(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156997
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】コイル装置およびコア
(51)【国際特許分類】
H01F 17/04 20060101AFI20221006BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
H01F17/04 F
H01F17/04 A
H01F27/255
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060981
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】浅井 雄悟
(72)【発明者】
【氏名】國塚 光祐
【テーマコード(参考)】
5E070
【Fターム(参考)】
5E070AA01
5E070BA03
5E070CA13
(57)【要約】
【課題】良好な特性を有するコイル装置およびそのコアを提供すること。
【解決手段】コイル装置10は、巻芯部23と巻芯部23のX軸方向の端部に形成される鍔部21,22とを備えたコア20と、巻芯部23に巻回されるワイヤ30,40と、を有する。巻芯部23の周方向の異なる位置には、巻芯部23のX軸方向の一方側に向けて高くなる段差部60a,60bと、巻芯部23のX軸方向の他方側に向けて高くなる段差部70a,70bとが形成されている。
【選択図】
図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻芯部と前記巻芯部の端部に形成される鍔部とを備えたコアと、
前記巻芯部に巻回されるワイヤと、を有し、
前記巻芯部の周方向の異なる位置には、前記巻芯部の一方側に向けて高くなる第1段差部と、前記巻芯部の他方側に向けて高くなる第2段差部とが形成されているコイル装置。
【請求項2】
前記巻芯部を第1方向から見たとき、前記第1段差部よりも前記巻芯部の一方側では、前記第1段差部よりも前記巻芯部の他方側に比べて、前記巻芯部の第2方向に沿う幅が大きくなっており、
前記巻芯部を第2方向から見たとき、前記第1段差部よりも前記巻芯部の一方側では、前記第1段差部よりも前記巻芯部の他方側に比べて、前記巻芯部の第1方向に沿う幅が小さくなっている請求項1に記載のコイル装置。
【請求項3】
前記第1段差部および前記第2段差部は、それぞれ前記巻芯部の周方向に隣接しており、異なる方向に延在している請求項1または2に記載のコイル装置。
【請求項4】
前記第1段差部は複数からなり、
前記第2段差部は複数からなり、
複数の前記第1段差部と複数の前記第2段差部とが、前記巻芯部の周方向に沿って、交互に配置されている請求項1~3のいずれかに記載のコイル装置。
【請求項5】
複数の前記第1段差部および前記第2段差部の組が、前記巻芯部の軸方向の複数の位置に所定の間隔で形成されている請求項1~4のいずれかに記載のコイル装置。
【請求項6】
前記ワイヤは、複数からなり、
前記巻芯部には、複数の前記ワイヤが複数層で巻回され、
前記第1段差部または前記第2段差部の高さは、複数の前記ワイヤの各々の径の和と同等以上である請求項1~5のいずれかに記載のコイル装置。
【請求項7】
前記第1段差部の立上位置は、前記第2段差部の立上位置よりも前記巻芯部の他方側に位置し、
前記第2段差部の立上位置は、前記第1段差部の立上位置よりも前記巻芯部の一方側に位置する請求項1~6のいずれかに記載のコイル装置。
【請求項8】
巻芯部と、
前記巻芯部の端部に形成される鍔部とを有し、
前記巻芯部の周方向の異なる位置には、前記巻芯部の一方側に向けて高くなる第1段差部と、前記巻芯部の他方側に向けて高くなる第2段差部とが形成されているコア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル装置およびそのコアに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、通信速度の高速化に伴い、電子機器等に搭載されるコイル装置の要求特性が複雑化・高水準化している。例えば、コモンモードフィルタ等では、要求特性を満たす上で考慮すべき点として、ライン間容量が小さいこと、あるいはワイヤの巻形状が安定していることが挙げられる。
【0003】
ライン間容量を低減するための策として、ワイヤの各ターン間の間隔を巻芯部の軸方向に沿って大きくすることが考えられる。しかしながら、この場合、ワイヤを巻芯部に高密度で巻回することが困難になる。
【0004】
例えば、特許文献1に記載のコイル装置のように、巻芯部の表面に凹部(段差)が形成されている場合、段差の幅を大きくすることにより、段差の上側に位置するターンと下側に位置するターンとの間の間隔を段差の高さ方向に沿って大きくすることが可能となる。この場合、巻芯部の軸方向に沿う各ターン間の間隔については維持することができるため、ワイヤを巻芯部に高密度で巻回しつつ、ライン間容量を低減することができる。
【0005】
しかしながら、この場合、特に段差の高さが大きい場合、段差の上側に位置するターンが段差の下側に落下しやすくなり、ワイヤの巻形状を安定させることが困難となるため、コイル装置の特性が低下するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、良好な特性を有するコイル装置およびそのコアを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係るコイル装置は、
巻芯部と前記巻芯部の端部に形成される鍔部とを備えたコアと、
前記巻芯部に巻回されるワイヤと、を有し、
前記巻芯部の周方向の異なる位置には、前記巻芯部の一方側に向けて高くなる第1段差部と、前記巻芯部の他方側に向けて高くなる第2段差部とが形成されている。
【0009】
また、上記目的を達成するために、本発明に係るコアは、
巻芯部と、
前記巻芯部の端部に形成される鍔部とを有し、
前記巻芯部の周方向の異なる位置には、前記巻芯部の一方側に向けて高くなる第1段差部と、前記巻芯部の他方側に向けて高くなる第2段差部とが形成されている。
【0010】
本発明に係るコイル装置のコアでは、巻芯部の周方向の異なる位置には、巻芯部の一方側に向けて高くなる第1段差部と、巻芯部の他方側に向けて高くなる第2段差部とが形成されている。そのため、第1段差部および第2段差部が形成された各位置では、ワイヤのターン間の間隔を第1段差部および第2段差部の各々の高さ方向に沿って大きくすることが可能となり、ライン間容量を低減することができる。また、巻芯部の軸方向に沿うワイヤの各ターン間の間隔を大きくすることなく、ライン間容量を低減することができるため、ワイヤを巻芯部に高密度に巻回することができるだけでなく、巻芯部の径方向に沿ってワイヤを複数層で巻回する場合には、下層のワイヤの上に上層のワイヤを安定した状態で配置することができる。
【0011】
また、第1段差部および第2段差部が形成された位置において、第1段差部の上側と第2段差部の下側を通過するようにワイヤを巻芯部に巻回した場合、このターンを構成するワイヤの位置ずれ(巻芯部の他方側への位置ずれ)を第2段差部が規制するため、第1段差部の上側に位置するターンが第1段差部の下側へ落下することを防止することが可能となる。また、第2段差部の上側と第1段差部の下側を通過するようにワイヤを巻芯部に巻回した場合、このターンを構成するワイヤの位置ずれ(巻芯部の一方側への位置ずれ)を第1段差部が規制するため、第2段差部の上側に位置するターンが第2段差部の下側に落下することを防止することが可能となる。これにより、ワイヤの巻形状を安定させ、良好な特性を有するコイル装置を実現することができる。
【0012】
好ましくは、前記巻芯部を第1方向から見たとき、前記第1段差部よりも前記巻芯部の一方側では、前記第1段差部よりも前記巻芯部の他方側に比べて、前記巻芯部の第2方向に沿う幅が大きくなっており、前記巻芯部を第2方向から見たとき、前記第1段差部よりも前記巻芯部の一方側では、前記第1段差部よりも前記巻芯部の他方側に比べて、前記巻芯部の第1方向に沿う幅が小さくなっている。この場合、第1段差部と第2段差部とが、巻芯部の周方向の異なる面(第1方向から見える面と第2方向から見える面)に形成されることになる。したがって、巻芯部の周方向の異なる面で、上述したワイヤ(ターン)の位置ずれを防止することが可能となり、第1段差部または第2段差部からワイヤが落下する不具合を効果的に防止することができる。
【0013】
好ましくは、前記第1段差部および前記第2段差部は、それぞれ前記巻芯部の周方向に隣接しており、異なる方向に延在している。このような構成とすることにより、ワイヤを巻芯部の周方向に沿って巻回したときに、第1段差部および第2段差部によって、当該ワイヤ(ターン)の異なる方向に延びる各部の位置ずれを防止することが可能となり、巻芯部の周方向の異なる位置において、第1段差部または第2段差部からワイヤが落下する不具合を効果的に防止することができる。
【0014】
好ましくは、前記第1段差部は複数からなり、前記第2段差部は複数からなり、複数の前記第1段差部と複数の前記第2段差部とが、前記巻芯部の周方向に沿って、交互に配置されている。このような構成とすることにより、巻芯部の周方向の各位置において、第1段差部と第2段差部の配置位置に応じた所定のスパンで、上述したワイヤ(ターン)の巻芯部の一方側への位置ずれと他方側への位置ずれを交互に防止することが可能となり、第1段差部または第2段差部からワイヤが落下する不具合を効果的に防止することができる。
【0015】
好ましくは、複数の前記第1段差部および前記第2段差部の組が、それぞれ前記巻芯部の軸方向の複数の位置に所定の間隔で形成されている。このような構成とすることにより、巻芯部の軸方向の複数の位置において、ワイヤのターン間の間隔を第1段差部および第2段差部の各々の高さ方向に沿って大きくすることが可能となり、ライン間容量を効果的に低減することができる。
【0016】
好ましくは、前記ワイヤは、複数からなり、前記巻芯部には、複数の前記ワイヤが複数層で巻回され、前記第1段差部または前記第2段差部の高さは、複数の前記ワイヤの各々の径の和と同等以上である。このような構成とすることにより、第1段差部が形成された位置において、第1段差部の下側を通過する複数のワイヤが、第1段差部を残り超えるようにして巻芯部の一方側に位置ずれするといった不具合を防止することが可能となる。また、第2段差部が形成された位置において、第2段差部の下側を通過する複数のワイヤが、第2段差部を残り超えるようにして巻芯部の他方側に位置ずれするといった不具合を防止することが可能となる。したがって、第1段差部および第2段差部によるワイヤの位置ずれ規制機能を十分に高めることができる。
【0017】
好ましくは、前記第1段差部の立上位置は、前記第2段差部の立上位置よりも前記巻芯部の他方側に位置し、前記第2段差部の立上位置は、前記第1段差部の立上位置よりも前記巻芯部の一方側に位置する。このような構成とした場合、第1段差部の立上位置よりも巻芯部の一方側の領域と第2段差部の立上位置よりも巻芯部の他方側の領域とが重複して配置される。そのため、第1段差部が形成された位置において、第1段差部の上側を通過するワイヤの通過位置を、第1段差部の立上位置よりも巻芯部の一方側(すなわち、第2段差部の立上位置)にシフトさせることが可能となる。これにより、当該ワイヤが第1段差部の立上位置から離間した位置に配置され、第1段差部からワイヤが落下する不具合を効果的に防止することができる。また、第2段差部が形成された位置において、第2段差部の上側を通過するワイヤの通過位置を、第2段差部の立上位置よりも巻芯部の他方側(すなわち、第1段差部の立上位置)にシフトさせることが可能となる。その結果、当該ワイヤが第2段差部の立上位置から離間した位置に配置され、第2段差部からワイヤが落下する不具合を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1A】
図1Aは本発明の第1実施形態に係るコイル装置の斜視図である。
【
図2】
図2は
図1Aに示すコイル装置のII-II線に沿う断面図である。
【
図4A】
図4Aは本発明の第2実施形態に係るコイル装置のコアの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0020】
第1実施形態
図1Aに示すように、本発明の第1実施形態に係るコイル装置10は、コア20と、第1ワイヤ30と、第2ワイヤ40とを有する。コイル装置10は、例えばコモンモードフィルタであり、電子機器等に搭載される。
【0021】
図中に示すX軸は、コイル装置10を実装する実装面に対して平行な面内にあり、コア20の巻芯部23の軸方向と平行な方向である。Y軸は、X軸と同じく実装面に対して平行な面内にあり、巻芯部23の軸方向に直交する方向である。Z軸は、実装面に対して垂直な方向(法線方向)である。
【0022】
コア20は、ドラムコアであり、巻芯部23と、第1鍔部21と、第2鍔部22とを有する。コア20のサイズは特に限定されないが、そのX軸方向の長さは2.0~5.0mmであり、そのY軸方向の長さは1.2~5.0mmであり、そのZ軸方向の長さは0.8~4.0mmである。
【0023】
巻芯部23は、略矩形の横断面形状を有するが、巻芯部23の横断面形状は、特に限定されるものではなく、円形や略八角形、あるいはその他の多角形でもよい。本実施形態に係るコイル装置10では、巻芯部23の形状に顕著な特徴があり、その詳細については後述する。
【0024】
第1鍔部21と第2鍔部22とは、X軸方向に所定の間隔を空けて、互いに略平行になるように対向して配置されている。第1鍔部21は巻芯部23のX軸方向の一端に形成され、第2鍔部22は巻芯部23のX軸方向の他端に形成されている。鍔部21,22の外形状は、同一形状からなり、Y軸方向に長い略直方体状である。なお、鍔部21,22の横断面(Y-Z断面)形状は、円形状や略八角形状、あるいはその他の多角形状でも良く、その横断面形状は特に限定されない。
【0025】
鍔部21,22の底面21a,22aは、コイル装置10を回路基板などに実装する場合における実装面(接地面)となる。
図1Bに示すように、第1鍔部21の底面21aには、端子電極51と、端子電極52とが、それぞれY軸方向に所定間隔で形成されている。第2鍔部22の底面22aには、端子電極53と、端子電極54とが、それぞれY軸方向に所定間隔で形成されている。
【0026】
端子電極51~54は、それぞれ同一形状を有し、底面21a,22aにのみ形成されている。ただし、例えば、端子電極51,52を第1鍔部21の外端面と底面21aとに跨るように形成してもよく、端子電極53,54を第2鍔部22の外端面と底面22aとに跨るように形成してもよい。このような構成とすることにより、コイル装置10を回路基板に実装するときに、鍔部21,22の外端面に形成された端子電極51~54の一部に、はんだフィレットを形成することが可能となる。
【0027】
端子電極51~54は、導電性部材からなり、たとえば金属ペースト焼付け膜や金属メッキ膜で構成されている。端子電極51~54は、金属等で形成された導電性端子で構成されていてもよい。
【0028】
端子電極51~54は、鍔部21,22の底面21a,22aに、たとえばAgペーストを塗布して焼き付けた後、その表面に、たとえば電界メッキまたは無電界メッキを施し、メッキ膜を形成することにより形成される。金属ペーストの材料は、特に限定されるものではなく、CuペーストやAgペーストなどが例示される。また、メッキ膜は、単層でも複層でも良く、たとえばCuメッキ、Niメッキ、Snメッキ、Ni-Snメッキ、Cu-Ni-Snメッキ、Ni-Auメッキ、Auメッキなどのメッキ膜が例示される。端子電極51~54の厚みは、特に限定されないが、好ましくは0.1~15μmである。
【0029】
端子電極51には、第1ワイヤ30の一方の第1リード部30aが例えば熱圧着等により接続される。端子電極52には、第2ワイヤ40の一方の第2リード部40aが例えば熱圧着等により接続される。端子電極53には、第1ワイヤ30の他方の第1リード部30bが例えば熱圧着等により接続される。端子電極54には、第2ワイヤ40の他方の第2リード部40bが例えば熱圧着等により接続される。
【0030】
図2に示すように、第1ワイヤ30は巻芯部23の外周面に直接巻回されており、巻芯部23の外周面には第1ワイヤ30が巻回されてなる第1コイル部32が形成されている。第2ワイヤ40は第1コイル部32の外周面(第1ワイヤ30の上)に巻回されており、第1コイル部32の外周面には第2ワイヤ40が巻回されてなる第2コイル部42が形成されている。すなわち、巻芯部23には、第1コイル部32および第2コイル部42からなる2層のコイル部が形成されている。
【0031】
第1ワイヤ30および第2ワイヤ40の各々のX軸方向に沿う層数は特に限定されないが、第1ワイヤ30および第2ワイヤ40は、X軸方向に沿って、巻芯部23に高密度で巻回されることが好ましい。また、第1ワイヤ30および第2ワイヤ40は、X軸方向に沿って、密着して(隙間なく)巻回されていることが好ましい。
【0032】
第1ワイヤ30および第2ワイヤ40は、それぞれ略等しい線長を有し、第1ワイヤ30の巻数と第2ワイヤ40の巻数との巻数比は等しくなっていることが好ましい。第1ワイヤ30および第2ワイヤ40のうち、一方が一次巻線を構成し、他方が二次巻線を構成する。
【0033】
本実施形態では、巻芯部23のX軸方向の途中位置には、段差部が形成されている。以下、この段差部の詳細について説明する。なお、以下の説明において、巻芯部23のZ軸正方向側の面を「上面」と呼び、Z軸負方向側の面を「下面」と呼び、Y軸正方向側の側面を「第1側面」と呼び、Y軸負方向側の側面を「第2側面」と呼ぶ。
【0034】
図3Aおよび
図3Bに示すように、巻芯部23のX軸方向の略中央部において、巻芯部23の上面には段差部60aが形成されており、巻芯部23の下面には段差部60bが形成されている。また、
図3Aおよび
図3Cに示すように、巻芯部23のX軸方向の略中央部において、巻芯部23の第1側面には段差部70aが形成されており、巻芯部23の第2側面には段差部70bが形成されている。
【0035】
段差部60a,60bは、それぞれ巻芯部23の上面および下面からZ軸方向に向けて立ち上げられているという意味において、同種の段差部(第1段差部)を構成する。段差部70a,70bは、それぞれ巻芯部23の第1側面および第2側面からY軸方向に向けて立ち上げられているという意味において、同種の段差部(第2段差部)を構成する。
【0036】
図3A~
図3Cに示すように、巻芯部23のX軸方向の略中央部において、段差部60a,60bおよび段差部70a,70bは、巻芯部23の周方向の異なる位置に形成されており、これらは巻芯部23の周方向に沿って配置されている。段差部60a,60bおよび段差部70a,70bは、巻芯部23の周方向に隣接する面に形成されている。段差部60a,60bおよび段差部70a,70bよりもX軸正方向側にはブロック(区画)B1が形成され、段差部60a,60bおよび段差部70a,70bよりもX軸負方向側にはブロック(区画)B2が形成されている。
【0037】
図3Aおよび
図3Bに示すように、段差部60aは、巻芯部23の上面からZ軸正方向側(上方)に向けて立ち上がっており、巻芯部23の上面のY軸方向の一端から他端にかけて連続的に形成されている。段差部60aはY軸方向に沿って直線的に延びており、段差部60aよりもX軸正方向側(X軸方向の一方側)に位置する巻芯部23の上面231aは、段差部60aよりもX軸負方向側(X軸方向の他方側)に位置する巻芯部23の上面231bよりも上方に張り出している。すなわち、段差部60aは、巻芯部23の上面231bを基準としたときに、相対的に、巻芯部23のX軸正方向側に向けて段差高さが高くなる段差部である。
【0038】
段差部60aの位置を基準(境界)として、巻芯部23の上面のZ軸方向の相対的高さは、X軸方向の正方向側と負方向側とで異なっている。段差部60aよりもX軸正方向側において、巻芯部23の上面231aのZ軸方向の相対的高さ(後述する下面232aを基準とした高さ)は略一定となっており、上面231aは平坦面(X-Y平面に平行な水平面)を構成している。段差部60aよりもX軸負方向側において、巻芯部23の上面231bのZ軸方向の相対的高さ(後述する下面232bを基準とした高さ)は略一定となっており、上面231bは平坦面(X-Y平面に平行な水平面)を構成している。
【0039】
段差部60aは、テーパ面61aを有する。テーパ面61aは、Z軸方向に対して所定角度だけ傾斜しており、巻芯部23にワイヤ30,40を巻回するときの便宜のために形成されたものである。より詳細には、テーパ面61aは、ワイヤ30,40が段差部60aの角部に接触して損傷することを防止するためのものである。段差部60aの立上終了位置は、段差部60aの立上開始位置に対して、テーパ面61aの傾斜角度に応じた距離だけX軸正方向側にシフトしている。X軸に対するテーパ面61aの傾斜角度(テーパ面61aとX軸とが為す角度)は、好ましくは、45°~80°である。
【0040】
なお、テーパ面61は、必須ではなく、省略してもよい。この場合、段差部60aは、Z軸方向に沿って立ち上げられ、段差部60aの段差面(Y-Z平面に平行な面)と巻芯部23の上面とは直交することになる。
【0041】
ここで、第1ワイヤ30(
図1A)の直径をD1、第2ワイヤ40(
図1A)の直径をD2、段差部60aのZ軸方向に沿う高さをH1とする。なお、上述したように、第2ワイヤ40は、第1ワイヤ30の上に巻回されるものとする。このとき、段差部60aの高さH1とワイヤ30,40の直径D1,D2との関係は、好ましくはH1≧D1またはH1≧D2であり、さらに好ましくはH1≧D1+(D2/2)であり、特に好ましくはH1≧D1+D2である。すなわち、段差部60aのZ軸方向に沿う高さH1は、ワイヤ30,40の直径D1,D2の和と同等以上であることが特に好ましい。
【0042】
巻芯部23の高さ(ただし、ブロックB1の位置における巻芯部23の高さ)をH2としたとき、段差部60aの高さH1と巻芯部23の高さH2との比H1/H2は、好ましくは1/20~1/4であり、さらに好ましくは1/10~1/6である。
【0043】
段差部60bは、巻芯部23のX軸方向に関して段差部60aと略同一の位置に形成されており、段差部60bは段差部60aに対応する形状(対称な形状)を有している。段差部60bの高さH1は、段差部60aの高さH1と略同一である。コア20の上下を反転させたとき、段差部60bの外観形状は、段差部60aの外観形状と一致する。
【0044】
段差部60bは、巻芯部23の下面からZ軸負方向側(下方)に向けて立ち上がっており、巻芯部23の下面のY軸方向の一端から他端にかけて連続的に形成されている。段差部60bはY軸方向に沿って直線的に延びており、段差部60bよりもX軸正方向側(X軸方向の一方側)に位置する巻芯部23の下面232aは、段差部60bよりもX軸負方向側(X軸方向の他方側)に位置する巻芯部23の下面232bよりも下方に張り出している。すなわち、段差部60bは、巻芯部23の下面231bを基準としたときに、相対的に、巻芯部23のX軸正方向側に向けて段差高さが高くなる段差部である。なお、段差高さが高くなるとは、段差を上がる方向に、段差の高さが変化している状態をいう。
【0045】
段差部60bの位置を基準(境界)として、巻芯部23の下面のZ軸方向の相対的高さは、X軸方向の正方向側と負方向側とで異なっている。段差部60bよりもX軸正方向側において、巻芯部23の下面232aのZ軸方向の相対的高さ(上面231aを基準とした高さ)は略一定となっており、下面232aは平坦面(X-Y平面に平行な水平面)を構成している。段差部60bよりもX軸負方向側において、巻芯部23の下面232bのZ軸方向の相対的高さ(上面231bを基準とした高さ)は略一定となっており、下面232bは平坦面(X-Y平面に平行な水平面)を構成している。すなわち、上面231aと下面232aとは略平行であり、上面231bと下面232bとは略平行である。
【0046】
段差部60bは、テーパ面61bを有する。テーパ面61bは、テーパ面61aと同様の形状を有するため、その詳細な説明については省略する。
【0047】
図3Aおよび
図3Cに示すように、段差部70aは、巻芯部23の第1側面からY軸正方向側(側方)に向けて立ち上がっており、巻芯部23の第1側面のZ軸方向の一端から他端にかけて連続的に形成されている。段差部70aはZ軸方向に沿って直線的に延びており、段差部70aよりもX軸負方向側(X軸方向の他方側)に位置する巻芯部23の第1側面233bは、段差部70aよりもX軸正方向側(X軸方向の一方側)に位置する巻芯部23の第1側面233aよりも側方に張り出している。すなわち、段差部70aは、巻芯部23の第1側面233aを基準としたときに、相対的に、巻芯部23のX軸負方向側に向けて段差高さが高くなる段差部である。
【0048】
段差部70aの位置を基準(境界)として、巻芯部23の第1側面のY軸方向の相対的高さは、X軸方向の正方向側と負方向側とで異なっている。段差部70aよりもX軸正方向側において、巻芯部23の第1側面233aのY軸方向の相対的高さ(後述する第2側面234aを基準とした高さ)は略一定となっており、第1側面233aは平坦面(X-Z平面に平行な垂直面)を構成している。段差部70aよりもX軸負方向側において、巻芯部23の第1側面233bのY軸方向の相対的高さ(後述する第2側面234bを基準とした高さ)は略一定となっており、第1側面233bは平坦面(X-Z平面に平行な垂直面)を構成している。
【0049】
段差部70aには、段差部60a,60bに具備されていたようなテーパ面は形成されていない。ただし、巻芯部23にワイヤ30,40を巻回するときの便宜のために、段差部70aにテーパ面を形成してもよい。後述する段差部70bについても同様である。
【0050】
ここで、段差部70aのY軸方向に沿う幅をW1とする。このとき、段差部70aの幅W1とワイヤ30,40の直径D1,D2との関係は、好ましくはW1≧D1またはW1≧D2であり、さらに好ましくはW1≧D1+(D2/2)であり、特に好ましくはW1≧D1+D2である。すなわち、段差部70aのY軸方向に沿う幅W1は、ワイヤ30,40の直径D1,D2の和と同等以上であることが特に好ましい。
【0051】
巻芯部23の幅(ただし、ブロックB2の位置における巻芯部23の幅)をW2としたとき、段差部70aの幅W1と巻芯部23の幅W2との比W1/W2は、好ましくは1/25~1/6であり、さらに好ましくは1/15~1/9である。
【0052】
段差部70bは、巻芯部23のX軸方向に関して段差部70aと略同一の位置に形成されており、段差部70bは段差部70aに対応する形状(対称な形状)を有している。段差部70bの幅W1は、段差部70aの幅W1と同様である。コア20の上下を反転させたとき、段差部70bの外観形状は、段差部70aの外観形状と一致する。
【0053】
段差部70bは、巻芯部23の第2側面からY軸負方向側(側方)に向けて立ち上がっており、巻芯部23の第2側面のZ軸方向の一端から他端にかけて連続的に形成されている。段差部70bはZ軸方向に沿って直線的に延びており、段差部70bよりもX軸負方向側(X軸方向の他方側)に位置する巻芯部23の第2側面234bは、段差部70bよりもX軸正方向側(X軸方向の一方側)に位置する巻芯部23の第2側面234aよりも側方に張り出している。すなわち、段差部70bは、巻芯部23の第2側面234aを基準としたときに、相対的に、巻芯部23のX軸負方向側に向けて段差高さが高くなる段差部である。
【0054】
段差部70bの位置を基準(境界)として、巻芯部23の第2側面のY軸方向の相対的高さは、X軸方向の正方向側と負方向側とで異なっている。段差部70bよりもX軸正方向側において、巻芯部23の第2側面234aのY軸方向の相対的高さ(第1側面233aを基準とした高さ)は略一定となっており、第2側面234aは平坦面(X-Z平面に平行な垂直面)を構成している。段差部70bよりもX軸負方向側において、巻芯部23の第2側面234bのY軸方向の相対的高さ(第1側面233bを基準とした高さ)は略一定となっており、第2側面234bは平坦面(X-Z平面に平行な垂直面)を構成している。
【0055】
図3A~
図3Cに示すように、段差部60a,60bおよび段差部70a,70bは、巻芯部23の周方向にそって、連続的に形成されている。なお、ここでいう連続的とは、必ずしもこれらの段差部が滑らかに接続されていることを意味するものではなく、これらの段差部が途切れることなく接続されていることを意味する。
【0056】
段差部60aと段差部70aとは、巻芯部23の周方向に隣接しており、直交している。段差部70aと段差部60bとは、巻芯部23の周方向に隣接しており、直交している。段差部60bと段差部70bとは、巻芯部23の周方向に隣接しており、直交している。段差部70bと段差部60aとは、巻芯部23の周方向に隣接しており、直交している。段差部60a,60bはY軸方向に沿って延在している一方で、段差部70a,70bはZ軸方向に沿って延在している。すなわち、段差部60a,60bと段差部70a,70bとは、巻芯部23の周方向に沿って、互いに異なる方向に延在している。本実施形態では、この互いに異なる方向に延在する段差部60a,60bと段差部70a,70bとが、巻芯部23の周方向に沿って、交互に配置されている。
【0057】
段差部60a,60bはそれぞれ巻芯部23の上面および下面に形成され、段差部70a,70bはそれぞれ巻芯部23の第1側面および第2側面に形成されており、本実施形態では、巻芯部23の全ての面に段差部が形成されている。
【0058】
段差部60a,60bの立上位置と、段差部70a,70bの立上位置とは、X軸方向に関して略同一となっているが、これらの立上位置は、X軸方向に沿って所定の間隔で離間していてもよい。段差部60a,60bの立上位置と、段差部70a,70bの立上位置との間のX軸方向の間隔は、好ましくはワイヤ30,40の線径D1,D2よりも小さく、さらに好ましくは0である。
【0059】
図3Bに示すように、巻芯部23をY軸方向(第1方向)から見たとき、段差部60a,60bよりも巻芯部23のX軸正方向側では、段差部60a,60bよりも巻芯部23のX軸負方向側に比べて、巻芯部23のZ軸方向(第2方向)に沿う幅が大きくなっている。また、
図3Cに示すように、巻芯部23をZ軸方向(第2方向)から見たとき、段差部60a,60bよりも巻芯部23のX軸正方向側では、段差部60a,60bよりも巻芯部23のX軸負方向側に比べて、巻芯部23のY軸方向(第1方向)に沿う幅が小さくなっている。
【0060】
このように、本実施形態における巻芯部23は、段差部60a,60bおよび段差部70a,70bの位置よりもX軸方向の一方側と他方側とにおいて、互いに形状が異なる2つのブロックB1,B2で構成されている。
【0061】
図2に示すように、段差部60a,60bよりもX軸正方向側において、巻芯部23に巻回される第1ワイヤ30のターン数と第2ワイヤ40のターン数とは等しくなっていることが好ましい。また、段差部60a,60bよりもX軸負方向側において、巻芯部23に巻回される第1ワイヤ30のターン数と第2ワイヤ40のターン数とは等しくなっていることが好ましい。
【0062】
図1Bおよび
図2に示すように、ブロックB1に形成されるコイル部32,42の形状と、ブロックB2に形成されるコイル部32,42の形状は異なっている。ブロックB1に形成されるコイル部32,42のZ軸方向の径は、ブロックB2に形成されるコイル部32,42のZ軸方向の径よりも大きくなっている。また、ブロックB1に形成されるコイル部32,42のY軸方向の径は、ブロックB2に形成されるコイル部32,42のY軸方向の径よりも小さくなっている。
【0063】
図1Bおよび
図2に示すように、巻芯部23において、ワイヤ30,40は、段差部60a,60bおよび段差部70a,70bの周辺部を巻芯部23の周方向に沿って通過する。ここで、
図1Bに示すように、段差部60a,60bおよび段差部70a,70bが形成された位置(すなわち、巻芯部23のX軸方向の略中央部)において、段差部60a,60bの上側(段差高さが高くなる側)を通過するワイヤ30,40のターンを「ターン30c,40c」と表記する。また、段差部60a,60bの下側(段差高さが低くなる側)を通過するワイヤ30,40のターンを「ターン30d,40d」と表記する。
【0064】
図1Bおよび
図2に示すように、ターン30c,40cは、段差部60a,60bおよび段差部70a,70bよりもX軸正方向側において、巻芯部23の上面および下面では段差部60a,60bの上側を通過する一方で(
図2参照)、巻芯部23の第1側面および第2側面では段差部70a,70bの下側を通過する(
図1B参照)。
【0065】
この場合、
図1Bに示すように、ターン30c,40cのX軸負方向側には、段差部70a,70bの段差面(Y-Z平面に平行な面)が位置することになるため、この段差面によって、ターン30c,40cのX軸負方向側への位置ずれを規制することが可能となっている。このように、段差部70a,70bの位置において、ターン30c,40cのX軸負方向側への位置ずれを規制することにより、
図2に示す段差部60a,60bの上側を通過するターン30c,40cのX軸負方向側への位置ずれを規制することが可能となる。結果として、本実施形態では、ターン30c,40c全体としてX軸負方向側への位置ずれを防止することができる。すなわち、段差部70a,70bは、ターン30c,40cに対して、X軸負方向側への位置ずれ防止手段としての機能を発揮する。
【0066】
図1Bおよび
図2に示すように、ターン30d,40dは、段差部60a,60bおよび段差部70a,70bよりもX軸負方向側において、巻芯部23の上面および下面では段差部60a,60bの下側を通過する一方で(
図2参照)、巻芯部23の第1側面および第2側面では段差部70a,70bの上側を通過する(
図1B参照)。
【0067】
この場合、
図2に示すように、ターン30d,40dのX軸正方向側には、段差部60a,60bの段差面(Y-Z平面に平行な面)が位置することになるため、この段差面によって、ターン30d,40dのX軸正方向側への位置ずれを規制することが可能となっている。このように、段差部60a,60bの位置において、ターン30d,40dのX軸正方向側への位置ずれを規制することにより、
図1Bに示す段差部70a,70bの上側を通過するターン30d,40dのX軸正方向側への位置ずれを規制することが可能となる。結果として、本実施形態では、ターン30d,40d全体としてX軸正方向側への位置ずれを防止することができる。すなわち、段差部60a,60bは、ターン30d,40dに対して、X軸正方向側への位置ずれ防止手段としての機能を発揮する。
【0068】
次に、
図1A、
図1Bおよび
図2を参照しつつ、コイル装置10の製造方法について説明する。コイル装置10の製造では、まず、ドラム型のコア20と、第1ワイヤ30と、第2ワイヤ40とを準備する。なお、ワイヤ30,40としては、たとえば、銅(Cu)などの良導体からなる芯材を、イミド変成ポリウレタンなどからなる絶縁材で覆い、さらに最表面をポリエステルなどの薄い樹脂膜で覆ったものを用いることができる。
【0069】
コア20を構成する磁性体材料としては、たとえば、比較的透磁率の高い磁性材料、たとえばNi-Zn系フェライトや、Mn-Zn系フェライト、あるいは金属磁性体などが例示され、これらの磁性材料の粉体を、成型および焼結することにより、コア20が作製される。コア20の巻芯部23には、段差部60a,60bおよび段差部70a,70bを形成しておく。
【0070】
次に、コア20の鍔部21,22に金属ペーストを塗布し、所定の温度で焼き付ける。そして、その表面に電界めっきまたは無電解メッキを施すことにより、端子電極51~54が形成される。
【0071】
次に、端子電極51~54が形成されたコア20と、第1ワイヤ30と、第2ワイヤ40とを、巻線機(図示略)にセットする。そして、第1ワイヤ30の第1リード部30aを端子電極51に継線し、同時に(あるいはその後)、第2ワイヤ40の第2リード部40aを端子電極54に継線する。
【0072】
なお、接続のための方法は、特に限定されないが、たとえばワイヤ30,40を端子電極51,52との間で挟むようにヒータチップを押し当てて、ワイヤ30,40を端子電極51,52に熱圧着する。
【0073】
その後、第1ワイヤ30を巻芯部23の外周面に巻回して第1コイル部32を形成するとともに、第2ワイヤ40を第1コイル部32の上に巻回して第2コイル部42を形成する。
図2に示すように、巻芯部23のブロックB1にワイヤ30,40を巻回する場合、段差部60a,60bおよび段差部70a,70bの位置では、巻芯部23の上面および下面において段差部60a,60bの上側を通過するようにワイヤ30,40(ターン30c,40c)を巻回するとともに、
図1Bに示すように、巻芯部23の第1側面および第2側面において段差部70a,70bの下側を通過するようにワイヤ30,40(ターン30c,40c)を巻回する。
【0074】
巻芯部23のブロックB1からブロックB2にかけてワイヤ30,40を巻回するときには、段差部60a,60bおよび段差部70a,70bを跨ぐようにして、ワイヤ30,40をブロックB1からブロックB2に引き出す。段差部60a,60bおよび段差部70a,70bよりもX軸負方向側に引き出した後、
図2に示すように、巻芯部23の上面および下面において段差部60a,60bの下側を通過するようにワイヤ30,40(ターン30d,40d)を巻回するとともに、
図1Bに示すように、巻芯部23の第1側面および第2側面において段差部70a,70bの上側を通過するようにワイヤ30,40(ターン30d,40d)を巻回する。
【0075】
以上のようにしてワイヤ30,40を巻芯部23に巻回することにより、段差部60a,60bおよび段差部70a,70bを間に挟んでX軸正方向側にコイル部32,42の第1領域が形成されるとともに、X軸負方向側にコイル部32,42の第2領域が形成される。
【0076】
次に、第1ワイヤ30の第1リード部30bを端子電極53に継線し、同時に(あるいはその後)、第2ワイヤ40の第2リード部40bを端子電極54に継線する。
【0077】
以上、本実施形態に係るコイル装置10のコア20では、
図3A~
図3Cに示すように、巻芯部23の周方向の異なる位置に、段差部60a,60bと段差部70a,70bとが形成されている。そのため、
図1Bおよび
図2に示すように、段差部60a,60bおよび段差部70a,70bが形成された各位置では、ターン30c,40cとターン30d,40dとの間の間隔を段差部60a,60bおよび段差部70a,70bの各々の高さ方向に沿って大きくすることが可能となり、ライン間容量を低減することができる。また、このとき、コイル部32,42全体を通じて、X軸方向に沿うワイヤ30,40各ターン間の間隔を大きくすることなく、ライン間容量を低減することができるため、ワイヤ30,40を巻芯部23に高密度に巻回することができる。また、本実施形態のように、巻芯部23の径方向に沿ってワイヤ30,40を複数層(図示の例では、2層)で巻回する場合、下層のワイヤ30,40の上に上層のワイヤ30,40を安定した状態で配置することができる。
【0078】
また、段差部60a,60bおよび段差部70a,70bが形成された位置において、ワイヤ30,40(ターン30c,40c)は、段差部60a,60bの上側と段差部70a,70bの下側を通過するように巻芯部23に巻回される。そのため、ターン30c,40cを構成するワイヤ30,40の位置ずれ(X軸負方向側への位置ずれ)を段差部70a,70bで規制し、段差部60a,60bの上側に位置するターン30c,40cが段差部60a,60bの下側へ落下することを防止することが可能となる。また、ワイヤ30,40(ターン30d,40d)は、段差部70a,70bの上側と段差部60a,60bの下側を通過するように巻芯部23に巻回される。そのため、ターン30d,40dを構成するワイヤ30,40の位置ずれ(X軸正方向側への位置ずれ)を段差部60a,60bで規制し、段差部70a,70bの上側に位置するターン30d,40dが段差部70a,70bの下側に落下することを防止することが可能となる。これにより、コイル部32,42の形状を安定させ、良好な特性を有するコイル装置10を実現することができる。
【0079】
また、本実施形態では、段差部60a,60bと段差部70a,70bとは、巻芯部23の周方向の異なる面(上面、下面、第1側面および第2側面)に形成されている。したがって、巻芯部23の周方向の異なる面で、上述したワイヤ30,40(ターン30c,40c,30d,40d)の位置ずれを防止することが可能となり、段差部60a,60bまたは段差部70a,70bからワイヤ30,40が落下する不具合を効果的に防止することができる。
【0080】
また、本実施形態では、段差部60a,60bと段差部70a,70bとは、それぞれ巻芯部23の周方向に隣接しており、異なる方向(Y軸方向またはZ軸方向)に延在している。そのため、ワイヤ30,40を巻芯部23の周方向に沿って巻回したときに、段差部60a,60bによって、Y軸方向に延びるワイヤ30,40(ターン30d,40d)のX軸正方向側への位置ずれを防止することが可能になるとともに、段差部70a,70bによって、Z軸方向に延びるワイヤ30,40(ターン30c,40c)のX軸負方向側への位置ずれを防止することが可能となる。これにより、巻芯部23の周方向の異なる位置において、段差部60a,60bまたは段差部70a,70bからワイヤ30,40が落下する不具合を効果的に防止することができる。
【0081】
また、本実施形態では、複数の段差部60a,60bと複数の段差部70a,70bとが、巻芯部23の周方向に沿って、交互に配置されている。そのため、巻芯部23の周方向の各位置において、段差部60a,60bと段差部70a,70bの配置位置に応じた所定のスパンで、上述したワイヤ30,40の巻芯部23のX軸正方向側への位置ずれとX軸負方向側への位置ずれを交互に防止することが可能となり、段差部60a,60bまたは段差部70a,70bからワイヤ30,40が落下する不具合を効果的に防止することができる。
【0082】
また、本実施形態では、段差部60a,60bの高さH1または段差部70a,70bの幅W1は、ワイヤ30,40の各々の径D1,D2の和と同等以上である。そのため、段差部60a,60bが形成された位置において、段差部60a,60bの下側を通過するワイヤ30,40のターン30d,40dが、段差部60a,60bを残り超えるようにして巻芯部23のX軸正方向側に位置ずれするといった不具合を防止することが可能となる。また、段差部70a,70bが形成された位置において、段差部70a,70bの下側を通過する複数のワイヤ30,40のターン30c,40cが、段差部70a,70bを残り超えるようにして巻芯部23のX軸負方向側に位置ずれするといった不具合を防止することが可能となる。したがって、段差部60a,60bおよび段差部70a,70bによるワイヤ30,40の位置ずれ規制機能を十分に高めることができる。
【0083】
第2実施形態
図4A~
図4Cに示す本発明の第2実施形態に係るコイル装置は、以下の点が相違するのみであり、その他の構成は、前述した第1実施形態と同様である。図面において、第1実施形態と共通する部材には、共通する符号を付し、その詳細な説明については省略する。
【0084】
図4Aに示すように、巻芯部23のX軸方向の位置L1には、段差部60a,60bおよび段差部70a,70bが形成されている。また、巻芯部23のX軸方向の位置L1から所定距離だけX軸正方向側に離れた位置L2にも、段差部60a,60bおよび段差部70a,70bが形成されている。すなわち、本実施形態では、複数(図示の例では、2つ)の段差部60a,60bおよび段差部70a,70bの組が、それぞれ巻芯部23の軸方向の複数(図示の例では、2つ)の位置L1,L2に所定の間隔で形成されている。
【0085】
位置L1に形成された段差部60a,60bおよび段差部70a,70bと、位置L2に形成された段差部60a,60bおよび段差部70a,70bとは、対応した形状を有している。コア120は、Z軸を回転軸として180°回転させたときに、回転前後において、同様の形状を有する。なお、位置L1に形成された段差部60a,60bのテーパ面61a,61bは、X軸負方向側に向かって低くなるように形成されているのに対して、位置L2に形成された段差部60a,60bのテーパ面61a,61bは、X軸正方向側に向かって低くなるように形成されている。すなわち、上記各テーパ面61a,61bは、互いに反対方向に向かって傾斜している。
【0086】
位置L2よりもX軸負方向側における巻芯部123(ブロックB1,B2)の形状は、
図3Aに示す第1実施形態における巻芯部23(ブロックB1,B2)の形状と同様となっている。
図4Bおよび
図4Cに示すように、巻芯部123には、位置L2よりもX軸正方向側において、上面231cと下面232cと第1側面233cと第2側面234cとを有するブロックB3が具備されている。本実施形態における巻芯部123は、位置L1および位置L2で区切られた3つのブロックB1~B3で構成されている。
【0087】
3つのブロックB1~B3のうち、ブロックB1とブロックB3とは略同一の形状からなり、ブロックB1とブロックB2との間に位置するブロックB2のみ形状が異なっている。
【0088】
図4Bに示すように、巻芯部123をY軸方向(第1方向)から見たとき、位置L2における段差部60a,60bよりも巻芯部123のX軸正方向側(すなわちブロックB3)では、段差部60a,60bよりも巻芯部123のX軸負方向側(すなわちブロックB2)に比べて、巻芯部123のZ軸方向(第2方向)に沿う幅が小さくなっている。また、
図4Cに示すように、巻芯部123をZ軸方向(第2方向)から見たとき、位置L2における段差部60a,60bよりも巻芯部123のX軸正方向側(すなわちブロックB3)では、段差部60a,60bよりも巻芯部23のX軸負方向側(すなわちブロックB2)に比べて、巻芯部123のY軸方向(第1方向)に沿う幅が大きくなっている。
【0089】
したがって、位置L2において、段差部60a,60bの上側と段差部70a,70bの下側を通過するようにワイヤ30,40(
図1A)を巻芯部123に巻回した場合、このターンを構成するワイヤ30,40の位置ずれ(巻芯部123のX軸正方向側への位置ずれ)を段差部70a,70bが規制するため、段差部60a,60bの上側に位置するターンが段差部60a,60bの下側へ落下することを防止することが可能となる。また、段差部70a,70bの上側と段差部60a,60bの下側を通過するようにワイヤ30,40を巻芯部123に巻回した場合、このターンを構成するワイヤ30,40の位置ずれ(巻芯部123のX軸負方向側への位置ずれ)を段差部60a,60bが規制するため、段差部70a,70bの上側に位置するターンが段差部70a,70bの下側に落下することを防止することが可能となる。これにより、ワイヤ30,40の巻形状を安定させ、良好な特性を有するコイル装置を実現することができる。
【0090】
本実施形態では、複数(2つ)の段差部60a,60bおよび段差部70a,70bの組が、巻芯部123の軸方向の複数(2つ)の位置L1,L2に所定の間隔で形成されている。そのため、複数の位置L1,L2において、ワイヤ30,40のターン間の間隔を段差部60a,60bおよび段差部70a,70bの各々の高さ方向に沿って大きくすることが可能となり、ライン間容量を効果的に低減することができる。
【0091】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0092】
(1)上記第1実施形態において、段差部60a,60bおよび段差部70a,70bの各々の立上位置については適宜変更してもよい。例えば、
図5に示すように、段差部60a,60bの立上位置L3は、段差部70a,70bの立上位置L4よりも巻芯部23のX軸負方向側に位置し、段差部70a,70bの立上位置L4は、段差部60a,60bの立上位置L3よりも巻芯部23のX軸正方向側に位置していてもよい。
【0093】
この場合、段差部60a,60bの立上位置L3よりも巻芯部23のX軸正方向側の領域と段差部70a,70bの立上位置L4よりも巻芯部23のX軸負方向側の領域とが、一部重複して配置される。段差部60a,60bは、それぞれ巻芯部23の上面231bおよび下面232bの各々の一部を占有するように、段差部70a,70bよりもX軸負方向側にはみ出した状態で形成される。段差部70a,70bは、それぞれ巻芯部23の第1側面233aおよび第2側面234aの各々の一部を占有するように、段差部60a,60bよりもX軸正方向側にはみ出した状態で形成される。
【0094】
段差部60a,60bの立上位置L3と段差部70a,70bの立上位置L4との間のX軸方向に沿う間隔Dは、ワイヤ30,40の直径D1,D2と同等以上であることが好ましい。好ましくは、D≧D1またはD≧D2であり、さらに好ましくはD≧2D1またはD≧2D2である。
【0095】
本変形例では、段差部60a,60bが形成された位置において、段差部60a,60bの上側を通過するワイヤ30,40の通過位置が、上記間隔Dに応じた距離だけ、段差部60a,60bの立上位置L3よりも巻芯部23のX軸正方向側(すなわち、段差部70a,70bの立上位置L4)にシフトする。その結果、当該ワイヤ30,40が段差部60a,60bの立上位置L3から離間した位置に配置され、段差部60a,60bからワイヤ30,40が落下する不具合を効果的に防止することができる。
【0096】
また、段差部70a,70bが形成された位置において、段差部70a,70bの上側を通過するワイヤ30,40の通過位置が、上記間隔Dに応じた距離だけ、段差部70a,70bの立上位置L4よりも巻芯部23のX軸負方向側(すなわち、段差部60a,60bの立上位置L3)にシフトする。その結果、当該ワイヤ30,40が段差部70a,70bの立上位置L4から離間した位置に配置され、段差部70a,70bからワイヤ30,40が落下する不具合を効果的に防止することができる。また、段差部60a,60bおよび段差部70a,70bの両段差部の下側の面にワイヤ30,40が巻回されることを防止することができる。
【0097】
(2)上記変形例(1)を上記第2実施形態に適用してもよい。すなわち、
図6に示すように、巻芯部123のブロックB2とブロックB3との間に形成された段差部60a,60bの立上位置L5は、段差部70a,70bの立上位置L6よりも巻芯部123のX軸正方向側に位置し、段差部70a,70bの立上位置L6は、段差部60a,60bの立上位置L5よりも巻芯部123のX軸負方向側に位置していてもよい。この場合も、上記変形例(1)と同様の効果を得ることができる。
【0098】
(3)上記第1実施形態では、巻芯部23の全ての面(上面、下面、第1側面および第2側面)に段差部60a,60bあるいは段差部70a,70bが形成されていたが、段差部60a,60bあるいは段差部70a,70bは、巻芯部23の一部の面にのみ形成されていてもよい。例えば、
図7に示すように、巻芯部23の上面および下面のうち、上面にのみ段差部60aを形成し、巻芯部23の第1側面および第2側面のうち、第1側面にのみ段差部70aを形成してもよい。この場合も、上記第1実施形態と同様の効果が得られる。なお、巻芯部23の上面に段差部60aを形成し、巻芯部23の第2側面に段差部70bを形成してもよい。あるいは、巻芯部23の下面に段差部60bを形成し、巻芯部23の第1側面に段差部70aを形成してもよい。あるいは、巻芯部23の下面に段差部60bを形成し、巻芯部23の第2側面に段差部70bを形成してもよい。上記第2実施形態についても同様である。なお、上述したように、段差部の数は、4つあるいは2つに限定されず、3つであってもよく、5つ以上であってもよい。
【0099】
(4)上記第1実施形態において、巻芯部23の横断面形状は、四角形であったが、
図8に示すように六角形であってもよい。この場合、段差部60a,60bおよび段差部70a,70bよりもX軸正方向側では、上面231aおよび下面231b(図示略)にそれぞれ六角形の2辺が位置する。また、段差部60a,60bおよび段差部70a,70bよりもX軸負方向側では、第1側面233bおよび第2側面234bにそれぞれ六角形の2辺が位置する。すなわち、巻芯部23の横断面形状が呈する六角形の2辺は、段差部60a,60bおよび段差部70a,70bの各々の上側の面に位置する。本変形例においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。なお、本変形例を第2実施形態に適用してもよい。
【0100】
(5)上記変形例(4)において、
図9に示すように、巻芯部23の横断面形状を八角形としてもよい。この場合、段差部60a,60bおよび段差部70a,70bよりもX軸正方向側では、上面231aおよび下面231bにそれぞれ八角形の3辺が位置する。また、段差部60a,60bおよび段差部70a,70bよりもX軸負方向側では、第1側面233bおよび第2側面234bにそれぞれ八角形の3辺が位置する。すなわち、巻芯部23の横断面形状が呈する八角形の3辺は、段差部60a,60bおよび段差部70a,70bの各々の上側の面に位置する。本変形例においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。なお、本変形例を第2実施形態に適用してもよい。
【0101】
(6)上記各実施形態では、本発明のコモンモードフィルタへの適用例について説明したが、コモンモードフィルタ以外のコイル装置に本発明を適用してもよい。本発明の適用が可能なコイル装置としては、例えば電源ライン用コイル、信号ライン用コイル、PoC(Power over Coaxial)フィルタ用コイル等が挙げられる。
【0102】
(7)上記各実施形態において、巻芯部23には2本のワイヤ30,40が巻回されていたが、巻芯部23には1本のワイヤのみが巻回されていてもよい。あるいは、巻芯部23には、3本以上のワイヤが巻回されていてもよい。
【0103】
(8)上記第2実施形態において、巻芯部23のX軸方向に沿う複数の位置に、3つ以上の段差部60a,60bおよび段差部70a,70bの組を形成し、巻芯部23に、X軸方向に沿って4つ以上のブロックを形成してもよい。
【0104】
(9)上記第1実施形態において、
図3Bに示すように、巻芯部23のブロックB1のX軸方向に沿う長さとブロックB2のX軸方向に沿う長さとは略等しくなっていたが、巻芯部23における段差部60a,60bおよび段差部70a,70bのX軸方向の位置を適宜調整し、ブロックB1,B2のX軸方向に沿う長さを適宜変更してもよい。第2実施形態についても同様である。
【符号の説明】
【0105】
10…コイル装置
20,120…コア
21…第1鍔部
21a…底面
22…第2鍔部
22a…底面
23,123…巻芯部
231a,231b,231c…上面
232a,232b,232c…下面
233a,233b,233c…第1側面
234a,234b,234c…第2側面
30…第1ワイヤ
30a,30b…リード部
30c,30d…ターン
40…第2ワイヤ
40a,40b…リード部
40c,40d…ターン
51~54…端子電極
60a,60b…段差部(第1段差部)
61a,61b…テーパ面
70a,70b…段差部(第2段差部)
71a,71b…テーパ面
B1~B3…ブロック