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特開2022-156991フェライト組成物、電子部品、および、電源装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156991
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】フェライト組成物、電子部品、および、電源装置
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/38 20060101AFI20221006BHJP
   H02M 3/00 20060101ALI20221006BHJP
   H05K 1/03 20060101ALN20221006BHJP
【FI】
C04B35/38
H02M3/00 Y
H05K1/03 610B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060964
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】氏家 徹
(72)【発明者】
【氏名】森 健太郎
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730ZZ16
5H730ZZ17
(57)【要約】
【課題】コアのサイズまたは形状の違いによる渦電流損失の変化を低減することができるフェライト組成物と、当該フェライト組成物を用いた電子部品と、当該電子部品を用いた電源装置を提供すること。
【解決手段】主成分と第1副成分と第2副成分とを有し、主成分は、51.0~53.5モル%の酸化鉄と、7~16.5モル%の酸化亜鉛と、残部である酸化マンガンと、で構成され、主成分100質量部に対して、第1副成分として、コバルトを0.09~0.27質量部、チタンを0.13~0.45質量部、含有しており、主成分100質量部に対して、第2副成分として、ケイ素、ニオブ、バナジウムおよびカルシウムをy質量部、含有しており、平均結晶粒径がxμmであり、yは、0.10~0.32であり、xは、6~18であり、yおよびxは、式(1)および(2)を満たすフェライト組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分と第1副成分と第2副成分とを有し、
前記主成分は、Fe換算で51.0~53.5モル%の酸化鉄と、ZnO換算で7~16.5モル%の酸化亜鉛と、残部である酸化マンガンと、で構成され、
前記主成分100質量部に対して、前記第1副成分として、コバルトをCoO換算で0.09~0.27質量部、チタンをTiO換算で0.13~0.45質量部、含有しており、
前記主成分100質量部に対して、前記第2副成分として、ケイ素、ニオブ、バナジウムおよびカルシウムをそれぞれSiO換算、Nb換算、V換算およびCaCO換算した総量をy質量部、含有しており、
平均結晶粒径がxμmであり、
前記yは、0.10~0.32であり、
前記xは、6~18であり、
前記yおよび前記xは、下記式(1)および(2)を満たし、
電気抵抗率が5Ω・m以上であるフェライト組成物。
y+0.014x≧0.229 ・・・(1)
y+0.020x≦0.549 ・・・(2)
【請求項2】
請求項1に記載のフェライト組成物を含む電子部品。
【請求項3】
請求項2に記載の電子部品を備える電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト組成物と、当該フェライト組成物を含む電子部品ならびに電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化と高効率化が進み、電源装置などに使用される電子部品にも小型化・高効率化が強く求められている。小型化・高効率化のためコイルやトランスなどの電子部品に用いられるフェライト焼結体には低損失特性が要求される。
【0003】
一般的にフェライト組成物の磁心損失Pcvは、ヒステリシス損失Phv、渦電流損失Pevおよび残留損失Prvからなり、渦電流損失Pevは、コア(磁心)のサイズまたは形状により大きく変化する。これまでの技術では、コアのサイズまたは形状の違いによる渦電流損失Pevの変化を抑制することができず、実際にフェライトコアを作製した際に、設計通りの値を得られないことが多かった。
【0004】
特許文献1では、磁気異方性と磁歪が小さくなる主成分の調整、十分な電気抵抗率が得られる副成分の調整、不可避不純物量の制御により、300kHz-100mT,100℃での低損失化がなされている。
【0005】
また、特許文献2では、トランスの熱暴走防止に主眼を置き、CoOおよびTiOを同時に添加することにより、120℃以上での損失低減がなされている。
【0006】
さらに、特許文献3では、CoOおよびTiOを同時添加した組成物で100~300kHzでの損失低減がなされている。
【0007】
さらに、特許文献4では、体積抵抗率および平均結晶粒径の適正化により、広い温度範囲で低損失化がなされている。
【0008】
しかし、特許文献1~特許文献4ではコア形状の違いによる渦電流損失の変化について検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第6730545号公報
【特許文献2】特許第5786322号公報
【特許文献3】特開2004-35372号公報
【特許文献4】国際公開2017/164350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような実情を鑑みてなされ、その目的は、コアのサイズまたは形状の違いによる渦電流損失の変化を低減することができるフェライト組成物と、当該フェライト組成物を用いた電子部品と、当該電子部品を用いた電源装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明に係るフェライト組成物は、
主成分と第1副成分と第2副成分とを有し、
前記主成分は、Fe換算で51.0~53.5モル%の酸化鉄と、ZnO換算で7~16.5モル%の酸化亜鉛と、残部である酸化マンガンと、で構成され、
前記主成分100質量部に対して、前記第1副成分として、コバルトをCoO換算で0.09~0.27質量部、チタンをTiO換算で0.13~0.45質量部、含有しており、
前記主成分100質量部に対して、前記第2副成分として、ケイ素、ニオブ、バナジウムおよびカルシウムをそれぞれSiO換算、Nb換算、V換算およびCaCO換算した総量をy質量部、含有しており、
平均結晶粒径がxμmであり、
前記yは、0.10~0.32であり、
前記xは、6~18であり、
前記yおよび前記xは、下記式(1)および(2)を満たし、
電気抵抗率が5Ω・m以上である。
y+0.014x≧0.229 ・・・(1)
y+0.020x≦0.549 ・・・(2)
【0012】
一般的に、比較的磁路断面積が小さいコアの特性を元にして製品設計を行う。しかし、実際の製品は磁路断面積が大きい場合が多く、また、形状が複雑であり磁路断面積が均一ではないことが多い。このため製品設計段階の特性と実製品の特性とが一致しないことがある。これに対して、本発明に係るフェライト組成物は、上記の構成を有することで、コアの形状またはサイズの違いによる渦電流損失の変化を低減できる、すなわち、コアのサイズまたは形状の違いによる渦電流損失の変化を抑制できる。
【0013】
本発明に係るフェライト組成物は、インダクタ、トランス、チョークコイル、リアクトル、アンテナ、非接触給電用コイルなどの各種電子部品において、当該電子部品に含まれる磁心や磁性シート(非接触給電用、電磁波吸収体、ノイズフィルタなど)として用いることができる。特に、本発明に係るフェライト組成物は、電源用トランスの磁心として用いることが好ましく、この電源用トランスは、たとえば、EV(Electric Vehicle:電動輸送機器)、PHV(Plug-in Hybrid Vehicle:プラグインハイブリッド自動車)、あるいはコミュータ(車両)などで用いられる車載用のスイッチング電源装置、家庭用または産業用の電気機器の電源装置、もしくはコンピュータ機器の電源装置などに組み込んで利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0015】
本実施形態に係るフェライト組成物は、焼結体などのバルク状の形態、粉末状の形態、もしくは薄膜状の形態であってもよく、その形態は特に限定されない。そして、本実施形態のフェライト組成物は、主成分と第1副成分と第2副成分とを有する。主成分は、酸化鉄と、酸化亜鉛と、酸化マンガンとで構成される。一方、第1副成分としては、少なくとも、コバルト(Co)と、チタン(Ti)と、を含む。さらに、第2副成分としては、ケイ素(Si)と、ニオブ(Nb)と、バナジウム(V)と、カルシウム(Ca)と、を含む。なお、以下では、第1副成分および第2副成分をまとめて「副成分」と呼ぶことがある。
【0016】
まず、主成分の組成について説明する。主成分全体を100モル%とすると、酸化鉄の含有率は、基準となる範囲がFe換算で51.0~53.5モル%であり、好ましくは51.25~52.8モル%である。酸化亜鉛の含有率は、基準となる範囲がZnO換算で7~16.5モル%であり、好ましくは8.6~14モル%、より好ましくは8.6~12モル%である。また、酸化マンガンの含有率は、他の主成分である酸化鉄の含有率および酸化亜鉛の含有率を定めることで、主成分のうちの残部として定まる。
【0017】
上記の主成分は、フェライト組成物の断面において、スピネル型の結晶構造を有する主成分粒子を構成している。ここで、スピネル型の結晶構造は、化学量論組成式ABで表記され、Aサイトには、MnおよびZnが入り、Bサイトには、Feが入る。本実施形態において、スピネル構造の主成分粒子は、円相当径での平均粒径が、xμmであり、xは6~18であり、7.5~14であることが好ましい。なお、主成分粒子の平均粒径は、フェライト組成物の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)もしくはSTEM(走査透過型電子顕微鏡)などで観察し、得られる断面写真を画像解析することで測定できる。
【0018】
一方、第1副成分の含有率については、上記の主成分100質量部に対する比率、すなわち外枠量として表される。本実施形態において、Coの含有率は、基準となる範囲がCoO換算で0.09~0.27質量部であり、好ましくは0.13~0.27質量部、より好ましくは0.21~0.27質量部である。また、Tiの含有率は、基準となる範囲がTiO換算で0.13~0.45質量部であり、好ましくは0.13~0.35質量部であり、より好ましくは0.13~0.225質量部である。
【0019】
また、第2副成分の含有率についても、上記の主成分100質量部に対する比率、すなわち外枠量として表される。具体的には、主成分100質量部に対して、第2副成分として、Si、Nb、VおよびCaをそれぞれSiO換算、Nb換算、V換算およびCaCO換算した総量をy質量部、含有しており、yは、好ましくは0.10~0.32であり、より好ましくは0.115~0.285である。
【0020】
フェライト組成物の内部における各副成分の存在形態は、特に限定されない。たとえば、各副成分は、主成分粒子に固溶していてもよいし、主成分粒子の粒界において酸化物、複合酸化物、炭酸塩などの各種化合物として存在していてもよい。
【0021】
より具体的には、CoおよびTiは、主として主成分粒子に固溶し、スピネル格子中のFeの一部が、固溶したCoまたはTiに置換されると考えられる。特に、CoとTiとを同時に添加することで、スピネル格子のAサイトではなく、BサイトであるFeがCoまたはTiに置換されやすくなると考えられる。スピネル格子のFeがCoまたはTiに置換されると、磁気異方性定数の温度依存性が小さくなり、その結果、磁気損失の温度依存性も小さくなると考えられる。
【0022】
一方、Caについては、主として、主成分粒子の粒界において化合物として存在すると共に、主成分粒子の粒界近傍に固溶していると考えられる。Caが上記の形態で存在することで、フェライト組成物の焼結性が向上すると共に、粒界抵抗が高められると考えられる。また、Nbは、フェライト組成物の結晶組織の均一化に寄与すると考えられる。Siは、フェライト組成物の焼結性の向上に貢献すると考えられる。また、Vは、主として、主成分粒子の粒界において化合物として存在すると考えられ、粒界抵抗を高める働きをすると考えられる。
【0023】
また、本実施形態のフェライト組成物には、Zrが実質的に含まれないことが好ましい。本実施形態において、「Zrが実質的に含まれない」とは、Zrの含有率が、主成分100質量部に対して、ZrO換算で0.009質量部以下であることを意味する。なお、Zrの含有率は、より好ましくは0~0.005質量部未満である。
【0024】
なお、本実施形態のフェライト組成物には、上述した副成分以外に、Pなどの他の副成分や不可避不純物が含まれていてもよい。他の副成分や不可避不純物の含有率は、Pev変化抑制を妨げない量とする。たとえば、不可避不純物の総含有率は、主成分100質量部に対して0~0.001質量部程度とすることが好ましい。
【0025】
上述したような主成分の含有率、および、副成分の含有率は、蛍光X線分析装置(XRF)を用いて成分分析することで測定できる。また、SEMやSTEMでの断面観察時に、電子線マイクロアナライザ(EPMA)により成分分析することで測定してもよく、X線回折(XRD)を用いて測定することもできる。
【0026】
本実施形態では、上記の通り、主成分100質量部に対する、第2副成分のSiO換算、Nb換算、V換算およびCaCO換算した総量をy質量部としている。また、主成分粒子の平均結晶粒径をxμmとしている。
【0027】
本実施形態では、yおよびxは、下記式(1)および(2)を満たす。
y+0.014x≧0.229 ・・・(1)
y+0.020x≦0.549 ・・・(2)
【0028】
さらに、本実施形態に係るフェライト組成物の電気抵抗率は5Ω・m以上であり、である。フェライト組成物の電気抵抗率を調整する方法は特に限定されないが、たとえば焼成時の雰囲気を変化させることで調整することができる。具体的には、焼成時に酸素分圧を下げると、電気抵抗率が下がる傾向となる。
【0029】
次に、本実施形態に係るフェライト組成物の製造方法の一例について説明する。
【0030】
まず、主成分の出発原料を準備し、焼成後に所定の組成となるように秤量する。主成分の出発原料としては、酸化物の粉末、または、加熱により酸化物となる化合物の粉末(炭酸塩の粉末など)を用いることができ、具体的には、α-Fe粉末、Mn粉末、ZnO粉末を用いることが好ましい。また、2種以上の金属を含む複合酸化物の粉末を、主成分の出発原料として用いてもよい。たとえば、塩化鉄および塩化マンガンを含有する水溶液を酸化焙焼することにより、FeおよびMnを含む複合酸化物の粉末を得る。そして、この複合酸化物の粉末にZnO粉末を加えて混合することで、主成分の原料としてもよい。なお、上述した各出発原料の平均粒径は、0.1~3.0μmとすることが好ましい。
【0031】
次に、秤量した主成分の出発原料を、ボールミルなどの混合機で混合し、その後、仮焼き処理する。この際、混合は、湿式混合でも乾式混合でもよく、湿式混合を選択した場合は、混合後に適宜乾燥してから、仮焼き処理する。また、仮焼き処理の条件は、保持温度を800~1100℃とすることが好ましく、温度保持時間(温度安定時間)を0.5~5時間とすることが好ましい。このような条件で仮焼きして得られた仮焼き材については、各種粉砕機を用いて、平均粒径が0.5~3.0μm程度となるまで粉砕する。なお、主成分の出発原料として、FeおよびMnを含む複合酸化物の粉末を用いる場合には、仮焼き処理を省略してもよい。
【0032】
次に、仮焼き後の原料に、副成分の出発原料を添加し混合する。副成分の出発原料としては、主成分の場合と同様に、酸化物の粉末、または、加熱により酸化物となる化合物の粉末を用いることができる。具体的には、CoO粉末、TiO粉末、SiO粉末、Nb粉末、V粉末およびCaCO粉末、を用いることができる。副成分の出発原料の平均粒径についても、0.1~3.0μmとすることが好ましい。なお、副成分の出発原料は、仮焼き処理後に添加し、その後、上記の粉砕処理を行うことで、主成分と副成分とを混合しつつ仮焼き材を粉砕してもよい。また、副成分の出発原料は、仮焼き材の粉砕後に添加し、混合してもよい。さらに、CoO粉末およびTiO粉末については、予め主成分の出発原料と共に混合し、仮焼き処理に供してもよい。
【0033】
次に、上記で得られた主成分と副成分との混合粉末に、ポリビニルアルコールなどの適当な結合材(バインダ)を加えて混錬し、複合材を得る。そして、この複合材を、射出成形や機械プレス成形などの手法により所定の形状に成形して、成形体を得る。たとえば、射出成形では、上記の複合材をスラリー化して金型に流し込むことで成形体を得る。また、機械プレス成形では、顆粒状の複合材を金型に充填して加圧することで成形体を得る。
【0034】
次に、上記で得られた成形体を焼成する。焼成の条件は、保持温度を1150℃~1400℃、より好ましくは1200℃~1300℃とし、温度保持時間を1~10時間、より好ましくは2~6時間とする。また、加熱開始から保持温度までの昇温過程では、昇温速度を50~300℃/時間とすることが好ましく、保持温度から900℃までの降温過程では、冷却速度を50~200℃/時間とすることが好ましい。また、焼成時の雰囲気は、酸素と窒素の混合雰囲気とし、昇温過程および温度保持過程での酸素分圧を0.1~5.0vol%とすることが好ましい。さらに、保持温度から1000℃までの降温過程では、酸素分圧を徐々に低下させ、1000℃以下では、酸素分圧を0.02vol%以下とすることが好ましい。
【0035】
上記のような条件で焼成することで、焼結体としてのフェライト組成物が得られる。本実施形態に係る焼結体としてのフェライト組成物は、各種電子部品において、磁心や磁性シートとして用いることができる。
【0036】
本実施形態に係るフェライト組成物を磁心(コア)として用いる場合の形状は、E字型、F字型、I字型、T字型、U字型、ドラム型、トロイダル型、ポット型、カップ型、もしくは単なる板状、角柱状の形状とすることができる。
【0037】
なお、焼成後に得られた焼結体を粉砕して、粉末状のフェライト組成物を得てもよい。この場合、さらに、得られた焼結体粉末にバインダや溶媒を添加してペースト化することができる。そして、このペーストをシート法や押出法などの手法によりシート化し、その後、適宜乾燥や熱処理を施すことで、薄膜状のフェライト組成物が得られる。このような薄膜状のフェライト組成物は、たとえば、薄膜インダクタの磁心や、アンテナや非接触給電用などの磁性シート(非接触給電用、電磁波吸収体、ノイズフィルタ)として用いることができる。
【0038】
フェライト組成物の磁心損失Pcvは、ヒステリシス損失Phv、渦電流損失Pevおよび残留損失Prvからなり、従来の渦電流損失Pevは、コアのサイズまたは形状により大きく変化する。具体的には、コアのサイズが大きくなる程、渦電流損失が増加する傾向となり、特にコアの磁路断面積が大きくなる程、渦電流損失が増加する傾向となる。
【0039】
これに対して、本実施形態に係るフェライト組成物は主成分と第1副成分と第2副成分との含有率、平均結晶粒径が所定の範囲内であり、電気抵抗率が所定値以上であり、なおかつ、xおよびyが上記式(1)および式(2)を満たすことにより、コア(磁心)のサイズまたは形状の違いによる渦電流損失の変化を抑制できる。
【0040】
したがって、本実施形態に係るフェライト組成物は、そのサイズおよび形状が、特に限定されない。
【0041】
本実施形態のフェライト組成物は、前述したように、磁心材料や磁性シートとして好適であり、トランス、インダクタ、チョークコイル、リアクトル、アンテナ、非接触給電用コイルなどの電子部品に用いることができる。上記の電子部品のなかでも、特にトランスとしての応用が好適である。本実施形態のフェライト組成物を含むトランスは、特に電源装置に組み込んで用いることが好ましい。電源装置としては、たとえば、上記のトランスに、入力フィルタや、スイッチング回路、整流回路、平滑回路などを組み合わせたスイッチング電源装置が挙げられる。
【0042】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例0043】
以下、実施例および比較例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
本実験では、表1、表3、表5、表7、表9、表11、表13、表15、表17、表19および表21に示す組成を有する実施例1~93および比較例1~34のフェライトコアを作成し、その渦電流損失Pevを測定した。各実施例および各比較例のフェライトコアは、以下に示す手順で作製した。
【0045】
まず、主成分の出発原料として、α-Fe粉末、Mn粉末、ZnO粉末を準備し、焼成後に所定の比率となるように秤量した。そして、秤量した各粉末を、ボールミルで湿式混合し、原料混合物を得た。さらに、この原料混合物を乾燥させた後、大気雰囲気において、900℃で3時間、仮焼きし、仮焼き材を得た。
【0046】
次に、上記の仮焼き材を、鉄鋼製ボールを充填したボールミルに投入し、16時間粉砕することで、平均粒径が1~2μmの粉砕粉を得た。そして、この粉砕粉と副成分の出発原料とを湿式混合し、その後乾燥させることで、混合粉末を得た。この際、副成分の出発原料としては、CoO粉末、TiO粉末、SiO粉末、CaCO粉末、Nb粉末、V粉末を準備し、焼成後に所定の比率となるように秤量した。
【0047】
次に、上記の混合粉末100質量部に対して、ポリビニルアルコールを0.8質量部添加し、これをスプレードライヤで噴霧、乾燥することで顆粒にした。そして、得られた顆粒を、2種類の金型にそれぞれ充填し、100MPaの圧力で加圧成形することで、トロイダル形状の成形体を得た。
【0048】
ここで、「2種類の金型」とは、より小さいサイズである「小コア」を得るための金型と、より大きいサイズである「大コア」を得るための金型である。すなわち、上記の工程により、焼成後に「小コア」となる「小成形体」と、焼成後に「大コア」となる「大成形体」と、を得た。
【0049】
次に、上記の各成形体(「小成形体」および「大成形体」)を以下の条件で焼成した。焼成の条件は、保持温度を1250℃とし、保持時間を5時間とし、焼成雰囲気を酸素と窒素の混合雰囲気とした。なお、温度保持過程での酸素分圧は、4vol%とし、降温過程においては、1250℃~1000℃の温度帯で酸素分圧を単調減少させ、1000℃以下の温度帯で酸素分圧が0.02vol%となるように制御した。また、昇温速度は200℃/時間とし、冷却速度は100℃/時間とした。このような条件で焼成することで、焼結体としてのフェライトコア(「大コア」および「小コア」)が得られた。
【0050】
なお、得られたフェライトコアの形状は、小コアと大コアのいずれの場合においても上述したようにトロイダル形状であった。また、作製した小コアおよび大コアの寸法は、下記の通りであった。
小コア・・・外径:20mm,内径:10mm,高さ:5mm,磁路断面積:25mm
大コア・・・外径:50mm,内径:10mm,高さ:10mm,磁路断面積:200mm
【0051】
また、作製したフェライトコアについては、その組成をXRFにより分析した。測定した結果を表1、表3、表5、表7、表9、表11、表13、表15、表17、表19および表21に示す。
【0052】
また、各実施例および各比較例の各小コアおよび各大コアについて、周波数200kHz、300kHz、400kHz、磁束密度100mTの条件で、100℃での磁気損失Pcvを測定した。下記の方法により渦電流損失Pevを計算した。
式(3)に示すように、周波数200kHz~400kHzでの磁気損失Pcvは、ヒステリシス損失Phvと、渦電流損失Pevとの和で表せる。
Pcv=Phv+Pev ・・・(3)
次にヒステリシス損失Phvは周波数fに比例し、Pevはfの2乗に比例するため、式(4)のように表せる。
Pcv=Kh×f+Ke×f ・・・(4)
ここで、Khはヒステリシス損失係数であり、Keは渦電流損失係数である。
式(4)の両辺を周波数fで割ると、式(5)のように表せる。
Pcv/f=Kh+Ke×f ・・・(5)
式(5)より、Pcv/fが周波数fの一次関数となるため、傾きから渦電流損失係数Keが得られる。
すなわち、周波数200kHz、300kHz、400kHzのそれぞれの磁気損失Pcvに基づき、渦電流損失係数Keを得た。
得られた渦電流損失係数Keに基づき、下記の式(6)により渦電流損失Pevを計算した。
Pev=Ke×f ・・・(6)
【0053】
さらに、各実施例および各比較例の各小コアおよび各大コアのPevに基づき、下記式(7)によりΔPevを算出した。結果を表2、表4、表6、表8、表10、表12、表14、表16、表18、表20および表22に示す。なお、ΔPevが400kW/m以下である場合を良好であると判断した。
ΔPev=(大コアのPev)-(小コアのPev) ・・・(7)
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
表1および表2では、主に、副成分の含有率を固定して、主成分の組成を変更した実験結果を示している。
【0057】
表1および表2に示すように、主成分が、Fe換算で51.0~53.5モル%の酸化鉄と、ZnO換算で7~16.5モル%の酸化亜鉛と、残部である酸化マンガンと、で構成してあり、所定量の副成分を含有する場合(実施例1~11)は、ΔPevが400kW/以下であり、なおかつ、比較例1~6に比べて、ΔPevが小さいことが確認できた。
【0058】
【表3】
【0059】
【表4】
【0060】
【表5】
【0061】
【表6】
【0062】
表3~表6では、主成分がFe換算で52.6モル%の酸化鉄と、ZnO換算で9.5モル%の酸化亜鉛と、残部である酸化マンガンと、で構成してある場合において、第1副成分であるCoおよびTiの含有率を変更した場合の実験結果を示している。
【0063】
表3~表6に示すように、第1副成分として、コバルトをCoO換算で0.09~0.27質量部、チタンをTiO換算で0.13~0.45質量部、含有する場合(実施例12~24)は、ΔPevが400kW/m以下であり、比較例7~14に比べて、ΔPevが小さいことが確認できた。
【0064】
【表7】
【0065】
【表8】
【0066】
表7および表8では、主成分がFe換算で52.2モル%の酸化鉄と、ZnO換算で11.5モル%の酸化亜鉛と、残部である酸化マンガンと、で構成してある場合において、第1副成分であるCoおよびTiの含有率を変更した場合の実験結果を示している。
【0067】
表7および表8に示すように、主成分がFe換算で52.2モル%の酸化鉄と、ZnO換算で11.5モル%の酸化亜鉛と、残部である酸化マンガンと、で構成してある場合においも、第1副成分として、コバルトをCoO換算で0.09~0.27質量部、チタンをTiO換算で0.13~0.45質量部、含有する場合(実施例25~31)は、ΔPevが400kW/m以下であることが確認できた。
【0068】
【表9】
【0069】
【表10】
【0070】
【表11】
【0071】
【表12】
【0072】
【表13】
【0073】
【表14】
【0074】
表9~表14では、「y+0.014x」および「y+0.020x」を変更した場合の実験結果を示している。
【0075】
表9~表14に示すように、yが、0.10~0.32であり、xが、6~18であり、yおよびxが、式(1)および(2)を満たす場合(実施例32~62)は、ΔPevが400kW/m以下であり、比較例15~22に比べて、ΔPevが小さいことが確認できた。
【0076】
【表15】
【0077】
【表16】
【0078】
【表17】
【0079】
【表18】
【0080】
【表19】
【0081】
【表20】
【0082】
表15~表20では、主成分がFe換算で52.2モル%の酸化鉄と、ZnO換算で11.5モル%の酸化亜鉛と、残部である酸化マンガンと、で構成してある場合において、「y+0.014x」および「y+0.020x」を変更した場合の実験結果を示している。
【0083】
表15~表20に示すように、主成分がFe換算で52.2モル%の酸化鉄と、ZnO換算で11.5モル%の酸化亜鉛と、残部である酸化マンガンと、で構成してある場合においても、yが、0.10~0.32であり、xが、6~18であり、yおよびxが、式(1)および(2)を満たす場合(実施例63~93)は、ΔPevが400kW/m以下であり、比較例23~30に比べて、ΔPevが小さいことが確認できた。
【0084】
【表21】
【0085】
【表22】
【0086】
表1~表22より、電気抵抗率が5Ω・m以上である場合(実施例1~93)は、電気抵抗率が4Ω・m以下である場合(比較例31~34)に比べて、ΔPevが小さくなることが確認できた。
【0087】
表1~表22の結果を総合すると、主成分の組成と、第1副成分(Co,Ti)と、第2副成分(Si,Nb,V,Ca)の含有率、xの値、yの値とが、全て本発明の基準となる範囲を満足し、xおよびyが式(1)および(2)を満足し、電気抵抗率が5Ω・m以上であることで、コアのサイズまたは形状の違いによる渦電流損失の変化を抑制できることが確認できた。また、上記の要素のうち一部でも、基準となる範囲を満足しない場合には、コアのサイズまたは形状の違いによる渦電流損失の変化が増大することが確認できた。