDNAを可視化した。画像解析装置(FluorChemFC2;Alpha Innotech Corporation社製)を用いて可視化したDNAの画像を取得し、Metamorphイメージングソフトウェア(Molecular Devices社製)を用いてDNA(バンド)のシグナル強度を測定した。
【0047】
【表4】
図1Aにおいて、表中のステップ2における「アニーリング反応」の温度は51.0~69.0℃に変更し、また、表中のステップ2における「サイクル数」は20~35に変更した。
【0048】
[DNAシークエンシング]
PCR産物のDNAシークエンシングは、文献「Watanabe, K.,et al. Sci Rep. 2018. doi:10.1038/s41598-018-34290-1」記載の方法に従って、3130xlジェネティックアナライザー(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて行った。
【0049】
[定量PCR]
SYBRGreenアッセイ(文献「Aihara,M., et al.Gene. 2012;501: 118-126.」参照)においては、1×QuantiTect SYBR green buffer(Qiagen社製)及び18.8nMの2種類のプライマーセット(対照フォワードプライマー及び対照リバースプライマーからなる対照プライマーセット、又は、本件フォワードプライマー及び本件リバースプライマーからなる本件プライマーセット)を含有するqPCR混合物に、鋳型DNA(100コピーの陽性コントロール用ITS-2領域のDNA[
図3A及びB]、又はマウス大腸蟯虫感染マウスの糞由来ゲノムDNA[
図3C])を添加した。TaqManプローブアッセイにおいては、1×Sso-Advanced universalprobe supermix(Bio-Rad Laboratories社製)、100nMの本件プローブ、及び9.4nMの2種類のプライマーセット(対照フォワードプライマー及び対照リバースプライマーからなる対照プライマーセット、又は、本件フォワードプライマー及び本件リバースプライマーからなる本件プライマーセット)を含有する標準qPCR混合物に、鋳型DNA(100コピーの陽性コントロール用ITS-2領域のDNA[
図3A及びB]、又はマウス大腸蟯虫感染マウスの糞由来ゲノムDNA[
図3C])を添加した。次に、以下の表5に示す条件で、CFX384 Touchリアルタイム解析システム(Bio-Rad社製)を用いた定量PCRを行った。蛍光レベル(RFU:relativefluorescence unit)の閾値を100未満に設定することにより(
図3A参照)、すべての試料のサイクル閾値(Ct値)を決定した。1.37~3000コピーの陽性コントロール用ITS-2領域のDNAを3段階で希釈した液を用いて検量線を作成し、かかる検量線を基に、マウス大腸蟯虫感染マウスの糞由来ゲノムDNAに含まれるマウス大腸蟯虫リボソームDNA由来ITS-2領域のDNAのコピー数(
図3Cの縦軸)を測定した。
【0050】
【0051】
[陽性コントロール用ITS-2領域のDNAを含む糞試料を用いたPCR]
マウス大腸蟯虫に感染していないことが確認されたマウスのケージから糞の塊を採取し、コニカルチューブに回収した。糞の塊を串(skewer)で細かくした後、TE緩衝液(Tris-EDTA緩衝液[pH8.0])を添加し、糞懸濁液を調製した。溶媒1mL当たり25mgの糞を含む糞懸濁液1mLを、直径が0.3mmの球状のガラスビーズ250mgを含むセーフロックチューブ(Safe-Lock Tube)に加え、ビーズクラッシャー(μT-12、TAITEC社製)を用いて3200rpm、30秒間ホモジナイズ処理をした。その後、8~200μgの糞を含む液に、最終濃度1ng/μLの陽性コントロール用ITS-2領域のDNAを加え、95℃で5分加熱処理した後、11,000×gで5分間遠心処理により得られた上清(
図4A)を鋳型とし、上記[PCR]の項目に記載の方法に従ってPCRを行った。また、かかる上清を95℃で5分間加熱処理したもの(
図4B)や、上清を95℃で5分間加熱処理し、さらに、1%のBSA処理したもの(
図4Cの「BSA」)、0.1%のTritonX-100処理したもの(
図4Cの「TritonX」)、又は0.1%のTween-20処理したもの(
図4Cの「Tween20」)を鋳型とし、上記[PCR]の項目に記載の方法に従ってPCRを行った。さらに、上記上清を、エタノール沈殿処理したもの(
図4D)を鋳型とし、上記[PCR]の項目に記載の方法に従ってPCRを行った。エタノール沈殿処理は、上記上清に、1/10倍の3Mの酢酸ナトリウムと、2倍の氷冷100%エタノールを添加し、-30℃で1時間冷却処理した後、11,000×gで15分、4℃で遠心処理することにより行った。また、得られた沈殿物(DNA)を70%エタノールで洗浄し、15分乾燥処理した後、TE緩衝液(pH8.0)に溶解した。なお、コントロールとして、陽性コントロール用ITS-2領域のDNAそれ自体を鋳型とし、上記[PCR]の項目に記載の方法に従ってPCRを行った。
【0052】
[エタノール沈殿処理により得られた、マウス大腸蟯虫感染マウスの糞由来ゲノムDNAを含む糞試料を用いた定量PCR]
マウス大腸蟯虫に感染していないことが確認されたマウスのケージから糞の塊を採取し、コニカルチューブに回収した。糞の塊を串(skewer)で細かくした後、TE緩衝液(Tris-EDTA緩衝液[pH8.0])を添加し、糞懸濁液を調製した。溶媒1mL当たり25mgの糞を含む糞懸濁液を、直径が0.3mmの球状のガラスビーズ250mgを含むセーフロックチューブ(Safe-Lock Tube)に加え、ビーズクラッシャー(μT-12、TAITEC社製)を用いて3200rpm、30秒間ホモジナイズ処理をした。その後、4μgの糞を含む液に、0.5~13.3ngのマウス大腸蟯虫感染マウスの糞由来ゲノムDNAを加え、95℃で5分加熱処理した後、11,000×gで5分間遠心処理により上清を回収した。回収した上清を、上記[陽性コントロール用ITS-2領域のDNAを含む糞試料を用いたPCR]の項目に記載の方法に従ってエタノール沈殿処理を行い、糞試料を調製した。調製した糞試料を鋳型とし、上記[定量PCR]の項目に記載の方法に従って定量PCRを行った。
【0053】
[エタノール沈殿処理により得られた糞試料を用いた定量PCR]
マウス大腸蟯虫感染が不明なマウスを、1ケージ当たり3~5匹で飼育した8種類のケージ(#1~8)から糞の塊を採取し、コニカルチューブに回収した。糞の塊を串(skewer)で細かくした後、TE緩衝液(Tris-EDTA緩衝液[pH8.0])を添加し、糞懸濁液を調製した。溶媒1mL当たり25mgの糞を含む糞懸濁液を、直径が0.3mmの球状のガラスビーズ250mgを含むセーフロックチューブ(Safe-Lock Tube)に加え、ビーズクラッシャー(μT-12、TAITEC社製)を用いて3200rpm、30秒間ホモジナイズ処理をした。その後、25mgの糞を含む液を95℃で5分加熱処理した後、11,000×gで5分間遠心処理により上清を回収した。回収した上清を、上記[陽性コントロール用ITS-2領域のDNAを含む糞試料を用いたPCR]の項目に記載の方法に従ってエタノール沈殿処理を行い、糞試料を調製した。調製した糞試料を鋳型とし、上記[定量PCR]の項目に記載の方法に従って定量PCRを行った。
【0054】
2.結果及び考察
[PCR条件の検討]
マウス大腸蟯虫リボソームDNA由来ITS-2領域のDNAを検出するためのPCRの条件を最適化するために、陽性コントロール用ITS-2領域のDNAを鋳型とし、(LNAを含まない)対照フォワードプライマー及び対照リバースプライマーを用いたPCRにより検討を行った。まず、100コピーの鋳型DNA(すなわち、陽性コントロール用ITS-2領域のDNA)を使用し、対照フォワードプライマー及び対照リバースプライマーのアニール温度を51.0~69.0℃の範囲内で検討した結果、アニーリング温度が58.9℃のとき、鋳型DNA由来のシングルバンドが検出された(
図1A参照)。また、対照フォワードプライマー及び対照リバースプライマーの濃度を9.1~300nMの範囲内で検討した結果、対照フォワードプライマー及び対照リバースプライマーの濃度が150nM及び300nMのとき、鋳型DNA由来のバンドが検出されたのに対して、これらプライマーの濃度が75nM以下のときは、鋳型DNA由来のバンドは検出されなかった(
図1B参照)。また、鋳型DNAのコピー数が10~1000の範囲内のとき、コピー数を定量できるPCRのサイクル数を20~35の範囲内で検討した結果、PCRのサイクル数が30サイクルのとき、決定係数(R
2)が最も高く、定量性が高いことが示された(
図1C及び1D参照)。
【0055】
以上の結果から、以降の実験において、対照フォワードプライマー及び対照リバースプライマーを用いたPCRは、プライマーのアニール温度を58.9℃に設定し、プライマーの濃度を150nMに設定し、PCRのサイクル数を30に設定して行った。
【0056】
0.5~50ngのマウス大腸蟯虫感染マウスの糞由来ゲノムDNAを鋳型とし、対照フォワードプライマー及び対照リバースプライマーを用いたPCRを行った。その結果、いずれの濃度のマウス大腸蟯虫感染マウスの糞由来ゲノムDNAを鋳型とした場合でも、単一のバンドが検出され、かかるバンドのサイズは、陽性コントロール用ITS-2領域のDNAを鋳型した場合に検出されたバンドのサイズと同じであった(
図2参照)。また、得られたPCR産物について、DNAシークエンシングを行ったところ、マウス大腸蟯虫リボソームDNA由来ITS-2領域のDNAであることが確認された。これらの結果は、PCR実験条件下において、マウス大腸蟯虫感染マウスの糞から調製したゲノムDNAを鋳型とし、対照フォワードプライマー及び対照リバースプライマーがアニールするプライマーセットを用いたPCRを行うことにより、マウス大腸蟯虫感染の有無を感度よく検出できることを示している。
【0057】
[定量PCR]
LNAに基づくTaqManアッセイにより、黄色ブドウ球菌(S. aureus)による白チーズの汚染の検出レベルが向上したことが報告されている(文献「Kadiroglu,P., et al. J Microbiol Methods. 2014. doi:10.1016/j.mimet.2014.06.022」参照)。そこで、マウス大腸蟯虫感染マウスの糞中のマウス大腸蟯虫由来ゲノムDNAを感度よく定量するために、本件プライマーセット、すなわち、LNA含有プライマーセットと、本件プローブ、すなわち、LNA含有TaqManプローブとを用いたTaqManプローブアッセイを行った。なお、比較対照として、対照プライマーセット及び本件プローブを用いたTaqManプローブアッセイや、本件プライマーセット又は対照プライマーセットを用いたSYBR Greenアッセイも行った。
【0058】
その結果、本件プライマーセットを用いた場合、対照プライマーセットを用いた場合と比べ、TaqManプローブアッセイ及びSYBR Greenアッセイのいずれにおいても、マウス大腸蟯虫リボソームDNA由来ITS-2領域のDNAの検出感度は上昇したものの、本件プライマーセット及び本件プローブを用いてTaqManプローブアッセイを行った場合が最も検出感度が高かった(
図3A参照)。
【0059】
また、各々のアッセイについて、検出されたマウス大腸蟯虫リボソームDNA由来ITS-2領域のDNAのコピー数と、PCRサイクル数との間の関係を調べた。その結果、本件プライマーセット及び本件プローブを用いてTaqManプローブアッセイを行った場合、コピー数1~3000の範囲では単純線形回帰の相関係数が0.994であり、対照プライマーセット及び本件プローブを用いたTaqManプローブアッセイを行った場合の相関係数(0.917)よりも高いことが示された(
図3B参照)。また、本件プライマーセット及び本件プローブを用いたTaqManプローブアッセイの検出感度は、本件プライマーセットを用いたSYBRアッセイと比べ、100倍以上向上した。
【0060】
さらに、本件プライマーセット及び本件プローブを用いたTaqManプローブアッセイを用いて、マウス大腸蟯虫感染マウスの糞由来ゲノムDNAにおけるマウス大腸蟯虫リボソームDNA由来ITS-2領域のDNAのコピー数を測定した。その結果、マウス大腸蟯虫感染マウスの糞由来ゲノムDNAの量に依存して、マウス大腸蟯虫リボソームDNA由来ITS-2領域のコピー数が上昇することが示された(
図3C参照)。また、マウス大腸蟯虫感染マウスの糞由来ゲノムDNAが20pgと少量であっても、約1コピーのマウス大腸蟯虫リボソームDNA由来ITS-2領域のDNAを検出できることが示された(
図3C参照)。この結果は、本件プライマーセット及び本件プローブを用いたTaqManプローブアッセイを行うと、マウス大腸蟯虫感染マウスの糞から抽出されたゲノムDNAが少量であっても、当該糞中に含まれるマウス大腸蟯虫由来ゲノムDNAを、感度よく定量できることを示している。
【0061】
[陽性コントロール用ITS-2領域のDNAを含む糞試料を用いたPCR]
実験マウスのマウス大腸蟯虫感染を、糞からゲノムDNAを精製することなく簡便に検出できるかどうかを検証するために、陽性コントロール用ITS-2領域のDNAを含む糞含有液から遠心処理により得られた上清を用いてPCRを行った。その結果、糞量が8μgのときは、陽性コントロール用ITS-2領域のDNA由来のバンドが検出されたものの、糞量が40~200μgのときは、かかるバンドが検出されなかった(
図4A参照)。この結果は、糞存在下で陽性コントロール用ITS-2領域のDNAの回収率が遠心処理により低下(例えば、陽性コントロール用ITS-2領域のDNAが沈殿物に付着することによるロス)したり、糞に含まれる少なくとも1つの可溶性成分(例えば、多糖類やカルシウムイオン等)がPCR反応を阻害する可能性を示唆している。
【0062】
また、上記上清を、加熱処理や、加熱処理に加えて、さらに、BSA処理、TritonX-100処理、又はTween-20処理した場合も、糞量が40~200μgのときは、陽性コントロール用ITS-2領域のDNA由来のバンドは検出されなかった(
図4B及びC参照)。一方、上記上清を、エタノール沈殿処理すると、糞量が40のμgのとき、陽性コントロール用ITS-2領域のDNA由来のバンドが検出された(
図4D参照)。この結果は、エタノール沈殿処理により糞試料を調製し、PCRを行うと、他の処理(加熱処理、BSA処理、TritonX-100処理、又はTween-20処理)により糞試料を調製してPCRを行った場合と比べ、マウス大腸蟯虫リボソームDNA由来ITS-2領域のDNAの検出感度が、少なくとも5倍上昇することを示している。
【0063】
[エタノール沈殿処理により得られた、マウス大腸蟯虫感染マウスの糞由来ゲノムDNAを含む糞試料を用いた定量PCR]
次に、エタノール沈殿処理によりマウス大腸蟯虫感染マウスの糞由来ゲノムDNAを含む糞試料を調製し、かかる糞試料を鋳型として、本件プライマーセット及び本件プローブを用いたTaqManプローブアッセイを行った。その結果、4μgの糞存在下において、検出されたマウス大腸蟯虫リボソームDNA由来ITS-2領域のDNAのコピー数は、糞非存在下において、検出されたマウス大腸蟯虫リボソームDNA由来ITS-2領域のDNAのコピー数の約50%であった(
図5A参照)。また、糞量の増加に伴い、検出されたマウス大腸蟯虫リボソームDNA由来ITS-2領域のDNAのコピー数は低下したものの、比率の変動率はほぼ一定であった(
図5A参照)。また、0.5~13.3ngの範囲のマウス大腸蟯虫感染マウスの糞由来ゲノムDNAと、検出されたマウス大腸蟯虫リボソームDNA由来ITS-2領域のDNAのコピー数との決定係数(R
2)は0.984であり、相関関係が認められた(
図5B参照)。この結果は、エタノール沈殿処理によりマウス大腸蟯虫感染マウスの糞由来ゲノムDNAを含む糞試料を調製し、本件プライマーセット及び本件プローブを用いたTaqManプローブアッセイを行うと、マウス大腸蟯虫感染マウスの糞中のマウス大腸蟯虫ゲノムDNAを定量的に検出できることを示している。
【0064】
[エタノール沈殿処理により得られた糞試料を用いた定量PCR]
次に、マウス大腸蟯虫感染が不明なマウスを8種類のケージ(#1~8)で飼育し、これらケージ内の糞からエタノール沈殿処理により糞試料を調製し、本件プライマーセット及び本件プローブを用いたTaqManプローブアッセイを行った。その結果、2種類のケージ(#7及び#8)で飼育したマウス由来の糞試料から、マウス大腸蟯虫リボソームDNA由来ITS-2領域のDNAが検出された(
図6A及びB参照)。一方、残りの6種類のケージ(#1~6)で飼育したマウスの糞試料からは、マウス大腸蟯虫リボソームDNA由来ITS-2領域のDNAは検出されなかった(
図6A及びB参照)。さらに、位相差顕微鏡を用いて、結腸内容物及び糞を直接観察した結果、マウス大腸蟯虫リボソームDNA由来ITS-2領域のDNAが検出されたマウス(ケージ#8で飼育したマウス)の結腸には、マウス大腸蟯虫の個体(成虫)が認められ(
図6Ca参照)、糞にはマウス大腸蟯虫の卵も観察された(
図6Cb参照)。一方、マウス大腸蟯虫リボソームDNA由来ITS-2領域のDNAが検出されなかったマウス(ケージ#1~6で飼育したマウス)の結腸及び糞からは、マウス大腸蟯虫の個体や卵は認められなかった。以上の結果から、マウスの糞からアルコール(例えば、エタノール)沈殿処理により糞試料を調製し、本件プライマーセット及び本件プローブを用いたTaqManプローブアッセイを行うと、比較的簡便にマウス由来の糞試料を調製できるとともに、当該糞試料中に含まれるマウス大腸蟯虫由来のゲノムDNAを感度よく検出できることを示している。