(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156982
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】流動材の凝集抑制剤及び凝集抑制方法
(51)【国際特許分類】
F23C 10/02 20060101AFI20221006BHJP
F23C 10/01 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
F23C10/02
F23C10/01 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060951
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000154727
【氏名又は名称】株式会社片山化学工業研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】村上 誠
【テーマコード(参考)】
3K064
【Fターム(参考)】
3K064AB01
3K064AD05
3K064AF02
3K064BB01
3K064BB09
(57)【要約】
【課題】流動床ボイラにおける流動材の凝集の抑制効果を向上できる凝集抑制剤、凝集抑制方法を提供することを課題とする。
【解決手段】流動床ボイラ内の流動材の凝集を抑制する凝集抑制剤であって、リン酸塩を含み、リン酸塩がリン酸カルシウム及び/又はリン酸マグネシウムであることを特徴とする前記流動材の凝集抑制剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動床ボイラ内の流動材の凝集を抑制する凝集抑制剤であって、
リン酸塩を含み、
前記リン酸塩が、リン酸カルシウム及び/又はリン酸マグネシウムである
ことを特徴とする前記流動材の凝集抑制剤。
【請求項2】
さらに、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム及び水酸化マグネシウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む請求項1に記載の凝集抑制剤。
【請求項3】
凝集抑制剤におけるリン酸塩の含有量が5~100重量%である請求項1又は2に記載の凝集抑制剤。
【請求項4】
流動材は、低融点物質が付着した流動材を含む請求項1、2又は3に記載の凝集抑制剤。
【請求項5】
流動床ボイラ内の流動材の凝集を抑制する凝集抑制方法であって、
請求項1、2、3又は4に記載の流動材の凝集抑制剤を、流動材に添加することを特徴とする凝集抑制方法。
【請求項6】
流動床ボイラ内の流動材に対する凝集抑制剤の添加量が、0.1重量%以上である請求項5に記載の凝集抑制方法。
【請求項7】
流動床ボイラ内の流動材に対するリン酸塩の添加量が0.1重量%以上となるように凝集抑制剤を添加する請求項5又は6に記載の凝集抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動床ボイラ内の流動材の凝集を抑制する凝集抑制剤及び凝集抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、木質チップ、建築発生木材(オガ粉、樹皮、端材、背板等の残廃材、建築廃材、解体材など)、雑古紙、農産物残さ、林地残材等のバイオマスをガス化し、燃料等として使用することが行われている。この場合、ガス化炉として、流動床式や固定床式のものが広く用いられている。ガス化炉の中でも流動床ボイラ(バブリング流動床(BFBボイラ)や循環流動層(CFBボイラ))は、砂等の流動材の下部から加圧された空気を分散供給して、蓄熱した流動材を流動させ、その中でバイオマス燃料を燃焼させている。バイオマス燃料によっては低融点の化合物を生じさせるものがあり、このような低融点物質は、流動材の表面に付着して、流動材を凝集させ凝集塊が生じるという問題があった。流動材の凝集は、流動不良を引き起こす原因となるため、一般的には、流動床ボイラに含まれる一定量の流動材の一部を定期的に入れ替え、流動材中の凝集が増加し、流動不良を生じないような対応がとられている。
【0003】
また、特許文献1及び2に記載のように、流動床ボイラ内の流動材に融点調整物質を添加することにより、流動材表面の融点を上昇させ、流動材の凝集を抑制し、流動不良を生じないような対応がとられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6654127号公報
【特許文献2】特開2008-81638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
流動床ボイラにおける流動材の凝集を抑制するために添加される融点調整物質については、流動材の凝集の抑制効果を向上するよう、さらなる検討が求められていた。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、流動床ボイラにおける流動材の凝集の抑制効果を向上できる凝集抑制剤、凝集抑制方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、凝集抑制剤として、リン酸塩を流動材に含有させることで、流動床ボイラにおける流動材の凝集を効果的に抑制できるという事実を見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、流動床ボイラ内の流動材の凝集を抑制する凝集抑制剤であって、リン酸塩を含み、上記リン酸塩が、リン酸カルシウム及び/又はリン酸マグネシウムであることを特徴とする上記流動材の凝集抑制剤である。
また、本発明の凝集抑制剤は、さらに、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム及び水酸化マグネシウムからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
また、本発明の凝集抑制剤は、上記凝集抑制剤におけるリン酸塩の含有量が5~100重量%であることが好ましい。
また、上記流動材は、低融点物質が付着した流動材を含むことが好ましい。
【0009】
また、本発明は、流動床ボイラ内の流動材の凝集を抑制する凝集抑制方法であって、本発明の流動材の凝集抑制剤を、流動材に添加することを特徴とする凝集抑制方法でもある。
本発明の凝集抑制方法は、流動床ボイラ内の流動材に対する凝集抑制剤の添加量が、0.1重量%以上であることが好ましい。
また、本発明の凝集抑制方法は、流動床ボイラ内の流動材に対するリン酸塩の添加量が0.1重量%以上となるように凝集抑制剤を添加することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、流動床ボイラ内の流動材の凝集を効果的に抑制することができる。
すなわち、本発明によれば、流動床ボイラ内の流動不良を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明における流動床ボイラが、バブリング流動床(BFB)である場合の一実施形態を示す模式図である。
【
図2】本発明における流動床ボイラが、循環流動層(CFB)である場合の一実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではない。
【0013】
本発明は、流動床ボイラ内の流動材の凝集を抑制する凝集抑制剤であって、リン酸塩を含み、上記リン酸塩が、リン酸カルシウム及び/又はリン酸マグネシウムであることを特徴とする上記流動材の凝集抑制剤である。また、本発明は、流動床ボイラ内の流動材の凝集を抑制する凝集抑制方法であって、本発明の流動材の凝集抑制剤を、流動材に添加することを特徴とする凝集抑制方法でもある。
【0014】
本発明にかかる流動材の凝集抑制剤及び凝集抑制方法によれば、リン酸塩(リン酸カルシウム及び/又はリン酸マグネシウム)を含む凝集抑制剤を流動材に添加することで、流動床ボイラ内での流動材の凝集を抑制することができる。流動材の凝集塊は、バイオマスの燃焼により生成された酸化カリウム(K2O)等の低融点物質がバイオマス燃焼後の灰中に残存し、低融点物質が流動材の表面に付着しバインダーとなり、凝集塊を形成する。従来、高融点物質を流動材に添加することにより、流動材の表面の融点を高融点化し、凝集を抑制することが提案されている。しかし、高融点物質として添加されているのは、酸化カルシウム等の酸化物や炭酸カルシウム等の炭酸塩であり、リン酸塩を用いた流動材の高融点化については実際に検討されてこなかった。本発明では、高融点物質としてリン酸塩であるリン酸カルシウム及び/又はリン酸マグネシウムを含む凝集抑制剤について、流動材に対する優れた凝集抑制効果を見出し、完成されたものである。
【0015】
なお、流動材の凝集抑制剤として従来から用いられている、酸化カルシウム等の酸化物、炭酸カルシウム等の炭酸塩等の高融点物質は、流動床ボイラ内でその組成が変化し、流動材の表面に付着した低融点物質と反応することにより流動材の表面を高融点化すると考えられている。また、水酸化カルシウム等の水酸化物は、ボイラ内で高温にさらされることによって酸化カルシウム等に脱水されるため、高融点物質として一般的に使用されている。
一方、本発明に係る流動材の凝集抑制剤及び凝集抑制方法によれば、リン酸塩を含む凝集抑制剤を流動材に添加することで、流動床ボイラ内で流動材の全部または一部の表面がリン酸塩で被覆されることにより流動材の表面が高融点化し、凝集が抑制される。
【0016】
リン酸カルシウムは、一般的にリン酸三カルシウムを指し、その融点は1670℃であるが、リン酸三カルシウムが吸水して生成する水酸化リン酸カルシウムも含む。また、リン酸マグネシウムは、いくつかの水和物が存在するが、リン酸三マグネシウム4水和物の融点は、1184℃である。
【0017】
なお、流動材としては、例えば珪砂、川砂やセラミックの砂等、一般的に用いられる材料を使用することができる。流動材に用いられる砂の成分としては、例えば、Si、Al、Fe、Ca、K、Mg、P、Mn等が含まれており、主にシリカを10~99重量%含む。
【0018】
本発明の凝集抑制方法において、本発明の凝集抑制剤を流動材に添加する工程は、流動床ボイラ内の流動材に対し本発明の凝集抑制剤が含有されるように添加されていればよく、流動床ボイラ内の流動材に本発明の凝集抑制剤を添加してもよく、流動床ボイラに導入される前の流動材に本発明の凝集抑制剤を添加してもよい。
【0019】
本発明にかかる凝集抑制剤及び凝集抑制方法によれば、上述の通り流動材の凝集を抑制することができるが、特に、低融点物質が付着した流動材の凝集を効果的に抑制することができる。よって、本発明の凝集抑制剤及び凝集抑制方法は、低融点物質が付着した流動材を含む流動材の凝集抑制に使用されることが好ましい。なお、低融点物質とは、融点が1000℃程度までの物質であり、例えば、K2O等である。なお、低融点物質が付着している流動材は、低融点物質が付着していない流動材(新砂等)と比較し、シリカ含有率が減少する。低融点物質が付着した流動材のシリカ含有率は、例えば、10~50重量%になる場合がある。
一般的に流動床ボイラ内の流動材は、定期的に新しい流動材(新砂等)を追加し、また、定期的に流動材の一部を抜き取っている。そのため、流動床ボイラ内の流動材は、低融点物質が付着した流動材と、低融点物質が付着していない流動材とが混在している。
【0020】
低融点物質が付着した流動材は、低融点物質が付着していない流動材と比較し、粒径が大きく、かさ比重(g/L)が下がる。また、低融点物質が付着した流動材は、低融点物質が付着していない流動材と比較し、主成分の構成比も減少する。本発明の凝集抑制剤、凝集抑制方法が使用される流動床ボイラ内に含まれる低融点物質が付着した流動材は、低融点物質が付着していない流動材と比較し、主成分の構成比が、0.98~0.20倍であることが好ましく、0.98~0.30倍であることがより好ましく、0.98~0.50倍であることがさらに好ましい。
なお、流動材の主成分とは、低融点物質が付着していない流動材における主成分である。例えば、流動材が硅砂の場合、主成分は二酸化ケイ素である。
【0021】
また、本発明にかかる凝集抑制剤及び凝集抑制方法によれば、上述の通り流動材の凝集を抑制することができる。そのため、例えば低融点物質が付着する前の流動材(例えば、流動床ボイラ内に導入される前の新しい流動材)に本発明の凝集抑制剤を添加してもよい。低融点物質が付着する前の流動材と本発明の凝集抑制剤とが流動床ボイラ内で加熱されると、本発明の凝集抑制剤に含まれるリン酸塩で一部又は全部が被覆された流動材が生じ、その後、流動床ボイラ内で使用されている間に低融点物質と接触しても流動床ボイラ内での流動材の凝集が生じにくくなり、結果的に流動床ボイラ内での流動材の凝集を抑制できるためである。よって、本発明の凝集抑制剤及び凝集抑制方法は、低融点物質が付着していない流動材に使用されてもよい。
【0022】
本発明の凝集抑制剤は、さらに、リン酸塩ではない高融点物質を含んでもよく、例えば、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム及び水酸化マグネシウム等が挙げられる。本発明の凝集抑制剤に含まれるリン酸塩は、他の高融点物質と併用される場合にも効果的な流動材の凝集抑制効果を有するためである。なお、本明細書において、高融点物質とは融点が1000℃を超える物質、及び、加熱により融点が1000℃を超える化合物を生じる物質である。
本発明の凝集抑制剤としてリン酸塩ではない高融点物質が含まれる場合、該高融点物質は、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム及び水酸化マグネシウムからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0023】
本発明の凝集抑制剤が、さらに、リン酸塩ではない高融点物質を含む場合、凝集抑制剤におけるリン酸塩と高融点物質(リン酸塩を除く)との含有比は、100:1~1:100であることが好ましく、99:1~10:90であることがより好ましい。
【0024】
また、本発明の凝集抑制剤は、該凝集抑制剤におけるリン酸塩の含有量が5~100重量%であることが好ましい。流動材の凝集抑制剤におけるリン酸塩の含有量が5重量%以上であることで、流動床ボイラ内の流動材の凝集を効果的に抑制することができる。特に、低融点物質が付着した流動材の凝集を効果的に抑制することができ、低融点物質が付着した流動材を含む流動材の凝集を効果的に抑制することができる。
【0025】
本発明の凝集抑制剤の形態は特に限定されないが、固体であることが好ましく、粒状体や粉体であることがより好ましい。凝集抑制剤の形態が液体であると、流動床ボイラ内の流動材の凝集を招く可能性があり、また、固体であっても粒径の大きな塊状体であると、流動材と充分に混合しない可能性があるためである。
【0026】
また、本発明の流動材の凝集抑制方法において、流動床ボイラ内の流動材に対する凝集抑制剤の添加量は、該流動材の種類や状態により適宜選択することができる。例えば、流動床ボイラ内の流動材に対する凝集抑制剤の添加量が0.1重量%以上であることが好ましい。流動床ボイラ内の流動材の凝集を効果的に抑制することができ、低融点物質が付着した流動材を含む流動材の凝集を効果的に抑制することができるためである。流動床ボイラ内の流動材に対する凝集抑制剤の添加量は、0.2重量%以上であることが好ましく、0.5重量%以上であることがより好ましく、1.0重量%以上であることがさらに好ましい。また、流動床ボイラ内の流動材に対する凝集抑制剤の添加量は、50重量%以下であることが好ましく、30重量%以下であることがより好ましく、10重量%以下であることがさらに好ましい。なお、本発明の方法において、流動床ボイラ内の流動材に対する凝集抑制剤の添加量の上記下限及び上限は適宜組み合わせることができる。
【0027】
また、本発明の凝集抑制方法において、流動床ボイラ内の流動材に対するリン酸塩の添加量は、該流動材の種類や状態により適宜選択することができる。例えば、流動床ボイラ内の流動材に対するリン酸塩(リン酸カルシウム及び/又はリン酸マグネシウム)の添加量が0.1重量%以上となるように凝集抑制剤を添加することが好ましい。流動材の凝集抑制方法において、流動床ボイラ内の流動材に対するリン酸塩(リン酸カルシウム及び/又はリン酸マグネシウム)の添加量が0.1重量%以上となることで、流動床ボイラ内の流動材の凝集を効果的に抑制することができる。特に、低融点物質が付着した流動材の凝集を効果的に抑制することができ、低融点物質が付着した流動材を含む流動材の凝集を効果的に抑制することができる。流動床ボイラ内の流動材に対するリン酸塩の添加量は、0.2重量%以上であることが好ましく、0.5重量%以上であることがより好ましく、1.0重量%以上であることがさらに好ましい。また、流動床ボイラ内の流動材に対するリン酸塩の添加量は、50重量%以下であることが好ましく、30重量%以下であることがより好ましく、10重量%以下であることがさらに好ましい。なお、本発明の方法において、流動床ボイラ内の流動材に対するリン酸塩の添加量の上記下限及び上限は適宜組み合わせることができる。
【0028】
本発明の凝集抑制剤及び凝集抑制方法は、流動床炉内の温度が1000℃未満の流動床ボイラ内の流動材の凝集抑制のために使用されることが好ましい。また、本発明の凝集抑制剤及び凝集抑制方法は、流動床炉内の温度が700℃以上1000℃未満のボイラ内の流動材の凝集抑制のために使用されることが好ましく、流動床炉内の温度が700℃以上950℃未満のボイラ内の流動材の凝集抑制のために使用されることがより好ましく、750℃以上950℃未満のボイラ内の流動材の凝集抑制のために使用されることがさらに好ましい。
【0029】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は添付図面の実施形態に限定されるものではない。
【0030】
図1は、本発明における流動床ボイラが、バブリング流動床(BFB)である場合の一実施形態を示す模式図である。
図1に示すように、バブリング流動床(BFB)10の下部に、砂等の流動材が供給される。流動材の層中に挿入されている伝熱管が発熱することで、流動材が加熱され、流動材の下部から燃焼のための燃焼空気が供給され、流動材層の上部に供給されるバイオマス燃料が燃焼し、燃焼ガスが排出される。流動材は燃焼空気の供給に伴い流動しており、流動材の一部はバブリング流動床(BFB)10の下部から定期的に排出される。本発明の流動材の凝集抑制剤は、流動材と混合するように添加されれば、どの位置に添加されてもよい。例えば、流動材が存在する層のなかで、燃焼空気導入ラインに添加されることが好ましい。流動材中に本発明の凝集抑制剤が混合されやすいためである。
【0031】
図2は、本発明における流動床ボイラが、循環流動層(CFB)である場合の一実施形態を示す模式図である。
図2に示すように、循環流動層(CFB)20の下部に、砂等の流動材(CFBにおいては循環層物質ともいう)が供給される。流動材は、導入空気の空気圧で循環流動層内を上昇し、燃焼ガスとともに流動し、サイクロンによって燃焼ガスと分離され循環流動層炉の底部に戻される。なお、サイクロンで分離された流動材は炉の底部に戻されるまでに外部熱交換器等により加熱され、循環流動層炉の下部から燃焼のための燃焼空気(一次空気)とバイオマスなどの燃料が供給され、バイオマス燃料が燃焼することで燃焼ガスが排出される。流動材は燃焼空気(一次空気及び二次空気)、及び燃焼ガスと共に流動しているが、サイクロンで燃焼ガスと分離された後の流動材の一部は循環流動層炉の下部から定期的に排出される。本発明の流動材の凝集抑制剤は、流動材と混合するように添加されれば、どの位置に添加されてもよい。例えば、燃焼空気導入ラインに添加されることが好ましい。流動材中に本発明の凝集抑制剤が混合されやすいためである。
【実施例0032】
以下、実施例を用いて本発明をさらに説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
<凝集抑制試験1>
(実施例1~2、比較例1~6)
下記手順に従い、流動材である砂1(市販品:乾燥川砂5号)、炭酸カリウム(K2CO3)を加熱凝集させることにより、流動床ボイラで生じる流動材の凝集の再現試験を行った。なお、本試験では、シリカとアルミナを含有するるつぼ(CW-B4;ニッカトー社製)を用いており、低融点物質(K2CO3)がるつぼに付着しやすい条件となっている。また、操業中の流動床ボイラのように流動材は流動しておらず、実機に比べて過酷な条件での再現試験となっている。
(i)下記表1に示すように、砂1とK2CO3をるつぼに入れ、均一となるよう攪拌した。これを、各試験例にかかるサンプルとした。各サンプルをマッフル炉に入れ、下記表1に記載の加熱温度で加熱した。なお、マッフル炉における加熱時間は、昇温30分、設定温度での加熱4時間とした。その後、600℃以下となった時点で取り出し、室温となるまで放冷した。
(ii)放冷後各サンプルの外観を観察し、次の手順で剥離率を測定した。
(iii)放冷後の各サンプルが入ったるつぼをゆっくり逆さにした。その後、ゆっくり元に戻し、るつぼ内に残ったサンプル量を測定した。また落下した砂の状態についても、外観を確認し、凝集塊の状態を確認した。剥離率は、下記式により算出した。得られた結果を下記表1に示す。
[式] 剥離率(%)={(加熱後サンプル重量)-(逆さ後のるつぼ内に残ったサンプル重量)}÷(加熱後のサンプル重量)×100
(加熱後サンプル重量)={(加熱後のサンプル重量)+(るつぼの重量)}-(るつぼの重量)
(逆さ後のるつぼ内に残ったサンプル重量)={(逆さ後のるつぼ内に残ったサンプル重量)+(るつぼの重量)}-(るつぼの重量)
【0034】
【0035】
上記表1の結果から、一般的に高融点物質として流動材の凝集抑制剤として使用されている薬剤(CaO、CaCO3)を添加し、750℃で加熱させた比較例2及び比較例3は、薬剤を添加していない比較例1と比べると剥離率は高い結果であったが、るつぼから落下した砂の一部で凝集が見られた。同薬剤を900℃で加熱させた比較例5及び比較例6は、薬剤を添加していない比較例4とほぼ同程度に凝集していることを確認した。
一方、薬剤としてリン酸カルシウムを添加した実施例1及び実施例2の結果から、温度条件に関わらず、加熱後の固化がほとんど確認されず、剥離率は、80%を超えて高い値であった。
以上より、混合砂について、リン酸カルシウムの優れた凝集抑制効果を確認した。
【0036】
<凝集抑制試験2>
(実施例3~4、比較例7~9)
上述の凝集の再現試験(凝集抑制試験1)と同様の方法により、各薬剤の凝集抑制試験を行った。ただし、流動材としての砂は、50gの上記砂1に対し2.5gのK2CO3を添加し、攪拌して900℃4時間加熱(30分間で昇温し、4時間加熱)した後、600℃以下となった時点で取り出し、室温となるまで放冷したものを粉砕し、ふるい(目開き2.36mm)にかけたものを10g量り取り、これと、10gの上記砂1とを混合した砂(混合砂)を用いた。下記手順に従い試験を行った。
(i)下記表2に示すように、混合砂と各試験用薬剤をるつぼに入れ、均一となるよう攪拌した。これを、各試験例にかかるサンプルとした。なお、比較例7におけるサンプルでは、薬剤を添加せず混合砂のみとした(Blank)。各サンプルをマッフル炉に入れ、900℃で4時間加熱した。なお、マッフル炉における加熱時間は、昇温30分、900℃での加熱4時間とした。その後、600℃以下となった時点で取り出し、室温となるまで放冷した。
(ii)放冷後各サンプルの外観を観察し、次の手順で剥離率を測定した。
(iii)放冷後の各サンプルが入ったるつぼをゆっくり逆さにした。その後、ゆっくり元に戻し、るつぼ内に残ったサンプル量を測定した。また落下した砂の状態についても、外観を確認し、凝集塊の状態を確認した。剥離率は、凝集抑制試験1と同様に求めた。得られた結果を表2に示す。
【0037】
【0038】
上記表2の結果から、一般的に高融点物質として流動材の凝集抑制剤として使用されている薬剤(CaO、CaCO3)を添加した比較例8及び比較例9は、薬剤を添加していない比較例7とほぼ同程度に固化していることを確認した。
一方、薬剤としてリン酸カルシウム、リン酸マグネシウムを添加した実施例3及び実施例4の結果から、加熱後の固化がほとんど確認されず、剥離率は、80%を超えて高い値であった。
以上より、混合砂について、リン酸カルシウム及びリン酸マグネシウムの優れた凝集抑制効果を確認した。
【0039】
<凝集抑制試験3>
(実施例5~6、比較例10~11)
上述の凝集の再現試験(凝集抑制試験1)と同様の方法により、リン酸カルシウムの凝集抑制試験を行った。ただし、流動材としての砂は、上述の砂1を20gとリン酸カルシウムを0.3gの割合で添加し、撹拌して700℃で2時間加熱(30分間で昇温し、2時間加熱)し、600℃以下となった時点で取り出し放冷させた砂(リン酸カルシウムを含有する砂)を用い、下記手順に従い試験を行った。
(i)下記表3に示すように、リン酸カルシウムを含有する砂とK2CO3をるつぼに入れ、均一となるよう攪拌した。これを、各試験例にかかるサンプルとした。なお、比較例10及び11におけるサンプルでは、前処理を行っていない砂1を用いた(Blank)。各サンプルをマッフル炉に入れ、下記表1に記載の加熱温度で4時間加熱した。なお、マッフル炉における加熱時間は、昇温30分、加熱温度での加熱4時間とした。その後、600℃以下となった時点で取り出し、室温となるまで放冷した。
(ii)放冷後各サンプルの外観を観察し、次の手順で剥離率を測定した。
(iii)放冷後の各サンプルが入ったるつぼをゆっくり逆さにした。その後、ゆっくり元に戻し、るつぼ内に残ったサンプル量を測定した。また落下した砂の状態についても、外観を確認し、凝集塊の状態を確認した。剥離率は、凝集抑制試験1と同様に求めた。得られた結果を表3に示す。
【0040】
【0041】
上記表3の結果から、リン酸カルシウムで前処理した実施例5及び実施例6では、加熱後の固化がほとんど確認されず、剥離率は、80%を超えて高い値であった。
以上より、リン酸カルシウムで流動砂を処理することで、低融点物質が後から含有されても優れた凝集抑制効果があることを確認した。一方、リン酸カルシウムで前処理をしていない比較例10及び比較例11は剥離率が低く、比較例10についてはほぼ固化していた。
【0042】
<凝集抑制試験4>
(実施例7~10、比較例12~27)
上述の凝集の再現試験(凝集抑制試験1)と同様の方法により、各薬剤の凝集抑制試験を行った。流動材としての砂は、低融点物質が付着した砂を含む砂2(某工場Aの流動床ボイラで使用された後の流動材)を20g用い、下記手順に従い試験を行った。なお、下記表4に蛍光X線を用いて砂1及び砂2を測定した結果を示す。
(i)下記表5に示すように、20gの砂2と各試験用薬剤をるつぼに入れ、均一となるよう攪拌した。これを、各試験例にかかるサンプルとした。なお、比較例12におけるサンプルでは、薬剤を添加せず砂2のみとした(Blank)。各サンプルをマッフル炉に入れ、900℃で4時間加熱した。なお、マッフル炉における加熱時間は、昇温30分、900℃での加熱4時間とした。その後、600℃以下となった時点で取り出し、室温となるまで放冷した。
(ii)放冷後各サンプルの外観を観察し、次の手順で剥離率を測定した。
(iii)放冷後の各サンプルが入ったるつぼをゆっくり逆さにした。その後、ゆっくり元に戻し、るつぼ内に残ったサンプル量を測定した。また落下した砂の状態についても、外観を確認し、凝集塊の状態を確認した。剥離率は、凝集抑制試験1と同様に求めた。得られた結果を表5に示す。
【0043】
【0044】
【0045】
上記表5の結果から、一般的に高融点物質として流動材の凝集抑制剤として使用されている薬剤(CaCO3、CaO)を添加した比較例16及び比較例18は、薬剤を添加していない比較例12よりも流動材(砂2)に対する剥離率は高いものの、剥離率が30%以下と低い値であった。また、その他の薬剤を添加した比較例13、14、15、17、19~27は、剥離率が低く、流動材(砂2)に対する凝集抑制効果が全く認められなかった。
一方、薬剤としてリン酸カルシウム、リン酸マグネシウムを添加した実施例7~10の結果から、加熱後の固化がほとんど確認されず、流動材(砂2)に対する剥離率は、80%を大きく超えた高い値であった。
以上より、砂2(某工場Aの流動床ボイラで使用された後の流動材であって、低融点物質が付着した砂を含む)についても、リン酸カルシウム及びリン酸マグネシウムの優れた凝集抑制効果を確認した。
【0046】
<凝集抑制試験5>
(実施例11~20、比較例28~36)
上述の凝集の再現試験(凝集抑制試験1)と同様の方法により、各薬剤の凝集抑制試験を行った。流動材としての砂は、上述の低融点物質が付着した砂を含む砂2(某工場Aの流動床ボイラ使用された後の流動材)を用い、下記手順に従い試験を行った。
(i)下記表6に示すように、20gの砂2と各試験用薬剤をるつぼに入れ、均一となるよう攪拌した。これを、各試験例にかかるサンプルとした。なお、比較例28におけるサンプルでは、薬剤を添加せず砂2のみとした(Blank)。各サンプルをマッフル炉に入れ、900℃で4時間加熱した。なお、マッフル炉における加熱時間は、昇温30分、900℃での加熱4時間とした。その後、600℃以下となった時点で取り出し、室温となるまで放冷した。
(ii)放冷後の各サンプルの外観を観察し、次の手順で剥離率を測定した。
(iii)放冷後の各サンプルが入ったるつぼをゆっくり逆さにした。その後、ゆっくり元に戻し、るつぼ内に残ったサンプル量を測定した。また落下した砂の状態についても、外観を確認し、凝集塊の状態を確認した。剥離率は、凝集抑制試験1と同様に求めた。得られた結果を下記表6に示す。
【0047】
【0048】
上記表6の結果から、一般的に高融点物質として流動材の凝集抑制剤として使用されている薬剤(CaCO3、CaO、Ca(OH)2、MgO)を添加した比較例29~36は、薬剤を添加していない比較例28よりも流動材(砂2)に対する剥離率は高いものの、剥離率が30%以下と低い値であり、流動材(砂2)に対する凝集抑制効果が全く認められなかった。なお、Ca(OH)2は、マッフル炉で加熱されて580℃でCaOに脱水されるため、高融点物質として一般的に使用されている。
一方、リン酸カルシウム及び/又はリン酸マグネシウムと各薬剤を任意の割合で混合したものを添加した実施例11~20の結果から、加熱後の固化がほとんど確認されず、流動材(砂2)に対する剥離率は、80%を大きく超えた高い値であった。特に実施例11と比較例35とを比べると、添加された水酸化カルシウムの量は、0.75gと同一であるにもかかわらず、0.1gリン酸カルシウムが添加されたか否かの違いにより、剥離率が約39%も向上している。また、実施例18と比較例36とを比べると、添加された酸化マグネシウムの量は0.2gと同一であるにもかかわらず、0.1gのリン酸カルシウムが添加されたか否かの違いにより、剥離率が、約78%も向上している。これにより、リン酸カルシウム及びリン酸マグネシウムの流動材に対する凝集抑制効果が顕著であることが確認できる。
以上より、リン酸カルシウム及び/又はリン酸マグネシウムと一般的な流動材の凝集抑制剤を混合させた場合にも優れた凝集抑制効果を確認した。
【0049】
上記試験で使用した各薬剤は次のとおりである。
(各薬剤)
K2CO3:炭酸カリウム。キシダ化学(株)社製
CaO:キシダ化学(株)社製酸化カルシウムを1000℃で2時間加熱させたもの
CaCO3:炭酸カルシウム。富士フイルム和光純薬(株)社製
Ca3(PO4)2:リン酸三カルシウム。キシダ化学(株)社製
Mg3(PO4)2・8H2O:リン酸三マグネシウム・8水和物。キシダ化学(株)社製
Mg3(PO4)2・5H2O:リン酸三マグネシウム・5水和物。Alfa Aesar社製
ZnO:酸化亜鉛。キシダ化学(株)社製
Al2O3:酸化アルミニウム。富士フイルム和光純薬(株)社製
SiO2:二酸化ケイ素。富士フイルム和光純薬(株)社製
Ca(OH)2:水酸化カルシウム。キシダ化学(株)社製
Fe2O3:酸化鉄(III)キシダ化学(株)社製
TiO2:酸化チタン。キシダ化学(株)社製
塩基性MgCO3:塩基性炭酸マグネシウム。キシダ化学(株)社製
K3PO4:リン酸三カリウム。キシダ化学(株)社製
Na3PO4:リン酸三ナトリウム。キシダ化学(株)社製
CaHPO4・2H2O:リン酸水素カルシウム(2水和物)キシダ化学(株)社製
Ca(H2PO4)2・H2O:リン酸二水素カルシウム(1水和物)キシダ化学(株)社製
10% Ca(H2PO2)2水溶液:キシダ化学(株)社製次亜リン酸カルシウム10gを純水90gに溶解させたもの
10% Mg(H2PO2)2水溶液:キシダ化学(株)社製次亜リン酸マグネシウム(6水和物)10gを純水90gに溶解させたもの