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特開2022-156981ピーニング用補助具およびピーニング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156981
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】ピーニング用補助具およびピーニング方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 31/00 20060101AFI20221006BHJP
   B23K 23/00 20060101ALI20221006BHJP
   H01R 4/64 20060101ALI20221006BHJP
   H01R 4/02 20060101ALI20221006BHJP
   B23K 101/26 20060101ALN20221006BHJP
【FI】
B23K31/00 F
B23K23/00 A
H01R4/64 G
H01R4/02 C
B23K101:26
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060948
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000117010
【氏名又は名称】古河電工パワーシステムズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】栗山 卓也
【テーマコード(参考)】
5E085
【Fターム(参考)】
5E085BB01
5E085BB11
5E085CC03
5E085DD03
5E085EE11
5E085HH11
5E085JJ38
(57)【要約】
【課題】ピーニング形成治具を、少なくとも溶接部の輪郭に沿った所定のピーニング領域に正確かつ簡便に案内することができ、加えて、金属母材の表面における溶接部の輪郭周りの残留応力を減じて疲労強度の低下を抑制する。
【解決手段】ピーニング用補助具1は、金属母材2と、線材31、および線材31の先端に取り付けられた金属端子32を有する端子付き線材3と、端子付き線材3の金属端子32の少なくとも先端側を、金属母材2の表面21にテルミット溶接法を用いて溶接することによって形成される溶接部4とを備える線材接合体5を取り囲む内側輪郭62をもつ形状に形成された入江状の切欠き部61を有する板状体6で構成され、板状体6は、内側輪郭62が、線材接合体5の少なくとも溶接部4の輪郭に沿った、金属母材2の表面に形成するべき所定のピーニング領域Pにピーニング形成治具7を案内するように、金属母材2の表面に着脱可能に取り付けられる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属母材と、
線材、および前記線材の先端に取り付けられた金属端子を有する端子付き線材と、
前記端子付き線材の前記金属端子の少なくとも先端側を、前記金属母材の表面にテルミット溶接法を用いて溶接することによって形成される溶接部と
を備える線材接合体を取り囲む内側輪郭をもつ形状に形成された入江状の切欠き部を有する板状体で構成され、
前記板状体は、前記内側輪郭が、前記線材接合体の少なくとも前記溶接部の輪郭に沿った、前記金属母材の表面に形成するべき所定のピーニング領域にピーニング形成治具を案内するように、前記金属母材の表面に対して着脱可能に取り付けられることを特徴とするピーニング用補助具。
【請求項2】
前記内側輪郭は、前記線材接合体の前記溶接部および前記金属端子の輪郭に沿った前記所定のピーニング領域に前記ピーニング形成治具を案内する、請求項1に記載のピーニング用補助具。
【請求項3】
前記補助具は、
前記板状体の裏面に、前記金属母材の表面に対して着脱可能に構成される取付部材を有する、請求項1または2に記載のピーニング用補助具。
【請求項4】
前記取付部材は、磁石である、請求項3に記載のピーニング用補助具。
【請求項5】
前記板状体は、互いに間隔をおいて対向して位置し、前記切欠き部の入江出入口を形成する1対の対向端部を有し、
前記1対の対向端部が、前記金属端子の基端と境界をなす前記線材の部分を挟み込める間隔で形成され、前記1対の対向端部を前記線材の部分に嵌め込むことによって、前記補助具が前記線材接合体に対して位置決め装着される、請求項1から4のいずれか1項に記載のピーニング用補助具。
【請求項6】
前記金属母材は、鉄道用レールであり、
前記線材は、前記レールに取り付けられるボンド線である、請求項1から5のいずれか1項に記載のピーニング用補助具。
【請求項7】
前記板状体は、前記補助具を前記金属母材の表面に装着した状態で見て、前記内側輪郭が、前記線材接合体の前記線材の中心線を軸として線対称になるように形成されている、請求項1から6のいずれか1項に記載のピーニング用補助具。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載のピーニング用補助具を用いて、前記線材接合体の少なくとも前記溶接部の輪郭に沿った、前記金属母材の表面に形成するべき所定のピーニング領域にピーニングするピーニング方法であって、
前記板状体の前記切欠き部が、前記線材接合体を取り囲む位置関係で、前記補助具を前記金属母材の表面に装着し、前記切欠き部の前記内側輪郭と、前記線材接合体の少なくとも前記溶接部の輪郭とで、ピーニング領域を定める溝孔を区画形成するピーニング領域画定工程と、
前記溝孔に前記ピーニング形成治具の先端を挿入した状態で、前記ピーニング形成治具への打撃と、前記溝孔により案内された前記ピーニング形成治具の移動とを繰り返すことによって、ピーニング処理を行うピーニング工程と
を含む、ピーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピーニング用補助具およびピーニング方法に関し、特に、金属母材と端子付き線材のテルミット溶接によって形成された溶接部の輪郭に沿って存在するピーニングすべき適正領域に、ピーニング形成治具を案内して、正確かつ簡便にピーニングすることができる、ピーニング用補助具およびピーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道用レールは、犬釘などの固定手段によって路盤の枕木などに固定されるとともに、延在方向に沿って並べて複数配設される。延在方向に沿って並べられたレールは、隣接するレールとの間に、熱膨張を許容するための空隙を有しているが、これらのレールは、電車などの駆動電流や制御信号の回路としても用いられるため、端子付き線材によって構成されるボンド線によって、電気的には相互に接続されることが多い。
【0003】
ここで、端子付き線材の先端に取り付けられた金属端子は、溶着金属によってレールに溶接されている。溶着金属による金属端子のレールへの溶接は、レールの敷設後に現場で行なわれる。このような溶接を行なうための工法の中でも、特にテルミット溶接法は、溶接部の導電性と接合強度が高く、かつ接合に高度な技能を必要としないことから、広く使用されている。
【0004】
テルミット溶接法は、母材の表面近傍に設けた坩堝内で、アルミニウムと酸化銅(または酸化鉄)の混合粉に点火して、その化学反応によって生じた熱によって銅(または鉄)を溶融して溶着を行なう方法である。
【0005】
このテルミット溶接法は、簡便に高強度を実現できる溶接方法であるが、溶接部が位置するレール表面の近傍領域に、溶接時の加熱および冷却による引張残留応力が残存することで、疲労強度が低下してレールにクラックが発生する場合がある。そのため、通常は、テルミット溶接後に、ハンマーなどのピーニング形成治具で溶接部周りの近傍領域を打撃して、レール表面を凹状に塑性変形させ、その変形に伴って生じる圧縮残留応力によって、溶接時の引張残留応力を相殺することで、溶接による疲労強度の低下を抑制する、いわゆるハンマーピーニング処理が行なわれる。
【0006】
例えば、特許文献1には、レールなどの母材に溶着金属を溶接する工程と、母材の表面であって溶着金属の周縁部の近傍を、ピーニング形成治具を用いて凹状に塑性変形させる工程とを含む、母材への溶着金属の溶接方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-346771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載されるハンマーピーニング処理は、作業者が、ピーニング形成治具を用いてレール表面における溶接部の輪郭周りのピーニングすべき領域を打撃して塑性変形させる場合、ピーニング形成治具をピーニングすべき領域に案内する治具等が存在しないため、ピーニングすべき領域内を正確に打撃して塑性変形させることができないことがある。また、ハンマーピーニング処理では、溶接部と母材表面の境界にピーニング形成治具を打ち込むことは、溶接部を損傷させる恐れがあるため、ピーニングすべき領域内を正確に打撃することが必要とされる。一方、溶接部と母材表面の境界から必要以上に離れた位置をピーニング形成治具で塑性変形させても、ハンマーピーニング処理による残留応力の十分な除去効果が得られない。よって、熟練レベルの作業者でないと、ハンマーピーニング処理による残留応力の除去効果は安定して得られないため、熟練レベルではない作業者であっても、ピーニング形成治具を用いて、レール表面における溶接部の輪郭周りのピーニングすべき領域に、正確かつ簡便に打撃して塑性変形させることが可能なピーニング方法を開発することが望ましい。
【0009】
本発明の目的は、ピーニング形成治具を、少なくとも溶接部の輪郭に沿った、金属母材の表面に形成するべき所定のピーニング領域に正確かつ簡便に案内することができ、加えて、金属母材の表面における溶接部の輪郭周りの残留応力を有効に減じて疲労強度の低下を抑制した、ピーニング用補助具およびピーニング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、金属母材に端子付き線材が溶接されてなる線材接合体のうち、少なくとも溶接部の周囲を、板状体の入江状の切欠き部によって取り囲み、この切欠き部の内側輪郭と、線材接合体の少なくとも溶接部の輪郭とによって形成されるピーニング領域にピーニング形成治具を案内することで、金属母材の表面のうち少なくとも溶接部の輪郭に沿った所定の位置に、ピーニングを行うことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
(1)金属母材と、線材、および前記線材の先端に取り付けられた金属端子を有する端子付き線材と、前記端子付き線材の前記金属端子の少なくとも先端側を、前記金属母材の表面にテルミット溶接法を用いて溶接することによって形成される溶接部とを備える線材接合体を取り囲む内側輪郭をもつ形状に形成された入江状の切欠き部を有する板状体で構成され、前記板状体は、前記内側輪郭が、前記線材接合体の少なくとも前記溶接部の輪郭に沿った、前記金属母材の表面に形成するべき所定のピーニング領域にピーニング形成治具を案内するように、前記金属母材の表面に対して着脱可能に取り付けられることを特徴とするピーニング用補助具。
(2)前記内側輪郭は、前記線材接合体の前記溶接部および前記金属端子の輪郭に沿った前記所定のピーニング領域に前記ピーニング形成治具を案内する、上記(1)に記載のピーニング用補助具。
(3)前記補助具は、前記板状体の裏面に、前記金属母材の表面に対して着脱可能に構成される取付部材を有する、上記(1)または(2)に記載のピーニング用補助具。
(4)前記取付部材は、磁石である、上記(3)に記載のピーニング用補助具。
(5)前記板状体は、互いに間隔をおいて対向して位置し、前記切欠き部の入江出入口を形成する1対の対向端部を有し、前記1対の対向端部が、前記金属端子の基端と境界をなす前記線材の部分を挟み込める間隔で形成され、前記1対の対向端部を前記線材の部分に嵌め込むことによって、前記補助具が前記線材接合体に対して位置決め装着される、上記(1)から(4)のいずれか1項に記載のピーニング用補助具。
(6)前記金属母材は、鉄道用レールであり、前記線材は、前記レールに取り付けられるボンド線である、上記(1)から(5)のいずれか1項に記載のピーニング用補助具。
(7)前記板状体は、前記補助具を前記金属母材の表面に装着した状態で見て、前記内側輪郭が、前記線材接合体の前記線材の中心線を軸として線対称になるように形成されている、上記(1)から(6)のいずれか1項に記載のピーニング用補助具。
(8)上記(1)から(7)のいずれか1項に記載のピーニング用補助具を用いて、前記線材接合体の少なくとも前記溶接部の輪郭に沿った、前記金属母材の表面に形成するべき所定のピーニング領域にピーニングするピーニング方法であって、前記板状体の前記切欠き部が、前記線材接合体を取り囲む位置関係で、前記補助具を前記金属母材の表面に装着し、前記切欠き部の前記内側輪郭と、前記線材接合体の少なくとも前記溶接部の輪郭とで、ピーニング領域を定める溝孔を区画形成するピーニング領域画定工程と、前記溝孔に前記ピーニング形成治具の先端を挿入した状態で、前記ピーニング形成治具への打撃と、前記溝孔により案内された前記ピーニング形成治具の移動とを繰り返すことによって、ピーニング処理を行うピーニング工程とを含む、ピーニング方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ピーニング形成治具を、少なくとも溶接部の輪郭に沿った、金属母材の表面に形成するべき所定のピーニング領域に正確かつ簡便に案内することができ、加えて、金属母材の表面における溶接部の輪郭周りの残留応力を有効に減じて疲労強度の低下を抑制した、ピーニング用補助具およびピーニング方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の一の実施形態のピーニング用補助具の斜視図であって、金属母材(鉄道レール)の表面に溶接された線材接合体の溶接部の周りに補助具を装着し、補助具を構成する板状体の切欠き部内にピーニング形成治具の先端を挿入しピーニングを行う状態を示す。
図2図2は、図1に示す状態から、ピーニング用補助具およびピーニング形成治具を取り除いて示したときの斜視図である。
図3図3は、図1のピーニング用補助具を示したものであって、図3(a)が上面図、図3(b)が右側面図、図3(c)が底面図である。
図4図4は、他の実施形態のピーニング用補助具を、鉄道用レールの頭部側面に取り付けられた線材接合体を取り囲むように設けた状態を示す斜視図である。
図5図5は、他の実施形態のピーニング用補助具を、ピーニング用補助具の板状体の切欠き部を、鉄道用レールの底部上面に取り付けられた線材接合体を取り囲むように設けた状態を示す斜視図である。
図6図6は、本発明に従うピーニング方法における工程を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0015】
<ピーニング用補助具について>
図1は、本発明の一の実施形態のピーニング用補助具の斜視図であって、金属母材(鉄道レール)の表面に溶接された線材接合体の溶接部の周りに補助具を装着し、補助具を構成する板状体の切欠き部内にピーニング形成治具の先端を挿入しピーニングを行う状態を示す。また、図2は、図1に示す状態から、ピーニング用補助具およびピーニング形成治具を取り除いて示したときの斜視図である。また、図3は、図1のピーニング用補助具を示したものであって、図3(a)が上面図、図3(b)が右側面図、図3(c)が底面図である。
【0016】
ピーニング用補助具1は、図1に示すように、金属母材2と、線材31、および線材31の先端に取り付けられた金属端子32を有する端子付き線材3と、端子付き線材3の金属端子32の少なくとも先端側を、金属母材2の表面21にテルミット溶接法を用いて溶接することによって形成される溶接部4とを備える線材接合体5を取り囲む内側輪郭62をもつ形状に形成された入江状の切欠き部61を有する板状体6で構成され、板状体6は、内側輪郭62が、線材接合体5の少なくとも溶接部4の輪郭に沿った、金属母材2の表面に形成するべき所定のピーニング領域Pにピーニング形成治具7を案内するように、金属母材2の表面に対して着脱可能に取り付けられる。
【0017】
これにより、金属母材2の表面21のうち、溶接部4の輪郭の近傍などの所定のピーニング領域Pの周囲を、図3(a)に示されるピーニング用補助具1の板状体6の入江状の切欠き部61が取り囲むことで、この切欠き部61の内側輪郭62に沿って形成されるピーニング領域Pに、ピーニング形成治具7を案内することが可能になる。その結果、ピーニング形成治具を、所定のピーニング領域Pに正確かつ簡便に案内することができ、ひいては、金属母材2の表面21における溶接部4の輪郭周りの残留応力を有効に減じて、疲労強度の低下を抑制することが可能な、ピーニング用補助具およびピーニング方法を提供することができる。
【0018】
ピーニング用補助具1は、図3(a)に示すように、線材接合体5を取り囲む内側輪郭62をもつ形状に形成された、入江状の切欠き部61を有する板状体6で構成される。
【0019】
ここで、ピーニング用補助具1を取り付ける線材接合体5としては、図2に示すような、金属母材2、端子付き線材3および溶接部4を備えたものを挙げることができる。このうち、端子付き線材3としては、線材31と、線材31の先端に取り付けられた金属端子32とを少なくとも有するものを挙げることができる。また、溶接部4としては、端子付き線材3の先端部にある金属端子32の少なくとも先端側を、金属母材2の表面にテルミット溶接法を用いて溶接することによって形成したものを挙げることができる。
【0020】
ピーニング用補助具1の板状体6は、図1に示すように、金属母材2の表面21に対して着脱可能に取り付けられる。これにより、板状体6は、入江状の切欠き部61の内側輪郭62によって、金属母材2、端子付き線材3および溶接部4を備える線材接合体5の周囲を囲むようにして、金属母材2の表面21に取り付けることができる。
【0021】
ここで、板状体6は、切欠き部61の内側輪郭62が、線材接合体5の少なくとも溶接部4の輪郭に沿った、金属母材2の表面に形成するべき所定のピーニング領域Pにピーニング形成治具7を案内するように構成される。特に、この内側輪郭62は、線材接合体5の溶接部4および金属端子32の輪郭に沿った所定のピーニング領域Pに、ピーニング形成治具7を案内するように構成されることが好ましい。これにより、ピーニング形成治具7が、金属母材2にテルミット溶接されている線材接合体5の溶接部4などの輪郭に沿って形成される、ピーニング領域Pに案内される。そのため、少なくとも溶接部4の輪郭の周囲、より好ましくは線材接合体5のうち溶接部4および金属端子32の輪郭の周囲にある適正な位置で、正確かつ簡便にピーニングを行うことができる。
【0022】
板状体6は、互いに間隔dをおいて対向して位置し、切欠き部61の入江出入口を形成する、1対の対向端部63a、63bを有することが好ましい。このとき、1対の対向端部63a、63bが、金属端子32の基端と境界をなす線材31の部分を挟み込める間隔dをおいて形成され、1対の対向端部63a、63bを線材31の部分に嵌め込むことによって、ピーニング用補助具1が線材接合体5に対して位置決め装着されることが好ましい。これにより、対向端部63a、63bに端子付き線材3の線材31が挟まれることで、板状体6の切欠き部61の入江出入口が線材31の延在方向とほぼ重なった状態で、ピーニング用補助具1が線材31の部分に嵌め込まれるため、ピーニング用補助具1をより正確に位置決めすることができる。
【0023】
1対の対向端部63a、63bが対向する間隔dは、線材31を挟みやすくする観点から、線材31の太さよりも広いことが好ましい。また、1対の対向端部63a、63bが両端となる入江状の切欠き部61は、ピーニング用補助具1の線材接合体5への位置決め装着を確実に行う観点から、金属端子32が対向端部63a、63bよりも入江側に収まることが好ましい。
【0024】
他方で、板状体6は、図3(a)に示すように、ピーニング用補助具1を金属母材2の表面21に装着した状態で見たときに、切欠き部61の内側輪郭62が、線材接合体5の線材31の中心線Cを軸として、線対称になるように形成されていることが好ましい。これにより、ピーニング用補助具1の上下または左右を反転させたときに、反対側に向かって延在する線材31のピーニングを、反転前と同じ要領で行うことができるため、ピーニングにおける作業性をより一層高めることができる。
【0025】
板状体6の材質は、特に限定されるものではないが、ピーニングを行う際における、ピーニング形成治具7の摺動による板状体6の破損や摩耗を低減する観点から、鋼製などの金属製であることが好ましい。また、板状体6の切欠き部61の内側輪郭62の大きさは、線材接合体5を取り囲むことができ、かつピーニング形成治具7を線材接合体5との隙間に挿入可能な大きさであることが好ましい。より具体的には、切欠き部61の内側輪郭62は、線材接合体5との間に、7mm以上12mm以下の隙間を形成する大きさであることが好ましい。
【0026】
ピーニング用補助具1は、板状体6の裏面に、金属母材2の表面に対して着脱可能に構成される取付部材8を有することが好ましい。これにより、ピーニング用補助具1と金属母材2の位置関係を、取付部材8によって固定することが可能になるため、ピーニング形成治具7をより正確かつ簡便に案内することができる。
【0027】
ここで、取付部材8は、着脱が容易であり、かつ鉄道用レールに対して付着することが可能である観点から、磁石を備えることが好ましい。特に、取付部材8が磁石を備える場合、ピーニングを行う際における、ピーニング形成治具7の摺動による磁石の破損を防ぐとともに、金属母材2の表面に対する付着性を維持する観点から、磁石の外周が鋼製などの金属製のカバーで覆われた取付部材8を用いることがより好ましい。なお、取付部材8は、粘着材などの他の材料によって構成されていてもよい。
【0028】
また、取付部材8は、金属母材2の表面に対する固定力を高める観点から、板状体6の角部のうち少なくともいずれかに設けられることが好ましく、板状体6のすべての角部に設けられることがより好ましい。
【0029】
取付部材8は、図3(a)~(c)に示すように、ねじ留めによって板状体6に取り付けられていてもよいが、他の手段によって板状体6に取り付けられていてもよい。
【0030】
ピーニング用補助具1が取り付けられる金属母材2は、鉄道用レールであることが好ましい。すなわち、金属母材2は、電車や列車の走行面を構成するレールであることが好ましい。このようなレールは、電車などからの帰線電流や、信号電流を流す回路としても用いられるため、地中設備の電食や漏れ電流をなくす観点などからも、隣接するレールの間を電気的に接続するレールボンドや、レールと外部の信号回路などを電気的に接続する送着ボンドが設けられることが多い。本実施形態のピーニング用補助具1は、端子付き線材3の線材32としてレールボンドや送着ボンドなどのボンド線が溶接により取り付けられた、鉄道用レールのピーニングに、好適に用いることができる。なお、本明細書における「レール」には、電車や列車の進路を分岐する分岐器が含まれる。
【0031】
なお、上述の実施形態では、ピーニング用補助具1の板状体6の切欠き部61を、金属母材2である鉄道用レールの腹部の表面に取り付けられた線材接合体5を取り囲むように設けた場合を示したが、かかる構成だけには限定されない。例えば、図4に示すように、ピーニング用補助具1の板状体6の切欠き部61を、鉄道用レールの頭部側面のうち、電車や列車の走行面を構成しない部分に取り付けられた、線材接合体5を取り囲むように設けてもよい。また、図5に示すように、ピーニング用補助具1の板状体6の切欠き部61を、鉄道用レールの底部上面に取り付けられた、線材接合体5を取り囲むように設けてもよい。
【0032】
<ピーニング方法について>
図6は、本発明に従うピーニング方法における工程を示すフロー図である。本発明のピーニング方法は、上述のピーニング用補助具1を用いて、線材接合体5の少なくとも溶接部4の輪郭に沿った、金属母材2の表面21に形成するべき所定のピーニング領域Pにピーニングするピーニング方法である。より具体的には、板状体6の切欠き部61が、線材接合体5を取り囲む位置関係で、ピーニング用補助具1を金属母材2の表面に装着し、切欠き部61の内側輪郭62と、線材接合体5の少なくとも溶接部4の輪郭形状とで、ピーニング領域Pを定める溝孔を区画形成するピーニング領域画定工程(ST1)と、溝孔にピーニング形成治具7の先端を挿入した状態で、ピーニング形成治具7への打撃と、溝孔により案内されたピーニング形成治具7の移動とを繰り返すことによって、ピーニング処理を行うピーニング工程(ST2)とを備える。
【0033】
このようなピーニング方法によることで、ピーニング領域画定工程(ST1)によって、線材接合体5の近傍などの所定の領域にピーニング領域Pが形成された後、ピーニング工程(ST2)によって、ピーニング形成治具7によるピーニング領域Pでのピーニング処理が行われる。その結果、ピーニング形成治具7を所定のピーニング領域Pに正確かつ簡便に案内することができるため、金属母材2の表面におけるテルミット溶接部の輪郭周りの残留応力を減じて、疲労強度の低下を抑制することができる。
【0034】
ピーニング方法に用いられる線材接合体5としては、金属母材2の表面21に、端子付き線材3の金属端子32の少なくとも先端側を、テルミット溶接法を用いて溶接したものを用いることができる。ここで、テルミット溶接法としては、金属母材2の表面21の近傍に設けた坩堝内で、アルミニウムと酸化銅(または酸化鉄)の混合粉に点火して、その化学反応によって生じた熱によって溶融した銅(または鉄)を用いて、金属母材2の表面21と、端子付き線材3の先端側の表面とを溶着する方法が挙げられる。このようなテルミット溶接法によって溶接された線材接合体5は、溶接によって形成される溶接部4の近傍に、溶接時の加熱および冷却による引張残留応力が残存しやすい。
【0035】
ピーニング領域画定工程(ST1)は、この線材接合体5の金属母材2の表面に、ピーニング用補助具1を装着する。より具体的に、ピーニング領域画定工程(ST1)は、板状体6の切欠き部61が、線材接合体5を取り囲む位置関係で、ピーニング用補助具1を金属母材2の表面に装着し、切欠き部61の内側輪郭62と、線材接合体5の少なくとも溶接部4の輪郭形状とで、ピーニング領域Pを定める溝孔を区画形成する。これにより、切欠き部61の内側輪郭62と、線材接合体5の少なくとも溶接部4の輪郭形状とによって挟まれた溝孔の領域が、ピーニング領域Pとして区画形成されるため、ピーニング形成治具7の先端を、このピーニング領域Pに沿って案内することができる。
【0036】
次いで行われるピーニング工程(ST2)は、溝孔にピーニング形成治具7の先端を挿入した状態で、ピーニング処理を行う。ここで、ピーニング処理は、ピーニング形成治具7の打撃と、ピーニング領域Pにおいて溝孔により案内されたピーニング形成治具7の移動とを繰り返すことによって行うことができる。これにより、ピーニング領域Pに沿って先端位置が案内されたピーニング形成治具7によってピーニング処理が行なわれるため、金属母材2の表面21における溶接部4の輪郭周りの残留応力を減じて、疲労強度の低下を抑制することができる。
【0037】
なお、ピーニング処理の具体的な方法としては、ハンマーなどのピーニング形成治具で溶接部の近傍を打撃して母材を凹状に塑性変形させるハンマーピーニング処理を行うことが好ましいが、ピーニング形成治具7を用いた方法であれば、これに限定されない。
【0038】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 ピーニング用補助具
2 金属母材
21 金属母材の表面
3 端子付き線材
31 線材
32 金属端子
4 溶接部
5 線材接合体
6 板状体
61 切欠き部
62 切欠き部の内側輪郭
63a、63b 対向端部
7 ピーニング形成治具
8 取付部材
9 ピーニング方法
d 対向端部の間隔
C 線材の中心線
P ピーニング領域
ST1 ピーニング領域画定工程
ST2 ピーニング工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6